(実施形態1)
まず、本実施形態における強誘電体デバイスについて図4〜図6を参照しながら説明し、その後で、製造方法について図1〜図3を参照しながら説明する。
強誘電体デバイスは、第1の基板20と、第1の基板20の一表面側に形成された下部電極24aと、下部電極24aにおける第1の基板20側とは反対側に形成された所定パターンの強誘電体膜24bと、強誘電体膜24bにおける下部電極24a側とは反対側に形成された上部電極24cとを備える。ここで、強誘電体膜24bは、第1の基板20とは格子定数差のある強誘電体材料により形成されている。
本実施形態における強誘電体デバイスは、車の振動や人の動きによる振動などの任意の振動に起因した振動エネルギを電気エネルギに変換する発電デバイスであり、上述の強誘電体膜24bが圧電膜を構成している。
第1の基板20は、シリコン基板(第1のシリコン基板)を用いて形成されており、フレーム部21と、フレーム部21の内側に配置されフレーム部21に揺動自在に支持されたカンチレバー部22とを有している。
発電デバイスは、第1の基板20のカンチレバー部22に、上述の下部電極24aと強誘電体膜24bと上部電極24cとで構成される圧電変換部(圧電変換素子)からなる発電部24が形成されている。つまり、発電部24は、カンチレバー部22の振動に応じて交流電圧を発生する。第1の基板20におけるカンチレバー部22の先端部には、カンチレバー部22の変位量を大きくするための錘部23が一体に設けられている。
また、発電デバイスは、第1の基板20の上記一表面側(図6の上面側)においてフレーム部21に固着された第1のカバー基板30を備えている。また、発電デバイスは、第1の基板20の他表面側(図6の下面側)においてフレーム部21に固着された第2のカバー基板10を備えている。
第1の基板20の上記一表面側には、下部電極24aおよび上部電極24cそれぞれに金属配線26a,26cを介して電気的に接続されたパッド27a,27bが、フレーム部21に対応する部位で形成されている。ここにおいて、発電部24は、下部電極24aと強誘電体膜24bと上部電極24cとの平面サイズを同じに設定してある。
また、第1の基板20の上記一表面側には、上部電極24cに電気的に接続される金属配線26cと下部電極24aとの短絡防止用の絶縁層25が、発電部24におけるフレーム部21側の端部の一部を覆う形で形成されている。なお、絶縁層25は、シリコン酸化膜により構成してあるが、シリコン酸化膜に限らず、シリコン窒化膜により構成してもよい。また、第1の基板20の上記一表面側および上記他表面側には、それぞれ、シリコン酸化膜からなる絶縁膜29a,29bが形成されており、第1の基板20と発電部24との間が絶縁膜29aにより電気的に絶縁されている。
また、第1のカバー基板30は、シリコン基板(第2のシリコン基板)を用いて形成されている。そして、第1のカバー基板30は、第1の基板20側の一表面に、カンチレバー部22と錘部23とからなる可動部の変位空間を第1の基板20との間に形成するための凹所30bが形成されている。
また、第1のカバー基板30の他表面側には、発電部24で発生した交流電圧を外部へ供給するための出力用電極35,35が形成されている。この第1のカバー基板30は、各出力用電極35,35と、第1のカバー基板30の上記一表面側に形成された連絡用電極34,34とが、第1のカバー基板30の厚み方向に貫設された貫通孔配線33,33を介して電気的に接続されている。ここで、第1のカバー基板30は、各連絡用電極34,34が、第1の基板20のパッド27a,27cと接合されて電気的に接続されている。なお、本実施形態では、各出力用電極35,35および各連絡用電極34,34をTi膜とAu膜との積層膜により構成してあるが、これらの材料は特に限定するものではない。また、各貫通孔配線33,33の材料としてはCuを採用しているが、これに限らず、例えば、Ni、Alなどを採用してもよい。
第1のカバー基板30は、2つの出力用電極35,35同士の短絡を防止するためのシリコン酸化膜からなる絶縁膜32が、当該第1のカバー基板30の上記一表面側および上記他表面側と、貫通孔配線33,33が内側に形成された貫通孔31の内周面とに跨って形成されている。なお、第1のカバー基板30としてガラス基板のような絶縁性基板を用いる場合には、このような絶縁膜32は設ける必要はない。
