当然ながら、建物内のある階床から別の階床へ人を運ぶためにエレベータを必要とする建物には、オフィスビル、小売店舗用建物、ホテル、分譲マンションや賃貸マンション用の建物、病院などや、これらの建物の複数の目的を組み合わせて利用する複合施設などを含めさまざまな種類の建物が含まれる。これらの建物は、階床数、各階の面積、各階床の配置、エレベータ設置数、エレベータかごの大きさ、その速度、加速度などがさまざまである。
通常多数の他のパラメータを含め、これらの建物パラメータには、提案された新規の建物または改装される提案された既存の建物をよく特徴付けて、乗客を輸送するのに許容される性能または最適な性能を与える建物用のエレベータ装置の設計が可能となる十分な情報を収集する作業がかなり必要となる。このような情報の収集は、提案された既存の建物の改装や提案された新規の建物ごとに若干異なっており、既存の建物の改装では、既存の構造を大抵かなりの程度維持する必要があり、エレベータ装置設計もそれに合わせて行う必要があるが、新規の建物では通常、全体の設計に到達する際により自由度がある。
従って、図1の流れ図10では、円形開始部11から開始して、実行ブロック12において、提案された新規の建物について、または既存の建物の改装についての情報収集プロセスが実行される。ここで、このような建物を特徴付ける情報は、建築される建物の所有者、所有者の建物コンサルタントやエレベータコンサルタント、これら両コンサルタント、建築家、ゼネコンなどの提案に関連する知識から収集される必要がある。新規の建物では、与えられる1つまたは複数の用途、建物内に収容される人数、建物内で起こりそうな人の移動パターン、私的な食堂を有するか、公開の飲食店を有するか、ダブルデッキエレベータかごを使用するか、使用可能か、急行エレベータ用の高層階の行先ロビー(「スカイロビー」)があるか、設置可能か、許容可能なエレベータかご速度、加速度、乗り心地、あるいは、かご内でなくホールで行先階を可能性のある乗客が選択する行先走行があるか、設置可能か、などといった多数の選択肢が可能である。
これとは対照的に、提案された改装される建物では、情報収集の一部として建物管理人や建物保守作業者によって、エレベータの利用パターン、このような利用で遭遇する関連する問題、既存の建物構造の詳細について、特徴的な情報が提供可能となる。さらに改装の性質や特徴についての情報が、所有者、建築家、相談を受けるコンサルタントから入手可能である。一般に、既存のエレベータシステムを完全に更新する場合ですら、既存の建物内のエレベータでは通常、可能な選択肢は少ないが、これらの可能性は、完全に更新する場合から、対応するシステム機能が作動する方法を変更するようにエレベータシステム運転用のコンピュータプログラムのパラメータをいくつか変更する場合にまで及ぶ。
ブロック12において、新規の建物について収集された情報は通常、提案された建物用の特定のエレベータ装置あるいは最初に推定されたエレベータ装置に対応するスプレッドシートに形成された立ち上がり図としてある種の表形式で表示可能である。スプレッドシートの行数は、提案された建物内のエレベータがサービスされる階床の数に対応しており、それによって、スプレッドシートの各行は、建物内の各階床に対応しており、スプレッドシートの各列は、建物の階床のうちのある一部にサービスされている、提案されたエレベータのかご群に対応する。そして最後の列の隣で各行に、各行により表示される階床のデータ、例えば、その階床に通常いる人数、その階床の面積などが入力されている。各列の下には、その列により表示されるエレベータかご群のデータ、例えば、群内のかご数、かごの加速度、速度、かごドア開時間などが入力されている。同様に、ブロック12において既存の建物について収集されたデータも通常、既存の建物を表示し、さらに提案された改装される建物をまた表示するスプレッドシートに形成された立ち上がり図としてある種の表形式で表示可能である。
提案された新規の建物または提案された改装される建物についてのこのような知識を用意して、建物についての対応する特徴的な人の再配置モデルを作成する方法が選択され、適用されるが、この再配置モデルには、建物のエレベータ乗客「運行パターン」およびそれに基づく「運行リスト」、すなわち、さらなる情報入力と合わせて通常行われる作業が含まれる。この作業は、さらなる実行ブロック13において行われ、これは通常、ブロック14の入口からの点線で示される、対応する実行ブロック13’において、提案された建物に関する収集された情報に基づくこの作業に十分な経験を有する1人または複数の人の知識を利用して行われるが、しばしばこのような技術は、点線で示されるさらなる実行ブロック13’’において、類似していると知られている建物からの運行データを用いて、あるいは、点線で示されるさらなる実行ブロック13’’’において、建物の運行データライブラリやコンサルタントが明らかにした運行データを用いて、あるいは、これらの幾つかの組み合わせを用いて補足される。
