以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、以下の説明において、上下前後、左右の方向は、図1及び図2中に示した方向として説明する。
図1は本発明に係るインパクト工具の全体構造を示す縦断面図である。インパクト工具1は、充電可能なバッテリパック30を電源とし、モータ3を駆動源として打撃機構40を駆動し、出力軸であるアンビル46に回転と打撃を与えることによってドライバビット等の図示しない先端工具に連続する回転力や断続的な打撃力を伝達してネジ締めやボルト締め等の作業を行う。
モータ3は、ブラシレスDCモータであって、側面から見て略T字状の形状を成すハウジング6の筒状の胴体部6a内に収容される。ハウジング6は、ほぼ対称な形状の左右2つの部材に分割可能に構成され、それら部材が複数のネジにより固定される。そのため、分割されるハウジング6の一方(本実施例では左側ハウジング)に、ネジを補強するための複数のネジボス20が形成され、他方(右側ハウジング)に複数のネジ穴(図示せず)が形成される。モータ3の回転軸19は、胴体部6aの後端側のベアリング17bと中央部付近に設けられるベアリング17aによって回転可能に保持される。モータ3の後方には6つのスイッチング素子10が搭載された基板7が設けられ、これらスイッチング素子10によってインバータ制御を行うことによりモータ3を回転させる。基板7の前方側には、回転子3aの位置を検出するためにホール素子やホールIC等の回転位置検出素子58が搭載される。
ハウジング6の胴体部6aから略直角に一体に延びるグリップ部6b内の上部にはトリガスイッチ8及び正逆切替レバー14が設けられ、トリガスイッチ8には図示しないバネによって付勢されてグリップ部6bから突出するトリガ操作部8aが設けられる。正逆切替レバー14の前方側には後述する凸部13が接続される。グリップ部6b内の下方には、トリガ操作部8aによってモータ3の速度を制御する機能等を備えた制御回路基板9が収容される。ハウジング6のグリップ部6bの下方に形成されたバッテリ保持部6cには、ニッケル水素やリチウムイオン等の複数の電池セルが収容されたバッテリパック30が着脱可能に装着される。
モータ3の前方には、回転軸19に取り付けられてモータ3と同期して回転する冷却ファン18が設けられる。冷却ファン18により、胴体部6aの後方に設けられた空気取入口26a、26bから空気が吸引される。吸引された空気は、ハウジング6の胴体部6aであって冷却ファン18の半径方向外周側付近に形成される複数の穴26c(図2参照)からハウジング6の外部に排出される。
打撃機構40は、アンビル46、ハンマ41、スプロケット4の3つの主要部品により構成され、ハンマ41は遊星歯車減速機構21の複数の遊星歯車の回転軸を連結するように固定される。現在広く使われている公知のインパクト機構と違って、ハンマ41には、スピンドル、スプリング、カム溝、及びボール等を有するカム機構を有しない。そしてアンビル46とハンマ41とは回転中心付近に形成された嵌合軸41aと嵌合溝46fにより1回転未満の相対回転だけができるように連結される。アンビル46は、図示しない先端工具を装着する出力軸部分と一体に構成され、前端には軸方向と鉛直面の断面形状が六角形の装着穴46aが形成される。アンビル46の後方側はハンマ41の嵌合軸41aと連結され、軸方向中央付近でメタルベアリング16aによりケース5に対して回転可能に保持される。尚、これらアンビル46とハンマ41の詳細形状については後述する。
ケース5は打撃機構40及び遊星歯車減速機構21を収容するための金属製の一体成形で形成され、ハウジング6の前方側に装着される。また、ケース5の外周側は、熱の伝達を防止するとともに、衝撃吸収効果等を果たすために樹脂製のカバー11で覆われる。アンビル46の先端には先端工具を着脱するためのスリーブ15が設けられる。
トリガ操作部8aが引かれてモータ3が起動されると、モータ3の回転は遊星歯車減速機構21によって減速され、モータ3の回転数に対して所定の比率の回転数でハンマ41が回転する。ハンマ41が回転すると、その回転力はアンビル46に伝達され、アンビル46がハンマ41と同じ速度で回転を開始する。先端工具側からの受ける反力によってアンビル46にかかる力が大きくなると、後述する制御部は締め付け反力の増大を検出し、モータ3の回転が停止してロック状態になる前に、ハンマ41の駆動モードを変更しながらハンマ41を連続的に又は断続的に駆動する。尚、ハンマ41の後方にはスプロケット4が装着され、ハンマ41の反転時のブレーキ動作を行う。
図2は、図1のインパクト工具1の外観を示す斜視図である。ハウジング6は3つの部分(6a、6b、6c)から構成され、胴体部6aの、冷却ファン18の半径方向外周側付近には冷却風排出用の穴26cが形成される。また、バッテリ保持部6cの上面には制御パネル31が設けられる。制御パネル31には、各種の操作ボタンや表示ランプ等が配置され、例えばLEDライト12をON/OFFするためのスイッチや、バッテリパックの残量を確認するためのボタンが配置される。また、バッテリ保持部6cの側面にはモータ3の駆動モード(ドリルモード、インパクトモード)を切り替えるためのトグルスイッチ32が設けられる。トグルスイッチ32を押下するごとに、ドリルモードとインパクトモードが交互に切り替わる。
バッテリパック30には、リリースボタン30Aが設けられ、左右両側に位置するリリースボタン30Aを押しながら前方にバッテリパック30を移動させることにより、バッテリパック30をバッテリ保持部6cから取り外すことができる。バッテリ保持部6cの左右側には、着脱可能な金属製のベルトフック33が設けられる。図2では、インパクト工具1の左側に取り付けられているが、ベルトフック33を取り外してインパクト工具1の右側に装着することも可能である。バッテリ保持部6cの後端部付近にはストラップ34が取り付けられる。
