以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、本実施の形態における工作機械90は、円筒状の形状を有する主軸91と、主軸91の外周面を取り囲むハウジング92と、外輪11および外輪21の外周面のそれぞれがハウジングの内壁92Aに接触するとともに、内輪12および内輪22の内周面のそれぞれが主軸91の外周面91Aに接触するように、主軸91とハウジング92との間に嵌め込まれて配置された工作機械用転がり軸受としての複列円筒ころ軸受1(リア軸受)とアンギュラ玉軸受2(フロント軸受)とを備えている。これにより、主軸91は、ハウジング92に対して軸周りに回転自在に支持されている。
また、主軸91には、外周面91Aの一部を取り囲むようにモータロータ93Bが設置されており、ハウジング92の内壁92Aには、モータロータ93Bに対向する位置にモータステータ93Aが設置されている。このモータステータ93Aおよびモータロータ93Bは、モータ93(ビルトインモータ)を構成している。これにより、主軸91は、モータ93の動力によって、ハウジング92に対して相対的に回転可能となっている。
すなわち、複列円筒ころ軸受1およびアンギュラ玉軸受2は、工作機械90の主軸91を、主軸91に対向するように配置される部材であるハウジング92に対して回転自在に支持する工作機械用転がり軸受である。
次に、工作機械90の動作について説明する。図1を参照して、モータ93のモータステータ93Aに図示しない電源から電力が供給されることにより、モータロータ93Bを軸回りに回転させる駆動力が発生する。これにより、ハウジング92に対してアンギュラ玉軸受2および複列円筒ころ軸受1により回転自在に支持されている主軸91は、モータロータ93Bとともにハウジング92に対して相対的に回転する。このように、主軸91が回転することにより、主軸91の先端91Bに取り付けられた図示しない工具が被加工物を切削、研削等して、被加工物を加工することができる。
次に、上記複列円筒ころ軸受1について説明する。図2を参照して、複列円筒ころ軸受1は、第1軌道部材としての外輪11と、第2軌道部材としての内輪12と、複数の転動体としての円筒ころ13と、保持器14とを備えている。外輪11の内周面には、円環状の第1転走面としての外輪転走面11Aが複列(2列)に形成されている。内輪12の外周面には、複列(2列)の外輪転走面11Aのそれぞれに対向する円環状の第2転走面としての内輪転走面12Aが複列(2列)に形成されている。また、複数の円筒ころ13には、転動体接触面としてのころ接触面13A(円筒ころ13の外周面)が形成されている。そして、当該円筒ころ13は、外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aの各々にころ接触面13Aにおいて接触し、円環状の保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより2列の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。これにより、外輪11と内輪12とは互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、図3を参照して、保持器14は、円環状の形状を有する環状部14Aと、環状部14Aから軸方向に突出する複数の柱部14Bとを備えたくし型保持器である。そして、図2に示すように、複列円筒ころ軸受1においては、環状部14Aの柱部14Bが突出する側とは反対側の面同士が互いに対向するとともに、その中心軸が一致するように2つの保持器14が組み込まれている。
そして、保持器14は、AZ91Dなどのマグネシウム合金からなり、射出成形により成形されている。この保持器14においては、射出成形においてマグネシウム合金が合流することにより形成されたボイドを含む領域である合流領域が保持器14の外部に押し出されることにより、合流領域が保持器14から排除されている。これにより、保持器14は、軽量で、かつ高い強度を有するマグネシウム合金製の保持器となっている。また、保持器14は、柱部14Bがたわみ易く、高い比剛性が求められるくし型保持器であるが、マグネシウム合金からなっていることにより十分な比剛性が確保されている。
さらに、複列円筒ころ軸受1は、保持器14を備えていることにより、工作機械用転がり軸受に必要な高速回転に適し、かつ信頼性の高い転がり軸受となっている。
ここで、本実施の形態において、射出成形により形成されたマグネシウム合金製の保持器14を採用する利点について列挙する。保持器14は、マグネシウム合金からなっていることにより、同形状の黄銅製保持器に比べて比重が小さく軽量であることから、断続運転下での保持器によるエネルギー損失をたとえば30%以下にまで低減することができる。また、保持器14は射出成形により成形されているため、切削加工等の機械加工により製造される一般的な金属製保持器と比べると量産性に優れている。
