JP2011155929A - マリーゴールドの形質転換方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換の不定芽形成率を向上し、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換体の作出を可能にする。これによりルテイン含有量の高いマリーゴールド、カドミウム耐性が高くハイパーアキュムレーターとして有用なマリーゴールド等の提供。
【解決手段】アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法において、アグロバクテリウム抑制用の抗生物質としてメロペネムを使用することを特徴とする形質転換方法。
【選択図】なし
【解決手段】アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法において、アグロバクテリウム抑制用の抗生物質としてメロペネムを使用することを特徴とする形質転換方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法に関する。
マリーゴールドは殺虫、殺菌、殺線虫作用を持つ生理活性物質をもち、特に線虫防除を目的とした間作物や、輪作に一般的に用いられている。例えば、トマトとマリーゴールドを混栽することで線虫の個体数を98%減少できることが報告されている(非特許文献1)。
さらにマリーゴールドは黄や橙色の色素であるカロテノイド源として工業的なスケールで栽培・収穫されている。花から得られる天然の抽出物は食品の着色料として使われ、特に家禽の皮膚や卵黄の発色を改善する目的で養鶏用飼料に利用される。
マリーゴールドの花から得られる主な色素は脂溶性のカロテノイドであるルテインである(非特許文献2)。ルテインは近年では強い抗酸化作用を持つ物質としても注目されている。マリーゴールドから抽出したルテインはβカロテンやリコピンといったカロテノイドよりも高い抗酸化作用を示し、変異誘発物質や染色体異常誘発物質に対して阻害的にはたらくことが報告されており、それらを原因とする癌や加齢黄斑変性といった病気のリスクを低減させることが期待されている。
また、幅広い栽培環境とその高いルテイン含量から、マリーゴールドはカロテノイド研究の理想的なモデル植物のひとつとされている。ルテインは非メバロン経路により合成され(非特許文献3)、遺伝子工学的手法によりルテインの増加や新たなカロテノイドを得ることが期待される。
これら農業的、工業的な利用に加え、近年はマリーゴールドのファイトレメディエーションへの利用の可能性が注目されている。ファイトレメディエーションとは、植物を利用した環境浄化技術である。汚染土壌で栽培した植物に重金属等の汚染物質を吸収・蓄積させ、植物体ごと回収することで、土壌中の汚染物質の濃度を低下させることができる。日本では、カドミウムによる農地土壌の汚染が問題となっているが、このカドミウムを高濃度に蓄積する植物としてハクサンハタザオなど数種のハイパーアキュムレーター(一般に、乾燥重量1kgの植物体当たり100mg以上のカドミウムを蓄積する能力)が知られている。マメ科、イネ科、キク科植物8種で行われた試験例では、えん麦やクロタラリアと共に、マリーゴールドの葉におけるカドミウム濃度が、ハイパーアキュムレーターとして用いられる基準値よりも優れていることが示されている(非特許文献4)。
マリーゴールドは栽培可能な土壌環境が広く栽培が容易であるため、実際に栽培がしやすい。さらに、外見が美しいため浄化する土地の景観が向上するほか、花の販売による経済効果も期待されるという、他の植物には無い付加価値も持っている。タイではこの点に注目した研究者たちにより、アフリカンマリーゴールドとフレンチマリーゴールドの3倍体ハイブリッドであるナゲットマリーゴールドの砒素汚染浄化能力の試験が行われた。その結果、ナゲットマリーゴールドは砒素を高蓄積したことに加え、高い砒素耐性をも示した(非特許文献5)。
上記のような従来育種法に加え、遺伝子組換え技術を用いたマリーゴールドの分子育種技術の確立により、各種のストレスに対する耐性や、カドミウム蓄積能のさらなる向上が可能になると考えられる。さらに、有機系汚染物質分解酵素遺伝子の導入により、重金属と有機系汚染物質の複合汚染に対応した植物体を作出することも期待される。
従って、農業的及び工業的に利用価値が高く、ファイトレメディエーションへの利用も期待されるマリーゴールドの形質転換を効率的に行うことが求められている。
アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換については、一過性形質転換についての報告がある(非特許文献6)。
