以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、以下の説明において、上下前後、左右の方向は、図1及び図2中に示した方向として説明する。
図1は本発明に係るインパクト工具の一実施例としてのインパクト工具1の内部構造を示す図である。インパクト工具1は、充電可能なバッテリパック30を電源とし、モータ3を駆動源として打撃機構40を駆動し、出力軸であるアンビル46に回転と打撃を与えることによってドライバビット等の図示しない先端工具に連続する回転力や断続的な打撃力を伝達してネジ締めやボルト締め等の作業を行う。
モータ3は、ブラシレスDCモータであって、側面から見て略T字状の形状を成すハウジング6の筒状の胴体部6a内に収容される。ハウジング6は、ほぼ対称な形状の左右2つの部材に分割可能に構成され、それら部材が複数のネジにより固定される。そのため、分割されるハウジング6の一方(本実施例では左側ハウジング)に複数のネジボス20が形成され、他方(右側ハウジング)に複数のネジ穴(図示せず)が形成される。モータ3の回転軸19は、胴体部6aの後端側のベアリング17bと中央部付近に設けられるベアリング17aによって回転可能に保持される。モータ3の後方には6つのスイッチング素子10が搭載された基板も設けられ、これらスイッチング素子10によってインバータ制御を行うことによりモータ3を回転させる。基板7の前方側には、回転子3aの位置を検出するためにホール素子やホールIC等の回転位置検出素子58が搭載される。
ハウジング6の胴体部6aから略直角に一体に延びるグリップ部6b内の上部にはトリガスイッチ8及び正逆切替レバー14が設けられ、トリガスイッチ8には図示しないバネによって付勢されてグリップ部6bから突出するトリガ操作部8aが設けられる。グリップ部6b内の下方には、トリガ操作部8aによってモータ3の速度を制御する機能等を備えた制御回路基板9が収容される。ハウジング6のグリップ部6bの下方に形成されたバッテリ保持部6cには、ニッケル水素やリチウムイオン等の複数の電池セルが収容されたバッテリパック30が着脱可能に装着される。
モータ3の前方には、回転軸19に取り付けられてモータ3と同期して回転する冷却ファン18が設けられる。冷却ファン18により、胴体部6aの後方に設けられた空気取入口26a、26bから空気が吸引される。吸引された空気は、ハウジング6の胴体部6aであって冷却ファン18の半径方向外周側付近に形成される複数のスリット26c(図2参照)からハウジング6の外部に排出される。
打撃機構40は、アンビル46とハンマ41の2つの部品により構成され、ハンマ41は遊星歯車減速機構21の複数の遊星歯車の回転軸を連結するように固定される。現在広く使われている公知のインパクト機構と違って、ハンマ41には、スピンドル、スプリング、カム溝、及びボール等を有するカム機構を有しない。そしてアンビル46とハンマ41とは回転中心付近に形成された嵌合軸と嵌合穴により1回転未満の相対回転だけができるように連結される。アンビル46は、図示しない先端工具を装着する出力軸部分と一体に構成され、前端には軸方向と鉛直面の断面形状が六角形の装着穴46aが形成される。アンビル46の後方側はハンマ41の嵌合軸と連結され、軸方向中央付近でメタルベアリング16aによりケース5に対して回転可能に保持される。尚、これらアンビル46とハンマ41の詳細形状については後述する。
ケース5は打撃機構40及び遊星歯車減速機構21を収容するための金属製の一体成形で形成され、ハウジング6の前方側に装着される。また、ケース5の外周側は、熱の伝達を防止するとともに、衝撃吸収効果等を果たすために樹脂製のカバー11で覆われる。アンビル46の先端には先端工具を着脱するためのスリーブ15が設けられる。
トリガ操作部8aが引かれてモータ3が起動されると、モータ3の回転は遊星歯車減速機構21によって減速され、モータ3の回転数に対して所定の比率の回転数でハンマ41が回転する。ハンマ41が回転すると、その回転力はアンビル46に伝達され、アンビル46がハンマ41と同じ速度で回転を開始する。先端工具側からの受ける反力によってアンビル46にかかる力が大きくなると、後述する制御部は締め付け反力の増大を検出し、モータ3の回転が停止してロック状態になる前に、ハンマ41の駆動モードを変更しながらハンマ41を連続的に又は断続的に駆動する。
図2は、図1のインパクト工具1の外観を示す斜視図である。ハウジング6は3つの部分(6a、6b、6c)から構成され、胴体部6aの、冷却ファン18の半径方向外周側付近には冷却風排出用のスリット26cが形成される。また、バッテリ保持部6cの上面には制御パネル31が設けられる。制御パネル31には、各種の操作ボタンや表示ランプ等が配置され、例えばLEDライト12をON/OFFするためのスイッチや、バッテリパックの残量を確認するためのボタンが配置される。また、バッテリ保持部6cの側面にはモータ3の駆動モード(ドリルモード、インパクトモード)を切り替えるためのトグルスイッチ32が設けられる。トグルスイッチ32を押下するごとに、ドリルモードとインパクトモードが交互に切り替わる。
バッテリパック30には、リリースボタン30aが設けられ、左右両側に位置するリリースボタン30aを押しながら前方にバッテリパック30を移動させることにより、バッテリパック30をバッテリ保持部6cから取り外すことができる。バッテリ保持部6cの左右側には、着脱可能な金属製のベルトフック33が設けられる。図2では、インパクト工具1の左側に取り付けられているが、ベルトフック33を取り外してインパクト工具1の右側に装着することも可能である。バッテリ保持部6cの後端部付近にはストラップ34が取り付けられる。
