JP2011004711A - 発酵乳の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】発酵乳の原料に乳酸桿菌(例えば、ラクトバチルス・ブルガリカス)及び乳酸球菌(例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス)を添加し発酵させて、発酵乳を得る発酵工程と、該発酵乳に酸素を供給する酸素供給工程とを含む発酵乳の製造方法。
【選択図】なし
Description
この問題を軽減するために、従来より、種々の方法が提案されている。
一例として、ヨーグルト素材組成物に乳酸菌を加え、組成物中の乳の発酵度合を所望のものとしたものを低温に放置したのち、該乳酸菌の高温側発育停止限界温度以上であって完全死滅に至らない温度、時間条件下に加熱し、これを冷却することを特徴とする、乳酸菌の生菌を含むヨーグルトの製造方法が提案されている(特許文献1)。
このヨーグルトの製造方法において、乳酸菌がラクトバチルス・ブルガリカスである場合、高温側発育停止限界温度は50〜55℃であり、完全死滅条件は例えば63℃で30分間である。
他の例として、キトサンを含有してなる酸度上昇を抑制した発酵乳が、提案されている(特許文献2)。
また、特許文献2に記載の技術は、発酵乳には通常含有させないキトサンを添加物として用いることによる商品力の低下や、キトサンによる発酵乳の風味の変化などの問題がある。
そこで、本発明は、発酵後の加熱や添加物の添加などを行わずに、経時的な酸度の増大を抑制して、適度な酸味を長期間に亘って保ち、良好な風味を維持しうる発酵乳の製造方法を提供することを目的とする。
[1]発酵乳の原料に乳酸桿菌及び乳酸球菌を添加し発酵させて、発酵乳を得る発酵工程と、該発酵乳に酸素を供給して、溶存酸素量が増大した発酵乳を得る酸素供給工程とを含むことを特徴とする発酵乳の製造方法。
[2]上記乳酸桿菌が、ラクトバチルス・ブルガリカスであり、かつ、上記乳酸球菌がストレプトコッカス・サーモフィルスである上記[1]に記載の発酵乳の製造方法。
[3]上記酸素供給工程における酸素の供給の終了時から25日間経過後の時点までの10℃の温度下での酸度の増大の幅が、0.20%以下である上記[1]又は[2]に記載の発酵乳の製造方法。
[4]上記酸素供給工程における酸素の供給の終了時において、上記発酵乳中の溶存酸素濃度が12ppm以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
また、本発明によると、乳酸桿菌に比べて酸素の影響が少ない乳酸球菌については、酸素を供給しても必要な生菌数が確保されるので、発酵乳としての商品価値を維持することができる。
さらに、本発明によると、発酵後の加熱や添加物の添加を行わないので、発酵乳本来の風味を損ねることがなく、良好な風味を得ることができる。
なお、本発明の製造方法で得られる発酵乳は、発酵乳の原料に発酵のスターターとして乳酸桿菌及び乳酸球菌を添加し発酵させた後に、酸素を供給して得られるものであるため、セットタイプヨーグルトとしての製造が困難であり、前発酵型とよばれるソフトヨーグルトまたはドリンクヨーグルトに分類されるものである。
以下、各工程について詳しく説明する。
発酵工程は、発酵乳の原料に乳酸桿菌及び乳酸球菌を添加し発酵させて、発酵乳を得る工程である。
本明細書において、発酵乳の原料とは、少なくとも原料乳を含むものをいう。
ここで、原料乳の例としては、牛乳等の獣乳や、その加工品(例えば、脱脂乳、脱脂粉乳、れん乳、乳清、クリーム等)や、大豆由来の豆乳等の植物性乳等が挙げられる。
発酵乳の原料の一例として、発酵乳原料ミックスと呼ばれるものが挙げられる。
発酵乳原料ミックスとは、原料乳及び他の成分を含む混合物であり、例えば、原料乳、砂糖、糖類、香料、水等の、発酵乳の製造に常用される原料を加温して溶解し、混合することで得られる。発酵乳原料ミックスに安定剤を含む場合は、ゼラチンなどの安定剤を水などの溶媒に予め加温溶解し、これと他の成分を混合することによって、発酵乳原料ミックスが得られる。
中でも、ラクトバチルス・ブルガリカスは、酸素を供給しない場合に比べて、酸素による生菌数の経時的な減少の程度が大きく、本発明の効果が顕著に得られる点で、好ましく用いられ、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、酸素による生菌数への影響が少ないため、酸素を供給しても発酵乳として必要な生菌数が確保されるので、酸素の供給後の発酵乳に含まれる乳酸菌全体の生菌数を、長期間に亘って一定以上に維持するのに大きく寄与することができる点で、好ましく用いられる。
