まず、本発明の実施形態を説明する前に、エレベータの走行時における空力騒音(バフ音)の発生メカニズムについて、低〜高速のエレベータを例にして詳しく説明する。
低〜高速のエレベータでは、箱型形状を有する乗りかごの下端部の乗場側に、通称「エプロン」と呼ばれる落下防止板が取り付けられている。この落下防止板は、かごドアの縁から下降方向に向けて所定の長さを持って延出されている。
このような形状を有する低〜高速のエレベータについて、走行時に発生する空力騒音をかご位置を計測しながら観測した結果を図1に示す。図1において、横軸は時間、縦軸は騒音の大きさを表している。乗りかごを所定速度で下降させると、落下防止板の先端部分がホールシルなどの狭隘部に差し掛かった瞬間に、大きな圧力変動が生じて空力騒音が発生することが明らかになった(図中の矢印参照)。
ここで、エレベータの走行時におけるかご周辺の空気の流れを数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)により再現し、空力騒音の発生原因を特定した図を図2に示す。図中の1は乗りかご、2は落下防止板(エプロン)、3は昇降路内の狭隘部である。
図2(a)は乗りかご1の下端部に設けられた落下防止板2の先端部分が昇降路内の狭隘部3に差し掛かったときの空気の流れを示しており、同図(b)は図2(a)の点線枠内の流れを部分的に取りして正面から見た図である。
落下防止板2の先端部が狭隘部3に差し掛かったときに、落下防止板2の先端部分で空気の流れが堰き止められ、これが大きな圧力変動を生じさせることによって空力騒音が発生する。
特に、図2(b)に示すように、落下防止板2の先端部分には剥離泡5が存在しており、これが圧力変動を助長していることが数値流体解析によって明らかになった。
すなわち、この落下防止板2の先端部分に生じる剥離泡5によって乗りかご1と狭隘部2との間隙の圧力損失が増大し、堰き止め効果が助長される。その結果、落下防止板2の両側から縦渦4が急成長して入り込み、その縦渦4によって先端部からの流れ込みが乗りかご1の正面の中央部分に集約され、これが縮流増速流6となって加速する。これらの縦渦4と縮流増速流6がベルヌーイの定理によってかご正面の圧力を急激に低下させ、大きな圧力変動を生じさせることになる。
ここで、気流発生装置によって落下防止板2の先端部に誘起流を発生させると、その誘起流によって落下防止板2の先端部の剥離泡5が抑制されると共に縦渦6の発生が弱められ、その結果として、かご前の流線の集約が抑制される。
図3は落下防止板2の先端部に誘起流を発生させて剥離泡5を抑制した場合の解析結果を示している。誘起流の発生により、落下防止板2の先端部の剥離泡5が縮小し、それに伴い縦渦4、縮流増速流6が緩和されて整流化されたことが分かる。このように、誘起流によって落下防止板2の先端部が狭隘部に差し掛かったときに生じる気流の乱れを整流化することで、圧力変動を抑えて空力騒音を低減することができる。
以下、放電プラズマを利用した気流発生装置を例にして、エレベータ走行時の騒音を低減化するための具体的な方法について詳しく説明する。
(第1の実施形態)
図4は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図4(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。
本実施形態におけるエレベータ装置は、主として低速エレベータに用いられる箱型形状の乗りかご31を備える。この乗りかご31は、図示せぬ巻上機の駆動によりロープ34を介して昇降路35内を昇降動作する。
また、この乗りかご31の下端部の乗場側に、通称「エプロン」と呼ばれる落下防止板32が取り付けられている。この落下防止板32は、乗場のホールシル36とかごドア33との間の隙間から物が落下することを防止するための板状部材であって、かごドア33の縁から下降方向に向けて所定の長さを持って延出されている。
一方、昇降路35には、各階の乗場毎にホールシル36が配設されており、そのホールシル36の上にホールドア38が開閉自在に設けられている。乗りかご31の正面には、かごドア33が開閉自在に設けられており、乗りかご31が各階の乗場で停止したときに、乗場ドア38に係合して開閉動作する。図中の37は昇降路35内のホールシル36によって形成される狭隘部である。
ここで、落下防止板32の先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、誘起流25の発生方向を上向き(かご上昇方向)にして発生気流発生装置10が設けられている。この気流発生装置10は、乗りかご31に設置された駆動装置11によって駆動され、プラズマ放電作用により誘起流25を発生する。
なお、この気流発生装置10はセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、乗りかご31と落下防止板32にモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
また、落下防止板32の先端部には、上記気流発生装置10と共に流れ計測センサ12が設置されている。この流れ計測センサ12は、気流発生装置10の近傍、または、気流発生装置10と一体にして落下防止板32の先端部に配置され、落下防止板32の先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測する。
なお、流れ計測センサとしては、周波数応答性の高い熱線流速センサ、熱膜流速センサ、圧力センサ、マイクロホン、圧電素子等が使用可能である。
図5は気流発生装置10と流れ計測センサ12とを一体化して構成した場合の例を示す図である。
気流発生装置10は、誘電体20と、誘電体20の表面と同一面に露出された第1の電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を異にし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された第2の電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから構成されている。
このような構成において、放電用電源24によって電極21、22間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、電極21、22間の放電作用により誘電体20の表面上に所定方向に流れる誘起流25を発生させることができる。
また、図5の例では、誘電体20の表面付近に流れ計測センサ12が設置されている。この流れ計測センサ12の信号は制御装置13に与えられる。制御装置13には周波数解析装置13aが組み込まれており、その解析結果として得られた情報に基づいて電源制御信号が生成されて放電用電源24に出力される。
