JP2011063543A - アディポネクチン増加剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れたアディポネクチン発現増加作用を有するアディポネクチン増加剤の提供。
【解決手段】西洋梨の果実又はその抽出物を有効成分とするアディポネクチン増加剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規なアディポネクチン増加剤に関する。
アディポネクチン(adiponectin)は、主に脂肪細胞から分泌される因子(アディポカイン)であるが、近年インスリン抵抗性改善作用や抗動脈硬化作用があることが報告されている(非特許文献1)。アディポネクチン以外のアディポカインとして、TNF-α(tumor necrosis factor α)、レジスチン、遊離脂肪酸、PAI-1(plasminogen activator inhibitor 1)などが知られているが、これらはいずれもインスリン抵抗性を惹起することが明らかになっている。アディポネクチンは多くのアディポカインとは異なりインスリン抵抗性を改善する善玉アディポカインであることから、最近、非常に注目されている。
アディポネクチンはその作用だけではなく、血中アディポネクチン濃度の低下が糖尿病発症の予知マーカーになることも臨床データとして示されている(非特許文献2)。また、血中アディポネクチン濃度は肥満度と逆相関を示すことが報告されており(非特許文献3)、肥満によるインスリン抵抗性、糖尿病、動脈硬化症、循環器疾患の発症、増悪においてアディポネクチンの低下が重要な役割を果たしていると推察されている。実際、血中アディポネクチン濃度が低いほど心筋梗塞の発症リスクが高くなることが明らかになっている。さらに最近、血中アディポネクチン濃度が骨密度と正相関することが報告され(非特許文献4)、アディポネクチンを増加させることにより骨密度の低下を予防・改善できることが示唆されている。
アディポネクチン発現量を評価するin vitro 試験系はいくつか確立されており、例えば、脂肪前駆細胞株である3T3-L1細胞を分化させた系が知られている。この系において、TNF-α、インスリン、グルココルチコイド受容体アゴニストであるデキサメタゾンなどの添加でアディポネクチン発現量が低下することが報告されている(非特許文献5)。また、グルココルチコイドの添加によってもアディポネクチン発現量が低下すること、一方、悪玉アディポカインであるPAI-1の分泌は増加することが報告されている(非特許文献6)。さらに、ヒト臨床試験においてグルココルチコイドの投与により、血中アディポネクチンが低下することが報告されている(非特許文献7)。このことから、グルココルチコイド自体がアディポカインの異常を引き起こし、アディポネクチン発現・分泌に影響を与えると考えられている。
グルココルチコイドは、また、肥満における脂肪細胞機能異常にも関与していることもわかってきた。不活性型のグルココルチコイド(cortisone)を活性型(cortisol)に変換する酵素はHSD1(11β-hydroxysteroid dehydrogenase 1)であるが、肥満度と脂肪組織でのHSD1の発現量の間に正の相関があることが明らかとなっている(非特許文献8)。さらにHSD1のノックアウトマウスはメタボリックシンドロームが発症し難いことがわかっており(非特許文献9)、脂肪細胞で過剰産生されるグルココルチコイドがメタボリックシンドロームの発症要因のひとつになっていることが示唆されている。
以上のことから、脂肪細胞を用いたin vitro 試験系において、デキサメタゾン、グルココルチコイドの添加によって低下したアディポネクチン発現量を増加させる物質は、アディポネクチン発現を増加させる物質として有用であり、ひいては動脈硬化症、糖尿病、高血圧症などの各疾病や、各種生活習慣病の上流に位置するメタボリックシンドローム、骨密度の低下などの予防・改善に有用であると考えられる。
一方、西洋梨は、バラ科ナシ属の植物で、その果実は食用として幅広く利用されており、食経験は豊富である。西洋梨の果実は、リパーゼ阻害作用(特許文献1)、抗血栓作用(特許文献2)などを有することが報告されている。
しかしながら、これまでに西洋梨の果実がアディポネクチンに対して与える影響については全く知られていない。
特開2005−53891号公報 特表2002−512972号公報
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本発明は、優れたアディポネクチン発現増加作用を有するアディポネクチン増加剤を提供することに関する。
本発明者らは、アディポネクチン発現増加作用を有する物質について検討した結果、西洋梨の果実がアディポネクチン発現を有効に増加させることができ、アディポネクチン増加剤として有用であることを見出した。
すなわち、本発明は、西洋梨の果実又はその抽出物を有効成分とするアディポネクチン増加剤を提供するものである。
また、本発明は、西洋梨の果実又はその抽出物のアディポネクチン増加剤としての使用を提供するものである。
本発明のアディポネクチン増加剤を用いれば、アディポネクチン発現量を増加させることができ、アディポネクチンの発現や作用を増加することに有用性があると考えられる各種疾病、例えば低アディポネクチン血症、耐糖能障害、糖尿病、2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、糖尿病合併症、高血糖症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心臓血管疾患、脳血管障害、血管狭窄、末梢血管疾患、動脈瘤、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、メタボリックシンドローム、骨密度の低下などの予防・改善を図ることができる。