図3は、図1の打撃機構40付近の拡大断面図である。遊星歯車減速機構21は、プラネタリー型であり、モータ3の回転軸19の先端と接続されるサンギヤ21aが駆動軸(入力軸)となり、胴体部6aに固定されるアウターギヤ21d内で、複数のプラネタリーギヤ21bが回転する。プラネタリーギヤ21bの複数の回転軸21cは、遊星キャリヤの機能を持つハンマ41にて保持される。ハンマ41は遊星歯車減速機構21の従動軸(出力軸)として、モータ3と同方向に所定の減速比で回転する。この減速比をどの程度に設定するかは、主な締結対象(ネジかボルトか)、モータ3の出力と必要な締結トルクの大きさ等の要因から適切に設定すれば良く、本実施例ではモータ3の回転数に対してハンマ41の回転数が1/8〜1/15程度になるように減速比を設定する。
プラネタリーギヤ21bの前方側には、円環状に形成されたスプロケット4が設けられる。スプロケット4は、ハンマ41のブレーキ機構として作用するもので、ハンマ41の遊星キャリヤの機能を持つ円筒部分の外周側に設けられる。スプロケット4は正転時にはハンマ41に追従して回転するが、逆転時にはハンマ41をアンビル46に対して相対的に約120°の角度だけ回転させるように構成した。このスプロケット4の詳細構造は後述する。胴体部6a内部の2つのネジボス20の内周側には、インナカバー22が設けられる。インナカバー22はプラスチック等の合成樹脂の一体成形で製造された部材であり、後方側には円筒状の部分が形成され、その円筒部分でモータ3の回転軸19を回転可能に固定するベアリング17aを保持する。また、インナカバー22の前方側には、2つの異なる径を有する円筒状の段差部が設けられ、その小さい方の段差部にはボール式のベアリング16bが設けられ、大きい方の円筒状の段差部には、前方側からアウターギヤ21dの一部が挿入される。尚、アウターギヤ21dはインナカバー22に回転不能に取り付けられ、インナカバー22はハウジング6の胴体部6aに回転不能に取り付けられることから、アウターギヤ21dは非回転状態で固定されることになる。また、アウターギヤ21dの外周部には外径が大きく形成されたフランジ部分が設けられ、フランジ部分とインナカバー22の間にはOリング23が設けられる。ハンマ41とアンビル46の回転部分にはグリス(図示せず)が塗布されており、Oリング23は、そのグリスがインナカバー22側に漏れないようにシールする。
本実施例において特徴的なこととして、ハンマ41がプラネタリーギヤ21bの複数の回転軸21cを保持する遊星キャリヤの機能を持つことである。そのためハンマ41の後端部はベアリング16bの内輪の内周側にまで延びる。また、ハンマ41の後方側内周部は、モータ3の回転軸19に取り付けられるサンギヤ21aを収容する円筒形の内部空間内に配置される。ハンマ41の前方側中心軸付近は、軸方向前方に突出する嵌合軸41aが形成され、嵌合軸41aはアンビル46の後方側中心軸付近に形成される円筒形の嵌合溝46fに嵌合する。尚、嵌合軸41aと嵌合溝46fは、双方が相対的に回転可能なように軸支されるものである。
図4は、冷却ファン18の斜視図である。冷却ファン18は例えばプラスチック等の合成樹脂の一体構成によって製造される。回転中心には、回転軸19が貫通される貫通穴18aが形成され、回転軸19を軸方向に所定距離だけ覆いロータ3aとの所定の距離を確保する円筒部18bが形成され、円筒部18bから外周側には複数のフィン18cが形成される。フィン18cの内周側は円筒部18bには接触せずに、内周側に行くにつれて後方側に後退して前方の壁に接続される。フィン18cの前後側には、円環状の部分が設けられ、冷却ファン18の回転方向に限られずに軸方向後方から吸引された空気を、外周付近に形成された複数の開口部18dから円周方向外側に排出する。冷却ファン18は、いわゆる遠心ファンの機能を果たすものであり、遊星歯車減速機構21を介さずにモータ3の回転軸19に直接接続される。また、冷却ファン18はハンマ41に比べて十分大きい回転数で回転されるので、十分な風量を確保することができる。このような冷却ファン18を用いることにより、本実施例のようにモータ3を正逆双方向に回転させてインパクト動作を行っても、その回転力を利用しつつハウジング6内の空気を効果的に排気できるので、スイッチング素子10やモータ3を効果的に冷却することができる。
次に、図5及び図6を用いて打撃機構40の詳細構造を説明する。図5は、本発明の実施例に係る打撃機構40の形状を示す斜視図である。ハンマ41は、円筒形の本体部分41bから軸方向前方に突出する1組の突出部、即ち突出部42と突出部43が形成される。さらに、円筒形の本体部分41bから軸方向後方に突出する突出部45が形成される。突出部45は、突出部42と回転角にして同位置に形成されるが、その円周方向の幅は突出部42よりも小さく構成される。
本体部分41bの前方側、中央には、アンビル46の後方に形成された嵌合溝(図示せず)に嵌合する嵌合軸41aが形成され、ハンマ41とアンビル46は相対的に1回転未満(360度未満)の所定角度だけ回転可能なように連結される。突出部42は打撃爪として作用するもので、円周方向の両側に平面状の打撃面42aと42bが形成される。また、ハンマ41には、突出部42及び45との回転バランスを取るための突出部43が形成される。突出部43は、回転バランスをとるための錘部として機能するため、打撃面は形成されない。本体部分41bの後方側であって軸心を含む内周側には円筒部44が形成される。円筒部44は、遊星歯車減速機構21のプラネタリーギヤ21bを配置するために設けられるもので、図ではその記載を省略しているが、プラネタリーギヤ21bを収容させるための空間と、回転軸21cを保持するための貫通穴が形成される。
