JP2011016703A - 単結晶基板、nH−炭化ケイ素基板、および単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法、ならびに単結晶4H−炭化ケイ素基板、半導体装置 - Google Patents

単結晶基板、nH−炭化ケイ素基板、および単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法、ならびに単結晶4H−炭化ケイ素基板、半導体装置 Download PDF

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Abstract

【課題】単結晶表面に下り方向段差と上り方向段差からなる複合ステップテラス構造を有する単結晶基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、平坦な第1のテラスと、下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、前記第1の段差よりも高さの小さい上り方向の第2の段差からなる複合ステップテラス構造を有する単結晶基板の製造方法であって、単結晶基板に対してエッチングを行なうことで自己組織的に複合ステップテラス構造を有する単結晶基板の製造方法である。
【選択図】図5

Description

本発明は、半導体装置の製造やナノテクノロジーに利用可能な複合ステップテラス構造を有する単結晶基板、nH−炭化ケイ素基板、および単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法に関する。
単結晶表面に対して適切な条件で結晶成長やエッチングを行なうと、図1に示すようなステップテラス構造と呼ばれる、平坦なテラス1と原子レベルの高さを持つ段差(ステップ)2が交互に現れた構造が得られることが広く知られている。この構造は矢印3で示された単位構造の繰り返しとなっている。平坦なテラスは、エネルギー的に安定な結晶面に対応し、段差は、その結晶を構成する原子もしくは分子面間隔に相当する高さを持つ。このステップテラス構造を有する単結晶基板は、高い性能や高度な機能を有する半導体装置を作製するための基板として、また、微細構造をナノメートルサイズで配列することで新規な物性や高い機能性を発現させる、いわゆる、ナノテクノロジーにおける配列のひな型として極めて幅広く利用されている。
ステップテラス構造に関しては、数十年におよぶ基礎研究が行われており、さまざまな現象が報告されている。例えば、ステップの蛇行現象や、複数のステップが集結して大きな高さの段差を形成するステップバンチング現象などである。しかし、どのような場合であっても、ある部分に着目すれば、下り方向、もしくは、見る方向を変えれば上り方向の、どちらか一方のみの段差だけが連続している構造であり、決して下り方向と上り方向の段差が交互に現れることはない。それは、下り方向段差と上り方向段差が隣り合っている構造は、結晶成長、エッチング、どちらの工程に対しても不安定だからである。つまり、上りと下りの段差は、結晶成長中であっても、エッチング中であっても、それぞれは反対方向に移動し、互いに衝突して打ち消し合うからである。この現象の効果により、表面に凹凸がある、すなわち、上り段差と下り段差が乱雑に入り交じった結晶表面であっても、結晶成長もしくはエッチングを長時間行なうことで、隣接する上り、下りステップは打ち消しあい、最終的にはどちらかの一方の段差のみが並んだきれいなステップテラス構造が得られるとも言うことができる。
ところが、一方で、ステップテラス構造の半導体装置やナノテクノロジーへの応用を考えると、高さの異なる下り方向の段差と上り方向の段差が交互に現れた、図2のような複合ステップテラス構造とも呼ぶべき構造があれば、従来のステップテラス構造に比べて、その複合的な形状を利用して、より高度な微細構造の配列制御や、高性能な半導体装置への応用展開が期待できる。例えば、高さの大きな段差に吸着しやすい構造と、高さの低い段差に吸着しやすい構造を両端に持った直線状分子を供給すれば、二つの段差を結ぶように直線状分子を配列させることができる。他にも、この複合ステップテラス構造を持つ基板上に、ステップ端からの優先的な結晶成長、いわゆるステップフロー成長を施せば、量子細線や分数層超格子などを形成することができる。
図2に示す複合ステップテラス構造は、平坦な第1のテラス21と、高さの大きな下り方向の第1の段差22と、平坦な第2のテラス23と、高さの小さな上り方向の第2の段差24からなる。この構造は、二つのテラスと、上り、下り方向の二つの段差からなる、矢印25に示された単位構造の繰り返しからなる。通常のステップテラス構造が、単に下り方向の段差のみからなるのに対して、このステップテラス構造は、上り下り方向の段差の複合であることから、ここでは複合ステップテラス構造と呼んでいる。
しかし、前述のように、このような複合ステップテラス構造は、結晶成長やエッチングに対しては不安定であるので、作製は容易ではない。このような構造を作製するためには、精密に制御された結晶成長やエッチングの複数工程の組み合わせが必要となる。その高度な手法として、特許文献1にその工程が開示されている。その手順はおおよそ以下の通りである。半導体結晶基板に対して結晶成長やエッチングにより通常のステップテラス構造を形成する。次に、異種物質(具体的には金属)をステップ端から優先的に横方向成長する条件下で、テラスの一部しか覆わないような短時間に限って成長する。しかる後に、上記異種物質をマスクとして、半導体結晶をこの表面に選択成長する。最後に、この別の物質のみを化学エッチングにより選択的に除去することで、下り段差と上り段差が交互に現れる複合ステップテラス構造を作製する方法が開示されている。この方法は、工程数も多く、かつ、それぞれの工程を厳密に制御する必要があり、再現性、歩留まり、製造コストの点で不利である。また、異種物質(金属)を使用することによる不純物や、異種物質除去時の化学エッチングによる悪影響なども懸念される。また、段差の高さは、選択成長の膜厚により決まるので、基板面内の膜厚の分布や再現性の点でも注意が必要となる。さらには、そもそも、その半導体結晶上に金属の横方向成長が可能でない場合や、金属をマスクとした半導体結晶の選択成長が可能でない場合も数多く存在し、これらの半導体結晶上には、上記の方法は適用できない。
