以下に、図面を参照して本発明に係る車両制御装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両制御装置が適用された車両の概略構成例を示す図である。車両制御装置1は、走行用動力源として動力源21を搭載した車両10に適用される。なお、図1に例示する車両10は、動力源21として、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどのエンジンを用いるものとして説明するが、動力源21は、モータなどの電動機でもよいし、モータなどの電動機とエンジンとを併用したものでもよい。
また、車両制御装置1が適用された車両10は、動力源21が車両10の前進行方向における前側部分に搭載され、駆動輪を左右の後輪である車輪30RL、30RRとする後輪駆動となっている。なお、車両10の動力源21の搭載位置は、前側部分のみに限定されるものではなく、後側部分、中央部分のいずれに搭載されても良い。また、車両10の駆動形式は、後輪駆動のみに限定されるものではなく、前輪駆動、4輪駆動のいずれの形式であってもよい。
また、車両制御装置1は、後述する電子制御装置(ECU:Electric Control Unit)50により構成する、すなわち、車両制御装置1をECU50により兼用して構成するものとして説明するが、これに限らない。車両制御装置1は、ECU50とは別個に構成され、ECU50に接続するようにしてもよい。
車両制御装置1は、動力源21を制御し車両10のバネ上振動を抑制するいわゆるバネ上制振制御(制振制御)を実行するものである。ここで、車両10のバネ上振動とは、加振源を路面とし、路面の凹凸に応じて路面から車両10の左右前輪である車輪30FL、30FR、左右後輪である車輪30RL、30RRへの入力により、サスペンションを介して車両10の車体に発生する振動のうち、例えば、1〜4Hzの周波数成分の振動をいう。ここでいうバネ上制振とは、上記車両10のバネ上振動を抑制するものである。なお、車種や車両の構成によって顕著にあらわれる周波数成分が異なり、多くの車両は1.5Hz近傍の周波数成分である。この車両10のバネ上振動には、車両10のピッチ方向又はバウンス方向(上下方向)あるいは両方の成分が含まれている。
車両制御装置1は、路面から車両10の左右前輪である車輪30FL、30FR、左右後輪である車輪30RL、30RRへの入力により、例えば、1〜4Hz、さらに言えば1.5Hz近傍の周波数成分の車両10のピッチ方向又はバウンス方向の振動が生じた場合に動力源21を制御し逆位相の駆動トルクを出力することで車輪(駆動時には、駆動輪)が路面に対して作用している「車輪トルク」(車輪と接地路面上との間に作用するトルク)を調節し上記振動を抑制する。つまり、車両制御装置1は、動力源21の動力、すなわち駆動トルクを制御することで、駆動トルクを路面に伝達する駆動輪としての車輪30RL、30RRにバネ上振動を抑制する車輪トルクである制振トルクを発生させる車輪トルク制御を行い、上記振動を抑制する。車両制御装置1が実行する制振制御においては、この制振トルクを車輪30RL、30RRに作用させることによって、バネ上振動が抑制される。
これにより、車両制御装置1は、運転者の操縦安定性、乗員の乗り心地等を改善している。また、このような動力源21が発生する動力の制御、すなわち動力制御による制振制御によれば、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、動力制御による制振制御においては、制御対象が動力源の動力(駆動トルク)に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
車両制御装置1が適用される車両10は、図1に示すように、4つの車輪に加えて、運転者が操作するアクセルペダル60と、運転者のアクセル操作による要求値、すなわちアクセルペダル60の踏込量であるアクセルペダル踏込量θaを検出し、アクセルペダル踏込量θaに対応した電気信号をECU50に出力するアクセルペダルセンサ70を有する。車両10には、種々の公知の態様にて、運転者のアクセルペダル60の踏込み操作であるアクセル操作に応じて車輪30RL、30RRに駆動力を作用させる駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、動力源21にて発生する動力(駆動トルク)が変速機(例えば、トルクコンバータなどを含む)22、差動歯車装置23等を介して、車輪30RL、30RRへ伝達されるよう構成されている。さらに、車両10は、車両10の車体と各車輪30FL、30FR、30RL、30RRとをそれぞれ連結するサスペンション機構80FL、80FR、80RL、80RRと、サスペンション機構80FL、80FR、80RL、80RRのストローク量をそれぞれ検知するストロークセンサ90FL、90FR、90RL、90RRとを備えている。なお、ここでは図示していないが、車両10には、種々の公知の車両と同様に前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
駆動装置20の作動は、車両制御装置1として兼用されるECU50により制御される。ECU50は、種々の公知の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAMおよび入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータおよび駆動回路を含んでいてよい。ECU50には、車輪30FL、30FR、30RL、30RRに搭載された車輪速センサ40FL、40FR、40RL、40RRからの車輪速度VwFL、VwFR、VwRL、VwRRを表す信号と、ストロークセンサ90FL、90FR、90RL、90RRからのストローク量SFL、SFR、SRL、SRRを表す信号とが入力され、これによりECU50はこれらの車輪速度およびストローク量を取得する。また、ECU50には、車両10の各部に設けられたセンサからのエンジン回転速度(動力源21の出力回転速度であり、動力源21がモータであれば、モータの出力軸の回転速度)Er、変速機22の出力回転速度Dr、アクセルペダル踏込量θa、動力源21の運転環境に対応するパラメータとして、動力源21がガソリンエンジンであれば冷却水温度、吸入空気温度、吸入空気圧、大気圧、スロットル開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期など(動力源21がモータであれば供給電流量、バッテリの蓄電状態SOC(State of Charge)など)、車両10に設けられた不図示のシフトポジション装置のシフトポジション、変速機22が複数のギヤ段を有するものであれば変速機22のギヤ段等の信号が入力される。なお、ECU50は、上記以外に、本実施の形態1の車両10において実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号が入力される。
