JP2011207812A - N−アルキルコハク酸イミドの製造方法 - Google Patents

N−アルキルコハク酸イミドの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルピロリドンの中間体として重要なN−アルキルコハク酸イミドを効率的かつ安価な製造法の提供。
【解決手段】コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させて式(II)で表されるN−アルキルコハク酸イミドを製造するに当たり、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類との混合物を用いる方法。
Figure 2011207812

(Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基。)
【選択図】なし

Description

本発明は、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させて、N−アルキルコハク酸イミドを製造する方法に係り、詳しくは、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類との混合物を用いることにより、N−アルキルコハク酸イミドを効率的にかつ安価に製造する方法に関する。本発明はまた、この方法で製造されたN−アルキルコハク酸イミドからN−アルキルピロリドンを安価に製造する方法に関する。
コハク酸およびその誘導体は、ポリエステル等の樹脂原料や溶媒、その他の化学品の重要な前駆体であり、種々の樹脂原料および化学品の前駆体への誘導化が研究されている(例えば非特許文献1および2)。
また、環状アミド化合物であるピロリドン類は、洗浄溶媒や抽出剤として金属、電子材料分野等において広く用いられている。
コハク酸およびその誘導体からピロリドン類の一種であるN−アルキルピロリドンを製造する場合、例えばコハク酸アンモニウム塩またはコハク酸とアンモニアの混合物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルコハク酸イミドを合成し、このN−アルキルコハク酸イミドを触媒存在下で水素化してN−アルキルピロリドンを製造する。
このN−アルキルピロリドンの製造において重要な中間体であるN−アルキルコハク酸イミドの製造方法として、古くはコハク酸に対して過剰量のアルキルアミンを反応させてN−アルキルコハク酸イミドを合成する方法が報告されている(特許文献1)。N−アルキルコハク酸イミドはまた、コハク酸アンモニウム塩またはコハク酸とアンモニアの混合物とアルキル化剤との反応で合成することもできる。
N−アルキルコハク酸イミドの合成において、アルキル化剤として高価なアルキルアミンをコハク酸に対して等モル以上用いることは、経済的に不利であり、専ら、安価で工業的な入手が容易なアルコール類が使用されている。また、アルコールの他、カルボキシレート、アセタール、エポキシド、アジリジン、尿素、ハロゲン化アルキル、アルキルアミン、カーボネート、チオール等の化合物をアルキル化剤として使用できる旨の報告もなされている(特許文献2,3)が、従来において、特定の化合物の混合物をアルキル化剤として利用することによる効用を見出す試みはされていない。
一方で、原料のコハク酸は、従来はブタンより合成した無水マレイン酸から石油化学的方法によって製造されるのが一般的であったが、近年、バイオマス資源を原料とした発酵製造法の研究が進み、発酵製造法による工業的規模でのコハク酸の製造の可能性も期待され、発酵製造法によるコハク酸を原料としたN−メチルピロリドンの合成法も提案されている(特許文献2,3)。
DE2164350 WO2002/102772 WO2004/058708
Chemical Reviews,2007,Vol.107,No.6,2417−2421 Green Chem.,2009,11,13−16
上記のように、洗浄溶媒や抽出剤として金属、電子材料分野等で有用なN−アルキルピロリドンの製造において、N−アルキルコハク酸イミドは重要な中間体であり、N−アルキルピロリドンを低コストで製造するためには、N−アルキルコハク酸イミドを効率的に製造することが有効である。
本発明は、コハク酸アンモニウム塩からN−アルキルピロリドンの中間体であるN−アルキルコハク酸イミドを効率的に製造し、製造したN−アルキルコハク酸イミドからN−アルキルピロリドンを安価に製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルコハク酸イミドを製造する方法において、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類との混合物を使用することにより、通常アルキル化剤として使用されるアルコールのみを使用した場合と比較して、N−アルキルコハク酸イミドの収率または選択率が向上すること、また、アルキル化剤として高価なアルキルアミンをコハク酸アンモニウム塩に対して過剰量使用する方法に比べて製造コストを大幅に低減することができること、を見出し、本発明に到達した。
本発明に従って、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類の混合物を使用することは、N−アルキルコハク酸イミドの製造において収率が向上するだけではなく、N−アルキルコハク酸イミドの製造反応後の回収アルコールを高度に精製することなく再利用することができ、アルコール回収にかかるエネルギーコストを大幅に削減することができる点においても有利である。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 下記一般式(I)で表されるコハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させて、下記一般式(II)で表されるN−アルキルコハク酸イミドを製造する方法において、該アルキル化剤がアルコールとアルキルアミン類との混合物であることを特徴とするN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
Figure 2011207812
(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、H,NH または他のカチオンを表し、かつXおよびYの少なくとも一方はNH を表す。)
Figure 2011207812
(式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
[2] 前記コハク酸アンモニウム塩を含む組成物が、コハク酸および/またはその塩を含む発酵液、或いは発酵液から取り出したコハク酸および/またはその塩を含む混合物から得られることを特徴とする[1]に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
[3] 前記アルキル化剤の使用量が、前記コハク酸アンモニウム塩に対して化学量論量以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
[4] 前記アルコールがメタノールおよび/またはエタノールであり、前記アルキルアミン類がメチルアミン類および/またはエチルアミン類である[1]ないし[3]のいずれかに記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
[5] 前記コハク酸アンモニウム塩を含む組成物と前記アルキル化剤との反応温度が50℃〜500℃で、反応圧力が標準圧力〜30MPaであることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法で製造されたN−アルキルコハク酸イミドを還元することにより、下記一般式(III)で表されるN−アルキルピロリドンを製造することを特徴とするN−アルキルピロリドンの製造方法。
Figure 2011207812
(式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基である。)
本発明によれば、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルコハク酸イミドを製造するにあたり、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類との混合物を使用することにより、N−アルキルコハク酸イミドの収率ないしは選択率を向上させることができると共に、高価なアルキルアミンの使用量を低減してN−アルキルコハク酸イミドを効率的にかつ経済的に有利に製造することが可能となる。
