JP2010284304A - 臓器虚血モニタ - Google Patents
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Abstract
【課題】マイクロナノテクノロジーを用いた微小電気機械システム(MEMS)技術と精密機械加工技術を組み合わせて、カテーテルにマイクロセンサを実装し、直接的に脊髄を栄養する血管の血流速を測定し、術中にリアルタイムで脊髄虚血をモニタリングできる新たなシステムを開発すること。
【解決手段】体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視する。
【選択図】図5
【解決手段】体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視する。
【選択図】図5
Description
本発明は、体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視する装置に関する。
大動脈とは、全身に血液を送る血管のなかでも体幹部における主要血管であり、心臓の左心室から起始し上行した後、弓部をへて下行し、骨盤腔のやや頭側の高さで、図1[1.1]のように左右に分岐する。この大動脈の一部に図2のような嚢状や紡錘状の膨隆部ができることがある。この膨隆部のことを大動脈瘤という。瘤化の原因として主たる原因は動脈硬化に伴う変性である。臨床的には大動脈瘤が形成されても無症状の場合が多い。しかし、大動脈瘤には破裂する危険があり、一旦破裂すると、致命的である。したがって、破裂にリスクが高いと判断される大動脈瘤に対しては予防的に切除し人工血管で置換する治療が重要となる。本邦における大動脈瘤に対する手術は、2006年の集計で約8000例と報告されている。
大動脈瘤の根治手術は、瘤のある部分の大動脈を全周性に切除し、その部分を図1.3[1.2]に示すような人工血管に置き換えるという手術が一般的である。大動脈瘤の手術部位を、患部の場所によって大きく胸部、腹部、胸腹部の3つに分類することができる。
胸部大動脈瘤手術の例を図1.4[1.1]に示す。この領域の手術は、正中からアプローチし心停止下に行う手術 (上行大動脈瘤/弓部大動脈瘤)、側方からアプローチし心拍動下に行う手術(下行大動脈瘤)の2 種類に分けることができる。前者では、脳を栄養する血管が連結されているため、人工心肺装置を用いて低体温法や選択的脳分離体外循環法などの脳の保護を併用し手術を行う必要がある。一方、心臓から距離を置いた部分の胸部下行大動脈瘤を切除する手術では、人工心肺装置を用いるものの中等度低体温(32 度前後)心拍動下で、左心系のみをバイパスする回路を用い、下行大動脈を部分的に遮断して手術を行う。
腹部大動脈瘤手術は図1.5[1.1]のように主として左図の斜線部の患部を人工血管に置き換える手術を行う。腎動脈より末梢のレベルで手術を行う際には人工心肺を用いずに手術することができる。
胸腹部大動脈瘤手術は図1.6[1.1]の左図の斜線部のように胸部から腹部の広範囲にわたる患部を人工血管に置き換える手術を行う。また、動脈瘤部を迂回するバイパス回路に、人工心肺を用いて血液を循環させる。この際、心臓は停止させない場合が多い。さらに、胸腹部大動脈瘤手術中に遮断される領域から、脳を栄養する血管の一部と、脊髄を栄養する血管が分岐しているため、脳と脊髄の保護を行わなければならない。
この胸腹部大動脈瘤手術は大動脈瘤手術の中で最も手術侵襲度が高く困難な手術といわれている。その理由としては周術期における脊髄保護法が確立されていない点にある。脊髄保護が不十分な場合、脊髄虚血が生じ、術後に脊髄神経障害による対麻痺が発症するリスクがある。その頻度は高度医療期間においても、4.6〜11.4%と報告されている。
胸腹部大動脈瘤手術において、脊髄虚血の予防策として全身低体温法と脳脊髄液ドレナージ法が一般的に行われている。また、東北大学病院やマサチューセッツ総合病院などの一部の施設では、さらに硬膜外冷却法が併用され良好な成績が報告されている。
まず、硬膜外冷却法について説明する。硬膜外冷却法は図1.7のように背側からカテーテルを挿入し、硬膜外腔に留置する。そのカテーテルから冷却生理食塩水を灌流することで、脊髄を局所的に冷却し虚血中の脊髄を保護する。原理としては、中枢神経の温度が1℃低下する毎に組織代謝が減少し酸素需要量が、6〜7%低下することにある。
次に脳脊髄液ドレナージ法について説明する。脳脊髄液ドレナージ法は、図1.7のように背側からカテーテルを挿入し、髄腔内に留置する。このカテーテルを用いて、髄腔内にある髄液の一部を体外に排出し、髄腔内の圧力を低下させることで、術後に生ずる脊髄浮腫の影響を軽減させ脊髄を栄養する血管の血流を改善することによって、脊髄虚血を防ぐ作用があると考えられている。しかしながら詳細な作用機序については未だ不明の点も多い。
硬膜外冷却法と脳脊髄液ドレナージ法を併用することで、胸腹部大動脈瘤手術における脊髄虚血障害による下半身対麻痺の発生頻度を3.9%にまで低下させることができたことが報告されている[1.4]。
胸腹部大動脈瘤手術における、脊髄虚血による脊髄障害は術後徴候がみられた時点で認知できるので、発症してしまうと事実上手遅れとなる場合が多い。そのため、術中にリアルタイムで脊髄虚血が起きているかどうかを評価するシステムが必要である。現行では術中評価する方法として誘発電位を用いた脊髄機能評価が試みられている。その中で運動誘発電位(MEP)を測定する方法が有用であるという報告がある[1.5]。この方法は、図1.7[1.6]に示すように、頭部に電気刺激を与え、それに対する上肢と下肢のMEP の変化を測定し、図1.8[1.7]のように比較することによって、脊髄虚血がおきているかどうかを評価するというものである。
しかし、MEPをモニタリングする方法は、精度が不十分で信頼性にかけるという意見もある[1.8]。これは、MEP のモニタリングを用いる方法が神経生理学的検査なので、いわば虚血現象の間接評価であるためと考えられる。さらにこの方法を用いる際、筋弛緩薬を用いない特殊な麻酔方法を用いる必要があるだけではなく、脊髄保護法として最も重要な低体温法を用いると、MEP 自体が低下して評価が困難となる。従って、硬膜外冷却法を十分に用いることができないという問題点を有している[1.7]。
一方、脊髄以外にも術中、術後に深部充実性臓器の虚血を持続的にモニタリングできるシステムが無いため、不可逆的な臓器ダメージを避けられない場合がある。肝臓移植後には、肝動脈や門脈血流が重要なモニタリング対象であるが、現状では頻回に腹部超音波検査を施行しているものの術後の測定は障害が多く精度に欠ける。同様に移植後腎臓に関しても、急性拒絶反応時には腎皮質・髄質の血流低下が想定されるが、体表からの超音波検査だけでは微妙な組織血流量変化を捉えるのには感度が不十分である。BOLD-MRI等の診断技術もあり得るが、術後早期の患者を頻回にMRI室まで移送するのは現実的ではない。
大動脈瘤治療の最前線 2007 年度版
テルモ社 http://www.terumo.co.jp/
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和賀井敏夫 監修、甲子乃人 著、超音波の基礎と装置、ベクトル・コア、1999 年
日本エム・イー学会 編、超音波、コロナ社、2001 年
超音波便覧編集委員会 編、超音波便覧、丸善株式会社、1999
(社)日本電子工業会 編、医用超音波機器ハンドブック、コロナ社、1997 年
圧電セラミック テクニカルハンドブック 株式会社 富士セラミックス
圧電セラミックス(ピエゾタイト) 応用センサ カタログ
圧電材料とその応用 監修 塩嵜 忠 シーエムシー出版
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X. Ming Lu et al. "Single Crystals vs. PZT Ceramics for Medical Ultrasound Applications" IEEE Ultrasonics Symposium, p227-230,2005
