一般に、クランク軸周りには高いオイル濃度を必要とし、動弁装置にはクランク軸周りほど高いオイル濃度を必要としない。
従来の潤滑装置は、クランク室内の圧力変動を利用してクランク室内のオイル又はオイルミストを濃度調整せずに動弁室及び動弁装置に送っているので、動弁装置を潤滑するために、動弁室へオイル又はオイルミストが過剰に送り込まれ、動弁室内に滞留するオイルの量が多くなりすぎて、ブローバイガスの燃焼室への排出と共にオイルが多く排出されてしまい、オイルが早期に消費されてしまうという問題がある。従って、オイルの補充期間が短くなり、オイルの補充を怠ると潤滑不良を起こす原因になる。また燃焼室へのオイルの排出量が更に過剰になると、オイルが未燃焼のまま大量にマフラから外部に排出され、環境へ悪影響を与える虞が生じる。
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、クランク室とそれ以外の駆動系をそれぞれに適したオイル濃度で潤滑し、オイルの消費量の増大を防止することが可能な4サイクルエンジンの潤滑装置を提供することを目的とする。
このような課題を解決するため、本発明は、ピストンの往復動によるクランク室内の圧力変動を利用して、クランク室と別に設けられた油溜室に貯留するオイルを、クランク室及び吸・排気の各バルブ機構を収納した動弁室に供給して各部の潤滑を行いながらオイルを循環させるとともに、オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを動弁室から燃焼室に排出する4サイクルエンジンの潤滑装置であって、クランク室内の負圧時に油溜室とクランク室とを連通して、油溜室内で液状に貯留されるオイルをクランク室に送る送油通路と、クランク室内の正圧時にクランク室と油溜室とを連通して、クランク室内で生成されるオイルミストを油溜室に送る連通路と、油溜室内に設けられ、連通路から油溜室に送られるオイルミストを液化してオイルミストの濃度を低下させる液化手段と、油溜室から動弁室に液化手段を介してオイルミストを供給する供給通路とを備えたことを構成要件とする(請求項1)。
この4サイクルエンジンの潤滑装置は、クランク室内の負圧時にのみ、送油油路を介して油溜室内で液状に貯留されるオイルをクランク室に送る。このため、潤滑装置は、クランク室から送油油路を介して油溜室にオイルが逆流しないようになっている。クランク室に送られたオイルは、クランク軸周りを充分に潤滑し、
クランク室内で高速に回転するカウンタウェイトやこれに連結されたコンロッド等によって飛散されて微粒子化して、オイルミストとして生成される。なお、クランク室で生成されたオイルミストの一部は、クランク室の壁面に付着して再度液化する。このように、クランク室内に液状のまま多めのオイルを送ることができるので、クランク室内の駆動部品を充分に潤滑することができる。
そして、クランク室内の正圧時にのみ、クランク室内で生成されたオイルミストを連通路を介して油溜室に送る。この時、オイルミストと共にオイルも油溜室に送られる。連通路を介して送られたオイルミストは、油溜室に設けられた液化手段によってその大部分が液化されてオイルに戻る。油溜室で液化されてなったオイルは連通路を介して送られてきたオイルと共に、再び油溜室に貯留される。なお、上述したように、送油油路を介してクランク室から油溜室にオイルが逆流しないので、この逆流によるオイルミストの生成はない。本発明は、クランク室内の駆動部品のみでオイルミストの生成手段を構成し、油溜室内にオイルミストの生成手段を設けないことを前提としている。このように、クランク室から油溜室に送られるオイルミストは、液化手段を介することで、オイルミストの濃度を低くすることができる。そして、液化手段によって濃度の低下したオイルミストのみを動弁室に供給し、動弁室に収納したバルブ機構を潤滑する。
本発明における液化手段の一態様は、連通路及び供給通路は、油溜室内の略中央でそれぞれ開口する開口端部を有して油溜室内に突出し、供給通路の開口端部に対し、連通路の開口端部が突出するように配置し、油溜室にオイルが規定量以下で貯留された状態で、油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化しても、連通路及び供給通路の各開口端部が油面下に没することがない位置に配置してなることを構成要件とする(請求項2)。
供給通路の開口端部に対し連通路の開口端部が油溜室内に突出するとは、供給通路及び連通路がそれぞれ基部を有して開口端部側に向かって延びると共に、連通路の開口端部における連通路の延伸方向に直交する平面に対し、供給通路の開口端部及びその端部近傍が連通路の基部側に配置されて開口端部側に延びることをいう。より詳しくは後述する実施の形態で図4を参照しながら説明する。供給通路及び連通路の各開口端部側への延伸方向は平行であってもよいし、開口端部側に進むに従って互いの開口端部が離反するように配置してもよい。
