JP2011106012A - 高強度鋼と高強度圧延鋼板 - Google Patents

高強度鋼と高強度圧延鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、希少元素を用いることなく上記のような用途に用いることができる高窒素の含有の高強度鋼を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、高強度鋼は、C、Si、Mn、P、S、Al及びNを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる引張強度(TS)が500MPa以上で、Nの含有量が0.0040〜0.0300wt%ある高強度鋼であって、V−ノッチシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)が0.10以下であること、その延性−脆性遷移温度が−50℃以下であることを特徴とし、前記高強度鋼において、化学成分組成が、質量%で、
C:0.10〜0.20%、
Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.60〜1.60%、
P:0.025%以下、
S:0.015%以下、
Al:0.010〜0.060%
N:0.0040〜0.0300%
で、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
また、鋼材を圧延して得られた圧延鋼板であって、発明1から3のいずれかの高強度鋼と同様な構成を有することを特徴とすることとした。
【選択図】なし

Description

本発明は、主に船舶、橋梁、建築、建設機械などの鋼構造物に使用される、C、Si、Mn、P、S、Al及びNを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる引張強度(TS)が500MPa以上で、Nの含有量が0.0040〜0.0300wt%である高強度鋼に関する。
この種の高強度鋼は、特許文献1から4に示されるように、その窒素含有量を0.0022質量%以下に低減することが必要とされていたので、リサイクル鉄などの高含有窒素素材を用いる場合は、脱窒素処理が必要とされ、そのような処理を行っても窒素含有量を十分に低減できない場合、特に処理コストがかかりすぎる場合は、使用しないか、もしくは、Cr、Mo若しくは希土類元素等の希少元素を用いて高含有窒素による問題を解消するようにしていたが、スクラップ鉄の再利用による資源効率の向上を希少元素の使用により滅失するという矛盾が生じていた。
また、特許文献5に示されるように、Tiを含有させることで、この問題を解決しようとする試みがなされているが、以下の理由で、結果的には、実用性を欠くものでしかなかった。
Ti添加の目的はHAZの衝撃特性を上げるためにTiと材料中のNとでTiNの析出物をつくり、材料中の固溶状態のNを極力下げることであった。しかし、その効果は反対に、Tiを含有させることにより、Ti(N,C)析出物が粗大化して、Ti析出粒子によるフェライト結晶粒微細化に効果がなくなってしまいTiのコストが追加されたことによる材料コストがアップするのみの弊害となってしまった。
特許文献6には、上記窒素含有量を超える高含有窒素の高強度鋼が例示されているが、上記のような用途にも用いることができる特性を有するものは示されていない。
本特許文献の目的は主に船舶、橋梁、建築、建設機械などの鋼構造物に使用される、C、Si、Mn、P、S、Al及びNを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる引張強度(TS)が500MPa以上で、Nの含有量が0.0040〜0.0300wt%ある高価な添加元素を加えないで高強度鋼を提供するものである。これに対し、特許文献6の目的は冷間鍛造および曲げ疲労強度に優れた軟窒化鋼に関するものであり、本特許とは全く異なるものである。
本発明は、このような実情に鑑み、希少元素を用いることなく上記のような用途に用いることができる高窒素の含有の高強度鋼を提供することを目的とする。
発明1の高強度鋼は、C、Si、Mn、P、S、Al及びNを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる引張強度(TS)が500MPa以上で、Nの含有量が0.0040〜0.0300wt%ある高強度鋼であって、V−ノッチシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)が0.10以下であることを特徴とする。
発明2は、発明1の高強度鋼において、その延性−脆性遷移温度が−50℃以下であることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2の高強度鋼において、化学成分組成が、質量%で、
C:0.10〜0.20%、
Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.60〜1.60%、
P:0.025%以下、