前述したように、現行では脊髄など深部臓器の虚血を直接的に定量評価するシステムがない。そこで、本研究では、マイクロナノテクノロジーを用いた微小電気機械システム(MEMS)技術と精密機械加工技術を組み合わせて、カテーテルにマイクロセンサを実装し、直接的に脊髄を栄養する血管の血流速を測定し、術中にリアルタイムで脊髄虚血をモニタリングできる新たなシステムを開発することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明の監視装置は、
体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視することを特徴としている。
この特徴によれば、臓器虚血として大動脈瘤治療の際に人工血管へ置換する手術の際に生じる危険のある脊髄虚血、腎臓や肝臓など移植臓器の術後循環不全などがあるが、血行不全(虚血)を早期に検出することで虚血による臓器の不可逆的なダメージを防止することができる。センサを搭載したカテーテルは脊髄虚血監視の際は脊髄腔に留置され、移植臓器の循環不全監視の際は腹腔などを経由して挿入され臓器表面付近に留置されるか、または血管や尿管などを経由して臓器内部に挿入、留置される。
体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視することを特徴としている。
この特徴によれば、臓器虚血として大動脈瘤治療の際に人工血管へ置換する手術の際に生じる危険のある脊髄虚血、腎臓や肝臓など移植臓器の術後循環不全などがあるが、血行不全(虚血)を早期に検出することで虚血による臓器の不可逆的なダメージを防止することができる。センサを搭載したカテーテルは脊髄虚血監視の際は脊髄腔に留置され、移植臓器の循環不全監視の際は腹腔などを経由して挿入され臓器表面付近に留置されるか、または血管や尿管などを経由して臓器内部に挿入、留置される。
本発明の監視装置は、
超音波素子がカテーテル先端部近傍の内腔に配置され、先端センサ部がカテーテルシャフトと同等の外径であり、人体への挿入性と抜去性を保っていることを特徴としている。
超音波素子がカテーテル先端部近傍の内腔に配置され、先端センサ部がカテーテルシャフトと同等の外径であり、人体への挿入性と抜去性を保っていることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
センサ部は超音波素子が少なくとも2個以上で構成され、超音波ドプラ法にて赤血球の移動を計測することで虚血を監視することを特徴としている。
センサ部は超音波素子が少なくとも2個以上で構成され、超音波ドプラ法にて赤血球の移動を計測することで虚血を監視することを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子が圧電特性に優れたPZTまたはPMN-PTで構成されていることを特徴としている。
超音波素子が圧電特性に優れたPZTまたはPMN-PTで構成されていることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子同士のなす相対角度が100〜180°であり、ドプラ計測における超音波送受が最適化されたことを特徴としている。
超音波素子同士のなす相対角度が100〜180°であり、ドプラ計測における超音波送受が最適化されたことを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子同士の相対角度が体外において微調整可能であることを特徴としている。
超音波素子同士の相対角度が体外において微調整可能であることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子同士の相対角度が体内において微調整可能であり、カテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンにより素子が傾くことを特徴としている。
超音波素子同士の相対角度が体内において微調整可能であり、カテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンにより素子が傾くことを特徴としている。
本発明の監視装置は、
外径3mm以下のカテーテルにおいて超音波素子間の距離が0.5mm〜3.0mmであり、素子間が可撓性を有し人体への挿入性が保たれるとともに、超音波の送受が有効に行えることを特徴としている。
外径3mm以下のカテーテルにおいて超音波素子間の距離が0.5mm〜3.0mmであり、素子間が可撓性を有し人体への挿入性が保たれるとともに、超音波の送受が有効に行えることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子間の距離が体外において微調整可能であることを特徴としている。
図5,図6の赤と青の線はそれぞれ発信超音波ビームの形状と受信素子の感度範囲を示し、両者が重なり合った領域が血流速の感度領域になる。送受の素子同士の相対角度と素子間距離により感度領域の広さと位置が変化する。
超音波素子間の距離が体外において微調整可能であることを特徴としている。
図5,図6の赤と青の線はそれぞれ発信超音波ビームの形状と受信素子の感度範囲を示し、両者が重なり合った領域が血流速の感度領域になる。送受の素子同士の相対角度と素子間距離により感度領域の広さと位置が変化する。
本発明の監視装置は、
超音波素子間の距離が体内において微調整可能である装置。具体的にはカテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンなどにより素子がカテーテル長軸方向に移動することを特徴としている。
超音波素子間の距離が体内において微調整可能である装置。具体的にはカテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンなどにより素子がカテーテル長軸方向に移動することを特徴としている。
本発明の監視装置は、
超音波素子2個が単軸方向に隣り合った構成であることを特徴としている。
超音波素子2個が単軸方向に隣り合った構成であることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
前記超音波素子が凸または凹形状に変形しているか、または素子上の音響レンズにより送信素子および受信素子の指向性が制御されていることを特徴としている。
前記超音波素子が凸または凹形状に変形しているか、または素子上の音響レンズにより送信素子および受信素子の指向性が制御されていることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
シャフト内腔が確保され、センサ部近位部に開口が確保されドレナージ機能などカテーテルとしての機能が確保されたことを特徴としている。
シャフト内腔が確保され、センサ部近位部に開口が確保されドレナージ機能などカテーテルとしての機能が確保されたことを特徴としている。
本発明の監視装置は、
前記開口がカテーテル壁に形成された複数の微小貫通穴と、壁が斜めに切り取られ確保された開口であることを特徴としている。
前記開口がカテーテル壁に形成された複数の微小貫通穴と、壁が斜めに切り取られ確保された開口であることを特徴としている。
本発明の監視装置は、
血流速をモニタリングする上で、短時間の血流速変化を確認するための高速度トレース表示と、長時間変異を確認するための低速度トレース表示を併用した表示装置を有することを特徴としている。
血流速をモニタリングする上で、短時間の血流速変化を確認するための高速度トレース表示と、長時間変異を確認するための低速度トレース表示を併用した表示装置を有することを特徴としている。
本発明に係る臓器虚血モニタ(監視装置)を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
本実施例では、超音波の基礎ならびに超音波を用いた一般的な血流速度の測定方法について述べる。
音波は、気体、液体、固体といった弾性体を伝搬する弾性波である。したがって、媒質のない真空中は伝搬しない。このなかで、我々人間が耳で聞くことができる周波数帯を「可聴音」と定義し、おおむね20Hz〜20kHz を指す。