通常のステップテラス構造を形成した後に、電子ビームリソグラフィーと反応性イオンエッチングや原子層エッチングなどの高精度なエッチング手法を利用して、ステップ近傍のみをエッチングする方法も考えられる。しかし、この場合、基板表面のステップテラス構造に完全に位置合わせを行ない、電子ビームリソグラフィーを行なうことは、不可能ではないが非常に困難である。また、電子ビームリソグラフィー自体、非常にコストのかかる方法であり、大面積の加工には利用できない。リソグラフィーにより、ステップに近接してレジスト開口部を得られたとしても、エッチングが問題となる。レジストが耐えうる条件で原子層エッチングが利用可能な材料であれば、1原子層単位でエッチングが可能であるが、そうでなければ、原子層レベルで高さを制御した段差の複合ステップテラス構造を得るのは難しい。反応性エッチングを利用する場合、エッチングされた表面にダメージが残るという問題もある。
特開平7−33600号公報
もし、複合ステップテラス構造が結晶成長やエッチングなどの単純な工程で自動的に、いわゆる自己組織的に形成される方法が発明されれば、簡便、低コスト、短時間で、さらに、不純物の懸念もなく複合ステップテラス構造が得られ、極めて大きな意義がある。しかし、上述のように、原理的に、結晶成長やエッチングに対して、複合ステップテラス構造は不安定である。本発明は、結晶が持つ結晶学的な特徴を活用し、さらに、複数の物理現象の協調によりこの原理的な困難を克服し、複合ステップテラス構造をもつ単結晶基板を簡便な方法により製造方法を提供することにある。
本発明は、単結晶基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、単結晶の格子定数をN倍(Nは自然数)したものに格子定数のM倍(Mは実数で、0<M<1)したものを加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、格子定数をM倍した高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶基板の製造方法であって、単結晶基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とする単結晶基板の製造方法に関する。
上記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成することが好ましい。
また、本発明は、nH−炭化ケイ素基板(nは4もしくは6)であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、nH−炭化ケイ素のc軸格子定数のN倍(Nは自然数)にc軸格子定数のn分のm倍(mはn未満の自然数)を加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数のn分のmの高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有するnH−炭化ケイ素基板の製造方法であって、nH−炭化ケイ素基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とするnH−炭化ケイ素基板の製造方法に関する。
上記第2のテラスの幅が300nm以下であることが好ましく、また、上記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成することが好ましい。
上記エッチングが、水素を含む圧力200Pa〜20kPaのガス中における1200℃〜1700℃の温度でのガスエッチングであることが好ましい。
さらに本発明は、単結晶4H−炭化ケイ素基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、4H−炭化ケイ素のc軸格子定数の5/4倍の高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数の1/4倍の高さの上り方向の第2の段差と、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法であって、単結晶4H−炭化ケイ素基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とする単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法に関する。
上記第2のテラスの幅が300nm以下であることが好ましく、また、上記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成することが好ましい。
上記エッチングが、水素を含む圧力200Pa〜20kPaのガス中における1200℃〜1700℃の温度でのガスエッチングであることが好ましい。
また、本発明は、単結晶4H−炭化ケイ素基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、4H−炭化ケイ素のc軸格子定数の5/4倍の高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数の1/4倍の高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の20周期以上の繰り返しを有する単結晶4H−炭化ケイ素基板に関する。
さらに、本発明は、上記単結晶4H−炭化ケイ素基板上に作製された半導体層を含む半導体装置に関する。
本発明によれば、単結晶表面に下り方向段差と上り方向段差からなる複合ステップテラス構造を有する単結晶基板のより簡便な製造方法を提供することができる。
単純なステップテラス構造を示す概念図である。 複合ステップテラス構造を示す概念図である。 表面マストランスポート現象と、上り下り段差間の反発相互作用により、テラス幅が自動的に保たれながら、エッチング中に上り下り段差が同一方向に同一速度で進行する状態を示す模式図である。 (a)は通常のスパイラルエッチピットの中心部分を立体的に示した模式図、(b)〜(g)はスパイラルエッチングに加えて、スパイラルエッチングのステップの一部分に追加のエッチングが生じた場合、エッチングの進行と共にステップがどのように変化するか順を追って示した模式図であり、(g)はエッチングにより最終的に上下複合ステップが永続的に形成されることを示す模式図である。 (a)は4H−炭化ケイ素単結晶(0001)基板上に形成された複合ステップテラス構造の10μm×10μm四方の原子間力顕微鏡像であり、(b)は図5(a)のA−A’に沿った断面プロファイルである。 複合ステップテラス構造の永続的供給源となっている、4H−炭化ケイ素単結晶(0001)基板上にエッチングにより形成されたスパイラルエッチピットの原子間力顕微鏡像である。 (a)は図6(a)の中心部を5.47倍に拡大した図であり、(b)は図7(a)におけるC−C’に沿った断面プロファイルであり、(c)は図7(a)におけるD−D’の断面プロファイルである。 (a)は図7(a)の中心部を5倍に拡大した図であり、(b)は図8(a)のステップの様子を示す模式図である。 (a)は複合ステップテラス構造の供給源となり得ない、4H−炭化ケイ素単結晶(0001)基板上にエッチングにより形成されたスパイラルエッチピットの原子間力顕微鏡像であり、(b)は図9(a)を5倍に拡大した図である。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
