JP2011184749A - 電気化学用電極とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】導電性ダイヤモンド層の表面積を増大させて電極活性を向上させ、更に前記導電性ダイヤモンド層上に、電極物質の触媒層を被覆する際には、両層間の密着性を増加させ、耐久性の高い電気化学用電極とする電極の製造方法および電極の提供。
【解決手段】導電性ダイヤモンドを形成したカーボン、あるいはチタン、タンタル及びニオブから選択される電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持して前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させ、微細孔を形成させた導電性ダイヤモンド層内および層上に白金属金属及び/又はその酸化物を有する電極物質の触媒層を形成させる方法及び電極。
【選択図】図1

Description

本発明は、多孔性で有効表面積が大きい、高品質の導電性ダイヤモンド層を有する電気化学用電極の製造方法に関するものであり、また、電気化学反応が効率良く進行できる電気化学用電極に関するものである。
本発明は、また、耐久性を有し、長期間安定して電解に使用できる電気化学用電極とその製造方法に関し、より詳細には耐久性を有するめっき用、金属電解採取用電極、特に高速亜鉛めっきや電解銅箔製造等の強酸性浴中、高電流密度下で使用可能であり、生成する金属、めっき層や銅箔上に不純物を殆ど含まないようにすることができる耐久性を有する電気化学用電極とその製造方法に関するものである。
電気分解プロセスは、クリーンな電気エネルギーを利用して、電極表面で化学反応を制御することにより、水溶液系であれば水素、酸素、オゾン、過酸化水素などを発生させることが可能であり、工業電解としては食塩電解、電解めっき、金属採取などで汎用されている基本技術である。最近では有機汚濁物を間接的に分解するか、該物質を電極に吸着し、直接的に電気分解することが可能であることから、廃水処理として利用されつつある。
電気分解における陽極での酸化反応では、水処理に有効な酸化剤(有効塩素、オゾンなど)が生成し、一部OHラジカルなどの活性種も発生することが知られており、それらを含む水は活性水、機能水、イオン水、殺菌水などの名称で汎用されている。このように電解プロセスは活用されているが、電極材料によっては十分に対象となる反応が進行しないことが指摘されている。一般的に水溶液での電気分解での陽極酸化反応は、水が原料となる電解生成物ができるが、水の放電に対して反応性の高い電極触媒では他の共存物質の酸化が容易には進行しないことが多い。
酸化を行う電解用電極(陽極)触媒材料には酸化鉛、酸化錫、白金族金属及びそれらの酸化物、カーボンなどがある。電極基体として使用しうる材料は、長寿命の観点と処理表面への汚染が起きないように耐食性を有することが必要であり、陽極基体としてはチタンなどの弁金属、その合金に限定され、電極触媒としても白金、イリジウムなどの貴金属及びそれらの酸化物に限定されている。しかしながらこれらの高価な材料を用いても、電流を流すと電流密度、時間に応じて消耗し、溶液中に流出することが知られており、より耐食性の優れた電極が望まれている。黒鉛や非晶質カーボン材料は従来から電極材料として用いられているが、消耗性、特に陽分極では著しい消耗がある。
これに対して、ダイヤモンドは熱伝導性、光学的透過性、高温かつ酸化に対しての耐久性に優れており、特にドーピングにより電気伝導性の制御も可能であることから、半導体デバイス、エネルギー変換素子として有望とされていたが、特許文献1ではイオン注入により導電性を付与したダイヤモンド電極のセンサーとしての応用が開示されている。
電気化学用電極としてSwain(非特許文献1)らはダイヤモンドの酸性電解液中での安定性を報告し、他のカーボン材料に比較してはるかに優れていることを示唆した。基礎的な電気化学特性に関しては非特許文献2に詳しい。
