JP2011149518A - 伝動ベルトの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】リングとエレメントとの間のフリクショントルクが小さくて優れた伝達効率が得られる伝動ベルトを短時間で効率良く製造できるようにする。
【解決手段】多数のエレメント26をフープ24に組み付けた状態で一対のプーリ14、16に取り付け、エレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるように挟圧力等を調整して駆動側のプーリ14を回転駆動し、その伝動ベルト10を介して動力伝達を行なわせることにより、そのエレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44とを摺り合わせることにより、多数のエレメント26のサドル面32を同時に研磨する。
【選択図】図1
【解決手段】多数のエレメント26をフープ24に組み付けた状態で一対のプーリ14、16に取り付け、エレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるように挟圧力等を調整して駆動側のプーリ14を回転駆動し、その伝動ベルト10を介して動力伝達を行なわせることにより、そのエレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44とを摺り合わせることにより、多数のエレメント26のサドル面32を同時に研磨する。
【選択図】図1
Description
本発明は伝動ベルトの製造方法に係り、特に、リングとエレメントとの間のフリクショントルクが小さくて優れた伝達効率が得られる伝動ベルトを短時間で効率良く製造できるようにする技術に関するものである。
(a) 薄板帯状のリングが複数重ね合わされた無端環状のフープと、(b) そのフープに沿って環状に連ねられた状態でそのフープにより支持される多数のエレメントとを有し、(c) 複数のプーリ間に巻き掛けられて動力を伝達する伝動ベルトが、例えばプーリのベルト掛かり径(V溝幅)を変更可能なベルト式無段変速機等に用いられている(特許文献1参照)。このような伝動ベルトにおいては、リングとエレメントとの間のフリクショントルクが伝達効率に大きく影響するが、境界潤滑下での摺動においては両方の部材の合成粗さの低減が摩擦低減に有効である。特許文献2では、使用に際して互いに押圧されるエレメントのサドル面およびリングの内周面を、それぞれラッピングテープ等により研磨して表面粗さRaが例えば0.04μm以下となるように鏡面化したり、サドル面にDLC(Diamond Like Carbon ;ダイヤモンド状カーボン)膜をコーティングしたりすることが提案されている。
しかしながら、ラッピングテープ等により研磨する作業は面倒で時間が掛かるだけでなく、特にエレメントのサドル面はリングが挿入される凹溝内に設けられているため研磨が難しいなど、製造コストが高くなる。また、両方の部材を予め個別に鏡面化した場合、使用に際して実際にエレメントのサドル面にリングの内周面が押圧される際に摺動きずが発生し、逆に表面が荒れてしまって所期の摩擦低減効果が十分に得られないことがある。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、リングとエレメントとの間のフリクショントルクが小さくて優れた伝達効率が得られる伝動ベルトを短時間で効率良く製造できるようにすることにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、リングに多数のエレメントを組み付けて伝動ベルトを製造する製造方法において、前記多数のエレメントを前記リングに組み付けた後に、使用に際して互いに押圧されるエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせることにより、その多数のエレメントのサドル面を研磨することを特徴とする。
第2発明は、第1発明の伝動ベルトの製造方法において、前記サドル面の研磨によりそのサドル面を鏡面化することを特徴とする。
なお、上記「鏡面化」は、表面粗さRaが0.04μm以下の表面状態にすることを意味する。
なお、上記「鏡面化」は、表面粗さRaが0.04μm以下の表面状態にすることを意味する。
第3発明は、第1発明または第2発明の伝動ベルトの製造方法において、前記リングの内周面にはDLC膜がコーティングされていることを特徴とする。