特に、バイオマス資源由来の発酵製造法によるコハク酸およびその塩類を原料として、N−アルキルピロリドンの中間体であるN−アルキルコハク酸イミドを安価に、効率的に製造することにより、洗浄溶媒や抽出剤等として各種の分野に有用なN−アルキルピロリドンの製造コストを下げることができ、その工業的有用性は極めて大きい。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明のその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
[N−アルキルコハク酸イミドの製造方法]
本発明のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法は、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルコハク酸イミドを製造するに当たり、アルキル化剤としてアルコールとアルキルアミン類との混合物を用いることを特徴とするものである。
{コハク酸アンモニウム塩を含む組成物}
本発明に係るコハク酸アンモニウム塩は、下記一般式(I)で表される。
Figure 2011207812
(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、H,NH または他のカチオンを表し、かつXおよびYの少なくとも一方はNH を表す。)
上記他のカチオンとは、1価のカチオンもしくは2価のカチオンである。
他の1価のカチオンとしては、Na、K、Li等のアルカリ金属イオン等が挙げられる。
上記一般式(I)で表されるコハク酸アンモニウム塩としては、具体的には、コハク酸ジアンモニウム、コハク酸モノアンモニウム、コハク酸アンモニウムナトリウム等のアンモニウム塩が挙げられ、好ましくは、コハク酸ジアンモニウム、コハク酸モノアンモニウムのようなアンモニウム塩が挙げられ、これらのアンモニウム塩の混合物を用いても良い。
なお、本発明に係るコハク酸アンモニウム塩は、コハク酸二ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二カリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸マグネシウム、コハク酸カルシウム等のNH を含まないコハク酸塩にNH を含有する化合物を加えて調製することもできる。ここで、NH を含有する化合物としては、アンモニア水、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
コハク酸アンモニウム塩を含む組成物中のNH の含有量は、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物中のコハク酸成分1モルに対して、通常1モル以上、より好ましくは1.2モル以上、一方、通常5モル以下、好ましくは3モル以下である。このNH の割合が少なすぎると、反応収率が低下する傾向があり、多すぎると、加水分解等の好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向がある。なお、ここで、コハク酸成分とは、前記一般式(I)において、XとYを除いたコハク酸残基(C(COO)を指す。また、NH とは組成物中に存在する遊離のNH と、アニオンと結合して化合物中に存在するNH との双方を指す。
本発明に係るコハク酸アンモニウム塩を含む組成物中のコハク酸アンモニウム塩の濃度には、特段の制限はないが、コハク酸換算濃度として通常1重量%以上、好ましくは10重量%以上、一方、通常80%重量以下、好ましくは70重量%以下である。該濃度が薄すぎると、反応工程での操作性や反応効率に問題が生じる可能性があり、該濃度が濃すぎると、コハク酸アンモニウム塩が析出する問題が生じる可能性がある。
なお、コハク酸アンモニウム塩が石油や石炭を原料として石油化学的手段によって製造されたものである場合、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とは、コハク酸アンモニウム塩の水溶液であってもよい。
本発明に係るコハク酸アンモニウム塩は、石油や石炭を原料として石油化学的手段によって製造されたものでもよいが、バイオマス資源由来であるのが環境保護の点から好ましい。
バイオマス資源としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣等の植物資源が好ましく、より好ましくは、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、芋、油脂、古紙、製紙残渣であり、最も好ましくはとうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシである。これらのバイオマス資源は、一般に、窒素元素やNa、K、Mg、Ca等の多くのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する。
これらのバイオマス資源は、特に限定はされないが、例えば酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。その工程には、特に限定はされないが、例えば、バイオマス資源をチップ化する、削る、擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、更にグラインダーやミルでの粉砕工程が含まれる。こうして微細化されたバイオマス資源は、更に前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導されるが、その具体的な方法としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸等の強酸での酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、微生物や酵素処理による加水分解等の生物学的処理が挙げられる。
上記のバイオマス資源から誘導される炭素源としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、澱粉、セルロース等の2糖・多糖類、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セラコレン酸等の脂肪酸、グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、これらの中では、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、澱粉、セルロース等の2糖・多糖類が好ましく、このうちグルコース、マルトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、セルロースが好ましい。
これらのバイオマス資源から誘導される炭素源から脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸を誘導する方法としては、例えば、これらの炭素源を用いて、微生物変換による発酵法や加水分解・脱水反応・水和反応・酸化反応・還元反応等の反応工程を含む化学変換法ならびにこれらの発酵法と化学変換法の組み合わせによる方法が挙げられるが、これらの中でも脂肪族ジカルボン酸生産能を有する微生物を利用した微生物変換による発酵法が好ましい。
脂肪族ジカルボン酸生産能を有する微生物は脂肪族ジカルボン酸生産能を有する微生物であるかぎり特に制限されないが、エシェリヒア・コリ等の腸内細菌、バチルス属細菌、コリネ型細菌、酵母菌などが挙げられ、好気性微生物、通性嫌気性微生物または微好気性微生物を使用することが好ましい。
好気性微生物としては、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、バチルス(Bacillus)属細菌、リゾビウム(Rhizobium)属細菌、アースロバクター(Arthrobacter)属細菌、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、ノカルディア(Nocardia)属細菌、またはストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌などが挙げられ、これらのうちコリネ型細菌がより好ましい。
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌またはアースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸生産菌としてコハク酸生産菌を用いる場合、後述の実施例に記載のように、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強され、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が低下した株を用いることが好ましい。
微生物変換における反応温度、圧力等の反応条件は、選択される菌体、カビなど微生物の活性に依存することになるが、ジカルボン酸を得るための好適な条件を各々の場合に応じて選択すればよい。