また点線で示されるさらなる実行ブロック13ivにおいて、特に建物の改装において、他のソースもまた利用可能である。このような改装では、主な改装が開始される前に建物が存在しかつ利用されているので、その建物に現に存在するエレベータ装置についての実際の利用データを取得することが可能であり、それによって、任意の適切な方法で収集される、そこで現在生じている運行パターンを生成することができる。これらのパターンはたぶん、改装された建物で遭遇する運行パターンをかなりの程度まで反映して、改装された建物用のエレベータ設計の手引きとなるであろう。
一般に、関心のある3つの主な運行パターンがあり、それらは、a)オフィスビルの一日の始まりの朝に生じるような、建物内のさまざまな階床に行こうとして建物のロビーに大部分の乗客が到着することに関係するアップピーク運行、b)昼食時に生じるような、大部分の乗客が建物の階床からロビーに到着し、ロビーから建物のさまざまな階床へと向かうことに関係する二方向ピーク運行、c)オフィスビルの一日の終わりの夕方近くに生じるような、建物内のさまざまな階床から建物のロビーに大部分の乗客が到着することに関係するダウンピーク運行である。運行パターンは通常、建物の人口のうちの割合によって(あるいは、複数群のエレベータを有する建物では、各群の人口のうちの割合によって)乗客運行量対時間を示すヒストグラム(必ずしも、運行リストがちょうど作成可能となっていたという必要はない)を用いて5分間隔で示される。例えば、アップピーク運行の1時間運行パターンは、最初の5分間に建物の人口の3%が到着し、次の5分間に5%が到着し、などというように12間隔分の記載が終了するまで記載可能である。
運行リストは、具体的な場合の運行パターンであり、本質的に、エレベータの利用に特徴的な対応する指標とともにエレベータシステムを利用する各乗客の(対応する割り当て番号による)リストである。従って、リスト中の各乗客は本質的に、各乗客が階床の乗場に到着した時間、複数の階床のうち到着が生じる階床、輸送サービスが要求される元の階床(出発階)、輸送サービスが要求される先の階床(行先階)によって特徴付けられる。乱数発生器を含むアルゴリズムを用いると、入力として運行パターンを受け取り、そのパターンに一致する具体的に可能な乗客リストを生成するようにコンピュータプログラムを記述できる。このステップに運行情報を収集する任意の方法が使用可能であることは理解されるであろう。
運行リストは、それが示す運行パターン、すなわち上昇運行または下降運行の量、二方向運行の量などのさまざまなカテゴリーごとの運行特性を決定するように解析可能である。このような解析は、上に示すように、建物用のエレベータ装置の適切な選択を決定する際の手助けとなる。このような決定にさらに必要とされるのは、これらの決定を行うのに従う必要のある制約である。従って、さらなる実行ボックス14において、所有者、建築家またはコンサルタントが有し、満足されるべき選択肢であって、予想される特殊問題の解、偶数番号のエレベータのみの使用などのように幅広く変わり得る選択肢について検討され、予想または既知の特殊問題やそれに要求される解が決定される。
先行する作業で蓄積された情報に基づき、これらの情報の処理を必要とする、コンピュータに基づく最適化処理を用いて、新規または既存の建物用のエレベータシステム装置について最初の構成が選択される。この処理は頁をまたぐ参照符号15を通して到達される図2に記載されており、参照符合15は、この処理が開始する図2の流れ図において対応する頁をまたぐ参照符号15内に同様に含まれる符号Aを含む。
処理方法に移ると、最初に、16において、考慮中の建物用のエレベータシステムに関連して上で決定されたパラメータ、例えば、運行リスト、エレベータかご速度および加速度、建物内の階床数、建物に収容される人数などのパラメータが提供される。菱形判断部17において、ブロック14で決定された特定の選択肢または考慮事項があるかどうかの確認が行われる。もし特定の選択肢または考慮事項があれば、18において、対応する最適化制約が提供され、その後、19において、所望の性能計量によるさらなる最適化制約が提供される。