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの伝動ベルトの製造方法において、前記エレメントを前記リングに組み付けた伝動ベルトを、複数の回転体に跨がって巻き掛けて何れかの回転体を回転駆動し、その伝動ベルトを介して動力伝達を行なわせることにより、そのエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせることを特徴とする。
第5発明は、第4発明の伝動ベルトの製造方法において、(a) 前記複数の回転体は、前記エレメントを挟圧して動力伝達する溝幅が可変の一対のプーリで、(b) 前記エレメントのサドル面と前記リングの内周面との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるように挟圧力等を調整して一方のプーリを回転駆動することにより、そのエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせることを特徴とする。
なお、車両用ベルト式無段変速機の場合、通常使用時の接触面圧は一般に約50MPa以下であり、通常使用時の2倍〜3倍程度の高負荷の接触面圧で摺り合わせることになる。
なお、車両用ベルト式無段変速機の場合、通常使用時の接触面圧は一般に約50MPa以下であり、通常使用時の2倍〜3倍程度の高負荷の接触面圧で摺り合わせることになる。
このような伝動ベルトの製造方法においては、多数のエレメントをリングに組み付けた後に、使用の際に互いに押圧されるエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせることにより、そのエレメントのサドル面を研磨するため、それ等の接触面の合成粗さが小さくなってフリクショントルクが低減され、伝達効率が向上する。その場合に、多数のエレメントをリングに組み付けた状態で、そのエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせることにより、多数のエレメントのサドル面を研磨するため、短時間で効率良く研磨することが可能で製造コストが低減される。
第2発明ではサドル面を鏡面化するため、そのサドル面およびリングの内周面の合成粗さが確実に小さくなってフリクショントルクが低減され、伝達効率を適切に向上させることができる。
第3発明では、リングの内周面にDLC膜がコーティングされているため、例えば炭素工具鋼等によって構成されるエレメントよりも高硬度のDLC膜によりエレメントのサドル面を効率良く研磨することができる。
第4発明では、エレメントをリングに組み付けた伝動ベルトを、複数の回転体に跨がって巻き掛けて何れかの回転体を回転駆動し、その伝動ベルトを介して動力伝達を行なわせることにより、そのエレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせるため、簡単に且つ短時間で効率良くサドル面を研磨することができる。
第5発明では、エレメントのサドル面とリングの内周面との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となる状態でそれ等を摺り合わせるため、短時間で効率良くサドル面を研磨することができる。
本発明は、車両用のベルト式無段変速機に用いられる伝動ベルトに好適に適用されるが、車両用以外のベルト式無段変速機や変速比が一定の一対のプーリ間に巻き掛けられて用いられる伝動ベルト、3つ以上のプーリに巻き掛けられて用いられる伝動ベルトなど、種々の伝動ベルトに適用され得る。この伝動ベルトは、例えば(a) 薄板帯状のリングが複数重ね合わされた無端環状のフープと、(b) 該フープに沿って環状に連ねられた状態で該フープにより支持される多数のエレメントとを有して構成され、使用に際しては、複数のリングの最内周に位置するリングの内周面がエレメントのサドル面に押圧され、境界潤滑下で摺動させられる。
リングの材質としては、例えば窒化鋼やマルエージング鋼等が好適に用いられ、窒化による表面硬化処理を行なったり、DLC膜をコーティングしたりすることが望ましい。また、リングの内周面には、エレメントのサドル面を研磨する上で、例えば表面粗さRaが0.2μm〜0.9μmの範囲内となるようにクロスハッチ等の凹凸を設けることが望ましい。クロスハッチの場合、サドル面に対してリングがセンタリングされるようにしたり、耐焼付き性確保のために潤滑油を保持したりする機能も有し、複数のリングの総ての内周面にクロスハッチが設けられても良い。DLC膜が設けられる場合も、上記クロスハッチ等による凹凸が略そのまま残り、表面粗さRaが0.2μm〜0.9μmの範囲内となるようにすることが望ましい。第3発明ではDLC膜が設けられるが、他の発明の実施に際しては、ダイヤモンド被膜やTiN、TiAlN、TiCrN等の他の硬質被膜をコーティングすることも可能である。サドル面に押圧される最内周のリングだけでなく、総てのリングにDLC膜等の硬質被膜が設けられても良い。