ECU50は、図2に示すように、例えば、動力源21の作動、特に動力源21が発生する動力をドライバ要求トルクTeなどに基づいて制御することで駆動制御装置としても機能する車両制御装置1と、各輪に制動力を発生する制動装置100の作動を制御する制動制御装置2とを含んで構成される。車両制御装置1は、駆動制御部3と、車両制振制御部4とを含んで構成されている。なお、本実施の形態1では、駆動力制御装置を車両制御装置1により兼用して構成するものとして説明するが、これに限定されるものではなく、駆動力制御装置とECU50とを別個に構成し、駆動力制御装置をECU50に接続するようにして構成してもよい。また、制動制御装置2も同様に個別に構成し、制動制御装置2をECU50に接続するように構成しても良い。
制動制御装置2は、図2に示すように、各車輪30FL、30FR、30RL、30RRが所定量回転する毎に逐次的に生成されるパルス形式の電気信号が各車輪速センサ40FL、40FR、40RL、40RRから入力される。制動制御装置2は、この逐次的に入力されるパルス信号の到来する時間間隔を計測することにより各車輪回転速度ωi(i=FL、FR、RL、RR)を算出し、これに車輪半径Rを乗ずることにより、各車輪速度Vwiを算出する。制動制御装置2は、本実施の形態1では、各車輪30FL、30FR、30RL、30RRにそれぞれ対応する車輪速度VwFL、VwFR、VwRL、VwRRの平均値R・ωを車両制御装置1(本実施の形態1では、車両制振制御部4)に出力する。なお、車輪回転速度から車輪速度への演算は、車両制御装置1にて行われてもよい。その場合、車輪回転速度が制動制御装置2から車両制御装置1に出力される。車輪回転速度から車輪速度への演算については後に詳述する。
また、制動制御装置2は、種々の公知のABS制御、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(Traction Control)といった自動制動制御、すなわち、車輪30FL、30FR、30RL、30RRと路面との間の摩擦力(車輪30FL、30FR、30RL、30RRの前後力と横力とのベクトル和)が過大になり限界を越えることを抑制し、あるいは、かかる車輪30FL、30FR、30RL、30RRの摩擦力がその限界を超えることに起因する車両10の挙動の悪化を抑制するべく車輪上の前後力又はスリップ率を制御するものであってもよく、あるいは、ABS制御、VSC、TRCの車輪30FL、30FR、30RL、30RRのスリップ率制御に加えてステアリング制御等を含めて車両10の挙動の安定化を図るVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)であってもよい。なお、VDIMが搭載される場合には、制動制御装置2は、VDIMの一部を構成することとなる。
ここで、制動制御装置2は、上記自動制動制御(ABS制御、VSC、TRC、VDIM)において、車両10の挙動を変化させて制御、すなわち車両10の挙動を変化させることで安定した挙動となるように積極的に制御するために、動力源21が発生する動力を制御する場合がある。制動制御装置2は、自動制動制御に基づいて車両10の挙動を変化させて制御するために駆動力制御を行う場合、例えば、ドライバ要求トルクTeを変更する。つまり、制動制御装置2は、車両挙動制御部としての機能も有する。制動制御装置2は、自動制動制御に基づいてドライバ要求トルクTeを変更する場合、動力源21の駆動トルクが車両10の挙動を安定した挙動となるように変化させることができる制動トルク修正量を駆動制御装置としても機能する車両制御装置1に出力する。ここで、制動制御装置2から車両制御装置1に出力された制動トルク修正量は、後述する要求トルク算出部3aにおいて算出されたドライバ要求トルクTeに加減算される。この結果、ドライバ要求トルクTeが制動トルク修正量に基づいて車両10の挙動を変化させて制御するように変更(補正、修正)され、変更された最終的な要求トルクに応じた制御指令が制御指令決定部3cから動力源21に出力されることとなる。なお、制動制御装置2は、自動制動制御に基づいて車両10の挙動を変化させて制御するために動力源21が発生させる駆動トルクを制御する際に、アクセルペダル踏込量θaを算出しても良い。この場合は、算出されたアクセルペダル踏込量θaが車両制御装置1の要求トルク算出部3aへ出力される。
車両制御装置1は、図2に示すように、駆動制御装置として、車両10に対する運転者からの駆動要求に応じた値としてのアクセルペダル踏込量θaに基づいて、運転者の要求する駆動装置20の動力源21の駆動トルクであるドライバ要求トルク(要求駆動力に応じたトルク)Teを決定する。そして、車両制御装置1は、このドライバ要求トルクTeを制御の基本として種々の変更(補正、修正)がなされた最終的な要求トルクに基づいて動力源21に制御指令を出力する。駆動装置20の動力源21に出力される制御指令は、制御対象である動力源21の駆動トルクを最終的な要求トルクに調節するために、言い換えれば、後述する車輪30RL、30RRに作用する制振トルクを調節するために、この動力源21に入力する操作量を含んだ指令である。制御指令に含まれる動力源21の操作量は、例えば、動力源21がガソリンエンジンであれば最終的な要求トルクに応じたスロットル開度や点火時期、動力源21がディーゼルエンジンであれば最終的な要求トルクに応じた燃料噴射量、動力源21がモータであれば最終的な要求トルクに応じた供給電流量などである。