アンビル46には、円筒形の本体部分46bの前端側に先端工具を装着するための装着穴46aが形成され、本体部分46bの後方側には本体部分46bから半径方向外側に突出する2つの突出部47と48が形成される。突出部47は、被打撃面47aと47bを有する打撃爪であり、突出部48が被打撃面をもたない錘部である。突出部47は、突出部42と衝突するように構成されるため、その外径は突出部42の外形と同じに構成される。しかしながら突出部43と48は共に錘として作用させるだけであって、どの部位にも衝突させないために、お互いが干渉しない位置や大きさに形成し配置することが重要である。また、ハンマ41とアンビル46の相対的な回転角を確保するために(但し、最大でも1回転未満である)、突出部43及び48の半径方向の厚さを小さくして円周方向の長さを大きくすることによって、突出部42と47との回転バランスをとれるように形成される。
スプロケット4は、軸方向後方側がギヤ部4cとなり前方側がギヤ部4cと同程度の軸方向厚さを有する間欠リング部4dが形成される。この間欠リング部4dは、円周方向に約240度の角度だけ形成され、残り120度の部分が切り欠かれた形状であり、切り欠き部分の両端部には2つの当接面4aと4bが形成される。当接面4aと4bは、ハンマ41の突出部の当接面45aと45bと良好に当接するもので、正転側の当接面4aが当接面45aと当接することによってスプロケット4をハンマ41と同期して正回転方向に回転させることができる。同様にして、逆転側の当接面4bが当接面45bと当接することによってスプロケット4を逆回転方向に回転させることができる。スプロケット4の下側にはカム27が設けられ、カム27はねじりばねである2つのスプリング28a、28bによって付勢される。カム27の初期位置は、正逆切替レバー14に接続された凸部13によって設定される。
図6は本発明の実施例に係るスプロケット4の背面図である。スプロケット4のギヤ部4cの下側に位置するカム27はシャフト29を中心にわずかならが回動可能に構成される。シャフト29はハウジング6の胴体部6aにて保持される。そして、正逆切替レバー14を正転側(矢印66方向)に移動させることによって、凸部13が左側に移動し、凸部13によってスプリング28aを圧縮させ、この圧縮されたスプリング28aの力によってカム27は矢印67の方向に移動し、カム27の爪27a(第1の爪)がギヤ部4cと噛み合う。カム27の爪27aがギヤ部4cと噛み合うことによって、スプロケット4の矢印68の方向への移動が制限される。但し、図6の状態でスプロケット4を矢印68と反対方向に回転させると、カム27の爪27aの形状とギヤ部4cの形状の関係から、スプロケット4の回転が妨げられること無い。このようにスプロケット4とカム27の作用により、スプロケット4の所定方向の回転だけを制限させることによりハンマ41の反転時のブレーキとして用いることができるようになる。このブレーキ動作は、正逆切替レバー14を逆転側(矢印69方向)に移動させることにより、逆回転時(ネジの緩め作業時)の反転の際にカム27の爪27b(第2の爪)がギヤ部4cと噛み合うようにして、同様に制動手段として動作させることが可能である。
図7は、ハンマ41及びアンビル46の使用状態における一回転の動きを4段階で示した断面図である。断面は軸方向と鉛直面であって、左側の図(奇数番号)が図1のA−A部の断面であり、右側の図(偶数番号)が図1のB−B部の断面であって、それぞれ対応させて図示している。右側の図においては、突出部45の位置及び当接面4a、4bの位置を点線で記載している。尚、図7の(2)(4)(6)(8)の各図は、スプロケット4の前から見た図であり、図6で示す背面図とは回転方向が逆になるので注意されたい。
図7(1)及び(2)の状態において、先端工具からうける締め付けトルクが小さいうちは、アンビル46はハンマ41から押されることによりハンマ41に追従して反時計回り(締め付け方向)に回転する。この際、突出部45の当接面45aは、(2)で示すようにスプロケット4の当接面4aと接触しているためスプロケット4はハンマ41に追従して同じ方向に回転する。また、カム27はスプロケット4が半時計方向に回転することにより、その爪27aが押されて矢印72の方向に回動するため、スプロケット4に対するブレーキは作用しない。この状態ではアンビル46もスプロケット4もハンマ41と相対回転せずに同期して回転する。しかしながら、締め付けトルクが大きくなってハンマ41を回転させる力だけではアンビル46を回転できなくなった場合には、ハンマ41を矢印66の方向に逆回転させるべく、モータ3の逆回転を開始する。
図7(1)で示す状態からモータ3の反転を開始することにより、ハンマ41の突出部42を矢印71の方向に回転させる。この際、突出部45の反転側には回転角にして約120度分だけ切り欠き部が形成されるので、この反転の際に、突出部45はスプロケット4に当接することなく反転することが可能になる。即ち、図7(1)の状態から回転角にして約120度は、ハンマ41だけが反転し、アンビル46もスプロケット4も回転しない。
さらにモータ3を逆回転させて、図7(3)に示すように突出部42は突出部48の外周側を通って矢印73の方向に回転すると、図7(4)に示すように突出部45の当接面45bが当接面4bに当接することによりスプロケット4が矢印75の方向に回転することになるが、すかさずカム27が矢印76のように揺動して、爪27aがギヤ部4cの歯に噛み合うことによりスプロケット4の回転は停止され、このスプロケット4の停止によりハンマ41の回転も停止される。このようにスプロケット4とカム27を用いることによって逆転状態のハンマ41の回転を停止させることができる。このブレーキ動作は機械要素によって実現しているので電力を消費することが無いので、ブレーキ動作のために電力を消費することを防ぐことができる。尚、図7(3)において突出部48の外径Ra1は、突出部42の内径Rh1よりも小さく構成され、両者は衝突しない。同様に、突出部47の外径Ra2は、突出部43の内径Rh2よりも小さく構成され、両者は衝突しない。従って、ブレーキ動作が行われるのはハンマ41だけであり、アンビル46には何ら影響しない。