エレメントは、例えば炭素工具鋼等によって構成され、プレスによる打ち抜き加工などで製造されるとともにバレル研磨によってバリ取りされるが、サドル面が設けられる凹溝にはバレルメディアが入り難いため、サドル面は略打ち抜き加工のままで表面粗さRaは1.0μm程度で粗い。このため、リングとの摺り合わせによって研磨し、合成粗さを小さくしてフリクショントルクを低減する。その場合に、好適には表面粗さRaが0.04μm以下になるように鏡面化し、特に0.03μm以下になるように鏡面化することが望ましい。
エレメントのサドル面とリングの内周面とを摺り合わせてサドル面を研磨する際のそれ等の接触面圧は、例えばプーリを一方向へ連続回転させて15分で研磨する場合、100MPa未満では面圧不足でサドル面を効率良く鏡面化することができない一方、160MPaを超えると例えばサドル面の凸部等が割れて異物として噛み込んで表面に疵が付く可能性があるため、100MPa〜160MPaの範囲内が適当である。但し、100MPa未満でも、摺り合わせ時間を長くすればサドル面を鏡面化することができるなど、100MPa〜160MPaの範囲外で摺り合わせを行なうことも可能である。なお、合成粗さを小さくしてフリクショントルクを低減できれば、必ずしもサドル面を鏡面化する必要はなく、表面粗さRaが0.04μmより大きくても差し支えない。
DLC膜の膜厚は、0.2μm未満では相手(サドル面)を研磨する前に自身が磨滅する恐れがある一方、3.0μmより厚くなると圧縮残留応力による割れが発生し易くなるため、0.2μm〜3.0μmの範囲内が適当である。この程度の膜厚であれば、前記クロスハッチ等による凹凸を略そのまま残すことができる。また、DLC膜の被膜硬さは、ビッカース硬さHVが800未満ではエレメントのサドル部の研磨を適切に行なうことができない一方、1600を超えると逆にサドル部の摩耗の進行が激しく、鏡面化が難しくなるため、ビッカース硬さHVで800〜1600の範囲内が適当である。エレメントの材質は炭素工具鋼等が好適に用いられ、そのビッカース硬さHVは700〜800程度であり、DLC膜はそれよりも硬い必要がある。このDLC膜は、例えばアークイオンプレーティング法やスパッタリング法等のPVD法によって好適に成膜できるが、他の成膜法を採用することもできる。DLC膜以外の硬質被膜をコーティングする場合も、被膜強度や摺り合わせによる研磨効率等を考慮して膜厚や被膜硬さが適宜設定される。
リングに窒化による表面硬化処理が施される場合、その表面にFe−N化合物が形成されてDLC等の硬質被膜の密着性を阻害することがあるため、不活性ガスや金属によるイオンボンバード処理を行なってそのFe−N化合物を除去することが望ましい。低温ガス窒化法やラジカル窒化法では、Fe−N化合物の厚さは数nm〜数十nm程度であるため、不活性ガスによるイオンボンバードでもそのFe−N化合物を適切に除去できる。金属によるイオンボンバードでは、リングの表面に微小凹凸が形成されるため、アンカー効果によって硬質被膜の密着性が更に向上する。必要であれば、硬質被膜とリングとの間に中間層を設けて硬質被膜の密着性を向上させることもできる。
DLC膜は、純粋に炭素のみから成るものでも良いが、元素の周期表の4a族、5a族、6a族の何れか1種類の元素から成る金属、例えばTi(チタン)やCr(クロム)、V(バナジウム)、Zr(ジルコン)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)など、或いは複数の元素から成る合金等を含有させることも可能である。これ等の金属や合金がDLC膜に含有されることにより、DLCの内部応力が低減されてリングに対する密着性が向上する。
Ti等の金属を含有するDLC膜をアークイオンプレーティング法でコーティングした場合、ドロップレットと呼ばれる1μm程度の多数の突起が形成されるが、本発明者等の実験では、そのドロップレットをサンドペーパーで除去した場合でもサドル面を鏡面化することができた。ドロップレットを残したままでも、サドル面を鏡面化することが可能で、ドロップレットの有無に関係なくサドル面を鏡面化することができ、焼付きが生じる場合など必要に応じて除去すれば良いと考えられる。
