開示の内容
本発明は、一般的には、外科的な切り込みまたは切開器具に関するものであり、特に、制御された筋切開(例えば裂肛で苦しんでいる患者の内側肛門括約筋切開等)を実施するための手術器具に関するものである。
裂肛は、直腸の最も普通の障害のうちの一つであり、例えば一時的な期間の便秘または下痢の結果として通常肛門の前または後ろに生じる切断または潰瘍となる。裂肛の徴候は、通常痛みを伴う排便、排便後の痛みおよび散発的な出血からなる。普通の処置療法は、患者に薬物療法、便軟化剤を施し、坐薬で肛門管を潤滑化することである。薬物療法により大部分の急性の裂肛や慢性とは言えない裂肛が治療されるが、より慢性の裂肛の大部分には手術が必要である。慢性の裂肛のために選択される現在の外科的治療は、内側肛門括約筋切開術、特に、内側肛門括約筋を切り込み、それによって緊張を解放し、裂肛を回復させることが関与する、側方の括約筋切開術である。
括約筋切開は、解放系でも閉止系でも(an open or a closed manner)実施し得る。閉止系の括約筋切開では、メスの刃が、肛門の側方側の括約筋間溝中に横方向から挿入される。次いで、メスの刃は、内旋され、内括約筋を切るために引き出される。括約筋切開が、裂肛の長さと等しい距離だけ肛門管中に延在される必要があるため、メスの刃の挿入深さは、肛門粘膜を通して内括約筋を触診することによって制御される。更に、粘膜の損傷の結果瘻孔が生じ得るため、内旋およびメスの近位方向への後退中に肛門粘膜を切断しないように特に注意を払わなければならない。解放系の括約筋切開では、括約筋間平面に0.5〜1cmの切り込みが造られる。次いで、内括約筋は、直角方向に曲がるようにループを作られ、切り込みに供され、直視下解剖される。二つの端部は、切開の後、元に戻され得る。内括約筋中に生じた隙間の広がりは、閉止系の術の場合と同様、肛門粘膜を介して触診され得る。切り込みは、縫合によって閉じられるか、回復するまで解放したままにされる。
括約筋切開を実施するための公知の技術と手術器具とが、肛門上の緊張を解放し、それによって、裂肛が患者の約90〜95%で回復することができるのに十分であるとしても、これらの技術と手術器具は依然幾分侵襲的である。内外の括約筋の間でのメスの旋回により、抑制されない組織損傷が起こり得、肛門粘膜を介する内括約筋の手による触診は、括約筋切開の長さ方向の広がりの信頼できる制御を提供するものではない。更に、手術中における(肛門粘膜の切断を避けるのに重要な)切り込みの半径方向(内側−外側方向)の広がりの制御は、外科医の技術と経験とに委ねられている。開放系の手術アプローチに関しては、手術の間、内括約筋は、変形し、裂肛に関して位置がずれるため、更に筋切開の制御を困難にする。より非侵襲的でよりよく制御可能な手術は、術後合併症(例えば瘻孔と肛門の失禁)を更に減少させることができよう。
それ故、本発明の目的は、制御された筋切開を実施するための、特に、内側肛門括約筋切開を実施するための、より非侵襲的な手術ならびに筋切開の位置および広がりのよりよい制御の目的に沿った手術器具を提供するものである。
本目的は、添付の請求項1に係る手術器具によってなし遂げられる。従属項の目的は、本発明の有利な実施形態を提供することにある。
本発明によれば、制御された筋切開を実施するための手術器具は、近位のハンドル部と、ハンドル部に連結し、このハンドル部から遠位方向に延在する細長い挿入軸と、挿入部分の遠位端に配置され、挿入軸に対し遠位にある組織を切り込むように構成された、遠位の切り込み先端部と、挿入軸に配置され、挿入軸に対し側方にある組織を切り込むように構成された、側方の切り込み部材とを備え、側方の切り込み部材が挿入軸に向かって後退した、すなわち挿入軸の内側にある休止位置、および、側方の切り込み部材が挿入軸から側方に突出する手術位置から側方の切り込み部材が移動可能になっている。これにより、外科医は、側方の切り込み部材が休止位置にある間に、遠位の切り込み先端部の切断動作により、手術器具を挿入し、次いで、側方の切り込み部材をその手術位置に引き出し、側方の切断を実施するために患者の身体中で手術器具を旋回させる必要なく、手術器具を近位方向に後退させている間に側方の切り込み部材により組織を側方に切断することができる。