さらに、複列円筒ころ軸受1は、比剛性に優れるマグネシウム合金製保持器を採用していることにより、工作機械用転がり軸受など大きな遠心力の発生する高速回転下で使用される軸受として採用しても、保持器の変形が少ない。なお、マグネシウム合金の比剛性(弾性率を比重で除した値)は高力黄銅の2.5倍以上、炭素繊維強化PEEK樹脂等の繊維強化樹脂の1.5倍以上である。また、一般に、繊維強化樹脂は比強度(強度を比重で除した値)において優れているが、マグネシウム合金の比強度は繊維強化樹脂と同等以上であり、高力黄銅の2.5倍以上である。
さらに、マグネシウム合金は、繊維を添加した樹脂等とは異なり、成形異方性が無いため、もしくは非常に小さいため、成形異方性に起因するヒケや変形が抑制されており、かつ樹脂材料と比べると線膨張係数が小さい。そのため、高精度の保持器を射出成形により製造することができる。
このように、比剛性および成形精度が高いことにより、優れた回転精度(低いNRRO)を達成することができる。さらに、マグネシウム合金は振動吸収性にも優れることから、軸受の運転音の低減(低騒音化)も期待できる。
また、マグネシウム合金は、樹脂と比べて熱伝導率が高いため、放熱性に優れている。その結果、軸受の運転中における温度の上昇を抑制して潤滑剤の熱による劣化を低減できるため、転がり軸受を長寿命化することができる。
さらに、繊維強化樹脂製の保持器の場合、成形品を粉砕した粉砕材や、さらに再度溶融混練機などで造粒した所謂リペレット材などのリサイクル材を原料として採用すると、繊維等の補強材の折損に起因する物性低下や、熱劣化に伴う母材強度の低下が問題になる場合がある。これに対し、マグネシウム合金製の保持器の場合、リサイクルすることによる強度低下が発生しないだけでなく、リサイクルに必要なエネルギーが、新規に製造(精錬)する場合に比べて約5%程度で済む。一般的な射出成形の場合、素材として樹脂材料を採用するか、マグネシウム合金を採用するかにかかわらず、型のスプルー部やランナー部において凝固した部分などの廃材が発生する。ここで、マグネシウム合金を保持器の素材として採用すると、上述のようにリサイクル性に優れているため実質的な廃棄物が発生せず、環境負荷も低くなる。さらに、材料コストを低減し、強度面での信頼性も確保することができる。したがって、本実施の形態における保持器14の原料としては、リサイクル材から製造されるマグネシウム合金チップを採用することが好ましい。
ここで、図3を参照して、本実施の形態における保持器14においては、表面に厚み15μm以下の表面処理層14Cが形成されている。この表面処理層14Cは、本発明の保持器において必須の構成ではないが、これを形成することにより、耐食性、耐摩耗性などを向上させることができる。表面処理層14Cは、たとえば陽極酸化処理により形成された陽極酸化処理層(変性層)であってもよいし、ニッケルめっきにより形成されたニッケルめっき膜、またはカチオン電着塗装などにより形成された樹脂膜であってもよい。
次に、上記アンギュラ玉軸受2について説明する。図4および図2を参照して、アンギュラ玉軸受2と複列円筒ころ軸受1とは基本的には同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、アンギュラ玉軸受2は、軌道輪および転動体の形状等において、複列円筒ころ軸受1とは異なっている。
すなわち、アンギュラ玉軸受2は、第1軌道部材としての外輪21と、第2軌道部材としての内輪22と、複数の転動体としての玉23と、保持器24とを備えている。外輪21の内周面には、円環状の第1転走面としての外輪転走面21Aが形成されている。内輪22の外周面には、外輪転走面21Aに対向する円環状の第2転走面としての内輪転走面22Aが形成されている。また、複数の玉23には、転動体接触面としての玉接触面23A(玉23の表面)が形成されている。そして、当該玉23は、外輪転走面21Aおよび内輪転走面22Aの各々に玉接触面23Aにおいて接触し、円環状の保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。これにより、外輪21と内輪22とは互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、アンギュラ玉軸受2においては、玉23と外輪21との接触点と、玉23と内輪22との接触点とを結ぶ直線は、ラジアル方向(アンギュラ玉軸受2の回転軸に垂直な方向)に対して角度をなしている。そのため、ラジアル方向の荷重だけでなく、アキシャル方向の荷重をも受けることが可能であるとともに、ラジアル方向の荷重が負荷されると、アキシャル方向(アンギュラ玉軸受2の回転軸の方向)への分力が生じる。図1を参照して、本実施の形態の工作機械90では、前方側(主軸91の先端91B側)に同じ向きのアンギュラ玉軸受2を2つ配置するとともに、後方側(モータロータ93B側)には、前方側とは逆向きのアンギュラ玉軸受2を2つ配置することにより、当該分力を相殺している。
