JP2011016777A - 新規システイン誘導体 - Google Patents

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直樹 梅田
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Makoto Sato
佐藤  誠
Michifumi Araki
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Abstract

【課題】安全性および安定性に優れたアミノ酸輸液製剤を提供するため、システインおよびビタミンB1のプロドラッグとして有用な新規なシステイン誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸チアミンジスルフィドとシステインとを混合することにより製造される、下記の新規なシステイン誘導体。
Figure 2011016777

【選択図】なし

Description

本発明は、新規なシステイン誘導体に関する。より詳細には、システインのプロドラッグとして有用な新規なシステイン誘導体に関する。
経静脈投与などにより使用されるアミノ酸輸液は、各種の必須アミノ酸および非必須アミノ酸を含み、経口的に栄養源を摂取することが不可能または困難である患者に投与されている。このようなアミノ酸輸液は、一般に不安定であることが知られている。特に、L−システインは、その含量低下の程度が著しく、難溶性析出物や硫化水素発生の原因となっている。
そのため、システインなどを配合したアミノ酸製剤の調製においては、製剤中に安定化剤として亜硫酸塩や重亜硫酸塩を添加して、システインからシスチンへの酸化を防止する手段が一般に採用されてきた。亜硫酸塩などは、抗酸化性物質として、通常、食品やワインなどの飲物、医薬品などにその添加が認められている。しかし、近年、喘息患者やアトピー性非喘息患者などの一部の感受性の高い患者について、上記アミノ酸輸液中の亜硫酸塩および重亜硫酸塩による気管支痙攣やアナフィラキシーショックなどの副作用が報告されおり、このような副作用を伴うおそれのある安定化剤の使用回避が所望される。
そこで、銅の含量を特定値以下に低下させることにより、亜硫酸塩を含まずに、アミノ酸輸液の実用時のアミノ酸の分解、およびそれに伴うシステイン含量低下などの欠点を解消したアミノ酸輸液製剤が開発されている(特許文献1)。
上記アミノ酸輸液は、ビタミン製剤と混合して投与されることも多い。中でも、特にビタミンB1であるチアミンは、安定性の確保が難しいことが知られている。一般にビタミン類の安定性は、pH、光、熱、水分などの保存環境にも影響され、さらに、各種添加剤や異種ビタミンなどの共存成分によってもシステインの含量低下を引き起こす。例えば、上記のアミノ酸輸液中に亜硫酸イオンが共存すれば、ビタミン製剤中のチアミンは分解する。
したがって、チアミンを含むビタミン製剤とアミノ酸輸液との混注は、チアミンおよびシステインの安定性の点で問題がある。例えば、特許文献2に開示される還元糖、アミノ酸および電解質を含有する輸液製剤においては、還元糖液とアミノ酸液をそれぞれ分別して収容し、用時に混合するが、ビタミンB1を配合する場合には、ビタミンB1は還元糖液に配合され、還元糖液のpHを3〜5.0の範囲に調整し、そして亜硫酸塩を添加しないようにする必要がある。
特許文献3には、亜硫酸およびこの塩を含有せず、かつ抗酸化剤としてシステインおよびその塩を配合し、加熱滅菌処理された、ビタミンB1類配合輸液剤が開示されている。この製剤は、加熱滅菌処理をしてもビタミンB1類の安定性を長期にわたって保持することができる。しかし、システインは、抗酸化剤として作用するため、分解されていることが予想される。
ところで、チアミンは不安定であるため、ビタミンB1類として2分子のチアミンが結合したチアミンジスルフィドの形態で提供されることもある。しかし、チアミンジスルフィドとL−システインとの共存下では、pHに依存して、チアミンとL−システインとがS−S結合したチアミン−システインジスルフィドが可逆的に生じることが知られている(非特許文献1および2)。また、肝疾患用およびアレルギー用のグリチルリチン注射剤には、システインが含まれており、この注射液とビタミン製剤とを配合することにより、注射剤中のシステイン含量が短時間で大きく低下することも知られている(非特許文献3)。
このように、チアミン類とシステインとを同時に安定に含有する製剤の提供は困難である。
特開平9−20656号公報 特開2004−189677号公報 特開2005−179200号公報
T. Matsukawaら、Science, 1953年, 118巻, 109-111頁 H. Nogamiら、Chem. Pharm. Bull., 1968年, 16巻, 1273-1284頁 武田ら、第125年回 日本薬学会要旨集2, 2005年, 196頁, 29-1044 W88-3