本発明は、単結晶基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、単結晶の格子定数をN倍(Nは自然数)したものに単結晶の格子定数のM倍(Mは実数で、0<M<1)したものを加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、単結晶の格子定数の上記単結晶の格子定数の上記M倍した高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶基板の製造方法であって、エッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を表面に形成することを特徴とする製造方法である。
エッチングは、原子レベルで見れば、ただちに結晶表面から原子が除去されるのではなく、結晶の段差部分から原子が離れ、テラス表面をある程度移動した後に、テラス表面から離脱し、除去されるという素過程により進行する。ここで、一般に、エッチングの条件、すなわち、圧力、温度、雰囲気などを材料に応じて適切に設定することで、テラス表面での移動距離を長引かせることが可能である。
本発明の複合ステップテラスは、下り方向の第1の段差の高さ、すなわち格子定数の(N+M)倍が、それと隣接する上り方向の第2の段差の高さ、すなわち格子定数のM倍、より大きいことが特徴である。
図3に示すように、エッチングを微視的に見ると、まず、高さの大きな段差22から離れた原子が、上記第2のテラス上に放出される過程31がある。そして、その原子は、テラス上を移動32し、最終的にはテラスから脱離33し、除去される。もしここで、第2のテラス幅よりも、テラス表面での原子の移動距離が長いようなエッチング条件が設定されていれば、段差22から放出された原子の一部は、反対側の段差24に到達し、再び段差に取り込まれる過程34が起こりうる。すなわち、全体として見れば、結晶から原子が取り去られているエッチング工程であるが、微視的に見れば、局所的なエッチングと局所的な結晶成長が起こっている状況にすることができる。
表面上で、このように物質が運ばれる現象は、一般に、表面物質輸送(マストランスポート)現象と呼ばれる。本発明と比べると巨大な構造であるが、数百nm〜数十μmの幅・高さを持つ急峻な凸凹構造(トレンチ構造)を表面に形成した基板に、高温熱処理を行なうことで、凸の部分から凹の部分へと前述の原理により原子が輸送され、なめらかな凹凸を持つ構造が得られるなどの現象で知られており、産業的にも一部利用されている。
さて、表面物質輸送現象が、複合ステップテラス構造を持つ表面で起こった場合を考える。図3の第1の段差22は高さが大きいので、段差からの原子の放出が、再結晶化を上回り、こちらの段差はエッチングされる。一方、それに対向する第2の段差24は高さが小さいので、むしろエッチングよりも、第1の段差から放出された原子の一部がテラスを移動して到達し、結晶として取り込まれる可能性が高くなり、結晶成長を優位とすることができる。この状態では、図3に示すように、上り、下り方向の2つの段差は同一の方向35,方向36に進行し、単純な結晶成長やエッチングのように反対方向に進行して打ち消し合わないようになる。しかしながら、同一方向に進行する二つの段差の速度が完全に一致することはあり得ず、二つの段差の距離は時間と共に、増える、もしくは、減ってしまい、結局、この複合ステップテラス構造は解消され、通常のステップテラス構造となってしまう。つまり、エッチング条件を表面物質輸送現象が顕著な条件に設定したとしても、複合ステップテラス構造は安定にはなり得ない。この困難を克服するには、二つの段差の速度を一致させる別の物理的機構が必要となる。
ところで、結晶によりその程度は異なるものの、隣り合う下り段差と上り段差の間には、必ず相互作用が存在する。結晶の種類と面方位を適切に選ぶと、大きな高さの下り段差と、小さな高さの上り段差の間に反発相互作用が存在するようにすることができる。この場合、下りステップに上りステップが徐々に追いついてきたとしても、第2のテラス幅、すなわち、上り、下り二つの段差間の距離が小さくなると、反発相互作用の効果で、系のエネルギーが増大し、上り段差での結晶の取り込み(再結晶化)が減速、もしくは下り段差でのエッチングが増速される。表面マストランスポート現象と、この段差間の反発相互作用が釣り合うことで、第2のテラス幅がある一定値に自動調整される作用が生じる。
この複合現象により、エッチングの揺らぎや表面の傷など何らかの理由により、高さの異なる上り、下りステップが隣接して形成されると、自動的(自己組織的)に一定間隔で両者が並び、それ以降は、長時間エッチングを行なっても一定間隔を保つこととなる。この原理により、エッチング時間を制御することなく、容易に複合ステップテラス構造を得ることが可能になる。
ただし、この条件を満足できる結晶は、任意の結晶ではなく、その構造に関して制限がある。下り段差と上り段差の高さの違いがこの現象が起こる必須条件である。従って、複合ステップテラス構造を形成したい表面に対応する格子定数が、複数の原子もしくは分子の層からなる結晶であることが必要である。このような条件を満たす結晶としては、大きな格子定数(多数の層からなる単位構造)を持つ結晶として、高温超伝導物質として知られるYBa2Cu37(YBCO)などの酸化物や、ポリタイプ現象として多数の長周期結晶構造が知られる、4H,6H,15Rなどの炭化ケイ素(SiC)などが挙げられる。
具体的に炭化ケイ素の場合を述べると、4H−炭化ケイ素,6H−炭化ケイ素のそれぞれのc軸格子定数は、1.0nm、1.5nmであり、それぞれ炭素−ケイ素からなるバイレイヤーの4層、6層分がc軸格子定数に相当する。例えば、4H−炭化ケイ素であれば、下り段差が、格子定数×(1+0.25)(バイレイヤーの層数で言えば、(4+1)層)、上り段差が格子定数×0.25(バイレイヤーで言えば1層)などの場合で、上記の条件が満たされる。他に、4+2層と2層、4+3層と3層、8+1層と1層などの複合ステップテラス構造もあり得る。