特許文献2ではダイヤモンドを陽極材料に用いて有機廃水が分解できることが示唆されている。特許文献3では導電性ダイヤモンドを陽極と陰極として使用し、有機物を電気化学的に処理する方法を提案している。また特許文献4では導電性ダイヤモンド電極を陽極とし、陰極として過酸化水素発生用ガス拡散陰極に使用し水処理を行う方法を提案している。
電流密度の大きい場合で高い電位領域での工業的な利用の報告は未だ十分になされていないが、特許文献5では、ダイヤモンド電極は水の分解反応に対しては不活性であり、酸化反応では酸素以外にオゾンの生成が報告されている。特許文献6では、溶融塩電解においてダイヤモンド電極が利用できることが開示されている。
電解用電極としてダイヤモンドを使用した電解プロセスでは、従来の電極を用いた場合より反応効率は向上するが、応用分野によっては、寿命が乏しく対応できないことがあった。
この原因として、ダイヤモンド表面の活性点は他の電極材料に比較して、存在密度が小さく、また、幾何学的形状も平滑である(白金電極の電気化学的二重層容量に比較すると、100分の1程度に過ぎない)ため、与えた電流密度より実際の電流密度が増大し、電解による電極減耗を起こし易いと推定される。
最近、多孔性のマスキング材を設置したダイヤモンド表面を、酸素プラズマでエッチングすることにより、マスク仕様に応じて、数十nmの孔を有し、ピッチが100nm程度(奥行き数μm)のハニカム形状を有するダイヤモンド電極の製法が考案され(非特許文献3)、これに白金などの他の触媒を形成される技術も報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、この方法では、工業用の電極に応用することは困難であり、また、より微細な多孔質化には限界があった。このような状況から、工業電解に利用できる多孔性ダイヤモンド電極を更に開発する必要が生じた。
特許文献7には、従来のダイヤモンド電極より多数の微細孔を有する電極活性の高いダイヤモンド電極の製造方法を開示している。基体表面に被覆したダイヤモンド層に析出させた金属粒子を、還元ガス雰囲気中で熱処理することにより、前記金属を触媒とする炭素還元反応を進行させ、前記ダイヤモンド層の表面に微細孔を形成させている。ダイヤモンド層表面に担持した金属粒子を利用するため、原子レベル又はそれに近いレベルで微細孔が形成されたダイヤモンド層やダイヤモンド粒子が得られる。前記微細孔は、触媒であるダイヤモンド層の表面積を増加させて触媒活性を向上させることを意図している。しかしこの方法は、金属粒子を蒸着法などでダイヤモンド層表面に析出させかつ還元ガス雰囲気中で熱処理を行なう必要がある。
一方、EGL(Electro Galvanizing Line) を代表とする高速亜鉛めっきや電解銅箔製造等においては、チタン等の弁金属表面に白金族金属やその酸化物を被覆したいわゆる寸法安定性電極、DSE(Dimensionally Stable Electrode)が使用されている。
DSEは他の電極に比較して格段に優れた安定性を示し、生成金属中への不純物の混入がなく、高品質であるため、汎用されている。この寸法安定性電極は食塩電解で使用され、優れた安定性を示すことが知られている。しかながら、めっき浴中等で使用すると、基体であるチタンの酸化腐食が進行し、白金族金属酸化物の被覆層が残留しているにも関わらず電解ができなくなるため、この対策が重要となる。たとえば、特許文献7及び特許文献9では、基体と電極活性物質との間にタンタルなどの金属あるいは合金などの中間層を形成させ、電極の耐久性を改善する技術が開示されている。
特許文献10では、ダイヤモンド層を中間層として、基体上に形成し、その後、白金族金属触媒を形成する技術が開示されている。しかしながら、このダイヤモンド中間層は平滑に析出した構造を有しており、このダイヤモンド中間層に触媒を形成する場合、特に、触媒原料を溶解した前駆体溶液を基体上に塗布し、熱処理によって触媒層を形成する場合、適切なアンカーが形成されないため、触媒塗布が困難であり、形成した触媒の脱落が容易に起こり、実用に至らなかった。