また、第2のカバー基板10は、シリコン基板(第3のシリコン基板)を用いて形成されている。第2のカバー基板10における第1の基板20側の一表面には、カンチレバー部22と錘部23とからなる可動部の変位空間を第1の基板20との間に形成するための凹所10bが形成されている。なお、第2のカバー基板10としても、ガラス基板のような絶縁性基板を用いてもよい。
また、第1の基板20の上記一表面側には、第1のカバー基板30と接合するための第1の接合用金属層28が形成されており、第1のカバー基板30には、第1の接合用金属層28に接合される第2の接合用金属層(図示せず)が形成されている。ここで、第1の接合用金属層28の材料としては、パッド27cと同じ材料を採用しており、第1の接合用金属層28は、第1の基板20の上記一表面側においてパッド27と同じ厚さに形成されている。
第1の基板20とカバー基板10,30とは、常温接合法により接合してあるが、常温接合法に限らず、例えば、エポキシ樹脂などを用いた樹脂接合法や、陽極接合法などにより接合してもよい。樹脂接合法では、常温硬化型の樹脂接着剤(例えば、2液常温硬化型のエポキシ樹脂系接着剤、1液常温硬化型のエポキシ樹脂系接着剤)を用いれば、熱硬化型の樹脂接着剤(例えば、熱硬化型のエポキシ樹脂系接着剤など)を用いる場合に比べて、接合温度の低温化を図れる。
以上説明した発電デバイスでは、発電部24が、下部電極24aと圧電膜である強誘電体膜24bと上部電極24cとで構成される圧電変換部により構成されているから、カンチレバー部22の振動によって発電部24の強誘電体膜24bが応力を受け上部電極24cと下部電極24aとに電荷の偏りが発生し、発電部24において交流電圧が発生する。
ところで、本実施形態における発電デバイスは、強誘電体膜24bの強誘電体材料として、鉛系圧電材料の一種であるPZTを採用しており、第1の基板20として、上記一表面が(100)面のシリコン基板(第1のシリコン基板)を用いているが、鉛系圧電材料は、PZTに限らず、例えば、PZT−PMN(:Pb(Mn,Nb)O3)やその他の不純物を添加したPZTなどを採用してもよい。いずれにしても、強誘電体膜24bの強誘電体材料は、第1の基板20とは格子定数差のある強誘電体材料(PZT、PZT−PMN、不純物を添加したPZTなどの鉛系の酸化物強誘電体)である。また、第1の基板20として用いる第1のシリコン基板は、単結晶のシリコン基板(以下、単結晶シリコン基板と称する)に限らず、多結晶のシリコン基板でもよい。
また、本実施形態では、下部電極24aの材料としてAu、上部電極24cの材料としてPtを採用しているが、これらの材料は特に限定するものではなく、下部電極24aの材料としては、例えば、Alを採用してもよく、上部電極24cの材料としては、例えば、Mo,Al,Auなどを採用してもよい。
なお、本実施形態の発電デバイスでは、下部電極24aの厚みを500nm、強誘電体膜24bの厚みを600nm、上部電極24cの厚みを100nmに設定してあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。また、強誘電体膜24bの比誘電率をε、発電指数をPとすると、P∝e31 2/εの関係が成り立ち、発電指数Pが大きいほど発電効率が大きくなる。
以下、本実施形態の強誘電体デバイスである発電デバイスの製造方法について図1を参照しながら説明する。
まず、第1の基板20に比べて強誘電体膜24bとの格子整合性の良い単結晶MgO基板からなる第2の基板40の一表面側に、強誘電体膜24bとの格子整合性の良い金属材料(例えば、Ptなど)からなるシード層124cを形成するシード層形成工程を行い、その後、第2の基板40の上記一表面側に強誘電体材料(例えば、PZTなど)からなる強誘電体膜24bのもとになる強誘電体層124bを形成する強誘電体層形成工程を行い、その後、強誘電体層124b上に下部電極24aを形成する下部電極形成工程を行うことによって、図1(a)に示す構造を得る。ここで、第2の基板40としては、上記一表面が(001)面の単結晶MgO基板を用いているが、これに限らず、上記一表面が(001)面の単結晶SrTiO3基板や上記一表面が(0001)面のサファイア基板などを採用してもよい。また、第2の基板40の厚さを300μmとしてあるが、この厚さは特に限定するものではない。また、シード層形成工程では、シード層124cをスパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、蒸着法などにより形成すればよい。また、強誘電体層形成工程では、強誘電体層124bをRFマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により形成している。強誘電体層124bの成膜方法は、スパッタ法に限らず、例えば、CVD法やゾルゲル法などでもよい。また、下部電極形成工程では、例えば、スパッタ法、蒸着法などを利用してAu層(第1のAu層)からなる下部電極24aを形成すればよい。
