JP2011072297A - 細胞培養基材 - Google Patents

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Abstract

【課題】 基材中に含まれる下限臨界溶解温度を有する重合体が架橋していない細胞培養基材であり、更に、環境温度に対する疎水性と親水性の変化が敏速で、特にヒトの末梢血単球細胞より分化させたマクロファージ細胞を、培養基材から、細胞の表面抗原を損傷することなく、かつ高い回収率で剥離回収できることを特徴とする細胞培養基材を提供する。
【解決手段】 ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とを含有することを特徴とする末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞培養の技術に関し、具体的には、培養した末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞を容易に剥離、回収できる細胞培養基材に関する。
従来、動物組織等の細胞培養基材としては、主にプラスチック(例えばポリスチレン)製容器が使用されてきた。これら容器は、細胞培養を有効に行わせるために、その表面にプラズマ処理や、シリコンや細胞接着因子等のコーティングなどの表面処理が施されている。これら細胞培養容器を培養基材として用いた場合には、培養(増殖)した細胞が容器表面に接着しており、細胞を単離・回収するためには、トリプシ等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品を用いて、容器表面から剥離する必要があった。このような酵素や化学薬品により細胞を剥離する操作は工程が煩雑であるほか、雑菌やDNAあるいはRNA等の不純物が混入する恐れがあった。また、細胞と基材の結合部分が切断されるだけではなく、細胞同士の結合も切断されるため、細胞を増殖している形状(例えばシート状)のままで取り出すことができなかったり、細胞の性質が変化してしまう問題があった。
近年、細胞培養容器の表面にポリN−イソプロピルアクリルアミドのような下限臨界溶解温度を有するポリマーを極薄く被覆した基材を使用して、細胞培養温度ではポリマーが疎水性状態を示し細胞がポリマーに接着し、培養後にポリマーを低温処理して親水性状態にすることにより、細胞とポリマーとの接着性を低下させ、細胞を加水分解酵素や化学薬品を使用せずに基材から細胞をシート状に剥離する技術が報告されている(例えば特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
しかし、ポリN−イソプロピルアクリルアミドのようなポリマーはポリスチレンのようなプラスチック表面との間に接着性が低く、水に触れると、塗布されたポリマー層が容易に剥離してしまう。このようなポリマー層を水に触れてもプラスチック表面から剥離させないためには、ポリマーを固定する必要がある。その方法の一つとしては、N−イソプロピルアクリルアミド(モノマー)の溶液を細胞培養基材表面に塗布して電子線照射によるグラフト重合を行う方法がある(例えば、特許文献3参照)。
電子線照射によるグラフト重合は、重合と同時に、ポリマー間の架橋反応も必ず起こり、ポリマーの温度応答速度が架橋度合の進行につれ大きく低下してしまい、ポリマーを親水性にするために低温を保持する時間を長く要する問題があり、且つ、その間、細胞も低温状態に長時間晒され、ダメージを受ける問題があった。また、この方法で製造された細胞培養基材は、放射線(例えばγ線)滅菌処理を行うと、ポリマー同士やポリマーとプラスチック表面との間に架橋反応が起こり、ポリマーの温度応答性が大きく低下してしまい、本来の細胞の剥離しやすさが無くなる問題があった。
一方、水に均一に分散した水膨潤性粘土鉱物の存在下で、水溶性有機モノマーを放射線の照射により重合させてなる高分子ヒドロゲルからなり、水溶性有機モノマーの重合体(ポリN−イソプロピルアクリルアミドのような下限臨界溶解温度を有するポリマー)と水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する細胞培養基材が開示されている(例えば特許文献4参照)。
生化学分野では、細胞培養操作等の点において、細胞培養基材がプラスチック製培養ディッシュのような容器と一体化するものが求められていた。しかしながら、上記従来文献においては、このような一体化した細胞培養容器の具体的手段は開示されていない。
特公平6−104061公報 特開平5−192138公報 特開平5−192130公報 特開2006−288251公報
大和雅之、岡野光夫「ナノバイオテクノロジーの最前線」第6章、P.340−P.347、シーエムシー出版(2003年出版)