特許文献11には、ダイヤモンド粒子の表面に形成された微細孔に炭素反応性の触媒金属を担持した多数の導電性ダイヤモンド粒子を、バイダーと混合して、電気化学反応用電極触媒とする開示がある。この触媒は燃料電池の酸素極や水素極として使用できる。微細孔内に担持された金属触媒は、粒子表面に担持された金属触媒よりも触媒の安定性(凝集抑制、脱落防止)が高く、少量の金属で高活性及び長寿命が達成でき、高価な金属の使用量が低減できる。本特許文献には、ダイヤモンド粒子に触媒を形成する技術が開示されているが、大型の工業電解用電極への応用については記載がない。
特開昭58−1060379号公報 特開平7−299467号公報 特開2000-226682号公報 特開2000−254650号公報 特開平11−269685号公報 特許第3893397号公報 特開2006−183102号公報 特許第2761751号公報 特許第2574699号公報 特開平9−279398号公報 特開2007−242433号公報
Journal of Electrochemical Society Vol.141, 3382- 、(1994) 電気化学および工業物理化学、p389、Vol.67、No.4(1999) Adv. Mater., 6, 444(2000) J. Electroanal. Chem., 514, 35-50(2001)
従来のダイヤモンド多孔性処理では、sp2カーボンを選択的に減少させることはなく、ダイヤモンド品質としては改善することはなかった。今までに多孔性かつ高品質のダイヤモンド電極の工業的製法は見出されていなかったため、これを達成する製法と電極について鋭意検討した。
本発明は、前述の従来技術の問題点を解消し、電極表面積を大きくでき、あるいはその表面に被覆形成する触媒層との密着強度を向上させて高耐久性とした電気化学用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明者らは、ダイヤモンド成分が、高温下かつ水蒸気気中で、部分的に酸化除去され、微細な多孔質層を構築できることを見出したものであり、これにより、より高品質のダイヤモンド電極ができることを確認した。
本発明は以下の特徴がある。
[1]電極基体上に、導電性ダイヤモンド層を形成した電気化学用電極の製造方法において、導電性ダイヤモンド層を形成した前記電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させることを特徴とする電気化学用電極の製造方法。
[2]前記微細孔を形成させた導電性ダイヤモンド層内および層上に白金族金属及び/又はその酸化物を有する電極物質の触媒層を形成させることを特徴とする請求項1に記載の電気化学用電極の製造方法。
[3]電極基体が、カーボンあるいはチタン、タンタル及びニオブから選択される弁金属である請求項1又は2に記載の電気化学用電極の製造方法。
[4]前記細孔の代表径が1nm以上1μm以下の範囲である請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気化学用電極の製造方法。
[5]導電性ダイヤモンド粒子を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド粒子に微細孔を形成させることを特徴とする電気化学用電極用粒子の製造方法。
[6]導電性ダイヤモンド層を形成した電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させたことを特徴とする電気化学用電極。
[7]導電性ダイヤモンド層を形成した電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させ、該導電性ダイヤモンド層上に、電極物質の触媒層を形成させたことを特徴とする電気化学用電極。
本発明により、多孔性の導電性ダイヤモンド層を構築でき、この導電性ダイヤモンド層は表面積が大きく、従ってこれを有する電気化学用電極は高品質であるため、反応効率が増加し、安定性が付与される。その処理も高温の水蒸気雰囲気内で行えるため、例えば従来の水素気流中での処理と比較して、手間およびコストが大幅に低減できる。