同様に、6H−炭化ケイ素であれば、下り段差が、6+1層、上り段差が1層、下り段差が6+3層、上り段差が3層などが考えられる。さらに同様に、15R−炭化ケイ素であれば、下り段差が15+1層、上り段差が1層などが考えられる。他のポリタイプの炭化ケイ素についても、同様の考え方でさまざまな組み合わせが存在する。
これを炭化ケイ素に限らず、単結晶について、一般化して表せば、自然数Nと、0<M<1の実数Mを用いて、下り方向段差の高さが、{単結晶の格子定数×(N+M)}、上り方向の段差の高さが、(単結晶の格子定数×M)と表現できる。
上り方向の段差として、最も単純で、従って生成しやすい複合ステップテラス構造は、その結晶がp層(pは2以上の自然数)の積層構造からなっている場合は、N=1,M=1/pとなる場合である。すなわち、これが4H−炭化ケイ素(この場合p=4)の、4+1層(1.25nm)、1層(0.25nm)に相当する。6H−炭化ケイ素(この場合p=6)の、6+1層(1.75nm)、1層(0.25nm)に相当する。
上記の方法は、上下段差の共存が安定となるエッチング方法に過ぎず、上下段差の発生は、エッチング中の揺らぎや、初期の凸凹がエッチングで解消する過程における、上り段差と下り段差の偶然の共存が必要となり、数十周期以上にわたって、複合ステップテラス構造が形成される可能性は低い。基礎研究用に使用する場合は、偶然に得られたさまざまな組み合わせの複合ステップテラス構造を選んで利用することも考えられるが、産業的に利用する場合は、均一な複数周期の構造を作製できなければ利用価値は半減してしまう。何らかの方法で、上り段差と下り段差の共存のきっかけを生み出す必要がある。
そこで、本発明では、その方法として、エッチング工程中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングを利用する。らせん成分を含む転位は、当該結晶の格子定数のK倍(Kは自然数)をバーガースベクトルの成分として有しており、その高さ、つまり、格子定数のK倍の段差(ステップ)の永続的な供給源になることが広く知られている。すなわち、エッチングを継続することにより、図4(a)に示すような、格子定数のK倍の高さのステップの渦巻き状のピット(窪み)が形成される。これは、いわゆるエッチピットと呼ばれ、非常に広範な結晶で見られる現象である。
通常、エッチピットは、結晶欠陥評価の技術として利用されているが、本発明では、この条件を、以下に述べる、ある特殊な現象が起こる状態に設定することで、複合ステップテラス構造の供給源として活用する。エッチングの条件を適切に設定すると、スパイラルの中心、すなわち、らせん転位部分で、本来のスパイラルエッチングに加えて、結晶格子を形成する原子もしくは分子層の最小単位もしくは複数単位(但し、それは格子定数未満、すなわち格子定数のL倍、ここでLは0<L<1の実数)でのさらなるエッチングが生じるようにすることができる。その様子をらせん転位付近を拡大した模式図である、図4(b)〜(g)を用いて説明する。最初に図4(b)のような通常のスパイラルが存在したとする。エッチング条件が適切であれば、らせん転位付近のステップにおいて、その上層の一部分について追加のエッチング、言い換えればステップの分解が生じて、小さい段差のステップ43が生じる。図4(d)のようにこのステップ43が、転位を巻き込むようにエッチングされて行き、らせん転位を一周すると、図4(e)のように元のスパイラルに合流する、その結果、ここに局所的に、(格子定数のK倍+格子定数のL倍)の下り段差44と、上記の(格子定数のL倍)の上り段差43が共存する構造が形成される。なお、図4(b)〜(g)ではスパイラルが静止しているかのように描いているが、エッチング中は、上記の現象が起こりながら、同時にスパイラルが回転しながら外側に広がっている。図4(e)に示すスパイラルは図4(f)に示すように発展し、さらに図4(g)に示す構造のようになる。つまり、図4(g)に示す構造のようになると、上記段差44と段差43からなる複合ステップ45のスパイラルが形成され、後は、このスパイラルがエッチングにより回転しながら広がることで、永続的にこの部分から、周囲に向けて下り段差と上り段差のステップが供給される。もちろん、このような過程が生じるには、前述の下り段差と上り段差の距離が一定に保たれるマストランスポート現象と段差間の反発相互作用の協調も同時に起こっていることが不可欠である。以上により、一定幅の周期的複合ステップテラス構造が無限に得られることとなる。
らせん転位が少ない単結晶を使うことにより、らせん転位を中心に、外側に向かって、複合ステップテラス構造が周期的に長距離にわたって広がる構造を作製することができる。必要であれば、その外周部の一部分を切り出せば、見かけ上、例えば、数mm以上にわたって複合ステップテラス構造が周期的に並んだ単結晶基板とすることができる。
なお、上記では、複合ステップテラス構造を有さない単結晶基板に、スパイラルエッチングおよび表面マストランスポートとステップ間の反発相互作用を利用して、複合ステップテラス構造を周期的に並んだ構造を形成する方法について述べた。一方、例えば、特許文献1などの方法を用いて、複合ステップテラス構造が予め存在する単結晶基板に準備して、これに対して、本発明のエッチングを行ない、表面マストランスポートとステップ間の反発相互作用を利用して、既に存在する複合ステップテラス構造を、自己組織的に、より、規則的、かつ、均一に並んだ複合ステップテラス構造に整える利用方法ももちろん可能である。単に整えるだけではなく、エッチング条件を制御することで、第1テラス、第2テラスの幅が制御可能であるので、例えば、別の方法で作成した複合ステップテラス構造に対して、本発明のエッチングを行ない、第1テラス、第2テラスの幅の比を変えるような利用方法も可能である。
同様の考え方で、本発明においても、複合ステップテラスの形成と、テラス幅の制御を二段階のエッチングプロセスで行なうことも可能である。一般に、らせん転位付近での追加のエッチングが起こるエッチング条件はより限定されており、そのエッチング条件が、所望の第二テラス幅をもたらすエッチング条件と一致させられるとは限らないからである。この二段階の方法では、まず、らせん転位での追加のエッチングが起こるエッチング条件で、複合ステップを持つスパイラルエッチピットを発達させ、まずは単結晶基板全面に複合ステップテラス構造を形成する。次に、第二段階として、変更したガスエッチング条件で、第1テラスと第2テラスの幅の比を所望の値に制御する。
