JP2011068919A - 高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金 - Google Patents

高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金 Download PDF

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Abstract

【課題】耐水素脆性と高強度とを両立する高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金を提供する。
【解決手段】質量で、Niを24〜27%、Crを13.5〜16%、Moを1〜1.5%、Tiを1.9〜2.35%、Vを0.1〜0.5%、Alを0.35%以下、Bを0.001〜0.010%、Cを0.08%以下、Siを1%以下、Mnを2%以下、Pを0.04%以下、Sを0.03%以下、残部をFeと不可避な元素からなり、時効熱処理によって析出物を析出させたFe−Ni基の合金において、冷間加工することで、引張強度が1000MPa以上で1350MPaを超えないように調整したことを特徴とする高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高強度の耐水素脆性Fe−Ni基合金に関する。
地球温暖化防止が問題となっている昨今、原因となっている温室効果の高い二酸化炭素(CO2)を排出しない水素エネルギが注目されている。水素は、使用時(燃焼後)に水しか排出しないため、現在使われているガソリンや天然ガスといった化石燃料の代替エネルギとして検討されている。
そして、水素エネルギの利用を促進するため、燃料電池車や水素自動車の実用化に関する研究開発、或いは、これらを広く一般に普及させるための水素ステーション等のインフラ整備に関する開発も進んでいる。
水素ガスの貯蔵,運搬及び使用においては、高圧容器,配管,反応器等の金属材料が多用される。しかし、一般に金属材料は、水素に曝される環境において脆化が問題となる。この脆化の問題は、高強度の材料ほど顕著である。
例えば、高圧水素容器搭載自動車の車載容器の充填圧力は、最近まで35MPa程度の設計で進められていたが、走行距離が短いため、充填圧力を70MPa程度まで高めようとしている。この場合に使用される容器や配管も必要強度を得るために肉厚を厚くする必要が生じ、結果として全体の重量が大きくなるというデメリットが生じる。
また、水素ステーションで用いられる水素ディスペンサの高圧水素流量計には、その一例としてコリオリ式流量計が使用される。コリオリ式流量計は、U字形に曲げられた配管を水素ガスが流れるときに起こる振動を検出して流量を計測する。この配管は薄肉であるほど精度が高くなるため、肉厚にして強度を確保することができない。
これらの要求から、材料自体の強度が高く、且つ耐水素脆性に優れた材料が必要となっている。
現在、高圧水素容器や配管の材料としては、SUS316L(ステンレス鋼)が用いられている。また、特に強度が必要とされる部品に関しては、SUH660(一般にA286と呼ばれる耐熱材料)が使用される。これらの材料は、水素中や水素を吸蔵させた際の耐水素脆性に関する機械的特性が他の合金に比べて高い。さらに、貯蔵タンクには、SCM435等の高強度のマルテンサイト系ステンレス鋼を採用することが検討されている。
しかし、強度は、SUS316Lで600MPa程度、SUH660で1000MPa程度であるため、これ以上の材料強度を必要とする部材には適用できない。また、SCM435のようなマルテンサイト変態で強化されている材料は、構造的に高強度化され、炭素繊維による補強が必要となり、材料単体では水素脆化は抑制できない。
特許文献1には、SUS316Lを上回る耐水素脆化感受性に優れ、Mo及びNiの濃度を低くしたオーステナイト系高Mnステンレス鋼が開示されている。このステンレス鋼の場合、SUS316Lに比べてMoやNiの使用量を低減できるため、低コストで製造できるメリットはある。しかし、強度はSUS316Lと同等程度である。
特許文献2には、内部に加工誘起マルテンサイト組織を含み、一部又は全部の表層部が主としてオーステナイト組織からなる耐水素脆性に優れた高強度鋼材が開示されている。加工誘起マルテンサイト組織を有する鋼材の表層部を誘導加熱して該表層部の加工誘起マルテンサイト組織をオーステナイト組織に逆変態させる高強度鋼材の製造方法も開示されている。しかし、オーステナイト系のステンレスがベースであるため、強度はせいぜい1000MPa程度であり、また、丸棒以外の形状の材料には適用が難しいと考えられる。