さらにマリーゴールドは黄や橙色の色素であるカロテノイド源として工業的なスケールで栽培・収穫されている。花から得られる天然の抽出物は食品の着色料として使われ、特に家禽の皮膚や卵黄の発色を改善する目的で養鶏用飼料に利用される。
マリーゴールドの花から得られる主な色素は脂溶性のカロテノイドであるルテインである(非特許文献2)。ルテインは近年では強い抗酸化作用を持つ物質としても注目されている。マリーゴールドから抽出したルテインはβカロテンやリコピンといったカロテノイドよりも高い抗酸化作用を示し、変異誘発物質や染色体異常誘発物質に対して阻害的にはたらくことが報告されており、それらを原因とする癌や加齢黄斑変性といった病気のリスクを低減させることが期待されている。
また、幅広い栽培環境とその高いルテイン含量から、マリーゴールドはカロテノイド研究の理想的なモデル植物のひとつとされている。ルテインは非メバロン経路により合成され(非特許文献3)、遺伝子工学的手法によりルテインの増加や新たなカロテノイドを得ることが期待される。
これら農業的、工業的な利用に加え、近年はマリーゴールドのファイトレメディエーションへの利用の可能性が注目されている。ファイトレメディエーションとは、植物を利用した環境浄化技術である。汚染土壌で栽培した植物に重金属等の汚染物質を吸収・蓄積させ、植物体ごと回収することで、土壌中の汚染物質の濃度を低下させることができる。日本では、カドミウムによる農地土壌の汚染が問題となっているが、このカドミウムを高濃度に蓄積する植物としてハクサンハタザオなど数種のハイパーアキュムレーター(一般に、乾燥重量1kgの植物体当たり100mg以上のカドミウムを蓄積する能力)が知られている。マメ科、イネ科、キク科植物8種で行われた試験例では、えん麦やクロタラリアと共に、マリーゴールドの葉におけるカドミウム濃度が、ハイパーアキュムレーターとして用いられる基準値よりも優れていることが示されている(非特許文献4)。
マリーゴールドは栽培可能な土壌環境が広く栽培が容易であるため、実際に栽培がしやすい。さらに、外見が美しいため浄化する土地の景観が向上するほか、花の販売による経済効果も期待されるという、他の植物には無い付加価値も持っている。タイではこの点に注目した研究者たちにより、アフリカンマリーゴールドとフレンチマリーゴールドの3倍体ハイブリッドであるナゲットマリーゴールドの砒素汚染浄化能力の試験が行われた。その結果、ナゲットマリーゴールドは砒素を高蓄積したことに加え、高い砒素耐性をも示した(非特許文献5)。
上記のような従来育種法に加え、遺伝子組換え技術を用いたマリーゴールドの分子育種技術の確立により、各種のストレスに対する耐性や、カドミウム蓄積能のさらなる向上が可能になると考えられる。さらに、有機系汚染物質分解酵素遺伝子の導入により、重金属と有機系汚染物質の複合汚染に対応した植物体を作出することも期待される。
従って、農業的及び工業的に利用価値が高く、ファイトレメディエーションへの利用も期待されるマリーゴールドの形質転換を効率的に行うことが求められている。
アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換については、一過性形質転換についての報告がある(非特許文献6)。
Alexander SA, Waldenmaier CM (2002) Suppression of Pratylenchus penetrans populations in potato and tomato using African marigolds. Journal of Nematology 34:130-134
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しかしながら、アグロバクテリウム法によるキク科植物の形質転換は困難であり、特にマリーゴールドの形質転換については、2006年にこの方法を用いた一過性形質転換についての報告があるのみであり(非特許文献6)、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの完全な遺伝子組換え個体の作出に成功した例はなかった。
アグロバクテリウムによる植物の形質転換には、多くの場合、植物の葉の切片(リーフディスク)が材料として使われる。リーフディスクから形質転換個体を得るためには、in vitroでの組織培養による不定芽の形成および伸長が必須である。そのため、形質転換法の確立のためには、まずリーフディスク等の組織片からの不定芽形成率を向上させる必要がある。
