JP2011159731A - 光電変換素子の製造方法 - Google Patents

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哲夫 河野
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Abstract

【課題】CI(G)S系光電変換素子の製造方法において、バッファ層の成膜工程から透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施する。
【解決手段】基板上に、下部電極層と、光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、バッファ層の成膜工程から透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施するものであり、バッファ層を化学浴析出法により成膜し、透光性導電層の成膜工程が、バッファ層上に、導電性酸化亜鉛を主成分とする少なくとも1種の複数の微粒子を含む下地層を塗布法により形成する工程と、下地層上に、導電性酸化亜鉛薄膜層を化学浴析出法により形成する工程とを有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、太陽電池等の光電変換素子の製造方法に関するものである。
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Si又は多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。本明細書では、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記してある箇所がある。
CI(G)S系等の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層上に、バッファ層を介して、あるいはバッファ層と窓層を介して透光性導電層(透明電極)が設けられている。かかる系では通常、バッファ層は化学浴析出法(CBD法:Chemical Bath Deposition)により成膜されている。
バッファ層の役割としては、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等が考えられる。CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に(4)の条件を良好に充たすために、液相法であるCBD法が好ましいと考えられる。
バッファ層を液相法で成膜する場合、その後工程で成膜される透光性導電層や窓層等の成膜をスパッタ法などの真空プロセスにて行う場合は、ロール・トゥ・ロール方式の成膜などの連続成膜ができないためプロセスが複雑である(非特許文献1)。また、液相法の後に真空プロセスを行う場合は、新たに成膜面の表面処理プロセスが必要となることもある。従って、成膜プロセスを簡便にし、低コストな製造を実現するためには、バッファ層成膜の後工程の成膜は、全て液相法により実施されることが好ましい。
バッファ層成膜後の成膜工程としては、上記したように、透光性導電層、場合によっては窓層の成膜工程がある。透光性導電層としては、資源が豊富であり、現在普及しているITOに比して安価な酸化亜鉛系透光性導電層が注目されているが、良質で電気抵抗値の低い酸化亜鉛系透光性導電層を液相法により成膜することが難しい。酸化亜鉛系透光性導電層は、酸化亜鉛に、亜鉛よりもイオン価数の高いドーパント元素を添加して導電性を付与した導電性酸化亜鉛薄膜であるため、その成膜には、高濃度のドーパント元素を導入することができる電解析出法(電析法)が好ましい。しかしながら、電析法は、下地層を電極として機能させる必要があるため、下地層がバッファ層や窓層等の非導電性となる光電変換素子の場合は、良好に下地層を被覆し、且つ、低抵抗な導電性酸化亜鉛薄膜を成膜することが難しい。
良好に下地層を被覆し、且つ、低抵抗な導電性酸化亜鉛薄膜を形成する方法が検討されている。特許文献1及び特許文献2には、スパッタ成膜により導電性酸化亜鉛層の初期層を形成した後に、電析法を施すことにより導電性酸化亜鉛膜を成膜する方法が開示されている(特許文献1,特許文献2)。しかしながら、かかる方法では、バッファ層成膜の後工程を全て液相法で行うことにはならなくなってしまう。
CBD法により電析法の初期層を形成する方法が開示されている。CBD法は非導電性下地上に酸化亜鉛膜を形成することができる液相法である。しかしながら、酸化亜鉛はウルツ鉱型結晶であるため、CBD法において、特定の結晶面を成長抑制させるための形態制御剤(有機分子等)などを特別に用いない場合には、結晶のc軸方向の成長速度が速いことが多く、ロッド状に結晶成長しやすく、大きなロッド状の結晶が析出して膜とならなかったり、なったとしても多数の微細なロッド状の結晶が立ち並んだ隙間のある膜構造となり、良好に下地を被覆することが難しい。
結晶成長を制御して、良好に下地を被覆する酸化亜鉛膜を形成する方法として、下地上に多数の金属微粒子を付与した後にCBD法により酸化亜鉛膜を形成する方法が提案されている。特許文献3には、下地に対してAgイオンを含有する活性化剤で触媒化処理した後、酸化亜鉛析出溶液を用いて酸化亜鉛膜を形成する方法が開示されている。例えば、特許文献1の段落0026には、下地に対してAgイオンを含有する活性化剤で触媒化処理した後、無電解法で酸化亜鉛を析出させ、さらに、このZnO析出物を陰極とし、亜鉛板を陽極として、酸化亜鉛析出溶液中で通電化処理を行い、ZnOを成長させる方法が記載されている。また同様の手法について、非特許文献2及び非特許文献3にも記載がある。
特開2002−20884号公報 特許第3445293号公報 特許第4081625号公報
S. Ishizuka et al, Applied Physics Express 1, 092303, (2008). 片山順一, 「ソフト溶液プロセスで作製したZnOおよびCu2O半導体薄膜のオプトエレクトロニクスへの応用」,立命館大学博士論文 (2004). H. Ishizaki, M. Izaki and T. Ito, Journal of The Electrochemical Society, 148, C540-C543 (2001).
しかしながら、上記特許文献や非特許文献1,非特許文献2の方法により、最終的に電析法まで実施して成膜された導電性酸化亜鉛膜の比抵抗値は7.8×10―3Ω・cm程度,シート抵抗値に換算すると200Ω/□程度と高抵抗であり、電極層として充分な抵抗値が得られていない(抵抗値は非特許文献1より引用。)。更に、透光性導電層の下地層として金属層を用いることは、バンドギャップに影響を及ぼすため素子特性低下の要因となる可能性がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光電変換素子内部のバンドギャップ構造に影響を及ぼす金属層を導入することなく、液相法により、下地を良好に被覆した良質な透光性導電層を成膜可能とし、バッファ層の成膜工程から透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施する光電変換素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に、下部電極層と、光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施するものであり、
前記バッファ層を化学浴析出法により成膜し、
前記透光性導電層の成膜工程が、
前記バッファ層上に、導電性酸化亜鉛を主成分とする少なくとも1種の複数の微粒子を含む下地層を塗布法により形成する工程と、
該下地層上に、導電性酸化亜鉛薄膜層を化学浴析出法により形成する工程とを有するものであること特徴とするものである。
ここで、「導電性酸化亜鉛」とは、酸化亜鉛の中にホウ素やガリウム、アルミニウム等のドーパントを導入し、キャリア電子を増加させる処理を施した酸化亜鉛を意味する。
また、本明細書において、「主成分」とは、含量80質量%以上の成分と定義する。
ここで「微粒子」とは、平均粒子径が100nm以下である粒子を意味する。本発明の前記微粒子の平均粒子径は、1〜50nmであることが好ましい。
本明細書において「平均粒子径」はTEM像から求めるものとする。詳細には、充分に分散させた微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、撮影した微粒子画像ファイル情報に対して、(株)マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウエア「Mac−View」Ver.3を用いて1粒子ごとに測定を実施し、ランダムに選択した50個の微粒子について集計することで、平均粒子径を求めるものとする。粒子が非球状の場合は球相当の平均粒子径を意味するものとする。