本発明の更なる一局面によれば、本挿入軸は、視覚用および/または触覚用のマーキング(好ましくは、外科医が、挿入軸の遠位の挿入深さ、特に遠位の切り込み先端部と側方の切り込み部材との挿入深さ、を視覚的に制御できる目盛り付きスケール)を備える。これは、筋切開中の切断深さの連続的視覚制御を可能にして、手による触診を不要にするものである。
筋切開の精度を更に改善するために、筋切開の実施中に、外科医が組織切開部の側方の深さを制御および調整することができるように、側方の切り込み部材の手術位置(側方に突出した位置)が調整可能である。本手術器具は、操作上側方の切り込み部材に連結され、(側方の切り込み部材の多くの相異なる広汎な突出手術位置に応じた)多くの相異なる位置に手動で導き得る調整カーソルまたはノブを備えることが有利である。側方の切り込み深さのよりよい制御を提供するための目盛り付きスケールを定める視覚用のまたは触覚用のマーキングは、調整カーソルまたはノブの行路に沿って提供されるのが有利である。
挿入軸は実質的に硬質でかつ直線状であり、または、解剖学的状況によって必要であるならば、曲がっており、細長く扁平で、ほぼ平面状であり、好ましくは、遠位方向に次第に細くなっており、基準面を定める、形状を有する。ここで、側方の切り込み部材は、挿入軸の基準面に対し横方向に(好ましくは基準面に対し垂直に)引き出されることが有利であり得る。この特定の幾何学的構成により、側方の切り込み部材による側方の切断動作中に、挿入軸の安定な位置付けおよび、挿入軸の後退または前進の誘導が可能になる。この実施形態では、上述の視覚用のマーキングは、挿入軸の二つの互いに反対側にある大きい側部の一方または両方の外面上に形成されあるいは適用されるのが好ましい。
組織を切断する目的からは、遠位の切り込み先端部と側方の切り込み部材とは、鋭い縁を持つまたは先端の尖ったナイフ部として具現化され得るが、本発明の好ましい実施形態によれば、遠位の切り込み先端部と側方の切り込み部材との両方が、組織を切開し血液を凝固させるための、高周波電流を組織に伝達するのに適した電極先端部を備える。単極性または双極性の高周波先端部の両方とも、有利に利用され得る。
好ましい実施形態によれば、遠位の切り込み先端部が、丸い高周波電流電極を有し、側方の切り込み先端部が、手術位置にある場合には、好ましくは側方および近位の方向に向いた、フック形状の高周波電流電極ワイヤを有する。
患者の身体中の手術器具の侵入深さを減少させるために、側方の切り込み部材が、挿入軸の遠位端の近傍に置かれることが有利である。
本発明のこれらおよびその他の詳細ならびに利点は、上述の本発明の概要と共に、本発明の実施形態を例示するための付随する図面とその説明から明らかになるであろう。また、以下の発明の詳細な説明は、本発明の原理を説明するのに役立つものである。
図を参照して、図1,2は、本発明の第一の実施形態に係る手術器具を表す。手術器具1は、制御された筋切開(例えば慢性裂肛を治療するための内側肛門括約筋切開等)を実施するのに適している。
以下の説明では、用語「遠位」および「近位」は、別途記載されない限り外科医の視点に関するものである。