さらに、アグロバクテリウムによる形質転換においては、植物細胞へ遺伝子を導入した後、培地に抗生物質を添加することで余剰のアグロバクテリウムを除去することが求められるが、添加される抗生物質の種類によっては、その毒性により不定芽の再分化及が阻害されることも問題となっていた。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アグロバクテリウムの過剰な生育を抑制するための抗生物質としてメロペネムを使用することにより、不定芽形成率が著しく向上することを見出し、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換体の作出に成功して、本発明を完成した。
アグロバクテリウムによる植物の形質転換には、多くの場合、植物の葉の切片(リーフディスク)が材料として使われる。リーフディスクから形質転換個体を得るためには、in vitroでの組織培養による不定芽の形成および伸長が必須である。そのため、形質転換法の確立のためには、まずリーフディスク等の組織片からの不定芽形成率を向上させる必要がある。
さらに、アグロバクテリウムによる形質転換においては、植物細胞へ遺伝子を導入した後、培地に抗生物質を添加することで余剰のアグロバクテリウムを除去することが求められるが、添加される抗生物質の種類によっては、その毒性により不定芽の再分化及が阻害されることも問題となっていた。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アグロバクテリウムの過剰な生育を抑制するための抗生物質としてメロペネムを使用することにより、不定芽形成率が著しく向上することを見出し、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換体の作出に成功して、本発明を完成した。
本発明は、下記の形質転換方法に関する。
(1)アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法において、アグロバクテリウムの過剰な生育を抑制するための抗生物質としてメロペネムを使用することを特徴とする方法。
(2)上記メロペネムが6〜25mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする(1)の方法。
(3)選択用の抗生物質としてカナマイシンを使用することを特徴とする(1)または(2)の方法。
(4)前記カナマイシンが5〜15mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする(3)の方法。
(5)不定芽を誘導するための培地(不定芽誘導培地)が、ホルモンとして、インドール酢酸(IAA)及びベンジルアデニン(BA)を各々3〜5mg/lの濃度で含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの方法。
さらに、本発明は(1)〜(5)の形質転換方法により作出された形質転換体に関する。
(1)アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法において、アグロバクテリウムの過剰な生育を抑制するための抗生物質としてメロペネムを使用することを特徴とする方法。
(2)上記メロペネムが6〜25mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする(1)の方法。
(3)選択用の抗生物質としてカナマイシンを使用することを特徴とする(1)または(2)の方法。
(4)前記カナマイシンが5〜15mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする(3)の方法。
(5)不定芽を誘導するための培地(不定芽誘導培地)が、ホルモンとして、インドール酢酸(IAA)及びベンジルアデニン(BA)を各々3〜5mg/lの濃度で含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの方法。
さらに、本発明は(1)〜(5)の形質転換方法により作出された形質転換体に関する。
本発明のマリーゴールドの形質転換方法により、不定芽形成率が向上し、アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換体を作出することが可能になった。
