本発明及び本願明細書において、「標的塩基配列を識別する」とは、識別の対象となる試料核酸が、標的塩基配列を有する核酸であるか否かを識別することを意味する。
本発明の標的塩基配列の識別方法は、部分2本鎖形成核酸プローブと試料核酸との間で起こる鎖置換反応が生じた程度を指標として、標的塩基配列を識別する方法に関する。本発明においては、塩基長の比が特定の範囲である2本の核酸鎖がアニールしてできた突出末端を有する2本鎖形成核酸をプローブとして用いることにより、当該プローブと2本鎖を形成している状態の試料核酸との間に鎖置換反応を起こすことができる。すなわち、試料核酸に対して、予め熱変性等の1本鎖化するための変性処理を施すことなく、プローブの自発的相互作用を用いて、試料核酸中の標的塩基配列と反応させて鎖置換反応を引き起こすことにより、特異的な塩基配列の識別を行うことができる。
本発明において用いられる部分2本鎖形成核酸プローブは、標的塩基配列と相補的な塩基配列からなる1本鎖核酸である第1プローブと、前記第1プローブと相補的な塩基配列からなる1本鎖核酸である第2プローブとからなる。第1プローブと第2プローブは、互いに長さ(塩基長)が異なる1本鎖核酸である。当該部分2本鎖形成核酸プローブは、第1プローブの3’末端側が突出末端であってもよく、第1プローブの5’末端側が突出末端であってもよく、第1プローブの両末端が突出末端であってもよい。本発明において用いられる部分2本鎖形成核酸プローブとしては、第1プローブの3’末端側又は両末端が突出末端であることが好ましい。
本発明において用いられる部分2本鎖形成核酸プローブでは、第2プローブの塩基長と第1プローブの塩基長の比([第2プローブの塩基長]/[第1プローブの塩基長])は、0.5以上1未満である。第2プローブの塩基長と第1プローブの塩基長の比が大きいほど、標的塩基配列の識別能は高くなるが、自発的鎖置換効率は低くなる傾向がある。逆に、第2プローブの塩基長と第1プローブの塩基長の比が小さくなるほど、標的塩基配列の識別能が低くなるが、自発的鎖置換効率は高くなる傾向がある。第2プローブの塩基長と第1プローブの塩基長の比を上記範囲とすることにより、2本鎖を形成している状態の試料核酸との間で、十分な識別能を発揮しつつ効率よく鎖置換反応を引き起こすことができる。
第2プローブの塩基長と第1プローブの塩基長の比が上記範囲内である限り、第1プローブ及び第2プローブの長さは、特に限定されるものではないが、第2プローブの長さ(すなわち、部分2本鎖形成核酸プローブ中で、第1プローブと第2プローブとが塩基対を形成する領域)が長くなるほど、反応液の温度を高くするか、若しくは反応時間を長くする必要がある。
2本鎖形成核酸プローブでは、突出末端領域の配列種により、自発的相互作用能は影響を受けるため、自発的鎖置換効率を高くするためには、突出末端領域の塩基配列は、試料核酸中の標的塩基配列と安定的に結合できる配列であることが好ましい。本発明において用いられる部分2本鎖形成核酸プローブでは、第1プローブの3’末端側の突出末端領域におけるGC含有量が50%以上であることが好ましい。突出末端領域におけるGC含有量が高いほど、自発的鎖置換効率が高くなり、試料核酸との鎖置換反応を効率よく行うことができる。
ここで、「部分2本鎖形成核酸プローブ中の突出末端領域」とは、第1プローブ中の、第2プローブと塩基対を形成しない領域を示す。両末端が突出末端である部分2本鎖形成核酸プローブの場合には、各末端の突出末端(1本鎖)領域ごとにそれぞれGC含有量の合計が50%以上であることがより好ましい。
本発明において、第1プローブ及び第2プローブは、DNA鎖であってもよく、RNA鎖であってもよく、DNAとRNAのキメラ鎖であってもよい。また、核酸類縁体を含むものであってもよい。核酸類縁体を含む核酸鎖とは、核酸鎖を構成する一部又は全てのヌクレオチドとして、DNA等の天然の核酸に替えて核酸類縁体が用いられているものを意味する。
本発明及び本願明細書において、核酸類縁体とは、非天然の核酸であり、天然の核酸であるDNAやRNAと同様の機能を有するものをいう。すなわち、核酸類縁体は、DNA等と同様にリン酸ジエステル結合により鎖を形成することができ、かつ、核酸類縁体を用いて形成されたプライマーやプローブは、天然の核酸のみを用いて形成されたプライマーやプローブと同様に、PCRやハイブリダイゼーションに用いることができる。このような核酸類縁体として、例えば、PNA(ポリアミドヌクレオチド誘導体)、LNA(BNA)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylene−bridged nucleic acids)、及びこれらの複合体等がある。ここで、PNAは、DNAやRNAのリン酸と5炭糖からなる主鎖をポリアミド鎖に置換したものである。また、LNA(BNA)は、リボヌクレオシドの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子がメチレンを介して結合している2つの環状構造を持つ化合物である。
また、第1プローブと第2プローブは、互いにアニール可能な核酸鎖であればよく、互いの核酸種が異なっていてもよい。例えば、第1プローブと第2プローブが共にDNA鎖であってもよく、いずれか一方がDNA鎖であり、他方がRNA鎖であってもよい。さらに、第1プローブと第2プローブのいずれか一方のみが核酸類縁体を含んでいてもよく、両者が核酸類縁体を含んでいてもよい。
さらに、第1プローブ及び第2プローブを構成する核酸又は核酸類縁体は、修飾されていてもよい。核酸や核酸類縁体の修飾に用いられる物質は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、核酸等の修飾に通常用いられる物質を用いることができる。修飾核酸や修飾核酸類縁体として、例えば、アミノ基、カルボキシビニル基、リン酸基、メチル基等の官能基により修飾された核酸、メチル基により2−O−メチル化修飾された核酸、ホスホロチオエート化修飾された核酸、蛍光物質等の後述する標識物質により修飾された核酸等が挙げられる。
また、第1プローブと第2プローブの3’末端は、伸長阻害構造をとることが望ましく、それぞれ、ポリメラーゼによる伸長反応の阻害物質により修飾されていてもよい。各プローブの3’末端が阻害物質により修飾されている場合には、反応液中にポリメラーゼが混入している場合でも、第1プローブや第2プローブが伸長反応のプライマーとして消費されることを防止することができる。このため、PCR産物を試料核酸とする場合に、精製することなく、PCR後の反応液をそのまま試料核酸として反応液に添加することができる。
このような阻害物質として、アミノ基、リン酸基、メチル基、チオール基等が挙げられる。各プローブの3’末端のヌクレオチドが、アミノ化、リン酸化、メチル化、又はチオール化等がなされていることにより、当該プローブを起点とするポリメラーゼによる伸長反応を阻害することができる。
本発明において用いられる第1プローブ及び第2プローブは、核酸増幅反応を利用して調製することもできるが、公知の化学合成によって調製することが好ましい。化学合成法のほうが、標識物質の導入位置等の自由度が高いためである。化学合成法としては、トリエステル法、亜リン酸法等が挙げられる。例えば、液相法又は不溶性の担体を使った固相合成法等を利用した通常の自動合成機(APPLIED BIOSYSTEMS社392等)を使用して1本鎖のDNAを大量に調製し、その後アニーリングを行うことにより2本鎖DNAを調製することができる。
具体的には、本発明の標的塩基配列の識別方法は、反応液中に、2本鎖を形成している状態の試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとを共存させて、鎖置換反応が生じた程度を測定することにより、前記試料核酸中の塩基配列と、標的塩基配列との同一性を識別する識別工程を有する。
