JP2010275256A - Cd36発現性結合組織鞘細胞を含有する毛包を再生するための組成物 - Google Patents

Cd36発現性結合組織鞘細胞を含有する毛包を再生するための組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】新規の毛包再生系を提供。
【解決手段】CD36発現性結合組織鞘細胞(DSc)を含有する、毛包を再生するための組成物。
【選択図】図6

Description

本発明は毛包を再生するための、CD36抗原(トロンボスポンジン受容体)を発現をする結合組織鞘(「DS」:dermal sheath)細胞(以下、「CD発現性DSc」ともいう)及び任意的に毛乳頭(「DP」:dermal papilla)細胞(以下、「DPc」ともいう)を含有する組成物、それを用いて毛包を再生する方法、さらにはそのような方法により再生された毛包を担持する動物又は3次元皮膚モデルを提供する。
毛髪は美的外観上極めて重要視される。従って、先天的又は後天的要因による脱毛は多くの人々にとって深刻な悩みである。特に高齢化社会、ストレス社会といわれる現代社会では、頭部毛髪が様々な後天的な原因により、脱毛の危機にさらされる機会がますます多くなってきている。これに対応して、発毛や毛髪の太毛化の促進を含む育毛効果を発揮するより優れた育毛剤を提供すべく、様々な試みがなされている。
毛包は成熟した生体で自己再生をほぼ一生涯を通じて繰り返す例外的な器官である。その自己再生の仕組みを解明することは、組織や細胞移植による脱毛治療、毛包や皮脂腺を含有する自然に近い機能的にも優れた皮膚シートの構築など、ニーズの高い臨床応用に繋がるものと期待される。近年、幹細胞研究への関心の高まりと共に毛包上皮幹細胞(上皮細胞)の研究が急速に進展し、また毛包特異的な間葉系細胞たる毛乳頭細胞についてもその性質が少しずつ判ってきた。毛乳頭細胞は毛包の自己再生のために毛包上皮幹細胞に活性化シグナルを送るいわば司令塔の役割を担い、毛包再構成評価系においては毛包上皮幹細胞と共に欠くことのできない細胞であることが判っている(Kishimoto et al., Proc. Natl. AcaDSci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341;非特許文献1)。
DP、毛包の周囲を取り巻くDSは、共に、毛包の大部分を構成する上皮系細胞とは異なり、間葉系由来の細胞群で構成される。DSについて、毛包形成に対する重要性を示唆する知見が、近年、多数報告されている。毛乳頭ラットヒゲの毛球部切断毛包移植実験においては、DSからDPが再生されること(1)、マウスで、下2分の1を切断した毛包のDSを移植することで、毛包再生が誘導されることも報告されている(2)。また、Jahodaら(Development.1992 Apr:114(4):887-97;非特許文献2)は、DSをヒトに移植することで、毛包の再構築を誘導できることも報告している(Horne KA and Jahoda CA.Development.1992 Nov:116(3):563-71;非特許文献3)。さらに、Tobin, Pausらのグループは、マウス毛周期において、DSとDP間の細胞の移動が起こり、発毛期において増殖を開始するDPcに先駆けて結合組織鞘細胞(DSc)の増殖が開始することを報告している(Tobin DJ et al., J.Invest.Dermatol., 120:895-904, 2003;非特許文献4)。
このように、DSは毛包形成に対して重要な役割を果たしている可能性が高いが、その作用機序については不明な点がほとんどであり、DSCの性質すら分かっていない。そこで我々はDSCを特徴付ける遺伝子発現プロファイルを調べ、毛包形成への作用機序を明らかにすることを目的に解析を行った。
Kishimoto et al., Proc. Natl. AcaDSci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341 Jahoda CA et al., Development.1992 Apr;114(4):887-97. Horne KA and Jahoda CA.Development.1992 Nov;116(3):563-71. Tobin DJ et al., J.Invest.Dermatol., 120:895-904, 2003 J.Linder et al., Federation of American Societies for Experimental Biology, 14(2), 319(2000)