S:0.015%以下、
Al:0.010〜0.060%
N:0.0040〜0.0300%
で、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
発明4は、鋼材を圧延して得られた圧延鋼板であって、発明1から3のいずれかの高強度鋼と同様な構成を有することを特徴とする。
本発明は、その用途における必要な特性を有するのみならず、希少元素を不要とし、かつ、リサイクル鉄の使用においても脱窒素処理が不要なほどに、窒素の含有量を大幅に向上し得た高強度鋼を実現したものである。
また、その製造に際しても、特殊な設備や介在物を必要とせず、従来ある設備、手法を組み合わせることで実現し得た点にも実用上の利点を有するものである。
近年の鋼材の再利用率の増加の一環として、リサイクル鉄を主原料とした電気炉溶製鋼が注目されているが、電気炉溶解過程においては窒素ガスを吸収し、高窒素含有溶鋼となるが、転炉で溶製された溶鋼では有りえない程度の高含有窒素溶鋼に対して、脱窒を目的とする脱ガス精錬処理を施す必要がなく、しかも高含有窒素量による鋼材特性の劣化阻止のための高価な希少合金元素を添加する必要もなく、従って目的とする鋼の素材を低コストで製造することができる。
また圧延鋼板では、低温大歪加工を回避することにより圧延設備への大規模な投資が不要となる圧延方法により、特に溶接構造を主体とする船舶で使用される場合に必要とされる重要な鋼材特性の内、特にシャルピー衝撃特性の異方性の原因となる鋼板の圧延面に平行なセパレーションが発生しにくい高強度鋼板を得ることができた。
比較例4で得られた鋼板のシャルピー衝撃試験後の試験片破面上で観察された、圧延面に平行に発生した亀裂(セパレーション)の例示写真である。 比較例4(焼戻し処理が施されていない)で得られた鋼板に認められた残留マルテンサイトを矢印で明示したSEM像組織の例である。 実施例2で得られた鋼板において、焼戻し処理により残留マルテンサイトが消去されたSEM像組織の例である。
本発明に係る鋼板の製造方法の実施形態は、下記の通りである。
<電気炉での溶解・精錬工程からスラブの調製工程まで>
先ず、溶鋼の溶製方法として、電気炉を用い、主原料としてリサイクル鉄を用いて溶解・精錬を行ない、レードル下化学成分組成(質量%表記)が下記範囲内の溶鋼を溶製する。
C:0.10〜0.20%、
Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.60〜1.60%、
P:0.025%以下、
S:0.015%以下、
Al:0.010〜0.060%
N:0.0040〜0.030%
であって、残部がFeおよび不可避不純物からなるように成分調整する。
上記電気炉溶解過程において、雰囲気中の窒素の溶解により必然的に窒素含有量が大幅に増加する。
窒素含有量の増加量は溶解条件等の諸条件により異なるが、0.01〜0.02質量%程度である。
高強度厚鋼板においては、窒素含有量の増加により、衝撃特性が低下するが、本発明においては、精錬工程における脱窒素のための脱ガス精錬を施さず、しかもNb、V、Zr等の高価な希少合金元素を添加しないこととする。このように、脱窒精錬を行なわない理由は、本発明の鋼板の製造方法を実施すれば、平均フェライト粒径6μm以下の等軸微細粒組織が得られ、強度特性として、引張強さTSが500MPa超えである高張力厚鋼板が得られ、しかも残留マルテンサイトを消去できるので、シャルピー衝撃特性の異方性の指標であるセパレーション指数SI値が、0.10以下の厚鋼板が得られるからである。なお、上部棚エネルギーは120J/cm以上となり、衝撃吸収エネルギーの水準について問題はない。なお、上記において等軸とは、結晶粒のアスペクト比が3.0以下と定義する。
得られた溶鋼を鋼塊又は鋳片に鋳造した後、鋼板圧延向けに適した形状及び寸法のスラブに粗圧延をする。鋼塊又は鋳片からスラブへの粗圧延条件は特に規定しないが、最終製品である鋼板が所望の寸法・形状を確保できる範囲内であればよい。
<第1圧延工程>
この第1の目的は900〜1050℃の範囲内で圧延を行なうことにより、十分なγ相を得ることにより、粗大な鋳造組織を残存させない状態にすること、およびその後の冷却によるγ/α相変態におよりできるだけ微細なα粒を得ることにある。
上記スラブを加熱し、900〜1050℃の範囲内で次の第1段階の圧延を行なう。即ち、1パス当たりの圧下率が10〜50%の範囲内の1パス圧延を行なうか、又は1パス当たりの圧下率が10〜50%の範囲内であってパス間時間が30秒以内で累積圧下率が70%以下の複数パス圧延を行なう。
なお、1パス圧延又は複数パス圧延のいずれを行なっても良く、上記条件を満たす限り、パス数を限定しないが、最終製品の厚鋼板の形状・寸法を考慮して行なうべきである。この圧延を行なった後、3℃/秒以上の冷却速度でAr変態点以下の温度まで冷却して熱間圧延材料を調製する。
上記のスラブ加熱から圧延及び冷却までの工程を、「第1圧延工程」と呼ぶことにする。例えば表2の記載項目の第1圧延工程欄を参照のこと。
この第1圧延後は、鋼板は通常の平均粒径20μmレベルのTS400MPaレベルの物性を有する板厚40mmレベルの鋼板状態になっている。
