JP2011218543A - 硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】超硬合金焼結体からなる切削工具基体表面にTiN層からなる硬質被覆層を物理蒸着で形成した表面被覆切削工具において、TiN結晶粒の粒径幅が小さい領域Iと、粒径幅がこれより大きい領域IIとから硬質被覆層を構成し、かつ、領域Iの微細粒子と領域IIの粗大粒子の結晶方位のずれが15度以下となる縦区分の面積割合を60%以上とし、乾式断続重切削加工、乾式連続高送り切削加工において、すぐれた高温強度、耐欠損性、靭性を発揮させる。
【選択図】図3
Description
装置内加熱温度:300〜400℃、
工具基体に印加する直流バイアス電圧:−50〜−100V、
カソード電極:金属Ti、
スパッタリング電力:3〜6kW、
装置内ガス流量:窒素(N2)ガス+アルゴン(Ar)ガス、
装置内ガス圧力:0.3〜1.5Pa、
の条件で、TiN層(以下、従来TiN層という)を形成することにより製造されている。
工具基体温度:350〜450 ℃、
蒸発源:金属Ti、
プラズマガン放電電力:10〜15 kW、
反応ガス流量:窒素(N2)ガス 100〜120 sccm、
放電ガス:アルゴン(Ar)ガス 50〜60 sccm、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: 0〜−20 V
という条件下で蒸着を行い、かつ、蒸着初期は、バイアス電圧を0Vにして工具基体側(領域I)のTiN層を蒸着し、蒸着後期には、バイアス電圧を−5〜−20Vに切り換えて硬質被覆層の表面側(領域II)のTiN層の蒸着を行うと、この結果形成された領域Iと領域IIからなるTiN層(以下、改質TiN層という)は、前記従来TiN層に比して、切刃に対して衝撃的かつ断続的な高負荷が作用する乾式断続重切削や、連続的な高負荷がかかる乾式連続高送り切削において、すぐれた耐摩耗性と耐欠損性を示すことを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、0.5〜2μmの平均層厚を有するTiN膜からなる硬質被覆層を物理蒸着した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層の、工具基体とTiN膜の界面から0.1μmの高さ位置にあるTiN結晶粒の粒径幅をWΙ、TiN膜の最表面から0.1μmの深さ位置にあるTiN結晶粒の粒径幅をWΙΙとしたとき、
10nm<WΙ<50nm、かつ、5<WΙΙ/WΙ<100
を満たす関係が存在し、
(b)さらに、電子線後方散乱回折装置を用いて、硬質被覆層断面のTiN結晶粒の結晶方位を解析し、測定された二次元領域を工具基体表面に対して略垂直な方向に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とTiN膜の界面からTiN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する各測定点の、
<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<100>結晶方位とTiN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下
である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
工具基体温度:350〜450 ℃、
蒸発源:金属Ti、
プラズマガン放電電力:10〜15 kW、
反応ガス流量:窒素(N2)ガス 100〜120 sccm、
放電ガス:アルゴン(Ar)ガス 50〜60 sccm、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: 0〜−20 V
という条件下で蒸着を行い、かつ、蒸着初期は、バイアス電圧を0Vにして工具基体側(領域I)のTiN層を蒸着し、蒸着後期には、バイアス電圧を−5〜−20Vに切り換えて硬質被覆層の表面側(領域II)のTiN層の蒸着を行うことによって、領域Iと領域IIからなる改質TiN層を形成するものである。
なお、従来TiN層の構成成分であるTiが高温強度を向上させ、また、Nが層の強度を向上させる作用があることはすでによく知られているが、これに加えて、この発明の改質TiN層は高速断続重切削加工条件という厳しい使用条件下でも、すぐれた耐欠損性を示す。
そして、その理由は以下に述べるように、改質TiN層の特異な結晶粒形態と強い関連性を有する。
さらに、集束イオンビーム加工装置を用いて、例えば、図3(a)および図3(b)に示す模式図のイ−イ面に示すように薄片化した試料について、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙを測定し、それらの値とWΙΙ/WΙの数値を測定したところ、WΙΙ/WΙは5〜100であることを確認した。
なお、この改質TiN層の平均層厚、領域Iと領域IIのTiN結晶粒の粒径幅、WΙ、WΙΙおよびWΙΙ/WΙの値は、特に、工具基体である超硬合金焼結体のWCの粒径、上記蒸着条件の内の蒸着時間によって影響を受けるが、WCの平均粒径が0.2〜3μm、また、蒸着時間が62〜250minであれば、0.5〜2μmの平均層厚で、かつ、WΙΙ/WΙが5〜100の範囲の改質TiN層を形成することができる。
なお、ここでいう「粒径幅」とは、「前記高さ換算あるいは深さ換算で0.1μmとなる位置に工具基体表面と平行な線を引いた場合に、ひとつの粒子内を通る線分の長さの平均値」である。
<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<100>結晶方位とTiN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することが見出された。
また、領域Iでは、結晶粒界が多数導入されていることで、改質TiN層中での亀裂進展を分散させ、耐欠損性を向上させる作用を有する。
また、領域Iと領域IIのそれぞれの中間高さにおけるTiN結晶粒の粒径幅WΙ、WΙΙの比の値WΙΙ/WΙが5未満では、領域IIの粗大TiN結晶粒の大きさが十分でなく、領域Iの微細TiN結晶粒の結合を高める効果が得られず、一方、WΙΙ/WΙが100を超えると粒径幅が大きくなり結晶粒が粗大化しすぎて、剥離を生じやすくなることから、WΙΙ/WΙの値は、5〜100と定めた。
なお、ここでは被覆インサートを中心にして説明するが、被覆インサートに限らず、被覆エンドミル、被覆ドリル等の各種の被覆工具に適用できるものである。