本発明の課題は、新規の毛包再生系を提供することにある。
本発明者はマイクロアレイを利用し、DScの遺伝子発現プロファイルを調べて結果、DPcやFBc(繊維芽細胞)と比べ発現率が2倍以上高い遺伝子として304個の遺伝子を同定した。これらの遺伝子についてGeneSpringのGeneOntologyでの機能的分類を行った結果、血管関連因子に属するものが多く、DSと血管との関わりが示唆された。そしてその中でのDScはCD36を高発現することが見出され、しかもDScでのかかるCD36の発現は発毛促進効果を示すHGF(肝細胞増殖因子)(J. Linder et al., Federation of American Societies for Experimental Biology, 14(2), 319 (2000): 非特許文献5)の発現と連動していることがわかった。
従って、本願は以下の発明を包含する:
[1]CD36発現性結合組織鞘([DS]:dermal sheath)細胞含有する、毛包を再生するための組成物。
[2]さらに、毛乳頭(「DP」:dermal papilla)細胞を含有する、[1]の毛包を再生するための組成物。
[3]CD36発現性DSc、対、DPcの細胞数の比が約10:1〜1:10である、[2]の組成物。
[4]CD36発現性DSc及びDPcが共にマウスに由来する、又は共にラットに由来する、又は共にヒトに由来する、[2]又は[3]の組成物。
[5]CD36発現性DSc及びDPcが異種細胞であり、各々がマウス、ラット又はヒトに由来する、[2]又は[3]の組成物。
[6]ヒトに[1]〜[5]のいずれかの組成物を移植し、毛包を再生する方法。
[7]レシピエント動物に[1]〜[5]のいずれかの組成物を移植し、毛包を再生する方法。
[8]レシピエント動物が免疫系の抑制された動物である、[7]の方法。
[9]レシピエント動物がヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットからなる群より選ばれる免疫系が抑制された動物である、[7]又は[8]の方法。
[10][2]〜[5]のいずれかの組成物を含む皮膚三次元モデルを作製し、毛包を再生する方法。
[11]レシピエント動物に[1]〜[5]のいずれかの組成物を移植し、こうして再構成毛包を担持することになったキメラ動物。
[12]レシピエント動物が免疫系の抑制された動物である、[11]のキメラ動物。
[13]レシピエント動物がヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットからなる群より選ばれる免疫系が抑制された動物である、[11]又は[12]のキメラ動物。
[14][2]〜[5]のいずれかの組成物を含む皮膚三次元モデルを作製し、こうして再構成毛包を担持することになった皮膚三次元モデル。
本発明の毛包再生計組成物は毛包再生のための移植手術や、毛包再構成の研究・開発に利用できる。
毛包組織の構造を示す模式図。 各種血管関連因子の各種細胞での発現。 CD36及びCD31染色を行った組織染色図。 CD36及びCD31染色による毛包のwhole-mount染色図。 CD36陽性DScと血管内皮細胞との共培養結果。 CD36陽性DScのHGF発現結果。
本発明は、毛包を再生するためのDSc及び任意的にDPcを含有する組成物、それを用いて毛包を再生する方法、さらにはそのような再生された毛包を担持する動物又は3次元皮膚モデルを提供する。
CD36抗原はトロンボスポンジン受容体とも称される。CD36は脊椎動物の多くの細胞型の表面に見られる膜内在性タンパク質であり、FAT、SCARB3、 GP88、 糖タンパク質IV(gpIV)や糖タンパク質III b(gpIII b)としても知られている。CD36は細胞表面タンパク質のクラスBスカベンジャー受容体ファミリーのメンバーである。CD36はトロンボスポンジンの他に、コラーゲン、熱帯熱マラリア原虫が寄生した赤血球、酸化低密度リポタンパク質、天然リポタンパク質、酸化リン脂質、長鎖脂肪酸などの多くのリガンドと結合する。遺伝子改変齧歯動物を用いる最近の研究では、脂肪酸や糖代謝、心臓病、味覚、及び腸内の食物性脂肪輸送において、CD36の明確な役割を確認してきた。CD36は、耐糖能障害、粥状動脈硬化、動脈高血圧症、糖尿病、心筋症、及びアルツハイマー病に関与し得る。
なお、CD36抗原と育毛との関係については全く知られていない。
