JP2011126948A - ガラス用コート剤及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】現場施工に適したガラス用コート剤を提供すること。
【解決手段】本発明では、ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成するガラス用コート剤において、ペルオキソチタン酸水溶液とアルコール水溶液とを混合してペルオキソチタン含有アルコール水溶液を生成する一方、リチウムシリケートとアルコール水溶液とを混合してリチウムシリケート含有アルコール水溶液を生成し、その後、これらペルオキソチタン含有アルコール水溶液とリチウムシリケート含有アルコール水溶液と短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとを混合してペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートを含有するガラス用コート剤を製造することにした。
【選択図】なし

Description

本発明は、ガラス用コート剤及びその製造方法に関するものである。
現在、現場施工におけるガラス面上への光触媒化は、そのほとんどが、水溶性のガラス用コート剤をスプレーコート方式で、ガラス表面上に直接光触媒膜を形成する方式を取っている(たとえば、特許文献1参照。)。
そのため、光触媒塗布前の重要な工程として、ガラス面を清浄化させ親水化させるための洗浄工程がある。この洗浄工程で使用する洗浄剤は、ガラス面に付着している汚染物質を確実に除去する必要から、使用する洗浄剤はほとんどが研磨材入り洗浄剤を使用している。そして、洗浄後に確実に洗浄剤の研磨成分を除去することが重要な作業となっている。
特開2001−158643号公報
ところが、ガラス面上への直接光触媒化の場合、洗浄工程で汚染物質の除去残しや研磨成分の除去残しがあると、付着不良による膜剥離や塗膜ムラを起こす恐れがあり、さらに残った汚染物質が有機成分の場合、光触媒が汚染物質を酸化分解することから膜剥離に至る恐れもある。
そのため、このガラス面の清浄化には多くの労力と時間が費やされており、それが光触媒化の施工コストを押し上げている現実がある。
また、商業的にまたは工業的に使用されるガラスの95%は、SiO2を主成分とするケイ酸塩ガラスであり、このガラスは一般には化学的に安定と考えられている。しかし、その表面では種々の反応が生じている。一般的にガラスやけとして知られているように、窓ガラスではガラスの表面が外部雰囲気と反応し、表面層の組成変化を伴う変質が生じている。例えば、ガラス表面に付着する水により、ケイ素や水素が富化してガラス面が干渉色を呈する青やけ現象がある。また、最表面でのイオン交換反応の結果生成した水酸化物と、大気中の二酸化炭素が反応して生成した炭酸塩による白やけは、この炭酸塩が蓄積し目で見えるようになった状態である。結果として、光の散乱で透明性の低下が起こり、通常の洗浄では回復が困難となる。
以上のことから、ガラス表面に新たな光触媒機能を付与するために薄膜を形成する場合は、その前段階でガラスの表面状態を安定させるための制御が必要となってくる。
また、光触媒機能を効果的に発揮させるには、塗膜形成面におけるアナターゼ酸化チタンの占有率を如何に高くするかにかかっている。また、形成された被膜が、高い膜密度であることも重要な要素となってくる。基材表面上に、高膜密度でアナターゼ酸化チタン占有率の高い被膜が形成されれば、光触媒本来の酸化分解力と親水性が発揮され、優れたセルフクリーニング機能が発揮されることになる。但し、窓ガラスにおいては、形成された光触媒膜がガラス素材の質感を損なわず、且つ透明性が確保されていることも重要な要素となってくる。
しかし、現状のガラスの光触媒化においては、粉体のアナターゼ型酸化チタンから構成された水溶性コート剤では、塗膜におけるアナターゼ酸化チタンの占有率を高くして高膜密度を確保すると、酸化チタンの高屈折率が災いして、これまではガラス面の透明性が損なわれ、ヘイズも高くなってしまう欠点が生じてしまっていた。そのため、現状のガラス用光触媒コート剤は、全含有量に占めるアナターゼ型酸化チタンの含有割合が少ないのが現実で、それでは透明性は確保できても、形成された塗膜に占める光触媒機能を有するアナターゼ型酸化チタンの膜占有率が少ないために、高い酸化分解力の確保には至っていない。また、全含有量に占めるアナターゼ型酸化チタンの含有割合が高いコート剤であっても、粉体酸化チタンが高屈折率であることから、ガラス面の透明性を確保するためは塗布量を少なくせざるを得ないのが現状である。そのため、高膜密度での被膜形成がなされないため、これも高い酸化分解力の確保には至っておらず、親水性の発現も弱いものとなっている。
現状の現場施工における窓ガラスへの光触媒化は、ガラスの表面状態を安定させるための制御は無視する形で、そのほとんどがガラス面上に直接光触媒膜を形成する方式を取っている。それは、工場生産のような高度なコーティング装置のない現場施工では、スプレーコートによりガラス面上に積層構造で光触媒膜を形成した場合、粉体酸化チタンが高屈折率であるがゆえに、塗膜の透明性が確保できずガラスの質感を大きく損なうからに他ならない。従って、現場施工でガラス面上に直接光触媒膜を形成する場合、種々の課題を抱えながら施工がなされているのが現実である。
ガラス表面は、シラノール(SiOH)基に代表される水酸基が存在するため、本来親水性であるが、実際は新築現場でも、工場の出荷過程より様々な汚染物質の付着により、ガラス面は撥水状態が通常である。ガラス面上に直接光触媒膜を形成する場合、ガラス表面汚染が原因で起こるコーティングした際の膜剥離や塗膜ムラが重大な問題となってくる。そのため、水溶性の光触媒コート剤を塗布する前に、洗浄を実施して汚染物質を取り除き、ガラス表面を親水化させる必要がある。ガラス表面の汚染物質で特に注意を要するものとして、一般的な洗浄では除去しにくく又目視では確認しずらいシリコーン分の付着がある。しかし、洗浄ムラにより汚染物質が残った場合、その部分が撥水状態となり、その結果付着不良により膜結合が不十分となったり、塗膜形成が不均一となって塗膜ムラが発生したり、また均一な親水面とはならない恐れもある。さらに、残った汚染物質が有機成分の場合、光触媒が汚染物質を酸化分解することから、それにより膜剥離に至る恐れもある。また、洗浄剤成分が目視では確認できないレベルで残る恐れがあり、その場合も膜剥離や塗膜ムラにつながる恐れがある。従って、ガラス面上へ直接光触媒化する場合は、ガラス表面を完全に清浄な状態にして親水化が欠かせないものである。
現在、洗浄工程で使用する洗浄剤は、有機の界面活性剤成分を含まない研磨材入りの無機系洗浄剤を使用して、汚染物質の除去とガラス面を親水化させている現実がある。しかし、研磨材入り洗浄剤を使用しても、シリコーン分が完全に除去されるかは疑わしく、わずかではあるが残ってしまうのが現実と考える。また、研磨材入りの洗浄剤を使用すると確かに汚染物質の除去にはより効果的ではあるが、研磨成分によりガラス面上の水酸基であるシラノール基も除去されてしまう。そのため、ガラス面は洗浄時の水分の保湿により一時的には親水状態が保持されているが、ガラス表面水分の乾燥過程で徐々に撥水状態へと移行してしまう。
光触媒コート剤は、そのほとんどが水溶性であることから、ガラス面が乾燥して撥水度合いが高まると、スプレーコート時、水溶性コート剤を弾いて付着しにくくなり、成膜不良により高い被覆率で成膜させることが難しくなる。そのため、セルフクリーニング機能に要求される十分な親水性や酸化分解力が確保ができないケースや、透明性の低下とヘイズが目立つケースも発生していた。加えて、塗膜におけるアナターゼ酸化チタンの占有率が低く膜密度も低い光触媒膜では、結果として、大気中のオイルミスト等有機性付着物の分解が追い付かず、経時的に汚れが触媒面を覆ってしまうことになっている。
