JP2011016382A - 車両の減衰力制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】バネ上部材の挙動変化を早期に検知し、各ショックアブソーバの減衰力を変更制御する車両の減衰力制御装置を提供すること。
【解決手段】電気制御装置20は、バネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''と、ロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''を入力する。そして、サスペンションECU21は、入力した6つの加速度と、予め設定されたバネ上上下方向加速度判定値Xbfr0'',Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0''、ロール角加速度判定値θr0''およびピッチ角加速度判定値θp0''とを比較する。この比較により、少なくとも加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''の一つが判定値Xbfr0'',Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0''以上であれば、ECU21は、4輪位置のショックアブソーバの減衰力の変更開始を決定する。
【選択図】図3

Description

本発明は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に配設されるショックアブソーバの減衰力を変更制御する車両の減衰力制御装置に関する。
従来から車体と車輪との間に配設されるショックアブソーバの減衰力を変更制御する装置は盛んに提案されている。例えば、下記特許文献1には、車両の各種走行状態に応じた適切な減衰力をダンパにより発生させる車両用懸架装置の制御装置が示されている。
この従来の制御装置は、車両の4輪モデルにおいて、各車輪に対応した各バネ下部材の上下方向に沿った振動に係る運動と、バネ上部材の上下方向に沿った振動に係る運動と、バネ上部材のローリングに係る運動と、バネ上部材のピッチングに係る運動とに対する合計7自由度の運動方程式に基づき、バネ上部材と各バネ下部材とを連結するダンパの減衰係数を非線形H∞制御則により制御するようになっている。
特開2006−160185号公報
ところで、上記従来の制御装置においては、車両の重心位置におけるバネ上部材の上下方向に沿った振動に係る運動(ヒーブ挙動)、ローリングに係る運動(ロール挙動)およびピッチングに係る運動(ピッチ挙動)の発生に応じて、ダンパ(ショックアブソーバ)の減衰係数(減衰力)を制御する。しかしながら、バネ上部材は路面に接する車輪を含む各バネ下部材によって支持されており、車両の重心位置は幾何学的にバネ上部材に連結された各バネ下部材の連結位置によって決定される領域内に位置する。このため、例えば、路面の凹凸などによる路面入力に起因してバネ上部材にヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動の変化が生じる場合、バネ上部材においては、まず、各バネ下部材の連結位置近傍部分(4輪位置)にて上下方向の振動が生じ、この振動が伝播するにより車両の重心位置にて前記挙動が発生する。
すなわち、車両の重心位置における前記挙動の変化は、4輪位置における振動が生じた後に発生することになる。したがって、車両の重心位置に発生するヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動のみに応じてダンパ(ショックアブソーバ)の減衰係数(減衰力)を制御する場合には、発生した挙動変化に遅れて減衰係数(減衰力)が制御されるため、挙動変化を適切に抑制できなくて乗り心地が悪化する可能性がある。
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、バネ上部材の挙動変化を早期に検知し、各ショックアブソーバの減衰力を変更制御する車両の減衰力制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両の4輪位置にてバネ下部材とバネ上部材との間に配設されて前記バネ下部材に対する前記バネ上部材の振動を減衰する減衰力を発生するショックアブソーバと、各ショックアブソーバが発生する減衰力を変更制御する減衰力変更手段とを備えた車両の減衰力制御装置において、前記バネ下部材を介して前記バネ上部材に伝達される振動によって変化する第1物理量を、前記車両の4輪位置のそれぞれにて検出する第1物理量検出手段と、車両の走行によって前記バネ上部材に発生する挙動変化に伴う振動を優先的に減衰させる制御中心位置にて前記バネ上部材に発生する振動によって変化する第2物理量を検出する第2物理量検出手段と、前記第1物理量検出手段によって検出された各第1物理量の大きさとこれら各第1物理量にそれぞれ対応して予め設定された第1判定値とを比較して判定するとともに、前記第2物理量検出手段によって検出された第2物理量の大きさとこの第2物理量に対応して予め設定された第2判定値とを比較して判定し、前記各第1物理量および前記第2物理量のうちの少なくとも一つの前記第1物理量の大きさが前記対応して予め設定された第1判定値以上となったときに、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定する変更開始決定手段とを備え、前記減衰力変更手段が、前記変更開始決定手段による前記減衰力の変更開始の決定に応じて、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力を変更することにある。
この場合、前記変更開始決定手段は、前記各第1物理量のうちのいずれかの前記第1物理量が最初に前記対応して予め設定された第1判定値以上となったときに、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定するとよい。
そして、これらの場合、前記第1物理量検出手段が検出する第1物理量は、例えば、前記車両の4輪位置のそれぞれにて前記バネ下部材を介して前記バネ上部材に伝達される振動によって変化する加加速度、加速度、速度および変位量のうちのいずれか一つであるとよく、前記第2物理量検出手段が検出する第2物理量は、例えば、前記バネ上部材のロール挙動変化に伴う振動によって変化するロール角加加速度、ロール角加速度、ロール角速度およびロール角度のうちのいずれか一つ、ならびに、前記バネ上部材のピッチ挙動変化に伴う振動によって変化するピッチ角加加速度、ピッチ角加速度、ピッチ角速度およびピッチ角度のうちのいずれか一つであるとよい。
これらによれば、変更開始決定手段は、車両の4輪位置にてそれぞれ検出される第1物理量と制御中心位置(例えば、車両の重心位置、後席位置、運転席位置など)にて検出される第2物理量とを用い、これら各第1物理量の大きさおよび第2物理量の大きさとそれぞれに対応して設定された第1判定値と第2判定値とを比較し、これら各物理量の大きさを判定することができる。すなわち、変更開始決定手段は、4輪位置にて検出された4つの第1物理量(または、前輪位置側の平均された第1物理量および後輪位置側の平均された第1物理量の2つ)と制御中心位置にて検出された第2物理量(より具体的には、ロール挙動変化に伴う振動によって変化する第2物理量およびピッチ挙動変化に伴う振動によって変化する第2物理量の2つ)を用いて、これらの物理量の大きさを比較して判定することができる。そして、変更開始決定手段は、これらの物理量のうち、少なくとも一つの第1物理量の大きさが第1判定値以上となったときに、各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定することができる。そして、この変更開始の決定に従って、減衰力変更手段は各ショックアブソーバの減衰力を変更することができる。