一般に、油溜室には規定のオイルの量を貯留するように入れて使用される。貯留されるオイルの量が規定の下限未満の場合には、エンジンを適正に潤滑するのに充分なオイルを循環することができない。一方、貯留されるオイルの量が規定の上限を超える場合には、供給通路や連通路の開口端部がオイルの油面下に没してしまい、エンジンを適正に潤滑するのに必要なオイルミストを上手く潤滑することができない。なお、規定の範囲で適正にオイルが貯留されている場合には、エンジンの使用と共に徐々にオイルが消費されて減少し、オイルを補充しない限りやがて規定量の下限未満となる。オイルが規定量以下で貯留されるとは、貯留されるオイルの量が規定量の上限以下の状態をいい、規定量の下限未満の状態も含む。
油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化するとは、エンジンを傾けたりすることで油溜室が傾き、水平に位置する油面と油溜室の相対的な位置関係が変わる状態をいう。なお、通常の使用状態で油溜室が揺さぶられることで、油面が揺れる状態も含む。但し、故意に油溜室を激しく揺さぶることで油面が激しく揺れる状態も含むものではない。請求項2記載の発明は、上位概念である請求項1に記載の液化手段を補足説明している。
この液化手段は、油溜室が傾くことでオイルの油面位置が変化しても、連通路が油面下に没することがないので、クランク室からオイルミストと共に送られる空気が油面下に放出されることはない。そのため、貯留されるオイルの内部から空気と共にオイルが吹き上がることはなく、それによるオイルミストの生成を防ぐことができる。連通路から放出されるオイルミストは、オイルの油面や油溜室の壁に衝突して液化する。請求項2記載の液化手段は、連通路及び供給通路の油溜室内の開口端部が、略中央でそれぞれ開口するものである。このため、上位概念である請求項1記載の液化手段は、略中央に開口することには限定されない。そして、供給通路の開口端部に対し連通路の開口端部が突出するので、連通路の開口端部から放出されたオイル及びオイルミストを供給通路に直接に供給することはなく、供給通路には液化により濃度低下したオイルミストを供給できる。供給通路の開口端部に対する連通路の開口端部が突出する程度は、設計的事項であるが、この突出する程度を調整することで、より適切な濃度のオイルミストを供給通路に供給することができる。
本発明における液化手段の一態様は、連通路の開口端部の周囲に設けられ、連通路から送られるオイルミストを衝突させることで液化を促進させる衝突部と、オイル及びオイルミストを排出する排出部を有していることを構成要件とする(請求項3)。
衝突部及び排出部を有した液化手段は、衝突部にオイルミストを衝突させて液化させ、オイルミストの濃度を低下させる。オイルは、衝突部上を流れて排出部から排出され油溜室内に貯留されているオイルに戻される。排出部からは濃度の低下したオイルミストも排出され、このオイルミストが供給通路に供給される。液化手段は、具体的には、連通路の開口端部の周囲を複数の板部材で囲み、各板部材の間に隙間を設けてなるものや、有底筒状に形成されて複数の孔を有したパンチングメタルのようなもので連通路の周囲を囲むことで得ることができる。請求項3記載の発明は、上位概念である請求項1記載の液化手段を補足説明している。
この液化手段は、連通路の開口端部の周囲に設けられるので、開口端部から放出されるオイルミストの濃度をより確実に低下させることができる。そして、この液化手段を介することで、濃度の低下したオイルミストを供給通路に供給できる。衝突部を複数の板部材とし、排出部を各板部材の間の隙間とした場合、この隙間の程度は設計的事項であるが、この隙間の程度を調整することで、より適切な濃度のオイルミストを供給通路に供給することができる。
本発明における液化手段の一態様は、連通路及び供給通路が油溜室内の略中央でそれぞれ開口する開口端部を有し、油溜室にオイルが規定量以下で貯留された状態で、油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化しても、連通路及び供給通路の各開口端部が油面下に没することがない位置に配置し、連通路から送られるオイル及びオイルミストが供給通路に直接流入するのを防止する流入阻止部を、連通路の開口端部と供給通路の開口端部の間に配置してなることを構成要件とする(請求項4)。
