JP2011202237A - 構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】強度と延性に優れた構造部材用ステンレス鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%にて、C:0.05〜0.30%、N:0.01〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜30.0%、Ni:0.1〜5.0%、Cu:0.1〜4.0%、Cr:10.0〜19.0%、Mo:0.5%以下、Nb:0.3%以下、Al:0.020〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、所定の式で表されるMd30およびMsが、50≦Md30・・・(c)、4.5Md30−625≦Ms≦50・・・(d)の式を満足し、オーステナイト相を母相とし、マルテンサイト相を1%以上含むことを特徴とする構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板。
【選択図】図1

Description

本発明は、主として衝撃吸収性能が必要な構造用部材として使用される高強度ステンレス鋼板に関するもので、特に自動車、バスのフロントサイドメンバー、ピラー、バンパーなどの衝撃吸収部材並びに足回り部材、鉄道車両の車体、自転車のリム、建築用部材などに使用される構造用鋼板に関わるものである。
環境問題の観点から、自動車、二輪車、バス、鉄道車両などの輸送機器の燃費向上が必須課題になってきている。その解決手段の一つとして、車体の軽量化が積極的に推進されている。車体の軽量化は、部材を形成する素材の軽量化、具体的には素材板厚の薄手化に依るものが大きいが、素材板厚を薄くすると衝突安全性能が低下してしまう。衝突安全性向上の対策としては、部材を構成する材料の高強度化が有効であり、普通鋼高強度鋼板が自動車の衝撃吸収部材に適用されている。しかしながら、普通鋼は耐食性能が低いため、重塗装することが前提となっている。また、普通鋼においては、固溶強化、析出強化、複相組織化、加工誘起変態など種々の方法で成されているが、いずれも高強度化に伴い延性が著しく低下する欠点がある。延性が低下すると、構造部材への加工が困難になり、構造の自由度が大きく低下することになる。
特に、近年では引張強度が1000MPaを超える高強度材の適用が検討されているが、その延性は破断伸びで高々20%程度であり、複雑形状への加工が困難であるとともに、衝突時の破壊が課題となる。一方、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性も普通鋼に比べて大幅に良好であり、塗装省略や簡略化が可能であるとともに、強度−延性バランスに優れており、化学成分の調整によって高強度−高延性が期待される。更に、衝突安全性向上に対しては、例えば車両の衝突を考えた場合、車両フレームに高い衝撃吸収能を有する材料を適用すれば、部材が圧壊変形することで衝撃を吸収し、車両内の人員に与える衝撃を緩和することが出来る。即ち、車体軽量化による燃費向上、塗装簡略化、安全性の向上などのメリットが大きくなる。
例えば鉄道車両の構造部材としては、耐食性に優れたSUS301LやSUS304などの延性が高く成型性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板が使用されている。特許文献1には、主として鉄道車両および一般車両の構造部材や補強材に使用することを目的として、高歪み速度での衝撃吸収能に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。これは、Niを6〜8%含有し、オーステナイト組織を有する素材において、変形時に加工誘起マルテンサイト相が生成することで高速変形において高強度化するものである。特許では動的引張変形時と静的引張変形時の変形強度、最大強度、加工硬化指数などが規定されている。しかしながら、比較的Niを多量に含有するためコスト高となるとともに、更に強度および延性バランスに優れた鋼が要望されていた。特許文献2には、Cが0.05%以下で加工誘起マルテンサイト変態の生成を鋼成分で調整し、衝撃吸収性能を向上させ、引張強度600MPa以上、全伸び40%以上の衝撃吸収特性に優れた構造部材用ステンレス鋼板が開示されている。この実施例において、1000MPa以上の静的引張強度の場合に、全伸びが15%以下であり、高強度材における加工性に問題があった。また、特許文献3にはCが0.3%以下の成分について、衝撃吸収性能に優れた構造部材用オーステナイト系ステンレス鋼板が開示されているが、これは加工誘起マルテンサイト変態が生じない鋼成分のため、より高強度が要求される部材への適用には限界があった。
特開2002−20843号公報 特開2008−163358号公報 特開2009−30128号公報