上述の下部電極形成工程の後、下部電極24aと第1の基板20とを接合層51を介して接合する接合工程を行ってから、図1(b)に示すように、レーザ光LBを第2の基板40の他表面側から照射し強誘電体層124bおよびシード層124cを第1の基板20の上記一表面側に転写する転写工程を行う。
接合工程では、第2の基板40と第1の基板20とを対向配置した後、第2の基板40の上記一表面側の下部電極24aと第1の基板20とを、第1の基板20の上記一表面側に形成されている接合層51を介して接合する。ここで、接合層51は、絶縁膜29a上のTi層と、このTi層上のAu層(第2のAu層)とで構成してある。このTi層は、接合層51を第2のAu層のみにより構成する場合に比べて、接合層51と絶縁膜29aとの密着性を改善するために設けてある。なお、本実施形態では、絶縁膜29a,29bを熱酸化法により形成しており、Ti層の膜厚を15〜50nm、第2のAu層の膜厚を500nmに設定してあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。また、密着性を改善するための密着層の材料はTiに限らず、例えば、Cr、Nb、Zr、TiN、TaNなどでもよい。また、第2のAu層は、Au薄膜に限らず、多数のAu微粒子を堆積させたAu微粒子層でもよい。
上述の接合工程では、第1のAu層からなる下部電極24aと第2のAu層が最表面側に形成された接合層51とを対向配置した後、下部電極24aと接合層51とを常温接合により接合することができる。すなわち、この接合工程を行うことにより、下部電極24aと第1の基板20とが、接合層51を介して接合される。ここでは、下部電極24aと接合層51とを常温接合する際の材料の組み合わせがAu−Auの組み合わせとなっている。この接合工程では、接合前に互いの接合表面(下部電極24aおよび接合層51それぞれの表面)へアルゴンのプラズマ若しくはイオンビーム若しくは原子ビームを真空中で照射して各接合表面の清浄化・活性化を行ってから、接合表面同士を接触させ、常温下で適宜の荷重を印加して直接接合する。この接合工程に関して、Au−Auの組み合わせでの常温接合のプロセス条件の一例を挙げれば、例えば、アルゴンのイオンビームを照射する際の真空度を1×10−5Pa以下、加速電圧を100V、照射時間を160秒とし、接合時の荷重を20kN、接合時間を300秒とすればよい。
下部電極24aと接合層51との材料の組み合わせは、Au−Auの組み合わせに限らず、例えば、Au−AuSn、Al−Al、Cu−Cuなどの組み合わせでも常温接合することができる。また、下部電極24aと接合層51との接合は、常温下での直接接合である常温接合に限らず、例えば、100℃以下の温度で加熱を行いながら適宜の荷重を印加して接合する直接接合でもよい。また、下部電極24aと接合層51とが接合されて電気的に接続されるから、結果的に、下部電極24aと接合層51とで、下部電極とみなすこともできる。
また、接合工程において、下部電極24aと第1の基板20とを接合するための接合層51の材料は、下部電極24aとの直接接合が可能な金属に限るものではない。例えば、接合層51の材料として、常温硬化型の樹脂接着剤(例えば、2液常温硬化型のエポキシ樹脂系接着剤、1液常温硬化型のエポキシ樹脂系接着剤)を採用し、下部電極24aと第1の基板20とを接合層51を介して常温で接合するようにしてもよく、この場合も、常温接合と同様に、接合温度の低温化を図れる。また、接合層51の樹脂接着剤として、常温硬化型のものに限らず、例えば、硬化温度が150℃以下であれば熱硬化型の樹脂接着剤(例えば、熱硬化型のエポキシ樹脂系接着剤など)を用いてもよい。