更に前記導電性ダイヤモンド層内およびその上に、電極物質の触媒層を形成する電気化学用電極、つまり電極基体と触媒層の間に、高品質かつ微細孔を有する導電性ダイヤモンド構造の物質を有する中間層を形成すると、前記微細孔のアンカー効果により触媒層が中間層に強固に密着し、腐食雰囲気下での電解に使用しても十分な耐食性を示し、長期間の安定した電解操作を可能にする。
また、電極表面積の増加により実電流密度が低下し低過電圧化が実現できるため、経済性が向上する。本発明の電極は、電解合成用途のみならず、電気化学分析用電極としても高感度となるため利用可能であり、電解分野に限定されない。本製法は大型電極にも応用でき、生産性が顕著に向上する。
実施例1における多孔化したダイヤモンド層の走査型電子顕微鏡写真(700℃、2時間)。 実施例2における多孔化したダイヤモンド層の走査型電子顕微鏡写真(800℃、2時間)。 実施例3における多孔化したダイヤモンド層の走査型電子顕微鏡写真(900℃、1時間)。 多孔化したダイヤモンド層の走査型電子顕微鏡写真(900℃、2時間)。 比較例1における未処理ダイヤモンド層の走査型電子顕微鏡写真。 実施例1−3及び比較例の電気化学測定(0.5M硫酸中100mV/sのサイクリックボルタモグラム)の結果を示すグラフ。 実施例1−3及び比較例のラマン分光測定結果(Gバンドはグラファイト成分、Dバンドはダイヤモンド成分の存在を示す)を示すグラフ。
本発明が提案する電気化学用電極の詳細を説明する。
本発明の電気化学用電極は、各種電解に使用でき、その用途は特に限定されないが、各種めっき(例えば高速亜鉛めっき)、金属電解採取(電解銅箔製造)、食塩電極、有機電解、オゾン製造、水処理、溶融塩電解、燃料電池、センサーなどに好ましく使用できる。
本発明の電気化学用電極は、電極基体と、その表面に被覆した、微細孔を有する導電性ダイヤモンド層を含んで成る電気化学用電極、および電極基体、該電極基体表面に被覆した、微細孔を有する導電性ダイヤモンド中間層、及び該中間層に被覆した触媒層を含んで成る電気化学用電極である。
前記電極基体の材質としてはチタン、ニオブ、タンタル、珪素、カーボン等とし、これらを粒子、繊維、板、穴明き板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体等に加工して使用する。該電極基体は集電体を兼ねていても良い。本発明の電気化学用電極を、腐食性成分を含有する電解液にて電解酸化用として利用する場合は、前記基体として耐腐食性の強いニオブやタンタルを使用することが望ましい。基体材質をチタンとし、その表面に耐腐食性の強いニオブやタンタルの薄膜を形成し、このような複合材料を基体とすることも可能である。
該基体表面に直接導電性ダイヤモンド構造の電極物質を被覆して導電性ダイヤモンド(中間)層を形成するが、該導電性ダイヤモンド層の導電性ダイヤモンド構造の物質と前記基体との密着性を向上させるため及び実質電流密度を低下させるために、基体表面の粗化を行なうことが好ましく、高電流密度条件で使用する場合には#20程度のアルミナグリッド等を使用して表面積を増大させ、腐食条件下の比較的低電流密度下で使用する場合には#60〜120 程度の細かいアルミナサンドで表面粗化を行ないダイヤモンド被覆の付着性を向上させることが望ましい。
このように、ニオブ等の基体表面を研磨することは密着性の増大に寄与するために好ましい。このときダイヤモンド粉末を用い、核として基体に付与すること、或いは傷付け処理を行うことは、均一なダイヤモンド(中間)層の成長に効果がある。
本発明の導電性ダイヤモンド層の材料は、硼素、リン、グラファイト等の不純物をドープして導電性としたダイヤモンドであり、また、一部に僅かな量のグラファイトがダイヤモンド構造中に共存したものも利用可能である。
ダイヤモンド単独では導電性がないため、通常は前述の通り、原料である有機化合物に不純物を混入させ、前記有機化合物とともに前記基体上に付着させることにより、導電性の良好なダイヤモンドとする。前記不純物としては炭素と原子価の異なる元素から成る単体やそれを含む化合物、例えば粉末硼酸(酸化硼素)や五酸化二リン等を使用できる。この他にジボラン(B26)やホスフィン(PH3 )も前記不純物として使用可能であるが、毒性が高いため、前記粉末硼酸及び五酸化二リンを使用することが望ましい。該不純物の含有率は好ましくは1〜10000ppm、より好ましくは100 〜1000ppmである。抵抗率は100〜0.1Ωcmの範囲で制御可能である。