DScは毛包におけるDPの周囲を取り巻く鞘部分を構成する細胞であり、DPcと同様に間葉系細胞である。DPはDSに由来するとされ、発毛期でのDP増殖に先駆けてDSは増殖することから、DSがDPcを供給すると考えられている(Tobin DJ et al., J. Invest. Dermatol., 120:895-904, 2003;非特許文献4)。
CD36を発現するDScは、特に限定されるわけではないが、例えばCD36に対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体を利用した慣用のセルソーティング技術によりDPcなどから選別することができる。
本発明のDScは、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの表皮に由来し得る。また、その表皮部位は有毛部位、例えば頭皮でも、無毛部位、例えば包皮であってもよい。
「DPc(毛乳頭細胞)」とは、間葉系細胞として毛包最底部に位置し、毛包の自己再生のために毛包上皮幹細胞に活性化シグナルを送る、いわば司令塔の役割を担っている細胞をいう。活性化毛乳頭細胞のみを含有する毛乳頭細胞調製品は、例えばトランスジェニックマウスを使用したKishimoto et al., Proc. Natl. AcaDSci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341記載の方法により調製できる。しかしながら、収量などの点で好ましくは、例えば皮膚組織から表皮組織を取り除くことで得た真皮組織画分をコラーゲン処理して細胞懸濁物を調製し、次いで当該細胞懸濁物を凍結保存することで毛包上皮細胞を死滅させることで調製することができる。
上記凍結保存による方法は、具体的には、例えば以下の通りにして実施できる。
1.哺乳動物の皮膚を用意する。
2.この皮膚を、必要ならタンパク質分解酵素溶液、例えばトリプシン溶液の中に適当な時間、例えば一晩静置し、その後表皮部分をピンセットなどで取り除き、残った真皮をコラゲナーゼで処理し、細胞懸濁液を調製する。
3.必要ならセルストレーナーにより懸濁液をろ過し、静置により沈殿物を除去する。
4.細胞数を計測し、適当な細胞密度、好ましくは1x105〜1x108/ml程度の細胞密度にて凍結保護液で再懸濁し、必要なら小分け分注し、通常の細胞保存方法に従い、凍結保存する。
5.適当な期間保存後、融解し、使用する。
凍結方法は特に限定されることはないが、−20℃以下、好ましくは−50℃以下、より好ましくは−80℃以下の超低温冷凍庫中で、又は液体窒素中で保存する。凍結保存期間も特に限定されることがないが、上皮細胞が死滅するよう、例えば1日以上、好ましくは3日以上、より好ましくは1週間以上の期間とする。尚、液体窒素中で4ヶ月保存しても、毛乳頭細胞は生存し続けていることが確認された。凍結保護液としては細胞の保存において使用されている通常の保存液、例えばセルバンカー2細胞凍結保存液(カタログNo.BLC−2)(日本全薬工業製)が使用できる。
細胞数の計測は当業者周知の方法により実施することができる。例えば、細胞数の計測は血球計算盤(SLGC社製、EOSINOPHIL COUNTER)に等量の0.4%トリパンブルー染色液(No.15250-061、インビトロジェン)で希釈した細胞懸濁液を供して血球計算盤付属の取扱説明書記載の方法に従って算出することができる。
本発明のDPcはDScと同様、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの皮膚に由来し得る。
好ましくは、本発明の毛包再生のための組成物はさらに「上皮系細胞」を含んでよい。「上皮系細胞」は、皮膚の表皮または上皮の大部分を構成する細胞であり、真皮に接する1層の基底細胞から生じる。マウスを例にすると、上皮系細胞としては新生仔(もしくは胎児)に由来する上皮系細胞が好ましく使用できるが、成熟した皮膚、例えば休止期毛の上皮又は成長期毛の上皮に由来する細胞でも、ケラチノサイトの形態にある細胞の培養物であってもよい。かような細胞は、当業者周知の方法により所望のドナー動物の皮膚から調製することができる。
好適な態様において、上皮系細胞は以下のとおりにして調製できる。
1.哺乳動物の皮膚を用意する。
2.この表皮を、必要なら0.25%トリプシン/PBS中で4℃下で一晩静置することでトリプシン処理する。
3.ピンセットなどにより表皮部分のみ剥離し、細切後、適当な培養液(例えばケラチノサイト用培養液)中で4℃で約1時間懸濁処理する。
4.この懸濁物を適当なポアサイズを持つセルストレーナーに通し、次いで遠心分離器にかけて上皮系細胞を回収する。
5.この細胞調製品をKGMあるいはSFM培地に所望の細胞密度で懸濁し、使用直前まで氷上に静置しておく。