器具1は、近位のハンドル部2と、ハンドル部2から遠位に延在する細長い挿入軸3とを備えたおおむね細長い本体を有する。遠位の切り込み先端部4は挿入軸3の遠位端に配置されており、挿入軸3の遠位側に隣接した組織を切り込むように構成されている。更に、側方の切り込み部材5が、挿入軸3の遠位端28の近傍に配置され、挿入軸3に対し側方に隣接した組織を切り込むように構成されている。側方の切り込み部材5は、切り込み部材が挿入軸3に向かって後退した、すなわち挿入軸3の内側にある休止位置、および、切り込み部材が挿入軸3から側方に突出する手術位置から移動可能である。
ハンドル部2は、(断面がほぼ長方形の)扁平な細長い形状を有し、遠位のグリップ部6と、後述するいくつかの制御を実施するための近位の操作部7とを備える。操作部7は、操作部7に連結した挿入軸3と共に、グリップ部6に関し、扁平グリップ部6によって定められる平面に直行する方向に、横方向にオフセットされており、これによって、グリップ部6と操作部7との間の段差25を定める。このようにして得られたグリップ部6の長手軸26と操作部7および挿入軸3の長手軸27との間の横方向のオフセットにより、器具1は、外科医の手にうまくなじみ、特に、例えば肛門括約筋切開の実施に対し人間工学的になっている。
挿入軸3は、ハンドル部2の操作部7に連結され、かつ軸方向がそろっており、ハンドル部2と同様の意味で扁平なほぼまっすぐな細長い本体を備えており、その細長い本体は、その遠心端28の方へ次第に細くなっており、また、互いに反対側にある二つの小さい側部29,30の方へ次第に細くなっている。この実施形態では、挿入軸3は、ほぼ楕円形の断面形状を有する。
挿入軸3の互いに反対側にある二つの大きい側部31,32の外面上には、目盛りの付いた視覚用のおよび/または触覚用のスケールを定めるマーキング8が与えられる。マーキング8は、手術中に、挿入軸3の侵入深さを制御することを可能にする。図示の実施形態では、1〜7cmのセンチメートルスケールが示されている。もちろん、スケールは、異なる解像度または異なる長さの単位(例えばインチ)を持つものでもよい。
挿入軸3の遠位端28には、上述の遠位の切り込み先端部4を形成する滑らかな丸みを帯びた高周波(RF)電極部が配置される。この電極部は、具体的には、単一の単極性RF電流電極でも、あるいはその代わりに、一対の双極性RF電流電極でもよい。単極性RF系の場合には、単一の単極性電極先端部が、電極先端部と組織との間にスパークを発生させる。発生した電流は、患者の身体に取り付けられたアースパッドに引きつけられる。双極性のRF系では、二つの密接に並置された電極先端部が、電流を隣接の組織に伝達するのに用いられる。
遠位の切り込み先端部4は、挿入軸3およびハンドル部2内に収納されたRF電流導通体(図示されず)に接続されている。RF電流導通体は、切り込み先端部4から、ハンドル部2の近位端に配置されたRFコネクタ9にまで延在する。RFコネクタ9は、器具1を外部高周波発生器に接続させることのできるプラグインソケットを含むことが好ましい。あるいは、RFコネクタ9は、市販の外科的なRFペンのRF放出端(それ自体にRF電流発生器を備えている)を受け入れるように構成されている。
側方の切り込み部材5は、切り込み部材5が挿入軸3に向かって後退した、すなわち挿入軸3の内側にある休止位置、および、切り込み部材5が挿入軸3から側方に突出する手術位置から移動可能である。本実施形態では、側方の切り込み部材5は、挿入軸3およびハンドル部2中に収納されたRF電流導通体(図示されず)であって、側方の切り込み部材5を外部のRF電流発生器に接続するために、側方の切り込み部材5から上記のRFコネクタ9にまで延在するRF電流導通体に接続された、単極性または双極性の高周波電極部を備える。
