JP2011088876A - 腫瘍新生血管血管内皮細胞の新しいバイオマーカーとそれを標的とした癌治療薬 - Google Patents

腫瘍新生血管血管内皮細胞の新しいバイオマーカーとそれを標的とした癌治療薬 Download PDF

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Abstract

【課題】血管新生のメカニズムを更に解明し、新たなメカニズムに立脚した、腫瘍の治療に有用な血管新生阻害剤を提供すること。
【解決手段】YB−1は腫瘍新生血管に特異的に発現し、血管内皮細胞の増殖因子依存的な増殖に寄与する。従って、YB−1の発現を阻害することにより、血管内皮細胞の増殖を抑制し、血管新生を阻害することができる。YB−1は腫瘍新生血管の血管内皮細胞に特異的に発現するので、YB−1の発現を阻害すると、腫瘍新生血管の血管内皮細胞の増殖(即ち、腫瘍組織における血管新生)を選択的に阻害することが出来る。また、YB−1は、腫瘍細胞の薬剤耐性や増殖へ関与するので、YB−1の発現を阻害することにより、腫瘍細胞と腫瘍新生血管の血管内皮細胞の双方の増殖を阻害することが可能となる。
【選択図】なし

Description

本発明は、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出方法及びそのための試薬、血管新生(特に腫瘍血管新生)の阻害剤及びそのスクリーニング方法等に関する。
YB−1はコールドショックドメインを有し、ヒト癌細胞の核内と細胞質に局在する。P−糖タンパク質(MDR1、ABCB1)などのABCトランスポーターやDNA修復関連酵素の発現を上昇させ、広く薬剤耐性の獲得について重要な鍵を握ると考えられる。さまざまな癌腫において、YB−1の核内局在や発現レベルはP−糖タンパク質依存性また非依存性の薬剤耐性や予後不良と有意な相関を示すことが報告されている(非特許文献1)。YB−1については、九州大学や産業医科大学の研究グループが、卵巣癌、乳癌、骨肉腫などの多くのヒト癌腫と関連することを報告している(特許文献1)。彼らは、EGFRなどの増殖因子や細胞周期関連遺伝子の発現をYB−1が制御していることも明らかにしてきている。例えば、EGFRをはじめ、いくつかの増殖関連遺伝子のプロモーター領域付近に転写因子YB−1の結合部位であるY−ボックスの存在が確認されている。
腫瘍や腫瘍間質は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を産生して血管を腫瘍に引き込み、栄養や酸素を取り込もうとする。VEGFの過剰発現は腫瘍の血管新生や転移と関連し、また腫瘍の進行や予後不良と相関することが、大腸癌、胃癌、肺癌などさまざまな癌で報告され、VEGFを標的にした分子標的治療が進められている(特許文献2)。ベバシツマブ(アバスチン)はVEGFのいずれのアイソフォームも認識可能なモノクローナル抗体であり、VEGFに結合してVEGFの働きを阻害する。日本国内では2007年に承認を受け、大腸癌や非小細胞肺癌の治療に用いられている。
RNA干渉(RNAi)をベースにしたsiRNAの癌治療への応用が進められている(非特許文献2)。米Alnylam Pharmaceuticals社は2009年4月3日、肝癌を対象に、同社が開発したRNA干渉をベースとする治療薬「ALN−VSP」のフェーズ1試験を開始したと発表した。RNA干渉は、短い2本鎖RNA(siRNA)を導入することで、標的とするmRNAを分解して、遺伝子発現を停止させるものである。ALN−VSPは2種のsiRNAを含んでおり、癌細胞の増殖に関わるキネシンスピンドルタンパク質(KSP)及び血管新生を促す血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の2つの遺伝子をターゲットとしている。
ALN−VSPを含めて、VEGF等の血管内皮成長因子を標的にした分子標的薬が海外にて多数治験されているが、血管新生の機序は未だ不明な点が多く、抗VEGF抗体も化学療法との併用が必要で当初期待したほどの効果は得られていない。また、血管新生阻害による想定外の影響が研究結果で示されている(非特許文献3及び4)。
そこで、血管新生のメカニズムを更に解明し、新たなメカニズムに立脚した血管新生阻害剤を開発し、腫瘍の治療に応用することが求められている。
特開平9−95499号公報 特開2007−126422号公報
Molecular Cancer Therapeutics, vol.3, pp.1485-1492, 2004 薬学雑誌, Vol.127, pp.1525-1531 (2007) Nature, vol. 456, no.7223, pp.814-818 (2008) NCI Cancer Bulletin, vol.6, no.8 (2009)
血管新生のメカニズムを更に解明し、新たなメカニズムに立脚した、腫瘍の治療に有用な血管新生阻害剤を提供すること。
膠芽腫について免疫組織染色によりYB−1の発現を観察したところ、新生血管血管内皮細胞で発現することが確認された。さらに、他のいくつかの種類の固形腫瘍についてもYB−1の発現を検討したところ、腫瘍間質内の血管内皮細胞で同様に発現することが確認された。一方、生理的な血管新生をともなう胎児組織、新生児の肺、胎盤の新生血管血管内皮細胞においてはYB−1の発現が認められなかった。また、炎症部位の内皮細胞においてはYB−1の発現がわずかに観察されるのみであった。更に、血管内皮細胞にYB−1に対するsiRNAを導入したところ、YB−1の発現が減少し、血管内皮細胞の増殖因子依存性の増殖が抑制された。
以上の結果から、YB−1が腫瘍新生血管の血管内皮細胞特異的なバイオマーカーであること、そしてYB−1の発現を抑制することにより、腫瘍血管新生を抑制し、結果的に腫瘍の増殖を阻害し得ることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に関する。
[1]YB−1の発現を測定することを含む、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出方法。
[2]血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)の発現を測定することを更に含む、[1]記載の方法。
[3]YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出用試薬。
[4]更に、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを更に含む、[3]記載の試薬。
[5]以下の(I)の群から選択される少なくとも一の物質及び、(II)の群から選択される少なくとも一の物質を含む、組み合わせ物:
(I)YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー;及び
(II)血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー。
[6]YB−1の発現を抑制する物質を含む、血管新生阻害剤。
[7]腫瘍血管の血管新生阻害剤である、[6]記載の阻害剤。
[8]YB−1の発現を抑制する物質が、YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、[6]記載の阻害剤。
[9]YB−1の発現を抑制する物質を含む、腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤。
[10]腫瘍が、膠芽腫、食道癌、胃癌、大腸癌及び肺癌からなる群から選択されるいずれかである、[9]記載の阻害剤。
[11]YB−1の発現を抑制する物質が、YB−1の発現を特異的に抑制し得る抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、[9]記載の阻害剤。
[12]被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否か評価することを含む、血管新生阻害剤の候補物質のスクリーニング方法。
[13]血管新生阻害剤が腫瘍血管の血管新生阻害剤である、[12]記載のスクリーニング方法。
[14]被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否かを評価することを含む、腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤の候補物質のスクリーニング方法。
YB−1が腫瘍新生血管に特異的に発現し、血管内皮細胞の増殖因子依存的な増殖に寄与することを見出した。
本発明の腫瘍新生血管の血管内皮細胞の検出方法を用いれば、腫瘍組織における新生血管をより的確に検出することができるので、例えば腫瘍新生血管を標的とする抗腫瘍薬の治療効果のモニタリングに有用である。