微生物変換においては、pHが低くなると微生物の代謝活性が低くなったり、或いは微生物が活動を停止するようになり、製造歩留まりが悪化したり、微生物が死滅するため、一般的には中和剤を使用してpHを調整する。通常はpHセンサーによって反応系内のpHを計測し、所定のpH範囲となるように中和剤を添加することによりpHを調節する。pH値は、用いる菌体、カビ等の微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整される。中和剤の添加方法については特に制限はなく、連続添加であっても間欠添加であってもよい。
中和剤としてはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられる。好ましくはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素である。なお上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としてはNaOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)等、或いはこれらの混合物などが挙げられ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩としては、NaCO、KCO、CaCO、MgCO、NaKCO等、或いはこれらの混合物などが挙げられる。
本発明においては、微生物変換後の発酵液は、その後の精製工程での操作性や反応効率を考慮して適宜濃縮しても良い。濃縮方法としては、特に限定されないが、不活性ガスを流通させる方法、加熱により水を留去させる方法、減圧で水を留去させる方法ならびにこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
なお、本発明の方法において、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物として発酵液を用いる場合、微生物を除去した後の発酵液を用いることが好ましい。微生物の分離方法は、限外濾過膜や遠心分離等既存の方法を任意に用いることができる。また、微生物変換後の発酵液をオートクレーブ滅菌、加熱滅菌または低温殺菌しても良い。
本発明に係るコハク酸アンモニウム塩を含む組成物としては、上記のようにして得られた発酵液に含まれるコハク酸および/またはその塩をそのままコハク酸アンモニウム塩のコハク酸成分として用いることができるが、活性炭等の吸着剤処理やイオン交換カラム処理等の簡易精製を行った発酵液に含まれるコハク酸および/またはその塩を、必要に応じてNH を含有する化合物とともに用いてもよい。また、発酵液から取り出し、更に後述の精製処理を施したコハク酸をNH を含有する化合物とともに用いてもよい。
以下に発酵液に含まれるコハク酸塩をコハク酸へ変換する方法および精製する方法を例示するが、本発明は以下の方法に限定されるものではない。また、コハク酸は、コハク酸に変換された以降の精製工程のうち、任意の工程において系内から取り出して用いてもよい。
(1)コハク酸塩のコハク酸への変換・抽出
コハク酸塩のコハク酸への変換方法としては、コハク酸よりもpHの高い弱酸性の有機酸を使用した反応晶析方法が挙げられる。この場合、用いる弱酸性の有機酸としては、例えば、酢酸が挙げられる。また、別法として、コハク酸塩を無機酸でコハク酸に変換しても良い。ここで、使用する無機酸としては、硫酸、塩酸、炭酸、リン酸、硝酸などが例示される。より具体的には、コハク酸発酵の場合、生成したコハク酸をアンモニアや水酸化マグネシウムで中和しながら発酵を行うと、発酵液中にはコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムが生成する。このようなコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムを含む発酵液を硫酸等で処理すると、コハク酸を含む水溶液が得られる。
コハク酸を含む溶液或いは水溶液とはコハク酸を主体として含む溶液或いは水溶液である。従って、上記のようなコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムのようなコハク酸塩を主体として含む溶液或いは水溶液はコハク酸塩を含む溶液或いは水溶液と表す。ここでいう「主体として含む」状態とは、溶媒を除く全成分の重量に対する該成分の重量が、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含まれる状態を示す。
上記の無機酸でコハク酸塩をコハク酸に変換した水溶液は、特には限定されないが、有機溶媒を用いて該水溶液からコハク酸を抽出しても良い。
この方法で使用される有機溶媒は、通常、無機性値/有機性値の比(I/O値)が0.2以上2.3以下であり、常圧(1気圧)で沸点が40℃以上の有機溶媒であるが、より好ましくは、I/O値が、0.3以上2.0以下であり、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒であり、更に好ましくは、I/O値が0.3以上2.0以下であり、常圧で沸点が60℃以上の有機溶媒である。このような有機溶媒を用いることにより、コハク酸を選択的に抽出して、効率よく糖類やアミノ酸と分離できる。また、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒を用いることにより、溶媒が気化して引火する危険性や、溶媒が気化してコハク酸の抽出効率が低下するという問題や溶媒のリサイクルがしにくいといった問題を回避することができる。
なお、無機性値/有機性値の比(I/O値)は、有機概念図論(「系統的有機定性分析」藤田穆、風間書房(1974))に提案されており、有機化合物を構成する官能基に対して予め設定された数値を基に有機性値および無機性値を算出し、その比を求めて得られる。
I/O値が0.2以上2.3以下であり、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、プロパノール、ブタノール、オクタノール等の炭素数3以上のアルコールが例示される。
各溶媒のI/O値および沸点を以下に示す。
Figure 2011207812
抽出工程においては、有機溶媒は、コハク酸を含有する水溶液の容量1に対し0.5〜5の容量で加えることが好ましく、コハク酸を含有する水溶液の容量1に対し1〜3の容量で加えることがより好ましい。
抽出工程の温度はコハク酸が抽出される温度であればよいが、10〜90℃が好ましく、20〜85℃がより好ましい。
抽出工程により、コハク酸が有機溶媒中に回収され、糖類や発酵由来の窒素元素の他、発酵菌由来のアンモニア、硫黄含有不純物ならびに金属カチオン等の不純物はある程度分離される。なお、コハク酸をさらに効率よく抽出するために、有機溶媒による抽出処理を複数回繰り返してもよいし、向流抽出を行ってもよい。
(2)抽出相の濃縮
一般に抽出相におけるコハク酸濃度は希薄であるため濃縮操作が必要となる。濃縮度は特に限定されるものではないが、最終濃縮液中のコハク酸の溶解度が飽和溶解度以下であり、かつ極力飽和溶解度に近いほうが好ましい。
また抽出に用いる溶媒は水と最低共沸組成を形成することが多く、また共沸組成は溶媒リッチな組成であることが多い。従って濃縮操作に伴い溶媒が多く留去することとなり濃縮液中の溶媒濃度は濃縮前に比べ低下する。
生物由来原料から誘導されたコハク酸は、一般に水溶性の高い不純物を多く含むため、後続の晶析工程において溶媒共存系よりも水系の方が高い精製効果が期待できる。また溶媒が後続工程まで残留するとその回収がより困難となるため、濃縮後の溶媒濃度は1重量%以下とすることが望ましい。
最終濃縮液の溶媒濃度を1重量%以下、コハク酸濃度を飽和溶解度近傍とするためには濃縮前および/または濃縮操作の過程で水を加えてもよい。
(3)晶析
濃縮後の晶析は冷却晶析、蒸発晶析さらに断熱減圧冷却晶析等により行う。また操作はバッチ晶析でも、連続晶析でもよい。
(4)固液分離
晶析で得られたコハク酸スラリーは固液分離操作によりコハク酸結晶と母液を分離する。分離方法は特に限定するものではなく、濾過分離、沈降分離などが挙げられる。また、操作はバッチ式でも連続式でもよい。固液分離に用いる装置として、例えば効率の良い固液分離機として連続式の遠心濾過機、デカンター等の遠心沈降機などが挙げられる。
また、求められるコハク酸の純度により固液分離操作で回収したウェットケーキは冷水等でリンス(洗浄)することができる。
(5)晶析母液のリサイクル
固液分離工程で得られた母液やリンス液の少なくとも一部は晶析工程より前の工程にリサイクルすることができる。リサイクルする工程は特に限定はないが、抽出工程、濃縮工程へリサイクルできる。抽出工程へリサイクルすると抽出塔は大きくなるが、水相へ分配されやすい(分配係数が小さい)不純物をリサイクル系内から選択的に除去することができ、好ましい。一方、濃縮工程にリサイクルすると抽出塔は小さくてすむが、不揮発性の不純物は全てリサイクル系内に蓄積することとなる。
