本発明の実施形態を説明する前に、本発明を完成させるに至った経緯を示す。
まず、アルカリ乾電池を過放電させるとアルカリ電解液が漏れる理由を示す。
例えば容量が相異なるアルカリ乾電池を4直列に接続して回路を構成した場合を考える。このとき、容量の小さなアルカリ乾電池では、容量の大きなアルカリ乾電池よりも先に放電が終了する。容量の小さなアルカリ乾電池において放電が終了した後もさらに放電を続けると(過放電)、容量の小さなアルカリ乾電池には、そのアルカリ乾電池に直列に接続された他のアルカリ乾電池の電圧が強制的に加わる。その結果、容量の小さなアルカリ乾電池では、転極(正極と負極とが逆転すること)が発生して、電圧が負の値(例えば−2V)となる。その後、容量の大きな電池の放電が終了すると、転極していた容量の小さな電池の電圧は0V近傍にまで復帰する。実際、本願発明者らは、放電履歴が互いに異なるアルカリ乾電池を直列に接続して放電したところ、容量が最も小さなアルカリ乾電池が先に転極すること、及び、放電率が高くなるほど転極状態が長時間化することを確認している。
ところで、負極集電体には真鍮製の集電体を用いる場合が多いが、この場合、電圧が−2V程度となるまでの転極が発生すると真鍮内の銅がイオンとなって負極集電体から溶出し、負極集電体の近傍に存在する亜鉛粒子の表面に付着する。ここで、水素過電圧は、銅の方が亜鉛よりも低い。従って、転極したアルカリ乾電池の電圧が0V近傍にまで復帰すると、負極集電体から溶け出した銅イオンが亜鉛の表面に金属の銅として析出するので、負極での水素ガスの発生速度の加速を引き起こす。つまり、アルカリ乾電池を過放電させると、銅が負極集電体から溶出して亜鉛に析出した結果、水素ガスの発生量の増加を招来する。アルカリ乾電池内において水素ガスが発生すると、アルカリ乾電池の内圧が上昇するので、安全弁が開いて水素ガスをアルカリ乾電池の外へ放出する。このとき、開放された安全弁からは、水素ガスだけでなくアルカリ電解液も放出される。
以上のメカニズムをふまえて、本願発明者らは、アルカリ乾電池が転極状態にある時間が短くなれば、転極時に溶出する金属イオンの量が減少するので、転極から復帰したときに発生する水素ガスの量を少なく抑えることができ、その結果、液漏れの確率を低くできると考えた。本願発明者らは、転極時における負極集電体からの金属の溶出を考察するために、4つのアルカリ乾電池を直列に接続して回路を構成して放電を行った。そして、何れのアルカリ乾電池においても放電が終了したところで上記放電を停止し、各アルカリ乾電池から負極集電体を取り出して負極集電体の形状を調べた。なお、以下では、便宜上、放電が終了した順に「第1の電池」、「第2の電池」、「第3の電池」及び「第4の電池」と記す。
図1〜図4は、それぞれ、第1〜第4の電池から取り出された負極集電体の写真である。図1(a)、図2(a)、図3(a)及び図4(a)はそれぞれ負極集電体の全体を写した写真であり、図1(b)、図2(b)、図3(b)及び図4(b)はそれぞれ図1(a)、図2(a)、図3(a)及び図4(a)に示すIB領域、IIB領域、IIIB領域及びIVB領域の拡大写真である。
第1の電池から取り出された負極集電体を観察すると、負極集電体が図1(a)及び(b)の矢印の部分において括れていることが目視できた。このことから、アルカリ乾電池が転極したときには負極集電体は図1(a)及び(b)の矢印の部分から優先的に溶出すると考えられる。一方、第2及び第3の電池から取り出された負極集電体を観察すると、負極集電体の括れは目視では確認できなかった。これらのことから、アルカリ乾電池が転極状態にある時間が長くなるにつれて、負極集電体の括れが顕著となると考えられる。なお、第4の電池は過放電されていないため、第4の電池から取り出された負極集電体は電池への挿入前に比べて殆ど変形していなかった。
本願発明者らは、図1(a)及び(b)に示す矢印の部分が負極の開口側端面近傍であることに着目して、上記結果に対して次のように考察した。アルカリ乾電池の負極は、一般に、負極活物質等とゲル状の電解液とが混合されたものであり、また、水酸化カリウム水溶液等の電解液を含んでいる。そのため、負極の開口側端面近傍には、液層が存在すると考えられる。よって、負極の開口側端面近傍では、抵抗が低くなるので、負極集電体からの金属の溶出反応が起こり易くなる。