ここで、乗りかご31の落下防止板32の先端付近で生じる剥離現象を伴う流れ(これを「剥離流れ」と呼ぶ)は、一般に、その剥離流れを特徴付ける卓越した周波数成分を持つことが知られている。図6にその様子を示す。
図6は流れ計測センサ12によって乗りかご31の落下防止板32の先端付近の流れを計測した信号を解析した結果である。横軸が周波数、縦軸が強度(周波数成分の大きさ)を表している。
ブロードな周波数分布の中に卓越した周波数成分fsが観測されている。この卓越した周波数成分fsは、流れ計測センサ12の付近つまり落下防止板32の先端部付近における剥離泡の放出周波数等に起因するものである。
プラズマによって剥離流れが抑制される理由として、かご先端部における表面境界層に気流を断続的に与えて振動を誘起することで、その表面上の流れの速度分布が改善されるためと考えられている。したがって、剥離流れを特徴付ける卓越周波数fsが発生している場合には、その卓越周波数fsに同期させてプラズマを断続的に発生すれば、効果的に剥離流れを抑制することができる。
次に、剥離現象に同期したプラズマ誘起流を発生させる方法について、具体的に説明する。
図7は気流発生装置10の駆動方法としてパルス変調制御を説明するための図である。図7(a)は放電用電源24によって印加される交番電圧の波形を示す図である。気流発生装置10で利用するプラズマ放電は誘電体バリア放電であるため、図5に示した誘電体20を挟む2枚の電極21,22に対して放電用電源24から交番電圧を連続的に印加してないと、放電を維持することができない。
このときに印加する交番電圧の周波数を「基本周波数f」といい、通常、数kHz〜数10kHzの間に設定される。特に、放電や電源からの騒音を抑えたい場合には、可聴域を外して15kHz以上の高周波の交番電圧を印加する。
ここで、交番電圧の1周期に対してプラズマ誘起流が1回誘起されると考えられる。このときの交番電圧の基本周波数fを、上述した剥離流れを特徴付ける卓越周波数fsに同期させれば、効率良く剥離流れを抑制することができる。
また、卓越周波数fsが数kHzの可聴域にある場合に、その卓越周波数fsに同期させて放電を制御すると、放電や電源からの騒音が問題となってしまう可能性がある。そこで、図7(b)に示すように、基本周波数fに矩形波を重畳して、一定の時間間隔で放電オンとオフを繰り返すように制御する。この場合、オン時間では周波数fでのプラズマ誘起流が持続し、オフ時間では誘起流が発生しない。平均的に見ると、図7(b)のようなパルス周期間隔で、平均的な誘起流がオン/オフするように制御されることになる。このときの誘起流の周波数を「変調周波数fm」という。
ここで、基本周波数fを可聴域外の15kHz以上に設定しておけば、放電や電源からの騒音は問題とならずに、平均的な誘起流の変調周波数fmを卓越周波数fsに同期させることができる。また、全時間に対するオン時間の比はデューティ比と呼ばれ、印加電圧とデューティ比を一定に保つことで、放電に投入するエネルギーを一定にしながら、変調周波数fmを変化させることができる。
なお、変調周波数fmで放電のオン/オフを制御する他に、図7(c)のように、周期的にレベルを変えて放電の強弱を制御することでも良い。さらに、図7(d)のように、オン時間の立ち上がりと立下がりにおけるエネルギーの急激な増減を緩和するような波形で放電を制御しても良い。
図8は、図7(b)のようにパルス変調を行った場合の気流発生装置10の出力電圧を周波数解析した結果である。基本周波数fと、変調周波数fm、さらにこれらの倍数波の2fm,3fm…にピークを有する周波数分布となっている。したがって、変調周波数fmで放電を制御することでも良いし、さらにその逓倍した周波数2fm,3fm…で放電を制御することでも良い。
図9は、放電に投入するエネルギーを一定にしながら変調周波数fmを変化させた場合の騒音低減効果である。この変調周波数fmが卓越周波数fs近傍にある場合に騒音低減効果が大きくなる。特に、0.5fs<fm<1.5fsの関係にある場合に最も騒音低減効果が大きくなる。
なお、図6の例では、変調周波数fmを変化させて、0.5fs<fm<1.5fsの範囲で制御する場合を示したが、可聴域の問題を考慮しなくても良ければ、基本周波数fを変化させて、0.5fs<f<1.5fsの範囲で制御することでも良い。
また、図8に示したように、変調周波数fmを逓倍した周波数2fm,3fm…でも、誘起流25を特徴付ける周波数であるため、例えば2fmを0.5fs<2fm<1.5fsの範囲となるように制御しても良い。
図10は気流発生装置の制御系の構成を示したブロック図である。
駆動装置11は、乗りかご31上に設置されており、気流発生装置10の駆動に必要な電力を供給するためのバッテリ(放電用電源24)などを備える。この駆動装置11は、制御装置13から出力される駆動信号に基づいて気流発生装置10に電力を供給して駆動する。
また、制御装置13は、ビルの機械室などに設置されている。この制御装置13は、CPU、ROM、RAMなどを搭載したコンピュータによって構成され、所定のプログラムの起動によりエレベータ全体の運転制御を行う。
また、この制御装置13は、流れ計測センサ12の信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに基づいて気流発生装置10の駆動を制御する。なお、制御装置13と乗りかご31上の駆動装置11は、図示せぬテールコードあるいは無線により電気的に接続されている。
かご位置検出装置14は、図示せぬパルスエンコーダから巻上機の回転に同期して出力されるパルス信号に基づいて、昇降路35内を走行中の乗りかご31の位置をリアルタイムで検出する。記憶装置15は、制御装置13の処理動作に必要な各種のデータを記憶している。
このような構成において、乗りかご31の下降時に、制御装置13は、かご位置検出装置14を通じて乗りかご31の位置を検出し、その乗りかご31の落下防止板32の先端部がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かるタイミングで気流発生装置10を駆動する。
ここで、流れ計測センサ12からの信号を解析することにより、落下防止板32の先端部の剥離流れの卓越周波数fsを取得し、その卓越周波数fsに同期させて誘起流25を断続的に発生させるように気流発生装置10の駆動を制御すれば、落下防止板32の先端部からの剥離流れを効果的に抑制できる。これにより、剥離流れによってかご正面へ急激に流れ込む増速流を緩和でき、その結果として、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、放電プラズマを利用した気流制御は、航空機の分野などで利用が研究され始めている。しかし、通常、移動中の空気抵抗を軽減するために用いられるものであり、常にプラズマがON状態にあるのが一般的である。