ダイヤモンド層の形成方法としては熱フィラメントCVD、マイクロ波プラズマCVD、プラズマアークジェット法、PVD法などが開発されている。粉末を得るには従来からの超高圧による合成ダイヤモンド粉末(HPHT法)、プラズマアークジェット法が使用される。
代表的な熱フィラメントCVD法について以下に説明する。
反応装置内は水素気流下とし、炭素源として、CH4、CH3OHなどを供給するが、気化可能な有機化合物であれば制限なく使用できる。水素に対する有機化合物ガス濃度は0.1〜5vol%、装置内圧力は0.002〜0.1MPaが好ましい。
反応装置は水素雰囲気かつ高温に耐性のある材料を用いる。フィラメント温度を炭素ラジカルが生成する温度1800〜2600℃にする一方、ダイヤモンドが析出する温度(650〜950℃)領域に電極基体を設置する。フィラメント材質としては、Ta、Wなどが好ましい。
前記導電性ダイヤモンド層の多孔性処理は、水蒸気流通下にて400℃〜1000℃の温度で加熱する方法により行う。
水蒸気によるダイヤモンド炭素の還元反応は以下のように進行すると考えられる。
C + 2H2O= CO2+ 2H2
反応条件としては0.1mPaの常圧で、窒素などの不活性ガスと、液体水を加温して水蒸気を作製し、これらを混合して反応装置に供給する。水蒸気の割合は体積で5〜95%の範囲が好ましい。反応時間により微細孔が増減するが、通常1〜10時間処理することが好ましい。温度は400〜1000℃で実施する。温度上昇に伴って、sp2カーボン、つまりグラファイト系のカーボンが消失して、sp3カーボン、つまりダイヤモンド系のカーボンの相対的な割合が増加する。
条件を選定することにより微細孔の代表径を1nm〜1μmの範囲で調整可能である。孔径は1nm未満であると、電解液の侵入ができず、電気化学への応用に関して顕著な改善効果が得られず、更に後述の触媒前駆体含有溶液の浸透が制限され、触媒が形成され難い。一方、1μmより大きい孔を形成することは可能であるが、微細孔を形成するダイヤモンド層の結晶寸法が1μm〜10μmであるため、本発明を利用する実用上の意義がない。孔の深さは10μmよりも深いと、孔径との比率にも依るが、有効に電気化学反応に寄与しない部分が生じ、また、機械的強度の低下を招く恐れがある。
また、多孔化したダイヤモンドを酸化処理し、その表面を酸素終端とすることで、後述の熱分解酸化物との接合性を改善することも好ましい。
図1〜4には本発明により生じた微細孔を有する導電性ダイヤモンドの電子顕微鏡写真を示した。図5の未処理の写真では存在しない微細孔が無数に形成していることがわかる。
このように、本発明では水蒸気雰囲気下で加熱して導電性ダイヤモンド層の多孔化を行うが、他の多孔化方法を併用すると、更に効率的に導電性ダイヤモンド層の多孔化を達成できる。
例えば導電性ダイヤモンド層の形成と同時又は形成後に、その表面に、コバルト、鉄、ニッケル、チタン、タンタル、ルテニウム、白金、ニオブ、モリブデン、タングステン、それらの合金などの金属粒子を、蒸着や熱分解法等で付着させると、金属粒子が触媒として機能し、導電性ダイヤモンド層と水素との間の炭素還元反応(例えばメタン生成反応)を促進し、導電性ダイヤモンド層表面を多孔化する。この金属粒子による多孔化を併用すると、単独の多孔化より、多孔化度の大きい導電性ダイヤモンド層が得られる。
このようにして作製した多孔化導電性ダイヤモンド層を有する電極は、そのまま導電性ダイヤモンド層を触媒とする電気化学用電極として各種用途に使用しても良いが、前記導電性ダイヤモンド層表面に金属や金属酸化物の電極物質層を被覆すると、より高性能の電気化学用電極を提供できる。