請求項4記載の発明は、上位概念である請求項1記載の液化手段を補足説明している。この液化手段は、油溜室が傾くことでオイルの油面位置が変化しても、連通路が油面下に没することがないので、クランク室からオイルミストと共に送られる空気が油面下に放出されることはない。そのため、貯留されるオイルの内部から空気と共にオイルが吹き上がることはなく、それによるオイルミストの生成を防ぐことができる。連通路から放出されるオイルミストは、オイルの油面や油溜室の壁に衝突して液化する。請求項4記載の液化手段は、連通路及び供給通路が油溜室内の略中央でそれぞれ開口するものである。請求項1記載の液化手段は、略中央に開口することには限定されない。そして、請求項4記載の発明は、連通路の開口端部と供給通路の開口端部の間に、流入阻止部を配置することを明示する。流入阻止部は、連通路の開口端部から放出されたオイル及びオイルミストが供給通路に直接に供給されるのを阻止するので、供給通路には液化により濃度低下したオイルミストを供給することができる。
流入阻止部は、具体的には、供給通路及び連通路の各開口端部の間に仕切り板を設けることで得られる。また、油溜室を2つの区画に区切るように仕切り板を設け、それぞれの区画に供給通路と連通路の各開口端部を配置するようにしてもよい。この場合、2つの区画の仕切り板には、オイルミストを連通するための連通孔を設けることが必要となる。なお、油溜室を2つの区画に区切るように仕切り板を設けることで、油溜室が揺さぶれても油面を揺れにくくすることができる。仕切り板への連通孔の設け方は、設計的事項であるが、こうした設計的事項を考慮することで、より適切な濃度のオイルミストを供給通路に供給することができる。
また、供給通路で液化したオイルミストを、クランク室に戻すための戻し通路が設けられていることを構成要件とする。供給通路には、バルブ機構の駆動部品(例えば、実施形態におけるバルブ駆動ギヤ10a、カムギヤ10b)を収容するバルブ駆動室が設けられる。そして、戻し通路の一方の開口端部は、バルブ駆動室の油溜室側底部に設けられる(請求項5)。バルブ駆動室は、駆動部品を収容する必要があるので、一定の広がりを持たせる必要がある。一方、供給通路は、オイルミストの循環経路として機能させるために、バルブ駆動室ほどの広がりを必要としない。供給通路は、その途中にバルブ駆動室を形成し、バルブ駆動室に連通する供給通路に比べてバルブ駆動室は広がりを持つ構造となる。バルブ駆動室の底部とは、供給通路の一部とバルブ駆動室の接続箇所に形成される段差のことである。
供給通路の供給されたオイルミストは、バルブ機構の駆動部品を潤滑する時に、バルブ機構の駆動部品に付着して液化する。ここで液化したオイルは、戻し通路を介してクランク室に戻されるので、さらに濃度低下したオイルミストが動弁室に供給される。戻し通路を介してクランク室にオイルを充分に戻せない時があっても、供給通路の途中にバルブ機構の駆動部品があるので、この駆動部品が抵抗として機能して動弁室へのオイルの流出を抑止できる。そして、必要以上に濃度の高いオイルミストが油溜室から供給通路に供給されたとしても、戻し通路の一方の開口端部がバルブ駆動室の油溜室側底部に設けられるのでオイルがバルブ機構の駆動部品を通過する前に底部に留まることができ、オイルとしてクランク室に戻される。供給通路や戻し通路の形状は設計的事項であり、このような設計的事項を考慮することで、より適切な濃度のオイルミストを動弁室に供給することができる。
また本発明は、クランク室内の負圧時に動弁室とクランク室とを連通する直通通路が設けられていることを構成要件とする(請求項6)。直通通路は、動弁室とクランク室とを直結する。
本発明では、ピストンの往復動によるクランク室の圧力変動を利用してオイルを循環させている。動弁室とオイルの循環の圧力源となるクランク室を直通通路で連結し、クランク室内の負圧時に連通するので、動弁室でオイルミストが液化してオイルが多く滞留しても、強い負圧でクランク室にオイルを一気に送ることができ、動弁室にオイルが停留することを防止することができる。
本発明の直通通路は、クランク室に開口する開口端部が、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けられる(請求項7)。ここで、クランク室に開口する開口端部が、ピストンの移動に伴って開口し始めるタイミングで、クランク室内が負圧となるような位置に設けられている。そして、ピストンが上死点に達した時点では、既に開口端部は完全に開口している。