ここで、前記減衰力変更手段は、例えば、4輪モデルによる非線形H∞制御理論に基づいて前記各ショックアブソーバの減衰係数の可変分である可変減衰係数を算出するとともに、この算出した可変減衰係数に予め設定された減衰係数の固定分である固定減衰係数を加算して要求減衰係数を算出し、この算出した要求減衰係数に対して前記バネ下部材と前記バネ上部材との間の相対速度を乗算して、前記制御中心位置を中心として前記バネ上部材の挙動に伴う振動を減衰するために前記各ショックアブソーバが発生する減衰力を演算するようにするとよい。
このように、変更開始決定手段が4輪位置にてそれぞれ検出される第1物理量を用いて各ショックアブソーバの減衰力の変更開始を決定することにより、4輪位置におけるバネ上部材の振動が発生した時点で変更開始を決定することができる。これにより、バネ上部材の制御中心位置(例えば、車両の重心位置、後席位置、運転席位置など)に発生するヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動のみに応じてショックアブソーバの減衰力を変更制御する場合に比して、早いタイミングによってバネ上部材に発生した振動を抑制する減衰力に変更することができる。したがって、制御中心位置において挙動変化に伴う振動を適切に抑制できて乗り心地を向上させることができる。なお、制御中心位置は、幾何学的にバネ上部材に連結された各バネ下部材の連結位置によって決定される領域内に位置する。このため、変更開始決定手段が4輪位置にてそれぞれ検出される第1物理量を用いて各ショックアブソーバの減衰力の変更開始を決定することにより、制御中心位置を任意の位置に設定した場合であっても、早いタイミングによってバネ上部材に発生した振動を抑制する減衰力に変更することができる。
また、この場合、例えば、4つの第1物理量のうちのいずれかの第1物理量が最初に第1判定値以上となったときに、変更開始決定手段は、各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定することができる。これにより、より早いタイミングによってバネ上部材に発生した振動を抑制する減衰力に変更することができる。したがって、制御中心位置において挙動変化に伴う振動をより適切に抑制できて乗り心地を向上させることができる。
本発明の実施形態に係る車両の減衰力制御装置を示す概略図である。 図1のサスペンション機構の構成を示す概略図である。 図1の電気制御装置の構成を示す概略図である。 図3のサスペンションECUによって実行される減衰力制御プログラムを示すフローチャートである。 前輪位置、制御中心位置、後輪位置におけるバネ上上下方向加速度の発生タイミングの違いを説明するための図である。 図4における減衰力変更制御ルーチンを示すフローチャートである。 非線形H∞制御理論に基づいて要求減衰係数を算出するために想定される車両の4輪モデルを示す図である。 バネ上部材(車体)に発生するヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動に伴う制御中心位置でのヒーブ変位、ロール変位およびピッチ変位を説明するための図である。 非線形H∞状態フィードバック制御系の一般化プラントを示すブロック図である。
以下、本発明の実施形態に係る車両の減衰力制御装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の減衰力制御装置Aの構成を概略的に示している。この車両の減衰力制御装置Aは、図1に示すように、車体と左右前後輪とをそれぞれ連結するサスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLと、これらのサスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLの作動を統括して制御する電気制御装置20とを備えている。なお、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLは、その構成が同一であるため、以下の説明においては単にサスペンション機構10ともいう。
サスペンション機構10は、図1および図2に示すように、サスペンションスプリング11とショックアブソーバ12とを備えている。サスペンションスプリング11およびショックアブソーバ12の一端(上端)はバネ上部材HAに接続され、ショックアブソーバ12の他端(下端)はバネ下部材LAに接続されている。サスペンションスプリング11は、路面から車輪およびバネ下部材LAを介してバネ上部材HAに伝達される振動を吸収するものであり、例えば、金属製のコイルスプリングや空気スプリングなどが採用される。なお、タイヤを含む車輪に連結されたナックルや、一端がナックルに連結されたロアアームなどがバネ下部材LAに相当する。また、バネ上部材HAは、サスペンションスプリング11およびショックアブソーバ12に支持される部材であり、車体もバネ上部材HAに含まれる。
ショックアブソーバ12は、サスペンションスプリング11と並行に配列されており、前記振動を減衰するものである。このため、ショックアブソーバ12は、図2に概略的に示すように、シリンダ12aと、ピストン12bと、ピストンロッド12cとを備えている。シリンダ12aは、内部に粘性流体(例えば、オイルなど)が封入された筒状部材であり、その下端がバネ下部材LA(詳しくは、ロアアーム)に対して連結されている。ピストン12bは、シリンダ12a内に液密的に配設され、シリンダ12aの内部空間を軸方向に移動可能に構成されている。これにより、ピストン12bは、シリンダ12aの内部空間を上部空間12a1と下部空間12a2とに分割する。また、ピストン12bには、連通路12b1が形成されている。連通路12b1は、上部空間12a1に面する上面12b2と下部空間12a2に面する下面12b3とに開口し、上部空間12a1と下部空間12a2とを連通している。ピストンロッド12cは、棒状の部材であって、その一端がピストン12bに接続され、その他端がバネ上部材HAである車体に連結されている。
このように構成されたショックアブソーバ12においては、車両走行中に路面凹凸などによってバネ下部材LAが上下に振動した場合に、この上下振動がバネ下部材LAからショックアブソーバ12のシリンダ12aに伝達され、シリンダ12aも上下に振動する。このとき、ピストン12bは、シリンダ12a内に配設されているため、シリンダ12aの上下振動によって上下方向に相対変位する。そして、この相対変位に応じて、連通路12b1内を粘性流体が流通することにより粘性抵抗が発生し、この粘性抵抗が上下振動に対する減衰力となって、振動が減衰する。
また、サスペンション機構10は、図2に概略的に示すように、可変絞り機構13を備えている。この可変絞り機構13は、バルブ13aとアクチュエータ13bとを有する。バルブ13aは、ピストン12bに形成された連通路12b1に設けられていて、公知の絞り機構によって、連通路12b1の少なくとも一部の流路断面積の大きさ、すなわち、バルブ開度OPを変化させる。アクチュエータ13bは、バルブ13aに対して、例えば、図示省略のコントロールロッドを介して接続されており、このアクチュエータ13bの駆動に連動してバルブ13aが作動する。
この構成により、可変絞り機構13においては、アクチュエータ13bが段階的に作動してバルブ13aを作動させることにより、バルブ開度OPが複数段(例えば、9段)に渡り変更される。このように、バルブ13aのバルブ開度OPが段階的に変更されることにより、連通路12b1の流路断面積が段階的に変更され、その結果、連通路12b1内を粘性流体が流通するときの抵抗力も変更される。したがって、バルブ13aのバルブ開度OPが段階的に変更されれば、ショックアブソーバ12の減衰力の大きさを表す減衰係数も段階的に変更される。