超音波はそれ以上の周波数を指し、「周波数が20kHz 以上の音波、もしくは弾性振動」と、定義されている。超音波は光、電磁波、水面波を含む広い意味で波動の一種である。したがって、振幅、波長、波数、周波数、位相などの波動の物理量で記述することが可能である。超音波の挙動は光の波動性と非常に類似している。反射、屈折、回折、散乱、干渉、ドプラ効果、衝撃波など光と同様な取り扱いができ、超音波の装置に用いられている部品や素子や反射鏡、レンズ、共振器、反射防止膜など光学部品とほとんど同様のものが少なくない。一方、超音波と光の相違点はその速度の違いである。音速は光速よりも約5 桁も低く、装置、イメージングなどで使用される場合、伝搬速度は生体の場合、約1500m/s といわれている。この速度の遅さは、伝搬時間がだいたいμs〜ms オーダーである。この速度の遅さは電気的な処理がしやすい範囲であるため回路系との整合が良い。
超音波の振動モードは縦波、横波、レーリー波、ラム波の4種類に分けることができる。このうち、固体や液体の内部を伝搬する超音波のほとんどは縦波である。波動は3 次元的に伝搬し、伝搬の仕方で平面波と球面波に分けることができる。まず、平面波は、y軸方向やz軸方向には一定で、x 軸方向にのみ変化して伝搬していく波動であり、式(2.1)のように記述される。
また、空間内のある1点から空間的に広がる波動を球面波と呼び、式(2.2)のように記述される。[2.2]
平面超音波振動子から発せられる超音波の伝搬は近似的に図2.1に示すように伝搬する。超音波振動子からの距離がx0の場所までは、平面波で伝搬する。この領域をフレネルゾーンという。そしてこの領域を過ぎると指向角θをもって、球面波で伝搬していく。x0,θの値は超音波振動子が円形平面振動子の場合、式(2.3),(2.4)で表される。
血流の流れを測定するための医用超音波の代表的な手法として、赤血球を超音波の反射体として、ドプラ効果により生成するドプラ偏移周波数から血流速度を測定するドプラ法がある。
まず、ドプラ効果について説明する。まず、座標原点を周波数f0の超音波の送受信位置とする。そして、トランスデューサーに対して、図2.2 の左図の位置に反射体がある場合、送信波はそのまま反射体から反射されてくるので、受信位置で観測される波長λ0は、
一方、反射体が図2.2 の右図のようにトランスデューサーに対して近づいてくる方向に速さuで移動している場合、受信位置で観測される単位時間当たりの波の数はf0で不変だが、波の存在区間は単位時間当たりにc-2u・cosθに押しつめられているので、観測される波長λは、
このことから、受信波の周波数fは、
同様にして、反射体が角度θをもって、速さuで遠ざかっていく場合
(2.7),(2.8)より反射体が近づく場合と遠ざかる場合のドプラ偏移周波数fdはそれぞれ
と表すことができる。
次に、代表的なドプラ血流計測について述べる。
連続波ドプラ法は、送信専用の振動子から一方向の超音波の連続波を出し、受信専用の振動子により連続的に反射体から返ってくる周波数偏移をした音波を受信する。送信と受信の振動子を分けるのは、同一の振動子で送受信を行った場合、送信信号で受信回路が飽和して正常に動作できなくなってしまうためである。
連続波ドプラ法は、送信専用の振動子から一方向の超音波の連続波を出し、受信専用の振動子により連続的に反射体から返ってくる周波数偏移をした音波を受信する。送信と受信の振動子を分けるのは、同一の振動子で送受信を行った場合、送信信号で受信回路が飽和して正常に動作できなくなってしまうためである。
受信波に含まれるドプラ効果による周波数偏移を検出する方法について、図2.3 を用いて説明する。発振器で発生された単一の周波数を持つ連続波をドライバで送信振動子を駆動し、送信超音波が生体組織に向かって発射される。生体組織から反射してきた信号は受信振動子でとらえられ、プリアンプにより増幅され、ミキサ回路に入力される。ミキサからはドプラ偏移周波数と参照周波数、反射搬送波を加算した周波数が、足し合わされて出てくる。このため、不要な高周波成分と低周波成分を除去するために、低域通過フィルタと高域通過フィルタを通して、ドプラ偏移周波数のみを検出する。
パルスドプラ法とは、1つの振動子を送受信両用の振動子として用いて,パルス波を一方向において送信・受信することにより得られる情報をスペクトラム表示する方式で、送信波は図2.4のようなバースト波を用いる。パルスドプラ法の場合、送信波の周波数スペクトルはf0を中心にPRF 間隔で送信信号の周波数スペクトルが存在し、そのおのおののスペクトル周りに受信信号が存在するため、参照波信号の周波数fRはfR =f0+nPRFの条件下で自由に選択できる。
受信信号は、送信信号の周波数スペクトルのまわりに存在するため、受信信号の周波数スペクトルも分散していて、図2.5のようになる。また、移動物体の速度Vとドプラ偏移周波数の関係は式(2.16)で表される。
パルスドプラ法を用いて、血流速を測定した場合、タイムオブフライトを測定することで、距離分解能を持ち、血流速の分布を知ることができる。
血流を測定するために用いる超音波が連続波、パルス波のどちらの場合においても、周波数偏移を検出するために、受信回路でFFT をかける。FFTの中では周波数解析を行うために、受信波のフーリエ変換を行っている。(式2.17)
血流速の測定に連続波、パルス波を用いた場合、受信波はそれぞれ連続波、バースト波なので、これをフーリエ変換した例が図2.6,2.7である。この2つの図からわかるように、連続波の方がフーリエ変換後のQ値が高いため、周波数偏移を検出しやすいので、感度良く流速を測定することができる。
本実施例では超音波の伝搬、一般的に用いられている血液の流速の測定方法について述べた。本研究における測定対象の血流速が遅いため、より感度の高い血流速の測定を行う必要がある。そのため、本研究における血流速の測定方法として、連続波ドプラ法を採用する。
次に超音波センサの設計およびドレナージカテーテルへの実装について述べる。本実施例では本研究で作製するドレナージカテーテル搭載型脊髄虚血超音波センサの設計と試作について述べる。次にセンサのドレナージカテーテルへの実装について述べる。
本研究における超音波脊髄虚血センサは図3.1に示すように、前述で説明した脳脊髄液ドレナージ法で用いるドレナージカテーテルの先端に実装して用いる。この方法を用いることで、脊髄の保護を行うことと並行して、脊髄虚血が起きているかどうかをリアルタイムでモニタリングすることができる。また、MEP を測定する方法とは異なり、脊髄につながる動脈の血流のデータを測定することができるので、信頼性の高い脊髄虚血のモニタリングができることが期待できる。
本研究において、血流速の測定方法には連続波ドプラ法を用いる。前脊髄動脈の正確な流速は過去に測定されたことはないが、推定値として毎秒7.5mmと推測している。この遅い流速を感知するためには、センサには高感度が求められ、連続波ドプラ法が有効である。連続波ドプラ法で血流速の値を推定する場合、送信波の血流に対する角度情報が必要であるが、本センサの目的は、虚血の危険度として術中の血流低下をリアルタイムでモニタリングすることなので、正確な血流速値を測定する必要はない。本研究においては、術中の血流速度の値が、術前に測定した血流速度の値の1/3割以下になった時に脊髄虚血が起こっていると判断する。血流速センサを搭載したカテーテルは、脊髄の背側に挿入される場合(図3.1(a))と脊髄の腹側に挿入される場合(図3.1(b))があり、前者では、脊髄越しに血流速を測定するため、センサから血管の距離は10〜12mm、後者の場合は1〜5mmであると推測される。2つのセンサはカテーテルの長軸方向に配列されていることから、センサカテーテルと測定対象の血管が並列に並ぶと、原理上、ドプラ効果による受信波の周波数偏移を測定できない。実際に測定する際は、カテーテルのセンサ部を血管に対して、傾けて配置するか、カテーテル内に実装しているセンサを傾けて配置する。
物質を電気抵抗率で分類すると、導体、半導体、誘電体に大別することができる。そして固体についていえば、それを構成する原子や分子および結晶構造によって分類することができる。
