JP2011006544A - 1液性エポキシ接着剤及び接着方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】常温下では従来と同等以上の接着力を発揮しつつ、100℃以上の高温下においても接着力が急激に低下しない1液性エポキシ接着剤の提供。
【解決手段】ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体をa質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーであって分子量が1000以上のものをb質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型のフェノール樹脂型エポキシ樹脂をc質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型であり、芳香環を有するがフェノール樹脂型でなく、且つ常温で液状のエポキシ樹脂をd質量部含み、a+b+c+d=100のとき、95≧a+d≧68、32≧c+d≧15、22≧b≧5、及びd≧7、の全ての条件を満たし、かつ、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を含み、硬化助剤として2−フェニルイミダゾールを含む1液性エポキシ接着剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、移動機械、電気機器、医療機器、及び一般機械等の製造分野において使用される1液性エポキシ接着剤に関する。特に、高い耐熱性を有し、低温で硬化させることが可能な1液性エポキシ接着剤と、その1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法に関する。
本発明者らは、金属合金同士、又は金属合金とCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略)をエポキシ接着剤により強固に接着する技術を開発した。特許文献1には、アルミニウム合金同士、又はアルミニウム合金とCFRPとを1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。同様に、特許文献2、3、4、5、及び6には、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び一般鋼材を、それぞれ金属合金又はCFRP部材と1液性エポキシ接着剤を使用して強固に接着する技術を開示している。
ここで、上記技術においては金属合金表面を所定の形状、構造とすることで、アンカー効果によって接着力を獲得していた。本発明者らは、この理論を「NAT(Nano Adhesion Technologyの略)」と称している。NATでは、金属合金表面が以下に示す3条件を具備することで、被着材との強固な接着を達成することとしている。
(1)第1の条件は、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときに、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面となっていることである。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。この粗度面を「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称す。
(2)第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
(3)第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
これらを模式的に図にすると図3のようになる。金属合金40の表面にはミクロンオーダーの粗度を成している凹部(C)が形成され、さらにその凹部内壁には超微細凹凸(A)が形成され、表層はセラミック質層41となっており、この超微細凹凸に接着剤硬化物層42の一部が浸入している。このようにした金属合金表面に液状の接着剤が侵入し、侵入後に硬化すると、金属合金と硬化した接着剤は非常に強固に接合するという簡潔な考え方である。
WO 2008/114669 A1(アルミニウム合金) WO 2008/133096 A1(マグネシウム合金) WO 2008/126812 A1(銅合金) WO 2008/133030 A1(チタン合金) WO 2008/133296 A1(ステンレス鋼) WO 2008/146833 A1(一般鋼材)
スリーボンド・テクニカルニュース32(平成2年12月20日発行,株式会社スリーボンド)
上述した技術においては、金属合金と被着材である金属合金又はCFRP部材を接着する際に、市販の1液性エポキシ接着剤(主に後述する「EP106NL」(セメダイン株式会社製))を使用していた。このような市販の接着剤であっても、NATの条件に適合する金属合金が接着対象となることで常温下において極めて高い接着力を発揮した。
しなしながら、100℃〜150℃という高温状態においては接着力が急激に低下した。例えば、金属合金同士を接着させた接合体を引っ張り破断する場合、常温下において60〜70MPaのせん断破断力を示していたものが、150℃下では6〜15MPaのせん断破断力しか示さなかった。特に耐熱性が高いとされている市販の1液性エポキシ接着剤を使用した場合であっても15MPaが限度であった。
このように接着剤によって接合された部品が100℃以上の高温下で使用される場合は多く想定される。例えば移動機械のエンジン近辺又はモーター近辺に配置される部品は容易にこの程度の高温域に達し得るし、電気機器内のハイパワー部品周辺でも同様である。かかる事情から、上述したような高温下における接着力の急激な低下は、接着剤を使用することによる部品構造の簡素化を阻害する要因となっている。
本発明はこのような観点からなされたものであり、その目的は常温下では従来と同等以上の接着力を発揮しつつ、100℃以上の高温下においても接着力が急激に低下しない1液性エポキシ接着剤、及び、その1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法を提供することにある。
[1液性エポキシ接着剤]
本発明の1液性エポキシ接着剤に関して、以下詳述する。
(エポキシ樹脂)
標準的なエポキシ接着剤は、(1)エポキシ樹脂、(2)硬化剤、及び(3)無機充填材の3成分を少なくとも含んでいる。多種のエポキシ接着剤が市販されているが、エポキシ接着剤の原料は容易に市中から入手できるので自作も可能である。例えば接着剤の原料となるエポキシ樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、多官能ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等が市販されている。また、エポキシ基が多官能の化合物(例えば複数の水酸基やアミノ基を有する多官能化合物やオリゴマー等)と結合した多官能エポキシ樹脂も多種市販されている。通常、これらを適当に混ぜ合わせて使用する。
通常の市販接着剤では、全エポキシ樹脂中の大部分(概ね90質量%以上)を占めるのは液状で粘度の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体である。この粘度の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体に添加するエポキシ樹脂としては、迅性を与える可能性がある分子量の大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマー、耐熱性を向上させる可能性があるフェノール樹脂型エポキシ樹脂、更には、強度及び硬度を向上させる為にエポキシ基が多官能型となっている芳香族型化合物等が考えられる。
しかしながら上述したように市販のエポキシ接着剤では90質量%以上がビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体であり、これを高性能化すべく加える他のエポキシ樹脂の総量は10質量%程度に過ぎない。これは、次の事情にもよる。本発明者らは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体が100質量%を占める接着剤を使用して、脱脂処理のみを施したアルミニウム合金片(A5052片)同士を接着させた接合体を作成した。常温下においてその接合体を引っ張り破断したときのせん断破断力は30MPa以上に達した。そのため、さらなる改良の必要性が乏しかったからという事情がある。即ち、本発明者らが前述したNATを提案する以前にあっては、常温下で30MPa程度、100℃下で15MPa程度あれば、十分実用的な接着剤とされていたため改良すべき理由がなかったのである。
このような背景に基づき、本発明者らは、接着力及び耐熱性を向上させるべく、エポキシ樹脂接着剤におけるエポキシ樹脂の組成に関して開発を行った。本発明においては、(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体に、(2)分子量1000〜2000のビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマー、(3)3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、かつフェノール樹脂型であるエポキシ樹脂、(4)3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、フェノール樹脂型ではなく、常温で液状であるエポキシ樹脂を混合した。本発明の1液性エポキシ接着剤は、エポキシ樹脂100質量部中における(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体の組成比を55〜71質量部とし、従来よりも組成比を大幅に下げた。
本発明者らは、多官能型のエポキシ樹脂を多用して3次元化を促進することで硬度を高め、その一方で高分子量の2官能型エポキシ樹脂も多用して迅性を確保した。このエポキシ樹脂の主成分は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」であり、これは市販されているエポキシ接着剤に最も多く使用されているエポキシ樹脂である。また、これと混練する他のエポキシ樹脂も市販品であり、特殊なものではない。後述する実験例においては、各エポキシ樹脂の組成比を異ならせた複数の接着剤を作成し、それらの接着力及び耐熱性を測定した。
(エポキシ樹脂の組成)
エポキシ樹脂の用途は接着剤用としてはむしろ少なく、CFRPやガラエポのマトリックス樹脂として多く使用される。その他に、半導体の封止用樹脂としても多用されており、また、電子部品を湿気や水分から守るための注型材としても使用されている。それ故、数十種類のエポキシ樹脂が専門メーカーから市販されている。本発明者らは以下に示す代表的なエポキシ樹脂を購入した。
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
これの粘度は25℃で120〜150Pである。
(2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーであって分子量が1000以上の「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
これの粘度は25℃でQ〜U(ガードナーホルト粘度)である。
(3)3個以上のエポキシ基を有する多官能型のフェノール樹脂型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
これの粘度は52℃で350〜650Pである。
(4)3個以上のエポキシ基を有する多官能型であり、芳香環を有するがフェノール樹脂型でなく、且つ常温で液状のエポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」
これの粘度は25℃で5〜10Pである。
これら(1)〜(4)に示した4種のエポキシ樹脂の粘度に関して説明する。低粘度であるのは(1)「JER828」及び(4)「JER630」である。一方、固体であるのが(2)「JER1004」である。30〜40℃では高粘度の液状物であるが、20℃以下の室温下では固体に近いのが(3)「JER154」である。要するに低粘度であるのが(1)(4)であり、高粘度であるのが(2)(3)である。これらを大型ビーカーに取り、高温にして溶融し、よく混合して均一化する。そして、その混合物を放冷して25℃程度まで下げた状態とする。この混合物を1液性エポキシ接着剤の主液とするためには、この状態で少なくとも液状物となっていることが必要である。
各エポキシ樹脂の組成比について詳述する。1液性エポキシ接着剤をなす全エポキシ樹脂100質量部のうち、(1)がa質量部、(2)がb質量部、(3)がc質量部、(4)がd質量部とする。即ち、a+b+c+d=100とする。
高粘度性の(2)及び(3)の量が32質量部を越えると、混合物は常温で扱いが困難な高粘度物又は固体になる。但し(2)及び(3)も必ず加えたいので下限条件も加えた。即ち、32≧b+c≧5(又は95≧a+d≧68)とした。また、高温下でも硬度を保ち全体を強化する役割を果たすと考えられる多官能エポキシ樹脂である(3)及び(4)の成分も多く加えたい。但し、これらを加えすぎると常温下では脆くなり却って接着力が低下した。このことから、32≧c+d≧15とした。さらに、硬度を下げて迅性を高める(2)の成分は常温での接着力維持に必要であるが、多すぎると高温下での接着力を下げる。このことから、22≧b≧5とした。
ここで、多官能エポキシ樹脂である(3)及び(4)に関しては、通常は耐熱性のあるフェノール樹脂組成を有する(3)を多く使用するところであるが、(3)は高粘度であるため、その代替として(4)を採用することとした。本発明者らが実験を行った結果、単純形状である(4)を使用しても、十分な耐熱性を得ることができた。少なくとも実験結果から、(4)は耐熱性という点で何ら問題ないことを確認したので、低粘度の(4)を一定量以上使用すべきとして、d≧7とした。結論として、a+b+c+d=100としたときのa、b、c、及びdの関係は以下のようになる。
95≧a+d≧68 −式(i)
32≧c+d≧15 −式(ii)
22≧b≧5 −式(iii)
d≧7 −式(iv)
式(i)〜式(iv)は、硬化剤がジシアンジアミド粉体であり、硬化助剤が2−フェニルイミダゾール又は3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアの場合に適用する。硬化助剤が2−メチルイミダゾール又はN,N’−ジメチルピペラジンである場合には、以下の式(v)〜式(viii)を適用する。
95≧a+d≧68 −式(v)
30≧c+d≧18 −式(vi)
22≧b≧5 −式(vii)
d≧10 −式(viii)
上述した各式の数値は、接着剤として使用可能な粘度を確保し、その上で接着力及び耐熱性を確保するための基準である。使用する硬化剤及び硬化助剤を決定した後、式(i)〜式(iv)又は式(v)〜式(viii)のいずれかに従ってエポキシ樹脂を作成する。その後、充填材を添加し、さらに硬化剤及び硬化助剤を添加して1液性エポキシ接着剤とする。このようにして作成した1液性エポキシ接着剤は、耐熱性が極めて高いことが保証される。NATの条件に適合するA7075アルミニウム合金片同士を、上記の式に従って作成した1液性エポキシ接着剤を使用して接着した結果、常温下においてせん断破断力は60MPa〜70MPa又はそれ以上を示し、150℃下では30〜40MPa又はそれ以上を示した。このような良好な性能を示すためのエポキシ樹脂の組成比は限定されており、それ故、硬化助剤の種類によって適用する式が異なる。
[硬化剤]
硬化剤について述べる。1液性エポキシ接着剤と2液性エポキシ接着剤の違いは使用する硬化剤の違いによる。1液性エポキシ接着剤の場合、硬化剤として最もよく使用されるのが脂肪族アミン類以外のアミン類や広義のアミン系化合物である。具体的にはジシアンジアミド、芳香族ジアミン類であり、これらはCFRP用マトリックス樹脂としても使用されている。その他には酸無水物類、フェノール樹脂もある。エポキシ樹脂に硬化剤を添加し、混合混練して1液性エポキシ接着剤とすると常温下においては液状物となり、常温(夏場以外)で1ヶ月間は保管できる。また、冷蔵状態であれば1年程度は保管できる。
一方、硬化剤として脂肪族ポリアミン型化合物を使用するとゲル化硬化反応が常温付近で始まり得る。それ故、この硬化剤とエポキシ樹脂を混合した状態では市販することができないので、両者を分離した状態で2液性エポキシ接着剤として提供されている。例えば、硬化剤として高速硬化型のポリアミンを使用すれば、混合後の数十分から数時間、長くとも数日間、常温で放置することにより硬化する。そのため、接着剤を硬化させるための設備が不要であり、現場作業に好適な2液性エポキシ接着剤となる。2液性エポキシ接着剤の硬化剤としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、及びジエチルアミノプロピルアミン等の鎖状脂肪族系ポリアミン、メンセンジアミン等の脂環族ポリアミン、m−キシリレンジアミン等の芳香族ポリアミン、及び、変性脂肪族系ポリアミン類等があげられる。
