JP2011023344A - 光電気素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた電子輸送特性と十分広い反応界面を有する電子輸送層を備え、変換効率に優れた光電気素子を提供する。
【解決手段】光電気素子は、一対の電極2,5間に電子輸送層3と正孔輸送層4を挟んで形成される。電子輸送層3は、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備えて形成される。有機化合物は酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液を含んでゲル層6として形成され,増感色素がゲル層6内に存在している。このため、電子輸送層3の有機化合物と電解質溶液がゲル層6を形成すると共に増感色素がゲル層6内に存在することで、有機化合物の反応界面が大きくなり、変換効率が向上すると共に、増感色素から電子輸送層3の有機化合物への電子の受け渡し効率が向上して電子の輸送効率が向上する。
【選択図】図1

Description

本発明は、光を電気に、あるいは電気を光に変換する光電気素子に関するものである。
近年、光電池や太陽電池等の光電変換による発電素子など光電気化学素子や発光素子、エレクトロクロミック表示素子、電子ペーパーなどの光学表示素子、電池やコンデンサなどの電気化学素子、不揮発性メモリや演算素子、トランジスタなどの電気素子、温度・湿度・光量・熱量・圧力・磁力などを感知するセンサ素子など、種々の光電気素子が用いられている。
そして、これらの光電気素子に用いられる電子輸送層においては、高い電子輸送特性が必要とされ、また外部からのエネルギーにより電子が生成すると共に、外部から電子が注入されて作用する界面の面積の大きさが重要である。このような電子輸送層には、従来、金属、有機半導体、無機半導体、導電性高分子、導電性カーボンなどが用いられてきた。
例えば光電変換素子においては、電子を輸送するための電子輸送層に、フラーレン、ペリレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ペンタセンなどの電子をキャリアとする有機物が使用されており、電子輸送能力により変換効率が向上しつつある(フラーレンについては非特許文献1参照、ペリレン誘導体については非特許文献2参照、ポリフェニレンビニレン誘導体については非特許文献3参照)。
また、分子素子型太陽電池として電子供与性分子(ドナー)と電子受容性分子(アクセプター)を化学結合させた構造体を基板上に薄膜形成する報告もなされている(非特許文献4参照)。
しかし、上記各非特許文献で報告されている電子輸送層は、十分な電子輸送特性と、電子輸送層として作用するための十分な界面の面積が両立しているものではなく、より優れた電子輸送特性と十分に広い界面を有する電子輸送のための電子輸送層が望まれているのが、現状である。
例えば、フラーレンなどを用いる有機系の電子輸送層の場合、電子の電荷再結合が起こり易く、有効拡散距離が十分ではないために、更なる変換効率の向上が困難である。この有効拡散距離とは電荷分離がなされた後に電極に到達するまでの距離であり、有効拡散距離が大きいほど素子の変換効率は大きくなる。また、酸化チタンなどの無機系の電子輸送層の場合、電荷分離の界面面積が十分でなく、開放電圧に影響する電子伝導電位が構成元素で一義的に決まってしまうなどの理由から、変換効率が十分ではない。
P.Peumans, Appl. Phys. Lett., 79号, 2001年, 126頁 C.W.Tang, Appl. Phys. Lett., 48号, 1986年, 183頁 S.E.Shaheen, Appl. Phys. Lett.,78号,2001年,841頁 今堀博,福住俊一, 「分子太陽電池の展望」, 化学工業2001年7月号, 41頁
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた電子輸送特性と十分広い反応界面を有する電子輸送層を備え、変換効率に優れた光電気素子を提供することを目的とするものである。
本発明に係る光電気素子は、一対の電極間に電子輸送層と正孔輸送層を挟んで形成される。電子輸送層は、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備えて形成される。有機化合物は酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液を含んでゲル層として形成され、増感色素がゲル層内に存在している。
本発明では電子輸送層の有機化合物と電解質溶液がゲル層を形成すると共に増感色素がゲル層内に存在することで、有機化合物の反応界面が大きくなり、変換効率が向上すると共に、増感色素から電子輸送層の有機化合物への電子の受け渡し効率が向上して電子の輸送効率が向上する。
また、前記増感色素は、ゲル層を構成する有機化合物との間の物理的または化学的作用により、ゲル層内に固定化されていることが好ましい。
この場合、電子輸送層の反応界面を更に大きくすることができ、光電変換の効率が更に向上する。
本発明に係る光電気素子は、200ルックスの光が5分間照射された時点での開放電圧A(V)と、この時点で光が遮蔽されてから5分間経過した時点での開放電圧B(V)とが、次の関係式を満たすことが好ましい。
(B/A)×100≧10
本発明によれば、電子輸送層の電子輸送特性を向上すると共に反応界面を広くし、光電気素子の変換効率を向上することができる。
本発明の実施の形態の一例を示す概略断面図である。 実施例1で得られた光電気素子に光を照射し、続いて遮光した場合の開放電圧の変化の測定結果を示すグラフである。 比較例1で得られた光電気素子に光を照射し、続いて遮光した場合の開放電圧の変化の測定結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、光電気素子は一対の電極2,5間に電子輸送層3と正孔輸送層4を挟んで形成される。電子輸送層3は酸化還元部を有する有機化合物から形成される。この有機化合物は電解質溶液を含んで膨潤することでゲル層6を形成する。すなわち電子輸送層3は酸化還元部を有する有機化合物と電解質溶液とで構成されるゲル層6内の有機化合物で形成される。そして、このゲル層6内には増感色素が存在している。