なお、液層は、負極の封止側端面近傍にも存在すると考えられる。しかし、アルカリ乾電池では、一般に、負極集電体は、負極の開口側端面には接触しているが、負極の封止側端面には接触し難い。そのため、負極集電体からの金属溶出が負極の開口側端面近傍よりも負極の封止側端面近傍において優先的に起こるということは考えにくい。
上記考察をふまえて検討した結果、負極集電体の構成を工夫すれば過放電時における水素ガスの発生を抑制できることを見いだした。以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
《発明の実施形態》
図5は、本実施形態に係るアルカリ乾電池の半断面図である。図6は、本実施形態における負極集電体の凹部付近の断面図である。図7は、本実施形態における別の負極集電体の凹部付近の断面図である。
本実施形態に係るアルカリ乾電池では、図5に示すように、正極2と負極3とセパレータ4とアルカリ電解液(不図示)とが電池ケース1内に収容されている。
電池ケース1は、正極端子と正極集電体とを兼ねており、例えばニッケルめっき鋼板が所定の寸法及び所定の形状(具体的には一端が封止された筒状)にプレス成形されたものである。電池ケース1の外周面は外装ラベル8で被覆されている。
正極2は、円筒状に成形されており、例えば黒鉛膜(不図示)を介して電池ケース1の内周面に密着している。正極2は、正極活物質(例えば電解二酸化マンガンの粉末)、導電剤(例えば黒鉛の粉末)及びアルカリ電解液を含んでおり、さらに、結着剤(例えばポリエチレンの粉末)又は滑沢剤(例えばステアリン酸塩)を含んでいても良い。
負極3は、有底筒状のセパレータ4を介して正極2よりも内周側に設けられており、負極活物質(例えば亜鉛合金の粉末)がゲル状物質(例えばポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤がアルカリ電解液に添加されたもの)に分散されたものである。負極3には、アルカリ電解液による亜鉛の腐食を抑制する作用がある金属(アルミニウム、インジウム若しくはビスマス)又はその化合物が添加されていても良く、これにより、負極3の耐食性を向上させることができる。また、負極3には、微量のケイ酸又はその塩等のケイ素化合物が添加されていても良く、これにより、亜鉛デンドライトの発生を抑制することができる。
上記亜鉛合金は、耐食性に優れていることが好ましく、環境に配慮して水銀、カドミウム、若しくは鉛、又はそれら全てが無添加であるものを用いることがさらに好ましい。亜鉛合金は、例えば、200ppm以上1000ppm以下のインジウム、50ppm以上500ppm以下のビスマス及び10ppm以上50ppm以下アルミニウムの少なくとも一種を含んでいれば良い。
セパレータ4は、有底筒状に成形されており、例えばポリビニルアルコール繊維及びレーヨン繊維を主体として混抄した不織布である。
このような正極2、負極3及びセパレータ4にはアルカリ電解液が含まれており、アルカリ電解液は、例えば水酸化カリウムを30〜40質量%含有し、例えば酸化亜鉛を1〜3質量%含有している。
電池ケース1には開口1aが形成されており、開口1aは組立封口体により封止されている。組立封口体は、ガスケット5と釘状の負極集電体6と負極端子板7とが一体化されたものであり、負極端子板7は負極集電体6に電気的に接続されており、ガスケット5は負極集電体6及び負極端子板7に物理的に接続されている。
ガスケット5は、開口1aの略中央に位置する筒状部51と、筒状部51よりも開口1aの周縁に位置する周縁部と、筒状部51と周縁部とを連結する連結部とを有している。筒状部51は電池ケース1の軸方向と平行に延びており、筒状部51には長手方向に延びる貫通孔が形成されている。周縁部は、後述の負極端子板7の周縁部により開口1aにかしめられている。連結部は、開口1aの径方向に延びており、薄肉部を有している。電池の内圧が上昇したときには、この薄肉部が破断して内圧の更なる上昇を防止する。このようなガスケット5は、例えば6,6-ナイロンからなる。
負極集電体6は鍔部を有する釘形であり、その一端側(鍔部が設けられていない側)は筒状部51の貫通孔内を挿通して負極3内に挿入されており、その他端側(鍔部が設けられている側)は筒状部51の貫通孔内に圧入されている。鍔部は、筒状部51と後述の負極端子板7の端子部との間に位置しており、負極端子板7の端子部に溶接されている。また、負極集電体6の外面の一部分に、凹部10(後述)が形成されている。このような負極集電体6の作製方法としては、例えば、銅又は真鍮等の線材を所定の寸法の釘形にプレス成形してから凹部10となる部分を削るという方法が挙げられる。