本発明で使用する接着剤は、作業現場で簡易な設備での接着を可能とするものであることが好ましい。そうすると、2液性エポキシ接着剤が適しているとも考えられるが、常温でのせん断破断力が1液性エポキシ接着剤と比較して劣り、また、耐熱性も明らかに低い。硬化剤を脂肪族ポリアミン型化合物とした2液性エポキシ接着剤ではこの特徴が顕著であった。それ故、高信頼性が要求される用途には、やはり1液性エポキシ接着剤の使用が好ましい。即ち1液性エポキシ接着剤であって、硬化温度が低く、かつ耐熱性が高いものが最適である。硬化剤としてジシアンジアミド、芳香族ジアミン類を使用した1液性エポキシ接着剤について、各々常温下での接着力及び耐熱性を試験しようとしたが、芳香族ジアミン類を使用したものは、接着剤が常温よりもやや高い温度で固体となってしまったのでこれを除外した。
本発明者らは、硬化剤としてジシアンジアミドを使用することで接着剤の耐熱性を向上させることを試みた。通常は、硬化エポキシ樹脂のTg(ガラス転移点)を上げて耐熱性を向上させるために、硬化剤として芳香族ジアミンを使用する。また、CFRPプリプレグが航空機や自動車の部品に使用されるケースが増加することを想定し、その耐熱性能の向上を図る方法が開発されている。その場合に使用される硬化剤は決まって芳香族ジアミン類である。特に、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が多い。しかし、本発明者らはジシアンジアミドを硬化剤とした場合でも芳香族ジアミンと同等の耐熱性を示し得ることを見出した。
芳香族ジアミンを硬化剤とした場合には、その添加量はエポキシ当量に基づいた値が最適であり、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して25〜35質量部となる。硬化剤として脂肪族ジアミン類又は芳香族ジアミン類を使用して実験を行った結果、15〜30質量部程度の添加で最高の接着力を示した。この添加量はエポキシ当量に基づく理論値に概ね合致する。一方、ジシアンジアミドを添加した場合、その接着性能が最高になる添加量はエポキシ樹脂100質量に対して2.5〜5.5質量部に過ぎず、エポキシ当量に基づいて算出される15〜25質量部と大きく異なる。言い換えると、エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミド粉体の添加量が上記範囲より多いとき(例えば15質量部〜30質量部とした場合)には、強い接着力が得られなくなるという傾向を見出した。
これらの結果は、ジシアンジアミド粉体を硬化剤とすることで、エポキシ当量を考慮する上で前提となる付加重合理論に沿わない可能性、即ち、重合触媒として作用する可能性があることを示している。非特許文献1には、ジシアンジアミド粉体を溶剤に解かした上でエポキシ樹脂に加えて混合すると24時間で重合反応が相当進行するとある。溶剤が共存する場合にジシアンジアミドがエポキシ樹脂に溶け込んで十分に接触すると2液性エポキシ接着剤のように常温下で硬化が進行するという意味である。
一方、ジシアンジアミド粉体に溶剤を加えず、粉体のままエポキシ樹脂に混合し混練した場合は数ヶ月の保管が可能であり、明らかに1液性エポキシ接着剤といえるものになる。即ち、ジシアンジアミドを溶解したものをエポキシ樹脂と混合すると直ちに付加重合が生じるが、ジシアンジアミド粉体であればそうならない。別の言い方をすれば、常温ではエポキシ樹脂にジシアンジアミド粉体は溶解しないので反応せず、昇温して溶融させるか又はエポキシ樹脂に溶解するようにすることで反応し、ジシアンジアミドが触媒的にエポキシ樹脂を重合させるものと推測できる。
要するに、芳香族ジアミン類を硬化剤として使用した場合に生成する硬化物は付加重合物であるが、ジシアンジアミドを硬化剤として使用した場合に生じる硬化物の大部分はエポキシ樹脂自体の重合物ということになる。即ち、ジシアンジアミドは付加重合も行うが、その多くはエポキシ樹脂重合の触媒になると推測した。この推測が正しいならば、本発明に係る1液性エポキシ接着剤の高い耐熱性にエポキシ樹脂自体の組成も寄与していると考えられる。
即ち、付加重合によってエポキシ樹脂を硬化させる場合は、硬化剤の添加量が多く、それ故、エポキシ樹脂硬化物の物性には硬化剤の成分が大きな影響を与えることになる。例えば硬化剤に芳香族ジアミン類を使用した場合がこれに該当する。芳香族ジアミン類を硬化剤として使用した場合には、エポキシ樹脂硬化物は高いTgを示すので、良好な耐熱性が得られる。
これに対して、ジシアンジアミド粉体を硬化剤とした場合、エポキシ当量に基づく値よりも明らかに少ない量添加することで完全硬化に至る。これは前述したように、ジシアンジアミドが触媒的にエポキシ樹脂を重合させるためであると考えられる。この場合、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性に関しては、硬化剤の含有量は少なくなるので、硬化剤の特性は重要ではなく、エポキシ樹脂自体の特性が問題となる。
本発明者らがジシアンジアミド粉体を硬化剤として使用し、耐熱性の高い1液性エポキシ接着剤を作成することができた理由の一つは、多官能型のエポキシ樹脂を多く配合したことで、樹脂硬化物中、3次元構造が大部分を占めるようになったことにあると考えられる。実際、本発明者らが作成した高耐熱性を示す1液性エポキシ接着剤の硬化物を示差熱計にかけてTg分析を行ったところ、通常みられる明確なピークは存在しなかった。明確なピークは検出されないものの、ピークがなだらかなため検出し難いだけであり実質的にはTgが向上したとも考えられるが、「ガラス転移点の制御によって耐熱性を向上させる」という理論が必ずしも適用できない可能性もある。本発明者らが作成した1液性エポキシ接着剤において、完全硬化させるためのジシアンジアミド粉体の添加量は、エポキシ樹脂100質量部に対して2.5〜5.5質量部(最適値は3.5〜4.5質量部)であり、全てを触媒的に重合させるために必要な量よりは多い。従って、結果からみると、エポキシ樹脂硬化物は、少数の付加重合物と多数の触媒的重合物の集合体となっていると推定される。この場合でもエポキシ樹脂硬化物の耐熱性にエポキシ樹脂組成が大きく影響する。
この「ジシアンジアミド粉体を硬化剤としたエポキシ樹脂硬化物の耐熱性に関しては、エポキシ樹脂の組成が大きく影響する」との着想は、従来技術と異なるものである。即ち、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性を高めるためには、「硬化剤に芳香族ジアミン類を使用する。これによりエポキシ樹脂硬化物のTgを高くする」という手法が一般的であった。しかしながら、本発明においてはジシアンジアミド粉体を硬化剤とした1液性エポキシ接着剤が、高い接着力及び高い耐熱性を兼備しうることを示したものであり、極めて画期的であるといえる。
ジシアンジアミド粉体の添加量に関して説明する。エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミド粉体1質量部のみを添加して、時間をかけて十分に混練した後の混合物は白濁していた。このことから、ジシアンジアミドは混練のみではエポキシ樹脂に殆ど溶解しないことが確認された。次いで、エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミド粉体4質量部を添加して、時間をかけて十分に混練した後の混合物を昇温して1時間加熱した。そのときの加熱温度が170℃以上の場合には混合物が完全硬化したが、160℃では完全硬化に至らず、接着剤として使用した場合に前者より接着力が大幅に低下した。さらに150℃以下では殆ど硬化しておらず、ゲル状物に留まっていた。
ジシアンジアミドは融点207℃の水溶性物質であり、炭化水素溶剤に不溶、アセトンに難溶、エタノールに微溶とされている。それ故、有機物でありながら食塩の様な溶解物性を有し、エポキシ樹脂中でも100℃程度までなら未だ融点まで遠く、溶解しない。しかし160〜170℃まで昇温すると融点に近づき、エポキシ樹脂中に溶け出し始める。即ち、高温になって分子運動が活発になり、不溶性が緩和された結果、エポキシ樹脂への溶解が始まり、これに伴って重合が開始されると推定される。
本発明者らはジシアンジアミド粉体の添加量を異ならせた多数の1液性エポキシ接着剤を作成し、各接着剤を塗布した試料によって接着力を測定した。結果として、エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミド粉体を2.5〜5.5質量部(最適値は3.5〜4.5質量部)添加し、これに硬化助剤である2−フェニルイミダゾールを1.25〜2.75質量部(最適値は1.75〜2.25質量部)添加した1液性エポキシ接着剤に関しては、150℃下で30MPa以上の高いせん断破断力を示し、市販の接着剤よりも高い耐熱性を示した。
この実験で用いた硬化条件は、135℃で40分間加熱した後、さらに165℃で30分間加熱するというものであった。加熱温度を2段とした理由は、市販されている一般的なエポキシ樹脂組成物の硬化条件に習ったものである。しかし、接着剤として使用する場合は使用量も僅かであるから重合によって生じる熱で重合反応が暴走するという事態も考え難い。それ故、加熱温度を2段と限定する必要はない。
そこで上記の硬化条件(135℃で40分間加熱した後、さらに165℃で30分間加熱する)に代えて、170℃で1時間加熱するという1段階の加熱温度とした硬化条件を採った。比較実験の結果、170℃で1時間加熱した場合、135℃で40分間加熱した後、さらに165℃で30分間加熱した場合と比較して、常温下のせん断破断力は明らかに5〜10MPa向上し、80MPaのせん断破断力を示す物もあった。一方、150℃下でのせん断破断力には明確な差異は認められなかった。
[硬化助剤]
ジシアンジアミド粉体を単独で硬化剤としてエポキシ樹脂に添加した場合、完全硬化させるためには170℃で1時間以上加熱することが必要であり、硬化条件が厳しい。この硬化温度では、接着剤を硬化させるための設備を簡素化することが困難となる。従って、硬化助剤を使用することによって、より低温(110〜120℃程度)での硬化を図ることとした。
理論的には、硬化助剤はエポキシ樹脂に溶け込んでジシアンジアミド粉体のエポキシ樹脂への溶解を手助けする物が適している。それ故、エポキシ樹脂に溶け易い化合物(例えば芳香環を有している、炭化水素基を有している、分子量は高くない等の特徴を有するもの)であって、且つ親水性であり、さらに揮発性でない化合物が硬化助剤として適していると予期した。本発明者らは、先ずは芳香環又は芳香類似環を有し、窒素を含む化合物を検討対象にした。
硬化助剤として含窒素化合物を用意し、これをエポキシ樹脂100質量部に対して数質量部添加して、接着剤が完全硬化する温度を測定した。10数種の含窒素化合物についてこの実験を行った結果、劇的に硬化温度を低下させたのは、(i)3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、及び、(ii)N,N’−ジメチルピペラジンであった。その他、(iii)2−メチルイミダゾール、(iv)2−フェニルイミダゾールも硬化温度を大きく低下させたが、(i)及び(ii)と比較して硬化温度は10℃程度高かった。
これら(i)〜(iv)がジシアンジアミド粉体を使用するときに優れた硬化助剤として機能すると考え、耐熱性に関する実験を行った。このうち、2−フェニルイミダゾールは接着剤用の薬品ではなく、農薬用として販売されている化成品であり、顆粒形状である。それ故、接着剤に添加するために本発明者らはボールミルを使用してこれを微粉砕した。
その結果、接着剤の耐熱性に関しては、硬化助剤として(iv)2−フェニルイミダゾールを使用したものが最良であり、150℃下での接着力が最高となった。また、(i)3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアは150℃下の接着力、即ち耐熱性は(iv)に劣っていたが、(iv)よりも硬化温度を大きく低下させられるという有利な点がある。
一方、(ii)N,N’−ジメチルピペラジンを硬化助剤とした接着剤の耐熱性及び硬化温度は(i)と同等であったが、常温で1ヶ月放置することでゲル化してしまうケースが多く、実用面を考慮すると1液性エポキシ接着剤として使用し難い。(iii)2−メチルイミダゾールを硬化助剤とした接着剤の硬化温度は(iv)と同等だが、150℃下の接着力は(iv)よりも劣り、(i)及び(ii)と同等であった。
なお、常温下での接着力に関しては、硬化助剤は殆ど影響しなかった。ジシアンジアミド粉体を硬化剤とした1液性エポキシ接着剤に関して、常温下における接着力はエポキシ樹脂の組成に殆ど影響されず、且つ、硬化助剤の種類にも殆ど影響されなかった。また、硬化助剤を使用しない場合、硬化温度は高くなるものの、常温下での接着力は硬化助剤を使用した場合と同等であった。即ち、硬化助剤の有無及びその種類が大きく影響するのは高温下の接着力である。
[無機充填材]
1液性エポキシ接着剤は通常、前述のエポキシ樹脂と硬化剤の他に、少なくとも無機充填材を含む。無機充填材が担う役割を以下に示す。接着剤硬化物に外力が掛かって硬化物内部に微細なヒビが発生した場合、この微細ヒビの連鎖拡大を防止して早期の壊れを止める役割である。これが結果的に接着力向上に寄与することになる。本発明でも無機充填材の配合は必要条件であり、粒径分布の中心が5〜20μmの無機充填材を使用する。具体的には、タルク、クレー(粘土、カオリン)、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス等の粉体の分級物である。通常はエポキシ樹脂100質量部に対して1〜10質量部添加するが、2〜6質量部の範囲で添加することで効果がより明確になる。
[カーボンナノチューブ]
エポキシ接着剤への充填材として、カーボンナノチューブ(以下「CNT」という)を添加することで、接着力が向上する場合がある。本発明者らは、NATの条件に適合する表面とした金属合金同士を、CNTを添加した1液性エポキシ接着剤を使用して接着し、常温下における接着力を測定した。その結果、CNTを添加しないものと比較して接着力が明確に向上した。但し100℃以上の高温下においては接着力の向上は明確ではなかった。脱脂処理のみを施した金属合金同士を接着する場合には、接着剤にCNTを添加しても接着力は殆ど向上しなかった。即ち、CNTを添加することで得られる効果は、接着剤硬化物が接する接着対象の表面構造に大きく影響される。故にCNTを添加した硬化が明確になる場合もあるし、全く認められない場合もある。
具体的には、全般的に1液性エポキシ接着剤の接着剤硬化物層が薄い場合には高い接着力を示すが、接着剤硬化物層が厚くなることで接着力が低下するという傾向がある。従って、接着剤硬化物層が厚くなるような場合にはCNTを添加して接着剤硬化物層全体を強化することが好ましいといえる。また、接着対象が金属合金である場合には、金属合金表面にごく近い領域における接着剤硬化物層の物性が接着性能に直接的に関係するため、CNTを添加して当該領域の強化(結果としては接着剤硬化物層全体を強化することになる)を図ることが好ましい。さらに、CFRP部材同士の接着においても、接着剤硬化物層全体の強化によって接着力が明らかに向上することを確認した。故に、効果の有無はあるものの接着剤にCNTを添加することは好ましい。
CNTには種々の製造方法が開発されている。直径が約1nmの単層円筒状物(single-walled carbon nanotubes)、直径が数nmの2層物(double-walled carbon nanotubes)、3層物(triple-walled carbon nanotubes)等があるが、最近では非常に層数の多い直径が90nm近いCNT(multi-walled carbon nanotubes、略して「MCNT」とも言う。)も製造できるようになった。このMCNTは、接着剤へ利用も検討されてはいるが実用化された例は未だ聞かない。その一方でCNTの電導性を利用する実用化が進みつつある。即ち、構造強化材としての使われ方よりも導電性物質としての使われ方が先行している。しかし、本発明では構造強化材としての物性に注目する。
[カーボンナノチューブの分散法]
上述したCNTの添加による接着力の向上は、CNTが接着剤内に充分に分散されることで達成される。しかし、実際にはその分散が困難であるという事情がある。CNTは発明直後から、各種接着剤や樹脂に混ぜ込めば接着強度や樹脂強度が増すと予期されて研究が始まった。しかしながら、未だ顕著な効果が認められていない。CNTを樹脂中に分散できた結果、導電性が大きく向上する等の効果が得られ、特定用途向けに事業化が実現している一方で、本来期待されるべき接着強度や樹脂強度が明確に向上したとの報告は見当たらない。その理由として、CNTの分散が困難であるということがある。
CNTの分散法については既に多くの技術が紹介されている。これら分散方法のうち多くは、CNT、特殊な溶剤、及び特殊な分散安定剤をボールミル等に投入してCNTを溶剤中に破壊分散させる手段を採用している。これは、製造直後のCNTは細かく絡み合っていることが発見され、分散させるには、これをある程度破壊しなければならないことが確認されたことによる。
但し、上記CNTの分散に適した溶剤や分散安定剤を使用し、接着剤組成物とCNTを混合した後において、その溶剤及び分散安定剤を完全には除去することができない。即ち、接着剤組成物に新たに加わったその溶剤成分が、接着剤性能を低下させる可能性がある。実際に、本発明者らも上記分散方法に使用されている溶剤数種と分散安定剤数種を入手し、各々を1液性エポキシ樹脂系接着剤に混入させて接着力を測定する実験を行った。その結果、全て接着力は低下した。