本発明において、乳酸桿菌及び乳酸球菌として、特異な性質を有する変異株を使用する必要はなく、汎用の菌株を用いることができる。
発酵温度は、良好な風味の発酵乳を効率的に得る観点から、30〜48℃、好ましくは35〜48℃、より好ましくは38〜45℃である。
発酵時間は、良好な風味の発酵乳を効率的に得る観点から、好ましくは2〜20時間、より好ましくは4〜15時間である。
殺菌工程における殺菌方法の例としては、120〜130℃で数秒間殺菌するUHT(超高温殺菌)や、90〜95℃で数十分間殺菌するHTST(高温殺菌)等が挙げられる。
また、本発明の発酵乳の製造方法は、発酵工程の後に、冷却工程、均質化工程、糖液等の他成分の添加工程等を含むことができる。
冷却工程は、発酵乳の温度を発酵温度(例えば、43℃)から所定の低温(例えば、10℃)に低下させる工程である。
均質化工程は、発酵乳に圧力を加えて、発酵乳に含まれるカードなどの固形成分を細かく分散させて、発酵乳を均質化する工程である。均質化工程は、酸素供給工程の前と後のいずれでもよい。
本発明の発酵乳の製造方法の一例として、殺菌工程、発酵工程、冷却工程、均質化工程、をこの順に含み、かつ、冷却工程と同時に後述の酸素供給工程を行なうものが挙げられる。この場合、糖液等の他成分の添加工程は、均質化工程の後に含めることができる。
本発明の発酵乳の製造方法の他の例として、殺菌工程、発酵工程、冷却工程、均質化工程、後述の酸素供給工程、をこの順に含むものが挙げられる。この場合、糖液等の他成分の添加工程は、均質化工程と酸素供給工程の間に含めてもよいし、あるいは、酸素供給工程と同時に行なってもよい。
酸素供給工程は、発酵工程で得た発酵乳に酸素を供給して、溶存酸素量が増大した発酵乳を得る工程である。
ここでの酸素は、発酵乳に気体としての酸素を供給して、発酵乳に含まれる溶存酸素量を増大させうる形態であればよく、通常、酸素含有ガスとして供給される。酸素含有ガスの例としては、酸素ガス、空気等が挙げられる。
酸素の供給方法としては、発酵乳を収容した貯留槽内の上部の空間に酸素ガス等の酸素含有ガスを通気させる方法や、発酵乳の中に挿通した管によって酸素含有ガスを気泡として発酵乳の中に供給する方法等が挙げられる。発酵乳を収容した貯留槽内の上部の空間に酸素ガス等の酸素含有ガスを通気させる方法は、発酵乳における気泡の発生を抑えることができるため、好ましい。
また、酸素の供給時に発酵乳を撹拌することは、発酵乳の溶存酸素量を効率的に増大させる点で好ましい。
この場合、酸素の供給量、供給時間等の諸条件は、特に限定されるものではないが、好適な例として例えば以下のものが挙げられる。
例えば、発酵乳1リットル当たりの酸素の供給量は、単位時間当たりの量として、毎分、好ましくは0.1リットル以上、より好ましくは0.3リットル以上、特に好ましくは0.5リットル以上である。該供給量(リットル/分)の上限は、特に限定されないが、酸素の供給量を増大させても、酸度の増大の抑制効果が頭打ちとなることから、通常、10リットル/分である。
また、例えば、発酵乳に対する酸素の供給時間は、該供給時間が長いほど、酸度の増大の抑制効果が大きいことから、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、特に好ましくは30分以上である。
酸素の供給は、発酵工程における上述の特定の温度下での発酵の終了後、発酵乳の温度の低下中、または、低下後に行うことが望ましい。
酸素の供給時の発酵乳の温度は、溶存酸素量を高める観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃以下、特に好ましくは15℃以下である。
酸素の供給の終了時から20日間経過後の時点における発酵乳のpHは、酸味が強すぎることによる発酵乳の風味の劣化を防止する観点から、10℃の温度下で、好ましくは4.03〜4.35である。
酸素の供給の終了時から20日間経過後の時点までの発酵乳のpHの低下の幅は、10℃の温度下で、好ましくは0.24以下である。
酸素の供給の終了時における発酵乳の酸度は、適度な酸味を付与する観点から、好ましくは0.70〜0.80%である。