特許文献3には、水素を燃料とするロケットエンジン等の合金部材の水素脆化を有効に低減・防止するために、全体を時効処理された表面に、レーザービームを照射して、照射部分の表面をγ′相の固溶温度以上に加熱することにより、合金部材中の時効処理による析出物を固溶させ、その後、照射部分を急冷することにより、照射部分の表面に析出物がなく組織が均一な耐水素脆化部を形成する耐水素脆化低減方法が開示されている。これは、局所的に加熱し、析出強化相であるγ′相を固溶させる技術である。しかし、γ′相がない溶体化層では、強度が低下することが懸念される。
特許文献4には、容器本体と、容器本体の一端或いは両端に気密に設けられた蓋体とを有し、容器本体は鋼で形成され、容器内面側に水素侵入防止金属膜が被覆された高圧水素用高圧容器が開示されている。しかし、水素侵入防止金属膜がはがれると、その性能が急激に低下することが懸念される。
上述のように、現在のところ、耐水素脆性が高い材料は開発されておらず、表面処理やコーティングでは、表面の特性低下やコーティングの剥離による急速な機能劣化が課題となる。
特開2007−126688号公報 特開2008−69435号公報 特開平7−278768号公報 特開2006−9982号公報
本発明の目的は、耐水素脆性と高強度とを両立する高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金を提供することにある。
本発明の高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金は、質量で、Niを24〜27%、Crを13.5〜16%、Moを1〜1.5%、Tiを1.9〜2.35%、Vを0.1〜0.5%、Alを0.35%以下、Bを0.001〜0.010%、Cを0.08%以下、Siを1%以下、Mnを2%以下、Pを0.04%以下、Sを0.03%以下、残部をFeと不可避な元素からなり、時効熱処理によって析出物を析出させたFe−Ni基の合金において、冷間加工することで、引張強度が1000MPa以上で1350MPaを超えないように調整したことを特徴とする。
本発明によれば、転位の導入によって高強度化され、尚且つ耐水素脆性を有することが可能となる。
A286相当材の加工率と引張強度及び水素脆化指標の関係(丸棒→丸棒)。 SUS316Lの加工率と引張強度及び水素脆化指標の関係(丸棒→丸棒)。 A286相当材の加工率と引張強度及び水素脆化指標の関係(丸棒→八角形材)。
本発明の耐水素脆化材料の素材には、γ′相析出強化型のFe−Ni基合金(SUH660(A286相当)合金を用いる。ここで、γ′相とは、合金に時効熱処理を施した後に合金の内部に生成する相をいう。このγ′相を時効熱処理によって微細析出させることで、1000MPa程度の引張強さを有する。SUH660相当材については、以前より耐水素脆性に優れており、他の耐水素脆化材料(例えばSUS316L)よりも高いことが知られている。
発明者の研究によれば、以下のような知見が得られている。すなわちγ′相析出強化型Ni基合金(A286相当材)と固溶強化による耐水素脆化ステンレス鋼(SUS316L相当材)について高強度化を狙って冷間加工を加え、材料中に転位を導入した。加工率(断面減少率で定義した)を40%まで加えることで、引張強さを、SUS316Lについては、最大1000MPa、A286については、最大1400MPa程度まで調整することができた。これらの素材を用いて高圧水素ガスチャージ法によって引張試験を行ったところ、SUS316Lについては、転位導入によって引張強度が増してもほとんど水素脆化指標の低下は見られなかった。それに対して、A286については、加工率20%程度を境として水素脆化指標の低下が見られた。ここで水素脆化指標とは以下の式で定義される。
水素脆化指標=水素チャージ後の伸び/水素チャージ前の伸び …(1)
材料の伸び及び引張強度は、JIS Z2241に準拠して測定した。このことから、冷間加工による転位強化に着目して1000MPaより高い強度を有する高強度耐水素脆化材料についての検討を行った。