母液やリンス液の全てをリサイクルすることも可能であるが、長期間の運転を続けることで不純物がリサイクル系内に蓄積することから、少なくとも一部は系外にパージすることが望ましい。パージ液は通常活性汚泥処理等により有機物を処理した後廃液とされるが、パージ液はコハク酸を含みpHが低いことから、発酵操作で回収された使用済菌体の失活処理剤として有効利用することができる。
このリサイクルに際して、リサイクル量、リサイクル場所は求められるコハク酸の仕様により決めることができる。
(6)高度精製
上述の工程を経たコハク酸はその要求純度等に応じ、乾燥処理またはさらに高度精製処理を施すこともできる。この高度精製処理としては、例えば活性炭等の吸着剤による脱色工程、イオン交換樹脂により共存イオン類を除去するイオン交換工程、共存する不飽和ジカルボン酸を水添処理する工程、さらに高度精製するための晶析工程などの処理が挙げられる。
{アルキル化剤}
本発明に係るアルキル化剤は、アルコールとアルキルアミン類との混合物である。
このアルコールとしては、炭素数1〜6の直鎖、分岐または環状のアルコールが好ましく、炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコールがより好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが好ましく、メタノール、エタノールが特に好ましい。これらのアルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのアルコールと共に用いるアルキルアミン類としては、メチルアミン類、エチルアミン類、プロピルアミン類、ブチルアミン類が挙げられ、好ましくは、メチルアミン類、エチルアミン類である。
なお、ここで、アルキルアミン類の「類」とは、モノアルキルアミンとジアルキルアミン、トリアルキルアミン等のアルキル基を有するアミンの総称である。
これらのアルキルアミン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記アルコールおよびアルキルアミン類は、後述のN−アルキルコハク酸イミドを表す一般式(II)におけるRのアルキル基が有していてもよい置換基で置換されてもよい。
アルコールとアルキルアミン類との混合物としては最も好ましくは、メタノールおよび/またはエタノールとメチルアミン類および/またはエチルアミン類との混合物が用いられる。
アルキル化剤を構成するアルコールとアルキルアミン類の混合比は任意であるが、コハク酸アンモニウム塩に対するアルキルアミン類の量比は、0.0001〜10倍モル、好ましくは0.001〜5倍モル、より好ましくは0.01〜1.5倍モル程度である。コハク酸アンモニウム塩に対するアルキルアミン類の量比が多過ぎると、高価なアルキルアミン類量が多くなることにより経済性が損なわれ、少な過ぎると反応効率が低下する。
本発明において、アルキル化剤は、アルコールとアルキルアミン類との合計でコハク酸アンモニウム塩を含む組成物中のコハク酸アンモニウム塩に対して、化学量論または化学量論量を超える量で用いられる。好ましくは、コハク酸アンモニウム塩に対して1〜100倍モル、より好ましくは1〜50倍モル、最も好ましくは、1〜25倍モルのアルキル化剤が用いられる。
アルキル化剤の使用量が少な過ぎると反応効率が低下し、多過ぎてもそれ以上の反応効率の向上は望めず、また、反応規模が大型化するため、経済的にも工業的にも不利である。
アルキル化剤中のアルキルアミン類の割合としては、上述の如く、任意であるが、経済性と反応効率の面からアルコールに対するアルキルアミン類の割合が0.0001〜100モル%、特に0.001〜10モル%であることが好ましい。
アルキル化剤として用いるアルコールとアルキルアミン類の混合物は、アルコールとアルキルアミン類を混合して調製することもできるが、N−アルキルコハク酸イミドの製造工程で反応後回収される未反応アルコールから、敢えてアルキルアミン類を完全に分離せず、一部または全部のアルキルアミン類を含有したまま使用してもよい。元来、アルコールと対応するアルキルアミン類を完全に分離するためには精密蒸留をする等、精製に多大なエネルギーを必要とし、結果として製造コストを上げることになる。本発明で開示するように、アルキルアミン含有アルコールを使用することにより、アルコールの回収および精製にかかる負荷を大幅に低減でき、より安価にN−アルキルコハク酸イミドを製造することができ、結果としてN−アルキルピロリドンの製造コストを下げることができる。
なお、反応には、上記アルキル化剤と共に、必要に応じて触媒を用いてもよい。
{N−アルキルコハク酸イミド}
本発明のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法で製造されるN−アルキルコハク酸イミドとは、下記一般式(II)で表される化合物である。
Figure 2011207812
(式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
一般式(II)において、Rの直鎖、分岐または環状のアルキル基とは、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基である。最も好ましくは、メチル基、エチル基である。上記のRのアルキル基は置換されていても良い。
のアルキル基が置換されている場合、その置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、エーテル基、チオエーテル基、ハロゲン原子等が挙げられる。なお、ここで、Rの炭素数とは、Rのアルキル基が置換基を有する場合、当該置換基の炭素数を含まない、アルキル基のみの炭素数である。
{イミド化反応}
<反応温度>
本発明において、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤であるアルコールとアルキルアミン類との混合物とを反応させてコハク酸アンモニウム塩をイミド化するイミド化反応の反応温度は、特段の制限はないが、通常50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃であり、一方、通常500℃以下、好ましくは450℃以下、より好ましくは400℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅く、反応完結までに時間がかかるという問題が生じる傾向があり、反応温度が高すぎると、好ましくない副反応が起こったり、反応器内で有機物が焦げ付くという問題が生じる傾向がある。
<反応圧力>
本発明に係るイミド化反応圧力は、特段の制限はないが、通常、大気圧以上、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上であり、一方、通常30MPa以下、好ましくは25MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。
反応系は、反応実施温度での原料および反応生成物の蒸気圧であっても、その他のガス成分により加圧されていてもよく、本発明に係るイミド化反応は、気相および/または液相で、好ましくは液相で実施される。
<反応方法>
本発明の一実施形態において、反応は例えば以下のa)〜c)のいずれかの手順で行われるが、これに限定されるものではない。
(a)コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを所定の反応温度・圧力にて反応させる。
(b)コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを所定の温度・圧力(以下「1段目の条件」と称す。)で反応させた後、再度所定の温度・圧力(以下「2段目の条件」と称す。)で反応させる。この場合、それぞれの反応温度・圧力は同じでも異なっていてもよい。
(c)コハク酸アンモニウム塩を含む組成物のみを予め所定の温度・圧力(以下「1段目の条件」と称す。)にて処理した後、アルキル化剤を加えて所定の温度・圧力(以下「2段目の条件」と称す。)で反応させる。この場合、それぞれの温度・圧力は同じでも異なっていてもよい。
上記(a)〜(c)の方法のうち、特に、コハク酸骨格から窒素原子を含む5員環であるコハク酸イミド構造に環化する過程と、アルキル化剤により窒素原子をアルキル化する過程とを段階的に行って反応効率を高めることができることから、(c)の方法が好ましい。