上述の転写工程では、強誘電体層124cのうち強誘電体膜24bの所定パターンに対応する部分のみを転写するように設定した光強度分布PI(図1(b)中に太線で図示してあるが、図1(b)の上側を光強度の高い側として図示してある)のレーザ光LBを第2の基板40の上記他表面側から照射することにより、それぞれ強誘電体層124cの一部からなる強誘電体膜24bを転写する。この転写工程では、強誘電体膜24bとシード層124cの一部からなる上部電極24cとの積層膜を転写する。ここにおいて、転写工程では、レーザ光LBのレーザ光源としては、例えば、波長が10μmのCO2レーザを用いればよいが、レーザ光源およびその波長は特に限定するものではない。また、転写工程では、回折格子60を利用して上述の光強度分布PIを発生させるようにしている。しかして、転写工程では、1つの強誘電体層124bから複数の強誘電体膜24bを高精度で一括して転写することができる。
ところで、レーザ光LBの波長をλ〔μm〕、回折格子60の格子間隔をΛ〔μm〕、レーザ光LBの0次の回折光の回折角をθ1(°)とし、(λ/Λ)<1とすると、
θ1=sin−1θ1(λ/Λ)
となる。この式から分かるように、格子間隔Λを調整することにより、上述の光強度分布PIを調整することができる。したがって、格子間隔を調整することにより、隣り合う上記所定パターン間の間隔(隣り合う強誘電体膜24b間の間隔)を調整することが可能となる。なお、上述の光強度分布PIを発生させる手段は、回折格子60に限らず、例えば、ビームスプリッタと光透過率を制御可能な液晶シャッタとを組み合わせたものでもよい。
上述の転写工程の後、第1の基板20と第2の基板40とを引き離すことにより、第2の基板40を剥離する剥離工程を行うことによって、図1(c)に示す構造を得る。
この剥離工程の後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して下部電極24aをパターニングする下部電極パターニング工程を行うことによって、図1(d)に示す構造を得る。なお、本実施形態では、下部電極パターニング工程を行うことにより、パターニング前の下部電極24aの一部からなる金属配線26aおよびパッド27aを形成しているが、これに限らず、下部電極パターニング工程の間に金属配線26aおよびパッド27aを形成する配線形成工程を別途に設けてもよいし、金属配線26aを形成する金属配線形成工程とパッド27aを形成するパッド形成工程とを別々に設けてもよい。
下部電極24a、金属配線26aおよびパッド27aを形成した後、第1の基板20の上記一表面側に絶縁層25を形成する絶縁層形成工程を行い、続いて、金属配線26cおよびパッド27cをスパッタ法やCVD法などの薄膜形成技術、フォトリソグラフィ技術、エッチング技術を利用して形成する配線形成工程を行う。その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを利用して第1の基板20を加工してカンチレバー部22および錘部23を形成する基板加工工程を行うことによって、図1(e)に示す構造を得る。上述の絶縁層形成工程では、第1の基板20の上記一表面側の全面に絶縁層25をCVD法などにより成膜してからフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してパターニングしているが、リフトオフ法を利用して絶縁層25を形成するようにしてもよい。
上述の基板加工工程の後は、第1の基板20に各カバー基板10,30を接合するカバー接合工程を行うことによって、図1(f)に示す構造の発電デバイスを得る。ここにおいて、カバー接合工程が終了するまでをウェハレベルで行ってから、ダイシング工程を行うことで個々の発電デバイスに分割するようにしている。なお、各カバー基板10,30は、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程、薄膜形成工程、めっき工程などの周知の工程を適宜適用して形成すればよい。