一方の電極2は、電子輸送層3と電気的に接続され、電子輸送層3から電子を外部に取り出し、或いは電子輸送層3に電子を注入する機能を発揮する。また、電子輸送層3を物理的に保持する機能も有する。尚、外部とは、光電気素子に電気的に接続された電源回路や二次電池やキャパシタなどをいう。
この電極2は、金属の単独膜で形成してもよく、またガラスやフィルムなどの絶縁性の基材1の上に導電性材料を積層することで基材1上に電極2を形成してもよい。導電性材料の好ましい例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物;前記金属や化合物の複合物;前記金属や化合物上に酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどをコートした材料などが挙げられる。電極2の表面抵抗は低い程よいが、好ましくは表面抵抗が200Ω/□以下、より好ましくは50Ω/□以下である。この表面抵抗の下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/□である。
電極2を基材1の上に形成するにあたり、光電気素子が発電素子、発光素子、光センサなどのように、基材1を光が通過する必要のある場合は、基材は光透過率が高いことが望ましい。この場合の好ましい光透過率は、波長500ナノメートルにおいて50%以上であり、より好ましくは80%以上である。また電極2の厚みは、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。この範囲内であれば、均一な厚みで電極2を形成することができ、また電極2の光透過性の低下を抑制し、電極2を介して十分な光を電子輸送層3に入射させることができる。
基材1の上に透明導電性酸化物の層を設けることで電極2を形成する場合、例えばガラスや樹脂などからなる透光性の基板1aの上にスパッタ法や蒸着法など真空プロセスを用いてもよいし、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷など湿式法により、酸化インジウムや酸化スズ、酸化亜鉛などで構成される透明導電性酸化物の層を成膜して電極2を形成してもよい。
電子輸送層3を構成する有機化合物は、その分子内の一部として繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有すると共に、他の一部として電解質溶液を含んで膨潤してゲルとなる部位(ゲル部位)を有する。酸化還元部はゲル部位に化学的に結合している。分子内での酸化還元部とゲル部位の位置関係は、特に限定されないが、例えばゲル部位で分子の主鎖などの骨格が形成される場合に、酸化還元部が側鎖として主鎖に結合している。またゲル部位を形成する分子骨格と酸化還元部を形成する分子骨格が交互に結合した構造であってもよい。このように酸化還元部とゲル部位が有機化合物の同一分子内に存在していると、電子輸送層3を形成するゲル層6で酸化還元部を、電子を輸送し易い位置にとどまるように保持することができるものである。
酸化還元部とゲル部位を有する有機化合物は、低分子体でもよいし、高分子体でもよい。低分子体である場合,水素結合などを介したいわゆる低分子ゲルを形成する有機化合物を使用することができる。また高分子体の場合は数平均分子量1000以上の有機化合物であれば、自発的にゲル化の機能を発現することができるために好ましい。高分子体の場合の有機化合物の分子量の上限は特に制限されないが、100万以下であることが好ましい。またゲル層6のゲルの状態は、例えば、こんにゃく状や、イオン交換膜のような外観形状であることが好ましいが、特に制限されるものではない。
また酸化還元部は、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体となる部位を指す。また、酸化還元部は酸化体と還元体が同一電荷を持つ酸化還元系構成物質であることが好ましい。
上記のような酸化還元部とゲル部位とを一つの分子中に有する有機化合物は、次の一般式で表すことができる。
(Xnj:Y
(Xはゲル部位を示し、Xはゲル部位を形成する化合物のモノマーを示すものであり、ポリマー骨格で形成することができる。モノマーの重合度nは、n=1〜10万の範囲が好ましい。Yは(Xに結合している酸化還元部を示すものである。またj,kはそれぞれ1分子中に含まれる(X、Yの数を表す任意の整数であり、いずれも1〜100の範囲が好ましい。酸化還元部Yはゲル部位(Xをなすポリマー骨格のいかなる部位に結合していてもよい。また酸化還元部Yは種類の異なる材料を含んでいてもよく、この場合は電子交換反応の観点から酸化還元電位が近い材料が好ましい。
このような酸化還元部とゲル部位を一分子中に有する有機化合物としては、キノン類が化学結合したキノン誘導体骨格を有するポリマー、イミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマー、フェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマー、ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーなどが挙げられる。これらの有機化合物では、それぞれポリマー骨格がゲル部位となり、キノン誘導体骨格、イミド誘導体骨格、フェノキシル誘導体骨格、ビオロゲン誘導体骨格がそれぞれ酸化還元部となる。
上記の有機化合物のうち、キノン類が化学結合したキノン誘導体骨格を有するポリマーの例として、下記[化1]〜[化4]の化学構造を有するものが挙げられる。[化1]〜[化4]において、Rはメチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレン、ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの飽和又は不飽和炭化水素類;シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど環状炭化水素類;オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト、二価アシル基;オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどエーテル、エステル類;サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基;イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基;シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基;またはこれらの基の末端を置換した基或いは複合した基を示す。