本発明においては、2本鎖を形成している状態の試料核酸を、2本鎖を形成している状態の部分2本鎖形成核酸プローブと反応させる。例えば、反応液に、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブを、2本鎖を形成している状態でそれぞれ添加した後、熱変性処理や化学変性処理を行わずに、反応液の温度を65℃未満の所望の温度にすることにより、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとを2本鎖を形成している状態のまま鎖置換反応に供することができる。熱変性処理がなされた試料核酸を用いる場合には、反応液に添加する前に、試料核酸のTm値未満の温度(例えば、室温等)で十分な時間置いて2本鎖を形成させた後に鎖置換反応に供する。また、PCR産物を試料核酸として用いる場合、PCR反応溶液に予め部分2本鎖形成核酸プローブを添加しておき、PCR反応終了後、熱変性処理を行わずに、反応液の温度を65℃未満の所望の温度にして鎖置換反応を行ってもよい。PCRの最終ステップであるアニーリング工程から、直接鎖置換反応へ移行させることにより、PCR産物を、2本鎖を形成している状態のまま鎖置換反応に供することができる。
本発明において用いられる試料核酸は、2本鎖形成核酸であれば特に限定されるものではなく、生物から抽出された核酸であってもよく、核酸増幅反応により増幅された核酸であってもよい。増幅産物が1本鎖核酸である場合には、プライマー伸長反応等により2本鎖化した後に用いることができる。このような核酸増幅反応としては、例えば、PCR法、LAMP法、SMAP法、NASBA法、RCA法等が挙げられる。
本発明においては、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとを共存させる反応液の温度は、65℃未満とする。反応液の温度が高すぎると、部分2本鎖形成核酸プローブや試料核酸が解離して1本鎖化し易くなるためである。特に、反応液の温度は、部分2本鎖形成核酸プローブの解離温度以下の温度とすることが好ましい。
鎖置換反応を行う反応液の温度は、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブの両方が2本鎖を形成している状態となる温度であればよいが、部分2本鎖形成核酸プローブの第1プローブの鎖長に応じて、適宜調整することが好ましい。例えば、第1プローブの鎖長が比較的長い部分2本鎖形成核酸プローブを用いる場合には、第1プローブの鎖長が比較的短いものを用いる場合よりも、反応温度を高くすることにより、鎖置換反応を効率よく進行させることができる。具体的には、本発明においては、反応液の温度を40〜60℃とすることが好ましい。
反応液には、部分2本鎖形成核酸プローブの自発的相互作用をより効果的に促す作用を有する物質を添加してもよい。このような物質としては、ポリカチオン類が挙げられる。ポリカチオン類は潤滑剤として機能するため、ポリカチオン類の存在下で試料核酸と作用させることにより、部分2本鎖形成核酸プローブの自発的相互作用の高速化が期待される。中でも、親水性側鎖を有するポリカチオンを添加することが好ましい。親水性側鎖を有するポリカチオンとしては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン等のアミノ酸、グルコサミン等の糖、アリルアミン、エチレンイミン等のカチオン性単量体のうち、1種類又は複数種類を重合して得られた重合体や、これらの誘導体を主鎖とし、デキストラン、アミロース、セルロース等の多糖類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、及びこれらの誘導体を側鎖とする物質が挙げられる。中でも、デキストラン側鎖修飾ポリ(L−リジン)(PLL−g−Dex)やデキストラン側鎖修グアニジド化ポリ(L−リジン)(GPLL−g−Dex)(例えば、Nucleic Acids Symposium Series (2006) vol.50, p27-28、又はNucleic Acids Symposium Series (2007) vol.51, p339-340参照。)を反応液に添加することが好ましい。
さらに、反応液には、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとの間の相互作用を阻害しない限り、その他の物質を添加することもできる。例えば、反応液のpHを調整する緩衝剤や、2本鎖形成に必要な1価あるいは2価の陽イオン、2本鎖形成核酸の安定性に影響を与える有機溶媒等を添加することができる。緩衝剤としては、例えば、トリス塩酸等が挙げられる。陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオンやマグネシウムイオン等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルフォルムアミド(DMF)等が挙げられる。
鎖置換反応の反応時間は、平衡状態に達するのに十分な時間であればよく、標的塩基配列の配列や塩基長、第2プローブの配列や塩基長、反応温度、反応液の組成等を考慮して、適宜決定することができる。
反応液中に、鎖置換反応により形成された新たな2本鎖形成核酸が十分量存在していた場合には、試料核酸は標的塩基配列を有していると判断する。一方、十分量の新たな2本鎖形成核酸が存在していなかった場合には、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとの間で鎖置換反応が起こらず、試料核酸は標的塩基配列を有していないと判断することができる。なお、本発明において、「鎖置換反応が生じた程度を測定する」とは、反応液に添加した部分2本鎖形成核酸プローブ全体に対する、試料核酸と鎖置換反応を引き起こしたプローブの割合(試料核酸とアニールした第1プローブの割合)を測定することを意味する。
鎖置換反応が生じた程度の測定は、鎖置換反応後(エンドポイント)においてのみ行ってもよく、鎖置換反応中に経時的に(リアルタイムに)行ってもよい。また、鎖置換反応の開始時及び終了時に行い、両者の測定値を比較することにより、試料核酸が標的塩基配列を有しているか否かを識別してもよい。
部分2本鎖形成核酸プローブの第1プローブと第2プローブを予め標識物質により標識しておくことにより、当該標識物質を指標として、鎖置換反応が生じた程度を定量的若しくは半定量的に測定することができる。中でも、第1プローブ及び第2プローブが、互いに異なる種類の標識物質によりそれぞれ標識されていることが好ましい。このように予め標識した場合には、鎖置換反応により形成された2本鎖形成核酸は1種類の標識物質でのみ標識されており、2種類の標識物質により標識されている部分2本鎖形成核酸プローブと区別して検出することができる。
また、2種類の標識物質のうち、いずれかの標識物質を固相単体に結合可能な物質とした場合には、汎用されている固液分離作業を行うことにより、試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとの間で鎖置換反応が生じた程度を測定することができる。例えば、第1プローブ又は第2プローブのいずれか一方のプローブを標識物質Aで標識し、他方のプローブを固相単体に結合可能な標識物質Bで標識し、鎖置換反応後の反応液を、標識物質Bが結合可能な固相単体に接触させる。その後、当該固相担体に結合している2本鎖形成核酸中の標識物質Aを検出する。鎖置換反応が起こった場合には、固相担体に結合している2本鎖形成核酸中の標識物質Aにより標識されている2本鎖形成核酸の割合が減少する。