本発明が解決しようとする課題は、基材中に含まれる下限臨界溶解温度を有する重合体(B)が架橋していない細胞培養基材であり、更に、環境温度に対する疎水性と親水性の変化が敏速で、特にヒトの末梢血単球細胞より分化させたマクロファージ細胞を、培養基材から、細胞の表面抗原を損傷することなく、かつ高い回収率で剥離回収できることを特徴とする細胞培養基材を提供することにある。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とを含有する細胞用培養基材が、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞に対し良好な培養性、及び培養された細胞を、環境温度を低下させることにより容易に剥離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とを含有することを特徴とする末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材を提供するものである。
また、本発明は、ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とが相互作用することにより形成された複合体と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)とを含有する細胞培養基材であって、該細胞培養基材の細胞培養面に前記ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)が露出していることを特徴とする末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材を提供するものである。
本発明の細胞培養基材の特徴は、上記ポリメトキシエチルアクリレート(A)と水膨潤性粘土鉱物(C)の構成部分が細胞の増殖を担い、LCSTを有するポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)は温度変化による細胞の剥離を担い、この二つの部分を細胞の種類に応じてそれぞれ単独に制御できることにある。例えば、培養時、培養温度(37℃)がポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのLCST(32℃)より高いため、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが水不溶(疎水性)状態になり、細胞が基材の表面で増殖するが、温度を32℃以下に下げると(例えば20℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが水溶性になり基材表面から水溶液へと伸展し、それに伴い細胞が基材表面から脱離しながら剥離していく。
ポリメトキシエチルアクリレート(A)及びポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)は主にイオン結合や水素結合などにより水膨潤性粘土鉱物(C)と相互作用し結合している。この結合力は強く、容易にポリマーと水膨潤性粘土鉱物(C)を引き離すことはできない。例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドと粘土鉱物からなる三次元網目構造を有するヒドロゲル(含水率が90%)は95kPaの引っ張り破断強度を示している((特許文献4)特開2006−288251公報参照)。
本発明の細胞培養基材は、水膨潤性粘土鉱物(C)とポリメトキシエチルアクリレート(A)がほぼ均一な層状構造になっている複合体(X)の薄層と、該薄層の中から表面に向かって伸び出ているポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)とから構成されている。そして、複合体(X)の薄層表面がポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)に完全に覆われることなく適宜露出しているため、良好な細胞増殖性と細胞剥離性を維持できる。
本発明の細胞培養基材は、疎水性(培養)条件では細胞と優れた接着性を示すため、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞を好適に培養、増殖させることができ、また親水性(剥離)条件下では、細胞との接着性を低下させることができるため、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品を使用せずに細胞を剥離でき、細胞の破損や、基材の剥離混入を生じることなく、容易に末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞を回収できる特徴を有する。更に、疎水性から親水性、あるいは親水性から疎水性への変化が迅速であるため、温度をはじめとする外部環境を変化させる際に末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞に与える影響が少ない特徴を有する。
本発明で用いるポリメトキシエチルアクリレート(A)は、粘土鉱物と相互作用し、有機無機複合体を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも分子量が5000以上のものが好ましく用いられ、特に好ましくは分子量50000以上のものが用いられる。