対称中心を持った結晶で、しかも格子点に無極性分子がある場合は電気的に中性で、等方性常誘電体である。また、対称中心を欠いた結晶では、応力により双極子モーメントを誘発するいわゆる圧電性を示し、その中でも結晶構造的に自発分極を持ったものは極性結晶と呼ばれ、焦電性を示す。そして、極性結晶の中でも電界によって自発分極の向きが反転するものを強誘電体という。一般に圧電セラミックとは、この今日誘電性セラミックが分極処理されたものを指す。[3.1]
また圧電体はその結晶に力あるいは歪を加えることにより電荷を発生する圧電効果と、逆に電界を加えると力や歪が発生する逆圧電効果を持つ。
圧電セラミックスの歴史は、強誘電性が明らかにされたチタン酸バリウム磁器に高い直流バイアスを加えると圧電効果を示し、バイアスを取り去った後もこの効果が存続することが見出されたことに端を発する。圧電セラミックスは任意の大きさ、形状に焼成、加工することが容易であり、組成の変成や添加物の制御により、種々の特性のものが得られ、かつ、価格も安く、単結晶圧電材料よりも広範囲の応用に適しているため、その実用化応用が盛んに行われた。
1955 年にPbZrO3-PbTiO3 系固溶体セラミックスが組成による相境界近傍の組成で、チタン酸バリウムセラミックスの電気機械結合係数(式3.1)の2倍近い値を有することが発見され、PZT という商品名で広く用いられるようになった。
現在に至ってもPZTが最も広く用いられている圧電材料である理由として、PZTの電気機械結合係数が大きいのみならず、加工がしやすく、高結合、安定温度域が広いことが挙げられる。また、PZTの基本格子は図3.3のようなペロブスカイト構造を有している。
圧電単結晶の歴史は、1980年にJacque and Pierre Curieによる水晶の圧電性の発見に端を発する。水晶をはじめとする圧電単結晶は高い再現性があり、経時変化も小さい。またセラミックスや多結晶のような粒構造がないため、高周波で超音波減衰が小さい。しかし、温度安定領域の広さや電気機械結合係数、価格などの点で他の圧電材料に劣る場合がある。
PZT に代わる高い電気機械結合係数を持つ材料の開発が行われ、リラクサーと呼ばれる鉛系化合物とチタン酸鉛(PbTiO3)を配合した全率固溶体単結晶が開発された。
リラクサー、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)の三元系相図を図3.4[3.4]に示す。ジルコン酸鉛とチタン酸鉛固溶体の中間組成部とリラクサー(Pb(B1,B2)O3)とチタン酸鉛固溶体の中間組成部にそれぞれモルフォトロビック相境界(MPB)と呼ばれる領域があり、その組成近傍で、圧電・誘電特性が大きいことが知られている。これらの全固溶体の基本格子であるペロブスカイト格子を図3.5[3.4]に示す。
これらのリラクサー+チタン酸鉛全固溶体のうち、チタン酸鉛とPb(Mg1/3,Nb2/3)の全固溶体がPMN-PTである。これは、図3.4の相図でいうと、右辺上のMPB-IIに存在する。
PMN-PT の相転移図を図3.6[3.5]に示す。このグラフの斜線部において、PMN-PTは単結晶構造を有している。図3.6の相転移図から、PMN-PTは温度上昇による相転移は2 回生じることがわかる。なお、PZT などの圧電セラミックスはキューリー点より高い温度になると圧電性を失い、相転移は1 回である。PMN-PTの圧電性は最初の相転移温度を越えると劣化が始まり、キューリー点を越えると完全に失う。
PMN-PT の諸圧電特性を表3.1[3.6]に示す。比較のためにPZTの値も示す。この表から、PMN-PT は電気機械結合係数が大きいことがわかる。またPMN-PTは単結晶なので経時変化も少ないそれに対して、相転移温度、キューリー温度が低いため、使用温度範囲が狭いという欠点もある。
PMN-PTを超音波振動子として用いた場合、電気機械結合係数が大きいことから、PZTよりも高感度・高出力を実現することができる。
本研究において、測定する血液の流速が遅いため、送信、受信に用いる振動子は、高出力・高感度である必要がある。そのため、振動子の材料にPMN-PTを用いる。
表3.1 PZTとPMN-PTの比較
本研究では、連続波ドプラ法で脊髄を栄養する血管の流速を測定する。そのため、超音波センサは1つのカテーテルにつき、送信用と受信用の2つを作製する必要がある。この2つのセンサは同じものを用い、回路側で送信用と受信用に分ける。沿う乳児に、ある程度カテーテルの先端が曲がる必要があるので、2つのセンサを話して配置する。
連続波ドプラ法を用いて、血流速を測定する場合、送信周波数が大きいほど、受信波の周波数偏移が大きくなるため、感度良く血流速を測定することができる。送信波の周波数を高くすると組織内を伝搬する際の減衰率が大きくなることから検出距離が短くなってしまう。そこで、本研究ではこのトレードオフを踏まえ、超音波振動子の中心周波数が20MHz になるように設計した。本実施例では作製した超音波センサ素子について述べる。
本研究において、1次試作で作製したセンサの構造を図3.7 に示す。超音波振動子であるPMN-PTをシリコン基板上に接着する。また超音波振動子の上部電極と下部電極を同一平面上に設けている。同一平面上に設けることで、同軸ケーブルの内部導体と外部導体と超音波振動子の上部電極と下部電極をつなぐことが容易となる。1つのセンサの寸法はドレナージカテーテルの内径が0.9mmなので、これに入るような大きさということで、0.8mm×1.5mm(図3.7)にした。また1次試作においては、上部電極と下部電極を絶縁するために、エポキシ樹脂(アラルダイト)を用いた。また、超音波振動子の中心周波数が20MHz になるように、PMN-PT の膜厚を90μmとする。
1次試作では、上部電極と下部電極の絶縁層の材料として、エポキシ樹脂を用いたが、これの塗布を手作業で行っていた。2次試作では、絶縁層の材料を感光性ポリイミドのフォトニース(東レ DL1000)とし、スピンコートを用いて塗布し、フォトリソグラフィーを用いることで、パターニングを行った。2次試作におけるセンサの構造を図3.8 に示す。
1 次試作における作製プロセスフローを図3.9に示す。
(1)300μm 厚、20mm×20mm 角のSi 基盤の表面を熱酸化炉で熱酸化させ、SiO2膜を成膜する。
(2)20mm×20mm 角の基盤を10mm×10mm 角にダイシングする。
(3)SiO2上に超音波振動子の下部電極となるAu(600nm)/Cr(90nm)を片面だけ、スパッタリングにより、成膜した。成膜条件を表3.2に示す。
(4)(3)で作製したサンプルのAu/Cr側の面上に、導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いて、両面にAu/Cr 電極の付いている5×5mmのPMN-PT板を接合した。接合にはフリップチップボンダーを用いた。
(5)PMN-PTが、中心周波数20MHzの厚みモード共振をするように、PMN-PT を90μmまで研磨で薄くする。研磨条件を表3.3に示す。
(6)エポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社アラルダイト)を細い導線を用いて、図3.10のように、手塗りで塗布した。
(7)ポリイミドテープを図3.11のように貼った。これは(8)で超音波振動子の上部電極となるAu/Cr が下部電極となる基板上のAu/Crと導通しないようにするためである。
(8)超音波振動子の上部電極となるAu/Crをスパッタリングにより成膜する。成膜は(3)と同じ条件で行った。
(9)(8)で上部電極と下部電極の導通を防ぐために貼ったポリイミドテープをはがす。
(10)作製したサンプルから図4.1で示した超音波センサ素子をダイシングにより切り出す。実際に作製したセンサ素子を図4.5に示す。
(1)300μm 厚、20mm×20mm 角のSi 基盤の表面を熱酸化炉で熱酸化させ、SiO2膜を成膜する。
(2)20mm×20mm 角の基盤を10mm×10mm 角にダイシングする。
(3)SiO2上に超音波振動子の下部電極となるAu(600nm)/Cr(90nm)を片面だけ、スパッタリングにより、成膜した。成膜条件を表3.2に示す。