菱形判断部17において、特定の選択肢または考慮事項がなければ、19において、所望のエレベータシステムの性能計量による最適化制約が提供される。これらの性能計量には、a)エレベータかごが、ロビーを出発し、サービス階停止を完了し、戻ってくる際の、上昇運行または下降運行、あるいはこれらの両方で起こり得る停止回数に基づく往復時間、b)往復時間を1つの群内のかご数で割って得られる間隔またはある1つの群内のエレベータかごがロビーに戻ってくるかご間の時間、c)適切なエレベータ群における可能性のある乗客数の割合としてエレベータかごの群ごとに5分間で運ばれる乗客数としての処理能力、d)エレベータかごの上昇、下降で起こり得る停止回数、e)ロビーからの出発後に1つの群内のエレベータかごが到達する平均最高階としての高呼び反転、平均待ち時間、平均サービス時間、そして、遭遇するさまざまな条件について選択されるその他のもの、が含まれる。
制約が与えられた後に、20において、これらの制約に従って値が最適化される変数を特定する目的関数が決定され、提供される。このような変数は、エレベータの数、これらのエレベータに割り当てられる建物空間、これらのエレベータの購入費用、運転費用、これらのエレベータを運転するのに消費されるエネルギー、これらのエレベータの保守費用などを含み、選択された変数は一般に、加重平均として与えられるそれらの線形結合で表される。これらの制約と目的関数は、21において、最適化処理によって一緒に処理される。
この処理は、通常30分未満の、時間効率のよい方法で行われる。この処理を時間効率のよい方法で行うために、この処理は通常、以下のような、非線形計画法、混合整数線形計画法、混合整数非線形計画法、動的計画法、または制約付き計画法などの処理のうちの1つから選択されるが、これに限定される訳ではない。このような処理では、コンピュータが、エレベータシステム構成の空間に亘ってサーチして変数について構成の解の値を特定し、また、コンピュータは、全ての制約やもともと定式化された目的関数を用いるのに加えて、修正された目的関数や制約式の部分集合を用いるだけでそのような解の値を特定することができる。
この最適化処理は、次の菱形判断部22において、この処理が1つまたは複数の解に適切に収束しているか判断するために監視される。適切に収束していて、これらの解が見出されたならば、これらの解について23において、エレベータかごを群に分けることと、エレベータかご群ごとのエレベータかご数と、各エレベータかご群がサービスする建物の階床の群とを、結果として得られる性能計量とともに提供するエレベータシステム構成の解により最適化処理からの出力データが提供される。解の値が複数組ある場合は、選択された基準に基づいてランク付けされたこれらの解のリストが提供される。そうでない場合は、24において、それについての判断を報告するとともに、実行可能解を見出す可能性を増加させるであろう所望の性能計量または選択肢によって決定された最適化制約の変更の1つまたは複数の表示および原因の表示を提供する報告が提供される。
このような原因の表示は次に、図2の最後の菱形判断部25において、制約または目的関数、あるいはこれらの両方がなんらかの点で変更された場合に、ある最適解に到達する可能性が十分にあるか判断するように評価される。十分にあると判断されたならば、18において、そのような変更がコンピュータに入力されて、処理が繰り返される。しかしながら、菱形判断部において見出されるように最適解に到達し、29において報告された場合でさえ、制約または目的関数、あるいはこれらの両方を変更する価値があるかについて判断が行われる。十分な価値がある場合、23において、そのような変更はまたコンピュータに入力され、処理が繰り返される。そのような変更に従う最適解が見出されることを想定して、そのような変更の範囲によって構成の選択肢の結果についての表が索引付けされる。これらの最適化処理が完了すると、図1の符号Aを含む、頁をまたぐ参照符合15において設計プロセスに戻る。