図3は、図1の打撃機構40付近の拡大断面図である。遊星歯車減速機構21は、プラネタリー型であり、モータ3の回転軸19の先端と接続されるサンギヤ21aが駆動軸(入力軸)となり、胴体部6aに固定されるアウターギヤ21d内で、複数のプラネタリーギヤ21bが回転する。プラネタリーギヤ21bの複数の回転軸21cは、遊星キャリヤの機能を持つハンマ41にて保持される。ハンマ41は遊星歯車減速機構21の従動軸(出力軸)として、モータ3と同方向に所定の減速比で回転する。この減速比をどの程度に設定するかは、主な締付対象(ネジかボルトか)、モータ3の出力と必要な締付トルクの大きさ等の要因から適切に設定すれば良く、本実施例ではモータ3の回転数に対してハンマ41の回転数が1/8〜1/15程度になるように減速比を設定する。
胴体部6aの内部の2つのネジボス20の内周側には、インナカバー22が設けられる。インナカバー22はプラスチック等の合成樹脂の一体成形で製造された部材であり、後方側には円筒状の部分が形成され、その円筒部分でモータ3の回転軸19を回転可能に固定するベアリング17aを保持する。また、インナカバー22の前方側には、2つの異なる径を有する円筒状の段差部が設けられ、その小さい方の段差部にはボール式のベアリング16bが設けられ、大きい方の円筒状の段差部には、前方側からアウターギヤ21dの一部が挿入される。尚、アウターギヤ21dはインナカバー22に回転不能に取り付けられ、インナカバー22はハウジング6の胴体部6aに回転不能に取り付けられることから、アウターギヤ21dは非回転状態で固定されることになる。また、アウターギヤ21dの外周部には外径が大きく形成されたフランジ部分が設けられ、フランジ部分とインナカバー22の間にはOリング23が設けられる。ハンマ41とアンビル46の回転部分にはグリス(図示せず)が塗布されており、Oリング23は、そのグリスがインナカバー22側に漏れないようにシールする。
本実施例において特徴的なこととして、ハンマ41がプラネタリーギヤ21bの複数の回転軸21cを保持する遊星キャリヤの機能を持つことである。そのためハンマ41の後端部はベアリング16bの内輪の内周側にまで延びる。また、ハンマ41の後方側内周部は、モータ3の回転軸19に取り付けられるサンギヤ21aを収容する円筒形の内部空間内に配置される。ハンマ41の前方側中心軸付近は、軸方向前方に突出する嵌合軸41aが形成され、嵌合軸41aはアンビル46の後方側中心軸付近に形成される円筒形の嵌合穴46fに嵌合する。尚、嵌合軸41aと嵌合穴46fは、双方が相対的に回転可能なように軸支されるものである。
図4は、冷却ファン18の斜視図である。冷却ファン18は例えばプラスチック等の合成樹脂の一体構成によって製造される。回転中心には、回転軸19が貫通される貫通穴18aが形成され、回転軸19を軸方向に所定距離だけ覆い回転子3aとの所定の距離を確保する円筒部18bが形成され、円筒部18bから外周側には複数のフィン18cが形成される。フィン18cの前後側には、円環状の部分が設けられ、冷却ファン18の回転方向に限られずに軸方向後方から吸引された空気を、外周付近に形成された複数の開口部18dから円周方向外側に排出する。冷却ファン18は、いわゆる遠心ファンの機能を果たすものであり、遊星歯車減速機構21を介さずにモータ3の回転軸19に直接接続されるので、ハンマ41に比べて十分大きい回転数で回転されるので、十分な風量を確保することができる。
次に、モータ3の駆動制御系の構成と作用を図5に基づいて説明する。図5はモータ3の駆動制御系の構成を示すブロック図であり、本実施例では、モータ3は3相のブラシレスDCモータで構成される。このブラシレスDCモータは、いわゆるインナーロータ型であって、複数組(本実施例では2組)のN極とS極を含む永久磁石(マグネット)を含んで構成される回転子(ロータ)3aと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wから成る固定子(ステータ)3bと、回転子3aの回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置された3つの回転位置検出素子(ホール素子)58を有する。これら回転位置検出素子58からの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御され、モータ3が回転する。回転位置検出素子58は、基板7上の回転子3aの永久磁石3cに対向する位置に設けられる。
基板7上に搭載される電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含む。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御回路基板9に搭載される制御信号出力回路53に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路53から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4、H5、H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路52に印加されるバッテリパック30の直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側スイッチング素子Q4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、制御回路基板9上に搭載された演算部51によって、トリガスイッチ8のトリガ操作部8aの操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御する。
