JP2011220994A - 近赤外分光分析装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】非侵襲的手法及び侵襲的手法の双方の欠点を解消した近赤外分光分析装置を提供する。
【解決手段】数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルからなるスペクトルデータセットを作成し、試料を実測して得られる実測スペクトルから定めた基準スペクトルに対する類似性を向上させるように、シミュレーションスペクトルに対して変換操作を行い、変換操作によってシミュレーションスペクトルから得られた変換スペクトルによる変換スペクトルデータセットを作成し、変換スペクトルデータセットを多変量解析することによって検量モデルを作成し、検量モデルを用いて、目的とする成分濃度の定量を行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、生体の皮膚組織に近赤外光を照射すると共に、皮膚組織からの拡散反射又は透過光を受光し、得られた皮膚組織からの信号の測定を行うことで、生体成分や性状の定性・定量分析を行う生体成分センシング装置に関する。特に、本発明は、皮膚組織中のグルコース濃度変化により血中の血糖値を測定する近赤外分光分析装置に関する。
近年、糖尿病患者の血糖値を管理するため、血糖値測定及び血糖値モニタリングに対するニーズが高まっている。更に、集中治療室(ICU)において血糖値を適切な範囲に管理することで、死亡率の低下及び合併症の発生率の低下等の効果が医学的に実証されている。
血糖値の測定手法としては、次の二つに大別できる。一つは、採血した血液を用い、グルコースオキシダーゼ等の酵素反応を利用して定量する侵襲的手法がある。侵襲的手法としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)法やグルコース脱水素酵素(GDH)法などの酵素電極法や、ヘキソキナーゼ(HX)法などの酵素比色法がある。そして、もう一つは、採血のような体を傷付ける操作を行わないで、生体から得られる何らかの情報をもとに血糖値を推定する非侵襲的手法がある。
ここで、血糖値の測定装置として、臨床検査用の大型装置のみならず、侵襲的手法による携帯型血糖計が、糖尿病患者の自己血糖値測定(SMBG)に広く利用されている。自己血糖値測定は、患者の指等の身体部位を針(ランセット)で穿刺し、1滴程度の血液を採取して血糖値測定を行う。このような採血による血糖値測定の信頼性は高く、携帯型血糖計に関し、市販されているほとんどの機種において測定誤差は10%以下である。
そして、従来、非侵襲的に血糖値を推定する手法としては様々なものが提案されており、その中でも近赤外光を用いる手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。近赤外光により非侵襲的に血糖値を測定する手法は、生体組織に近赤外光を照射し、生体組織内を拡散反射した光を測定し、得られる信号やスペクトルから血糖値の定性・定量分析を行う手法である。
特開2006−087913号公報
非侵襲的に血糖値を推定する手法は、患者に負担をかけず血糖値を測定できるため、そのニーズは高く、測定手法としても様々なものが提案されている。しかし、推定精度や信頼性に課題を残しており、今の時点で日本国の薬事承認や米国のFDA認可を得た製品はない。つまり、非侵襲的に血糖値を推定する手法は、上記近赤外分光法に限らず、どの手法においても測定した信号中に含まれる血糖値の代用特性となる信号が外乱信号と比較して非常に小さいため、外乱の影響を強く受ける。そのため、本質的に誤差が大きくなる要因を測定手法に内在している。したがって、非侵襲的手法は、侵襲的手法に比べ推定精度や信頼性に劣ることはある程度仕方がない。しかしながら、非侵襲的手法は生体を傷付けずに測定できるため、頻回測定や連続測定が可能である。血糖値管理を行う上でこの頻回測定や連続測定は非常に重要な特徴であり、特定の用途では推定精度や信頼性に劣るという欠点を補い得る可能性を有する。
一方、侵襲的手法は推定精度や信頼性について十分な性能を有するが、生体を傷付けて測定するため、頻回測定や連続測定が難しく、被測定者によっては測定不可能な場合がある。例えば、乳幼児や重篤な症状の患者の場合、血液を採取すること自体が難しく、血糖値の頻回測定が難しい例として知られている。