本発明において、アグロバクテリウム法による形質転換方法は、目的遺伝子が導入されたアグロバクテリウムを組織片に感染させた後、不定芽を再分化させ、目的遺伝子を含む不定芽を選択することにより、目的遺伝子で形質転換された植物体を作出する方法を意味する。該方法は、例えば、目的遺伝子が導入されたアグロバクテリウムをマリーゴールドの組織片に接触させる感染工程、該アグロバクテリウムと組織片を同時に培養する共存培養工程、共存培養後の組織片を不定芽誘導培地で培養して不定芽を形成すると共に、形質転換細胞の選択を行う再分化・選択工程、及び不定芽を伸長させて得られるシュートを発根誘導培地に移して培養し、植物体を再生させる工程を含む方法により行うことができる。
好ましくは、共存培養後、不定芽誘導培地で培養する前に、一定期間、例えば1〜2週間植物ホルモンを含有せず、アグロバクテリウム抑制用抗生物質を含有する培地で培養することが望ましい。
本発明の形質転換法において、アグロバクテリウムとしては、例えばAgrobacterium tumefaciens LBA4404株、EHA101株、EHA105株、GV3101株等を使用することができる。
アグロバクテリウムによる植物への目的遺伝子の導入は、当該分野で公知の方法、例えばバイナリーベクター法により行うことができる。
バイナリーベクターは、既に開発されている種々のものを使用することができ、例えば、pIG121−Hm、pBI121等を使用し得る。バイナリーベクターは、目的遺伝子のほか、選択マーカー遺伝子{例えば、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)やハイグロマイシン耐性遺伝子}、レポーター遺伝子{例えば、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子や緑色蛍光蛋白質遺伝子}等を含み得る。
アグロバクテリウムのマリーゴールドへの感染(接種)は、例えばマリーゴールドの組織片をアグロバクテリウム菌液が含まれた滅菌水あるいは各種液体培地に浸漬し、軽く振とうした後、静置することにより行い得る。アグロバクテリウムの菌液を含む滅菌水あるいは各種液体培地は、例えば660nmにおける吸光度が0.1〜1.0となるように調製する。
感染工程の前または感染工程中にマリーゴールドの組織片を浸した滅菌水に超音波処理を行うこともできる。超音波処理は、好ましくは1〜5分間行う。
マリーゴールドは、好ましくは雄性不稔株であり、例えばアフリカンマリーゴールドバニラ(Tagetes erecta vanilla)の雄性不稔株である。
マリーゴールドの組織片としては、例えば実生やクローン苗に由来する葉片(リーフディスク)、茎片、根片を使用し得る。
共存培養は、アグロバクテリウムの培養に適した公知の培地、例えばムラシゲ・スクーグ(MS)培地やガンボーグB5培地等で行うことができる。
再分化・選択工程は、好ましくは不定芽誘導培地上にろ紙を敷き、その上に組織片を置床し、多孔性シートによりシーリングして培養することにより行う。
また、前記再分化・選択工程は、遮光して行うことが望ましい。
再分化・選択工程でシャーレをシーリングする資材としては、サージカルテープ、複数の穴を開けたパラフィルム等を使用し得る。
不定芽誘導培地は、ホルモンとして、インドール酢酸(IAA)、ベンジルアデニン(BA) 等を含むことができる。ホルモン濃度は、例えば1〜10mg/l、好ましくは3〜5mg/l、より好ましくはIAAが3mg/l、BAが5mg/lである。
不定芽誘導培地及び発根誘導培地、及び共存培養後にホルモンなしで一定期間培養するための培地は、アグロバクテリウムの抑制のための抗生物質として、メロペネムを例えば6〜25mg/l、好ましくは12〜13mg/lの量で添加し得る。
アグロバクテリウム法による形質転換では、遺伝子が導入された細胞を優先的に増殖させるため、抗生物質等を用いて選択を行うことが一般的である。本発明の形質転換方法においては、不定芽誘導培地及び発根誘導培地に、ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応する抗生物質、例えばハイグロマイシンまたはカナマイシン、好ましくはカナマイシンを添加することができる。
ハイグロマイシンは5mg/l以下の量で添加するのが好ましい。
カナマイシンは例えば1〜200mg/l、好ましくは1〜20mg/l、特に好ましくは5〜15mg/lの量で添加する。
しかしながら、本発明においては、抗生物質による選択を行わずにリーフディスクを培養し、得られた不定芽やシュートを1つ1つGUS染色によってスクリーニングしてもよい。
上記共存培養培地、不定芽誘導培地、発根誘導培地等、本発明の方法の各工程で使用される培地の寒天濃度は、好ましくは0.8〜1.2%、特に好ましくは1.0%である。
