JP2011195890A - ろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材 - Google Patents

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Abstract

【目的】高強度で優れたろう付け性をそなえ、熱交換器、特に自動車用熱交換器のチューブ材、ヘッダープレート材、配管材の素材として好適に使用することができるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材を提供する。
【構成】心材の一方の面に皮材1をクラッドし、他方の面に皮材2をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、質量%で、心材が、Mn:0.8〜2.0%、Si:0.2〜2.0%、Mg:0.2〜1.5%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Mn−Si−Mg系アルミニウム合金であり、皮材1が、Si:2.5〜6.0%、Mn:0.3〜1.8%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金であり、皮材2が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、とくに、不活性ガス雰囲気中でフッ化物フラックスやセシウム化合物を含むフラックスを用いたろう付けによってラジエータやヒータコアなどのアルミニウム合金製熱交換器を製造する場合、その構造部材であるチューブ材(クラッド材を曲成し、溶接またはろう付けによりチューブ形状としたものを含む)やヘッダープレート材、あるいはこれらの熱交換器を接続するための配管材として好適なろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材に関する。
自動車用熱交換器、例えばラジエータは、外面にフィンを有し、内面が作動流体(冷媒)の通路となるチューブおよびヘッダーから構成されている。このような自動車のラジエータまたはヒータなどのチューブ材やヘッダープレート材には、JIS A3003などのAl−Mn系合金を心材とし、心材の片面にAl−Si系合金ろう材をクラッドした二層構造のアルミニウム合金クラッド材、心材の一方の面にろう材をクラッドし、他方の面にAl−Zn系合金またはAl−Zn−Mg系合金の犠牲陽極材をクラッドした三層構造のアルミニウム合金クラッド材が用いられている。
アルミニウム合金製熱交換器は、フッ化物系フラックスやセシウム系フラックスを用いた不活性ガス雰囲気ろう付けにより接合されることが多く、クラッド材のAl−Si系ろう材は、アルミニウム合金製熱交換器を製作するとき、チューブとフィンとの接合、チューブとヘッダープレートとの接合、またはクラッド板からチューブを製造する場合のろう付け接合のためにクラッドされている。また、犠牲陽極材は、たとえばチューブの内面側に使用され、作動流体と接して犠牲陽極作用を発揮し、心材の孔食や間隙腐食の発生を防止する。
自動車用熱交換器の間を結ぶ配管材については、JIS A3003 などのAl−Mn系合金を心材とし、内面、あるいは内面と外面にJIS A7072 などのAl−Zn 系合金の犠牲陽極材をクラッドした二層または三層のクラッドチューブが用いられている。クラッド管の内面の犠牲陽極材は、使用中にクーラントと接触して犠牲陽極効果を発揮して、心材に対する孔食または間隙腐食の発生を防止し、外面の犠牲陽極材は、過酷な環境で使用された場合、犠牲陽極効果を発揮して心材に発生する孔食または間隙腐食を防止する。
ラジエータやヒータコアの製造は、図1に示すように、心材2の片面にろう材(後述する本発明の皮材1)3、他の片面に犠牲陽極材(後述する本発明の皮材2)4をクラッドしたクラッド板材1を曲成し、溶接する(溶接部W)ことにより偏平チューブとし、ヘッダープレートに組み付けた後、一体にろう付けする(溶接型)ことにより行われていたが、近年、図2〜3に示すように、クラッド板材1を曲げ加工するだけで溶接することなくチューブ形状とし、ヘッダープレートに組み付けて一体ろう付けする(ろう付け型)ことにより製造される手法が行われるようになっている。
近年、自動車の軽量化の要請に伴い、自動車用熱交換器においても省エネルギー、省資源の観点から構成材料の薄肉化が要請され、チューブ材についても薄肉化が進行している。チューブ材を薄肉化するためには、材料の強度と耐久性(疲労寿命)をさらに高める必要から心材には多量のMn、Cu、Siなどが含有されるが、これらの元素の含有により心材の耐食性が低下するため、犠牲陽極材に多量のZnを添加して心材との電位差を確保し、確実に犠牲陽極効果が得られるようにした材料構成が提案されている。
