以下、本発明の実施の形態に係る塗工紙について説明する。なお、本発明は必ずしも以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
本形態の塗工紙は、基紙の表面及び/又は裏面上に顔料及び接着剤を主成分とする塗工層が設けられたものである。
動的液体浸透性とは、塗工紙の表面特性、濡れ性、吸収特性の観点から液体浸漬現象を分析するものであり、ごく短時間範囲におけるサイズ度を評価できるものである。
本発明では、動的液体浸透性をMUTEC社製造の表面・サイズ度テスター(型番:EST12)を用いて評価した。
EST12の測定原理は次のとおりである。測定セル内の試験液を試料ホルダに固定した基材(試料)に浸漬する。測定セルの中には超音波送信器があり、反対側に受信器が置かれている。試料が試験液に触れると、送信器は直ちに試料を通して超音波信号が送られ、液体が浸透する間に、信号が反射、散乱し、吸収される。この信号変化の結果は受信器で記録され、組み込まれたプロセッサが試料の吸収(浸透)特性を計算する。
液体が試料に浸透するとき一般的な浸透曲線が得られるが、図1に示されるように、EST12は自動的に特性パラメータ(W:表面特性、S:濡れ性、A:吸収性)を求めて時間(s)と信号強度(%)との関係をもって画面に表示するようになっている。
パラメータ“W”は表面の粗さと多孔性を示す。これは斜線部分の大きさから計算される(浸透曲線参照)。試料の表面の粗さと多孔性が高いほど、曲線の最初の傾きは小さくなる。
パラメータ“S”は表面のサイズ度を示し、紙の試料の疎水性とともに増加する。このパラメータはサイズ剤のタイプ、澱粉の濃度、及び表面の被膜状態の影響を受ける。濡れ性“S”は紙表面が完全に濡れて信号強度が最大になるまでのミリ秒単位の時間として定義される。“S”の最小値は3で、これは30ミリ秒の濡れ性に相当する親水性表面であることを意味する。
吸収性“A”は液体の吸収率を示す。この値は、長時間(例えば60秒、120秒)の水の吸収に関する内部のサイズ度(例えばコッブ値)に一致している。
本発明の塗工紙の吸水度はEST12によって、周波数2MHzで測定された結果、浸透時間2秒後における信号強度が好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上であれば、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であっても、オフセット印刷時に湿し水による断紙が発生しないことが判ったものである。
動的吸水性を向上させるには、後述するとおり、下塗り塗工として水溶性高分子の塗布を行い、上塗り塗工として特定粒径のクレー粒子および特定量のスチレン成分を有するラテックスを含有する顔料塗工層を設けることで達成できる。
(パルプ)
本発明で用いるパルプとしては、機械パルプを全パルプのうち、質量換算で10質量%以上40質量%以下含有することが好ましい。なお、本発明で言う機械パルプの含有量とは、JIS P 8120(1998)紙、板紙及びパルプ−繊維組成試験方法に準拠してC染色液を用いた判別法により判別した機械パルプの繊維配合率を指す。機械パルプ以外のパルプとしては、従来一般に製紙用途で使用される化学パルプを使用することができる。
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。この中でもサーモメカニカルパルプを用いると、異物が少なく繊維同士の強度低下が少なく、断紙防止効果が高いため好ましい。
化学パルプとしては、例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等を原料パルプとして使用することができる。より白色度の高い塗工紙を得るためには、晒パルプであるNBKP、LBKPを用いることが好ましい。
また、化学パルプや機械パルプを使用した古紙から再生される古紙パルプも使用することができ、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。
さらに、本発明に用いるパルプは、塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、このパルプ繊維について、重さ加重の繊維長分布を求め、繊維長0.05mmごとに集計し、繊維長0.10mm以上0.65mm未満の範囲に最大値を有するパルプであることが好ましい。さらに好ましくは0.15mm以上0.60mm未満の範囲に、特に好ましくは0.20mm以上0.55mm未満の範囲に最大値を有することが好ましい。パルプ繊維の繊維長分布における最大値をこの範囲内とすることで、パルプ繊維同士の絡み合いが良好となり、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であっても印刷時の断紙を防止しやすくなる。
ルンケル比についてもFiberLab.(Kajaani社)により測定された繊維幅、繊維壁厚より算出されたものである。本発明で用いるルンケル比は、R.O.H.Runkelが1940年にWachbl.Papierfabr.誌上で発表したパラメータであり、次式で算出される。ルンケル比が大きいほど剛直な繊維であることを示している。
(ルンケル比)=(繊維壁厚の2倍)/(繊維内腔径)
(繊維内腔径)= 繊維幅−(繊維壁厚の2倍)
繊維長0.10mm未満の繊維が多く、繊維長0.10mm以上0.65mm未満の範囲に最大値を有していない場合は、微細繊維が多いため基紙が密になり、印刷時の湿し水を吸収して断紙しやすいため好ましくない。繊維長0.65mmを超過する繊維が多く、繊維長0.10mm以上0.65mm未満の範囲に最大値を有していない場合は、長繊維が多く毛羽立ちやラフニングが発生して印刷適性(印刷後の見栄え)に劣るため好ましくない。加えて、塗工層表面に長繊維が浮き出しやすくなるため白紙光沢度が低下しやすいだけでなく、不透明度も低下しやすい。
繊維長分布で繊維長0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有するパルプ繊維を好適に得るには、従来一般に使用されている叩解方法を用いてフリーネスを調整すれば良く、例えばビーター、コニカルリファイナー、円筒型リファイナー、ディスクリファイナー(SDR、DDR)を用いて調整することができる。サーモメカニカルパルプを例に取れば、例えばDDRを用いてフリーネスを約30〜300mlにまで叩解すれば良く、30〜160mlに調整することが好ましく、30〜80mlに調整することがより好ましい。
叩解して得られたパルプ繊維は、異なる繊維長を有する他のパルプと混合して用いることもでき、その場合は混合後のパルプ繊維が、離解後の繊維長で0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有するよう、繊維長の異なる他のパルプとの配合割合を調整すれば良い。例えばクラフトパルプ(針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹晒クラフトパルプ)およびサーモメカニカルパルプを混合する場合を例にとれば、クラフトパルプを60質量%以上90質量%未満およびフリーネスを約30〜300mlに叩解したサーモメカニカルパルプを10質量%以上40質量%未満の割合で混合すればよい。
短繊維長の繊維が多い機械パルプを、全パルプのうち10質量%以上40質量%未満、更には15質量%以上30質量%未満の割合で用いると、塗工紙を離解して得られたパルプの繊維長が0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有しやすくなる。機械パルプの割合が10質量%未満では、パルプの繊維長が0.65mmを超える範囲に最大値を有する可能性があり、印刷時の断紙を防止しにくいだけでなく、不透明度が低下しやすいため好ましくない。機械パルプの割合が40質量%を超過すると、パルプの繊維長が0.10mm未満に最大値を有する可能性があり、印刷時の断紙を防止しにくいばかりか、不透明度および印刷適性が低下しやすいため好ましくない。
機械パルプとしては、特にサーモメカニカルパルプやケミサーモメカニカルパルプを用いると、離解後の繊維長が0.10〜0.65mmの微細繊維が多い一方でシャイブ(結束繊維)が少なく、見栄えに優れるパルプおよび塗工紙が得られるため好ましい。
本発明においては、更に、離解パルプのルンケル比が1.4〜2.4であることが好ましく、1.5〜1.9であることが更に好ましい。ルンケル比が大きい(壁厚が大きい)ほど、剛直な繊維であり断紙を防止しやすくなるが、一方で毛羽立ちおよびラフニングが悪化して印刷適性や白紙光沢度が低下しやすくなるだけでなく、不透明度も低下しやすい。ルンケル比が小さい(壁厚が小さい)と、柔らかい塗工紙となり十分に断紙を防止しにくいため好ましくない。本発明においては、ルンケル比を好ましくは1.4〜2.4、より好ましくは1.5〜1.9とすることで、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であっても、オフセット輪転印刷において湿し水を吸収することに起因する断紙を防止しやすく、加えて毛羽立ちおよびラフニングが少なく印刷適性に優れ、更には白紙光沢度にも優れる塗工紙が得られやすくなる。ルンケル比が1.4を下回ると、印刷適性が良好となりやすいが、一方で断紙防止効果が低下しやすいため好ましくなく、ルンケル比が2.4を超過すると印刷時の断紙は抑制しやすいが、塗工層表面に毛羽立ちやラフニングが発生して印刷適性が低下し、見栄えに劣る塗工紙となりやすいため好ましくない。
ルンケル比は、パルプの原料として用いる木材の樹種を選別することで調整できる。
針葉樹では、クロマツやツガは繊維幅が小さく壁厚が大きいためルンケル比が大きく(約4以上)、一方、モミ、トドマツ、アカマツ、ヒメコマツは繊維幅が大きく壁厚が小さいためルンケル比が小さく(約1〜2)、カラマツ、エゾマツ、スギ、ヒノキ、ヒバは更に小さい(約1以下)。