前記電極物質は、前記電気化学用電極の用途に応じて選択すれば良く、耐久性が多少劣っていても、前記導電性ダイヤモンド構造の物質を有する中間層により電解液や酸素の浸入が抑制されるため、長期間安定した電解操作を継続できる。しかしながら当然に耐久性を有する電解物質を使用することが望ましく、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム及びロジウム等の白金族金属やその酸化物を主成分とする電極物質、例えば酸化イリジウムと酸化タンタルの複合酸化物を使用することが好ましい。この電極物質は通常使用される熱分解法で中間層表面に被覆すれば良く、例えば塩化イリジウムとブチルタンタレートの混合物の溶液を塗布液として前記中間層の表面に塗布し乾燥後、加熱分解を行ない、更に必要に応じてこれらの操作を繰り返して所望量の電極物質を被覆する。好ましい繰り返し回数は3〜30回である。
本発明による水蒸気処理は、粒子状の導電性ダイヤモンドにも適用でき、得られた粒子は、そのまま流動床や固定床として利用するか、これを樹脂などでシート状に成型した形態にて利用することが可能である。
次に本発明に係わる電気化学用電極およびその製造方法に関する実施例を記載するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
[実施例1]
1mm厚さの単結晶Si板を基体として、以下の条件でホットフィラメントCVD装置を用いて直接ダイヤモンドを析出させた。ダイヤモンド微粒子(3μm径)からなる研磨材を用いて、基体表面を研磨し、表面の活性化、核付けを行った後、該基体を熱フィラメントCVD装置に装着した。炭素源としてはエチルアルコールを用い、これに酸化ホウ素1500ppmの濃度で溶解させておいた。水素ガスを0.01L/分の速度で流し、一部は炭素源容器にバイパスさせ、水素に対するエチルアルコールガス濃度は0.5vol%とし、これらのガスを装置内に流しながら、フィラメントに電流を流し、炭素ラジカルが生成する温度2200〜2400℃に昇温した。フィラメント直下にある基体の温度を測定したところ、800℃であった。3時間DVC操作を継続した後、基体を取出した。
このようにして作製した5μm厚さの1500ppmボロン添加ダイヤモンド電極に、0.1MPaにて10%の水蒸気を含む 窒素フロー下で、700℃にて2時間処理し、電極表面に微細孔を形成した。微細孔の寸法は電子顕微鏡写真で観察したところ、直径は数十nm〜100nmであった(図1参照)。
微細孔形成前後のラマンスペクトル(図7参照)から、1330cm-1のダイヤモンド(D)ピークに大きい変化はなかった一方、sp2カーボンに起因するGバンドが減少し、ダイヤモンドに存在するグラファイト状炭素が選択的に消失され、D/G(ダイヤモンド/グラファイト)比は水蒸気処理を行わない電極の1.45に比較して、1.6に増加することがわかった。
このように作製した電極を面積1cm2に切り出し陽極とし、対極をジルコニウム板、極間を1cmとして、0.5M硫酸、室温の条件で電解を行ったところ、その電気化学測定(0.5M硫酸中100mV/sのサイクリックボルタモグラム)の結果は、図6のグラフに「700℃」として示した通りで、電気二重層容量は56μF/cm2であった。水蒸気処理を行わない電極の11μF/cm2に比較して約5倍に増加した
[実施例2]
実施例1と同様に作成した5μmの厚さのダイヤモンド電極に、0.1MPaにて10%の水蒸気を含む 窒素フロー下で、800℃にて2時間処理したところ、電極表面に直径が0.1μm〜1μmの細孔が形成された(図2の電子顕微鏡写真参照)。図7のラマンスペクトルから、sp2カーボンに起因するGバンドが減少し、BDDに存在するグラファイト状炭素が選択的に消失され、D/G比は1.9に増加することがわかった。
実施例1と同様に電解を行ったところ、その電気化学測定(0.5M硫酸中100mV/sのサイクリックボルタモグラム)の結果は、図6のグラフに「800℃」として示した通りで、電気二重層容量は103μF/cm2であった。水蒸気処理を行わない電極の11μF/cm2に比較して10倍に増加した。
[実施例3]