また、犠牲陽極材に多量のMgを添加して、犠牲陽極材と心材の界面にMgSiを微細析出させたり、心材に0.05〜0.5%のMgを添加して心材中にMgSiを微細析出させ、さらに強度を高めた材料構成のものも提案されているが、犠牲陽極材へのMgの添加は、溶接型に関しては有効であるが、ろう付け型に関しては、犠牲陽極材とろうが直接接合される面があり、Mgがフラックスと反応してMgFなどの化合物を形成し、フラックスの機能が損なわれ、ろう付け欠陥が生じるという問題がある。心材にMgを添加すると、ろう付け加熱中に心材からろう材へMgが固相拡散し、さらに、ろうが溶融した後は、溶融したろうを介してMgが液相拡散する結果、多量のMgがろう材表層へ到達し、フラックスと反応してMgFなどの化合物を形成するため、フラックスの機能が損なわれ、ろう付け欠陥が生じるという問題がある。
この問題に対しては、Mgの添加量を0.5%程度以下に限定したり、Mgの添加量を増やすために、心材のMn量とSi量の比を制限することにより心材の結晶粒を粗大化し、心材からろう材へのMgの拡散量を低減させ、Mgの添加量が0.5%を超えてもろう付け欠陥を生じない材料構成のものも提案されている。しかしながら、そのいずれの場合においても効果が十分でなく、ろう付け性の低下は否めない。さらに、心材とろう材の間に中間層を設けて心材からろう材表層へのMgの拡散を防止し、ろう付け欠陥を抑制した材料が提案されているが、この場合は、ろう付け性には優れているものの、中間層を設けるために材料の生産性が低下するため製造コストが高まる問題がある。
特許第3772017号公報 特許第3217108号公報 特願2007−037610号公報 特開2006−131923号公報
発明者らは、ろう付け型ラジエータ用チューブ材について、上記従来のチューブ材と同等以上の高強度を達成することができるとともに、優れたろう付け性を得るために、クラッド材における心材と皮材の組成とその組み合わせについて試験、検討を行った結果、心材に比較的高濃度のMgを添加しても、ろうが溶融した後、溶融ろうを介してMgが液相拡散して心材のMg量が低減するのを抑えるためには、皮材のSi濃度を特定の低範囲とすることが重要であることを見出した。さらに、Mnを添加して、ろう付け加熱中の皮材の再結晶粒度を調整し、また、Srを添加してSiの分散状態を制御すると、Mgの液相拡散をさらに低減できることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、高強度で優れたろう付け性をそなえ、熱交換器、特に自動車用熱交換器のチューブ材、ヘッダープレート材、配管材の素材として好適に使用することができるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材を提供することにある。
上記の目的を達成するための請求項1によるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、心材の一方の面に皮材1をクラッドし、他方の面に皮材2をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、質量%で、心材が、Mn:0.8〜2.0%、Si:0.2〜2.0%、Mg:0.2〜1.5%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Mn−Si−Mg系アルミニウム合金であり、皮材1が、Si:2.5〜6.0%、Mn:0.3〜1.8%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金であり、皮材2が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする。以下、合金成分値は全て質量%で示す。
請求項2によるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、請求項1において、前記皮材1が、Si:2.5〜6.0%、Mn:0.3〜1.8%、Sr:0.005〜0.1%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金であることを特徴とする。