側方の切り込み部材5は、挿入軸3の二つの互いに反対側にある大きい側部31,32のうちの一つの外面に出口開口部を持つガイドシート10中にスライド可能に収納された、フック形状のRF放出ワイヤを備えることが好ましい。好ましくは、手術位置において、側方の切り込み部材5がグリップ部6のオフセット方向で側方に突出するように、ガイドシート10の出口開口部は、挿入軸3に関してグリップ部6の側方のオフセット方向に面する挿入軸3の下部側32に配列される。ガイドシート10は、曲がったRFワイヤの形状に適合するように、曲がったもの(図11)であり得る。あるいは、ガイドシート10は真っ直ぐ(図10)であり、ガイドシート10中への後退の際に、ワイヤが真っ直ぐになってシートの形状に合わせられ、真っ直ぐなガイドシート10から出た後は、ワイヤが、本来のフック形状に弾性的に戻るように、RFワイヤが、弾性的に変形可能な材料から作製される。既に述べたごとく、手術位置においては、側方の切り込み部材5は、挿入軸3に関してグリップ部6のオフセット方向に対し側方にある挿入軸3の下側の大きな側部32から突出するフック形状の構成を取るかその構成を有し、フック形状のワイヤの自由端33は、近位方向に、実質的にハンドル部2を向いている。後述するように、この特定の構成により、手術サイトから器具1の近位の方向への後退中に、非常に正確な側方の切断を実施することができる。
休止位置から手術位置への側方の切り込み部材5の移動およびその逆の移動は、ハンドル部2の内部に配置された移動機構によりなされ、この移動機構は、移動伝達手段例えば挿入軸3の内部に収納された押棒および/または引っ張り棒(図示せず)によって側方の切り込み部材5に連結されている。移動機構は、ハンドル2の操作部7に配置された調整ノブまたはカーソル11によって手動で操作し得る。調整カーソル11は、側方の切り込み部材5が突出する下側の大きな側部32の反対側にある操作部7の上側の大きな側部31上に配されることが好ましい。言い換えれば、調整カーソル11は、ハンドル2の遠位のグリップ部6に関して挿入軸3の側方のオフセット方向に向いている。図5の拡大図に示すように、調整カーソル11は、器具1の(遠位方向−近位方向における)長さ方向に平行移動して、以下の位置のうちの一つに選択的に位置付けられ得る。
−中位のオフ位置34。この位置では、側方の切り込み部材5が、挿入軸3系全体(the overall encumbrance of the insertion shaft 3)の内部の休止位置に完全に後退し、遠位の切り込み先端部4と側方の切り込み部材3の両方の通電が断たれ、通電することが不可能である。
−側方の切り込み部材5の側方の突出の程度を調整するために、外科医が選択し得る、側方の切り込み部材5の相異なる手術位置に対応する複数の相異なる遠位のRF2位置35。調整カーソル11がこれらのRF2位置のうちの一つに持ってこられると、カーソル移動の範囲は、移動伝達手段によって、側方の切り込み部材5に伝達され、それによって側方の切り込み部材5が側方に引き出される。調整カーソル11がRF2位置35にあるとき、遠位の切り込み先端部4への通電が断たれた状態で、組織を側方に切開するためのRF電流を側方の切り込み部材5に通電することが可能である。
近位のRF1位置36。ここでは、側方の切り込み部材5が、挿入軸3系全体の内部の休止位置に完全に後退し、側方の切り込み部材5の通電が断たれたまま、遠位の切り込み先端部4だけが通電され得る。
調整カーソル11のオフ位置、RF1位置およびこれらとは異なるRF2位置を示す視覚用のおよび/または触覚用のマーキング12が、側方の切断の深さと器具1の一般的な状態との視覚または触覚による耐久性のある制御を可能にするために、その行路に沿って配されることが有利である。図示の実施形態では、マーキング12が、その手術位置における側方の切り込み部材5の突起の程度を調節するためのミリメートルスケールを定める。もちろん、異なるスケール(例えばインペリアル単位)も可能である。RF電流の供給は、外部RFコネクタ9を遠位の切り込み先端部4および側方の切り込み部材5に接続するRF導体手段中のスイッチと協同するRF起動ボタン13によって制御され得る。