本発明の上皮系細胞はDScやDPsと同様、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの表皮に由来し得る。また、その表皮部位は有毛部位、例えば頭皮でも、無毛部位、例えば包皮であってもよい。
DSc、対、DPcの使用する比率は限定されるわけではないが、好ましくは本発明の組成物の中に1:10〜10:1、より好ましくは1:3〜3:1で含ませる。さらに、DScとDPsの総量に対し、上皮系細胞を1:10〜10:1、更に好ましくは1:1〜10:1、更により好ましくは1:1〜3:1、最も好ましくは1:1にて含ませてよい。
DScとDPc、さらには任意的に上皮系細胞の組み合わせは同種系でも、異種系でもよい。従って、本発明の毛包を再生するための組成物は、例えば、DSc、DPc、上皮系細胞の全てがヒトに由来する組み合わせ、DSc、DPc、上皮系細胞の全てがヒト以外の哺乳動物であった同種に由来する組み合わせ(以上、同種系)、DSc及びDPcがヒトに由来し、上皮系細胞がヒト以外の哺乳動物に由来する組み合わせ、DSc及びDPcの一方がヒトに由来し、他方及び上皮系細胞がヒト以外の哺乳動物であって同種または異種のものに由来する組み合わせ、DSc及びDPcの一方がヒト以外の哺乳動物に由来し、他方及び上皮系細胞がヒトに由来する組み合わせ(以上、異種系)、等であってよい。
本発明に係る毛包の再生のための組成物をレシピエント動物に移殖する方法は、それ自体公知の移殖方法によることができる。例えば、Weinberg et al, J. Invest. Dermatol. Vol.100(1993), pp.229-236を参照のこと。例えばヌードマウスに移植を行う場合、用意された細胞を移植直前〜1時間前に混合し、遠心(9000×g,10min.)により培養液を取り除き、50〜100μL程度の細胞塊にした後、すみやかにヌードマウス背部皮膚に埋め込んだシリコーン製のドーム型チャンバー内に流し込む。2週間後にチャンバーを注意深く取りはずし、さらに3週間目以降に移植部位の毛髪形成の有無の肉眼観察を行うことができる。ヒトを含む動物に発毛を目的に移植を行う場合も似たようにして行うことができ、適切な方法は医師や獣医により適宜決定されるであろう。
上記組成物をレシピエント動物に移植する場合、その移植は同種移植、即ち自己移植、同種同系移植もしくは同種異系移植であっても、異種移植であってもよい。同種移植の場合、毛乳頭細胞調製品及び上皮系細胞は共にレシピエントと同種である。異種移植では、毛乳頭細胞調製品又は上皮系細胞のいずれか一方がレシピエントと異種であり、他方がレシピエントと同種である場合と、双方がレシピエントと異種の場合がある。レシピエント動物としてはあらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットが挙げられる。
また、本発明に係る上記組成物を適当なレシピエント動物に移植することで、再生毛包を担持するキメラ動物を提供することができる。かかるキメラ動物は、例えば毛包の再生の機構を研究・解明するため、あるいは毛包再生又は発毛もしくは脱毛に有効な薬剤・生薬のスクリーニングを行うための有力な動物モデルを担うことができるであろう。レシピエント動物は、該動物に移植される系に含まれる各細胞の起源に拘わりなく、免疫系が抑制された動物であることが好ましい。また動物種としては、実験動物として使用しうるものであり、本発明の目的に沿うものである限り、いかなる動物であってもよいが、好ましくは、マウス、ラット等を挙げることができる。このような動物のうち、免疫系が抑制されているものとしては、マウスを例にすれば、ヌードマウスのように、胸腺欠損のごとき形質をもつものが挙げられる。なお、本発明の目的を考慮すれば、特に好ましいレシピエント動物としては、市販のヌードマウス(例えば、Balb−c nu/nu系統)、スキッドマウス(例えば、Balb/c−SCID)、ヌードラット(例えば、F344/N Jcl−rnu)を挙げることができる。
更に、本発明に係る組成物を三次元皮膚モデルに含包させることで、再生毛包を担持する三次元皮膚モデルを提供することができる。ただし、この場合には、発毛の司令塔となる毛乳頭細胞は必須である。三次元皮膚モデルは当業者周知の方法(Exp.Cell Res. Amano S. et al., (2001), Vol.271, pp.249‐362)により、例えば下記のようにして作製することができる。三次元皮膚モデルはDSc及びDPcをそれぞれ1×106〜108個/cm2、好ましくは1.0〜1.5×107個/cm2、より好ましくは約1.27×107個/cm2の量で含む。