脂肪細胞における西洋梨の果実のアディポネクチン発現増加効果を示す図である。
本発明において、「アディポネクチン増加」とは、アディポネクチン産生組織において、アディポネクチンのmRNA及び/又は蛋白質の発現を増加することやアディポネクチンのmRNA及び/又は蛋白質の分解を抑制することによりアディポネクチンのmRNA及び/又は蛋白質の発現量を増加することを意味し、その結果、アディポネクチン分泌量が増加することや血中アディポネクチン濃度が上昇することも含む概念である。
本発明で用いる西洋梨の果実とは、バラ科ナシ属の植物である西洋梨(Pyrus communis)の果実を意味する。西洋梨は、洋なし、ペアーなどとも称され、その品種にはラ・フランス、バートレット、ル・レクチェなどが知られているが、本発明においてはいずれの品種も使用することができる。
西洋梨の果実は、そのまま又は乾燥・粉砕して用いることができる。また、果実を圧搾・搾汁して得られる、所謂天然果汁(ストレート果汁)、ストレート果汁を濃縮した濃縮果汁、ストレート果汁を一旦濃縮したものに水などを加えて元の状態に戻した濃縮還元果汁などの果汁(混濁、透明)や、それらの乾燥末、ペースト状にしたものなどを用いることができる。
本発明においては、アディポネクチン増加作用の点から、ストレート果汁を濃縮した濃縮果汁に水を加えて元の状態に戻した濃縮還元果汁(透明)を用いるのが好ましい。また、西洋梨の濃縮果汁や濃縮還元果汁等は市販品を使用することもできる。
西洋梨の果実の抽出物は、西洋梨の果実をそのままあるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出物、その希釈液、その濃縮液、その乾燥末又はペースト状などが包含される。抽出方法は、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出等のいずれでもよい。
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他菜種油、オリーブ油、大豆油などのオイルなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。
本発明に用いられる西洋梨の果実の抽出物は、食品上・医薬品上許容し得る規格に適合し本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよく、さらに得られた粗精製物を公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
本発明の西洋梨の果実は、後記実施例に示すように、脂肪細胞を用いたin vitro 試験系において優れたアディポネクチン発現増加作用を示した。
アディポネクチン発現増加効果は、脂肪細胞を用いたin vitro 試験系においては、前述したようにアディポネクチンの発現・分泌を抑制すると考えられているグルココルチコイドの影響下においてもアディポネクチン発現量が増加するかを指標として評価できる。別の見方をすると、グルココルチコイドによるアディポネクチン発現量の低下の抑制を指標として評価できる。従って、本発明の西洋梨の果実又はその抽出物は、アディポネクチン増加剤又は血中アディポネクチン上昇剤や、アディポネクチン分泌を増加することが有用であると考えられる各種疾病、例えば低アディポネクチン血症、耐糖能障害、糖尿病、2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、糖尿病合併症、高血糖症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心臓血管疾患、脳血管障害、血管狭窄、末梢血管疾患、動脈瘤、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、メタボリックシンドローム、骨密度の低下などの予防又は改善剤(以下、「アディポネクチン増加剤等」)として使用でき、さらにこれらの剤を製造するために使用することができる。このとき、当該アディポネクチン増加剤等には、当該西洋梨の果実又はその抽出物を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
斯かるアディポネクチン増加剤等は、例えば低アディポネクチン血症、耐糖能障害、糖尿病、2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、糖尿病合併症、高血糖症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心臓血管疾患、脳血管障害、血管狭窄、末梢血管疾患、動脈瘤、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、メタボリックシンドローム、骨密度の低下の予防又は改善等の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品、又は飼料の有効成分として配合して使用することができる。また、当該アディポネクチン増加剤等は、例えば低アディポネクチン血症、耐糖能障害、糖尿病、2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、糖尿病合併症、高血糖症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心臓血管疾患、脳血管障害、血管狭窄、末梢血管疾患、動脈瘤、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、メタボリックシンドローム、骨密度の低下の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