本発明により、YB−1の阻害という新たなメカニズムに基づく血管新生阻害剤やそのスクリーニング方法が提供される。YB−1は腫瘍新生血管の血管内に細胞に特異的に発現し、正常組織や炎症組織の血管内皮細胞には全く又は殆ど発現しないので、本発明の血管新生阻害剤は、特に腫瘍組織における血管新生を選択的に阻害するのに有用である。また、YB−1は、腫瘍細胞の薬剤耐性や増殖に関連することが知られているので、本発明の血管新生阻害剤は、結果として腫瘍細胞と腫瘍血管血管内皮細胞の双方を同時に増殖抑制することが可能であり、優れた抗腫瘍薬として有用である。
膠芽腫組織における、GFAP、CD34、YB−1及びKi−67の免疫組織学的染色。糸球体様小体(GBs)の形成に伴う微小血管の増殖を、ヘマトキシリン及びエオシン染色した。(A)症例1(倍率40倍):GFAP発現が腫瘍細胞において認められるが、GBにおいては認められない。CD34発現はGB及び間質性の血管においてのみ認められた。YB−1及びKi−67発現は、腫瘍細胞においてのみならず、GBにおいても認められた。(B)症例2(倍率40倍):壁において出芽している毛細血管を有する既存の血管、及び壁において出芽している毛細血管を有していない既存の血管が、ヘマトキシリン及びエオシン染色により認められた。GFAP発現は腫瘍細胞において認められるが、既存の血管においては認められない。既存の血管の細胞はCD34、YB−1、及びKi−67が陽性である。(C)症例1(倍率400倍、(A)と同一のエリア)。糸球体様小体の形態をヘマトキシリン及びエオシン染色(HE)により立証した。CD34及びYB−1発現が、GBの血管内皮細胞の細胞質において認められた。Ki−67発現が、GBの血管内皮細胞の核内において認められた。(D)症例2(倍率400倍、(B)と同一のエリア)。壁において出芽している毛細血管を有する血管が観察された。既存の血管から出芽している毛細血管の血管内皮細胞の細胞質はYB−1陽性であり、既存の血管の血管内皮細胞はYB−1陰性であった。Ki−67発現が、既存の血管から出芽している毛細血管の血管内皮細胞において観察された。 癌組織におけるCD34及びYB−1の免疫組織学的染色。(A)食道扁平上皮癌、(B)胃腺癌、(C)結腸腺癌、(D)肺腺癌。これらの癌腫をHE(1)又は抗YB−1抗体(2)で染色し、倍率40倍で観察した。抗YB−1抗体(3,4)または抗CD34抗体(5,6)で染色した腫瘍病変や線維形成性間質は倍率100倍で観察した。各癌において、YB−1は癌細胞のみならず、癌により誘導された線維形成性間質の新生血管の血管内皮細胞においても発現していた。 線維形成性間質におけるCD34及びYB−1の免疫組織学的染色。(A)食道扁平上皮癌、(B)胃腺癌、(C)結腸腺癌、(D)肺腺癌。図2のHE染色および免疫組織学的染色のうち(5,6)について倍率400倍で観察した。 種々の正常組織。(A)中絶胎児(妊娠10週)から得た腎組織(倍率40倍)、(B)検死から得た妊娠25週の胎児肺組織(倍率200倍)、(C)妊娠35週の胎盤組織(倍率200倍)のHE染色および免疫組織学的染色。血管内皮細胞はYB−1陰性で、血管内皮細胞はCD34陽性である。 炎症肉芽組織。(A)子宮頸部粘膜組織、(B)膣粘膜組織、(C)関節滑膜組織のHE染色および免疫組織学的染色(倍率200倍)。低いレベルのYB−1の細胞質内発現が、肉芽組織における毛細血管のCD34陽性血管内皮細胞において観察された。 YB−1発現の下方制御によりヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)の増殖が阻害された。(A)HUVECを20pmol/LのコントロールsiRNA又はYB−1に対するsiRNAで一過性にトランスフェクトした。72時間後に、全細胞ライセート(25μg)をSDS−PAGEに付し、抗YB−1抗体又は抗βアクチン抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。(B)YB−1発現レベルをβアクチンにより補正した。コントロールsiRNAによりトランスフェクトした細胞内のYB−1発現を100%と設定した。(C)HUVECを10pmol/LのコントロールsiRNA又はYB−1に対するsiRNAにより一過性にトランスフェクトした。図に示した日数の後、細胞数をカウントした。結果は、0時間における細胞数により標準化した。各点は、少なくとも3つの独立した試験の平均値である。*:P<0.001。
1.YB−1を用いる腫瘍新生血管の血管内皮細胞の検出方法
後述の実施例に示されるように、YB−1は腫瘍新生血管の血管内皮細胞に特異的に発現しているため、YB−1或いはそれをコードするmRNA又はcDNAを腫瘍新生血管の血管内皮細胞特異的なバイオマーカーとして用い、YB−1の発現を測定することにより、腫瘍新生血管の血管内皮細胞を検出することが出来る。従って、本発明は、YB−1の発現を測定することを含む、腫瘍新生血管の血管内皮細胞の検出方法を提供するものである。
YB−1(Yボックス・バインディング・プロテイン1)はコールドショックドメインを有し、癌細胞の薬物耐性の獲得や増殖に寄与する公知のポリペプチドである(Molecular Cancer Therapeutics 2004;3:1485-1492)。
本発明において用いられるYB−1は、通常、哺乳動物由来のものである。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。YB−1は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来であり、より好ましくは、ヒト由来である。
「YB−1が哺乳動物由来である」とは、YB−1の配列(ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列)が哺乳動物のものであることを意味する。
YB−1のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒト及びマウスのYB−1の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトYB−1]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_004559(バージョンNM_004559.3)(配列番号1)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_004550(バージョンNP_004550.2)(配列番号2)
[マウスYB−1]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_011732(バージョンNM_011732.2)(配列番号3)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_035862(バージョンNP_035862.2)(配列番号4)
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、特にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
本発明の検出方法は、インビボ又はインビトロ(好ましくはインビトロ)において行われる。本発明の検出方法がインビトロにおいて行われる場合、腫瘍新生血管血管内皮細胞を含む可能性のある、生体外に摘出された哺乳動物の組織や細胞、生体外において培養された哺乳動物の細胞におけるYB−1の発現が測定される。
「腫瘍血管」とは、腫瘍組織内に存在する血管を意味する。「腫瘍新生血管」とは、腫瘍組織内に存在する血管であって、既存の血管系から分岐して新生することにより形成された血管を意味する。
腫瘍の種類は、固形腫瘍である限り特に限定されない。腫瘍としては、例えば、膠芽腫、食道癌(好ましくは、食道扁平上皮癌)、胃癌(好ましくは、胃腺癌)、結腸癌(好ましくは、結腸腺癌)、肺癌(好ましくは、肺腺癌)、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、骨・軟部肉腫、尿管癌、膀胱癌、子宮癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌等を挙げることが出来る。腫瘍は、好ましくは、膠芽腫、食道癌(好ましくは、食道扁平上皮癌)、胃癌(好ましくは、胃腺癌)、結腸癌(好ましくは、結腸腺癌)又は肺癌(好ましくは、肺腺癌)である。
YB−1の発現は、YB−1の翻訳産物(即ち、ポリペプチド)を特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法により該翻訳産物を検出することにより測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。
抗体による抗原Xの「特異的な認識」とは、抗原抗体反応における、抗体の抗原Xに対する親和性が、抗原X以外の抗原に対する親和性よりも強いことを意味する。
YB−1を特異的に認識する抗体は、YB−1ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