三次元皮膚モデル作製方法
ヒト線維芽細胞を0.1%コラーゲン溶液/DMEM/10%FBSに適当量分散させ、シャーレに分注し、直ちに37℃のCO2インキュベータに静置する。ゲル化後、シャーレ壁面および底面よりゲルを剥がし、シャーレの中で浮遊するようにさせる。コラーゲンゲルを揺らせながら培養し、ゲルを約5分の1に収縮させ真皮モデルとする。真皮モデルをステンレスグリッドの上に置き、その上にガラスリングをセットし、KGM(表皮細胞培養用培地)に分散したヒト培養表皮細胞(1.0X106 細胞数/ml)を0.4ml、ガラスリング内に注入し、培養する。このとき、DSc及びDPcを同時に混合して注入する。ヒト培養表皮細胞の代替としてマウス新生児表皮細胞を用いることもできる。
シャーレ内にDMEM‐KGM‐5%FBS+Ca2+の培地を、真皮モデルの上部が空気に晒される程度に入れ、培養し、約一週間後に皮膚モデルを観察し、毛包原基形成の有無と再現性を判定する。
再構成毛包を担持した3次元皮膚モデルは、上記再生毛包を担持するキメラ動物と同様、毛包の再生の機構を研究・解明や発毛・脱毛に有効な薬剤・生薬のスクリーニングに利用できる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(方法)
細胞の単離及び培養
ヒト頭皮組織を10%ウシ胎児血清含有DMEM(Gibco/invitrogen)中で、真皮部分をメスで除去し、切断面より毛包を取り出した。精密ピンセットを用いて毛包から、ORS(毛包上皮系細胞)を含む毛幹を除去しDPとDSを取り出した。単離したDPはmedium-1(10%ウシ胎児血清、10 ng/ml EGF、20 ng/ml bFGF、0.00075% βメルカプトエタノール、ペニシリン100units/ml(力価)、ストレプトマイシン 0.1mg/ml(力価)、アンフォテリシンB 0.25ug/ml(力価)含有ニッスイ繊維芽細胞用低血清培地)を含むコラーゲンコート35mmディッシュ(Iwaki)上で静置培養し、単離DSはコラゲナーゼ処理を37℃、40分施した後、同様にコラーゲンコート35mmディッシュ上で静置培養した。両者とも1週間経過後、増殖を確認したのち、DPc、DScとして実験サンプルとして用いた。繊維芽細胞(FBc)は市販の細胞(東洋紡)を使用した。DSc、DPc、FBcはmedium-1により7〜10日、静置培養を行った。その後、トリプシンを用い細胞の継代をおこなった。培養条件は37℃、5%CO2で、コラーゲンコートフラスコT-75(Iwaki)を培養容器として用いた。また実験に供した各細胞は1回〜3回継代したものを用いた。
血管内皮細胞は正常ヒト成人皮膚微小血管内皮細胞(以下HMVEC)(Kurabo)を用い、低血清増殖用培地Humedia-MvG(Kurabo)にて培養を行い、継代数が5回のものを実験に用いた。
マイクロアレイ法を用いたDSc、DPc、FBcの遺伝子発現プロファイルの比較
RNeasy Micro kit ( Qiagen )を用いDPc、DSc、FBcからmRNAを含む全RNAを回収した。回収したRNAはagilentのプロトコールを用いて、二重鎖cDNAの合成を行い、さらにシアニン3、5でラベルしたcRNAの合成を続けて行った。ラベルしたcRNAは二色法を用いてアジレント社のマイクロアレイチップスライド(Agilent, whole human genome (4×44K), G4110)に65度17時間ハイブリダイゼーションした。2個人のDS由来RNA各2種(計4種)と2個人のDP由来RNA各2種(計4種)、1個人のFB由来RNA各2種を用いて、DScとDPc、DPcとFBc、FBcとDSc、各々2者間の遺伝子発現レベルの比較を各チップスライド上で行った。スライドを洗浄した後、チップ上のcRNAの蛍光シグナル(シアニン3、5)をdual-laser Microarray scanner(Agilent)で画像化した。画像化したデータはFeature Extraction Software 9.1により定量化し、その際、異常な数値やバックグランドと同じほど低い値に印をつけ、解析を行った。(タグ付け)各発現量の比較は取得したシグナルの定量値を2者間で比較することで行った。
(マイクロアレイデータの解析)