(第1圧延工程の加熱、及び圧延条件について)
前記スラブを、900〜1050℃の範囲内で圧延する理由は、十分なγ相を得ることにより、粗大な鋳造組織を残存させないためである。圧延温度を1050℃以下とするのは、スラブの加熱過程においてγ相粒径が粒成長によって粗大化するのを防ぐためである。
第1圧延工程において、1パス当たりの圧下率を10〜50%の範囲内とする理由の内、10%以上とする理由は、α相核生成サイトを十分確保して、細粒化を促進するためである。一方、1パス当たりの圧下率を50%以下とする理由は、圧延設備に無理な負荷をかけないようにするためである。
第1圧延工程の圧延を複数パス圧延とする場合が生ずるのは、鋼塊又は鋳片の寸法・形状、最終の厚鋼板の寸法・形状、並びに粗圧延及び厚鋼板圧延設備仕様等を基準とした適切な操業条件の設定による。この場合には、パス間時間を30秒以内とする理由は、1回の圧下でγ相に蓄えられた歪が回復するのを防ぎ、α相核生成サイトを十分確保して、細粒化を促進するために適切だからである。そして、複数パス圧延における累積圧下率を70%以下とする理由は、第2段階の圧延における累積圧下率を後述するように60%以上確保することとしているので、そのために第1段階の圧延で行なう比較的低温圧延での圧下率はその上限を規定することにより圧延設備に無理な負荷をかけずに行なうことができ、望ましいので、このことにより当該累積圧下率の上限は70%とするのが適切だからである。
なお、本発明において厚鋼板の板厚は特に規定しないが、現状の鋼塊又は鋳片の寸法・形状及び加熱・圧延設備等の仕様、並びに第1圧延工程及び下記する第2圧延工程の圧延における各圧下率の規定を考慮して、5〜150mmが適切な範囲となる。
(第1圧延工程の冷却条件について)
上記第1圧延工程の最終段階で、3℃/秒以上の冷却速度でAr変態点以下の温度まで冷却するが、その際冷却速度を3℃/秒以上とする理由は、圧下後の鋼の組織が粒成長によって粗大化するのを防ぐためである。一方、冷却速度を50℃/秒以下とする理由は、板厚が比較的薄い場合に、板厚全体の熱履歴が厚鋼板の部位により極端な差異が発生するのを防ぐためである。
また、冷却到達温度をAr1変態点以下とする理由は、旧γ相からのα相変態を完了させることにより、フェライトの細粒化に寄与しない旧γ相を残存させないためである。この理由により、第1圧延工程の圧延後の冷却到達温度の下限値は特に規定しないが、過度に低温度まで冷却した場合、次の第1圧延工程の圧延前の加熱に消費するエネルギーが過大となる。そこで、冷却到達温度は500℃程度以下とならないようにするのが好ましい。なお、Ar変態点は鋼の化学成分組成に応じて、公知の手法により算出すればよい。以降、本発明においては、その他の変態点温度も同じ手法により求める。
<第2圧延工程>
この第2圧延の目的はγ+α2相域で強圧下することによりできるだけ微細なフェライト組織を得、500MPa超程度の高強度を有する組織を確保することにある。
上記第1圧延工程で得られた熱間圧延材料を、0.5℃/秒以上の加熱速度で加熱し、Ac変態点以上から{Ac変態点+0.5(Ac変態点−Ac変態点)}以下の温度範囲内で、1パス当たりの圧下率が35%以上であって、パス間時間が20秒以内である複数パス圧延を行なう。この複数パス圧延における累積圧下率は、60%以上となるようにする。この圧延は、0.1〜200/秒の歪速度で行なう。
上記の熱間圧延材料の加熱から前記圧延を終了するまでの工程までを、「第2圧延工程」と呼ぶことにする。例えば表2の記載項目の第2圧延工程欄を参照のこと。
この第2圧延後の鋼板の物性は強度としてTS>500MPaであるが、γ+α2相域圧延のため、集合組織が発達して、Charpy衝撃特性としては板表面に平行なクラックが進展する場合、靭性に劣る組織をもっているのが特徴である。また、厚さは15mm程度である。
(第2圧延工程の加熱、及び圧延条件について)
加熱速度を0.5℃/秒以上とする理由は、α相が粒成長することにより粗大化するのを防ぐためである。これに対して加熱速度の上限については、α相の粒成長を阻止する観点からこれを規定しない。なお、現状の加熱設備の能力等から、50℃/秒をその上限の目安とすればよい。
第2圧延工程の圧延開始時の加熱温度をAc変態点以上とするのは、圧延による変形抵抗を小さくすると同時に、歪が加えられるα相を十分に確保するためであり、一方、その加熱温度の上限を{Ac変態点+0.5(Ac変態点−Ac変態点)}とするのは、その圧延により歪が加わるα相への加工歪導入促進に必要なγ相を十分確保することにより、フェライトの細粒化を促進するためである。
第2圧延工程の圧延において、1パス当たりの圧下率を35%以上とするのは、α相の再結晶サイトやγ相の析出サイトを十分確保して、フェライトの細粒化を促進するためである。ここで、1パス当たりの圧下率の上限値は特に規定しないが、現状の圧延設備能力を考慮すれば、50%以下とするのが望ましい。更に、パス間時間を20秒以内とする理由は、圧下でα相に蓄えられた歪が回復するのを防ぎ、しかも複数パス圧延により累積圧下量が60%以上となるようにする理由は、α相の再結晶サイトやγ相の析出サイトを十分確保して、フェライトの細粒化を一層促進するためである。