液状のオイルを吸い込むためにはある程度の強い負圧が必要となる。本発明では、クランク室内が最も強い負圧になるタイミングで動弁室とクランク室が連通しているので、動弁室でオイルミストが液化してオイルが多く滞留したとしても、より効率的に動弁室からクランク室にオイルを送ることができる。ところで、クランク室の圧力変動の過程における、弱い負圧のタイミングで直通通路が開口し始めると、クランク室への空気の吸入量が多くなりすぎて、オイルを吸い込むのに充分な強さの負圧が得られない場合がある。本発明では、直通通路が開口し始める位置を設計的に調整することで、より良くオイルを吸い込むのに適した強さの負圧を得ることができる。なお、本発明によれば、ピストンが上死点から上死点近傍位置に向かって移動する間にも直通通路が開口したままになり、クランク室内が正圧になることで、クランク室から動弁室にオイルやオイルミストが逆流する場合も想定される。このような場合には、オイルやオイルミストがクランク室から動弁室へ流れるのを規制する一方向弁を、直通通路に設けることで、逆流を防止することができる。
本発明に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置によれば、クランク室内の負圧時に油溜室とクランク室とを連通して、油溜室内で液状に貯留されるオイルをクランク室に送る送油通路と、クランク室内の正圧時にクランク室と油溜室とを連通して、クランク室内で生成されるオイルミストを油溜室に送る連通路と、油溜室内に設けられ、連通路から油溜室に送られるオイルミストを液化してオイルミストの濃度を低下させる液化手段と、油溜室から動弁室に液化手段を介してオイルミストを供給する供給通路とを備えことにより、クランク室内の駆動部品を充分に潤滑することができ、液化手段により適切に濃度を低下させたオイルミストで動弁室に収容されたバルブ機構を充分に潤滑することができる。そして必要以上に高い濃度のオイルミストを動弁室に供給しないようにできるので、ブローバイガスと共に排出されるオイルの量を減らすことができ、オイルの消費量を抑止することができる。
また、本発明に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置によれば、供給通路にバルブ機構の駆動部品を収容するバルブ駆動室を設け、バルブ駆動室の油溜室側底部とクランク室との間に、バルブ駆動室内のオイルをクランク室に戻すための戻し通路を設けるので、動弁室に、バルブ駆動室内のオイルの供給を抑止することができ、オイルの消費量をより抑止することができる。
また、本発明に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置によれば、クランク室内の負圧時に動弁室とクランク室とを連通する直通通路を設けることで、動弁室にオイルが溜まることがあってもクランク室に戻すことができ、動弁室にオイルが滞留することをさらに抑止することができ、オイルの消費量をさらに抑止することができる。
以下、本発明の4サイクルエンジンの潤滑装置の好ましい実施の形態を図1〜図4に基づいて説明する。潤滑装置は4サイクルエンジンに搭載されるものであるので、この潤滑装置を搭載した4サイクルエンジンについて図1(概略説明図)を用いて説明する。なお、図1は、ピストンが上死点に位置した状態にあるときの4サイクルエンジンを示している。
4サイクルエンジン1(以下、単に「エンジン1」と記す。)は、図1に示すように、シリンダヘッド3aが一体化されているシリンダブロック3と、シリンダブロック3の下部に取り付けられてクランク室5aを形成するクランクケース5と、クランクケース5の下方に配設された油溜室7とを備える。油溜室7は、クランクケース5と別個に設けられ、潤滑オイルA(以下、単に「オイルA」と記す。)を貯留する。
シリンダブロック3とクランクケース5との接続部分には、クランク軸(図示せず)が回転自在に支持され、このクランク軸にはカウンタウェイトやこれに連結されたコンロッド等を介してピストン6が連接されている。ピストン6はシリンダブロック3内に設けられたシリンダ3b内に摺動自在に挿入されている。
シリンダブロック3内に設けられたシリンダ3bの上壁には、気化器(図示せず)及び排気マフラ(図示せず)にそれぞれ連通する吸気ポート及び排気ポートが設けられ、これらの各ポートには、ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブが配設されている。
これらのバルブを駆動する動弁機構10は、クランク軸に固着されたバルブ駆動ギヤ10a、バルブ駆動ギヤ10aによって駆動されカムが連接されたカムギヤ10b、ロッカーアーム(図示せず)等の部品により構成される。この動弁機構10のうちバルブ駆動ギヤ10a及びカムギヤ10bは、シリンダブロック3の頭部に形成された動弁室4と油溜室7とを連通する供給通路31の途中に設けられたバルブ駆動室32内に収容され、ロッカーアーム等の部品は、動弁室4内に設けられている。