ハンマ41が停止したら、モータ3を起動して、ハンマ41を図7(3)の矢印74の方向(正回転方向)への回転を開始させる。そして、ハンマ41の正回転の回転を加速させ、加速中の状態のまま図7(5)に示す位置にて突出部42の打撃面42aは、アンビル46の被打撃面47aに衝突する。この衝突の結果、アンビル46には強力な回転トルクが伝達され、アンビル46は矢印77で示す方向に回転する。尚、図7(3)から(5)の間のハンマ41の移動によって突出部45も移動するが、この間は当接面4aにも4bのいずれにも接触しないため図7(6)に示すようにスプロケット4は回転しないで固定されたままである。
図7(7)の位置は、図7(5)で示した状態から、ハンマ41とアンビル46の双方が所定角度分だけ矢印78の方向に回転した状態であり、この際にはスプロケット4もアンビル46と同じ角度だけ矢印78の方向に回転する。この際、カム27はスプロケット4が半時計方向に回転することにより、その爪部が内側から押されることにより矢印79の方向に回動するため、スプロケット4の回転を制限しない。このようにして図7(1)から(8)に至る動作を繰り返すことによって、被締結部材を適正トルクになるまで締め付けを行う。
以上のように、本発明に係るハンマ41とアンビル46では、モータ3を逆回転させる駆動モードを用いることによって、打撃機構としてハンマ41とアンビル46だけのきわめてシンプルな構成で、インパクト工具を実現することができる。また、モータ3を逆転させた際のハンマ41のブレーキ動作に電力を利用しないので、電力消費量を最小に抑えつつ迅速なブレーキ動作を行うことができる。尚、本実施例においてはカム27の移動を正逆切替レバー14と一体で構成した凸部13により行ったが、カム27の移動を電気的に駆動し、これを制御部で制御するように構成しても良い。そのように構成すれば、ブレーキが必要なときだけカム27を移動させるようにし、ブレーキを稼働させないときは、カム27の爪27a、27bがギヤ部4cの歯に接触しないように構成することができる。また、カム27を電気的に駆動させるようにすればハンマ41の逆回転の角度を可変に設定でき、必要な打撃トルクの大きさによって逆回転の回転角度を設定しても良い。さらに、カム27を電気的に駆動させるようにすればスプロケット4とハンマ41を別体式でなく、一体式に構成することも可能である。
次に、モータ3の駆動制御系の構成と作用を図8に基づいて説明する。図8はモータ3の駆動制御系の構成を示すブロック図であり、本実施例では、モータ3は3相のブラシレスDCモータで構成される。このブラシレスDCモータは、いわゆるインナーロータ型であって、複数組(本実施例では2組)のN極とS極を含む永久磁石(マグネット)を含んで構成される回転子(ロータ)3aと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wから成る固定子3bと、回転子3aの回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置された3つの回転位置検出素子(ホール素子)58を有する。これら回転位置検出素子58からの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御され、モータ3が回転する。回転位置検出素子58は、基板7上の回転子3aの永久磁石3cに対向する位置に設けられる。
基板7上に搭載される電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含む。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御回路基板9に搭載される制御信号出力回路53に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路53から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4、H5、H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路52に印加されるバッテリパック30の直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側スイッチング素子Q4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、制御回路基板9上に搭載された演算部51によって、トリガスイッチ8のトリガ操作部8aの操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御する。
ここで、PWM信号は、インバータ回路52の正電源側スイッチング素子Q1〜Q3または負電源側スイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子Q1〜Q3またはスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによってバッテリパック30の直流電圧から各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。尚、本実施例では、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ3の回転速度を制御することができる。
インパクト工具1には、モータ3の回転方向を切り替えるための正逆切替レバー14が設けられ、回転方向設定回路62は正逆切替レバー14の変化を検出するごとに、モータの回転方向を切り替えて、その制御信号を演算部51に送信する。演算部51は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含んで構成される。