標識物質としては、非放射性、放射性物質のどちらを用いてもよいが、好ましくは非放射性物質が用いられる。非放射性の標識物質としては、直接標識可能なものとして蛍光物質[例えばフルオレッセイン誘導体(フルオレッセインイソチオシアネート等)、ローダミン及びその誘導体(テトラメチルローダミンイソチオシアネート等)]、化学発光物質(例えばアクリジン等)等が挙げられる。また、標識物質と特異的に結合する物質を利用することにより、間接的に標識物質を検出することができる。このような標識物質としては、ビオチン、リガンド、特定の核酸あるいはタンパク質ハプテン等が挙げられる。そして、標識物質と特異的に結合する物質としては、ビオチンの場合にはこれに特異的に結合するアビジンあるいはストレプトアビジンが、ハプテンの場合はこれに特異的に結合する抗体が、リガンドの場合はレセプターが、特定の核酸あるいはタンパク質の場合はこれと特異的に結合する核酸、核酸結合タンパク質あるいは特定のタンパク質と親和性のあるタンパク質等が利用できる。 上記ハプテンとしては2,4−ジニトロフェニル基を有する化合物やジゴキシゲニンを使うことができ、更にはビオチンあるいは蛍光物質等もハプテンとして使用することができる。これらの標識物質は、いずれも単独又は必要があれば複数種の組み合わせで公知の手段(特開昭59−93099号公報、特開昭59−148798号公報、特開昭59−204200号公報参照。)により、導入することができる。
特に、本発明においては、互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質(例えば、励起により蛍光を発生するドナー標識物質と、その蛍光を吸収するアクセプター標識物質)を用いて、これらの標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを指標として、鎖置換反応が生じた程度を測定することが好ましい。
標識物質間のエネルギー移動とは、エネルギーを発生するドナー標識物質とこのドナー標識物質から発生したエネルギーを吸収するアクセプター標識物質との少なくとも2種の標識物質が、互いに近接した状態にある場合に、ドナー標識物質からアクセプター標識物質へのエネルギーの移動をいう。例えば、2種の標識物質が蛍光物質である場合、ドナー標識物質を励起して生じる蛍光をアクセプター標識物質が吸収し、このアクセプター標識物質が発する蛍光を測定するか、又はドナー標識物質を励起して生じる蛍光をアクセプター標識物質が吸収することにより起こるドナー標識物質の消光を測定することができる(PCR Methods and applications 4,357−362(1995)、Nature Biotechnology 16,49−53(1998))。なお、ドナー標識物質の蛍光波長とアクセプター標識物質の吸収波長に重なりがなくてもエネルギー移動が起こる場合があるが、このようなエネルギー移動も本発明に含まれるものである。また、アクセプター標識物質は消光物質であってもよい。このようなくクエンチャーとして、例えばDABCYLやブラックホール等が挙げられる。
互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質としては、互いに近接した状態でエネルギー移動可能なものであれば特に制限されないが、中でも蛍光物質、遅延蛍光物質が好ましく、場合によっては化学発光物質、生物発光物質等を用いることもできる。このような標識物質の組み合せとしては、フルオレセイン及びその誘導体(例えばフルオレセインイソチオシアネート等)とローダミン及びその誘導体(例えばテトラメチルローダミンイソチオシアネート、テトラメチルローダミン−5−(and−6−)ヘキサノイックアシッド等)との組み合わせ、フルオレセインとDABCYLとの組み合わせ等が挙げられ、これらの中から任意の組み合わせを選択することができる(Nonisotopic DNA Probe Techniques.Academic Press(1992))。その他、近接させた場合に熱エネルギーの放出が生じる組み合わせの分子であってもよい。このような標識物質の組み合わせとしては、Alexa Fluor(登録商標)488(インビトロジェン社製)、ATTO 488(ATTO-TEC GmbH社製)、Alexa Fluor(登録商標)594(インビトロジェン社製)、及びROX(Carboxy-X-rhodamine)からなる群より選択される1とBHQ(登録商標、Black hole quencher)−1又はBHQ(登録商標)−2との組み合わせ等が挙げられる。
なお、グアニンは、FAMが近接した場合にクエンチする能力があるため(Nucleic acids Research 2002,vol.30.no.9 2089-2195)、これを利用してもよい。例えば、第1プローブの5’末端が平滑末端であり、3’末端が突出末端である部分2本鎖形成核酸プローブにおいては、第1プローブの5’末端をFAMで標識した場合に、第2プローブの3’末端の塩基がグアニンである場合には、当該第2プローブを標識物質で標識せずともよい。
第1プローブ又は第2プローブに標識物質を導入する方法としては、一般的な核酸への標識導入方法を採用することができる。例えば、標識物質を核酸に直接化学的に導入する方法(Biotechniques 24,484−489(1998))、DNAポリメラーゼ反応あるいはRNAポリメラーゼ反応により標識物質結合モノヌクレオチドを導入する方法(Science 238,336−3341(1987))、標識物質を導入したプライマーを用いてPCR反応を行うことにより導入する方法(PCR Methods and Applications 2,34−40(1992))等が挙げられる。
第1プローブ又は第2プローブに標識物質を導入する際には、各プローブと標識物質とを、リンカーを介して結合させてもよい。当該リンカーとしては、核酸の標識の際に一般的に用いられるリンカーの中から適宜選択して用いることができる。このようなリンカーとしては、例えば、1〜5塩基のオリゴヌクレオチド等が挙げられる。なお、リンカーとしてオリゴヌクレオチドを用いる場合には、第1プローブのリンカーと第2プローブのリンカーとを、同一の塩基配列としてもよく、互いに相補的な塩基配列としてもよく、ランダムな塩基配列としてもよい。
部分2本鎖形成核酸プローブ中の突出末端領域を標識物質等で修飾した場合には、部分2本鎖形成核酸プローブの試料核酸に対する自発的相互作用能が低下する傾向がある。よって、第1プローブ又は第2プローブに標識物質を導入する位置は、両プローブが塩基対を形成する領域、すなわち、部分2本鎖形成核酸プローブ中の2本鎖形成領域であることが好ましい。特に、部分2本鎖形成核酸プローブが平滑末端を有する場合には、第1プローブ及び第2プローブの平滑末端部位に標識物質を導入することが好ましい。例えば、第1プローブ及び第2プローブを、互いにエネルギー移動可能な標識物質でそれぞれ標識する場合には、両者がアニールしている場合(部分2本鎖形成核酸プローブの場合)にはエネルギー移動が生じる位置に標識することが必要である。両プローブの平滑末端部位にそれぞれ標識物質を導入することにより、部分2本鎖形成核酸プローブでエネルギー移動を起こすことができる。
本発明の標的塩基配列の識別方法では、試料核酸を予め変性して1本鎖化する高温処理過程を行わない。このため、遺伝子検出を本発明の標的塩基配列の識別方法によって行うことにより、検出反応やその検出装置システムを簡素化、簡便化することが可能となる。また、検出装置システム等の開発に費やされる費用、時間を削減でき、さらに、検出反応の安定性及び再現性についての改善も併せて期待される。