また、図1に示すように、前輪側に配置されるサスペンション機構10FRとサスペンション機構10FLとは前輪側スタビライザ14によって連結されている。一方、後輪側に配置されるサスペンション機構10RRとサスペンション機構10RLとは後輪側スタビライザ15によって連結されている。前輪側スタビライザ14および後輪側スタビライザ15は、それぞれ、車両の左右方向に沿って延在するトーションバ部14a,15aと、これらトーションバ部14a,15aに連続する一対のアーム部14b,15bとを有している。トーションバ部14a,15aは、その軸線回りに回転自在にバネ上部材HA(具体的には車体)に対して支持されている。アーム部14b,15bは先端側が車両前方に屈曲しており、バネ下部材LA(具体的にはロアアーム)に接続されている。このように設けられる前輪側スタビライザ14および後輪側スタビライザ15は、例えば、車両旋回時において発生するロールモーメントを打ち消すアンチロールモーメントを発生させることができ、その結果、車両に作用するロールモーメントを低減することができる。
電気制御装置20は、図3に示すように、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLにおける各可変絞り機構13のアクチュエータ13bの作動を制御するサスペンション電子制御ユニット21(以下、単に、サスペンションECU21という)を備えている。サスペンションECU21は、CPU、ROM、RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータである。そして、サスペンションECU21は、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することにより、アクチュエータ13bの駆動を制御して、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLにおける各ショックアブソーバ12が発生する減衰力(より詳しくは、減衰係数)を適宜変更する。
なお、以下の説明においては、サスペンション機構10FRのショックアブソーバ12が発生する減衰力を減衰力Ffrという。また、サスペンション機構10FLのショックアブソーバ12が発生する減衰力を減衰力Fflという。また、サスペンション機構10RRのショックアブソーバ12が発生する減衰力を減衰力Frrという。さらに、サスペンション機構10RLのショックアブソーバ12が発生する減衰力を減衰力Frlという。
このように、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLにおける各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlをそれぞれ変更して制御するために、サスペンションECU21には、図3に示すように、バネ上部材HA(車体)の上下加速度を検出するバネ上加速度センサ22a,22b,22c,22dが接続されている。バネ上加速度センサ22a〜22dは、図1に示すように、それぞれ、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLすなわち4輪位置の近傍に設けられており、バネ上部材HA(車体)の上下方向の加速度を検出するものである。
そして、バネ上加速度センサ22a〜22dは、バネ上部材HA(車体)の上下方向の加速度を検出し、この検出した加速度をそれぞれ第1物理量としてのバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''としてサスペンションECU21に出力するようになっている。ここで、バネ上加速度センサ22a〜22dは、車両上方向へのバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を正の値として出力する。また、バネ上加速度センサ22a〜22dは、車両下方向へのバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を負の値として出力する。
なお、本実施形態においては、バネ上加速度センサ22a〜22dがバネ上部材HA(車体)の上下方向における加速度を直接的に検出してバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''としてサスペンションECU21に出力するように実施する。この場合、例えば、周知のストロークセンサなどを用いて、予め設定された基準位置からのバネ上部材HA(車体)の上下方向変位量を直接的に検出し、この検出した変位量を二階微分してバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を検出(算出)するように実施することも可能である。
また、サスペンションECU21には、図3に示すように、ロール挙動変化に伴ってバネ上部材HA(車体)に発生した第2物理量としてのロール角加速度を検出するロール角加速度センサ23と、ピッチ挙動変化に伴ってバネ上部材HA(車体)に発生した第2物理量としてのピッチ角加速度を検出するピッチ角加速度センサ24とが接続されている。
ロール角加速度センサ23は、例えば、車両の前後方向に延びて後述する制御中心位置を通るロール軸回りにて発生したバネ上部材HA(車体)のロール角加速度を検出して、ロール角加速度θr''として出力する。なお、ロール角加速度センサ23は、車両前方に向かって右方向のロール角加速度θr''を正の信号として出力し、車両前方に向かって左方向のロール角加速度θr''を負の信号として出力する。ピッチ角加速度センサ24は、例えば、車両の左右方向に延びて後述する制御中心位置を通るピッチ軸回りにて発生したバネ上部材HA(車体)のピッチ角加速度を検出して、ピッチ角加速度θp''として出力する。なお、ピッチ角加速度センサ24は、バネ上部材HA(車体)の前位置の下向き回りのピッチ角加速度θp''を正の信号として出力し、バネ上部材HA(車体)の前位置の上向き回りのロール角加速度θp''を負の信号として出力する。
一方、サスペンションECU21の出力側には、図3に示すように、各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLにおける各可変絞り機構13のアクチュエータ13bの作動を制御するための駆動回路25a,25b,25c,25dが接続されている。この構成により、サスペンションECU21は、各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLを構成するショックアブソーバ12が発生する減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを段階的に変更して制御できるようになっている。
次に、上記のように構成した車両の減衰力制御装置Aの作動を詳細に説明する。運転者によって図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、サスペンションECU21は、図4に示す減衰力制御プログラムの実行をステップS10にて開始する。そして、サスペンションECU21は、続くステップS11にて、ロール角加速度センサ23およびピッチ角加速度センサ24からそれぞれロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''を入力し、ステップS12にて、バネ上加速度センサ22a〜22dから前後左右の4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を入力する。
続いて、サスペンションECU21は、ステップS13において、前記ステップS11およびステップS12にて入力した各検出値すなわち6つの物理量を用いて、後述する減衰力変更制御ルーチンを実行することによって各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLを構成するショックアブソーバ12が発生する減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを段階的に変更する制御を開始するか否かを表す変更制御開始フラグFRGを設定する条件が成立しているか否かを判定する。以下、この判定処理を詳細に説明する。