これに対し、エレベータ装置では、航空機等の移動体と違って、昇降路35といった限られた空間の中で乗りかご31が高速で移動するものであり、その途中に各階毎のホールシル36で急激な圧力変動による空力騒音が発生する。したがって、このような空力騒音を低減するためには、昇降路内におけるかご位置を検出しながら、所定のタイミングでプラズマをONするといったエレベータ特有の駆動制御が必要となる。
さらに、走行時に剥離流れの卓越周波数に同期させてプラズマをON/OFF制御することは、騒音低減効果を上げられるだけでなく、省エネルギーの観点からも推奨される。
なお、上記実施形態では、流れ計測センサ12を用いて剥離流れの卓越周波数を検出する構成としたが、本発明を実現する上では、必ずしも流れ計測センサ12は必要としない。
すなわち、予め乗りかご31の運転状態(運転方向、速度等)に応じて、かご周りに生じる剥離流れの卓越周波数を実験や数値解析等によって求めておき、その卓越周波数のデータを図10に示す記憶装置15に記憶させておけば、走行時に流れ計測センサ12にて計測しなくとも、記憶装置15から該当する卓越周波数を読み出すだけで気流発生装置10を駆動制御することができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態では、下降時だけでなく、上昇時の騒音も低減できるように改良した場合の一例を示したものであり、かご上端側にも落下防止板(エプロン)と同様の板を設置することにより、騒音源を板先端の剥離流れに特定して、プラズマ制御により騒音を低減する。なお、このときの制御周波数は、下降時と同じにしても良いが、かご上とかご下の形状が異なる場合が多いことから、かご上端側の板に対しても流れ計測センサを設けて制御周波数を特定することが望ましい。
以下に、具体的な構成について説明する。
図11は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図11(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第1の実施形態における図4と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
上記第1の実施形態と異なる点は、箱形形状の乗りかご31の上端部の乗場側の縁に、下端部の落下防止板32のような板状の支持部材39が取り付けられている点である。この板状部材39は、乗りかご31の上端部における乗場側の縁から所定の長さを有して上昇方向に延出されている。
また、この支持部材39の乗場側に対向する面の先端部には気流発生装置10aと流れ計測センサ12aが設けられている。一方、乗りかご31の下端部に取り付けられた落下防止板32の先端部には別の気流発生装置10bと流れ計測センサ12bが設けられている。
気流発生装置10aは乗りかご31の下降方向に向けて誘起流25に発生するように配置され、気流発生装置10bは乗りかご31の上昇方向に向けて誘起流25に発生するように配置されている。
この気流発生装置10a,10bは、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の上昇時に乗りかご31の上端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご31の下降時に乗りかご31の下端部がホールシル36を通過するときである。
また、流れ計測センサ12aは、板状部材39の先端部付近に配置されて、その先端部の先端からかご正面に流れ込む空気の流れを計測する。同様に、流れ計測センサ12bは、落下防止板32の先端部付近に配置されて、その先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測する。
図12は同実施形態における気流発生装置の制御系の構成を示したブロック図である。
駆動装置11は、乗りかご31上に設置されており、気流発生装置10a,10bの駆動に必要な電力を供給するためのバッテリ(放電用電源24)などを備える。この駆動装置11は、制御装置13から出力される駆動信号に基づいて気流発生装置10a,10bに電力を供給して駆動する。
また、制御装置13は、ビルの機械室などに設置されている。この制御装置13は、CPU、ROM、RAMなどを搭載したコンピュータによって構成され、所定のプログラムの起動によりエレベータ全体の運転制御を行う。また、この制御装置13は、上昇時には流れ計測センサ12aの信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに基づいて気流発生装置10aの駆動を制御し、下降時には流れ計測センサ12bの信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに基づいて気流発生装置10bの駆動を制御する。なお、制御装置13と乗りかご31上の駆動装置11は、図示せぬテールコードあるいは無線により電気的に接続されている。
かご位置検出装置14は、図示せぬパルスエンコーダから巻上機の回転に同期して出力されるパルス信号に基づいて、昇降路35内を走行中の乗りかご31の位置をリアルタイムで検出する。記憶装置15は、制御装置13の処理動作に必要な各種のデータを記憶している。
図13は乗りかご走行時における気流発生装置の駆動制御を示すフローチャートである。
乗りかご31が所定の速度で上昇方向に移動中にあるとする(ステップS11のYes)。制御装置13は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し(ステップS12)、乗りかご31の上端部に取り付けられた板状部材39の先端部がホールシル36を通過する直前に(ステップS13のYes)、駆動装置11を通じて気流発生装置10aを所定時間だけ駆動する(ステップS14)。
なお、上記所定時間は、乗りかご31の先端部分がホールシル36を通過するまでの時間であり、乗りかご31の速度にもよるが、約0.3〜0.5秒程度である。
また、この駆動期間中において、制御装置13は、流れ計測センサ12aの信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに基づいて気流発生装置10aの駆動を制御することにより、卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させる。
一方、乗りかご31が所定の速度で下降方向に移動中の場合には(ステップS11のNo)、制御装置13は、かご位置検出装置13から出力される位置信号に基づいて乗りかご31の位置を検出し(ステップS16)、乗りかご31の下端部に取り付けられた落下防止板32の先端部がホールシル36を通過する直前に(ステップS17のYes)、駆動装置11を通じて気流発生装置10bを所定時間だけ駆動する(ステップS18)。