ポリメトキシエチルアクリレート(A)の使用により、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞の初期接着性を容易に調節でき、細胞増殖性と剥離性が良好な細胞培養基材が得られる。また、この細胞培養基材をポリスチレンなどのプラスチック製基材等の支持体の表面に積層させる場合は、両者間の接着性が強く、製造が簡便にできる。
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(C)は、層状に剥離可能な水膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母、等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
本発明の細胞培養基材において、重合体(A)と無機材料(C)との質量比((C)/(A))が、0.1〜0.5であることが好ましい。質量比((C)/(A))がこの範囲であると、得られた培養基材が、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞に対し良好な培養性を示し、支持体に積層させる場合、両者の接着性が良好であり好ましい。
本発明で用いる重合体(B)は、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞に対し培養時良好な接着性を示し、また温度降下時高い剥離性を示すものであれば、好適に使用できるが、中でも重量平均分子量Mwが1×10〜2×10であることが好ましく、1×10〜5×10であることが更に好ましい。1×10以上であれば、十分な細胞剥離性が維持でき、また、2×10以下であれば、十分な細胞増殖性が維持でき、性能のよい細胞培養基材を製造できる。
また、本発明の細胞培養基材において、基材全体に対する重合体(B)の含有率が10質量%〜30質量%であることが好ましい。
重合体(B)の含有率がこの範囲であると、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞の培養基材に対する接着性と増殖性及び温度低下時の剥離性が良好であり、培養基材の表面平滑性もよく、また、プラスチック製基材の表面に積層するときの塗布性や基材表面との接着性がよく、好ましい。
次いで、本発明の細胞培養基材の製造方法について説明する。
本発明の細胞培養基材は、メトキシエチルアクリレートを重合させてなる重合体(A)と粘土鉱物(C)とが均一な形成された複合体と、重合体(B)とを含有するものができれば、製造方法は特に限定されないが、中でも、メトキシエチルアクリレートを重合させ重合体(A)と粘土鉱物(C)との複合体微粒子の分散液を造った後、重合体(B)を均一に混合させて、培養基材を製造する方法が、各種容器への塗布性がよく、均一で薄い塗膜が得られ、良好な表面性能(培養性、剥離性)を有する細胞培養基材が得られ好ましい。
具体的には、製造例として下記の製造方法について説明する。
水媒体(W)中の粘土鉱物(C)の濃度が下記式(1)又は式(2)で表される範囲となるように、前記メトキシエチルアクリレートと前記粘土鉱物(C)と光重合開始剤(d)とを水媒体(W)に混合した後、メトキシエチルアクリレートを光重合させることにより、重合体(A)と前記粘土鉱物(C)との複合体(X)の分散液(L)を製造する第1工程、
前記分散液(L)に、前記重合体(B)を添加し、均一に混合して、支持体に塗布した後、乾燥させる第2工程を順次行なうことを特徴とする細胞培養基材の製造方法である。
式(1) Ra<0.19のとき
無機材料(C)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(2) Ra≧0.19のとき
無機材料(C)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、粘土鉱物(C)の濃度(質量%)は、粘土鉱物(C)の質量を水媒体(W)と粘土鉱物(C)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは粘土鉱物(C)と重合体(A)との質量比((C)/(A))である。)
この製造方法に用いられる粘土鉱物(C)及び重合体(B)は、前記細胞培養基材の説明で述べたのと同じものを使用できるので、省略する。
前記製造方法に用いる水媒体(W)は、メトキシエチルアクリレートモノマーや粘土鉱物(C)などを含むことができ、重合によって、物性のよい有機無機複合体分散液が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、たんぱく質、コラーゲン、糖類、アミノ酸類、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
本発明に用いられる重合開始剤(d)としては、公知の光重合開始剤を適時選択して用いることができる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
前記光重合開始剤は非水溶性のものである。ここで言う非水溶性とは、重合開始剤の水に対する溶解量が0.5質量%以下であることを意味する。非水溶性の重合開始剤を使用することにより、開始剤がより粘土鉱物の近傍に存在しやすく、粘土鉱物近傍からの開始反応点が多くなり、得られる重合体(A)と粘土鉱物(C)との複合体(X)の粒径分布が狭く、分散液(L)の安定性が高く、好ましい。
