ところで、車両のロール方向の振動や傾きは各ダンパの減衰力により抑制されるが、アクティブスタビライザによっても抑制される。アクティブスタビライザは、車両の右輪側と左輪側とを連結するトーションバーをアクチュエータで捩ることによりロール剛性を制御するロール剛性制御装置である。アクティブスタビライザによりロール剛性が車両のロールに応じて適切に変更されることによりロールが抑制される。
アクティブスタビライザと減衰力特性変更装置の双方が車両に取り付けられている場合、アクティブスタビライザのアクチュエータの作動によるロール剛性制御(以下、スタビライザ制御という場合もある)と減衰力特性変更装置の作動によるダンパの減衰力特性制御(以下、ダンパ制御という場合もある)とは別々に行われる。つまり、スタビライザ制御の制御ロジックとダンパ制御の制御ロジックが各々独立している。このためロールを抑制するときにスタビライザ制御とダンパ制御が重複する。この場合、制御の重複部分について余分なエネルギー(例えばアクティブスタビライザのアクチュエータの作動エネルギー)が浪費される。また、制御の重複により車両の振動の抑制効果、特にバネ上部材のロール方向の振動の抑制効果が損なわれる。
本発明は上記問題に対処するためになされたものであり、スタビライザ制御とダンパ制御の重複を防止することにより、車両の振動の抑制制御に要するエネルギーの効率化を図り、併せて車両の振動を効果的に抑制することを目的とする。
本発明の特徴は、アクチュエータを備えたアクティブスタビライザおよびサスペンション装置のダンパの減衰力特性を変更する減衰力特性変更装置が搭載された車両に適用され、前記アクチュエータおよび前記減衰力特性変更装置の作動を制御することにより車両の振動を抑制する車両振動抑制装置において、少なくとも車両のロール方向に作用する力を前記アクティブスタビライザが発生するスタビライザ力および前記サスペンション装置が発生するサスペンション力により表した車両モデルを基に設計された一般化プラントに非線形H∞制御理論を適用することにより、前記スタビライザ力と前記ダンパが発生する減衰力により車両の振動が抑制されるように、前記スタビライザ力のうち前記アクチュエータの作動により発生するアクティブスタビライザ力の目標値である目標アクティブスタビライザ力と前記減衰力の目標値である要求減衰力を計算する目標制御力計算手段と、前記目標制御力計算手段により計算された目標アクティブスタビライザ力および要求減衰力に基づいて、前記アクチュエータの作動および前記減衰力特性変更装置の作動を制御する作動制御手段と、を備える車両振動抑制装置とすることにある。
本発明によれば、車両に作用する力としてアクティブスタビライザが発生するスタビライザ力とサスペンション装置が発生するサスペンション力とが考慮された車両モデルを基に設計された一般化プラントに非線形H∞制御理論を適用することにより目標アクティブスタビライザ力と要求減衰力が算出される。そして、このように算出された目標アクティブスタビライザ力と要求減衰力に基づいてアクティブスタビライザのアクチュエータ(例えばスタビライザアクチュエータ)および減衰力特性変更装置(例えばサスペンションアクチュエータ)の作動が制御される。
従来においては上述のようにスタビライザ制御の制御ロジックとダンパ制御の制御ロジックが各々独立していた。これに対し本発明においては、一つの制御ロジック(非線形H∞制御理論)に基づいて計算された目標アクティブスタビライザ力および要求減衰力に基づいて、スタビライザ制御およびダンパ制御が実行される。つまり、アクティブスタビライザと減衰力特性変更装置が協調制御される。このため、スタビライザ力と減衰力が協調して車両の振動(特にロール方向の振動)を抑制する。こうした協調制御により、車両の振動を抑制するにあたってスタビライザ制御とダンパ制御の重複が防止される。制御の重複の防止により、車両の振動の抑制制御に要するエネルギーの効率化を図ることができ、且つ車両の振動を効果的に抑制することができる。
上記発明において、「スタビライザ力」とは、アクティブスタビライザが車両(車体)に及ぼす力である。アクティブスタビライザは、それ自身が有する本来の捩り剛性力と、アクチュエータが作動することにより上記捩り剛性力に加減される力を発生する。本明細書において、アクティブスタビライザが本来有する捩り剛性力を「コンベンショナルスタビライザ力」と呼び、アクチュエータの作動により発生する力を「アクティブスタビライザ力」と呼ぶ。「スタビライザ力」は、コンベンショナルスタビライザ力とアクティブスタビライザ力の総和である。
また、「サスペンション力」とは、車両に取り付けられたサスペンション装置が車両に及ぼす力である。サスペンション装置はバネおよびダンパを備えている。バネは弾性力を発生する。ダンパは減衰力を発生する。上記「サスペンション力」は、バネによる弾性力とダンパによる減衰力の総和である。
また、本発明は上記に述べたように、非線形H∞制御理論を用いてアクティブスタビライザと減衰力特性変更装置とを協調制御させる。非線形H∞制御理論によれば、外乱w1が評価出力zpに与える影響が小さくなるような制御則が求められるので、外乱w1に対して車両の振動を抑えるためには評価出力zpを車両の振動を表す物理量に設定すると良い。特に、バネ上部材の上下振動の大きさを表す物理量(例えばバネ上加速度など),ロール方向の振動の大きさを表す物理量(例えばロール角加速度)あるいはピッチ方向の振動の大きさを表す物理量(例えばピッチ角加速度)が評価出力zpに設定されているとよい。また、制御則から得られる制御入力uは、目標アクティブスタビライザ力に相当する量および要求減衰力に相当する量であるのがよい。
また、本発明に適用される車両モデルは、少なくとも車両にロール方向に作用する力(ロール力)がスタビライザ力およびサスペンション力により表されている車両モデルであれば、どのようなものでもよい。スタビライザ制御とダンパ制御はロール方向の振動の抑制制御時に重複する可能性があるからである。したがって、例えば後述の実施形態にて示すように、ヒーブ力(車両に上下方向に作用する力)とロール力がスタビライザ力とサスペンション力により表される2輪モデルが車両モデルとして本発明に適用され得る。また、ヒーブ力,ロール力およびピッチ力(車両にピッチ方向に作用する力)がスタビライザ力およびサスペンション力により表された4輪モデルも本発明に適用され得る。これらの場合、ヒーブ方向の振動およびピッチ方向の振動はダンパ制御により抑制され、ロール方向の振動はスタビライザ制御およびダンパ制御により抑制される。
また、前記目標制御力計算手段は、車両のバネ上部材のロール方向の振動周波数が低周波数であるときには主に前記アクチュエータが作動することにより前記ロール方向の振動が抑制され、前記振動周波数が高周波数であるときには主に前記減衰力特性変更装置が作動することにより前記ロール方向の振動が抑制されるように、前記目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力および前記要求減衰力に相当する制御入力を重み付けして計算するとよい。つまり、前記目標制御力計算手段は、ロール方向の振動周波数が低周波数であるときはロール方向の振動を抑制する主体が前記アクティブスタビライザ力となり、高周波数であるときはロール方向の振動を抑制する主体が減衰力となるように、目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力と要求減衰力に相当する制御入力を重み付けして計算するとよい。