各遺伝子発現量はバイオインフォーマティクス的手法を用い、より詳細に解析するために、Gene Spring GX 7.3.1ソフトウェア(Agilent)を用いた。Feature Extraction Software 9.1を用いた操作で、異常な数値やバックグランドと同じほど低い値には印をつけたが、その印がついた遺伝子以外を用いて解析を行った。2者間で発現量に差のある遺伝子を抽出し、Gene ontologyを用いそれを機能的分類した。(http://www.geneontology.org/) またその際、フィッシャー検定により統計的にどれほど優位であるか検証した。
細胞染色
CD36抗体を用いた細胞染色について、酸性コラーゲン溶液(Koken)を用いコラーゲン表面処理した4穴チャンバースライド(Nalgene nunc)にDScを播種した後、1日〜2日培養したものを用いた。PBSで洗浄した後、4%PFAで30分固定、PBSにて洗浄、0.1% TritonX-100含有PBS溶液にて 10分処理した。そして、3%BSA 含有PBSにて30分ブロッキング処理を行い、CD36抗体(Abcam,ab17044)を1%BSA含有PBSにて50倍希釈した1次抗体溶液にて1時間反応させた。PBSにて4回洗浄後、Alexa 594標識anti-mouse IgG抗体(Invitrogen)を1%BSA含有PBSにて200倍希釈した2次抗体溶液にて1時間反応させた。核染色のためDAPI溶液にて反応後、PBSにて4回洗浄し、褪色防止剤Prolong Gold Antifade Reagent (Invitrogen)とカバーガラスにより封入した。蛍光顕微鏡(Olympus)を用い観察を行った。
組織染色
ヒト頭皮組織を凍結組織包埋剤OTCコンパウンド(Sakura Finetek)にて包埋し、凍結切片作成装置クライオスタット(Leica)にて凍結切片スライドを作成した。4%PFAにて15分固定した後、PBSで洗浄し、PBSに5% skim milk、1% donkey serum、0.1% triton-X100を加えたブロッキング溶液を用いて1時間反応させた。次に、CD36抗体溶液(Abcam,ab17044)、CD31抗体溶液(R&D, AF806)をブロッキング溶液にてそれぞれ50倍、100倍希釈した1次抗体溶液を用いて、常温1時間あるいは4℃オーバーナイトにて反応させた。なお、CD31抗体は血管内細胞のマーカーとして使用するCD31の標識のために用いた。PBSにて3回洗浄した後、Alexa 594標識anti-mouse IgG抗体(Invitrogen)、Alexa 488標識anti-rabbit IgG抗体(Invitrogen)をブロッキング溶液にてそれぞれ200倍希釈した2次抗体溶液を用いて常温で1時間反応させた。DAPI溶液にて反応後、PBSにて3回洗浄し、褪色防止剤Prolong Gold Antifade Reagentとカバーガラスにより封入した。蛍光顕微鏡(Olympus)を用い観察を行った。
毛包whole-mount染色
ヒト組織から単離した毛包を4%PFAにて4℃で2時間、振とうさせながら固定した。25%、50%、75%エタノール含有0.1%tween PBS(以下、PBST)を用いて各5分ずつ、100%エタノールを用いて5分ずつ順次、脱水処理をした。処理したサンプルはエタノールにて-20℃で保存した。使用時には、同じエタノール系列PBSTにて再水和処理を行った後、5% tritonX-100 含有PBSにて10分処理した。その後、組織染色に用いたブロッキング溶液、CD36抗体(Abcam,ab17044)、CD31抗体(R&D, AF806)を含む1次抗体溶液、Alexa 594標識anti-mouse IgG抗体、Alexa 488標識anti-rabbit IgG抗体を含む2次抗体溶液、DAPI溶液を用いて順次反応させた。なお抗体の反応操作間及び、染色後に0.1% tritonX-100 PBSを用いそれぞれ8回洗浄を行った。反応条件は1次抗体溶液が4℃オーバーナイト、2次抗体が4℃で2〜3時間である。褪色防止剤Prolong Gold Antifade Reagentとカバーガラスにより封入後、蛍光顕微鏡(Olympus)を用い観察を行った。
RT-PCR
TRIzol(Invitrogen)を用い、提供されたプロトコールを用いて細胞からRNAを回収した。回収したRNAは濃度を核酸定量装置Nanodrop(Thermo scientific)により測定した。比較対象郡のRNA濃度をそろえた上で、invitrogenのプロトコールを用いて逆転写酵素Superscript III(Invitrogen)によりRNAからoligo(dT) primers を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型に反応試薬LightCycler(登録商標) FastStart DNA MasterPLUS SYBR Green (Roche)、反応装置LightCycler(Roche)を用いて定量的RT-PCRを行った。組成条件はRocheのプロトコールに従って行った。PCRの条件は、初期変性95℃で10分、変性95℃で10秒、アニール60℃で10秒、伸長72℃で10秒である。用いたプライマー情報を下に記す。