[化1]はポリマー主鎖にアントラキノンが化学結合して構成される有機化合物の例である。[化2]はアントラキノンが繰り返しユニットとしてポリマー主鎖に組み込まれて構成される有機化合物の例である。また[化3]はアントラキノンが架橋ユニットとなっている有機化合物の例である。さらに[化4]は酸素原子と分子内水素結合を形成するプロトン供与性基を有するアントラキノンの例を示すものである。
Figure 2011023344
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Figure 2011023344
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上記のキノンポリマーは、プロトン移動に律速されない高速レドックス反応が可能であり、レドックスサイト(酸化還元部)であるキノン基の間に電子的な相互作用が存在せず、長期使用に耐えうる化学安定性を備える。しかもこのキノンポリマーは電解質溶液中に溶出しないので電極2に保持して電子輸送層3を形成することができる点で有用である。
また酸化還元部Yがイミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマーとして、[化5]や[化6]に示すポリイミドを用いることができる。ここで、[化5]や[化6]において、R〜Rは1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基などの芳香族基、アルキレン基、アルキルエーテルなど脂肪族鎖であり、熱イミド化することによって、上記のようなポリイミドが得られる。ポリイミドポリマー骨格はR〜Rの部分で架橋していてもよく、また、用いた溶媒中で膨潤するのみで溶出しなければ架橋構造を有さなくてもよい。架橋した場合はその部分がゲル部位に相当する。また架橋構造を導入する場合、架橋ユニットにイミド基が含有されていてもよい。イミド基は、電気化学的に可逆な酸化還元特性を示すのであれば、フタルイミドやピロメリットイミドなどが好適である。
Figure 2011023344
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またフェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば[化7]に示すようなガルビ化合物が挙げられる。このガルビ化合物において、ガルビノキシル基([化8]参照)が酸化還元部Yに相当し、ポリマー骨格がゲル部位Xに相当する。
Figure 2011023344
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また、ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば、[化9]に示すようなポリビオロゲンポリマーを挙げることができる。
Figure 2011023344
なお、[化1]〜[化9]におけるm、nは、モノマーの重合度を示すものであり、1〜10万の範囲が好ましい。
上記の酸化還元部とポリマー骨格を有する有機化合物は、ポリマー骨格がその骨格間に電解質溶液を含有して膨潤することでゲル層6を形成する。このように電子輸送層3に電解質溶液が含まれることで、酸化還元部の酸化還元反応により形成されるイオン状態が電解質溶液中の対イオンで補償され、酸化還元部を安定化させることができるものである。
電解質溶液は、電解質と溶媒を含むものであればよい。電解質としては、支持塩と、酸化体と還元体から酸化還元系構成物質とが挙げられ、これらのうちのいずれか一方であっても、両方であってもよい。支持塩(支持電解質)としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩などのアンモニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素酸カリウムなどアルカリ金属塩などが挙げられる。酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体の形で存在する物質を意味するものであり、このような酸化還元系構成物質としては、例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、ニッケルイオン(II)−ニッケルイオン(III)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。この場合、電子輸送層3内の酸化還元部とは区別されて機能する。
また電解質溶液を構成する溶媒としては、水、有機溶媒、イオン液体のいずれか少なくとも一つを含むものが挙げられる。
電解質溶液の溶媒として水や有機溶媒を用いることによって、有機化合物の酸化還元部の還元状態を安定化することができ、より安定して電子を輸送することができる。溶媒としては水性溶媒及び有機溶媒のいずれも使用できるが、酸化還元部をより安定化するためには、イオン伝導性に優れた有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらの溶媒はそれぞれ単独で用いることができ、二種以上を混合して併用することもできる。また、特に光電気素子を光電変換素子として形成する場合、その太陽電池出力特性を向上させる観点からは、溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、γ―ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物であることが好ましい。