前記光重合開始剤(d)を水媒体(W)と相溶する溶媒(E)に溶解させた溶液を前記水媒体(W)中に添加することが好ましい。この方法によって光重合開始剤がより均一に分散でき、より粒径の揃った複合体(X)が得られる。
光重合開始剤(d)を溶媒(E)に溶解させた溶液中における光重合開始剤(d)と溶媒(E)の質量比(d)/(E)は、0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.05が更に好ましい。0.001以上であると、紫外線の照射によるラジカルの発生量が十分に得られるため好適に重合反応を進行させることができ、0.1以下であれば、開始剤による発色や、臭気を実質的に生じることがなく、またコストの低減が可能である。
光重合開始剤(d)を溶媒(E)に溶解させた溶液の添加量が、メトキシエチルアクリレートモノマー、粘土鉱物(C)、水媒体(W)、重合開始剤(d)及び溶媒(E)の総質量に対し、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%であることが更に好ましい。該分散量が0.1質量%以上であると、重合が十分に開始され、5質量%未満であると、複合体(X)中の重合開始剤の増加による臭気の発生、更には一旦分散された光重合開始剤が再び凝集する等の問題を低減でき、均一な複合体(X)の分散液(L)を得ることができるため好ましい。
本発明の溶媒(E)としては、光重合開始剤(d)を溶解できる水溶性の溶剤、または光重合開始剤(d)を溶解し且つHLB(親水疎水バランス)値が8以上のアクリル系モノマー(a)を用いることができる。ここのHLB値はデービス式(「界面活性剤−物性・応用・化学生態学」、北原文雄ら編、講談社、1979、p24−27)に従って求められた値である。例えば、トリプロピレングリコールジアクリレートのようなポリプロピレングリコールジアクリレート類、ポリエチレングリコールジアクリレート類、ペンタプロピレングリコールアクリレートのようなポリプロピレングリコールアクリレート類、ポリエチレングリコールアクリレート類、メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートのようなメキシポリエチレングリコールアクリレート類、ノニルフェノキシポリエチレングリコ−ルアクリレート類、ジメチルアクリルアミドのようなN置換アクリルアミド類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、などが挙げられる。溶媒(E)としてのアクリル系モノマーのHLB値が8以上であると、水媒体(W)への溶解性または分散性に優れるため好ましい。これらのアクリル系モノマーは、一種以上を混合して用いることができる。
また、本発明の溶媒(E)としては、光重合開始剤(d)を溶解でき、且つ一定以上の水溶性を有する溶剤を用いることができる。ここで言う水溶性を有する溶剤とは、水100gに対し50g以上溶解できる溶剤であることが好ましい。水への溶解性が50g以上であると、非水溶性の重合開始剤(d)の水媒体(W)への分散性が良く、得られる複合体(X)の粒径が揃いやすくなり、分散液(L)の安定性が高く好ましい。
例えば、水溶性溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶剤を混合して用いても良い。
粘土鉱物(C)の水媒体に対する濃度(質量%)は式(1)又は式(2)で表される範囲であることが本製造方法の特徴である。粘土鉱物(B)の水媒体に対する濃度(質量%)が上記範囲内であると、良好な複合体(X)の分散液(L)が得られ、支持体への塗布が容易で、平滑で均一な薄い塗膜が得られ、好ましい。
本製造方法で製造される分散液(L)は、そのまま使用してもよいし、水洗などによる精製工程を経てから使用してもよい。また該分散液(L)に更にレベリング剤や界面活性剤、ペプチド、たんぱく質、コラーゲン、アミノ酸類、高分子化合物などを添加して使用してもよい。
本製造方法の第2工程における、前記分散液(L)の支持体への塗布方法は、公知慣用の方法でよい。例えば、分散液を支持体に流延させる方法や、バーコーターやスピンコーターによるコーター法、または噴霧などのスプレー法、ゴムなどの版に分散液をつけてから支持体に転写する方法が挙げられる。
乾燥方法も、分散液(L)中の揮発成分が揮発し、複合体(X)の薄層ができれば、任意の方法でよい。例えば、室温自然乾燥、室温の風や加熱または熱風による乾燥、遠赤外線乾燥などがあげられる。或いは分散液をスピンコーターで回転しながら熱風を当てたり加熱したりする方法も挙げられる。
本工程に用いられる光としては、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができるが、中でも装置や取り扱いの簡便さやメトキシエチルアクリレートモノマーの重合と同時に架橋を起こさせない観点から紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製および紫外線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