上記の理由から、本発明者らは新たなCNT分散方法の開発を試みた。その結果、本発明では、サンドグラインドミル型湿式粉砕機を使用することによって、溶剤や分散剤を使用することなく、CNTをエポキシ樹脂中に分散させることに成功した。なお、再度述べるが、CNTの製造方法として多くの方法があるが、何れの方法であっても個々のCNT分子が多数絡まった物が製造される。それ故、高性能の湿式粉砕機を使って、エポキシ樹脂中でCNT分子が絡まった物を破壊して、CNT分子がばらけた状態とし、これを分散させる。
但し、分散可能なCNTには制限がある。本発明においては、直径20nm以上のMCNT、即ち多層型CNTであればエポキシ樹脂中に分散させることができ、接着力向上に寄与した。本発明者らは、最新型のサンドグラインドミル型湿式粉砕機を使用したが、直径20nm未満の細いCNTをエポキシ樹脂中に分散させることは困難であった。直径が数nm程度の単層型、2層型、又は3層型の細いCNTである場合、繊維が柔軟すぎて高性能湿式粉砕機を使用しても破壊、分散させることができなかった。一方、直径が20nm以上のCNTは、サンドグラインドミルにより分散可能であり、特に直径40〜90nmのCNTを添加した場合に最も高い接着力を示した。このようなCNTは国内で市販されており、添加量はエポキシ樹脂100質量部に対し0.02〜0.2質量部が好ましい。
[超微細無機充填材]
超微細無機充填材とは粒径が100nm以下の超微細な無機物粉体である。本発明者らは、1液性エポキシ接着剤に超微細無機充填材を添加することで高温下での接着力が向上する場合があることを発見した。NATの条件に適合する表面とした金属合金同士を超微細無機充填材(ヒュームドシリカ)添加の1液性エポキシ接着剤によって接着させた場合、常温下での接着力は超微細無機充填材を添加していない接着剤と同等であったが、100℃以上の高温下での接着力は明確に向上した。一方で、CFRP部材同士を接着させる場合、又は脱脂処理のみを施した金属合金同士を接着させるような場合には、1液性エポキシ接着剤に超微細無機充填材を添加する効果は殆ど認められない。
具体的には粒径十数nm〜数十nmの酸化珪素(シリカ)微粉であるヒュームドシリカの使用が好ましい。接着対象がNATの条件に適合する金属合金の場合を想定すると、ヒュームドシリカが金属合金表面上のミクロンオーダーの粗度に係る凹部内にも侵入し、高温下に置かれて接着剤硬化物中の樹脂分の硬度が低下した場合、即ち前記凹部内のスパイク効果が低下した場合に、その凹部内の接着剤硬化物の形状を保って簡単に接着剤硬化物が抜け出せないようにする効果がある。このような理由であるから逆に常温下の使用では効果は認められない。よって高温下で使用しない場合、又は高温下で接着力が低下しても製品として実害がない場合は添加する意味はあまりないが、実用品に於いては80〜100℃まで昇温する可能性は常に考えておくべきであるから、超微細無機充填材の添加は非常に重要な役割を果たす。
ヒュームドシリカには2種あり、1種は酸化珪素(シリカ)砂を原料にして還元し、金属珪素を得る還元工程の排気ガスから回収された超微細な溶融シリカである。これは半導体基盤材料である金属珪素の製造工程における副製品である。もう1種は、四塩化珪素を気化させ燃焼して超微細溶融シリカとしたものである。これは意図的に作成されたものであり、「アエロジル」商標として多種市販されている。本発明者らは安定した性質を求めてアエロジルを使用した。
通常、ミクロンオーダーより小さい粒径の粉末は凝集しており、アエロジルも通常の粉体に見えるが実際には数十個以上の超微粒子が凝集した凝集体である。凝集力は粉体が超微粉になるほど強く、接着剤に投入して自動乳鉢で混練したくらいでは凝集は解けず本発明で想定する分散状態にならない。それゆえ、エポキシ樹脂への添加後に高性能の分散機にかける必要がある。具体的には、前述のCNTの分散で用いた最新型の湿式粉砕機を用いて強制分散させるのが好ましい。実験結果から、超微細無機充填材の添加量はエポキシ樹脂100質量部に対して0.2質量部以上が好ましく、特に0.2〜2.0質量部が好ましい。2.0質量部を超えて添加した場合、粘度が高くなって使用し難いだけでなく、使用した場合には、接着力は同等か又は低下した。
[熱可塑性樹脂粉体]
本発明では、1液性エポキシ接着剤に、熱可塑性樹脂粉体としてエラストマー成分を添加した。少なくとも接着剤にエラストマー成分を添加することで、常温下及び高温下において接着力が大きく低下することはなかった。また、硬化条件に影響を与えることもなかった。しかし接着対象及び接着物がおかれる環境によっては、このようなエラストマー成分の添加が必要な場面がある。例えば、変形し易い金属合金同士を接着する場合にはエラストマー成分の添加が好ましい。また、振動や衝撃が加わる環境下で使用される接着物については、接着剤の弾性化は全体としての性能向上に寄与する。そのため、少なくとも接着力が低下しないという事実は重要である。
各種加硫ゴム、各種加硫ゴムの表面を変性した粉末ゴム、各種生ゴム、各種生ゴムを変性した変性ゴム、塩化ビニル樹脂(以下「PVC」)、酢酸ビニル樹脂(以下「PVA」)、ポリビニルホルマール樹脂(以下「PVF」)、エチレン酢酸ビニル樹脂(以下「EVA」)、ポリオレフィン樹脂類、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下「PET」)、各種ポリアミド樹脂(以下「PA類」)、ポリエーテルスルホン樹脂(以下「PES」)、ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー(以下「TPEE」)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下「TPU」)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(以下「TPA」)、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(以下「TPO」)等が本発明で言うエラストマー成分である。
これらの中には一般的にはエラストマーと定義されないものが含まれているが、硬化したエポキシ樹脂は硬質であり、これと比較すれば上記熱可塑性樹脂はいずれも軟質である。それ故、接着剤に添加する場合には上記熱可塑性樹脂はエラストマー成分として機能する。上記熱可塑性樹脂を添加することで、硬化物の靭性はエラストマー成分の軟質によって高められる。粒径5〜30μmの微粉とし、さらに、その表面を親エポキシ樹脂型に改良したものを添加することが好ましい。高温下でエポキシ樹脂と反応するのはアミノ基や水酸基であるからエラストマー端部等にこれらを持たせるのも有効な変性処理である。
また、本発明では常温下だけでなく、比較的高温下でも強い接着力を示す接着剤を求めているので、柔らか過ぎる物は好ましくない。これらを勘案しつつ入手が容易なものを列記すると、水酸基ができ易いPVF、端部に水酸基のあるウレタン樹脂、アミノ基が無数にあるPA類、さらには意図的に水酸基を付けたPES等がある。
エラストマー性を考慮すると、加硫ゴム粉体が充填材として最も適していると考えられが、5〜30μmの粒径物は入手困難である。この範囲の粒径物を生産可能な熱可塑性樹脂もあるので、その群から選んで使用する。部品や弾性塗料としてSBR、NBR(ニトリルゴム)、ウレタン樹脂、その他の軟質の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)が市販されており、常温付近での接着剤の弾性化には、これらが適している。
また、金属合金とCFRPの接着複合体の主な用途としては、移動機械の構造体等であるから高温環境下での信頼性も要求される。従って、100〜150℃程度の高温下で過度に軟化しない程度の弾性を有する熱可塑性樹脂が適している。この点から言えば軟化点の高いポリエーテルスルホン樹脂(以下「PES」という)が好ましい。PESは耐熱弾性塗料用フィラーとしての用途があり、微粉砕が工業的に為されているので粒径分布の中心が10〜20μmの物が容易に入手できる。熱可塑性樹脂粉体の添加量はエポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以下であり、6質量部以下が特に好ましい。なお、後述する実験で主に使用した熱可塑性樹脂粉体は、粒径分布の中心が十数μmのPES粉体であった。
[金属粉体]
本発明者らは、上記熱可塑性樹脂粉体(PES粉体)に代えて、アルミニウム合金粉体を充填材として添加した1液性エポキシ接着剤も作成した。特に、純アルミニウムに近いアルミニウム合金、例えばアルミニウムが99.0質量%以上を占めるのようなもの(1050、1080、1100等の1000番台のもの)は、他のアルミニウム合金と比較して柔らかいという特徴を有する。金属の結晶粒径は焼入れ及び焼き鈍し等の熱履歴で大きく変わり、同時に硬度も大きく変化する。高純度金属は一般に結晶粒径が大きく、熱履歴によって結晶粒径は変化するものの全般に硬度が低い。かかる点から本発明者らは、柔らかい純アルミニウム系アルミニウム合金粉体であれば、PES粉体と同様の機能を有し、PES粉体と同等又はそれ以上の効果を奏しうると予期した。
なお、硬質の金属合金粉体であれば、その硬度はタルク以上であるため前述した無機充填材と同じ役目を果す可能性がある。また、金属合金表面がエポキシ樹脂との親和性に優れているケースが多いので、硬度と関係なく充填材として優れた性能を発揮するとも考えられる。いずれにしろ、粒径5〜30μm程度の金属合金粉体を接着剤に添加することによって、熱可塑性樹脂粉体を添加した場合と異なる効果が得られる可能性がある。以下では、上記PES粉体に代えて、純アルミニウム系アルミニウム合金粉体を充填材として1液性エポキシ接着剤に添加したときの効果について述べる。
本発明者らが使用した純アルミニウム系アルミニウム合金粉体は、溶融物を噴霧して得られた粉体を分級した物で、粒径分布の中心が10μmというものであった。これをエポキシ樹脂100質量部に対して1〜10質量部添加して、接着力を測定した。その結果、常温下及び100℃以上の高温下において、少なくとも接着力が低下することは全くなく、接着力が向上した例が多くあった。特に高温下における接着力向上よりも常温下での接着力向上に寄与する傾向があった。更には、接着剤硬化層が厚い場合にも効果があるようだった。少なくとも充填材の開発において、添加により接着性能が悪化しないという事実は極めて重要である。これは、その後の改良や用途開発によって充填材の添加による特段の効果が発揮されうるからである。かかる観点から、「純アルミニウム系アルミニウム合金粉体の添加によって1液性エポキシ接着剤の接着性能は悪化せず、接着力が向上するケースが多くある」ことが確認されたことは極めて重要である。この純アルミニウム系アルミニウム合金粉体の添加量は、エポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以下であり、2〜6質量部が特に好ましい。
[湿式粉砕機]
エポキシ樹脂にヒュームドシリカを添加して分散させる場合、最新型湿式粉砕機を使用することが好ましい。そして前述したように、エポキシ樹脂にMCNTを添加して分散させる場合、最新型湿式粉砕機を使用することが必要条件となる。言い換えると、MCNT及びヒュームドシリカ以外を添加する場合には、必ずしも最新型湿式粉砕機を使用しなくとも良い。実際、無機充填材及び熱可塑性樹脂粉体の分散に関しては、最新型湿式粉砕機であるサンドグラインドミルを使用してもニーダー又は自動乳鉢等による混練と比較して明確な差異を認めることは出来なかった。しかし、少なくとも充填材の分散不足による接着力の低下という問題は生じないと判断して、本発明者らは全ての充填材をサンドグラインドミルにより分散させることとした。そしてこれにより、充填材はエポキシ樹脂中に確実に分散された。
但し、1液性エポキシ接着剤を作成する場合であっても、硬化剤を加えた状態のエポキシ樹脂をサンドグラインドミルにかけて充填材を混合分散させるべきではない。これは硬化温度が高い場合も同様である。粉砕室を冷却したとしてもかなりの高温になるため、硬化剤とエポキシ樹脂を混ぜた状態でサンドグラインドミルを運転すると、粉砕室内で高温域が生じ、これにより劇的にゲル化及び固化が進行する暴走が生じる危険性があるからである。この高温域は、人為的ミスや偶然によって容易に発生しうる。その結果、高価なサンドグラインドミルを破損させることになる。即ち、硬化剤を加えず、硬化剤以外の充填材を加えたエポキシ樹脂をサンドグラインドミルにかけて充填材を分散させる必要がある。そして、硬化剤及び硬化助剤は、充填材を分散させた後のエポキシ樹脂と混合させる。その際の混合には、従来通りニーダー又は自動乳鉢等を使用する。
[接着剤の作成方法]
次に、接着剤作成方法について具体的に説明する。先ず、選択した各種エポキシ樹脂を大型ビーカーに取って、そのビーカーを熱風乾燥機に入れ、140〜170℃に加熱し、各種エポキシ樹脂をガラス棒で攪拌して溶解させつつ均一化する。その後、エポキシ樹脂の混合物を放冷しても固化せずに高粘度の液体に留まることを確認してから、これをサンドグラインドミルに充填する。サンドグラインドミルでの通液を進めて湿式粉砕処理を開始し、順次充填材を添加して分散を進める。ここで留意すべき点は、MCNTを添加して破壊分散させる場合、少なくとも30分程度は粉砕を続けることが望ましいということである。また、超微細無機充填材を添加する場合も、添加後に15〜30分は粉砕を続けた方がよい。充填材の分散後、湿式粉砕機の運転を止め、充填材を含んだエポキシ樹脂を取り出す。
そしてこのエポキシ樹脂に硬化剤であるジシアンジアミド粉体及び硬化助剤を加えて混練することで1液性エポキシ接着剤とする。上記サンドグラインドミルから取り出したエポキシ樹脂に、ジシアンジアミド粉体及び硬化助剤を加えてよく混練した後、完成した1液性エポキシ接着剤を5℃に保った冷蔵庫に保管した。そして使用する際には、冷蔵庫から1液性エポキシ接着剤を取り出し、35℃とした温風乾燥機に入れて15分加熱することで常温付近に戻してから使用した。使用後は、再度冷蔵庫で保管した。
本発明の1液性エポキシ接着剤は、エポキシ樹脂の組成を最適化したことによって、耐熱性が極めて高いという特徴を有する。また、1液性エポキシ接着剤に超微細無機充填材としてヒュームドシリカを添加することによって、更なる耐熱性の向上を図ることができた。加えて、特定の硬化助剤を使用することによって低温で硬化させることが可能なので、接着設備及び接着作業を簡素化することができる。ここで硬化助剤として2−フェニルイミダゾールを使用することによって、更なる耐熱性の向上を図ることができた。また、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを使用することで、特に低温で硬化させることが可能となった。
本発明の1液性エポキシ接着剤は、常温から150℃までの広い温度領域で強固な接着力を発揮するものである。NATの条件に適合する表面とした金属合金同士を本発明の1液性エポキシ接着剤で接着したとき、常温下で概ね60〜70MPaのせん断破断力を示し、150℃下で概ね40MPa前後のせん断破断力を示した。市販の接着剤を使用した場合には150℃下で6〜15MPaのせん断破断力しか示さなかったため、高温域における接着力については、市販されているエポキシ接着剤と比較して極めて優れているといえる。さらに本発明の1液性エポキシ接着剤にアルミニウム合金粉体を添加することによって常温下における接着力が向上した。
本発明の1液性エポキシ接着剤の製造に際しては、特段高価な原料を要せず、全て市販の安価な原料を使用している。また、危険な工程を伴わないため、製造自体が全般に容易である。また、1液性エポキシ接着剤としては、完全硬化温度を110℃〜120℃程度と低温とすることが可能であるため、接着用の設備を簡素化することが可能である。接着対象が大型の部品であっても、接着領域のみを簡易な装置で加熱して硬化させることができるので、大型の硬化設備が不要となる。
本発明の1液性エポキシ接着剤は、CFRP部材又はNATの条件に適合する表面とした金属合金が接着対象である場合のみならず、NATの条件に適合しない表面の金属合金が接着対象である場合にも高い接着力及び耐熱性を発揮する。従って、例えば揮発油を染込ませたウエスで表面を拭き取るだけの簡単な洗浄のみを施した金属合金同士、又は当該金属合金とCFRP部材を接着する場合にも有効である。脱脂処理のみを施した金属合金同士を本発明の1液性エポキシ接着剤で接着した場合、100℃下で概ね40MPa前後のせん断破断力を示した。市販の1液性エポキシ接着剤を使用した場合には20MPa前後のせん断破断力しか示さなかったため、高温域における接着力については、市販されているエポキシ接着剤と比較して極めて優れているといえる。即ち、本発明の1液性エポキシ接着剤は、50MPa以上の高いせん断破断力を示すような高い接着力が要求される特殊用途のみならず、一般用途にも使用できる汎用接着剤であるといえる。
図1は、CFRPプリプレグを重ね合せ、熱風乾燥機内で硬化させてCFRP片を作成するための焼成治具の断面図である。 図2は、金属合金片同士、金属合金片とCFRP片、又はCFRP片同士を接着した試験片である。 図3は、金属合金と1液性エポキシ接着剤が接合したときの表面構造を示す断面模式図である。 図4は、熱風乾燥機を使用せずに接着剤を硬化させるための装置の構造を示す断面図である。 図5は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真((a):1万倍,(b):10万倍)である。