上記(b),(c)、特に上記(c)の場合、通常2段目の条件は1段目の条件より高温・高圧下で実施することが好ましく、1段目の温度条件を100℃〜300℃、2段目の温度条件を150℃〜400℃とすることが有利である。これは、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とからN−アルキルコハク酸イミドを製造する過程において、コハク酸骨格から窒素原子を含む5員環であるコハク酸イミド構造に環化する過程と、アルキル化剤により窒素原子をアルキル化する過程とでは、前者より後者において、より高い反応温度を必要とするためである。反応温度は、高いほど環化およびアルキル化に有利であるが、副反応の抑制と省エネルギーの観点から、上述の温度範囲がより有利である。
{N−アルキルコハク酸イミドの精製}
後述する触媒の存在下でN−アルキルコハク酸イミドを水素化してN−アルキルピロリドンを製造する場合、触媒反応を良好に実施して、N−アルキルピロリドンを低コストで製造するためには、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させてN−アルキルコハク酸イミドが合成された反応生成物から、N−アルキルコハク酸イミドを効率的に分離回収する必要がある。
水素化反応に供するN−アルキルコハク酸イミドは、反応生成物をそのまま使用するか、反応生成物中の軽沸成分を留去し、濃縮して使用することもできるが、目的とする還元反応を良好に実施し、N−アルキルピロリドンを低コストで製造するためには、反応生成物からN−アルキルコハク酸イミドを分離して精製して使用することが好ましい。特に、コハク酸アンモニウム塩を含む組成物がバイオマス資源由来である場合には、合成されたN−アルキルコハク酸イミドを反応生成物から分離、精製することが好ましい。
N−アルキルコハク酸イミドの回収および精製方法としては、晶析、蒸留、抽出、クロマトグラフィなど、公知の方法から選択することができ、複数の方法を組み合わせてもよい。
なお、本発明に係るイミド化反応で副生するN−アルキルスクシナミン酸は、N−アルキルコハク酸イミドの加水分解体であり、N−アルキルコハク酸イミドの蒸留条件で容易に脱水環化してN−アルキルコハク酸イミドに変換される。そのため、精製工程に蒸留操作を入れることは収率向上のために好ましく、N−アルキルスクシナミン酸はN−アルキルコハク酸イミドと等価な有効成分と見做すことができる。
[N−アルキルピロリドン]
本発明のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法により製造されたN−アルキルコハク酸イミドは、これを還元することにより、下記一般式(III)で表されるN−アルキルピロリドンを製造するための中間体として好適に用いられる。
Figure 2011207812
(式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基である。)
ここでRは、前記一般式(II)におけると同義であり、その好ましいものも同様である。
<還元工程>
N−アルキルコハク酸イミドからN−アルキルピロリドンへの還元工程は、触媒の存在下で水素を用いる接触水素化反応、複合水素化物を用いる水素化反応、または、例えばメタノールやイソプロパノール等のアルコールがアルデヒドやケトンに変換されながら水素を供給する水素移動反応等によって行われる。
その中でも好ましくは、接触水素化反応であり、接触水素化反応は気相または液相で実施することができる。水素化反応はバッチ式、連続式いずれの反応形式でもよく、従来の公知の方法に従って行うことができる。水素化反応に供するN−アルキルコハク酸イミドは、前述の如く、N−アルキルコハク酸イミドの製造工程で得られたN−アルキルコハク酸イミドを含有する反応生成物をそのまま用いても、また反応に悪影響を及ぼさない溶媒で希釈して用いてもよいが、目的とする触媒反応を良好に実施し、低コストでN−アルキルピロリドンを製造するためには、N−アルキルコハク酸イミドを精製して使用することが好ましい。
本発明に係る水素化反応温度は、特段の制限はないが、通常50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、一方、通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅く、反応完結までに時間がかかるという問題が生じる傾向があり、反応温度が高すぎると、炭素窒素結合が水素化分解される等の好ましくない副反応が進行するという問題が生じる傾向がある。
本発明に係る水素化反応圧力は、特段の制限はないが、通常、大気圧以上、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上であり、一方、通常30MPa以下、好ましくは25MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。反応圧力が低すぎると、反応速度が遅く、反応完結までに時間がかかるという問題が生じる傾向があり、反応圧力が高すぎると、目的物の水添反応が進行し、過水添副生物が多くなるという問題が生じる傾向がある。
反応系は反応実施温度での原料および反応生成物の蒸気圧であっても、その他のガス成分により加圧されていてもよく、気相および/または液相、好ましくは液相で実施される。
水素化反応の具体的な方法としては、加圧反応器内にN−アルキルコハク酸イミド或いはそれを含む組成物と水素化触媒とを共存させ、この混合物を撹拌しながら水素ガスを導入して水素化反応を行い、反応生成物から水素化触媒を分離して反応器から取り出す方法、固定床多管式または単管式の反応器を用いて、N−アルキルコハク酸イミド或いはそれを含む組成物と水素ガスを反応器の上部または下部から流通させながら水素化反応を行い、反応生成物を取り出す方法、あるいは水素ガスを反応器の下部から、N−アルキルコハク酸イミド或いはそれを含む組成物は上部から流通させて水素化反応を行い、反応生成物を取り出す方法、あるいは流動床反応器を用いる方法などが挙げられる。
<水素化触媒>
上記水素化反応に用いられる水素化触媒としては、公知の均一系ならびに不均一系の水素化触媒を用いることができる。具体的な水素化触媒としては、特に限定はされないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、白金、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、亜鉛、スズ、インジウム、アンチモンなどの金属を1種以上含む水素化触媒が用いられ、より好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、白金、銅、ニッケル、コバルト、クロム、亜鉛、スズなどの金属を1種以上含む水素化触媒が用いられる。
これらの水素化触媒は上記の金属を含む化合物をそのまま使用したり、有機ホスフィンなどの配位子を共存させて使用することができるが、触媒分離の容易性の観点から不均一系の金属含有触媒が好ましい。
水素化触媒としては、これらの触媒活性成分となる金属を含む化合物をシリカやチタン、ジルコニア、活性アルミナなどの金属酸化物またはこれらの複合金属酸化物、或いは活性炭共存下で用いるか、または上記の金属をシリカやチタン、ジルコニア、活性アルミナなどの金属酸化物またはこれらの複合金属酸化物、或いは活性炭などの担体に担持した担持触媒が好適に使用される。ここで用いられる担体は、モンモリロナイト、シリケートおよびゼオライトのように特異な構造を有しているものでもよい。また、上記の触媒活性成分となる金属を酸化物或いは複合酸化物として含む沈殿触媒として用いてもよく、担体成分の存在下で生成させた沈殿触媒を用いることもできる。
このような水素化触媒の触媒活性成分である金属の含有量は、通常、触媒全体に対して約0.1〜約90重量%であるが、貴金属担持触媒においては、好ましくは約0.1〜約50重量%の含有量であり、金属酸化物の沈殿触媒においては、好ましくは約10〜約90重量%の含有量である。
本発明において、上述の水素化触媒の触媒活性金属の種類、複数種の金属の組み合わせ、担体との組み合わせや、触媒活性金属の含有量および調製方法は、目的とする水素化反応に悪影響を及ぼさない限り、任意の組み合わせが可能であり、特に限定されるものではない。
不均一触媒の使用においては、反応開始時に存在する水素ガスによって、反応系中で活性化して使用することができるが、使用前に水素ガス存在下で活性化した触媒を用いてもよい。使用前の触媒活性化は、触媒に悪影響を及ぼさない溶媒の存在下あるいは非存在下で、バッチ式反応器内で水素ガス処理する方法、連続式の固定床反応器あるいは流動床反応器に触媒を入れ、水素ガスを流通させて水素ガス処理する方法などが挙げられる。水素ガス処理における温度および圧力は、それぞれの触媒に適した範囲から選択される。
<水素ガス>
水素化反応に使用する水素ガスは、純水素ガスでもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスで希釈させたものも使用できる。ただし、一酸化炭素は、水素化反応効率への影響が懸念される為、水素ガス中の一酸化炭素濃度は通常10000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