振動の周波数が低い場合はダンパが発生し得る減衰力の可変幅が小さい。したがって、ダンパ制御は低周波数振動を十分に抑制するだけの減衰力を発揮することができないことがあるという欠点を持つ。一方、アクティブスタビライザはアクチュエータの作動により積極的にロール方向の振動を抑制する力を発揮することができるため、アクティブスタビライザが発生するスタビライザ力の可変幅は大きい。したがって、スタビライザ制御はロール方向の振動周波数が低い場合においても十分に振動を抑制するだけのスタビライザ力を発揮することができるという利点を持つ。これらのことから、振動周波数が低い場合にはスタビライザ制御の持つ利点を生かし、主にアクティブスタビライザのアクチュエータの作動によりロール方向の振動を抑制することにより、ロール方向の低周波振動の抑制効果が高まる。
また、振動の周波数が高い場合はその高い周波数に応じた素早い制御応答性が求められる。この制御応答性に関し、アクティブスタビライザのアクチュエータは制御応答性が悪い。また、アクチュエータを作動させるときのエネルギー消費が多い。したがって、スタビライザ制御は、高周波振動に追従するだけの制御応答性を持ち得ず、且つエネルギー消費量も多くなるという欠点を持つ。一方、減衰力特性変更装置は、その作動についての制御応答性が高く、またエネルギー消費量が少ない。したがってダンパ制御は、高周波数振動に追従する制御応答性を持ち、且つエネルギー消費量も少ないという利点を持つ。これらのことから、振動周波数が高い場合にはダンパ制御の持つ利点を生かし、主に減衰力特性変更装置の作動によりロール方向の振動を抑制することにより、ロール方向の高周波振動の抑制効果が高まるとともにエネルギー消費量が抑えられる。
このように、ロール方向の振動の周波数が低周波数であるときには主にスタビライザ制御によって、ロール方向の振動の周波数が高周波数であるときには主にダンパ制御によって、ロール方向の振動を抑制することにより、エネルギー消費が抑えられ、且つ高いレベルでの乗り心地性能を実現することができる車両振動抑制装置を提供することができる。
主にスタビライザ制御によって抑制されるロール振動の振動周波数帯域は、バネ上共振周波数(約1Hz)付近の低周波数帯域であるとよい。特に0.5〜3Hz程度の周波数帯域であるとよい。一方、主にダンパ制御によって抑制されるロール振動の周波数帯域は、バネ下共振周波数(約10Hz)付近の高周波数帯域であるとよい。特に8〜15Hz程度の周波数帯域であるとよい。上記低周波数帯域(0.5〜3Hz)と高周波数帯域(8〜15Hz)の間の中周波数帯域(3〜8Hz)の周波数を持つロール振動は、スタビライザ制御とダンパ制御の双方により抑制されるように、目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力と要求減衰力に相当する制御入力が重み付けされているとよい。
スタビライザ制御とダンパ制御のどちらが主体となってロール振動を抑制しているかについては、目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力に作用する重みの大きさと要求減衰力に相当する制御入力に作用する重みの大きさを比較することにより判断できる。つまり、重み(ゲイン)が大きい制御入力に係る力が主として振動を抑制する。したがって、ロール振動周波数が低周波数帯域(例えば0.5〜3Hz)であるときは、目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力に作用する重みが要求減衰力に相当する制御入力に作用する重みよりも大きく、ロール振動周波数が高周波数帯域(例えば8〜15Hz)であるときには、要求減衰力に相当する制御入力に作用する重みが目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力に作用する重みよりも大きくなるように、各制御入力に周波数重みが設定されているとよい。
また、前記一般化プラントの制御入力uは、前記要求減衰力に相当する制御入力であるダンパ制御入力u1と、前記目標アクティブスタビライザ力に相当する制御入力であるスタビライザ制御入力u2からなると良い。また、ダンパ制御入力u1は、ダンパの減衰係数の変動分を表す可変減衰係数であるとよい。スタビライザ制御入力u2は、アクティブスタビライザ力であると良い。
また、前記一般化プラントには、前記ダンパ制御入力u1に作用する周波数重みであるダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)および前記スタビライザ制御入力u2に作用する周波数重みであるスタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)が設定されているのがよい。そして、前記ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)は高周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持ち、前記スタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)は低周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持つものであるのがよい。
これによれば、ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)がダンパ制御入力u1に作用する。ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)は高周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持っているので、このような重みが作用したダンパ制御入力は高周波数であるほど制御量が大きくなる。すなわち、高周波数の振動は、主に減衰力特性変更装置の作動制御(ダンパ制御)により抑制される。また、スタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)がスタビライザ制御入力u2に作用する。スタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)は低周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持っているので、このような重みが作用したスタビライザ制御入力は低周波数であるほど制御量が大きくなる。すなわち、低周波数のロール振動は、主にアクティブスタビライザの作動制御(スタビライザ制御)により抑制される。このように、ロール振動の周波数が低周波数であるときに主にスタビライザ制御により振動を抑制し、高周波数であるときにダンパ制御により振動を抑制することにより、上述したように振動抑制制御時にエネルギー消費量が抑えられるとともに、振動周波数が低周波数であっても高周波数であっても効果的に振動が抑制される。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、車両に搭載されたサスペンション装置およびアクティブスタビライザと、これらサスペンション装置およびアクティブスタビライザを制御する制御装置(ECU)を表した概略図である。図に示されるように、車両には4個のサスペンション装置(右前輪側サスペンション装置10FR,左前輪側サスペンション装置10FL,右後輪側サスペンション装置10RR,左後輪側サスペンション装置10RL)が取り付けられている。これらのサスペンション装置は、車両のバネ上部材HAとバネ下部材LAとの間に設けられる。バネ下部材LAは、タイヤを含む車輪に連結されたナックルや、一端がナックルに連結されたロアアームなどにより構成され、サスペンション装置10を支持する。バネ上部材HAはサスペンション装置10により支持される部材であり、車体を含む。