そして、車両制御装置1では、動力源21の駆動トルクを制御することによる車両10のピッチ方向の振動やバウンス方向の振動を抑制する制御、すなわちバネ上振動を抑制する制御である制振制御を実行すべく、運転者によって要求される駆動トルクであるドライバ要求トルクTeが制振制御の制御量である制振トルク、さらに言えば、制振制御で要求される車輪トルクである制振トルクに基づいて修正され、あるいは、ドライバ要求トルクTeに応じた制御指令が制振トルクに応じた制振制御指令に基づいて修正され、その修正された最終要求トルクに対応する制御指令が駆動装置20の動力源21に出力される。
駆動制御部3は、要求トルク算出部3aと、加算器3bと、制御指令決定部3cとを含んで構成されている。要求トルク算出部3aは、公知の任意の手法によりアクセルペダル踏込量θaに基づいてドライバ要求トルクTeを算出するものである。加算器3bは、要求トルク算出部3aにより算出されたドライバ要求トルクTeを車両制振制御部4により算出された制振制御の制御量である制振トルクに応じた制振トルク修正量Txで補正する、すなわち、要求トルク算出部3aにより算出されたドライバ要求トルクTeを制振トルクに基づいて補正するものである。制御指令決定部3cは、ドライバ要求トルクTeを制振トルクに応じた修正量Txにより修正した最終要求トルクに対応した動力源21の制御指令を生成し、生成された制御指令を動力源21の図示しない各制御器に出力するものである。つまり、駆動制御部3は、アクセルペダル踏込量θaを要求トルク算出部3aにてドライバ要求トルクTeに換算した後、加算器3bにてドライバ要求トルクTeを制振トルクに基づいて修正(補正)して最終要求トルクを算出し、この最終要求トルクを制御指令決定部3cにて駆動装置20への制御指令に変換し、この制御指令を駆動装置20に出力する。
車両制振制御部4は、動力源21を制御し車両10のバネ上振動を抑制する制振制御を実行するための制振制御の制御量である制振トルクに応じた制振トルク修正量Txを設定するものである。
この車両制振制御部4においては、(1)車輪において路面との間に作用する力による車輪の車輪トルクの取得、(2)ピッチ/バウンス振動状態量の取得、(3)ピッチ/バウンス振動状態量を抑制する車輪トルクの修正量の算出とこれに基づく要求トルク又は制御指令の修正が実行される。本実施の形態1の車両制御装置1は、(1)−(3)の処理動作において実現される。
車両10において、例えば、運転者のアクセル操作、すなわち運転者の駆動要求に基づいて駆動装置20が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図3(a)に例示されている車両10の車体において、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動(バウンス方向の振動)と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動(ピッチ方向の振動)が発生しうる。また、車両10の走行中に路面の凹凸に応じて路面から車両10の車輪30FL、30FR、30RL、30RRへの入力により外力またはトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両10に伝達され、やはり車体にピッチ/バウンス振動が発生しうる。
そこで、車両制振制御部4は、車両10の車体のピッチ/バウンス振動の力学的運動モデルを構築し、そのモデルにおいて運転者の駆動要求に応じたドライバ要求トルクTe(を車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(の推定値)とを入力した際の車体の変位z、θとその時間変化率dz/dt、dθ/dt、すなわち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、すなわち、ピッチ/バウンス振動を抑制できるよう駆動装置20の動力源21の動力制御が行われ駆動トルクが調節される(つまり、ドライバ要求トルク、あるいはドライバ要求トルクに応じた制御指令が修正される)。
車両制振制御部4は、図2に示すように、フィードフォワード制御部4aと、フィードバック制御部4bと、駆動トルク変換部4cとを含んで構成される。ここでは、車両制振制御部4は、車両10の車輪の車輪速度に基づいたフィードバック制御と共に車両10に対するドライバ要求トルク(要求駆動力)に基づいたフィードフォワード制御を併用して、制振制御の制御量である制振トルクを設定する。
フィードフォワード制御部4aは、いわゆる、最適レギュレータの構成を有し、ここでは、車輪トルク変換部4dと、運動モデル部4eと、FF二次レギュレータ部4fとを含んで構成される。フィードフォワード制御部4aは、車輪トルク変換部4dにてドライバ要求トルクTeを車輪トルクに換算した値(ドライバ要求車輪トルクTwo)が車両10の車体のピッチ/バウンス振動の運動モデル部4eに入力される。フィードフォワード制御部4aは、運動モデル部4eにて入力されたトルクに対する車両10の状態変数の応答が算出され、FF二次レギュレータ部4fにて後述する所定のゲインKに基づいてその状態変数を最小に収束するドライバ要求車輪トルクTwoの修正量として、FF系制振トルク修正量U・FFが算出される。このFF系制振トルク修正量U・FFは、動力源21に対するドライバ要求トルクTe(要求駆動力)に基づいたフィードフォワード制御系で設定される制振制御のFF制御量である。
フィードバック制御部4bは、いわゆる、最適レギュレータの構成を有し、ここでは、車輪トルク推定部4gと、フィードフォワード制御部4aと兼用される運動モデル部4eと、FB二次レギュレータ部4hとを含んで構成される。フィードバック制御部4bは、車輪トルク推定部4gにて後述するように車輪速度の平均値R・ωに基づいて車輪トルク推定値Twが算出され、この車輪トルク推定値Twは、外乱入力として、運動モデル部4eへ入力される。なお、ここでは、フィードフォワード制御部4aの運動モデル部とフィードバック制御部4bの運動モデル部を運動モデル部4eにより兼用するが、それぞれ別個に設けられていてもよい。フィードバック制御部4bは、運動モデル部4eにて入力されたトルクに対する車両10の状態変数の応答が算出され、FB二次レギュレータ部4hにて後述する所定のゲインKに基づいてその状態変数を最小に収束するドライバ要求車輪トルクTwoの修正量として、FB系制振トルク修正量U・FBが算出される。このFB系制振トルク修正量U・FBは、路面から車両10の車輪30FL、30FR、30RL、30RRへの入力による外力又はトルク(外乱)に基づいた車輪速度の変動分に応じたフィードバック制御系で設定される制振制御のFB制御量である。