請求項3によるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、請求項1または2において、前記心材が、さらに、Cu:1.2%以下、Fe:2.0%以下、Ti:0.35%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、B:0.3%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
請求項4によるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記皮材1が、さらに、Fe:2.0%以下、Ti:0.3%以下、Zn:2.0%以下、Cu:1.0%以下、Na:0.1%以下、Sb:0.1%以下、Bi:0.2 %以下、Be:0.1 %以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
請求項5によるろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記皮材2が、さらに、Mn:1.8%以下、Fe:2.0%以下、Si:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Ti:0.35%以下、Cu:0.2%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
本発明によれば、高強度で優れたろう付け性をそなえ、熱交換器、特に自動車用熱交換器のチューブ材、ヘッダープレート材、配管材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材が提供される。
溶接型のチューブ形状を示す断面図である。 ろう付け型のチューブ形状の実施例を示す断面図である。 ろう付け型のチューブ形状の他の実施例を示す断面図である。 ろう付け性の評価で用いる間隙充填試験片を示す図である。 間隙充填試験片の試験後のろうの充填長さFを示す図である。
ろう材を、例えば一般的なろう材のAl−10%Si合金ろう材とした場合、上記のとおり、ろうが溶融した後、溶融ろうを介してMgが液相拡散する結果、多量のMgがろう材表層へ到達し、フラックスと反応してMgFなどの化合物を形成するため、フラックスの機能が損なわれ、ろう付け欠陥が生じるという問題がある。
本発明においては、皮材1のSi濃度を低減且つ最適化して、皮材1の固相率を高めることにより、固相拡散速度は液相拡散速度に比べて顕著に小さくなるから、Mgが液相拡散する比率が低下させることができ、また、皮材1の固相率が高くなると、皮材1の溶融による厚さの低下が抑制されるから、心材から皮材1表層までの距離が保持されて、心材から皮材1表層へのMgの拡散量を低減させることができ、ろう付け性を向上させることができる。
皮材1のSi濃度を低減且つ最適化するだけでは、ろう付け中における皮材1の再結晶粒度が小さいため、Mgが結晶粒界を経路として皮材1表層に拡散して、十分なろう付け性向上が得られない場合がある。本発明においては、皮材1にMnを添加し、ろう付け中における皮材1の再結晶粒度を100μm以上に粗大化してMgの拡散経路となる結晶粒界を減少させて、Mgの拡散量をさらに低減することにより、ろう付け性をさらに向上させることができる。
さらに、皮材1のSi濃度を低減且つ最適化するだけでは、金属組織の不均一に起因して皮材1が部分的に局部溶融し、その部分でMgの液相拡散が部分的に増える場合がある。本発明においては、皮材1にSrを添加して、単体Siの分散状態を微細且つ均一にし、局部溶融を抑えて心材から皮材1表層へのMgの拡散量をさらに低減することにより、ろう付け性をさらに向上させることができる。
本発明による熱交換器用アルミニウム合金クラッド材における合金成分の意義および限定理由について説明する。
(心材)
SiおよびMg:
SiとMgは、化合物MgSiの微細析出による時効硬化により心材の強度を向上させるよう機能する。Siの好ましい含有範囲は0.2〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると、心材の融点が低下して、ろう付け時に粒界に沿ったエロージョンを生じ易くなる。Siのさらに好ましい範囲は0.4〜0.8%である。
Mgの好ましい含有範囲は0.2〜1.5%であり、0.2%未満では強度向上の効果が十分でなく、1.5%を越えて含有すると心材の融点が低下して、ろう付け時に粒界に沿ったエロージョンを生じ易くなる。より好ましい範囲は0.5%を超え1.5%以下であり、さらに好ましい範囲は1.0%を超え1.5%以下である。
Mn:
Mnは、心材の強度を向上させるとともに、心材の電位を貴にして犠牲陽極材との電位差を大きくして耐食性を高めるよう機能する。好ましい含有範囲は0.8〜2.0%であり、0.8%未満ではその効果が小さく、2.0%を越えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が害される結果健全な板材が得難い。Mnのさらに好ましい範囲は、1.0〜1.7%である。