そこでは、菱形判断部30において、最適化構成の結果を、その構成の性能をシミュレートせずに一次の設計構成として単に受け入れるとするか、平均して選択される構成の性能を評価する基準を提供するシミュレーションのために実行ブロック31において最適化エレベータシステム構成の性能計量を提供するか、についての判断が行われる。これらの評価は、構成性能指標として十分とみなされ、それらの値がかなり容易に決定されることもあるが、運行リストに基づいてエレベータシステム構成の性能をシミュレートすることで性能計量をさらに見出すことによって、構成性能のよりよい指標が得られると考えられる。従って、シミュレーションを行う場合、このステップは次の実行ブロック32に進み、そこでの処理では、ある特定の一組の条件においてエレベータシステム構成の性能を模擬することが意図されたコンピュータプログラムが使用される。
このようなエレベータシステム構成のシミュレーションを実行する際には、エレベータの数、エレベータ速度、エレベータ加速度、エレベータの大きさ、エレベータに収容可能な乗客の数、建物内の階床数、運行の種類などを含む非常に具体的な入力をシミュレーションプログラムに行う必要があり、それによって、シミュレーションによる結果は、実際の建物内でのそのような同一の条件で生じるであろう事項にほぼ近似される。シミュレーションプログラムへの重要な入力の一つは、運行リストである。性能を模擬するために、コンピュータプログラムは入力として、到着するそれぞれの人、各人が到着する時間、場所、各人が行こうとする場所を有する必要がある。これらが運行リストに提供される情報である。
エレベータシステム構成のシミュレーションで生成される計量は多いが、最も重要なものとしては、待ち時間とサービス時間が挙げられる。待ち時間とは、乗客をサービスするためにエレベータが到着するまで乗客が乗場で待っている時間であり、サービス時間とは、乗客が乗場に到着してから行先階に到着するまでに経過する時間であり、すなわち、待ち時間とエレベータかごに乗っている時間の合計である。
さまざまなエレベータシステムの性能計量が、推定またはシミュレーション、これらの両方、最適化、あるいはこれら全てにより得られると、考慮中の構成は、菱形判断部33において、新規のエレベータシステムを提供する際または既存の建物内のエレベータシステムを改装する際に存在する問題が解決され、関連する選択肢が満足されたかを判断するために検討される。そうでない場合、さらなる菱形判断部34において、代替の構成を選択するか、代替の入力パラメータを選択することで原因が解消できるか判断するために原因が検討される。解消できるならば、実行ブロック35において、新しい構成または別の入力パラメータが選択されるが、この構成は、頁をまたぐ符号15で開始される上述の評価と同じ評価に従う。
菱形判断部33において、問題について解決され、選択肢が満足されたと判断されるか、あるいは、菱形判断部34において、問題を解決し、選択肢を満足させるために別の構成に頼るのが不可能と思われる場合には、さらなる菱形判断部36において、さらなる代替の構成を考慮するのになんらかの価値が依然としてある可能性がある。従って、より低費用で実現することが可能であるとして代替の構成を評価することが可能であるか、あるいは、代替の構成を選択する際に別の効果を評価するのが望ましいことがある。もしそうならば、上述したように、実行ブロック35において、新規の構成が選択され、この構成は、頁をまたぐ符号15で開始される上述の評価と同じ評価に従う。
菱形判断部36において、さらなるエレベータシステム構成を評価する利益が残っていないことが見出されると、実行ブロック37において、評価された代替の構成について費用便益分析が行われる。次いでさらなる実行ブロック38において、上述した設計プロセスの結果が収集されて、対応する報告が顧客としての現在の建物の所有者または将来の建物の所有者に提供され、その後、処理は終了する。
本発明は、例示的な実施例について説明したが、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなくさまざまな変更を行うことが可能であること、本発明の構成要素を均等物に置換可能であることが理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく本発明の教示に特定の状況または材料を適合させる多くの修正を行うことが可能である。従って、本発明は、本発明を実施するために検討された最良の実施形態として開示された特定の実施例に限定されることは意図されておらず、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施例を含むものとして意図されている。
本発明は、好ましい実施例について説明したが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を実施可能であることを理解するであろう。