本発明は、システインのプロドラッグとして有用な新規なシステイン誘導体を提供することを目的とする。
本発明は、以下の式I:
Figure 2011016777
で表されるシステイン誘導体を提供する。
本発明はまた、リン酸チアミンジスルフィドとシステインとを混合する工程を含む、上記のシステイン誘導体の製造方法を提供する。
本発明のシステイン誘導体は、これを含む製剤中で酸化によりシスチンが生成することなく、一方、体内では速やかにシステインとリン酸チアミンとに分解される。
本発明のシステイン誘導体(I)のマススペクトル図である。
本発明のシステイン誘導体は、以下の式I:
Figure 2011016777
で表される構造を有する。
本発明のシステイン誘導体は、リン酸チアミンジスルフィド(ビオチニンともいう)とシステインとを混合する工程により製造することができる。この反応を、以下の反応式に示す。
Figure 2011016777
上記反応において、システインは、好適にはL−システインが用いられる。L−システインは、例えば、塩酸塩が用いられ得る。また、リン酸チアミンジスルフィドおよびシステインはいずれも水に可溶であるため、水溶液中で混合することが好ましい。反応時間は、特に限定されず、反応は迅速に進行する。例えば、30秒間〜120分間、より好ましくは5分間〜60分間であり得る。また、反応温度は、通常、室温であり得る。反応におけるpHは、好ましくは中性付近であり、より好ましくは6.8〜7.5である。さらに、上記反応は、極微量の亜硫酸塩、重亜硫酸塩などの存在下で行うことが好ましい。
本発明のシステイン誘導体は、非特許文献1に記載される以下の式IIで示すフリー体:
Figure 2011016777
よりも、安定性に優れている。なお、このフリー体は、非特許文献1の化合物IVに該当する。
また、上記のフリー体(II)は、意外にも、チアミンジスルフィドとシステインとを反応させても、容易には生成しない、あるいは不安定であるため、フリー体(II)が生成しても直ちにチアミンジスルフィドとシステインとに分解する。したがって、本発明のシステイン誘導体は、上記のフリー体(II)を出発物質として用いて製造することは困難である。
本発明のシステイン誘導体は、好適には、液剤の形態で提供される。液剤としては、例えば、輸液剤が挙げられる。輸液剤には、通常の輸液剤と同様に、必要に応じて、各種の必須および非必須アミノ酸、糖類、電解質、ビタミン、脂肪、微量元素などが含まれていてもよく、またpH調整などのための無機酸、無機塩基、有機酸、それらの塩などがさらに含まれてもよい。
アミノ酸としては、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−リジン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−システイン、L−チロジン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−アラニン、L−プロリン、L−セリン、グリシン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸などが挙げられる。これらのアミノ酸は、通常、遊離アミノ酸であるが、種々の塩、例えば、ナトリウムやカリウムなどの金属との塩、酢酸やリンゴ酸などの有機酸との塩、塩酸や硫酸などの鉱酸との塩などであってもよく、あるいはペプチドであってもよい。
糖類としては、通常ブドウ糖が用いられ、必要に応じて他の糖類と配合して使用できる。糖類としては、フルクトースなどの単糖類、マルトースなどの二糖類やグリセロールまたは糖アルコールなどの多価アルコールでもよい。糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどが挙げられる。
電解質としては、一般の電解質輸液などに用いられる化合物と同様ものを使用でき、生体に必須の電解質であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル、ヨード、リン、亜鉛、鉄、銅、マンガンなどの無機成分の水溶性塩が挙げられる。具体的には、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、グルコン酸鉄、硫酸銅、硫酸マンガンなどが使用でき、これらは水和物であってもよい。
また、pH調節剤としては、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物や、アジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などが挙げられる。