ここで、PWM信号は、インバータ回路52の正電源側スイッチング素子Q1〜Q3または負電源側スイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子Q1〜Q3またはスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによってバッテリパック30の直流電圧から各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。尚、本実施例では、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ3の回転速度を制御することができる。
インパクト工具1には、モータ3の回転方向を切り替えるための正逆切替レバー14が設けられ、回転方向設定回路62は正逆切替レバー14の変化を検出するごとに、モータの回転方向を切り替えて、その制御信号を演算部51に送信する。演算部51は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含んで構成される。
演算部51は、回転方向設定回路62と回転子位置検出回路54の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子Q1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その駆動信号を制御信号出力回路53に出力する。これによって固定子巻線U、V、Wの所定の巻線に交互に通電し、回転子3aを設定された回転方向に回転させる。この場合、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6に印加する駆動信号は、印加電圧設定回路61の出力制御信号に基づいてPWM変調信号として出力される。モータ3に供給される電流値は、電流検出回路59によって測定され、その値が演算部51にフィードバックされることにより、設定された駆動電力となるように調整される。尚、PWM信号は正電源側スイッチング素子Q1〜Q3に印加しても良い。
制御回路基板9に搭載される制御部50には、アンビル46に発生する衝撃の大きさを検出する打撃衝撃検出センサ56が接続され、その出力は打撃衝撃検出回路57を介して演算部51に入力される。打撃衝撃検出センサ56としては、アンビル46に取り付けられる歪ゲージ等で実現でき、打撃衝撃検出センサ56の出力を用いて規定トルクで締め付けが完了した際に、モータ3を自動停止させるようにしても良い。
次に、本実施例に係るハンマ41とアンビル46の打撃動作を説明する前に、図6、7を用いて本発明のハンマとアンビルの基本構成と、その打撃動作原理を説明する。図6は、本発明の基本構成に係るハンマ151とアンビル156の形状を示す図であり、最もシンプルな形状のものである。この形状は本発明の第2の実施例に係る形状でもある。ハンマ151は、円筒形の本体部分151bから軸方向に突出する1組の突出部、即ち突出部152と突出部153が形成される。本体部分151bの前方側、中央には、アンビル156の後方に形成された嵌合穴(図示せず)に嵌合する嵌合軸151aが形成され、ハンマ151とアンビル156は相対的に1回転未満(360度未満)の所定角度だけ回転可能なように連結される。突出部152は打撃爪として作用するもので、円周方向の両側に平面状の打撃面152aと152bが形成される。また、ハンマ151には、突出部152との回転バランスを取るための突出部153が形成される。突出部153は、回転バランスをとるための錘部として機能するため、打撃面は形成されない。
本体部分151bの後方側には、接続部分151dを介して円盤部151cが形成される。本体部分151bと円盤部151cの間の空間は、遊星歯車減速機構21のプラネタリーギヤ21bを配置するためのもので、円盤部151cにはプラネタリーギヤ21bの回転軸21cを保持するための貫通穴151fが形成される。図示していないが、本体部分151bの円盤部151cに面する側にもプラネタリーギヤ21bの回転軸21cを保持するための保持穴が形成される。
アンビル156は、円筒形の本体部分156bの前端側に先端工具を装着するための装着穴156aが形成され、本体部分156bの後方側には本体部分156bから半径方向外側に突出する2つの突出部157と158が形成される。突出部157は、被打撃面157aと157bを有する打撃爪であり、突出部158が被打撃面をもたない錘部である。突出部157は、突出部152と衝突するように構成されるため、その外径は突出部152の外形と同じに構成される。しかしながら突出部153と158は共に錘として作用させるだけであって、どの部位にも衝突させないために、お互いが干渉しない位置や大きさに形成し配置することが重要である。また、ハンマ151とアンビル156の相対的な回転角をできるだけ多く取るために(但し、最大でも1回転未満である)、突出部153及び158の半径方向の厚さを小さくして円周方向の長さを大きくすることによって、突出部152と157との回転バランスをとれるように形成される。相対的な回転角を大きく設定することにより、ハンマをアンビルに衝突させるときのハンマの加速区間(助走区間)を大きく取ることができ、大きなエネルギーにて打撃することができる。