そして、保持器24は、AZ91Dなどのマグネシウム合金からなり、射出成形により成形されている。そして、この保持器24においては、射出成形においてマグネシウム合金が合流することにより形成されたボイドを含む領域である合流領域が保持器24の外部に押し出されることにより、合流領域が保持器24から排除されている。これにより、保持器24は、軽量で、かつ高い強度を有するマグネシウム合金製の保持器となっている。
ここで、上記保持器14,24においては、保持器14,24を切断して断面を観察した場合、保持器14,24を構成するマグネシウム合金における粒径20μm以上のα相の割合は15%未満である。また、当該α相の割合は5%未満であることがより好ましい。さらに、上記保持器14,24においては、保持器14,24を切断して断面を観察した場合、マグネシウム合金には粒径20μm以上のα相が含まれていないことが好ましい。これにより、保持器の強度を一層向上させることができる。
さらに、射出成形においてマグネシウム合金が合流する領域に形成される保持器のウエルド部における引張強度の、ウエルド部以外の部分における引張強度に対する比は0.8以上であることが望ましい。これにより、ウエルド部の強度不足に起因した保持器14,24の破損を抑制することができる。このようなウエルド部の強度不足の抑制は、たとえば以下に説明する製造方法により保持器14,24を製造することにより達成することができる。
次に、本実施の形態における保持器の製造方法について説明する。まず、本実施の形態において用いられる射出成形装置について説明する。図5を参照して、本実施の形態における射出成形装置70は、射出部50と金型60とを備えている。射出部50は、円筒状の中空部を有するシリンダ51と、シリンダ51の中空部に接続され、当該中空部にマグネシウム合金チップ41を供給する供給部52と、シリンダ51の中空部に嵌め込まれ、外周面に螺旋状の溝が形成されたスクリュ53と、シリンダ51を取り囲むように配置されたヒータ56とを備えている。シリンダ51は、その一方の端部に形成され、金型60に接続されるノズル55を有している。また、スクリュ53の先端側(金型60に近い側の端部)とシリンダ51とによって取り囲まれた領域である貯留部54がスクリュ53の一方の端部側に形成されている。そして、当該貯留部54は、ノズル55を介して金型60に接続されている。
図5および図6を参照して、金型60は、シリンダ51のノズル55の中空領域に接続された中空領域であるスプルー部63と、保持器の形状に対応した中空領域であるキャビティ部61と、スプルー部63から放射状に延在し、キャビティ部61に接続されるランナー部62とを備えている。ランナー部62は、ゲート部62Aを含んでおり、当該ゲート部62Aにおいて、ランナー部62はキャビティ部61に接続されている。キャビティ部61は、ランナー部62からキャビティ部61に供給されたマグネシウム合金が合流する領域であるウエルド領域65を含んでいる。そして、金型60は、ウエルド領域65に接続され、ウエルド領域65に到達してキャビティ部61から溢れたマグネシウム合金を貯留するオーバーフロー部66をさらに備えている。このオーバーフロー部66は、ウエルド領域65に接続された排出部66Aと、排出部66Aに接続された保持部66Bとを有している。
次に、図5〜図7を参照して上記射出成形装置70を用いた保持器の製造方法について説明する。図7を参照して、本実施の形態における保持器の製造方法においては、まず工程(S10)として原料チップ供給工程が実施される。この工程(S10)では、図5を参照して、リサイクル材から製造されたマグネシウム合金チップ41が射出部50の供給部52からシリンダ51内に供給される。
次に、工程(S20)として加熱工程が実施される。この工程(S20)では、スクリュ53が軸周りに回転することにより、工程(S10)においてシリンダ51内に供給されたマグネシウム合金チップ41がスクリュ53の外周面に形成された螺旋状の溝に沿って移動しつつ、ヒータ56によって融点以上にまで加熱される。そして、溶融状態となった溶融マグネシウム合金42が貯留部54に貯留される。このとき、溶融マグネシウム合金42は、固相が存在しない液相のみの完全溶融状態であってもよいし、液相中に固相であるマグネシウム(α相)が分散した半溶融状態であってもよい。ただし、半溶融状態である場合、固相の割合は小さいことが好ましく、具体的には凝固後のマグネシウム合金の断面を観察した場合、α相の割合が面積率で15%未満となるように調整される。このα相の面積率は5%未満であることが好ましい。これにより、完成後の保持器において粒径20μm以上の粗大なα相が応力集中源となり、保持器の疲労強度等が低下することを抑制することができる。また、粒径20μm以上のα相の割合を面積率で2%未満とすることにより、保持器の疲労強度等の低下を一層抑制することができる。