バネ上部材HA(車体)は、車両走行中に、例えば、路面の凹凸などによってバネ下部材LAが振動(変位)することのあおりを受けて、上下変位挙動(所謂、ヒーブ挙動)、ロール挙動、ピッチ挙動を生じる。このようなヒーブ挙動、ロール挙動、ピッチ挙動に伴うバネ上部材HA(車体)の振動を抑制して乗り心地を向上させるために、サスペンションECU21は、各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLを構成するショックアブソーバ12が発生する減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを段階的に変更する。このとき、サスペンションECU21は、後述するように、バネ上部材HA(車体)に発生した振動を優先的に抑制する目標位置、例えば、車両の重心位置や後席、運転席などを中心として、効率よく振動を抑制するように、各ショックアブソーバ12が発生する減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを段階的に変更する。なお、以下の説明においては、このバネ上部材HA(車体)に発生した振動を優先的に抑制する目標位置を制御中心位置という。
ところで、このように、制御中心位置におけるバネ上部材HA(車体)の振動を抑制(制振)する場合、一般的には、制御中心位置におけるヒーブ挙動、ロール挙動、ピッチ挙動に対応した信号、具体的には、制御中心位置にて発生したバネ上部材HA(車体)の加速度の大きさに基づいて各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを変更する。しかしながら、図5にて破線で示すように、例えば、制御中心位置における上下方向加速度の大きさは、4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を平均したものとなるため、その絶対値が小さくなる。また、制御中心位置は、車両の幾何学的な位置関係から、前輪位置と後輪位置との間に存在する。このため、バネ上部材HA(車体)の挙動が変化した直後においては、前輪位置(後輪位置)から制御中心位置に向けて振動が伝播することになる。したがって、図5に示すように、破線で示す制御中心位置における上下方向加速度のピークの発生時点は、時間軸上において、実線で示す前輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr''(バネ上上下方向加速度Xbfl'')のピークの発生時点よりも遅く、かつ、一点鎖線で示す後輪位置のバネ上上下方向加速度Xbrr''(バネ上上下方向加速度Xbrl'')のピークの発生時点よりも早くなる。
このため、制御中心位置における上下方向加速度のみに基づいて、各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更を開始すると、応答性良く減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更制御が実行できない可能性がある。そして、この場合には、乗り心地が悪化し、乗員が不快感を覚える可能性がある。
これらのことに基づき、サスペンションECU21は、ステップS13において、前記ステップS11,12にて入力したロール角加速度θr''、ピッチ角加速度θp''および4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''のそれぞれに対し、バネ上部材HA(車体)の挙動に合わせて予め設定された判定値、具体的には、第2判定値としてのロール角加速度判定値θr0''およびピッチ角加速度判定値θp0''、第1判定値としてのバネ上上下方向加速度判定値Xbfr0'',Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0''と比較する。そして、サスペンションECU21は、入力したロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''が前記予め設定されたロール角加速度判定値θr0''およびピッチ角加速度判定値θp0''以上であるか否かを判定するとともに、4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''のうちの少なくとも一つのバネ上上下方向加速度Xbfr''(Xbfl'',Xbrr'',Xbrl'')が前記予め設定されたバネ上上下方向加速度判定値Xbfr0''(Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0'')以上であれば、変更制御開始フラグFRGを設定する条件が成立しているため「Yes」と判定してステップS14に進む。より具体的には、4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''のうち、いずれかのバネ上上下方向加速度Xbfr''(Xbfl'',Xbrr'',Xbrl'')が、最初に、対応するバネ上上下方向加速度判定値Xbfr0''(Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0'')以上となれば、「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、各検出値がいずれも前記予め設定された判定値よりも小さければ、「No」と判定してステップS15に進む。
ステップS14においては、前記ステップS13の判定処理により、バネ上部材HA(車体)がヒーブ挙動変化、ロール挙動変化またはピッチ挙動変化によって振動しているため、変更制御開始フラグFRGの値を、変更制御開始の決定を表す「1」に設定する。そして、サスペンションECU21は、ステップS16に進む。
ステップS15においては、前記ステップS13の判定処理により、バネ上部材HA(車体)が振動していないため、変更制御開始フラグFRGの値を、変更制御終了の決定を表す「0」に設定する。そして、サスペンションECU21は、ステップS16に進む。
ステップS16においては、サスペンションECU21は、制御中心位置を中心として乗り心地を向上させるための減衰力変更制御ルーチンを実行する。以下、この減衰力変更制御ルーチンを説明する。
ここで、サスペンションECU21は、各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLの各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを互いに協調させて変更制御することにより、制御中心位置を中心としてバネ上部材HA(車体)に発生するヒーブ挙動変化、ロール挙動変化、ピッチ挙動変化に伴う振動を同時に抑制して乗り心地を向上させる。このため、本実施形態においては、各サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLの各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを、所謂、4輪モデルにおける非線形H∞制御に基づく減衰力変更制御ルーチンを実行して制御する。