好ましくは、共存培養後、不定芽誘導培地で培養する前に、一定期間、例えば1〜2週間植物ホルモンを含有せず、アグロバクテリウム抑制用抗生物質を含有する培地で培養することが望ましい。
本発明の形質転換法において、アグロバクテリウムとしては、例えばAgrobacterium tumefaciens LBA4404株、EHA101株、EHA105株、GV3101株等を使用することができる。
アグロバクテリウムによる植物への目的遺伝子の導入は、当該分野で公知の方法、例えばバイナリーベクター法により行うことができる。
バイナリーベクターは、既に開発されている種々のものを使用することができ、例えば、pIG121−Hm、pBI121等を使用し得る。バイナリーベクターは、目的遺伝子のほか、選択マーカー遺伝子{例えば、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)やハイグロマイシン耐性遺伝子}、レポーター遺伝子{例えば、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子や緑色蛍光蛋白質遺伝子}等を含み得る。
アグロバクテリウムのマリーゴールドへの感染(接種)は、例えばマリーゴールドの組織片をアグロバクテリウム菌液が含まれた滅菌水あるいは各種液体培地に浸漬し、軽く振とうした後、静置することにより行い得る。アグロバクテリウムの菌液を含む滅菌水あるいは各種液体培地は、例えば660nmにおける吸光度が0.1〜1.0となるように調製する。
感染工程の前または感染工程中にマリーゴールドの組織片を浸した滅菌水に超音波処理を行うこともできる。超音波処理は、好ましくは1〜5分間行う。
マリーゴールドは、好ましくは雄性不稔株であり、例えばアフリカンマリーゴールドバニラ(Tagetes erecta vanilla)の雄性不稔株である。
マリーゴールドの組織片としては、例えば実生やクローン苗に由来する葉片(リーフディスク)、茎片、根片を使用し得る。
共存培養は、アグロバクテリウムの培養に適した公知の培地、例えばムラシゲ・スクーグ(MS)培地やガンボーグB5培地等で行うことができる。
再分化・選択工程は、好ましくは不定芽誘導培地上にろ紙を敷き、その上に組織片を置床し、多孔性シートによりシーリングして培養することにより行う。
また、前記再分化・選択工程は、遮光して行うことが望ましい。
再分化・選択工程でシャーレをシーリングする資材としては、サージカルテープ、複数の穴を開けたパラフィルム等を使用し得る。
不定芽誘導培地は、ホルモンとして、インドール酢酸(IAA)、ベンジルアデニン(BA) 等を含むことができる。ホルモン濃度は、例えば1〜10mg/l、好ましくは3〜5mg/l、より好ましくはIAAが3mg/l、BAが5mg/lである。
不定芽誘導培地及び発根誘導培地、及び共存培養後にホルモンなしで一定期間培養するための培地は、アグロバクテリウムの抑制のための抗生物質として、メロペネムを例えば6〜25mg/l、好ましくは12〜13mg/lの量で添加し得る。
アグロバクテリウム法による形質転換では、遺伝子が導入された細胞を優先的に増殖させるため、抗生物質等を用いて選択を行うことが一般的である。本発明の形質転換方法においては、不定芽誘導培地及び発根誘導培地に、ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応する抗生物質、例えばハイグロマイシンまたはカナマイシン、好ましくはカナマイシンを添加することができる。
ハイグロマイシンは5mg/l以下の量で添加するのが好ましい。
カナマイシンは例えば1〜200mg/l、好ましくは1〜20mg/l、特に好ましくは5〜15mg/lの量で添加する。
しかしながら、本発明においては、抗生物質による選択を行わずにリーフディスクを培養し、得られた不定芽やシュートを1つ1つGUS染色によってスクリーニングしてもよい。
上記共存培養培地、不定芽誘導培地、発根誘導培地等、本発明の方法の各工程で使用される培地の寒天濃度は、好ましくは0.8〜1.2%、特に好ましくは1.0%である。
以下、実施例及び試験例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例:
(1)リーフディスクの調製
下記の試験例及び実施例を通じて、マリーゴールドとしては、マリーゴールドバニラ(Tagetes erecta vanilla)の雄性不稔系固定種No.39−7を用いた。無菌状態の同植物から2〜3cmに成長した頂芽もしくは腋芽を採取し、プラントボックス内のMS培地上に植え継いだ後、2週間以上が経過して発根がみられた植物体から葉を切り取り、滅菌シャーレ上でメスを使って切り分けることによりリーフディスクを調製した。次に、このリーフディスクを滅菌容器に入れた蒸留水中に投入した後、容器ごと超音波洗浄機で5分間超音波処理を加えた。ここまでの操作は、全て無菌条件下で行った。