広葉樹では、ブナ、アカガシはルンケル比が大きく(約4以上)、マカンバ、ミズナラ、カツラ、ハリギリ、ヤチダモはルンケル比が小さく(約1〜2)、ドロノキ、シナノキ、キリ、アスペン、バーチ、メープルは更に小さい(約1以下)。
本発明に用いるパルプは、離解パルプの繊維長が0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有することが好ましいが、さらには、ルンケル比が1.4〜2.4、好ましくは1.5〜1.9であれば、より断紙防止効果が得られやすいため好ましい。特に、坪量が30g/m2以上50g/m2未満と低い塗工紙の場合は、坪量が低く引張強度および引裂強度が低いため断紙が発生しやすいが、離解パルプの繊維長が0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有し、かつ、ルンケル比が1.4〜2.4、好ましくは1.5〜1.9であると、断紙が発生しにくい、印刷操業性に優れた塗工紙が得られやすいため好ましい。
本発明においては上述のとおり、特定の樹種を用いることでパルプ繊維のルンケル比を調整でき、加えて、一定の叩解を行った機械パルプを含有させることで、0.10〜0.65mmの範囲に最大値を有し、かつ、ルンケル比が1.4〜2.4の範囲であるパルプを製造することができる。
原料パルプには、例えば、内添サイズ剤、紙力増強剤、紙厚向上剤、歩留向上剤等の、通常塗工紙に配合される種々の添加剤を、その種類及び配合量を適宜調整して内添することができる。
(填料)
上記原料パルプに内添させる填料としては、再生粒子または再生粒子凝集体を用いることが好ましく、シリカとシリカ以外の無機粒子とからなる複合粒子を用いることがより好ましく、シリカおよび再生粒子もしくは再生粒子凝集体とからなる複合粒子を用いることが最も好ましい。
シリカとシリカ以外の無機粒子とからなる複合粒子は、従来一般に使用される炭酸カルシウムやタルク、クレーとは、その構成成分や形状が異なり不透明性に優れるため、塗工紙の不透明性を維持したまま基紙中の填料使用量を低減することができる。填料の含有量を低減することにより、基紙中のパルプ繊維同士の絡み合いが良好となるため、得られる塗工紙の引張強度を向上させることができ、印刷時の断紙を防止しやすくなる。
シリカと複合させる無機粒子としては、再生粒子または再生粒子凝集体を用いることが好ましいが、従来一般に製紙用途で填料として使用している炭酸カルシウム(重質および軽質)、タルク、クレー等を用いることもできる。
〔再生粒子および再生粒子凝集体〕
本発明では填料として、不透明度に優れた再生粒子または再生粒子凝集体を用いることが好ましい。
(再生粒子および再生粒子凝集体の製造工程)
再生粒子は、古紙パルプを製造する古紙処理設備の脱墨工程においてパルプ繊維から分離された脱墨フロスや、製紙工場の排水から分離された製紙スラッジを主原料として、前記主原料を脱水、乾燥、燃焼及び粉砕工程を経て得られる。製造方法は、例えば特許第3869455号公報の記載の製法を用いることができる。内添填料として用いる場合は、公知の粉砕方法により粒子径を0.5〜十数μmにまで粉砕して粒子径を調整することが好ましい。粒子径が0.5μmよりも小さいと歩留りが悪く抄紙機系内において異物化しやすいため好ましくなく、十数μmよりも大きいと地合が悪化したり、強度(引張強度や引裂強度)が低下する可能性があるため好ましくない。
ここで再生粒子の粒子径は、レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製により測定した体積平均粒子径である。
上記方法で製造した再生粒子は、個々の粒子が幾つか集まって凝集した再生粒子凝集体を形成しており、ランチュウの肉瘤状のような、不定形な形をしている。この不定形性により、基紙に含有させた場合は紙厚が出やすく、また、高不透明度の粒子であるため填料含有量を低減でき、断紙を防止しやすいため好ましい。
これら再生粒子は、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムを酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含む。好ましくは、40〜82:9〜30:9〜30の質量割合、より好ましくは、60〜82:9〜20:9〜20の割合である。
焼成工程において、再生粒子または再生粒子凝集体のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの酸化物換算割合を調整するための方法としては、脱墨フロスにおける原料構成を調整することが本筋ではあるが、乾燥・分級工程、焼成工程において、出所が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で工程内に含有させる手段や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる手段にて調整することも可能である。
例えば、再生粒子や無機粒子凝集体中のカルシウムの調整には、中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジを用い、ケイ素の調整には、不透明度向上剤としてホワイトカーボンなどが多量に添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジを、アルミニウムの調整には酸性抄紙系等の硫酸バンドの使用がある抄紙系の排水スラッジや、タルク使用の多い上質紙抄造工程における排水スラッジを適宜用いることができる。
〔付帯工程〕
製造設備において、より品質の安定化を求めるには、再生粒子や再生粒子凝集体の粒度を、各工程で均一に揃えるための分級を行うことが好ましく、粗大や微小粒子を前工程にフィードバックすることでより品質の安定化を図ることができる。
また、乾燥工程の前段階において、脱水処理を行った脱墨フロスを造粒することが好ましく、更には、造粒物の粒度を均一に揃えるための分級を行うことがより好ましく、粗大や微小の造粒粒子を前工程にフィードバックすることでより品質の安定化を図ることができる。造粒においては、公知の造粒設備を使用でき、回転式、攪拌式、押し出し式等の設備が好適である。
製造設備においては、再生粒子や再生粒子凝集体以外の異物を除去することが好ましく、例えば古紙パルプ製造工程の脱墨工程に至る前段階のパルパーやスクリーン、クリーナー等で砂、プラスチック異物、金属等を除去することが、除去効率の面で好ましい。特に鉄分の混入は、鉄分が酸化により微粒子の白色度低下の起因物質になるため、鉄分の混入を避け、選択的に取り除くことが推奨され、各工程を鉄以外の素材で設計又はライニングし、磨滅等により鉄分が系内に混入することを防止するとともに、更に、乾燥・分級設備内等に磁石等の高磁性体を設置し選択的に鉄分を除去することが好ましい。
〔シリカおよびシリカ以外の無機粒子からなる複合粒子〕
本発明においては、一般に製紙用途で使用する填料、すなわち、炭酸カルシウム(重質および軽質)、クレー、タルクなどをシリカで複合したシリカ複合粒子を用いることが好ましい。好ましくは、上述の再生粒子または再生粒子凝集体の表面をシリカで複合したシリカ複合再生粒子またはシリカ複合再生粒子凝集体を用いると、より嵩高で不透明度が高い粒子となるため、填料含有量を低減させることができ、印刷時の断紙防止効果が高い塗工紙が得られやすい。断紙を防止するためには、パルプ繊維同士の繊維間結合を阻害する填料を少なくすることが好ましいが、填料を減少させすぎると、塗工紙の印刷不透明度が低下して印刷後の見栄えが悪い塗工紙となる可能性がある。しかしながら本発明において好ましくは、填料としてシリカおよびシリカ以外の無機粒子からなる複合粒子、特に不透明性に優れたシリカ複合再生粒子またはシリカ複合再生粒子凝集体を用いることで填料配合量を低減できるため、断紙防止効果が高いだけでなく、不透明度や印刷適性、印刷品質(白抜け、裏抜け)にも優れた塗工紙が得られやすくなる。
シリカ以外の無機粒子にシリカを析出させる好適な方策としては、特許第3907688号公報や、特許第3935496号公報に記載の方法で行うことが出来る。但し、次のとおり行うことで、より不透明性に優れたシリカ複合粒子が得られるため好ましい。
<シリカ複合粒子>
次に本発明のシリカ複合粒子について、シリカ複合再生粒子を例に取り、製造方法も示しながらさらに詳説する。
(シリカ複合処理工程)
上述のようにして得られた、製紙スラッジや脱墨フロスを主原料とする再生粒子を珪酸アルカリ水溶液に添加・分散しスラリーとするとともに、撹拌しながら50℃〜100℃の温度範囲で、鉱酸を添加する。より望ましくは少なくとも2段階に分けて添加し、シリカ複合の反応を行う。
本形態の再生粒子の填料用途等への好適な粒子径は、粒子径0.5μm〜十数μm、好適には1.0〜3.0μmである。粉砕工程後における再生粒子の粒子径は、レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製により測定した体積平均粒子径である。
再生粒子の粒子径が0.5μmより過度に小さいと、シリカ複合時に十分な粒度がえられないおそれがあるほか、シリカを複合させる際にガラス状に目詰まりさせるおそれがある。本発明の範囲内であると、シリカ複合反応を十分に促進できる。他方、過度に大きい粒子径では過大なシリカ複合再生粒子が生じやすく、不透明性が低下する恐れがある。
シリカ複合は、再生粒子表面に粒子径10〜20nm(走査型電子顕微鏡による実測の粒子径)のシリカゾル粒子を生成させる反応操作である。シリカゾル粒子の粒子径は、反応時の撹拌条件、鉱酸の添加条件などによりコントロール可能である。