以上のことから、光触媒化の前工程であるガラス面の清浄化には、多くの労力と時間を要しており、それが施工コストを押し上げて、ガラスの光触媒化の普及を妨げている。また、ガラス面上へ直接光触媒化した場合は、ガラス面上と光触媒層の中間にガラスの表面状態を安定させる無機層がないことから、ガラス面の変質による影響で、経時的に光触媒の機能低下や塗膜安定性を損なう恐れがあり後々の不安材料でもある。また、現場施工で形成された光触媒膜は、工場生産のように高温焼成することができず常温硬化となることから、塗膜の硬化に時間を要し塗膜強度にも問題を残していた。そのため、強い摩擦を受けた場合等、塗膜が傷つくことも問題としてあった。
そこで、請求項1に係る本発明では、ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成するガラス用コート剤において、ペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートと短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとを含有することにした。
また、請求項2に係る本発明では、ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成するガラス用コート剤の製造方法において、ペルオキソチタン酸水溶液とアルコール水溶液とを混合してペルオキソチタン含有アルコール水溶液を生成する一方、リチウムシリケートとアルコール水溶液とを混合してリチウムシリケート含有アルコール水溶液を生成し、その後、これらペルオキソチタン含有アルコール水溶液とリチウムシリケート含有アルコール水溶液と短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとを混合してペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートを含有するガラス用コート剤を製造することにした。
本発明は、ガラス面上にセラミックスの透明薄膜を高い被覆率で形成する被膜形成コート剤である。上記被膜形成コート剤は、ガラス表面洗浄後の汚染物質残渣程度では何ら問題なく被覆する成膜性と付着性を有している。さらに、膜結合も強固で、且つ不活化した無機塗膜であることから、形成された塗膜は長期に亘って安定したものとなる。
従って、光触媒機能を付与した機能性ガラスにおいて、ガラス面と光触媒層の間の中間層形成に有効で、その上に塗布される光触媒コート剤の成膜性や付着性をも高めてくれる。それにより、光触媒が持つ本来の機能が損なわれることなく、且つ安定性・耐久性の高い被膜形成となる。従って、優れた光触媒機能が、長期に亘って維持されることを可能としている。
さらに、上記被膜形成コート剤が塗布されてなるガラスは、100%の膜密度と云えるものであることから、外部雰囲気を遮断してガラス面の変質を防止してくれることになり、その上に形成される光触媒膜は、ガラス面の変質で懸念される光触媒機能の低下や塗膜安定性を損なう恐れがないと云える。
さらに、これまでガラス面の清浄化に多くの労力と時間を要していた洗浄工程が、より簡便化できるようになり、それが光触媒化施工の効率化につながる。従って、施工コストが低減され、市場への導入促進につながると考える。また、最も重要なことは光触媒化施工の高品質化につながることである。
また、二層コートで形成される光触媒膜は、塗膜に占めるアナターゼ型酸化チタンの占める割合が70%弱と高いものが使え、且つ高膜密度で形成されることから、光触媒の持つ本来の酸化分解力と高い親水性を両立した他に類を見ない優れたセルフクリーニング機能を有する塗膜となり、且つ透明性に優れていることを特徴としている。従って、強い防汚力が長期に亘って維持されることになり、窓ガラスのメンテナンス回数の減少につながりメンテナンスコストの軽減が図れる。さらに、光触媒性能向上につながることは、NOx等の大気汚染物も効果的に分解してくれることになり、環境浄化にもより寄与できるものと考える。
すなわち、本発明では、ガラス用コート剤において、ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成することにしているため、ガラス表面の変質を防止することができるとともに、現場施工によるガラス面の光触媒化を容易なものとすることができる。
ガラス面上への光触媒化で、光触媒本来の機能を確保し且つ均一な施工品質を確保するためには、現場施工においても、ガラス面と光触媒層の中間にガラスの表面状態を安定させるための無機層を設け、その上に光触媒層を積層する二層構造方式が最良と考えた。また、形成された無機層が不活性であり、且つ透明性に優れ、さらにガラス素材の持つ質感を損なわないことを前提に、水溶性の無機被膜形成コート剤の開発に着手した。
本被膜形成コート剤は、ガラス面上に高い被覆率でセラミックス被膜を薄膜形成することで、水や二酸化炭素による影響を防止し、ガラスの変質を回避することを可能としている。また、本被膜形成コート剤によつて形成されたセラミックス被膜は、外部雰囲気にも影響受けず変質することがない。且つ、形成された被膜は、基材ガラスと比べても光反射や透明性にほとんど差異がなく、スプレー霧の粒状感も見られないことから基材ガラスの持つ質感を落とすことがない。さらに、形成された被膜は、ガラス面が撥水状態であっても、水酸基を保持することから親水性を発現させ、その上に塗布される光触媒を最適な状態で成膜させてくれる。仮に、経年を経たガラスで、析出物や付着物の除去に研磨材入り洗浄剤を使用せざるを得ない状況下にあってシラノール基が除去されたとしても、形成された被膜は親水性を発現させることから、問題なく光触媒を最適な状態で成膜させてくれる。
しかも、この無機被膜上に光触媒を積層しても、スプレーコートにも関わらず、塗膜にスプレー霧の粒状感は見られず、ガラスの透明性も損なわれないものとなっている。これは、形成された被膜が薄膜であることと被膜内の水酸基により、その上に塗布される光触媒コート剤の成膜に最適な状態が確保されて、透明性の高い扁平形結晶が均一に横方向に平滑に配列されて塗膜形成された為である。従って、本被膜形成コート剤によって、ガラス面と光触媒層の中間に無機層を設け、二層構造の光触媒層を形成することは有効と考えた。
また、洗浄後に肉眼では見えにくいシリコーン等汚染物質の残渣があったとしても、このセラミックス被膜が均一に覆うことになり、且つ強固な膜結合で被膜化し、さらに不活化した無機塗膜であることから、長期に亘って安定した被膜となる。そのため、その上の光触媒層においても、より均一化された塗膜を形成することができ、且つ長期に亘って安定化させることができる。これにより、新築現場でのガラス面洗浄では、汚染物質の洗浄に研磨材入り洗浄剤を使用する必要がなくなり、ガラス面上の水酸基であるシラノール基も除去されてしまうことがない。すなわち、これまで光触媒化の前工程であるガラス面の清浄化に多くの労力と時間を要していたものが、ガラス面の洗浄がより簡便化できることになり、光触媒化施工の品質確保や効率化が図れ、従って施工コストの低減にもつながる。
また、洗浄工程の簡便化により施工効率が高まることから、ビルのゴンドラ作業等これまで作業性に難点があり、採算的に合わなかった施工にも道を開くものと考える。さらに、本被膜形成コート材によって形成された無機層上への光触媒化は、成膜性が高まることから、塗膜の結合性を高めて塗膜の密着度や硬化速度を速め、膜強度も高めることができる。
また、本被膜形成コート剤は、シリコーン系窓枠シーリング上にも付着し被膜を形成することから、コート面上へのシリコーン分の溶出を抑制してくれる。このシリコーン分は、難分解性のため光触媒では分解が難しく、光触媒コーティング面上に溶出した場合光触媒機能を損ない新たなガラス汚染の原因となっているが、この汚れ抑制にも有効と云える。