油溜室7とシリンダブロック3との間には、送油通路34が設けられている。送油通路34の油溜室側の端部には、吸入部35が取り付けられている。吸入部35は、ゴム等の弾性材料により形成されて容易に撓むことができる管体35aと、管体35aの先端部に取り付けられた吸入口付きの錘35bとを有してなる。吸入部35の錘35bは、重力により鉛直下方に移動可能に取り付けられており、これにより油溜室7が傾いても、規定量の範囲で貯留されるオイルAの油面下に吸入部35の吸入口を没入させることができる。
送油通路34は、ピストン6の上昇によりクランク室5a内が負圧化傾向となったときに、クランク室5a内と油溜室7とを連通させて油溜室7からオイルAを吸い上げてクランク室5a内に供給する部分である。送油通路34のクランク室5a側に開口する開口端部34aの位置は、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン6の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部6aの下死点方向側に位置している。従って、送油通路34の開口端部34aは、ピストン6が上死点に達した時点では既に全開している。
なお、送油通路34は、開口端部34aにリード弁を設けたり、クランク軸に通路を設けてロータリバルブとして機能させる等、クランク室5a内の負圧時に送油通路34とクランク室5aを連通させるようにしてもよい。
送油通路34の途中には、一方向弁37が設けられている。この一方向弁37は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉し、油溜室7内に対しクランク室5a内の圧力が低い状態で開いて送油通路34を連通状態にし、クランク室5a内の圧力の方が高い状態で閉じるように構成されている。
クランク室5aの底部と油溜室7との間には、クランク室5aと油溜室7を連通する連通路39が設けられている。この連通路39は、クランク室5a内で生成されたオイルミスト及び、このオイルミストが液化したオイルを油溜室7に送るためのものである。連通路39のクランク室側に開口する開口端部39aにはリード弁40が設けられている。このリード弁40は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉可能に構成され、ピストン6が下死点側に移動するときのクランク室内の正圧によって開いて連通路39を連通状態にするように構成されている。このためリード弁40が開いて連通路39が連通状態になると、クランク室5a内のオイルミスト及びオイルが連通路39を通って油溜室7内に送られる。
連通路39の油溜室側の開口端部39bは、油溜室7内の略中央で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面上となる位置に配置されている。このため、連通路39の開口端部39bから吐出するオイルミストは、オイルの油面下に吹きつけられることでオイル内部を泡立てることはなく、穏やかに油溜室7に戻され、オイルミストの多くが液化される。但し、開口端部39bから吐出するオイルミストの一部は油面上や壁面上で跳ね返って、油溜室7内の油面上方の空間部7a内に滞留する。このようにオイルAの油面上の位置に配置された連通路39の開口端部39bは、オイルミストを液化させる液化手段70の一部として機能する。
従って、連通路39から吐出するオイルミストはその大部分が液化され、油溜室7内に貯留するオイルミストの濃度を低くすることができる。
供給通路31の開口端部31aは、油溜室7内の内部空間の略中央部で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面の位置が変化しても油面下に没することがないように配置されている。さらに、図1に示すように、開口端部31aに対して開口端部39bが突出するように配置している。
このように、供給通路31の開口端部31aに対し連通路39の開口端部39bが油溜室7内に突出するように配置されているので、連通路39の開口端部39bから吐出するオイルミストが供給通路31の開口端部31aに直接に入ることはない。さらに好ましくは連通路39と供給通路31は、各開口端部側に進むに従って隣接する開口端部と離れる方向に配置されてもよい(図4参照)。即ち、開口端部39bにおける連通路39の延伸方向(一点鎖線で示した方向)に直交する平面39cに対し、供給通路31の開口端部31a及びその端部近傍31a'が連通路39の基部側に配置されていれば、連通路39から吐出するオイルミストが直接に供給通路31の開口端部31aに入ることはない。つまり油溜室7における供給通路31と連通路39の配置は、連通路39から吐出するオイルミストが直接に供給通路31の開口端部31aに流入するのを阻止する流入阻止部として機能している。このため、供給通路31を流れるオイルミストの濃度は、送油通路34からクランク室5a内に供給されるオイルの濃度と比較して低くなる。