本発明者等は、従来は内添する微細粒子の全細孔による細孔容積が吸油量や不透明度の指標とされていた知見を越えて、実質の吸油性は無機微粒子の細孔容積だけでなく、無機微粒子の粒子間に油を保持する能力の寄与が高いことを知見し、鋭意検討を重ね、本発明にて好適に用いることができるシリカ複合再生粒子においては、細孔半径が10,000オングストローム以下の細孔が前記の実質の吸油性に大きく寄与していることを見出している。
本発明においてえられるシリカ複合再生粒子の細孔容積は、水銀圧入式ポロシメーター(テルモ社製「PASCAL 140/240」)を用いた測定値で、10,000Å以下の領域の細孔容積が0.30〜1.10cc/gであり、好適には0.43〜1.03cc/g、より好ましくは0.47〜1.00cc/gである。
10,000Å以下の領域の細孔の細孔容積が0.30cc/g未満では、十分な吸油量の発現がえられず、1.10cc/gを超えると吸油量の向上が見られるものの、不透明度の低下が生じやすい。
本発明における好適な態様においては、えられるシリカ複合再生粒子の粒子径を1.0〜10.0μmの範囲とすること、さらにはシリカ複合再生粒子に含まれる酸化物換算でのシリカの比率を6.0〜42.0質量%とすることで、高い吸油量と不透明度向上効果をえることができる。
珪酸アルカリ水溶液に関しては特に限定されないが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が入手に容易である点で望ましい。珪酸アルカリ溶液の濃度は水溶液中の珪酸分(SiO2換算)で3〜10質量%が好適である。10質量%を超えると再生粒子とシリカとが複合された複合体ではなく、再生粒子がホワイトカーボンで複合されてしまい、芯部の再生粒子の多孔性、光学的特性が発揮されなくなってしまう危険性がある。また、3質量%未満では複合粒子中のシリカ成分が低下するため、シリカ複合再生粒子が形成しにくくなってしまう。
再生粒子または再生粒子凝集体を珪酸アルカリ水溶液に添加、分散しスラリーを調製する場合におけるスラリー濃度は、8〜14質量%が望ましい。スラリー濃度を調整することにより、形成される再生粒子のシリカ複合再生粒子の粒径がコントロールされると同時に再生粒子とシリカの組成比率が決まる。本発明で使用される鉱酸としては希硫酸、希塩酸、希硝酸などの鉱酸の希釈液等が挙げられるが、価格、ハンドリングの点で希硫酸が最も望ましい。さらに、希硫酸を使用する場合の添加時の濃度は、生産効率向上と複合シリカの均質性の面から4〜10N程度の濃度で鉱酸を添加することが好ましい。4N未満では反応が遅く、10Nを超えると局部的な反応が生じ、不定形や偏在するシリカ複合粒子が発生しやすい問題が生じる場合がある。また、鉱酸添加量が多いほど短時間内にシリカが析出するので、それらの条件に併せて添加速度を調整することが望ましい。5分以内の添加は、均一な反応系の構成が不十分になる。
本発明で好適に用いる再生粒子または再生粒子凝集体は、カルシウム、アルミニウム、シリカを構成元素として含有しているために、過度の濃度の鉱酸添加は、再生粒子の変質を生じる恐れがある。
前述のように、本発明は、再生粒子または再生粒子凝集体に対して珪酸アルカリ水溶液を固形分比で、100:5から100:15の割合で添加・分散しスラリーとするとともに、撹拌しながら50〜100℃の温度範囲で、鉱酸を少なくとも2段階に分けて添加し、シリカ複合の反応を行うものである。
再生粒子または再生粒子凝集体に対する珪酸アルカリ水溶液の割合が、固形分比で100:5より少ないと、えられるシリカ複合再生粒子のシリカ複合効果が低く不透明性の向上効果がえられにくく、100:15を超える割合では、吸油量が増加する傾向が顕著になるため、本件発明において好適に用いられる塗工紙の基紙として用いた場合に塗工液の基紙への浸透が過度になり、塗工面の平坦性や基紙表面の複合性が損なわれ、印刷時の湿し水の吸収性にムラが発生して断紙しやすくなる可能性がある。
再生粒子を珪酸アルカリ水溶液に添加する段階において、珪酸アルカリ水溶液の温度を50℃以上の温度に加温することもできるし、その後に加熱することもできる。予め、珪酸アルカリ水溶液の温度を50℃以上の温度に加温した状態で、多孔性の再生粒子を添加すると、加熱による流動性が向上するため、スラリーを均質化させることが容易になり、より均質な珪酸アルカリおよび再生粒子の混合スラリーをえることができる。
他方で、均質化した珪酸アルカリと再生粒子のスラリーを調製した後に、加熱撹拌することもできる。この場合の熱源としては、公知の熱源が利用できるが、例えば工場内の生蒸気(例として13kg/m2、120℃)を吹き込むことにより、昇温時間の短縮が図れるとともに、再生粒子スラリーを添加した際の温度低下を防ぎ、迅速に昇温と反応を進めることが可能になり、生産効率向上が図れる。
本発明でのシリカ複合再生粒子の製造時の反応温度に関しては、50〜100℃のスラリー温度範囲、特に50〜98℃のスラリー温度範囲が望ましい。本発明者らの鋭意検討の結果から、本発明に使用する再生粒子との反応温度はシリカの生成、結晶成長速度および形成されたシリカ複合再生粒子の力学的強度に影響を及ぼす。反応温度が50℃未満ではシリカの生成・成長速度が生じないかまたは遅く、シリカ複合再生粒子のシリカ複合性に劣り、充分に複合しにくく、填料内添紙の抄造時にかかる剪断力で複合が壊れやすい。100℃を超えると、水系反応であるためオートクレーブを使用しなければならないため反応工程が複雑になってしまう。しかも、過度に反応が進み、緻密なシリカ複合再生粒子形態となり、えられるシリカ複合再生粒子の不透明度が低下し目的のものが行われにくい。
本発明では、鉱酸の少なくとも2段の添加と、その際の温度管理を行うのが望ましい。すなわち、第1段階目の鉱酸添加時のスラリー温度が50〜75℃であり、第2段階目以降の鉱酸添加時のスラリー温度が少なくとも第1段階目よりも10℃以上昇温することが望ましい。具体的に望ましい温度条件としては、第1段階の液温を50〜75℃、第2段階を70以上〜100℃と鉱酸の添加段数に併せて昇温させること、反応の最終段階で90℃以上で98℃以下の温度状態にすることであり、これらの温度条件によって、より均質なシリカ複合再生粒子をえることができる。
最終反応液のpHは8.0〜11.0が好ましく、8.3〜10.0がより好ましく、8.5〜9.0が最も好ましい。
従来の珪酸アルカリと鉱酸を反応させてえられるホワイトカーボンの製造においては、珪酸アルカリと鉱酸の反応を完了させるため、pH5.5〜7.0になるまで硅酸アルカリ中に鉱酸を添加する方法が採用されているが、pHが7.0以下と酸性領域になるまで鉱酸を添加すると、再生粒子に含まれるカルシウム成分が水酸化カルシウムに変化しやすくなり、えられるシリカ複合再生粒子の粒子径が過度に低下したり、形状が不均質になり、紙への歩留り低下や紙粉の発生、十分な不透明性がえられにくくなるため好ましくない。pHが11.0を超えると、硅酸アルカリと鉱酸の反応が鈍り、再生粒子表面にシリカが複合しにくくなるため、十分な不透明性がえられにくい問題が生じやすい。
鉱酸の添加を1段階で行う場合、鉱酸の添加時間を、pHが1低下するのに40分以上添加時間がかかるように添加量を設定することが好ましい。
本発明において前述のように鉱酸は2段階以上で添加するのが望ましい。この場合、各段階における鉱酸の添加量を均等に添加することが均質なシリカ複合をえるうえで好ましい。また、1段階の添加(硅酸アルカリ水溶液に対して鉱酸が20〜50%の中和率となるまでの添加)後に、5分〜20分程度の保留時間を作ることで、シリカ複合反応に保留状態を設け、再生粒子表面に均質にシリカを複合させ、第2段階目の鉱酸添加により、さらにシリカの積層複合化を促進させることが可能になり、再生粒子の表面に、より均一にシリカを複合することができる。
1段階の鉱酸添加時間は、10分〜45分の時間がかかるように添加量を設定することが、再生粒子表面にシリカを均等に複合させるにおいて好ましい。2段階以上で鉱酸を添加する場合も、鉱酸の添加時間をpHの変動においてpHが1低下するのに10〜120分程度の時間がかかるように添加量を設定することが、均質なシリカ複合に好ましい。
本反応工程における撹拌は、例えば未反応ゾーンを作らないため、撹拌羽根を逆転させるなどして乱流を生じさせ、あるいは邪魔板を撹拌槽内に設けるなどの撹拌手段を採用することが好ましい。
えられるシリカ複合再生粒子の粒子径は0.5〜10.0μm、シリカ複合再生粒子は、好ましくは、カルシウム、ケイ素およびアルミニウムを、酸化物換算で40〜83:6〜42:7〜18の質量%割合とする。この成分分析は、堀場製作所製のX線マイクロアナライザーを用い、加速電圧(15KV)にて元素分析を行い、構成成分より酸化物換算した値である。
えられるシリカ複合再生粒子のより好適な粒子径は0.6〜9.7μm、最も好適な範囲は1.3〜9.0μm、より好適には2.0〜8.8μmである。
シリカ複合再生粒子の粒子径が0.5μm未満では、シリカ複合の効果が十分に発現できず、吸油量及び不透明度の向上効果が得にくい。シリカ複合再生粒子の粒子径が10.0μmを超えると、塗工紙用の基紙に用いる填料としては、塗工液の吸収能力が過大となり、塗工層表面の平坦性を阻害するだけでなく、引張り、引裂き等の所謂紙質強度の低下や紙粉、抄紙設備の汚損をまねく問題が発現しやすい。
シリカ成分を複合させた後における、酸化物換算でのシリカ(珪素)の比率を6.0〜42.0質量%とすることで、えられるシリカ複合再生粒子を用いた塗工紙の印刷不透明度の向上効果をえることができる。
好適にはシリカ成分の割合を38.0〜42.0質量%、さらに好適には39.0〜42.0質量%とすることが好ましい。シリカ成分の比率が6.0質量%未満では、十分にシリカ複合が行なえていないため、吸油量、不透明度の向上がえられにくく、シリカ成分の比率が42.0質量%を超えると微細なシリカ粒子の充填が過度となり吸油量、不透明度の低下をまねく問題が生じる場合がある。不透明度が低下すると、塗工紙においては填料含有量を増加させる必要があり、より繊維同士の結合を阻害しやすくなり、印刷時の断紙を防止する効果が得られにくいため好ましくない。