ガラス面上にスプレーコートにより被膜形成する場合は、基材ガラスの持つ透明性・透光性を損なわないないために、まずスプレー霧を微霧化して分散性を高めガラス面上に均一に塗布する必要がある。コート剤の微霧化の方法としては、アルコールが有効であり、コート剤に占めるアルコールの濃度が高い程スプレー霧がより微霧化される。具体的には、水溶性コート剤に占めるアルコール濃度は、スプレー霧が適度な水分を含む微細な水玉状態で基材面に付着させる必要から、50〜30vol%の範疇が好ましいと考える。
ガラス面上に形成する透明無機被膜の主成分としては、アモルファスの不活性酸化チタンであるペルオキソチタン酸水溶液を候補とした。このペルオキソチタン酸水溶液は、アモルファス状態であることから被膜化に優れ、且つ透明性が高く膜結合性にも優れることから、無機被膜形成素材としては有効と考えた。しかし、このペルオキソチタン酸水溶液は、アルコールとの混合においては経時的に粘度が増加し、最終的にはゲル化して長期安定性が保てないものであった。さらに、アルコール濃度が高い程、粘度の高まりが早いものであった。
本発明は、このアモルファス酸化チタンのペルオキソチタン酸水溶液がアルコールと混合されても、長期に亘って安定する領域と調製方法を見出したことによる。すなわち、コート剤に占めるアルコール濃度が50vol%以下であれば、その調製方法に工夫を凝らすことで、長期に亘ってペルオキソチタン酸水溶液を安定させることができた。しかし、このペルオキソチタン酸水溶液は、塗膜乾燥とともに水酸基がなくなり撥水状態へと移行する。また、このペルオキソチタン酸水溶液による被膜は、透明性は確保されるが塗膜に粒状感が顕著で、また光反射も大きく、この点でガラスの質感を損なうものである。さらに、形成された被膜は、常温下では、塗膜の硬化に長時間を要することから、この点も問題である。
そのため、被膜形成後も長時間親水性が確保される塗膜とする必要から、またペルオキソチタンの光反射を低下させ且つ塗膜の結合硬化を促進させる手段として、酸化リチウムとアモルファスシリカで形成されるリチウムシリケートも、無機被膜の主成分の一つとして着目した。このリチウムシリケートは、アモルファス状態であることから被膜化に優れ、透明性の高い被膜を形成する。さらに、水酸基を多く保持し透明性も高いことから、また強い膜結合硬化機能を持つことから、より強固で親水性の透明無機被膜を形成する素材として有効であると判断した。しかし、このリチウムシリケートも、アルコールには凝集して硬化結合機能を失するため、この点がこれまでリチウムシリケートの効果的な利用を阻害していた。
本発明は、本被膜形成コート剤の主成分の一つのであるモル比7.5のリチウムシリケートが、アルコールと混合されても凝集せず、硬化結合機能を損なわない調製方法を見出したことによる。すなわち、コート剤に占めるアルコール濃度が47.5vol%以下であれば、その調製方法を見出すことにより、リチウムシリケートが凝集せずコート剤の中で分散安定させることができた。さらに、本被膜形成コート剤は、分散媒としてアルコールを添加してもよく、その場合にはスプレー霧を微霧化して分散性を高めることから、ガラス基材に塗布したときの膜密度を向上させて、被膜の質感も向上させることができる。また、分散媒としてのアルコールは、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
さらに、本被膜形成コート剤は、湿潤材を添加してもよく、その場合には基材に塗布したときの成膜性や親水性を高め、塗膜の膜密度や透明性を向上させることができる。湿潤材としては、フッ素系のパーフルオロキル化合物が有効である。
従って、本発明のガラス面上への無機被膜形成コート剤は、アモルファス酸化チタンのペルオキソチタン酸水溶液とモル比7.5のリチウムシリケートとアルコールと湿潤材が効果的に組合されてなることを特徴とするものである。
また、塗布方法は、現場施工においてはスプレーコート方式が作業効率の点で最良である。そのため、ガラス面上に形成された被膜の質感を確保するため、スプレーガンにおいてもノズル口径を小さくして、スプレー霧のより微霧化を図ることが好ましい。
以下、本発明を成すに至るまでの実験例について説明する。
[実験例1]
まず、ガラス面上にセラミックスの無機被膜を形成する水溶性コート剤の検討において、アルコールとの混合で不活性のペルオキソチタン酸水溶液を安定化させる方法を模索した。ペルオキソチタン酸水溶液は、四塩化チタンにアンモニア水を滴下し水酸化チタンを沈殿させた後、過酸化水素水を滴下して得られる。そして、スプレー霧の微霧化に必要なコート剤中に占めるアルコール割合を50%と設定して、ペルオキソチタン酸水溶液とエタノールの安定化を試みた。アルコールは、アルコール分100%のエタノール製剤とした。
具体的には、含有量2.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液を製造して、それにエタノール製剤をを50:50で混合して、ペルオキソチタンの含有量が1.0重量%のコート剤を製造した。
混合の結果、ペルオキソチタン酸水溶液が急激に性状変化を起こし、ゲル化してしまった。また、ペルオキソチタン酸水溶液が持つ透明性も損なわれるものであった。それは、含有量2.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液は、製造において濃縮工程が入ることもあり、またペルオキソチタンがアモルファス状態であるため元々が経時的に粘性が変化してしまう不安定要素を持つものであることから、高濃度アルコールの刺激によりペルオキソ基の重合が急激に進んだものと判断された。
次に、ペルオキソチタン酸水溶液を水で希釈して含有量を低下させたものに、アルコールを混合する方法を試みた。
具体的には、含有量2.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液と水を50:50で調製した水溶液を作り、その中にエタノール製剤を50%混合して、ペルオキソチタンの含有量が0.5重量%のコート剤を製造した。ここで、20℃保存下での粘度の変化を測定し、コート剤の安定期間を調査した。コート剤の安定期間は、実用上問題ない期間として3カ月は必要と判断した。粘度は、製造時と3カ月経過後のコート剤の粘度を粘度計(東機産業製)で測定した。
その結果、水で希釈されたペルオキソチタン酸水溶液は、アルコール混合時はゲル化しないものであったが、経時的に粘度が増す傾向が見られた。粘度測定の結果は、コート剤製造時の粘度(mpa・秒)は2.5で、3カ月経過後の粘度は5であった。
従って、含有量2.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液は、粘度変化が大きく長期安定性を欠くもので、スプレーコートの際、成膜性と被覆性に問題を残すものと判断された。
以上のことから、含有量2.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液は、元々の粘度も高く不安定要素を持つものであることから、アルコールによりペルオキソ基の重合が進みやすく、性状変化を起こしやすいため、コート剤成分の候補としては不適と判断された。また、コート剤中のペルオキソチタンの含有量が低下する程、即ちペルオキソチタン酸水溶液が水分で希釈される程、アルコールの影響は受けにくくなりコート剤が安定することもわかった。
[実験例2]
次に、低濃度の含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液を製造して、アルコールとの混合を試みた。
具体的には、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液にエタノール製剤を50;50で混合して、ペルオキソチタンの含有量が0.5重量%のコート剤を製造した。コート剤の安定期間の調査は、実験例1と同様の方法とした。