次に、工程(S30)として射出工程が実施される。この工程(S30)では、スクリュ53を金型60に近づく向きに前進させることにより、工程(S20)において貯留部54に貯留された溶融マグネシウム合金42が金型60の内部に射出される。図6を参照して、金型60に射出された溶融マグネシウム合金42は、まずスプルー部63に供給された後、複数のランナー部62に分岐してキャビティ部61に注入される。このとき、転動体を保持するポケットが偶数個形成された図6の保持器形状では、たとえば隣り合うランナー部62からポケットを2つ挟むように、すなわちキャビティ部61のうち1つおきに配置されたキャビティ部61Aに溶融マグネシウム合金42が注入される。ここで、図6の互いに隣り合うキャビティ部61(キャビティ部61Aとキャビティ部61B)は、軸方向の前後(紙面の手前側および奥側)において互いに連結されている。そのため、ランナー部62から2つのキャビティ部61Aに注入された溶融マグネシウム合金42は、破線矢印αに示すように、2つのキャビティ部61Aに挟まれたキャビティ部61Bに形成されるウエルド領域65において合流する。そして、溶融マグネシウム合金42が2つのキャビティ部61Aにさらに注入されると、キャビティ部から溶融マグネシウム合金42が溢れ、オーバーフロー部66に流入して貯留される。
次に、工程(S40)として取り出し工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において金型60に射出されて凝固することにより作製された保持器が、金型60から取り出される。
さらに、工程(S50)として分離工程が実施される。工程(S40)において取り出された保持器には、ランナー部62やオーバーフロー部66において凝固したマグネシウム合金が接続されている。この工程(S50)では、この保持器以外の領域のマグネシウム合金が保持器から分離される。これにより、たとえば図8を参照して、保持器24が得られる。
ここで、本実施の形態においては、図6を参照して、ランナー部62において、キャビティ部61との境界面であるゲート部境界面の断面積は、ゲート部境界面に隣接する領域におけるゲート部境界面に平行な断面積に比べて小さくなっている。より具体的には、ランナー部62はキャビティ部61に近づくにつれて長手方向に垂直な断面における断面積が小さくなり、ゲート部境界面においてその断面積が最も小さくなっている。さらに、オーバーフロー部66において、キャビティ部61との境界面である排出部境界面の断面積は、排出部境界面に隣接する領域における排出部境界面に平行な断面積に比べて小さくなっている。つまり、ランナー部62と同様に、オーバーフロー部66はキャビティ部61に近づくにつれて長手方向に垂直な断面における断面積が小さくなり、排出部境界面においてその断面積が最も小さくなっている。そのため、キャビティ部61内で凝固したマグネシウム合金(保持器)とランナー部62内で凝固したマグネシウム合金とをゲート部境界面において容易に分離するとともに、キャビティ部61内で凝固したマグネシウム合金(保持器)とオーバーフロー部66内で凝固したマグネシウム合金とを排出部境界面において容易に分離することができる。その結果、本実施の形態においては、工程(S40)と工程(S50)とを同時に実施する、すなわち金型60から保持器を取り出す際に、保持器以外の領域のマグネシウム合金を保持器から分離することが可能となっている。
次に、工程(S60)として研磨工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において分離された保持器に対して、たとえばバレル研磨などの研磨が実施される。これにより、保持器の表面が平滑化される。
次に、工程(S70)として表面処理工程が実施される。この工程(S70)では、たとえば保持器に対して陽極酸化処理などの表面処理が実施される。この工程(S70)は、本発明の保持器の製造方法において必須の工程ではないが、これを実施することにより、保持器の耐食性および耐摩耗性が向上する。
さらに、工程(S80)として仕上げ工程が実施される。この工程(S80)では、工程(S70)における表面処理によって表面の凹凸が大きくなった場合に実施されるバレル研磨などの研磨処理や、封止(封孔)処理、オーバーコート処理などが必要に応じて実施される。以上の工程により、本実施の形態における保持器14や保持器24が完成する。
本実施の形態における保持器の製造方法においては、上述のように工程(S30)において溶融マグネシウム合金42が合流することにより、キャビティ部61Bのウエルド領域65において、ボイドを含む合流領域が形成される。しかし、この合流領域は、キャビティ部61Bから溶融マグネシウム合金42が溢れてオーバーフロー部66に流入することにより、保持器(キャビティ部61)の外部に押し出される。その結果、当該合流領域が保持器から排除され、保持器内にボイドを含む合流領域が残存して強度が低下することが抑制される。したがって、本実施の形態における射出成形装置70を用いた保持器の製造方法によれば、たとえば図8を参照して、軽量で、かつ高い強度を有するマグネシウム合金製の保持器24を製造することができる。なお、上記合流領域がキャビティ部61の外部に流出したことは、たとえば完成品の保持器24のウエルド部24Dの表面および断面を調査することにより確認することができる。具体的には、隣接するゲート間、もしくは保持器24の転動体保持部付近に生ずるウエルド部24Dは、通常ウエルドラインと呼ばれる特徴のある外観を有する。本発明による製造法により製造された保持器24では、ウエルドラインが存在しない、もしくは保持器24内部から外部に向かう湯流れ跡やオーバーフロー部の除去跡が観察される。また成形条件にも拠るが、金型内での冷却速度の違いに起因して、排出部近傍においては粒径20μm以上の粗大なα相の存在率がゲート部近傍に比べて少なくなりやすいことから、組織観察によっても確認できる場合がある。