右前輪側サスペンション装置10FRはバネ上部材HAの右前方側(右前輪位置)に連結され、左前輪側サスペンション装置10FLはバネ上部材HAの左前方側(左前輪位置)に連結され、右後輪側サスペンション装置10RRはバネ上部材HAの右後方側(右後輪位置)に連結され、左後輪側サスペンション装置10RLはバネ上部材HAの左後方側(左後輪位置)に連結される。各サスペンション装置は基本的に同一構造である。また、右前輪側サスペンション装置10FRはバネ下部材LAを介して右前輪WFRに、左前輪側サスペンション装置10FLはバネ下部材LAを介して左前輪WFLに、右後輪側サスペンション装置10RRはバネ下部材LAを介して右後輪WRRに、左後輪側サスペンション装置10RLはバネ下部材LAを介して左後輪WRLに、それぞれ連結している。サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLおよび車輪WFR,WFL,WRR,WRLを総称する場合には、これらを単にサスペンション装置10および車輪Wと記載する場合もある。
図2はサスペンション装置10の構造を示す概略図である。サスペンション装置10はバネ11とダンパ(ショックアブソーバ)12とを備えている。ダンパ12は、シリンダ121、ピストン122、ピストンロッド123を備える。シリンダ121の内部には粘性流体(例えば、オイルなど)が封入されている。シリンダ121は、その下端にてバネ下部材LA(詳しくは、ロアアーム)に連結される。ピストン122はシリンダ121内に配置される。このピストン122によりシリンダ121の内部が上室R1と下室R2とに区画される。ピストン122はシリンダ121内を軸方向に移動可能である。ピストンロッド123は、その下端にてピストン122に連結され、その上端にてバネ上部材HAに連結される。また、ピストン122には、上室R1と下室R2とを連通する連通路124が形成されている。
このように構成されたダンパ12において、車輪Wが路面凹凸を乗り越えるなどによりバネ上部材HAが路面に対して相対変位した場合、バネ上部材HA側に連結されたピストン122が、バネ下部材LA側(路面側)に連結されたシリンダ121内を相対変位する。この相対変位に伴いピストン122に形成された連通路124内を粘性流体が流通する。粘性流体が連通路124内を流通するときに発生する抵抗によりバネ上部材HAの振動が減衰する。
バネ11はシリンダ121を取り巻くように配置され、下端にてシリンダ121の外周に取付けられたリテーナ125に連結され、上端にてバネ上部材HAに連結される。このバネ11は、路面に対するバネ上部材HAの相対変位に伴う弾性力を発生する。バネ11は、本実施形態においては金属製のコイルバネであるが、エアサスペンション装置などに用いられる空気バネでもよい。
図2に示されるように、サスペンション装置10には可変絞り機構13が取付けられている。可変絞り機構13はバルブ131およびサスペンションアクチュエータ132を有する。バルブ131は連通路124に設けられていて、回転することにより連通路124の少なくとも一部の流路断面積の大きさ、すなわちバルブ開度OPを変化させる。サスペンションアクチュエータ132は例えばステッピングモータなどにより構成することができる。図1には、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLに取付けられた各サスペンションアクチュエータ(右前輪サスペンションアクチュエータ132FR,左前輪サスペンションアクチュエータ132FL,右後輪サスペンションアクチュエータ132RR,左後輪サスペンションアクチュエータ132RL)が示されている。これらのサスペンションアクチュエータは、各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLのダンパ12の上部に配置され、バネ上部材HAに固定されている。
また、サスペンションアクチュエータ132は、例えばピストンロッド123の内部に配されるコントロールロッドなどによってバルブ131に連結される。したがって、サスペンションアクチュエータ132が作動するとそれに伴いバルブ131が回転する。この回転によりバルブ開度OPが変更される。バルブ開度OPの変更により、連通路124の流路断面積が変更される。その結果、連通路124内を粘性流体が流通するときに発生する抵抗力の大きさが変更される。これによりダンパ12の減衰力特性(減衰係数)が変更される。なお、ダンパ12の減衰力特性は、バルブ131の回転角の変化によって段階的に変更されるようになっている。可変絞り機構13、バルブ131およびサスペンションアクチュエータ132が、本発明の減衰力特性変更手段に相当する。
また、図1に示されるように、前輪側アクティブスタビライザ20Fが右前輪WFRと左前輪WFLとの間に、後輪側アクティブスタビライザ20Rが右後輪WRRと左後輪WRLとの間に、それぞれ設けられている。前輪側アクティブスタビライザ20Fは、車両の左右方向に沿って同軸的に延在する一対の前輪側トーションバー21FR,21FLと、一対の前輪側トーションバー21FR,21FLの先端(車両外方端)から連続して形成された一対の前輪側アーム22FR,22FLと、一対のトーションバー21FR,21FLの基端(車両内方端)に連結する前輪側スタビライザアクチュエータ23Fを有している。同様に、後輪側アクティブスタビライザ20Rは、車両の左右方向に沿って同軸的に延在する一対の後輪側トーションバー21RR,21RLと、一対の後輪側トーションバー21RR,21RLの先端(車両外方端)から連続して形成された一対の後輪側アーム22RR,22RLと、一対の後輪側トーションバー21RR,21RLの基端(車両内方端)に連結する後輪側スタビライザアクチュエータ23Rを有している。
一対の前輪側トーションバー21FR,21FLはブラケット24Fを介して軸線周りに回転自在にバネ上部材HA(具体的には車体)に支持されている。また、前輪側アーム22FR,22FLは前輪側トーションバー21FR,21FLから車両前方側に折れ曲がった方向に延在している。前輪側アーム22FRの先端は右前輪WFRに連結したバネ下部材LA(例えばロアアーム)に、前輪側アーム22FLの先端は左前輪WFLに連結したバネ下部材LAに、それぞれ接続されている。同様に、一対の後輪側トーションバー21RR,21RLはブラケット24Rを介して軸線周りに回転自在にバネ上部材HAに支持されている。また、後輪側アーム22RR,22RLは後輪側トーションバー21RR,21RLから車両前方側に折れ曲がった方向に延在している。後輪側アーム22RRの先端は右後輪WRRに連結したバネ下部材LAに、後輪側アーム22RLの先端は左後輪WRLに連結したバネ下部材LAに、それぞれ接続されている。