その結果、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液は、アルコールとの混合時ゲル化は起こさず、経時的な粘度変化も少ないものであった。粘度測定結果は、コート剤製造時の粘度(mpa・秒)は1.5で、3カ月経過後の粘度は2.8であった。これは、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液が、元々の粘度が低く物性そのものがより安定したものになっていることから、アルコールを混合してもペルオキソ基の重合が進みにくいためと云える。
従って、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液から製造されたコート剤は、低粘度であることと、またアルコールが混合されても粘度変化が少ないことから、スプレーコートの際の成膜性と被覆性にはより適していると云える。
以上のことから、ガラス面上に無機被膜を形成するコート剤の検討において、アルコールとの混合でペルオキソチタン酸水溶液を安定化させるには、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液がより適していると判断した。
しかし、成膜性と被覆性の点では、より低粘度で、粘度変化も少なくする必要を感じた。また、高濃度アルコールの直接混合を避ける方が、アルコールの刺激によるペルオキソ基の重合が抑えられ、より安定したものになると推察された。
ここで、スプレーガンより吐出される実質付着量を25cc/m2として、被膜化に要するコート剤の必要含有量を0.4重量%と積算した。実質付着量を25cc/m2とした根拠は、エアーカーテン式温風塗装機で、ノズル口径が0.4mmのノズルを使用した場合、吐出量が安定し且つ吐出される霧の状態が最適と判断される領域での塗布量と付着効率から割り出したものである。
そこで、コート剤中のペルオキソチタン含有量が、被膜化に要する含有量と積算した0.4重量%となるコート剤を製造することにした。その際に、コート剤の安定性を考慮して、ペルオキソチタン酸水溶液が直接高濃度アルコールと触れあうことを避ける形でのコート剤製造を試みた。
具体的には、あらかじめアルコール水溶液を作ってアルコール濃度を下げたものに、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液を混合して、ペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が50vol%となるようコート剤を製造した。
その結果、ぺルオキソチタン酸水溶液の安定性がさらに高まり、コート剤の粘度変化もより少ないものとなり、実用上問題ない期間まで安定したものと云えた。粘度測定結果は、コート剤製造時の粘度(mpa・秒)は1.3で、3カ月経過後の粘度は1.8であった。また、水で希釈された分さらに低粘度であることもあり、この程度の粘度変化ではスプレーコートで塗布した際も、成膜性と被覆性に何ら問題ないレベルであると判断された。
以上のことから、含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液とアルコールを混合する場合、まずアルコール水溶液を作り、その中にペルオキソチタン酸水溶液を混入させる方法が有効で、且つコート剤中のペルオキソチタンがより低含有量である程、混合されたペルオキソチタン酸水溶液は安定することを見出した。すなわち、アルコール濃度を一定とすると、コート剤中の水分がより多く確保されることで、ペルオキソチタン酸水溶液の安定性もより高まると云える。
[実験例3]
そこで、同様の調合方法で、ペルオキソチタン酸水溶液のペルオキソチタン含有量を0.4重量%として、コート剤中のアルコール濃度を変えて水分量の違うコート剤を製造し、試料ガラス上にコーティングを試みた。かかるペルオキソチタンの含有量が0.4重量%で、アルコール濃度が50、45、40、35、30vol%となるよう調製したコート剤を、試料ガラスに塗布してガラス面への成膜性と被膜の意匠性と親水性と膜強度を確認した。尚、アルコール濃度が30vol%以下は、スプレーガンより塗布される際の微霧化レベルの点から除外した。すなわち、以下の5種類について比較した。
(比較例1)
含有量1.0重量%のペルオキソチタン酸水溶液にアルコール水溶液を混合して、コート剤に占めるペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が50vol%となるようコート剤を製造した。
(比較例2)
比較例1と同様にして、コート剤に占めるペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が45vol%となるようコート剤を製造した。
(比較例3)
比較例1と同様にして、コート剤に占めるペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が40vol%となるようコート剤を製造した。
(比較例4)
比較例1と同様にして、コート剤に占めるペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が35vol%となるようコート剤を製造した。
(比較例5)
比較例1と同様にして、コート剤に占めるペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が30vol%となるようコート剤を製造した。
試料ガラスは、10cm角で厚さ5mmの透明板ガラスとした。尚、試料ガラスは、実際の現場における現状の洗浄方法を考慮して、あらかじめ研磨を施すことで水酸基を除去し、ガラス面が水を弾く状態のものとした。塗布方法は、現場施工を想定してスプレーコートとし、ノズル口径はスプレー霧をより微霧化する必要から0.4mmとし、塗り重ねながら膜の密度を詰めていく方式とした。上記各コート剤を、実質付着量が25cc/m2となるよう塗布し、常温で乾燥させて試料ガラス面上に被膜を形成した。
成膜性は成膜していく過程と被膜化の状態を確認し、意匠性は透明度と基材ガラスとの光反射の差異を確認し、親水性は水を被膜上に滴下して水膜が広がり保水するかで確認し、膜強度は常温下で24時間乾燥後テープ剥離試験(JIS碁盤目カットテープ法)による密着性とウエスによる擦り試験で確認した。確認手段は、目視とルーペによる確認とした。
成膜性の点では、いずれの比較例においても、スプレーコートによりガラス面上に塗布された際、微細な水玉状態となり、それがそのまま乾燥していく形でガラスに成膜された。形成された被膜には、粒状感が見られ、この点が問題として残った。この粒状感は、アルコール濃度が高いコート剤程、スプレー霧がより細かくなり粒状感もより細かいものであった。被膜化については、いずれの比較例においても十分な膜密度と認められた。
意匠性の点では、すべての比較例で透明性は確保されていたが、被膜全体に粒状の光反射が見られることから、それが全般的に基材ガラスよりも強い光反射となって見え干渉色も認められた。また、コート剤中のアルコール濃度が少なくなる程、スプレー霧の水玉状態が大きくなり、干渉色もより顕著であった。従って、被膜の透明性は確保されているが、ガラス素材の質感を保持するには至らなかった。
親水性の点では、いずれの比較例においても、コート被膜は当初は親水性を発現させるものであったが、被膜が完全に乾燥した時点では撥水に移行してしまった。
また、テープ剥離試験による密着性試験では、塗膜に剥離は見られず密着性に問題は見られなかった。ウエスによる擦り試験では、軽く擦っても塗膜に傷が認められ、耐摩耗性に問題が残った。