制御信号出力回路53は、回転方向設定回路62と回転子位置検出回路54の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子Q1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その駆動信号を制御信号出力回路53に出力する。これによって固定子巻線U、V、Wの所定の巻線に交互に通電し、回転子3aを設定された回転方向に回転させる。この場合、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6に印加する駆動信号は、印加電圧設定回路61の出力制御信号に基づいてPWM変調信号として出力される。モータ3に供給される電流値は、電流検出回路59によって測定され、その値が演算部51にフィードバックされることにより、設定された駆動電力となるように調整される。尚、PWM信号は正電源側スイッチング素子Q1〜Q3に印加しても良い。
制御回路基板9に搭載される制御部50には、アンビル46に発生する衝撃の大きさを検出する打撃衝撃検出センサ56が接続され、その出力は打撃衝撃検出回路57を介して演算部51に入力される。打撃衝撃検出センサ56としては、アンビル46に取り付けられる歪ゲージ等で実現でき、打撃衝撃検出センサ56の出力を用いて規定トルクで締め付けが完了した際に、モータ3を自動停止させるようにしても良い。
図9は、モータ3の回転方向とモータの駆動電流との関係を示すグラフである。横軸は、モータを所定の回転数で回転させるための駆動電流を加える際のモータの回転数であり、縦軸は実際にモータに流れる電流の大きさを示す。通常モータの回転数が0の時、即ちモータ停止時に駆動電流を加えると大電流が流れるが(これを「起動電流」という)、モータが僅かながらでも正回転(+回転)している際に正回転方向への駆動電流を加えると実際に流れる電流値は実線で示すようにモータの回転数が大きくなるにつれ徐々に小さくなる。一方、モータが逆回転(−回転)している際に、モータを正回転させるための駆動電流を加えると、回転方向が反対であるため点線に示すように起動電流以上の大きな電流が流れることになる。モータ3が反転している際に流す駆動電流(ブレーキ電流)はこの点線領域において電流を流すことになるので、ブレーキ動作のためだけに流れるとしたら締め付け作業には関係ない無駄な電力である。この無駄な電力を防ぐためには、モータの回転が完全に停止してから正回転を開始させる必要があるが、本実施例では機械要素によってブレーキ動作を行うので、図9の点線部分のようなブレーキ電流を流す必要がないため、電力消費量を小さく抑えることができる。
次に、本実施例に係るインパクト工具1の駆動方法について説明する。本実施例に係るインパクト工具1においては、アンビル46とハンマ41が、相対的に120度程度の回転角で回転可能なように形成される。従って、その回転制御も特有のものになる。図10は、インパクト工具1の運転時のトリガ信号、インバータ回路の駆動信号、モータ3の回転速度、ハンマ41とアンビル46の打撃状況を示す図である。各グラフにおいて横軸は時間であり、各グラフのタイミングを比較できるように横軸を合わせて記載している。
本実施例に係るインパクト工具1において、インパクトモードにおける締め付け作業の場合は、最初“ドリルモード”で高速に締め付けを行い、必要な締め付けトルク値が大きくなったら“パルスモード(1)”に切り替えて締め付けを行い、必要な締め付けトルク値がさらに大きくなったら“パルスモード(2)”に切り替えて締め付けを行う。図10の時間T1からT2におけるドリルモードでは、演算部51はモータ3を目標回転数に基づく制御を行う。このためモータ3は矢印85aで示す目標回転数に達するまでモータを加速させる。その後、アンビル46に取り付けられた先端工具からの締め付け反力が大きくなると、矢印85bに示すようにモータ3の回転速度が徐々に落ちてくる。そこで、その回転速度の落ち込みをモータ3に供給される電流値で検出して、時間T2で“パルスモード(1)”による回転駆動モードに切り替える。
パルスモード(1)は、モータ3を連続的に駆動するのではなく断続的に駆動するモードであり、「休止→正回転駆動」を複数回繰り返すようにパルス状に駆動する。ここで、「パルス状に駆動する」とは、インバータ回路52に加えるゲート信号を脈動させることにより、モータ3に供給される駆動電流を脈動させ、それによってモータ3の回転数又は出力トルクを脈動させるように駆動制御することである。この脈動は、時間T2からT21まではモータへ供給される駆動電流OFF(休止)、時間T21からT3まではモータの駆動電流ON(駆動)、時間T3からT31までは駆動電流OFF(休止)、時間T31から時間T4までは駆動電流ONというような、大きな周期(例えば数十Hz〜百数十Hz程度)で駆動電流のON−OFFを繰り返すことによって発生される。尚、駆動電流ON状態の時にはモータ3の回転数制御のためにPWM制御が行われるが、そのデューティ比制御の周期(通常数キロHz)に比べると、脈動させる周期は十分小さい。