[被着材としての金属合金]
後述する実験例ではNATの条件に適合する金属合金同士、NATの条件に適合する金属合金とCFRP部材、及びCFRP部材同士の接着試験を行った。さらに脱脂処理のみを施した(NATの条件に適合しない)金属合金同士の接着試験も行った。その結果、全ての接着対象において本発明の1液性エポキシ接着剤は高い接着力及び耐熱性を示した。特に耐熱性に関しては市販の接着剤と比較して明らかに優れていた。ここで接着対象がNATの条件に適合する表面を有する金属合金である場合、最も高い接着力を発揮した。
(NATの条件に適合する金属合金)
前述の「NAT」に基づく表面構造を具備する金属合金としては、理論上特にその種類に制限はない。しかし、実際に「NAT」を適用できるのは、硬質で実用的な金属合金である。本発明者等は、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタン、及び鉄を主成分とする金属合金種に関して「NAT」が適用可能であることを確認した。特許文献1にアルミニウム合金に関する記載をした。特許文献2にマグネシウム合金に関する記載をした。特許文献3に銅合金に関する記載をした。特許文献4にチタン合金に関する記載をした。特許文献5にステンレス鋼に関する記載をした。特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。しかし、「NAT」ではアンカー効果により接着力の向上を図っているので、少なくともこれらの金属合金種に限定されるものではない。以下、金属合金表面を「NAT」の条件に適合する表面構造とするための表面処理工程について述べる。
(化学エッチング)
この表面処理工程における化学エッチングは、金属合金表面にミクロンオーダーの粗度を生じさせることを目的とする。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。
又、耐食性の強い銅合金は、高濃度の硝酸水溶液や強酸性とした過酸化水素などの酸化性酸や酸化剤配合液によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難い物もあるが、これらも本発明の金属合金に含まれる。実際に使用されている金属合金の殆どは、特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されて純金属系の物は少なく、実質的にも合金である。
即ち、金属合金の殆どは、元々の金属物性を低下させることなく耐食性を向上させることを目的として純金属から合金化されたものである。それ故、金属合金によっては、前記酸・塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。実際には使用する酸・塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。
化学エッチング法については、特許文献1にアルミニウム合金に関する記載、特許文献2にマグネシウム合金に関する記載、特許文献3に銅合金に関する記載、特許文献4にチタン合金に関する記載、特許文献5にステンレス鋼に関する記載、及び特許文献6に一般鋼材に関する記載をした。
実際に行う作業として全般的に共通する点を説明する。金属合金を所定の形状に形状化した後、当該金属合金用の脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し、水洗する。この工程は、金属合金を形状化する工程で付着した機械油や指脂の大部分を除くための処理であり、常に行うことが好ましい。次いで、薄く希釈した酸・塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。これは本発明者等が予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程である。一般鋼材のように酸で腐食するような金属合金では、塩基性水溶液に浸漬し水洗する。また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属合金では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗する。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それ故にこの予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。これらの工程の後に化学エッチング工程を行う。
(微細エッチング・表面硬化処理)
また上記表面処理工程における微細エッチングは、金属合金表面に超微細凹凸を形成することを目的とする。また本発明における表面硬化処理は、金属合金の表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とすることを目的とする。金属合金種によっては前記化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、超微細凹凸が形成される場合がある。さらに、金属合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって表面硬化処理も完了している場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで、表面がミクロンオーダーの粗度を有し、且つ超微細凹凸も形成される。即ち、化学エッチングと併せて微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。即ち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的に化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させたり化成処理をしたとき、得られる表面に偶然ながら超微細凹凸が形成される場合がある。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別つく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかったが、表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は、結晶が検出限界を超えた薄い層であったからである。要するに、マグネシウム合金では表面硬化処理としての化成処理を施したことで、微細エッチングも併せて完了していたことになった。
銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる表面硬化処理を行ったところ、純銅系銅合金では、その表面は楕円形の穴開口部で覆われた特有の超微細凹凸面になる。一方、純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物又は不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸面になる。この場合でも表面の殆どは酸化第2銅で覆われており、表面の硬化と超微細凹凸の形成が同時に起こる。
一般鋼材に関しては、更なる検証が必要ではあるものの、ミクロンオーダーの粗度を形成するための化学エッチングだけで超微細凹凸も併せて形成されていることが多く、元来表層(自然酸化層)が硬いこともあって、表面硬化処理や微細エッチング処理を改めて行わずとも、「NAT」の条件を備える場合があった。その際の問題は、自然酸化層の耐食性が十分でないために接着工程までに腐食が開始してしまうこと、また、接着後の環境如何では短時間で接着力が低下することであった。これらは化成処理によって防ぐことができる。例を挙げると、化成処理をしていない一般鋼材(SPCC:冷間圧延鋼材)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、4週間という短期間で接着力が急激に低下した。一方、化成処理をした一般鋼材(SPCC)同士をフェノール樹脂系接着剤で接着した接合体に関しては、同じ期間では当初の接着力から低下しなかった。
また、本発明者らは、一般に、化成処理によって金属合金表面に形成された被膜(化成被膜)の膜厚が厚いと、接着力が低下することが多いことを確認している。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のように、XRDで回折線が検出されないような薄層である方が、強い接着力が得られる。化成被膜が厚い金属合金同士をエポキシ接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面は殆どが化成皮膜と金属合金層との間となる。本発明者らが行った実験では、厚い化成皮膜とエポキシ接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と金属合金との接合力より常に強かった。即ち、一般鋼材でも、化成処理時間を更に長くして化成処理層を厚くすれば、接着力は長期間低下しないと考えられる。しかしながら化成皮膜を厚くすれば、接着力自体が低下する。従って、どの程度でバランスを取るかは、使用目的、用途等にもよる。
(表面処理の具体例(アルミニウム合金の場合))
アルミニウム合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。本発明に特有な脱脂処理は必要なく、市販のアルミニウム合金用脱脂材の水溶液を使用する。即ち、アルミニウム合金で常用されている脱脂処理で良い。脱脂材によって異なるが、一般的な市販品では、濃度5〜10%として液温を50〜80℃とし、これにアルミニウム合金を5〜10分間浸漬する。
これ以降の工程は、アルミニウム合金に珪素が比較的多く含まれる合金と、これらの成分が少ない合金とでは処理方法が異なる。ここでは珪素分が少ないアルミニウム合金の処理方法に関して説明する。即ち、A1050、A1100、A2014、A2024、A3003、A5052、A7075等の展伸用アルミニウム合金では、以下のような処理方法が好ましい。即ち、アルミニウム合金を、酸性水溶液に短時間浸漬して水洗し、アルミニウム合金の表層に酸成分を吸着させるのが、次の化学エッチングを再現性良く進める上で好ましい。この処理を予備酸洗工程といい、使用液は、硝酸、塩酸、硫酸等、安価な鉱酸の1%〜数%濃度の希薄水溶液が使用できる。次いで、強塩基性水溶液に浸漬する化学エッチングを行った後、水洗する。この化学エッチングでは、1%〜数%濃度の苛性ソーダ水溶液を30〜40℃にして、これにアルミニウム合金を数分浸漬するのが好ましい。
この化学エッチングにより、アルミニウム合金表面に残っていた油脂や汚れがアルミニウム合金表層と共に剥がされる。この剥がれと同時に、この表面にはミクロンオーダーの粗度を有するようになる。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5.0μmの凹凸面となる。次に、再度酸性水溶液に浸漬し、水洗することでナトリウムイオンを除くのが好ましい。本発明者等はこれを中和工程と呼んでいる。この酸性水溶液として数%濃度の硝酸水溶液が特に好ましい。
中和工程を経たアルミニウム合金に最終処理である微細エッチングを行う。微細エッチングでは、アルミニウム合金を、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物のいずれか1つ以上を含む水溶液に浸漬する。その後水洗し、70℃以下で乾燥するのが好ましい。これは、中和工程で行う脱ナトリウムイオン処理によって表面がやや変化し、粗度は保たれるがその表面がやや円滑になったことに対する粗面の復活策でもある。水和ヒドラジン水溶液等の弱塩基性水溶液に、短時間浸漬して微細エッチングする。ミクロンオーダーの粗度に係る凹部内壁面に、50〜100nm周期の超微細凹凸を多数形成させることが特に好ましい。
ここで、水洗後の乾燥温度を例えば100℃以上の高温にすると、仮に乾燥機内が密閉的であると、沸騰水とアルミニウム間で水酸化反応が生じ、表面が変化して一種の水酸化アルミニウムであるベーマイトの層が形成される。これは丈夫な表層と言えず好ましくない。表面のベーマイト化を防ぐには、90℃以下、好ましくは70℃以下で温風乾燥するのが好ましい。70℃以下で乾燥した場合にはベーマイトは生成し難いが大型品であると乾燥にやや時間がかかる。NAT処理し乾燥を70℃以下で十数分以内に抑えて得たアルミニウム合金材をXPS分析すると、そのアルミニウム元素のピークからアルミニウム(3価)しか検出できず、市販のA5052、A7075アルミニウム合金板材等のXPS分析で必ず検出できるアルミニウム(0価)は消える。XPS分析は、金属表面から1〜2nm深さまでに存在する元素が検出できるので、この結果から、水和ヒドラジンやアミン系化合物の水溶液に浸漬し、その後水洗して温風乾燥することで、アルミニウム合金が持っていた本来の自然酸化層(1nm厚さ程度の酸化アルミニウム薄層)がより厚くなったと確認できた。詳細に言えば小さな数字だが、自然酸化層と異なって2nm以上の厚さになった。
(NATの条件に適合しない金属合金)
前述したように本発明の1液性エポキシ接着剤はNATの条件に適合する表面を有する金属合金を被着材としたときに極めて高い接着性能を発揮する。しかしながら、化学エッチング、微細エッチング、及び表面硬化処理を一切施さない、脱脂処理のみを施した金属合金を被着材とした場合にも高い接着性能を発揮する。即ち、その金属合金が、市販の板状物、管状物、押し出し材等の所謂中間材を脱脂したものであっても良い。このような脱脂処理のみを施した金属合金同士を本発明の1液性エポキシ接着剤を使用して接着した場合、常温下における接着力は市販の1液性エポキシ接着剤を使用した場合と比較して大きな違いはないものの、100℃下における接着力は本発明の接着剤の方が明らかに高かった。
しかしながら、当然ではあるが接着対象となる金属合金表面が鏡面に近い場合には本発明の接着剤と市販の接着剤の接着性能の差異が明確とならない。このような金属合金同士の接合体は引っ張り試験機にかける操作で容易に破断してしまうからである。従って、市販されている通常の金属合金材を使用する場合、その表面をNATの条件に適合するよう表面処理を施すのが最も好ましく、そのような表面処理を施すことが工程面又はコスト面で困難である場合には少なくとも脱脂処理を行うべきである。脱脂処理は一般的に用いられている手法で良い。なお、脱脂処理だけでは接着力が不足するもののNATの条件に合致させる表面処理までは行うことができない場合、研磨紙やブラストマシン等によって接着対象の表面を粗面化することが好ましい。即ち、物理的エッチングであり、これによって脱脂処理のみを行った場合と比較して接着力は明らかに向上する。このような処理を望む場合、粗面化を施した後に脱脂処理を行い、さらに水洗して乾燥するのが好ましい。
[接着剤の染み込まし処理]
(NATの条件に適合する金属合金)
接着対象がNATの条件に適合する表面を有する金属合金である場合、その表面の必要箇所に上記1液性エポキシ系接着剤を塗布する。必要に応じて、接着剤を塗布した金属合金をデシケータ等の容器に入れて密閉し、容器内を真空ポンプ等で一旦減圧し、その後に常圧に戻す操作を行う。具体的には、容器内を数十mmHg以下まで減圧して一定時間以上(概ね数秒〜数分)置き、その後空気を入れて常圧に戻す(又は数気圧以上の圧力まで加圧する)ことが好ましい。減圧状態に置く時間は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて調整する。この減圧/常圧戻し操作を数回繰り返すのが好ましい。この減圧/常圧戻し操作に使用する容器、例えばデシケータは使用前に50〜70℃に暖めておくことが好ましい。これは塗布した接着剤の粘度を下げて表面の超微細凹凸に染み込み易くするためである。接着剤の接着剤粘度を15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下とすることで超微細凹凸に侵入させる。染み込まし処理を終えた金属合金を容器から取り出して熱風乾燥機に入れ、接着剤を硬化させる。
ここで、金属合金表面に塗布しようとする1液性エポキシ接着剤の粘度が低い(例えば10Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする接着剤の粘度が高くても、金属合金を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して超微細凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、接着剤塗布前における金属合金の加熱、及び染み込まし処理は、接着剤の超微細凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
(CFRP部材)