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、上記非侵襲的手法及び侵襲的手法の双方の欠点を解消した近赤外分光分析装置を提供することにある。
上記課題を解決するための手段として、非侵襲的及び侵襲的な血糖値測定手段を組み合わせ、採血による侵襲的な血糖値測定手段を可能な限り少なくし、更に侵襲的な血糖値測定手段を較正に利用することで上記課題が解決することを見出した。
本発明の態様に係る近赤外分光分析装置は、数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルからなるスペクトルデータセットを作成し、試料を実測して得られる実測スペクトルから定めた基準スペクトルに対する類似性を向上させるように、シミュレーションスペクトルに対して変換操作を行い、変換操作によってシミュレーションスペクトルから得られた変換スペクトルによる変換スペクトルデータセットを作成し、変換スペクトルデータセットを多変量解析することによって検量モデルを作成し、検量モデルを用いて、目的とする成分濃度の定量を行う。
上記の変換操作とは、基準スペクトルとスペクトルデータセットとの最小二乗法を用いた近似直線を算出し、各々のシミュレーションスペクトルに対して近似直線のy切片を減算した後、近似直線の傾きを除算する変換を行う操作である。
本発明の態様に係る近赤外分光分析装置によれば、採血による侵襲的な測定を可能な限り少なくし、生体成分濃度の測定を行う被験者から実測して得られる実測スペクトルから定めた基準スペクトルに対して、数値シミュレーションで得たシミュレーションスペクトルの類似性を向上させることで、目的とする成分濃度の定量を行うことができる。
本発明の実施の形態に係る検量モデルの作成及び血糖値推定についてのフローチャートである。 光学式血糖値測定システムの概略図である。 光学式血糖値測定システムの測定用プローブの先端構成を示す概略図である。 グルコース、水、蛋白質、脂質の近赤外光域における吸収係数を示すグラフである。 皮膚組織測定用プローブの概略図である。 実施例1の血糖値測定実験におけるスペクトルデータを示すグラフである。 実施例1の血糖値測定実験における近似直線を示すグラフである。 実施例1の血糖値測定実験の測定結果を示すグラフである。 実施例2の血糖値測定実験におけるスペクトルデータを示すグラフである。 実施例2の血糖値測定実験の測定結果を示すグラフである。 実施例3の血糖値測定実験の測定結果を示すグラフである。 実施例4の血糖値測定実験におけるスペクトルデータを示すグラフである。
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る近赤外分光分析装置は、図1に示すように、数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルからなるスペクトルデータセットを作成し、試料を実測して得られる実測スペクトルから定めた基準スペクトルに対する類似性を向上させるように、シミュレーションスペクトルに対して変換操作を行い、変換操作によってシミュレーションスペクトルから得られた変換スペクトルによる変換スペクトルデータセットを作成し、変換スペクトルデータセットを多変量解析することによって検量モデルを作成し、検量モデルを用いて、目的とする成分濃度の定量を行う。
目的とする成分濃度の対象は、具体的には血糖値である。非侵襲的に推定される血糖値の推定精度や信頼性を向上させるためには、推定精度や信頼性に勝る侵襲的な手法で測定した基準血糖値を用いて、推定血糖値に適切な較正を行うことが有効である。また、上記較正を自動的に行うことで、利用者は煩雑な操作を行うことなく、容易に血糖値モニタリングを行うことができるようになる。
血糖値を推定するための血糖値測定システムとしては、図2に示すような、光学式血糖値測定システムを用いることができる。この光学式血糖値測定システムでは、図2に示すように、まずハロゲンランプ1から発光された近赤外光が熱遮蔽板2、ピンホール3、レンズ4及び測定用光ファイバ5Aを介して生体組織6に入射される。測定用光ファイバ5Aには、測定用光ファイバ5Bの一端とリファレンス用光ファイバ7Aの一端が接続されている。なお、測定用光ファイバ5Bの一端は、測定用プローブ9を介して測定用光ファイバ5Aに接続されている。そして、リファレンス用光ファイバ7Aの他端はリファレンス用プローブ10に接続されている。更に、測定用プローブ9及びリファレンス用プローブ10は、測定用光ファイバ5B及びリファレンス用光ファイバ7Bを介して測定側出射体11及びリファレンス側出射体12にそれぞれ接続されている。
