[実施例1](1)画像形成装置例:図3の(a)は、本発明に係る像加熱装置を定着装置(定着器)として搭載する画像形成装置の一例の構成模型図である。この画像形成装置は電子写真画像形成方式を用いて、記録紙、OHPシート等の記録材に画像を形成するフルカラーレーザープリンタである。本実施例に示すプリンタMは、プリンタ本体Ma内に、イエローY、マゼンタM、シアンC、ブラックKの各色のトナー画像を形成する第1〜第4の4つの画像形成ステーション(作像手段)SY,SM,SC,SKを有する。プリンタ本体Ma内に下から右斜め上方に並列に配設された各ステーションSY,SM,SC,SKには、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光体ドラムという)1が設けられている。各感光体ドラム1は矢印方向に回転可能である。各感光体ドラム1の周囲には、感光体ドラム1の回転方向に沿って、帯電手段としての帯電器2と、露光手段としての露光装置3と、現像手段としての現像装置4と、クリーニング手段としてのドラムクリーニング装置5がそれぞれ配置されている。また、プリンタ本体Ma内には、各ステーションSY,SM,SC,SKの感光体ドラム1の外周面(表面)と対向するように記録材搬送手段としての無端ベルト状の記録材搬送ベルト6が設けられている。この搬送ベルト6は、駆動ローラ7とテンションローラ8の2軸に巻き掛けられている。また、搬送ベルト6は、記録材Pを静電気を利用して保持できるように誘電体樹脂材料によって形成されている。この搬送ベルト6を挟んで各画像形成ステーションSY,SM,SC,SKの感光体ドラム1と対向させて転写手段としての転写ローラ9を配設している。それによって、各画像形成ステーションSY,SM,SC,SKの感光体ドラム1と搬送ベルト6との間に転写部を形成している。
本実施例のプリンタMは、ホストコンピュータ等の外部装置(不図示)から出力される画像形成開始信号(以下、プリント指令と記す)に応じて所定の画像形成シーケンスを実行し、その画像形成シーケンスに従って画像形成動作を行う。即ち、各画像形成ステーションSY,SM,SC,SKが順次駆動され、各感光体ドラム1が矢印方向へ所定の周速度(プロセススピード)で回転される。また、搬送ベルト6は、駆動ローラ7の駆動により矢印方向へ各感光体ドラム1の回転周速度に対応した周速度で回転される。まず1色目のイエローの画像形成ステーションSYにおいて、感光体ドラム1表面を帯電器2により所定の極性・電位に一様に帯電する。次に露光装置3が外部装置からの画像情報に応じたレーザー光Lを感光体ドラム1表面の帯電面に走査露光する。これにより、感光体ドラム1表面の帯電面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。そしてこの潜像が現像装置4によりイエローのトナー(現像剤)によって現像され、感光体ドラム1表面にトナー像(現像像)が形成される。同様の、帯電、露光、現像の各工程が2色目のマゼンタの画像形成ステーションSM、3色目のシアンの画像形成ステーションSC、4色目のブラックの画像形成ステーションSKにおいても行われる。そして各画像形成ステーションSM〜SKの感光体ドラム1表面に各色のトナー像(現像像)が形成される。一方、給送カセット10内に積載収容されている記録材Pは送り出しローラ11により搬送ガイド12を通してレジストローラ13に送られる。次いでこの記録材Pはレジストローラ13によって搬送ベルト6の外周面(表面)上に搬送され、その搬送ベルト6表面に静電的に吸着されて保持される。その記録材Pは搬送ベルト6の回転によって搬送ベルト6の回転方向上流側の転写部から回転方向下流側の転写部まで搬送される。各画像形成ステーションSY,SM,SC,SKの転写ローラ9には記録材Pの搬送過程においてトナー像と逆極性の転写バイアスが印加される。各転写ローラ9はその転写バイアスにより対応する感光体ドラム1表面のトナー像を記録材Pの面上に順番に重ねて転写させ担持させる。つまり、転写手段である転写ローラ6は像担持体としての感光体ドラム1が担持する画像であるトナー像を記録材に転写させて担持させる。これによって記録材Pは記録材Pの面上にフルカラーの未定着トナー像を担持する。フルカラーの未定着トナー像を担持する記録材Pは搬送ベルト6により定着装置(定着手段)14に搬送される。そしてその記録材Pは定着装置14の後述するニップ部Nを通過することによって記録材Pの面上に未定着トナー像が加熱定着される。