また、この駆動期間中において、制御装置13は、流れ計測センサ12bの信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに基づいて気流発生装置10bの駆動を制御することにより、卓越周波数fsに同期させて誘起流25を上昇方向に向けて断続的に発生させる。
このように、エレベータ装置において、上昇時には板状部材39の先端部がホールシル36を通過するタイミングで気流発生装置10aの駆動を制御し、下降時には落下防止板32の先端部がホールシル36を通過するタイミングで気流発生装置10bの駆動を制御することで、そのときに生じる圧力変動をプラズマ気流の作用により緩和して、空力騒音を低減することができる。
より詳しく説明すると、乗りかご31の下降時に落下防止板32の先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、落下防止板32の先端部で堰き止められた空気が乗りかご31の正面に急速に流れ込み、かごドア33の前に局所的な増速流が生じる。
また、その一方で、落下防止板32の両側から縦渦が急成長して入り込み、その縦渦によって先端部からの流れ込みがかご正面の中央部分に集約され、これが縮流増速流となって加速する。これらの縦渦と縮流増速流がベルヌーイの定理によってかご正面の圧力を急激に低下させ、大きな圧力変動を生じさせることになる。
ここで、乗りかご31の下降時に、気流発生装置10bから乗りかご31の移動方向とは逆方向(つまり上昇方向)に誘起流25を発生させると、落下防止板32の先端部での堰き止め現象がなくなり、先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを円滑にかご廻りに整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
さらに、気流発生装置10bの駆動時に剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させることで、落下防止板32の先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
これは、乗りかご31の上昇時でも同様である。
すなわち、上昇時に乗りかご31の先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、乗りかご31の先端部に取り付けた気流発生装置10aから乗りかご31の移動方向とは逆方向(つまり下降方向)に誘起流25を発生させると、乗りかご31の先端部での堰き止め現象がなくなり、先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを円滑に整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
さらに、気流発生装置10aの駆動時に剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を上昇方向に向けて断続的に発生させることで、乗りかご31の先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図11の例では、乗りかご31の両端部にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご31の運転状態(運転方向、速度等)に応じた剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態では、上記第1の実施形態よりもさらに騒音低減効果を上げるために、かご下端部の幅方向に亘って気流発生装置を設置したものである。
図14にその具体例を示す。
図14は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図14(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第1の実施形態における図4と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
上記第1の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置範囲である。すなわち、第3の実施形態では、箱型形状を有する乗りかご31の下端部に取り付けられた落下防止板32の先端部に、その幅方向に全体に亘って気流発生装置10が横向きにして設置されている。
なお、「横向き」とは、気流発生装置10が直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向とは直交する方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向に向けた状態を言う。
この気流発生装置10は、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の下降時に落下防止板32の先端部がホールシル36を通過するときである。
また、落下防止板32の乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12が設置されており、落下防止板32の先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このように、気流発生装置10を落下防止板32の幅方向に沿って全体的に設置しておくことにより、誘起流25の噴射範囲が広がるので、乗りかご31がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かったときに先端からかご正面に流れ込む空気の流れをより円滑に整流化して空力騒音を低減することができる。
また、気流発生装置10の駆動時に、流れ計測センサ12の信号から得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を断続的に発生させることで、落下防止板32の先端部からの剥離流れを抑えて、より効果的に空力騒音を低減することができる。
なお、図14では、乗りかご31の下端部にだけ気流発生装置10を設置した例を示したが、乗りかご31の上端部に対しても同様に気流発生装置10を幅方向に設置しておき、上記第2の実施形態で説明したように所定のタイミングで駆動制御すれば、上昇時に発生する空力騒音についても効果的に低減することができる。