この減衰力変更制御ルーチンは、図6に示すように、ステップS50にて、その実行が開始される。そして、続くステップS51において、サスペンションECU21は、変更制御開始フラグFRGの設定値が「1」であるか否かを判定する。すなわち、サスペンションECU21は、変更制御開始フラグFRGの設定値が「1」であれば、「Yes」と判定してステップS52に進む。一方、変更制御開始フラグFRGの設定値が「1」ではないすなわち「0」であれば、「No」と判定してステップS58に進み、減衰力変更制御ルーチンの実行を終了する。そして、図4の減衰力制御プログラムに戻り、ステップS17にて同プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
ステップS52においては、サスペンションECU21は、前記ステップS12にてバネ上加速度センサ22a〜22dから入力した4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を二階積分し、バネ上部材HA(車体)の上下方向の変位量であるバネ上上下変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlを計算する。そして、サスペンションECU21は、バネ上上下変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlを計算すると、ステップS53に進む。ここで、バネ上上下方向変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlは、車両上方向への変位であるときに正の値として計算され、車両下方向への変位であるときに負の値として計算される。
ステップS53においては、サスペンションECU21は、前記ステップS52にて計算したバネ上上下変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlを時間微分してバネ上部材HA(車体)の上下方向の速度であるバネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'を計算する。ここで、バネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'は、車両上方への速度であるときに正の速度として計算され、車両下方への速度であるときに負の速度として計算される。そして、サスペンションECU21は、バネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'を計算すると、ステップS54に進む。
ステップS54においては、サスペンションECU21は、各ショックアブソーバ12が発生すべき減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを決定する要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlを計算する。なお、本実施形態においては、上述したように、サスペンションECU21は、4輪モデルにおける非線形H∞制御理論を用いて各ショックアブソーバ12の要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlを計算する。以下、この4輪モデルにおける非線形H∞制御理論を用いた要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlの計算について簡単に説明しておく。
この実施形態において計算される要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlは、減衰係数の可変部分(非線形部分)である可変減衰係数Cvと、減衰係数の固定部分(線形部分)である固定減衰係数Coとの和により表される。ここで、可変減衰係数Cvは、前記ステップS52にて計算したバネ上上下変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlと、前記ステップS53にて計算したバネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'とを含むとともに、バネ上加速度センサ22a〜22d、ロール角加速度センサ23およびピッチ角加速度センサ24によって検出された4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''、ロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''を用いて計算されるものである。また、固定減衰係数Coは、ショックアブソーバ12の仕様によって予め定められるものであり、例えば、ショックアブソーバ12および可変絞り機構13により実現可能な減衰係数の最大値と最小値の中間の値付近の減衰係数に設定することができる。
車両のバネ上部材HA(車体)は、上述したように、走行に伴ってヒーブ挙動、ロール挙動、ピッチ挙動を生じる。そして、図7に示す4輪モデルにおいて、制御中心位置におけるヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動の運動方程式は、一般的に、それぞれ、下記式1〜3によって表すことができる。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
Figure 2011016382
ここで、前記式1中のMbはバネ上部材HA(車体)の質量を表す。また、前記式1中のXb''は制御中心位置(例えば、図7において車両の重心位置G)におけるバネ上部材HA(車体)の上下方向の加速度を表すものであり、例えば、4輪位置にてバネ上加速度センサ22a〜22dによって検出されたバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''の平均値である。また、前記式2中のIrはロール慣性モーメントを表し、θr''はロール角加速度センサ23によって検出されたバネ上部材HA(車体)のロール角加速度を表し、Tfは前輪側のトレッド量を表し、Trは後輪側のトレッド量を表す。また、前記式3中のIpはピッチ慣性モーメントを表し、θp''はピッチ角加速度センサ24によって検出されたバネ上部材HA(車体)のピッチ角加速度を表し、Lはホイールベース量を表す。
また、前記式3中のa,bは、車両前後方向(ホイールベースL方向)における制御中心位置の前後割合を表すパラメータである。また、前記式2中のc,dは、車両左右方向(トレッドTf,Tr方向)における制御中心位置の左右割合を表すパラメータである。なお、制御中心位置として車両の重心位置Gを設定する場合には、パラメータc,dは、「1」として計算することができる。
さらに、前記式1〜3中のffr,ffl,frr,frlはバネ上部材HA(車体)の上下方向に作用する上下力である。ここで、前記式1および式3はヒーブ挙動およびピッチ挙動を表す運動方程式であるため、上下力ffr,ffl,frr,frlは前輪側スタビライザ14および後輪側スタビライザ15によるアンチロールモーメントの影響を受けない。このため、前記式1および式3中の上下力ffr,ffl,frr,frlは下記式4によって表される。一方、前記式2はロール挙動を表す運動方程式であるため、上下力ffr,fflは前輪側スタビライザ14によるアンチロールモーメントの影響を受け、上下力frr,frlは後輪側スタビライザ15によるアンチロールモーメントの影響を受ける。このため、前記式2中の上下力ffr,ffl,frr,frlは下記式5によって表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
また、制御中心位置におけるヒーブ挙動によるヒーブ変位量Xb、ロール挙動によるロール変位量θr、ピッチ挙動によるピッチ変位量θpは、パラメータa,b,c,dを用いて表すことができる。以下、これらヒーブ変位量Xb、ロール変位量θrおよびピッチ変位量θpを図8を用いて説明する。