特に、後記実施例2等で示すように、本発明の標的塩基配列の識別方法は、試料核酸を予め1本鎖化した後に部分2本鎖形成核酸プローブの自発的相互作用により鎖置換反応を行う従来法よりも、塩基配列の識別性能に優れている。つまり、本発明の標的塩基配列の識別方法は、2本鎖を形成している状態の試料核酸中の標的塩基配列を、煩雑な操作なしに低ノイズレベルで検出することができる。部分2本鎖形成核酸プローブを用いて標的塩基配列を識別する際に、熱変性工程を行わないことにより、既存の熱変性システムを用いた核酸識別法よりも塩基配列の識別性能を改善し得ることは、本発明者によって初めて見出された知見である。
本発明の標的塩基配列の識別方法が優れた識別性能を有する理由は明らかではないが、以下に示す反応機構のためではないかと推察される。図1は、本発明の標的塩基配列の識別方法の一態様において、反応液中に存在していると推定される核酸を、熱変性工程を必須とする従来法と比較して模式的に示した図である。上段(「変温反応DSP」)が熱変性工程後に反応液の温度を降下させてハイブリダイゼーションを行う従来法を示し、下段(「等温反応DSP」)が熱変性工程を行わずに65℃未満の温度で鎖置換反応を行う本発明の方法を示す。図中、「T1」及び「T2」は試料核酸を構成する各核酸鎖を示し、「P1」は第1プローブを示し、「P2」は第2プローブを示す。「P1」は、「T1」の部分領域と相補的な塩基配列からなる。
熱変性処理を施した従来法では、反応液中の核酸は、元の試料核酸(A)、第1プローブと第2プローブがアニールしている部分2本鎖形成核酸プローブ(B)、元の試料核酸と部分2本鎖形成核酸プローブとの間で鎖が組み換えられて新たに形成された2種類の2本鎖形成核酸(C)の3通りのハイブリダイゼーション・グループに分けることができる。反応液中では、1本鎖化された試料核酸と、同じく1本鎖化された部分2本鎖形成核酸プローブとの間において、非競争的なハイブリダイゼーションが進行し、塩基配列特異的なハブリダイゼーションが難しくなることが予想される。
これに対して、熱変性処理を施さない本発明の方法では、非競争的なハイブリダイゼーション環境は存在せず、元の試料核酸(A)、部分2本鎖形成核酸プローブ(B)、自発的相互作用により、第1プローブが元の試料核酸の「T1」とアニールしたもの(C)が存在する。このように、非競争的なハイブリダイゼーションではなく、部分2本鎖形成核酸プローブと試料核酸との間の自発的相互作用による配列特異的な反応が進行することとなり、結果的に、より厳密な識別が行われることになると考えられる。
本発明の識別方法は、標的塩基配列の識別性能に優れているため、遺伝子変異の識別に好適に用いることができる。具体的には、遺伝子変異の変異部位を含む領域の塩基配列を標的塩基配列とする。この際、標的塩基配列は、第1プローブ中の変異部位を認識する部位が、第2プローブとアニールした際に塩基対を形成する領域に設けられるように設計してもよく、第2プローブとアニールした際に1本鎖となる領域(突出末端領域)に設けられるように設計してもよい。
なお、本発明において遺伝子変異とは、同一生物種の個体間において存在する遺伝子の塩基配列の相違を意味し、変異部位とは、塩基配列中の相違する部位を意味する。具体的には、塩基配列中の1又は複数の塩基が置換・欠失・挿入されていることにより、塩基配列の相違は生じる。このような遺伝子変異として、例えば、SNPやCNV多型等が挙げられる。また、本発明において遺伝子変異とは、SNP等の遺伝子多型のような先天的な変異に加えて、同一個体中の細胞間において存在する遺伝子の塩基配列の相違である体細胞変異等のように後天的な変異も含む。
本発明の識別方法において、標的となる遺伝子変異としては、がん関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、薬剤の代謝や効き目に関する遺伝子、ウィルス遺伝子、及び細菌遺伝子における変異と呼ばれるものである。がん関連遺伝子としては、例えばk−ras遺伝子、BRAF遺伝子、PTEN遺伝子、ALK遺伝子、EGFR遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、又はAPC遺伝子等が挙げられる。遺伝病に関連する遺伝子としては、各種先天性代謝異常症等との関連が報告されている遺伝子等が挙げられる。薬剤の代謝に関しては薬剤の代謝に関わる酵素であるシトクロムP450やトランスポーター等の遺伝子が挙げられる。ウィルス遺伝子、細菌遺伝子としては、例えばC型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルス等の遺伝子が挙げられる。さらに、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のないヒト白血球抗原遺伝子であるHLA等も移植の適合性や薬の副作用等と関連して重要である。さらに、ミトコンドリアにコードされている遺伝子変異も病気との関連が示唆されており、これらの遺伝子の変異も標的となりうる。
本発明の識別方法は、その高い識別精度及び簡便性から、臨床検査等においても有用である。医療現場における遺伝子検査の実用性を考えた場合に、測定工程の簡略化は非常に重要である。本発明の識別方法により、SNP等の生殖細胞変異のみならず、体細胞変異も高精度にかつ簡便に識別することができる。
例えば、K−rasはシグナル伝達系のタンパク質であり、プロトオンコ―ジーンである。多くのがん細胞においてK−ras遺伝子に変異が生じていることが報告されている。特にK−ras遺伝子のコドン12、13にアミノ酸置換を伴う変異が顕著に見られ、13種類の変異パターンが存在することが知られている。最近、K−ras遺伝子に変異がある患者では、抗がん剤であるEGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)等が効力を発揮できないことが次々に明らかとなっている。このような抗がん剤治療は副作用のみならず高額な費用を要する。したがって、治療前にK−ras変異の検査を行い、効く患者のみを選別して治療することがオーダーメード医療の一環として提案されている。
また、EGFR抗体薬であるセツキシマブは、大腸がん治療薬として使用されている。大腸がんの年間罹患数は10万人弱であり、平成17年の死亡者数は4万800人であった。食生活の欧米化により増え続ける傾向にあり、4年後には40,000人の大腸がん患者がEGFR抗体薬治療の対象となるとのEGFR抗体薬のメーカーによる試算もある。当該試算が正しければ、K−rasの検査市場は日本国内だけで4年後には4億円を越すものと予想される。
しかしながら、従来の識別法では、体細胞変異を十分な精度で迅速に識別することは困難であり、擬陽性が多い、と言う問題があった。本発明の識別方法は、体細胞変異をも非常に精度よく迅速に識別可能であることから、臨床検査における精度改善のみならず、医療費の削減にも資することが期待できる。
また、本発明の標的塩基配列の識別方法は、部分2本鎖形成核酸プローブを直接細胞や生体内に導入することにより、生体内の試料核酸中の標的塩基配列を識別することも可能である。例えば、第1プローブ及び第2プローブを、生物体外からも検出可能な標識物質によって予め修飾処理しておくことにより、生体内において鎖置換反応が生じた程度をインビボで測定することができる。
その他、本発明の標的塩基配列の識別方法において用いられる部分2本鎖形成核酸プローブを、直接生物体内に導入して、標的塩基配列を有する2本鎖形成核酸と自発的相互反応させることにより、当該2本鎖形成核酸が有する機能を任意阻害させることも可能である。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、少なくとも一方の末端が突出端である2本鎖形成プローブ(本発明において用いる部分2本鎖形成核酸プローブを含む)を突出末端プローブ、両末端が平滑端である2本鎖形成プローブを平滑末端プローブという。また、実施例で用いられる各プローブ及び核酸鎖は、特段の記載が無い限り、常法の化学合成法により調製した。
[実施例1]