また電解質溶液の溶媒としてイオン液体を用いると、酸化還元部の安定化作用が特に向上する。しかもイオン液体は揮発性がなく、難燃性が高いために安定性に優れるものである。イオン液体としては、公知のイオン性液体全般を用いることができるが、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系のイオン性液体や、欧州特許第718288号明細書、国際公開WO95/18456号パンフレット、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、J. Electrochem. Soc.143巻,10号,3099頁(1996年)、Inorg. Chem. 35巻,1168頁(1996年)に記載されたものを挙げることができる。
上記のような酸化還元部を有する有機化合物と電解質溶液で形成されるゲル層6を電極2の表面上に設けることによって、電子輸送層3を形成することができる。電子輸送層3とは、電子がドーパントとして振舞う層をいい、例えば酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極に対して+100mVよりも卑であるような酸化還元部を有する層をいう。
電子輸送層3の厚みは、良好な電子輸送性を維持する観点から、10nm〜10mmの範囲であることが好ましく、100nm〜100μmの範囲であれば特に好ましい。この厚みであれば電子輸送層3の電子輸送特性と界面の面積をより高いレベルで両立させることができる。
電極2の表面上に電子輸送層3を設けるにあたっては、例えばスパッタ法や蒸着法などの真空プロセスにより電極2の表面に有機化合物を堆積させる方法を採用することができるが、電極2に有機化合物を含有する溶液などを塗布する湿式の形成方法が、より簡便で低コストな製法であることから好ましい。特に電子輸送層3を数平均分子量1000以上のいわゆる高分子の有機化合物で形成する場合は、成形性の観点から湿式の形成方法が好ましい。湿式のプロセスとしては、スピンコート法や液滴を滴下乾燥して得られるドロップキャスト法、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷法などが挙げられる。
本実施形態の増感色素としては、公知の材料を用いることができるものであり、例えば、9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。または、RuL(HO)タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体(ここで、Lは、4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジンを示す。)、または、ルテニウム−トリス(RuL)、ルテニウム−ビス(RuL)、オスニウム−トリス(OsL)、オスニウム−ビス(OsL)などのタイプの遷移金属錯体、または亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄−ヘキサシアニド錯体、フタロシアニンなどが挙げられる。また、例えば、「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」(株式会社エヌ・ティー・エス)のDSSCの章にあるような色素を適用することができる。中でも会合性を有する色素は、光電変換時の電荷分離を促進する観点から好ましい。会合体を形成して効果のある色素としては、例えば[化10]の構造式で示される色素が好ましい。
Figure 2011023344
上記構造式において、X,Xはそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環、或いはこれらの基を少なくとも1種類以上有する有機基であり、それぞれ置換基を有していてもよい。上記の[化10]のような色素は会合性であることが知られている。この場合、電子輸送材料と正孔輸送材料に存在する電子と正孔との再結合を劇的に減らすことができ、このため光電変換素子の変換効率を向上することができる。
この増感色素は増感色素がゲル層6内に存在しているものであり、特に増感色素がゲル層6を構成する有機化合物との間の物理的または化学的作用などにより、ゲル層6内に固定化されていることが好ましい。
「増感色素がゲル層6内に存在している」とは、増感色素がゲル層6の表層のみに存在するのではなく、その内部にも存在していることを意味する。これにより、ゲル層6内に存在する増感色素の量がある値以上にある状態を持続的に保つことができ、光電気素子の出力向上効果がもたらされる。増感色素はゲル層6内の全体に亘って存在していることが好ましい。
なお、「増感色素がゲル層6内に存在している状態」には、「増感色素がゲル層6を構成する電解質溶液中に存在している状態」と、「増感色素がゲル層6を構成する有機化合物と物理的・化学的に相互作用することによりゲル層6中に存在している状態」とが含まれる。
また、「増感色素がゲル層6を構成する有機化合物と物理的な相互作用によりゲル層中に保持されている状態」とは、例えば、ゲル層6を構成する有機化合物として、増感色素の分子の移動を妨げる構造をもつ有機化合物を用いることが挙げられる。増感色素の分子の移動を妨げる構造としては、有機化合物がアルキル鎖などの各種分子鎖による立体障害を発現する構造、または、有機化合物の分子鎖間に存在する空隙サイズが増感色素の分子の移動を抑制することができる程度に小さくなっている構造などが挙げられる。
また、物理的相互作用を発現する要因を増感色素に付与することも有効である。具体的には、増感色素にアルキル鎖などの各種分子鎖による立体障害を発現する構造を付与することが挙げられる。また、二つ以上の増感色素を結合することも有効である。増感色素間の結合をもたらすためには、メチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレンなどの飽和炭化水素類、ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの不飽和炭化水素類、シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど環状炭化水素類、オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト、二価アシル基、オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどエーテル、エステル類、サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基、イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基、シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基、またはこれらの末端を置換した基または複合した基を活用することが有効である。