シリカ複合による付随効果として、シリカ複合により、白色度が向上する。白色度向上により白紙不透明度は低下する傾向が生じるものの、高い吸油量を有するシリカ複合再生粒子を用いることで、塗工紙に用いられるオフセットインクを用紙内部で吸収できるため、印刷不透明度をさらに向上させることができる。
シリカを再生粒子に複合させることで、再生粒子のもつカチオン性とシリカのアニオン性により繊維間結合を適度に阻害し、嵩高性を発揮する。
(用途または適用)
本発明のシリカ複合再生粒子は、元来ポーラスな再生粒子の表面をシリカで複合したものであることから比表面積が大きく、これを内添用の填料として使用すると、紙厚、白色度および不透明度が高い塗工紙をえることができる。
さらに、シリカ複合再生粒子の吸油量は、50〜180ml/100gの範囲が好ましい。これは、この範囲のシリカ複合再生粒子を内添填料として使用する場合、紙層中において、シリカ複合再生粒子が紙層中に含浸されるインクのビヒクル分や有機溶剤等を吸収し、用紙の印刷不透明度が低下するのを抑制し、また、インクのビヒクル分や有機溶剤等を吸収することで、インク乾燥性やニジミの防止効果が顕著になるためである。一方、吸油量が50ml/100g未満の場合には上記の効果が十分でなく、シリカ複合再生粒子がインクの吸収・乾燥性を阻害する傾向が生じる場合がある。また吸油量が180ml/100gを超えると、インクの吸収性が高いためインクの沈みこみ、いわゆる発色性が劣る問題が生じる場合があるだけでなく、印刷時に湿し水を吸収しやすくなり、断紙を防止しにくいため好ましくない。
シリカ複合粒子の吸油量は、シリカ複合反応工程における反応温度、添加時間、保留時間、pH、粘度調整や、用いる再生粒子の燃焼手段、粒子径などにより調整可能であるが、シリカ複合反応において10,000Å以下の細孔容積が0.30〜1.10cc/gとなるように調整すると、高い吸油量を示し、紙の不透明度を向上できるシリカ複合再生粒子を得ることができ、このシリカ複合再生粒子を含有したシリカ複合再生粒子内添紙においては、高い不透明度を得ることができる。
以上、再生粒子を例にシリカ複合粒子の製造方法を詳述した。前述のとおり、シリカと複合させる粒子としては、好ましくは再生粒子または再生粒子凝集体であるが、他にも従来一般に製紙用途で使用する填料を用いることができる。すなわち、炭酸カルシウム(重質および軽質)、クレー、タルクなどを用いても良い。本発明においては、これら無機粒子を上述の方法でシリカ複合して得られたシリカ複合粒子を填料として用いることができる。
このようにシリカを複合した粒子は、粒子表面がシリカで複合されているためワイヤー磨耗度が低くでき、填料として好適に使用することができる。紙に内添する無機粒子においては、粒子が硬いと抄紙機のワイヤー(網部)を傷つけやすくなり、ワイヤー寿命を縮めるため好ましくない。しかしながら本発明のごとく、ワイヤーを傷つけにくい柔らかい無機粒子である、シリカで複合した無機粒子、好ましくはシリカ複合再生粒子やシリカ複合再生粒子凝集体を用いることで、ワイヤー寿命を延長させることができる。
ワイヤー磨耗度は、フィルコン式ワイヤー磨耗度試験で評価することができる。シリカと複合させる無機粒子として、磨耗度が約80mgの再生粒子凝集体を用いると、シリカ複合により磨耗度を約20mgにまで低下させることができ、内添填料として充分に使用可能な粒子を得ることができる。尚、重質炭酸カルシウムのワイヤー磨耗度は100mg以上、軽質炭酸カルシウムは約50mg、ホワイトカーボンは約15mgであり、おおむね50mg以下であれば、内添填料として使用できる。
上述のとおり、填料として、シリカおよびシリカ以外の無機粒子からなる複合粒子、好ましくはシリカ複合再生粒子またはシリカ複合再生粒子凝集体を用いると、不透明度を維持したまま填料使用量を低減できるため、印刷時の断紙を防止しやすい塗工紙を得ることができる。このようにして得られた塗工紙は、印刷速度が800rpm以上、さらには1000rpm以上である高速オフセット輪転印刷機においても、充分に断紙を防止できる。
シリカおよびシリカ以外の無機粒子とからなる複合粒子以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、従来製紙用途で用られている填料を添加することができる。填料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。
これら填料の含有量は特に限定されないが、基紙100質量%に対して2〜10質量%となるよう添加することが好ましく、さらには3〜8質量%がより好ましい。填料の配合量が10質量%を超過すると、パルプ繊維同士の結合が阻害されやすく印刷時の断紙が発生しやすい。填料の含有量を2質量%未満になると、紙が硬くなり印刷時に断紙しやすくなるだけでなく、不透明度が向上せず、嵩(紙厚)が高くなりすぎて紙に柔軟性がなくなり毛羽立ちやラフニングが発生しやすくなる。尚、上記填料の含有量は、JISP8251「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準じて測定した灰分含有量である。
本発明においては、上述のとおり、機械パルプを全パルプのうち10質量%以上40質量%未満含有することが好ましく、さらに、パルプ繊維が繊維長分布で繊維長0.10mm以上0.65mm未満(より好ましくは0.15mm以上0.60mm未満)の範囲に最大値を有することが好ましく、加えてルンケル比が1.4〜2.4(より好ましくは1.5〜1.9)であることが好ましく、更に填料として、上述の方法で製造したシリカ複合粒子を、基紙100質量%に対して2〜10質量%(より好ましくは3〜8質量%)含有させることが好ましい。この構成にすることで、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であっても、印刷時に湿し水を吸収することに起因する断紙を充分に防止しやすくなるため好ましい。特に印刷速度が800rpm、さらには1000rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても、充分に断紙を防止できる塗工紙が得られやすい。
上述のシリカ複合粒子は、シリカと複合させる粒子(再生粒子や再生粒子凝集体等)と珪酸アルカリとを9:1の質量割合で混合し、70〜100℃、好ましくは90〜100℃まで昇温させた後に、pHが8.0〜11.0、好ましくはpHが8.5〜9.0になるまで酸を添加し、粉砕等の機械的手段を用いずに得られた粒子径5〜十数μm程度のシリカ複合粒子を填料として基紙中に含有させることで、不透明度を維持したまま、さらに填料含有量を低減できるため、パルプ繊維の繊維間結合を向上させやすく、より高速オフセット輪転印刷時の断紙を防止した塗工紙が得られやすい。
本形態において使用できる抄紙設備としては、特に限定されないが、ギャップフォーマからなるワイヤーパート、オープンドローのないストレートスルー型からなるプレスパート、シングルデッキドライヤーからなるドライヤーパート、フィルム転写型のロール塗工によるコーターパート(下塗り塗工)、ソフトカレンダーからなるプレカレンダーパート、ブレードコーターによるコーターパート(上塗り塗工)を組み合わせることが好ましい。上記構成では、例えば1300m/分以上の高速抄造においても、地合いが良好で、かつ、幅方向、流れ方向の乾燥ムラが少なくなり、また、フィルム転写型の下塗り塗工を行い、プレカレンダーで平坦化処理するため、特に引張強度の変動が少ない、断紙防止に適した塗工基紙となる。これにより、後に続く上塗り工程における塗工ムラをも低減でき、上塗り塗工層の塗工厚みも均一になりやすいため、局所的な印刷時の湿し水の吸収を防止しやすく、印刷時の断紙防止効果に優れた塗工紙が得られやすい。
(ワイヤーパート)
ワイヤーパートとしては、長網フォーマや、長網フォーマにオントップフォーマを組み合わせたもの、あるいはツインワイヤーフォーマなどを使用することが出来るが、ヘッドボックスから噴出された紙料ジェットを2枚のワイヤーで直ちに挟み込むギャップタイプのギャップフォーマが、両面から脱水するため表裏差が少なく、コスレ汚れに表裏差が発生し難いため好ましい。
(プレスパート)
ワイヤーパートでの紙層は、プレスパートに移行され、さらに脱水が行われる。プレス機としては、ストレートスルー型、インバー型、リバース型のいずれであってもよく、またこれらの組み合わせも使用することができるが、オープンドローを無くしたストレートスルー型が、紙を保持しやすく、断紙などの操業トラブルが少ないため好ましい。脱水方式としては、通常行われているサクションロール方式やグルーブドプレス方式等の方法を使用することができるが、脱水性と平滑性とを向上できるシュープレスが、より好ましい。
(ドライヤーパート)
プレスパートを通った湿紙は、シングルデッキ方式のプレドライヤーパートに移行し、乾燥が図られる。プレドライヤーパートは、断紙が少なく、嵩を落とすことなく高効率に乾燥を行える、ノーオープンドロー形式のシングルデッキドライヤーが好ましい。ダブルデッキ方式にて乾燥する方式も可能だが、キャンバスマーク、断紙、シワ、紙継ぎ等の操業性の面、また、幅方向、流れ方向のいずれでも均一な乾燥が得られる点で、シングルデッキ方式に劣る。
(下塗り塗工)
以上のようにして製造された基紙に、表面の平滑性および白色度を向上させる目的で、水溶性高分子を主成分とする塗工液を下塗り塗工する必要がある。下塗り塗工層は、単層でも良く、複数層であっても良い。
下塗り塗工層を設けず、上塗り塗工層の塗工量が5.0〜12.0g/m2と少なく、かつ坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であると、印刷時に湿し水の吸収を充分に防止できず、断紙が発生する問題がある。