(2)マリーゴールドの形質転換に用いるアグロバクテリウムの調製
遺伝子導入処理にはAgrobacterium tumefaciens LBA4404株を用いた。この菌株に、三親接合伝達法によりバイナリーベクターpIG121−Hmを導入し、遺伝子導入用の菌株とした。pIG121−HmのT−DNA上には、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子が、レポーター遺伝子としてβ-グルクロニダーゼ遺伝子が存在する。アグロバクテリウムは50mg/lのカナマイシン(カナマイシン硫酸塩、和光純薬工業社製)を含むYEB寒天培地上で継代培養した。遺伝子導入処理に際しては、菌体をYEB液体培地に接種した後に28℃で振とう培養し、660nmにおける吸光度が0.5に達した段階で、培養液を滅菌蒸留水で希釈して実験に用いた。
(3)アグロバクテリウムのリーフディスクへの接種と共存培養
前記(1)の要領で調製したリーフディスクに、前記(2)の要領で調製したアグロバクテリウム菌液を15分間接触させた。次に、リーフディスクを濾紙上に移して表面に付着した余分な菌液を除いた後、濾紙を敷いたMS寒天培地に移植した。この状態で2日間、25℃、暗所でリーフディスクとアグロバクテリウムを静置培養(共存培養)した。
(4)形質転換シュートの選抜
上記(3)の要領で調製したリーフディスクを、植物ホルモンを含まないMS寒天培地に移植し、25℃、16時間明所/8時間暗所のサイクル下で1週間培養した。尚、この培地には、アグロバクテリウムを除菌するためにメロペネム(メロペネム三水和物、和光純薬工業社製)を12.5mg/lの濃度で添加した。次に、形質転換により抗生物質耐性を付与された細胞及び組織を選抜するため、カナマイシン及びメロペネムを各々10mg/l、12.5mg/lの濃度で添加した不定芽誘導培地(MS寒天培地にIAAとBAを各々3mg/l、5mg/lの濃度で含有)に移植し、25℃、16時間明所/8時間暗所のサイクル下で引き続き培養した。これらの操作により、リーフディスクから不定芽が順次再生した。再生した不定芽は更に伸長させてシュート状にした後、その基部をリーフディスクから切り離し、カナマイシン及びメロペネムを各々10mg/l、25mg/lの濃度で添加した発根誘導培地(ホルモンを含まないMS寒天培地)に移植することで発根を促した。
(5)遺伝子導入の確認
上記(1)から(4)の要領で処理して得られた形質転換個体の候補について、抗生物質耐性遺伝子と共に導入したβ-グルクロニダーゼGUS遺伝子の発現に伴うβ−グルクロニダーゼ活性を、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸(X−Gluc)を基質として定性的に検出した。即ち、各形質転換個体の候補から切り出した葉をX−Glucを含む緩衝液に投入し、GUS遺伝子の発現に伴う発色(青色)の有無を確認した。また、同時に、各個体から全DNAを調製し、これを鋳型にしてPCRを行うことよりゲノム中にカナマイシン耐性遺伝子が存在していることを確認した。
上記(1)〜(5)の要領で独立した2回の実験を行った結果を表1に示す。この表から分かるように実験1では78枚のリーフディスクのうち1枚から、実験2では418枚のリーフディスクのうち3枚からカナマイシン耐性を持つ幼植物体を再分化させることに成功した。これら再生した幼植物体の葉の一部を用いてGUS染色を行ったところ、図1に示すように葉の周縁部にGUS活性に起因する青色の発色が確認された(矢印部)。更に、実験2において得られた5個体の幼植物から回収した全DNAを鋳型とし、GUS遺伝子を増幅することのできるプライマーを用いてPCRを行った。PCR実施後、反応溶液をアガロース電気泳動に供した(図2)。図2に示されるように、形質転換されていると考えられる5つの植物体の4個体のゲノム中にGUS遺伝子の存在が確認された。これらのことから、本発明により、これまで困難であったアグロバクテリウムを用いたマリーゴールドの形質転換が可能になることが示された。
実施例:
(1)リーフディスクの調製