図7は、ハンマ151及びアンビル156の使用状態における一回転の動きを6段階で示した断面図である。断面は軸方向と鉛直面であって、打撃面152a(図6)を含む断面である。図7(1)の状態において、先端工具からうける締め付けトルクが小さいうちは、アンビル156はハンマ151から押されることにより反時計回りに回転する。しかしながら、締め付けトルクが大きくなってハンマ151から押される力だけでは回転できなくなった場合には、ハンマ151によってアンビル156を叩くため、ハンマ151を矢印161の方向に逆回転させるべく、モータ3の逆回転を開始する。(1)で示す状態においてモータ3の反転を開始し、それによってハンマ151の突出部152を矢印161の方向に回転させ、さらにモータ3を逆回転させて、(2)に示すように突出部152は突出部158の外周側を通って矢印162の方向に加速されながら回転する。ここで、突出部158の外径Ra1は、突出部152の内径Rh1よりも小さく構成され、両者は衝突しない。同様に、突出部157の外径Ra2は、突出部153の内径Rh2よりも小さく構成され、両者は衝突しない。このような位置関係に構成すれば、ハンマ151とアンビル156との相対回転角を180度より大きく構成することができ、アンビル156に対してハンマ151の十分な量の反転角を確保することができる。
ハンマ151がさらに逆回転して、矢印163aに示すように図7(3)の位置(逆回転の停止位置)でハンマ151の回転が呈したら、モータ3の矢印163bの方向(正回転方向)への回転を開始する。尚、ハンマ151を逆回転させた際に、アンビル156に衝突しないように、停止位置において確実にハンマ151を停止させることが重要である。ハンマ151の停止位置を、アンビル156と衝突する位置のどの程度前に設定するかは任意であるが、必要とされる締め付けトルクの関係からできるだけ大きくすると良い。また、停止位置は毎回同じ位置とする必要はなく、締め付け初期段階では逆回転角を小さくして、締め付けが進むにつれて逆回転角を大きく設定するように構成しても良い。このように停止位置を可変にすれば逆回転に要する時間を最小に設定できるので、短い時間で迅速に打撃動作を行うことができる。
そして、図7(4)の位置を矢印164の方向に通過しながらさらにハンマ151を加速させ、加速中の状態のまま図7(5)に示す位置にて突出部152の打撃面152aは、アンビル156の被打撃面157aに衝突する。この衝突の結果、アンビル156には強力な回転トルクが伝達され、アンビル156は矢印166で示す方向に回転する。図7(6)の位置は、図7(1)で示した状態から、ハンマ151とアンビル156の双方が所定角度分だけ回転した状態であり、再び図7(1)の状態から図7の(5)に至る動作を繰り返すことによって、締め付け部材を適正トルクになるまで締め付けを行う。
以上のように、本発明に係るハンマ151とアンビル156では、モータ3を逆回転させる駆動モードを用いることによって、打撃機構としてハンマ151とアンビル156だけのきわめてシンプルな構成で、インパクト工具を実現することができる。尚、この構成の打撃機構においては、モータ3の駆動モードの設定よって、ドリルモードとして回転させることもできる。例えば、ドリルモードにおいては、図7(5)の状態からモータ3を回転させてハンマ151を正方向に回転させるだけで図7(6)のようにアンビル156を追従して回転させることが可能であるので、これを繰り返すことにより締め付けトルクが小さくて済むネジやボルト等の締め付け部材を高速で締め付けることができる。
さらに、本実施例に係るインパクト工具1においては、モータ3としてブラシレスDCモータを用いているため、電流検出回路59(図5参照)からモータ3に流れる電流値を求めて、電流値が所定の値よりも大きくなった状態を検出して、演算部51がモータ3を停止させることによって、所定トルクまで締め付けた後に動力伝達を遮断させる、いわゆるクラッチ機構を電子的に実現することができる。従って、本発明の本実施例に係るインパクト工具1においては、ドリルモード時のクラッチ機構をも実現することができ、簡単な構成の打撃機構にてクラッチ無しのドリルモード、クラッチ付きのドリルモード、インパクトモードの3つの動作モードを有するマルチユースの締付け工具を実現できる。
次に図8、9を用いて、図1、2に示した打撃機構40の詳細構造を説明する。図8は、本発明の第1の実施例に係るハンマ41とアンビル46の形状を示す斜視図であり、ハンマ41は斜め前方から、アンビル46は斜め後方からみた図である。図9はハンマ41とアンビル46の形状を示す斜視図であり、ハンマ41は斜め後方から見た図であり、アンビル46は斜め前方からみた部分図である。ハンマ41は、円柱形の本体部分41bから径方向に突出する2つの羽根部41cと41dが形成される。羽根部41cと41dには、それぞれ軸方向に突出する突出部が形成されるが、図6で示した基本構成(第2の実施例)と異なることは、羽根部41cと41dのそれぞれに一組ずつの打撃部と錘部が形成されることである。