供給通路31の動弁室4側の開口端部31bは、動弁室4のシリンダブロック3側に開口している。このため、供給通路31を流れるオイルミストはバルブ駆動室32内の動弁機構10を潤滑し、開口端部31bから吐出して動弁室4内に供給されて動弁室4内のロッカーアーム等を潤滑する。
動弁室4内には、動弁室4内に溜まったオイルを吸引するために吸引管43が複数設けられている。そして、吸引管43と吸引通路42が接続されている。吸引通路42は動弁室4のクランク室5aとは反対側に設けられ、吸引管43はこれに連通して動弁室4内のクランク室側へ延びるように設けられ、吸引管43の先端は開口している。吸引管43の開口先端部は、動弁室4内のクランク室側底面からオイルを吸い上げるために、動弁室4のクランク室側底面の近傍位置に配置されている。そして、吸引管43は動弁室4の隅部に配置されて、動弁室4が上方に位置する状態でエンジン1が傾いても、いずれかの吸引管43を介して動弁室4内に溜まるオイルが吸引されるようになっている。
また吸引通路42には小孔44が複数設けられている。この小孔44は、動弁室4のクランク室5aとは反対側の隅部に配置され、動弁室4が下方に位置する反転状態でエンジン1が傾いても、いずれかの小孔44を介して動弁室4内に溜まるオイルを吸引できる。
吸引通路42には直通通路46が設けられ、クランク室5a内の負圧時に、動弁室52aとクランク室5aとが直通通路46を介して連通する。直通通路46のクランク室側の開口端部46aの位置は、送油通路34の開口端部34aと同様に、ピストン6が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン6の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部6aの下死点方向側に位置している。従って、直通通路46の開口端部46aは、ピストン6が上死点に達した時点では既に全開している。
また直通通路46に、動弁室4からクランク室5a側への流れを許容し、クランク室5aから動弁室4側への流れを規制する一方向弁を設けてもよい。このようにすることで、クランク室5aから動弁室4へオイルやオイルミストが逆流することを確実に防止することができる。
動弁室4の略中央部にはブリーザ通路48の一端部が開口し、ブリーザ通路48の他端部がエアクリーナ50に接続されている。ブリーザ通路48は、ブローバイガスを燃焼室へ排出することを目的として設けられている。動弁室4内のオイルミストやブローバイガスは、ブリーザ通路48を介してエアクリーナ50に送られ、エアクリーナ50に設けられたオイルセパレータ50aによりオイルとブローバイガスに気液分離される。ブリーザ通路48の一端部は、動弁室4の略中央部に開口するので、動弁室4にオイルが多く滞留しても、容易にそのオイルを吸い込むことはない。このブリーザ通路48には一方向弁48aが設けられ、この一方向弁48aによりエアクリーナ50から動弁室4側へのブローバイガスやオイルミストの逆流を防止している。
気液分離されたオイルは、エアクリーナ50とクランク室5aを連通する環流通路52を通ってクランク室5aに送られる。環流通路52にはクランク室側への流れのみを許容する一方向弁52aが設けられている。一方、気液分離されたブローバイガスは、吸気とともに燃焼室に送られる。
バルブ駆動室32の油溜室側の底部とクランク室5aの間には、バルブ駆動室32内のオイルをクランク室5a内に戻すための戻し通路54が設けられている。クランク室5aの負圧時には、戻し通路54を介してバルブ駆動室32に溜まるオイルが吸引される。この戻し通路54は、連通路39の断面積の1/10よりも小さく構成されている。クランク室5aの正圧時には、リード弁40が開き、クランク室5aと油溜室7が連通状態になる。クランク室5a内のオイルミストとオイルは断面積の大きな連通路39を流れ、戻し通路54はオイルで栓がされた状態になるので、クランク室5aからバルブ駆動室32へオイルが逆流することは殆どない。本実施例では、連通路39の内径をφ9mm、戻し通路54の内径をφ2mmとしている。