トナー像が定着された記録材Pは排出ローラ15によってプリンタ本体Ma上部の排出トレー16上に排出される。トナー像転写後において感光体ドラム1表面に残留している転写残トナーはドラムクリーニング装置5によって除去され回収される。モノクロ画像出力時には、上記の帯電、露光、現像、転写、定着、クリーニングからなる一連の画像形成プロセスをブラック画像形成部SKにおいてのみ行う。転写手段は転写ローラ9に限られず転写ブレードを用いてもよい。転写ブレードを用いる場合、転写ブレードはトナー像を記録材に転写する際に転写バイアスが印加され、かつ搬送ベルト6に対して当接するように構成される。給送カセット10は、給送カセット10の内部にサイズの異なる各種記録材Pを積載収容するための移動可能な規制ガイド(不図示)を有する。その規制ガイドを記録材Pのサイズに応じて変位させその記録材Pを給送カセット10内に積載収容することによって、サイズの異なる各種記録材Pを給送カセット10から送り出すことができる。
(2)定着装置(定着器)の説明:以下の説明において、定着装置及び定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向である。幅とは短手方向の寸法である。長さとは長手方向の寸法である。図1の(a)は本実施例1に係る定着装置14の一例の横断面模式図である。図1の(b)は本実施例1に係る定着装置14を記録材導入側から見た構成模式図である。図2の(a)は定着フィルム21の層構成を表わす説明図である。図2の(b)は本実施例1に係る定着装置14のヒータホルダ23の斜視図である。図2の(c)は本実施例1に係る定着装置14のヒータホルダ23とヒータ22と定着フィルム21の関係を表わす斜視図である。図2の(d)はヒータ22の一例の構成模式図である。本実施例に示す定着装置14は、フィルム定着方式の定着装置である。定着装置14は、定着部材としての可撓性スリーブ(以下、定着フィルムと記す)21と、加熱体としての板状のセラミックヒータ(以下、ヒータと記す)22などを有する。また定着装置14は、ヒータホルダ23と、加圧ステー24と、定着フランジ25などを有する。また定着装置14は、バックアップ部材としての加圧ローラ26と、第1温度検出部材としてのメインサーミスタ27と、第2温度検出部材としてのサブサーミスタ28と、入り口ガイド29などを有する。定着フィルム21、ヒータ22、ヒータホルダ23、加圧ステー24及び加圧ローラ26は何れも長手方向に細長い部材である。
(2−1)定着フィルムの説明:定着フィルム21は、可撓性を有する細長い筒状(エンドレスのスリーブ状)の基層21−1と、その基層の外周面上に設けられている弾性層21−2と、その弾性層の外周面上に設けられている離型層21−3と、を有する。基層21−1として、厚さ約30μmのエンドレススリーブ状のステンレス製(以下SUSと称す。本実施例1ではSUS304を使用している)フィルムを使用している。弾性層21−2として、シリコーンゴム層を使用している。離型層21−3として、厚み約20μmのPFA樹脂チューブを弾性層21−2の外周面上に被覆している。弾性層21−2として使用されるシリコーンゴム層においては、定着フィルム11の外周面(表面)及び内周面(内面)の温度差をできるだけ小さくするため、シリコーンゴム層の厚みは薄いことが好ましい。またシリコーンゴム層の材料として、熱伝導率が高い材料を用いることが好ましい。シリコーンゴム層の熱伝導率を高めるためには、そのシリコーンゴム層に含まれるフィラーの量を増やすことが従来良く行われるものの、単純にフィラー量を増やすことはいろいろな不具合も発生する。フィラー量を増やすことで、熱伝導率は高くなるものの、シリコンゴムポリマーに比べ比重の重いアルミナなどのフィラー量を増やすことは、シリコーンゴム層自体の比重が重くなってしまい、シリコーンゴム層の熱容量が大きくなってしまう。そのため、定着フィルム11の温度立上時間的には不利になってしまう。また、フィラー量を単純に増やすことで、シリコーンゴム層の硬度がアップしたり、ゴムのCセット(永久変形ひずみ)が悪化するなどの不具合が発生してしまう。シリコーンゴム層の熱伝導率λとしては、約1.0W/mK以上が望ましい。本実施例1では、約1.3W/mKのものを使用している。弾性層21−2の厚みとしては、OHT透過性や、画像上の「す」(微小な光沢ムラ)といった、画質の観点から、定着フィルム21のシリコーンゴム層を極力厚くすることが望ましい。