被膜検証の結果、被膜の粒状感については、コート剤がガラス面に塗布された段階でレべリング性に問題を残したことと、ペルオキソチタン酸水溶液がやや粘性を持つことから、被膜が平滑でない即ちガラス面上で凹凸の状態で成膜した為、ペルオキソチタンが光の反射屈折を起こしそれが粒状感となって視認されるものと判断された。そのため、意匠性の点でも、基材ガラスよりも全体的に強い光反射や干渉色が認められる被膜となっている。また、コート剤中のアルコール濃度が30〜50vol%と開きはあるが、スプレーガンによる微霧化効果もあり、アルコール濃度の違いによる光反射や干渉色に顕著な差はないものと認められた。
また、完全に乾燥した被膜は撥水性を示すもので、この点が光触媒層を積層する場合には問題となってくることもわかった。これは、ぺオキソチタン酸水溶液は水酸基を保有することと、形成された被膜が十分な膜密度であったことから、コート当初の被膜は親水性を発現させるものであったが、ぺルオキソチタンそのものが本来撥水性であるため、被膜に水分がなくなった時点で撥水に移行したためと判断された。
また、被膜の耐摩耗性については、ガラス面上で被膜が平滑にならず凹凸の状態で成膜した為、膜結合が弱くなりまた摩擦抵抗も大きいことから、軽いウエス擦りでも被膜に傷がついたものと判断された。
尚、ペルオキソチタン酸水和物とアルコールが組合されたコート剤のアルコール濃度は、ペルオキソチタン酸水和物の安定性を考慮すると、コート剤全容量に対してのアルコール濃度が45〜30vol%の範囲となるよう混合することが好ましく、スプレー霧の微霧化の点で45vol%のアルコール濃度がより好ましいと判断された。
そこで、被膜の結合硬化を高め親水性付与の手段として、また形成被膜の光反射低減の手段として、透明で高い被膜性を持つアモルファスシリカ化合物のリチウムシリケートに着目し、ペルオキソチタン酸水溶液との調合を試みた。
[実験例4]
まず、コート剤にはアルコールの混合が避けられないことから、アルコールとの混合でリチウムシリケートが安定化する方法がないか模索した。
具体的には、各濃度のアルコール水溶液を作り、リチウムシリケートが安定する領域を探った。その際、リチウムシリケートはモル比3.5、モル比4.5、モル比7.5の3種類を試した。アルコール水溶液のアルコール濃度を、50、45、40、35、30、25、20vol%で製造し、その中に含有量が0.4重量%となるよう3種類のリチウムシリケートを混合した。
その結果を下記表1に記す。
Figure 2011126948
モル比3.5のリチウムシリケートは、いずれのアルコール濃度下でもすぐに凝集が見られた。モル比4.5のリチウムシリケートについては、50〜30vol%ではすぐに凝集し、25vol%以下では混合時に凝集は見られなかったが、24時間後には固形化してしまった。モル比7.5のリチウムシリケートについては、50〜35vol%ではすぐに凝集したが、30%vol以下では凝集は見られず長期に亘って安定するものであった。
その結果、モル比7.5のリチウムシリケートで、アルコール濃度が30vol%以内であればリチウムシリケートが安定し、結合硬化機能も損われないことを突き止めた。
しかしそれでは、実験例2のコート剤で好ましいと判断したアルコール濃度が45vol%の場合は、モル比7.5のリチウムシリケートとの混合は難しいと云える。
そのため、アルコール濃度が30vol%以上であっても、リチウムシリケートを安定混合させられる方法をさらに模索した。
試験・検討の結果、リチウムシリケートが安定するアルコール濃度の範囲内で、あらかじめリチウムシリケートが配合されたアルコール水溶液を製造し、それをより高濃度のアルコール水溶液と混合する方式を取れば、全体のアルコール濃度が30vol%以上であっても、リチウムシリケートが凝集せず安定する領域があることを突き止めた。
[実験例5]
そこで、モル比7.5のリチウムシリケートにアルコール水溶液を混合して、リチウムシリケート含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が25vol%となるようリチウムシリケート配合のアルコール水溶液を製造した。アルコール濃度を25%とした根拠は、リチウムシリケートの安定性をより考慮してのことである。それを、アルコール濃度が75、70、65、60、55、50vol%のアルコール水溶液と50:50の割合で混合して、リチウムシリケートが安定する範疇を探った。
リチウムシリケート配合のアルコール水溶液とアルコール濃度が75vol%のアルコール水溶液を混合して、全体のアルコール濃度が50vol%となるよう調製されたものは、混合時に凝集は見られなかったが、24時間後はややゲル化が認められた。
リチウムシリケート配合のアルコール水溶液とアルコール濃度が70vol%のアルコール水溶液を混合して、全体のアルコール濃度が47.5vol%となるよう調製されたものは、混合時に凝集も見られず、その後ゲル化することもなく安定したものであった。
従って、さらにアルコール濃度の低い65、60、55、50vol%の各アルコール水溶液も、チウムシリケート配合のアルコール水溶液との混合において、安定性に何ら問題ないものであった。
以上のことから、リチウムシリケートを30vol%以上のアルコール濃度下で安定させるためには、まずリチウムシリケートが安定するアルコール濃度の範囲内で、リチウムシリケートが配合されたアルコール水溶液を製造し、それをより高濃度のアルコール水溶液に加えながら、全体のアルコール濃度を高めていく混合方式が良いと判明した。また、この混合方式であれば、全体のアルコール濃度が47.5vol%までリチウムシリケートを安定化させることができ、膜結合硬化機能も損なわれないと云える。
従って、この混合方式であれば、実験例2のアルコール濃度が45vol%のコート剤であっても、リチウムシリケートが凝集せず安定させられるのとの判断に至った。
[実験例6]
そこで、モル比7.5のリチウムシリケートにアルコール水溶液を混合して、リチウムシリケート含有量が0.4重量%となるよう調製し、その時のアルコール濃度が25vol%となるようリチウムシリケート配合のアルコール水溶液を製造した。そして、アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン水溶液のペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、上記リチウムシリケート配合のアルコール水溶液とを混合し、その混合割合が50:50、60:40、70:30、80:20となる各種コート剤を製造した。その際の各コート剤の総含有量は0.4重量%で固定した。すなわち、以下の4種類について比較した。
(比較例6)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケート配合のアルコール水溶液を混合し、その混合割合が50:50となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は35vol%となる。
(比較例7)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケート配合アルコール水溶液を混合し、その混合割合が60:40となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は37vol%となる。
(比較例8)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケート配合アルコール水溶液を混合し、その混合割合が70:30となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は39vol%となる。
(比較例9)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケート配合アルコール水溶液を混合し、その混合割合が80:20となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は41vol%となる。