G3PDH:
フォワードプライマー:5‘-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3‘(配列番号1)
リバースプライマー:5‘-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3‘(配列番号2)
CD36:
フォワードプライマー:5‘-GAGGAACTATATTGTGCCTATTCTTTGGC-3‘(配列番号3)
リバースプライマー:5‘-CATAAAAGCAACAAACATCACCACACCAAC-3‘(配列番号4)
CD31:
フォワードプライマー:5‘-ATGCCGTGGAAAGCAGATACTCTAG-3‘(配列番号5)
リバースプライマー:5‘-AATTGCTGTGTTCTGTGGGAGCAG-3‘(配列番号6)
HGF:
フォワードプライマー:5‘-GAGGGAAGGTGACTCTGAATGAG-3‘(配列番号7)
リバースプライマー:5‘-AATACCAGGACGATTTGGAATGGCAC-3‘(配列番号8)
附属のソフトウェアを用いて、各遺伝子の発現量を測定した。なお、G3PDHは内部標準として用い、各遺伝子それぞれの定量時において、これを用いて対照群のcDNA量を補正した。
細胞のソーティング
Cell Separation Magnet(BD Bioscience)を用いて細胞を分画した。操作条件はBD Bioscienceの提示したプロトコールに従って行った。トリプシン溶液を用い細胞を剥離後、細胞懸濁液を孔穴70umのストレイナー(Falcon)に通し、細胞数をカウントした。500〜1000万個の細胞を500mlの3%ウシ胎児血清含有PBS溶液にて懸濁し、その中にCD36抗体(Abcam,ab17044)を50倍希釈となるように加えて、15分ほど氷上にて反応させた。1×IMag Buffer(BD Bioscience)を用いて洗浄、遠心操作にて細胞を回収後、30ulのAnti-mouse IgG1 Magnetic Particles(BD Bioscience)にて再懸濁し、氷上に30分放置した。500ulの1×IMag Buffer(BD Bioscience)を加え、Cell Separation Magnet(BD Bioscience)にセットし、8分間静置した。磁石により側面に接着した細胞を剥がさないように注意しながら上清を回収し、これをCD36陰性DScとした。続けて再び500ulの1×IMag Buffer(BD Bioscience)を加え、側面に接着した細胞を懸濁し、Cell Separation Magnetにセットし4分間静置した後、上清を除いた。これをさらに1回繰り返し、側面に接着した細胞をCD36陽性DScとした。回収されたCD36陽性、陰性DScは、medium-1にて懸濁後、37℃、5%CO2で、コラーゲンコートフラスコT-25(Iwaki)を培養容器として用い、2〜4日培養したものを続く実験に用いた。
共培養実験
各検体由来CD36陽性、陰性DScを用いてそれぞれN=3,4で実験を行った。分画したCD36陽性、陰性DScをそれぞれコラーゲンコートT-25フラスコに30万個播種した。その後、medium-1にて2日間培養後、HMVECを40万個加え、Humedia-MvG(Kurabo)にて1日共培養した。その後、血管内皮細胞基礎培地Humedia-EB2(Kurabo)にペニシリン100units/ml(力価)、ストレプトマイシン 0.1mg/ml(力価)、アンフォテリシンB 0.25ug/ml(力価) 0.1%BSA(Sigma)を加えた培地へ培地交換した。さらに1日共培養した後、細胞をトリプシン溶液にて剥離し、続くFACSを用いての解析に進んだ。CD36陽性細胞のソーティングと同様の手法で、70umのストレイナー(Falcon)処理、3%ウシ胎児血清含有PBS溶液への懸濁、1次抗体であるCD31抗体溶液(R&D, AF806)を用いて氷上で20分反応した。3%ウシ胎児血清含有PBS溶液で細胞を洗浄後、2次抗体であるAlexa 488標識anti-rabbit IgG抗体(Invitrogen)を氷上で20分反応させ、0.5mlのPBS溶液へ細胞を再懸濁し、Cell Lab Quanta SC(BeckmanCoulter)を用いての解析に進んだ。BeckmanCoulter の指定したプロトコールと操作試薬を用いて、レーザー精度管理を含むセットアップを行った。FL1チャネル(525nm)を用いてCD31陽性細胞数の測定を行った。なお、CD31抗体を反応させなかった内皮細胞を用い、自家蛍光を省くための補正を行った。測定後、得られた全細胞数値、及びCD31陽性細胞の割合をもとに、CD31陽性細胞数を算出した。