前記の部位は、置換していても直鎖状でも分岐鎖状でもよいアルキル基、例えばメチル、エチル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2−メトキシエチル、ベンジル、トリフルオロメチル、シアノメチル、エトキシカルボニルメチル、プロポキシエチル、3−(1−オクチルピリジニウム−4−イル)プロピル、3−(1−ブチル−3−メチルピリジニウム−4−イル)プロピルなど、置換していても直鎖状でも分岐鎖状でもよいアルケニル基、例えばビニル、アリルなどを介して増感色素と結合していることが望ましい。
また、「増感色素がゲル層6を構成する有機化合物と化学的な相互作用によりゲル層中に存在している状態」とは、例えば共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合などや、疎水性相互作用、親水性相互作用、静電的相互作用に基づく力などの相互作用により、ゲル層6内に増感色素が保持されている状態が挙げられる。特に、増感色素とゲル層6を構成する有機化合物との間の化学的相互作用により増感色素をゲル層6内に固定すると、増感色素と有機化合物との距離を接近させ、効率のよい電子移動を生じさせることが可能になる。
なお、有機化合物と増感色素との間の化学的相互作用によりゲル層6内に増感色素を固定する場合には、有機化合物および増感色素に官能基を適宜設け、この官能基を介した化学反応などにより有機化合物に対して増感色素を固定することが好ましい。このような官能基としては、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、ニトロ基、アルキル基、炭酸基、アルデヒド基、チオール基などが挙げられる。また、官能基を介した化学反応の反応形式としては、縮合反応、付加反応、開環反応等が挙げられる。
また、増感色素とゲル層6を構成する有機化合物との化学的結合に際しては、増感色素における官能基が、この増感色素が光励起した状態において電子密度が高くなる部位付近に導入され、且つゲル層6中の有機化合物における官能基が、この有機化合物中の電子輸送に関与する部位付近に導入されていることが好ましい。この場合、増感色素から有機化合物への電子移動の効率および有機化合物中での電子輸送の効率の向上が図れる。また、特に、増感色素とゲル層6を構成する有機化合物との間を、増感色素の電子雲と有機化合物の電子雲とを結び付ける電子輸送性の高い結合基で結合することで、増感色素から有機化合物への効率のよい電子移動を可能にする。具体的には、増感色素のπ電子雲と有機化合物のπ電子雲とを結び付ける化学結合として、π電子系をもつエステル結合などを利用する例が挙げられる
また、増感色素と有機化合物とを結合させるタイミングは、有機化合物がモノマー状態にあるとき、有機化合物がポリマー化するとき、有機化合物がポリマー化した後、有機化合物がゲル化するとき、有機化合物がゲル化した後の、いずれでもよい。具体的な手法の例としては、有機化合物で形成された電子輸送層3を増感色素を含有する浴に浸漬する方法、有機化合物と増感色素を含有する塗布液を電極2に塗布成膜することで電子輸送層3を形成する方法などが挙げられ、また複数の方法を組み合わせてもよい。
ゲル層6内の増感色素の含有量は適宜設定されるが、特に増感色素の含有量が有機化合物100質量部に対して0.1質量部以上であれば、ゲル層6の単位膜厚あたりの増感色素の量を充分に高くして、増感色素の光吸収能力を向上し、高い電流値を得ることができる。また、特に増感色素の含有量が有機化合物100質量部に対して1000質量部以下であれば、有機化合物の間に過剰量の増感色素が介在することを抑制し、有機化合物内の電子移動が増感色素によって阻害されることを抑制して、高い導電性を確保することができる。
また正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料としては、酸化還元対などの電解質を溶媒中に溶解させた電解質溶液、溶融塩のような固体電解質、ヨウ化銅などp型半導体、トリフェニルアミン等のアミン誘導体、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子などが挙げられる。
正孔輸送層4を電解質溶液で形成する場合には、ゲル層6を構成する電解質溶液で正孔輸送層4を形成することもできる。この場合、ゲル層6を構成する電解質溶液が、正孔輸送層4の一部を構成することになる。
また、正孔輸送層4を電解質溶液で形成する場合には、電解質溶液は、高分子マトリックスに保持された構造をとってもよい。高分子マトリックスとして使用するポリフッ化ビニリデン系高分子化合物としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、あるいはフッ化ビニリデンと他の重合性モノマー、好適にはラジカル重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合させる他の重合性モノマー(以下、共重合性モノマーという。)としては、具体的には、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレンなどを例示することができる。
正孔輸送層4には安定ラジカル化合物を含有させることができる。この場合、電荷分離により生成された、正孔を、安定ラジカル化合物の非常に速い電子移動反応によって効率よく対極まで輸送することができ、これにより光電気素子の光電変換効率を向上することができる。
安定ラジカル化合物としては、不対電子を有する化学種、すなわちラジカルを有する化合物であれば特に限定されないが、分子中にニトロキシド(NO・)を有するラジカル化合物が好ましい。また安定ラジカル化合物の分子量(数平均分子量)は1000以上であることが好ましく、この場合、安定ラジカル化合物が常温では固体または固体に近づくため、揮発が起こり難くなり、素子の安定性を向上することができる。