更に、第2圧延工程の圧延の歪速度を0.1/秒以上とするのは、圧延に要する時間が長すぎて、圧延中に加えたはずの転位が回復してしまい、多数の転位を導入することができず、α相に動的再結晶が生じたとしても微細な結晶粒を得られないからである。しかもその歪速度を200/秒以下とするのは、α相の動的再結晶の発生を確保して、フェライトの細粒化を促進するためである。
<第2圧延工程直後の再加熱・保持、及び冷却>
第2圧延工程の圧延直後に、外部加熱手段により所定の加熱速度で所定の温度範囲内まで再加熱し、所定時間保持する。
当該再加熱及び保持過程と、前述した第2圧延工程の圧延でのα+γの2相域圧延とによって、γ相によるα相への加工歪導入の促進、及びα相の再結晶とγ相の逆変態による析出との競合によって、相互のピン止め効果による粒成長の抑制を活用することにより、等軸微細粒組織を有する鋼材、ここでは鋼板を得ることができるからである。特に、その圧延によって粒形状が扁平化すると同時にα相に歪が導入され、その後に再加熱することによりα相の再結晶や、γ相の析出によって扁平な粒形状が等軸化する。
(再加熱・保持条件について)
前記再加熱における加熱速度は0.5℃/秒以上とすることにより、α相やγ相が粒成長により粗大化するのを防いだ。その保持温度を(Ac変態点+0.8(Ac変態点−Ac変態点))以下とすることにより、γ相が支配的になり、γ相が粒成長により粗大化するのを防いだ。なお、製造工程における生産効率の向上のために、再加熱・保持温度は800〜850℃の範囲内が一層望ましい。
再加熱して保持時間を90秒以内とするが、その理由はγ相が粒成長により粗大化するのを防ぐためである。一方、再加熱・保持時間は5秒以上とするが、その理由はこの再加熱の保持効果を確保するためである。
上記再加熱手段として、外部加熱手段を使用する理由は、鋼板の内部エネルギーによる再加熱では、圧延の直後の再加熱、再加熱速度の制御及び板厚全体にわたる加熱が困難な場合があり不安定であるので、加熱炉や誘導加熱機器などによる外部エネルギーによって再加熱すべきだからである。
(再加熱・保持後の冷却条件について)
上記再加熱・保持が完了したら、γ相が粒成長により粗大化するのを防止するために、できるだけ速やかに次の冷却処理にはいるのが望ましい。再加熱の完了と次の冷却開始までの時間は、90秒以下、好ましくは30秒以下とするのが望ましい。
再加熱・保持後の冷却速度は3℃/秒以上とするが、その理由はγ相が粒成長により粗大化するのを防ぐためである。冷却速度を速くすればするほど、γ相が粒成長により粗大化するのを確実に防ぐことができるが、他方、冷却速度が過剰に大になるとマルテンサイト組織やベイナイト組織が旧γ相粒径を引き継いで生じるため、細粒化に寄与しないと同時に、靭性が低下する。よって、冷却速度は、50℃/秒以下に規定する。また、厚鋼板の厚さが5mm以上であると全体の熱履歴に極端な差異を与える恐れがあるので、これを防ぐためにも、上記冷却速度の上限は有効なものである。
そして、冷却処理の終了時点での温度を500℃以下にする理由は、終了時点での温度が高すぎると、旧γ粒からのα変態が未完了となり、旧γ粒が残存するのを避けるためである。なお、冷却温度は、200℃以上であることが望ましい。それ以下の温度まで急冷すると、完全なフェライト−パーライト組織とすることが困難となるからである。そして、その後は常温まで空冷すればよい。
<焼戻し処理>
上記で得られた鋼板に、480〜520℃範囲内の温度における焼戻し処理を施す。
(焼戻し処理について)
焼戻し処理を施す理由は、わずかに残留する恐れのあるマルテンサイトを消去するためであり、これによりシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数SI値を更に一層低減させるためである。
即ち、衝撃特性の異方性が改善される(セパレーション指数SI値が低減する)という極めて重要な効果が得られるからである。その際、処理温度を480℃以上とする理由は、比較的高温域でのFe原子の拡散により結晶粒の歪を駆動力とした結晶回転により等軸性を助長させ得るからであり、これによりセパレーション指数SI値が低下する。また、もうひとつの理由としては、これ未満の温度では不純物元素であるリン(P)が微量でも材料中に存在していた場合、焼戻し処理中に旧オーステナイト粒界にPが偏析し、低温における粒界割れを助長する可能性があるため、これを避ける意味も含まれる。
一方、処理温度を520℃以下とする理由は、これを超える温度では粒成長による結晶粒の粗大化により、十分な強度を確保することが困難となるからである。
<本発明において使用するスラブの化学成分組成>