(4)(3)で作製したサンプルのAu/Cr側の面上に、導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いて、両面にAu/Cr 電極の付いている5×5mmのPMN-PT板を接合した。接合にはフリップチップボンダーを用いた。
(5)PMN-PTが、中心周波数20MHzの厚みモード共振をするように、PMN-PT を90μmまで研磨で薄くする。研磨条件を表3.3に示す。
(6)エポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社アラルダイト)を細い導線を用いて、図3.10のように、手塗りで塗布した。
(7)ポリイミドテープを図3.11のように貼った。これは(8)で超音波振動子の上部電極となるAu/Cr が下部電極となる基板上のAu/Crと導通しないようにするためである。
(8)超音波振動子の上部電極となるAu/Crをスパッタリングにより成膜する。成膜は(3)と同じ条件で行った。
(9)(8)で上部電極と下部電極の導通を防ぐために貼ったポリイミドテープをはがす。
(10)作製したサンプルから図4.1で示した超音波センサ素子をダイシングにより切り出す。実際に作製したセンサ素子を図4.5に示す。
表3.2 Au/Crの成膜条件
表3.3 研磨条件
1次試作との変更点は、絶縁層の材料をエポキシ樹脂からフォトニースに変更したことである。作製プロセスは、図3.9 の(6)を変更したのみで、他の作製プロセスに変更はない。変更したプロセスのみを、図3.13 に示す。さらに実際に作製したセンサ素子を図3.14 に示す。
フォトリソグラフィーを用いて、フォトニースのパターニングを行った。プロセス条件を表3.4 に示す。
表3.4 フォトニースのパターニング条件
上記の条件でパターニングを行ったところ、図3.15 のように絶縁層として必要な場所にフォトニースをパターニングすることができた。
本研究では2個の超音波センサをドレナージカテーテルに実装する。ドレナージカテーテル(カネカメディックス シラスコン(登録商標)スパイナルドレナージ)を図3.16 に示す。カテーテルの先端には脳脊髄液を吸入するための側孔(φ550μm)が、らせん状に8個ある。
超音波センサを実装しても、カテーテルの脳脊髄液のドレナージ機能を保つためには、超音波センサの配線に用いる同軸ケーブルは、できるだけ細いものを用いる必要がある。なぜなら、カテーテルの内腔がせまくなると、その分脳脊髄液の排出量が減少してしまうからである。そこで、本研究では、同軸ケーブルの中で比較的細いAWG52(φ135μm)の同軸ケーブル(潤工社)を用いる。この同軸ケーブルはテフロン(登録商標)樹脂でコーティングされているので、生体適合性があると考えられる。
カテーテルの後方に、図3.17に示すY コネクター(グッドマン グッドテックY コネクター)を図3.18に示す翼付コネクターを用いて接続し、配線の取り出し口と脳脊髄液の排出口を確保する。Yコネクターから取り出した2 本の同軸ケーブルは、図3.19に示すパッド上で、φ850μmに強度保障のために、置き換える。
超音波素子をカテーテルに実装する際、センサをアクリル樹脂またはテフロン(登録商標)樹脂製の土台に接着し、図3.20 のように加工を施す。この加工の際、カテーテルの先端の側孔が付いている部分を、除去するので、ドレナージ機能を保つために、カテーテルのセンサ実装部より後方のところに、側孔を設ける。そして、2 つのセンサをカテーテルに実装する。2つのセンサ部の土台は比較的柔軟に曲がるので、実用の際に、挿入が容易になる。デバイスの全体構成は図3.21 のようになる。
本実施例では、作製した超音波センサ素子のドレナージカテーテルへの実装プロセスについて述べる。実装プロセスは、1次試作、2次試作ともに、同じ方法で行う。
次に実装プロセスを、図3.22に示す。
次に実装プロセスを、図3.22に示す。
(1)ドレナージカテーテルの先端を切断する。さらに、超音波センサ用の窓開けのために、メスを用いて、長軸方向に約10mm,短軸方向に約0.9mm の深さの切込みを入れる。ドレナージ機能用の側孔をφ600μm のポンチを用いて側孔を12 個開ける。またこの側孔は2 次試作のサンプルにはあるが、1 次試作のものにはない。
(2)2本の同軸ケーブル(AWG52,φ135μm)をカテーテルに通す。
(3)同軸ケーブル(AWG52,φ135μm)の被覆除去を、図3.23 にある寸法で行う。
(4)導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いて、センサの配付けを行う。
(5)センサから配線付けをした同軸ケーブルは、細くて、切れやすいので、強度保障のために、パッドを用いて、太い同軸ケーブル(φ850μm)に置き換える。パッドと同軸ケーブルの導通には、導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いる。
(6)硬化後の導電接着剤はもろく、壊れやすいので、シーリングすることによる強度保障を行う。シーリング材は、センサ部にはシリコーンゴム(信越シリコーンKE45-T)を、パッド部にはエポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社 アラルダイト)を用いる。
(7)図3.24 に示すような土台に、瞬間接着剤(セメダイン セメダインPPX)を用いてセンサを接着する。また土台の材料として、センサの1次試作ではアクリル樹脂、2 次試作ではテフロン(登録商標)樹脂を用いた。
(8)センサと土台の表面に、パリレン(第三化成 dixC)を成膜する。パリレンは、生体親和性、耐薬品性、絶縁性、撥水性、熱安定性に優れた材料である。ここでは、脳脊髄液中で使用するセンサの周りからの絶縁と、生体適合性を持たせることを目的とする。パリレンは、化学気相成長により成膜できるポリマーである。図3.25[4.1]パリレン成膜の概略を示す。粉末状のパリレンは二量体であり、加熱することにより気化し600℃以上の高温加熱により単量体となる。単量体のパリレンは、基板上で高分子構造となり膜が形成される。
(9)土台とカテーテルを(7)で使用したものと同じ瞬間接着剤(セメダイン社 セメダインPPX)で接着する。
(10)作製プロセス内のスパッタリングなどにおいて、PMN-PT の相転移点、キュリー点を数回にわたって越えてしまっているので、結晶内での自発分極の揃ったドメインが様々な方向に分極方向を変化させてしまい、PMN-PT の圧電性は消失してしまったと考えられる。そこで、圧電性を回復させるために再分極処理を行った。
(2)2本の同軸ケーブル(AWG52,φ135μm)をカテーテルに通す。
(3)同軸ケーブル(AWG52,φ135μm)の被覆除去を、図3.23 にある寸法で行う。
(4)導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いて、センサの配付けを行う。
(5)センサから配線付けをした同軸ケーブルは、細くて、切れやすいので、強度保障のために、パッドを用いて、太い同軸ケーブル(φ850μm)に置き換える。パッドと同軸ケーブルの導通には、導電性接着剤(EPOTEK H20E)を用いる。
(6)硬化後の導電接着剤はもろく、壊れやすいので、シーリングすることによる強度保障を行う。シーリング材は、センサ部にはシリコーンゴム(信越シリコーンKE45-T)を、パッド部にはエポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社 アラルダイト)を用いる。
(7)図3.24 に示すような土台に、瞬間接着剤(セメダイン セメダインPPX)を用いてセンサを接着する。また土台の材料として、センサの1次試作ではアクリル樹脂、2 次試作ではテフロン(登録商標)樹脂を用いた。
(8)センサと土台の表面に、パリレン(第三化成 dixC)を成膜する。パリレンは、生体親和性、耐薬品性、絶縁性、撥水性、熱安定性に優れた材料である。ここでは、脳脊髄液中で使用するセンサの周りからの絶縁と、生体適合性を持たせることを目的とする。パリレンは、化学気相成長により成膜できるポリマーである。図3.25[4.1]パリレン成膜の概略を示す。粉末状のパリレンは二量体であり、加熱することにより気化し600℃以上の高温加熱により単量体となる。単量体のパリレンは、基板上で高分子構造となり膜が形成される。