本明細書において、「透光性」とは、太陽光の透過率が70%以上であることを意味する。
本発明の光電変換素子の製造方法において、前記下地層の前記複数の微粒子は、ホウ素ドープ酸化亜鉛,アルミニウムドープ酸化亜鉛,及びガリウムドープ酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。
また、本発明の光電変換素子の製造方法において、前記導電性酸化亜鉛薄膜層からなる第1の導電性酸化亜鉛薄膜層上に、第2の導電性酸化亜鉛薄膜層を電解析出法により形成することが好ましい。
本発明の光電変換素子の製造方法において、前記バッファ層が、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層であり、
該Zn化合物層を、少なくとも1種の亜鉛源である成分(Z)、少なくとも1種の硫黄源である成分(S)、少なくとも1種のクエン酸化合物である成分(C)、アンモニア及びアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である成分(N)、及び水を含有し、
かつ、
成分(C)の濃度が0.001〜0.25Mであり、
成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mであり、
反応開始前のpHが9.0〜12.0である反応液を用い、
前記化学浴析出法により、反応温度を70〜95℃として成膜し、
該成膜されたZn化合物層を、150℃〜220℃以下の温度にて、5〜90分間アニール処理を施すことが好ましい。
上記本発明の光電変換素子の製造方法において、前記バッファ層の成膜工程と前記透光性導電層の成膜工程との間に、前記バッファ層上に、塗布法及び/又は化学浴析出法により窓層を形成する工程を有し、該窓層を介して前記バッファ層上に前記透光性導電層の成膜工程を実施することが好ましい。
上記本発明の光電変換素子の製造方法において、前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面の不純物を除去しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理し、該表面処理後の光電変換半導体層上に、前記バッファ層を成膜することが好ましい。この場合、前記表面処理後、60分以内に前記バッファ層を成膜することが好ましく、10分以内に前記バッファ層を成膜することがより好ましい。
ここで、「表面処理後、60分以内」とは、表面処理終了直後からの時間を意味し、その後に水洗工程や乾燥工程を実施する場合には、これらの工程処理時間まで含んだ時間となる。
上記本発明の光電変換素子の製造方法において、前記化学浴析出法及び/又は前記電解析出法により成膜される導電性酸化亜鉛薄膜層が、ホウ素ドープ酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。また、かかる導電性酸化亜鉛薄膜層は、亜鉛イオンと、硝酸イオンと、ボラン系化合物とを含む反応液を用いて前記導電性酸化亜鉛薄膜層を形成されることが好ましい。前記ボラン系化合物としては、ジメチルアミンボランが好ましい。
本発明の光電変換素子の製造方法は、前記光電変換半導体層の主成分が、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体である場合に好適に適用することができる。カルコパイライト構造の化合物半導体としては、Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる化合物半導体が挙げられる。
上記本発明の光電変換素子の製造方法において、前記基板が、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であることを特徴とするものである。
上記本発明の光電変換素子の製造方法は、前記基板として可撓性を有する基板を用い、前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を、ロール・トウ・ロール方式で行うことが好ましい。
ロール・トウ・ロール方式の第1の態様としては、前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までをインラインにて実施する態様が挙げられる。また、ロール・トウ・ロール方式の第2の態様としては、前記全ての成膜工程をそれぞれロール・トゥ・ロール方式にて成膜し、前記全ての成膜工程の工程間はオフラインとする態様が挙げられる。
ここで、インラインとは、ロール状に巻かれた基材が、製造工程に繰り出されてから再びロールに巻き取られるまでの間を言う。これに対し、オフラインとは、基材が一旦ロール状上に巻き取られた後に、別の工程に投入されることを言う。
本発明では、良好に下地層を被覆する透光性導電層を、光電変換素子内部のバンドギャップ構造に影響を及ぼす金属層を導入することなく、液相法により簡易なプロセスにて成膜する方法を見出し、この成膜方法を用いることにより、光電変換素子の製造において、バッファ層の成膜工程から透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施することを初めて可能にした。更に、透光性導電層の成膜において電解析出法による成膜まで実施する態様では、素子特性の良好な太陽電池等の光電変換素子を製造することができる。
本発明に係る一実施形態の光電変換素子の製造方法を示す概略断面図 陽極酸化基板の構成を示す概略断面図 陽極酸化基板の製造方法を示す斜視図 第1の態様のロール・トゥ・ロール方式の光電変換素子の製造方法を示す概略断面図 第2の態様のロール・トゥ・ロール方式の光電変換素子の製造方法を示す概略断面図
「光電変換素子の製造方法」
図1を参照して、本発明の光電変換素子の製造方法について説明する。図1(a)〜(g)は、本発明に係る一実施形態の光電変換素子(太陽電池)1の製造方法の概略断面図を示したものである。視認しやすくするため、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
光電変換素子(太陽電池)1は、図1(g)に示されるように、基板110上に、下部電極120と光吸収により正孔・電子対を発生する光電変換半導体層130と、バッファ層20と、保護層(窓層)30上に、透光性導電層(透明電極)40と、上部電極50との積層構造を有している。透光性導電層40は、導電性酸化亜鉛微粒子層(下地層)41と第1の導電性酸化亜鉛薄膜層42及び第2の導電性酸化亜鉛薄膜層43との積層膜である。
本発明の光電変換素子の製造方法では、バッファ層20の成膜工程から透光性導電層40の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施する。従って、バッファ層20より下層の各層の成膜方法は特に制限されない。以下に、各層の好ましい態様及び成膜方法について説明する。
(基板)
まず基板110を用意する。基板110としては特に制限されず、ガラス基板、表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
連続工程による生産が可能であることから、表面に絶縁膜が成膜された金属基板、陽極酸化基板、及び樹脂基板等の可撓性基板が好ましい。
熱膨張係数、耐熱性、及び基板の絶縁性等を考慮すれば、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、及びFeを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板が特に好ましい。
図2は、陽極酸化基板110の構成を示す概略断面図である。
陽極酸化基板110はAlを主成分とするAl基材101の少なくとも一方の面側を陽極酸化して得られた基板である。基板110は、図2の左図に示すように、Al基材11の両面側に陽極酸化膜102が形成されたものでもよいし、図2の右図に示すように、Al基材101の片面側に陽極酸化膜102が形成されたものでもよい。陽極酸化膜102はAlを主成分とする膜である。
デバイスの製造過程において、AlとAlとの熱膨張係数差に起因した基板の反り、及びこれによる膜剥がれ等を抑制するには、図2の左図に示すようにAl基材101の両面側に陽極酸化膜102が形成されたものが好ましい。