Cu:
Cuは、心材の強度を向上させるとともに、心材の電位を貴にし、犠牲陽極材との電位差を大きくして、防食効果を向上させるよう機能する。さらに、心材中のCuは加熱ろう付け時に犠牲陽極材中に拡散して、なだらかな濃度勾配を形成させる結果、心材側の電位は貴となり、犠牲陽極材の表面側の電位は卑となって犠牲陽極材中になだらかな電位分布が形成され、腐食形態を全面腐食型にする。Cuの好ましい含有量は1.2%以下であり、1.2%を超えて含有すると、心材の融点が低下して、ろう付け時に粒界に沿ったエロージョンを生じ易くなる。Cuのさらに好ましい範囲は0.2〜0.8%である。
Fe:
Feは、心材の強度を向上させる。好ましい含有範囲は2.0%以下であり、2.0%を超えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が害される結果、健全な板材が得難くなる。
Ti:
Tiは、心材の板厚方向に濃度の高い領域と低い領域とに分かれ、それらが交互に分布する層状となり、Ti濃度の低い領域が高い領域に比べ優先的に腐食する結果、腐食形態を層状にする効果を有し、それにより板厚方向への腐食の進行を妨げて材料の耐孔食性を向上させる。Tiの好ましい含有範囲は0.35%以下であり、0.35%を超えると鋳造が困難となり、また加工性が劣化して健全な材料の製造が困難となる。
Cr、Zr、V、B:
Cr、Zr、V、Bは、ろう付け加熱中の再結晶温度を高め、心材の結晶粒度を粗大化させることにより、ろう付け加熱中のエロージョンを抑制する。これらの元素の好ましい含有範囲は、いずれも0.3%以下であり、それぞれ0.3%を超えて含有しても効果が飽和しそれ以上の改善効果が期待できない。
(皮材1)
通常のろう材として用いられているAl−Si系合金は、ろう付け加熱によりほとんどが液相となり、しかも、ろうの厚さも低下するため、液相拡散により心材中の多量のMgがろう材表層に到達する。皮材1としては、前記のような通常のろう材として用いられるAl−Si系合金とは異なり、ろう付け可能な範囲でSi濃度を低く限定することにより、ろう付け加熱中における固相率を高め、皮材1の厚さを可能な限り低下させないようにすると、心材から皮材1表層への距離を大きくすることができ、しかも、Mgの液相拡散を抑制することができるようになる。
Si:
Siは、上記の理由により2.5〜6.0%に限定する。2.5%未満ではろう材としての機能がなく、6.0%を超えて含有すると、Mgの拡散量が増しろう付け性を阻害する。Siのより好ましい範囲は3.0〜4.5%であり、さらに好ましい範囲は3.0〜4.0%である。
Mn:
Mnは、ろう付け加熱中に生成する再結晶粒の粒度を粗大化して、Mgの拡散経路となる結晶粒界を減少させる。Mnの好ましい含有量は0.3〜1.8%の範囲であり、0.3%未満ではその効果が小さく、1.8%を超えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成して、圧延加工性が害され健全な板材の製造が困難となる。Mnのさらに好ましい含有範囲は0.6〜1.2%である。
Sr:
Srは、単体Siの分散状態を微細かつ均一にし、皮材1の局部溶融を抑制する。Srの好ましい含有範囲は0.005〜0.1%であり、0.005%未満ではその効果が小さく、0.1%を超えて含有してもその効果が飽和し、それ以上の改善効果が期待できない。Srのさらに好ましい範囲は0.01〜0.05%である。
皮材1には上記に加え、Mg拡散抑制効果を阻害しない範囲において、Fe:2.0%以下、Ti:0.3%以下、Zn:2.0%以下、Cu:1.0%以下、Na:0.1%以下、Sb:0.1%以下、Bi:0.2%以下、Be:0.1%以下のうちの1種または2種以上が添加されてもよい。また、必要に応じて、Ca:1.0%以下、Li:1.0%以下、In:0.1%以下、Sn:0.1%以下の1種または2種以上が添加されていてもよい。
(皮材2)
Zn、InおよびSn:
Zn、InおよびSnは、皮材2の電位を卑にし、心材に対する犠牲陽極効果を保持させる。その結果、心材の孔食やすき間腐食を防止する。Znの好ましい範囲は0.5〜10.0%、Inの好ましい範囲は0.001〜0.1%、Snの好ましい範囲は0.001〜0.1%である。Znのさらに好ましい範囲は1.5〜5%、Inのさらに好ましい範囲は0.01〜0.05%、Snのさらに好ましい範囲は0.01〜0.05%である。