制振手段としての車両制振制御部4は、フィードフォワード制御部4aによるFF制御量であるFF系制振トルク修正量U・FFとフィードバック制御部4bによるFB制御量であるFB系制振トルク修正量U・FBとが加算器4iに出力され、加算器4iにてFF系制振トルク修正量U・FFとFB系制振トルク修正量U・FBとが加算されて、制振制御におけるトータルの制御量である制振トルクが算出される。そして、この車両制振制御部4は、この制振トルクが駆動トルク変換部4cにて駆動装置20の駆動トルクの単位、すなわち、ドライバ要求トルクTeの単位に換算した値である制振トルク修正量Txに変換される。そして、車両制振制御部4は、変換された制振トルク修正量Txが加算器3bに出力される。つまり、車両制御装置1は、力学的運動モデルを用いて取得された制振トルク修正量Txに基づいてドライバ要求トルクTeを補正し、車輪30RL、30RRにバネ上振動を抑制する制振トルク(車輪トルク)を発生することができる最終要求トルク(駆動トルク)に変更する。
したがって、車両制御装置1は、運転者が動力源21に要求する駆動トルクであるドライバ要求トルクTeと、制振制御の制御量であり制振制御で車輪30RL、30RRに要求される車輪トルクである制振トルクに応じた制振トルク修正量Txとに基づいて、動力源21が発生する最終要求トルクを調節することができ、これにより、車輪30RL、30RRにドライバ要求車輪トルクを発生させた上で、バネ上振動を抑制する制振トルクを発生させることができる。つまり、車両制御装置1は、車両10に搭載された動力源21が発生する動力を制御することで、動力を伝達する駆動輪である車輪30RL、30RRにバネ上振動を抑制する制振トルクを発生させる制振制御を実行し、動力源21の出力トルク(駆動トルク)を制御して車輪30RL、30RRの車輪トルクを変化させることで車体に発生する振動を抑制させることができる。
なお、上記の車両制御装置1は、加算器3bにてドライバ要求トルクTeを制振トルク修正量Txで修正し最終要求トルク(駆動トルク)に変更した後に、制御指令決定部3cにてこの最終要求トルクを実現する動力源21の操作量(例えば、動力源21がガソリンエンジンであれば最終的な要求トルクに応じたスロットル開度や点火時期、動力源21がディーゼルエンジンであれば最終的な要求トルクに応じた燃料噴射量、動力源21がモータであれば最終的な要求トルクに応じた供給電流量など)を含む制御指令に変換し駆動装置20の動力源21に出力するものとして説明したがこれに限らない。車両制御装置1は、例えば、加算器3bの前段で、ドライバ要求トルクTeを実現する動力源21の操作量を含む制御指令を算出すると共に制振トルク修正量Txに応じた駆動トルクを実現する動力源21の操作量を含む制振制御指令を算出した後に、加算器3bにて制御指令に含まれる動力源21の操作量を制振制御指令に含まれる動力源21の操作量で修正し最終制御指令に変更し、駆動装置20の動力源21に出力するように構成してもよい。またここでは、制振制御の制御量は、制振制御で車輪30RL、30RRに要求される車輪トルクである制振トルクであるものとして説明したが、制振トルクを駆動装置20の駆動トルクの単位に換算した制振トルク修正量Txであってもよいし、ドライバ要求トルクTeを制振トルク修正量Txで修正した最終要求トルクであってもよい。
ここで、車両制御装置1における制振制御においては、上述したように、車両10の車体のピッチ方向およびバウンス方向の力学的運動モデルを仮定して、ドライバ要求車輪トルクTwo、車輪トルク推定値Tw(外乱)をそれぞれ入力としたピッチ方向またはバウンス方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、かかる状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてピッチ方向およびバウンス方向の状態変数を0に収束させる入力(制振トルク)を決定し、得られた制振トルクに基づいてドライバ要求トルクTeが補正される。
この車両制御装置1における制振制御においては、ピッチ方向またはバウンス方向の状態変数の状態方程式を構成する際に、車輪速度の微分値と、車輪に取り付けられているタイヤの動特性と、駆動トルクとに基づいて車両10のバネ上の上下方向の加速度を推定し、推定したバネ上上下方向加速度に基づいて車両10のバネ上振動を抑制する制振制御を実行するので、より適切な制振制御を行うことができる。
具体的には、運動モデル部4eは、第1ピッチ・バウンス推定部4e1と、推定手段としての上下加速度演算部4e2と、第2ピッチ・バウンス推定部4e3と、総合ピッチ・バウンス推定部4e4と、加算器4e5を備えている。運動モデル部4eでは、第1ピッチ・バウンス推定部4e1は、下記に説明する力学的運動モデルを用いてピッチ方向またはバウンス方向の状態変数の状態方程式を構成する。上下加速度演算部4e2は、車輪速度の微分値と、車輪に取り付けられているタイヤの動特性と、駆動トルクとに基づいて車両10のバネ上の上下方向の加速度を推定する。第2ピッチ・バウンス推定部4e3は、上下加速度演算部4e2が推定した上下方向の加速度を用いてピッチ方向またはバウンス方向の状態変数の状態方程式を構成する。総合ピッチ・バウンス推定部4e4は、第1ピッチ・バウンス推定部4e1が構成した状態方程式と、第2ピッチ・バウンス推定部4e3が構成した状態方程式とが加算器4e5により加算されて入力され、総合的な状態方程式を構成する。
車両10の車体のバウンス方向またはピッチ方向の力学的運動モデルとして、まず、基本的な力学的運動モデルの例を説明し、次に、本実施の形態1において使用する力学的運動モデルの例を説明する。基本的な力学的モデルは、例えば、図3(b)に示すように、車体を質量M