人体の前腕部など生体組織6の表面に測定用プローブ9の先端面を接触させて近赤外スペクトル測定を行う時、光源1から測定用光ファイバ5Aに入射した近赤外光は、測定用光ファイバ5A内を伝達し、図3に示すような測定用プローブ9の先端に配置されている発光ファイバ20より生体組織6の表面に照射される。生体組織6に照射された近赤外光は生体組織内で拡散反射した後に、拡散反射光の一部が測定用プローブ9の先端に配置されている受光ファイバ19に受光される。受光された光は、測定用光ファイバ5Bを介して測定側出射体11から出射される。測定側出射体11から出射された光は、レンズ13を通して回折格子14に入射し、分光された後、受光素子15において検出される。
受光素子15で検出された光信号はA/Dコンバータ16でアナログ−デジタル変換(AD変換)された後、パーソナルコンピュータなどの演算装置17に入力される。血糖値はこのスペクトルデータを解析することによって算出される。リファレンス測定はセラミック板など基準板18を反射した光を測定し、これを基準光として行う。すなわち、光源1からリファレンス用光ファイバ7Aに入射した近赤外光はリファレンス用光ファイバ7Aを通して、リファレンス用プローブ10の先端から基準板18の表面に照射される。基準板18に照射された光の反射光はリファレンス用プローブ10の先端に配置された受光ファイバに受光される。受光された光は、リファレンス用光ファイバ7Bを介してリファンレス側出射体12から出射される。測定側出射体11とレンズ13の間、及びリファンレス側出射体12とレンズ13の間にはそれぞれシャッタ21が配置してあり、シャッタ21の開閉によって測定側出射体11からの光とリファンレス側出射体12からの光のいずれか一方が選択的に通過するようになっている。
測定用プローブ9とリファレンス用プローブ10の端面は、図3に示すように、円上に配置された2本の発光ファイバ20と中心に配置された1本の受光ファイバ19で構成されている。発光ファイバ20と受光ファイバ19の中心間距離Lは、例えば0.65mmである。
本実施の形態で用いる光学式血糖値測定システムは、波長が1300nm以上2500nm以下の近赤外光により皮膚組織の拡散反射スペクトルを測定するものが最も望ましい。近赤外光の波長領域は800〜2500nmの範囲を指すが、皮膚組織の測定には波長1300〜2500nmが適切である。それは、近赤外領域の波長によって、生体を伝播する際の特性の違いがあるためである。つまり、1300nmより短い波長では吸収強度が小さく、更にこの波長領域の光の伝播距離は数cmであるため、厚さがせいぜい1mm程度である皮膚組織の測定には適さない。1300nmより長い波長では吸収強度が大きい上、この波長領域の光の伝播距離が数mmであるため、厚さが1mm程度の生体の皮膚組織の測定には適している。
ここで、身体組織の中で推定血糖値を測定しやすい組織は、皮膚組織である。特に、皮膚組織中の真皮組織には血管が発達しており、血中グルコースが素早く皮膚組織中に拡散するため、皮膚組織中のグルコース濃度を血管中のグルコース濃度(すなわち血糖値)の代用特性として使用することができる。より詳細に説明すると、生体の皮膚組織は、大きく表皮組織、真皮組織、及び皮下組織の三層の組織で構成される。表皮組織は、角質層を含む組織で、組織内に毛細血管はあまり発達していない。また、皮下組織は、主に脂肪組織で構成されている。したがって、この二つの組織内に含まれる水溶性の生体成分濃度、特に、グルコース濃度と血中グルコース濃度(血糖値)との相関性は低いと考えられる。一方、真皮組織については毛細血管が発達していることと、水溶性の高い生体成分、特にグルコースが組織内で高い浸透性を有することから、生体成分濃度、特にグルコース濃度は間質液(ISF:Interstitial Fluid)と同様に血糖値に追随して変化すると考えられる。したがって、真皮組織を標的としたスペクトル測定を行えば、血糖値変動と相関するスペクトル信号を得ることができる。