接着対象が既硬化のCFRP部材である場合、CFRP部材の必要箇所を粗面化し、そこへ接着剤を塗布した後に染み込まし処理をすることによって接着力を向上させることができる。上述した金属合金における染み込まし処理をCFRP部材にも採用したものである。接着剤塗布は筆塗りでもヘラ塗りでもよく、接着剤塗布後のCFRP部材を減圧容器に入れる。CFRP部材が大きく、減圧容器や減圧可能なバッグが用意できない場合、そのCFRP部材の接着剤塗布部を外気から封じ得る治具でカバーする。後述する実験例で使用する1液性エポキシ接着剤は室温で軟膏状であり、粗面化した表面にエポキシ接着剤を染み込ませるためには、その粘度を少なくとも15Pa秒以下、好ましくは10Pa秒以下の液状物とする必要がある。そのため、減圧容器を使用する場合は前もってこの減圧容器を50〜70℃に暖めておくことが好ましく、減圧容器を使用しない場合は接着剤を塗布する前に塗布する部分をホットブラスター等で50〜70℃に暖めておくのが好ましい。そして減圧可能な状態としたら、真空ポンプを使用して数十mmHg以下の低圧にし、数分置いて常圧に戻す操作をする。そしてこの減圧/常圧戻し操作を数回繰り返すのが好ましい。この操作を染み込まし処理という。減圧によって接着剤とCFRP部材の粗面上に挟まれた空気を吸い取り、その後に常圧に戻すことで、接着剤が粗面化されたCFRP部材の表面に染み込む。
ここで、CFRP部材に塗布しようとする1液性エポキシ接着剤の粘度が低い(例えば15Pa秒以下である)場合には上記減圧/常圧戻し操作を行うまでもなく、接着剤が粗面化部分に係る凹凸に侵入する場合がある。この場合には、当然染み込まし処理は不要である。また、塗布しようとする1液性エポキシ接着剤の粘度が高くても、CFRP部材を暖めておくことにより、塗布後に接着剤の粘度が低下して粗面化部分の凹凸に侵入する場合がある。この場合にも染み込まし処理は不要となる。これら、1液性エポキシ接着剤塗布前におけるCFRP部材の加熱、及び染み込まし処理は、接着剤の凹凸への侵入具合に応じて行えばよい。
(染み込まし処理が困難な場合)
接着対象が大型部品であって、デシケータ等の減圧容器に入れることが困難な場合、上記染み込まし処理を行うことができない。また製造コストの関係上、上記染み込まし処理を行うことができない場合もある。このような場合には以下の方法を使用すると良い。予め接着対象を70〜90℃に加熱しておき、そこへ1液性エポキシ接着剤を薄くヘラ塗りする。塗られた接着剤は急に温度が上がって粘度を失い、フライパンの上でバターが溶けるように拡がる。接着剤が塗布された表面に凹凸があった場合、その凹部では解けた接着剤が侵入しながらも凹部内の空気を覆うため、その空気の一部は接着剤に閉じ込められると考えられる。しかし、その表面部分が室温にまで冷却される過程で閉じ込められた空気は収縮し、この空気の一部はエポキシ樹脂にも溶け込むので、凹部の奥まで接着剤が侵入し、結果としては前述した染み込まし処理に近い効果が得られる。
[接着剤の硬化]
接着剤が塗布された接着対象(例えばCFRP部材又は金属合金)を用意し、それぞれの接着剤塗布領域同士を密着させ、対の状態にし、クリップ等で固定する。クリップに限らず他の治具を使用しても良く、接着面に圧力がかかる状態で固定する。押さえ付けの力は重力やバネ、又はクランプ等を利用することになる。このようにした対を、熱風乾燥機に入れて接着剤を硬化させる。接着対象が大きく、対応する大型熱風乾燥機がない場合、必要部位(接着剤塗布領域周辺)だけをバンドヒーター等を巻き付けて110〜120℃程度に加熱し、接着剤を硬化する方法をとることができる。また、必要部位を断熱材でカバーしてそこへホットブラスター等で熱風を送って加熱することもできる。120℃程度又はそれ以下で完全硬化する接着剤であれば、大型の設備を要せず、前述した硬化方法によって現場で比較的容易に硬化作業を行うことができる。
大型部品を安定的に130℃以上の温度で加熱しようとすると、強制空気循環型の熱風乾燥機が必要である。しかしながら110〜120℃位までの温度なら前述したようにバンドヒーターと断熱材を使用して熱風乾燥機を使用せずに、所謂現場での接着作業が可能である。航空機の翼又は自動車の外板等の大型部品が接着対象となる場合、このような現場作業をせざるを得ない。大型部品の場合、その部品自体に伝導する熱量、及び部品から放出される熱量が多くなるので、接着剤塗布領域のみを加熱しても、当該箇所を硬化温度に達するまでの高温にはし難いという事情がある。このような事情もあり、接着剤の硬化温度としては120℃以下が望ましい。
熱風乾燥機を使用することができ、かつ硬化温度を高くすることが可能な環境下では、対とした接着対象を90℃で5分程度加熱し、次いで135℃に昇温して40〜50分加熱し、次いで165℃に昇温して20〜30分加熱すれば接着剤が完全硬化に至る。上記条件で加熱すれば、一般的な接着剤の組成であれば、殆どのもので完全硬化に至る。一方、上記したように熱風乾燥機が使用できない環境下では、対とした接着対象を直接加熱する。本発明の1液性エポキシ接着剤は、110〜120℃で1〜2時間加熱することで完全硬化に至る低温硬化型であるから、接着剤層の温度が110℃以上の温度になるよう保温材及び断熱材を選択することで、熱風乾燥機内で硬化した物と同等の物を得ることができる。ただし、このような熱風乾燥機を使用しない加熱方法は温度安定性が良くない場合もあるので、このときは後述する図4に示す硬化手法を採用することが好ましい。
また、接着対象同士を対にした状態としてテープで巻き付けて固定しても良い。接着剤を硬化させる際には、接着剤の粘度が低いときに接着面から接着剤が流れ出さないようにしておく必要がある。クリップ等で接着対象に圧力をかけることは、圧力をかけること自体が目的ではなく、接着剤が溶融状態の時にも接着対象同士の距離を短く保ち、毛細管現象によって接着剤が所定箇所から移動しないことを目的としている。即ち、接着対象同士の固定にテープを使用しても良いとしたのは、巻き付けた接着対象の対が相互に離れないようにするためである。
接着対象の固定時に重力やバネの力を利用できない場合もある。例えば棒状物の先端同士を突合せ接着する場合である。このようなケースでは、溝型治具を作成して、両棒状物を水平方向の溝にはめた状態で、接着剤を塗布した先端同士を突合せ、両棒状物の末端から先端方向に対して力がかかるようにする。しかし、この方法は棒状物が長いときには困難である。この場合、接着面が垂直方向に平行になるので、先端の位置がずれると毛細管現象が崩れ、接着剤が予定した接着面から流れ出た後に硬化することになる。
このような問題を回避するためには、接着剤を塗布した棒状物の先端部分同士をテープで巻いて固定し、この状態で加熱して接着剤を硬化させることが最も簡易かつ、効果的な方法である。この場合、接着剤は周囲をテープで囲まれてその粘度が最低になった時点でも外に流れ出すことがない。その後、接着剤のゲル化が進み粘度が急上昇してきて硬化に至る。この場合、クリップ等のようにバネによる圧力をかけた状態で固定しているわけでないから、接着剤硬化物層の厚さが圧力をかけた状態のものより厚くなる傾向にある。しかし、接着剤硬化物層の厚さが0.2mm以下であれば、殆ど接着力(せん断破断力及び引っ張り破断力)に影響を与えない。
(接着剤の簡易硬化方法)
一般にCFRP部材は大型で単純な形状物となる。これは大型部品の軽量化を図る目的で使用されることが多いからであり、プリプレグの積層という点を考慮すると単純な形状とすることで製造が容易化されるからである。一方で金属合金は複雑な形状の加工に適している。それ故、大型のCFRP部材に小型の金属合金部品を強固に接着させることに関する要請がある。
図4は、大型のCFRP板材50と小型の金属合金部品51を、熱風乾燥機を使用せずに接着させるための装置である。CFRP板材50の上面(粗面化済)に接着剤を塗布して染み込まし処理を行い、一方で金属合金部品51の底面に接着剤を塗布して、両者を密着させる。接着剤層を52として示す。CFRP板材50には、上面と底面を貫通する孔53が複数設けられている。金属合金部品51にも、縁部を上下に貫通する孔54が複数設けられている。これら孔53及び孔54に針金55を通すことによって、CFRP板材50と金属合金部品51を固定する。針金55は直径1mm程度のステンレス製の針金である。金属合金部品51の縁部上面側において針金55を湾曲させて固定する。一方、CFRP板材50の底面にはバネ材56の上端が固定されており、バネ材56の下端は板材57の上面に固定されている。この板材57にも針金55を通すための孔58が複数設けられており、孔54及び孔53を通した針金55は、さらに孔58を通って板材57の底面側で湾曲されることにより固定されている。このときバネ材56は通常よりも縮んだ状態にある。これによって、バネ材56のバネ圧でCFRP板材50に金属合金部品51が押し付けられることになる。
また、ゴム製のカバー60によって接着剤層52を囲い込む。このカバー60に設けた窓から熱電対61を差し込む。カバー60には、大きめの空気孔62が設けられており、その反対側には空気出口63も設けられている。このカバー60は、その縁部を固定用の錘(図示外)で固定してある。空気孔62に近づけたホットブラスター64から200℃近い熱風を送風する。これにより接着剤層52を硬化させる。ここで、CFRP板材50の底面側からの放熱によって、安定的に加熱出来ない場合には、裏面側に断熱カバー70を設置すると良い。断熱カバー70の頂部には真空コック71が設置されており、この真空コック71は真空ライン72につながれている。これらによって断熱カバー70で覆った部分を減圧することができ、この減圧によって断熱カバー70はCFRP板材50の裏面側に吸い付き、かつ放熱が抑制されることになる。このように、熱電対61及びホットブラスター64の組み合わせによって温度制御を行い、100〜120℃で1〜2時間程度の加熱を可能とする。
この例では被着材が金属合金部品51であるが、被着材がCFRP部品であっても同様の方法によって1液性エポキシ接着剤を硬化させることが可能である。被着材がCFRP部品である場合には、表面を粗面化した後に脱脂又は水洗して、接着剤塗布後に染み込まし処理をしておくことが好ましい。
[接着力の測定]
以上の方法によって接着対象を本発明の1液性エポキシ接着剤で接着した接合体が得られる。後述する実験例では、接着対象は、CFRP片、NATに適合する表面を有する金属合金、脱脂処理のみを施した金属合金のいずれかとした。図2で示すと、接合体30は、(I)NATに適合する表面を有する金属合金片31及び32の接合体、(II)NATに適合する表面を有する金属合金片31及びCFRP片32の接合体、(III)CFRP片31及び32の接合体、(IV)脱脂処理のみを施した金属合金片31及び32の接合体のいずれかとした。これらの接合体を試験片とする。この試験片の両端を引っ張り試験機にて引っ張り破断し、得られた破断力を接着面積で除してせん断破断力(MPa)を測定した。
図2に示した試験片について詳述する。後述する実験例において、引っ張り破断させる試験片(接合体)を構成する板片の大きさは、日本工業規格(JISK6850)に規定されている100mm×25mm×1.5mm厚に合致しない。本発明者らが実験例で使用したものは、45mm×15mm×3mm厚の板片である。従って日本工業規格で定めるものより面積が小さく、厚いものである。また、接着面積は日本工業規格で3.125cmと規定しているのに対して、概ね0.6〜0.7cm ないし0.8〜0.9cmと小さくした。これは応力の集中度を小さくして板片の変形が大きくならないようにし、変形による剥がれ破断がせん断破断の前に生じてしまうことを防止するためである。言い換えると、日本工業規格に規定する試験方法では、接着力が極めて高い場合には、せん断破断より前に板片の変形による剥がれ破断が生じてしまうため、測定される破断力が接着剤の接着力を反映するものではなくなってしまっているのである。せん断破断力が30MPaを超える場合には、本発明者らが採用した方法が妥当である。
[接着実験]
以下、本発明の1液性エポキシ接着剤を使用した接着実験の結果を示す。
(a)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800(株式会社 日立製作所製)」及び「JSM−6700F(日本電子株式会社(日本国東京都)製)」を使用し1〜2KVにて観察した。
(b)走査型プローブ顕微鏡観察
ダイナミックフォース型の走査型プローブ顕微鏡「SPM−9600(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(c)試験片の接合強度の測定
引っ張り試験機「AG−10kNX(株式会社 島津製作所製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
(d)充填材の分散(湿式粉砕機の使用)
直径0.1〜0.5mmのジルコニアビーズをサンドとするサンドグラインドミル「ミニツエア(アシザワ・ファインテック株式会社製)」を使用した。
[実験例1](A7075アルミニウム合金の表面処理)
市販の厚さ3mmのアルミニウム合金板材「A7075」を入手し、切断して45mm×15mmの長方形のA7075片を多数作成した。槽の水に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社(日本国東京都)製)」を投入して濃度7.5%の水溶液(60℃)とした。これに前記A7075片を7分浸漬し、よく水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を4分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に3%濃度の硝酸水溶液(40℃)を用意し、これに前記A7075片を1分浸漬し、水洗した。次いで別の槽に一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液(60℃)を用意し、これに前記A7075片を2分浸漬し、水洗した。次いで5%濃度の過酸化水素水溶液(25℃)を用意し、これに前記A7075片を5分浸漬し、水洗した。次いで前記A7075片を、67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥した。
前記と同じ処理をしたA7075片を電子顕微鏡観察したところ、40〜100nm径の凹部で覆われていることが分かった。電子顕微鏡を1万倍、10万倍として観察したときの写真を図5に示した((a):1万倍,(b):10万倍)。又、走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによるとRSmは3〜4μm、Rzは1〜2μmであった。
[実験例2](CFRP片の作成)
本実験例では、CFRP部材の一例として、CFRP片を作成する。このCFRP片は複数のCFRPプリプレグの小片が積層されることにより構成されている。繊維が平織型のCFRPプリプレグ「パイロフィルTR3110(三菱レイヨン株式会社製)」を入手し、45mm×15mmの小片を多数切り出した。図1に示す焼成治具1を用いて長方体状のCFRP片を作成する。金型本体2及び金型底板5を組み合わせると、金型本体2の側壁と金型底板5の上面によって金型凹部が形成される。この金型凹部を覆うように、0.05mm厚の離型用フィルム17を敷いた。この離型用フィルム17の上にポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)製のスペーサ11及び16を設置した。これらスペーサ11及び16の上面に、切断しておいた45mm×15mmのCFRPプリプレグの小片を3mm厚分積層した(積層物は図1中では12として示されており、硬化後にCFRP片12となる)。この積層物と金型本体2の側壁の空隙を埋めるためにPTFE製のスペーサ13を設置し、これらを覆うように離型用フィルム14を敷いた。
離型用フィルム14の上にPTFE製のブロック15を乗せ、熱風乾燥機に入れた。さらにブロック15の上に鉄製の5kgの錘18を乗せて乾燥機に通電した。熱風乾燥機内を90℃まで昇温して90℃で30分加熱し、次いで120℃まで昇温して120℃で30分加熱し、次いで135℃まで昇温して135℃で30分加熱し、次いで165℃まで昇温して165℃で30分加熱し、更に180℃まで昇温して180℃で30分加熱した後、通電を止めて扉を閉めたまま放冷した。翌日、錘18、ブロック15、及び台座8を外して金型本体2を床に押し付けると、金型本体2の金型貫通孔4から金型底面7の下方に突出していた底板突起部6が、金型底板5を上方に押し出す。これにより、離型用フィルム14及び17によって覆われている成形物であるCFRP片12が焼成治具1から取り出せる。この作業を繰り返し、CFRP片12を多数得た。このようにして得られたCFRP片12を1回焼き品と称す。
3日後に、上記のようにして得たCFRP片12を再び熱風乾燥機に入れ、熱風乾燥機内を90℃まで昇温して90℃で30分加熱し、次いで135℃まで昇温して135℃で30分加熱し、次いで165℃まで昇温して165℃で30分加熱し、さらに190℃まで昇温して190℃で30分加熱した後、放冷した。即ち再焼成した。このようにして得られたCFRP片12を2回焼き品と称す。この2回焼き品を、3日後に同じ条件でもう一度焼いた。このようにして得られたCFRP片12を3回焼き品と称す。以下の実験例で使用するCFRP片は全て3回焼き品である。
このようにして得たCFRP片の端部を、JISR6252に規定される120番の研磨紙でしっかり十回程度往復研磨して粗面化した。超音波振動端付きの水槽に水道水250リットルを入れ、これにアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社製)」を20kg投入したものを脱脂液とした。この脱脂液を70℃に加熱して超音波をかけた状態とし、これに粗面化したCFRP片を5分間浸漬した。その後、このCFRP片を水道水の溢流のある水洗槽3基に順次浸漬して十分に水洗した。次いでCFRP片を90℃にセットした熱風乾燥機に15分入れて乾燥し、アルミ箔で包んで保管した。