以上説明した本実施形態における発電デバイス(強誘電体デバイス)は、第1の基板20のカンチレバー部22に形成されカンチレバー部22の振動に応じて交流電圧を発生する圧電変換部からなる発電部24を備え、発電部24が、カンチレバー部22の一表面側に形成された下部電極24aと、下部電極24aにおけるカンチレバー部22側とは反対側に形成され第1の基板20とは格子定数差のある強誘電体材料からなる強誘電体膜24bと、強誘電体膜24bにおける下部電極24a側とは反対側に形成された上部電極24cとを有している。そして、その製造方法において、第1の基板20に比べて強誘電体膜24bとの格子整合性の良い第2の基板40の上記一表面側に強誘電体膜24bとの格子整合性の良い金属材料からなるシード層124cを形成するシード層形成工程と、シード層形成工程の後で第2の基板40の上記一表面側に強誘電体膜24bのもとになる強誘電体層124bを形成する強誘電体層形成工程と、強誘電体層形成工程の後で強誘電体層124c上に下部電極24aを形成する下部電極形成工程と、下部電極形成工程の後で下部電極24aと第1の基板40とを接合層51を介して接合する接合工程と、接合工程の後でレーザ光LBを第2の基板20の上記他表面側から照射し強誘電体層124bおよびシード層124cを第1の基板20の上記一表面側に転写する転写工程とを備え、転写工程では、強誘電体層124cのうち所定パターンの強誘電体膜24bに対応する部分のみを転写するように設定した光強度分布のレーザ光LBを第2の基板40の他表面側から照射することにより、それぞれ強誘電体層124bの一部からなる強誘電体膜124bを転写する。
しかして、本実施形態の発電デバイスの製造方法では、第1の基板20の基板材料によらず強誘電体膜24bの結晶性および性能(ここでは、圧電定数e31)の向上を図れるとともに製造工程の簡略化を図れ、且つ、製造歩留まりの向上による低コスト化を図れる。要するに、第1の基板20の上記一表面側に薄膜形成技術により強誘電体膜24bを成膜する場合に比べて強誘電体膜24bの圧電定数e31を大きくできるとともに比誘電率を小さくでき、且つ、第1の基板20として第2の基板40に比べて機械的強度の高いものを用いることにより信頼性の高い発電デバイスを提供することができ、しかも、転写工程において、強誘電体層124bのうち所定パターンの強誘電体膜24bに対応する部分のみを選択的に転写できるので、転写工程の後で、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して強誘電体膜24bをパターニングする工程を設ける必要がなくなるから、製造工程の簡略化を図れ、低コスト化を図れる。また、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して強誘電体膜24bをパターニングする場合に比べて、強誘電体膜24bの側面の垂直性を高めることが可能となる。しかも、下部電極24aと第1の基板40とを接合層51を介して接合する接合工程の後で、転写工程を行うので、所定パターンの強誘電体膜24bを第1の基板20の上記一表面側の所望の転写位置に位置精度良く転写することが可能となり、製造歩留まりの向上による低コスト化を図れる。また、転写工程後の剥離工程で、第2の基板40を剥離するようにしているので、単結晶MgO基板などの高価な第2の基板40を再利用することが可能となり、低コスト化を図ることが可能となる。
また、図1(b)に示した例では、転写工程で用いる回折格子60を第2の基板40の上記他表面から法線方向に離して配置してあるが、転写工程において、図3に示すように第2の基板40の上記他表面上に回折格子60が存在するようにすれば、第1の基板20の上記一表面側へ強誘電体膜24bを、より高い位置精度で転写することが可能となる。
また、本実施形態の発電デバイスでは、強誘電体膜24bをAlN薄膜により構成する場合に比べて圧電定数e31を大きくでき、且つ、強誘電体膜24bを第1の基板20の上記一表面側に成膜した多結晶のPZT薄膜により構成する場合に比べて、より圧電定数e31を大きくすることが可能となり、発電効率の向上による高出力化を図れ、しかも、強誘電体膜24bを上述の多結晶のPZT薄膜により構成する場合に比べて比誘電率を小さくできて寄生容量の低減による発電効率の向上を図れる。
また、本実施形態の発電デバイスの製造方法によれば、カンチレバー部22の材料の選択肢が多くなって、発電デバイスの設計自由度が多くなるとともに、所望の振動特性の発電デバイスの製造が容易になり、多様な振動特性の発電デバイスの実現が可能となる。
また、本実施形態の発電デバイスの製造方法では、接合工程において、接合層51としてAu層を利用しているので、下部電極24aをAu層により構成しておくことで下部電極24aのAu層と接合層51のAu層とを(つまり、Au層同士を)、常温接合法などにより低温で直接接合することができるので、プロセス温度の低温化を図れ、接合工程において強誘電体膜24bの特性が劣化するのを防止することができる。また、接合工程において接合層51としてエポキシ樹脂などからなる樹脂層を利用してもよく、この場合も共晶接合法などに比べて低温で接合することができる。なお、Au層同士を直接接合する場合には、常温接合法に限らず、適宜の加熱(例えば、100℃)と荷重を付加する直接接合でもよい。