次に、上記近赤外分光分析装置を用いた推定血糖値の較正について、実施例により詳細に説明する。
本発明の実施形態における検量モデルは、数値シミュレーションにより合成した近赤外スペクトルからなるデータセットから作成する。近赤外スペクトルの合成には、強い散乱体である生体組織中の光伝播を再現する必要があるため、モンテカルロ法による光伝播シミュレーションを採用した。数値シミュレーションによる吸光度スペクトルに組み込む外乱は、グルコース、アルブミン(蛋白質)、中性脂肪とコレステロール(脂質)、水分の生体成分に散乱係数と温度を加えた6種類(グルコース、蛋白質、脂質、水分、散乱係数、組織温度)を変動させるパラメータとして設定した。
本実施形態の数値シミュレーションにおいて6種類の変動パラメータに起因する光学特性の変化を以下のように仮定した。
(1)グルコース、蛋白質、脂質の濃度変動は、吸光度に対して線形に変動するとともに、組織において、その体積分率の水分量の線形的な変化を生じる。
(2)水分の体積分率変化は、水の吸収波長において線形的な吸収係数の変化と、組織液の屈折率の変化に伴う散乱係数の変化を生じる。
(3)皮膚組織の温度変化は、1450nmに存在する水ピークをシフトさせ、これに伴い、吸収係数の増減が各波長において線形的に生じる。また、温度変化による水の屈折率の変化により、皮膚組織の散乱係数が変化する。
(4)皮膚組織の散乱係数は、測定プローブと皮膚表面との接触やその他の未知の要因による変化を考慮して、上記の濃度および温度変化と独立して変化する。
上記の仮定に基づき、本章での数値シミュレーションにおける光学特性の変化は、光伝播シミュレーションに組み込まれ、6種類のパラメータ変動とは非線形関係な吸光度スペクトル変化が数値演算的に求められる。最終的に、6種類のパラメータを組み合わせた256本の数値シミュレーションによる吸光度スペクトルを算出し、検量モデルの作成を行った。数値シミュレーションした各パラメータの変動は、血糖値の変動に対して無相関である。各パラメータの変動幅としては、グルコースの変動幅を0mg/dLから200mg/dL、温度変動幅を±1.5℃、水の体積分率、蛋白質、脂質を図4に示す吸収係数が±4%変動する幅とした。図4の吸収係数は、積分球を組み込んだ分光光度計(株式会社島津製作所、UV−3100)での測定値から逆モンテカルロ・シミュレーション手法により算出している。散乱係数の変動幅は真皮組織の散乱係数の±4%とした。
検量モデルを作成する際には、グルコース濃度を除いて、他のパラメータについての変動幅は正確である必要はない。なぜなら、検量モデル作成のために行う多変量解析(PLS回帰分析)のアルゴリズムにおいては、グルコース濃度以外のパラメータは単に外乱として作用するだけで、そのパラメータの濃度が絶対値として考慮されることがないため、外乱成分については、正確な値を必要としないからである。したがって、外乱の変動幅については、血糖値を推定する期間内に予想される変動幅より大きく設定すれば良く、これらのグルコース濃度以外のパラメータの変動幅は、過去に行った典型的な実験で得られたスペクトルの変動幅よりもシミュレーションで得られるスペクトルの変動幅が大きくなるように設定した。
(実施例1)
実施例1は、生体中のグルコース濃度(血糖値)測定を行ったものである。血糖値を推定するための検量モデル作成を行うデータセットの作成には、数値シミュレーションから得た近赤外スペクトルを基準スペクトルに対してスペクトル形状が類似するように変換操作を行った変換スペクトルデータセットを用いた。基準スペクトルは、実測した近赤外スペクトルの中で、測定開始時に最初に測定したスペクトルを用いた。変換操作は、基準スペクトルと数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルの各々に対して最小二乗法を用いた近似直線を算出し、数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルより近似直線のy切片を減算した後、近似直線の傾きを除算することにより行う。血糖値を求める検量モデルは変換して得られた変換スペクトルデータセットを多変量解析し作成する。