なお、戻し通路54は、バルブ駆動室32と前述した直通通路46とを連通するように設けてもよい。このように戻し通路54を設けることで、動弁室4に必要以上にオイルが供給されることはない。また戻し通路54内に、クランク室側へのオイルの流れを許容し、バルブ駆動室32側へのオイルの流れを規制する一方向弁を設けてもよい。このようにすると、クランク室5a内からバルブ駆動室32側へのオイルの逆流を確実に防止することができる。
またバルブ駆動室32と送油通路34との間には、流量調整通路56が設けられている。流量調整通路56がバルブ駆動室32内の空気を吸い込むことで、送油通路34を介してクランク室5aに供給されるオイルの流量が調整される。この空気の吸い込み量が多ければ、送油通路34を介して供給されるオイルの流量は減少する。なお、流量調整通路56は、バルブ駆動室32の底部から離し、バルブ駆動室32に滞留するオイルを吸い込みにくい位置に設けるのが良い。
流量調整通路56の送油通路34への接続位置は、送油通路34に設けられた一方向弁37よりも油溜室側に位置している。このため、一方向弁37によりオイルの供給を遮断すると、一方向弁37よりも油溜室側の送油通路34内にはオイルが溜まり、流量調整通路56と送油通路34の接続部位にはオイルが溜まった状態になる。このため、流量調整通路56から送油通路34が空気を吸い込むタイミングで、空気だけが送油通路34を流れることはなく、バルブ駆動室32から送り込まれた空気とともに送油通路34内のオイルがクランク室5aに送られる。
この流量調整通路56には、バルブ駆動室32から送油通路34に送られる空気の流量を調整する流量絞り57が設けられている。流量絞り57を調整してバルブ駆動室32から吸い込まれる空気の量を調整することで、送油通路34を介してクランク室5aに供給されるオイルの流量を調整することができる。つまり、流量調整通路56の内径を気にせず、流量絞り57の設計のみで容易にオイルの流量調整ができる。
なお、流量絞り57は、流量調整通路56と別体に設ける必要はなく、流量調整通路56の一部として構成されてもよい。例えば、シリンダブロック3とクランクケース5のシール面に沿って流量調整通路56の一部を形成し、シール面で送油通路34と接続すると、流量絞り57を容易に構成することができる。
つまり、潤滑装置30の循環経路は、送油通路34、連通路39、供給通路31、吸引管43、小孔44、吸引通路42、直通通路46、ブリーザ通路48、環流通路52、戻し通路54、流量調整通路56を有して構成されている。
エンジン1が始動されると、ピストン6の昇降運動によりクランク室5aに圧力変化が生じ、ピストン6の上昇時にはクランク室5aが減圧されて負圧化傾向となり、ピストン6の下降時にはクランク室5aが昇圧されて正圧化傾向となる。
クランク室5aが負圧化傾向となり、ピストン6の上死点近傍への移動に伴い送油通路34の開口端部34aが開き始め、クランク室5aと油溜室7が連通すると、送油通路34にクランク室5a内の負圧が作用する。エンジン1が傾いても送油通路34の吸入部35は、油溜室7のオイルAの油面下に没した状態にあり、油溜室7からオイルAが吸い込まれてクランク室5a内に送られる。開口端部34aは、ピストン6が上死点位置に達した時点では既に全開となっているので、クランク室5a内の負圧を充分に送油通路34に作用させることができる。そのため、油面下より汲み上げられるオイルAをクランク室5a内に充分に供給することができる。
クランク室5a内に送られたオイルは、ピストン6,クランクシャフトなどの駆動部品を潤滑し、同時にそれらの駆動部品により飛散されてオイルミストになる。オイルミストの一部はクランク室5aの壁面に付着して再度液化される。
ピストン6が上死点から下降するときには、クランク室5aが正圧に変わり、リード弁40は開放されて、クランク室5aと油溜室7は連通する。そして、クランク室5a内で昇圧されたオイルミスト及びオイルが連通路39を通って油溜室7に送られ、油溜室7内の圧力が高まる。連通路39から吐出するオイルミストは油溜室7内に溜まるオイルAの油面や油溜室7の壁面に衝突することで液化し、油溜室7に貯留される。油溜室7内で衝突して跳ね返ることで残ったオイルミストの濃度は、クランク室5a内での濃度よりも低くなる。なお、クランク室5aが正圧になると、一方向弁37の作用によりクランク室5aから油溜室7へのオイルが逆流しないよう送油通路34が遮断され、次いで開口端部34aがピストン6により閉じられる。
油溜室7内の圧力が高まることで、油溜室7内と動弁室4の間に圧力勾配ができ、油溜室7内に溜まるオイルミストは、供給通路31を介して動弁室4に送られる。油溜室7から動弁室4にオイルミストを送る過程で、供給通路31に設けられたバルブ駆動室32内の動弁機構10の各部品は潤滑される。この際オイルミストの一部は液化する。