(結果)
表1には血管関連因子の一部についての発現結果を示す。血管関連因子はDSにおいて発現性が高いことがわかるが、その中でもCD36やHGFがDSにおいて特異的に高く発現していることがわかった。図2には各種血管関連因子のDS、DP、ORS、VEC(血管内皮細胞)での発現を示す。CD36及びHGFがDSにおいて極めて特異的に発現することがわかる。細胞染色結果でも、単離したDS培養細胞にのみCD36陽性細胞が存在することが認められ、DPやFBにはCD36陽性細胞は存在しないことがわかった(データーは示さない)。
CD36及びCD31の染色を行った組織染色の結果も、毛包の鞘部、すなわちDSにおいてCD36の特異的な染色が認められた(図3)。さらに、毛包のwhole-mount染色の結果は、DSの一部に血管の密集部を示し、CD36陽性DSc細胞がその密集部に局在することがわかった。したがって、CD36は血管と深く関与していることが示唆された。また、CD36陽性DSc細胞は血管とほぼ共局在するが、一部の血管付近では存在しないこともわかった(図4)。
したがって、CD36陽性DSc細胞は、例えば血管内皮細胞の増殖を促進するなどして、血管の形成を促進することが示唆された。
セルソーティングにより単離したCD36陽性DScを血管内皮細胞と共培養した実験は、CD36陽性DScがCD36陰性DSc細胞に比べ、血管内皮細胞の増殖を顕著に促進することを示した(図5)。さらに単離されたCD36陽性DScはCD36陰性DSc細胞に比べ、HGFを高発現することも示された(図6)。冒頭でも述べたとおり、HGFは発毛や育毛を促進する因子として公知である(非特許文献5)。したがって、CD36陽性DScを毛包に移植すれば、発毛・育毛に有効であることが明らかである。

Claims (14)

  1. CD36発現性結合組織鞘細胞(DSc)を含有する、毛包を再生するための組成物。
  2. さらに毛乳頭細胞(DPc)を含有する、請求項1記載の毛包を再生するための組成物。
  3. CD36発現性DSc、対、DPcの細胞数の比が約10:1〜1:10である、請求項2記載の組成物。
  4. CD36発現性DSc及びDPcが共にマウスに由来する、又は共にラットに由来する、又は共にヒトに由来する、請求項2又は3記載の組成物。
  5. CD36発現性DSc及びDPcが異種細胞であり、各々がマウス、ラット又はヒトに由来する、請求項2又は3項記載の組成物。
  6. ヒトに請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を移植し、毛包を再生する方法。
  7. レシピエント動物に請求項1〜5いずれかに記載の組成物を移植し、毛包を再生する方法。
  8. レシピエント動物が免疫系の抑制された動物である、請求項7記載の方法。
  9. レシピエント動物がヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットからなる群より選ばれる免疫系が抑制された動物である、請求項7又は8記載の方法。
  10. 請求項2〜5のいずれかに記載の組成物を含む皮膚三次元モデルを作製し、毛包を再生する方法。
  11. レシピエント動物に請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を移植し、こうして再構成毛包を担持することになったキメラ動物。
  12. レシピエント動物が免疫系の抑制された動物である、請求項11記載のキメラ動物。
  13. レシピエント動物がヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットからなる群より選ばれる免疫系が抑制された動物である、請求項11又は12記載のキメラ動物。
  14. 請求項2〜5のいずれかに記載の組成物を含む皮膚三次元モデルを作製し、こうして再構成毛包を担持することになった皮膚三次元モデル。
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