皮材2には、上記の成分に加え、強度を高めたり犠牲陽極効果を高めるために、Mn:1.8%以下、Fe:2.0%以下、Si:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Ti:0.35%以下、Cu:0.2%以下のうちの1種または2種以上が添加されてもよい。また、必要に応じて、V:0.3%以下、B:0.3%以下の1種または2種が添加されていてもよい。
本発明においては、上記のとおり、心材にSiとMgを添加して強度を高めつつ、皮材1のSi濃度を低減且つ最適化することにより皮材1の固相率を高めて、Mgが液相拡散する比率を低下させ、また、皮材1の溶融による厚さの低下を極力抑制することにより、心材から皮材1表層までの距離を保持し、心材から皮材1表層へのMgの拡散量を低減することにより、ろう付け性を向上させる。また、皮材1にMnを添加して、ろう付け中における皮材1の再結晶粒度を粗大化させ、Mgの拡散経路となる結晶粒界を減少させることによりMgの拡散量をさらに低減させ、ろう付け性をさらに向上させる。さらに、皮材1にSrを添加して単体Siの分散状態を微細且つ均一にし、局部溶融を抑え、心材から皮材1表層へのMgの拡散量をさらに低減し、ろう付け性をさらに向上させる。
本発明によるアルミニウム合金クラッド材の製造は、DC鋳造により心材用合金、皮材1用合金および皮材2用合金を造塊し、例えば、得られた鋳塊のうち、心材用合金と皮材2用合金については均質化処理を行い、皮材1用合金および皮材2用合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用合金の鋳塊を組み合わせて熱間圧延してクラッド材とし、得られたクラッド材を、その後、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延して所定厚さのアルミニウム合金クラッド材(例えばH14)とすることにより行われる。
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
連続鋳造により表1に示す組成を有する心材用合金、表2に示す組成を有する皮材1用合金、および表3に示す組成を有する皮材2用合金を造塊し、得られた鋳塊のうち、心材用合金と皮材2用合金について均質化処理を行い、皮材1用合金および皮材2用合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用合金の鋳塊とを組み合わせて熱間圧延し、クラッド材を得た。
ついで、得られたクラッド材を冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延して厚さ0.20mmの板材(クラッド材、質別H14)とした。クラッドの構成は、皮材1のクラッド率を20%(厚さ0.040mm)、皮材2のクラッド率を20%(厚さ0.040mm)とし、残りを心材とした。得られたクラッド材を試験材として、以下に示す方法に従い、ろう付け加熱中に生成する皮材1の再結晶粒度、ろう付け性および強度を評価した。結果を表4に示す。
なお、製造するクラッド材の質別、板厚、クラッド率は実施例1に限定されるものではなく、例えば用途に応じて適宜調整される。例えば、板厚は0.10mmから2.00mm、クラッド率は2〜30%程度である。
(ろう付け加熱中に生成する皮材1の再結晶粒度の評価)
得られたクラッド材を用いて、フラックスを塗布することなく、窒素ガス中で600℃(材料温度)に3分間加熱し、加熱後の試験材を、皮材1面をエメリー紙(1000〜2400)で数μm研磨して、バフ研磨で鏡面に仕上げた。さらに、純水500mL、フッ酸27mL(46%)、ホウ酸11gを混合した溶液中で、電圧25〜30Vで45〜60秒電解した。その後、光学顕微鏡を用いて犠牲陽極材表面の偏光ミクロ組織を撮影し、比較法により結晶粒度を測定した。比較にはASTM(E112−61)の標準結晶粒度組織図を用いた(標準結晶粒度組織図に示されているグレインサイズを平均結晶粒度の指標とした)。平均結晶粒度100μm以上良好、100μm未満を不良と評価した。
(ろう付け性の評価)
得られたクラッド板材を用いて、図4に示すように、垂直板の端部を直角に折り曲げ、垂直板にだけフッ化物フラックスを5g/m塗布した後、図4のように組み合わせて間隙充填試験片を作成し、窒素ガス中で600℃(材料温度)に3分間加熱し、加熱後の間隙充填試験片の間隙充填長さ(図5のF)をノギスを用いて測定し、間隙充填長さ(F)が7.0mm以上を良好、7.0mm未満を不良とした。なお、図4において、数値は長さ(単位mm)を示す。
(強度の評価)