YB−1の発現は、また、YB−1の転写産物(即ち、YB−1をコードするmRNA)やcDNA(例えば、配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド)を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT-PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。
本発明の検出方法に用いられる、核酸プローブや核酸プライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。従って、本明細書においてあるヌクレオチド配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該ヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、該ヌクレオチド配列と相補的な配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、それらのハイブリッドである二本鎖ポリヌクレオチドをすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
本明細書において、「核酸プローブによるYB−1をコードするmRNA又はcDNAの特異的な検出」とは、核酸プローブがYB−1をコードするmRNA又はcDNAに対して、YB−1以外の遺伝子をコードするmRNA又はcDNAに対するよりも高いアフィニティを有することにより、適切なハイブリダイゼーション条件下で、YB−1をコードするmRNA又はcDNAにはハイブリダイズするが、YB−1以外の遺伝子をコードするmRNA又はcDNAへはハイブリダイズしないことを意味する。
このようなハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件として、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC、0.1%SDSである。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度等の複数の要素があり、当業者はこれらの要素を適宜選択することで、同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
1つの好ましい態様において、本発明の検出方法に用いられる核酸プローブは、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列(例えば、配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)又はその連続した部分配列或いはそれらの相補配列を含む。該部分配列又はその相補配列の長さは、12ヌクレオチド以上、好ましくは15ヌクレオチド以上、より好ましくは18ヌクレオチド以上、更に好ましくは20ヌクレオチド以上(例えば、25ヌクレオチド以上)である。また、該部分配列またはその相補配列の長さの上限は特に限定されないが、合成の容易さの観点から、該長さは、通常500ヌクレオチド以下、好ましくは100ヌクレオチド以下、より好ましくは50ヌクレオチド以下、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。
核酸プローブが、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列又はその連続した部分配列の相補配列を含む場合、該相補配列が有する相補性は100%である。
核酸プローブの長さは、少なくとも12ヌクレオチド以上、好ましくは15ヌクレオチド以上、より好ましくは18ヌクレオチド以上、更に好ましくは20ヌクレオチド以上である。また、核酸プローブの長さの上限は特に限定されないが、合成の容易さの観点から、通常1000ヌクレオチド以下、好ましくは100ヌクレオチド以下、より好ましくは50ヌクレオチド以下、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。
核酸プローブは、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列又はその連続した部分配列或いはそれらの相補配列に加えて、任意の付加的配列を含んでいてもよい。
また、該核酸プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C、33P、32P等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
本明細書において、「核酸プライマーによるYB−1をコードするmRNA又はcDNAの特異的な検出」とは、核酸プライマーが、適切なPCR反応条件下において、YB−1をコードするmRNA又はcDNAを鋳型として、YB−1をコードするmRNA又はcDNAの全部または一部の領域をPCR増幅するが、YB−1以外の遺伝子をコードするmRNA又はcDNAを鋳型として、当該遺伝子をコードするmRNA又はcDNAの全部または一部の領域をPCR増幅しないことを意味する。
上記(2)の核酸プライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。
1つの好ましい態様において、本発明の検出方法に用いられる核酸プライマーは、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列(例えば、配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)又はその連続した部分配列或いはそれらの相補配列を含む。該部分配列又はその相補配列の長さは、12ヌクレオチド以上、好ましくは15ヌクレオチド以上、より好ましくは18ヌクレオチド以上、更に好ましくは20ヌクレオチド以上(例えば、25ヌクレオチド以上)である。また、該部分配列またはその相補配列の長さの上限は特に限定されないが、合成の容易さの観点から、該長さは、通常500ヌクレオチド以下、好ましくは100ヌクレオチド以下、より好ましくは50ヌクレオチド以下、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。
核酸プライマーが、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列又はその連続した部分配列の相補配列を含む場合、該相補配列が有する相補性は100%である。
核酸プライマーの長さは、少なくとも12ヌクレオチド以上、好ましくは15ヌクレオチド以上、より好ましくは18ヌクレオチド以上、更に好ましくは20ヌクレオチド以上である。また、核酸プローブの長さの上限は特に限定されないが、合成の容易さの観点から、通常1000ヌクレオチド以下、好ましくは100ヌクレオチド以下、より好ましくは50ヌクレオチド以下、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。
PCRの増幅産物が、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列に含まれる通常50〜1000、例えば50〜500ヌクレオチドの連続した部分配列を含むように、当業者であれば容易に適切な核酸プライマー対をデザインすることができる。
核酸プライマーは、YB−1をコードするmRNA又はcDNAのヌクレオチド配列又はその連続した部分配列或いはそれらの相補配列に加えて、任意の付加的配列を含んでいてもよい。
また、核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C、33P、32P等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
上記核酸プローブ及び核酸プライマーは、例えば、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
そして、YB−1発現の測定の結果、YB−1の発現が認められた細胞を、腫瘍新生血管の血管内皮細胞である可能性が高い細胞として検出又は同定することができる。
ここで、YB−1は腫瘍細胞においても発現することが知られている。腫瘍細胞と腫瘍新生血管血管内皮細胞とは細胞の形態が異なるため、組織学的な観察を行うことにより二者を区別可能であることから、免疫組織学的染色や、In situハイブリダイゼーション法によりYB−1の発現を測定する場合には、腫瘍細胞と腫瘍新生血管血管内皮細胞との両方を含む試料を用いた場合であっても、YB−1発現を測定するのみで、容易に腫瘍新生血管血管内皮細胞を検出することが可能である。しかしながら、より的確に腫瘍新生血管血管内皮細胞を腫瘍細胞から区別するため、本発明の検出方法は、少なくとも1種の血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの発現を測定することを更に含むことが好ましい。