また、図14の例では、乗りかご31に計測センサ12を設けたが、予め乗りかご31の運転状態(運転方向、速度等)に応じた剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態では、乗りかごの下端部の両側に縦方向に気流発生装置を設置して、外向きに誘起流を発生させるものである。
図15にその具体例を示す。
図15は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図15(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第1の実施形態における図4と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
上記第1の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置箇所である。すなわち、第4の実施形態では、箱形形状を有する乗りかご31の下端部に取り付けられた落下防止板32の先端部の両側に、それぞれに気流発生装置10a,10bが乗りかご31の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
なお、「縦向き」とは、気流発生装置10a,10bがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向とは直交する方向に向けた状態を言う。
これらの気流発生装置10a,10bは、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の下降時に落下防止板32の先端部がホールシル36を通過するときである。
また、落下防止板32の両側の一方に流れ計測センサ12が設置されており、この流れ計測センサ12によって落下防止板32の両側からの巻き込み流れを計測するように構成されている。
このように、気流発生装置10a,10bを乗りかご31の落下防止板32の両側に設置して、それぞれに外向きに誘起流25を発生させれば、狭隘部37の突入時に落下防止板32の両側からの流れ込みの影響を軽減して、かご正面での空気の流れを整流化できる。その結果、急激な圧力変動を緩和して、空力騒音を低減することができる。
また、気流発生装置10a,10bの駆動時に、落下防止板32の両側からの巻き込み流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を断続的に発生させることで、その巻き込み流れを効果的に抑えることができ、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図15の例では、乗りかご31に計測センサ12を設けたが、予め乗りかご31の運転状態(運転方向、速度等)に応じた巻き込み流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
第5の実施形態では、落下防止板の両端だけでなく、かご本体の両側にも縦方向に気流発生装置を設置し、外向きに誘起流を発生させるものである。
図16にその具体例を示す。
図16は本発明の第5の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図16(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第4の実施形態における図15と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
上記第4の実施形態と異なる点は、箱形形状を有する乗りかご31の下端部に取り付けられた落下防止板32の先端部の両側の他に、乗りかご31の両側に対しても気流発生装置10c,10d、気流発生装置10e,10fが乗りかご31の外側に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されていることである。
なお、「縦向き」とは、気流発生装置10a,10b、気流発生装置10c,10d、気流発生装置10e,10fがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向とは直交する方向に向けた状態を言う。
これらの気流発生装置10a〜10fは、乗りかご31の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご31の下降時に落下防止板32の先端部がホールシル36を通過するときである。
また、落下防止板32の両側の一方に流れ計測センサ12が設置されており、この流れ計測センサ12によって落下防止板32の両側からの巻き込み流れを計測するように構成されている。
このような構成によれば、乗りかご31の下降時に落下防止板32の先端部が狭隘部37に差し掛かった際に、気流発生装置10a〜10fのすべてを駆動して、乗りかご31の外側に向けて誘起流25を断続的に発生することで、落下防止板32だけでなく、乗りかご31の両側から正面への巻き込み流れも効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、ここでは下降時の空力騒音を低減する場合について説明したが、例えば気流発生装置10a〜10fを乗りかご31の運転方向に応じて使い分け、下降時には気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10d、上昇時には気流発生装置10e,10fと気流発生装置10c,10dから誘起流25を断続的に発生するようにしても良い。
この場合、流れ計測センサ12は上昇時と下降時で兼用でも良いが、より精度を上げるためには、乗りかご31の先端部に対しても流れ計測センサ12を設けておき、乗りかご31の先端部両側からの巻き込み流れの卓越周波数fsに同期させて気流発生装置10e,10fと気流発生装置10c,10dの駆動を制御することが好ましい。
また、図16の例では、乗りかご31に計測センサ12を設けたが、予め乗りかご31の運転状態(運転方向、速度等)に応じた巻き込み流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
上記第1〜5の実施形態では、主として低速エレベータで用いられる箱形形状の乗りかごを想定して説明したが、第6の実施形態では、主として高速エレベータで用いられる流線型の乗りかごを想定して説明する。
図17は本発明の第6の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図17(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、上記第1の実施形態における図4と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