下塗り塗工層に用いる水溶性高分子は特に制限は無く、一般的に製紙用途に使用できるものを用いることができる。具体的には、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、生澱粉などの澱粉またはその誘導体等、一般に製紙用途で用いる澱粉又はその誘導体を使用することができる。澱粉又は澱粉誘導体を用いると、基紙への塗工顔料の沈み込みを防止しつつ、表面強度を十分に向上でき、かつ印刷時の断紙を防止できるため好ましい。特に、後述するとおり、顔料塗工層が5.0〜12.0g/m2と少ないことが好ましい本発明の塗工紙においては、顔料塗工層による目止め効果が低く湿し水を吸収しやすい傾向がある。そこで上述のとおり下塗り塗工層を設けることで、顔料粒子の基紙への沈み込みを防止でき、例えば顔料塗工層が5.0〜12.0g/m2と少なくても、充分に断紙防止効果が得られやすいため好ましい。
基紙への下塗り塗工層の塗工量(固形分量)は、両面合計で、好ましくは0.3〜1.5g/m2、より好ましくは0.4〜1.0g/m2である。塗工量が0.3g/m2未満では、基紙表面に未塗工部分が生じ易く、印刷時に湿し水を吸収して断紙しやすくなるため好ましくない。1.5g/m2を超えると、その分だけパルプ分が減少し、引張強度が低下して、そもそも印刷時に断紙しやすくなるため好ましくない。
特に下塗り塗工層に配合する水溶性高分子として澱粉または澱粉誘導体を用いた場合、澱粉自体の透明性が高いため、塗工量が多いほど不透明性が低下する傾向がある。一般に顔料の目止め効果を向上させるためには、澱粉を両面合計で2g/m2以上塗工する必要があり、これ以下では充分な目止め効果が得られないが、一方で不透明性が低下する問題や、坪量が多くなる問題がある。
しかしながら本発明においては、填料として好ましくは再生粒子や再生粒子凝集体、さらに好ましくはシリカ複合粒子、特に好ましくはシリカ複合再生粒子やシリカ複合再生粒子凝集体を基紙に含有させているため、水溶性高分子の下塗り塗工量が0.3〜1.5g/m2、より好ましくは0.4〜1.0g/m2と少なくても不透明性が高く、かつ、坪量が30g/m2以上50g/m2未満と低い塗工紙を得ることができる。この塗工紙は、下塗り塗工層を有しているため充分な断紙防止効果が得られ、かつ印刷用途に好適に使用できる。加えて、離解パルプのルンケル比が1.4〜2.4、好ましくは1.5〜1.9であると、さらに印刷時の断紙防止効果に優れた塗工紙が得られる。
このような下塗り塗工は、例えば、2ロールサイズプレスコーターやゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、又はシムサイザーやJFサイザー等のフィルム転写型ロールコーターや、ブレードコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、基紙上に一層又は多層に分けて塗工液が塗工される。但し、より下塗り塗工層の厚みを均一にするためには、複合性が高い塗工層を得ることができるフィルム転写型ロールコーターが好ましい。
(プレカレンダーパート(平坦化処理))
下塗り塗工後の基紙は、上塗り塗工を行う前に、プレカレンダーによる平坦化処理を行うことが好ましい。平坦化処理を行うことで、下塗り塗工後の平滑性のムラを低減でき、上塗り塗工層の厚みを均一にしやすく、湿し水の吸収ムラを低減できるため断紙を防止しやすい。特に本形態においては、坪量が30g/m2以上50g/m2未満と低いため、プレカレンダーで平坦化処理することで上塗り塗工層を均一に塗工することが重要である。
(上塗り塗工)
次に、基紙の一方又は双方の面に、顔料及び接着剤を含む塗工液を上塗り塗工して上塗り塗工層を設ける。なお、この上塗り塗工層を1層設ける場合は、下塗り塗工層を設けるか否かにかかわらず、この上塗り塗工層が最表層であり、この上塗り塗工層を2層以上設ける場合は、その中の最も外側に形成される層が最表層である。以下では、上塗り塗工層が1層の場合を例に説明する。
上塗り塗工層に用いる顔料としては、粒子径1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数の5%以上であることが必須である。ここで言うクレー粒子の数とは、塗工紙を電子顕微鏡で撮影して得られた粒子の数を言い、直径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数のうち5%以上であることを指す。
他の95%未満を占める粒子としては、従来一般に製紙用途で使用されているものを使用することができる。例えば炭酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料等、または前述した再生粒子や再生粒子凝集体の中から、一種又は二種以上を適宜選択して配合しても良い。
上塗り塗工層中のクレーの含有量は、重量割合で、上塗り塗工層に含まれる顔料100質量部のうち20〜60質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。20質量部を下回ると、塗工層表面の被覆性が低下して湿し水を吸収しやすくなり印刷時の断紙を防止しにくいばかりか、充分な印刷適性や白紙光沢度、印刷光沢度、印刷不透明度が得られない可能性があるため好ましくない。60質量部を超過すると、塗料の流動性が悪くなりやすく、塗工ムラが発生し、印刷時の断紙防止効果が得られにくく、また印刷適性や印刷後の見栄えも低下しやすいため好ましくない。
クレーの中でも、粒子径が大きく板状で被覆性が高い粒子を使用することが好ましい。本発明のごとく、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙においては、被覆性が高いクレー粒子を使用することにより、湿し水の吸収を効果的に防止できるため、印刷時の断紙を防止することができる。加えて、後述するとおり上塗り塗工層の塗工量が両面で5.0〜12.0g/m2と少ない場合は、塗工量が12.0g/m2より多く塗工した塗工紙に比べて、特に断紙が発生しやすいが、後述するとおり、直径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数のうち5%以上とすることで、断紙を充分に防止できる。
粒子径が1.0μm以上3.0μm未満の粒子が5%を下回ると、充分に塗工層表面を被覆できないため、印刷時の断紙を防止できない。特に本発明のごとく、下塗り塗工層として、水溶性高分子からなる塗工層の塗工量が0.3〜1.5g/m2、より好ましくは0.4〜1.0g/m2と少ない場合、1.0μm未満の顔料粒子が基紙内に沈み込みやすくなる。この1.0μm未満の粒子の基紙への沈み込みを防止するため、粒子径1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数を、顔料粒子の数のうち5%以上とすることで断紙を充分に防止できる。
加えて、板状クレーのアスペクト比(粒子の厚みに対する板直径の割合)が5以上であれば被覆性が高いため、本発明のごとく坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙、特に低塗工量の塗工紙では、印刷時の断紙を防止しやすい優れる塗工紙となりやすいため好ましい。
粒子径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数のうち5%以上とするには、例えば市販されている二級クレーやHCクレーなどを、上述のとおり、顔料100質量部のうち20〜60質量部、好ましくは30〜50質量部含有させることで達成できる。このようなクレーとしては、例えば、HYDRASPERSE(HUBER社製、平均粒子径1.8μm、アスペクト比6)、UW−90(エンゲルハート社製、平均粒子径1.6μm、アスペクト比5)、KAPIM NP(リオカピム社製、平均粒子径2.2μm、アスペクト比20)、KCS(イメリス社製、平均粒子径2.7μm、アスペクト比14)などが挙げられる。
粒子径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数には上限はないが、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。20%を超過すると、印刷時の断紙防止効果に劣るだけでなく、塗工層表面の平坦性が低く、充分な白紙光沢度や見栄えが得られない可能性がある。
なお、塗工層に含まれる顔料の粒子径とは、塗工層表面の顔料粒子を電子顕微鏡で撮影し、撮影した粒子の直径を測定して得られた粒子径を指す。
クレー以外の顔料としては、前述した再生粒子や再生粒子凝集体を用いることが好ましい。特に再生粒子凝集体は、個々の粒子が幾つか集まって凝集した凝集体を形成しており、ランチュウの肉瘤状のような、不定形な形をしている。この不定形性により高不透明度を有するため、基紙中の填料含有量を低減でき、断紙を防止しやすいため好ましい。
再生粒子または再生粒子凝集体の含有量は、顔料100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、15〜35質量部がより好ましい。10質量部下回ると、不透明性が低下するため印刷後の見栄えが低下しやすくなる。40質量部を超過すると、再生填料が湿し水を吸収しやすいため、塗工層の湿し水に対する目止め効果が低下し、印刷時に断紙しやすいため好ましくない。
本発明においては、基紙中の填料を低減させ、引張強度を向上させることで印刷時の断紙防止を図るが、一方で填料を低減させると不透明度が低下し、印刷後の見栄えが低下しやすいため、塗工顔料として粒子径が1.0μm〜3.0μmのクレーおよび不透明度に優れる再生粒子または再生粒子凝集体を上記含有量で併用することが好ましい。再生粒子は湿し水を吸収しやすい傾向があるが、澱粉または澱粉誘導体を主成分とする下塗り塗工層を設け、かつ、上塗り塗工層として、粒子径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数を、顔料粒子の数のうち5%以上とすることで、十分に湿し水の吸収を抑制することができ、不透明度と印刷作業性を両立した、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙を得やすいため好ましい。