上記の様に、高強度でかつ高延性とし、部材の衝撃特性と成形性を両立することは難しいとともに、近年要求されている強度(1000MPa以上)で延性を十分確保した材料は見出されていなかった。この様なことから、本発明は高強度でかつ高延性である構造部材用ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは静的な挙動に関する金属組織的検討を実施した。そして、オーステナイト系ステンレス鋼において強度と延性のバランスが著しく優れた鋼成分を見出した。具体的には、熱処理時および冷延加工時にオーステナイト相から変態して生成するマルテンサイト相を適正に制御し、高強度かつ高延性材を得ることである。ここで、高強度および高延性の指標として、本発明では、静的な引張試験における引張強度(MPa)×全伸び(%)が45000以上とした。これにより、成形性や衝撃特性に優れた素材を提供し、安全性や軽量化効果などを各段に向上させるものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載の通りの下記内容である。
(1)質量%にて、C:0.05〜0.30%、N:0.01〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜30.0%、Ni:0.1〜5.0%、Cu:0.1〜4.0%、Cr:10.0〜19.0%、Mo:0.5%以下、Nb:0.3%以下、Al:0.020〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、(a)および(b)式で表されるMd30およびMsが、(c)および(d)式を満足し、オーステナイト相を母相とし、マルテンサイト相を1%以上含むことを特徴とする構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板。
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb ・・・(a)
Ms=5/9{(75(14.6−Cr)+110(8.9−Ni)+60(1.33−Mn)+50(0.47−Si)+3000(0.068−C−N)−32)}
・・・(b)
但し、(a)および(b)式中の元素記号は、その元素の含有量の質量%の値を表す。
50≦Md30 ・・・(c)
4.5Md30−625≦Ms≦50 ・・・(d)
(2)質量%にて、Ti:0.01〜0.50%、V:0.01〜0.50%の1種または2種以上含有することを特徴とする(1)に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板。
(3)冷延鋼板を焼鈍する際、加熱後の冷却速度を10℃/sec以上とすることを特徴とする(1)または(2)に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
(4)前記焼鈍を施した後、圧下率1%以上の調質圧延を施すことを特徴とする(3)に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば特に高価な合金元素を多量に添加せずとも、高強度で高延性を有するステンレス鋼板を提供することができ、特に自動車、バス、鉄道等の運輸、建築等に関わる構造部材に適用することにより、軽量化による環境対策、安全性向上など社会的寄与は格段に大きい。
引張特性におよぼすMd30とMsの関係を示す図である。
以下に本発明の限定理由について説明する。本発明においては、高強度でかつ高延性を得ることがポイントである。一般的に高強度化に伴い、延性は低下する。両者の関係は強度−延性バランスと呼ばれ、フェライト鋼に比べてオーステナイト鋼は強度−延性バランスに優れている。強度−延性バランスに優れた鋼は、複雑形状に加工しても破断しにくく加工性に優れるとともに、衝撃が加わった際の折れや破壊が生じにくい。従来の高強度鋼板は強度が高いものの破断延性が低いため、加工性や衝撃吸収性能に限界があった。本発明では、高い強度を有しつつ延性が高く、変形中の高加工硬化特性を飛躍的に向上させるものである。
上記の材料指標に基づき検討を重ねた結果、優れた延性を有する高強度ステンレス鋼として、オーステナイト系ステンレス鋼の成分を調整し、熱処理および加工により生じるマルテンサイト変態挙動と成分を調整した最適なオーステナイト系ステンレス鋼を見出した。これにより引張強度(MPa)×全伸び(%)が45000以上を有する高強度でかつ高延性鋼板を得ることができる。
まず、鋼成分について説明する。下記説明における各成分の含有量は、質量%で示す。Cは高強度化に有効な元素である。特に高歪域における加工誘起マルテンサイト変態が生じる場合に材料のネッキングを抑制するとともに、加工誘起マルテンサイト中に固溶したCが強度を向上させる作用は高Cほど発現する。また、本発明では熱処理後にもマルテンサイト相が1%以上生成することを特徴としており、この作用は0.05%以上の添加により生じることからC添加量は0.05%以上とする。一方、多量に添加すると成形性や溶接性が劣化するため、0.30%を上限とする。精錬コストおよび粒界腐食性を考慮すると、更に望ましくは、0.06〜0.25%が望ましい。