かかるコート剤を、実験例2と同様に、試料ガラスに塗布してガラス面への成膜性と被膜の意匠性と親水性と膜強度を確認した。
成膜性の点では、いずれの比較例においても、スプレーコートによりガラス面上に塗布された際、微細な水玉状態となり、それがそのまま乾燥していく形でガラスに成膜された。しかし、形成された被膜の粒状感はすべての比較例において大幅に低減されたものであった。また、見る角度によっては、光の反射屈折により粒状感がわずかに認められ、この点がやはり問題として残った。また、この粒状感は、比較例9よりも比較例6の方がより低減していると視認されるものであった。すなわち、リチウムシリケートの混合割合が多いコート剤程、この粒状感がより認めにくいものであつた。被膜化については、いずれの比較例においても十分な膜密度と認められた。
また、意匠性についても、コート被膜の光反射は大幅に低減されるものであったが、基材ガラスよりはまだ高いものであった。また、干渉色についても、より改善されたものであったが、完全に解消するまでには至らなかった。従って、ガラス素材と同等の質感を保持するまでには至らなかった。また、形成された被膜の透明性は、いずれの比較例においても問題なく確保されていた。
親水性の点では、いずれの比較例においても、形成された被膜は親水性を発現させるもので、被膜が完全に乾燥した時点でも親水性は保持されるものであった。
膜強度については、いずれの比較例においても、塗膜に剥離は見られず密着性に問題は見られなかった。但し、ウエスによる擦り試験では、耐摩耗性はかなり高まったと判断できたが、強い摩擦を与えた場合はやはり被膜に傷が付き、耐摩耗性にはまだ問題は残った。
被膜検証の結果、粒状感として視認される度合いが改善された点については、被膜は平滑でなくガラス面上で凹凸の状態で成膜されてはいるが、コート剤中のリチウムシリケートが光反射を低減させる方向に働いたためと、コート剤中のペルオキソチタンの含有量が低減したことの相乗効果によるものと判断される。
従って、コート剤中のリチウムシリケートの配合割合が多い程、視認される粒状感が低いものと云えた。また、意匠性についても、粒状感として視認される度合いが改善されたことから、コート被膜の光反射や干渉色においても大幅に改善されたと判断された。また、コート剤中のアルコール濃度が35〜41vol%と開きはあるが、スプレーガンによる微霧化効果もあり、アルコール濃度の違いによる光反射や干渉色にほとんど差はないものと認められた。また、親水性については、リチウムシリケートが水酸基を有することから、被膜に水分がなくなった時点でも、撥水に移行することなく親水性が保持されたものと判断された。また、完全に乾燥した被膜でも親水性を保持することから、ペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートとを組合わせたコート剤は、親水性保持に有効と判断された。また、被膜の耐摩耗性が向上した点については、リチウムシリケートが塗膜の硬化結合に有効で、膜結合がより強まった為と判断できた。また、コート剤の安定性についても、コート剤中のアルコール濃度が35〜41vol%と、リチウムシリケートとペルオキソチタン酸水溶液の安定範囲内であることから、経時的な変化も認められず安定したものであった。
以上のことから、ペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートとの組合わせは、被膜の光反射を低減させ、親水性確保と膜強度向上に有効と判断された。
但し、意匠性の点で、形成された被膜において粒状の光反射がまだ認められ、この点が問題を残すものであった。
そして、検討の結果、被膜をより平滑に形成し凹凸を改善することができれば、光の反射屈折を低減させることになり、それにより被膜の粒状感を低減できガラス素材の質感に近づけれるのではとの考えに至った。さらに、膜結合も強化され、耐摩耗性もさらに向上させることができるのではと考えた。それには、撥水基材上でのレべリング性向上とペルオキソチタン酸水溶液の粘度を低下させることで可能となるとの考えに至り、その手段として湿潤材が有効との判断に至った。
[実験例7]
そこで、被膜の粒状感改善の手段として、また撥水基材上におけるレべリング性向上の手段として、湿潤材の配合を試みた。
従来から既存の湿潤剤としては、フッ素系のパーフルオロアルキル化合物が知られている。しかしながら、このパーフルオロアルキル化合物は、長鎖系の物質であるために人体に対して悪影響を及ぼす危険があることが指摘されている。
そこで、本発明では、短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルを用いて被膜の粒状感改善や撥水基材上におけるレべリング性向上を試みることにした。
具体的には、実験例5で製造した各コート剤に、湿潤材を混合して各種コート剤を製造した。湿潤材は短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとし、配合割合は、膜結合性を損なわない範疇である0.015重量%とした。尚、湿潤材の配合方法については、リチウムシリケート配合のアルコール水溶液にあらかじめ混入することとした。すなわち、以下の4種類について比較した。
(比較例10)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケートと湿潤材配合のアルコール水溶液との混合割合が50:50で、湿潤材が0.015重量%となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は35.5vol%となる。
(比較例11)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケートと湿潤材配合のアルコール水溶液との混合割合が60:40で、湿潤材が0.015重量%となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は37.5vol%となる。
(比較例12)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケートと湿潤材配合のアルコール水溶液との混合割合が70:30で、湿潤材が0.015重量%となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は39.5vol%となる。
(比較例13)
アルコール濃度が45vol%でペルオキソチタン含有量が0.4重量%となるよう調製されたコート剤と、リチウムシリケート含有量が0.4重量%でアルコール濃度が25vol%となるよう調製されたリチウムシリケートと湿潤材配合のアルコール水溶液との混合割合が80:20で、湿潤材が0.015重量%となるコート剤を製造した。その場合のコート剤中のアルコール濃度は41.5vol%となる。
かかるコート剤を、実験例2と同様に試料ガラスに塗布して、ガラス面への成膜性と被膜の意匠性と親水性と膜強度を確認した。
成膜性の点では、いずれの比較例においても、スプレーコートによりガラス面上に塗布された際、微細な水玉状態がレベリングされて、粒状感が視認されない被膜となった。また、微細な水玉状態も、これまでよりさらに微細化されたものとなっていることが確認された。
また、意匠性の点では、いずれの比較例においても、コート被膜の光反射は大きく改善され、干渉色も認められないものであった。中でも比較例12は、視認においては、基材ガラスと同等の光反射と判断できた。比較例10は、視認においては、基材ガラスよりも光反射が低減するものであった。比較例11は、視認においては、わずかではあるが基材ガラスよりも光反射が低減するものであった。比較例13は、視認においては、わずかであるが基材ガラスよりも反射率が高いと認められた。