上述のごとく、基紙上に水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設けた後、上塗り塗工層として2級クレーまたはHCクレーを顔料のうち20〜60質量部(好ましくは30〜50質量部)含む塗工層を設けることで、上塗り塗工層において、粒子径が1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が顔料粒子の数の5%以上とすることができ、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙でありながら、印刷時の断紙を防止できる塗工紙が得られやすいため好ましい。
加えて、離解パルプの繊維長分布において、0.10mm以上0.65mm未満(好ましくは0.15mm以上0.60mm未満)の範囲に最大値を有し、かつルンケル比が1.4〜2.4(好ましくは1.5〜1.9)であり、更に填料としてシリカ複合粒子を、基紙100質量%に対して2〜10質量%(好ましくは3〜8質量%)含有させ、塗工層の顔料として再生粒子または再生粒子凝集体を併用することで、さらに断紙を防止しやすい塗工紙が得られるため好ましい。
上塗り塗工層に用いる接着剤としては、澱粉を用いることが望ましい。澱粉は顔料を基紙層に固定することに加え、パルプ繊維からなる基紙および澱粉を塗工した下塗り塗工層と馴染みやすく、基紙表面を固めて表面強度を向上させやすい。特に本発明のごとく、下塗り塗工層の塗工量が1.5g/m2未満と少ない場合は、塗工紙の表面強度を向上させるため、上塗り塗工層にも表面強度向上効果の高い澱粉または澱粉誘導体を含有させることが好ましい。上塗り塗工液中の顔料と澱粉または澱粉誘導体との割合には特に限定がないが、好ましくは顔料100質量部に対して澱粉または澱粉誘導体が固形分比で1〜10質量部であり、より好ましくは2〜5質量部である。澱粉または澱粉誘導体の含有量が1質量部未満では、印刷時にパルプ繊維が印刷インキに取られ、白抜けが発生しやすいため好ましくない。上塗り塗工層の塗工量が両面合計で12g/m2未満の場合は被覆性が低いため、表面強度が低下して白抜けが発生しやすいが、本発明においては上塗り塗工層に澱粉または澱粉誘導体を1〜10質量部、好ましくは2〜5質量部含有させているため、表面強度を充分に向上させることができる。10質量部を超えると、塗料粘度が上昇しやすく均一な塗工層が得られず、印刷適性が悪化する。
接着剤としては、澱粉または澱粉誘導体に加えて、ラテックスを含むことが好ましく、ラテックスはモノマー成分としてブタジエン成分を42〜67質量%、より好ましくは47〜62質量%含むものが好ましい。ブタジエン成分が42質量%を下回ると、顔料への接着性が劣り、上述した板状クレー等の顔料を充分に接着しにくいため、印刷時に白抜けが発生しやすいため好ましくない。67質量%を超過すると、塗工層表面のラテックス量が多くなり、塗工紙製造工程において各種ロールに汚れが付着し操業性が低下しやすくなる。ブタジエン成分を上記範囲に納めることで、接着性と操業性の双方を満足することができる。また、上記ブタジエン成分を42〜67質量%、好ましくは47〜62質量%含むラテックスを用いることで、粒子径が1.0μm〜3.0μmであるクレーを効果的に接着できるため白抜けが発生しにくく、ラテックス含有量を低減できるため、白紙光沢度および印刷光沢度に優れた塗工層を得ることができる。
顔料として再生粒子または再生粒子凝集体を使用する場合、ラテックス中のブタジエン成分を上述のとおり42〜67質量%、さらには47〜62質量%とすることが好ましい。再生粒子または再生粒子凝集体は、従来一般に使用される炭酸カルシウムやタルク、クレーとは、その構成成分や形状が異なり不透明性に優れるため、例えば上塗り塗工層を両面合計で5.0〜12.0g/m2、さらには6.0〜11.0g/m2と低減しても、塗工紙の不透明性を維持することができる。しかしながら、再生粒子や再生粒子凝集体は多孔性に優れるため、接着剤であるラテックスを吸収しやすい傾向があり、特に塗工量を両面合計で5.0〜12.0g/m2、さらには6.0〜11.0g/m2と低減する場合は、従来一般のラテックスでは再生粒子や再生粒子凝集体を十分に接着しにくく、表面強度に劣る塗工紙となりやすい。そのため、再生粒子や再生粒子を顔料として塗工層に含有させ、かつ充分な表面強度を有する塗工紙を得るためには、ラテックス中のブタジエン成分を上述のとおり42〜67質量%、さらには47〜62質量%とすることが好ましい。
ブタジエン以外のモノマー成分としては、スチレン成分を10〜35質量%含むことが好ましく、より好ましくは15〜30質量%である。スチレン成分は塗工層に耐水性を付与する効果があるため、本発明のごとく坪量が30g/m2以上50g/m2未満であり、かつ塗工量が両面合計で5.0〜12.0g/m2、さらには6.0〜11.0g/m2と低い塗工紙においては、印刷時の湿し水を吸収することに起因する断紙を防止する観点から、上述のスチレン含有量とすることが好ましい。特に上述のごとく、填料として吸液性の高いシリカ複合した無機粒子を含有し、かつ、顔料として再生粒子または再生粒子凝集体を含有する場合は、断紙防止のためスチレン成分を10〜35質量%含むことが好ましい。スチレン成分が10質量%を下回ると塗工層の耐水性が劣るため、オフセット印刷では断紙以外にも、湿し水を吸って塗工層強度が低下し、白抜けなどのトラブルが発生する傾向がある。35質量%を超過すると、塗工層が硬くなり断紙しやすいだけでなく、印刷適性が悪化する傾向がある。上記のごとく、断紙防止性、接着性、白抜け防止性を効果的に向上させるには、ラテックス中のブタジエン成分及びスチレン成分を上記の範囲内に納めることが好ましい。
ブタジエン成分を含有する共重合体ラテックス以外にも、通常塗工用途に用いることができる接着剤を併用することができる。例えば、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常製紙用途に用いられる接着剤が挙げられ、これらの中から一種又は二種以上を適宜選択して併用することができる。
さらに本塗工液には、例えば、蛍光増白剤や、蛍光増白剤の定着剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の、通常使用される各種助剤を適宜配合することもできる。
上塗り塗工層の塗工量(固形分量)は、両面合計で、好ましくは5.0〜12.0g/m2、より好ましくは6.0〜11.0g/m2である。上塗り塗工層の塗工量が5.0g/m2未満では、塗工層を充分に複合できないため、印刷時に湿し水の吸収を抑制しにくく、断紙を防止しにくいため好ましくない。加えて、毛羽立ちやラフニングが発生して印刷適性に劣る可能性がある。12.0g/m2を超えると、基紙の量が少なくなるため引張強さが低下して印刷時に断紙しやすくなるだけでなく、印刷作業性(印刷後の印刷物を結束してまとめる際に不揃いとなる)が悪化しやすいため好ましくない。
本発明のごとく、塗工層表面の顔料として、粒子径1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数の5%以上であり、かつ、顔料として再生粒子または再生粒子凝集体を併用し、さらに填料としてシリカ複合粒子を用い、填料使用量を基紙100質量%に対して2〜10質量%(より好ましくは3〜8質量%)程度に低減することで、不透明度を維持したまま填料含有量を低減できるため、上塗り塗工層の塗工量を両面合計で5.0〜12.0g/m2、好ましくは6.0〜11.0g/m2と低減しても、高速オフセット印刷時の断紙を防止でき、かつ、印刷後の裏抜けを抑制できる塗工紙が得られやすい。
上塗り塗工は、例えば、複数段階、通常はプレドライヤーパートとアフタードライヤーパートとの2段階で行われるドライヤーパートの間のコーターパートにおいて行われることが好ましい。このコーターパートにおいては、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、基紙上に一層又は多層に分けて塗工液が塗工される。中でも、被覆性が良好であり、本発明のごとく塗工量が両面合計で5.0〜12.0g/m2、より好ましくは6.0〜11.0g/m2と少なくても、印刷適性が良好であり印刷見栄えの良い塗工紙が得られる、フィルム転写型ロールコーターを用いることが好ましい。なお、ドライヤーパートでの乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方式を適宜採用することができる。
本発明の塗工紙を得るための塗工方法としては、フィルム転写型ロールコーターにより下塗り塗工層を設け、プレカレンダー処理した後に、フィルム転写型ロールコーターを用いて上塗り塗工層を設けることが好ましい。上記塗工方法を用いることにより、上塗り塗工量が両面合計で5.0〜12.0g/m2、より好ましくは6.0〜11.0g/m2と少なくても、上塗り塗工層の厚みを均一にできるため、印刷時の湿し水の吸収を防止できる塗工紙が得られやすいため好ましい。
本発明のごとく、塗工層表面に顔料、好ましくは粒子径1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数が、顔料粒子の数の5%以上であると、上塗り塗工層の塗工量が、両面合計で5.0〜12.0g/m2、好ましくは6.0〜11.0g/m2、かつ坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙であっても、引張強度が強く、湿し水を吸収しにくい塗工紙を得やすく、印刷時の断紙を防止した塗工紙が得られやすい。加えて、填料としてシリカ複合粒子を用いることで、填料使用量を基紙100質量%に対して2〜10質量%(より好ましくは3〜8質量%)程度に削減でき、不透明度を維持したまま填料使用量を低減できるため、印刷後の見栄えを低下することなく、高速オフセット印刷機に使用できる塗工紙が得られやすい。