得られたクラッド材にフラックスを塗布することなく、窒素ガス中、600℃(材料温度)に3分間加熱し、その後、引張試験(JIS Z 2241)を行い、引張強さが180MPa以上を良好、180MPa未満を不良とした。
Figure 2011195890
Figure 2011195890
Figure 2011195890
Figure 2011195890
表4にみられるように、本発明に従う試験材1〜39はいずれも、皮材1の平均結晶粒度が100μm以上で、ろう付け性に優れ、十分な強度を有していた。
比較例1
連続鋳造により表5に示す組成を有する皮材1用合金を造塊し、得られた鋳塊について熱間圧延して所定の厚さとし、実施例1で造塊した心材用合金の鋳塊と、実施例1で造塊後所定厚さまで熱間圧延した皮材2用合金を組み合わせて熱間圧延し、クラッド材を得た。
ついで、得られたクラッド材を冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延して厚さ0.20mmの板材(クラッド材、質別H14)とした。クラッドの構成は、皮材1のクラッド率を20%(厚さ0.040mm)、皮材2のクラッド率を20%(厚さ0.040mm)とし、残りを心材とした。得られたクラッド材を試験材として、実施例と同じ方法に従って、ろう付け加熱中に生成する皮材1の再結晶粒度、ろう付け性および強度を評価した。結果を表6に示す。
Figure 2011195890
Figure 2011195890
表6に示すように、試験材101は、皮材1として通常のろう材として使用される10%Siを含有するAl−Si合金ろう材を用いたため、ろう付け加熱中に皮材1が溶融して、Mgが皮材1表層に拡散したため、ろう付け性が低下し、間隙充填長さ(F)が7.0mm未満となった。試験材102は、皮材1としてSi:3%のみを含有するAl−Si合金ろう材を用いたため、少量のMgが皮材1表層に拡散したため、ろう付け性がやや劣るものとなった。
1 クラッド材
2 心材
3 ろう材(皮材1)
4 犠牲陽極材(皮材2)
W 溶接部

Claims (5)

  1. 心材の一方の面に皮材1をクラッドし、他方の面に皮材2をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、質量%で、心材が、Mn:0.8〜2.0%、Si:0.2〜2.0%、Mg:0.2〜1.5%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Mn−Si−Mg系アルミニウム合金であり、皮材1が、Si:2.5〜6.0%、Mn:0.3〜1.8%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金であり、皮材2が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とするろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
  2. 前記皮材1が、Si:2.5〜6.0%、Mn:0.3〜1.8%、Sr:0.005〜0.1%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載のろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
  3. 前記心材が、さらに、Cu:1.2%以下、Fe:2.0%以下、Ti:0.35%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、B:0.3%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
  4. 前記皮材1が、さらに、Fe:2.0%以下、Ti:0.3%以下、Zn:2.0%以下、Cu:1.0%以下、Na:0.1%以下、Sb:0.1%以下、Bi:0.2 %以下、Be:0.1 %以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
  5. 前記皮材2が、さらに、Mn:1.8%以下、Fe:2.0%以下、Si:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Ti:0.35%以下、Cu:0.2%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のろう付け性に優れた高強度熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
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