リングの内周面とエレメントのサドル面との摺り合わせは、例えば実際にその伝動ベルトが巻き掛けられて使用される車両用ベルト式無段変速機等が大きな接触面圧を発生させることができる場合には、その車両用ベルト式無段変速機に伝動ベルトを取り付けた状態で摺り合わせを行なうこともできる。車両用ベルト式無段変速機とは別個に伝動ベルトのみを製造する場合、摺り合わせに必要な大きな接触面圧を発生させることができる摺り合わせ加工専用の変速機等に伝動ベルトを取り付けて摺り合わせを行なうようにしても良い。複数のプーリ(回転体)の相互間の距離を変化させて、それ等に巻き掛けられた伝動ベルトの張力を変化させることにより、エレメントのサドル面とリングの内周面とを所定の接触面圧で接触させて摺り合わせることもできる。また、プーリ等の回転体を一方向へ連続回転させることにより、多数の総てのエレメントのサドル面を同時に短時間で研磨することができるが、所定の角度範囲で往復回動させることにより、全部のエレメント或いは一部のエレメントずつサドル面を研磨することもできるなど、研磨の態様は適宜定められる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用される伝動ベルト10を有する車両用ベルト式無段変速機8を示す斜視図で、図2の(a) は図1におけるIIA 矢視部断面の拡大図、図2の(b) は(a) における一つのエレメント26の右側面拡大図である。ベルト式無段変速機8は、溝幅が可変であるV溝12を外周部に有して互いに平行な軸心まわりに回転可能に設けられた一対の駆動側プーリ14および従動側プーリ16を備えており、それ等のプーリ14、16に跨がって伝動ベルト10が巻き掛けられている。プーリ14、16は、それぞれ回転軸18、19に固定された固定回転体14a、16aと、回転軸18、19に対して軸方向に相対移動可能に設けられた可動回転体14b、16bとを備えており、図示しない油圧シリンダによってベルト挟圧力やベルト掛かり径が調整される。これら固定回転体14aおよび可動回転体14bの相対向する面、および固定回転体16aおよび可動回転体16bの相対向する面には、径方向外側に向かうに従って軸方向の相対距離が大きくなる円錐状のシーブ面20がそれぞれ設けられている。上記V溝12は、これら一対の相対向するシーブ面20により形成されている。
図1は、本発明が好適に適用される伝動ベルト10を有する車両用ベルト式無段変速機8を示す斜視図で、図2の(a) は図1におけるIIA 矢視部断面の拡大図、図2の(b) は(a) における一つのエレメント26の右側面拡大図である。ベルト式無段変速機8は、溝幅が可変であるV溝12を外周部に有して互いに平行な軸心まわりに回転可能に設けられた一対の駆動側プーリ14および従動側プーリ16を備えており、それ等のプーリ14、16に跨がって伝動ベルト10が巻き掛けられている。プーリ14、16は、それぞれ回転軸18、19に固定された固定回転体14a、16aと、回転軸18、19に対して軸方向に相対移動可能に設けられた可動回転体14b、16bとを備えており、図示しない油圧シリンダによってベルト挟圧力やベルト掛かり径が調整される。これら固定回転体14aおよび可動回転体14bの相対向する面、および固定回転体16aおよび可動回転体16bの相対向する面には、径方向外側に向かうに従って軸方向の相対距離が大きくなる円錐状のシーブ面20がそれぞれ設けられている。上記V溝12は、これら一対の相対向するシーブ面20により形成されている。
伝動ベルト10は、可撓性を有する薄板帯状の金属製のリング22が複数重ね合わされた無端環状の一対のフープ24と、それら一対のフープ24によって支持されるとともにそれら一対のフープ24に沿って厚さ方向に環状に連ねられた板状の金属から成る多数のエレメント26とを備えている。リング22は、例えば厚さ0.2mm程度の高張力鋼板が輪状とされたもので、内から外へ例えば9層程度層状に重ねられている。エレメント26は、例えば厚さ1.8mm程度の炭素工具鋼等の鋼板が打ち抜かれて成形された厚肉板状片で、本実施例では例えば400個程度備えられている。エレメント26は、図2の(a) に示すように一対のシーブ面20にそれぞれ対向しつつ接触する一対の接触面28を両側部に備えているとともに、その両側部にはそれぞれ側方に開口するように対称的に一対の凹溝30が設けられており、その凹溝30内にそれぞれ上記フープ24が収容されることにより、その一対のフープ24によって多数のエレメント26が環状に連ねられた状態で支持されている。
そして、この伝動ベルト10が一対のプーリ14および16に巻き掛けられて周方向へ回転させられることにより、それ等のプーリ14と16との間で動力を伝達する。その場合に、それ等のプーリ14、16に巻き掛けられた部分、すなわちエレメント26の接触面28がシーブ面20に接触させられる領域では、張力によってフープ24が凹溝30の内周側の壁面であるサドル面32に押圧される。この押圧領域では、複数のリング22の中の最内周に位置する第1リング22aとサドル面32とが境界潤滑下で摩擦接触させられるとともに、複数のリング22相互の間でも摩擦接触させられる。このため、第1リング22aを含む複数の総てのリング22の内周面には、潤滑油を保持して耐焼付き性能を確保するために、それぞれ表面粗さRaが0.2μm〜0.9μmの範囲内のクロスハッチが設けられている。このクロスハッチは、潤滑油を保持する機能の他に、サドル面32に対してリング22がセンタリングされるようにするセンタリング機能も併せて備えている。また、リング22はマルエージング鋼にて構成されているとともに、プレス加工や転造加工等により上記クロスハッチが形成された後に低温ガス窒化法による窒化により表面硬化処理が施されている。