本発明者らの検討によれば、満足のいくレベルの画質を得るためには、200μm以上のシリコーンゴム厚みが必要であることが分かっている。一方、シリコーンゴム層の厚みを必要以上に厚くすることは、定着フィルム21自体の熱容量が大きくなってしまうため定着フィルム21の温度立上時間的に不利になってしまう。このため、本実施例1ではシリコーンゴム層の厚みは約200〜300μmとした。定着装置14の温度立上げの観点からは、定着フィルム21全体の熱容量を小さくすることが望ましい。定着フィルム21全体の熱容量を小さくするため、定着フィルム21を小径化することが考えられる。しかしながら、定着フィルム21の内径を必要以上に小径化すると、定着フィルム21の内部にヒータ22をスペース的に配置できなくなったり、定着性に必要なニップ幅が確保できなくなるため、おのずと限界が有る。このため、本実施例1では定着フィルム21の内径は約24mmとした。そしてその定着フィルム21全体(可撓性スリーブ全体)の熱容量Cとしては、約10J/K以上が望ましい。定着フィルム21の長さとしては、A3ノビ用紙であるSRA3サイズ(用紙幅320mm)に対応するため、約340mmとしている。さらに、定着フィルム21表面に離型層21−3としてフッ素樹脂層を設けることで、定着フィルム21表面の離型性を向上し、定着フィルム21表面にトナーが一旦付着し、再度記録材Pに転移することで発生するオフセット現象を防止することができる。また、定着フィルム21表面の表層である離型層21−3をPFAチューブとすることで、より簡便に、均一な離型性層を形成することが可能となる。本実施例1では厚み約20〜30umのPFAチューブを使用している。
(2−2)ヒータホルダの説明:ヒータホルダ23は、ヒータ支持部23aと、フィルムガイド部23bと、を有し、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂により横断面略半円樋型に形成されている(図1の(a)及び図2の(b)参照)。このヒータホルダ23は、ヒータ22を保持し、定着フィルム21をガイドする役割を果たす。ヒータホルダ23の材料に用いる液晶ポリマーとして、住友化学工業(株)の型番 E4205L Bを使用した。この液晶ポリマーの最大使用可能温度(荷重撓み温度)は、約305℃である。ヒータホルダ23の長手方向形状としては、ヒータ支持部23aの長手方向端部に比べて長手方向中央部が厚くなるように、ヒータ支持部23aの長手方向中央部にクラウン形状をつけている。クラウン量としては約800〜900μmとしている。ヒータ支持部23aの上面(加圧ローラ26側の面)の短手方向中央には、ヒータホルダ23の長手方向に沿って溝23a1(図2の(c)参照)が形成されている。ヒータ22はその溝23a1内に嵌め込んで保持されている。フィルムガイド部23bは、ヒータホルダ23の長手方向に沿って所定の間隔をおいて所定数形成されている。そして定着フィルム21の回転をガイドするようにヒータ支持部23aの短手方向両端部から定着フィルム21の内周面(内面)に沿って円弧状に突出して形成されている。ヒータ支持部23aの長手方向両端部23a2,23a2(図2の(a)参照)は、定着装置14の装置フレーム31,31に設けられている定着フランジ25,25に保持されている。この定着フランジ25,25は装置フレーム31,31に上下動自在に支持されている。
(2−3)加圧ローラの説明:加圧ローラ26は、パイプ状の細長い芯金26aの長手方向端部以外の外周面上に、弾性層26bとして厚み約2mmの導電シリコーンゴム層をローラ状に形成している。そしてその導電シリコーンゴム層の外周面上に、離型層26cとして厚み約50μmの導電PFA樹脂チューブを被覆したものである。加圧ローラ26の長さはSRA3サイズ用紙に対応するように約330mmとしている。この加圧ローラ26は、定着フィルム21を外嵌させたヒータホルダ23の上方においてヒータ22と平行になるように芯金26aの長手方向両端部が装置フレーム31,31に回転自在に保持されている。
(2−4)加圧ステーの説明:加圧ステー24は、剛性を有する金属等の材料により横断面略U字形状に形成してある。この加圧ステー24は、定着フィルム21の内側においてヒータホルダ23のヒータ支持部23aの下面(加圧ローラ26と反対側の面)の短手方向中央に配置されている。そして加圧ステー24は、加圧ステー24の長手方向両端部に設けられた平板部24a,24a(図1の(b)参照)を装置フレーム31,31に定着フランジ25,25を介して保持させている。