(9)土台とカテーテルを(7)で使用したものと同じ瞬間接着剤(セメダイン社 セメダインPPX)で接着する。
(10)作製プロセス内のスパッタリングなどにおいて、PMN-PT の相転移点、キュリー点を数回にわたって越えてしまっているので、結晶内での自発分極の揃ったドメインが様々な方向に分極方向を変化させてしまい、PMN-PT の圧電性は消失してしまったと考えられる。そこで、圧電性を回復させるために再分極処理を行った。
分極の条件について図3.26 に示す。印加電界は1500 V/mmで実際に印加した電圧は150 Vである。過電流を防止するために1 MΩの抵抗を直列に接続している。作製したデバイスの全体図を1 次試作のものを図3.27 に、2 次試作のものを図3.28に示す。
本実施例では、胸腹部動脈瘤手術中に、リアルタイムで脊髄虚血のモニタリングを行うための設計という指針で、超音波振動子の選択、超音波センサの構造、超音波センサの実装の設計、そして超音波センサの作製プロセス、実装プロセスについて述べた。
本実施例では、前述した実施例で作製したセンサカテーテルの特性評価の結果について述べる。評価項目としてはドレナージ機能の評価、インピーダンス特性、超音波強度、ビームプロファイル、血管ファントムを用いた流速測定を行った。
超音波センサを実装したカテーテルの本来の目的は、脳脊髄液を体外に排出するドレナージ機能である。センサを実装したことにより、カテーテルのドレナージ機能が十分にあるかを評価する。
ドレナージカテーテルは手術の前の日に挿入する。そして、カテーテルの両端に高低差をつけることで、脳脊髄液を体外に排出する。排出量は多い人で、24 時間で350mlの脳脊髄液が排出される。
本実施例では、作製したデバイスのドレナージ機能の評価の方法とその結果について述べる。ドレナージ機能を評価するための実験装置を図4.1 に示す。脳脊髄液は水とほぼ同じ粘性を持つので、ドレナージカテーテルで排出する液体として水を用いる。また、術前にドレナージカテーテルで脳脊髄液を排出するとき、カテーテルの両端の高低差とほぼ同じ、15cm の落差をつけて、ビーカー内の水を試験管に排出する。その試験管にある目盛を読むことで、水の排出量を測定する。
測定を行うサンプルは、作製したデバイス、そして対照実験として何も加工を行っていないドレナージカテーテルである。測定時間は2 分で、それぞれのサンプルについて、5 回の測定を行う。そのデータを基にして、作製したデバイスのドレナージ機能が十分なものであるかどうかを評価する。
作製したデバイスのドレナージ機能の評価の結果について述べる。実験結果を表4.1 に示す。対照実験の結果と作製したデバイスの結果を比較すると、作製したデバイスのドレナージ機能は、ドレナージカテーテルのものより低いことがわかる。1 次試作と2 次試作のデバイスを比較すると、2 次試作のデバイスの方が、高いドレナージ機能が高いことがわかる。これは、前述した説明で述べた、センサ部後方に設けた側孔により、ドレナージ機能が向上したことによるものであると考えられる。
また、脳脊髄液の排出量は多い人で、24 時間で350ml排出され、この量はだ2分間あたりの量に換算すると、0.24mlであり、1次試作、2次試作で作製したデバイスのドレナージ機能は、十分なものであることがいえる
表4.1ドレナージ試験の結果
作製した超音波センサの周波数特性を測定した。測定にはインピーダンスアナライザー(E4991A, Agilent technology, Inc.)を使用した測定する際、配線による影響をキャンセルするために、図4.2 に示すように先端をショートさせ、実センサと同様の長さが1.5m の同軸ケーブル(AWG52,φ135μm)、パッド、太い同軸ケーブル(φ850μm)を接続して、インピーダンスアナライザーのキャリブレーションを行った。
一般的に振動子は共振点近傍では図4.3 の示すような等価回路で表される。等価回路のそれぞれの受動素子はそれぞれ以下のような意味を持っている。
1 次試作で作製したデバイスの周波数特性の測定結果を図4.4 に示す。図4.4 の測定結果から、作製したデバイスの共振周波数は15.9MHz、反共振周波数が18.5MHz であることがわかった。2 つのセンサ素子ともに、ほぼ同じ共振周波数であった。設計値では共振周波数が20MHz になるように、膜厚の設定を行ったが、実際の共振周波数の値は設計値より低い値となった。これは、研磨による膜厚加工の際、設計値よりも膜厚が厚くなってしまったことが原因であることが考えられる。
2 次試作で作製したデバイスの周波数特性を図4.5 に示す。図4.5 の結果から、作製したデバイスの共振周波数の共振周波数が24.6MHz、反共振周波数が27.3MHz であることがわかった。2つのセンサのうち1 つからは図5.4のような周波数特性を得ることができたが、片方はショートしていたため、センサの周波数特性を測定することができなかった。
作製した超音波素子の送信性能を評価するために超音波の音場の測定を行った。音圧測定にはPVDFハイドロホン(MH28-4, Force Technology, Denmark)を用いて図4.6 のような実験装置を組んだ。作製した超音波センサとHydrophone との距離を変えて、送信波の音圧特性を測定した。なお、振動子を駆動するパルサーにはPanametric社製Model5900PRを用い、デジタルオシロスコープには横川電機(株)製DL2700を用いた。
今回の測定では前記実施例で作製した振動子からの超音波の拡がり方を測定した。まず、音圧の分布を測定するために、原点を設定した。今回の実験では振動子からの距離が3mm の場所の中で最も強い音圧を測定することのできた位置を原点とした。そして、x軸とy軸をそれぞれ動かして、原点の音圧の1/2 の位置を記録する。その後z軸を移動させて、同様にして測定を行った(図4.7)。
ある大きさの平面振動子から発せられた超音波はある一定の長さでほぼ平面波のように、直進する。この領域をフレネルゾーンと呼ぶ。フレネルゾーンを超えると、球面波となり、広がって伝搬する。この領域をフラウンホーファーゾーンと呼ぶ。前述した実施例で示した音場の広がり方についてフレネルゾーンの距離、フラウンホーファーゾーンにおける音波の広がり角について、図4.8、式(4.1),(4.2)に示す。
1次試作で作製したデバイスの音圧分布特性の測定結果を図4.9に示す。フレネルゾーンとフランホーファーゾーンの境界の位置はそれぞれ、
X-Z 平面のx0(素子長0.8mm):Z=2.1mm
Y-Z 平面のx0 (素子長1.5mm):Z=7.5mm
である。式(4.1)(4.2)を基にした、音波の広がり方を図4.9 のグラフ上の点線で示す。
X-Z 平面のx0(素子長0.8mm):Z=2.1mm
Y-Z 平面のx0 (素子長1.5mm):Z=7.5mm
である。式(4.1)(4.2)を基にした、音波の広がり方を図4.9 のグラフ上の点線で示す。
この結果より、今回作製したデバイスの振動子から発せられる超音波ビームは、理論値に近い広がり方をしていることがわかる。
本研究で作製したデバイスを用いて、血管ファントム内における液体の流速測定を行った。血管ファントムは寒天の中に、疑似血液を流す流路がある構造のものを作製する。測定対象となる血管とセンサの距離は図4.10 に示すように、ドレナージカテーテルの先端が腹側、背側にあるときで異なった距離をとる。また、この測定対象となる血管の内径は約1.0mm である。今回はやや大きくなるが、血管ファントムに設ける流路を以下の4 種類とした。
・直径:1.4mm,表面からの距離:2mm ・・・4.5.1(a)
・直径:3.0mm,表面からの距離:2mm ・・・4.5.1(b)
・直径:1.4mm,表面からの距離:15mm ・・・4.5.1(c)
・直径:3.0mm,表面からの距離:15mm ・・・4.5.1(d)
・直径:1.4mm,表面からの距離:2mm ・・・4.5.1(a)
・直径:3.0mm,表面からの距離:2mm ・・・4.5.1(b)
・直径:1.4mm,表面からの距離:15mm ・・・4.5.1(c)