NもCと同様、高強度化に有効な元素であるが、Cと異なりオーステナイト相に固溶した状態で固溶強化能が高いため、加工誘起マルテンサイトが十分生成していない比較的低歪域の強度を向上させる。この作用は0.01%以上で発現するため、下限を0.01%とする。一方過度な添加は成形性や溶接性が劣化するため、0.30%以下とする。精錬コスト、製造性および粒界腐食性を考慮すると、更に望ましくは、0.02〜0.25%が好ましい。
Siは、脱酸元素であるとともに、固溶強化元素で高強度化に有効な元素であり、0.1%以上の添加が必要である。また、加工誘起マルテンサイト変態量の調整のためにも必要であるが、多量の添加は成形性が劣化し、静動比を著しく低下させるため3.0%以下とした。製造性を考慮すると、更に望ましくは、0.3〜2.0%が好ましい。
Mnは、脱酸元素であり、加工誘起マルテンサイト相の生成量を調整するために必要な元素であるとともに、衝撃時にオーステナイト相の加工硬化を促進するため、0.1%以上の添加が必要である。また、高価な元素であるNiを代替する安価元素であり、鋼の低コスト化のために極めて有効である。一方、多量の添加は加工誘起マルテンサイトが生成しなくなったり、水溶性介在物であるMnSを生成して耐食性を劣化させる他、製造時の酸洗性を著しく劣化させるために、30.0%以下とする。製造性や合金コストなどを考慮すると、更に望ましくは5.0〜20.0%が好ましい。
Niは、耐食性を向上させる元素であるとともに、オーステナイト相を安定的に生成させるために0.1%以上必要である。一方、多量の添加は、原料コストが著しく増加する他、加工誘起マルテンサイトが生成しなくなる。本発明では省合金化による低コストな鋼を得ることも目的としているため、5.0%以下とする。製造性、応力腐食割れ、時効割れなどを考慮すると更に望ましくは、0.1〜4.0%が好ましい。
CuもMn同様、加工誘起マルテンサイト相の生成量を調整するために必要な元素であり、高価な元素であるNiを代替する安価元素であり、鋼の低コスト化のために有効であるため、0.1%以上の添加が必要である。成形性を向上させ、静動比向上に寄与するため、0.1%以上添加する。これは、成分調整工程においてスクラップ等から混入する場合も有効である。しかしながら、4.0%超の添加により、加工誘起マルテンサイトが生成しなくなる他、製造性が著しく劣化するため、上限を4.0%以下とする。製造時の酸洗性等を考慮すると、更に望ましくは0.1〜2.0%が好ましい。
Crは、主要元素であり、耐食性の観点から10.0%以上の添加が必要である。一方、過度な添加は組織調整のために他元素を多量に添加する必要が生じるため、上限を19.0%とした。更に、製造コストや製造製を考慮すると、望ましくは11.0〜17.0%が好ましい。
Moは、耐食性を向上させる元素であるが、高価な元素であるため、添加量は少ない方が良く、0.5%以下とする。成分調整工程においてスクラップ等から混入する場合もあるため、精錬コストを考慮すると、更に望ましくは0.01〜0.1%が好ましい。
Nbは、耐食性や強度を向上させる元素であるが、高価な元素であるため、添加量は少ない方が良く、0.3%以下とする。成分調整工程においてスクラップ等から混入する場合もあるため、精錬コストを考慮すると、更に望ましくは0.001〜0.010%が好ましい。
Alは、脱酸元素として添加されるとともに、S系介在物の生成を抑制して、穴拡げ性を向上させて複雑な部品成型が良好になる。また、熱処理段階および調質圧延段階で加工誘起変態の生成をコントロールする本発明において、Al量は極めて重要である。即ち、Alが0.020%未満であると、マルテンサイトが塊状に生成してしまい、材質ばらつきが生じてしまうが、Alを0.020%以上添加することで生成するAl酸化物がマルテンサイト変態を微細に生じさせる作用が生じる。これらの作用は0.020%から発現するため、下限を0.020%とする。一方、2.00%超の添加は製造性が著しく劣化するため、上限を2%とした。加工誘起マルテンサイト相の生成調整や製造コストを考慮すると、更に望ましくは0.030〜0.50%が好ましい。
TiやVは要求強度に応じて必要により添加される。これらの元素は、Cと結合してTiCやVCの微細析出物を生成することで析出強化が生じて高強度化に寄与する。これは、0.01%以上で発現することから、下限を0.01%とする。一方、過度な添加は合金コストが上昇するとともに、加工誘起マルテンサイト相の生成を抑制してしまうため、上限を0.5%とする。製造性やコストを考慮すると、更に望ましくは0.01〜0.1%が好ましい。
オーステナイト相が変形を受けた時に、マルテンサイト相に変態する加工誘起変態を発現させ、変形中に加工硬化が効率的に生じる。変形時にマルテンサイト相が効率的に生じると高強度化するとともに、ネッキングを防止し延性向上に寄与する。既存のオーステナイト系ステンレス鋼板においても、SUS304(18Cr−8Ni)やSUS301(17Cr−7Ni)は加工誘起変態が発現する。しかしながら、これら既存の材料では、引張強度が1000MPaまでは到達しない。