また、本実施の形態における保持器24の製造方法によれば、上述のように合流領域が保持器24から排除され、ウエルド部24Dにおける強度の低下が抑制されている。そのため、保持器24のウエルド部24Dにおける引張強度の、ウエルド部24D以外の部分における引張強度に対する比を0.8以上とすることができる。
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2における保持器および転がり軸受は、実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏するとともに同様に製造することができる。しかし、実施の形態1における保持器は転動体を保持するポケットを偶数個有していたのに対し、実施の形態2における保持器はポケットを奇数個有している。その結果、射出成形において使用される金型の構成において、実施の形態1と実施の形態2とは異なっている。
図9を参照して、転動体を保持するポケットが奇数個形成された実施の形態2における保持器形状では、たとえば隣り合うランナー部62からポケットを3つ挟むように、すなわちキャビティ部61のうち2つおきに配置されたキャビティ部61Aに溶融マグネシウム合金42が注入される。ここで、図9の互いに隣り合うキャビティ部61は、軸方向の前後(紙面の手前側および奥側)において互いに連結されている。そのため、ランナー部62から2つのキャビティ部61Aに注入された溶融マグネシウム合金42は、破線矢印αに示すように、2つのキャビティ部61Aに挟まれた2つのキャビティ部61Bに流入し、さらに当該2つのキャビティ部61Bの中央(紙面手前または奥側)に形成されるウエルド領域65において合流する。そして、溶融マグネシウム合金42が2つのキャビティ部61Aにさらに注入されると、キャビティ部から溶融マグネシウム合金42が溢れ、オーバーフロー部66に流入して貯留される。
本実施の形態においても、上記実施の形態1の場合と同様に、工程(S30)において溶融マグネシウム合金42が合流することにより、ウエルド領域65においてボイドを含む合流領域が形成される。そして、実施の形態2においては、このウエルド領域65が、保持器において厚みの薄い領域であるポケットの中央部(保持器の周方向における中央部)に位置することとなる。そのため、当該領域にボイドを含む合流領域が残存すると、実施の形態1の場合以上に保持器の強度が不十分となりやすい。しかし、この合流領域は、キャビティ部61から溶融マグネシウム合金42が溢れてオーバーフロー部66に流入することにより、キャビティ部61の外部に押し出される。その結果、当該合流領域が保持器から排除され、保持器内にボイドを含む合流領域が残存して強度が低下することが抑制される。このように、保持器の厚みの薄い領域に合流領域が形成される場合、本発明の適用が特に有効である。
なお、上記実施の形態においては、本発明に適用可能なマグネシウム合金としてASTM規格AZ91Dを例示したが、本発明に適用可能なマグネシウム合金はこれに限られず、種々のダイカスト用のマグネシウム合金を適用することができる。本発明において採用可能なマグネシウム合金としては、主成分であるマグネシウム(Mg)に、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、珪素(Si)などを添加した合金類を例示することができる。また難燃性の向上や、耐熱性、靭性向上などを目的に必要に応じて、カルシウム(Ca)やガドリニウム(Gd)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、希土類元素などを添加してもよい。具体的には、ASTM規格のAZ91DやAZ61A、AZ31BなどのMg−Al−Zn系合金や、AM60BなどのMg−Al系合金、AS41AなどのMg−Al−Si系合金などを挙げることができる。
また、オーバーフロー部66の体積(容積)は、特に限定されるものではないが、合流部を保持器(製品)から確実に排除する観点からキャビティ部61体積の5%以上であることが好ましく、より確実に合流部を排除するためには10%以上とすることが好ましい。一方、材料歩留まりの観点から除去される廃材部は少ない方が好ましく、オーバーフロー部66の体積(容積)はキャビティ部61体積の30%以下とすることが好ましい。
さらに、上記工程(S50)で実施されるランナー部62やオーバーフロー部66において凝固したマグネシウム合金の保持器からの分離(除去)は、種々の方法で実施することができる。具体的な方法としては、たとえばプレス機によるトリミング加工、バレル加工、切削加工などの機械加工を例示することができる。