羽根部41c側は、外周部が扇状に広がるように形成されとともに、外周部から軸方向前方に突出する突出部42が形成される。この扇状に広がる部分と突出部42が打撃部(打撃爪)として機能と同時に、錘部としての機能を果たす。突出部42には円周方向の両側には打撃面42aと42bが形成される。打撃面42aと42bは、共に平面に形成されたもので、アンビル46の後述する被打撃面と良好に面接触するように適度な角度がつけられる。一方、羽根部41dは外周部が扇状に広がるように形成され、扇状に広がる形状によりその部分の質量が大きくなり錘部として良好な作用を果たす。また羽根部41dの径方向中央付近から軸方向前方に突出する突出部43が形成される。突出部43は打撃部(打撃爪)として作用するもので、円周方向の両側には打撃面43aと43bが形成される。打撃面43aと43bは、共に平面状に形成されたもので、アンビル46の後述する被打撃面と良好に面接触するように、円周方向に適度な角度がつけられる。
本体部分41bの軸心付近、前方側にはアンビル46の嵌合穴46fと嵌合される嵌合軸41aが形成される。本体部分41bの後方側には遊星キャリヤの機能を有するように2つの円盤部44a、44bと円周方向の2箇所においてこれらを接続する接続部44cが形成される。円盤部44a、44bの円周方向のそれぞれ2箇所には、貫通穴44dが形成され、円盤部44a、44bの間に2つのプラネタリーギヤ21b(図3参照)が配置され、プラネタリーギヤ21bの回転軸21c(図3参照)が貫通穴44dに装着される。円盤部44bの後方側には円筒形に延びる円筒部44eが形成される。円筒部44eの外周側はベアリング16bの内輪にて保持される。また、円筒部44eの内側の空間44fにはサンギヤ21a(図3参照)が配置される。尚、図8及び図9に示すハンマ41とアンビル46とは、金属の一体構造にて製造すると強度的にも重量的にも好ましい。
アンビル46は、円柱形の本体部分46bから径方向に突出する2つの羽根部46cと46dが形成される。羽根部46cの外周付近には軸方向後方に突出する突出部47が形成される。突出部47の円周方向両側には被打撃面47a及び47bが形成される。一方、羽根部46dの径方向中央付近には軸方向後方に突出する突出部48が形成される。突出部48の円周方向両側には被打撃面48a及び48bが形成される。ハンマ41が正回転(ネジ等を締め付ける回転方向)するときには、打撃面42aが被打撃面47aに当接し、同時に打撃面43aが被打撃面48aに当接する。また、ハンマ41が逆回転(ネジ等をゆるめる回転方向)するときには、打撃面42bが被打撃面47bに当接し、同時に打撃面43bが被打撃面48bに当接する。この当接するのは同時となるように突出部42、43、47、48の形状が決定される。
このように、図8、9に示すハンマ41及びアンビル46によれば、回転する軸心を基準に対称な2箇所にて打撃が行われるので打撃時のバランスが良く、打撃時にインパクト工具1が振られにくく構成できる。また、打撃面は突出部の円周方向両側にそれぞれ設けられるので、正回転だけでなく逆回転時にもインパクト動作が可能になるので、使いやすいインパクト工具を実現できる。さらに、ハンマ41でアンビル46を打撃する方向は、円周方向のみであってアンビル46を軸方向、前方に叩かないので、先端工具を必要以上に締め付け部材に押しつけることもなく、木材に木ねじ等を締め込む際に有利である。
次に図10を用いて図8、9に示したハンマ41及びアンビル46の打撃動作を説明する。基本的な動作は図7で説明した動作と同じであり、違いは打撃時に1箇所でなくほぼ軸対称な2箇所の打撃面にて同時に打撃されることである。また、図10で示す断面図は図3のA−A部の断面であり、この断面からハンマ41から軸方向に突出する突出部42、43と、アンビル46から軸方向に突出する突出部47、48の位置関係が理解できるであろう。締め付け動作時(正回転時)のアンビル46の回転方向は反時計回りである。
図10(1)は、ハンマ41がアンビル46に対して最反転位置まで逆回転した状態である(図7(3)の状態に相当)。この状態からハンマ41をアンビル46に対して衝突させるべく、矢印91の方向(正方向)に加速させる。そして、図10(2)のように突出部42は突出部48の外周側を通過し、同時に突出部43は突出部47の内周側を通過する。このように、双方の通過を可能とするために、突出部42の内径RH2は、突出部48の外径RA1よりも大きく構成され、両者は衝突しない。同様に、突出部43の外径RH1は、突出部47の内径RA2よりも小さく構成され、両者は衝突しない。このような位置関係に構成すれば、ハンマ41とアンビル46との相対回転角を180度より大きく構成することができ、アンビル46に対してハンマ41の十分な量の反転角が確保でき、この反転角がハンマ41をアンビル46に打撃する前の加速区間とすることができる。
次に、図10(3)の状態までハンマ41が正回転すると突出部42の打撃面42aは、突出部47の被打撃面47aに衝突する。同時に、突出部43の打撃面43aは突出部48の被打撃面48aに衝突する。このように、回転軸に対して反対側の2箇所にて衝突することによりアンビル46に対してバランスの良い打撃を行うことができる。この打撃の結果、図10(4)に示すようにアンビル46は、矢印94の方向に回転することになり、この回転によって締め付け部材の締め付けが行われる。尚、ハンマ41には、径方向の同心位置(RH2以上、RH3以下の位置)において唯一の突起である突出部42を有し、同心位置(RH1以下の位置)において第3の唯一の突起である突出部43を有する。また、アンビル46は、径方向の同心位置(RA2以上、RA3以下の位置)において唯一の突起である突出部47を有し、同心位置(RA1以下の位置)において唯一の突起である突出部48を有する。