・直径:3.0mm,表面からの距離:15mm ・・・4.5.1(d)
上記の流路を持つ図4.11 のような血管ファントムを作製するために、図4.12 に示す型を用いた。血管ファントムを作製する手順を以下に示す。
(1)純水に寒天を溶かす(寒天:30g,水:1200ml)
(2)90℃になるまで加熱する
(3)大きめの容器に入れ、デシケータ内で真空脱泡をする
(4)型に入れ、再びデシケータ内で真空脱泡をする
(5)冷蔵庫で1 日かけて固める
(2)90℃になるまで加熱する
(3)大きめの容器に入れ、デシケータ内で真空脱泡をする
(4)型に入れ、再びデシケータ内で真空脱泡をする
(5)冷蔵庫で1 日かけて固める
作製した血管ファントムを図4.13に示す。上記の血管ファントムと作製したデバイスを用いて、流速測定を行う。
流速測定を行うために、図4.14に示す実験装置を組んだ。流路には送受信用の回路で作製したデバイスの一方の振動子を駆動させ、流路に流す疑似血液として、ドプラテスト液(ATS 社 Model707)を用いた。ドプラテスト液の特性表を表4.2 に示す。このドプラテスト液は、血液とほぼ同じ粘性、音速を持った液体内に、超音波の反射体となる粒径がφ30μm のポリマーの粒子を混ぜた液体である。ヒトの赤血球の大きさが約7-8μm なので、実際の血液よりも超音波を反射しやすい。
送受信回路では、図4.15 に示す回路を用いてドプラ効果による周波数偏移を計算する。得られた受信波の周波数偏移音の高さで表し、受信波の信号強度を音量として表す。同時に、PC に受信波の周波数偏移量と受信波の信号強度を送信する。PC では、縦軸を周波数、横軸を受信波の信号強度としたヒストグラムを表示する。
実験手順について述べる。まず、流路には最も強い信号強度が得られると考えられるφ3.0mm,深さ2mm の流路を用いる。前述したように、本デバイスから発せられる送信波のフレネルゾーンは7.5mm なので、深さ2mm の流路に対して、超音波振動子を流路に対して水平に置いた場合、送信ビームと受信領域が重ならない。そこで、今回は図4.16 のように、送信用と受信用の振動子が互いに20°の角度で向き合うように傾けた。このデバイスのセンサ部を図4.17 に示すステージで、センサ部の寒天の表面からの距離、寒天の表面に対してなす角を制御した。
表4.2 ドプラテスト液の特性表
まず、作製したデバイスと送受信回路をつなぎ、スピーカーに送られる信号をオシロスコープで測定した。デバイスのセンサ部の表面に直接、ドプラテスト液をあてたとき、スピーカーに送られている信号をオシロスコープで測定したものを、図4.18に示す。図4.18 におけるオシロスコープの画面の縦軸と横軸はそれぞれ、電圧、時間を表している。図4.18 から、ドプラテスト液の流速変化を受信しているときは、スピーカーの出力信号の周波数が変化していることが観察され、スピーカーからの発音も確認し、本構成で、流速変化を受信可能であることが確認できた。
次にシリンジを用いて流路にドプラテスト液を流し、実際に受信波の周波数偏移を検出できるかを評価した。まず、デバイスのセンサ部を図4.19 のようにセットした。そして、シリンジから流路に速い流速のドプラテスト液の流れを作ったときと、シリンジで流路に泡を多く含んだドプラテスト液を流したときの測定を行う。これらの場合について、前述した実施例で作製した血管ファントムの4つの流路を用いて、測定を行った。
シリンジから流路に、ドプラテスト液の速い流速の流れを作ったときの測定を行ったところ、4.5.1(a)〜(d)すべての流路において、送受信回路のスピーカーから音は聞こえず、スピーカーに送られている信号をオシロスコープで測定したが、図4.18のような出力信号は見られなかった。またPC 上におけるヒストグラムにも変化は見られなかった。
シリンジから流路に、泡を多く含んだドプラテスト液を速く流したときの測定を行ったところ、4.5.1(a),(c),(d)については、前述のものと同じ結果だったが、4.5.1(b)については、送受信回路のスピーカーから、音が発せられた。しかし、スピーカーに送られている信号をオシロスコープで測定したが、図4.18のような出力信号は見られなかった。またPC 上におけるヒストグラムは図4.20 に示すように、周波数偏移を検出できていることがわかった。
血管ファントムを用い内径1.4mm の流路においてドプラ効果による周波数変移を計測できなかった。この原因として、以下の3つが考えられる。
(1)測定対象とする流路径が細く、かつ流速が充分に速くなかったためドプラ信号強度が小さい。
(2)送信用振動子からの送信波信号強度が小さい。
(3)送信用振動子と受信用振動子の配置、およびこれら振動子と計測対象との距離と角度が最適化されていない。
(2)送信用振動子からの送信波信号強度が小さい。
(3)送信用振動子と受信用振動子の配置、およびこれら振動子と計測対象との距離と角度が最適化されていない。
この対策として、(1)に対して、回路を改良し受信信号増幅率を向上させることが考えられ、(2)に対しては送信用振動子の駆動電圧を上げることが有効と考えられる。また、送信用振動子と受信用振動子それぞれに音響整合層を追加することで、送信信号強度および受信感度を大きく向上できると期待される。また、(3)に対しては、送信用振動子と受信用振動子の距離(それぞれの素子の中心間距離)を現在の3.6mm から更に短くする必要がある。さらに、前述したように、平面波として直進する距離が振動子の長軸方向1.5mm に対して7.5mm と長いことから、短い距離でも計測できるように超音波ビーム形状を改善することが有効と考えられる。これには、例えば音響レンズを用いる方法、素子形状を変えることなどが役立つと期待される。
本研究で作製したデバイスの安全性について、機械的安全性と化学的安全性の2点から述べる。
機械的安全性について、今回作製したデバイスのセンサの土台として1 次試作ではアクリル樹脂、2 次試作ではテフロン(登録商標)樹脂を用いた。両方とも土台単体の場合はフレキシブルだが、カテーテルに実装する際、瞬間接着剤(セメダイン社 セメダインPPX)で接着するため、硬化した接着剤によって土台の部分が硬くなって屈曲しにくくなっている。また、本実施例で信号強度を高くするためには、2つのセンサの素子間距離を短くする必要があると述べたが、デバイスのセンサ部を屈曲しやすくして、機械的安全性を得るためには、2つのセンサの素子間距離を長くとったほうがよい。
今後、機械的安全性と信号強度をバランスよく得られる2つのセンサの素子間距離を検討する必要があると考えられる。
化学的安全性について、デバイスのセンサ部の表面は、パリレンを成膜することによって、生体適合性を得ている。しかし、センサ部とカテーテルの接着は、パリレン成膜後に行っており、この接着に用いている瞬間接着剤 (セメダイン社 セメダインPPX)には、生体適合性はない。また、センサ部とカテーテルの接着後に、パリレンを成膜した場合、パリレンがカテーテル表面にも成膜されてしまい、術中にパリレンがカテーテルから、剥離してしまう可能性が考えられる。
今後、デバイスの化学的な生体適合性を得るために、センサ部とカテーテルのほかの接着方法の検討、パリレンとカテーテルの材質であるパリレンの密着性の評価を行う必要があると考えられる。
今回作製した1 次試作のデバイスを用いて、血管ファントムを用いて流速測定を行い、周波数偏移を検出できることを確認した。実際の現場で術中計測するためには、信号強度が弱いことの対策が必要であり、さらに安全に用いるための機械的、化学的および電気的安全性について今後考慮する必要がある。
本実施例では、大動脈瘤の手術方法について紹介し、胸腹部大動脈瘤手術において脊髄保護の必要があることを述べた。そして、現行における脊髄保護の方法を示した。また、現行において、脊髄虚血が起きているかどうかを評価するシステムとして用いられている、MEP の測定によるについて述べ、この方法は、虚血現象の間接評価であるため、精度が低いなどの問題点があることを述べた。本研究では、脊髄虚血を直接的に定量評価するシステムとして、カテーテルにマイクロセンサを実装し、直接的に脊髄を栄養する血管の血流速を測定し、術中にリアルタイムで脊髄虚血をモニタリングできる新たなシステムを開発することを目的とすることを述べた。本実施例では、超音波についての基本的な概念について述べた。次に、超音波を用いて血流速を測定する方法として、連続波ドプラ法、パルスドプラ法について述べた。本研究で用いる血流速の測定方法として、連続波ドプラ法を用いる。受信信号のフーリエ変換を行い、周波数解析を行う際、連続波ドプラ法の信号の方が、Q 値が高いため、周波数偏移を取り出しやすく、感度よく血流速の測定を行うことができるためである。