下記の試験例及び実施例を通じて、マリーゴールドとしては、マリーゴールドバニラ(Tagetes erecta vanilla)の雄性不稔系固定種No.39−7を用いた。無菌状態の同植物から2〜3cmに成長した頂芽もしくは腋芽を採取し、プラントボックス内のMS培地上に植え継いだ後、2週間以上が経過して発根がみられた植物体から葉を切り取り、滅菌シャーレ上でメスを使って切り分けることによりリーフディスクを調製した。次に、このリーフディスクを滅菌容器に入れた蒸留水中に投入した後、容器ごと超音波洗浄機で5分間超音波処理を加えた。ここまでの操作は、全て無菌条件下で行った。
(2)マリーゴールドの形質転換に用いるアグロバクテリウムの調製
遺伝子導入処理にはAgrobacterium tumefaciens LBA4404株を用いた。この菌株に、三親接合伝達法によりバイナリーベクターpIG121−Hmを導入し、遺伝子導入用の菌株とした。pIG121−HmのT−DNA上には、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子が、レポーター遺伝子としてβ-グルクロニダーゼ遺伝子が存在する。アグロバクテリウムは50mg/lのカナマイシン(カナマイシン硫酸塩、和光純薬工業社製)を含むYEB寒天培地上で継代培養した。遺伝子導入処理に際しては、菌体をYEB液体培地に接種した後に28℃で振とう培養し、660nmにおける吸光度が0.5に達した段階で、培養液を滅菌蒸留水で希釈して実験に用いた。
(3)アグロバクテリウムのリーフディスクへの接種と共存培養
前記(1)の要領で調製したリーフディスクに、前記(2)の要領で調製したアグロバクテリウム菌液を15分間接触させた。次に、リーフディスクを濾紙上に移して表面に付着した余分な菌液を除いた後、濾紙を敷いたMS寒天培地に移植した。この状態で2日間、25℃、暗所でリーフディスクとアグロバクテリウムを静置培養(共存培養)した。
(4)形質転換シュートの選抜
上記(3)の要領で調製したリーフディスクを、植物ホルモンを含まないMS寒天培地に移植し、25℃、16時間明所/8時間暗所のサイクル下で1週間培養した。尚、この培地には、アグロバクテリウムを除菌するためにメロペネム(メロペネム三水和物、和光純薬工業社製)を12.5mg/lの濃度で添加した。次に、形質転換により抗生物質耐性を付与された細胞及び組織を選抜するため、カナマイシン及びメロペネムを各々10mg/l、12.5mg/lの濃度で添加した不定芽誘導培地(MS寒天培地にIAAとBAを各々3mg/l、5mg/lの濃度で含有)に移植し、25℃、16時間明所/8時間暗所のサイクル下で引き続き培養した。これらの操作により、リーフディスクから不定芽が順次再生した。再生した不定芽は更に伸長させてシュート状にした後、その基部をリーフディスクから切り離し、カナマイシン及びメロペネムを各々10mg/l、25mg/lの濃度で添加した発根誘導培地(ホルモンを含まないMS寒天培地)に移植することで発根を促した。
(5)遺伝子導入の確認
上記(1)から(4)の要領で処理して得られた形質転換個体の候補について、抗生物質耐性遺伝子と共に導入したβ-グルクロニダーゼGUS遺伝子の発現に伴うβ−グルクロニダーゼ活性を、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸(X−Gluc)を基質として定性的に検出した。即ち、各形質転換個体の候補から切り出した葉をX−Glucを含む緩衝液に投入し、GUS遺伝子の発現に伴う発色(青色)の有無を確認した。また、同時に、各個体から全DNAを調製し、これを鋳型にしてPCRを行うことよりゲノム中にカナマイシン耐性遺伝子が存在していることを確認した。
上記(1)〜(5)の要領で独立した2回の実験を行った結果を表1に示す。この表から分かるように実験1では78枚のリーフディスクのうち1枚から、実験2では418枚のリーフディスクのうち3枚からカナマイシン耐性を持つ幼植物体を再分化させることに成功した。これら再生した幼植物体の葉の一部を用いてGUS染色を行ったところ、図1に示すように葉の周縁部にGUS活性に起因する青色の発色が確認された(矢印部)。更に、実験2において得られた5個体の幼植物から回収した全DNAを鋳型とし、GUS遺伝子を増幅することのできるプライマーを用いてPCRを行った。PCR実施後、反応溶液をアガロース電気泳動に供した(図2)。図2に示されるように、形質転換されていると考えられる5つの植物体の4個体のゲノム中にGUS遺伝子の存在が確認された。これらのことから、本発明により、これまで困難であったアグロバクテリウムを用いたマリーゴールドの形質転換が可能になることが示された。