填料として、無機粒子および珪酸アルカリを9:1の質量割合で混合し、70〜100℃、好ましくは80〜100℃、最も好ましくは90〜100℃まで昇温させた後に、pHが8.0〜11.0、好ましくは8.3〜10.0、最も好ましくは8.5〜9.0になるまで酸を添加し、粉砕等の機械的手段を用いずに製造される、粒子径5〜十数μm程度のシリカ複合粒子を含有させることで、更に不透明度を向上させることができるため、印刷時の断紙を防止した塗工紙が得られやすいため好ましい。このシリカ複合粒子を内添した塗工紙は、坪量が30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙においても、充分な断紙防止効果が得られやすい。
但し、このシリカ複合粒子は吸水性が高いため、填料として使用する場合は、水溶性高分子を主成分とする下塗り塗工層を設け、かつ上塗り塗工層に顔料としてクレーを含み、顔料のうち粒子径1.0以上3.0μm未満のクレー粒子の数を、顔料粒子の数の5%以上とし、加えて、接着剤としてスチレンを10質量%以上35質量%以下含むラテックスを併用することで、耐水性を付与することが必要である。
上述のとおり、下塗り塗工層として澱粉または澱粉誘導体を主成分とする塗工層を設け、例えば上塗り塗工層に配合する顔料として2級クレーまたはHCクレーを全顔料の20〜60質量%、好ましくは30〜50質量%用いることで、粒子径1.0μm以上3.0μm未満のクレー粒子の数を、顔料粒子の数の5%以上とすることで、クレーの被覆性と下塗り塗工層により基紙への湿し水の吸収性を抑制でき、例えば坪量が30g/m2以上50g/m2未満と低い塗工紙であっても、動的液体浸透性試験において浸透時間2秒後における信号強度が30%以上、好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上にできるため、印刷時の断紙を防止できる塗工紙を得やすい。
上記構成に加えて、顔料として再生粒子または再生粒子凝集体を使用し、かつ、上塗り塗工層中に、ブタジエン成分が42〜67質量%、好ましくは47〜62質量%であり、スチレン成分が10〜35質量%、好ましくは15〜30質量%であるラテックスを使用すると、坪量が30g/m2以上50g/m2未満と低く、上塗り塗工量が両面合計で5.0〜12.0g/m2、より好ましくは6.0〜11.0g/m2と低い塗工紙であっても、不透明度が高く印刷後の見栄えに優れ、かつ、回転速度800rpm以上、特に1000rpm以上の高速オフセット輪転印刷においても、湿し水の吸収に起因する断紙が発生しにくい塗工紙が得られやすいため好ましい。
加えて、下塗り塗工層として、澱粉または澱粉誘導体を主成分とする下塗り塗工層を、両面合計で0.3〜1.5g/m2、より好ましくは0.4〜1.0g/m2塗工することで、澱粉および/または澱粉誘導体を塗布して不透明性が低下しやすい塗工紙であっても不透明性に優れた塗工紙となり、例えば坪量30g/m2以上50g/m2未満の塗工紙においても、不透明度が76%以上と高く、かつ動的液体浸透性試験において浸透時間2秒後における信号強度が30%以上、好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上と高いため、印刷時に湿し水を吸収しにくく断紙しにくい塗工紙が得られる。
(カレンダーパート(平坦化処理))
本形態では、塗工層に光沢性や平坦性、印刷適性を付与する目的で、熱ロールを用いて平坦化処理を施すことが好ましい。一般に平坦化処理は、弾性ロールと金属ロールとの間に塗工紙を通し、塗工紙にニップ圧をかけて摩擦力により塗工紙表面を磨き、光沢性を付与するものである。
平坦化工程のニップ圧は、好ましくは50〜300kN/mである。ニップ圧が50kN/m未満では平坦化が進まず、印刷適性および印刷後の見栄えが低下しやすく、ニップ圧が300kN/mを超過すると、引張強度が低下して断紙しやすくなるだけでなく、不透明性が低下しやすいため好ましくない。
平坦化工程の熱ロール(金属ロール)の表面温度は、100〜160℃が好ましい。熱ロールの温度が100℃未満では平坦化が進まず、印刷適性および印刷後の見栄えが悪化しやすく、160℃を超えると、引張強度および不透明性が低下しやすいだけでなく、繊維焼けが発生したり、熱と圧力により、塗工紙自体が黄変化(退色)し、白色度が低下しやすいため好ましくない。
平坦化工程を行う熱ロールを含むニップ段数について制限はないが、好ましくは2〜8段、より好ましくは6〜8段である。1段では表裏両面の平滑性を充分に向上できない。
平滑化処理を行う設備としては、従来のマシンカレンダーや、ソフトカレンダーを使用しても良いが、好ましくは、低ニップ圧100kN/m未満で平坦化処理できるマルチニップカレンダーを用いると、光沢ムラが発生しにくいため好ましい。
また、カレンダーの設置場所としては、抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプでは、塗工後すぐ、紙面温度が高い状態で平坦化処理できるため、平滑性が向上しやすい一方で剛度および不透明性が低下しにくい。
以上のようにして得られた塗工紙は、坪量が30g/m2以上50g/m2未満でありながら、JIS P 8149:2000「紙及び板紙−不透明度試験方法(紙の裏当て)−拡散照明法」に記載の方法に準拠して測定した不透明度が76%以上と高いため印刷情報の視認性に優た塗工紙となる。
次に、本発明の塗工紙を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
まず、原料パルプとして、表4に記載の樹種から製造したNBKP、LBKP、BTMPを表4に記載の割合(質量比)で混合し、このパルプ100質量部(絶乾量)に対して、表4に記載の種類と量の填料、および、各々固形分で、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量部、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量部、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量部を添加してパルプスラリーを得た。尚、NBKPのフリーネスは500ml、LBKPのフリーネスは400ml、BTMPのフリーネスは160mlに調整した。
(填料)
表4に記載した填料は次のとおりであり、表中の「再生粒子」は再生粒子を指し、「シリカ複合」はシリカ複合再生粒子を指す。なお、シリカ複合再生粒子は、次の製造方法で得られた再生粒子を、次のとおりシリカ複合して得た。
[再生粒子の製造]
被処理物(原料)として、製紙スラッジまたは脱墨フロスを予め分別して用い、脱水工程を経て、図1および図2の製造設備により、表1に示す条件にて、有機成分の熱処理工程、第1燃焼工程および第2燃焼工程を適宜用い順次経て、湿式粉砕処理を施し、再生粒子をえた。製造例2、3および製造例6、7の有機成分の熱処理工程において用いた内熱キルンは、本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉であり、この内熱キルン炉一端の原料供給口から、製紙スラッジを供給するとともに熱風を吹き込む並流方式を採用した。
また、第1燃焼工程において用いた内熱キルンは、本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉である。さらに、第2燃焼工程において用いた外熱キルン炉は、本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱キルン炉であり、この外熱キルン炉としては、特に内部に平行リフターを有する外熱電気方式のキルン炉を採用した。湿式粉砕処理は、セラミックボールミルを用いて行った。製造例4における脱墨フロスは、上級古紙脱墨フロスを製紙スラッジに混在する前に予め分別して用いた。
1次燃焼温度は、1次燃焼炉出口温度を測定した。2次燃焼温度は、2次燃焼炉出口温度を測定した。酸素濃度は、1次燃焼炉出口酸素濃度、2次燃焼炉出口酸素濃度を測定した。
[シリカ複合再生粒子の製造]
表2に示す条件で、珪酸アルカリ水溶液として珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)38%濃度、再生粒子スラリー20%濃度を混合し、希釈水を加え表2に示すとおり珪酸アルカリと再生粒子からなるスラリーを所定の反応開始濃度、反応開始pHに調整したのち、鉱酸として所定規定度の硫酸を添加、撹拌しシリカ複合再生粒子を製造した。スラリーの撹拌は公知のミキサーを使用し。スラリーのpHは、堀場製作所製のpH計にて、反応温度は公知の温度計にて測定した。1次反応工程では、珪酸アルカリ水溶液と鉱酸の中和率が表2に示す割合になるように鉱酸を添加した。
保留時間は、1次反応工程で行なう鉱酸の添加を終え、2次反応工程で鉱酸を再び添加するまでの時間をいう。
2次反応工程においては、反応終了pHになるように、所定の時間をかけて1次反応工程と同じ鉱酸を添加した。表2に示す、完成原料の10%濃度スラリー粘度は、2次反応工程を経て反応を終えたシリカ複合再生粒子スラリーを脱水濾過し、固形分濃度を10%に調整したスラリーをB型粘度計により測定した値(測定温度25℃)である。
[再生粒子およびシリカ複合再生粒子の測定]
再生粒子およびシリカ複合再生粒子の成分分析結果を表1および表3に示す。各工程の無機構成成分は堀場製作所製のX線マイクロアナライザーを用い、加速電圧(15KV)にて元素分析を行い、構成成分より酸化物換算した。