負極端子板7は、開口1aの略中央に位置する端子部と、端子部よりも開口1aの周縁に位置する周縁部とを有している。端子部と周縁部との間にはガス抜き孔が負極端子板7の周方向に間隔を開けて形成されており、これにより、ガスケット5の薄肉部が破断したときには電池ケース1内のガス(例えば水素ガス)がガス抜き孔から逃げる。このような負極端子板7は、例えばニッケルめっき鋼板又はスズめっき鋼板等が所定の寸法及び所定の形状にプレス成形されたものである。
このようなアルカリ乾電池は、次に示す方法に従って作製される。まず、有底円筒形の電池ケース1内にペレット状の正極2を入れた後、正極2を加圧して電池ケース1の内周面に密着させる。次に、正極2の中空部に有底円筒形のセパレータ4を配置し、セパレータ4の中空部に負極3を充填する。また、アルカリ電解液を電池ケース1内に注入する。それから、負極端子板7に接続された負極集電体6の一端側をガスケット5の筒状部51の貫通孔に挿通させて負極3内に挿入させ、電池ケース1の開口1aの縁にガスケット5の周縁部を介して負極端子板7の周縁部をかしめる。その後、電池ケース1の外周面を外装ラベル8で被覆する。
では、本実施形態における負極集電体6を説明する。
本実施形態における負極集電体6の凹部10は、負極3の開口側端面3A近傍に位置している。上述のように、本願発明者らは、アルカリ乾電池が転極すると、その負極集電体では負極の開口側端面近傍において優先的に金属が溶出することを確認している。つまり、本実施形態における負極集電体6では、転極時に金属溶出が優先的に起こる場所に凹部10が形成されている。そのため、本実施形態に係るアルカリ乾電池が転極すると、金属が負極集電体6の凹部10から優先的に溶出し、負極集電体6が凹部10において溶け切れて断線に至る。負極集電体6が断線すると、アルカリ乾電池が転極状態から解放されるので、アルカリ乾電池の電池電圧が0V近傍にまで復帰する。これにより、負極集電体6からの金属イオンの溶出が止まる。
本実施形態における負極集電体6であっても、また、凹部10が形成されていない負極集電体(以下では「参照用負極集電体」と記す)であっても、転極時には負極3の開口側端面3A近傍から優先的に金属が溶出する。しかし、凹部10における負極集電体6の太さT1は、凹部10以外の部分における負極集電体6の太さ(以下では「負極集電体6の本体部の太さ」と記す。)T2よりも細い。よって、本実施形態では、負極集電体6が溶け切れることで転極状態の時間を短くできるので、転極中に負極集電体6から溶出する金属イオンの総量を少なく抑えることができる。従って、本実施形態では、アルカリ乾電池が転極から復帰したときに、負極集電体6の近傍に存在する亜鉛粒子の表面に金属として析出する銅の量を少なく抑えることができるので、発生する水素ガスの量を少なく抑えることができる。このように負極集電体として本実施形態における負極集電体6を用いると、負極集電体として参照用負極集電体を用いる場合に比べて、転極から復帰したときに内圧が上昇することを抑制できるので、過放電に起因するアルカリ電解液の漏れを抑制できる。
凹部10は、負極3の開口側端面3A近傍に位置していれば良い。例えば、凹部10は、負極3の開口側端面3Aを跨ぐように位置していても良いし(図5)、負極3の開口側端面3Aとガスケット5の筒状部51の封止側端面(負極側端面)51Aとの間に位置していても良いし、負極3内に位置していても良い(図7)。さらには、凹部10の一部分が負極3の開口側端面3A近傍に位置していても良い。しかし、凹部10が負極3の開口側端面3Aを跨ぐように位置していれば、液層の分布又は負極3とガスケット5との相対的な位置関係に関係なく本実施形態において得られる効果を得ることができる。よって、凹部10は負極3の開口側端面3Aを跨ぐように位置していることが好ましく、凹部10の底部が負極集電体6の軸方向において負極3の開口側端面3Aと略同じ位置に位置していればさらに好ましい。