また、本実施形態の発電デバイスの製造方法では、強誘電体膜24bの強誘電体材料が鉛系圧電材料であり、第2の基板40として、単結晶MgO基板もしくは単結晶SrTiO3基板もしくはサファイア基板を用いているので、結晶性の良好な圧電膜である強誘電体膜24bを形成することができ、また、第1の基板20として、単結晶シリコン基板を用いているので、信頼性の向上および低コスト化を図れる。
ここで、第1の基板20としては、例えば、図7に示すように、単結晶シリコン基板からなる支持基板120a上のシリコン酸化膜からなる絶縁層(埋込酸化膜)120b上に単結晶のシリコン層(活性層)120cを有するSOI基板120を用いてもよく、この場合は、製造時において、SOI基板120の絶縁層120bをカンチレバー部22の形成時のエッチングストッパ層として利用することでカンチレバー部22の厚さの高精度化を図れるとともに、信頼性の向上および低コスト化を図れる。
また、第1の基板20としては、金属基板(例えば、SUS基板、Ti基板など)、ガラス基板、ポリマー基板の群から選択される1つを用いてもよく、これらのいずれか1つを用いた場合にも、信頼性の向上を図れるが、機械的強度の観点からは、金属基板やガラス基板を用いることが好ましい。なお、ポリマー基板のポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどを採用すればよい。
ところで、本実施形態の発電デバイスは、カンチレバー部22の先端部に錘部23が設けられているので、錘部23を有していない場合に比べて、発電量を大きくすることができるが、剥離工程の後で、第1の基板20におけるカンチレバー部22の先端部に錘部23を接着剤などにより接着する接着工程を行うようにしてもよく、この場合は、剥離工程の後でカンチレバー部22の先端部に錘部23を接着するので、錘部23の形状および材料それぞれの設計自由度が高くなり、より発電量の大きな発電デバイスを製造することが可能となるとともに、カンチレバー部22および錘部23それぞれを自由につくることができて製造プロセスの自由度が高くなる。
(実施形態2)
まず、本実施形態における強誘電体デバイスについて図8(f)を参照しながら説明し、その後で、製造方法について図8を参照しながら説明する。
本実施形態の強誘電体デバイスは、図8(f)に示すように、第1の基板20の一表面側に形成された下部電極24aと、下部電極24aにおける第1の基板20側とは反対側に形成された強誘電体膜24bと、強誘電体膜24bにおける下部電極24a側とは反対側に形成された上部電極24cとを備える。ここで、強誘電体膜24bは、第1の基板20とは格子定数差のある強誘電体材料により形成されている。なお、強誘電体デバイスとして実施形態1と同様の構成要素には、同一の符号を付してある。
本実施形態における強誘電体デバイスは、焦電デバイスであり、強誘電体膜24bが焦電体膜である。
ところで、本実施形態における焦電デバイスは、強誘電体膜24bの強誘電体材料(焦電材料)として、鉛系の酸化物強誘電体の一種であるPZTを採用しており、第1の基板20として、上記一表面が(100)面の単結晶のシリコン基板を用いているが、鉛系の酸化物強誘電体は、PZTに限らず、例えば、PZT−PLT、PLTやPZT−PMNなどやその他の不純物を添加したPZT系強誘電体などを採用してもよい。いずれにしても、強誘電体膜24bの焦電材料は、第1の基板20とは格子定数差のある強誘電体材料(PZT、PZT−PMN、不純物を添加したPZTなどの鉛系の酸化物強誘電体)である。また、第1の基板20として用いるシリコン基板は、単結晶のシリコン基板(以下、単結晶シリコン基板と称する)に限らず、多結晶のシリコン基板でもよい。
また、本実施形態では、下部電極24aの材料として、Auを採用し、上部電極24cの材料として、Ni−Cr、Ni、金黒などの導電性を有する赤外線吸収材料を採用しており、下部電極24aと焦電体薄膜24bと上部電極24cとでセンシングエレメント230を構成しているが、これらの材料は特に限定するものではなく、下部電極24aの材料としては、例えば、Al、Cuなどを採用してもよい。ここで、上部電極224cの材料として、上述の導電性を有する赤外線吸収材料を採用した場合、上部電極24が赤外線吸収膜を兼ねることとなる。