本発明においては、電気炉により溶製した溶鋼のレードル下の化学成分組成を、前述した通りに規定している。溶鋼を鋼塊又は鋳片に鋳造した後、これらを通常の分塊圧延法又は鋳片圧延法によりスラブ形状に圧延した場合、少なくとも当該スラブの本発明において規定している化学成分組成は当該圧延過程において変化することはないので、レードル下の化学成分組成と同一であるとみなすことができる。更に、本発明による厚鋼板の製造過程においても、当該化学成分組成が変化することはない。従って、レードル下の化学成分組成を所望の範囲内に調整しておけば、最終の厚鋼板の化学成分組成もそれと同一になるとみなすことができる。よって、厚鋼板の製造工程のどの段階においても、鋼の化学成分組成による圧延特性及び材質特性に及ぼす影響は、レードル下の化学成分組成、すなわちスラブの化学成分組成により支配される。
(スラブの化学成分組成について)
本発明において、スラブの化学成分組成は、質量%で下記であることが必要である。
C:0.10〜0.20%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.60〜1.60%、
P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.010〜0.060%、
N:0.0040〜0.030%であって、残部がFeおよび不可避不純物である。
板厚が最大200mmまでに適用することを前提とする成分組成とするために、JIS G3106で規定する溶接構造用圧延鋼材化学成分組成の規定範囲を満たし、更に、その範囲内において次の理由により限定規定した。
(1)C含有量を0.10質量%以上とするのは、用途が船舶構造用厚鋼板であることを考慮し、鋼の強度を500MPa確保するためである。C含有量を0.20質量%以下とするのは、溶接性能低下を防止するためである。
(2)Si含有量を0.10質量%以上とするのは、脱酸元素として、また鋼の強化元素としての性能を確保するためである。Si含有量を0.50質量%以下とするのは、鋼の表面性状を損なって、溶接性能が低下するのを防止するためであり、また靭性の低下を防止するためでもある。
(3)Mn含有量を0.60質量%以上とするのは、鋼の焼入性を増大させることで強度を高めると同時に、靭性の向上にも寄与する性能を確保するためである。Mn含有量を1.60質量%以下とするのは、溶接性及び加工性の劣化を防ぐためである。
(4)Al含有量を0.010質量%以上とするのは、脱酸元素としての性能を確保するためである。Al含有量を0.060質量%以下とするのは、鋼の溶接性が劣化するのを防ぐためである。
(5)P含有量及びS含有量は、いずれも鋼の延性及び靭性を劣化させるものであり、低いことが望ましいが、過度に低減させることはコスト上望ましくない。そこで、両方のバランスを考慮して、P含有量は0.025質量%以下、S含有量は0.015質量%以下とする。
(6)Nの含有量は、リサイクル鉄(例えば、解撤された船舶から発生した鋼材)を主原料とした電気炉溶製において、脱窒処理を一切施さない溶鋼から製造されたスラブの場合、リサイクル鉄を使用した場合は、Nは0.004質量%程度以上含有される。よって、N含有量の下限値は分析精度をも考慮して0.0040質量%とする。一方、リサイクル鉄使用の経済的効果をより一層発揮させるためには、より多くのリサイクル鉄を用いるのが有効である。この観点からすれば0.01質量%以上とするのが望ましい。ところが反面、N含有量の増加による鋼の靭性劣化を考慮し、本発明を実施した場合の靭性水準をも考慮し、その上限含有量を0.03質量%以下とする必要があり、本発明ではNの分析精度を考慮して0.0300質量%以下とする。但し、本発明の製造方法によれば、N含有量が高くなると、フェライト粒が微細化する傾向を示し、強度は一層向上するが延性は小さくなること、また、N含有量の増加により鋼材の破壊靭性が劣化することを考慮して、0.0150質量%以下であることが望ましい。以上より、N含有量は0.0040〜0.0300質量%の範囲内、望ましくは、0.0040〜0.0150質量%の範囲内とする。
<望ましい製造条件の選択>
上述した製造条件により得られる厚鋼板の材質特性の内、(a)任意温度でのV−ノッチシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)が0.10以下であって、(b)引張強さ(TS)が500MPa以上で、しかも(c)延性−脆性遷移温度が−50℃以下である材質特性を具備するように当該厚鋼板の製造条件を調整する方法は、前記スラブの化学成分組成を上述した化学成分組成の内、C含有量を0.15〜0.16質量%、Si含有量を0.19〜0.25質量%、Mn含有量を0.95〜1.10質量%、そしてN含有量を0.0040〜0.0150質量%の範囲内に調整した上で、前述した<第1圧延工程>、<第2圧延工程>、<第2圧延工程直後の再加熱・保持、及び冷却>、及び<焼戻し処理>の各項に規定した条件の範囲内において、実際の製造設備を用いて試験を行なうことにより、当該(a)〜(c)の材質特性が具備される製造条件を選定することである。
<厚鋼板の材質特性>