比表面積および細孔容積は、水銀圧入式ポロシメーター(テルモ社製「PASCAL 140/240」)を用い、試料を濾過した後、真空乾燥して測定した。
吸油量はJIS K 5101−13−2記載の練り合わせ法によるものである。すなわち105℃〜110℃で2時間乾燥した試料2g〜5gをガラス板に取り、精製アマニ油(酸化4以下のもの)をビュレットから少量ずつ試料の中央に滴下しその都度ヘラで練り合わせる。滴下練り合わせの操作を繰り返し、全体が初めて1本の棒状にまとまったときを終点として、精製アマニ油の滴下量を求め、次の式によって吸油量を算出する。
吸油量=[アマニ油量(ml)×100]/試料(g)
粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求められる。測定試料の調製は、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、シリカ複合再生粒子を添加し、超音波で1分間分散した。
硬質物質の測定には、X線回析装置(理学電気製、RAD2X)を用いた。測定条件:Cu−Kα−湾曲モノクロメーター 40KV−40mA、発散スリット・1mm SS・1mm RS・0.3mm、走査速度・0.8度/分、走査範囲・2シータ=7〜85度、サンプリング・0.02度である。
表3に示す生産性は、えられたシリカ複合再生粒子の濾液中に含まれる未反応薬品量から換算したシリカ複合反応の歩留りから、歩留り95%以上を◎、80%以上95%未満を○、70%以上80%未満を△、70%未満を×とした。
なお、表4において内添填料として用いた再生粒子は表1記載の製造例1−1、シリカ複合再生粒子(表4ではシリカ複合と記載した)は表3記載の製造例1−1である。
表4に填料として記載した炭酸カルシウムおよびホワイトカーボンは次を用いた。
・炭酸カルシウム
軽質炭酸カルシウム、品番:TP121―6S、奥多摩工業社製。
・ホワイトカーボン
2次粒子径:15.5μm、吸油量:203ml/100g、エリエールペーパーケミカル社製。
次に、ギャップフォーマからなるワイヤーパート、オープンドローのないストレートスルー型のプレスパート、シングルデッキドライヤーからなるプレドライヤーパートを経て基紙を製造した。
基紙の両面に、澱粉(酸化澱粉、SK−20、日本コーンスターチ社製)を、両面合計で、表4に記載の塗工量となるようフィルム転写型ロールコーターで下塗り塗工した。この下塗り塗工後、アフタードライヤーパートで乾燥し、プレカレンダーパートで、ニップ圧20kN/mで平坦化処理を行った。但し、比較例1は下塗り塗工を行わなかった。
顔料として、表4に記載の顔料(炭酸カルシウム、板状クレー)を質量換算で表4に記載の量と、再生粒子(20質量部)とを混合したスラリーに、接着剤として顔料100質量部に対して質量換算で澱粉を2質量部、および表4に記載の成分を有するスチレン−ブタジエン重合体ラテックスを10質量部混合した上塗り塗工液を、両面合計で、表4に記載の塗工量(固形分量)となるようフィルム転写型ロールコーターを用いて塗工した。乾燥後にマルチニップカレンダーを用い、ニップ圧250kN/m、ロール温度80℃で平坦化処理を行い、塗工紙を得た。なお、顔料および接着剤の詳細は、次の通りである。比較例4では板状クレーの代わりに微粒クレーを用いた。
(顔料)
・炭酸カルシウム
重質炭酸カルシウム、品番:ハイドロカーブ90、備北粉化工業(株)製、平均粒子径1.3μm。
・微粒クレー
品番:アマゾンプラス、カダム社製、平均粒子径0.3μm。
・板状クレー
品番:HYDRASPERSE、HUBER社製、平均粒子径1.8μm。
(接着剤)
・澱粉
品番:コートマスターK96F、三晶社製。
・ラテックス
品番:XY4、日本A&L社製、Tg:−11℃、ブタジエン:47質量%、スチレン:30質量%、メタクリル酸メチル:2質量%、アクリロニトリル:21質量%。
なお、表4に記載の実施例26〜29は、ブタジエンおよびスチレンの割合を表4に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同じ成分(メタクリル酸メチル:2質量%、アクリロニトリル:21質量%)のラテックスを用いた。
表4に記載した、塗工紙表面の1〜3μmのクレー粒子の割合は、次のとおり測定した。塗工紙をA4サイズに切り出し、用紙短辺を上辺として、上辺から下にAcm、左辺からAcmの地点で、縦横5mm角のサンプルを切り出した。ここでAは1〜20の整数であり、合計20サンプルを採取した。切り出したサンプルの表面を、走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて倍率12000倍で写真撮影した。写真の上辺から下にBcm、左辺からBcmの地点に最も近く、かつ粒子全体が判る程度に撮影されているクレー粒子について、粒子径を測定した。ここでBは1〜5の整数であり、1サンプルから5個のクレー粒子の粒子径を求め、合計100点のクレー粒子について粒子径を求めた。この100点の粒子のうち、粒子径が1〜3μmの範囲にある粒子数の割合を算出した。再生粒子、炭酸カルシウム、カオリンクレー等、複数種類の顔料を併用した場合には、どの粒子がいずれの顔料であるかを、粒子形状で判断することができる。再生粒子は脱墨フロス由来のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる、凝集塊状の粒子であり、炭酸カルシウムは不定形の球状粒子であり、クレーは板状である。上記形状は、倍率12000倍で充分判別可能である。
離解パルプの繊維長の最大値は、次のとおり求めた。塗工紙をJIS P 8220:1998「パルプ−離解方法」で離解して得られたパルプ繊維について、FiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した中心線繊維長を繊維長とし、このパルプ繊維について、重さ加重の繊維長分布を求め、繊維長0.05mmごとに集計した。
ルンケル比についてもFiberLab.(Kajaani社)により測定した数平均繊維幅、数平均繊維壁厚から、次の式により算出した。
(ルンケル比)=(繊維壁厚の2倍)/(繊維内腔径)
(繊維内腔径)= 繊維幅−(繊維壁厚の2倍)
得られた塗工紙について、各物性を以下の方法にて調べた。結果は、表4に示す。
(a)坪量
JISP8124:1998「紙及び板紙−坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定した。
(b)不透明度
JIS P 8149:2000「紙及び板紙−不透明度試験方法(紙の裏当て)−拡散照明法」に記載の方法に準拠して測定した。なお、80%以上であれば不透明性に特に優れ、78%以上であれば不透明性に優れ、76%以上であれば不透明性が良く使用可能であり、76%未満であれば不透明性に劣るため印刷に耐えない塗工紙となる。
(c)動的液体浸透性
動的液体浸透性測定装置(表面・サイズ度テスター、型番:EST12、ミューテック社製)を用いて、周波数2MHzにおける浸透時間2秒後の信号強度(%)を測定した。信号強度が40%以上であれば短時間範囲における耐吸水性に特に優れ、35%以上であれば耐吸水性に優れ、30%以上であれば耐久水性に若干劣るものの、オフセット印刷時に断紙しにくく実使用可能であり、30%を下回ると耐久水性に劣り断紙が発生しやすく、実使用に耐えない塗工紙となる。
(d)印刷作業性
オフセット輪転印刷機(型番:LR−435/546SII、小森コーポレーション社製)を使用し、カラーインク(品番:WEB ACTUS MAJOR、東京インキ社製)にて、印刷速度1000rpmでカラー4色オフセット印刷を1万7千メートル行った。印刷中に発生した断紙回数を、次のとおり評価した。
◎:断紙がなく、印刷作業性に優れる。
○:断紙が1回発生し、印刷作業性に僅かに劣る。
△:断紙が2回発生し、印刷作業性が多少劣る。
×:断紙が3回以上発生し、印刷作業性に劣る。
なお、前記評価基準のうち、◎、○、△を実使用可能と判断する。
(e)印刷適性
上記印刷作業性評価で行ったオフセット印刷物の印刷面について、目視及びルーペ(10倍)にて毛羽立ちおよびラフニングの程度を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:毛羽立ちおよびラフニングが確認できず、印刷適性に優れる。
○:毛羽立ちおよびラフニングが若干確認でき、印刷適性が若干劣る。
△:毛羽立ちおよびラフニングが多少確認でき、印刷適性が多少劣る。
×:毛羽立ちおよびラフニングがはっきり確認でき、印刷適性に劣る。
なお、前記評価基準のうち、◎、○、△を実使用可能と判断する。
(f)白抜け
上記印刷作業性評価で使用した印刷サンプルの印刷面について、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:白抜けがなく、印刷品質に特に優れる。
○:白抜けの発生が僅かであり、印刷品質に優れる。
×:白抜けの発生が多く、印刷品質に劣る。
なお、前記評価基準のうち、◎、○を実使用可能と判断する。
(g)裏抜け
上記印刷作業性評価で使用した印刷サンプルの印刷面について、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:裏抜けがなく、印刷品質に特に優れる。
○:裏抜けの発生が僅かであり、印刷品質に優れる。
なお、前記評価基準のうち、◎、○を実使用可能と判断する。
実施例の塗工紙はいずれも、不透明度、動的液体浸透性、印刷作業性、印刷適性、白抜け、裏抜けに優れた塗工紙であり、高速オフセット輪転印刷機において断紙を防止しやすい塗工紙である。これに対して、比較例の塗工紙は、不透明度、動的液体浸透性、印刷作業性、印刷適性、白抜け、裏抜けのいずれかまたは複数の項目に劣り、高速オフセット輪転印刷機において断紙を防止できず、本発明の目的を満足しない塗工紙である。なお、参考例1は市販のA3コート紙である。