突出末端プローブと標的塩基配列を有する2本鎖形成核酸との自発的相互作用の検討を行った。
具体的には、遺伝子変異の変異部位を含む領域を標的塩基配列とし、反応液中に、正常型を検出する突出末端プローブと、正常型アレル又は変異型アレルの塩基配列からなる2本鎖形成核酸(オリゴDNA:49bp)とを共存させ、鎖置換反応が生じた程度を測定した。対照として、平滑末端プローブを用いて同様に測定した。
突出末端プローブは、正常型のアレルと相補的な塩基配列からなり、5’末端が蛍光物質Alexa Fluor 488によって修飾されており、かつ3’末端がアミノ基で修飾されているDPS−W25−1プローブ(本発明の第1プローブに相当)と、DPS−W25−1プローブと相補的な塩基配列からなり、3’末端が消光物質Black hole quencher 1によって修飾されているDPS−W21−2プローブを突出末端プローブ(本発明の第2プローブに相当)とにより形成した。この突出末端プローブは、DPS−W25−1プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が50%である。また、平滑末端プローブは、DPS−W25−1プローブと相補的な塩基配列からなり、3’末端が消光物質Black hole quencher 1によって修飾されているDPS−W25−2プローブと、DPS−W25−1プローブとにより形成した。
各プローブ、並びに正常型アレル及び変異型アレルの2本鎖形成核酸を構成する各核酸鎖の塩基配列を表1に示す。表1中、「Ale488」はAlexa Fluor 488標識を示し、「BHQ1」はBlack hole quencher 1標識を示し、「wT49」及び「rc−wT49」は、正常型アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示し、「mT49」及び「rc−mT49」は、変異型アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示し、右欄の数字は配列表中の対応する配列番号を示す。また、各塩基配列中、下線が付されている塩基が、変異部位である。
まず、表2に記載の組成に従って、Sol.A1(平滑末端プローブ溶液)とSol.A2(突出末端プローブ溶液)とをそれぞれ室温下にて調製し、15分間放置した。表2及び3に記載の10xPCR bufferと2.5mM each dNTPは、それぞれ、Takara Taq(登録商標)Hot Start Version(TAKARA BIO社製)に付属のバッファ溶液及びdNTP mixtureを用いた。また、表2に記載の「Ale594 se dye」は、蛍光物質Alexa fluor 594 sccinimidyl ester(Invitrogen社製)を意味する。この蛍光物質は、蛍光強度の測定におけるウェル間の測定誤差を補正するために添加した。
また、Sol.A1等とは別に、表3に記載の組成に従って各種溶液(Sol.B1〜8)を調製した。表3中、「NTC」は、2本鎖形成核酸が含まれないネガティブコントロールである。また、「Wt」は正常型のジェノタイプを、「Ht」は変異ヘテロ型のジェノタイプを、「Mt」は変異ホモ型のジェノタイプを、それぞれ想定して調製された2本鎖形成核酸溶液である。
次に、Sol.A1を等量(20μL)ずつ、Sol.B1〜4に添加し、総量40μLの反応溶液を調製した。同様に、Sol.A2を等量(20μL)ずつ、Sol.B5〜8に添加し、総量40μLの反応溶液を調製した。これらの反応溶液は、調製後直ちに蛍光検出装置LightCycler−330(Roche社製)にセットし、まず、昇温速度20℃/秒で40℃にして50分間保持した後(温調領域A)、昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて30秒間保持し(温調領域B)、その後降温速度0.1℃/秒で40℃に下げて30秒間保持する(温調領域C)という温調条件にて、蛍光経時測定を行った。なお、蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 1)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 1)として行った。
図2は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。図2Aが平滑末端プローブを含む反応液の結果を、図2Bが突出末端プローブを含む反応液の結果を示す。また、図中、「NTC」、「Wt」、「Ht」、「Mt」は、表3と同様に、それぞれ、反応液に添加した2本鎖形成核酸溶液(Sol.B)の種類を示す。図中、Y軸は、プローブの片側に修飾されたAlexa fluor 488の蛍光(F1)と、ウェル間差補正を目的として添加されたAlexa fluor 594の蛍光(F2)との強度比(F1/F2)を示す。F1/F2が高くなるほど、Alexa fluor 488に対するBlack hole quencher 1によるクエンチング効果が低下していることを示す。つまり、この強度比をモニタリングすることによって、2本鎖形成核酸プローブと2本鎖形成核酸間の相互作用の様子を示唆することができる。
平滑末端プローブでは、温調領域A(40℃等温環境)において、いずれのジェノタイプの2本鎖形成核酸に対しても蛍光強度比に変化は認められなかった。一方、突出末端プローブでは、変異ホモ型(Mt)は、2本鎖形成核酸が含まれないネガティブコントロール(NTC)と同様に蛍光強度比に変化は認められなかったのに対して、正常型(Wt)及び変異ヘテロ型(Ht)において顕著な強度比変化が現れた。特に、正常型(Wt)では、変異ヘテロ型(Ht)のおよそ2倍の強度比増加を認めた。このことから、突出末端プローブは、等温環境下にあっても、2本鎖形成核酸と相互作用することが分かり、塩基配列特異的に反応が促進され、ジェノタイピング能をも有することも明らかとなった。
温調領域Bの熱変性処理後に、温調領域Cのリハイブリダイゼーションを行うことにより、プローブ配列特異的に標的塩基配列を有する核酸とプローブとをハイブリダイゼーションさせることが可能である。温調領域Cにおいては、平滑末端プローブでも2本鎖形成核酸のジェノタイプに応じた蛍光強度比(ジェノタイピング能)を確認することができた。しかしながら、温調領域Bの蛍光強度比の最大値を鑑みると、熱変性処理後の反応効率は決して高いものではないことがうかがえる。これは、比較的長鎖の2本鎖形成核酸が1本鎖化されて得られた核酸鎖と、比較的短鎖のプローブとの競争的ハイブリダイゼーションにおいて、Tmの高い長鎖の核酸鎖同士が優位にハイブリダイゼーションした結果と考えられる。
これに対して、突出末端プローブでは、温調領域Cにおいて、極めて高い反応効率のジェノタイピング能を認めることができた。ここで驚くべきことは、温調領域Aにおける自発的ジェノタイピング能が、温調領域Cのジェノタイピング能に匹敵する高効率で反応していた点である。
[実施例2]
突出末端プローブの自発的相互作用による核酸配列検出精度の検討を行った。
突出末端プローブは、DPS−W25−1プローブを、5塩基のポリA配列を介して蛍光物質Alexa Fluor 488によって修飾されるようにし、かつ3’末端のアミノ基の修飾を外したDPS−W21+5Aプローブと、DPS−W21−2プローブを、5塩基のポリA配列を介して消光物質Black hole quencher 1によって修飾されるようにしたDPS−W21+5Aプローブとにより形成した。DPS−W21+5Aプローブ及びDPS−W21+5Aプローブの塩基配列を表4に示す。表4中、「Ale488」、「BHQ1」、及び右欄の数字は表1と同じである。