凹部10は、ガスケット5の筒状部51よりも負極3側に位置していることが好ましく、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aから負極集電体6の軸方向に0.2mm離れた位置よりも負極3側に位置していることが好ましい。また、負極集電体6の軸方向における凹部10の開口の大きさ(以下では単に「凹部10の開口の大きさ」と記す。)は15mm以下であることが好ましい。凹部10がガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aから負極集電体6の軸方向に0.2mm未満離れた位置に位置していたり、凹部10がガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aを跨ぐように位置していたり、又は、凹部10の開口の大きさが15mmを超えていると、負極集電体6の強度低下を引き起こす場合がある。そのため、例えば、負極集電体6をガスケット5の筒状部51の貫通孔内に挿通させるときに、負極集電体6が折れ曲がる等の不具合を引き起こす場合がある。これらのことと、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aと負極3の開口側端面3Aとがそれほど離れていないこと(例えば単三形アルカリ乾電池では、その距離は、数mm程度であり、10mm程度であることもある)と、凹部10が負極3の開口側端面3A近傍に位置していることとを考慮すると、凹部10は、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aから負極集電体6の軸方向に0.2mm以上15mm以下の範囲内に形成されていれば良い。
また、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aと負極3の開口側端面3Aとがそれほど離れていないこと、及び、凹部10の底部が負極3の開口側端面3A近傍に位置していることが好ましいことを考慮すると、凹部10の開口の大きさが凹部10の形状に依存することがある。例えば負極集電体6の縦断面における凹部10の形状を略二等辺三角形とした場合、凹部10の開口の大きさを15mmとすると、凹部10の底部は、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aから負極3側へ約8mm程度離れた位置に位置することとなり、よって、負極3の開口側端面3A近傍から外れた位置に位置する場合がある。そのため、負極集電体6の縦断面における凹部10の形状が略二等辺三角形である場合には、凹部10の開口の大きさを15mmよりも小さく設定することが好ましく、後述の実施例では凹部10の開口の大きさを5mmとしている。
凹部10の個数は特に限定されない。凹部10は、負極集電体6の周方向の一部分に形成されていても良いし、負極集電体6の周方向に互いに間隔を開けて形成されていても良いし、負極集電体6の周方向に沿って形成されていても良い。しかし、凹部10が負極集電体6の周方向に沿って形成されていれば、転極時に負極集電体6が凹部10において溶け切れるのに要する時間の更なる短縮化を図ることができる。よって、凹部10は、負極集電体6の周方向に沿って形成されていることが好ましい。
凹部10の深さは特に限定されない。しかし、凹部10における負極集電体6の太さT1が細ければ細いほど、転極時に負極集電体6が凹部10において溶け切れるタイミングを早めることができるので、転極時に負極集電体6から金属イオンとなって溶出する金属の量を少なく抑えることができ、よって、転極から復帰したときに発生する水素ガスの量を少なく抑えることができる。そのため、凹部10における負極集電体6の太さT1が細ければ細いほど、過放電時におけるアルカリ電解液の漏れの防止を図ることができる。具体的には、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の80%以下であれば、転極から復帰したときにおける水素ガスの発生を抑制できると考えられる。