この安定ラジカル化合物についてさらに説明する。安定ラジカル化合物は、電気化学的酸化反応または電気化学的還元反応の少なくとも一方の過程でラジカル化合物を生成する化合物である。安定ラジカル化合物の種類は特に限定されるものではないが、安定なラジカル化合物であることが好ましい。特に安定ラジカル化合物が、次の[化11]および[化12]の何れか一方又は両方の構造単位を含む有機化合物であることが好ましい。
Figure 2011023344
上記化学式中、置換基Rは、置換または非置換のC2〜C30のアルキレン基、C2〜C30のアルケニレン基、又はC4〜C30のアリーレン基であり、Xは、オキシラジカル基、ニトロキシルラジカル基、硫黄ラジカル基、ヒドラジルラジカル基、炭素ラジカル基、又はホウ素ラジカル基であり、nは、2以上の整数である。
Figure 2011023344
上記化学式中、置換基RおよびRはそれぞれ独立に、置換または非置換のC2〜C30のアルキレン基、C2〜C30のアルケニレン基、又はC4〜C30のアリーレン基であり、Yは、ニトキシルラジカル基、硫黄ラジカル基、ヒドラジルラジカル基、又は炭素ラジカル基であり、nは、2以上の整数である。
[化11]および式[化12]に示される安定ラジカル化合物としては、例えば、オキシラジカル化合物、ニトロキシルラジカル化合物、炭素ラジカル化合物、窒素ラジカル化合物、ホウ素ラジカル化合物、硫黄ラジカル化合物等が挙げられる。
上記オキシラジカル化合物の具体例としては、例えば次の[化13]〜[化14]に示されるアリールオキシラジカル化合物、[化15]に示されるセミキノンラジカル化合物等が挙げられる。
Figure 2011023344
Figure 2011023344
Figure 2011023344
[化13]〜[化15]で示される化学式中、置換基R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族または芳香族のC1〜C30の炭化水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシル基である。[化15]の化学式において、nは2以上の整数である。
また、ニトロキシルラジカル化合物の具体例としては、下記[化16]で示されるペリジノキシ環を有する安定ラジカル化合物、[化17]で示されるピロリジノキシ環を有する安定ラジカル化合物、[化18]で示されるピロリノキン環を有する安定ラジカル化合物、[化19]で示されるニトロニルニトロキシド構造を有する安定ラジカル化合物などが挙げられる。
Figure 2011023344
Figure 2011023344
Figure 2011023344
Figure 2011023344
[化16]〜[化18]で示される化学式中、R〜R10およびR〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族または芳香族のC1〜C30の炭化水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシル基である。また、[化19]で示される化学式において、nは2以上の整数である。
また、上記ニトロキシルラジカル化合物の具体例としては、次の[化20]で示される三価のヒドラジル基を有するラジカル化合物、[化21]で示される三価のフェルダジル基を有するラジカル化合物、[化22]で示されるアミノトリアジン構造を有するラジカル化合物などが挙げられる。
Figure 2011023344
Figure 2011023344
Figure 2011023344
[化20]〜[化22]の化学式中、R11〜R19は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族または芳香族のC1〜C30の炭化水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシル基である。
以上の[化11]〜[化22]の何れかの有機高分子化合物は、安定性に優れたものとなり、その結果、光電変換素子やエネルギー蓄積素子として安定して使用できるので、安定性に優れしかも応答速度に優れた光電気素子を容易に得ることができる。
また、室温で固体状態となる安定ラジカルを用いることが好ましい。この場合、ラジカル化合物と電子輸送層3との接触を安定に保つことができ、他の化学物質との副反応や溶融、拡散による変成、劣化を抑制することができる。その結果、光電気素子の安定性を優れたものにすることができる。
また、他方の電極5(対電極5)を形成するための対電極材料としては、作製する素子の種類によるが、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、グラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボン等の炭素材料、インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。
光電気素子を作製する際は、例えば基板に設けられた電極2の上に有機化合物を湿式方等で積層することで電子輸送層3を電極2上に固定して形成し、この電子輸送層3の上に正孔輸送層4、対電極5を積層する。正孔輸送層4を電解質溶液で形成する場合には、例えば電子輸送層3と対電極5との間を封止材で封止した状態で、この電子輸送層3と対電極5との間の隙間に電解質溶液を充填することで、正孔輸送層4を形成することができる。このとき電解質溶液の一部が電子輸送層3に浸透すると共にこの電子輸送層3を構成する有機化合物が膨潤することで、ゲル層6が形成される。
以上の説明のように構成される光電気素子は、光電変換素子として機能する。この光電変換素子にあって、基材1側から電極2を通して光が照射されると、増感色素が光を吸収して励起し、生成した励起電子が電子輸送層3に流れ込んで、電極2を経て外部に取り出されると共に、増感色素における正孔が正孔輸送層4から対電極5を経て外部に取り出される。