前輪側スタビライザアクチュエータ23Fは、一対の前輪側トーションバー21FR,21FLのうちの一方を他方に対して相対回転させる。相対回転角は後述するECU30により制御される。同様に、後輪側スタビライザアクチュエータ23Rは、一対の後輪側トーションバー21RR,21RLのうちの一方を他方に対して相対回転させる。相対回転角はECU30により制御される。スタビライザアクチュエータ23F,23Rは、例えば電動モータおよび減速器により構成される。
図1に示されるように車両にはECU30が搭載されている。ECU30はCPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成される。ECU30は、バネ上部材HAの振動を抑制するために、右前輪側サスペンション装置10FRのダンパ12が発生すべき減衰力の目標値である右前輪要求減衰力Freqfr,左前輪側サスペンション装置10FLのダンパ12が発生すべき減衰力の目標値である左前輪要求減衰力Freqfl,右後輪側サスペンション装置10RRのダンパ12が発生すべき減衰力の目標値である右後輪要求減衰力Freqrr,左後輪側サスペンション装置10RLのダンパ12が発生すべき減衰力の目標値である左後輪要求減衰力Freqrlをそれぞれ計算する。そして、計算した各要求減衰力を表す信号をそれぞれ対応するサスペンションアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLに出力する。
また、ECU30は、前輪側スタビライザアクチュエータ23Fの作動によりバネ上部材HAに作用するロール方向の力の目標値である前輪目標アクティブスタビライザ力FstbF*および、後輪側スタビライザアクチュエータ23Rの作動によりバネ上部材HAに作用するロール方向の力の目標値である後輪目標アクティブスタビライザ力FstbR*を計算する。また、前輪目標アクティブスタビライザ力FstbF*に基づいて、一対の前輪側トーションバー21FR,21FLの相対回転角の目標値である前輪アクチュエータ目標回転角δf*を、後輪アクティブスタビライザ力FstbR*に基づいて一対の後輪側トーションバー21RR,21RLの相対回転角の目標値である後輪アクチュエータ目標回転角δr*を、それぞれ計算する。そして、計算した前輪アクチュエータ目標回転角δf*および後輪アクチュエータ目標回転角δr*を出力する。ECU30が本発明の車両振動抑制装置に相当する。
また、図2に示されるように、各サスペンション装置付近には、バネ上加速度センサ41,路面上下加速度センサ42,ストロークセンサ43が取り付けられている。バネ上加速度センサ41はバネ上部材HAの各輪位置(右前輪位置,左前輪位置,右後輪位置,左後輪位置)にそれぞれ取付けられており、その位置におけるバネ上部材HAの上下方向に沿った加速度である右前輪バネ上加速度xbfr",左前輪バネ上加速度xbfl",右後輪バネ上加速度xbrr",左後輪バネ上加速度xbrl"をそれぞれ検出する。路面上下加速度センサ42は各車輪Wに連結したバネ下部材LAにそれぞれ取付けられており、各バネ下部材LAの上下方向に沿った加速度を計測することにより、各バネ下部材LAに連結する車輪Wの接地路面における上下方向に沿った加速度である右前輪路面加速度xwfr",左前輪路面加速度xwfl",右後輪路面加速度xwrr",左後輪路面加速度xwrl"をそれぞれ検出する。ストロークセンサ43は各サスペンション装置に取付けられており、各サスペンション装置10のダンパ12のストローク変位量、すなわちシリンダ121に対するピストン122の相対変位量を計測することにより、バネ上部材HAの右前輪位置における路面の上下方向に沿った変位量に対するバネ上部材HAの上下方向に沿った相対変位量である右前輪バネ上−路面間相対変位量xsfr(=xwfr-xbfr),バネ上部材HAの左前輪位置における左前輪バネ上−路面間相対変位量xsfl(=xwfl-xbfl),バネ上部材HAの右後輪位置における右後輪バネ上−路面間相対変位量xsrr(=xwrr-xbrr),バネ上部材HAの左後輪位置における左後輪バネ上−路面間相対変位量xsrl(=xwrl-xbrl)をそれぞれ検出する。
また、図1に示されるように、バネ上部材HAにはロール角加速度センサ44およびピッチ角加速度センサ45が取り付けられている。ロール角加速度センサ44はバネ上部材HAのロール方向(前後軸周り方向)の角度変位を表すロール角θrの角加速度(ロール角加速度)θr"を検出する。ピッチ角加速度センサ45はバネ上部材HAのピッチ方向(左右軸周り方向)の角度変位を表すピッチ角θpの角加速度(ピッチ角加速度)θp"を検出する。
図3は、ECU30の入出力構成を概略的に示す図である。ECU30の入力側には、バネ上加速度センサ41,路面上下加速度センサ42,ストロークセンサ43,ロール角加速度センサ44,ピッチ角加速度センサ45が接続されている。
バネ上加速度センサ41は右前輪バネ上加速度xbfr",左前輪バネ上加速度xbfl",右後輪バネ上加速度xbrr",左後輪バネ上加速度xbrl"を、路面上下加速度センサ42は右前輪路面加速度xwfr",左前輪路面加速度xwfl",右後輪路面加速度xwrr",左後輪路面加速度xwrl"を、ストロークセンサ43は右前輪バネ上−路面間相対変位量xsfr(=xwfr-xbfr),左前輪バネ上−路面間相対変位量xsfl(=xwfl-xbfl),右後輪バネ上−路面間相対変位量xsrr(=xwrr-xbrr),左後輪バネ上−路面間相対変位量xsrl(=xwrl-xbrl)を、それぞれECU30に出力する。ロール角加速度センサ44はロール角加速度θr"を、ピッチ角加速度センサ45はピッチ角加速度θp"を、それぞれECU30に出力する。
ECU30の出力側には、図示しない駆動回路を介して各サスペンションアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLおよび各スタビライザアクチュエータ23F,23Rが電気的に接続されている。そして、右前輪要求減衰力Freqfrを表す信号が右前輪サスペンションアクチュエータ132FRに、左前輪要求減衰力Freqflを表す信号が左前輪サスペンションアクチュエータ132FLに、右後輪要求減衰力Freqrrを表す信号が右後輪サスペンションアクチュエータ132RRに、左後輪要求減衰力Freqrlを表す信号が左後輪サスペンションアクチュエータ132RLに、前輪アクチュエータ目標回転角δf*を表す信号が前輪側スタビライザアクチュエータ23Fに、後輪アクチュエータ目標回転角δr*を表す信号が後輪側スタビライザアクチュエータ23Rに、それぞれ出力される。