上述した第1発明の製造条件の実施形態の範囲内において、製造対象とする厚鋼板の材質特性が、任意温度でのV−ノッチシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)が0.10以下であって、引張強さ(TS)が500MPa以上で且つシャルピー衝撃試験の延性−脆性遷移温度が−50℃以下となるように、当該製造条件を調整することが一層望ましい。上記材質特性が得られるように製造条件を調整するには、使用する設備・工程に応じて、上述した第1発明の製造条件の実施形態の範囲内において、種々の製造条件の組み合わせにより予め試験することにより、所望の材質特性が得られる条件を設定しておけばよい。
セパレーション指数(SI値)が0.10以下について
セパレーションとは、衝撃荷重により厚鋼板の圧延面に平行な断面内に発生する剥離状形態の破壊をいう。厚鋼板に対する衝撃荷重の鋼板の圧延方向(=L方向)成分及び幅方向(=C方向)成分によるセパレーションは発生しにくいが、板厚方向(Z方向)成分の衝撃荷重により発生し易い。造船用の厚鋼板は多数方向の溶接接合により船舶を構成するので、船舶建造後の航海等においては無数の部位において板厚方向(Z方向)成分の衝撃荷重を受ける。そのため、常にセパレーション発生環境に曝されることになり、耐Z方向衝撃特性は船舶の強度確保上、極めて重要である。
V−ノッチシャルピー衝撃試験においては通常、厚鋼板のC方向試験片又はL方向試験片で行なうので、V−ノッチは板厚方向に入れる。従って、セパレーションはV−ノッチシャルピー衝撃試験片の破面において、鋼板圧延面に平行方向のある長さを有する亀裂として観察され、亀裂に直角に開口する。図1に、本願明細書の後述する比較例4で得られた鋼板の−80℃におけるV−ノッチシャルピー衝撃試験片の破面に観察されたセパレーションを例示する。
シャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)は、シャルピー衝撃試験後の試験片破面上で観察される、圧延面に平行に発生した亀裂の長さの総和を当該破面面積(V−ノッチの面積は除く)で割った値であり、シャルピー衝撃特性の異方性の指標である。図1には、セパレーション指数の測定における上記亀裂の長さを記した。同図中の数字1〜6は亀裂を示し、各亀裂の測定長さを併記した。
このセパレーションが発生する厚鋼板においては、Z方向衝撃に対する吸収エネルギーを高水準に確保することは通常困難である。本発明における船舶を構成する造船用厚鋼板においては、Z方向衝撃に対する吸収エネルギーを高水準に確保することが極めて重要である。セパレーション指数(SI値)は試験温度によって変化するが、船舶に使用される状態を考慮すると、厚鋼板セパレーション指数(SI値)の最大値が小さいことが重要である。また、セパレーション指数(SI値)が0.10以下であると、衝撃荷重の板厚方向(=Z方向)成分により発生するセパレーションの抑制に対して極めて効果的である。よって、セパレーション指数(SI値)を望ましくは0.10以下と規定する。
引張強さ(TS)が500MPa以上
船舶構造用厚鋼板向けであって、高張力鋼が必要であることを考慮して、引張強さ(TS)を500MPa以上とする。
延性−脆性遷移温度が−50℃以下
船舶構造用厚鋼板向けであるから、極寒での使用条件を考慮して、延性−脆性遷移温度は望ましくは−50℃以下とする。
なお、本発明は、船舶で使用される厚鋼板の製造方法であることを考慮し、上述した通りに、セパレーション指数(SI値)、引張強さ(TS)及び延性−脆性遷移温度に関して高水準値を確保すると共に、降伏比=YS/TSは低い方がより一層望ましい。そこで、機械的特性値としては、例えばJIS G3106 溶接構造用圧延鋼材のSM490級において、各種板厚区分に共通して満たす条件として、降伏点(YP)≧365MPa、全伸び(El)≧21%が一層望ましく、また、シャルピー衝撃特性としては、JIS G4051 機械構造用炭素鋼鋼材の解説付表1(炭素量区分による標準的機械的性質)において、C=0.10〜0.20質量%の範囲内の全ての炭素量区分において満たす吸収エネルギーを採用し、137J/cmであることが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明の有効性を説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前述した発明を実施するための形態の項目に記載の範囲で適当に変更を加えて実施することが可能であり、これらは本発明の技術的範囲内に包含される。
実験室規模の圧延設備を用いて、実施例1〜5及び比較例1〜7を次の通り試験した。実施例及び比較例に供した試験材は、実験用100kgの高周波真空溶解炉を用い、表1に示す成分符号A及びBの各化学成分組成を有する溶鋼を溶製し、鋳型に鋳造して鋼塊を調製した後、実験用圧延機を用い1200℃で断面寸法が55mm厚さ×65mm幅の棒鋼片に圧延し、これから50mm厚さ×60mm幅×長さ300mmの試験材を、実施例1〜5及び比較例1〜7に供するため表面切削と長さ切断により所要の本数切り出して調製した。