本実施形態に係る光電気素子は、高い蓄電性能を有する。すなわち、光電気素子に光が照射された後、この光電気素子への光が遮蔽された場合の、開放電圧維持率が高いものである。開放電圧維持率は、光電気素子に200ルックスの光が300秒間照射された時点での光電気素子の開放電圧をA(V)、前記時点で光電気素子への光の照射が遮蔽され、その状態が5分間維持された時点での光電気素子の開放電圧をB(V)とした場合、Aに対するBの百分率((B/A)×100(%))で表される。本実施形態に係る光電気素子では、開放電圧維持率が10%以上となることも可能である。すなわち、前記のA及びBが次の関係式を満たすことも可能である。
(B/A)×100≧10
これは、本実施形態では電子輸送層3に保持された電子の、メディエータ(正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料)への移動が抑制されるためであると推察される。このような蓄電性の高い光電気素子が電源として用いられると、光の照射の有無によって電力の供給が不安定化するようなことが抑制される。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[実施例1]
(ガルビモノマーの合成)
反応容器内に、4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(135.8g;0.476mol)と、アセトニトリル(270ml)とを入れ、さらに不活性雰囲気下で、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)(106.3g;129.6ml)を加え、70℃で終夜撹拌し、完全に結晶が析出するまで反応した。析出した白色結晶を濾過し、真空乾燥した後、エタノールで再結晶して精製することによって、[化23]において符号「1」で示す、(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(150.0g;0.420mol)の白色板状結晶を得た。
次に、反応容器内で前記(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(9.83g;0.0275mol)を、不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン(200ml)に溶解し、調製された溶液をドライアイス/メタノールを用いて−78℃に冷却した。この反応容器内の溶液に1.58Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(15.8ml;0.025mol)を加え、78℃の温度で30分撹拌することでリチオ化した。その後、この溶液に4−ブロモ安息香酸メチル(1.08g;0.005mol、Mw:215.0、TCI)のテトラヒドロフラン(75ml)溶液を添加した後、−78℃〜室温で終夜撹拌した。これにより溶液は黄色から薄黄色、アニオンの発生を示す濃青色へと変化した。反応後、反応容器内の溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を、溶液の色が完全に黄色になるまで加えた後、この溶液をエーテル/水で分液抽出することにより黄色粘稠液体状の生成物を得た。
次に反応容器内に、前記生成物、THF(10ml)、メタノール(7.5ml)、撹拌子を入れ、溶解後、10N−HCl(1〜2ml)を反応容器内の溶液が赤橙色に変化するまで徐々に加え、30分間、室温にて撹拌した。次に溶媒除去、エーテル/水による分液抽出、溶媒除去、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1)による分画、ヘキサンによる再結晶の各操作を経て精製し、[化23]において符号「2」で示す、(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.86g;0.0049mol)の橙色結晶を得た。
次いで、反応容器内で前記(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.50g;4.33mmol)を、不活性雰囲気下、トルエン(21.6ml;0.2M)に溶解し、この溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(4.76mg;0.0216mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.150g;0.130mmol)、トリ−n−ブチルビニルすず(1.65g;5.20mmol,Mw:317.1,TCI)を素早く加え、100℃で17時間加熱撹拌した。
これにより得られた反応生成物をエーテル/水で分液抽出し、溶媒除去した後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/3)にて分画し、さらにヘキサンで再結晶して精製することによって、[化23]において符号「3」で示す、p−ヒドロガルビノキシルスチレン(1.54g;2.93mmol)の橙色微結晶を得た。
(ガルビモノマーの重合)
上記ガルビモノマーの合成で得られたガルビモノマー(p−ヒドロガルビノキシルスチレン)1gと、テトラエチレングリコールジアクリレート57.7mgと、アゾビスイソブチロニトリル15.1mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解した後、窒素置換し、一晩還流することで、ガルビモノマーを重合させ、[化23]において符号「4」で示すガルビポリマーを得た。
(電子輸送層の形成)
電極2が設けられた基材1として、厚み0.7mm、シート抵抗100Ω/□の導電性ガラス基板を用意した。この導電性ガラス基板はガラス基板と、このガラス基板の一面に積層された、フッ素ドープされたSnO2からなるコーティング膜とから構成され、前記ガラス基板が基材1、コーティング膜が電極2となる。
上記符号「4」で示すガルビポリマーをクロロベンゼンに2質量%の割合で溶解させた。この溶液を、前記導電性ガラス基板の電極2上に、2000rpmでスピンコートし、60℃、0.01MPa下で1時間乾燥することで、厚み60nmの電子輸送層3を形成した。
この電子輸送層3を[化24]で示される増感色素(D131)のアセトニトリル飽和溶液中に1時間浸漬した。
Figure 2011023344
Figure 2011023344
(素子の作製)