好ましい実施形態によれば、RF起動ボタン13は、(図1に示す)調整カーソル11に収納されるか、調整カーソル11中に一体化され、以下のように構成される。
−調整カーソル11がそのオフ位置34に置かれると、ボタン13を押して起動しても、電流供給は起こらず(カーソル11がオフ位置であるとき、ボタン13は機械的にブロックされることが有利である)、遠位の切り込み先端部4と側方の切り込み部材5とは両方とも、RFコネクタ9から電気的に切断されたままにとどまる。
−調整カーソル11がその近位のRF1位置36に置かれた場合には、RF起動ボタン13を押して起動すると、関連スイッチが閉になり、それによってRFコネクタ9が遠位の切り込み先端部4に電気的に接続され、ついで先端部4が通電され、挿入軸端28に対し遠位に隣接する組織にRF電流を伝達する。調整カーソル11のこの位置では、側方の切り込み部材5へのRF電流供給が妨害され抑止されることが好ましい。
−調整カーソル11がRF2位置の一つ35に置かれた場合には、RF起動ボタン13を押して起動すると、関連スイッチが閉になり、これにより、RFコネクタ9が(突出した)側方の切り込み部材5に電気的に接続され、ついで切り込み部材5が通電され、挿入軸3に対し側方に隣接した組織にRF電流を伝達する。調整カーソル11のこの位置では、遠位の切り込み先端部4へのRF電流供給が妨害され抑止されることが好ましい。
側方の切り込み部材5の位置を制御する調整カーソル11へのRF起動ボタン13の組み込みのおかげで、外科医は、一方の手だけで器具1を操作することができ、たとえばもう一つの手を使用して、肛門を通しての器具の侵入深さを更に触診することができる。
側方の切り込み部材5およびRF電流導通体およびスイッチの機械的な移動の機構は、それ自体が従来のものであるので、詳述されない。スライド可能な調整カーソル11の代わりに回転可能な調整ノブが使用される場合には、側方の切り込み部材5の移動機構は、調整ノブの回転運動を、側方の切り込み部材5の平行運動またはスイベル運動に変換する機構を備えることが有利である。この場合、マーキング12は、外科医が、器具の状態および/または回転ノブの所与の回転位置に対応する側方の切り込み部材5の正確な操作位置を直ちに読み取ることができるように、回転ノブのまわりに角度的に間隔をあけて配置されることが有利である。
図2,3は、側方の切り込み部材5が完全に側方に前進してその手術位置にある構成における器具1の側面図である。この構成では、フック形状のRF放出ワイヤのくぼんだ側およびその自由端33は、近位方向にハンドル部2の方を向いている。
図6,7,8は、本発明のその他の実施形態を表している。これらの図では、同様の符号は同様の構成要素を指す。
図6に示される実施形態によれば、器具1は、ハンドル部2と、まっすぐな、ほぼ円筒形の挿入軸3とを備える。ハンドル2は、側方の切り込み部材5を挿入軸3内部の休止位置から手術位置(そこでは、側方の切り込み部材5が挿入軸3から側方に突出している)へ移動させるためのスライド可能な調整カーソル11を備える。この実施形態では、側方の切り込み部材5は、手術位置では、挿入軸3から側方の遠位方向に延在し、器具に関し調整カーソル11と同じ上部側31に配置される、ほぼまっすぐなRF放出電極を備える。遠位の切り込み先端部4と側方の切り込み部材5とへのRF電流の供給は、RF導体ワイヤ14によって器具1に接続した外部のRF電流発生器(図示せず)にある手動制御器によって、直接に制御され得る。本発明の更なる局面によれば、RF導体ワイヤ14は、側方の切り込み部材5のための出口開口部37まで、器具の内部に延在し得、導体ワイヤ14の自由端38それ自体が、側方の切り込み部材5を構成し得る。この場合、移動機構、すなわち、スライド可能なカーソル11は、RF導体ワイヤ14に直接作用し、挿入軸3に対しRF導体ワイヤ14を移動させて自由端38を側方に後退および前進させる。第一の実施形態(図1〜5)への参照とともに説明される更なる特徴、特に制御マーキング8,12は、図6の実施形態において、同様に適用され得る。