バルブ駆動室32で液化されてなったオイルは、戻し通路54を介してクランク室5aに送ることができる。このため、バルブ駆動室32でオイルが過度に滞留することを抑止でき、動弁室4にオイルが流出することを抑止できる。またオイルが供給通路31を塞ぐ事を防止できる。
動弁室4に供給されたオイルミストは、動弁室4内に設けられた動弁機構を潤滑し、直通通路46を介してクランク室5aに送られる。また動弁室4内に供給されたオイルミストが液化して滞留してもクランク室5a内の強い負圧が作用して、クランク室5a内にオイルを送ることができ、動弁室4でオイルが滞留することを抑止できる。
従って、動弁室4からブリーザ通路48を介してブローバイガスを排出する際のオイルの放出を抑えることができる。
なお、図2(a)に示すように、液化手段70についてさらに連通路39の開口端部39bの周囲に筒状のパンチングメタル71を配設し、このパンチングメタル71の底部に開口端部39bよりも連通路39の突出方向前側に衝突板72を設け、オイルミストの液化機能を強化するようにしてもよい。このようにすると、連通路39から吐出するオイルミストは衝突板72に衝突して液化され、液化されたオイルはパンチングメタル71に設けられた孔71aから排出される。開口端部39bの周囲をパンチングメタル71で囲っているので、供給通路31に供給されるオイルミストの濃度をさらに低下させることができる。
また、図2(b)に示すように、液化手段70について、開口端部39bから吐出するオイルミストを付着させて液化させる衝突板74を配設し、衝突板74の供給通路側端部に、連通路39の延伸方向後側に突出する突出部74aを設け、開口端部39bと開口端部31aの間を突出部74aで遮蔽するようにしてもよい。このようにすると、連通路39の開口端部39bから吐出するオイルミストは衝突板74に衝突してオイルに液化され、衝突板74の端部(排出部)から排出されて油溜室7に貯留するオイルに戻される。開口端部39bから吐出するオイルミストは突出部74aに阻止されて供給通路31の開口端部31aに直接に入ることは殆どなく、供給通路31に供給されるオイルミストの濃度を低下させることができる。
また、図2(c)に示すように、液化手段70について、筒状の液化本体部77を連通路39の周囲であって油溜室7内に取り付け、連通路39の開口端部39bから吐出するオイルミストが液化本体部77の内面の周方向に流れるように開口端部39bを斜めに設けてもよい。このようにすると、開口端部39bから吐出したオイルミストは、遠心力によって空気とオイルに分離され、分離されたオイルは液化本体部77(衝突部)の内面に付着して液化され、内面上を下方に移動して液化本体部77の端部(排出部)から排出されて油溜室7に貯留するオイルに戻される。なお、オイルが内面に付着し易くするため、内面の表面荒さを荒くし、また内面にその一端側から他端側に延びる溝(例えば、直線状溝、螺旋状溝)を設けてもよい。
この液化手段70は、液化効率が高いのに加え、開口端部39bの周囲を液化本体部77で囲むとともに、開口端部39bと開口端部31aの間が遮蔽されたようになっているので、供給通路31に供給されるオイルミストの濃度を低下させることができる。
また図3に示すように、液化手段70について、連通路39の開口端部39bと供給通路31の開口端部31aの間に流入阻止機能を発揮する流入阻止部80を設け、流入阻止部80の供給通路側端部に、連通路39の延伸方向側に開口端部39bと開口端部31aの間を遮蔽するように突出させた屈曲部82を形成させてもよい。
この流入阻止部80は、流入規制板81をさらに有し、流入規制板81と屈曲部82が開口端部39bを挟むように配置される。なお、流入阻止部80は、開口端部31a、39bのそれぞれに対面するように、2つの孔81aを設け、開口端部31a側の孔81aを屈曲するように設けることで得ることができる。このように、流入規制板81は単一の板状部品に孔を開けて折り曲げ形成してもよいが、複数の部品から構成されたものでもよい。流入規制板81を単一の板部材とすることで、油溜室7を2つの区画に容易に区切れ、油面の波消し効果を得ることができる。
このように供給通路31の開口端部31aの周辺に流入規制板81を設けることで、開口端部39bと開口端部31aの間で遮蔽されたようになるので、供給通路31に供給されるオイルミストの濃度を低下させることができる。
本発明の思想を明確に伝えるために、液化手段70の様々な実施例を示したが、本発明の液化手段は、この例にとどまるものではない。この液化手段70と戻し通路54,直通通路46等を組み合わせることで、動弁機構10を潤滑するのに必要なオイルミスト濃度の範囲で、そのオイルミスト濃度の低減することができ、動弁室4にオイルが過剰に滞留することを防止できる。