(2−5)定着フランジの説明:定着フランジ25,25は、定着フィルム21の長手方向端部の端面と対向する基板25a,25a(図1の(b)参照)を有する。基板25a,25aは、基板25a,25aの定着フィルム21の長手方向端部の端面と対向する内面25a1,25a1で定着フィルム21の長手方向への移動を規制するようにしている。基板25a,25aの内面25a1,25a1には、定着フィルム21の長手方向端部から内部に突入し定着フィルム21の長手方向端部の形状を保持する保持部25b,25bが設けてある。基板25a,25aの定着フィルム21と反対側の外面には、保持部25b,25bと反対側に突出する被加圧部25c,25cが設けてある。この被被加圧部25c,25cと装置フレーム31,31との間にバネ受け部材32,32を介して加圧バネ33,33を縮設させている。そしてその加圧バネ33,33の加圧力を定着フランジ25,25を介して加圧ステー24に付与し加圧ローラ26表面を定着フィルム21表面に接触させている。そしてその加圧バネ33,33の加圧力によって定着フィルム21をヒータ22と加圧ローラ26とで挟むことにより、加圧ローラ26の弾性層26bを弾性変形させている。これにより定着フィルム21表面と加圧ローラ26表面間に所定幅のニップ部(定着ニップ部)Nを形成している。つまり、加圧ローラ26はヒータ22と協働してニップ部Nを形成している。加圧バネ33,33の加圧力は約294N(約30kgf(片側約15kgf))である。
(2−6)ヒータの説明:ヒータ22は、長さ約380mm、幅約8mm、厚さ約1mmのアルミナ(Al2O3)を使用した細長いセラミック基板22a(図2の(d)参照)を有する。そしてその基板22aの裏面(加圧ローラ26と反対側の面)上に、通電により発熱する抵抗発熱体22bとして抵抗を調整したAgPd(銀パラジウム合金)の発熱ペーストを基板22aの長手方向に沿ってスクリーン印刷で細帯状に塗工している。そしてその抵抗発熱体22bを保護するために、抵抗発熱体22bをガラス保護膜によりコーティングしてその抵抗発熱体22b上に表面保護層22cを形成している。また、基板22aの表面(加圧ローラ26側の面)上には、定着フィルム21内面との円滑な摺動性を確保するために、ポリイミドコート層からなる摺動層22dを設けている。本実施例1のヒータ22は、基板22aの長手方向に沿って抵抗発熱体22bを3本形成している。その3本の抵抗発熱体22bのうち、基板22aの短手方向において基板中央部の抵抗発熱体22b−2と基板両端部の抵抗発熱体22b−1,22b−3とで、基板22aの長手方向の発熱分布を異ならせている。抵抗発熱体22b−1,22b−3は、基板22a表面において、基板22aの長手方向一端部の内側に設けた第1給電電極22e−1から同じ長手方向一端部の内側に設けた第2給電電極22e−2にかけて通電され得る抵抗発熱体である。この抵抗発熱体22b−1,22b−3は互いに直列に接続されて第1の導通経路を構成している。抵抗発熱体22b−1,22b−3には、第1の給電コネクタ(第1給電部材)C1に設けられている給電接点(不図示)より第1給電電極22e−1と第2給電電極22e−2を通じて通電される。給電コネクタC1は、略コ字形状に形成され、ヒータホルダ23のホルダ支持部23aの長手方向一端部23a2に、ホルダ支持部23aの下面(加圧ローラ26と反対側の面)とヒータ22の基板22aの表面に接触するように嵌め付けられる。一方、抵抗発熱体22b−2は、基板22a表面において、基板22aの長手方向一端部の内側に設けた第3給電電極22e−3から長手方向他端部の内側に設けた第4給電電極22e−4にかけて通電され得る抵抗発熱体である。この抵抗発熱体22b−2は抵抗発熱体22b−1と22b−3との間で第2の導通経路を構成している。抵抗発熱体22b−2には、第2の給電コネクタ(第2給電部材)C2に設けられている給電接点(不図示)より第3給電電極22e−3と第4給電電極22e−4を通じて通電される。給電コネクタC2は、略コ字形状に形成され、ヒータホルダ23のホルダ支持部23aの長手方向他端部23a2に、ホルダ支持部23aの下面とヒータ22の基板22a表面に接触するように嵌め付けられる。