[実験例3](接着剤の作成)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の単量体が主成分の分子量約370のエポキシ樹脂「JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、固体である分子量約1600の多量体のビスフェノールA型エポキシ樹脂「JER1004(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、多官能型のフェノールノボラック型エポキシ樹脂「JER154(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、アニリン型の3官能エポキシ樹脂「JER630(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、平均粒径が十数μm程度のPES粉体「PES4100MP(住友化学株式会社製)」、粒径分布の中心が10μmの純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー(東洋アルミニウム株式会社製)」、平均粒径が8〜12μmの微粉タルク「ハイミクロンHE5(竹原化学工業株式会社(日本国兵庫県)製)」、これと同等の粒径のクレー(カオリン)「サテントン5(竹原化学工業株式会社製)」、直径が約50nmの多層型カーボンナノチューブ「MCNT(ナノカーボンテクノロジーズ株式会社(日本国東京都)製)」、ヒュームドシリカ「アエロジルR805(日本アエロジル株式会社製)」、エポキシ樹脂の硬化剤である微粉型ジシアンジアミド「DICY7(ジャパンエポキシレジン株式会社製)」、2−メチルイミダゾールの微粉「2MI(日本合成化学工業株式会社製)」、2−フェニルイミダゾールの顆粒「2PI(日本合成化学工業株式会社製)」、N,N’−ジメチルピペラジン「ジメチルピペラジン(昭和化学株式会社(日本国東京都)製)」、及び、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアの微粉「DCMU99(保土谷化学工業株式会社(日本国東京都)製)」を入手した。
入手した薬剤のうち、「2PI」は粉末でなく顆粒であったので、直径150mmのセラミック製ボールミルに200g入れて30分粉砕してボールを篩分けし、更に300メッシュ通過品を粉末「2PI」として保管した。
[接着剤1(A、PES、DICY、2PI)の作成]
「JER828」を60質量部、「JER1004」を10質量部、「JER154」を20質量部、及び「JER630」10質量部をビーカーに取り、165℃とした熱風乾燥機内に放置して加熱し、固体型「JER1004」を溶融すると同時によく撹拌し、全体を均一化した。その後、放冷し、エポキシ樹脂液として保管した。
この場合にはa=60、b=10、c=20、d=10であり、a+b+c+d=100となる。このときa+d=70となるから、前述した式(i)及び式(v)のいずれの条件も満たす。また、c+d=30となるから、前述した式(ii)及び式(vi)のいずれの条件も満たす。また、b=10であるから、前述した式(iii)及び式(vii)のいずれの条件も満たす。さらに、d=10であるから、前述した式(iv)及び式(viii)のいずれの条件も満たす。又、後述するが、硬化助剤として2−フェニルイミダゾール又は3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを使用する場合(式(i)〜式(iv)を適用する場合)の要件を満たしており、硬化助剤として2−メチルイミダゾール又はN,N’−ジメチルピペラジンを使用する場合(式(v)〜式(viii)を適用する場合)の要件も満たしている。
直径0.3mmのジルコニアビーズを粉砕室容量の80%充填したサンドグラインドミル「ツエア(アシザワ・ファインテック株式会社製)」を用意し、その入口側に循環ポンプと撹拌機付きのオープンタンクを繋いだ。一方、サンドグラインドミルの出口はオープンタンクに開放した。上記のエポキシ樹脂液を60℃に再加熱して粘度を下げ、100質量部(400g)をオープンタンクに投入し、循環ポンプで粉砕室を完全に満たしてからミルの運転を開始した。ミルには水冷ラインがあるので通水を調整して粉砕室内が50〜60℃になるようにした。ミル回転子の周速は11〜12m/秒とした。
その後、オープンタンクにヒュームドシリカ「アエロジルR805」を0.5質量部(2g)入れて循環粉砕を進め、次いで微粉タルク「ハイミクロンHE5」を3質量部(12g)徐々に入れて循環粉砕を進め、次いでPES粉体「PES4100MP」4質量部(16g)を徐々に加えた後、60分間湿式粉砕(実質的にはエポキシ樹脂中に充填材を分散させる操作となる。)を続けた。その後、ミルの出口をオープンタンクからポリエチ瓶に向くようにし、このポリエチ瓶内に混合物を得た。この混合物107.5質量部には、エポキシ樹脂100質量部、無機充填材「ハイミクロンHE5」3質量部、超微細無機充填材「アエロジルR805」0.5質量部、及び熱可塑性樹脂粉体「PES4100MP」4質量部が含まれる。
次いで乳鉢に、前記混合物107.5質量部、硬化剤として微粉型ジシアンジアミド「DICY7」4.5質量部、及び硬化助剤として2−フェニルイミダゾール粉体「2PI」2.25質量部を取った。この乳鉢を40℃とした温風乾燥機に30分入れて暖め、それから乳棒でよく混練した。これをポリエチ瓶に取り、1日間室内で放置してエージングし、その後5℃とした冷蔵庫に保管した。この接着剤の名称を接着剤1(A、PES、DICY、2PI)とした。この接着剤の組成を表1に示す(実験例3)。
[実験例4〜18](接着剤2(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤16(A、PES、DICY、2PI)の作成)
実験例4〜18においては、実験例3とエポキシ樹脂の組成のみを異ならせて、実験例3と同様の方法で1液性エポキシ接着剤を作成した。各実験例におけるエポキシ樹脂の組成を表1に示す。実験例4〜18の組成にもとづいて作成した接着剤の名称を、それぞれ接着剤2(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤16(A、PES、DICY、2PI)とする。
[実験例19〜34](A7075片同士の接着)
実験例19〜34においては、実験例3〜18において作成した1液性エポキシ接着剤である接着剤1(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤16(A、PES、DICY、2PI)を使用して、実験例1の表面処理を施したA7075片同士を接着させ、A7075片同士の接合体を得た。そして、これらの接合体を破断させ、せん断破断力を測定した。
(実験例19)
実験例19について詳述する。実験例1の表面処理を施したA7075片18枚に対して接着剤1(A、PES、DICY、2PI)を塗布した後、これらをデシケータに入れて蓋をした。このデシケータは予め温風乾燥機内で67℃に暖めておいたものである。その後、A7075片を入れたデシケータ内を真空ポンプで減圧し、3分ほど置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻し操作を計3回行った(これは染み込まし処理である)。その後、A7075片をデシケータから取り出し、A7075片2枚の接着剤塗布範囲同士を密着させて対にする。その際、接着面積が0.6〜0.7cmとなるようにする。この対をクリップで固定し、図2に示す試験片の形状とした。このようにしてA7075片同士の対を9組作成した。熱風乾燥機内を90℃とし、これに対としたA7075片を入れて、5分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を135℃に昇温し、135℃で40分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を165℃に昇温し、165℃で30分加熱した。その後放冷してA7075片同士の接合体である試験片を9組得た。翌日に試験片を引っ張り試験機にかけて破断させた。この試験は常温下及び150℃下において、それぞれ3組の試験片に対して行った。150℃で高い接着力を発揮していた場合には、さらに100℃下における試験も行うようにした。その際のせん断破断力(3組の平均値)を表2に示す(実験例19)。
(実験例20〜34)
実験例20〜34においては、接着剤1(A、PES、DICY、2PI)に代えて、接着剤2(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤16(A、PES、DICY、2PI)を使用して、上記実験例19と同様の実験を行った。各実験の結果を表2に示す。
表2には、接着剤1〜16に関して常温下の状態も示した。固体のものは「固体」として示し、固体にまで至らずとも粘度が高く使用し難いものは「高粘度」として示した。また、接着剤1〜16においては、硬化助剤として2−フェニルイミダゾールを使用しているので前述したように式(i)〜式(iv)の条件に適合するか否かを判断した。式(i)〜式(iv)の全ての条件に適合するものに関しては、「○」と示し、いずれかの条件に適合しないものに関しては「×」と示した。表2に示すように、150℃下で30MPa以上のせん断破断力を示した接着剤は、式(i)〜式(iv)の全ての条件に適合していた。
95≧a+d≧68 −式(i)
32≧c+d≧15 −式(ii)
22≧b≧5 −式(iii)
d≧7 −式(iv)
接着剤1に関しては、a+d=70であり、式(i)の下限に近い値であるため、高粘度となっている。従って、塗布し難いという難点はあるものの、式(i)〜式(iv)の条件に全て適合するため、常温下で62.8MPa、100℃下で43.3MPa、150℃下で38.0MPaという極めて高い耐熱性を示した。接着剤11に関してもa+d=70であり、接着剤1と同様の特徴を有している。接着剤6及び8に関しては、a+d=70である点で接着剤1及び11と同様であるが、粘度はこれらと比較して低く、使用しやすい接着剤となっている。且つ、耐熱性も極めて良好である。但し、接着剤6に関しては、常温でのせん断破断力が55.8MPaであり、式(i)〜式(iv)の条件に全て適合する接着剤(接着剤1、2、4、5、6、8、10、11、12、13)の中では最も低いものとなった。
接着剤2に関しては、a+d=79であるため使用し易く、常温下で71.2MPa、100℃下で57.8MPa、150℃下で42.1MPaという最高度の接着力及び耐熱性を示した。接着剤4、5、10、12、及び13に関しても、接着剤2と同様の特徴を有している。ここで接着剤12に関しては式(i)〜(iv)の条件に全て適合しているが、フェノール樹脂型エポキシ樹脂を添加していない(c=0)。これによっても良好な実験結果が得られたため、式(i)〜式(iv)の条件に合致していれば、フェノール樹脂型エポキシ樹脂の添加の有無は接着力及び耐熱性に影響を与えないことになる。このように、式(i)〜式(iv)の条件に合致する接着剤1、2、4、5、6、8、10、11、12、及び13に関しては、常温下での高い接着力が確保され、かつ耐熱性を有する接着剤となった。
一方、接着剤3に関しては、b=4であるから式(iii)の条件に適合しない。常温下では50.2MPaのせん断破断力を示したものの、100℃、150℃においては接着力を喪失した。即ち耐熱性が著しく低かった。接着剤7に関しては、a+d=65であるから式(i)の条件に適合せず、常温で固体となっており、極めて実用性の低いものであった。この接着剤7は常温においても全く接着力を発揮しなかった。同じくa+d=65となり、さらにd=5であるため(i)及び(iv)の条件に合致しない接着剤9に関しても接着剤7と同様であった。接着剤14に関しては、a+d=67であるから式(i)の条件に適合せず、常温で高粘度となっている。また、d=0であるから式(iv)の条件にも合致しない。この接着剤14は常温で64.0MPa、150℃で27.1MPaのせん断破断力を示し、従来の接着剤と比較して高い耐熱性を示したものの、式(i)〜式(iv)の条件に合致する接着剤と比較して耐熱性が劣っていた。
接着剤15に関しては、a+d=67であるから式(i)の条件に適合せず、常温で固体となっている。また、b=25であるから式(iii)の条件にも合致しない。この接着剤15は常温で70.0MPa、150℃で26.5MPaのせん断破断力を示し、従来の接着剤と比較して高い耐熱性を示したものの、式(i)〜式(iv)の条件に合致する接着剤と比較して耐熱性が劣っていた。接着剤16に関しては、c+d=11であるから式(ii)の条件に合致せず、b=29であるから式(iii)の条件にも合致しない。この接着剤16は常温で62.3MPa、150℃で23.9MPaのせん断破断力を示し、従来の接着剤と比較して高い耐熱性を示したものの、式(i)〜式(iv)の条件に合致する接着剤と比較して耐熱性が劣っていた。
[実験例35](接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI))
実験例6で作製した接着剤4の組成に、さらにカーボンナノチューブ「MCNT」を添加した接着剤17を作成した。エポキシ樹脂100質量部に対して「MCNT」0.1質量部を添加し、他の充填材と同様にしてサンドグラインドミルを使用し、30分以上破壊分散させた。これにより得られた接着剤17の組成を表3に示す。
[実験例36](接着剤18(A、DICY、2PI)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成から「PES4100MP」を除いた接着剤18を作成した。即ちサンドグラインドミル運転中に「PES4100MP」を添加しなかった。これにより得られた接着剤18の組成を表3に示す。
[実験例37](接着剤19(PES、DICY、2PI)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成から「アエロジルR805」を除いた接着剤18を作成した。即ちサンドグラインドミル運転中に「アエロジルR805」を添加しなかった。これにより得られた接着剤19の組成を表3に示す。
[実験例38](接着剤20(A、PES、DICY、DCMU)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成において、硬化助剤「2PI」に代えて3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアの微粉である「DCMU99」を使用したものを作成した。これを接着剤20(A、PES、DICY、DCMU)とした。かかる場合であっても前述した式(i)〜式(iv)が適用されるため、接着剤20におけるエポキシ樹脂の組成もこれらの条件に合致する。
[実験例39](接着剤21(A、PES、DICY、2MI)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成において、硬化助剤「2PI」に代えて2−メチルイミダゾールの微粉「2MI」を使用したものを作成した。これを接着剤21(A、PES、DICY、2MI)とした。硬化助剤が2−メチルイミダゾールであるため、式(v)〜式(viii)が適用される。
95≧a+d≧68 −式(v)
30≧c+d≧18 −式(vi)
22≧b≧5 −式(vii)
d≧10 −式(viii)
接着剤21のエポキシ樹脂の組成は式(v)〜式(viii)の全ての条件に適合する。
[実験例40](接着剤22(A、PES、DICY、DMP)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成において、硬化助剤「2PI」に代えてN,N’−ジメチルピペラジン「ジメチルピペラジン」を使用したものを作成した。これを接着剤22(A、PES、DICY、DMP)とした。硬化助剤がN,N’−ジメチルピペラジン、式(v)〜式(viii)が適用される。接着剤22のエポキシ樹脂の組成は式(v)〜式(viii)の全ての条件に適合する。
[実験例41〜46](A7075片同士の接着)
実験例41〜46においては、実験例35〜40において作成した1液性エポキシ接着剤である接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI)〜接着剤22(A、PES、DICY、DMP)を使用して、実験例1の表面処理を施したA7075片同士を接着させ、A7075片同士の接合体を得た。そして、これらの接合体を破断させ、せん断破断力を測定した。
(実験例41)