酸素の供給の終了時から20日間経過後の時点における発酵乳の酸度は、酸味が強すぎることによる発酵乳の風味の劣化を防止する観点から、10℃の温度下で、好ましくは0.70〜0.93%である。
酸素の供給の終了時から所定の時間経過後の時点までの発酵乳の酸度の増大の幅は、好ましくは、酸素の供給の終了時から25日間経過後の時点までの発酵乳の酸度の増大の幅が10℃の温度下で0.20%以下であり、より好ましくは、酸素の供給の終了時から20日間経過後の時点までの発酵乳の酸度の増大の幅が10℃の温度下で0.20%以下である。
酸度とは、乳酸の質量に換算した酸の濃度(質量%)である。
酸素の供給の終了時において、発酵乳中の溶存酸素濃度は、好ましくは12ppm以上、より好ましくは15ppm以上である。該溶存酸素濃度の上限は、特に限定されないが、通常、50ppmである。
脱脂粉乳705g、水4195gを混合してなる発酵乳の原料(発酵乳原料ミックス)を調製し、95℃で10分間加熱殺菌した後、43℃まで冷却した。次に明治乳業社製「明治ブルガリアヨーグルト」より単離したラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の混合スターターを発酵乳原料ミックス100質量%に対して2.0質量%の量となるように接種し、タンク内で、43℃、5時間発酵させた。乳酸酸度が1.20%に到達したところで、10℃以下に冷却し発酵を停止させ、発酵乳を得た。
次いで、得られた発酵乳を2.0リットル容量の蓋付き容器に1.8リットル採取し、試料とした。この発酵乳の試料について、発酵乳1リットル当たり3リットル/分の量の酸素ガスを、容器上部の空間に60分間流通させ、溶存酸素量が増大した発酵乳(溶存酸素濃度:38.7ppm)を得た。
その後、一段加圧が100kgf、二段加圧が50kgfの圧力で均質化処理を行い、均質化された発酵乳を得た。
この均質化された発酵乳と、糖液(0.6質量%のペクチン溶液)を、質量比が6:4となるように混合して、最終目的物である発酵乳(ソフトタイプの発酵乳)を得た。
この発酵乳を10℃で保存し、酸素ガスの供給終了時を始点とした発酵乳のpH、酸度、及び、乳酸桿菌及び乳酸球菌の生菌数の経時的変化を調べた。
なお、乳酸桿菌及び乳酸球菌の生菌数は、発酵乳1ミリリットル当たりの生菌数(コロニー形成単位;Colony forming unit)を計測した値である。
[比較例1]
酸素ガスを供給しないこと以外は、実施例1と同様にして実験した。
以上の結果を表1〜表4に示す。
まず、実施例1と同様にして、発酵乳を得た。
次いで、得られた発酵乳を2.0リットル容量の蓋付き容器に1.8リットル採取し、発酵乳の試料とした。そしてこの発酵乳の試料を10℃に冷却し、その後、一段加圧が100kgf、二段加圧が50kgfの圧力で均質化処理を行い、均質化された発酵乳を得た。
この均質化された発酵乳と、糖液(0.6質量%のペクチン溶液)を、質量比が6:4となるように混合しつつ、同時に、発酵乳1リットル当たり3リットル/分の量の酸素ガスを、容器上部の空間に60分間流通させ、溶存酸素量が増大した発酵乳(溶存酸素濃度:47.3ppm)を得た。
この発酵乳を10℃で保存し、酸素ガスの供給終了時を始点とした発酵乳のpH、酸度、及び、乳酸桿菌及び乳酸球菌の生菌数の経時的変化を調べた。
[比較例2]
酸素ガスを供給しないこと以外は、実施例2と同様にして実験した。
以上の結果を表5〜表8に示す。
なお、以下の実施例では、作業効率の観点から、均質化工程の後に、発酵乳と糖液を混合すると同時に酸素を供給することとする。
まず、実施例1と同様にして、発酵乳を調製した。次いで、得られた発酵乳を1.0リットル容量の蓋付き容器に0.8リットル採取して、試料とした。そして試料を10℃に冷却し、その後、一段加圧が100kgf、二段加圧が50kgfの圧力で均質化処理を行い、均質化された発酵乳を得た。
この均質化された発酵乳と、糖液(0.6質量%のペクチン溶液)を、質量比が6:4となるように混合しつつ、同時に、各々の試料に対して、酸素ガスの供給なし(0リットル/分)、発酵乳1リットル当たり0.5リットル/分、1.0リットル/分、1.5リットル/分、3.0リットル/分、4.5リットル/分の量の酸素ガスを、容器(半径5.5cmの円筒状)内の上部の空間に60分間流通させ、溶存酸素量が増大した発酵乳を得た。本実験では、0リットル/分、0.5リットル/分、1.0リットル/分、1.5リットル/分の比較検討と、0リットル/分、1.5リットル/分、3.0リットル/分、4.5リットル/分の比較検討の2種類の検討を行った。なお、酸素ガスと試料の接触面積は95cm2であった。