本実施形態におけるエレベータ装置は、主として高速エレベータに用いられる流線型の乗りかご51を備える。この乗りかご51は、図示せぬ巻上機の駆動によりロープ54を介して昇降路35内を昇降動作する。乗りかご51の正面には、かごドア53が開閉自在に設けられている。このかごドア53は、乗りかご51が各階の乗場で停止したときに乗場ドア38に係合して開閉動作する。
また、乗りかご51の上端部と下端部には緩やかな曲面を有する整風カバー52a,52bが取り付けられている。この整風カバー52a,52bは、昇降路35の乗場側に対向した面が平坦で、反対側の面が半球状に形成されている。また、乗りかご51の側面には、昇降方向に複数本の溝51aが形成されている。
さらに、この乗りかご51には、騒音低減対策として上述した放電プラズマを利用した気流発生装置10a,10bが用いられている。この気流発生装置10a,10bは、整風カバー52a,52bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に取り付けられている。この気流発生装置10a,10bはセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、整風カバー52a,52bにモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
この気流発生装置10a,10bは、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に乗りかご51の上端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご51の下降時に乗りかご51の下端部がホールシル36を通過するときである。
すなわち、整風カバー52aに設けられた気流発生装置10aは、乗りかご51の上昇時に整風カバー52aの先端部がホールシル36を通過するときに駆動され、乗りかご51の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、整風カバー52bに設けられた気流発生装置10bは、乗りかご51の下降時に整風カバー52bの先端部がホールシル36を通過するときに駆動され、乗りかご51の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
また、整風カバー52a,52bの乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12a,12bが設置されており、それぞれに整風カバー52a,52bの先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このような整風カバー付きの乗りかご51を用いた高速エレベータであっても、カバー先端部で流れの剥離によって堰き止め現象が助長されることが数値解析等によって明らかになっている。その結果、ホールシル36などの狭隘部37の突入時に、かご正面へ急激な流れ込みがあり、これが圧力変動となって空力騒音が発生することになる。
ここで、乗りかご51の下降時に整風カバー52bの先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、気流発生装置10bから乗りかご51の移動方向とは逆方向(つまり上昇方向)に誘起流25を発生させると、整風カバー52bの先端部での堰き止め現象がなくなり、先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを円滑にかご廻りに整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
さらに、気流発生装置10bの駆動時に剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させることで、整風カバー52bの先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
これは、乗りかご51の上昇時でも同様である。
すなわち、乗りかご51の上昇時に整風カバー52aの先端部がホールシル36などの昇降路35の狭隘部37に差し掛かったときに、気流発生装置10aから乗りかご51の移動方向とは逆方向(つまり下降方向)に誘起流25を発生させると、整風カバー52aの先端部での堰き止め現象がなくなり、先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを円滑に整流化することができる。これにより、圧力変動が緩和され、結果的に空力騒音を抑制することができる。
さらに、気流発生装置10a,10bの駆動時に剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を断続的に発生させることで、剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図17の例では、整風カバー52a,52の先端部にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご51の運転状態(運転方向、速度等)に応じた剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。
図18は本発明の第7の実施形態に係るエレベータ装置の構成を示す図であり、図18(a)は昇降路内を走行する乗りかごを側面から見た図、同図(b)はその乗りかごをA方向から見た正面図である。なお、図18において、上記第6の実施形態における図17の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
乗りかご51の上端部に整風カバー52aが取り付けられ、下端部に整風カバー52bが取り付けられている。さらに、この整風カバー52a,52bの上には、急峻な形状を有する整風スポイラー55a,55bが昇降方向に突出させて設けられている。この整風スポイラー55a,55bは、昇降方向に突起させるようにして整風カバー52a,52bの上にネジ止め等により固定されている。
ここで、第7の実施形態では、整風スポイラー55aの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面に、2つの気流発生装置10a,10bが設けられている。同様に、整風スポイラー55bの先端部の昇降路35の乗場側に対向する面にも、2つの気流発生装置10c,10dが設けられている。
これらの気流発生装置10a〜10b,10c〜10dは、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に整風スポイラー55aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご51の下降時に整風スポイラー55bの先端部がホールシル36を通過するときである。