具体的には、まず、表5に記載の組成に従って各種溶液(Sol.A1〜3)を室温下にて調製し、15分間放置した。また、Sol.Aとは別に、表6に記載の組成に従って各種溶液(Sol.B1〜3)を調製した。Sol.B1は2本鎖形成核酸が含まれないネガティブコントロールであり、Sol.B2は突出末端プローブとマッチしている正常型のジェノタイプを、Sol.B3は突出末端プローブとミスマッチの変異ホモ型のジェノタイプを、それぞれ想定して調製された2本鎖形成核酸溶液である。なお、表5及び6中、「10xPCR buffer」、「Ale594 se dye」、「wT49」、「rc−wT49」、「mT49」、及び「rc−mT49」は、表2及び3と同じである。
次に、Sol.A1〜3をSol.B1〜3にそれぞれ添加し、総量20μLの反応溶液を調製した。これらの反応溶液は、調製後直ちに蛍光検出装置LightCycler−330(Roche社製)にセットし、まず、昇温速度20℃/秒で40℃にして20分間保持した後(温調領域A)、昇温速度20℃/秒で55℃にして20分間保持し(温調領域B)、さらに昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて30秒間保持し(温調領域C)、その後降温速度20℃/秒で40℃にまで下げて20分間保持する(温調領域D)という温調条件にて、蛍光経時測定を行った。なお、蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 1)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 15)として行った。
図3は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。この結果、温調領域AにおけるS/N比は12であり、温調領域BにおけるS/N比は11であり、温調領域DにおけるS/N比は3であった。これらの結果から、部分2本鎖形成核酸プローブは、試料核酸を95℃等で熱変性処理して1本鎖化した後に相互作用させる場合(温調領域D)よりも、変性処理を施さずに2本鎖を形成した状態の試料核酸と相互作用させたほうが(温調領域A及びB)、より高いS/N比で標的塩基配列を識別できることが明らかとなった。
[実施例3]
突出末端プローブの自発的相互作用による標的核酸の定量検出の検討を行った。
具体的には、ゲノムDNAが正常型であるcell line及びゲノムDNAが変異型であるcell lineから、それぞれゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてPCRを行い、正常型の2本鎖形成核酸と変異型の2本鎖形成核酸との含有費が異なる複数の試料核酸溶液を調製し、これらの試料核酸溶液と正常型を検出する突出末端プローブとを用いて、鎖置換反応が生じた程度を測定した。正常型としてNA17247 cell lineを、変異型としてNA17222 cell lineを、それぞれ用いた。なお、各cell lineは、Coriell細胞バンクから入手した。
まず、表7に記載の組成となるよう、各PCR溶液を調製した。表7中、「NA17247(W) 100%」は、PCR溶液中に含まれているゲノムDNAは全てNA17247由来のゲノムDNAであることを意味し、「NA17222(M) 100%」は、PCR溶液中に含まれているゲノムDNAは全てNA17247由来のゲノムDNAであることを意味し、「NA17247(W)/222(M) X%」は、PCR溶液中に含まれているゲノムDNAのうち、NA17247由来のゲノムDNAがX%含まれていることを意味する。また、表7中、「10xPCR buffer」及び「2.5mM each dNTP」は表2と同様である。さらに、「Hs Taq TAKARA」は、Takara Taq(登録商標)Hot Start Version(TAKARA BIO社製)に付属のTaq polymeraseを示す。
調製されたPCR溶液をLightCycler−330(Roche社製)にセットし、PCRを行った。PCRの反応条件は、95℃3分間の処理後、95℃(30秒間)→68℃(30秒間)を1サイクルとして、これを45サイクル行った。なお、PCR中の昇温速度及び降温速度は、いずれも20℃/秒とした。F33プライマー及びR30プライマーの塩基配列を表8に示す。表8中、右欄の数字は表1と同じである。これらのプライマーを用いたPCRにより、正常型遺伝子配列領域と変異型遺伝子配列領域の双方のPCR産物(197bp)が、異なる量比で含まれる2本鎖形成核酸溶液が得られる。
PCRとは別に、表9に記載の組成に従ってSol.A(突出末端プローブ溶液)を室温下にて調製し、15分間放置した。表9中の「DPS−W25−1」及び「DPS−W21−2」は、表2と同じである。
次いで、PCR反応後の各PCR溶液に、Sol.Aをそれぞれ1.5μLずつ分注混合して反応液を調製した。これらの反応溶液は、調製後直ちに蛍光検出装置LightCycler−330(Roche社製)にセットし、まず、昇温速度20℃/秒で40℃にして40分間保持し(温調領域A)、次いで昇温速度20℃/秒で50℃にして40分間保持し(温調領域B)、さらに昇温速度20℃/秒で60℃にして40分間保持した後(温調領域C)、昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて30秒間保持し(温調領域D)、その後降温速度0.1℃/秒で40℃に下げて30秒間保持する(温調領域E)という温調条件にて、蛍光経時測定を行った。なお、蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 100)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 100)として行った。
図4は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。この結果、温調領域AからBにかけて、及び温調領域Bの経時過程において、蛍光強度比が減少するものと、増加するものとの両者が観察された。ただし、温調領域A〜Cでは、平衡に達した時点では、正常型遺伝子の含有量順位に相関した蛍光強度比を示した(正常型配列塩基の含有量が低いものほど蛍光強度比が低かった)。また、温調領域DからEにかけては、リハイブリダイゼーションによるジェノタイピングを示しているが、この温調領域でも正常型配列塩基の含有量に依存した蛍光強度比を確認することができた。温調領域Eの結果は、先の温調領域Bの蛍光強度比パターンと類似していた。これらの結果から、試料核酸としてPCR産物を用いた場合でも、2本鎖形成核酸プローブの自発的相互作用による鎖置換反応を利用して標的塩基配列を識別できることが明らかとなった。
温調領域Bの経時ポイント一点(サンプリングポイント:反応開始後から80分経過時点)における蛍光強度比と変異遺伝子含有濃度との関係を図5に示した。この結果、R二乗値が0.9993となる高い相関性が得られ、2本鎖形成核酸プローブと2本鎖を形成している状態の試料核酸との相互作用が、高い定量性を示すことが明らかとなった。
[実施例4]
突出末端プローブを用いたゲノムDNAのジェノタイピングの検討を行った。具体的には、ゲノムDNAの増幅反応の反応溶液中に予め突出末端プローブを添加しておき、ゲノムDNAのジェノタイピングをホモジーニアスな系で試みた。
ゲノムDNAは、実施例3で用いたNA17247 cell line(正常型)及びNA17222 cell line(変異型)に加えて、NA17204 cell line(正常型)、NA17252 cell line(変異へテロ型)、及びNA17266 cell line(変異へテロ型)から抽出されたDNAを用いた。各cell lineはCoriell細胞バンクから入手した。