図7は本発明の更なる実施形態を示す。図7では、器具1の挿入軸3は、RF導体ワイヤ(図示せず)を収納する可撓性ケーブル16によって外部高周波発生器15に接続されている。可撓性ケーブル16は、硬質の挿入軸3の近位のコネクタ部分17に着脱可能にスナップ連結され、それによって、外部のRF導体ワイヤを遠位の切り込み先端部4および側方の切り込み部材5に繋がる内部導体ワイヤに電気的に接続するようになっていることが好ましい。側方の切り込み部材5を、その休止位置からその手術位置までおよびその逆に移動させる移動機構は、可撓性ケーブル16(例えば可撓性の押棒または引っ張りワイヤ)中に収納された可撓性の伝達手段に接続されており、この可撓性の伝達手段は、外部のRF電流発生器15に配置された移動機構に接続されている。この実施形態では、挿入軸3は、例えば内視鏡法で身体中に完全に挿入され得、側方の切り込み部材5の移動および、遠位の切り込み先端部4と側方の切り込み部材5との両方へのRF電流供給は、患者の身体外に置かれ、可撓性ケーブル16を介して挿入軸3に接続する外部RF発生器に配置された手動制御器によって制御される。
図8,9は本発明の更なる実施形態を例示する。図8,9では、RFコネクタ9は、それ自体にRF電流発生器(図示せず)を備えた外科RFペン18を受け取り、この外科RFペン18に電気的に接触するように構成される。この実施形態では、側方の切り込み部材5へのRF電流供給は、RFペン18の制御により直接制御される。
図9は、側方の切り込み部材5を休止位置から手術位置におよびその逆に移動させる代替的な移動機構19を例示するものである。この実施形態によれば、側方の切り込み部材5は、RF電流導通体ワイヤ21に接続されたカーブした刃20を備える。このRF電流導通体ワイヤ21は、カーブした刃20をRFコネクタ部17に電気的に接続する(従って外部のRFペン18に電気的に接続する)。カーブした刃20は、たとえば後退した休止位置から側方に突出した手術位置まで固定ピボット22の周りにスイベル式に旋回するように、挿入軸3に回転可能に取り付けられる。スライド可能な調整カーソル11は、硬質の引っ張り−押し棒23によってカーブした刃20に連結される。引っ張り−押し棒23の遠位端は、カーソル11の近位への平行移動により、カーブした刃20が休止位置から手術位置へスイベル式に旋回し、カーソル11の遠位への平行移動により、カーブした刃20が休止位置へスイベル式に旋回して戻るようになるように、固定ピボット点22から調整カーソル11の平行移動方向に直交する方向に空間的に離れた第二のピボット点24でカーブした刃20に回転可能に連結される。
図12,13は、内側肛門括約筋切開を実施するための本発明に係る手術器具1の使用を例示するものである。
器具1は、RF電流発生器に接続しており、調整カーソル11は、オフ位置に置かれている。小さな肛門周囲の皮膚の切り込み39が実施され、肛門粘膜40と内括約筋41との間の皮膚の切り込み部を通して挿入軸3の遠位の先端部28が導入される。この挿入の間、器具1は、側方の切り込み部材5のための出口開口部が側方外側に向くように、すなわち、肛門管42を背にして内側肛門括約筋41の方に向くように、方向付けられる。オフ位置34からRF1位置36に調整カーソル11を移動させ、RF起動ボタン13を押すことによって、遠位の切り込み先端部4にはRFが通電され、それにより、挿入軸3に対し遠位の前方にある組織が切開される。ここで、挿入軸3は、内括約筋41の内側に沿って遠位方向に、所望の位置まで前進させられる。挿入軸3上のマーキング8は、挿入軸3の遠位の侵入の深さの即時の視覚制御を提供する。更に、外科医は、肛門管42から肛門粘膜40までを介して挿入軸の遠位の先端部を手で触診することにより、侵入深さを制御することができる。ただし、この触診は必須のものではない。