図10の例では、T2から一定の時間モータ3への駆動電流の供給を休止して、モータ3の回転速度を低下させる。この際、ハンマ41はアンビル46に遅れて回転することになるが、ハンマ41の回転が僅かに遅れても突出部45はスプロケット4の切り欠き部内に収まることができるので、スプロケット4によってハンマ41の回転が影響されることはない。モータ3の回転速度が矢印86aにまで低下した後に、演算部51(図8参照)は駆動信号83aを制御信号出力回路53に送ることによりモータ3にパルス状の駆動電流(駆動パルス)が供給され、モータ3を加速させる。尚、この加速時の制御は、必ずしもデューティ比100%で駆動という意味ではなく、100%未満のデューティ比で制御する事もありうる。次に、矢印86bの地点においてハンマ41がアンビル46に強く衝突することにより、矢印88aで示すように打撃力が与えられる。打撃力が与えられると再び、所定期間モータ3への駆動電流の供給を休止し、モータの回転速度が矢印86cで示すように低下した後に、演算部51は駆動信号83bを制御信号出力回路53に送ることによりモータ3を加速させる。すると、矢印86dの地点においてハンマ41がアンビル46に強く衝突することにより、矢印88bで示すように打撃力が与えられる。パルスモード(1)においては、上述したモータ3の「休止→正回転駆動」を繰り返す断続的な駆動が1回又は複数回繰り返されるが、より高い締め付けトルクが必要になったらその状態を検出し、パルスモード(2)による回転駆動モードに切り替える。高い締め付けトルクが必要になったか否かの判定は、例えば矢印88bで示す打撃力が与えられた際のモータ3の回転数(矢印86dの前後)を用いて判断することができる。
パルスモード(2)は、モータ3を断続的に駆動し、パルスモード(1)と同様にパルス状にモータ3を駆動するモードであるが、「休止→逆回転駆動→ブレーキ(停止)→正回転駆動」を複数回繰り返すように駆動する。つまりパルスモード(2)においては、モータ3の正回転駆動だけでなく逆回転駆動をも加わるために、ハンマ41をアンビル46に対して十分な相対角だけ逆回転させた後に、ハンマ41を正回転方向に加速させて勢いよくアンビル46に衝突させる。このようにハンマ41を駆動することにより、アンビル46に強い締め付けトルクを発生させるものである。本実施例においては、逆回転駆動されたモータ3の回転を停止させる際に(図中矢印87b、87f付近)、モータ3に正転電流を加えてモータ3を減速・停止させるのではなく、ハンマ41をスプロケット4に衝突させることによりモータ3を減速・停止させるようにした。
図10の例では時間T4でパルスモード(2)に切り替わると、モータ3の駆動を一時休止させて、その後、負の方向の駆動信号84aを制御信号出力回路53に送ることによりモータ3を逆回転させる。正転、逆転を行う際には、制御信号出力回路53から各スイッチング素子Q1〜Q6に出力する各駆動信号(オンオフ信号)の信号パターンを切り替えることにより実現される。モータ3が所定の回転角分だけ逆回転したら(矢印87a)、突出部45の当接面45bがスプロケット4の当接面4bに衝突するため、モータ3の回転が止まる(矢印87b)。その後、モータ3の駆動を一時休止させて正回転駆動を開始する。このため、正の方向の駆動信号84bを制御信号出力回路53に送る。尚、インバータ回路52を用いた回転駆動においては、駆動信号をプラス側又はマイナス側に切り替えるものではないが、図10ではどちら方向へ回転駆動するか容易に理解できるように、駆動信号を+及び−方向に分けて模式的に表現した。
モータ3の回転速度が最大速度に達する付近で、ハンマ41はアンビル46に衝突する(矢印87c)。この衝突によりパルスモード(1)で発生する締め付けトルク(88a、88b)に比べて格段に大きい締め付けトルク(89a)が発生する。このように衝突が行われると矢印87cから87dに至るようにモータ3の回転数が低下する。尚、矢印89aに示す衝突を検出した瞬間にモータ3への駆動信号を停止する制御をしても良く、その場合は締結対象がボルトやナット等の場合は打撃後に作業者の手に伝わる反動が少なくて済む。本実施例のように衝突後もモータ3に駆動電流を流すことにより作業者への反力がドリルモードに比較して小さく、中負荷状態での作業に適している。また、締め付け速度が速く、パルス強モードと比較して電力消費が少なくて済むという効果が得られる。その後、同様にして、「休止→逆回転駆動→ブレーキ→正回転駆動」を所定回数だけ繰り返すことにより強い締め付けトルクでの締め付けが行われる。時間T7において作業者がトリガ操作を解除することによってモータ3が停止し、締め付け作業が完了する。作業の完了は作業者によるトリガ操作の解除だけでなく、打撃衝撃検出センサ56(図8参照)の出力を元に、演算部51が設定された締め付けトルクでの締め付けが完了したと判断したらモータ3の駆動を停止するように制御しても良い。
以上説明したように、本実施例においては締め付けトルクが少なくてすむ締め付け初期段階はドリルモードで回転駆動し、締め付けトルクが大きくなるにつれて正転のみの断続駆動によるパルスモード(1)で締め付けを行い、締め付けの最終段階においては、モータ3の正転及び逆転による断続駆動によるパルスモード(2)によって強力に締め付けを行う。尚、パルスモード(1)とパルスモード(2)だけを使って駆動するように構成しても良い。また、パルスモード(1)を設けないで、ドリルモードからパルスモード(2)に直接移行する制御も可能である。パルスモード(2)ではモータの正回転と逆回転を交互に行うため、締め付け速度が、ドリルモードやパルスモード(1)よりも大幅に遅くなる。このように締め付け速度が急に遅くなると、周知の回転打撃機構を有するインパクト工具に比べて打撃動作に移行する際の違和感が大きくなるので、ドリルモードからパルスモード(2)への移行にあたり、パルスモード(1)を介在させた方が操作感が自然な感じとなる。さらに、可能な限りドリルモードやパルスモード(1)で締め付けを行うことにより、締め付け作業時間の短縮化を図ることができる。
次に、図11〜図15を用いて本発明に係るインパクト工具1の制御手順を説明する。図11は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の制御手順を示すフローチャートである。インパクト工具1は、作業者による作業の開始に先立ち、トグルスイッチ32(図2参照)を用いてインパクトモードが選択されたか否かを判定する(ステップ101)。インパクトモードが選択された場合はステップ102に進み、選択されていない場合、即ち通常のドリルモードの場合はステップ110に進む。