大きな格子定数を持つ単結晶のなかで、炭化ケイ素は、4H,6H型単結晶は工業的に生産されており、熱的、化学的に安定で、伝導度制御も可能であるという特徴を持ち、半導体装置基板、ナノテクノロジー用途の利用が大いに期待できる単結晶材料である。そこで、炭化ケイ素において、広範囲な複合ステップテラス構造の形成条件を探索した。その結果、水素ガスを用いた高温ガスエッチングにより特に4H−炭化ケイ素で極めて良好な複合ステップテラス構造を得ることができた。以下、その結果を説明する。
本発明を適用する上で、らせん転位の存在は不可欠だが、原理的には基板表面にたった一つだけ、らせん転位があれば、後はそれを長時間のエッチングによりいくらでも広げることができる。従って、炭化ケイ素基板としては、らせん転位が少ない基板を使うほど、望ましい。らせん転位が多すぎると、隣接する反対向きのらせん転位同士から生じたスパイラルが打ち消しあってしまい、スパイラルエッチピットを広範囲に広げることができない。
ガスエッチング処理前の炭化ケイ素基板は、短時間のエッチングで良好な結果を得るためには、大きな傷などがないようにガスエッチング前に表面を化学機械研磨などにより仕上げたものを使用する方が望ましいが、長時間エッチングを行なえば、傷の多い基板でも問題ない。ガスエッチング条件は、ガスエッチング装置の構造などにより、最適化が必要であるが、グラファイトサセプターの誘導加熱タイプ、基板が高温部に囲まれている、いわゆるホットウォールタイプの装置の場合には、一例として、高純度水素雰囲気、圧力200Pa〜20kPa、温度1200℃〜1700℃などの条件が好適である。段差としては4H−炭化ケイ素単結晶のc軸つまり<0001>軸格子定数の1/4倍を基本に利用するので、基板の面方位は{0001}面に近いほど良い。{0001}面から2°以上傾斜してしまうと、らせん転位におけるスパイラルエッチングが基板の持つオフ角によるステップフローエッチングにより抑制される。スパイラルエッチングが起こらなければ、当然、上記の複合ステップテラス構造は得られない。上記の条件で均一かつ高再現性で得られる複合ステップテラス構造の典型例は、約900nmの第1のテラス、c軸格子定数の(1+1/4)倍=1.25nmの下り方向段差、約200nmの第2のテラス、c軸格子定数の(1/4)倍=0.25nmの上り方向段差からなる複合ステップテラス構造の10周期以上の繰り返し構造であった。第1のテラス幅、第2のテラス幅は、ガスエッチングの条件を変更することで、広範囲に調整可能である。また、ステップの向いている方向によっても制御可能である。
多数の基板で処理、観察を行った結果、4H−炭化ケイ素の場合は、c軸格子定数の(1+1/4=5/4)倍と(1/4)倍の上下複合ステップが最も再現性良く形成された。場合によっては、(3+1/4)倍と(1/4)倍や(4+1/4)倍と(1/4)倍の上下ステップなど、他のステップも観察された。
本発明は、単結晶基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、単結晶の格子定数を第1のN倍(Nは自然数)したものから単結晶の格子定数のM倍(Mは実数で、0<M<1)したものを加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、単結晶の格子定数の上記単結晶の格子定数のM倍した高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶基板の製造方法であって、エッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を表面に形成することを特徴とする製造方法である。
さらに、上記の方法では、エッチング中の揺らぎや、初期の凸凹がエッチングで解消する過程での上り段差と下り段差の偶然の共存が必要となり、数十〜数百周期にわたって、複合ステップテラス構造が形成される可能性は低い。複数周期の構造が必要とされる場合は、何らかの方法で、上り段差と下り段差の共存のきっかけを生み出す必要がある。本発明では、その方法として、エッチング工程中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングを利用する。らせん転位は、当該結晶の格子定数のK倍(Kは自然数)のバーガースベクトルを有しており、その高さ、つまり、格子定数のK倍のステップの永続的な供給源になることが広く知られている。すなわち、エッチングを継続することにより、格子定数のK倍の高さのステップの渦巻き状のエッチピットが形成される。本発明では、エッチング条件を適切に設定することで、スパイラルの中心、すなわち、らせん転位部分で、本来のスパイラルエッチングに加えて、結晶格子を形成する原子もしくは分子層の最小単位もしくは複数単位(但し、それは格子定数未満、すなわち格子定数のL倍、ここでLは0<L<1の実数)でのさらなるエッチング、言い換えればステップの分解、が生じる。このエッチングは図4(b)〜(g)に示したように、らせん転位を一周して元々のスパイラルに合流し、その結果、ここに局所的に、(格子定数のK倍+格子定数のL倍)の下り段差と、(格子定数のL倍)の上り段差の複合ステップ45を持ったスパイラルエッチピット構造が形成される。転位は消滅することはないので、永続的にこの部分から、下り段差と上り段差のステップが供給され、前述の下り段差と上り段差の距離が一定に保たれるマストランスポート現象と段差間の反発相互作用の協調により、一定幅の周期的複合ステップテラス構造が無限に得られることとなる。すなわち、必要とする複合ステップテラス構造がN,Mで表されるとすれば、らせん成分を持つ転位として格子定数のN倍のバーカースベクトルを有する転位をもつ単結晶を用い、複合ステップテラス構造が安定に存在し、かつ、格子定数のM倍でのさらなるエッチング(ステップの分解)が生じるようなエッチング条件を利用すれば、周期的な複合ステップテラス構造を得ることができる。