陽極酸化は、必要に応じて洗浄処理・研磨平滑化処理等が施されたAl基材101を陽極とし陰極と共に電解質に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施できる。陰極としてはカーボンやアルミニウム等が使用される。電解質としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、及びアミドスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより特に制限されない。条件としては例えば、電解質濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.005〜0.60A/cm、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲にあれば適当である。
電解質としては、硫酸、リン酸、シュウ酸、若しくはこれらの混合液が好ましい。かかる電解質を用いる場合、電解質濃度4〜30質量%、液温10〜30℃、電流密度0.05〜0.30A/cm、及び電圧30〜150Vが好ましい。
図3に示すように、Alを主成分とするAl基材101を陽極酸化すると、表面101sから該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、Alを主成分とする陽極酸化膜102が生成される。陽極酸化により生成される陽極酸化膜102は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体102aが隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体102aの略中心部には、表面101sから深さ方向に略ストレートに延びる微細孔102bが開孔され、各微細柱状体102aの底面は丸みを帯びた形状となる。通常、微細柱状体102aの底部には微細孔102bのないバリア層が形成される。陽極酸化条件を工夫すれば、微細孔102bのない陽極酸化膜102を形成することもできる。
Al基材101及び陽極酸化膜102の厚みは特に制限されない。基板110の機械的強度及び薄型軽量化等を考慮すれば、陽極酸化前のAl基材101の厚みは例えば0.05〜0.6mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。基板の絶縁性、機械的強度、及び薄型軽量化を考慮すれば、陽極酸化膜102の厚みは例えば0.1〜100μmが好ましい。
(下部電極)
次に、基板110上に下部電極(裏面電極)120を成膜する。下部電極120の成膜方法としては特に制限されず、スパッタ法や蒸着等の気相成膜が好ましい。下部電極120の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合わせが好ましく、Moが特に好ましい。下部電極(裏面電極)120の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。
(光電変換層)
次いで、下部電極120上に光電変換層130を成膜する(図1(a))。光電変換層130の主成分としては特に制限されず、高光電変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体である場合に好適に適用することができる。カルコパイライト構造の化合物半導体としては、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
光電変換層130の主成分としては、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
上記化合物半導体としては、
CuAlS,CuGaS,CuInS
CuAlSe,CuGaSe
AgAlS,AgGaS,AgInS
AgAlSe,AgGaSe,AgInSe
AgAlTe,AgGaTe,AgInTe
Cu(In,Al)Se,Cu(In,Ga)(S,Se)
Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se,及びAg(In,Ga)(S,Se)等が挙げられる。
光電変換層の成膜方法としては特に制限されない。例えば、Cu,In,(Ga),Sを含むCI(G)S系の光電変換層の成膜では、セレン化法や多元蒸着法等の方法を用いて成膜することができる。
光電変換層130の膜厚は特に制限されず、1.0〜3.0μmが好ましく、1.5〜2.0μmが特に好ましい。
(バッファ層)
次に、バッファ層20を成膜する(図1(b))。バッファ層20は、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等を目的として、設けられる層である。
バッファ層20としては特に制限されないが、CdSや、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,In,Snからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むことが好ましい。かかるバッファ層20は化学浴析出法(CBD法)により形成することが好ましい。
CI(G)S系光電変換層の場合、成膜後の表面にはセレン化銅や硫化銅等の有害な不純物が残存している可能性が高い。従って、この系の光電変換層の場合は、次工程のバッファ層の成膜前に、膜表面に存在する不純物の除去工程を行うことが好ましい。
不純物の除去方法は特に制限されないが、例えばKCN0.1〜10wt.%水溶液中に膜表面を浸積させてエッチングを実施する方法等が挙げられる。
また、CI(G)S系光電変換層は、成膜後の膜表面の凹凸が大きいため、膜表面の平滑化処理を実施することが好ましい。かかる処理には、臭素水溶液(例えば濃度1mol/l以下)を用いたエッチング処理等が挙げられる。
上記不純物除去の表面処理を行った光電変換層130上にバッファ層20を成膜する場合は、できるだけ早くバッファ層20の成膜を実施することが好ましい。本発明者は、表面処理後、バッファ層20の成膜を60分以内に実施することにより、光電変換効率の面内のばらつきを小さくし、光電変換効率を高めることを確認している。本発明者は更に、表面処理後、10分以内にバッファ層20の成膜を実施することにより、効果的に光電変換効率の面内のばらつきを抑制し、光電変換効率を高められることも確認している。
バッファ層20の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
バッファ層20がCdSを主成分とするものである場合は、CdSO水溶液,チオ尿素水溶液,アンモニア水溶液を所定量混合した反応液を用いて、CBD法により成膜することが好ましい。反応液としては、例えば、CdSO0.0001M,チオ尿素水溶液0.10M,アンモニア水溶液2.0M含むものが挙げられる。
かかる方法では、反応温度は、70℃〜95℃とすることが好ましい。例えば、反応温度80℃であれば、反応時間は15〜20分程度とすればよい。CdSは、バッファ層として好適な材料であるが、Cdは毒性が強く環境負荷の点では好ましくない。従ってバッファ層20としては、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層がより好ましい。
バッファ層20がZn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層である場合は、少なくとも1種の亜鉛源である成分(Z)、少なくとも1種の硫黄源である成分(S)、少なくとも1種のクエン酸化合物である成分(C)、アンモニア及びアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である成分(N)、及び水を含有し、かつ、成分(C)の濃度が0.001〜0.25Mであり、成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mであり、反応開始前のpHが9.0〜12.0である反応液を用い、
前記化学浴析出法により、反応温度を70〜95℃として成膜することが好ましく、その後、150℃〜220℃以下の温度にて、5〜90分間アニール処理を施すことがより好ましい。
以下に、バッファ層20がZn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層である場合の成膜方法を示す。
<微粒子層形成工程>
バッファ層20は、成膜工程の前に結晶成長の核あるいは触媒等として機能する微粒子層を形成する微粒子層形成工程を必須としないが、成膜工程の前に微粒子層形成工程を有していてもよい。バッファ層20の製造方法が微粒子層形成工程を有する場合、成膜工程の反応速度をより速めることができる。
微粒子層の組成は特に制限されない。微粒子層の組成は半導体が好ましく、後工程で成膜する層がZn系であるので、Zn系が好ましく、ZnS,Zn(S,O),及びZn(S,O,OH)からなる群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする1種若しくは2種以上の複数の微粒子からなる微粒子層が特に好ましい。