また、親水性については、いずれの比較例においても、1週間経過後においても親水性が保持され、より長時間親水性が維持されるものであった。
また、膜強度については、塗膜に剥離は見られず密着性に問題は見られなかった。耐摩耗性についても、被膜の硬化時間が早まり、強い摩擦を与えても被膜に傷は付かないものであり、被膜そのものも滑らかになった。また、コート剤の安定性についても、何ら問題なく安定しているものと判断された。
被膜検証の結果、被膜の粒状感が解消された点については、コート剤がガラス面に成膜される際、レべリング性が高まったことと、湿潤材の湿潤機能がスプレー霧をより微細化させたこととペルオキソチタン酸水溶液の粘性を低減させたために、よりスムーズなレべリングにつながり、被膜の凸凹状態が解消されて平滑で均一な被膜が形成されたためと判断された。それが、意匠性の点でも、被膜全体の光反射を大きく改善して、基材ガラスと同等の質感をもたらしたものと判断された。透明性においても、光の反射屈折が低減されたことから、さらに高まるものであった。また、親水性については、湿潤材により被覆性がより高まったことと、また湿潤材そのものも水酸基を有することから、親水性がより持続されたものと判断された。また、膜強度について、耐摩耗性が向上した点については、被膜が均一で平滑に形成されたことから膜結合がより強固となり、さらに被膜の摩擦抵抗が減ったことで、より傷が付きにくい被膜となったものと判断できた。
以上のことから、無機層上への光触媒層の積層を想定すると、比較例10と11のコート剤は、基材ガラスよりも光反射をより低減することから、熱線吸収ガラスに見られる濃色ガラスにおいてもガラスの色調をより損ないにくいものになる考える。また、比較例12のコート剤は、基材ガラスと同等の光反射率となることから、透明の窓ガラスにより適していると考える。比較例13のコート剤は、基材ガラスよりも光反射を高めることから、熱線反射ガラス上の無機層形成に適していると考える。
この湿潤材の配合については、ガラス面が完全に清浄化され親水性がある場合は、コート剤中に0.005重量%程度でも問題なく被膜化し、ガラスの質感も確保されるものであった。また、撥水系のガラスにおいては、コート剤中に0.02重量%で問題なく被膜化し、ガラスの質感も確保されるものであった。
従って、ガラス面上にセラミックスの無機層を形成する被膜形成コート剤は、ペルオキソチタン酸水和物が0.2重量%〜0.4重量%の範囲で、モル比7.5のリチウムシリケートが0.08重量%〜0.2重量%の範囲で、さらに短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルが0.005重量%〜0.02重量%の範囲で、分散媒としてコート剤中のアルコール濃度が30vol%〜45vol%の範囲で組合されれば、その組合わせ方によって熱線吸収や熱線反射ガラス等さまざまなタイプのガラスに対応できるものと考える。
以上のことから、ペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートとアルコールと湿潤材が組合わさてなるコート剤は、ガラス面上の無機層形成材として有効と判断された。
[実験例8]
次に、ガラス面に形成された無機被膜の表面状態と被覆状態を電子顕微鏡で測定した。試料ガラスは透明スライドガラスとした。被膜形成コート剤は、試料ガラスが透明ガラスであることから比較例12のコート剤とし、実験例2と同様の方法で塗布し被膜を形成した。
測定の結果、電子顕微鏡写真で見られる被膜は滑らかで、膜密度については、コート方法が塗りを重ねながら密度を詰めていく方式であることもあり、100%の膜密度と云えるものであった。
従って、高い被覆率で被膜化されているとの判断に至った。塗布量から推定される膜厚は、60nmと薄膜であった。
[実験例9]
次に、ガラス面に形成された被膜の光反射度合いと透明性を測定した。試料ガラスは厚さ5mmの透明板ガラスとし、実験例5の比較例10〜13のコート剤を実験例2と同じ方法で塗布し、形成された被膜を測定試料とした。光反射については、光沢度計(堀場製作所製)により、ブランクガラス面とガラス面上に形成した無機被膜の光沢度で光反射の差異を測定した。測定方法は、受光角を60°とし三点計測の平均を数値とした。透明性については、照度計により、ブランクガラス面とガラス面上に形成したセラミックス無機被膜との可視光透過率で透光性を測定した。
基材ガラスと各コート被膜面の光沢度の測定結果を表2に示す。
Figure 2011126948
光沢度については、比較例10と11と12は、ブランクガラスと較べて光沢度が低下するものであった。その中で比較例12は、視認においては、ブランクガラスと較べてほぼ同等の光沢と判断された。比較例13は、ブランクガラスと較べて光沢度が高まるものであった。
透明性については、いずれの比較例も、ブランクガラスと較べて可視光透過率は99.9%以上でほぼ100%の透光性であった。
以上のことから、比較例10〜12の被膜は、基材ガラスよりも光反射が少ないことから、また透明性にも優れることから、視認においては、ガラスのクリア感がより高まった感じとなり、ガラス素材の質感においては何ら損なわれないものと云える。比較例13の被膜においても、視認においては、光反射にほとんど差異は認められず、且つ透明性にも優れることから、基材ガラスの持つ質感も損なわないものと云える。
[実験例10]
次に、ガラス面上にシリコーン残渣をあえて残しシリコーン独特の細かい撥水状態を示す試料ガラスを作成し、その上に被膜形成を試み、コート剤の被覆性を確認した。被覆性については、形成された被膜が乾燥・定着後に親水性を発現するかで確認した。また、ガラス面上にシリコン系窓枠シーリング材を付着させ、その上への被膜形成も試みた。試料ガラスは厚さ5mmの透明板ガラスとし、被膜形成コート剤は、試料ガラスが透明板ガラスであることから比較例12のコート剤とし、実験例2と同様の方法で塗布し被膜を形成した。
その結果、形成された被膜は、親水性の発現については何ら問題ないものであった。また、視認において、透明性の低下や残渣による被膜のムラも認められず、清浄なガラス面へ形成された被膜と較べても差は認められないものであった。
以上のことから、この無機被膜形成コート剤は、撥水基材においても高い被覆性を示し、目視では識別しにくいシリコーン残渣程度では、何ら問題なく被膜化することがわかった。また、シリコン系窓枠シーリング上においても、成膜不良による粉ふき現象も起こらず被膜を形成することがわかった。
しかし、親水性においてはやや弱いと思われるものであったが、その上に光触媒層を積層した場合は問題なく親水性が発現された。
従って、窓枠シーリング部分から、光触媒コーティング面上へのシリコーン分の溶出抑制にも有効と云える。
[実験例11]
次に、形成された無機被膜上に当社光触媒膜を積層して、ガラス面への成膜性と被膜の意匠性と親水性と膜強度と触媒活性度を確認した。尚、親水性については、塗膜の定着後に、1mWの紫外線を1時間照射した後の水の接触角も測定した。膜強度については、常温乾燥後1mWの紫外線を24時間照射した後の被膜を確認した。触媒活性度は、フイルム液相密着法によるメチレンブルーの褪色時間で判断した。すなわち、紫外線強度1mWをサンプルに3時間照射した後に、10ppmのメチレンブルーを滴下して、1mWの紫外線をサンプル上に照射しながら褪色に要する時間を測定した。試料ガラスは厚さ5mmの透明板ガラスとし、被膜形成コート剤は、試料ガラスが透明板ガラスであることから比較例12のコート剤とし、実験例2と同様の方法で塗布し被膜を形成した。その上への光触媒層形成における塗布方法も、実験例2と同じ方法にて被膜を形成した。
成膜性の点では、無機層上への光触媒膜形成においても、スプレーコートにより塗布された際、微細な水玉状態がレベリングされて、粒状感が視認されない被膜であった。