この製造方法で得た細胞培養基材の表面は、重合体(B)が一層覆っているものではなく、複合体(X)の薄層の中から重合体(B)が伸び出て、該薄層の表面も適宜露出しているような構造になっている。重合体(B)は、複合体(X)の薄層中から表面までイオン結合や水素結合などにより粘土鉱物に結合しており、物理的な力や水中でもその結合が切れることなく、安定な構造になっている。また、培養される末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞の培養性や剥離性に応じて、重合体(B)の長さ(分子量)や含有量を適宜調整することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
[モノマー、粘度鉱物(C)、水媒体(W)を含む反応溶液の調製]
モノマーとしてメトキシエチルアクリレート(東亞合成株式会社製)0.32g、粘土鉱物(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.08g、水媒体(W)として水10g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
[重合開始剤(d)を溶媒(E)に溶解させた溶液の調整]
溶媒(E)として、メタノール9.8g、重合開始剤(d)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(2)を調製した。
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2)を25μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L1)を作製した。
この反応系のRa=0.25、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.79(%)<0.87Ra+2.17=2.39
[重合体(B)水溶液の調製]
N―イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.7g、水10g、溶液(2)140μl、を混合した後、該溶液を入れるガラス容器の周りを冷却しながら(約10℃)、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ポリN―イソプロピルアクリルアミドの水溶液を調製した。この溶液に更に水を5g添加し、均一に混合して、重合体(B)の水溶液(B1)とした。
前記得られたポリN―イソプロピルアクリルアミドの分子量を、Shodex GPC System−21装置(昭和電工株式会社製)を用いて分子量を測定した。このポリN―イソプロピルアクリルアミドの重量平均分子量Mwは3.40×10であった。測定時の溶媒として10mmol/LのLiBrを含有するN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を使用した。分子量の計算に使用したポリスチレン標準物質としては、STANDARD SH−75とSM−105キット(昭和電工株式会社製)を使用した。
[細胞培養基材の作製(第2工程)]
分散液(L1)全量に、上記重合体(B)の水溶液(B1)を1.0g(固形分0.1g)入れ、均一に混合した後、60mmポリスチレン製シャーレ(60mm/Non−Treated Dish、AGCテクノグラス株式会社製)に入れ、スピンコーターを用いて2000回転でシャーレの表面に薄く塗布し、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させた。次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時乾燥して、細胞培養基材1を得た。
[培養基材の放射線滅菌処理]
前記細胞培養基材1に、吸収線量が10kGyになるように、電子線を照射した(照射処理はラジエ工業株式会社にて行った)。
[マクロファージ細胞の培養及び剥離回収]
上記電子線処理を施した細胞培養基材1に、ウシ胎児血清を10%含有し、ペニシリン、ストレプトマイシン、ヒト由来血清(非働化済み)、M−CSF(10ng/ml)を添加したRPMI1640培地を適量入れ、CD14に対して陽性の細胞(CD14-positive cells obtained from healthy donors)を播種して(播種濃度は5×10個/dish)、水蒸気飽和、5%二酸化炭素含有37℃恒温器内で培養を行った。播種してから1週間後、この細胞培養基材1を光学顕微鏡で観察したところ、細胞が細胞培養基材1の表面に接着していることが確認できた。細胞形状は通常の組織培養用ディッシュ(AGCテクノグラス株式会社製の60mm/Tissue Culture Dish)を使用した場合と同じであった。細胞の剥離方法としては、前記培養基材1内の培地を吸い取り、氷冷した培地を添加し、氷上に15分間静置させた後、ピペットでPBS液を培養面に吹き付け、増殖した細胞を剥離させた。回収した細胞の数を数え、下記式(3)より細胞の回収率を求めた。(表1、細胞の回収率=50%)。