上記構成において、バネ上加速度センサ41の検出値から得られる各輪位置におけるバネ上加速度のいずれか一つが所定の閾値を越えた場合、ECU30はバネ上部材HAの振動を抑制するための処理(振動抑制制御処理)を開始する。図4は、振動抑制制御処理の流れを示すフローチャートである。ECU30はこの処理を図4のステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)100にて開始する。次いで、S102にて、バネ上加速度センサ41,路面上下加速度センサ42,ストロークセンサ43,ロール角加速度センサ44,ピッチ角加速度センサ45から検出値を入力する。次に、S104にて、入力した検出値を演算(例えば微分または積分)することにより、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下速度(バネ上速度)xbfr',xbfl',xbrr',xbrl'、各輪位置におけるバネ上部材HAの上下変位量(バネ上変位量)xbfr,xbfl,xbrr,xbrl、各輪位置における路面の上下速度(路面上下速度)xwfr',xwfl',xwrr',xwrl'、各輪位置における路面の上下変位量(路面上下変位量)xwfr,xwfl,xwrr,xwrl、各輪位置における路面上下速度に対するバネ上部材HAの相対速度(バネ上−路面間相対速度)xsfr'(=xwfr'-xbfr'),xsfl'(=xwfl'-xbfl'),xsrr'(=xwrr'-xbrr'),xsrl'(=xwrl'-xbrl')、バネ上部材HAの重心位置の上下変位量(ヒーブ変位量)xb、ロール角θr、ピッチ角θp、ヒーブ速度xb'、ロール角速度θr'、ピッチ角速度θp'、ヒーブ加速度xb"など、計算に必要な量を計算する。なお、ヒーブ変位量xb、ヒーブ速度xb'、ヒーブ加速度xb"は、各輪位置におけるバネ上加速度から計算できる。
次いで、S106にて、車両モデルを基に設計された一般化プラントに非線形H∞制御理論を適用することにより、右輪要求可変減衰係数creqvR,左輪要求可変減衰係数creqvLおよび目標アクティブスタビライザ力Fstb*を計算する。本実施形態において、この計算をする際に図5に示される車両の2輪モデルが力学的な運動モデルとして用いられる。この2輪モデルは、車両のバネ上部材HAに上下方向に作用する力(ヒーブ力)とロール方向に作用する力(ロール力)を、アクティブスタビライザが発生するスタビライザ力とサスペンション装置が発生するサスペンション力により表した車両の運動モデルである。
図において、Mbはバネ上部材HAの質量、Irはバネ上部材HAのロール慣性モーメント、θrはバネ上部材HAのロール角、xbはバネ上部材HAの重心位置における変位量(ヒーブ変位量)、Tはトレッドである。
また、ksRはバネ上部材HAの右側に取り付けられている右輪側サスペンション装置10Rのバネ11Rのバネ定数(右輪バネ定数)、c0Rは右輪側サスペンション装置10Rのダンパ12Rの線形減衰係数(右輪線形減衰係数)、cvRはダンパ12Rの可変減衰係数(右輪可変減衰係数)である。右輪バネ定数ksRは、例えば図1に示される右前輪側サスペンション装置10FRのバネのバネ定数ksfrと右後輪側サスペンション装置10RRのバネのバネ定数ksrrとの平均値により表される。右輪線形減衰係数c0Rは、例えば右前輪側サスペンション装置10FRのダンパの線形減衰係数c0frと右後輪側サスペンション装置10RRのダンパの線形減衰係数c0rrとの平均値により表される。
また、ksLはバネ上部材HAの左側に取り付けられている左輪側サスペンション装置10Lのバネ11Lのバネ定数(左輪バネ定数)、c0Lは左輪側サスペンション装置10Lのダンパ12Lの線形減衰係数(左輪線形減衰係数)、cvLはダンパ12Lの可変減衰係数(左輪可変減衰係数)である。左輪バネ定数ksLは、例えば図1に示される左前輪側サスペンション装置10FLのバネのバネ定数ksflと左後輪側サスペンション装置10RLのバネのバネ定数ksrlとの平均値により表される。左輪線形減衰係数c0Lは、例えば左前輪側サスペンション装置10FLのダンパの線形減衰係数c0flと左後輪側サスペンション装置10RLのダンパの線形減衰係数c0rlとの平均値により表される。
ちなみに、各ダンパの減衰係数は、本実施形態においては線形減衰係数と可変減衰係数との和により表される。線形減衰係数はダンパの減衰係数の固定分を表し、予め設計者によって定められている。可変減衰係数はダンパの減衰係数の変動分を表す。この可変減衰係数は、非線形H∞制御理論に基づいて計算される。
また、kstbは車両に取り付けられたアクティブスタビライザ20のトーションバー21の捩り剛性定数である。捩り剛性定数kstbは、例えば図1に示される前輪側アクティブスタビライザ20Fの前輪側トーションバー21FR,21FLの捩り剛性定数kstbFと、後輪側アクティブスタビライザ20Rの後輪側トーションバー21RR,21RLの捩り剛性定数kstbRとの平均値により表される。各サスペンション装置10FR,10FL,10RR,10RLのバネ11のバネ定数ksfr,ksfl,ksrr,ksrl、ダンパ12の線形減衰係数c0fr,c0fl,c0rr,c0rl、および、各アクティブスタビライザ20F,20Rの捩り剛性定数kstbF,kstbRは、予め求められている。
また、図5においてxwRは右輪側サスペンション装置10Rが連結されている車輪の接地路面における上下方向に沿った変位量(右輪路面変位量)、xwLは左輪側サスペンション装置10Lが連結されている車輪の接地路面における上下方向に沿った変位量(左輪路面変位量)である。右輪路面変位量xwRは例えば右前輪路面変位量xwfrと右後輪路面変位量xwrrの平均により表される。左輪路面変位量xwLは例えば左前輪路面変位量xwflと左後輪路面変位量xwrlの平均により表される。また、xbRはバネ上部材HAの右輪位置(右輪側サスペンション装置10Rが取り付けられている位置)における上下方向に沿った変位量(右輪バネ上変位量)、xbLはバネ上部材HAの左輪位置(左輪側サスペンション装置10Lが取り付けられている位置)における上下方向に沿った変位量(左輪バネ上変位量)である。右輪バネ上変位量xbRは例えば右前輪バネ上変位量xbfrと右後輪バネ上変位量xbrrの平均により表される。左輪バネ上変位量xbLは例えば左前輪バネ上変位量xbflと左後輪バネ上変位量xbrlの平均により表される。
また、Fstbは、車両に取り付けられたアクティブスタビライザ20が発生する力(スタビライザ力)のうち、アクチュエータ23が作動することにより発生する力である。スタビライザ力は、トーションバー21が持つ本来の捩り剛性力、すなわちトーションバー21の捩れ状態が基準状態(アクチュエータ23の作動量が0である状態)であるときに外力の作用で捩られることにより発生する力であるコンベンショナルスタビライザ力と、アクチュエータ23が作動してトーションバー21を積極的に捩ることにより発生する力であるアクティブスタビライザ力により表される。図5におけるFstbはこのアクティブスタビライザ力を表す。コンベンショナルスタビライザ力は、捩り剛性定数kstbと、バネ上部材HAの右輪側のバネ上−路面間相対変位量(xwR-xbR)と左輪側のバネ上−路面間相対変位量(xwL-xbL)との差の積kstb(-(xwR-xbR)+(xwL-xbL))により表される。スタビライザ力はこれらの和Fstb+kstb(-(xwR-xbR)+(xwL-xbL))により表される。
また、図5においてFsusRは右輪側サスペンション装置10Rがバネ上部材HAに対して発生する力(右サスペンション力)であり、ダンパ12Rが発生する減衰力とバネ11Rが発生する弾性力の総和により表される。また、FsusLは左輪側サスペンション装置10Lがバネ上部材HAに対して発生する力(左サスペンション力)であり、ダンパ12Lが発生する減衰力とバネ11Lが発生する弾性力の総和により表される。また、FRは右輪側サスペンション装置10Rおよびアクティブスタビライザ20によりバネ上部材HAの右輪位置に作用する右輪上下力、FLは左輪側サスペンション装置10Lおよびアクティブスタビライザ20によりバネ上部材HAの左輪位置に作用する左輪上下力である。