表2に示す条件で、まず、工具基体にバイアス電圧を印加しないで、圧力勾配型Arプラズマガンの放電電力を12kWとし、Arガスを60sccm,窒素ガスを100〜120sccm流しながら、炉内の圧力を3×10−2〜6×10−2Paに保ち、蒸発源にプラズマビームを入射し金属Tiの蒸気を発生させるとともにプラズマビームでイオン化して、工具基体表面に、表4に示される所定目標層厚の改質TiN層の領域Iを蒸着形成し、
引き続き、同じく表2に示す条件で、工具基体に−10〜−20Vのバイアス電圧を印加した状態で、前記同様に、工具基体表面に、表4に示される所定目標層厚の改質TiN層の領域IIを蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明表面被覆インサート(以下、本発明インサートという)1〜13を製造した。
なお、表2に、本発明インサート1〜13の改質TiN層の形成条件である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティングの各種条件を示す。
なお、表3には、従来インサート1〜13の従来TiN層の形成されるスパッタリング条件を示す。
さらに、集束イオンビーム加工装置を用いて、図3(a)および図3(b)に示す模式図のイ−イ面に例示されるように、基板表面に対して5度の傾きで試料を幅7μm×長さ10μm×厚さ100nmに薄片化した試料について、透過型電子顕微鏡(JEM−2010F)を用いて、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙを測定し、それらの値をWΙΙ/WΙの数値とともに表4および表5に示した。
なお、ここでいう粒径幅とは、「観察された表面内で、前記高さ換算あるいは深さ換算で0.1μmとなる位置に工具基体表面と平行な線を引いた場合に、ひとつの粒子内を通る線分の長さの平均値」である。
表4から、本発明インサート1〜13の改質TiN層は、工具基体表面と硬質被覆層界面から垂直高さ換算で0.1μmの位置での粒径幅WΙおよび、硬質被覆層表面から垂直深さ換算で0.1μmの位置の粒径幅WΙΙが、それぞれ、
10nm<WΙ<50nm、かつ、5<WΙΙ/WΙ<100
の関係を満たしていることが分かる。
一方、表5から、従来インサート1〜13の従来TiN層は、前記関係式を満たしていないことが分かる。
そして、表4から、本発明インサートの改質TiN層は、縦区分内に存在するセルにおける、前記断面研磨面の法線方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線に直交する方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線方向と<100>方向のなす平均傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下となる縦区分が全面積の60%以上を占めていることが分かる。
一方、表5から、従来インサートの従来TiN層は、同一縦区分における各平均傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下となる縦区分は、存在するものの、少ない(40%以下)ことが分かる。
被削材:JIS・SCMnH2の丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 3 mm、
送り: 0.4 mm/rev.、
切削時間: 2 分、
の条件(切削条件1という)での高マンガン鋼の乾式連続高送り切削加工試験(通常の切削速度、切り込み及び送りは、それぞれ、120m/min、1.5mm、0.15mm/rev.)、
被削材:JIS・S55Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 2 分、
の条件(切削条件2という)での炭素鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、2mm、0.2mm/rev.)、
を行い、
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表6に示した。
さらに、表4、6から、本発明インサートの改質TiN層の中でも特に性能のよいものは、縦区分内に存在するセルにおける、前記断面研磨面の法線方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線に直交する方向と<111>方向のなす平均傾斜角、前記断面研磨面の法線方向と<100>方向のなす平均傾斜角の最大値と最小値の差が5度以下となる縦区分が全面積の60%以上を占めていることが分かる。
これに対して、表5、6から、従来インサート1〜13においては、従来TiN層は、耐欠損性と靭性に劣り、乾式断続重切削条件や、乾式連続高送り切削条件では欠損等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
2: 硬質被覆層
3: 工具基体と硬質被覆層の界面
4: 硬質被覆層の最表面
5: 工具基体と硬質被覆層の界面から、基体に垂直な高さ換算で0.1μmの位置
6: 硬質被覆層の最表面から、基体に垂直な深さ換算で0.1μmの位置
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に、0.5〜2μmの平均層厚を有するTiN膜からなる硬質被覆層を物理蒸着した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層の、工具基体とTiN膜の界面から0.1μmの高さ位置にあるTiN結晶粒の粒径幅をWI、TiN膜の最表面から0.1μmの深さ位置にあるTiN結晶粒の粒径幅をWIIとしたとき、
10nm<WI<50nm、かつ、5<WII/WI<100
を満たす関係が存在し、
(b)さらに、電子線後方散乱回折装置を用いて、硬質被覆層断面のTiN結晶粒の結晶方位を解析し、測定された二次元領域を工具基体表面に対して略垂直な方向に100nm毎のピッチで縦区分に区切り、さらに、それぞれの縦区分内を工具基体とTiN膜の界面からTiN膜の成長方向に100nm毎のピッチで区切り、100nm×100nmに区分けされたそれぞれの領域(セル)に存在する各測定点の、<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<111>結晶方位とTiN膜測定断面の法線と直交する方向がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下であり、
<100>結晶方位とTiN膜測定断面の法線がなす傾斜角の平均傾斜角を計算し、同一縦区分に存在するセルのうち、測定傾斜角の最大値と最小値の差が15度以下
である100nm幅の縦区分が、測定された全面積のうちの60%以上を占有することを特徴とする表面被覆切削工具。
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