次に、本実施例に係るインパクト工具1の駆動方法について説明する。本実施例に係るインパクト工具1においては、アンビル46とハンマ41が、相対的に360度未満の回転角で回転可能なように形成される。従って、ハンマ41はアンビル46に対して1回転以上の相対的回転が無いため、その回転制御も特有のものになる。通常ネジやボルト等の締め付け作業においては、ネジやボルトの加工精度のばらつき、被締め付け部材の状態、木材の節や木目などの材質のばらつきなどにより、必要とされる締め付けトルクが一定でない事が多い。また連続駆動モードでの締め付け作業において、締め付け作業が進行するに従ってカムアウト現象が起こることが少なくない。カムアウト現象が起こる要因の一つとして、モータ3の回転数が必要以上に大きくなり過ぎて、先端工具の回転数とネジの回転数が一致しないということが挙げられる。本実施例では、このカムアウトの発生を防ぐために回転制御にさらに工夫を加えている。
本実施例に係るインパクト工具1でインパクトモードにおける締め付けが選択された場合は、最初に連続駆動モードで高速に締め付けを行い、必要とされる締め付けトルク値が大きくなったら断続駆動モードに切り替えて締め付けを行う。連続駆動モードにおいて、演算部51はモータ3を所定の回転数を超えないように定速制御する。連続駆動モードは、モータ3を連続駆動するので電気消費量が少なくすることができ、締め付けスピードが速いという特徴がある。しかし連続駆動モードではネジ等の締め付け具からの反力(負荷)が高いときにカムアウトが発生しやすい。一方、断続駆動モードは、モータ3を断続的に駆動し、パルス状にモータ3を駆動するモードである。断続駆動モードは、高負荷時に強い力で締め付けることができ、しかもカムアウトが起こりにくいという特徴がある。しかし断続駆動モードは連続駆動モードより締め付けスピードが遅く、しかも電流消費量が多い。本実施例では、連続駆動モードと断続駆動モードの双方の長所を生かせるように、締め付け初期は連続駆動モードで締め付けを行い、その後、断続駆動モードに切り替えて高いトルクで締め付けを行う。この際、できるだけ連続駆動モードでの締め付け時間を長くするように制御する。
図11は、インパクト工具1の運転時のトリガ信号、モータ3に対する駆動信号、モータ3に流れる電流信号、モータ3の回転速度、ハンマ41とアンビル46の打撃状況を示す図である。各グラフにおいて横軸は時間であり、各グラフのタイミングを比較できるように横軸を合わせて表示している。
断続駆動モードにおいてパルス状に駆動するために、モータ3に駆動電力を全く供給しない(或いはほんの少しだけ供給する)休止期間を設ける。本実施例では断続駆動モードで、モータ3を「休止→逆回転駆動→休止→正回転駆動」を複数回繰り返すように駆動する。このように断続駆動モードにおいては、モータ3の正回転駆動だけでなく逆回転駆動をも加わるために、ハンマ41をアンビル46に対して十分な相対角だけ逆回転させた後に、ハンマ41を正回転方向に加速させ、ハンマ41を勢い良くアンビル46に衝突させる。このようにハンマ41をアンビル46に衝突させることによって、アンビル46に強い締め付けトルクを発生させる。断続駆動モードにおいては、演算部51は締め付け材を設定されたトルクで締め付けできるようにモータ3の回転を制御する。
図11において、時間T0からのT1の間は、いわゆるモータ3の起動時の制御である。演算部51は始動電流が大きくなりすぎないように、流れる電流値がある制限値を超えないように電流制限を行う(矢印83a)。モータ3が始動したら電流の値は制限値より大きく減少し、時間T1からのT2の間は、演算部51はモータ3の回転数が設定値を超えないように定速制御する(矢印85a)。その後、アンビル46に取り付けられた先端工具からの締め付け反力が大きくなると、モータ3を一定速度に保つためにモータ3に供給される電流が徐々に増加する(矢印83c)。
時間T2でモータ3の電流値がある値(閾値:矢印83d)まで増加すると、演算部51は図11の時間T1からT2までの電流の増加量に応じてPWM制御のデューティ値を変化させてモータ3の回転数を落とすように制御する。この際、PWM制御のデューティ比を一気に落とすのではなく、徐々に落とすように制御することが好ましい。この制御によって、モータ回転数は矢印85bから85cのように低下する。モータ3の回転速度が落ち込むことによって、モータ3に供給される電流も矢印83eのように低下するが、この電流値を検出し、所定の回転速度まで減速、若しくは電流値まで供給する電流値が落ちたところ、即ち時間T3においてモータ3の制御モードを、断続駆動モードによる制御に切り替える。
このように先端工具からの負荷に応じて電流閾値と回転数閾値を演算により変更することで、連続駆動モードの運転時間を可能な限り伸ばすことができ、締め付け作業時間の短縮と消費電力の低減が可能になる。尚、連続駆動モードから断続駆動モードへの切り替えのタイミングは、被締め付け部材の堅さ等によって変化するので、柔らかい木材に木ねじを締め付ける等の軽負荷時には連続駆動モードの比率が高くなる。