なお、試験材は上記の通り電気炉を用いることなく、実験用100kgの高周波真空溶解炉を用いて溶製したが、化学成分組成の決定を次の通り行なったので、実施例1〜5は本発明の範囲内にあり、比較例1〜7は本発明の範囲外にあるとみなすことができる。電気炉操業においてリサイクル鉄を原料装入鉄源として用い、通常の電気炉操業条件で溶解し、脱窒素ガスを目的とした溶解・精錬を実施しないことを前提条件とし、その上でリサイクル鉄中のN含有量及び電気炉溶解過程での吸N量の各質量%範囲を考慮して、レードル下溶鋼成分のN含有量の範囲を0.004〜0.030質量%とした。このN含有量の最大値及び最小値を有し、その他の化学成分組成は、JIS G3106の溶接構造用圧延鋼材の中のSM490A及びSM490Bを満たす特定値に設定した。即ち、成分符号AではN含有量を0.0150質量%に、成分符号Bでは0.0040質量%にコントロールし、その他の成分は表1に示した通りとした。
成分符号A又はBの上記50mm厚さ×60mm幅×長さ300mmの試験材を、ロール直径400mm、最大荷重300t、最大速度30m/分の圧延機性能の実験用圧延設備により、実施例1〜5及び比較例1〜7につき表2に示す条件で圧延した。
また、各工程における諸条件は表2から表4に示した通りである。


実施例1〜5は、試験材のN含有量が0.015質量%又は0.0040質量%のいずれかの板厚50mmの試験材を用い、第1圧延工程、第2圧延工程、再加熱工程、冷却及び焼戻しを次の通り行なった。
第1圧延工程では、950℃において1パス当たりの圧下率(板厚減少率)が20%の圧延を行ない、板厚を40mmとした後、30℃/秒で500℃まで冷却した。次いで第2圧延工程では、5℃/秒で加熱し750℃において第1パスを圧下率38%(板厚は40mmから25mmに減厚)、第2パスを圧下率40%(板厚は24mmから15mmに減厚)、パス間時間が10秒で、累積圧下率62.5%の圧下を歪速度1〜2/秒で行なって板厚を15mmとし、次いで直ちに再加熱工程として、加熱炉に装入して5℃/秒で800℃、825℃又は850℃まで再加熱して10秒間保持した後、冷却工程として30℃/秒で200℃まで冷却し、次いで常温まで空冷した。そして、最後に500℃で焼戻し処理を行なって完了した。表2からわかるように、実施例1〜5間での試験条件の相違点は、化学成分組成及び再加熱工程における加熱温度の内、少なくとも一方が相違していることである。
比較例1、2は、それぞれN含有量0.015質量%、0.0040質量%の板厚50mmの試験材を用い、第1圧延工程において第1パス(圧下率20%)、第2パス(圧下率25%)、第3パス(圧下率33%)、第4パス(圧下率25%)でパス間時間はいずれも10秒で、累計圧下率70%の圧延を行なって板厚を15mmとした後、常温まで空冷して完了した。従って、本発明の範囲外である。
比較例3〜7は、試験材のN含有量が0.015質量%又は0.0040質量%のいずれかの板厚50mmの試験材を用い、第1圧延工程、第2圧延工程、再加熱工程、冷却工程を、実施例1〜5と同様に行なった。しかし、最後の焼戻し処理は行なわずに完了としたので、本発明の範囲外である。なお、比較例3〜7間での試験条件の相違点は、化学成分組成及び再加熱工程における加熱温度の内、少なくとも一方が相違していることである。
各実施例及び各比較例において得られた厚さ15mmの鋼板について、次の確性試験を行なった。
(1)シャルピー衝撃試験:2mmV−ノッチ、C方向試験片により、25℃、0℃、−40℃、−80℃、−120℃、−196℃で試験した。特性値として、セパレーション指数SI値(1/mm)、0℃における吸収エネルギー(J/cm)、延性−脆性破面遷移温度(℃)を求めた。
(2)引張試験:C方向試験片により、下降伏強さLYS(MPa)、引張強さTS(MPa)、全伸びTEl(%)、均一伸びUEl(%)を求めた。
(3)ビッカース硬さ試験:平均ビッカース硬さH(N/mm)を求めた。
(4)ミクロ組織観察:SEM像による板厚の中心部、1/4部及び表面近傍の平均結晶粒径(μm)を切片法で求め、また結晶粒形状を観察した。
表5,6に、各実施例及び各比較例において得られた特性試験結果を示す。

実施例1〜5において得られた厚鋼板の全てが、そのセパレーション指数SIは0.00〜0.08以下、延性−脆性破面遷移温度は−72℃以下(但し、実施例1及び4は測定値なし)、そして引張強度は528MPa以上であり、本発明の一層望ましい条件下で得られる厚鋼板の材質特性水準を満たしている。上記以外の機械的性質については、造船用厚鋼板として重要な基準値の根拠として、JIS G3106の溶接構造用圧延鋼材の中のSM490クラスにおいて規定されている0℃におけるシャルピー吸収エネルギー、降伏強度及び伸びの値を採用した場合に、実施例1〜5はそれを満たしている。また、N含有量が高含有量の方の0.0150%である実施例1及び2と、N含有量が低含有量の方である0.0040%である実施例3〜5で得られた厚鋼板の材質特性水準は、同等であることが分かる。
これに対して、比較例1及び2は、N含有量がそれぞれ0.0150質量%及び0.0040質量%の場合であって、圧延工程が実施例とは大幅に異なっており、圧延素材(スラブに相当する)を950℃の圧延温度で4パスで累計圧下率70%により厚鋼板を圧延し、空冷したものである。得られた厚鋼板は、そのセパレーション指数SIは0.00と優れているが、引張強さTSが489MPa以下で目標値の500MPa以上をクリアしていず、強度不足である。また、降伏強度も実施例に比較してかなり低い。これは、平均フェライト粒径が15μm程度であって微細化していないことが主因である。