実施例1と同様に作成した5μmの厚さのダイヤモンド電極に、0.1MPaにて10%の水蒸気を含む 窒素フロー下で、900℃にて1時間処理したところ、電極表面に0.1μm〜1μmの凹凸が形成された(図3の電子顕微鏡写真参照)。図7のラマンスペクトルから、sp2カーボンに起因するGバンドが減少し、BDDに存在するグラファイト状炭素が選択的に消失され、D/G比は2.15に増加することがわかった。
実施例1と同様に電解を行ったところ、その電気化学測定(0.5M硫酸中100mV/sのサイクリックボルタモグラム)の結果は、図6のグラフに「900℃」として示した通りで、電気二重層容量は235μF/cm2であった。水蒸気処理を行わない電極の11μF/cm2に比較して20倍に増加した。
なお上記した900℃での1時間処理に代えて、900℃にて2時間処理した電極の表面状態の電子顕微鏡写真を図4に示す。
[比較例1]
微細孔の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして電気化学用電極を作製した。その表面状態は図5の電子顕微鏡写真に示す通りで、微細孔は形成されていなかった。またその電気化学測定(0.5M硫酸中100mV/sのサイクリックボルタモグラム)の結果は、図6のグラフに「BDD未処理」として示した通りで、電気二重層容量は11μF/cm2であり、D/G比は1.45であった。
[実施例4]
塩化イリジウムとブチルタンタレートを金属モル比2:1の割合で混合したブチルアルコールと塩酸混合物を溶媒とした溶液を、触媒前駆体溶液として準備した。実施例1と同様に作製したダイヤモンド層を形成させたNb板に、前記触媒前駆体溶液を塗布し、乾燥後、流通空気中500℃で10分間加熱分解を行ない、これを5回繰り返してイリジウム換算で0.04モル/m2の電極物質を被覆した。このように作製した電極を面積1cm2に切り出し陽極とし、対極をジルコニウム板とし、極間を1cmとして、150g/L硫酸、60℃の条件で電解を行ったところ、5A/cm2の電流密度で1300時間安定したセル電圧を維持し、長期間の使用が可能であることが確認された。
[比較例2]
導電性ダイヤモンド層の微細孔形成を行わなかったこと以外は、実施例4と同様に、触媒層を形成した電極を作製した。これを使用して電解したところ、500時間経過後に基体の腐食と考えられる触媒層被覆の脱離が起こり、電解が継続できなくなった。

Claims (7)

  1. 電極基体上に、導電性ダイヤモンド層を形成した電気化学用電極の製造方法において、導電性ダイヤモンド層を形成した前記電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させることを特徴とする電気化学用電極の製造方法。
  2. 前記微細孔を形成させた導電性ダイヤモンド層内および層上に、白金族金属及び/又はその酸化物を有する電極物質の触媒層を形成させることを特徴とする請求項1に記載の電気化学用電極の製造方法。
  3. 電極基体が、カーボンあるいはチタン、タンタル及びニオブから選択される弁金属である請求項1又は2に記載の電気化学用電極の製造方法。
  4. 前記細孔の代表径が1nm以上1μm以下の範囲である請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気化学用電極の製造方法。
  5. 導電性ダイヤモンド粒子を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド粒子に微細孔を形成させることを特徴とする電気化学用電極用粒子の製造方法。
  6. 導電性ダイヤモンド層を形成した電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させたことを特徴とする電気化学用電極。
  7. 導電性ダイヤモンド層を形成した電極基体を、水蒸気下で400℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、前記導電性ダイヤモンド層に微細孔を形成させ、該導電性ダイヤモンド層上に、電極物質の触媒層を形成させたことを特徴とする電気化学用電極。
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