なお、下記例における酸類、糖類、コハク酸、N−メチルコハク酸イミド(MSI)およびN−メチルスクシナミン酸(NMSA)の定量分析はLC(液体クロマトグラフィー)を用い、アミノ酸の定量分析はアミノ酸分析計を用い、それぞれ以下の条件で測定を行った。
<酸類、糖類の定量分析>
カラム;信和加工(株)製 ULTRON PS−80H 8.0mmI.D.×30cm
溶離液:水/過塩素酸(過塩素酸60%水溶液1.8ml/1L−HO)
温度:60℃
<コハク酸、N−メチルコハク酸イミド(MSI)およびN−メチルスクシナミン酸(NMSA)の定量分析>
カラム:イオン交換カラム MCI GEL CK08EH 8mm×300mm
温度:50℃
溶離液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
流量:1.0ml/min
注入量:20μl
検出器:RI検出器
<アミノ酸の定量分析>
装置:日立アミノ酸分析計 L−8900
分析条件:生体アミノ酸分離条件−ニンヒドリン発色法(570nm,440nm)
標準品:PF(和光アミノ酸混合液ANII型0.8ml+B型0.8ml→10ml)
注入量:10μl
定量計算:プロリンは、波長440nm、他のアミノ酸は波長570nmのピークの面積から、一点外部標準法にてアミノ酸含有を算出
<ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)増強株の作製>
(A)ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノムDNAの抽出
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。
A培地(尿素:2g、(NHSO:7g、KHPO:0.5g、KHPO:0.5g、MgSO・7HO:0.5g、FeSO・7HO:6mg、MnSO・4−5HO:6mg、ビオチン:200μg、チアミン:100μg、イーストエキストラクト:1g、カザミノ酸:1g、グルコース:20gを蒸留水:1Lに溶解)10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加えて混合した。遠心分離(15,000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の鋳型DNAに使用した。
(B)PC遺伝子プロモーター置換用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子のN末端領域のDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036のCgl0689)を基に設計した合成DNA(配列番号1および配列番号2)を用いたPCRによって行った。尚、配列番号1のDNAは5’末端がリン酸化されたものを用いた。
反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。
反応温度条件:DNAサーマルサイクラーPTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で1分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は4分とした。増幅産物の確認は、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.9kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをPC遺伝子N末端断片とした。
一方、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来で構成的に高発現するTZ4プロモーター断片はプラスミドpMJPC1(特開2005−95169)を鋳型とし、配列番号3および配列番号4に記載の合成DNAを用いたPCRにより調製した。尚、配列番号4のDNAは5’末端がリン酸化されたものを用いた。
反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。
反応温度条件:DNAサーマルサイクラーPTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒分からなるサイクルを25回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は3分とした。増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.5kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをTZ4プロモーター断片とした。
上記にて調製したPC遺伝子N末端断片とTZ4プロモーター断片を混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結後、制限酵素PstIで切断し、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.0kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収し、これをTZ4プロモーター::PC遺伝子N末端断片とした。さらにこのDNA断片と大腸菌プラスミドpHSG299(宝酒造製)をPstIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mL カナマシンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素PstIで切断することにより、約1.0kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.1と命名した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子の5’上流領域のDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号5および配列番号6)を用いたPCRによって行った。
反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。
反応温度条件:DNAサーマルサイクラーPTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。
増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.7kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行った。回収したDNA断片は、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 Polynucleotide Kinase:宝酒造製)により5’末端をリン酸化した後、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて大腸菌ベクターpUC119(宝酒造製)のSmaI部位に結合し、得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLアンピシリンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを、配列番号7および配列番号6で示した合成DNAをプライマーとしたPCR反応に供した。
反応液組成:上記プラスミド1ng、Ex−TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.2μM各々プライマー、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。
反応温度条件:DNAサーマルサイクラーPTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で50秒からなるサイクルを20回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。このようにして挿入DNA断片の有無を確認した結果、約0.7kbの増幅産物を認めるプラスミドを選抜し、これをpMJPC5.1と命名した。