断続駆動モードによる制御では、演算部51はモータ3の駆動を一時休止させて、その後、負の方向の駆動電流82aを制御信号出力回路53に送ることによりモータ3を逆回転させる。モータ3の正転、逆転を行う際には、制御信号出力回路53から各スイッチング素子Q1〜Q6に出力する各駆動信号(オンオフ信号)の信号パターンを切り替えることにより実現される。モータ3が所定の回転角分だけ逆回転したら、モータ3の駆動を一時休止させて正回転駆動を開始する。このため、正の方向の駆動電流82bを制御信号出力回路53に送る。尚、インバータ回路52を用いた回転駆動においては、駆動信号をプラス側又はマイナス側に切り替えるものではないが、図11ではどちら方向へ回転駆動するか容易に理解できるように、駆動信号をプラス側及びマイナス側に分けて模式的に表現した。
モータ3が逆方向の最大回転に達して(矢印86a)。モータ3に正方向の駆動電流が供給されると(矢印86b)、モータ3にブレーキが掛かり、逆回転が停止し、さらに正回転方向に回転を始める。モータ3の回転速度が正方向の最大速度に達する付近(矢印86c)で、ハンマ41はアンビル46に衝突する。このようにハンマ41がアンビル46に衝突すると矢印86cから86dに至るようにモータ3の回転速度が低下する。この衝突の際のアンビル46に作用する締め付けトルクの大きさを示すのが図11の一番下のグラフである。ここで矢印88cでは打撃による大きな締め付けトルクが発生したことを示している。本図において、矢印88bの時点から時間T4までの間、及び、矢印88dの時点から時間T5までの間にはアンビル46の締め付けトルク値はゼロである。これは、モータ3を逆回転させることによって、ハンマ41の打撃面がアンビル46の被打撃面と接触していないためである。
尚、矢印88cに示す衝突を検出した瞬間にモータ3への駆動信号を停止する制御をしても良く、その場合は締付対象がボルトやナット等の場合は打撃後に作業者の手に伝わる反動が少なくて済む。本実施例のように衝突後もモータ3への駆動電流を流すことにより作業者への反力が連続駆動モードに比較して小さく、中負荷状態での作業での作業に適している。また、締め付け速度が速く、断続駆動モードと比較して電力消費が少なくて済むという効果が得られる。
時間T4にて一度目の打撃が行われると、その後同様にして、「休止→逆回転駆動→休止→正回転駆動」を所定回数だけ繰り返すことにより強い打撃トルクでの締め付けが行われ、時間T6において作業者がトリガ操作を解除することによってモータ3が停止し、締め付け作業が完了する。尚、作業の完了は作業者によるトリガ操作の解除だけでなく、打撃衝撃検出センサ56(図5参照)の出力を元に、演算部51が設定された締め付けトルクでの締め付けが完了したと判断したらモータ3の駆動を停止するように制御しても良い。
以上説明したように、本実施例においては締め付けトルクが少なくて済む締め付け初期段階は連続駆動モードで駆動し、締め付けトルクが大きくなるにつれてモータ3の正転及び逆転による断続駆動による断続駆動モードによって強力に締め付けを行う。しかも連続駆動モードから断続駆動モードへの制御モードの切り替え直前に、演算部51はモータ3の回転数を落とすように制御する。このように移行直前の制御によって、駆動モード変更による急激なトルク変動を避けることができ、トルク変動によって先端工具がネジ頭等から離脱してしまう、いわゆるカムアウトの減少を効果的に防止することができる。
尚、本実施例においては、図11の時間T2でモータ3の電流値がある値まで増加することによって連続駆動モードから断続駆動モードへの制御モードの切り替えタイミングを検出するようにしたが、モータ3の電流値の増加で検出するのではなく、モータ3の回転数の落ち込みを監視しながら検出するようにしても良いし、電流値の増加とモータ3の回転数の落ち込みの双方を監視しながら検出するようにしても良い。
次に図12及び図13を用いて本発明に係るインパクト工具1の制御手順を説明する。図12及び図13は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の制御手順を示すフローチャートであり、図12は前半部分、図13は後半部分を示している。これらのフローチャートで示される制御手順は、演算部51に含まれるマイクロプロセッサがプログラムを実行することによってソフト的に実現することができる。
演算部51は、作業者による作業の開始に先立ち、トグルスイッチ32(図2参照)を用いてインパクトモードが選択されたか否かを判定する(ステップ101)。インパクトモードは、断続駆動モードによりインパクト機構を動作させて締め付けを行うモードである。インパクトモードが選択された場合はステップ102に進み、選択されていない場合、即ち、通常のドリルモードが選択された場合はステップ111に進む。ドリルモードは、断続駆動モードを用いずに、連続駆動モードだけで先端工具を回転させる締め付けモードであり、モータ3を連続駆動させることによってアンビル46を所定の方向に回転させる(ステップ111)。ドリルモードによる締め付けが完了したらモータ3を停止し(ステップ112)、処理を終了する。
インパクトモードが選択されている場合はステップ102で、演算部51はトリガスイッチ8がONされたか否かを判定し(ステップ102)、ONされた(トリガ操作部8aが引かれた)場合は、トリガ操作部8aの引き量に応じてインバータ回路52のPWM制御を開始することにより、モータ3を駆動する(ステップ103)。そして、モータ3に供給されるピーク電流が上限値のp[A]を超えないように制御しながらモータ3の回転を加速させる。次に、トリガスイッチ8がONになってからT1秒経過した後に、電流検出回路59(図5参照)を用いてモータ3に供給される電流値Iの検出を開始し、同時にモータ3の回転数Rを回転数検出回路55(図5参照)の出力を用いて検出を開始する(ステップ105)。この電流値I及び回転数Rは、モータ3の回転制御を行っている間に継続して演算部51によって検出される。ここでT0からT1の間隔は、例えば数ミリ秒であり、T1以降は演算部51によって所定の時間間隔毎(サンプリング間隔毎)に電流値及び回転数が検出される。また演算部51は、モータ3の回転中に、設定回転数を超えないように回転数の制御をする(ステップ106)。