上記第1リング22aにはまた、サドル面32との間のフリクショントルクを低減して伝動ベルト10の伝達効率を向上させるとともに、優れた耐久性が得られるように耐摩耗性を向上させるため、図3に示すように、サドル面32に押圧される内周面40上にDLC膜42がコーティングされている。このDLC膜42のコーティングに先立って、内周面40にはAr等の不活性ガスによるイオンボンバード処理が施され、前記窒化処理で表面に生じるFe−N化合物等が除去され、DLC膜42が高い付着強度でコーティングされる。必要に応じてTi等による金属のイオンボンバードを実施し、表面に微小凹凸を形成してアンカー効果により密着性を更に向上させるようにしても良い。
図3は、DLC膜42が設けられた第1リング22aの内周面40の表層部分を示す断面図で、DLC膜42の膜厚は0.2μm〜3.0μmの範囲内で、被膜硬さは、ビッカース硬さHVで800〜1600の範囲内であり、アークイオンプレーティング法によってコーティングされている。DLC膜42は、純粋に炭素のみから成るものでも良いが、本実施例ではDLCコーティングの際にTiターゲットをアーク放電させることにより、DLC膜42内にTiが含有されるようになっている。このようにTiがDLC膜42に含有されることにより、DLCの内部応力が低減されて第1リング22aの内周面40に対する密着性が向上する。これにより、前記不活性ガスイオンボンバードによるFe−N化合物の除去と相まって、クロスハッチが設けられた比較的表面粗さが粗い第1リング22aの内周面40に対しても、DLC膜42を十分な付着強度でコーティングすることができる。図3では、クロスハッチによる凹凸が省略されている。
上記Tiを含有するDLC膜42の表面44には、Tiの塊等によりドロップレットと呼ばれる1μm程度の多数の突起が形成されるが、本実施例ではそのドロップレットをサンドペーパーで除去した。図4の(b) は、このようにDLC膜42をコーティングするとともにドロップレットを除去した状態の表面44の粗さ曲線の測定結果の一例で、この場合の表面粗さRaは0.559μmであり、図4の(a) に示すDLC膜42をコーティングする前(窒化処理後)の内周面40の表面粗さRa=0.562μmと略同じである。なお、以下の説明では、第1リング22aの内周面40にDLC膜42がコーティングされた状態では、そのDLC膜42の表面44を第1リング22aの内周面ともいう。
上記DLC膜42がコーティングされた第1リング22aの内周面44が押圧されるサドル面32を有する多数のエレメント26は、プレスによる打ち抜き加工によって前記凹溝30等を有する所定形状に成形されるとともにバレル研磨によってバリ取りされるが、サドル面32が設けられる凹溝30にはバレルメディアが入らないため、サドル面32は略打ち抜き加工のままで表面粗さRaは1.0μm程度で粗い。このため、本実施例では、図1の車両用ベルト式無段変速機8と同様に構成されている摺り合わせ用変速機を用いて、第1リング22aの内周面44と多数のエレメント26のサドル面32とを所定の高負荷で摺り合わせることにより、そのサドル面32を研磨する。以下の説明では、図1の車両用ベルト式無段変速機8を摺り合わせ用変速機50として説明する。但し、車両用ベルト式無段変速機8は、一般に第1リング22aの内周面44とサドル面32との接触面圧が略50MPa以下で使用されるが、摺り合わせ用変速機50は、それ等の接触面圧を200MPa程度まで上昇させることができるように、一対のプーリ14、16の挟圧力や入力トルク、変速比等を調整できるようになっている。また、駆動側のプーリ14は、電動モータ等によって回転駆動されるとともに、その駆動トルク(入力トルク)を調整可能とされている。