輸液剤の容器への充填および収容は、当業者が通常行う方法によって行うことができ、例えば、輸液剤を不活性ガス雰囲気下で充填し、施栓し、加熱滅菌する方法が挙げられる。加熱滅菌方法は、高圧蒸気滅菌、熱水滅菌、熱水シャワー滅菌などの公知の方法で行われ得る。容器中の液量は100〜500mLとするのがよい。溶媒としては、通常、注射用蒸留水が用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:システイン誘導体の製造
ビタメジン(登録商標)静注用(第一三共株式会社製)1バイアル(107.13mgのリン酸チアミンジスルフィドを含む)に、ヒシファーゲン(登録商標)C注(ニプロファーマ株式会社製)1アンプル(20mL中に20mgのL−システイン塩酸塩を含む)を加え、振とう撹拌して溶液を得た。
得られた混合溶液を混合直後、30分後、および1時間後にサンプリングした。なお、混合前のヒシファーゲンCはそのまま、そしてビタメジンは1バイアルに0.1%(v/v)ギ酸水溶液20mLを加えて溶解したものをサンプリングした。サンプリングした試料は、0.1%(v/v)ギ酸水溶液で500倍希釈してLC/MS用試料とし、直ちにLC/MSにて分析を行った。LC/MSの分析条件は、以下のとおりである。
LC(液体クロマトグラフィー)条件:
装置:Acquity UPLC(登録商標)、MassLynxTM 4.1ソフトウェア(いずれもWaters製)
・試料温度:5℃
・注入量(注入方法):5μL(ニードルオーバーフィルモード)
・洗浄溶媒:0.1%ギ酸(水/メタノール/イソプロパノール/アセトニトリル=1/1/1/1(v/v/v/v))
・カラム:Acquity UPLCTM HSS T3 1.8μm (2.1×50mm)
・カラム温度:35℃
・移動相A:0.1%(v/v)ギ酸水溶液
・移動相B:アセトニトリル
・流速:0.3mL/分
・グラジエントプログラム:
0〜1分:A98%/B2%
1〜5分:A98%/B2%→A50%/B50%
5〜7分:A50%/B50%→A98%/B2%
MS(マスクロマトグラフィー)条件:
装置:LCT PremierTM XE(Waters製)
・イオン化モード:ESIポジティブ/ネガティブ(DREオン)
・キャピラリー電圧:±3.0kV
・脱溶媒ガス:800L/時間(350℃)
・コーンガス:50L/時間
・イオン源ヒーター:120℃
・コーン電圧:±30V
・スペクトル範囲:m/z100〜1000
・サンプリングレート:0.3秒/ポイント
・質量補正標準品:ロイシンエンケファリン
混合溶液中の各成分の検出強度の変化を以下の表1に示す。強度の確認は、測定データから各成分のプリカーサイオン(すなわち、親イオン)によってマスクロマトグラムを抽出し、確認できた成分由来のピーク面積を測定することによって行った。
Figure 2011016777
式Iで表されるシステイン誘導体は、混合直後に非常に多く検出されたが、その後、ほぼ一定の値を維持した。したがって、式Iで表されるシステイン誘導体は、リン酸チアミンジスルフィドとシステインとの混合により生成し、安定に存在することがわかった。また、副生成物としてチアミンも生じることがわかった。
式Iで表されるシステイン誘導体の構造を、マススペクトルにて確認した(図1)。また、マススペクトルに基づく元素分析結果は、[M+H]:計算値 C1525PS 482.0933;実測値 482.0931であった。
なお、リン酸チアミンジスルフィドとシステインとから、以下の反応式により、リン酸チアミン(III)が生じることも予測された。
Figure 2011016777
しかし、プリカーサイオンによる検出では、混合前のビタメジン、混合後0.0時間および0.5時間に微小なピークを確認したにすぎず、その後は全く検出されなかった。したがって、リン酸チアミンジスルフィドとシステインとからは、リン酸チアミン(III)が生成されないことを確認した。
本発明のシステイン誘導体は、これを含む製剤中で酸化によりシスチンを生成することがなく、一方、体内では、速やかにシステインとリン酸チアミンとに分解される。したがって、製剤中に、亜硫酸塩を添加することなく、システインおよびビタミンB1のプロドラッグとして提供できる。したがって、亜硫酸塩などによる副作用の恐れがなく、安全性に優れる。また、本発明のシステイン誘導体は、還元剤としても利用可能である。

Claims (2)

  1. 以下の式I:
    Figure 2011016777
    で表されるシステイン誘導体。
  2. リン酸チアミンジスルフィドとシステインとを混合する工程を含む、請求項1に記載のシステイン誘導体の製造方法。
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