本実施例では、術中にリアルタイムで脊髄虚血をモニタリングためのドレナージカテーテル搭載型脊髄虚血超音波センサの測定原理、そして、センサの設計と作製、さらにセンサのカテーテルへの実装方法について述べた。作製プロセスを通して、1枚の圧電単結晶(5mm×5mm)から一括作製により1 回のプロセスで8個のセンサ素子を作製できた。作製したセンサ素子をカテーテルに実装した。
本実施例では、作製したデバイスの評価を行った。評価項目はドレナージ機能の評価、インピーダンス特性、超音波強度、ビームプロファイル、血管ファントムを用いた流速測定である。血管ファントムを用いた流速測定においては、脊髄を栄養する血管の流量の低下を検出するために必要な感度を持っていないことが示された。今後、センサの感度を向上させるために2つのセンサの配置する寸法の改善、送信用振動子の駆動電圧の増大が必要である。
体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視する装置。
臓器虚血として大動脈瘤治療の際に人工血管へ置換する手術の際に生じる危険のある脊髄虚血、腎臓や肝臓など移植臓器の術後循環不全などがあるが、血行不全(虚血)を早期に検出することで虚血による臓器の不可逆的なダメージを防止することができる。
センサを搭載したカテーテルは脊髄虚血監視の際は脊髄腔に留置され、移植臓器の循環不全監視の際は腹腔などを経由して挿入され臓器表面付近に留置されるか、または血管や尿管などを経由して臓器内部に挿入、留置される。
超音波素子がカテーテル先端部近傍の内腔に配置され、先端センサ部がカテーテルシャフトと同等の外径であり、人体への挿入性と抜去性を保っていることを特徴とする装置。
センサ部は超音波素子が少なくとも2個以上で構成され、超音波ドプラ法にて赤血球の移動を計測することで虚血を監視することを特徴とする装置。
超音波素子が圧電特性に優れたPZTまたはPMN-PTで構成されていることを特徴とする装置。
超音波素子同士のなす相対角度が100〜180°であり、ドプラ計測における超音波送受が最適化された装置
超音波素子同士の相対角度が体外において微調整可能である装置(図5)。
超音波素子同士の相対角度が体内において微調整可能である装置(図5)。具体的にはカテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンにより素子が傾くことを特徴とする装置。
外径3mm以下のカテーテルにおいて超音波素子間の距離が0.5mm〜3.0mmであり、素子間が可撓性を有し人体への挿入性が保たれるとともに、超音波の送受が有効に行えることを特徴とする装置。
超音波素子間の距離が体外において微調整可能である装置(図6)。
図5,図6の赤と青の線はそれぞれ発信超音波ビームの形状と受信素子の感度範囲を示し、両者が重なり合った領域が血流速の感度領域になる。送受の素子同士の相対角度と素子間距離により感度領域の広さと位置が変化する。
超音波素子間の距離が体内において微調整可能である装置。具体的にはカテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンなどにより素子がカテーテル長軸方向に移動することを特徴とする装置(図6)
超音波素子2個が単軸方向に隣り合った構成である装置(図7)。
上記超音波素子が凸または凹形状に変形しているか、または素子上の音響レンズ(図8)により送信素子および受信素子の指向性が制御されていることを特徴とする装置。
シャフト内腔が確保され、センサ部近位部に開口が確保されドレナージ機能などカテーテルとしての機能が確保されたことを特徴とする装置。
上記開口がカテーテル壁に形成された複数の微小貫通穴と、壁が斜めに切り取られ確保された開口であることを特徴とする装置。
血流速をモニタリングする上で、短時間の血流速変化を確認するための高速度トレース表示と、長時間変異を確認するための低速度トレース表示を併用した表示装置を有することを特徴とする装置。
Claims (15)
- 体内に挿入、留置されるカテーテルチューブにおいて、カテーテル先端に搭載されたドプラ超音波血流速センサにより臓器虚血を監視することを特徴とする監視装置。
- 超音波素子がカテーテル先端部近傍の内腔に配置され、先端センサ部がカテーテルシャフトと同等の外径であり、人体への挿入性と抜去性を保っていることを特徴とする請求項1に記載の監視装置。
- センサ部は超音波素子が少なくとも2個以上で構成され、超音波ドプラ法にて赤血球の移動を計測することで虚血を監視することを特徴とする請求項1または2に記載の監視装置。
- 超音波素子が圧電特性に優れたPZTまたはPMN-PTで構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子同士のなす相対角度が100〜180°であり、ドプラ計測における超音波送受が最適化されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子同士の相対角度が体外において微調整可能であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子同士の相対角度が体内において微調整可能であり、カテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンにより素子が傾くことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の監視装置。
- 外径3mm以下のカテーテルにおいて超音波素子間の距離が0.5mm〜3.0mmであり、素子間が可撓性を有し人体への挿入性が保たれるとともに、超音波の送受が有効に行えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子間の距離が体外において微調整可能であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子間の距離が体内において微調整可能である装置。具体的にはカテーテルシャフト内に挿入されたワイヤーまたはセンサ部付近に搭載された微小バルーンなどにより素子がカテーテル長軸方向に移動することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の監視装置。
- 超音波素子2個が単軸方向に隣り合った構成であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の監視装置。
- 前記超音波素子が凸または凹形状に変形しているか、または素子上の音響レンズにより送信素子および受信素子の指向性が制御されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の監視装置。
- シャフト内腔が確保され、センサ部近位部に開口が確保されドレナージ機能などカテーテルとしての機能が確保されたことを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の監視装置。
- 前記開口がカテーテル壁に形成された複数の微小貫通穴と、壁が斜めに切り取られ確保された開口であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の監視装置。
- 血流速をモニタリングする上で、短時間の血流速変化を確認するための高速度トレース表示と、長時間変異を確認するための低速度トレース表示を併用した表示装置を有することを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の監視装置。
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