bおよび慣性モーメントIの剛体Sとみなし、この剛体Sが、弾性率k
fと減衰率c
fの前輪サスペンションと弾性率k
rと減衰率c
rの後輪サスペンションにより支持されているとする(車両10の車体のバネ上振動モデル)。この場合、車体の重心Cgのバウンス方向の運動方程式(バウンス方向の力学的運動モデル)とピッチ方向の運動方程式(ピッチ方向の力学的運動モデル)は、下記の式(1a)、(1b)により表すことができる。
上記の式(1a)、(1b)において、Lf、Lrは、それぞれ、重心Cgから前車輪軸および後車輪軸までの距離であり、Rは、車輪半径であり、hは、重心Cgの路面からの高さである。なお、式(1a)において、右辺第1項、第2項は、前車輪軸から、第3項、第4項は、後車輪軸からの力の成分であり、式(1b)において右辺、第1項は、前車輪軸から、第2項は、後車輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)における第3項は、駆動輪において発生している車輪トルクT(Two、Tw)が車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
上記の式(1a)および(1b)は、車両10の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)に示すように、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) ・・・ (2a)
上記の式(2a)において、X(t)、A、Bは、それぞれ、以下に示す式である。
であり、行列Aの各要素a1からa4およびb1からb4は、それぞれ、上記の式(1a)、(1b)にz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=−(k
sf+k
sr)/M
b、
a2=−(c
f+c
r)/M
b、
a3=−(k
sf・L
f−k
sr・L
r)/M
b、
a4=−(c
f・L
f−c
r・L
r)/M
b、
b1=−(L
f・k
sf−L
r・k
sr)/I、
b2=−(L
f・c
f−L
r・c
r)/I、
b3=−(L
f 2・k
sf+L
r 2・k
sr)/I、
b4=−(L
f 2・c
f+L
r 2・c
r)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、上記の状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。したがって、上記の式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・R)
である。
上記の状態方程式(2a)において、
u(t)=−K・X(t) ・・・(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) ・・・(2c)
となる。したがって、トルク入力がされる前には振動はないものとして、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、すなわち、バウンス方向およびピッチ方向の変位およびその時間変化率の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、バウンス・ピッチ振動を抑制する制振トルクu(t)が決定されることとなる。
ゲインKは、いわゆる、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。この理論によれば、2次形式の評価関数(積分範囲は、0から∞)
J=∫(XTQX+uTRu)dt ・・・(3a)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)においてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リッカチ方程式
−dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リッカチ方程式は、線形システムの分野において知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
なお、評価関数Jおよびリッカチ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここでの運動モデルの場合、Q、Rは、
などと置いて、式(3a)において、ドライバ要求トルクの成分のうち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束することとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、すなわち、ドライバ要求トルクの値が速やかに安定値に収束し、Rの成分の値を大きくすると、消費エネルギーが低減される。ここで、フィードフォワード制御部4aに対応するゲインKと、フィードバック制御部4bに対応するゲインKを異ならせても良い。例えば、フィードフォワード制御部4aに対応するゲインKは、運転者の加速感に対応するゲイン、フィードバック制御部4bに対応するゲインKは、運転者の手応えや応答性に対応するゲインとしても良い。
次に、本実施の形態1において第1ピッチ・バウンス推定部4e1が使用する力学的運動モデルの例を説明する。本実施の形態1では、車両10の車体のバウンス方向またはピッチ方向の力学的運動モデルとして、図3(c)に示すように、図3(b)の構成に加えて、前車輪および後車輪のタイヤのバネ弾性を考慮したモデル(車両10の車体のバネ上・下振動モデル)を採用する。前車輪および後車輪のタイヤが、それぞれ、弾性率k
tf、k
trを有しているとすると、図3(c)から理解されるように、車体の重心Cgのバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の式(4a)、(4b)、(4c)、(4d)により表すことができる。