また、意匠性の点では、コート被膜の光反射は基材ガラスとほぼ同等で、ガラスの質感はほとんど損なわれないものであった。
また、透明性も無機層と光触媒層が積層されたにも関わらず、クリア感が損なわれることなく何ら問題ないものと判断された。
また、親水性については、高い親水性が確保され、暗所下で24時間放置した後も親水性が維持されるものであった。また、水の接触角測定については3°であった。
また、膜強度については、テープ剥離試験による密着性試験では、塗膜に剥離は見られず密着性に問題は見られなかった。耐摩耗性についても、ウエスによる強い摩擦を与えても被膜に傷は付かないものであった。
触媒活性度については、メチレンブルーの褪色に要した時間は30分であった。
被膜検証の結果、意匠性について、無機層と光触媒層が積層されたにも関わらずガラスの質感が損なわれなかった点については、形成された無機被膜が薄膜であることと被膜上の水酸基により、その上に塗布される光触媒コート剤のレべリングに最適な状態が確保されて、透明性の高い扁平形結晶が均一に横方向に平滑に配列されて薄膜形成された為であると判断された。また、親水性と触媒活性度について、形成された光触媒膜が高い機能をを示す点については、形成された被膜が高膜密度であることと、被膜におけるアナターゼ型酸化チタンの膜占有率が70%弱と高いことから、光触媒が持つ本来の酸化分解力と親水性機能が効果的に発揮されたものと判断された。
以上のことからも、このガラス面上への無機被膜形成コート剤は、その上へ形成される光触媒膜の性能向上にも有効であると判断された。
[実験例12]
次に、コートサンプルの促進耐候性試験を実施して、塗膜に変化がないかを測定した。測定サンプルは、ガラス面上に、無機被膜を形成したものと無機被膜上に光触媒膜を積層したものと、さらにシリコーン残渣を残した上に無機被膜を形成して光触媒膜を積層したものの3種類とした。試料ガラスは厚さ5mmの透明板ガラスとし、被膜形成コート剤は、試料ガラスが透明板ガラスであることから比較例12のコート剤とし、実験例2と同様の方法で塗布し被膜を形成した。その上への光触媒層形成における塗布方法も、実験例2と同じ方法にて被膜を形成した。測定試験機は、メタルハライド型促進耐候性試験機(岩崎電気SUV−W151)で、試験時間は500時間とし、塗膜存続と親水性と光沢保持率とコート面上の変質について測定した。塗膜存続については、光学顕微鏡による確認とし、塗膜に落剥が認められない場合を○、落剥箇所が認められる場合を×とした。親水性は水を滴下して水膜が広がり保水するかで確認し、親水性が保持されている場合を○、水を弾く箇所が部分的にも認められる場合を×とした。光沢保持率は、光沢計で試験前の光沢度と500時間経過後の光沢度で算出し、受光角は60°で三点計測の平均を数値とし、測定器は堀場製作所製G−331を使用した。コート面上の変質は、光学顕微鏡により被膜の状態を確認し、表面に析出物が認められない場合を○、成出物が認められる場合を×とした。
促進耐候性試験の測定結果を表3に示す。
Figure 2011126948
促進耐候性試験結果、塗膜の存続については、いずれの試料にも塗膜の落剥も認められず安定したものであった。
親水性についても、塗膜が安定していることから、水を弾く箇所もなく良好であった。
また、光沢度は、無機被膜については、試験前は86で500時間経過後は84であり、無機被膜上に光触媒膜を積層したものについては、試験前は78で500時間経過後は78であった。シリコーン残渣を残した上に無機被膜を形成して光触媒膜を積層したものについては、試験前は78で500時間経過後は76であった。従って、いずれの試料も試験前と500時間経過後の光沢保持率は、ほとんど変化が認められないものであった。
コート面の変質については、コート面上に基材ガラスからの析出物と判断されるものは認められないものであった。
メタルハライド型促進耐候性試験機は、カーボンアーク方式の促進耐候性試験機のサンシャインウェザーメーターと較べて10倍の加速度があるとされている。従って、メタルハライド型促進耐候性試験機で500時間の試験は、サンシャインウェザーメーターでは5000時間に相当する。通常塗料メーカーでは、サンシャインウェザーメーターで2000〜2500時間が屋外暴露10年としていることから、メタルハライド型促進耐候性試験機での500時間は20〜25年に相当することになる。
以上のことから、ガラス面上に形成された無機被膜は、膜剥離もなく、光沢度の変化もごくわずかで、長期に亘り非常に安定したものと云える。
また、基材ガラスからの析出物も認められないことから、ガラス表面の変質を防止する制御層としても有効と判断される。
また、このガラスの表面変質については、ガラスに無機被膜を形成し、3カ月間屋外曝露を実施したものを清浄化して光学顕微鏡にて観察したものでも、基材ガラスからの析出物と判断されるものは認められないものであった。
また、無機被膜上に積層された光触媒膜においても、膜剥離もなく親水性も保持され、初期光沢度の低下も見られず、長期に亘り非常に安定したものと云える。
また、シリコーン残渣を残した上に無機被膜を形成してその上に積層された光触媒膜においても、膜剥離もなく親水性も保持され、初期光沢度の低下もわずかで、清浄化されたガラス同様に安定したものと云える。
従って、本発明の被膜形成コート剤により形成された無機被膜上に積層された光触媒膜は、光触媒ガラスに要求される機能のトータルバランスに優れ、且つ優れたとの塗膜耐久性を実現していると云える。
尚、参考として、無機被膜上に積層された光触媒膜において、引き続き計測したメタルハライド型促進耐候性試験機による進耐候性試験1000時間後のデータも記す。
促進耐候性試験1000時間後においても、光触媒膜に目立った異常は認められないものであった。
光沢度について、ブランクガラスの光沢度は試験前が88であったものが1000時間経過後は76に低下したが、光触媒膜の光沢度は試験前が78であったものが1000時間経過後は82とやや高くなるものであった。
いずれのガラスサンプルも、目視では変化が識別しにくいものではあるが、ブランクガラスの光沢度の低下は、ガラス表面変質によるの拡散反射の影響によるものではないかと推察された。
従って、本発明の被膜形成コート剤により形成された無機被膜上に積層された光触媒膜は、驚異的な被膜耐久性を実現していると云える。

Claims (2)

  1. ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成するガラス用コート剤において、ペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートと短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとを含有することを特徴とするガラス用コート剤。
  2. ガラスの表面に不活性の透明なセラミックスの無機層を形成するガラス用コート剤の製造方法において、
    ペルオキソチタン酸水溶液とアルコール水溶液とを混合してペルオキソチタン含有アルコール水溶液を生成する一方、リチウムシリケートとアルコール水溶液とを混合してリチウムシリケート含有アルコール水溶液を生成し、その後、これらペルオキソチタン含有アルコール水溶液とリチウムシリケート含有アルコール水溶液と短鎖系のパーフルオロアルキル基を含有するポリエキシエチレンエーテルとを混合してペルオキソチタン酸水溶液とリチウムシリケートを含有するガラス用コート剤を製造することを特徴とするガラス用コート剤の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN112280335A (zh) * 2020-10-24 2021-01-29 杭州临安绿源助剂有限公司 一种po膜涂覆液及其制备方法

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