まず、表10に記載の組成となるよう、各PCR溶液を調製した。表10中の「DPS−W25−1」及び「DPS−W21−2」は表2と同じであり、「F33」及び「R30」は表9と同じである。調製されたPCR溶液をLightCycler−330(Roche社製)にセットし、実施例3と同じ条件でPCRを実行し(温調領域A)、引き続き降温速度4℃/秒で40℃まで下げて10分間保持し(温調領域B)、次いで昇温速度4℃/秒で45℃にして10分間保持し(温調領域C)、さらに昇温速度4℃/秒で50℃にして10分間保持し(温調領域D)、最後に昇温速度4℃/秒で55℃にして10分間保持した(温調領域E)。温調領域A〜Eの全工程において、蛍光経時測定を行った。蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 15)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 15)として行った。
図6は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。PCR終了直後(温調領域Aの直後)には、PCR産物(本発明の試料核酸に相当)は二本鎖形成の状態であり、その後等温環境を維持し(温調領域B)、予め内在させておいた突出末端プローブの自発的相互作用を利用してジェノタイピングを試みたものである。この結果、PCR後の温調領域BからEに移行する過程で、突出末端プローブは、正常型遺伝子(NA17204、NA17247)では高い蛍光強度比を示し、変異へテロ型遺伝子(NA17252、NA17266)では正常型と変異ホモ型の蛍光強度比の中間値を示した。特に、温調領域D(50℃)においては、ジェノタイプごとに蛍光強度比が収束する傾向にあり、突出末端プローブの高いジェノタイピング能を確認することができた。
なお、温調領域Aにおいて、Taq polymeraseを含まないNTC1(ネガティブコントロール1)とゲノムDNAを含まないNTC2(ネガティブコントロール2)の間で、蛍光強度比の顕著な差異が認められたが、これはポリメラーゼ酵素の存在有無に起因することが分かっている。
[実施例5]
突出末端プローブの突出末端領域におけるGC含有量と自発的相互作用の検討を行った。
具体的には、正常型(G12G)と2種類の変異型(G12D及びG12V)を有する実施例1で検出した遺伝子変異とは異なる種類の遺伝子変異の変異部位を含む領域を標的塩基配列とし、反応液中に、正常型を検出する突出末端プローブと、各遺伝子型のアレルの塩基配列からなる2本鎖形成核酸(オリゴDNA:54bp)とを共存させ、鎖置換反応が生じた程度を測定した。
突出末端プローブとしては、Type1〜4の4種類を用いた。
Type1プローブは、G12G/LP25プローブとG12G/SP21プローブとにより形成され、G12G/LP25プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が50%である。
Type2プローブは、G12G/LP25プローブとG12G/SP17_V.3プローブとにより形成され、G12G/LP25プローブの3’末端側の6塩基分と5’末端側の2塩基分が1本鎖であり、3’末端側の突出末端領域におけるGC含有量が50%である。
Type3プローブは、G12G/LP21_V.3プローブとG12G/SP17_V.3プローブとにより形成され、G12G/LP21_V.3プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が75%である。
Type4プローブは、G12G/LP25_V.2プローブとG12G/SP21_V.2プローブとにより形成され、G12G/LP25_V.2プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が75%である。
G12G/LP25プローブ、G12G/LP21_V.3プローブ、及びG12G/LP25_V.2プローブは、いずれも5’末端が蛍光物質Alexa Fluor 488によって修飾されており、かつ3’末端がアミノ基で修飾されている。一方で、G12G/SP21プローブ、G12G/SP17_V.3プローブ、及びG12G/SP21_V.2プローブは、いずれも3’末端が消光物質Black hole quencher 1によって修飾されている。
各プローブ、並びに各遺伝子型のアレルの2本鎖形成核酸を構成する各核酸鎖の塩基配列を表11に示す。表11中、「Ale488」、「BHQ1」、及び右欄の数字は表1と同じである。また、「T54−G12G」及び「rcT54−G12G」は正常型(G12G)アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示し、「T54−G12D」及び「rcT54−G12D」は変異型(G12D)アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示し、「T54−G12V」及び「rcT54−G12V」は変異型(G12V)アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示す。また、各塩基配列中、下線が付されている塩基が変異部位である。
まず、表12に記載の組成に従って、各種溶液(Sol.A1〜16)をそれぞれ室温下にて調製し、15分間放置した。また、Sol.A1等とは別に、表13に記載の組成に従って各種溶液(Sol.B1〜16)を調製した。表12及び13中、「10xPCR buffer」、「2.5mM each dNTP」、「Ale594 se dye」は、表2と同様である。
次に、Sol.A1〜16をSol.B1〜16にそれぞれ添加し、総量20μLの反応溶液を調製した。これらの反応溶液は、調製後直ちに蛍光検出装置LightCycler−330(Roche社製)にセットし、まず、昇温速度20℃/秒で40℃にして30分間保持した後(温調領域A)、昇温速度20℃/秒で45℃にして30分間保持し(温調領域B)、次いで昇温速度20℃/秒で50℃にして30分間保持し(温調領域C)、次いで昇温速度20℃/秒で55℃にして30分間保持し(温調領域D)、次いで昇温速度20℃/秒で60℃にして30分間保持し(温調領域E)、その後昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて1分間保持した後(温調領域F)、降温速度0.1℃/秒で40℃にまで下げて1分間保持し(温調領域G)、再度昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて1分間保持した後に(温調領域H)、降温速度20℃/秒で40℃にまで下げて1分間保持する(温調領域I)という温調条件にて、蛍光経時測定を行った。なお、蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 1)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 15)として行った。
図7は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。図7A〜Dは、それぞれ、Type1〜4プローブを用いた結果である。各図中に、用いた突出末端プローブの塩基配列を示した。塩基配列中、太字が変異部位であり、四角で囲われた塩基がプローブ中の突出末端領域である。