上記の式(4a)−(4d)において、xwf、xwrは、前車輪、後車輪のばね下変位量であり、mwf、mwrは、前車輪、後車輪のばね下の質量である。式(4a)−(4d)は、z、θ、xwf、xwrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図3(b)の場合と同様に、式(2a)のような状態方程式を構成する(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる)。
ここで、図2の車両制振制御部4のフィードバック制御部4bにおいて、外乱として入力される車輪トルクは、例えば、各車輪30FL、30FR、30RL、30RRにトルクセンサを設け実際に検出するように構成してもよいが、ここでは走行中の車両10におけるその他の検出可能な値から車輪トルク推定部4gにて推定された車輪トルク推定値Twが用いられる。
車輪トルク推定値Twは、例えば、各車輪に対応する車輪速センサから得られる車輪回転角速度の平均値ω又は車輪速度の平均値R・ωの時間微分を用いて、次式(5)により推定、算出することができる。
Tw=Mb・R2・dω/dt ・・・(5)
上記の式(5)において、Mbは、車両の質量であり、Rは、車輪半径である。すなわち、駆動輪が路面の接地個所において発生している駆動力の総和が、車両10の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルク推定値Twは、次式(5a)にて与えられる。
Tw=Mb・G・R ・・・(5a)
車両の加速度Gは、車輪速度R・ωの微分値より、次式(5b)によって与えられる。
G=R・dω/dt ・・・(5b)
したがって、車輪トルクは、上記の式(5)のようにして推定される。
次に、本実施の形態1における上下加速度演算部4e2によるバネ上の上下方向の加速度の推定方法を説明する。
図4は、実施の形態1に係る車両制御装置においてバネ上の上下方向の加速度を推定する際に使用するモデルを説明する図である。図4(a)は直進車両モデル、図4(b)は車輪モデルを示している。Vb(t)は車両10の車体速度であり、車輪軸速度の水平量である。Iwは車輪30(30RL、30RR)の慣性モーメントであり、Tは駆動トルク(制動トルクである場合も含む)であり、ω(t)は車輪回転角速度であり、R(t)は車輪半径であり、Vw(t)は車輪接地点速度、Fxは車輪30と路面RSの間に水平方向に働く力である。Fzは車輪30と路面RSとの間に垂直方向に働く力(接地荷重)である。符号Oは車輪回転中心軸である。なお、図4(b)では路面RSは悪路であって凸部があり、これにより車輪30の半径が変化している。
車両直進モデルにおいて、運動方程式は式(6a)、(6b)で表される。式(6a)、(6b)から式(6c)が導かれる。
一方、車輪モデルにおいて、V
w(t)は下記式(7a)で表される。また、ω(t)およびその時間微分は、速度一定の場合の車輪回転角速度ω
0と車輪回転角速度の時間変動量δ
ω(t)とを用いて式(7b)で表される。同様に、R(t)およびその時間微分は、良路(凹凸の無い路面)における速度一定の場合の車輪半径R
0と車輪半径の時間変動量δ
R(t)とを用いて式(7c)で表される。式(7a)、(7b)、(7c)からV
w(t)の時間微分は式(7d)で表される。
さらに、車輪30の車輪滑りを無視すると、式(6c)から下記式(8a)が導かれる。これを式変形して式(8b)とし、これに式(7d)を適用すると式(8c)のようになる。さらに、式(8c)の微小項を無視すると式(8d)となる。式(8d)において、左辺は車両10の駆動トルクをパラメータとして含む前後方向加速度を示し、(dδ
ω(t)/dt)・R
0は車輪速度の微分値を示し、(dδ
R(t)/dt)・ω
0は車輪30の接地荷重変動による上下方向加速度を示す。
さらに、式(8d)を変形すると下記式(9a)となり、これをさらに変形すると式(9b)のようになる。ここで、Fは車輪30の接地荷重であり、F
zに対応する。また、x
bは車両10の車体の変位量(バネ上変位量)である。従って、車両10の車体のバネ上下方向加速度(d
2x
b(t)/dt
2)は、式(9c)のように導くことができる。
ここで、(dδR(t)/dF)は接地荷重の変化に対する車輪半径の変化率を示す量であり、車輪30に取り付けられたタイヤの動特性を示す量である。すなわち、式(9c)は、車両10の車体のバネ上下方向加速度が、駆動トルクと、車輪速度の微分値と、タイヤの動特性によって表すことができることを示している。具体的には、車両のバネ上上下方向加速度は、駆動トルクを(MbR0)で除算して算出される前後方向加速度と、(Iw/MbR0 2+1)を係数とする車輪速度の微分値との線形和を時間積分し、これをタイヤの動特性を示す量で除算したものに比例する。そこで、上下加速度演算部4e2は、式(9c)を用いて、バネ上上下方向加速度を推定する。
第2ピッチ・バウンス推定部4e3は、上下加速度演算部4e2が推定した上下方向の加速度に基づいてピッチ・バウンスの推定を行う。この推定に使用する、車体の重心Cgのバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、上記の式(4a)、(4b)に、車両10の車体の変位量(バネ上変位量)に関する項である−ksf・xbf、−cf・(dxbf/dt)、−ksr・xbr、−cr・(dxbr/dt)、−Lf・ksf・xbf、−Lf・cf・(dxbf/dt)、−Lr・ksr・xbr、−Lr・cr・(dxbr/dt)を追加した式、および式(9b)である。なお、xbf、xbrはそれぞれ前車輪側、後車輪側のバネ上変位量である。これにより、z、θ、xwf、xwrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図3(b)の場合と同様に、式(2a)のような状態方程式を構成する(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる)。
総合ピッチ・バウンス推定部4e4は、第1ピッチ・バウンス推定部4e1が構成した状態方程式と、第2ピッチ・バウンス推定部4e3が構成した状態方程式とが加算して入力される。