パルスモードにおいては、演算部51はトリガスイッチ8がONされたか否かを判定し、ONされた(トリガ操作部8aが引かれた)場合は、図10に示したようにドリルモードによりモータ3を起動し(ステップ103)、トリガ操作部8aの引き量に応じてインバータ回路52のPWM制御を開始する(ステップ104)。そして、モータ3に供給されるピーク電流が上限値のpを超えないように制御しながらモータ3の回転を加速させる。次に、起動してからtミリ秒経過した後のモータ3に供給される電流値Iを、電流検出回路59(図8参照)の出力を用いて検出する。検出された電流値Iがp1アンペアを超えていなかったらステップ104に戻り、超えていたらステップ108に進む(ステップ107)。次に、検出された電流値Iがp2アンペアを超えているか否かを判定する(ステップ108)。
ステップ108において、検出された電流値Iがp2[A]を超えていなかったら、即ち、p1<I<p2の関係にあったら図13で示すパルスモード(1)の手順を実行してからステップ109に進み(ステップ120)、検出された電流値Iがp2[A]を超えていたらパルスモード(1)の手順を実行することなく直接ステップ109に進む。ステップ109において、トリガスイッチ8がオンになっているかを判定し、OFFにされた場合はステップ101に戻り、ON状態が継続されている場合は図15で示すパルスモード(2)の手順を実行してからステップ101に戻る。
ステップ101でドリルモードが選択されている場合は、ドリルモード110が実行されるが、その制御はステップ102から107の制御と同様である。そして、ステップ107のp1として、電子クラッチでの制御電流あるいは、モータ3のロック直前による過電流状態を検出してモータ3を停止させる(ステップ111)ことにより、ドリルモードを終了し、ステップ101に戻る。
ここで、図12を用いてステップ107、108におけるモード移行の判定手順を説明する。上側のグラフは経過時間とモータ3の回転数との関係を示すもので、下側のグラフはモータ3に供給される電流値と時間の関係を示すもので、上下のグラフの時間軸は同じにしている。左側のグラフにおいて、時間TAにおいてトリガスイッチが引かれると(図11のステップ102に相当)、モータ3が矢印113aのように起動されて加速される。この加速の際には、矢印114aで示すように最大電流値pが制限された状態での定電流制御がされる。モータ3の回転数が所定の回転数に到達すると(矢印113b)、矢印114bに示すように加速時電流から定常時電流になるため、電流値が減少する。この後、ネジやボルト等の締結が進行するに従って、締結部材からの受ける反力が増加すると、矢印113cに示すようにモータ3の回転数が徐々に低下すると共に、モータ3に供給される電流値が増加する。そしてモータ3の起動からtミリ秒経過した後に電流値が判定され、矢印114cに示すように、p1<I<p2の関係にある場合はステップ120で示すように後述するパルスモード(1)の制御に移行する。
右側のグラフにおいて、時間TBにおいてトリガスイッチが引かれると(図11のステップ102に相当)、モータ3が矢印115aのように起動されて加速される。この加速の際には、矢印116aで示すように最大電流値pが制限された状態での定電流制御がされる。モータ3の回転数が所定の回転数に到達すると(矢印115b)、矢印116bに示すように加速時電流から定常時電流になるため、電流値が減少する。この後、ネジやボルト等の締結が進行するに従って、締結部材からの受ける反力が増加すると、矢印115cに示すようにモータ3の回転数が徐々に低下すると共に、モータ3に供給される電流値が増加する。本例では、締結部材からの受ける反力が急激に増加したため、矢印116cで示すようにモータ3の回転数の低下が大きく、また、電流値の上昇度合いが大きい。そしてモータ3の起動からtミリ秒経過した後の電流値が116cで示すように、p2<Iの関係にあるため、ステップ140に示すように図15で示すパルスモード(2)の制御に移行する。
通常ネジやボルト等の締め付け作業においては、ネジやボルトの加工精度のばらつき、被締結材の状態、木材の節や木目などの材質のばらつき等により、必要とされる締め付けトルクが一定でないことが多い。そのためドリルモードだけで締め付け完了直前まで一気に締め付けることができてしまう場合がありうる。このような場合は、パルスモード(1)における締め付けをスキップして、より締め付けトルクの高いパルスモード(2)による締め付けに移行させると短時間で効率よく締め付け作業を完了させることができる。
次に図13のフローチャートを用いてパルスモード(1)でのインパクト工具の制御手順を説明する。パルスモード(1)に移行した場合、まず所定の休止期間をおいてから、ピーク電流をp3アンペア以下と制限し(ステップ121)、所定の時間、即ちTミリ秒だけモータ3に正転電流を供給することによってモータ3を回転させる(ステップ122)。次に、時間Tミリ秒経過後にそのときのモータ3の回転数N1n(但し、n=1、2、・・)[rpm]を検出する(ステップ123)。次に、モータ3へ供給する駆動電流をOFFにし(ステップ124)、モータ3の回転数が、N1nからN2n(=N1n/2)に低下するまで減速するまでに要する時間t1nを測定する(ステップ125)。次に、t2n=X−t1nよりt2nを求め、このt2nの期間だけモータ3に正転電流を加え(ステップ126)、ピーク電流をp3アンペア以下に押さえてモータ3を加速させる(ステップ127)。次に、t2n時間経過後にモータ3の回転数N1(n+1)が、パルスモード(2)に移行するための閾値回転数Rth以下か否かを判定し、Rth以下である場合はパルスモード(1)の処理を終了して図11のステップ120に戻り、Rth以上である場合はステップ124に戻る(ステップ128)。