「血管内皮細胞特異的バイオマーカー」とは、血管内皮細胞以外のいずれかの組織や細胞と比較して、血管内皮細胞における発現量が高い遺伝子(又はその翻訳産物)を意味する。血管内皮細胞特異的バイオマーカーは当該技術分野において周知であり、当業者は所望の血管内皮細胞特異的バイオマーカーを適宜選択することが出来る。血管内皮細胞特異的バイオマーカーとしては、VE-cadherin、Angiopoietin-1、Tie2、PECAM1、CD34、CD31、Prostaglandin D2、フォンウィルブランド因子(von willebrand factor)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
「新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー」とは、既存の血管内皮細胞と比較して、新生血管における発現量が高い遺伝子(又はその産物)を意味する。新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーとしては、MIB-1、Ki-67、BAI1、ARIA等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの発現の測定は、上述のYB−1の発現の測定に準じて、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの翻訳産物(即ち、ポリペプチド)を特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法により該翻訳産物を検出するか、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの転写産物(即ち、該バイオマーカーをコードするmRNA)やcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT-PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。
そして、測定の結果、YB−1の発現に加えて、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの発現が認められた細胞を、腫瘍新生血管血管内皮細胞である可能性が高い細胞として検出又は同定することができる。
本発明の検出方法を用いれば、腫瘍新生血管の血管内皮細胞を的確に検出することができるので、例えば、腫瘍の新生血管を標的とした抗腫瘍薬の治療効果のモニタリング等に有用である。
また、本発明は、YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出用試薬(又は検出用キット)を提供する。「YB−1を特異的に認識し得る抗体」及び「YB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー」の定義は上述の通りである。当該検出試薬を用いることにより、上記本発明の検出方法により、容易に腫瘍新生血管の血管内皮細胞を検出することが出来る。
好ましい態様において、本発明の検出用試薬は、更に、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む。「血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーを特異的に認識し得る抗体」及び、「血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーをコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー」の定義は、それぞれ、「YB−1を特異的に認識し得る抗体」及び「YB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー」の定義に準じる。該試薬を用いることにより、上記本発明の検出方法により、YB−1に加えて、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカーの発現を測定することにより、腫瘍新生血管血管内皮細胞をより的確に検出することが出来る。
本発明の検出用試薬は、YB−1等の発現の測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、本発明の検出用試薬が、YB−1等を特異的に認識する抗体を含むものであれば、免疫学的手法によりYB−1等の発現を測定することにより、腫瘍新生血管血管内皮細胞を検出することが出来る。この場合、本発明のキットは、標識二次抗体、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、ELISAプレート、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。
本発明の検出用試薬が、YB−1等をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含むものであれば、RT-PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等によりYB−1等の発現を測定することにより、腫瘍新生血管血管内皮細胞を検出することができる。RT-PCRを測定に用いる場合には、本発明の検出用試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)、逆転写酵素等をさらに含むことができる。ノザンブロッティングやcDNAアレイを測定に用いる場合には、本発明の検出用試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。in situ ハイブリダイゼーションを測定に用いる場合には、本発明の検出用試薬は、標識化試薬、発色基質等をさらに含むことができる。
本発明の検出用試薬に含まれる各構成要素は、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に適当な濃度となるように溶解されるか、あるいは凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容され、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出用キットとして提供することが出来る。
また、本発明は、以下の(I)及び(II)を含む、組み合わせ物を提供する:
(I)YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー;及び
(II)血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー。
各用語の定義は、上記の通りである。本発明の組み合わせ物は、上述の本発明の検出用試薬(キット)として有用である。
2.YB−1の発現を抑制する物質を含む剤
本発明は、YB−1の発現を抑制する物質を含む剤を提供する。
YB−1の発現を抑制する物質としては、例えば、YB−1の発現を特異的に抑制し得る抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物が挙げられる。好ましくは、YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターが用いられる。
本明細書中、「特異的な遺伝子発現の抑制」とは、標的とする遺伝子の発現を、それ以外の遺伝子の発現よりも強く抑制することを意味する。
YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNAとしては、例えば
(A)YB−1をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその連続する部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む2本鎖のRNA、及び
(B)YB−1をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることによりYB−1の転写を抑制する2本鎖のRNAを挙げることができる。
本明細書中、「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸が、標的とするヌクレオチドに対して、それ以外のヌクレオチドよりも強くハイブリダイズすることを意味する。
YB−1をコードするmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(ヒトYB−1)、配列番号3で表されるヌクレオチド配列(マウスYB−1)を挙げることが出来る。
短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
siRNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその連続する部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もsiRNAの好ましい態様の1つである。
siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。siRNAが23塩基よりも長い場合には、該siRNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜50塩基以上、好ましくは約19〜約25塩基である。
また、siRNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜50塩基以上、好ましくは約19〜約25塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
siRNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、siRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNAと特異的にハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
YB−1の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)YB−1をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその連続する部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)YB−1をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態でYB−1ポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、YB−1の発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、YB−1の発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、YB−1のmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、好ましくは、標的配列はYB−1のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でYB−1のmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
さらに、アンチセンス核酸は、YB−1のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるYB−1遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるsiRNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。siRNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNA及びアンチセンス核酸は、YB−1のmRNA配列(例えば配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を合成することにより調製できる。siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
本発明の剤は、YB−1の発現を特異的に抑制するsiRNA又はアンチセンス核酸を発現し得る(コードする)発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターにおいては、上述のsiRNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞(例えば、血管内皮細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
siRNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
上記発現ベクターは、好ましくは上述のポリヌクレオチド又はそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
本発明の剤は、YB−1の発現を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
YB−1の発現を抑制する物質として、YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いる場合、核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。また、核酸導入試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。
本発明の剤の投与単位形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤などが例示される。
医薬組成物中のYB−1の発現を抑制する物質の含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%である。
本発明の剤は、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、外用剤の場合には、皮膚ないしは粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合には静脈内、筋肉内、皮内、皮下、関節腔内、腹腔内もしくは腫瘍組織内に投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
本発明の剤は、通常、YB−1の発現を抑制する物質が、標的とする新生血管の内皮細胞(例えば、腫瘍新生血管血管内皮細胞)に送達されるように、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ヒト)に対して安全に投与される。
後述の実施例に示すように、YB−1の発現をsiRNA等により抑制すると、血管内皮細胞の増殖(特に、血管内皮細胞増殖因子依存的な増殖)が阻害される。更に、YB−1は、腫瘍新生血管血管内皮細胞において特異的に発現している。従って、本発明の剤は、血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤)、特に腫瘍血管の血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤)として有用である。YB−1は腫瘍細胞においても発現し、腫瘍細胞の薬剤耐性や増殖に関与し、YB−1の発現を抑制すると、腫瘍細胞の増殖が阻害されることが知られている。従って、本発明の剤は、腫瘍細胞及び腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤(好ましくは腫瘍細胞および腫瘍新生血管血管内皮細胞の増殖阻害剤)としても有用である。本発明の剤を投与し、YB−1の発現を抑制することにより、腫瘍細胞と腫瘍血管血管内皮細胞(好ましくは腫瘍新生血管血管内皮細胞)の双方の増殖を阻害することが出来る。
本発明の剤が適用可能な腫瘍の種類は、固形腫瘍である限り特に限定されない。腫瘍としては、例えば、膠芽腫、食道癌(好ましくは、食道扁平上皮癌)、胃癌(好ましくは、胃腺癌)、結腸癌(好ましくは、結腸腺癌)、肺癌(好ましくは、肺腺癌)、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、骨・軟部肉腫、尿管癌、膀胱癌、子宮癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌等を挙げることが出来る。腫瘍は、好ましくは、膠芽腫、食道癌(好ましくは、食道扁平上皮癌)、胃癌(好ましくは、胃腺癌)、結腸癌(好ましくは、結腸腺癌)又は肺癌(好ましくは、肺腺癌)である。
3.スクリーニング方法
本発明は、被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否か評価することを含む、血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤)(好ましくは腫瘍血管の血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤))の候補物質、又は腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤(好ましくは、腫瘍細胞及び腫瘍新生血管血管内皮細胞の増殖阻害剤)の候補物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法においては、YB−1の発現を抑制する物質を、血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤)の候補物質、又は腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤の候補物質として得ることが出来る。