(2−7)メインサーミスタの説明:メインサーミスタ27(図1の(a)参照)は、ヒータホルダ23のホルダ支持部23aに支持させたステンレス製のアーム27aの先端にサーミスタ素子27bを取り付けている。そしてそのサーミスタ素子27bをアーム27aの弾性を利用して定着フィルム21内面に接触させている。サーミスタ素子27bをアーム27aの先端に取り付けているため、定着フィルム21内面の動きが不安定になった状態においても、アーム27aが揺動することにより、サーミスタ素子27bが定着フィルム21内面に常に接する状態に保たれる。
(2−8)サブサーミスタの説明:サブサーミスタ28(図1の(a)参照)は、ヒータ22の基板22aの裏面(加圧ローラ26と反対側の面)において長手方向端部に配置され、所定の押し圧で基板22a裏面に押し当てられている。このサブサーミスタ28は、ヒータ22が何らかの理由により過昇温した際に、リミッタ制御を行うために用いられるものである。
(2−9)ヒータの温度制御の説明:温度制御部(制御手段)51(図2の(d)参照)は、CPUとRAMやROMなどのメモリとからなっている。メモリにはヒータ22の抵抗発熱体22b−1,22b−3,22b−2への通電制御に必要な各種のプログラムが記憶されている。温度制御部51は、定着フィルム21内面の温度を検知するメインサーミスタ27からの出力信号S1を取り込む。そしてその出力信号S1に基づいて、所定の温度制御を行うべく商用電源52に接続されているトライアック53a,53bの点灯タイミングを駆動制御することにより、定着フィルム21を所定の定着温度(目標温度)に維持する。また温度制御部51は、ヒータ22の基板中央部の抵抗発熱体22b−2への通電と基板両端部の抵抗発熱体22b−1,22b−3への通電の比率を記録材Pのサイズに応じて変更し、記録材Pのサイズに応じた発熱分布の最適化を図っている。また温度制御部51は、後述のニップ部Nに小サイズの記録材Pが通紙(導入)された際に、サブサーミスタ28からの出力信号S2に基づいてヒータ22の基板22aの長手方向端部が定着温度を超えて昇温しているか否かを判断する。そして基板22aの長手方向端部が昇温していると判断した場合は、定着温度を下げる制御を行うことにより、ヒータ22の過昇温を防いでいる。
(2−10)入り口ガイドの説明:入り口ガイド29(図1の(a)参照)は、搬送ベルト6により定着装置14に向けて搬送されてくる記録材Pをニップ部Nに正確にガイドされるよう、記録材Pを導く役割を果たす。入り口ガイド29は装置フレーム31に組みつけられる。
(2−11)定着装置の加熱定着動作の説明:プリント指令に応じて加圧ローラ26の芯金26aの長手方向端部に設けられている駆動ギアG(図1の(b)参照)がモータ(不図示)により回転される。これにより加圧ローラ26は所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向へ回転する。その際、ニップ部Nにおける加圧ローラ26表面と定着フィルム21表面との摩擦力によって定着フィルム21に加圧ローラ26の回転方向とは逆向きに回転する回転力が作用する。これにより定着フィルム21は定着フィルム21内面がヒータ22の摺動層22dと接触しつつヒータホルダ23の外周を加圧ローラ26に追従して回転(移動)する(図1の(a)参照)。またプリント指令に応じて温度制御部51がトライアック53a,53bを制御して商用電源52からコネクタC1,C2を通じてヒータ22の発熱抵抗体22b−1,22b−3,22b−2に通電する。その通電により発熱抵抗体22b−1,22b−3,22b−2が発熱しヒータ22は急速に昇温して定着フィルム21を加熱する。ヒータ22の昇温とともに定着フィルム21内面温度も上昇し、それに伴い定着フィルム21表面温度も上昇していく。温度制御部51は、メインサーミスタ27からの出力信号S1に基づいて定着フィルム21の温度が所定の定着温度(目標温度)を維持するようにトライアック53a,53bの点灯タイミングを駆動制御する。加圧ローラ26及び定着フィルム21の回転が安定し、かつ定着フィルム21の温度が所定の定着温度に維持された状態で、未定着トナー像tを担持した記録材Pが入り口ガイド29によりニップ部Nに導入される。その記録材Pはニップ部Nにおいて定着フィルム21表面と加圧ローラ26表面とにより挟持搬送される。その搬送過程において記録材Pには定着フィルム21の熱とニップ部Nの圧力が加えられ、その熱と圧力によってトナー像tは記録材上に加熱定着される。