実験例41について詳述する。実験例1の表面処理を施したA7075片18枚に対して接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI)を塗布した後、これらをデシケータに入れて蓋をした。このデシケータは予め温風乾燥機内で67℃に暖めておいたものである。その後、A7075片を入れたデシケータ内を真空ポンプで減圧し、3分ほど置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻し操作を計3回行った(これは染み込まし処理である)。その後、A7075片をデシケータから取り出し、A7075片2枚の接着剤塗布範囲同士を密着させて対にする。その際、接着面積が0.6〜0.7cmとなるようにする。この対をクリップで固定し、図2に示す試験片の形状とした。このようにしてA7075片同士の対を9組作成した。熱風乾燥機内を90℃とし、これに対としたA7075片を入れて、5分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を135℃に昇温し、135℃で40分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を165℃に昇温し、165℃で30分加熱した。その後放冷してA7075片同士の接合体である試験片を9組得た。翌日に試験片を引っ張り試験機にかけて破断させた。この試験は150℃下において3組の試験片に対して行った。その際のせん断破断力(3組の平均値)を表4に示す(実験例41)。
(実験例42〜46)
実験例42〜46においては、接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI)に代えて、接着剤18(A、DICY、2PI)〜接着剤22(A、PES、DICY、DMP)を使用して、上記実験例41と同様の実験を行った。各実験の結果を表4に示す。なお、実験例44(接着剤20(A、PES、DICY、DCMU)を使用)においては、常温下でのせん断破断力も測定した。その結果、68.5MPaのせん断破断力(3組の平均値)を示した。
表4の結果から、接着剤4、17、18、19、20、21、及び22のエポキシ樹脂の組成が全て同一であるにもかかわらず、超微細無機充填材の有無及び硬化助剤の種類によって150℃におけるせん断破断力に差異が生じることが確認される。硬化助剤として2−フェニルイミダゾール「2PI」を使用しており、かつ、ヒュームドシリカ「アエロジルR805」が添加された接着剤4が最も高い耐熱性を示した(44.3MPa)。また、接着剤4(A、PES、DICY、2PI)と同様に、硬化助剤として「2PI」を使用しており、かつ、ヒュームドシリカ「アエロジルR805」が充填された接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI)、接着剤18(A、DICY、2PI)に関しては150℃で40MPa以上の極めて高いせん断破断力を示した。その他の硬化助剤、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、2−メチルイミダゾール、N,N’−ジメチルピペラジンをそれぞれ使用した接着剤20、21、22でも、30MPa前後の高いせん断破断力を示した。
なお、実験例41の結果から、MCNTを添加したことによって、特に耐熱性が向上するという効果は確認されなかった。また、実験例42の結果から、PES4100MPの有無によって150℃のせん断破断力に差異が生じていないことから、少なくともPES4100MPの添加によって耐熱性が低下することはないといえる。一方、超微細無機充填材を添加していない接着剤19に関しては(実験例43)、同じ硬化助剤を使用し、超微細無機充填材が添加された接着剤4、17、及び18と比較してせん断破断力が10MPa近く劣っている(34.7MPa)。このことから、超微細無機充填材の添加は耐熱性を向上させる効果があるといえる。しかし、超微細無機充填材が添加されない場合であっても、硬化助剤として「2PI」を使用している接着剤19は、超微細無機充填材が添加され、硬化助剤として「2PI」が使用されていない接着剤20、21、及び22と比較して耐熱性は高かった。なお、後述するが、硬化助剤として3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを使用した場合には、硬化温度を低くすることができた。
[実験例47〜49](接着剤23(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤25(A、PES、DICY、2PI)の作成)
実験例6で作製した接着剤4の組成において、硬化剤「DICY7」及び硬化助剤「2PI」の添加量を異ならせた接着剤23(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤25(A、PES、DICY、2PI)を作成した。接着剤4においては、エポキシ樹脂100質量部に対して「DICY7」を4.5質量部、「2PI」を2.25質量部添加したが、接着剤23においては、エポキシ樹脂100質量部に対して「DICY7」を2.5質量部、「2PI」を1.25質量部添加した(実験例47)。また、接着剤24においては、エポキシ樹脂100質量部に対して「DICY7」を3.5質量部、「2PI」を1.75質量部添加した(実験例48)。さらに接着剤25においては、エポキシ樹脂100質量部に対して「DICY7」を5.5質量部、「2PI」を2.75質量部添加した(実験例49)。それぞれの組成を表5に示す。
[実験例50〜52](A7075片同士の接着)
実験例50〜52においては、実験例47〜49において作成した1液性エポキシ接着剤である接着剤23(A、PES、DICY、2PI)〜接着剤25(A、PES、DICY、2PI)を使用して、実験例1の表面処理を施したA7075片同士を接着させ、A7075片同士の接合体を得た。そして、これらの接合体を破断させ、せん断破断力を測定した。A7075片の接着方法及びせん断破断力の測定方法は、実験例41と同様である。測定結果を表6に示す。
接着剤23、24、4、及び25のいずれに関しても150℃下で33MPa以上のせん断破断力を示し、市販の接着剤よりも明らかに高い耐熱性を示した。この結果からみると、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を使用し、硬化助剤として2−フェニルイミダゾールを使用する場合、エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミド粉体を2.5〜5.5質量部添加し、2−フェニルイミダゾールを1.25〜2.75質量部添加することで、少なくとも市販の接着剤よりも高い耐熱性を獲得できるといえる。特に、接着剤24(「DICY7」3.5質量部、「2PI」1.75質量部)が42.5MPa、接着剤4(「DICY」4.5質量部、「2PI」2.25質量部)が44.3MPaのせん断破断力を示している。これは、接着剤23(「DICY7」2.5質量部、「2PI」1.25質量部)の33.2MPa、接着剤25(「DICY7」5.5質量部、「2PI」2.75質量部)の36.3MPaと比較しても明かに高く、硬化剤及び硬化助剤の添加量が耐熱性に影響を与えることを示すものである。この結果からみると、硬化剤としてジシアンジアミドを使用し、硬化助剤として2−フェニルイミダゾールを使用する場合、エポキシ樹脂100質量部に対してジシアンジアミドを3.5〜4.5添加し、2−フェニルイミダゾールを1.75〜2.25質量部添加することが最適であるといえる。
[実験例53](A7075片とCFRP片の接着)
実験例1の表面処理を施したA7075片9枚、及び実験例2で作成したCFRP片9枚に対して接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を塗布した後、これらをデシケータに入れて蓋をした。このデシケータは予め温風乾燥機内で67℃に暖めておいたものである。その後、A7075片及びCFRP片を入れたデシケータ内を真空ポンプで減圧し、3分ほど置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻し操作を計3回行った(これは染み込まし処理である)。その後、A7075片及びCFRP片をデシケータから取り出し、A7075片とCFRP片の接着剤塗布範囲同士を密着させて対にする。その際、接着面積が0.6〜0.7cmとなるようにする。この対をクリップで固定し、図2に示す試験片の形状とした。このようにしてA7075片とCFRP片の対を9組作成した。熱風乾燥機内を90℃とし、これに対としたA7075片及びCFRP片を入れて、5分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を135℃に昇温し、135℃で40分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を165℃に昇温し、165℃で30分加熱した。その後放冷してA7075片とCFRP片の複合体である試験片を9組得た。翌日に試験片を引っ張り試験機にかけて破断させた。この試験は常温下、100℃下、及び150℃下において、それぞれ3組の試験片に対して行った。せん断破断力の平均値は、常温下で58.2MPa、100℃下で42.3MPa、150℃下で35.3MPaであった。NATの条件に適合する表面を有する金属合金とCFRPを接着した複合体として、従来になく高い耐熱性を有するものとなった。
[実験例54](CFRP片同士の接着)
実験例2で作成したCFRP片18枚に対して接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を塗布した後、これらをデシケータに入れて蓋をした。このデシケータは予め温風乾燥機内で67℃に暖めておいたものである。その後、CFRP片を入れたデシケータ内を真空ポンプで減圧し、3分ほど置いてから常圧に戻した。この減圧/常圧戻し操作を計3回行った(これは染み込まし処理である)。その後、CFRP片をデシケータから取り出し、CFRP片2枚の接着剤塗布範囲同士を密着させて対にする。その際、接着面積が0.6〜0.7cmとなるようにする。この対をクリップで固定し、図2に示す試験片の形状とした。このようにしてCFRP片同士の対を9組作成した。熱風乾燥機内を90℃とし、これに対としたCFRP片を入れて、5分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を135℃に昇温し、135℃で40分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を165℃に昇温し、165℃で30分加熱した。その後放冷してCFRP片同士の接合体である試験片を9組得た。翌日に試験片を引っ張り試験機にかけて破断させた。この試験は常温下、100℃下、及び150℃下において、それぞれ3組の試験片に対して行った。せん断破断力の平均値は、常温下で50.2MPa、100℃下で35.2MPa、150℃下で30.8MPaであった。接着対象がNATの条件に適合する金属合金である場合と比較すると接着力は低いが、CFRP同士を接着した接合体として、従来になく高い耐熱性を有するものとなった。
[実験例55](CFRP片同士の接着)
接着剤4(A、PES、DICY、2PI)に代えて、接着剤17(A、MCNT、PES、DICY、2PI)を使用して実験例54と同様の実験を行った。せん断破断力の平均値は、常温下で52.8MPa、100℃下で36.9MPa、150℃下で35.0MPaであった。常温下及び100℃下ではMCNTを添加した効果は明確ではなく、150℃下において若干ながらもMCNTを添加した効果が認められる程度であった。
[実験例56〜59](A7075片同士の接着)
接着剤4(A、PES、DICY、2PI)の硬化条件を異ならせて、実験例22と同様の実験を行った。実験例22においては、135℃で40分加熱した後、さらに165℃で30分加熱するという条件だったが、これに対して実験例56では170℃で60分加熱、実験例57では110℃で60分加熱、実験例58では120℃であ60分加熱、実験例58では130℃で60分加熱することとした。なお、いずれの実験例に関しても上記の条件で加熱する前に、90℃で5分間予備加熱している。実験結果を表7に示す。この実験結果から、110℃で60分加熱したものは、常温下でのせん断破断力が28.5MPaと著しく低く、完全硬化に至っていない。故に硬化条件としては、少なくとも120℃以上で加熱することが必要である。
[実験例60〜63](A7075片同士の接着)
接着剤20(A、PES、DICY、DCMU)の硬化条件を異ならせて、常温下において実験例44と同様の実験を行った。実験例44においては、135℃で40分加熱した後、さらに165℃で30分加熱するという条件だったが、これに対して実験例60では170℃で60分加熱、実験例61では100℃で60分加熱、実験例62では110℃であ60分加熱、実験例63では120℃で60分加熱することとした。なお、いずれの実験例に関しても上記の条件で加熱する前に、90℃で5分間予備加熱している。実験結果を表8に示す。この実験結果から、100℃で60分加熱したものは、常温下でのせん断破断力が55.3MPaと低く、完全硬化に至っていない可能性がある。しなしながら、110℃で60分加熱したものに関しては66.3MPaを示し、完全硬化していると考えられる。このように、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを硬化助剤とすることで、接着剤の硬化温度を110℃程度にまで低くすることが可能である。
以下に示す実験例64〜66では、脱脂処理のみを施したA5052片を接着させ、その接合体のせん断破断力を測定する。実験例64では接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を使用し、実験例65では市販の接着剤「EP106NL」を使用し、実験例66では市販の接着剤「EP160」を使用する。
[実験例64](脱脂処理のみを施したA5052片同士の接着)
市販の厚さ1.6mmのアルミニウム合金板材「A5052」を入手し、切断して45mm×15mmの長方形のA5052片を多数作成した。槽の水250リットルに市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6」を20kg投入して脱脂液(60℃)とした。これに前記A5052片を5分浸漬し、よく水洗した。これらのA5052片12枚に対して接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を塗布した後、40℃とした温風乾燥機内に入れて15分置いた。その後、前記A5052片を温風乾燥機から取り出し、A5052片2枚の接着剤塗布範囲同士を密着させて対にする。その際、接着面積が0.8〜0.9cmとなるようにする。この対をクリップで固定し、図2に示す試験片の形状とした。このようにしてA5052片同士の対を6組作成した。熱風乾燥機内を90℃とし、これに対としたA5052片を入れて、5分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を135℃に昇温し、135℃で50分加熱した。次いで、熱風乾燥機内を165℃に昇温し、165℃で30分加熱した。その後放冷してA5052片同士の接合体である試験片を6組得た。翌日に試験片を引っ張り試験機にかけて破断させた。この試験は常温下及び100℃下において、それぞれ3組の試験片に対して行った。その際のせん断破断力(3組の平均値)を表9に示す(実験例64)。
[実験例65](脱脂処理のみを施したA5052片同士の接着)
接着剤4(A、PES、DICY、2PI)に代えて、市販の1液性エポキシ接着剤である「EP106NL(セメダイン株式会社製)」を使用して実験例64と同様の実験を行った。その結果を表9に示す(実験例65)。
[実験例66](脱脂処理のみを施したA5052片同士の接着)
接着剤4(A、PES、DICY、2PI)に代えて、市販接着剤の中でも耐熱性を有する1液性エポキシ接着剤である「EP160(セメダイン株式会社製)」を使用して実験例64と同様の実験を行った。その結果を表9に示す(実験例66)。
本発明者らが開発した接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を使用した場合、常温下におけるせん断破断力は、市販の接着剤「EP106NL」及び「EP160」と比較して差異がない。しかし、100℃におけるせん断破断力は40MPaを超えており、「EP106NL」と比較して極めて高い耐熱性を有していた。また、耐熱性に優れているとされている「EP160」と比較しても、その耐熱性は明らかに高かった。
[実験例67〜78](脱脂処理のみを施した金属合金同士の接着)
実験例67、69、71、73、75、及び77では、本発明の接着剤4(A、PES、DICY、2PI)を使用して、脱脂処理のみを施した金属合金同士を接着させ、常温下及び100℃下におけるその接合体のせん断破断力を測定した。実験例67ではA7075アルミニウム合金、実験例69ではC1100銅合金、実験例71ではKFC銅合金、実験例73ではKS−40チタン合金、実験例75ではSUS304ステンレス鋼、実験例77ではSPCC冷間圧延鋼材をそれぞれ対象とした。これらの結果を表10に示す。
実験例68、70、72、74、76、及び78では、市販の接着剤「EP106NL」を使用して、脱脂処理のみを施した金属合金同士を接着させ、常温下及び100℃下におけるその接合体のせん断破断力を測定した。実験例68ではA7075アルミニウム合金、実験例70ではC1100銅合金、実験例72ではKFC銅合金、実験例74ではKS−40チタン合金、実験例76ではSUS304ステンレス鋼、実験例78ではSPCC冷間圧延鋼材をそれぞれ対象とした。これらの結果を表10に示す。