なお、運動モデル部4eにおいて用いられる力学的運動モデルのパラメータは、車両制御装置1が備える記憶手段に記憶されている。車両制御装置1の記憶手段は、パラメータ、例えば、Mb、I、Lf、Lr、h、R、ksf、ktf、cf、ksr、ktr、cr、R0、Iwなどを記憶している。また、駆動トルクは、動力源21に取付けたトルクセンサが動力源のトルク(例えばエンジントルク)を検出し、車両制御装置1が備える駆動トルク取得手段がトルクを取得してこれに駆動系の減速比を積算して求める。また、タイヤの動特性(dδR(t)/dF)については、例えば、図5に示すような、車両10を想定した場合の荷重Fzとタイヤの転がり半径Rとの関係を示す曲線L1を予め測定しておき、この曲線L1上で車両10を想定した場合の荷重Fzが点P0の値である場合は、点P0の近傍で曲線L1上の点P1、P2を取る。このとき、点P1、P2の荷重Fzの値の平均値が点P0の荷重Fzの値となるように点P1、P2を取る。そして、この2点を結んだ直線L2の傾きを(dδR(t)/dF)の値として記憶しておく。なお、このように点P0の近傍の2点を取る代わりに、曲線L1を近似した関数を用いて点P0における微分係数を求め、これを(dδR(t)/dF)の値として記憶しておいてもよい。また、車輪速度の微分値は、各車輪に搭載された車輪速センサ40FL、40FR、40RL、40RRからの車輪速度VwFL、VwFR、VwRL、VwRRを取得した上下加速度演算部4e2が演算を行うことによって得ることができる。これらのパラメータは、FF系制振トルク修正量U・FFおよびFB系制振トルク修正量U・FBを算出する際に用いられる。
車両制振制御部4における実際のバネ上制振制御においては、図2のブロック図に示されているように、運動モデル部4eにおいて、式(2a)に相当する微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。次いで、FF二次レギュレータ部4f、FB二次レギュレータ部4hにて、上記のように状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを運動モデル部4eの出力である状態ベクトルX(t)に乗じた値u(t)、すなわち、FF系制振トルク修正量U・FFおよびFB系制振トルク修正量U・FBが、駆動トルク変換部4cにおいて動力源21のドライバ要求トルクTeの単位、すなわち、動力源21の駆動トルクの単位に変換されて、加算器3bにおいてドライバ要求トルクTeが補正される。式(4a)および(4b)で表されるシステムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルの値は、実質的にシステムの固有振動数の成分のみとなる。したがって、u(t)(の換算値)によりドライバ要求トルクTeが補正されるように構成することにより、ドライバ要求トルクTeのうち、システムの固有振動数の成分、すなわち、車両10の車体においてピッチ/バウンス振動を引き起こす成分が修正され、車両10の車体におけるピッチ/バウンス振動を抑制することとなる。運転者の駆動要求に応じたドライバ要求トルクTeにおいて、システムの固有振動数の成分がなくなると、動力源21に出力されるドライバ要求トルクTeに応じた制御指令のうち、システムの固有振動数の成分は、−u(t)のみとなり、Tw(外乱)による振動が収束することとなる。
ここで、上述したように、車両制振制御部4は、フィードフォワード制御部4aとフィードバック制御部4bとが運動モデル部4eを兼用しているものの、基本的には独立した別個の制御系として構成され、FF系制振トルク修正量とFB系制振トルク修正量とをそれぞれ算出した後に、FF系制振トルク修正量とFB系制振トルク修正量とを加算することで制振トルクを設定している。このため、車両制振制御部4は、実際に制振トルクを設定する前段で、フィードフォワード制御部4aのFF系制振トルク修正量、フィードバック制御部4bのFB系制振トルク修正量に対して、それぞれ個別に上下限ガードを行ったり、補正を行ったりすることができる。また、これにより、車両10の状況に応じてどちらか一方の制御を遮断することも容易となる。
そして、本実施形態の車両制振制御部4は、フィードフォワード制御部4aにFF制御補正部4kとFF制御ゲイン設定部4lとを備え、フィードバック制御部4bにFB制御補正部4mとFB制御ゲイン設定部4nとをさらに含んで構成される。車両制振制御部4は、FF制御補正部4kとFF制御ゲイン設定部4lとによってFF系制振トルク修正量を補正する一方、FB制御補正部4mとFB制御ゲイン設定部4nとによってFB系制振トルク修正量を補正している。つまり、車両制振制御部4は、FF系制振トルク修正量に対して車両10の状態に応じてFF制御ゲインを設定しFF系制振トルク修正量にこのFF制御ゲインを掛けることでFF系制振トルク修正量を補正し、FB系制振トルク修正量に対して車両10の状態に応じてFB制御ゲインを設定しFB系制振トルク修正量にこのFB制御ゲインを掛けることでFB系制振トルク修正量を補正する。
FF制御補正部4kは、FF二次レギュレータ部4fの後段、加算器4iの前段に位置しFF二次レギュレータ部4fからFF系制振トルク修正量U・FFが入力され、補正したFF系制振トルク修正量U・FFを加算器4iに出力する。FF制御補正部4kは、このFF系制振トルク修正量U・FFに対してFF制御ゲイン設定部4lが設定するFF制御ゲインK・FFを乗算することで、FF系制振トルク修正量U・FFをFF制御ゲインK・FFに基づいて補正する。そして、FF制御ゲイン設定部4lは、このFF制御ゲインK・FFを車両10の状態に応じて設定する。つまり、FF二次レギュレータ部4fからFF制御補正部4kに入力されたFF系制振トルク修正量U・FFは、FF制御ゲイン設定部4lによりFF制御ゲインK・FFが車両10の状態に応じて設定されることで、FF制御補正部4kにて車両10の状態に応じて補正されることとなる。なお、FF制御補正部4kは、FF系制振トルク修正量U・FFが予め設定される上下限ガード値の範囲内となるように上下限ガードを行ってもよい。