上記第1リング22aの内周面44と多数のエレメント26のサドル面32との摺り合わせについて具体的に説明すると、図1に示すように複数のリング22を重ね合わせた一対のフープ24に多数のエレメント26を組み付けた状態で、摺り合わせ用変速機50の一対のプーリ14、16に巻き掛けて駆動側プーリ14を一方向へ連続して回転駆動し、第1リング22aの内周面44と多数のエレメント26のサドル面32とを連続的に摺り合わせることにより、その多数の総てのエレメント26のサドル面32を同時に研磨し、例えば表面粗さRaが0.03μm以下になるように鏡面化する。エレメント32の材質はSK6(JISの規定による炭素工具鋼)相当品であり、そのビッカース硬さHVは750程度で、ビッカース硬さHVが800〜1600の範囲内のDLC膜42よりも低硬度であり、第1リング22aの内周面44とサドル面32との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるように一対のプーリ14、16の挟圧力や入力トルク、変速比等を調整すれば、15分間の摺り合わせによってサドル面32の表面粗さRaが0.03μm以下になるように鏡面化することができる。図5の(a) は、摺り合わせを行なう前のサドル面32の粗さ曲線の測定結果の一例で、この場合の表面粗さRaは0.809μmである。また、図5の(b) は15分間の摺り合わせを行なった後のサドル面32の粗さ曲線の測定結果の一例で、この場合の表面粗さRaは0.025μmである。本実施例では第1リング22aが請求項1に記載のリングに相当する。
図6は、第1リング22aの内周面44とサドル面32との接触面圧を種々変更しながら、摺動速度=0.2m/sで駆動側のプーリ14を一方向へ連続回転させて15分間摺り合わせを行い、摺り合わせ後のサドル面32の表面粗さRaを調べた結果を示す図である。この図6の結果から明らかなように、接触面圧が略60MPaを超えると表面粗さRaが急に小さくなって摺り合わせの効果が適切に得られるようになり、特に100MPa〜160MPaの範囲内では効率的に鏡面化を達成することができる。すなわち、接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内では、サドル面32の表面粗さRaが0.03μm以下になり、短時間で効率良く鏡面化処理を行なうことができる。なお、100MPa未満では、サドル面32を効率良く鏡面化する上で面圧不足である一方、160MPaを超えると例えばサドル面32の凸部等が割れて異物として噛み込み、表面に疵が付くなどして表面粗さが悪くなるものと考えられる。
このような本実施例の伝動ベルト10においては、多数のエレメント26を一対のフープ24に組み付けた後に、使用の際に互いに押圧されるエレメント26のサドル面32とフープ24の最内周に位置する第1リング22aの内周面44とを摺り合わせることにより、そのエレメント26のサドル面32を研磨するため、それ等の接触面の合成粗さが小さくなってフリクショントルクが低減され、伝達効率が向上する。特に、使用の際に実際に境界潤滑下で摺動させられる部材同士を摺り合わせるため、例えば予め個別に鏡面化した場合のように使用初期に摺動きずを生じる恐れがなく、所定の摩擦低減効果が安定して得られる。
また、上記研磨によりサドル面32を鏡面化した場合には、そのサドル面32および第1リング22aの内周面44の合成粗さが確実に小さくなってフリクショントルクが低減され、伝達効率を適切に向上させることができる。
また、本実施例では第1リング22aの内周面40に表面粗さRaが0.2μm〜0.9μmの範囲内のクロスハッチが設けられており、DLC膜42の表面44も同程度の表面粗さを有するため、そのクロスハッチにより潤滑油が適切に保持されて優れた耐焼付き性能が得られるとともに、サドル面32との間のフリクショントルクが一層低減されて伝達効率が向上する。第1リング22a以外の他のリング22の内周面にもそれぞれ第1リング22aと同様のクロスハッチが設けられているため、その複数のリング22の相互間のフリクショントルクも低減されて伝達効率が更に向上する。
ここで、本実施例では多数のエレメント26をフープ24に組み付けた状態で、そのエレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44とを摺り合わせることにより、多数のエレメント26のサドル面32を研磨するため、短時間で効率良く研磨することが可能で製造コストが低減される。
また、本実施例では、第1リング22aの内周面40にビッカース硬さHVが800〜1600の範囲内のDLC膜42がコーティングされているため、ビッカース硬さHVが750程度のSK6(炭素工具鋼)相当品にて構成されているエレメント26よりも高硬度のDLC膜42により、エレメント26のサドル面32を効率良く研磨することができる。特に、本実施例では第1リング22aの内周面40に表面粗さRaが0.2μm〜0.9μmの範囲内のクロスハッチが設けられており、DLC膜42の表面44も同程度の表面粗さを有するため、サドル面32を一層効率良く研磨できる。