(3)定着フィルムの実施例の説明:表1に定着フィルムの実施例1、実施例2及び比較例1〜比較例3を示す。
従来の定着装置に使用される定着フィルムの構成を表1の比較例1に示す。比較例1では、シリコーンゴム層(以下、ゴム層と記す)に配合するフィラーとして、アルミナを使用している。比較例1は、ゴム層の熱伝導率λが約0.7W/mKであるが、アルミナフィラーを多量に配合しているため、ゴム層の比重が約2.38g/cm^3と重くなってしまっている。また比較例1では、定着フィルムの内径は約φ30である。その定着フィルム全体の熱容量Cは約27.18J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約79.71J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの立上時間は約15secであった。一般的なフィルム定着方式のA4サイズ用画像形成装置に搭載されている定着装置の立上時間が約10sec以下であることを考えると、比較例1の立上時間は長くなってしまっている。
比較例2では、ゴム層に配合するフィラーとして、アルミナを使用している。比較例2は、ゴム層の熱伝導率λが約1.29W/mKであるが、アルミナフィラーを多量に配合しているため、ゴム層の比重が約2.45g/cm^3と重くなってしまっている。また比較例2では、定着フィルムの内径を約φ24と小型化している。その定着フィルム全体の熱容量Cは約22.985J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約67.80J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの立上時間は約12secであった。
比較例3では、ゴム層に配合するフィラーとして、アルミナを使用している。比較例3は、ゴム層の熱伝導率λが約9.94W/mKであるが、アルミナフィラーを多量に配合しているため、ゴム層の比重が約2.62g/cm^3と重くなってしまっている。また比較例3では、定着フィルムの内径を約φ24と小型化している。その定着フィルム全体の熱容量Cは約14.940J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約60.73J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの立上時間は約9secであった。
これに対して、実施例1では、定着フィルムの内径をφ24と小径化している。その定着フィルム全体(可撓性部材全体)の熱容量Cは約17.686J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約52.17J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの立上時間は約10secであった。また実施例1は、ゴム層に配合するフィラーとして、従来例のアルミナに代わり、金属珪素(金属珪素粉末)を使用している。アルミナに対して金属珪素は、熱伝導率が大きく、比重が小さいため(表4参照)、アルミナよりも少ない量をフィラーとして配合することで、ゴム層の熱伝導率を高くしかつ比重を軽くすることができるため、ゴム層の熱容量を小さくすることができる。実施例1のゴム層の熱伝導率λは約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約1.63g/cm^3である。
実施例2では、定着フィルムの内径をφ30としている。その定着フィルム全体の熱容量Cは約13.538J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約39.94J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約9secであった。また実施例2は、ゴム層に配合するフィラーとして、金属珪素を使用している。実施例2のゴム層の熱伝導率λは約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約1.63g/cm^3である。
表2に定着フィルム21の実施例3、比較例2、比較例3及び比較例4を示す。比較例2と比較例3は表1のものと同一であり、実施例3及び比較例4との比較の便宜のために記載したものである。