この2輪モデルから導き出されるバネ上部材HAの重心位置における上下方向の運動方程式(ヒーブ運動方程式)は例えば下記式(eq.1)のように、ロール方向の運動方程式(ロール運動方程式)は例えば下記式(eq2)のように、それぞれ記述される。
また、右輪上下力F
Rは下記式(eq.3)のように、左輪上下力F
Lは下記式(eq.4)のように、それぞれ記述される。
上記式(eq.3)および式(eq.4)中のx
sRは、右輪路面変位量x
wRと右輪バネ上変位量x
bRとの差(x
wR-x
bR)により表される右輪バネ上−路面間相対変位量を、x
sLは左輪路面変位量x
wLと左輪バネ上変位量x
bLとの差(x
wL-x
bL)により表される左輪バネ上−路面間相対変位量を、それぞれ表す。x
sR'は右輪側サスペンション装置10Rが連結されている車輪の接地路面における上下方向に沿った速度(右輪路面速度)x
wR'とバネ上部材の右輪位置における上下方向に沿った速度(右輪バネ上速度)x
bR'との差(x
wR'-x
bR')により表される右輪バネ上−路面間相対速度を、x
sL'は左輪側サスペンション装置10Lが連結されている車輪の接地路面における上下方向に沿った速度(左輪路面速度)x
wL'とバネ上部材の左輪位置における上下方向に沿った速度(左輪バネ上速度)x
bL'との差(x
wL'-x
bL')により表される左輪バネ上−路面間相対速度を、それぞれ表す。
また、右輪バネ上変位量x
bRと、ヒーブ変位量x
bおよびロール角θ
rとの関係は下記式(eq.5)により、左輪バネ上変位量x
bLと、ヒーブ変位量x
bおよびロール角θ
rとの関係は下記式(eq.6)により、それぞれ表される。
また、モード加速度変換行列Tf2modegが、下記式(eq.7)のように定義される。
このモード加速度変換行列Tf2modegを用いることにより、上記式(eq.1)および式(eq.2)は下記式(eq.8)のように記述される。
また、各輪位置変換行列Tmode2wheelが、下記式(eq.9)のように定義される。
この各輪位置変換行列Tmode2wheelを用いることにより、上記式(eq.5)および式(eq.6)は下記式(eq.10)のように記述される。
また、バネ定数行列Tks,線形減衰係数行列Tc0,トーションバー剛性定数行列Tst0が、下記式(eq.11)のように定義される。
以上の関係式を用いることにより、図4に示される2輪モデルの状態空間表現が、下記式(eq.12)のように記述される。
上記式(eq.12)中の状態量x
p,評価出力z
p,外乱w
1および制御入力uは、下記式(eq.13)のように表される。
また、上記式(eq.12)中の係数行列A
pは下記式(eq.14)のように、B
p11は下記式(eq.15)のように、B
p12(x
p)は下記式(eq.16)のように、C
p1は下記式(eq.17)のように、D
p11は下記式(eq.18)のように、D
p12(x
p)は下記式(eq.19)のように、それぞれ表される。
式(eq.12)に基づいて、図6に示される一般化プラントが設計される。この一般化プラントに表される評価出力z
pには周波数重みW
s(s)が作用している。周波数重みW
s(s)の状態空間表現は、下記式(eq.20)のように記述される。
また、一般化プラントにおいて、制御入力uが、ダンパ制御入力u1とスタビライザ制御入力u2により表されている。ダンパ制御入力u1は右輪可変減衰係数cvRおよび左輪可変減衰係数cvLである。スタビライザ制御入力u2はアクティブスタビライザ力Fstbである。
また、一般化プラントにはダンパ制御入力用周波数重みW
u1(s)が設定されている。ダンパ制御入力用周波数重みW
u1(s)はダンパ制御入力u
1に作用する周波数重みである。このダンパ制御入力用周波数重みW
u1(s)の状態空間表現は、下記式(eq.21)のように記述される。
このダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)は、図7のゲイン線図に示すような周波数特性を持つ。図7からわかるように、ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)は、入力周波数が高周波数であるほどゲインが大きくなり、入力周波数が低周波数であるほどゲインが小さくなる周波数特性を持つ。したがって、ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)が作用したダンパ制御入力u1は、高周波数であるほど大きな制御量となり、低周波数であるほど小さな制御量となる。
また、一般化プラントにはスタビライザ制御入力用周波数重みW
u2(s)が設定されている。スタビライザ制御入力用周波数重みW
u2(s)はスタビライザ制御入力u
2に作用する周波数重みである。このスタビライザ制御入力用周波数重みW
u2(s)の状態空間表現は、下記式(eq.22)のように記述される。
このスタビライザ用周波数重みWu2(s)は、図8のゲイン線図に示すような周波数特性を持つ。図8からわかるように、スタビライザ用周波数重みWu2(s)は、入力周波数が低周波数であるほどゲインが大きくなり、入力周波数が高周波数であるほどゲインが小さくなる周波数特性を持つ。したがって、スタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)が作用したスタビライザ制御入力u2は、低周波数であるほど大きな制御量となり、高周波数であるほど小さな制御量となる。つまり、図7と図8とを比較してわかるように、入力周波数が高周波数である場合にはダンパ制御入力u1に作用するゲインがスタビライザ制御入力u2に作用するゲインよりも大きく、入力周波数が低周波数である場合にはスタビライザ制御入力u2に作用するゲインがダンパ制御入力u1に作用するゲインよりも大きい。
x
u,z
u,u,A
u,B
u,C
u,D
uを下記式(eq.23)のように定義した場合、一般化プラントの状態空間表現は、下記式(eq.24)のように記述される。
式(eq.24)は双線形システムである。したがって、下記式(eq.25)に示されるリカッチ方程式を満たす正定対称行列Pが存在するならば、一般化プラントを内部安定にし、且つL
2ゲインを正定数γ以下にするための制御則u=k(x)を得ることができる。
このとき制御則の一つは、例えば下記式(eq.26)のように与えられる。
このようにして、一般化プラントに非線形H
∞制御理論を適用することにより算出された制御則から、バネ上部材HAの振動を抑制するように計算された制御入力uが得られる。得られた制御入力uが、右輪可変減衰係数c
vRの目標値である右輪要求可変減衰係数c
reqvR、左輪可変減衰係数c
vLの目標値である左輪要求可変減衰係数c
reqvLおよびアクティブスタビライザ力F
stbの目標値である目標アクティブスタビライザ力F
stb*を表す。