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、
1)YB−1の発現を測定可能な細胞を用いたYB−1の発現の測定、
2)動物を用いたYB−1の発現の測定
などに基づき行われ得る。
上記1)において、YB−1の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とYB−1の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるYB−1の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるYB−1の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、YB−1の発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がYB−1の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。YB−1の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
YB−1の発現を測定可能な細胞とは、YB−1の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。YB−1の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、YB−1発現細胞であり得、一方、YB−1の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、YB−1遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。YB−1の発現を測定可能な細胞は、哺乳動物(例、ヒト、マウス)の細胞であり得る。
YB−1発現細胞は、YB−1を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、YB−1発現細胞として、血管内皮細胞(特に、血管内皮細胞増殖因子により刺激された血管内皮細胞)、腫瘍細胞(例、卵巣癌細胞、乳癌細胞、骨肉腫細胞、甲状腺癌細胞、脳腫瘍細胞、肺癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、食道癌細胞、リンパ腫細胞等)を使用することもまた好ましい。
YB−1遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、YB−1遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。YB−1遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。YB−1遺伝子の転写調節領域は、YB−1の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、YB−1遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのYB−1の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
YB−1遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、YB−1遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、YB−1に対する生理的な転写調節因子を発現し、YB−1の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、YB−1発現細胞が好ましい。
被験物質とYB−1の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
上記方法の工程(b)では、被験物質を接触させた細胞におけるYB−1の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、上述した自体公知の方法により行われ得る。また、YB−1の発現を測定可能な細胞として、YB−1転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるYB−1の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるYB−1の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるYB−1の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるYB−1の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、YB−1の発現量を減少させた被験物質が選択される。
上記2)において、動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a’)〜(c’)を含み得る:
(a’)被験物質を動物に投与する工程;
(b’)被験物質を投与した動物におけるYB−1の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるYB−1の発現量と比較する工程;
(c’)上記(b)の比較結果に基づいて、YB−1の発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
なお、本方法論は、(b’)及び(c’)の工程のみを必須とすることもできる。
上記方法の工程(a’)では、動物として、任意の温血動物、例えば、上述の哺乳動物(マウス等)が使用され得る。被験物質の温血動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
上記方法の工程(b’)では、YB−1の発現量測定は自体公知の方法により測定され得る。例えば、動物から単離又は採取された血管内皮細胞や腫瘍細胞におけるYB−1の発現量が、上記1)の方法の工程(b)と同様の方法論により測定され得る。本工程(b’)における発現量の比較及び上記方法の工程(c’)もまた、上記1)の方法論と同様に行われ得る。
評価の結果、YB−1の発現量を減少させた(発現を抑制する)被験物質を、血管新生阻害剤(又は血管内皮細胞増殖阻害剤)の候補物質、又は腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤の候補物質として選択することができる。YB−1は腫瘍新生血管に特異的に発現していることから、YB−1の発現量を減少させる被験物質は、特に、腫瘍血管の血管新生を阻害する効果に優れていることが期待される。YB−1は腫瘍細胞においても発現し、腫瘍細胞の薬剤耐性や増殖に関与し、YB−1の発現を抑制すると、腫瘍細胞の増殖が阻害されることが知られていることから、本発明のスクリーニング方法により得られる物質は、腫瘍細胞と腫瘍血管血管内皮細胞の双方の増殖を阻害する作用を有する優れた腫瘍治療剤のシーズとして有用である。
本発明のスクリーニング方法においては、YB−1の発現量を抑制する物質として得られた被験物質が、血管内皮細胞の増殖を抑制するか、更に評価し、血管内皮細胞の増殖を抑制する物質を選択してもよい。該評価及び選択は、具体的には以下の工程を含む:
(a’’)被験物質と血管内皮細胞とを接触させる工程;
(b’’)被験物質を接触させた血管内皮細胞の増殖を測定し、該増殖を被験物質を接触させない対照細胞の増殖と比較する工程;
(c’’)上記(b’’)の比較結果に基づいて、血管内皮細胞の増殖を抑制する被験物質を選択する工程。
工程(a’’)及び(b’’)は、インビトロ又はインビボの系で行われる。
インビトロの系で工程(a’’)及び(b’’)を行う場合、工程(a’’)では、被験物質が生体外で血管内皮細胞と接触条件下におかれる。血管内皮細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
血管内皮細胞は、哺乳動物(例、ヒト、マウス)の細胞であり得る。
血管内皮細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。
被験物質と血管内皮細胞との接触に用いられる培地は、細胞の由来する動物種などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが用いられる。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