上記電子輸送層3の形成における導電性ガラス基板と同じ構成を有する導電性ガラス基板を用意した。
イソプロピルアルコールに塩化白金酸をその濃度が5mMとなるように溶解し、得られた溶液を前記導電性ガラス基板のコーティング膜上にスピンコートした後、400℃で30分間焼成することで、対電極5を形成した。
次に、電子輸送層3が設けられた導電性ガラス基板と、対電極5が設けられた導電性ガラス基板とを、電子輸送層3と対電極5とが対向するように配置すると共に、両者の間の外縁に幅1mm、厚み50μmの熱溶融性接着剤(デュポン社製、バイネル)を介在させた。この熱溶融性接着剤を加熱しながら前記二つの導電性ガラス基板を厚み方向に加圧することで、二つの導電性ガラス基板を熱溶融性接着剤を介して接合した。熱溶融性接着剤には、電解液の注入口となる空隙を形成した。続いて、電子輸送層3と対電極5との間に前記注入口から電解液を充填した。次に、前記注入口にUV硬化性樹脂を塗布した後、UV光を照射して前記UV硬化性樹脂を硬化させることで、前記注入口を孔埋めした。これにより、電解液からなる正孔輸送層4を形成すると共にこの電解液を電子輸送層3へ浸透させて電子輸送層3を構成する有機化合物(ガルビポリマー)を膨潤させ、ゲル層6を形成した。前記電解液としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを1M、増感色素(D131)を2mM、LiTFSIを0.5M、N−メチルベンズイミダゾールを1.6Mの濃度で含有する、アセトニトリル溶液を用いた。以上により、光電気素子を作製した。
[実施例2]
実施例1において、電子輸送層3を形成する際、0.2gのガルビポリマーと0.01gの増感色素(D131)を10mlクロロベンゼンに溶解し塗布溶液を調製した。この溶液を、導電性ガラス基板の電極2上に、2000rpmでスピンコートし、60℃、0.01MPa下で1時間乾燥することで、厚み60nmの電子輸送層3を形成した。この電子輸送層3の、増感色素のアセトニトリル飽和溶液中への浸漬はおこなわなかった。
これ以外は実施例1と同様にして光電気素子を作製した。
[実施例3]
実施例1において、電子輸送層3を形成した後、この電子輸送層3を濃度0.1Mのテトラブチルアンモニウム水溶液に15分間浸漬することで、電子輸送層3を構成するガルビポリマーをアニオン化した。この電子輸送層3を水洗した後、濃度0.1Mのポリデシルビオロゲン水溶液(pH10)に15分間浸漬することで、アニオン化したガルビポリマーにポリデシルビオロゲンを静電的に結合した。
次に、この電子輸送層3を、増感色素(D131)を0.3mMの濃度で含むアセトニトリル溶液中に1時間浸漬した後、水洗した。これにより電子輸送層3における正に帯電した物質であるポリデシルビオロゲンに由来する部分に増感色素を静電的に結合した。
また、電解液としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを1M、LiTFSIを0.5M、N−メチルベンズイミダゾールを1.6Mの濃度で含有する、アセトニトリル溶液を用いた。
これ以外は実施例1と同様にして光電気素子を作製した。
[比較例1]
実施例1において、電子輸送層3を形成した後、この電子輸送層3の表面に増感色素(D131)のアセトニトリル飽和溶液をスピンコートすることで、電子輸送層3に増感色素を付着させた。この電子輸送層3の、増感色素のアセトニトリル飽和溶液中への浸漬はおこなわなかった。
また、電解液としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを1M、LiTFSIを0.5M、N−メチルベンズイミダゾールを1.6Mの濃度で含有する、アセトニトリル溶液を用いた。
これ以外は実施例1と同様にして光電気素子を作製した。
[評価試験]
各実施例及び比較例で得られた光電気素子の平面視面積1cmの領域に200ルックスの光を照射しながら、Keithley 2400 source meter(ケースレイ社製の2400型汎用ソースメータ)を用いたIV測定により各光電気素子の開放電圧および短絡電流値を測定した。光源には蛍光灯(ラピッド蛍光灯FLR20S・W/M、パナソニック株式会社製)を使用し、25℃環境下での測定を行った。また、光電変換部1cmが受光する条件において光電気素子の評価を行った。その結果を下記表1に示す。
Figure 2011023344
[蓄電特性]
実施例1及び比較例1で得られた光電気素子の蓄電特性を評価した。
まず、各光電気素子に、200ルックスの光を300秒間(5分間)照射し、光電気素子の開放電圧を、Keithley 2400 source meter(ケースレイ社製の2400型汎用ソースメータ)を用いて測定した。続いて、各光電気素子を遮光性の容器内に300秒間(5分間)配置し、光電気素子の開放電圧を前記と同じ方法で測定した。
実施例1についての開放電圧の測定結果を図2に、比較例1についての開放電圧の測定結果を図3に、それぞれ示す。
この結果によれば、実施例1では開放電圧維持率は50%以上であり、蓄電性が高かった。これに対し、比較例1では開放電圧維持率は1%未満であった。
1 基材
2 電極
3 電子輸送層
4 正孔輸送層
5 電極
6 ゲル層

Claims (3)

  1. 一対の電極間に電子輸送層と正孔輸送層を挟んで形成される光電気素子であって、前記電子輸送層は、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備えて形成され、前記有機化合物は前記酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液を含んでゲル層として形成され、増感色素が前記ゲル層内に存在していることを特徴とする光電気素子。
  2. 前記増感色素が、前記ゲル層を構成する前記有機化合物との間の物理的または化学的作用により、前記ゲル層内に固定化されていることを特徴とする光電気素子。
  3. 200ルックスの光が5分間照射された時点での開放電圧A(V)と、この時点で光が遮蔽されてから5分間経過した時点での開放電圧B(V)とが、次の関係式を満たす請求項1又は2に記載の光電気素子。
    (B/A)×100≧10
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