まず、制御中心位置におけるヒーブ変位量Xbから説明する。左右の前輪位置すなわちサスペンション機構10FR,10FLにおけるバネ上上下変位Xbfr,Xbflを、幾何学的な関係に基づいて制御中心位置を通るロール軸周りに変換すると、変換された前輪側上下変位量Xbfは下記式6により表される。同様に、左右の後輪位置すなわちサスペンション機構10RR,10RRにおけるバネ上上下変位Xbrr,Xbrlを、幾何学的な関係に基づいて制御中心位置を通るロール軸周りに変換すると、変換された後輪側上下変位量Xbrは下記式7により表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
そして、前記式6に従って変換された前輪側上下変位量Xbfと前記式7に従って変換された後輪側上下変位量Xbrを、幾何学的な関係に基づいて制御中心位置を通るピッチ軸周り(すなわち制御中心位置)に変換する。これにより、制御中心位置におけるヒーブ変位量Xbは下記式8により表される。
Figure 2011016382
次に、制御中心位置におけるロール変位量θrを説明する。ロール挙動によって左右の前輪位置すなわちサスペンション機構10FR,10FLにて前輪側ロール変位量θrfが発生する場合、sinθrfは幾何学的な関係に基づいて下記式9により表される。同様に、ロール挙動によって左右の後輪位置すなわちサスペンション機構10RR,10RLにて後輪側ロール変位量θrrが発生する場合、sinθrrは幾何学的な関係に基づいて下記式10により表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
そして、前記式9に従って計算されるsinθrfと前記式10に従って計算されるsinθrrとを、幾何学的な関係に基づいて制御中心位置を通るピッチ軸周り(すなわち制御中心位置)に変換し、ロール変位量θrが微小であるとして線形近似すると、sinθrすなわち制御中心位置におけるロール変位量θrは下記式11により表される。なお、この場合、例えば、ロール角加速度センサ23によって検出されたロール角加速度θr''を二階積分してロール変位量θrを代用することもできる。
Figure 2011016382
次に、制御中心位置におけるピッチ変位量θpを説明する。ピッチ挙動によって前後右輪位置すなわちサスペンション機構10FR,10RRにて右輪側ピッチ変位量θprが発生する場合、sinθprは幾何学的な関係に基づいて下記式12により表される。同様に、ピッチ挙動によって前後左輪位置すなわちサスペンション機構10FL,10RLにて左輪側ピッチ変位量θplが発生する場合、sinθplは幾何学的な関係に基づいて下記式13により表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
そして、前記式12に従って計算されるsinθprと前記式13に従って計算されるsinθplとを、幾何学的な関係に基づいて制御中心位置を通るロール軸周り(すなわち制御中心位置)に変換し、ピッチ変位量θpが微小であるとして線形近似すると、sinθpすなわち制御中心位置におけるピッチ変位量θpは下記式14により表される。なお、この場合、例えば、ピッチ角加速度センサ24によって検出されたピッチ角加速度θp''を二階積分してピッチ変位量θpを代用することもできる。
Figure 2011016382
ここで、本実施形態においては、下記式15に示すように、各ショックアブソーバ12の可変減衰係数Cvfr,Cvfl,Cvrr,Cvrlを制御入力uとし、バネ上上下変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlおよびバネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'を状態量xpとし、ヒーブ変位量Xb、ロール変位量θrおよびピッチ変位量θpを評価出力zpとする。この場合、この4輪モデルを状態空間表現すると、例えば、下記式16,17のように示すことができる。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
Figure 2011016382
ただし、前記式16中のAp,Bp(xp)および前記式17中のCp,Dpは係数行列を表す。この場合、特に、前記式17に表される評価出力の状態空間表現における係数行列(出力行列)Cpをパラメータa,b,c,dを用いて、例えば、下記式18のように示すと、係数行列Dpは零行列となる。
Figure 2011016382
ここで、状態空間表現を表す前記式16の右辺第二項においては、係数行列Bp(xp)に状態量xpが含まれ、このBp(xp)に制御入力uが乗算されている。したがって、このシステムは双線形システムであり、状態量xpの原点近傍では制御入力uが作用せずに不可制御となる。この問題を解決するために、非線形の重み関数を用いた非線形H∞状態フィードバック制御系が設計される。
今、非線形H∞状態フィードバック制御系を設計するために、評価出力zpと制御入力uに周波数重みを加えた図9に示すような非線形H∞状態フィードバック制御系の一般化プラントを想定する。ここで、周波数重みとは、重みの大きさが周波数に応じて変化する重みであり、伝達関数で与えられる動的な重みのことである。この周波数重みを用いることにより、制御性能を上げたい周波数帯域の重みを大きくし、制御性能を無視してよい周波数帯域に関しては重みを小さくすることが可能となる。
そして、図9に示した一般化プラントにおいては、評価出力zpと制御入力uに周波数重みWs(s),Wu(s)がそれぞれ乗算され、さらに、下記式19によって表される条件を満たす状態量xについての非線形な重み関数a1(x),a2(x)がそれぞれ乗算される。
Figure 2011016382
ここで、周波数重みWs(s)に対する状態空間表現は、周波数重みWs(s)の状態量xw、周波数重みWs(s)の出力zwおよび各定数行列Aw,Bw,Cw,Dwにより、下記式20によって表される。また、周波数重みWu(s)に対する状態空間表現は、周波数重みWu(s)の状態量xu、周波数重みWu(s)の出力zuおよび各定数行列Au,Bu,Cu,Duにより、下記式21によって表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
そして、前記式20および式21を用いることにより、前記式16によって表される状態空間表現は、下記式22のように表される。
Figure 2011016382
ただし、前記式22において、状態量x、各係数行列A,B2(x),C11,D121(x),C12,D122(x)は、下記式23に示すように表現される。
Figure 2011016382
したがって、D121(x)が「0」であるため、前記式22によって表される状態空間表現は、下記式24のように表される。
Figure 2011016382
ここで、係数行列D122 -1が存在し、所定の正定数γに対して下記式25によって表されるリカッチ方程式を満たす正定対称解Pが存在し、かつ、重み関数a1(x),a2(x)が下記式26の制約条件を満たす場合、閉ループシステムが内部安定となり、かつ、外乱に対するロバスト性を表すL2ゲインが正定数γ以下となる制御入力u(=k(x))は、下記式27によって表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
Figure 2011016382
そして、前記式26を満たす重み関数a1(x),a2(x)が下記式28のように表わされた場合、前記式27によって表される制御入力u=k(x)は、下記式29のように表される。
Figure 2011016382
Figure 2011016382
ただし、前記式28および式29中のm1(x)は、任意の正定関数である。
このように導出される前記式29によれば、制御入力uは、係数行列C11を用いて計算される。すなわち、係数行列C11は、前記式23から明らかなように、前記式18によって示される係数行列(出力行列)Cpを含む行列であるため、制御入力uは出力行列Cpの各要素を反映して計算されるものである。