微粒子層の形成方法は特に制限なく、複数の微粒子を含む分散液を塗布する方法、若しくはCBD(Chemical Bath Deposition)法によって複数の微粒子を析出する方法等が好ましい。
<成膜工程>
Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層の液相法による成膜方法は特に制限されず、CBD法等が好ましい。
「CBD法」とは、一般式 [M(L)] m+ ⇔ Mn++iL(式中、M:金属元素、L:配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に結晶を析出させる方法である。基板上にCBD法により複数の微粒子を析出する方法としては、例えばPhysical Chemistry Chemical Physics, 9, 2181-2196 (2007). 等に記載の方法が挙げられる。
以下、反応液の好ましい組成について説明する。
成分(Z)としては特に制限されず、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、クエン酸亜鉛、及びこれらの水和物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。成分(Z)としてクエン酸亜鉛を用いる場合、クエン酸亜鉛は成分(C)も兼ねる。
成分(Z)の濃度は特に制限されず、0.001〜0.5Mが好ましい。
成分(S)としては特に制限されず、チオ尿素を含むことが好ましい。
成分(S)の濃度は特に制限されず、0.01〜1.0Mが好ましい。
成分(C)は錯形成剤等として機能する成分であり、成分(C)の種類と濃度を好適化することで、錯体が形成されやすくなる。
少なくとも1種のクエン酸化合物である成分(C)を用いることで、クエン酸化合物を用いない反応液よりも錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、下地を良好に被覆する膜を安定的に成膜することができる。
成分(C)としては特に制限されず、クエン酸ナトリウム及び/又はその水和物を含むことが好ましい。成分(C)の濃度は0.001〜0.25Mとする。成分(C)の濃度がこの範囲内であれば錯体が良好に形成され、下地を良好に被覆する膜を安定的に成膜することができる。成分(C)の濃度が0.25M超では、錯体が良好に形成された安定な水溶液となるが、その反面、基板上への析出反応の進行が遅くなったり、反応が全く進行しなくなる場合がある。成分(C)の濃度は好ましくは0.001〜0.1Mである。
成分(N)はpH調整剤等として機能する成分であるが、錯形成剤等として機能する成分でもある。成分(N)として用いて好適なアンモニウム塩としては特に制限されず、NHOH等が挙げられる。
成分(N)の濃度は0.001〜0.40Mとする。成分(N)によってpHを調整して、金属イオンの溶解度や過飽和度を調整することができる。成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mの範囲内であれば反応速度が速く、成膜工程の前に微粒子層形成工程を設けなくても実用的な生産速度で成膜を実施することができる。成分(N)の濃度が0.40M超では反応速度が遅くなり、成膜工程の前に微粒子層を付けるなどの工夫が必要となる。成分(N)の濃度は好ましくは0.01〜0.30Mである。
反応開始前の反応液のpHは9.0〜12.0とする。
反応液の反応開始前のpHが9.0未満では、チオ尿素等の成分(S)の分解反応が進行しないか、進行しても極めてゆっくりであるため、析出反応が進行しない。チオ尿素の分解反応は下記の通りである。チオ尿素の分解反応については、J.Electrochem.Soc., Vol.141, No.1, January 1994, 及びJournal of Crystal Growth 299 (2007) 136-141等に記載されている。
SC(NH+ OH⇔ SH+ CH+ HO、
SH+ OH ⇔S2− + HO。
反応液の反応開始前のpHが12.0超では、錯形成剤等としても機能する成分(N)が安定な溶液を作る効果が大きくなり、析出反応が進行しないか、あるいは進行しても極めて遅い進行となってしまう。反応液の反応開始前のpHは好ましくは9.5〜11.5である。
成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mであれば、成分(N)以外のpH調整剤を用いるなどの特段のpH調整をしなくても、通常反応開始前の反応液のpHは9.0〜12.0の範囲内となる。
反応液の反応終了後のpHは特に制限されない。反応液の反応終了後のpHは7.5〜11.0であることが好ましい。反応液の反応終了後のpHが7.5未満では、反応が進行しない期間を含んでいたことになり、効率的な製造を考えると無意味である。また、緩衝作用のあるアンモニアが入っていた系でこれだけのpH低下があった場合には、アンモニアが加熱工程で過剰に揮発している可能性が高く、製造上の改善が必要であると考えられる。反応液の反応終了後のpHが11.0超では、チオ尿素の分解は促進されるが、亜鉛イオンの多くがアンモニウム錯体として安定になるため、析出反応の進行が著しく遅くなる場合がある。反応液の反応終了後のpHはより好ましくは9.5〜10.5である。
上記反応液では、成分(N)以外のpH調整剤を用いるなどの特段のpH調整をしなくても、通常反応開始後の反応液のpHは7.5〜11.0の範囲内となる。
反応温度は70〜95℃とする。反応温度が70℃未満では反応速度が遅くなり、薄膜が成長しない、あるいは薄膜成長しても実用的な反応速度で所望の厚み(例えば50nm以上)を得るのが難しくなる。反応温度が95℃超では、反応液中で気泡等の発生が多くなり、それが膜表面に付着したりして平坦で均一な膜が成長しにくくなる。さらに、反応が開放系で実施される場合には、溶媒の蒸発等による濃度変化などが生じ、安定した薄膜析出条件を維持することが難しくなる。反応温度は好ましくは80〜90℃である。
反応時間は特に制限されない。本発明では、微粒子層を設けなくても実用的な反応速度で反応を実施することができる。反応時間は反応温度にもよるが、例えば10〜60分間で、下地を良好に被覆し、バッファ層として充分な厚みの層を成膜することができる。
また、上記反応液は水系である。反応液のpHは強酸条件ではない。反応液のpHは11.0〜12.0でもよいが、11.0未満の穏やかなpH条件でも反応を実施することができる。反応温度もそれ程高温を必須としない。したがって、本発明における反応は環境負荷が少なく、基板へのダメージも小さく抑えられる。
CBD法による成膜後、150℃〜220℃以下の温度にて、5〜90分間アニール処理を施すことがより好ましい。例えば、200℃の温度であれば60分間アニール処理を施すことが好ましい。
上記のようにして成膜されたZn系バッファ層は、下地を良好に被覆し、実用的な反応速度で成膜することができる。
(窓層)
次いで、窓層(保護層)30を成膜する(図1(c))。窓層30は、光を取り込む中間層である。窓層30としては、光を取り込む透光性を有していれば特に制限されないが、その組成としてはバンドギャップを考慮すれば、i−ZnO等が好ましい。窓層30の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
窓層30の成膜方法は、液相法であれば特に制限されないが、微粒子分散液を塗布したり、CBD法で形成したり、あるいはそれらを組み合わせて形成することができる。窓層30は必須ではなく、窓層30のない光電変換素子もある。
(透光性導電層)
透光性導電層(透明電極)40(40’)は、光を取り込むと共に、下部電極120と対になって、光電変換層130で生成された正孔・電子対が流れる電極として機能する層である。透光性導電層40としては、下地層41と、第1の導電性酸化亜鉛薄膜42と、第2の導電性酸化亜鉛薄膜43とからなる積層膜40’が低抵抗であり好適であるが、下地層41と、導電性酸化亜鉛薄膜42とからなる積層膜40としてもよい。
ここで、導電性酸化亜鉛を主成分とする各層を積層して製造することから、導電性酸化亜鉛薄膜を「積層膜」としている。本実施形態において、積層されている各層は全て導電性酸化亜鉛を主成分とするものであり、各層はその下地層を結晶成長の起点として成膜されるため、その層境界は認識できない場合もある。本実施形態では、各層の境界の有無に関わらず、製造する膜を「積層膜」と記すが、その主成分及び膜厚を考慮すると一つの薄膜としてみなすことができる。
「背景技術」の項において既に述べたように、下地が非導電性である場合は、下地上に直接CBD法により酸化亜鉛層を成膜しようとしても、結晶成長を良好に制御できず、大きな結晶が析出して、下地を良好に被覆する膜とすることが難しい。