一方、凹部10における負極集電体6の太さT1が細すぎると、負極集電体6の強度低下を引き起こす場合がある。そのため、例えば負極集電体6をガスケット5の筒状部51の貫通孔内に圧入するときに、負極集電体6の折り曲げ等を引き起こす場合がある。本願発明者らによる検討の結果、負極集電体6の強度は、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の30%を下回ると低下し始め、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の20%を下回ると極端に低下することが分かった。よって、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の20%以上80%以下であれば、負極集電体6の強度をある程度確保しつつ過放電時における水素ガスの発生を抑制できると考えられる。また、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の30%以上80%以下であれば、歩留まりの低下を伴うことなくアルカリ乾電池を製造できるとともに過放電時における水素ガスの発生を抑制できると考えられる。これらのことから、凹部10における負極集電体6の太さT1は、負極集電体6の本体部の太さT2の20%以上80%以下であることが好ましく、負極集電体6の本体部の太さT2の30%以上80%以下であればさらに好ましい。
以上説明したように、本実施形態では、凹部10が負極の開口側端面3A近傍に位置しているので、転極時には凹部10において金属溶出が優先的に起こる。よって、本実施形態では、参照用負極集電体に比べて、転極時に負極集電体6が断線するタイミングが早くなるので、転極中に負極集電体6から溶出する金属の量を少なく抑えることができ、よって、転極から復帰したときに発生する水素ガスの量を低減することができる。これにより、本実施形態では、転極から復帰したときにアルカリ電解液が漏れることを抑制できる。
それだけでなく、負極集電体6に凹部10が形成されていると、転極時には凹部10に電界が集中し、よって、金属溶出が凹部10において起こり易くなる。このことからも、転極時には金属が負極集電体6の凹部10から優先的に溶出されるため、転極から復帰したときに発生する水素ガスの量を低減することができる。この効果を得るためには、凹部10は負極集電体6の径方向内側へ進むにつれて幅広とならないように形成されていることが好ましい。例えば、負極集電体6の縦断面における凹部10の形状は、略二等辺三角形(図5)、略三角形、略半円、矩形、又は、負極集電体6の径方向内側へ進むにつれて幅狭となる台形であれば良い。
なお、本実施形態は、以下に示す構成を有していても良い。
負極集電体6の製造時等において負極集電体6に鉄が混入する場合がある。鉄の含有量が負極集電体6の全重量に対して100ppm以下であれば、その鉄を覆い隠すなどの手段を講じなくても水素ガスの発生が加速することを抑制できる。しかし、鉄の含有量が負極集電体6の全重量に対して100ppmを超えている場合には、特許文献1等で開示されているように負極集電体6の表面において鉄を覆い隠すなどの手段を講じることが好ましい。具体的には、負極集電体6の表面上にスズ又はインジウムが設けられていれば良く、負極集電体6の表面上にスズ又はインジウムが電解めっきされていれば良い。
本実施形態で記載した電池ケース、正極、負極、セパレータ、アルカリ電解液、ガスケット、負極集電体及び負極端子板の各材料は、一例に過ぎない。また、以下の実施例では単3形アルカリ乾電池を例に挙げて説明しているが、本実施形態に係るアルカリ乾電池は単3形アルカリ乾電池に限定されない。
本発明の実施例を以下に示す。本実施例では、以下に示す方法に従って単3形アルカリ乾電池を製造した後、製造した単3形アルカリ乾電池を過放電させて漏液の有無を確認した。
1.単3形アルカリ乾電池の製造方法
(実施例1)
まず、ガスアトマイズ法によって、亜鉛の重量に対して0.003重量%のAl、0.015重量%のBi及び0.020重量%のInを含有する亜鉛合金の粒子を作製した。その後、篩を用いて、作製した亜鉛合金の粒子を分級した。この分級により、35〜300メッシュの粒度範囲を有し、且つ、200メッシュ(75μm)以下の粒径を有する亜鉛合金の粒子の比率が30%である負極活物質を得た。
次に、34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む)の100重量部に対して、合計重量が2.2重量部となるようにポリアクリル酸とポリアクリル酸ナトリウムとを加えて混合し、ゲル化させた。これにより、ゲル状の電解液を得た。その後、得られたゲル状の電解液を24時間静置して十分に熟成させた。