ECU30は、上記のようにしてS106にて右輪要求可変減衰係数creqvR,左輪要求可変減衰係数creqvLおよび目標アクティブスタビライザ力Fstb*を求めた後にS108に進み、右輪要求減衰力FreqRおよび左輪要求減衰力FreqLを計算する。右輪要求減衰力FreqRは右輪要求可変減衰係数creqvRと右輪線形減衰係数c0Rとの和に右輪バネ上−路面間相対速度xsR'を乗ずることにより計算される。左輪要求減衰力FreqLは左輪要求可変減衰係数creqvLと左輪線形減衰係数c0Lとの和に左輪バネ上−路面間相対速度xsL'を乗ずることにより計算される。
次いで、ECU30は、S110にて、右前輪要求減衰力Freqfr,左前輪要求減衰力Freqfl,右後輪要求減衰力Freqrr,左後輪要求減衰力Freqrlを計算する。右前輪要求減衰力Freqfrおよび右後輪要求減衰力Freqrrは、右輪要求減衰力FreqRを2で割ることにより計算される。左前輪要求減衰力Freqflおよび左後輪要求減衰力Freqrlは、左輪要求減衰力FreqLを2で割ることにより計算される。
続いて、ECU30は、S112にて、目標アクティブスタビライザ力Fstb*を2で割ることにより、前輪目標アクティブスタビライザ力FstbF*および後輪目標アクティブスタビライザ力FstbR*を計算する。S102〜S112の処理が、本発明の制御力計算手段に相当する。
次に、ECU30は、S114にて、前輪側スタビライザアクチュエータ23Fが前輪目標アクティブスタビライザ力FstbF*を発生するように前輪アクチュエータ目標回転角δf*を計算する。次いで、S116にて、後輪側スタビライザアクチュエータ23Rが後輪目標アクティブスタビライザ力FstbR*を発生するように後輪アクチュエータ目標回転角δr*を計算する。続いて、S118にて、右前輪要求減衰力Freqfr,左前輪要求減衰力Freqfl,右後輪要求減衰力Freqrr,左後輪要求減衰力Freqrl,前輪アクチュエータ目標回転角δf*,後輪アクチュエータ目標回転角δr*に対応する信号を出力する。S114〜S118の処理が、本発明の作動制御手段に相当する。その後S120に進んでこの処理を終了する。
出力された右前輪要求減衰力Freqfrに対応する信号は右前輪サスペンションアクチュエータ132FRに、左前輪要求減衰力Freqflに対応する信号は左前輪サスペンションアクチュエータ132FLに、右後輪要求減衰力Freqrrに対応する信号は右後輪サスペンションアクチュエータ132RRに、左後輪要求減衰力Freqrlに対応する信号は左後輪サスペンションアクチュエータ132RLに、それぞれ入力される。各サスペンションアクチュエータ132は入力された信号に基づいて作動する。具体的には、各サスペンションアクチュエータ132は、各ダンパが対応する要求減衰力を発生するように、あるいは、各ダンパの減衰力特性を表す段数が対応する要求減衰力に最も近い減衰力を発生するような段数となるように作動する。これにより、各ダンパ12の減衰力特性が制御される。
また、出力された前輪アクチュエータ目標回転角δf*に対応する信号は前輪側スタビライザアクチュエータ23Fに、後輪アクチュエータ目標回転角δr*に対応する信号は後輪側スタビライザアクチュエータ23Rに、それぞれ入力される。各スタビライザアクチュエータ23F,23Rは、それぞれの相対回転角が目標回転角δf*,δr*になるように作動する。これにより、各アクティブスタビライザ20F,20Rによるロール剛性の制御が行われる。このようにして、ECU30により、各アクティブスタビライザ20F,20Rおよび各ダンパ12に取り付けられた可変絞り機構(減衰力特性変更装置)13が協調して制御される。
以上のように、本実施形態によれば、車両のバネ上部材HAに上下方向に作用する力Mbxb"とロール方向に作用する力Irθr"がスタビライザ力kstb(-xsR+xsL)+Fstbおよびサスペンション力FsusR,FsusLにより表された車両の2輪モデルを基に設計された一般化プラントに非線形H∞制御理論を適用することにより、スタビライザ力と減衰力により車両の上下振動およびロール振動が抑制されるように、各目標アクティブスタビライザ力FstbF*,FstbR*および各要求減衰力Freqfr,Freqfl,Freqrr,Freqrlが計算される。そして、計算された各目標アクティブスタビライザ力FstbF*,FstbR*および各要求減衰力Freqfr,Freqfl,Freqrr,Freqrlに基づいて、各スタビライザアクチュエータ23F,23Rの作動および各サスペンションアクチュエータ(減衰力特性変更装置)132FR,132FL,132RR,132RLの作動が制御される。
本実施形態によれば、同一の制御理論(非線形H∞制御理論)に基づいて計算された目標アクティブスタビライザ力FstbF*,FstbR*および要求減衰力Freqfr,Freqfl,Freqrr,Freqrlに基づいてスタビライザアクチュエータ23F,23Rの作動およびサスペンションアクチュエータ132FR,132FL,132RR,132RLの作動が制御される。つまり、アクティブスタビライザ20F,20Rと各可変絞り機構13が協調制御される。このため、スタビライザ力と減衰力が協調して車両の振動を抑制する。こうした協調制御により、アクティブスタビライザ20F,20Rの作動によるロール振動の抑制制御(スタビライザ制御)と可変絞り機構13(減衰力特性変更装置)の作動による振動の抑制制御(ダンパ制御)との重複が防止される。制御の重複の防止により、車両の振動の抑制制御に要するエネルギーの効率化を図ることができ、且つ車両の振動を効果的に抑制することができる。
図9は、本実施形態における車両(制御対象)と制御装置(ECU30)との関係を、制御入力、外乱(路面入力信号)、出力、状態量により表したブロック線図である。また、図10は、従来技術における車両(制御対象)と制御装置(サスペンションECUおよびスタビライザECU)との関係を、制御入力、外乱(路面入力信号)、出力、状態量により表したブロック線図である。図9からわかるように、本実施形態においては、一つの制御理論(非線形H∞制御理論)に基づいてダンパ制御入力とスタビライザ制御入力の双方が求められる。すなわち、一つの制御理論に基づいてアクティブスタビライザと減衰力特性変更装置(可変絞り機構13)の双方が作動制御される。これに対し、従来においては、図10からわかるように、ダンパ制御入力とスタビライザ制御入力が、それぞれ異なる制御理論(例えば非線形H∞制御理論とスカイフック制御理論)に基づいて別々に求められる。すなわち、本実施形態によれば、共通の制御理論に従ってスタビライザ制御とダンパ制御が実行されるので、従来のようにスタビライザ制御についての制御理論とダンパ制御についての制御理論を別々に設計する必要がない。このため制御系の設計工数の短縮が期待される。さらに、本実施形態によれば、一つのECU30によりスタビライザ制御とダンパ制御の双方を行うことができるので、ECUの個数が節約でき、コスト的にも有利である。
また、本実施形態によれば、図6の一般化プラントや図9のブロック線図に示されるように、ダンパ制御入力u1にダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)が作用し、スタビライザ制御入力u2にスタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)が作用している。ダンパ制御入力用周波数重みWu1(s)は図7のゲイン線図に示されるように高周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持ち、スタビライザ制御入力用周波数重みWu2(s)は図8のゲイン線図に示されるように低周波数であるほどゲインが大きい周波数特性を持つ。つまり、周波数が高周波数である場合にはダンパ制御入力u1に作用するゲインがスタビライザ制御入力u2に作用するゲインよりも大きく、周波数が低周波数である場合にはスタビライザ制御入力u2に作用するゲインがダンパ制御入力u1に作用するゲインよりも大きい。