皮膚組織測定用プローブは、図5に示すように、皮膚面40に受発光ファイバを垂直に接触させる光ファイババンドル30の先端部31と、その周囲に配置される固定部32、光ファイババンドル30の先端部31を上下させる駆動部33(破線部分)、柔軟で屈曲自在の素材で成形される保持部35で構成される。光ファイババンドル30の先端部31を上下させる駆動部33は、ピッチ0.25mmのねじ34を回転させることで、時計回りに回せば上方に、半時計回りに回せば下方に、光ファイババンドル30の先端部31を固定した固定部32を上下させることができる。したがって、回転数および回転角度により光ファイババンドル30の先端部31の駆動距離を数ミクロン単位で精密に制御することが可能である。皮膚への装着に際して、本実施例の皮膚組織測定用プローブは、両面テープを用いて皮膚表面に固定される。
効果検証のための血糖値測定実験は、以下の手順で行った。
(1)装置のウォームアップ終了後に採血により血糖値を実測する。図6(a)の概念図のように採血と同時に実測した初期吸光度スペクトルを基準スペクトルとし、図6(b)に示す数値シミュレーションで作成した(シミュレーション)スペクトルデータセットを基準スペクトルと類似するように変換操作を行い、図6(c)に示す変換スペクトルデータセットを作成する。
(2)変換スペクトルデータセットを波長範囲1430nmから1850nmで多変量解析することで、検量モデルを作成する。多変量解析にはPLS回帰分析を用いた。次に、初期吸光度スペクトルを検量モデルに代入して得られる推定血糖値を採血による実測血糖値と一致するように較正する。その後に測定する吸光度スペクトルにより測定される血糖値は、この較正血糖値からの変化値として求められる。
(3)較正後、5分間隔で近赤外吸光度スペクトル測定による血糖値推定を繰り返す。また、比較データとして近赤外吸光度スペクトル測定による血糖値推定のタイミングに合わせ、10分間隔で採血による血糖値を実測する。
(4)測定開始後、30分で経口グルコース負荷を行い、被験者の血糖値を変動させる。経口グルコース負荷には、液体栄養飲料(大塚製薬株式会社製カロリーメイト(登録商標))を用いた。
(5)測定は測定開始後約3時間実施した。
上記の血糖値測定実験における変換操作は、まず、図7に示すように、基準スペクトルと各々のシミュレーションスペクトルとの最小二乗法を用いた近似直線を算出し、次にこの近似直線による回帰式を演算し、その後得られた傾きとy切片より変換操作を行う。近似直線から得られた傾きとy切片による具体的な変換操作としては、各々のシミュレーションスペクトルに対して近似直線のy切片を減算した後、近似直線の傾きを除算して変換する操作である。
測定結果を図8に示す。図8では、変換スペクトルデータセットから作成した検量モデルの測定結果が実線で示され、比較データとしての採血による血糖値を実測した結果が破線で示されている。実施例1で示した手法による血糖値推定は、相関係数0.867、予測標準誤差7.82mg/dlという良好なものであった。本手法により数値シミュレーションで得られた合成スペクトルを実測した基準スペクトルをもとに変換することで、類似性を向上させることができ、より高精度な定量分析を可能とすることができた。
実施例1としては実験開始時に測定した初期スペクトルを基準スペクトルとしたが、基準スペクトルの設定はこれに限定するものではなく、実験中のどの時点のスペクトルを用いても構わない。また、いくつかの測定スペクトルの平均スペクトルを用いても良い。
(実施例2)
実施例2において、数値シミュレーションを行い作成した図9(a)に示すスペクトルデータセットの近赤外スペクトル形状を、図9(b)に示す変換スペクトルデータセットへと変換させる変換操作は、実施例1と同様である。実施例1と異なる点は図9(c)の概念図に示すように、実施例1と同様の操作で得た変換スペクトルデータセットから差分スペクトルデータセットを作成し、差分スペクトルデータセットから得られた差分スペクトルを図9(d)に示す基準スペクトルに加算し、図9(e)に示すように、第二の変換スペクトルデータセットを作成する点にある。血糖値を求める検量モデルは、新たに得た第二の変換スペクトルデータセットを多変量解析し作成する。また、差分スペクトルはスペクトルデータセットのすべてのスペクトルの平均スペクトルをスペクトルデータセットに含まれる各々のスペクトルを引くことで作成した。