被験物質と血管内皮細胞との接触に用いられる培地には、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が含まれていてもよい。血管内皮細胞増殖因子を加えることにより、YB−1の発現量を抑制する物質として得られた物質が、血管内皮細胞増殖因子依存的な血管内皮細胞の増殖を抑制するか確認することができる。腫瘍組織においては、腫瘍から放出された血管内皮細胞増殖因子が血管内皮細胞の増殖を促進し、腫瘍血管の血管新生を促進すると考えられている。従って、血管内皮細胞増殖因子を加える評価系は、生体内における腫瘍血管の血管新生により近い条件であるため、腫瘍血管新生阻害剤の候補物質や、腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖剤の候補物質をスクリーニングする場合に有利である。
上記方法の工程(b’’)では、先ず、被験物質を接触させた細胞における血管内皮細胞の増殖が測定される。細胞増殖の測定は、セルカウント、Hチミジンの取り込み、BRDU法等の自体公知の方法により行われ得る。
次いで、被験物質を接触させた血管内皮細胞の増殖が、被験物質を接触させない対照細胞の増殖と比較される。増殖レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞の増殖は、被験物質を接触させた血管内皮細胞の増殖の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
インビボの系で工程(a’’)及び(b’’)を行う場合、工程(a’’)では、被験物質を非ヒト哺乳動物(マウス等)に投与することにより、該被験物質を非ヒト哺乳動物内の血管内皮細胞へ接触する。
好ましい態様において、当該非ヒト哺乳動物は、固形腫瘍を有する。腫瘍組織内に腫瘍新生血管が形成されるため、当該非ヒト哺乳動物へ被験物質を投与することにより、当該被験物質を腫瘍新生血管の血管内皮細胞へ接触させることが可能となる。
工程(b’’)では、被験物質を投与した非ヒト哺乳動物における血管内皮細胞(好ましくは腫瘍新生血管の血管内皮細胞)の増殖が測定される。細胞増殖の測定は、顕微鏡による組織学的検査、BRDU法、Hチミジンの取り込み、BRDU法等の自体公知の方法により行われ得る。
次いで、被験物質を投与した非ヒト哺乳動物における血管内皮細胞の増殖が、被験物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における血管内皮細胞の増殖と比較される。増殖レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における血管内皮細胞の増殖は、被被験物質を投与した非ヒト哺乳動物における血管内皮細胞の増殖の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
インビボ及びインビトロの双方の系において、上記方法の工程(c’’)では、血管内皮細胞(好ましくは腫瘍新生血管の血管内皮細胞)の増殖を抑制した被験物質を、血管新生阻害剤(好ましくは、腫瘍血管の血管新生阻害剤)の候補物質、又は腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤(好ましくは、腫瘍細胞及び腫瘍新生血管血管内皮細胞の増殖阻害剤)の候補物質として選択することができる。このように、血管内皮細胞(好ましくは腫瘍新生血管の血管内皮細胞)の増殖に対する効果を評価することにより、より高い効率で、血管新生阻害剤(好ましくは、腫瘍血管の血管新生阻害剤)の候補物質、又は腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤(好ましくは、腫瘍細胞及び腫瘍新生血管血管内皮細胞の増殖阻害剤)の候補物質を得ることができる。
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(材料及び方法)
ヒト組織試料の調製
一般臓器の正常ヒト組織試料は、3つの検死症例及び外科的に切除した試料の非腫瘍部位から得た。ヒト新生物組織試料及びヒト炎症組織試料については、外科的に切除した試料を、日本国、北九州にある、産業医科大学の第2病理学教室において試験した。これらの症例については、各組織の世界保健機関病理学的タイピングに従って分類した。診断は、ホルマリン固定をし、パラフィン包埋し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)染色か、適切な免疫組織学的染色を施した切片を検査した、少なくとも3人の機関認定外科病理学者により再評価され、確認された。
免疫組織学的試験
標本を、20%ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン中に包埋した。4μm厚の組織切片を脱パラフィン化し、段階的なキシレン予備アルコールにより脱水し、3%過酸化水素で室温にて5分間インキュベートすることにより、内在性のペルオキシダーゼ活性を除去した。
抗YB−1抗体については以前記載している(British Journal of Cancer 2006;94:710-716)。抗GFAP抗体及び抗MIB−1抗体のための抗原修復を、0.1 mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)により、マイクロ波及び15分間のオートクレーブを用いて行った。切片を、以下の抗体のいずれか1つとインキュベートした;マウスモノクローナル抗GFAP抗体(1:100, DAKO, Glostrup, Denmark)、マウスモノクローナル抗CD34抗体(1:50, Immunotech, Marseille, France)、及びマウスモノクローナル抗MIB−1抗体(1:50, DAKO, Glostrup, Denmark)。それに引き続き、Envision plus system (Dako, Carpinteria CA, USA)を用いた抗体架橋ラベリングの染色を、ヘマトキシリン対比染色と共に行った。
細胞培養
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC-Umbil Vein, Pooled Cells)をLonza Walkersville Inc. (MD, USA)より購入し、製造者が推奨する増殖因子を含有する培地中で維持した。該培地は、製造者の指示書に従い、内皮細胞添加因子セット-2 であるEGM-2 SingleQuots(製品コード CC-4176、Lonza社製品)の全量を基本培地に添加することにより調製した。該培地は、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、FBS(ウシ胎児血清)、hFGF−B(組換えヒト繊維芽細胞成長因子、塩基性)、アスコルビン酸、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、R3−IGF(インシュリン様成長因子)−1、及びGA-1000(ゲンタマイシン及びアンホテリシン−B)を含む。
HUVECの増殖アッセイ
以下の2本鎖RNA 25bpオリゴヌクレオチドを商業的に製造した(Invitrogen):
YB-1 siRNA YBX1-HSS166993
5’-UGGAUAGCGUCUAUAAUGGUUACGG-3’ (センス)(配列番号5)、及び5’-CCGUAACCAUUAUAGACGCUAUCCA-3’ (アンチセンス) (配列番号6);
YB-1 siRNA YBX1-HSS166994
5’-UUUGCUGGUAAUUGCGUGGAGGACC-3’ (センス) (配列番号7)、及び
5’-GGUCCUCCACGCAAUUACCAGCAAA-3’ (アンチセンス) (配列番号8)。
5.0 x 104 個のHUVECを、12穴プレート中に播き、以前記載したように25 nmol/LのsiRNAでトランスフェクトした(Oncogene 2007;26:4749-4760)。トランスフェクションから24時間後を0時間と設定した。細胞をトリプシンにより回収し、Coulter-typeセルサイズアナライザー(CDA-500, Sysmex)により毎日カウントした。尚、増殖アッセイは、上述のEGM-2 SingleQuotsを添加した培地を用いて行った。
ウェスタンブロッティング
3 x 105個のHUVECを6穴プレートに播き、上述のように50 nmol/LのsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後に、50 mM Tris/HCl (pH 8.0) 、1 mM EDTA、120 mM NaCl、0.5% Nonidet P-40、及び1 mM PMSFを含むライシスバッファーで可溶化した。ライセートを、21,000 g、4℃にて10分間遠心分離し、上清(25μg)を10% (w/v) SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、PVDF微小多孔性膜(Millipore, Bedford, MA, U.S.A.)へトランスファーした。その膜を、抗YB−1抗体(Cancer Research 1999;59:342-346) 1:10,000又は抗βアクチン抗体(A5441, Sigma Aldrich, MO, USA) 1:10,000で1時間イムノブロットし、HRP結合抗ウサギIg抗体又は抗マウスIg抗体で40分間インキュベートした。増強されたケミルミネッセンス(Amersham, Piscataway, NJ, USA)を用いて検出を行った。タンパク質発現レベルは、Multi Gauge Version 3.0 (Fujifilm, Tokyo, Japan)を用いて数値的に評価された。