また、第1の基板20としては、単結晶シリコン基板に限らず、金属基板(例えば、SUS基板、Ti基板など)、ガラス基板、ポリマー基板の群から選択される1つを用いてもよい。なお、ポリマー基板のポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドなどを採用すればよい。
上述の焦電デバイスを焦電型赤外線センサとして用いる場合には、例えば、図9(a)〜(d)に示すように、第1の基板20の他表面側に、センシングエレメント230を上記一表面側に備えた第1の基板20を支持する支持基板210を接合してもよい。支持基板210には、熱絶縁用の空隙211を形成して、センシングエレメント230と支持基板210とを熱絶縁することが好ましい。ここで、支持基板210としては、例えば、単結晶シリコン基板、ガラス基板、ポリマー基板(例えば、PET基板など)の群から選択される1つを用いればよい。支持基板210を設けずに、第1の基板20に、熱絶縁用の空隙211を形成してもよく、第1の基板20に空隙211を設ける場合には、第1の基板20の上記一表面側からのエッチングにより形成してもよいし、第1の基板20の上記他表面側からのエッチングにより形成してもよい。
上述の図9(a),(b)に示した構成の焦電型赤外線センサは、センシングエレメント230を1つだけ備えている。また、図9(c),(d)に示した構成の焦電型赤外線センサは、複数のセンシングエレメント230が2次元アレイ状に配列された赤外線アレイセンサ(赤外線イメージセンサ)であり、各センシングエレメント230それぞれが画素を構成している。
なお、本実施形態の焦電デバイスでは、下部電極24aの厚みを100nm、強誘電体膜24bの厚みを1μm〜3μm、上部電極24cの厚みを50nmに設定してあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。
本実施形態の焦電デバイスは、強誘電体膜24bの焦電係数をγ〔C/(cm2・K)〕、誘電率をε、焦電デバイスの性能指数をFγ〔C/(cm2・J)〕とすると、Fγ∝γ/εの関係が成り立ち、強誘電体膜24bの焦電係数γが大きいほど、焦電デバイスの性能指数Fγが大きくなる。
以下、本実施形態の強誘電体デバイスである焦電デバイスの製造方法について図8を参照しながら説明するが、実施形態1で説明した強誘電体デバイスの製造方法と同様の工程については説明を適宜省略する。
まず、第1の基板20に比べて強誘電体膜24bとの格子整合性の良い単結晶MgO基板からなる第2の基板40の一表面側に、強誘電体膜24bとの格子整合性の良い金属材料(例えば、Ptなど)からなるシード層124cを形成するシード層形成工程を行い、その後、第2の基板40の上記一表面側に強誘電体材料(例えば、PZTなど)からなる強誘電体膜24bのもとになる強誘電体層124bを形成する強誘電体層形成工程を行い、その後、強誘電体層124b上に下部電極24aを形成する下部電極形成工程を行うことによって、図8(a)に示す構造を得る。ここにおいて、第2の基板40としては、上記一表面が(001)面の単結晶MgO基板を用いているが、これに限らず、上記一表面が(001)面の単結晶SrTiO3基板や上記一表面が(0001)面のサファイア基板などを採用してもよい。
上述の下部電極形成工程の後、下部電極24aと第1の基板20とを接合層51を介して接合する接合工程を行ってから、図8(b)に示すように、レーザ光LBを第2の基板40の他表面側から照射し強誘電体層124bおよびシード層124cを第1の基板20の上記一表面側に転写する転写工程を行う。この接合工程および転写工程については実施形態1と同様なので説明を省略する。
上述の転写工程の後、第1の基板20と第2の基板40とを引き離すことにより、第2の基板40を剥離する剥離工程を行うことによって、図8(c)に示す構造を得る。
この剥離工程の後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して下部電極24aをパターニングする下部電極パターニング工程を行うことによって、図8(d)に示す構造を得る。