図14は、図13に示すフローチャートの手順を実行中のモータ3の回転数と経過時間の関係、及び、モータ3に供給される電流と経過時間の関係を示すグラフである。最初に時間Tだけモータ3に駆動電流132が供給される。駆動電流はピーク電流をp3アンペア以下と制限されるため、矢印132aに示すように加速時の電流が制限され、その後、モータ3の回転数が上がるにつれて電流値が矢印132bのように低下する。時間T1において、モータ3の回転数がN11に到達したのが測定されると、N21=N11/2からモータ3の回転を開始する回転数N21が計算によって算出される。回転数N11は、例えば10,000rpmである。モータ3の回転数がN21に低下すると、駆動電流133が供給されモータ3が再び加速される。駆動電流133を流す時間t2nは、t2n=X−t1nにて決定される。同様にして、時間2X、3Xにおいて同様の制御を行うが、締め付け反力が大きくなるにつれてモータ3の回転数上昇度合いが低下し、時間4Xにおいて回転数N14は閾値回転数Rth以下となってしまう。この時点で、パルスモード(1)の処理が終了し、パルスモード(2)の処理へと移行することになる。
次に図15のフローチャートを用いてパルスモード(2)でのインパクト工具の制御手順を説明する。まず、モータ3に供給する駆動電流をオフにして待機する(ステップ141)。待機中にモータの回転数が5000rpm以下に減速されたら、モータ3を−3000rpmで回転させるように、逆転電流をモータ3に供給する(ステップ142、143)。モータ3の回転数は、回転位置検出素子58の出力信号を用いて検出する。ここで、‘マイナス’とは作業中の回転方向とは逆方向に3000rpmでモータ3を回転させるという意味である。次に、モータ3の回転数が、−3000rpmに到達したら、モータ3に供給する電流をオフにして待機する(ステップ144,145)。電流をオフにするとモータ3は惰性で回転し続け、ハンマ41の突出部45がスプロケット4の当接面(4a又は4b)に衝突する(ステップ146)。この衝突によってカム27が図6の矢印67の方向に揺動し、カム27の爪がギヤ部4cと噛み合うことによりハンマ41の回転が直ちに停止する。このように、モータ3の逆回転時にハンマ41をスプロケット4に衝突させることによって、電流を消費せずに逆転したモータ3を停止させることができるので、電流消費を大幅に節約できる。
次に、モータ3が停止したことを確認できたら、モータ3を正回転方向に回転させるべく、正転電流をオンにする(ステップ147,148)。モータ3の回転停止は、回転位置検出素子58の出力信号や、打撃衝撃検出センサ56の出力信号を用いて検出することができる。正転電流をオンにするとモータ3が10,000rpm回転まで加速し、この回転数にてハンマ41がアンビル46に衝突する。このように、モータ3の出力トルクと、モータ3及びハンマ41の慣性エネルギーで締め付けが行われる(ステップ149)。そして、正転電流をONにしてから所定時間経過後にモータ3に供給する電流をオフにする(ステップ150)。この所定時間は、打撃が行われた後に経過するように設定するのが好ましい。
その後、トリガスイッチのオン状態が維持されているかを検出し、オフの状態であればモータ3の回転を停止してパルスモード(2)の処理を終了し、図11のステップ140に戻る(ステップ151)。トリガスイッチ8がオンの状態であればステップ141に戻る(ステップ151)。尚、ステップ146において、逆回転時の衝突直前に正転電流を流すことにより、僅かならがブレーキを掛けて衝突直前のモータの逆方向の回転数を低下させて、逆回転時の衝撃を緩和するようにしても良い。
以上説明したように、本実施例によれば相対回転角が1回転未満のハンマとアンビルを用いて、モータを連続回転、正方向のみの断続回転、正方向及び逆方向の断続回転を行うことによって、効率的に締結部材を締結することができる。また、ハンマとアンビルの形状をシンプルな構造にすることができたので、インパクト工具の小型化及びコストダウンが実現できる。また、逆方向に回転中のモータを停止させるのに、大きな正転電流を流す必要が無く、スプロケット4によるブレーキ機構によって短時間で効果的に停止させるので、電流消費量を低減させることができる。さらに、逆転させたハンマをスプロケットに衝突させるので、ハンマの正回転の加速をスタートさせる初期位置の誤差が少なくなり、打撃力のばらつきを小さくできる。
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例ではモータとしてブラシレスDCモータを用いた例を説明したが、これに限定されず、正方向及び逆方向に駆動できる他の種類のモータであっても良い。
また、アンビルとハンマの形状は任意であり、アンビルとハンマが相対的に連続回転できない(乗り越えながら回転できず)構造とし、相対的に360度未満の所定の回転角を確保し、打撃面、被打撃面を形成すれば他の形状であっても良い。例えば、ハンマとアンビルの突出部が軸方向に突出するのではなく、円周方向にも突出するように構成しても良い。さらに、ハンマとアンビルの突出部は、必ずしも外部に凸状となる突出部だけに限られずに、なんらかの形状にて打撃面、被打撃面を形成できれば良いので、ハンマ又はアンビルの内部に突出する突出部(つまり凹部)であっても良い。また、打撃面、被打撃面は必ずしも平面に限られずに、曲面であっても、その他の良好に打撃及び被打撃される形状であれば良い。
本実施例では、ブレーキ機構たるスプロケット4は、ハンマの打撃面と遊星歯車減速機構の間に設けたが、この位置だけに限られずにハンマの外周側であっても良いし、遊星歯車減速機構とモータの間に設けるようにしても良い。