また、スプルー部63やランナー部62において凝固するマグネシウム合金の量を減らすことが可能な所謂ホットノズルやホットランナー方式、また金型内でゲートカットを行なう型内ゲートカット方式での成形法も好適に使用できる。なお、スプルー部63やランナー部62において凝固したマグネシウム合金と共に、型内加工にてオーバーフロー部66において凝固したマグネシウム合金を除去することもできる。
また、成形された保持器14,24に対して、必要に応じて溶体化処理および時効硬化処理の一方あるいは両方を実施してもよい。
さらに、表面処理は、スプルー部63、ランナー部62およびオーバーフロー部66において凝固したマグネシウム合金の除去の前後を問わず実施することができるが、除去後に実施することが好ましい。具体的な表面処理としては、耐食性に優れる金属を用いためっき処理や、カチオン電着塗装などの樹脂コーティング、表面を水酸化マグネシウムや酸化マグネシウムに変性する化成処理や陽極酸化処理を挙げることができる。これらの中でも、界面の密着性の心配がなく、耐食性、耐摩耗性共に優れる陽極酸化処理や、耐食性、自己潤滑性に優れるカチオン電着塗装を採用することが特に好ましい。なお、陽極酸化処理を行なうと表面粗さが大きくなる場合が多いので、必要に応じて表面処理後にバレル研磨などの研磨処理や、樹脂材料による封止(封孔)、あるいは水蒸気処理、沸騰水処理、加熱酢酸ニッケル溶液などの薬液処理などでの封止(封孔)、またはオーバーコート処理を施してもよい。研磨処理をする場合の研磨量は、表面処理により形成した変性層を残存させるため、変性層の厚み以下とすることができる。変性層の厚みは3μm程度以上あれば、機能上大きな問題はないが、保持器には転動体や軌道輪と接触する摺動部が存在することから、5μm以上とすることが耐久性の面で好ましい。なお、変性層の厚みが厚くなればなるほど、耐摩耗性や耐食性には優れるが、変性に伴う凹部の成長(表面粗さの増大)や体積膨張などの形状変化も大きくなることから、15μm以下とすることが好ましく、10μm以下とすることが特に好ましい。
また、表面処理としてめっき処理を実施する場合、たとえば各種クロムめっきや、無電解ニッケルめっき、電気ニッケルめっきなどのニッケルめっきを採用することが好ましい。
また、本発明の保持器の形状としては、冠型保持器、揉みぬき保持器、くし型保持器、かご型保持器などの種々の形式を採用することができ、特にその形状に制限はないが、中でも高い剛性が求められるくし型や冠型の保持器に本発明の保持器を好適に採用することができる。さらに、本発明の保持器は、ラジアル玉軸受、ラジアルころ軸受、スラスト玉軸受、スラストころ軸受、アンギュラ玉軸受など種々の形式の転がり軸受に適用可能であり、転がり軸受の形式に特に制限なく好適に採用することができる。また、保持器の案内形式も特に限定されるものではなく、転動体案内、外輪案内、内輪案内など、いずれの案内形式にも適用することができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の保持器を実際に作製し、その特性を従来の保持器と比較する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
まず、上記実施の形態において説明した保持器を、上記実施の形態と同様の製造方法により作製した。保持器の形状は、図1および図2に示すように軸受型番NN3020(JIS呼び番号)に使用可能な、くし型保持器とした。より具体的には、内径φ120mm、外径φ132mm、高さ10.5mm、環状部14A(図2参照)の厚み2.3mm、PCD(Pitch Circle Diameter;ピッチ円径)φ126mm、柱本数28本とした。また、保持器の製造は、上記実施の形態において説明した製造方法(図7参照)のうち工程(S10)〜(S60)を実施することにより実施した。工程(S10)では、AZ91Dからなるマグネシウム合金チップを原料チップとして採用した。工程(S20)および(S30)では、ノズル温度610℃、金型温度250℃、射出速度1200mm/s、保圧15MPa、冷却時間10sの条件を採用した。また、工程(S50)では、オーバーフロー部66において凝固したマグネシウム合金をプレス成形により除去した。さらに、工程(S60)では、バレル研磨を実施した。また、その後、後処理として216℃に10時間保持する時効硬化処理を実施した(JIS規格 T5)(実施例A)。
一方、上記実施例Aと同様の形状および製造工程を採用し、時効硬化処理を省略するとともに、工程(S70)を追加したものも作製した。工程(S70)では、陽極酸化処理を実施し、厚み8μmの変性層を形成した。陽極酸化処理後の表面粗さはJIS規格Raで1.0μmとなるように調整したところ、表面粗さはRaで0.9μmとなった(実施例B)。
さらに、上記実施例Bと同様の形状および製造工程を採用し、工程(S70)において陽極酸化処理に代えて無電解ニッケルめっき(膜厚:10μm、下地処理:エッチング処理)を施したものも作製した(実施例C)。