したがって、例えば、制御中心位置が車両の重心位置Gである場合には、サスペンションECU21は、この車両の重心位置Gに対応して予め設定されたパラメータa1,b1,c1(=1),d1(=1)を用いて出力行列Cpを確定し、この出力行列Cpを含む係数行列C11を用いて制御入力uを計算する。また、制御中心位置が後席位置である場合には、サスペンションECU21は、後席位置に対応して予め設定されたパラメータa2,b2,c2,d2を用いて出力行列Cpを確定し、この出力行列Cpを含む係数行列C11を用いて制御入力uを計算する。さらに、制御中心位置が運転席位置である場合には、サスペンションECU21は、この運転席位置に対応して予め設定されたパラメータa3,b3,c3,d3を用いて出力行列Cpを確定し、この出力行列Cpを含む係数行列C11を用いて制御入力uを計算する。
このように、制御入力uすなわち各ショックアブソーバ12の可変減衰係数Cvfr,Cvfl,Cvrr,Cvrlを計算すると、サスペンションECU21は、前輪側ショックアブソーバ12の可変減衰係数Cvfr,Cvflに対して予め設定された固定減衰係数Cofを加算し、後輪側ショックアブソーバ12の可変減衰係数Cvrr,Cvrlに対して予め設定された固定減衰係数Corを加算して要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlを計算する。そして、サスペンションECU21は、各ショックアブソーバ12の要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlを計算すると、ステップS55に進む。
ステップS55においては、サスペンションECU21は、前記ステップS54にて計算した要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlを用いて、各ショックアブソーバ12に対する要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqを計算する。すなわち、サスペンションECU21は、要求減衰係数Chfr,Chfl,Chrr,Chrlとバネ上上下速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'と周知の方法により検出した路面変位速度Xwfr',Xwfl',Xwrr',Xwrl'との差分、言い換えれば、各ショックアブソーバ12のストローク速度とを乗算して、要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqを計算する。
このように、要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqを計算すると、サスペンションECU21は、ステップS56に進む。ステップS56においては、サスペンションECU21は、例えば、図示しないROM内に予め記憶している減衰力特性テーブルを参照して、ショックアブソーバ12のピストン12bに形成された連通路12b1の流路断面積を段階的に変更するバルブ開度OPを決定する。
ここで、この減衰力特性テーブルには、可変絞り機構13により設定可能な全てのバルブ開度OPの段数をパラメータとし、ストローク速度に対する各ショックアブソーバ12の減衰力のデータが記憶されている。そして、サスペンションECU21は、減衰力特性テーブルに記憶されている各減衰力の中から、前記ステップS55にて計算した要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqに最も近い減衰力に対応するバルブ開度OPの段数を各ショックアブソーバ12についてそれぞれ選択して決定し、ステップS57に進む。
ステップS57においては、サスペンションECU21は、駆動回路25a〜25dを介して、前記ステップS56にて決定したそれぞれのバルブ開度OPの段数に対応する信号を、サスペンション機構10FR,10FL,10RR,10RLの各アクチュエータ13bに出力する。そして、各アクチュエータ13bは、出力された信号に基づいて、前記決定されたバルブ開度OPの段数に対応するようにバルブ13aを作動させる。これにより、各ショックアブソーバ12は、要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqに最も近くなる減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを発生させることができる。
このように、各アクチュエータ13bの作動を制御して各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlを変更すると、サスペンションECU21は、ステップS58に進み、減衰力変更制御ルーチンの実行を終了する。そして、サスペンションECU21は、ふたたび、減衰力制御プログラムに戻り、ステップS17にて同プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、ふたたび、ステップS10にて減衰力制御プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、サスペンションECU21は、減衰力制御プログラムのステップS13,S14にて、4輪位置にてそれぞれ検出される第1物理量としてのバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を用いて各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更制御開始フラグFRGを「1」に設定することにより、4輪位置におけるバネ上部材HA(車体)の振動が発生した時点で各減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更開始を決定することができる。これにより、バネ上部材HA(車体)の制御中心位置(例えば、車両の重心位置、後席位置、運転席位置など)に発生するヒーブ挙動、ロール挙動およびピッチ挙動のみに応じてショックアブソーバの減衰力を変更制御する場合に比して、早いタイミングによってバネ上部材HA(車体)に発生した振動を抑制する要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqに変更することができる。したがって、制御中心位置において挙動変化に伴う振動を適切に抑制できて乗り心地を向上させることができる。
また、制御中心位置は、幾何学的にバネ上部材HA(車体)に連結された各バネ下部材LAの連結位置によって決定される領域内に位置する。このため、サスペンションECU21がステップS13,S14にて4輪位置にてそれぞれ検出されるバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を用いて各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更制御開始フラグFRGを「1」に決定することにより、制御中心位置を、例えば、車両の重心位置、後席位置、運転席位置などの任意の位置に設定した場合であっても、早いタイミングによってバネ上部材HA(車体)に発生した振動を抑制する要求減衰力Ffr_req,Ffl_req,Frr_req,Frl_reqに変更することができる。