図18の例では、乗りかご51の上昇時に整風スポイラー55aの先端部がホールシル36を通過するときに気流発生装置10a,10bが同時に駆動され、乗りかご51の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご51の下降時には、整風スポイラー55bの先端部がホールシル36を通過するときに気流発生装置10c,10dが同時に駆動され、乗りかご51の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
また、整風スポイラー55aの乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12aが設置されており、整風カバー52aの先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。同様に、整風スポイラー55bの乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12aが設置されており、整風カバー52bの先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このように、整風スポイラー付きの乗りかご51において、整風スポイラー55a,55bの先端部にそれぞれ気流発生装置10a,10b、発生装置10c,10dを設けておくことで、整風スポイラー55a,55bの先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった際に乗りかご51の正面に流れ込む空気の流れを整流化することができる。これにより、高速走行時に狭隘部37で発生する圧力変動を緩和して、空力騒音の発生を抑制することができる。
また、気流発生装置10a,10bと気流発生装置10c,10dをそれぞれ整風スポイラー55a,55bの先端部に昇降方向に沿ってタンデムに横向きに並べて配置することで、整風スポイラー廻りの流れをさらに効果的に整流化させることができるので、更なる空力騒音の低下が期待できる。
さらに、下降時において、気流発生装置10c,10dを駆動する場合に、流れ計測センサ12bによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を上昇方向に向けて断続的に発生させることで、整風スポイラー55bの先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
上昇時も同様であり、気流発生装置10a,10bを駆動する場合に、流れ計測センサ12aによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させることで、整風スポイラー55aの先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図18の例では、整風スポイラー55a,55bの先端部にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご51の運転状態(運転方向、速度等)に応じた剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態について説明する。
図19は本発明の第8の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごの構成を示す図である。上記第6の実施形態と同様に、乗りかご51の上端部に整風カバー52aと整風スポイラー55aが取り付けられ、下端部に整風カバー52bと整風スポイラー55bが取り付けられている。
ここで、第8の実施形態では、気流発生装置が整風スポイラー55a,55bの先端部の他に、整風カバー52aの先端部にも設けられている。すなわち、図19の例では、整風スポイラー55aの先端部に1つの気流発生装置10a、整風カバー52aの先端部に2つの気流発生装置10b,10cが配置されている。同様に、整風スポイラー55bの先端部に1つの気流発生装置10d、整風カバー52bの先端部に2つの気流発生装置10e,10fが配置されている。
これらの気流発生装置10a〜10c,10d〜10fは、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時に整風スポイラー55aの先端部がホールシル36を通過するときと、乗りかご51の下降時に整風スポイラー55bの先端部がホールシル36を通過するときである。
図19の例では、乗りかご51の上昇時に整風スポイラー55aの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10a,10b,10cが同時に駆動され、乗りかご51の下降方向に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご51の下降時に整風スポイラー55bの先端部がホールシル36を通過するときに、気流発生装置10d,10e,10fが同時に駆動され、乗りかご51の上昇方向に向けて誘起流25を発生する。
また、整風スポイラー55aの乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12aが設置されており、整風カバー52aの先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。同様に、整風スポイラー55bの乗場側面には、その先端部付近に流れ計測センサ12aが設置されており、整風カバー52bの先端部からかご正面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このように、整風カバーと整風スポイラー付きの乗りかご51において、整風カバー52a,52bと整風スポイラー55a,55bの先端部にそれぞれ気流発生装置10a〜10cと気流発生装置10d〜10fを設けておくことで、整風スポイラー55a,55bの先端部分がホールシル36などの狭隘部37に差し掛かった際に乗りかご51の正面に流れ込む空気の流れをより効果的に整流化することができる。これにより、高速走行時に狭隘部37で発生する圧力変動を緩和して、空力騒音の発生を抑制することができる。
さらに、下降時において、気流発生装置10d〜10fを駆動する場合に、流れ計測センサ12bによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を上昇方向に向けて断続的に発生させることで、整風スポイラー55bの先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