アグロバクテリウム抑制用抗生物質として添加するメロペネムの濃度を6.25mg/l、12.5mg/lもしくは25mg/lとし、上記実施例と同様の方法によりマリーゴールドの形質転換を行った。また、メロペネムを添加せずに同様の方法により形質転換を行った。各々について、不定芽を形成したリーフディスクの数及びアグロバクテリウムの過剰増殖の有無を調べた。結果を表2に示す。
+:アグロバクテリウムの過剰増殖が観察されたことを示す。
++:アグロバクテリウムの著しい過剰増殖が観察されたことを示す。
表2に示すように、いずれの濃度区においても培養期間が長くなるに従って不定芽が再生するリーフディスクの数が増加したが、メロペネム濃度12.5mg/lの条件下において最も多くの不定芽が得られた。また、メロペネムを添加しない場合は、アグロバクテリウムの著しい過剰増殖が観察された。
試験例2:カルベニシリン感受性試験
アグロバクテリウム抑制用抗生物質としてメロペネム12.5mg/lの代わりにカルベニシリンを、100,250,500mg/lの濃度で添加すること以外は上記実施例と同様の方法により、マリーゴールドの形質転換を行った。結果を表3に示す。
+:アグロバクテリウムの過剰増殖が観察されたことを示す。
++:アグロバクテリウムの著しい過剰増殖が観察されたことを示す。
表3に示すように、メロペネムを用いた場合よりも不定芽形成率は著しく低下した。
比較例1
上述の実施例において、不定芽誘導培地からカナマイシンを除いた実験を行った。結果を表4に示す。不定芽誘導培地上で再生する不定芽やそれから伸長するシュートの数は増加したものの、遺伝子を持つシュートを優先的に増殖させることができず、最終的に形質転換個体を得ることができなかった。
比較例2
比較例2
上述の実施例において、不定芽誘導培地に投入するカナマイシンの濃度を20mg/lに増加した実験を行った。結果を表4に示す。この条件では、カナマイシンによる選択圧が強く働きすぎたため、不定芽誘導培地上で再生する不定芽やそれから伸長するシュートの数が極端に減少し、最終的に形質転換個体を得ることができなかった。
試験例3:マリーゴールドのリーフディスクからの不定芽の再分化条件の検討
無菌条件下で継続的に培養するマリーゴールドの葉をはさみで切り出した後、シャーレ上でメスを用いて主脈を落とし、複葉を2〜4mm角程度の大きさに切断してリーフディスクを作製した。このリーフディスクをIAAが0.1〜5.0mg/l、BAが1〜10mg/lの濃度で含有されたMS寒天培地上に置床した。このようにして調製したリーフディスクを、25℃、16時間明期/8時間暗期の条件下で5週間培養し、各ホルモン添加条件下でのリーフディスクからの不定芽再生及びそれから伸長するシュートの様子を観察した。培養5週間後、伸長したシュートを生じたリーディスクの割合を計測した。表5に示す結果から分かるように、培地に添加するIAAとBAの最終濃度が、各々3mg/lと5mg/lの場合に最も良好な結果が得られた。
植え継ぎ後約3週間のマリーゴールドから実施例1と同様の方法によりリーフディスクを作製した。またこの試験例では、主脈の部分も5mm程度の長さに切断し、同様に外植片として用いた。リーフディスクと主脈片は0.8%、1.0%、1.2%との寒天濃度の再分化培地に、ろ紙を敷いて置床した。培地はサージカルテープでシールした上、キムワイプ(登録商標)でプレートの上面を遮光し、培養棚で培養した。培養2週目で培地交換と観察、3週目および4週目で観察を行った。また5週目には観察ののち不定芽が得られたリーフディスクをMS寒天培地へ移し、さらにシュート伸長の様子を観察した。結果を表6に示す。
表6より明らかなように、寒天濃度0.8〜1.2%において不定芽の形成が観察され、不定芽形成率は寒天濃度1.0%で最も高かった。
Claims (6)
- アグロバクテリウム法によるマリーゴールドの形質転換方法において、アグロバクテリウム抑制用の抗生物質としてメロペネムを使用することを特徴とする方法。
- 上記メロペネムが6〜25mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 選択用の抗生物質としてカナマイシンを使用することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
- 前記カナマイシンが5〜15mg/lの濃度で培地に添加されることを特徴とする請求項3記載の方法。
- 不定芽を誘導するための培地が、ホルモンとして、インドール酢酸及びベンジルアデニンを各々3〜5mg/lの濃度で含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換方法により作出された形質転換体。
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