表面が非導電性の基板上に直接CBD法でZnOを形成すると、核発生の密度が十分でなく下地を良好に被覆する膜が形成できないことがある。これは初期に発生する核の数が少ないという現象に起因する。つまり、初期核の状態がその後に成長する酸化亜鉛薄膜の組織に極めて大きな影響を及ぼすと考えられている。従って、その下地表面における初期核又は初期核形成の触媒となりうる物質の有無及びその面内密度が重要となる。
特許文献3の方法では、導電性の優れる金属微粒子層を、触媒化処理により非導電性基板上に形成した後に導電性酸化亜鉛薄膜を成膜している。しかしながら、触媒化処理では、金属微粒子層中に金属微粒子を密に配置することが難しく、CBD法による成膜における結晶成長の起点を充分に得ることが難しいと本発明者は推察している。
また、光電変換素子の透光性導電層(透明電極)として適用する場合には、バッファ層、窓層とのバンドギャップの関係から、下地層には、できるだけバンドギャップに影響を与えない材料を用いることが好ましい。光電変換素子の構成膜等の用途の場合、透光性導電層のバンドギャップ値≧下地層のバンドギャップ値>窓層のバンドギャップ値>バッファ層のバンドギャップ値とする必要があり、透光性導電層のバンドギャップ値と下地層のバンドギャップ値との差は0〜0.15eV程度であることが好ましい。従って、特許文献3の方法のように、金属微粒子層を下地層として挿入することは、バンドギャップの関係からも好ましくない。
本実施形態では、CBD法による導電性酸化亜鉛薄膜層42の成膜に先立ち、導電性酸化亜鉛を主成分とする微粒子41p(以下、導電性酸化亜鉛微粒子とする。)を含む下地層41を塗布法により形成する。本実施形態では、透光性導電層と同じ金属酸化物により構成された微粒子41pにより構成される塗布膜を下地層41としているので、バンドギャップの差を上記範囲内とすることができ好ましい。
また、かかる方法では、導電性酸化亜鉛薄膜層42の結晶成長を良好に制御し、下地をほぼ隙間なく被覆する導電性酸化亜鉛薄膜層42を形成することができることから、必ずしも明らかではないが、この下地層41の導電性酸化亜鉛微粒子41pは、結晶成長の起点となる初期核、あるいは結晶成長の触媒として機能しており、また、下地層41中の微粒子41pの密度も、良好な導電性酸化亜鉛薄膜層を形成するに充分な密度であると考えられる。また、この微粒子層41は、反応液中の自発的な核生成の促進等の機能を有する場合もあると本発明者は考えている。
まず、バッファ層20又は窓層30まで成膜された基板110の表面に、複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pを含む下地層41を塗布法により形成し(図1(d))、下地層41上に、導電性酸化亜鉛薄膜層42を化学浴析出法(CBD法)により形成する(図1(e))。
塗布法に用いる塗布液としては、微粒子11pが分散媒中にできるだけ密に分散されて含まれるものが好ましい。分散媒は特に制限されず、水、各種アルコール、メトキシプロピルアセテート、及びトルエン等の溶媒が挙げられる。分散媒は、基板表面との親和性等を考慮して選択することができるので、非導電性を有する種々の表面に対応することができ、好ましい。例えば、薄膜太陽電池の窓層(i−ZnO)やバッファ層(Zn(S,O,OH))等が表面に形成されたものの上にも、それぞれの表面との親和性を考慮した分散媒を用いることにより、容易に形成することができる。特に制約のない場合には、溶媒としては環境負荷が大きくないことから水やアルコールが好ましい。
塗布液中の微粒子濃度(固形分濃度)は特に制限されず、1〜50質量%が好ましい。
導電性酸化亜鉛微粒子41pとしては、導電性酸化亜鉛を主成分とする微粒子であれば特に制限されないが、ホウ素ドープ酸化亜鉛,アルミニウムドープ酸化亜鉛,及びガリウムドープ酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性酸化亜鉛を主成分とするものであることが好ましい。
導電性酸化亜鉛微粒子41pの形状は特に制限されず、例えば、ロッド状、平板状、及び球状等が挙げられる。後工程のCBD法において、導電性酸化亜鉛薄膜の結晶成長が基板全体で均一に進むことから、下地層中の複数の微粒子の形状及び大きさはばらつきが小さい方が好ましい。
複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pの平均粒子径は特に制限されず、用途等に応じて決まる積層膜の全体厚みを超えないサイズであればよい。下地層41をなす導電性酸化亜鉛微粒子41pの平均粒子径は、結晶成長の核あるいは触媒等としての機能を充分に発現するサイズ以上でなるべく小さいことが好ましい。後工程のCBD法による結晶成長を良好に制御できることから、複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pの平均粒子径は、2〜50nmであるであることが好ましい。複数の微粒子の平均粒子径はより好ましくは2〜40nmである。
バッファ層20又は窓層30上に付与する複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pの密度は特に制限されないが、既に述べたように、下地層41中の微粒子の密度は、高い方が好ましい。下地層41中の導電性酸化亜鉛微粒子41pの密度が小さすぎると、結晶成長の核及び/又は触媒等としての機能が充分に発現しない恐れがある。後記実施例に示すように、基板10全体を覆うように複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pを付与することが好ましい。
塗布液としては、既に市販されているハクスイテック社製導電性酸化亜鉛Pazet GK−40分散液(ガリウムドープ酸化亜鉛,分散媒 IPA(2−プロパノール),平均粒子径20〜40nm)等を直接、又は希釈して使用することができる。
塗布液の付与方法は特に制限されず、成膜する基板(積層基板)を微粒子分散液中に浸漬する浸漬法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、及びスピンコーティング法等が挙げられる。
バッファ層20又は窓層30上に微粒子分散液を付与した後、溶媒を除去する工程を経て、下地層41を形成することができる。この際、必要に応じて加熱処理を実施することができる。
また、バッファ層20又は窓層30上に、微粒子分散液を加熱処理して得られた乾燥状態の複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pを直接塗布して、下地層41を形成することもできる。
下地層41の膜厚は特に制限されず、後工程のCBD法により導電性酸化亜鉛薄膜層42の結晶成長を良好に制御できることから、2nm〜1μmであることが好ましいバッファ層20又は窓層30全体に均一に反応が進むことから、下地層41の膜厚は面内ばらつきが小さい方が好ましい。
次に、図1(e)に示されるように、下地層41上にCBD法により導電性酸化亜鉛薄膜層42を成膜する。
CBD法により形成される導電性酸化亜鉛薄膜層42としては特に制限されないが、ホウ素ドープ酸化亜鉛を主成分とするものであることが好ましい。
CBD法において用いる反応液は、亜鉛イオンと、硝酸イオンと、1種又は2種以上のアミン系ボラン化合物(還元剤)とを含む反応液を用いることが好ましい。アミン系ボラン化合物としては、ジメチルアミンボラン、及びトリメチルアミンボラン等が挙げられ、中でも、ジメチルアミンボランを含むことがより好ましい。反応液としては例えば、硝酸亜鉛とジメチルアミンボランとを含む液が挙げられる。
亜鉛イオンと硝酸イオンとジメチルアミンボラン等のアミン系ボラン化合物を含む反応液を用いる場合の反応条件は特に制限されないが、上記亜鉛イオンとアミン系ボラン化合物から生成される錯体とが共存する反応過程を含むことが好ましい。
反応温度は40〜95℃が好ましく、50〜85℃が特に好ましい。反応時間は反応温度にもよるが、5分〜72時間が好ましく、15分〜24時間がより好ましい。pH条件は下地層41の少なくとも一部が反応液により溶解せずに残存する条件であればよい。亜鉛イオンと硝酸イオンとジメチルアミンボラン等のアミン系ボラン化合物を用いる場合、反応開始から反応終了までのpHを3.0〜8.0の範囲内としてZnO等の金属酸化物層を形成することができる。
硝酸亜鉛とジメチルアミンボランとを用いた反応液における主な反応経路は以下のように考えられている。
Zn(NO3)2 → Zn2++2NO3 - (1)
(CH3)2NHBH3+H2O → BO2 -+(CH3)2NH+7H++6e- (2)
NO3 -+H2O+2e→ NO2 -+2OH- (3)