次に、上記pMJPC17.1およびpMJPC5.1をそれぞれ制限酵素XbaIで切断後混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。これを制限酵素SacIおよび制限酵素SphIで切断したDNA断片を0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.75kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収した。このPC遺伝子の5’上流領域とN末端領域の間にTZ4プロモーターが挿入されたDNA断片を、sacB遺伝子を含むプラスミドpKMB1(特開2005−95169)をSacIおよびSphIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIおよびSphIで切断することにより、約1.75kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.2と命名した。
(C)PC増強株の作製
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH(ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株:特開2005−95169)の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pMJPC17.2のプラスミドDNAを用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から再調製した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株の形質転換は電気パルス法(Res.Microbiol.、Vol.144,p.181−185,1993)によって行い、得られた形質転換体をカナマイシン 25μg/mLを含むLBG寒天培地(トリプトン:10g、イーストエキストラクト:5g、NaCl:5g、グルコース:20g、および寒天:15gを、蒸留水:1Lに溶解)に塗抹した。この培地上に生育した株は、pMJPC17.2がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのPC遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されているはずである。次に、上記相同組み換え株をカナマイシン25μg/mLを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした。
その結果、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。この様にして得られた株の中には、そのPC遺伝子の上流にpMJPC17.2に由来するTZ4プロモーターが挿入されたものと野生型に戻ったものが含まれる。PC遺伝子がプロモーター置換型であるか野生型であるかの確認は、LBG培地にて液体培養して得られた菌体を直接PCR反応に供し、PC遺伝子の検出を行うことによって容易に確認できる。TZ4プロモーターおよびPC遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号8および配列番号9)を用いて分析すると、プロモーター置換型では678bpのDNA断片を認めるはずである。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、TZ4プロモーターが挿入された株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHと命名した。
(D)ピルベートカルボキシラーゼ酵素活性の測定
上記(C)で得られた形質転換株ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株をグルコース2%を含むA培地100mLで終夜培養を行った。得られた菌体を集菌後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)50mLで洗浄し、同組成の緩衝液20mLに再度懸濁させた。懸濁液をSONIFIER 350(BRANSON製)で破砕し、遠心分離した上清を無細胞抽出液とした。得られた無細胞抽出液を用いピルベートカルボキシラーゼ活性を測定した。酵素活性の測定は100mM Tris/HCl緩衝液(pH7.5)、0.1mg/10mlビオチン、5mM塩化マグネシウム、50mM炭酸水素ナトリウム、5mMピルビン酸ナトリウム、5mMアデノシン3リン酸ナトリウム、0.32mM NADH、20units/1.5mlリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(WAKO製、酵母由来)および酵素を含む反応液中で25℃で反応させることにより行った。1Uは1分間に1μmolのNADHの減少を触媒する酵素量とした。ピルベートカルボキシラーゼの発現を強化した無細胞抽出液における比活性は0.1U/mg蛋白質であった。尚、親株であるMJ233/ΔLDH株を同様に培養した菌体では、本活性測定方法検出限界以下であった。
以下、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株を有機酸生産菌として菌体調製用培養、および有機酸生産反応に用いた。
<コハク酸塩含有培養液の調製>
<種培養>
尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:5g、カザミノ酸:5g、および蒸留水:1000mLの培地100mLを500mLの三角フラスコに入れ、120℃で20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、予め滅菌した50%グルコース水溶液を4mL添加し、上記で構築したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHを接種して24時間30℃にて種培養した。
<本培養>
硫酸アンモニウム:1.0g、リン酸1カリウム:1.5g、リン酸2カリウム1.5g、塩化カリウム:1.67g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、D−ビオチン:1.0mg、塩酸チアミン:1.0mg、酵母エキス10g、消泡剤(CE457:日本油脂製):1.0gおよび蒸留水:1000mLの培地400mLを1Lの発酵糟に入れ、120℃で20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やした後、予め滅菌した72%グルコース水溶液:20mLを添加し、これに前述の種培養液を20mL加えて、30℃に保温した。pHは9.3%アンモニア水を用いて7.0以下にならないように保ち、通気は毎分300mL、攪拌は毎分600回転で24時間本培養を行った。溶存酸素濃度は培養開始直後から徐々に低下し、培養開始後4時間でほぼ0となった。その後、培養開始後15時間で溶存酸素濃度が上昇したため、予め滅菌した72%グルコース水溶液を380μL添加したところ、再び急速に低下し、ほぼ0となった。約13分後同様に溶存酸素濃度の上昇が観察されため、予め滅菌した72%グルコース水溶液を380μL添加し再び低下させた。以後、約13分毎に同様の溶存酸素濃度の上昇が見られたが、その都度同様の方法で低下させた。培養24時間後のOD660は87.3であった。
<有機酸生産培養>
リン酸1アンモニウム:84.4mg、リン酸2アンモニウム:75.8mg、塩化カリウム149.1mg、硫酸マグネシウム・7水和物:0.2g、硫酸第一鉄・7水和物:8mg、硫酸マンガン・水和物:8mg、D−ビオチン:80μg、塩酸チアミン:80μgおよび蒸留水:200mLの培地を500mLの三角フラスコに入れ、120℃で20分加熱滅菌した。室温まで冷やした後、1Lのジャーファーメンターに入れた。この懸濁液200mLに上記の本培養により得られた培養液90mL、予め滅菌した72%グルコース溶液:40mL、滅菌水:125mLを添加して混合し、35℃に保温した。pHは炭酸アンモニウム:154g、28%アンモニア水:239ml、蒸留水:650mLの水溶液を用いて7.6に保ち、毎分200回転で攪拌しながら有機酸生産反応を行った。反応開始後21時間における生産コハク酸濃度は34.8g/L、生産リンゴ酸濃度は3.1g/L、生産フマル酸濃度は1.1g/L、生産酢酸濃度は5.0g/L、アラニン濃度は2.1g/L、バリン濃度は1.4g/Lであった。また、本培養液には、トレハロース0.27g/L、未反応グルコース0.37g/Lが含有されていた。
このようにして調製したコハク酸発酵液から分画分子量1300の限外濾過膜により菌体を分離し、減圧加温下で濃縮して、コハク酸濃度25重量%のコハク酸発酵液を得た。このコハク酸発酵液中のコハク酸は、コハク酸ジアンモニウムとして存在する。このコハク酸発酵液を「コハク酸発酵液I」と称す。
<発酵液からのコハク酸の回収>