また、上記実施例Bと同様の形状および製造工程を採用し、工程(S70)において陽極酸化処理に代えてカチオン電着塗装(膜厚:10μm、下地処理:化成処理)を施したものも作製した(実施例D)。
一方、上記本発明の実施例と比較する目的で、上記実施例と同じ形状を有する樹脂製の保持器(比較例A)および高力黄銅製の保持器(比較例B)も準備した。比較例Aでは、PEEK(Poly Ether Ether Keton)材にCF(カーボンファイバ)材を添加した樹脂(Victrex社製PEEK450CA30)を射出成形することにより保持器を作製した。具体的には、ノズル温度400℃、金型温度180℃、射出速度50mm/s、保圧120MPa、冷却時間30sの条件で射出成形を実施し、さらに後処理として200℃に加熱して3時間保持するアニール処理を実施した。また、比較例Bでは、素材として高力黄銅CAC301を採用し、切削加工にて上記形状に加工することにより保持器を作製した。
次に、実験項目および実験結果について説明する。まず、上記実施例A〜Dの保持器を用いてNN3020軸受を実際に組み立てる実験を行なった。具体的には、JIS規格SUJ2材からなる内輪および外輪と、窒化珪素からなる転動体とを準備し、保持器を背面合わせで2個組み込むことにより軸受を組み立てた(図1参照)。その結果、実施例A〜Dのいずれの保持器も問題なく組み立てることができた。また、実施例B〜Dの保持器において形成した変質層、ニッケルめっき層およびカチオン電着塗装層についても、剥がれなどの不具合は発生しなかった。
次に、上記実施例および比較例の保持器に関して、保持器質量、保持器強度、柱たわみ量、およびJIS規格SUJ2材に対する摩擦係数の測定を実施した。保持器強度は、保持器の内径側から保持器の直径方向に互いに逆向きの力を作用させて保持器を引っ張り、破断した際の荷重を記録することにより測定した。柱たわみ量については、保持器の環状部側が下になるように平面上に保持器を載置し、図10に示す治具を小径側(直径φ2の側)から保持器の内径側に一定荷重で押し込んだ際の柱部の倒れ量(外径の変化量)を測定した。ここで、図10を参照して、治具80は、直径φ1(132mm)の円形形状を有する第1平面82と、第1平面82に平行な直径φ2(115.5mm)の円形形状を有する第2平面81と、曲率半径66mmの球面である側面83とからなっている。厚みt、すなわち第1平面82と第2平面81との距離は32mmである。また、SUJ2材に対する摩擦係数は、SUJ2からなる部材を準備し、鉱油(VG2)噴霧下における当該部材に対する摩擦係数を測定した。
表1に実験結果を示す。表1において、保持器質量は、比較例Bを1とした場合の質量比で、保持器強度および柱たわみ量は、それぞれ比較例Aを1とした場合の強度比および柱たわみ量比で表示されている。
表1を参照して、実施例A〜Dの質量は高力黄銅製の保持器である比較例Bの1/5となっている。そして、本発明の保持器は樹脂製の保持器である比較例Aと遜色ない程度の軽量化を達成していることが確認される。また、実施例A〜Dの強度は樹脂製の保持器である比較例Aを上回っている。さらに、実施例A〜Dの柱たわみ量は樹脂製の保持器である比較例Aに比べて大幅に抑制されており、高力黄銅製の保持器である比較例Bと遜色ない値となっている。また、実施例A〜DのSUJ2に対する摩擦係数は、比較例BのSUJ2に対する摩擦係数に比べて小さくなっている。特に、実施例CおよびDのSUJ2に対する摩擦係数は、樹脂製の保持器である比較例BのSUJ2に対する摩擦係数と遜色ない値となっている。
以上の実験結果より、本発明の保持器は量産性に優れる射出成形により製造可能であるだけでなく、軽量で、高い強度および剛性を有するとともに、軸受鋼であるSUJ2に対する摩擦係数が抑制された保持器となっていることが確認された。
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明の保持器の製造方法による強度の向上効果を確認する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
まず、図11に示す金型60を用いてJIS規格K7113に規定する1号試験片(引張試験片)を作製し、ウエルド部の引張強度を確認する実験を行なった。具体的には、図11を参照して、金型60は、材料を射出するノズルに接続された中空領域であるスプルー部63と、上記1号試験片の形状に対応するキャビティ部61と、スプルー部63とキャビティ部61の軸方向両端のそれぞれとを接続するランナー部62とを備えている。ランナー部62は、フィルムゲートであるゲート部62Aを含んでおり、キャビティ部61の軸方向両端のそれぞれに設けられられた2つのゲート部62Aにおいて、ランナー部62はキャビティ部61に接続されている。キャビティ部61は、ランナー部62からキャビティ部61に供給されたマグネシウム合金が合流する領域であるウエルド領域65を含んでいる。そして、金型60は、ウエルド領域65に接続され、ウエルド領域65に到達してキャビティ部61から溢れたマグネシウム合金を貯留するオーバーフロー部66をさらに備えている。このオーバーフロー部66は、ウエルド領域65に接続された排出部66Aと、排出部66Aに接続された保持部66Bとを有している。