実施例3では、定着フィルムの内径をφ24としている。その定着フィルム全体の熱容量Cは約15.612J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約46.053J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約9.5secであった。また実施例3は、ゴム層に配合するフィラーとして、金属珪素を使用している。実施例3のゴム層の熱伝導率λは約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約1.63g/cm^3である。
比較例4では、定着フィルムの内径をφ18としている。その定着フィルム全体の熱容量Cは約8.344J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約35.81J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約7secであった。また比較例4は、ゴム層に配合するフィラーとして、アルミナを使用している。比較例4のゴム層の熱伝導率λは約1.01W/mKであり、ゴム層の比重は約2.33g/cm^3である。
表3に定着フィルム21の実施例1、比較例5、比較例6及び比較例7を示す。実施例1は表1のものと同一であり、比較例5〜比較例7との比較の便宜のために記載したものである。
比較例5では、定着フィルムの内径をφ55としている。その定着フィルム全体の熱容量Cは約29.922J/Kであり、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpは約119.71J/mKである。そしてその定着フィルムを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約20secであった。また比較例5は、ゴム層に配合するフィラーとして、金属珪素を使用している。比較例5のゴム層の熱伝導率λは約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約0.99g/cm^3である。
比較例6では、定着部材として定着ローラを使用している。その定着ローラ全体の熱容量Cは約57.66J/Kであり、定着ローラの単位長さ当りの熱容量Cpは約230.6J/mKである。そしてその定着ローラを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約35secであった。また比較例6は、ゴム層に配合するフィラーとして、金属珪素を使用している。比較例6のゴム層の熱伝導率λは約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約0.99g/cm^3である。
比較例7では、定着部材として定着ローラを使用している。その定着ローラ全体の熱容量Cは約104.97J/Kであり、定着ローラの単位長さ当りの熱容量Cpは約4206J/mKである。そしてその定着ローラを用いた定着装置では、立上電力1000Wを投入し、室温状態から定着温度170℃程度に達するまでの定着装置の立上時間は約60secであった。また比較例7は、ゴム層に配合するフィラーとして、金属珪素を使用している。比較例6のゴム層の熱伝導率は約1.3W/mKであり、ゴム層の比重は約0.99g/cm^3である。
表4に定着フィルムのゴム層にフィラーとして配合される金属珪素とアルミナの物性を示す。
表1〜表3より明らかな通り、実施例1での定着フィルム全体の熱容量Cは、約17.69J/Kと小さくすることができた。これにより、比較例1と同じ立上電力1000Wを投入した場合の立上時間を約10secとすることができ、従来のA4サイズ用画像形成装置の立上時間と同等程度とすることができた。また、表3の比較例5、6、7より解かるように、ゴム層のフィラーとして金属珪素を使用するだけでは、定着装置の立上時間を短くすることはできない。しかしながら、定着フィルムの単位長さ当りの熱容量Cpを約60J/mK以下と小さくすることによって、A3サイズ対応定着装置として立上時間を約10secと短くすることができた。
[その他の実施例]
各実施例の定着装置はカラー画像形成装置に搭載されるだけでなく、モノクロ画像形成装置に搭載してもよい。各実施例の定着装置において定着フィルムの基層は金属製に限られず樹脂製のものを使用してもよい。