その後、上記で得たゲル状の電解液に、そのゲル状の電解液の所定量に対して重量比で2.00倍の上記亜鉛合金の粒子と、その亜鉛合金の粒子100重量部に対してリン酸系界面活性剤(平均分子量が約210のアルコールリン酸エステルナトリウム)0.05重量部とを十分に混合した。これにより、ゲル状の負極を得た。
その後、電解二酸化マンガン(東ソー(株)製 HHTF(品番))及び黒鉛(日本黒鉛工業(株)製 SP−20(品番))を重量比94:6の割合で配合し、混合粉を得た。そして、この混合粉100重量部に対し電解液(39重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む))1.5重量部とポリエチレンバインダー0.2重量部とを混合した後、ミキサーで均一に撹拌且つ混合して一定の粒度に整粒し、得られた粒状物を加圧して中空円筒型に成形した。このようにして、正極合剤ペレットを得た。
続いて、評価用の単3形アルカリ乾電池の作製を行った。具体的には、図5に示すように、電池ケース1の内部に、上記で得られた正極合剤ペレット(1個の重量が5.15g)を2個挿入し、電池ケース1内で再加圧することによって電池ケース1の内面に密着させた。そして、この正極合剤ペレットの内側にセパレータ4と電池ケース1の底部を絶縁するための底紙とを挿入した後、電解液(34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む))を1.5g注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状の負極3を6.2g(亜鉛合金の粒子の重量は3.8g)充填した。その後、ガスケット5、負極端子板7及び負極集電体6が一体化された組立封口体を用いて電池ケース1の開口を封じた。具体的には、負極集電体6を負極3に差し込み、ガスケット5の端部を介して電池ケース1の開口の縁に負極端子板7の周縁部をかしめつけて負極端子板7を電池ケース1の開口に密着させた。それから、電池ケース1の外表面に外装ラベル8を被覆し、実施例1に係る単3形アルカリ乾電池を作製した。
ここで、ガスケット5としては、6,6−ナイロンを材料として作製した。
負極集電体6としては、太さが1.425mmであり長さが33mmである釘状であり、負極集電体6の重量に対してCuの含有重量が65%である真鍮線を用いた。この真鍮線に、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aが位置することとなる部位から負極集電体6の軸方向に0.2mm以上15mm以下の範囲内に凹部10を形成した。ここで、負極集電体6の縦断面における凹部10の形状を略二等辺三角形とし、凹部10における負極集電体6の太さT1を1.14mm(T1/T2=80%)とし、凹部10の開口の大きさを5mmとした。真鍮線の不純物を被覆するために、負極集電体6の表面に、厚さが1.0μmとなるようにスズが電解めっきされたものを用いた。
セパレータ4としては、クラレ(株)製のアルカリ乾電池用セパレータ(ビニロンとテンセル(登録商標)とからなる複合繊維)を用いた。
(実施例2)
負極集電体6の材料及び構造が上記実施例1とは異なることを除いては上記実施例1と同様の方法に従って、実施例2に係る単3形アルカリ乾電池を作製した。
具体的には、負極集電体6としては、負極集電体6の重量に対してCuの含有重量が65%である真鍮線を用いた。この真鍮線に、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aが位置することとなる部位から負極集電体6の軸方向に0.2mm以上15mm以下の範囲内に凹部10を形成した。ここで、負極集電体6の縦断面における凹部10の形状を略二等辺三角形とし、凹部10における負極集電体6の太さT1を0.428mm(T1/T2=30%)とし、凹部10の開口の大きさを5mmとした。真鍮線の不純物を被覆するため、負極集電体6の表面に、厚さが1.0μmとなるようにスズが電解めっきされたものを用いた。
(実施例3)
負極集電体6の材料及び構造が上記実施例1とは異なることを除いては上記実施例1と同様の方法に従って、実施例3に係る単3形アルカリ乾電池を作製した。