Zn2++2OH- → Zn(OH)2 (4)
Zn(OH)2 → ZnO+H2O (5)
上記反応では、ZnOの溶解度が低いpH条件で反応を実施することが好ましい。pHと反応液中に存在する各種Zn含有イオンの種類とその溶解度との関係は、Journal of Materials Chemistry, 12, 3773-3778 (2002). のFig.7等に記載されている。上記反応では、pH3.0〜8.0の範囲内におけるZnOの溶解度が小さく、反応が良好に進行する。換言すれば、上記反応では、強酸あるいは強アルカリ条件ではない穏やかなpH条件で良好に反応が進むため、基板等への影響が少なく、好ましい。
亜鉛イオンと硝酸イオンとジメチルアミンボラン等のアミン系ボラン化合物を含む反応液には、必須成分以外の任意の成分を含むことができる。かかる系の反応液は、水系でよく、反応温度も高温を必要とせず、穏やかなpH条件でよいので、環境負荷が小さく、好ましい。
以上のようにして、複数の導電性酸化亜鉛微粒子41pを含む下地層41を形成し、下地層41上にCBD法により導電性酸化亜鉛薄膜層42を形成することにより、下地層41がほぼ隙間なく導電性酸化亜鉛薄膜層42により被覆された導電性酸化亜鉛積層膜40を形成することができる。
下地層41と、導電性酸化亜鉛薄膜層42との積層体である導電性酸化亜鉛積層膜40は、電解析出法(電析法)により導電性酸化亜鉛薄膜層43を成膜する初期層として好適な膜となる。CBD法は、無電解法であることから、それにより成膜可能な導電性酸化亜鉛薄膜の導電性には限度がある。従って、光電変換素子の透光性導電層等に利用可能な高い導電性を有する、すなわち、低抵抗な導電性酸化亜鉛薄膜を得るためには、導電性酸化亜鉛積層膜40を下地(初期層)として、電析法により更に低抵抗な導電性酸化亜鉛薄膜層43を成膜することが好ましい(図1(f))。
透光性導電層として利用する場合、導電性酸化亜鉛膜の透明性は、表面や内部のポアや内在する欠陥の量に大きく影響されることが知られている。既に述べたように、導電性酸化亜鉛積層膜40の表面には、下地層41はほとんど露出されずに良好に被覆されている。従って、導電性酸化亜鉛積層膜1を下地(初期層)として電析法により成膜することにより、低抵抗、且つ、抵抗値の面内均一性の良好であり、光電変換素子の透光性導電層として好適な導電性酸化亜鉛積層膜40’を形成することができる。
導電性酸化亜鉛薄膜層43としては、低抵抗な導電性酸化亜鉛を主成分とするものが好ましい。かかる低抵抗な導電性酸化亜鉛としては、導電性酸化亜鉛薄膜層42と同様、ホウ素ドープ酸化亜鉛が好ましい。
導電性酸化亜鉛薄膜層43の成膜において、電析法の反応液は、上記CBD法で用いた反応液と同様の反応液を好ましく用いることができる。
電析法の好ましい構成としては、CBD法により導電性酸化亜鉛薄膜層が形成された基板を作用極とし、対極として亜鉛板、参照電極として銀/塩化銀電極を用い、参照電極を飽和KCl溶液中に浸漬させ、塩橋にて反応液につないで通電化処理を行う方法等が挙げられる。通電化処理後、基板を取り出して、これを室温乾燥させることにより、第2の導電性酸化亜鉛薄膜層43を形成することができる。
反応温度は25〜95℃が好ましく、40℃〜90℃がさらに好ましい。反応温度が95℃を超えると水を溶媒とする場合溶媒が蒸発してしまうため好ましくない。逆に反応温度が25℃未満となると反応速度が遅くなったりする場合がある。反応時間は反応温度にもよるが、1〜60分が好ましく、1〜30分がより好ましい。電析においては、1cmあたり0.5〜5クーロンの通電化処理を行うことが好ましい。
「背景技術」の項において述べたように、電析法により形成された導電性酸化亜鉛薄膜は、ドーパントの高濃度ドープが可能となることから、導電性酸化亜鉛微粒子層41の平均層厚をd1(nm)とし、導電性酸化亜鉛微粒子層上に形成された導電性酸化亜鉛薄膜層42の平均層厚をd2(nm)とし、第2の導電性酸化亜鉛薄膜層43の平均層厚をd3(nm)とした場合、下記式(1)及び(2)を満足する構成とすることにより、低抵抗であり、後記する光電変換素子の透光性導電層として好適な、導電性酸化亜鉛積層膜40’とすることができる。
100≦d1+d2+d3(nm)≦2000 ・・・(1)
d1≦d2≦d3 ・・・(2)
かかる方法により成膜された透光性導電層40’としては、良好な透光性を有し、シート抵抗値50Ω/□の低抵抗化なものが得られている。
(上部電極)
最後に図1(g)に示されるように、上部電極(グリッド電極)20をパターン形成する。上部電極20の主成分としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極20膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
本実施形態の光電変換素子1は、以上のようにして製造することができる。
光電変換素子1は、太陽電池等に好ましく使用することができる。光電変換素子1に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
以上述べたように、本実施形態の光電変換素子1の製造方法では、良好に下地層を被覆する透光性導電層40を、光電変換素子1内部のバンドギャップ構造に影響を及ぼす金属層を導入することなく、液相法により簡易なプロセスにて成膜可能とし、かかる成膜方法を用いることにより、光電変換素子1の製造において、バッファ層20の成膜工程から透光性導電層40の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施することを初めて可能にした。更に、透光性導電層40’として電解析出法による成膜まで実施する態様では、素子特性の良好な太陽電池等の光電変換素子1を製造することができる。
上記した光電変換素子の製造方法は、可撓性基板を用いることができるため、大面積の基板上に各層を連続成膜可能なロール・トゥ・ロール(Roll-to-Roll)方式を採用することができる。上記したように、本実施形態の光電変換素子の製造方法では、バッファ層20から透光性導電層40(40’)までの全ての成膜工程を液相法で実施することができるため、ロール・トゥ・ロール方式の成膜方法を好ましく適用することができる。
ロール・トゥ・ロール方式とは、ロール状に巻かれた可撓性基板を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間のプロセスを実施する方式であり、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、簡易に量産が可能であり好ましい。ロール・トゥ・ロール方式と個別に切り離された基材を工程毎に搬送する枚葉方式とを比較すると、枚葉方式では、それぞれの工程に基材の搬入部、搬出部を設ける必要があり、工程毎の装置規模が大きくなりやすいが、ロール・トゥ・ロール方式では、基材は各工程間を間欠的、或いは連続的に流れるため各工程を互いに連結でき、基材搬送に伴う作業の削減や装置の小型化が可能となる。
図4及び図5に、ロール・トゥ・ロール方式による光電変換素子1の製造方法の概要を示した断面フロー図の例を示す。図4に示される第1の態様は、バッファ層20から透光性導電層40の成膜プロセスまでの工程をインラインにて実施する態様を、図5に示される第2の態様は、バッファ層20の成膜工程、窓層30の成膜工程、透光性導電層40の成膜工程はそれぞれロール・トゥ・ロール方式にて成膜するが、各工程間はオフラインである実施態様を示した概略フロー図である。上記したように、本発明の光電変換素子の製造方法は、バッファ層20の成膜から透光性導電層40の成膜までを全て液相法により実施することができるのでかかる2つの態様でのロール・トゥ・ロール方式による製造が可能である。
図4において、基板110は可撓性基板であり、巻きだしロール201には、基板110上に光電変換半導体層130までの各層が積層された長尺積層基板10が巻かれている。巻き出しロール201から巻き出された積層基板10は、ガイドロール210により導かれて各工程のゾーンに搬送される。複数のガイドロール210は、各ゾーンにおいても長尺基板10の搬送方向の調整が必要な箇所に適宜配置されている。
本発明の光電変換素子の製造方法では、バッファ層20から透光性導電層40(40‘)の成膜までの全ての成膜工程を液相法で実施するため、全ての成膜ゾーンには、各層の成膜に用いられる反応液(L1,L2,L3)がそれぞれ備えられた反応槽P及び、長尺基板10の処理領域を反応液中に浸漬させるためのドラムDが配置されている。また、各工程後に基板の洗浄および乾燥を行うために、各反応槽Pの下流側には、洗浄シャワー220およびドライヤー230を備えている。