器具の挿入軸3が所望の位置まで前進すると、周囲の組織を損傷しないように、遠位の切り込み先端部4の通電を断つことができる。これは、RF起動ボタン13を解放し、次いで、調整カーソル11をRF1位置36からオフ位置34へシフトさせることでなし得る。更に、調整カーソル11をRF2位置35へ遠位方向にシフトさせることにより、移動機構が、側方の切り込み部材5を、その休止位置から手術位置にまで側方に引き出すことができる。調節可能な移動機構のおかげで、カーソル11を複数の相異なるRF2位置に持っていき、そこで、たとえばスナップ係合または摩擦係合により保持することができ、側方の切り込み部材5を、(たとえば、1mmから最大7mmまで)徐々に引き出し、スナップ係合または摩擦または専用のロック機構により所望の中間位置または終端位置にロックすることができる。マーキング12は、側方の切り込み部材5の側方の引き出し深さの連続的な視覚制御を提供する。RF起動ボタン13を押すことによって、側方の切り込み部材5は、挿入軸3に対し側方の組織を切開することができるように、RF電流で通電される。側方の切り込み部材5が通電されると、挿入軸3は、近位の肛門辺縁部43の方へゆっくり後退させられ、それによって、側方の切り込み部材5が内括約筋41を切開する。このようにして、長さ方向の深さと側方の深さとの両方における制御された括約筋切開が実施され得る。
この特定の方法で括約筋切開を実施することにより、すなわち、肛門粘膜と内括約筋の間に本器具を導入することにより、側方の切り込み部材4は、肛門粘膜を背にし、挿入軸3によって肛門粘膜から効果的に離されるようになる点で有利である。この特徴は、括約筋切開中における肛門粘膜の損傷の危険性を排除し、それによって手術後の瘻孔の発生を防止できる点で有利である。当業者ならば直ちに認識するであろうように、本発明に係る器具は、内括約筋を通る側方の切断を実施する前にその創傷内で切断器具を回転させる必要性を不要にして、器具の遠位の先端部の挿入深さと、側方の切り込み部材の側方の突出の程度との連続的な視覚制御を可能にするものである。その結果、外科医は、内括約筋の長さ方向の切開の範囲と側方の切開の範囲とを容易に制御することができ、その範囲を患者の個々の解剖学的条件に適応させることができる。更に、切り込みが先行技術の装置で実施した切り込みより小さくなる。高周波放出切り込み装置のおかげで、組織が切開され、血液が凝固し、それによって、血液の流出量が減少する。本発明に係る手術器具は、筋切開の手順(特に内側肛門括約筋切開の手順)の標準化に適しており、また、内括約筋の切開の正確さがより大きくなるため、失禁等の手術後の合併症、手術の効果のなさ、および瘻孔の再発が、従来の技術や器具に比較して減少する。
肛門括約筋切開を実施するための一代替法によれば、器具1はRF電流発生器に接続され、調整カーソル11はオフ位置に置かれる。小さな肛門周囲の皮膚の切り込みが実施され、挿入軸3の遠位の先端部が、内側肛門括約筋と外側肛門括約筋との間の括約筋間平面中に、皮膚の切り込みを通して、導入される。挿入中、本器具は、側方の切り込み部材4のための出口開口部が内側に(すなわち、肛門管に向けておよび切開の必要な隣接内側肛門括約筋に向けて)面するように方位付けられている。調整カーソル11を、オフ位置からRF1位置に移動させ、RF起動ボタン13を押すことにより、遠位の切り込み先端部4がRF通電され、挿入軸3の前方遠位にある組織を切開することができるようになる。ここで、挿入軸3は、括約筋間平面中を遠位方向に所望の位置まで前進する。挿入軸3のマーキング8は、挿入軸3の遠位の侵入深さの即時の視覚によるフィードバックを提供する。更に、外科医は、肛門管から肛門粘膜を介して挿入軸の遠位の先端部を手で触診することによって、侵入深さを制御することもできる。ただし、この触診は必須ではない。