本発明のアディポネクチン増加剤等を医薬品の有効成分として用いる場合、当該医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
また、斯かる製剤では、本発明のアディポネクチン増加剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される担体と組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
これらの投与形態のうち、経口投与が好ましく、経口投与用製剤の有効成分として用いる場合の該製剤中の本発明の西洋梨の果実又はその抽出物の含有量は、固形分換算で、通常、製剤全質量の0.005〜5質量%であり、0.01〜1質量%であるのが好ましい。
上記製剤の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、西洋梨の果実(固形分換算)として1〜2000mg、10〜1000mg、50〜500mgがより好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
本発明のアディポネクチン増加剤等を、食品の有効成分として用いる場合、当該食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。食品の例としては、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、およびそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
種々の形態の食品を調製するには、アディポネクチン増加剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
また、食品中における西洋梨の果実又はその抽出物の含有量(固形分換算)は、その使用形態により異なるが、通常、飲料の形態では、通常0.001〜2質量%であり、0.002〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましい。また、錠剤や加工食品などの固形食品形態では、通常0.01〜20質量%であり、0.02〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
実施例1
[試験方法]
(1)細胞培養
マウス脂肪前駆細胞株である3T3-L1細胞(ATCC社)を脂肪細胞に分化させた系で行った。
3T3-L1細胞を、75cm2フラスコ(Becton Dickinson社)に播き、37℃、5% CO2存在下で培養した。培養液は、DMEM(10%ウシ胎児血清含有、高グルコース;Invitrogen社)を用いた。
(2)脂肪細胞への分化誘導法
3T3-L1細胞を24穴プレートに7.5 x 103cell/wellで播種し、4日間通常培地(10%牛胎児血清/DMEM)中で培養した後、細胞がconfluentになったことを確認し、分化用培地1(1μMインスリン、0.5mMイソブチルメチルキサンチン、0.1μMデキサメタゾン、10%牛胎児血清/DMEM)中で3日間、さらに分化用培地2(1μMインスリン、10%牛胎児血清/DMEM)中で3日間、さらに通常培地中で3〜4日間培養した。
牛胎児血清を除いたDMEM培地に交換し、6時間培養した後、検体(西洋梨の果実;「ペアー透明果汁」雄山商事、固形分68(w/v)%)及びデキサメタゾン(DEX)10nMを添加しさらに16時間培養した(N=6)。その後、回収した細胞よりRNA抽出キット(RNeasy mini kit[キアゲン])を用いてRNAの抽出を行った。
(3)アディポネクチン遺伝子量の定量
抽出したTotal RNAはOligo (dT)12-18 Primer(Invitrogen社)とM-MLV Reverse Transcriptase(Invitrogen社)で逆転写反応(37℃、1時間)を行い、cDNAサンプルを作製した。作製したcDNAはTaqMan(登録商標)アッセイにより各遺伝子の発現を定量した。解析には7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems社)を用いた。得られた解析結果は内部標準として36B4の発現量を用い補正し、相対的mRNA発現量として表した。TaqManプローブおよびプライマーはTaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems社、アディポネクチン用:AssayID; Mm00456425_m1、36B4用:AssayID; Mm99999223_gH)を用いた。得られた解析結果は、全て平均値(Mean)±標準誤差(SE)を用いてグラフにし、Tukey-Kramerにより有意差検定を行った。
[結果]
グルココルチコイド受容体アゴニストであるデキサメタゾンを添加したコントロール群では、デキサメタゾン非添加群に比べてアディポネクチン遺伝子発現量は低下した。これに対し、西洋梨の果実(固形分100μg/ml)を添加した群では、コントロール群に比べアディポネクチン遺伝子発現量は有意に増加した(図1)。

Claims (2)

  1. 西洋梨の果実又はその抽出物を有効成分とするアディポネクチン増加剤。
  2. 西洋梨の果実又はその抽出物のアディポネクチン増加剤としての使用。
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