上述の有機酸生産培養に準じて調製したコハク酸発酵液を遠心分離(10,000×g、10分)処理して得られた上澄み液を減圧加温下で濃縮した。濃縮された培養液を攪拌しながら、47%硫酸を培養液に滴下して溶液のpHを2とした。硫酸を添加した培養液に有機溶媒として培養液と等容量のメチルエチルケトン(MEK)を添加し、25℃で、約30分攪拌した。得られた液を静置後、有機層と水層とに分け、分液された水層に水層の体積の半分の容量のMEKを加え、25℃で、30分攪拌した。同様に液を静置後、有機層と水層とに分けた。同様の操作を更に3回繰り返し、全有機層をあわせた。有機層を液体クロマトグラフィー(LC)で分析した結果、有機層には、使用ブロス中に含有していた97.9%量のコハク酸が抽出された。
次に得られたMEK抽出液から70℃にて400mmHgから100mmHgへ減圧度を調整しながらMEKを留去して、MEK抽出有機層を濃縮した。その後、得られた溶液を70℃から40℃まで30分かけて降温し、その後、40℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過後、冷水でリンスして、粗結晶を得た。一方、濾液は、さらに40℃から10℃まで30分かけて降温し、10℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過後、冷水でリンスして、コハク酸純度94重量%のコハク酸粗結晶を得た。このコハク酸粗結晶を「コハク酸粗結晶I」と称す。この工程では、MEK有機層に抽出されたコハク酸の98%量のコハク酸が回収された。
[比較例1]
磁気攪拌子を入れた70mLハステロイ製耐圧容器に、コハク酸ジアンモニウム3.868gと水5.019gを仕込み密閉した。反応器内を窒素ガスにて置換し、予め200℃に加熱した電気炉に設置して2.5時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、窒素ガス雰囲気下にてメタノール16.293g(コハク酸成分に対して約20モル倍)を加え密閉し、予め250℃に加熱した電気炉に設置して3.5時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、反応器を開放して反応液を採取し、反応生成物の組成を液体クロマトグラフィにて分析したところ、コハク酸ジアンモニウム転化率(以下、単に「転化率」と記す。)98.7%、N−メチルコハク酸イミド(MSI)収率80.6%、N−メチルスクシナミン酸(NMSA)収率3.0%であった。下記式で算出した有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率は87.4%であった。
有効成分選択率:(MSI収率+NMSA収率)/(転化率)×100(%)
[実施例1〜9]
メタノールの代わりに、メタノール(コハク酸成分に対して約20モル倍)と表2に示す量比のメチルアミン類の混合物を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、同様に得られた反応生成物の分析を行って、結果を比較例1の結果と共に表2に示した。
なお、以下においてメチルアミン類は、
MMA:モノメチルアミン
DMA:ジメチルアミン
TMA:トリメチルアミン
と表記する。
Figure 2011207812
表2に示すように、アルキル化剤としてメタノールのみを用いた場合より、メタノールとメチルアミン類の混合物を用いた場合において、有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率が高いことが確認された。
[比較例2]
磁気攪拌子を入れた70mLハステロイ製耐圧容器に、コハク酸粗結晶Iを3.004gと水3.509gおよび28重量%アンモニア水3.038g(コハク酸成分に対して約2モル倍)を仕込み密閉した。反応器内を窒素ガスにて置換し、予め200℃に加熱した電気炉に設置して3時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、窒素下にてメタノール14.931g(コハク酸成分に対して約20モル倍)を加え密閉した。予め250℃に加熱した電気炉に設置して3.5時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、反応器を開放して反応液を採取し、生成物組成を液体クロマトグラフィにて分析したところ、転化率98.3%、N−メチルコハク酸イミド(MSI)収率77.5%、N−メチルスクシナミン酸(NMSA)収率3.0%であった。有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率は81.8%であった。
[実施例10〜12]
メタノールの代わりに、メタノール(コハク酸成分に対して約20モル倍)と表3に示す量比のメチルアミン類の混合物を用いたこと以外は、比較例2と同様の操作を行い、同様に得られた反応生成物の分析を行って、結果を比較例2の結果と共に表3に示した。
Figure 2011207812
表3に示すように、アルキル化剤としてメタノールのみを用いた場合より、メタノールとメチルアミン類の混合物を用いた場合において、有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率が高いことが確認された。
[比較例3]
磁気攪拌子を入れた70mLハステロイ製耐圧容器に、コハク酸発酵液Iを6.019g仕込み密閉した。反応器内を窒素ガスにて置換し、予め200℃に加熱した電気炉に設置して2.5時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、窒素下にてメタノール8.018g(コハク酸成分に対して約20モル倍)を加え密閉し、予め250℃に加熱した電気炉に設置して3.5時間加熱攪拌した。加熱終了後周辺温度まで冷却し、反応器を開放して反応液を採取し、生成物組成を液体クロマトグラフィにて分析したところ、転化率97.2%、N−メチルコハク酸イミド(MSI)収率78.7%、N−メチルスクシナミン酸(NMSA)収率4.2%であった。有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率は85.3%であった。
[実施例13〜15]
メタノールの代わりに、メタノール(コハク酸成分に対して約20モル倍)と表4に示す量比のメチルアミン類の混合物を用いたこと以外は、比較例3と同様の操作を行い、同様に得られた反応生成物の分析を行って結果を比較例3の結果と共に表4に示した。
Figure 2011207812
表4に示すように、アルキル化剤としてメタノールのみを用いた場合より、メタノールとメチルアミン類の混合物を用いた場合において、有効成分であるMSIとNMSAを合わせた選択率が高いことが確認された。

Claims (6)

  1. 下記一般式(I)で表されるコハク酸アンモニウム塩を含む組成物とアルキル化剤とを反応させて、下記一般式(II)で表されるN−アルキルコハク酸イミドを製造する方法において、該アルキル化剤がアルコールとアルキルアミン類との混合物であることを特徴とするN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
    Figure 2011207812
    (式中、XおよびYは、それぞれ独立に、H,NH または他のカチオンを表し、かつXおよびYの少なくとも一方はNH を表す。)
    Figure 2011207812
    (式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
  2. 前記コハク酸アンモニウム塩を含む組成物が、コハク酸および/またはその塩を含む発酵液、或いは発酵液から取り出したコハク酸および/またはその塩を含む混合物から得られることを特徴とする請求項1に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
  3. 前記アルキル化剤の使用量が、前記コハク酸アンモニウム塩に対して化学量論量以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
  4. 前記アルコールがメタノールおよび/またはエタノールであり、前記アルキルアミン類がメチルアミン類および/またはエチルアミン類である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
  5. 前記コハク酸アンモニウム塩を含む組成物と前記アルキル化剤との反応温度が50℃〜500℃で、反応圧力が標準圧力〜30MPaであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のN−アルキルコハク酸イミドの製造方法で製造されたN−アルキルコハク酸イミドを還元することにより、下記一般式(III)で表されるN−アルキルピロリドンを製造することを特徴とするN−アルキルピロリドンの製造方法。
    Figure 2011207812
    (式中、Rは、置換されていても良い直鎖、分岐または環状の、炭素数1〜6のアルキル基である。)
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