そして、以下の表2に示す条件で金型60に材料であるAZ91Dを射出し、試験片の小径部(ウエルド領域65)にウエルド部が形成された試験片を作製した(実施例E〜H)。なお、実施例Gについては、150℃に24時間保持することにより時効硬化処理を実施した(JIS規格T5)。一方、比較のため、材料として樹脂(PEEK材にCF材を添加したもの;Victrex社製PEEK450CA30)を用いて下記の表2に示す条件で同様に試験片を作製した(比較例C)。なお、比較例Cにおいては、後処理として200℃の温度に3時間保持するアニール処理を実施した。そして、プラスチックの引張試験方法であるJIS規格K7113に従って引張試験を実施し、ウエルド部における引張強度(表2の「ウエルド強度」に対応)を調査した。試験速度は10mm/minとした。
一方、ウエルド部以外の引張強度を調査する目的で、上記金型60において、ゲート部62Aを金型60の軸方向一方の端部のみに形成した金型を用いて表2の条件で引張試験片を作製し、引張強度を調査した(表2の「引張強度」に対応)。
また、得られた引張試験片の中央部を切断し、断面を研磨した後、当該断面を3%ナイタル腐食液(硝酸アルコール溶液)にてエッチング処理を行ない、エッチング後の断面を光学顕微鏡(100倍)で観察した。そして、観察の結果得られた画像を2値化処理し、視野内における粒径20μm以上の粗大なα相の面積率(表2の「粗大α固相率」に対応)を算出した。エッチング後における実施例E、F、GおよびHの断面の光学顕微鏡写真を、それぞれ図12、図13、図14および図15に示す。また、実施例EおよびHについて、図12の領域A、図15の領域Bのように、粗大なα相が観察されない領域をSEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)(1000倍)により観察した(図16および図17)。上記実験の条件および実験結果を表2に示す。
次に、表2および図12〜図17を参照して、実験結果について説明する。なお、表2において引張強度およびウエルド強度は、比較例Cのウエルド強度を1とした比(相対値)で示されている。
表2を参照して、比較例Cのウエルド強度に対して、実施例E〜Hのウエルド強度は60%以上高い値となっている。また、ウエルド強度と引張強度の比が0.8以上と1に近い値となっている。ここで、複数のゲートを有する金型を用いた多点ゲート方式の射出成形法により作製される保持器には、ウエルド部が必ず形成される。そして、本発明の保持器によれば、比較例Cに代表される繊維強化された樹脂材料とは異なり、ウエルド部における強度の低下が大幅に抑制されている。そのため、多点ゲート方式の射出成形を採用した場合でも、本発明の保持器によれば、高い強度を有する保持器を提供することができる。また、ウエルド部における強度の低下が抑制されることから、たとえば肉厚の大きい柱部以外の部分にウエルド部を設けることが可能となるため、設計の自由度が広がる。具体的には、たとえば偶数個の転動体を保持する保持器だけでなく、奇数個の転動体を保持する保持器に対しても、設計上の制約なく多点ゲート方式の射出成形法を適用することが可能となる。
さらに、表2を参照して、実施例Gに比べて、実施例E、FおよびHにおいては、α固相率が低く抑えられ、5%未満(実施例EおよびFは2%未満)となっている。図12〜図15を参照して、光学顕微鏡写真における白色の領域が粗大化したα相に対応する。その結果、実施例E、FおよびHの引張強度は実施例Gよりも高く、比較例Cに比べて10%以上向上している。そのため、上記α固相率を5%未満(ここでは2%未満)にまで低減することにより、保持器の更なる薄肉化が可能となり、軽量化を達成することができる。このことから、α固相率を5%未満、より好ましくは2%未満にまで低減した本発明の保持器は、軽量化による高速回転への対応が求められる工作機械用軸受への適用のほか、消費電力の低減が強く求められる事務機器用途の軸受用保持器などに、特に好適に採用され得る。
また、図16および図17を参照して、実施例Hにおける素地の組織は、実施例Eに比べて微細となっている。より具体的には、実施例Eの素地の平均結晶粒径は6μmであるのに対し、実施例Hの平均結晶粒径は2μmとなっている。その結果、実施例Hの引張強度およびウエルド強度は実施例Eに比べて大幅に高くなっている。このことから、本発明の保持器においては、保持器を構成するマグネシウム合金の平均結晶粒径を小さくすることが好ましいといえる。より具体的には、保持器を構成するマグネシウム合金の平均結晶粒径は5μm以下とすることが好ましく、2μm以下とすることがより好ましい。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。