次に演算部51は、検出された電流値Iと、その直前に検出した複数の電流値を演算して平均値Iaveを求め、この平均値Iaveが閾値I1を超えているか(Iave>I1の関係)を判定する(ステップ107)。閾値I1は、連続駆動モードにおいてモータ3の回転数を落とす制御を開始するための基準値である。ここでIave>I1が成り立てばステップ108に進み、Iave>I1が成り立たなければステップ103に戻る(ステップ107)。
ステップ108において、演算部51は電流検出回路59で検出された電流値Iの増加量や先端工具からの負荷を演算し、その負荷の状態を判別してデューティ値を下げ、モータ3の回転数を下げるように制御する。下げる回転数の大きさは、例えば1割以上、好ましくは3割以上、さらに好ましくは5割以上下げると良い。但し、回転数を大きく下げすぎると作業効率の低下を招くので、締め付け部材や、被締め付け材等の材質などを考慮して下げる回転数の大きさを適宜設定すれば良い。
このようにステップ108では、故意にモータ3の回転数を低下させることによりカムアウト現象を起こさないように制御する。また、演算部51はデューティ値を、締め付け作業の状況に応じて電流検出回路59の出力値と回転数検出回路55の出力値から演算して、デューティ値の減少率を演算する。そうすることによってネジやボルトの加工精度のばらつき、被締め付け部材の状態、木材の節や木目などの材質のばらつきなどに対応し、カムアウト現象を防止しながら締め付け作業を行うことが可能となる。
次に演算部51は、検出された電流値I及びその直前の複数回で検出された電流値から演算した平均値Iaveが閾値I2を超えているか(Iave>I2の関係)、若しくは、検出された回転数R及びその直前の複数回で検出された回転数から演算された回転数Raveが閾値R2を超えているか(Rave<R2の関係)を判定する。ここで、閾値I2、閾値R2は連続駆動モードから断続駆動モードに切り替えるための基準値であり、予め設定して演算部51内の記憶手段に記憶させておくと良い。前記二式のうちどちらか一方、若しくは両方が成り立てば図13のフローチャートに進み(分岐A)、前記二式が両方成り立たなければステップ108に戻る(ステップ109)。
次に図13のフローチャートを用いて断続駆動モードでのインパクト工具の制御手順を説明する。まず、連続駆動モードから断続駆動モードに切り替わったら、モータ3に供給する駆動電流をオフにして5ミリ秒待機する(ステップ131)。次に、モータを−3000rpmで回転させるように逆転電流をモータ3に供給する(ステップ132)。ここで‘マイナス’とは作業中の回転方向とは逆方向に3000rpmでモータ3を回転させるという意味である。次に、モータ3の回転数が、−3000rpmに達したら、モータ3に供給する電流をオフにして、5ミリ秒待機する(ステップ133)。ここで5ミリ秒待機するのは、いきなりモータ3を正方向に逆転させると、インパクト工具本体が振られてしまう恐れがあるためである。また、この待機時において電力の消費がないので消費電力を抑えることができるからである。
次に、モータ3を正回転方向にさせるべく正転電流をオンにする(ステップ134)。正転電流をオンにしてから95ミリ秒後にモータ3に供給する電流をオフにするが、この電流をオフにする前にハンマ41がアンビル46に衝突する(打撃する)ことにより、先端工具に強い締め付けトルクが発生する(ステップ135、136)。その後、トリガスイッチのオン状態が維持されているかを検出し、オフの状態であればモータ3の回転を停止して断続駆動モードの処理を終了する(ステップ137、138)。ステップ137でトリガスイッチ8がオンの状態であればステップ131に戻り、同様の打撃動作を繰り返す。
以上説明したように、本実施例によれば相対回転角が1回転未満のハンマとアンビルを用いて、モータを連続回転、正方向及び逆方向の断続回転を行うことによって、効率的に締結部材を締結することができる。また、ハンマを回転させるための駆動を、連続駆動モードから断続駆動モードに切り替える際に、切り替え直前にモータの回転数を下げてから切り替えるようにしたので、駆動モードの移行に伴うアンビル46による急激なトルク変化が生ずるのを避けることができるので、先端工具が締め付け部材から外れる現象、いわゆるカムアウトが起こる要因を大幅に減らすことができる。
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本実施例ではモータとしてブラシレスDCモータを用いた例を説明したが、これに限定されず、正方向及び逆方向に駆動できる他の種類のモータであっても良い。また、前記実施例では、連続駆動ノードから断続駆動モードに移行して一時休止した後に、逆方向への駆動から開始したが、正方向への駆動から開始するようにしても良い。さらに、前記実施例では断続駆動モードにおいて「休止−逆転」及び「休止−正転」の制御を繰り返すようにしたが、「休止−正転」だけの制御を繰り返すようにしても良い。