表10に示す結果から、常温下において、本発明の接着剤4は市販の接着剤と比較して特に高い接着力を発揮しているとは認められない。しかしながら、100℃下においては、市販の接着剤に対して明らかに高い接着力を示した。これは接着対象が何ら特殊な表面処理をなされていない金属合金であっても、本発明の接着力が高い耐熱性を発揮することを示すものである。これは本発明の接着剤が、エポキシ樹脂の組成を最適化し、適切な充填材、硬化助剤を選択し、かつこれらの添加量を適量としたことによるものである。なお、A7075アルミニウム合金に関しては、表面が平滑すぎたため(鏡面に近く)、接着剤4及び市販の接着剤のいずれも接着力を発揮しなかった。
このように、脱脂処理のみを施した金属合金同士を強固に接着し、かつ高い耐熱性を発揮したことから、本発明の1液性エポキシ接着剤は、接着対象物の表面形状に依存することなく、市販の接着剤に劣らない接着力と、市販の接着剤よりも格段に優れた耐熱性を発揮するものであるということがいえる。即ち、接着対象は限定されず、一般的な用途として使用しても高い接着力及び耐熱性を発揮するものである。当然に、コボンド法に基づく接着のみならず、コキュア法に基づく接着を行う場合にも有効な接着剤となる。
[実験例79](クレーを添加した接着剤:接着剤25)
実験例22の結果から、接着剤4が最も高い耐熱性を示したので(150℃で44.3MPa)、接着剤4を基準として無機充填材のみを異ならせた接着剤25を作成した。接着剤25では、無機充填材として「ハイミクロンHE5」に代えて、クレー(焼成カオリン)である「サテントン5」をエポキシ樹脂100質量部に対して3質量部添加した。その作成方法は接着剤4と同様である(実験例6)。これにより得られた接着剤25の組成を表11に示す。
[実験例80](アルミニウム合金粉体を添加した接着剤:接着剤26)
接着剤4を基準として熱可塑性樹脂粉体に代えてアルミニウム合金粉体を添加した接着剤26を作成した。接着剤26では、「PES4100MP」に代えて、純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」をエポキシ樹脂100質量部に対して4質量部添加した。その作成方法は接着剤4と同様である(実験例6)。これにより得られた接着剤26の組成を表11に示す。
[実験例81](クレー及びアルミニウム合金粉体を添加した接着剤:接着剤27)
接着剤4を基準として、無機充填材を異ならせ、かつ熱可塑性樹脂粉体に代えてアルミニウム合金粉体を添加した接着剤27を作成した。接着剤27では、無機充填材として「ハイミクロンHE5」に代えて、クレー(焼成カオリン)である「サテントン5」をエポキシ樹脂100質量部に対して3質量部添加した。また、「PES4100MP」に代えて、純アルミニウム系アルミニウム合金粉体「フィラー用アルミニウムパウダー」をエポキシ樹脂100質量部に対して4質量部添加した。その作成方法は接着剤4と同様である(実験例6)。これにより得られた接着剤27の組成を表11に示す。
[実験例82〜84](A7075片同士の接着)
実験例82〜84においては、実験例79〜81において作成した1液性エポキシ接着剤25〜27を使用して、実験例1の表面処理を施したA7075片同士を接着させ、A7075片同士の接合体を得た。そして、これらの接合体を破断させ、せん断破断力を測定した。その方法は実験例22と同様である。その結果を表12に示す。
実験例82に示すように、タルクに代えてクレーを添加した接着剤25を使用した場合、常温下及び150℃下におけるせん断破断力に明確な際は無かった。一方、熱可塑性樹脂粉体に代えて、純アルミニウム系アルミニウム合金粉体を添加した効果は常温下のせん断破断力に明確に現れた。「フィラー用アルミニウムパウダー」を添加した接着剤26及び27の常温下におけるせん断破断力は、それぞれ77.3MPa、75.9MPaと全接着剤の中でも最も高く、「PES4100MP」を添加した接着剤と比較して5〜10MPa程度高い値となった。
このことは、本発明における1液性エポキシ接着剤が常温下における接着力においても市販の接着剤と比較して接着性能が高いことを示すことになる。即ち、本発明の1液性エポキシ接着剤は、市販の接着剤と比較して、常温下における接着力及び高温下における接着力のいずれも優位であり、特に耐熱性が極めて良い。かつ110℃〜130℃程度の低温で硬化させることができ、接着作業を簡素化できるという3つの特徴を兼備するものであるといえる。
12…CFRPプリプレグ積層物
30…複合体
31…金属合金片
32…CFRP片
33…接着範囲
40…金属合金
41…セラミック質層
42…接着剤硬化物層
50…CFRP板材
51…金属合金部品
52…接着剤層

Claims (23)

  1. ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体をa質量部、分子量1000〜2000のビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーをb質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、かつフェノール樹脂型であるエポキシ樹脂をc質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、フェノール樹脂型ではなく、常温で液状であるエポキシ樹脂をd質量部含む1液性エポキシ接着剤であって、
    当該1液性エポキシ接着剤に含まれるエポキシ樹脂を100質量部としたときに、a+b+c+d=100であり、
    かつ、95≧a+d≧68、32≧c+d≧15、22≧b≧5、及び、d≧7の全ての条件を満たし、
    かつ、粒径分布の中心が5〜20μmの無機充填材をエポキシ樹脂100質量部に対して1〜10質量部含み、
    かつ、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を含み、硬化助剤として2−フェニルイミダゾール又は3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアを含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  2. ビスフェノールA型エポキシ樹脂単量体をa質量部、分子量1000〜2000のビスフェノールA型エポキシ樹脂オリゴマーをb質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、かつフェノール樹脂型であるエポキシ樹脂をc質量部、3個以上のエポキシ基を有する多官能型であって、フェノール樹脂型ではなく、常温で液状であるエポキシ樹脂をd質量部含む1液性エポキシ接着剤であって、
    当該1液性エポキシ接着剤に含まれるエポキシ樹脂を100質量部としたときに、a+b+c+d=100であり、
    かつ、95≧a+d≧68、30≧c+d≧18、22≧b≧5、及び、d≧10の全ての条件を満たし、
    かつ、粒径分布の中心が5〜20μmの無機充填材をエポキシ樹脂100質量部に対して1〜10質量部含み、
    かつ、硬化剤としてジシアンジアミド粉体を含み、硬化助剤として2−メチルイミダゾール又はN,N’−ジメチルピペラジンを含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  3. 請求項1又は2に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化剤を2.5〜5.5質量部含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  4. 請求項3に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化剤を3.5〜4.5質量部含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  5. 請求項1に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化剤を2.5〜5.5質量部含み、
    前記硬化助剤は2−フェニルイミダゾールであって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化助剤を1.25〜2.75質量部含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  6. 請求項5に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化剤を3.5〜4.5質量部含み、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記硬化助剤を1.75〜2.25質量部含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  7. 請求項1ないし6から選択される1項に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記無機充填材を2〜6質量部含み、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して粒径が100nm以下の超微細無機充填材を0.2〜2.0質量部さらに含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  8. 請求項7に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記超微細無機充填材はヒュームドシリカであることを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  9. 請求項1ないし8から選択される1項に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して直径が20nm以上のカーボンナノチューブを0.02〜0.2質量部さらに含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  10. 請求項1ないし9から選択される1項に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して粒径が5〜30μmの熱可塑性樹脂粉体を10質量部以下さらに含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  11. 請求項10に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記熱可塑性樹脂粉体がポリエーテルスルホン樹脂であることを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  12. 請求項1ないし9から選択される1項に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記エポキシ樹脂100質量部に対して粒径が5〜30μmのアルミニウム合金粉体を10質量部以下さらに含むことを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  13. 請求項12に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記アルミニウム合金粉体が、アルミニウムが99.0質量%以上を占める純アルミニウム系アルミニウム合金粉体であることを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  14. 請求項1ないし13から選択される1項に記載した1液性エポキシ接着剤であって、
    前記無機充填材がタルク又はクレーであることを特徴とする1液性エポキシ接着剤。
  15. 請求項1又は2に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    接着対象は金属合金同士であり、
    各々の金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経た各々の金属合金の表面に前記1液性エポキシ接着剤を塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程を経た各々の金属合金について、それぞれの1液性エポキシ接着剤を塗布した範囲同士を密着させた状態で固定し、当該1液性エポキシ接着剤を硬化させることで両者を一体化する硬化工程と、
    を含むことを特徴とする接着方法。
  16. 請求項15に記載した接着方法であって、
    前記1液性エポキシ接着剤は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して粒径が5〜30μmであって、アルミニウムが99.0質量%以上を占める純アルミニウム系アルミニウム合金粉体を10質量部以下さらに含むことを特徴とする接着方法。
  17. 請求項6に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    接着対象は金属合金とCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)であり、
    前記金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を加熱して硬化させるCFRP硬化工程と、
    前記CFRP硬化工程によって硬化したCFRPの表面を粗面化するCFRP粗面化工程と、
    前記表面処理工程を経た金属合金の表面及び前記CFRP粗面化工程後のCFRPの表面に前記1液性エポキシ接着剤を塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程を経た金属合金及びCFRPについて、それぞれの1液性エポキシ接着剤を塗布した範囲同士を密着させた状態で固定し、当該1液性エポキシ接着剤を硬化させることで両者を一体化する硬化工程と、
    を含むことを特徴とする接着方法。
  18. 請求項15ないし17から選択される1項に記載した接着方法であって、
    前記金属合金はアルミニウム合金であることを特徴とする接着方法。
  19. 請求項6に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    接着対象はCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)同士であり、
    各々のCFRPを加熱して硬化させるCFRP硬化工程と、
    前記CFRP硬化工程によって硬化した各々のCFRPの表面を粗面化するCFRP粗面化工程と、
    前記CFRP粗面化工程後の各々のCFRPの表面に前記1液性エポキシ接着剤を塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程を経た各々のCFRPについて、それぞれの1液性エポキシ接着剤を塗布した範囲同士を密着させた状態で固定し、当該1液性エポキシ接着剤を硬化させることで両者を一体化する硬化工程と、
    を含むことを特徴とする接着方法。
  20. 請求項6に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    接着対象は金属合金同士であり、
    各々の金属合金の表面に対して脱脂処理を行う脱脂処理工程と、
    前記脱脂処理工程を経た各々の金属合金の表面に前記1液性エポキシ接着剤を塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程を経た各々の金属合金について、それぞれの1液性エポキシ接着剤を塗布した範囲同士を密着させた状態で固定し、当該1液性エポキシ接着剤を硬化させることで両者を一体化する硬化工程と、
    を含むことを特徴とする接着方法。
  21. 請求項15ないし20から選択される1項に記載した接着方法であって、
    前記1液性エポキシ接着剤は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記無機充填材としてタルク又はクレーを2〜6質量部含み、前記エポキシ樹脂100質量部に対して粒径が100nm以下の超微細無機充填材としてヒュームドシリカを0.2〜2.0質量部さらに含むことを特徴とする接着方法。
  22. 請求項1に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    前記硬化助剤は2−フェニルイミダゾールであって、
    当該1液性エポキシ接着剤を120〜130℃で60分以上加熱することによって硬化させることを特徴とする接着方法。
  23. 請求項1に記載した1液性エポキシ接着剤を使用した接着方法であって、
    前記硬化助剤は3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチルウレアであって、
    当該1液性エポキシ接着剤を110〜120℃で60分以上加熱することによって硬化させることを特徴とする接着方法。
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