さらに、本発明は、上記単結晶4H−炭化ケイ素基板上に作製された半導体層を含む半導体装置に関する。半導体装置としては、上記単結晶4H−炭化ケイ素基板に電極形成などのデバイスプロセスを施し、それ自体を半導体のデバイス活性領域として用いた、pn接合ダイオード、ショットキーダイオード(SBD)、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ(MISFET)、バイポーラトランジスタなどの半導体デバイスがある。とりわけ、半導体表面の構造がデバイスの特性に極めて大きな影響を与える、SBD、MISFETでは、本発明の複合ステップテラス構造により、SBDでは、ショットキー界面の電気的特性の改善や、逆方向耐圧の向上、MISFETでは、電子移動度の向上などの大きな効果が得られる。また、別の半導体装置としては、上記単結晶4H−炭化ケイ素基板を真空中やアルゴンやヘリウムなどの雰囲気下で熱処理することにより表面のケイ素のみを除去し、表面に極薄のグラファイト層、いわゆるグラフェンを形成して作製するデバイスがある。複合ステップテラス構造により、グラフェンの形状が制御され、単純なステップテラス構造を持つ炭化ケイ素上に形成したグラフェンに比べて、複合ステップテラスの効果により、二つの隣接する上下ステップにより、グラフェンの量子細線化が可能となり、より高度な機能が実現できる。また、さらに別の半導体装置として、上記単結晶4H−炭化ケイ素に、炭化ケイ素やIII族窒化物、酸化物、有機物などの半導体の薄膜成長を行なった後、デバイスプロセスを行なって作製した半導体装置が挙げられる。複合ステップテラス構造の効果により、成長した薄膜の高品質化の効果が得られる。具体的には、複合ステップ構造による、基板から薄膜中への貫通転位の伝搬抑制や、基板薄膜界面での転位や積層欠陥発生の抑制、上下ステップに挟まれたテラス上への優先的な薄膜形成による、上下ステップに挟まれたテラス幅を持つ量子細線構造が作製できる。さらに別の半導体装置として、上記単結晶4H−炭化ケイ素の複合ステップテラス構造を用いて、ナノ微粒子や有機分子、カーボンナノチューブ、フラーレンの位置配列制御を行ない、この位置制御により発現する機能性を用いた半導体装置も挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下に、具体的に4H−炭化ケイ素を例に挙げて、発明のより詳細な実施例を示す。
4H−炭化ケイ素の場合、複数の層からなる格子定数はc軸方向となり、その格子定数は1.0nm、炭素−ケイ素のバイレイヤーで数えれば4層分である。従って、ステップテラス構造を得るためには、基本的に(0001)面もしくはその反対側の面である(000−1)面を用いる。ここでは、(0001)面について例を述べるが、(000−1)面も同様の考え方で実施することができる。
面方位は(0001)面に近いほど望ましいが、0.1°以内の面方位のずれであれば、特に問題はない。0.3°を超える面方位のずれがあると、面方位ずれに起因する通常のステップテラス構造が支配的となりやすく、複合ステップテラス構造が得にくくなる。0.6°を超えると、限られた条件でしか複合ステップテラス構造は得られず条件選択の幅が狭まり、1°を超えるともはや実用的ではない。複合ステップテラス構造が得にくくなる理由は、面方位ずれにより存在するステップテラス構造のステップフローエッチングが支配的となり、らせん成分を含む転位によるスパイラルエッチングが阻害されることによる。バルク単結晶から基板を切り出す際に、方位角を精密に測定することで、少なくとも0.6°以下、望ましくは0.3°、さらに望ましくは0.1°の面方位ずれとすることが望ましい。
使用する基板は最低1つのらせん成分を含む転位、より詳細には、少なくともエッチングで除去される最大深さまでは貫通している転位が必要である。現在入手可能な炭化ケイ素結晶では、必ず転位は含まれるので、最低1つを含むことに関しては心配する必要はない。一方、転位密度の上限としては、106cm-2以下が望ましい。これ以上では、隣接するらせん転位間のスパイラルの干渉が生じ、広い範囲での良好な複合ステップテラス構造が得られないためである。104cm-2以下がより望ましく、102cm-2以下であれば極めて望ましい。
炭化ケイ素基板は通常、大きな単結晶の固まりから板状に切り出された後、研磨により鏡面仕上げされる。しかし、この鏡面仕上げは、原子間力顕微鏡で見ると、多数の研磨傷が表面に存在する。複合ステップテラス構造を形成するためのエッチングにより同時に研磨傷は除去されるが、深い研磨傷を除去するには長時間のエッチングが必要となりコスト的に不利である。可能であれば、化学機械研磨による研磨を行ない、深い研磨傷のない状態の炭化ケイ素基板を用いることがより望ましい。
さて、以上のようにして用意された単結晶基板に高温ガスエッチングを行なうことで、複合ステップテラス構造を形成する。エッチングは、1200℃以上の高温加熱可能な炉内で行う。水冷石英管中に置かれたグラファイトサセプター上に基板を設置するコールドウォールタイプの炉と、適切な方法で熱絶縁された、グラファイトサセプターに囲まれた空間に基板を設置するホットウォールタイプの炉の二種類がある。どちらの炉でも原理的に可能であるが、表面マストランスポートを促進する意味では、ホットウォールタイプの炉の方がより幅広い条件で複合ステップテラス構造が得られるので、より望ましい。ホットウォールタイプの炉には、水素を含むガス中でエッチングを行うと、炭化水素を供給しなくても、高温のグラファイト部材と水素が反応し炭化水素が供給されるというメリットもある。
エッチングガスは水素、シラン(もしくはシリコンを含む任意のガス)、炭化水素、塩素(もしくは任意の塩化物)などの任意の混合ガスを利用することができる。水素、塩素などはエッチングを促進し、シランや炭化水素は、炭化ケイ素の原料であるので、成長に寄与するガスであり、エッチングを減速させる働きがある。アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスは、圧力調整用に用いることができる。本発明の方法は、単結晶表面の微視的レベルでは、エッチングと結晶成長が同時に起こっている状態になるよう、エッチング条件を設定することが本質であるが、マクロに見た時には、表面からの脱離が支配的、全体としてはエッチングが優位でなければならない。エッチングと結晶成長が同時に生じるようにするためには、少量のシランと炭化水素の一方もしくは両方を流してエッチングを行なうことが有効であるが、これらのガスの供給量による成長速度がエッチング速度を上回ってはいけない。プロセス前後で、ウエハーの重量が増えるような条件では、この工程は、エッチングではなくむしろ結晶成長となっており、当然、このようなプロセス条件では、複合ステップテラス構造は得られないので、炭化ケイ素の原料ガスの流量には注意が必要である。また、シランや炭化水素のガスを流さない場合は、減圧した水素ガスを用いることも有効である。圧力としては、20kPa以下の減圧水素ガス、さらに望ましくは5kPa以下の減圧水素ガスが望ましい。
本実施例では、最も単純な場合として、水素ガスのみを用いた場合について説明する。水素ガスは、水素純化装置を経由して高純度化したものを用いた。水素流量は1〜10slm(標準状態換算リットル毎分)とする。水素流量は、炉のサイズ、同時に処理する基板の枚数・サイズにより適宜調節が必要であるが、例えば、直径2インチの炭化ケイ素基板6枚の処理であれば、6slm程度で十分である。