効果検証のための血糖値測定実験は、実施例1と同様である。測定結果を図10に示す。図10では、第二の変換スペクトルデータセットから作成した検量モデルの測定結果が実線で示され、比較データとしての採血による血糖値を実測した結果が破線で示されている。実施例2で示した手法による血糖値推定は、相関係数0.867、予測標準誤差7.85mg/dlという良好なものであった。
このように実施例2で示した手法による血糖値推定によれば、差分スペクトルを基準スペクトルに加算し、第二の変換スペクトルデータセットを作成することで、類似性の高いスペクトルデータセットを合成でき、高精度な定量分析を可能とすることができた。
(実施例3)
実施例3において、数値シミュレーションを行い作成した近赤外スペクトル形状が基準スペクトルに対してスペクトルに類似するように行う変換操作は実施例1と同じである。実施例1と異なる点は基準スペクトル測定以降に、更に測定した吸光度スペクトルである第二の実測スペクトルに対しても基準スペクトルに形状が類似するように変換操作を行う点にある。この変換操作は、実質的に実施例1と同じであり、第二の実測スペクトルと基準スペクトルとの最小二乗法を用いた第二の近似直線を算出し、各々の第二の実測スペクトルに対して第二の近似直線のy切片を減算した後、第二の近似直線の傾きを除算する変換である。この変換操作によって得られた(2回目以降の)実測スペクトルを、図1に示すように、検量モデルに代入して定量分析を行う。
効果検証のための血糖値測定実験は、実施例1と同様である。測定結果を図11に示す。図11では、第二の実測スペクトルについても同様の変換操作を行い基準スペクトルとの類似性を向上させた検量モデルの測定結果が破線で示され、比較データとしての採血による血糖値を実測した結果が実線で示されている。実施例3で示した手法による血糖値推定は、相関係数0.868、予測標準誤差7.77mg/dlという良好なものであった。
このように実施例3で示した手法による血糖値推定によれば、第二の実測スペクトルについても同様の変換操作を行い基準スペクトルとの類似性を向上させたので、より高精度な定量分析を可能とすることができた。
(実施例4)
実施例4において、数値シミュレーションから得た近赤外スペクトルを図12(a)に示す基準スペクトルに対してスペクトル形状が類似するように行う変換は、実施例1と同じ手法を用いる。実施例1と異なる点は、図12(b)及び(c)に示すように、数値シミュレーションでスペクトル特性の異なる複数のスペクトルデータセットを持ち、基準スペクトルと複数のスペクトルデータセットとの類似性を比較し、基準スペクトルに近いスペクトルデータセットに対し変換を行い、変換スペクトルデータセットを作成する点にある。
実施例4では、図12(b)及び(c)に示す二つのスペクトルデータセットA及びBを準備し、実験開始時に測定した基準スペクトルとの類似性を評価した。類似性の評価は、水の吸収ピーク波長(1450nm)とベースライン(1650nm)における吸光度差を比較することによって行った。吸光度差を比較することによる評価とは、1450nmの水の吸収ピーク波長と1650nmのベースラインにおける基準スペクトルと複数のスペクトルデータセットとの吸光度差を比較し、基準スペクトルとの吸光度差が小さいスペクトルデータセットの方が基準スペクトルに対して類似性が高いと評価することである。
基準スペクトルの吸光度差が約1.0であるのに対して、スペクトルデータセットAの平均吸光度差(256本)は約0.9、スペクトルデータセットBの平均吸光度差(256本)は約0.6であることから、類似性の高いスペクトルデータセットAを選択した。選択したスペクトルデータセットAは実施例1に用いたスペクトルデータセットと同じである。実施例4では変換データセットを直接多変量解析する手法を用いたので測定結果は実施例1と同じであった。
測定結果は、選択したシミュレーションデータセットが実施例1と同じでデータセットを選択しているので、相関係数、標準誤差とも同じである。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。