この結果、Type1プローブ(図7A)よりも、Type4プローブ(図7D)を用いた場合のほうがS/N比が高く、自発的鎖置換効率に顕著な差が出ていた。ここで、Type1プローブでは、突出末端プローブのうちの2本鎖形成領域のGC含量は57%、突出末端領域のGC含量は50%、より塩基長の長いG12G/LP25プローブ(本発明の第1プローブに相当)のGC含量は56%である。一方、Type4プローブでは、突出末端プローブのうちの2本鎖形成領域のGC含量は52%、突出末端領域のGC含量は75%、より塩基長の長いG12G/LP25_V.2プローブ(本発明の第1プローブに相当)のGC含量は56%である。つまり、Type1プローブとType4プローブでは、本発明の第1プローブに相当する核酸鎖中のGC含量は等しい。にもかかわらず、Type4プローブのほうが塩基配列の識別性能が高かったことから、部分2本鎖形成核酸プローブの自発的鎖置換効率には、突出末端領域におけるGC含量比が寄与しており、このGC含量比が高いほど、自発的鎖置換効率が高くなるものと推察された。
また、Type4プローブ(図7D)において、熱変性処理前の40℃(温調領域A)における自発的鎖置換反応を用いた変異識別精度(S/N比)が7〜12であったのに対して、熱変性処理後の40℃(温調領域G及び温調領域I)でのリハイブリダイゼーションによる変異識別精度(S/N比)は2以下であり、いずれも低かった。これらの比較から、熱変性処理を行わずに自発的鎖置換反応を用いた方が、より高精度に塩基変異を識別できることが分かった。
[実施例6]
突出末端プローブを構成する2本の核酸鎖の鎖長比と自発的相互作用の検討を行った。
具体的には、実施例1で検出したものと同じ遺伝子変異の変異部位を含む領域を標的塩基配列とし、反応液中に、正常型を検出する突出末端プローブと、各遺伝子型のアレルの塩基配列からなる2本鎖形成核酸(オリゴDNA:150bp)とを共存させ、鎖置換反応が生じた程度を測定した。
突出末端プローブとしては、Type1〜6の6種類を用いた。
Type1プローブは、実施例1で用いたDSP−W25−1プローブとDSP−W21−2プローブとにより形成され、DSP−W25−1プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が50%である。
Type2プローブは、実施例1で用いたDSP−W25−1プローブとDSP−W17−2プローブとにより形成され、DSP−W25−1プローブの3’末端側の4塩基分及び5’末端側の4塩基分が1本鎖であり、3’末端側の突出末端領域におけるGC含有量が50%であり、5’末端側の突出末端領域におけるGC含有量が75%である。
Type3プローブは、実施例1で用いたDSP−W25−1プローブとDSP−W16−2プローブとにより形成され、DSP−W25−1プローブの3’末端側の9塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が44%である。
Type4プローブは、DSP−W25−LNAプローブと、DSP−W21−2プローブとにより形成され、LNAで置換されている3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が50%である。なお、DSP−W25−LNAプローブは、実施例1で用いたDSP−W25−1プローブの3’末端側の4塩基分がLNAに置換されたものである。
Type5プローブは、DSP−W40−1プローブとDSP−W36−2プローブとにより形成され、DSP−W40−1プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が50%である。
Type6プローブは、DSP−W16−1プローブとDSP−W12−2プローブとにより形成され、DSP−W16−1プローブの3’末端側の4塩基分が1本鎖であり、この突出末端領域におけるGC含有量が75%である。
DSP−W25−1プローブ、DSP−W25−LNAプローブ、DSP−W40−1プローブ、及びDSP−W16−1プローブは、いずれも5’末端が蛍光物質Alexa Fluor 488によって修飾されており、かつ3’末端がアミノ基で修飾されている。一方で、DSP−W21−2プローブ、DSP−W17−2プローブ、DSP−W16−2プローブ、DSP−W36−2プローブ、及びDSP−W12−2プローブは、いずれも3’末端が消光物質Black hole quencher 1によって修飾されている。
各プローブ(但し、表1に記載のものを除く)、並びに各遺伝子型のアレルの2本鎖形成核酸を構成する各核酸鎖の塩基配列を表14に示す。表14中、「Ale488」、「BHQ1」、及び右欄の数字は表1と同じである。また、「wT150」及び「rc−wT150」は、正常型アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示し、「mT150」及び「rc−mT150」は、変異型アレルの2本鎖形成核酸を構成する核酸鎖を示す。各塩基配列中、下線が付されている塩基が変異部位である。
まず、表15及び16に記載の組成に従って、各種溶液(Sol.A1〜18)をそれぞれ室温下にて調製し、15分間放置した。また、Sol.A1等とは別に、表17及び18に記載の組成に従って各種溶液(Sol.B1〜18)を調製し、15分間放置した。表15〜18中、「10xPCR buffer」及び「Ale594 se dye」は、表2と同様である。
次に、Sol.A1〜18をSol.B1〜18にそれぞれ添加し、総量20μLの反応溶液を調製した。これらの反応溶液は、調製後直ちに蛍光検出装置LightCycler−330(Roche社製)にセットし、まず、昇温速度20℃/秒で40℃にして15分間保持した後(温調領域A)、昇温速度20℃/秒で45℃にして15分間保持し(温調領域B)、次いで昇温速度20℃/秒で50℃にして15分間保持し(温調領域C)、次いで昇温速度20℃/秒で55℃にして15分間保持し(温調領域D)、次いで昇温速度20℃/秒で60℃にして15分間保持し(温調領域E)、次いで昇温速度20℃/秒で65℃にして15分間保持し(温調領域F)、その後昇温速度20℃/秒で95℃まで上昇させて1分間保持した後(温調領域G)、降温速度20℃/秒で40℃にまで下げて15分間保持する(温調領域H)という温調条件にて、蛍光経時測定を行った。なお、蛍光検出装置による測定は、励起波長を470nm、Alexa fluor488の蛍光測光波長を520nm(gain 1)、Alexa fluor 594 sccinimidyl esterの蛍光測光波長を640nm(gain 15)として行った。
図8は、各反応液に対して蛍光経時測定を行った結果を示した図である。図8A〜Fは、それぞれ、Type1〜6プローブを用いた結果である。各図中に、用いた突出末端プローブの塩基配列を示した。塩基配列中、太字が変異部位であり、四角で囲われた塩基がプローブ中の突出末端領域であり、左上の「L」が付されている塩基がLNAである。
Type1プローブとType2プローブは、長鎖プローブの塩基長は同じであるが、短鎖プローブの塩基長が異なる。これらの結果を比較すると、鎖置換反応の反応効率は、Type1プローブ(図8A)よりもType2プローブ(図8B)を用いた場合のほうが高かったが、S/N比は、Type2プローブよりもType1プローブを用いた場合のほうが高かった。これらの結果から、第1プローブ(長鎖)と第2プローブ(短鎖)の塩基長の比([第2プローブの塩基長]/[第1プローブの塩基長])が、反応効率や塩基配列の識別能を支配する要因のひとつと考えられ、塩基長比が大きくなるほど、塩基配列の識別能は高くなるが、自発的鎖置換効率は低くなり、逆に塩基長比が小さくなるほど(0.5未満)、識別能は低くなるが、自発的鎖置換効率は高くなる傾向を示すことが分かった。
また、Type1プローブ(図8A)とType4プローブ(図8D)では、ほぼ同じような結果が得られた。このことから、部分2本鎖形成核酸プローブの突出末端領域の核酸をLNA等の核酸類縁体に置換した場合でも、置換前のプローブとほぼ同程度の自発的鎖置換反応の反応効率及び塩基配列の識別能を示すことがわかった。