また、調質圧延によって加工硬化させて高強度化する手法が鉄道車両用のSUS301では適用され引張強度で1000MPa以上を得ることが可能となるが、この場合伸びが40%よりも大幅に下回る。また、マルテンサイト変態を生成しやすくして、熱処理後にマルテンサイト相を主相とすることも可能であるが、従来の鋼成分では多量に生成してしまい逆に延性が著しく低くなる。
本発明では熱的に生じるマルテンサイトと加工歪により生じるマルテンサイトの生成駆動力を適度に調整することによって強度と延性に優れた鋼を見出した。図1は種々の鋼を真空溶解し、熱延後、焼鈍と冷延を繰り返して作製した1.5mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の引張特性に及ぼす成分の影響を示したものである。ここで、引張試験片は圧延方向が引張方向になる様にJIS13号B試験片を採取し、歪速度が10-3/secで引張試験を行い、引張強度と全伸びを測定した。引張強度(MPa)×全伸び(%)は、材料の強度−延性バランスの指標であり、高い程成型自由度が高いことを示している。
本発明では、引張強度×全伸びで45000以上を高強度・高延性材としている。Ms点は、これ以下の温度でマルテンサイト変態が生じる温度であるが、Ms点以上でも塑性加工を施すとマルテンサイト変態を起こす場合があり、加工によって変態を生じる上限温度がMd点と呼ばれる。そして、引張変形によって30%の歪を与えたとき、50%のマルテンサイトが生じる温度をMd30という。Md30が高いと加工誘起マルテンサイト相が生成し易く、Md30値が低いと逆に生成し難い成分となる。本発明では、Ms点とMd30を適正に調整し、オーステナイト相と微量のマルテンサイト相の存在により強度・延性バランスが著しく良好になることを見出した。
ここで、いわゆる野原らの式から粒度番号の寄与項を省略した式、
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb ・・・(a)
また、いわゆるEichermanらの式の温度単位を℃に換算した式、
Ms=5/9{(75(14.6−Cr)+110(8.9−Ni)+60(1.33−Mn)+50(0.47−Si)+3000(0.068−C−N)−32)}
・・・(b)
(ただし、Md30、Msの両式中の元素記号は、その元素の含有量の質量%の値を表す。)を用い、Md30とMsを適正な範囲に制御することによりオーステナイト相と微量マルテンサイト相による高強度・高延性材料が得られることを見出した。Md30が50未満の場合、加工誘起マルテンサイトの生成が不十分で高強度化が未達となる。
また、Msが50超になると、熱処理後のマルテンサイト量が過度に多くなり、延性が十分確保できなくなるため、Ms点は50以下とした。更に、Ms点が4.5Md30−625を超えると、加工初期にマルテンサイトが生成しすぎて、加工硬化能が著しく小さくなるため、4.5Md30−625≦Msとした。熱処理時に微量マルテンサイトを安定的に生成させるためには、更に望ましくはMsは−200以上が好ましい。
上記の様に成分調整された鋼はオーステナイト相を母相とし、熱処理時に生成したマルテンサイト相が1%以上存在する。熱処理段階で生成したマルテンサイト相は、強度−延性バランスの向上に極めて有効である。一般的には、熱処理後はオーステナイト単相とし、冷延によってマルテンサイト相を生成させて高強度化するが、この場合母相のオーステナイト相にも多くの歪が導入されオーステナイト相の変形能が低下する。これによって延性が著しく低下する。しかしながら、冷延前の熱処理段階で微量にマルテンサイト相を生成させることで、その後の加工においてのオーステナイト相に歪を緩和する役割がある。また、マルテンサイト中には多量のCが濃化しているため、引張変形中の動的歪時効による高強度化が達成される。一方、過度にマルテンサイトが生成すると変形初期に破壊が生じてしまうため、望ましくは40%以下が好ましい。
次に鋼板製造方法について説明する。本発明のステンレス鋼は、溶解と熱延後、焼鈍と冷延を繰り返して製造される。ここで、最終焼鈍によって組織制御がなされるが、本発明では、再結晶組織にするための所定の温度に加熱した後の冷却速度を10℃/sec以上に規定する。冷却速度は加熱温度から500℃程度までの間の速度である。10℃/sec未満の緩冷却の場合、Cr炭化物や窒化物の生成によりマルテンサイト生成が抑制され強度−延性バランスが高くならない他、マルテンサイト変態の不均一性が生じて微量マルテンサイト組織が得られない。製造性などを考慮すると15〜100℃/secが望ましい。尚、加熱温度は鋼成分に応じて再結晶が生じ所定の結晶粒径が得られる温度に設定すれば良いが、950〜1200℃が好ましい。