例えば、実施例4においては、複数あるスペクトルデータセットから基準スペクトルとの類似性を見出すために水の吸収ピーク波長(1450nm)とベースライン(1650nm)における吸光度差を用いたが、類似性の検証はこれに限るものではなく、スペクトル形状を比較する定性分析手法、たとえば、マハラノビスの汎距離、判別分析、クラスタ分析等を用いても良い。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
1…ハロゲンランプ
2…熱遮蔽板
3…ピンホール
4…レンズ
5A,5B…測定用光ファイバ
6…生体組織
7A,7B…リファレンス用光ファイバ
9…測定用プローブ
10…リファレンス用プローブ
11…測定側出射体
12…リファレンス側出射体
13…レンズ
14…回折格子
15…受光素子
16…A/Dコンバータ
17…演算装置
18…基準板
19…受光ファイバ
20…発光ファイバ
21…シャッタ
30…光ファイババンドル
31…先端部
32…固定部
33…駆動部
34…ねじ
35…保持部
40…皮膚面

Claims (8)

  1. 数値シミュレーションで作成したシミュレーションスペクトルからなるスペクトルデータセットを作成し、
    試料を実測して得られる実測スペクトルから定めた基準スペクトルに対する類似性を向上させるように、前記シミュレーションスペクトルに対して変換操作を行い、
    前記変換操作によって前記シミュレーションスペクトルから得られた変換スペクトルによる変換スペクトルデータセットを作成し、
    前記変換スペクトルデータセットから作成された検量モデルを用いて、目的とする成分濃度の定量を行うことを特徴とする近赤外分光分析装置。
  2. 前記変換操作は、
    前記基準スペクトルと前記スペクトルデータセットの各々のスペクトルとに対して、最小二乗法を用いた近似直線を算出し、
    各々の前記シミュレーションスペクトルに対して、前記近似直線のy切片を減算した後、前記近似直線の傾きを除算する変換を行うことを特徴とする請求項1記載の近赤外分光分析装置。
  3. 前記検量モデルは、前記変換スペクトルデータセットを多変量解析することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外分光分析装置。
  4. 前記検量モデルは、
    前記変換スペクトルデータセットを基に差分スペクトルデータセットを作成し、
    前記差分スペクトルデータセットから得られた差分スペクトルを前記基準スペクトルに加算して第二の変換スペクトルデータセットを作成し、
    前記第二の変換スペクトルデータセットを多変量解析することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外分光分析装置。
  5. 前記基準スペクトルを定めた後に更に試料を実測して得られる第二の実測スペクトルと前記基準スペクトルとの最小二乗法を用いた第二の近似直線を算出し、
    各々の前記第二の実測スペクトルに対して前記第二の近似直線のy切片を減算した後、
    前記第二の近似直線の傾きを除算する変換を行った後で、前記検量モデルを用いた定量分析を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外分光分析装置。
  6. 前記スペクトルデータセットを複数個有し、前記スペクトルデータセットと前記基準スペクトルとの類似性を評価し、
    前記評価により類似性の高いと判断された前記スペクトルデータセットに対して前記変換操作を行い、前記変換スペクトルデータセットを作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の近赤外分光分析装置。
  7. 前記類似性の評価は、1450nmの水の吸収ピーク波長と1650nmのベースラインにおける前記基準スペクトルと複数の前記スペクトルデータセットとの吸光度差を比較し、前記基準スペクトルとの吸光度差が小さい前記スペクトルデータセットが前記基準スペクトルに対して類似性が高いと評価することを特徴とする請求項6に記載の近赤外分光分析装置。
  8. 前記基準スペクトルは、測定開始時に測定したスペクトルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の近赤外分光分析装置。
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