エッチングガスを純水素とした場合は、エッチングの調整は、エッチング中の炉内圧力およびエッチング温度により制御する。最適化されていないエッチング条件では、複合ステップテラス構造ではなく、単純なステップテラス構造しか得られない。複合ステップテラス構造の形成に失敗したエッチングで標準的に観察されるのは、テラスと0.5nmの下り方向の段差からなる単純なステップテラス構造や、テラスと1nmの下り段差からなる単純なステップテラス構造である。従来はむしろ、このような単純なステップテラス構造を高い再現性で均一に得ることを目的として研究開発が進められてきた。そのため、ガスエッチングによる、このような単純なステップテラス構造の形成については、多数の研究報告例がある。
複合ステップテラス構造を得る、最も適切なエッチングの一例として、4H−炭化ケイ素基板の面方位が(0001)面から0.05°であり、ホットウォールタイプの反応炉を使用し、純水素雰囲気中、圧力2700Pa、温度1550℃で30分間ガスエッチングを行って得られた複合ステップテラス構造について説明する。
図5(a)は、ガスエッチング終了後の4H−炭化ケイ素基板のある表面領域での10μm×10μm四方原子間力顕微鏡像である。図5(a)におけるA’からAへの断面プロファイルが図5(b)に示されている。断面プロファイルを紙面に向かって右から左に見ると、約900nm幅の第1のテラスと、4+1=5バイレイヤー(1.25nm)の下り方向の第1の段差と、約200nm幅の第2のテラスと、1バイレイヤー(0.25nm)の上り方向の第2の段差が、観察した10μmの範囲では8周期にわたって極めて整然と並んでいる。より広い領域を観察すると少なくとも20周期以上で繰り返されていることが確認できる。
図6は、エッチング処理後の基板で、上記のような複合ステップテラス構造が観察された場所から徐々に観察範囲を広げて行き、複合ステップテラス構造の供給源を特定した図である。図6は約55μm×55μm四方で観察した原子間力顕微鏡像であり、図5(a)の複合ステップテラス構造は、広い領域(低倍率)で観察すると、スパイラル状のすり鉢の外周部、つまりスパイラルエッチピットの一部であることが確認でき、スパイラルエッチングによる複合ステップの永続的供給により形成されていることが確認できる。スパイラルエッチピットの中心にはらせん成分を持つ転位が存在している。転位から十分離れた場所では、ある一方向に整然と並んだステップテラス構造を見なすことができる。実際に、半導体装置やナノテクノロジーに利用する場合は、そのような部分を利用すれば良い。
図7(a)は図6の中央部、転位付近を中心部分を拡大した原子間力顕微鏡像である。スパイラルの様子がより明確に観察できる。図7(a)のC−C’、D−D’に沿った断面プロファイルをそれぞれ図7(b)、図7(c)に示している。D−D’間では、4+1層と1層の複合ステップテラス構造が明確に確認できる。ここで特筆すべきは、ある特定の方向、例えばD−D’では、複合ステップテラス構造が顕著であるが、別の方向、例えば、C−C’では、第2のテラスがほとんど消失しかかっており、通常のステップテラス構造に近いことが分かる。これは、本発明の手法の原理に起因している。すなわち、第2のテラス幅は、上り段差と下り段差の反発相互作用と、表面マストランスポートのバランスにより決まる。結晶表面には異方性があるため、ステップの向いている方向によって、このバランスが異なるため、方向によって、第2のテラス幅が狭いところもあれば、広いところもあるのである。前述のように、転位から十分離れた方向では、ステップはもはや渦巻き状ではなく、直線上に平行に並んでいると見なすことができるので、図5(a)および(b)のような均一な第2のテラス幅を得ることができるのである。一方、このステップ方向依存性を積極的に利用すれば、らせん転位から任意の方位の部分を利用するかで、ガスエッチングの条件を変えずとも、一枚の基板から、さまざまな第2のテラス幅を得ることができる。
また、エッチピットの外周部の、一方向を向いたと見なせる領域だけではなく、スパイラルエッチピット中心部の、渦巻き状の複合ステップ構造を積極的に利用しても良い。例えば、コイルやトランスなどの渦巻き形状が有用な素子の作製に利用できる。
図8(a)は転位部分の高倍率観察結果である。図8(b)は、図8(a)の観察結果を模式図にしたものである。中心に位置する転位から1nm=4層バイレイヤー=1c軸格子定数のステップが生じており、これより、この転位はc軸格子定数の1倍のバーガースベクトルを成分として有する貫通転位であることが分かる。さらに、転位の周辺で0.25nm=1層バイレイヤー=0.25c軸格子定数の一周分のエッチングが生じており、これがらせん転位を1周して1nmのスパイラルステップに合流し、1.25nm(4+1層)と0.25nm(1層)の上下段差の複合ステップを形成していることが確認できる。この複合ステップが、転位近傍から、スパイラル状にエッチピット全体に広がっていることが確認でき、本発明の機構により複合ステップがらせん転位から永続的に供給されていることが確認できる。
なお、複合ステップを得るためには、らせん成分を含む転位からのステップの発生を制御することが極めて重要である。例えば、同じ4H−炭化ケイ素で、かつ、c軸格子定数の1倍のらせん成分を持つ転位であっても、図9(a)および(b)のように、らせん転位71から2本の2層=0.5格子定数=0.5nmのステップ72,73が出ている場合のスパイラルエッチピットは、単なる2層のステップにしかならず、複合ステップの供給源とはならない。このようなスパイラルエッチピットの周辺部でステップを観察すると、テラスと0.5nmの段差からなる単純なステップテラス構造となっている。つまり、4H−炭化ケイ素の場合、0.5nmのステップ2本ではなく、1nmのステップ1本が転位からでるようにすることが重要である。
同様に、6H−炭化ケイ素についても、2本の3層=0.5(6H−炭化ケイ素の)格子定数=0.75nmのステップがらせん転位から出ている場合には、単なる3層のステップにしかならず、6+1層と1層の上下段差の複合ステップテラス構造は得られない。