一方、比較例3〜7は、その製造条件で最後の工程として焼戻し処理を実施していない点が実施例1〜5と異なっている。そのため、比較例3〜7は、厚鋼板の強度並びに衝撃吸収エネルギー及び延性−脆性遷移温度については、実施例1〜5の水準と同等乃至それ以上で優れているが、延性(ここでは全伸びTEl、均一伸びUEI)については実施例1〜5に向上傾向がみられる。
本発明で製造される厚鋼板の重要な特性は、衝撃特性の異方性、特に板厚方向の異方性の指標であるセパレーション指数SIが小さいことであり、SIが小さいことにより衝撃による破壊靭性の異方性が小さい厚鋼板が得られる。
本発明でのセパレーション指数SIの望ましい目標値は0.10以下である。焼戻し処理をすることによる、セパレーション指数SIが低減して、シャルピー衝撃特性の異方性が改善している。その改善状況は下記の通りである。
比較例3では0.16であるのに対して、実施例1では0.08に改善している。
比較例4では0.18であるのに対して、実施例2では0.00に改善している。
比較例5では0.21であるのに対して、実施例3では0.08に改善している。
比較例7では0.17であるのに対して、実施例5では0.06に改善している。
セパレーション指数SIの水準は、実施例及び比較例共に、かなり優れた水準にある。従来目標値は通常0.50以下であった。このように実施例及び比較例のいずれにおいてもセパレーション指数SIが良好である理由は、フェライト結晶粒径が微細であり、しかも結晶粒形が等軸晶であることによる。そして更に、実施例においては比較例よりも優れている理由は、製造工程の最終段階において、480〜520℃の範囲内に限定された焼戻し焼鈍が施されたためであると考えられる。即ち、当該規定条件の焼戻し処理により、残留マルテンサイトが消去されていることが確認された。
図2には、比較例4において、焼戻し処理が施されていない鋼板に認められた残留マルテンサイトの状況を例示し、これに対して、図3には、実施例2において焼戻し処理が施された鋼板では残留マルテンサイが消去された状態のSEM像微細組織を例示する。上記焼戻し処理により、異方性が低減したものと考えられる。即ち、高温域でのFe原子の拡散により結晶粒の歪を駆動力とした結晶回転が起こり、等軸性が助長されたために、セパレーションの発生が低減し、セパレーション指数SIが小さくなったものと推定される。
近年、鋼材の再利用率の増加や鉄鉱石などの高炉原材料費高騰の影響を受けて、鉄鋼スクラップ材を電気炉で溶解した鋼材の利用量増加が予測されている。特に2009年5月、シップリサイクル条約が発効されたことを受けて、解体した船体の鋼材の増加が期待される。これらのスクラップ鉄を電気炉で溶解して、新たな鋼材として再生するプロセスに採用され得るし、高価な各種合金元素を添加しないことから、省資源鋼として有効である。また、そのような再生鋼材にも高強度且つ高靭性が求められる厚鋼板の製造において、電気炉溶製工程で高濃度の窒素が溶解した高窒素含有量の溶鋼であっても脱窒精錬が不要なため、省エネルギー及び二酸化炭素排出量削減に有効といえる。更に、船体用厚鋼板等で重要な衝撃に対する靭性異方性にも優れているため、より高付加価値な鋼材として有効である。
特開2001−234242号公報 特開2007−321230号公報 特開2007−046128号公報 特開平11−181546号公報 特開2008−223081号公報 特開2002−69571号公報

Claims (4)

  1. C、Si、Mn、P、S、Al及びNを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる引張強度(TS)が500MPa以上で、Nの含有量が0.0040〜0.0300wt%ある高強度鋼であって、V−ノッチシャルピー衝撃試験におけるセパレーション指数(SI値)が0.10以下であることを特徴とする高強度鋼。
  2. 請求項1に記載の高強度鋼において、その延性−脆性遷移温度が−50℃以下であることを特徴とする高強度鋼。
  3. 請求項1又は2に記載の高強度鋼において、化学成分組成が、質量%で、
    C:0.10〜0.20%、
    Si:0.10〜0.50%、
    Mn:0.60〜1.60%、
    P:0.025%以下、
    S:0.015%以下、
    Al:0.010〜0.060%
    N:0.0040〜0.0300%
    で、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする高強度鋼。
  4. 鋼材を圧延して得られた圧延鋼板であって、請求項1から3のいずれかに記載の高強度鋼と同様な構成を有することを特徴とする圧延鋼板。
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