統計学的解析
ピアソン相関を統計学的解析のために用い、有意性は5%レベルに設定した。
(結果)
脳腫瘍におけるYB−1発現
多形神経膠芽腫(GBM)は、予後が悪く、殆どが再発する重篤な疾患である(WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon: IARC Press, 2007, pp 33-49;Cancer Research 2004;64:6892-6899;Lancet 2002;359:1011-1018)。本発明者らは、まずGBMにおけるYB−1発現を調べた。なぜなら、脳腫瘍におけるYB−1発現の免疫学的解析についてはこれまでに報告されていないからである。免疫組織学的試験の結果、26のGBM症例の全てにおいてYB−1発現が示された(データ示さず)。2つの典型的な症例を図1に示す。膠芽腫細胞は、GBMの診断バイオマーカーであるグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)を高度に発現していた。GBMの確実な組織化学的特徴である(American Journal of Pathology 2001;158:1145-1160;WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Lyon: IARC Press, 2007, pp 33-49)GFAPは、糸球体様小体を含む血管では観察されなかった。糸球体様小体を含む腫瘍血管は抗CD34抗体によりよく染色された。興味深いことに、YB−1発現は、腫瘍及び腫瘍血管の双方において見出された(図1A、症例1)。症例2(図1B)において示されるように、CD34発現は全ての血管において見出されたが、YB−1発現は、大血管の周囲の小さな腫瘍血管においてのみ認められた。Ki−67陽性細胞が、末梢腫瘍血管においても認められた。このことは、YB−1が血管新生性の血管内皮細胞に発現していることを示している。YB−1発現を、400倍の拡大率において更に確認した(図1C及びD)。YB−1は血管内皮細胞において顕著に見出された。
他の固形腫瘍におけるYB−1発現
多くの研究により、乳房、肺、結腸、卵巣、軟組織等の種々の固形腫瘍において、YB−1が高度に発現していることが示されてきた(Translational Oncogenomics 2007;2:49-65)。しかしながら、腫瘍血管におけるYB−1発現についてはこれまでに報告されていない。図2に示すように、本発明者らは、食道、肺、胃および結腸に由来する4種の固形腫瘍におけるYB−1発現を調べた。これらの固形腫瘍の癌細胞において高いYB−1発現が再現性よく観察された(図2(A)3−(D)3)。本発明者らは、線維芽細胞、炎症細胞、細胞外マトリクス及び血液血管から構成される線維形成性ストローマの領域のYB−1発現を慎重に観察し、YB−1は、腫瘍血管の血管内皮細胞において有意に発現していることを見出した(図2(A)5−(D)5及び図3)。くわえて、これらの細胞は、抗CD34抗体により陽性に染色された(図2(A)6−(D)6及び図3)。
YB−1発現及び非腫瘍性血管新生
血管新生の腫瘍特異的な阻害は、癌患者のための治療戦略を確立する上で最も重要なことである。YB−1が腫瘍特異的血管内皮マーカーの1つであるか、調べるために、本発明者らは、正常組織及び炎症を伴う肉芽性組織の血管内皮細胞におけるYB−1発現を調べた。図4に示すように、YB−1発現は、正常かつ血管新生性の組織である、胎仔組織、新生仔肺及び胎盤の血管内皮細胞においては検出されなかった。一方、YB−1発現は炎症領域の血管内皮細胞において弱くではあるが、認められた(図5)。
HUVECのYB−1依存的増殖
様々な妊娠週齢(20週、23週、24週、26週、27週、37週、38週及び39週)の臍帯静脈のいずれにおいても、YB−1の発現は観察されなかった(データ示さず)。しかしながら、先の研究(Nucleic Acids Research 2004;32:611-622)では正常組織由来のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてYB−1の発現が観察された。そこで、本発明者らは、YB−1の発現がHUVECの増殖に寄与しているかどうか、調べた。YB−1に特異的なsiRNAは、コントロールsiRNAと比較して、約14〜27%にまで、YB−1の発現を効率的に下方制御した(図6A及びB)。図6Cに示すように、YB−1発現の下方制御により、HUVECの成長因子依存的な増殖が消失した。
以上の結果から、YB−1が腫瘍血管血管内皮細胞特異的なバイオマーカーであること、そしてYB−1の発現を抑制することにより、腫瘍新生血管の血管内皮細胞の増殖を抑制し、結果的に腫瘍の増殖を阻害し得ることが示唆された。
本発明の腫瘍新生血管の血管内皮細胞の検出方法を用いれば、腫瘍組織における新生血管をより的確に検出することができるので、例えば腫瘍新生血管を標的とする抗腫瘍薬の治療効果のモニタリングに有用である。
本発明により、YB−1の阻害という新たなメカニズムに基づく血管新生阻害剤やそのスクリーニング方法が提供される。YB−1は腫瘍新生血管の血管内に細胞に特異的に発現し、正常組織や炎症組織の血管内皮細胞には全く又は殆ど発現しないので、本発明の血管新生阻害剤は、特に腫瘍組織における血管新生を選択的に阻害するのに有用である。また、YB−1は、腫瘍細胞の薬剤耐性や増殖に関連することが知られているので、本発明の血管新生阻害剤は、結果として腫瘍細胞と腫瘍血管血管内皮細胞の双方を同時に増殖抑制することが可能であり、優れた抗腫瘍薬として有用である。

Claims (14)

  1. YB−1の発現を測定することを含む、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出方法。
  2. 血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)の発現を測定することを更に含む、請求項1記載の方法。
  3. YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、腫瘍新生血管血管内皮細胞の検出用試薬。
  4. 更に、血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを更に含む、請求項3記載の試薬。
  5. 以下の(I)の群から選択される少なくとも一の物質及び、(II)の群から選択される少なくとも一の物質を含む、組み合わせ物:
    (I)YB−1を特異的に認識し得る抗体、或いはYB−1をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー;及び
    (II)血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)を特異的に認識し得る抗体、或いは血管内皮細胞特異的バイオマーカー又は新生血管血管内皮細胞特異的バイオマーカー(ただし、YB−1を除く)をコードするmRNA又はcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー。
  6. YB−1の発現を抑制する物質を含む、血管新生阻害剤。
  7. 腫瘍血管の血管新生阻害剤である、請求項6記載の阻害剤。
  8. YB−1の発現を抑制する物質が、YB−1の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、請求項6記載の阻害剤。
  9. YB−1の発現を抑制する物質を含む、腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤。
  10. 腫瘍が、膠芽腫、食道癌、胃癌、大腸癌及び肺癌からなる群から選択されるいずれかである、請求項9記載の阻害剤。
  11. YB−1の発現を抑制する物質が、YB−1の発現を特異的に抑制し得る抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、請求項9記載の阻害剤。
  12. 被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否か評価することを含む、血管新生阻害剤の候補物質のスクリーニング方法。
  13. 血管新生阻害剤が腫瘍血管の血管新生阻害剤である、請求項12記載のスクリーニング方法。
  14. 被験物質がYB−1の発現を抑制し得るか否かを評価することを含む、腫瘍細胞および腫瘍血管血管内皮細胞の増殖阻害剤の候補物質のスクリーニング方法。
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