まず、積層基板10は、バッファ層成膜ゾーン(a)に供給され、上記実施形態のバッファ層成膜方法によりバッファ層20が成膜される。バッファ層20が成膜された積層基板10は、洗浄シャワー220によりバッファ層20の表面を水洗された後、ドライヤー230により乾燥され、窓層成膜ゾーン(b)に供給される。
窓層成膜ゾーン(b)では、CBD法等の液相法により窓層30が成膜される。窓層成膜ゾーン(b)においてもバッファ層成膜ゾーン(a)と同様、窓層30が成膜された積層基板10は、洗浄・乾燥工程が実施された後、スクライブ処理によるパターニングが施され、透光性導電層成膜ゾーン(c)へと搬送される。
本実施形態では窓層30を備えた構成としているので、積層基板10は、窓層成膜ゾーン(b)を経て透光性導電層成膜ゾーン(c)へと搬送される構成としているが、窓層30を備えていない構成では、バッファ層成膜ゾーン(a)の後、積層基板10は透光性導電層成膜ゾーン(c)へと搬送される。
透光性導電層成膜ゾーン(c)では、上記実施形態に記載の方法により窓層30までが成膜された積層基板10上に導電性酸化亜鉛積層膜からなる透光性導電層40(40’)が成膜され、洗浄・乾燥工程が実施された後巻き取りロール202により巻き取られる。
図4中では透光性導電層成膜ゾーン(c)において、成膜ゾーンは1つしか図示していないが、実際は、透光性導電層成膜ゾーン(c)には、微粒子層の塗布成膜ゾーン、CBD法による成膜ゾーン、そして電析法まで実施して透光性導電層40’とする場合には、電析法の成膜ゾーンが含まれる構成となる。
積層基板10が巻きだしロール201から繰り出されてから巻き取りロール202により巻き取られるまでの間に、透光性導電層40(40’)の成膜前のパターニング工程(スクライブなど)等、上記成膜プロセス以外の工程も存在する。バッファ層20から透光性導電層40(40’)の成膜プロセスまでの工程をインラインにて実施するロール・トゥ・ロール方式の第1の態様では、上記した以外の工程もインラインで実施されることもあるがここでは説明を省略する(図示も略)。また、バッファ層20の成膜前の工程や、透光性導電層40の成膜後の工程もインラインで実施できる場合には、それらの工程を含んでもよい。
図5に示される第2の態様では、成膜ゾーン(a)(b)(c)毎に巻きだしロール(201,201’,201”)と巻き取りロール(202,202’,202”)を備えている。巻き取りロールは、次工程において、そのまま巻き出しロールとして使用する場合がある。
上記のロール・トゥ・ロール方式の第1の態様では、バッファ層20の成膜工程から透光性導電層40(40’)の成膜までの全ての成膜工程をインラインにてロール・トゥ・ロール方式で実施できるため、低コストで容易な製造が可能となる。また、第2の態様においても、各工程において、それぞれの成膜がなされた可撓性の長尺基板を、ロールに巻かれた状態で得ることができるため、そのまま次工程のロール・トゥ・ロール方式の製造の巻き出しロールとして利用することができ、好ましい。
「設計変更」
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
例えば、透光性導電層の成膜はバンドギャップに影響を及ぼして素子特性を低下させない層構成にて液相法で成膜可能な方法であれば、上記実施形態に記載した成膜方法でなくてもよい。
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
以下に示す基板及び各層の成膜方法を組み合わせて、実施例1〜4及び比較例1〜3として光電変換素子を作製した。それぞれの例における層構成、各層の成膜方法の組み合わせ、及び評価結果を表1に示す。
<基板>
基板として、下記の基板1,2を用意した。
基板1:Mo電極層付きソーダライムガラス(SLG)基板上にCIGS層を成膜した基板。基板1の製造プロセスを以下に示す。
30mm×30mm角のソーダライムガラス(SLG)基板上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜した。この基板上にCIGS層の成膜法の一つとして知られている3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se層を成膜した。
基板2:100μm厚ステンレス(SUS)−30μm厚Al複合基材上のAl表面にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)が形成された陽極酸化基板を用い、さらにAAO表面にソーダライムガラス(SLG)層及びMo電極層、CIGS層が形成された基板。各層の膜厚は、SUS(300μm超),Al(300μm),AAO(20μm),SLG(0.2μm),Mo(0.8μm),CIGS(1.8μm)であった。基板2の製造プロセスは基板1と同様、SLG層上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜し、Mo下部電極上に、3段階法を用いて、光電変換層として膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se2層を成膜した。
<表面処理>
KCN10%水溶液の入った反応槽を用意し、基板上に成膜されたCIGS層の表面を○○分浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。取り出した後に水洗シャワーにて表面を洗浄したのちドライヤーにて乾燥させた。
<CdSバッファ層の成膜(CBD法)>
CdSO4水溶液、チオ尿素水溶液、アンモニア水溶液を所定量混合して、CdSO:0.0001M、チオ尿素:0.10M、アンモニア:2.0Mである反応液1を調製した。ここで、単位Mは体積モル濃度(mol/L)を示す。光電変換層(CIGS層)が形成された基板を、85℃に調温した反応液1の入った反応槽に15分間浸漬させてCdSバッファ層を析出させた。取り出した後に水洗シャワーにて表面を洗浄したのちドライヤーにて乾燥させ、膜厚65nmのCdSバッファ層を形成した。
<CdSバッファ層の成膜(塗布法)>
CdS粒子分散液として用意し、スピンコート法(回転数:3000rpm、回転時間:30秒)により塗布し、その後室温乾燥して、膜厚105nmのCdSバッファ層を形成した。
<Zn(S,O)バッファ層の成膜(CBD法)>
ZnSO4水溶液、チオ尿素水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液を所定量混合して、ZnSO:0.03M、チオ尿素:0.05M、クエン酸ナトリウム:0.03M、アンモニア:0.15Mである反応液2を調製した。光電変換層(CIGS層)が形成された基板を、90℃に調温した反応液2の入った反応槽に60分浸漬させてZn系バッファ層を析出させた。バッファ層析出後に、更に、200℃で60分間アニール処理を行って、膜厚23nmのZn(S,O)バッファ層を形成した。
<Zn(S,O)バッファ層の成膜(塗布法)>
Zn(S,O)粒子分散液として用意し、スピンコート法(回転数:3000rpm、回転時間:30秒)により塗布し、その後室温乾燥して膜厚0.31μmのZn(S,O)バッファ層を形成した。
<窓層の成膜>
金属酸化物源としてのZnSO・7HOを水中に[Zn2+]が0.02Mとなるように1時間撹拌して溶解した。この溶液中に錯化剤としてのNHClをR=[NH ]/[Zn2+]=20となるように30分間撹拌して、[Zn2+]が0.02Mである母液を調製した。
次に、得られた母液に水及びNaOH水溶液を[Zn2+]が0.01M、pH=9.5となるように添加した。さらに、マレイン酸をZn2+のモル濃度の1.5倍の濃度で添加し、ZnO結晶成長用溶液を調製した。マレイン酸の濃度は以下、Zn2+に対する濃度比Rで表した(R= [additive]/[ Zn2+]、この場合はR=1.5)。このZnO結晶成長用溶液中に、基板を導入し、85℃・1時間でZnO結晶を成長させた。
<透光性導電層の液相成膜>
透光性導電層の成膜面の前処理として、1g/LのSnCl・HOと1mL/Lの37%HClを混合した溶液に基板を浸漬した後、0.1g/LのPdCl・HOと0.1moL/Lの37%HClを混合した溶液に浸漬し、乾燥させた。
ハクスイテック社製導電性酸化亜鉛PazetGK−40分散液(ガリウムドープ酸化亜鉛,分散媒IPA(2−プロパノール),平均粒子径20〜40nm,固形分20質量%)を分散液Aとして用意し、スピンコート法(回転数:1000rpm、回転時間:30秒)により塗布し、その後室温乾燥して、膜厚120nmの導電性酸化亜鉛微粒子層を形成した。
次に、0.20MのZn(NO水溶液と、0.10Mのジメチルアミンボラン(DMAB)水溶液とを同体積で混合し、15分以上攪拌を行ってCBD法に用いる反応液Xを調製した(pHは5.8程度)。85℃に調温した反応液X50ml中に導電性酸化亜鉛微粒子層を形成した基板を24時間浸漬させた後、基板を取り出して、これを室温乾燥させて、膜厚480nmの導電性酸化亜鉛薄膜層を形成した(CBD法)。反応液Xの反応開始前のpHは5.43、反応終了後のpHは6.26であった。