酸素の供給量(リットル/分)と酸素供給直後における溶存酸素濃度の関係は、表9〜表10に示すとおりであった。
各発酵乳を10℃で保存し、酸素ガスの供給終了時を始点とした場合における、各経過日数における酸度、乳酸桿菌及び乳酸球菌の生菌数を、表11〜表16に示す。
したがって、酸素の供給量が0.5リットル/分以上であれば、本発明の効果が得られると言える。
まず、実施例1と同様にして、発酵乳を調製した。次いで、得られた発酵乳を1.0リットル容量の蓋付き容器に0.8リットル採取して、試料とした。そしてこの発酵乳の試料を10℃に冷却し、その後、一段加圧が100kgf、二段加圧が50kgfの圧力で均質化処理を行い、均質化された発酵乳を得た。
この均質化された発酵乳と、糖液(0.6質量%のペクチン溶液)を、質量比が6:4となるように混合しつつ、同時に、各々の試料に対して、0.5リットル/分の流量で、0分、10分、15分、30分の各経過時間、容器内の上部空間に酸素ガスを流通させ、溶存酸素量が増大した発酵乳を得た。
酸素の供給時間と酸素供給直後における溶存酸素濃度の関係を、表17に示す。
また、酸素の供給時間が30分の場合における経過日数が17日の時点で、乳酸桿菌の数が0であり、乳酸球菌の数が62.75×107個であった。前述したように、日本における発酵乳の成分規格では、乳酸菌数または酵母数(1ml当り)は1000万(1×107個)以上と定められている。また、FAO/WHOによるヨーグルトの国際的規格によると、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)及びストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の作用により、乳または乳製品を乳酸発酵して得た凝固乳製品をヨーグルトと定義している。したがって、発酵の終了後の時間の経過により乳酸桿菌の数が0になったとしても、全体の乳酸菌数が1ml当り1000万以上であれば、規格上発酵乳となるため、問題がないと言える。
明治乳業社製「明治プロビオヨーグルトLG21」より単離した乳酸桿菌のラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)と乳酸球菌のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)を混合スターターとして使用したこと以外は実施例1と同様の方法で発酵乳を製造した。
次いで、得られた発酵乳を1.0リットル容量の蓋付き容器に0.8リットル採取して、試料とした。そしてこの発酵乳の試料を10℃に冷却し、その後、一段加圧が100kgf、二段加圧が50kgfの圧力で均質化処理を行い、均質化された発酵乳を得た。
この均質化された発酵乳と、糖液(0.6質量%のペクチン溶液)を、質量比が6:4となるように混合しつつ、同時に、各々の試料に対して、0.5リットル/分の流量で、0分、10分、15分、30分の各経過時間、容器内の上部空間に酸素ガスを流通させ、溶存酸素量が増大した発酵乳を得た。
[比較例5]
酸素ガスを供給しないこと以外は、実施例5と同様にして実験した。
酸素の供給時間と酸素供給直後における溶存酸素濃度の関係を、表21に示す。
Claims (4)
- 発酵乳の原料に乳酸桿菌及び乳酸球菌を添加し発酵させて、発酵乳を得る発酵工程と、
該発酵乳に酸素を供給して、溶存酸素量が増大した発酵乳を得る酸素供給工程と
を含むことを特徴とする発酵乳の製造方法。 - 上記乳酸桿菌が、ラクトバチルス・ブルガリカスであり、かつ、上記乳酸球菌がストレプトコッカス・サーモフィルスである請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
- 上記酸素供給工程における酸素の供給の終了時から25日間経過後の時点までの10℃の温度下での酸度の増大の幅が、0.20%以下である請求項1又は2に記載の発酵乳の製造方法。
- 上記酸素供給工程における酸素の供給の終了時において、発酵乳中の溶存酸素濃度が12ppm以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵乳の製造方法。
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