下部電極パターニング工程の後、シード層124cをイオンビームエッチングなどにより除去するシード層除去工程を行うことによって、図8(e)に示す構造を得る。なお、シード層124cを除去するのは、Pt膜が赤外線を反射する性質を有しているからである。
上述のシード層除去工程の後、Ni−Cr、Ni、金黒などからなる上部電極24cをスパッタ法、蒸着法、CVD法などにより形成することによって、図8(f)に示す構造の焦電デバイスを得る。この図8(f)の構造では、上部電極24cが赤外線吸収膜としての機能も有する。
図8(f)の構造の焦電デバイスを得た後、当該焦電デバイスを、熱絶縁(断熱)のための空隙211を設けた支持基板210(図9(a)〜(d)参照)に貼り付けて適宜のパターニングを行うことにより、焦電型赤外線センサを得る。あるいは、図8(f)の焦電デバイスを得た後で、第1の基板20を上記一表面側もしくは上記他表面側からエッチングして熱絶縁(断熱)のための空隙を形成してもよい。
以上説明した本実施形態の強誘電体デバイス(焦電デバイス)の製造方法では、第1の基板20の基板材料によらず強誘電体膜24bの結晶性および性能(ここでは、焦電係数γ)の向上を図れるとともに製造工程の簡略化を図れ、且つ、製造歩留まりの向上による低コスト化を図れる。要するに、第1の基板20の上記一表面側に薄膜形成技術により強誘電体膜24bを成膜する場合に比べて強誘電体膜24bの焦電係数γを大きくでき、且つ、第1の基板20として第2の基板40に比べて機械的強度の高いものを用いることにより信頼性の高い発電デバイスを提供することができ、しかも、転写工程において、強誘電体層124bのうち所定パターンの強誘電体膜24bに対応する部分のみを選択的に転写できるので、転写工程の後で、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して強誘電体膜24bをパターニングする工程を設ける必要がなくなるから、製造工程の簡略化を図れ、低コスト化を図れる。また、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して強誘電体膜24bをパターニングする場合に比べて、強誘電体膜24bの側面の垂直性を高めることが可能となる。しかも、下部電極24aと第1の基板40とを接合層51を介して接合する接合工程の後で、転写工程を行うので、所定パターンの強誘電体膜24bを第1の基板20の上記一表面側の所望の転写位置に位置精度良く転写することが可能となり、製造歩留まりの向上による低コスト化を図れる。また、転写工程後の剥離工程で、第2の基板40を剥離するようにしているので、単結晶MgO基板などの高価な第2の基板40を再利用することが可能となり、低コスト化を図ることが可能となる。
また、本実施形態の強誘電体デバイスの製造方法においても、接合工程のプロセス温度の低温化を図れ、接合工程において強誘電体膜24bの物性が変化する(強誘電体膜24bの特性が劣化する)のを防止することができる。ここにおいて、接合工程のプロセス温度は、常温(室温)に限らず、例えば、強誘電体膜24bのキュリー温度(PZTでは、350℃程度)の半分以下の温度であれば強誘電体膜24bの物性が変化するのを確実に防止することができるので、接合工程は、常温接合に限らず、150℃以下での加熱を行った状態で適宜の荷重を印加して接合する直接接合でもよい。
ここで、強誘電体膜24bの焦電材料が鉛系の酸化物強誘電体の場合には、第2の基板40として、単結晶MgO基板もしくは単結晶SrTiO3基板もしくはサファイア基板を用いることにより、結晶性の良好な強誘電体膜24bを形成することができ、また、第1の基板20として、第2の基板40に比べて安価なシリコン基板(単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板)、SOI基板、ガラス基板、金属基板、ポリマー基板などを用いることにより、低コスト化を図れる。
なお、上記各実施形態では、第2の基板40が転写元基板を構成し、第1の基板20が転写先基板を構成している。また、転写工程により強誘電体膜24bを柱状にパターニングして、剥離工程の後に強誘電体膜24bの側面に強誘電体膜24bを挟む一対の電極を設けるようにすれば、当該一対の電極間に電圧を印加することにより柱状の強誘電体膜24bを変形させて光の進行方向を変えることが可能なミラーや、光スイッチのような光学素子として用いることも可能となる。この場合、下部電極24aと上部電極24cとをポーリング用の電極として利用することができる。