最終焼鈍後に酸洗処理が成された後、強度調整のために必要に応じて調質圧延を付与することができる。圧延設備や潤滑条件、圧延温度は特に規定しないが、圧延率は1%以上とする。鋼板の形状や製造コスト等の観点から、更に望ましくは2〜30%が好ましい。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。表1に示す化学組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延した後、焼鈍・酸洗を施し、1.5mm厚まで冷間圧延し、焼鈍・酸洗を施した後、調質圧延を施して製品板とした。このようにして得られた製品板に対して、上記の引張試験を行い引張強度と全伸びを測定した。また、製品板のマルテンサイト生成量については、フィッシャー型フェライトメーターを用い、鋼板表面から測定した。
表1に請求項1と2に対応する実施例を示す。本発明で規定する成分組成を有する鋼(No.1〜10)は、引張強度×全伸びが45000以上あり、極めて強度−延性バランスに優れている。比較鋼No.11は既存のSUS301Lであるが、Ni量が多くコスト高であるとともに、Md30が低いため加工誘起マルテンサイト変態の活用化が不十分のなり引張強度×全伸びが低い。鋼No.12は鋼成分は本願発明範囲であるが、Msが高すぎるため熱処理後のマルテンサイト生成量が多すぎて強度−延性バランスが悪い。No.13は鋼成分は本願発明範囲であるが、Md30が低く加工誘起マルテンサイトが生じない。No.14は4.5Md30−625がMsよりも高くなっており、強度−延性バランスが悪い。No.15はC量が低いため、強度が低い。No.16はSiが高すぎるためMsが高くマルテンサイトが過度に生成してしまう。No.17〜22はそれぞれMn、Ni、Cr、Mo、Cu,Nbが高すぎてオーステナイト相が安定となりマルテンサイト生成が生じないため、強度−延性バランスが悪い。No.23と24はそれぞれTiとVが高すぎるため、延性が不良である。
表2に請求項3と4に対応する実施例を示す。ここでは、冷延板の焼鈍時に冷却速度を変化させた。また、焼鈍後に酸洗処理を行った後に調質圧延を施した。調質圧延の圧下率の調整により引張強度が上昇し、全伸びは低下するが、本発明例では引張強度×全伸びが45000以上あり、極めて優れた強度−延性バランスを示す。比較の製法No.18〜21は、熱処理時の冷却速度が遅いため、熱処理後にマルテンサイト相が生成せず調質圧延の有無に関わらず強度−延性バランスが悪い。
なお、本発明における他の製造方法については特に規定せず、製品板厚は要求に応じて選択すれば良い。熱延条件や熱延板厚、熱延板および冷延板焼鈍温度、雰囲気などは適宜選択すれば良い。冷延におけるパススケジュールや冷延率、ロール径についても特別な設備を必要とせず、既設設備を効率的に使用すれば良い。調質圧延時の潤滑有無、パス数やロール径等についても特に規定しない。また、冷延・焼鈍後または調質圧延後にテンションレベラーを付与して形状矯正しても構わない。
Figure 2011202237
Figure 2011202237

Claims (4)

  1. 質量%にて、
    C:0.05〜0.30%、
    N:0.01〜0.30%、
    Si:0.1〜3.0%、
    Mn:0.1〜30.0%、
    Ni:0.1〜5.0%、
    Cu:0.1〜4.0%、
    Cr:10.0〜19.0%、
    Mo:0.5%以下、
    Nb:0.3%以下、
    Al:0.020〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、(a)および(b)式で表されるMd30およびMsが、(c)および(d)式を満足し、オーステナイト相を母相とし、マルテンサイト相を1%以上含むことを特徴とする構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板。
    Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb ・・・(a)
    Ms=5/9{(75(14.6−Cr)+110(8.9−Ni)+60(1.33−Mn)+50(0.47−Si)+3000(0.068−C−N)−32)}
    ・・・(b)
    但し、(a)および(b)式中の元素記号は、その元素の含有量の質量%の値を表す。
    50≦Md30 ・・・(c)
    4.5Md30−625≦Ms≦50 ・・・(d)
  2. 質量%にて、
    Ti:0.01〜0.50%、
    V:0.01〜0.50%の1種または2種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板。
  3. 冷延鋼板を焼鈍する際、加熱後の冷却速度を10℃/sec以上とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
  4. 前記焼鈍を施した後、圧下率1%以上の調質圧延を施すことを特徴とする請求項3に記載の構造部材用高強度および高延性オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
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