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明の耐水素脆化配管に用いる材料は、γ′相析出強化型の合金であり、JIS(日本工業規格)によるSUH660相当材に関する。本発明では、SUH660相当材に対して所定の溶体化・時効熱処理によってγ′相を析出させて、その後冷間加工を加える。この冷間加工によって、転位を導入することで、引張強さを1000MPaよりも高くする。転位の導入による引張強さについては、1000MPaを超えて、1350MPaを超えないことが望ましい。引張強さが1000MPa以下であれば、特に冷間加工を加える必要はない。引張強さが1350MPaを超えると、水素脆化指標が0.9を下回ってしまい、十分な耐水素脆性を有さなくなるためである。1350MPaを超えると耐水素脆性が低下する理由として、転位が過度に導入されることによって水素感受性が高まることが考えられ、適度な転位導入率があるためであると考えられる。水素脆化指標については、0.9以上であれば、実用上十分な耐水素脆性を有しているとされる。更に引張強さについては、1200MPaを超えて、1300MPaを超えないことが望ましい。
強度を調整するための冷間加工については、加工方法に関しては特に問わないが、冷間圧延や線引き加工、押し出し加工などが挙げられる。加工率に関しては、断面減少率で定義した。すなわち、断面の形状が変わっても(例えば丸棒から角材に加工したとしても)概して加工率を定義することができる。加工率については0%より高く25%より小さい方が望ましい。加工率0%(すなわち未加工)では、強度が1000MPaを超えることが難しい。加工率が25%を超えると、水素脆化指標が0.9を下回るためである。さらに上限については20%より小さい方が望ましい。
〔実施例〕
表1に示すような組成を有する素材1(A286相当材)を用いて試験に供した。比較として素材2(SUS316L相当材)を用いた。素材1については、980℃で1時間の溶体化熱処理、720℃で16時間の時効熱処理によって析出強化相であるγ′相を析出させた。素材寸法はいずれもφ16×300L(単位はmm)の丸棒である。時効熱処理後、冷間加工を施した。冷間加工方法については、ドローベンチによる線引き加工とした。表2に加工後の寸法を示す。簡単のため、加工率については、0%,12%,23%,34%と呼ぶこととする。
Figure 2011068919
Figure 2011068919
これらの素材を平行部1mmt×20mmLの板状引張試験片に加工した。この試験片について400℃、20MPaの水素中に曝露することで、試験片内部に水素を吸蔵させた(以後水素チャージと称する)。その後、室温・大気中において引張試験を実施した。引張速度は、クロスヘッドの変位速度で0.3mm/minとした。引張強さ及び伸びを測定し、式(1)に準じて、水素脆化指標(水素チャージ後の伸び/水素チャージ前の伸び)を算出した。
結果を素材1については図1、素材2については図2に示す。SUS316L相当材については、図2のように、30%以上の加工を加えても水素脆化指標の低下は見られない。それに対して、図1のようにA286相当材については、加工率が30%を超えると大きく水素脆化指標が低下していることがわかる。SUS316L相当材では、加工を40%加えても引張強さが1000MPa程度にしかならないが、A286相当材であれば、1300MPa程度までは水素脆化指標の低下無しに引張強度を上げることができる。
素材1を用いて試験に供した。供試材は、980℃で1時間の溶体化熱処理、720℃で16時間の時効熱処理によって析出強化相であるγ′相を析出させた。素材寸法はφ16×300L(単位はmm)の丸棒である。溝ロール圧延によって冷間加工を施した。溝形状は八角形で、加工後、表3のような形状となった。これらの素材について、実施例1と同様の試験片加工及び水素チャージ処理を行い、水素脆化指標を求めた。
その結果、加工率15%では水素脆化指標は低下しなかったが、29%まで加工すると水素脆化指標が0.7程度まで低下した。
Figure 2011068919

Claims (2)

  1. 質量で、Niを24〜27%、Crを13.5〜16%、Moを1〜1.5%、Tiを1.9〜2.35%、Vを0.1〜0.5%、Alを0.35%以下、Bを0.001〜0.010%、Cを0.08%以下、Siを1%以下、Mnを2%以下、Pを0.04%以下、Sを0.03%以下、残部をFeと不可避な元素からなり、時効熱処理によって析出物を析出させたFe−Ni基の合金において、冷間加工することで、引張強度が1000MPa以上で1350MPaを超えないように調整したことを特徴とする高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金。
  2. 請求項1において、断面減少率で定義された冷間加工による加工率が、0%よりも高く、25%を超えないことを特徴とする高強度耐水素脆性Fe−Ni基合金。
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