一旦器具の挿入軸が所望の位置に前進したならば、遠位の切り込み先端部4は、周囲の組織に損傷を与えないように通電を断つことができる。これは、RF起動ボタン13を解放し、次いで、調整カーソル11をRF1位置からオフ位置までシフトさせることによって実施することができる。更に、RF2位置への調整カーソル11の遠位方向シフトによって、移動機構が、側方の切り込み部材5を、その休止位置から手術位置に側方に引き出すことができる。調節可能な移動機構のおかげで、カーソル11を複数の異なるRF2位置に置くことができ、たとえば、スナップ係合または摩擦係合によってそこに保持される。また、側方の切り込み部材5を、たとえば、1mmから最大7mmまでゆっくりと引き出し、スナップ係合または摩擦により、または専用のロック機構により、所望の中間位置または終端位置にロックすることができる。マーキング12が、側方の切り込み部材5の側方の引き出し深さの連続的な視覚によるフィードバックを提供する。RF起動ボタン13を押すことにより、側方の切り込み部材5は、挿入軸3に対し側方の組織を切開することができるように、RF電流で通電される。側方の切り込み部材5が通電されると、挿入軸3は、近位方向に肛門辺縁部の方へゆっくり後退させられ、それによって、側方の切り込み部材5が内括約筋を切開する。このようにして、長さ方向の深さと側方の深さとの両方における制御された括約筋切開が実施され得る。制御された内括約筋切開を実施するためのこの代替法の利点は、図12,13の図示の方法との関係で説明した利点と同様である。
これまで本発明の好ましい実施形態について詳しく説明したが、請求項の範囲をそのような特定の実施形態に制限することは本出願人の意図ではない。本出願人の意図は、本発明の範囲内にある全ての変形および代替的構成をカバーすることにある。
たとえば、好ましい実施形態においてではあるが、遠位のグリップ部6は、挿入軸3と実質的に平行であり、その横方向にオフセットされており、それによって、グリップ部6と挿入軸3との間の段差25が定められ、一代替的実施形態によれば、遠位のグリップ部6が挿入軸3と実質的に一列にそろっている状態にされ得る。
本発明の更に他の展開によれば、本器具のグリップ部またはハンドル部分および挿入軸が、細長い可撓性の軸部分を介して連結され、例えば腔内粘膜切除(EMR: endoluminal mucosa resection)および/またはEMRに類似したまたはEMRとは異なるその他の切除または切開を実施するための挿入軸の内視鏡的導入が可能になる。
本発明の第一の実施形態に係る手術器具の近位の等角投影図である。
図1の手術器具の遠位の等角投影図である。
図1の手術器具の側面図である。
図3の細部の拡大図である。
本発明の一実施形態に係る手術器具の更なる細部の拡大図である。
本発明の第二の実施形態に係る手術器具の等角投影図である。
本発明の第三の実施形態に係る手術器具の等角投影図である。
本発明の第四の実施形態に係る手術器具の等角投影図である。
本発明の異なる代替的実施形態に係る手術器具の側方の切り込み部材を移動させるための移動機構の略図である。
本発明の異なる代替的実施形態に係る手術器具の側方の切り込み部材を移動させるための移動機構の略図である。
本発明の異なる代替的実施形態に係る手術器具の側方の切り込み部材を移動させるための移動機構の略図である。
本発明に係る手術器具を使用した本発明の一実施形態に係る内側肛門括約筋切開を実施する方法を例示する図である。
本発明に係る手術器具を使用した本発明の一実施形態に係る内側肛門括約筋切開を実施する方法を例示する図である。