具体的には、負極集電体6としては、負極集電体6の重量に対してCuの含有重量が65%である真鍮線を用いた。この真鍮線に、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aが位置することとなる部位から負極集電体6の軸方向に0.2mm以上15mm以下の範囲内に凹部10を形成した。ここで、負極集電体6の縦断面における凹部10の形状を略二等辺三角形とし、凹部10における負極集電体6の太さT1を0.285mm(T1/T2=20.0%)とし、凹部10の開口の大きさを5mmとした。真鍮線の不純物を被覆するため、負極集電体6の表面に、厚さが1.0μmとなるようにスズが電解めっきされたものを用いた。
(比較例1)
負極集電体の構造が上記実施例1とは異なることを除いては上記実施例1と同様の方法に従って、比較例1に係る単3形アルカリ乾電池を作製した。
具体的には、次に示す方法に従って比較例1における負極集電体を作製した。実施例1における真鍮線に、ガスケット5の筒状部51の封止側端面51Aが位置することとなる部位から負極集電体の軸方向に0.2mm以上15mm以下の範囲内に凹部を形成した。ここで、負極集電体の縦断面における凹部の形状を略二等辺三角形とし、凹部における負極集電体の太さT1を1.211mm(T1/T2=85%)とし、凹部の開口の大きさを5mmとした。真鍮線の不純物を被覆するために、負極集電体の表面に、厚さが1.0μmとなるようにスズが電解めっきされたものを用いた。
(比較例2)
負極集電体の構造が上記実施例1とは異なることを除いては上記実施例1と同様の方法に従って、比較例2に係る単3形アルカリ乾電池を作製した。
具体的には、負極集電体としては、太さが1.425mmであり長さが33mmの釘状で、負極集電体の重量に対して、Cuの含有重量が65%である真鍮線を用いた。銅合金の不純物を被覆するため、負極集電体の表面に、厚さが1.0μmとなるようにスズが電解めっきされたものを用いた。
2.アルカリ乾電池の評価方法
実施例1の電池(新品の電池)を4個、直列に接続し、さらに、40Ωの抵抗器を接続して、20℃雰囲気下で50日間放置して過放電させた。その後、過放電後におけるアルカリ乾電池の漏液の有無を調べた。実施例2〜3の電池及び比較例1〜2の電池に対しても同様の試験を行って、漏液の有無を調べた。ここでは、抵抗器を介して電池4個を直列に接続したものを1セットとし、各10セット(単3形アルカリ乾電池の総数はそれぞれ40個)ずつ試験して漏液の発生率(%)を求めた。
3.結果と考察
結果を図8に示す。
実施例1〜3の結果から、凹部10における負極集電体の太さT1が負極集電体の本体部の太さT2の20%以上80%以下である場合には過放電による漏液を抑制できることが分かった。
比較例1の結果から、凹部10における負極集電体6の太さT1が負極集電体6の本体部の太さT2の85%である場合には過放電による漏液の抑制効果が低いことが分かった。漏液は、直列に接続された4個の電池の中で最も容量の少ない電池で、発生していた。
比較例2の結果から、負極集電体6に凹部10を形成しない場合には、過放電による漏液の抑制効果がさらに低いことが分かった。漏液は、直列に接続された4個の電池の中で最も容量の少ない電池で、発生していた。
このように実施例1〜3の電池と比較例1〜2の電池とにおいて漏液の発生率に差が生じた理由としては、上記実施形態で記載したメカニズムに因るものであると推察した。具体的には、容量が相異なる単3形アルカリ乾電池を直列に接続して過放電させると、容量の最も小さい単3形アルカリ乾電池において転極が発生する。転極した単3形アルカリ乾電池では、負極集電体6が溶ける。このとき、実施例1〜3のアルカリ乾電池の負極集電体6には、転極時に金属溶出が優先的に起こる箇所に凹部10が形成されているので、凹部10から優先的に金属が溶出して負極集電体6が断線に至る。これにより、アルカリ乾電池が転極状態にある時間が短縮化され、転極時に溶出する金属量が抑制される。よって、転極したアルカリ乾電池の電圧が0V近傍にまで復帰したときには、実施例1〜3のアルカリ乾電池の方が比較例1〜2のアルカリ乾電池よりも水素ガスの発生を抑制することができたと考えられる。
実際、過放電終了後、電池をそれぞれ分解して解析してみると、比較例1〜2の電池では負極集電体は断線していなかったが、実施例1〜3の電池では負極集電体6の断線が確認された。