FB制御補正部4mは、FB二次レギュレータ部4hの後段、加算器4iの前段に位置しFB二次レギュレータ部4hからFB系制振トルク修正量U・FBが入力され、補正したFB系制振トルク修正量U・FBを加算器4iに出力する。FB制御補正部4mは、このFB系制振トルク修正量U・FBに対してFB制御ゲイン設定部4nが設定するFB制御ゲインK・FBを乗算することで、FB系制振トルク修正量U・FBをFB制御ゲインK・FBに基づいて補正する。そして、FB制御ゲイン設定部4nは、このFB制御ゲインK・FBを車両10の運転状態に応じて設定する。つまり、FB二次レギュレータ部4hからFB制御補正部4mに入力されたFB系制振トルク修正量U・FBは、FB制御ゲイン設定部4nによりFB制御ゲインK・FBが車両10の運転状態に応じて設定されることで、FB制御補正部4mにて車両10の運転状態に応じて補正されることとなる。なお、FB制御補正部4mは、FB系制振トルク修正量U・FBが予め設定される上下限ガード値の範囲内となるように上下限ガードを行ってもよい。
つぎに、本発明の実施例1として、実施の形態1に基づく車両制御装置を搭載した車両を構成して走行実験を行い、車体に備えたGセンサにより車体のバネ上加速度を測定し、車両制御装置において推定したバネ上加速度と比較した。また、比較例として、特許文献2に記載の技術によりバネ上加速度を計算する車両制御装置を搭載した車両を構成して走行実験を行い、車体に備えたGセンサにより車体のバネ上加速度を測定し、車両制御装置において推定したバネ上加速度と比較した。
図6は、実施の形態1に係る車両制御装置の実施例1と比較例との比較結果を示す図である。図6(a)はバネ上加速度の実測値と、実施例1および比較例での推定値との時間変化を示す。図6(b)、(c)は、実施例1および比較例での推定値をそれぞれ実測値で除算した値のゲイン比と位相比との周波数分布を、縦軸を対数軸として示す。図6(b)、(c)に示すように、実施例1は比較例に比べてゲイン比と位相比とがゼロに近く、実測値に対して精度よく推定できていることが確認された。
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る車両制御装置について説明する。図7は、実施の形態2に係る車両制御装置の機能構成例を制御ブロックの形式で示した模式図である。実施の形態2に係る車両制御装置1Aは、実施の形態1に係る車両制御装置1とは、ストロークセンサ90FL、90FR、90RL、90RRから、サスペンション機構80FL、80FR、80RL、80RRのストローク量SFL、SFR、SRL、SRRを表す信号が運動モデル部4eに入力され、上下加速度演算部4e2は、ストローク量SFL、SFR、SRL、SRRからストローク加速度を演算して取得し、ストローク加速度に基づいてバネ上上下方向加速度を推定する点で異なる。以下、この相違点について詳述し、同一の点について説明を省略する。
上下加速度演算部4e2がストローク加速度に基づいてバネ上上下方向加速度を推定する方法について説明する。図8は、車両制御装置1Aにおいてバネ上上下方向加速度を推定する際に使用するストローク加速度についてのモデルを説明する図である。図8(a)において、車輪30F、30Rはそれぞれ前車輪、後車輪を示す。V
wf、V
wrはそれぞれ前車輪、後車輪の車輪接地点速度を示す。x
gf、x
grはそれぞれ前車輪、後車輪のストローク変動による水平方向の変位を示す。O
f、O
rはそれぞれストローク変動の瞬間中心を示す。r
gf、r
grはそれぞれ前車輪側、後車輪側での瞬間回転中心から車輪軸までの距離を示す。θ
1f、θ
1rはそれぞれ制動時のアンチダイブ、アンチリフトを示す。θ
2f、θ
2rはそれぞれ駆動時のアンチリフト、アンチスクオートを示す。このとき、車輪30Rについて下記式(10a)、(10b)が成り立つ。
つぎに、後車輪側を用いて(d
2x
gr/dt
2)の求め方について説明する。図8(b)において、ストロークの変化により車輪30(30R)が実線で示す位置Aから破線で示す位置Bに変化したとする。r
gは後輪側における瞬間回転中心から車輪軸までの距離であるが、図8(b)中では後輪側を示す添え字rは省略してある。x
grについても後輪側を示す添え字rは省略してx
gとしている。z
sは水平方向におけるストローク量(車輪軸の変位)を示す。θは瞬間中心Oに対してストロークの変動前の車軸と変動後の車軸との成す角である。このとき、下記式(11a)、(11b)が成り立つ。ここで、(d
2z
s/dt
2)はストローク加速度である。式(11a)は、(d
2x
g/dt
2)がストローク加速度に基づいて推定できることを示す。
ここで、式(10a)、(10b)を式(8a)に適用して式変形を行うと、式(8d)の代わりに下記式(11c)が導かれる。(d2xg/dt2)の符号は、前車輪では「+」後車輪では「−」をとる。
実施の形態2において上下加速度演算部4e2がバネ上上下方向加速度を推定するときには、式(8d)の代わりに式(11c)を用いて導かれる式(9c)に相当する式を用いて、バネ上上下方向加速度を推定する。その後、第2ピッチ・バウンス推定部4e3は、上下加速度演算部4e2が推定した上下方向の加速度を用いてピッチ方向またはバウンス方向の状態変数の状態方程式を構成する。これにより、最終的に導かれるバウンス方向およびピッチ方向の変位およびその時間変化率は、ストローク量の変動も考慮したものとなるので、より適切な制振トルクが決定され、より適切な制振制御を行うことができる。
つぎに、本発明の実施例2として、実施の形態2に基づく車両制御装置を搭載した車両を構成して走行実験を行い、車体に備えたGセンサにより車体のバネ上加速度を測定し、車両制御装置において推定したバネ上加速度と比較した。また、比較例として、特許文献2に記載の技術によりバネ上加速度を計算する車両制御装置を搭載した車両を構成して走行実験を行い、車体に備えたGセンサにより車体のバネ上加速度を測定し、車両制御装置において推定したバネ上加速度と比較した。
図9は、実施の形態2に係る車両制御装置の実施例2と比較例との比較結果を示す図である。図9(a)はバネ上加速度の実測値と、実施例2および比較例での推定値との時間変化を示す。図9(b)、(c)は、実施例2および比較例での推定値をそれぞれ実測値で除算した値のゲイン比と位相比との周波数分布を、縦軸を対数軸として示す。図9(b)、(c)に示すように、実施例2は比較例に比べてゲイン比と位相比とがゼロに近く、実測値に対してより精度よく推定できていることが確認された。
なお、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。