以上、炭化ケイ素の場合について詳細な実施例を述べたが、同様の原理で他の結晶についても複合ステップテラス構造の形成が可能である。ただし、それが得られる条件は、結晶により、広範囲な場合もあれば、極めて限られた場合、もしくはまったく不可能な場合がある(高さの違う上下段差間の反発相互作用が無い場合など)。新規結晶について本発明の製造方法を適用すべく、エッチング条件を詳細に調整する前に、有望かどうかをチェックするためは次の点を確認すると良い。(1)結晶構造が複数の層により形成されていること(原理上必須)、(2)らせん成分転位による通常のスパイラルエッチングが実現できること(通常の単純なステップテラスを生じるスパイラルエッチングさえ実現できないようでは、複合ステップを供給するスパイラルエッチングを実現する条件を見出すことができる可能性は極めて低い)、(3)研磨傷など表面の凹凸のある結晶(上下段差が隣接している箇所が多数ある)に対して試験的にエッチングを施し、広範囲な領域を調べ、上下段差が一定間隔で整列する傾向があるかどうかを調べる。これらの条件が満たされていれば、本発明に沿ってエッチングの条件を探索すれば、本発明の製造方法が適用できる可能性がある。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
複合ステップテラス構造を活用することで、高性能な電子デバイス、光デバイスなど半導体装置の作製に利用することができる。また、上下ステップを微細構造の配列に活用することで、ナノテクノロジーへの応用が可能となる。
1 テラス、2 下り方向の段差、3 単位構造、21 第1のテラス、22 下り方向の第1の段差、23 第2のテラス、24 上り方向の第2の段差、25 複合ステップテラス構造の単位構造、31 第1の段差から原子が第2のテラスの放出される過程、32 第2のテラス上を原子が移動する過程、33 第2のテラス上の原子が脱離する過程、34 第2のテラス上の原子が第2の段差へ取り込まれる過程、35 このプロセスにより第1の段差が進行する方向、36 このプロセスにより第2の段差が進行する方向、41 らせん成分をもつ転位、42 らせん成分のバーガースベクトルに対応する段差、43 スパイラルエッチングに加えて生じたエッチングによる小さな段差、44 らせん成分のバーガースベクトルに対応する高さの段差と加えて生じたエッチングによる段差が合体した段差、45 上り方向段差と下り方向段差の複合ステップ構造、71 らせん成分をもつ転位、72 転位から出た第1の段差、73 転位から出た第2の段差。

Claims (12)

  1. 単結晶基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、単結晶の格子定数をN倍(Nは自然数)したものに格子定数のM倍(Mは実数で、0<M<1)したものを加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、格子定数をM倍した高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶基板の製造方法であって、単結晶基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とする単結晶基板の製造方法。
  2. 前記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成する請求項1に記載の単結晶基板の製造方法。
  3. nH−炭化ケイ素基板(nは4もしくは6)であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、nH−炭化ケイ素のc軸格子定数のN倍(Nは自然数)にc軸格子定数のn分のm倍(mはn未満の自然数)を加えた高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数のn分のmの高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有するnH−炭化ケイ素基板の製造方法であって、nH−炭化ケイ素基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とするnH−炭化ケイ素基板の製造方法。
  4. 前記第2のテラスの幅が300nm以下である請求項3に記載のnH−炭化ケイ素基板の製造方法。
  5. 前記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成する請求項3に記載のnH−炭化ケイ素基板の製造方法。
  6. 前記エッチングが、水素を含む圧力200Pa〜20kPaのガス中における1200℃〜1700℃の温度でのガスエッチングである請求項3〜5のいずれかに記載のnH−炭化ケイ素基板の製造方法。
  7. 単結晶4H−炭化ケイ素基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、4H−炭化ケイ素のc軸格子定数の5/4倍の高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数の1/4倍の高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の2周期以上の繰り返しを有する単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法であって、単結晶4H−炭化ケイ素基板に対してエッチングを行なうことで複合ステップテラス構造を形成することを特徴とする単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法。
  8. 前記第2のテラスの幅が300nm以下である請求項7に記載の単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法。
  9. 前記複合ステップテラス構造を、エッチング中の、らせん成分を含む転位を基点としたスパイラルエッチングにより自己組織的に形成する請求項7に記載の単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法。
  10. 前記エッチングが、水素を含む圧力200Pa〜20kPaのガス中における1200℃〜1700℃の温度でのガスエッチングである請求項7〜9のいずれかに記載の単結晶4H−炭化ケイ素基板の製造方法。
  11. 単結晶4H−炭化ケイ素基板であって、その表面に、平坦な第1のテラスと、4H−炭化ケイ素のc軸格子定数の5/4倍の高さの下り方向の第1の段差と、平坦な第2のテラスと、c軸格子定数の1/4倍の高さの上り方向の第2の段差、からなる複合ステップテラス構造の20周期以上の繰り返しを有する単結晶4H−炭化ケイ素基板。
  12. 請求項11に記載の単結晶4H−炭化ケイ素基板上に作製された半導体層を含む半導体装置。
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