また、回収細胞の生存率及び細胞の表面抗原機能について、フローサイトメトリーを用いて確認した。生存率は94%で、殆どの細胞でCD14陽性である(細胞の表面抗原が殆ど損傷していない)ことが確認された。

式(3) 細胞回収率(%)=(回収細胞の数/播種細胞の数)×100
(比較例1)
重合体(B)を含まない細胞培養基材の例である。
[細胞培養基材の作製(第2工程)]
実施例1の分散液(L1)を60mmポリスチレン製シャーレ(60mm/Non−Treated Dish、AGCテクノグラス株式会社製)に入れ、スピンコーターを用いて2000回転でシャーレの表面に薄く塗布し、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させた。次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時乾燥して、細胞培養基材2を得た。
[培養基材の放射線滅菌処理]
前記細胞培養基材2に、吸収線量が10kGyになるように、電子線を照射した(照射処理はラジエ工業株式会社にて行った)。
[マクロファージ細胞の培養及び剥離回収]
上記電子線処理を施した細胞培養基材2を用いて、実施例1と同様にしてCD14に対して陽性の細胞(CD14-positive cells obtained from healthy donors)の培養を行った。播種してから1週間後、この細胞培養基材2を光学顕微鏡で観察したところ、細胞が細胞培養基材2の表面に接着していることが確認できた。細胞形状は通常の培養用ディッシュ(AGCテクノグラス株式会社製の60mm/Tissue Culture Dish)を使用した場合と同じであった。また、実施例1と同様にして細胞の剥離回収を行い、細胞の回収率と生存率を求めた。(表1、細胞の回収率=20%、細胞の生存率=93%、殆どの細胞でCD14陽性であった)
この比較例から、重合体(B)を含まない場合、細胞培養性は実施例1の細胞培養基材1とはあまり変わらないが、細胞の培養基材表面への接着が強いため、細胞の回収率が大きく低下することが理解できる。
(比較例2)
市販の組織培養用ディッシュの培養例である。
[マクロファージ細胞の培養及び剥離回収]
60mmの組織培養用ディッシュ(AGCテクノグラス株式会社製)を用いて、実施例1と同様にして、CD14に対して陽性の細胞(CD14-positive cells obtained from healthy donors)の培養及び剥離回収を行った。細胞はディッシュ表面に強く接着して、回収は殆どできなかった。
この比較例から、通常の組織培養用ディッシュ(表面プラズマ処理)は、細胞の接着が強く、トリプシ等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品の使用なしでは、細胞の剥離回収は非常に困難であることが理解できる。
Figure 2011072297
上記実施例及び比較例から、本発明の細胞培養基材は、他の材質の支持体との間、良好な接着性を有し、末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞に対し優れた培養性と、細胞の表面抗原に損傷を与えずに高い回収率で細胞を剥離回収できる機能を有している。
また、この細胞培養基材は、酸素を除去することなく極短時間で、容易に製造できることが明らかであった。
本発明の細胞培養基材は、生化学や再生医療分野で、コロニー状細胞群や2次元のシート状細胞、3次元の立体細胞増殖物の調製に利用できる。

Claims (4)

  1. ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とを含有することを特徴とする末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材。
  2. ポリメトキシエチルアクリレート(A)と、水膨潤性粘土鉱物(C)とが相互作用することにより形成された複合体と、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)とを含有する細胞培養基材であって、
    該細胞培養基材の細胞培養面に前記ポリN−イソプロピルアクリルアミド(B)が露出していることを特徴とする末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材。
  3. 前記重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(C)との質量比((C)/(A))が、0.1〜0.5の範囲にある請求項1〜2のいずれかに記載の末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材。
  4. 細胞培養基材全質量に対する前記重合体(B)の含有率が10質量%〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の末梢血単球細胞及びマクロファージ細胞用培養基材。
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