したがって、ダンパ制御入力u1は高周波数であるほど制御量が大きくなる。すなわち、高周波数の振動は、主にダンパ制御により抑制される。また、スタビライザ制御入力u2は低周波数であるほど制御量が大きくなる。すなわち、低周波数のロール振動は主にスタビライザ制御により抑制される。また、中周波数のロール振動は、ダンパ制御およびスタビライザ制御の双方によりなされる。なお、アクティブスタビライザはロール方向の振動や傾きのみ制御することができ、上下方向あるいはピッチ方向の振動や傾きを制御することはできない。
表1は、振動周波数が低周波数(例えば0.5〜3Hz)、中周波数(例えば3〜8Hz)、または高周波数(例えば8〜15Hz)である場合に、本実施形態においてダンパ制御とスタビライザ制御のどちらが主として振動抑制を行うかについて示した表である。
表1からわかるように、ヒーブ(上下)方向の振動に関しては、いずれの周波数の振動もダンパ制御により抑制される。また、ロール方向の振動に関し、低周波数振動がスタビライザ制御により、高周波数振動がダンパ制御により、中周波数振動がスタビライザ制御とダンパ制御の双方により、抑制される。
また、表2は、スタビライザ制御とダンパ制御の欠点および利点を、振動周波数が低周波数である場合と高周波数である場合とに分けて示した表である。
表2において、○により示された項目が、対応する制御の利点であり、×により示された項目が、対応する制御の欠点である。
表2からわかるように、ダンパ制御は、振動周波数が低周波数であるときに制御性能が低下するという欠点を持つ。図11は、ダンパの減衰力特性の可変範囲を示すグラフである。図において横軸がバネ上−路面間相対速度Vすなわちストローク速度、縦軸が減衰力Fである。ダンパの減衰力は図の斜線で示される領域内で変動可能である。図からわかるように、速度Vが小さい範囲、例えば矢印で示された低ストローク速度範囲(すなわち振動周波数が低い範囲)であるときには、減衰力の可変幅が小さい。したがって、ダンパ制御では低周波数の振動を十分に抑制するだけの減衰力を発揮することができないおそれがある。
一方、スタビライザ制御によれば、アクチュエータの作動により積極的にロール方向の振動を抑制する力(アクティブな力)を発揮することができるためにスタビライザ力の可変幅は大きい。したがって、スタビライザ制御は、ロール方向の振動周波数が低い場合においても十分に振動を抑制するだけのスタビライザ力を発揮することができるという利点を持つ。本実施形態においては振動周波数が低い場合にはスタビライザ制御の利点を生かし、主にスタビライザ制御によりロール方向の振動が抑制されるので、ロール方向の低周波振動の抑制効果が高まる。
また、振動の周波数が高い場合はその高い周波数に応じた素早い制御応答性が求められる。ところが、アクティブスタビライザのアクチュエータは上述のように電動モータおよび減速器により構成される大掛かりな装置であるので制御応答性が悪い。また、アクチュエータを作動させるときのエネルギー消費が多い。したがって、振動周波数が高周波数であるときは、スタビライザ制御は、高周波振動に追従するだけの制御応答性を持ち得ず、且つエネルギー消費量も多くなるという欠点を持つ。
一方、可変絞り機構13のサスペンションアクチュエータ132は、例えば上述のようにステッピングモータにより構成されるために制御応答性は高く、また作動時のエネルギー消費量も少ない。したがって、ダンパ制御は高周波数振動に追従する制御応答性を持ち、且つエネルギー消費量も少ないという利点を持つ。本実施形態においては振動周波数が高い場合にはダンパ制御の利点を生かし、主にダンパ制御によりロール方向の振動を抑制することで、ロール方向の高周波振動の抑制効果が高められるとともにエネルギー消費量も抑えられる。
このように本実施形態によれば、低周波数のロール振動がスタビライザ制御により、高周波数の振動がダンパ制御により抑制されるので、それぞれの制御の利点を生かした振動抑制制御がなされる。このため、エネルギー消費が抑えられ、且つ高いレベルでの乗り心地性能が実現される。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、車両モデルとして2輪モデルを用い、この2輪モデルを基に設計される一般化プラントに非線形H
∞制御理論を適用して、右輪要求減衰力F
reqR,左輪要求減衰力F
reqL,目標アクティブスタビライザ力F
stb*を計算し、計算したこれらの力を等分することにより、右輪要求減衰力F
reqRを右前輪要求減衰力F
reqfrおよび右後輪要求減衰力F
reqrrに、左輪要求減衰力F
reqLを左前輪要求減衰力F
reqflおよび左後輪要求減衰力F
reqrlに、目標アクティブスタビライザ力F
stb*を前輪目標アクティブスタビライザ力F
stbF*および後輪目標アクティブスタビライザ力F
stbR*に、それぞれ分配している。しかし、これでは車両のピッチ方向の振動を抑制することができない。この場合、例えばピッチ角加速度θ
p"に応じた配分比率により、右輪要求減衰力F
reqR,左輪要求減衰力F
reqL,目標アクティブスタビライザ力F
stb*を前後の力に分配すればよい。あるいは、2輪モデルを車両の前後に分けて考え、前方のバネ上部材についての2輪モデルを基に設計した一般化プラントに非線形H
∞制御理論を適用することにより右前輪要求減衰力F
reqfr,左前輪要求減衰力F
reqflおよび前輪目標アクティブスタビライザ力F
stbF*を求め、後方のバネ上部材についての2輪モデルを基に設計した一般化プラントに非線形H
∞制御理論を適用することにより右後輪要求減衰力F
reqrr,左後輪要求減衰力F
reqrlおよび後輪目標アクティブスタビライザ力F
stbR*を求めるようにしてもよい。また、車両に上下方向に作用する力とロール方向に作用する力とピッチ方向に作用する力をスタビライザ力およびサスペンション力により表した車両の4輪モデルを用い、この4輪モデルから得られる運動方程式(ヒーブ運動方程式、ロール運動方程式およびピッチ運動方程式)の状態空間表現を基に設計された一般化プラントに非線形H
∞制御理論を適用することにより、前後左右の各輪の要求減衰力および前後の各目標アクティブスタビライザ力を直接求めるようにしてもよい。なお、表3は、上述のようにしてピッチ方向の振動を抑制する制御を加えた場合に、各方向の振動が主としてダンパ制御により抑制されるかスタビライザ制御により抑制されるかを示した表である。
また、上記実施形態においては、車両の前後にアクティブスタビライザが搭載された車両を例にとって説明したが、前輪側または後輪側のいずれか一方にアクティブスタビライザが搭載された車両にも本発明を適用することができる。また、前輪側または後輪側のいずれか一方にアクティブスタビライザを、他方に通常の(コンベンショナルな)スタビライザを搭載した車両にも本発明を適用することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変更可能である。