更に、0.10MのZn(NO水溶液と0.10MのDMAB水溶液とを同体積で混合し、15分以上攪拌を行って電析法に用いる反応液Yを調製した(pHは5.8程度)。
参照電極を飽和KCl溶液中に浸漬させ、塩橋にて60℃に調温した反応液Yにつなぎ、15分間、1cmあたり4クーロンの通電化処理を行った。その後、基板を取り出して、これを室温乾燥させて、膜厚550nmの導電性酸化亜鉛薄膜層を形成した(電析法)。電析法において、CBD法により導電性酸化亜鉛薄膜層が形成された基板を作用極とし、対極として亜鉛板、参照電極として銀/塩化銀電極を用いた。
<透光性導電層の気相成膜>
透光性導電層の成膜面に、スパッタリング法により膜厚500nmのAlドープ導電性酸化亜鉛薄膜を成膜した。
<評価方法>
透光性導電層上に、最後にAlからなる取り出し電極(上部電極)を形成し、単セルの太陽電池を作製し、ソーラーシミュレーターを用いて、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いた条件下で、エネルギー変換効率を測定した。表1において、エネルギー変換効率が1%以上のものを○、それ未満のものを×として示した。
Figure 2011159731
本発明の光電変換素子の製造方法は、太陽電池、及び赤外センサ等に使用される光電変換素子等の用途に好ましく適用できる。
1 光電変換素子(太陽電池)
10 積層基板
110 基板
120 下部電極(裏面電極)
130 光電変換半導体層
20 バッファ層
30 窓層(保護層)
40 導電性酸化亜鉛積層膜(透光性導電層)(透明電極)
41 微粒子層(下地層)
41p 導電性酸化亜鉛微粒子
42 (CBD法により形成された)導電性酸化亜鉛薄膜層(第1の導電性酸化亜鉛薄膜層)
43 第2の導電性酸化亜鉛薄膜層
50 上部電極(グリッド電極)
101 Al機材
102 陽極酸化膜

Claims (20)

  1. 基板上に、下部電極層と、光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、
    前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を液相法により実施するものであり、
    前記バッファ層を化学浴析出法により成膜し、
    前記透光性導電層の成膜工程が、
    前記バッファ層上に、導電性酸化亜鉛を主成分とする少なくとも1種の複数の微粒子を含む下地層を塗布法により形成する工程と、
    該下地層上に、導電性酸化亜鉛薄膜層を化学浴析出法により形成する工程とを有するものであること特徴とする光電変換素子の製造方法。
  2. 前記下地層の前記複数の微粒子が、ホウ素ドープ酸化亜鉛,アルミニウムドープ酸化亜鉛,及びガリウムドープ酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
  3. 前記導電性酸化亜鉛薄膜層からなる第1の導電性酸化亜鉛薄膜層上に、第2の導電性酸化亜鉛薄膜層を電解析出法により形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子の製造方法。
  4. 前記電解析出法により成膜される第2の導電性酸化亜鉛薄膜層が、ホウ素ドープ酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子の製造方法。
  5. 前記電解析出法において、亜鉛イオンと、硝酸イオンと、ボラン系化合物とを含む反応液を用いて前記導電性酸化亜鉛薄膜層を形成することを特徴とする請求項3又は4に記載の光電変換素子の製造方法。
  6. 前記化学浴析出法により成膜される導電性酸化亜鉛薄膜層が、ホウ素ドープ酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  7. 前記化学浴析出法において、亜鉛イオンと、硝酸イオンと、ボラン系化合物とを含む反応液を用いて前記導電性酸化亜鉛薄膜層を形成することを特徴とする請求項1〜6に記載の光電変換素子の製造方法。
  8. 前記ボラン系化合物が、ジメチルアミンボランであることを特徴とする請求項5又は7に記載の光電変換素子の製造方法。
  9. 前記下地層の前記複数の微粒子の平均粒子径が、1〜50nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  10. 前記バッファ層が、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層であり、
    該Zn化合物層を、少なくとも1種の亜鉛源である成分(Z)、少なくとも1種の硫黄源である成分(S)、少なくとも1種のクエン酸化合物である成分(C)、アンモニア及びアンモニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である成分(N)、及び水を含有し、
    かつ、
    成分(C)の濃度が0.001〜0.25Mであり、
    成分(N)の濃度が0.001〜0.40Mであり、
    反応開始前のpHが9.0〜12.0である反応液を用い、
    前記化学浴析出法により、反応温度を70〜95℃として成膜し、
    該成膜されたZn化合物層を、150℃〜220℃以下の温度にて、5〜90分間アニール処理を施すことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  11. 前記バッファ層の成膜工程と前記透光性導電層の成膜工程との間に、前記バッファ層上に、塗布法及び/又は化学浴析出法により窓層を形成する工程を有し、該窓層を介して前記バッファ層上に前記透光性導電層の成膜工程を実施することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  12. 前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面の不純物を除去しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理し、
    該表面処理後の光電変換半導体層上に、前記バッファ層を成膜することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  13. 前記表面処理後、60分以内に前記バッファ層を成膜することを特徴とする請求項12に記載の光電変換素子の製造方法。
  14. 前記表面処理後、10分以内に前記バッファ層を成膜することを特徴とする請求項13に記載の光電変換素子の製造方法。
  15. 前記光電変換半導体層の主成分が、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  16. 前記光電変換半導体層の主成分が、
    Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
    Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
    S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項15に記載の光電変換素子の製造方法。
  17. 前記基板が、
    Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
    Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
    及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  18. 前記基板として可撓性を有する基板を用い、
    前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までの全ての成膜工程を、ロール・トウ・ロール方式で行うことを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
  19. 前記バッファ層の成膜工程から前記透光性導電層の成膜工程までをインラインにて実施することを特徴とする請求項18に記載の光電変換素子の製造方法。
  20. 前記全ての成膜工程をそれぞれロール・トゥ・ロール方式にて成膜し、前記全ての成膜工程の工程間はオフラインであることを特徴とする請求項18に記載の光電変換素子の製造方法。
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