さらに、減衰力制御プログラムのステップS13にて、4つのバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''のうちのいずれかのバネ上上下方向加速度Xbfr''(Xbfl'',Xbrr'',Xbrl'')が最初に第1判定値としてのバネ上上下方向加速度判定値Xbfr0''(Xbfl0'',Xbrr0'',Xbrl0'')以上となったときに、サスペンションECU21は、ステップS14にて、変更制御開始フラグFRGを「1」に決定することができる。これにより、より早いタイミングによってバネ上部材HA(車体)に発生した振動を抑制する減衰力に変更することができる。したがって、制御中心位置において挙動変化に伴う振動をより適切に抑制できて乗り心地を向上させることができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記減衰力制御プログラムにおいて、サスペンションECU21は、ステップS13にて、検出された第2物理量としてのロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''と第1物理量としての4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''、すなわち、物理量として6つの加速度を用い、これら各加速度の大きさと予め設定された各判定値とを比較することによって変更制御開始フラグFRGの設定条件が成立しているか否かを判定するように実施した。
この場合、これらの加速度に代えて、例えば、検出されたロール角加速度θr''、ピッチ角加速度θp''および4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''を時間積分して算出可能なロール角速度θr'、ピッチ角速度θp'および4輪位置のバネ上上下方向速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'を物理量として採用して実施することもできる。また、これらのロール角速度θr'、ピッチ角速度θp'および4輪位置のバネ上上下方向速度Xbfr',Xbfl',Xbrr',Xbrl'をさらに時間積分して算出可能なロール角度(ロール変位量)θr、ピッチ角度(ピッチ変位量)θpおよび4輪位置のバネ上上下方向変位量Xbfr,Xbfl,Xbrr,Xbrlを物理量として採用して実施することもできる。あるいは、検出されたロール角加速度θr''、ピッチ角加速度θp''および4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''をさらに時間微分し、これら各加速度のジャーク(加加速度)を物理量として採用して実施することもできる。
このように、加速度以外に、ジャーク(加加速度)、速度、変位などを物理量として採用して実施した場合であっても、上記実施形態と同様に、早いタイミングで変更制御開始フラグFRGの設定条件が成立しているか否かを判定することができる。その結果、応答性良く各ショックアブソーバ12の減衰力Ffr,Ffl,Frr,Frlの変更を開始してバネ上部材HA(車体)のヒーブ挙動変化、ロール挙動変化、ピッチ挙動変化に伴う振動を良好に抑制することができ、上質な乗り心地を確保することができる。
また、上記実施形態においては、サスペンションECU21は、減衰力制御プログラムのステップS13にて、検出された第2物理量としてのロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''と第1物理量としての4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''、すなわち、6つの物理量を用いて、変更制御開始フラグFRGの設定条件が成立しているか否かを判定するように実施した。この場合、4輪位置のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl'',Xbrr'',Xbrl''をそれぞれ独立して用いることに代えて、例えば、前輪側のバネ上上下方向加速度Xbfr'',Xbfl''を平均した前輪側バネ上上下方向加速度と、後輪側のバネ上上下方向加速度Xbrr'',Xbrl''を平均した後輪側バネ上上下方向加速度とを採用し、検出されたロール角加速度θr''およびピッチ角加速度θp''と併せて、4つの物理量を用いて、変更制御開始フラグFRGの設定条件が成立しているか否かを判定するように実施することも可能である。この場合であっても、制御中心位置よりも早く前輪位置または後輪位置におけるバネ上上下方向加速度(物理量)が変化するため、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
10…サスペンション機構、11…サスペンションスプリング、12…ショックアブソーバ、12a…シリンダ、12b…ピストン、12b1…連通路、12c…ピストンロッド、13…可変絞り機構、13a…バルブ、13b…アクチュエータ、20…電気制御装置、21…サスペンションECU、22a〜22d…バネ上加速度センサ、23…ロール角加速度センサ、24…ピッチ角加速度センサ、25a〜25d…駆動回路、HA…バネ上部材、LA…バネ下部材、OP…バルブ開度

Claims (4)

  1. 車両の4輪位置にてバネ下部材とバネ上部材との間に配設されて前記バネ下部材に対する前記バネ上部材の振動を減衰する減衰力を発生するショックアブソーバと、各ショックアブソーバが発生する減衰力を変更制御する減衰力変更手段とを備えた車両の減衰力制御装置において、
    前記バネ下部材を介して前記バネ上部材に伝達される振動によって変化する第1物理量を、前記車両の4輪位置のそれぞれにて検出する第1物理量検出手段と、
    車両の走行によって前記バネ上部材に発生する挙動変化に伴う振動を優先的に減衰させる制御中心位置にて前記バネ上部材に発生する振動によって変化する第2物理量を検出する第2物理量検出手段と、
    前記第1物理量検出手段によって検出された各第1物理量の大きさとこれら各第1物理量にそれぞれ対応して予め設定された第1判定値とを比較して判定するとともに、前記第2物理量検出手段によって検出された第2物理量の大きさとこの第2物理量に対応して予め設定された第2判定値とを比較して判定し、前記各第1物理量および前記第2物理量のうちの少なくとも一つの前記第1物理量の大きさが前記対応して予め設定された第1判定値以上となったときに、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定する変更開始決定手段とを備え、
    前記減衰力変更手段が、
    前記変更開始決定手段による前記減衰力の変更開始の決定に応じて、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力を変更することを特徴とする車両の減衰力制御装置。
  2. 請求項1に記載した車両の減衰力制御装置において、
    前記変更開始決定手段は、
    前記各第1物理量のうちのいずれかの前記第1物理量が最初に前記対応して予め設定された第1判定値以上となったときに、前記各ショックアブソーバが発生する減衰力の変更開始を決定することを特徴とする車両の減衰力制御装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載した車両の減衰力制御装置において、
    前記第1物理量検出手段が検出する第1物理量は、
    前記車両の4輪位置のそれぞれにて前記バネ下部材を介して前記バネ上部材に伝達される振動によって変化する加加速度、加速度、速度および変位量のうちのいずれか一つであることを特徴とする車両の減衰力制御装置。
  4. 請求項1または請求項2に記載した車両の減衰力制御装置において、
    前記第2物理量検出手段が検出する第2物理量は、
    前記バネ上部材のロール挙動変化に伴う振動によって変化するロール角加加速度、ロール角加速度、ロール角速度およびロール角度のうちのいずれか一つ、ならびに、前記バネ上部材のピッチ挙動変化に伴う振動によって変化するピッチ角加加速度、ピッチ角加速度、ピッチ角速度およびピッチ角度のうちのいずれか一つであることを特徴とする車両の減衰力制御装置。
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