また、本実施例では、多数のエレメント26をフープ24に組み付けた伝動ベルト10を一対のプーリ14、16に巻き掛けて駆動側のプーリ14を回転駆動し、その伝動ベルト10を介して動力伝達を行なわせることにより、そのエレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44とを摺り合わせるため、簡単に且つ短時間で効率良くサドル面32を研磨することができる。特に、プーリ14を一方向へ連続回転させて、多数のエレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44とを連続的に摺り合わせるため、総てのエレメント26のサドル面32を同時に研磨することができる。
また、エレメント26のサドル面32と第1リング22aの内周面44との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるようにプーリ14、16の挟圧力等を調整してそれ等の摺り合わせを行えば、15分という短時間で効率良くサドル面32を研磨して鏡面化することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:伝動ベルト 14、16:プーリ(回転体) 22a:第1リング(リング) 26:エレメント 32:サドル面 42:DLC膜 44:DLC膜の表面、第1リングの内周面
Claims (5)
- リングに多数のエレメントを組み付けて伝動ベルトを製造する製造方法において、
前記多数のエレメントを前記リングに組み付けた後に、使用に際して互いに押圧される該エレメントのサドル面と該リングの内周面とを摺り合わせることにより、該多数のエレメントのサドル面を研磨する
ことを特徴とする伝動ベルトの製造方法。 - 前記サドル面の研磨により該サドル面を鏡面化する
ことを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルトの製造方法。 - 前記リングの内周面にはDLC膜がコーティングされている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の伝動ベルトの製造方法。 - 前記エレメントを前記リングに組み付けた伝動ベルトを、複数の回転体に跨がって巻き掛けて何れかの回転体を回転駆動し、該伝動ベルトを介して動力伝達を行なわせることにより、該エレメントのサドル面と該リングの内周面とを摺り合わせる
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の伝動ベルトの製造方法。 - 前記複数の回転体は、前記エレメントを挟圧して動力伝達する溝幅が可変の一対のプーリで、
前記エレメントのサドル面と前記リングの内周面との接触面圧が100MPa〜160MPaの範囲内となるように挟圧力等を調整して一方のプーリを回転駆動することにより、該エレメントのサドル面と該リングの内周面とを摺り合わせる
ことを特徴とする請求項4に記載の伝動ベルトの製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2010012529A JP2011149518A (ja) | 2010-01-22 | 2010-01-22 | 伝動ベルトの製造方法 |
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ID=44536674
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JP (1) | JP2011149518A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2014145423A (ja) * | 2013-01-29 | 2014-08-14 | Daihatsu Motor Co Ltd | 無段変速機のベルト構成用エレメントの研磨方法 |
JPWO2015008692A1 (ja) * | 2013-07-18 | 2017-03-02 | 本田技研工業株式会社 | 無段変速機用ベルト |
JP7014603B2 (ja) | 2014-12-23 | 2022-02-01 | ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング | コーティング面を備えた無端金属バンド、該無端金属バンドを備えたドライブベルト、ならびに該ドライブベルトを形成する方法 |
-
2010
- 2010-01-22 JP JP2010012529A patent/JP2011149518A/ja active Pending
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