上昇時も同様であり、気流発生装置10a〜10cを駆動する場合に、流れ計測センサ12aによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させることで、整風スポイラー55aの先端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図18の例では、整風スポイラー55a,55bの先端部にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご51の運転状態(運転方向、速度等)に応じた剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
(第9の実施形態)
次に、本発明の第9の実施形態について説明する。
上記第1〜7の実施形態では、乗りかごに気流発生装置を設置例について説明したが、昇降路内を乗りかごと共に昇降動作する図示せぬカウンタウェイトに気流発生装置を設けることでも良い。
すなわち、カウンタウェイトと乗りかごとが高速ですれ違ったときに、乗りかごが狭隘部を通過するのと同様に、乗りかご周りに大きな空力騒音が発生する。そこで、カウンタウェイトの先端部の乗りかごとの対向面に気流発生装置に設けておき、カウンタウェイトと乗りかごがすれ違うときに、カウンタウェイトの移動方向とは逆方向に気流を発生する。その際に、乗りかごの場合と同様に、カウンタウェイトの先端部に流れ込む剥離流の卓越周波数に同期させて気流を断続的に発生させれば、その剥離流れを効果的に抑えて、空力騒音を低減することができる。
以下に、具体例を図示して説明する。
図20は本発明の第9の実施形態に係るエレベータ装置の乗りかごとカウンタウェイトの構成を側面から見た図である。なお、ここでは、高速エレベータを例とする。図20において、上記第6の実施形態における図17の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
図20では、乗りかご51の下降時に乗りかご51とカウンタウェイト56とが擦れ違う状態が示されている。カウンタウェイト56は、ロープ54の他端に取り付けられており、図示せぬ巻上機の駆動により乗りかご51と共に昇降路35内をつるべ式に移動する。
ここで、昇降路35の中間階付近で、カウンタウェイト56の先端部が乗りかご51に差し掛かったときに、カウンタウェイト56の先端部に局所的な剥離流れが生じ、大きな圧力変動が生じて空力騒音が発生すると共に、乗りかご51に振動を与える問題がある。
そこで、図21に示すように、カウンタウェイト56の上端部と下端部の乗りかご51に対向する面にそれぞれ気流発生装置10a,10bを設けておく。上述したように、気流発生装置10a,10bはセラミックなどの絶縁物を基盤としたモジュール構造で構成できるので、カウンタウェイト56にモジュール部分をねじ止めあるいは接着剤で簡単に固定することができる。
これらの気流発生装置10a,10bは、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時にカウンタウェイト56の下端部が乗りかご51とすれ違うときと、乗りかご51の下降時にカウンタウェイト56の上端部が乗りかご51とすれ違うときである。
駆動装置11は、カウンタウェイト56の上に設置されている。図12に示した制御装置13は、かご位置検出装置14から出力される位置信号に基づいて乗りかご51の位置を検出し、乗りかご51とカウンタウェイト56とがすれ違うタイミングで、駆動装置11を通じて気流発生装置10a,10bを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト56上の駆動装置11は、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
図21の例では、乗りかご51の上昇時にカウンタウェイト56の下端部が乗りかご51とすれ違うときに、気流発生装置10bが駆動され、カウンタウェイト56の移動方向とは逆方向(上昇方向)に向けて誘起流25を発生する。一方、乗りかご51の下降時にカウンタウェイト56の上端部が乗りかご51とすれ違うときに、気流発生装置10aが駆動され、カウンタウェイト56の移動方向とは逆方向(下降方向)に向けて誘起流25を発生する。
また、カウンタウェイト56の先端部のかご51との対向面には、その先端部付近に流れ計測センサ12a,12bが設置されており、それぞれにカウンタウェイト56の先端部からかご対向面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このように、カウンタウェイト56の上端部と下端部に設けられた気流発生装置10a,10bをカウンタウェイト56の移動方向とは逆方向に発生させると、カウンタウェイト56の先端部から乗りかご51との対向面に流れ込む空気の流れを円滑に整流化することができる。これにより、乗りかご51とカウンタウェイト56とのすれ違い時に発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
さらに、乗りかご51の下降時において、気流発生装置10aを駆動する場合に、流れ計測センサ12aによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を下降方向に向けて断続的に発生させることで、カウンタウェイト56の上端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
上昇時も同様であり、気流発生装置10bを駆動する場合に、流れ計測センサ12bによって得られる剥離流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を上降方向に向けて断続的に発生させることで、カウンタウェイト56の下端部からの剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図21の例では、カウンタウェイト56の先端部にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご51の運転状態(運転方向、速度等)に応じたカウンタウェイト56の先端部での剥離流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
また、カウンタウェイト56の上端部と下端部のどちらか一方に気流発生装置10を設けて、乗りかご51の下降時または上昇時に交差するときの振動を抑えることでも良い。
(第10の実施形態)
次に、本発明の第10の実施形態について説明する。
第10の実施形態では、カウンタウェイトの両側に縦方向に気流発生装置を設置して、外向きに誘起流を発生させるものである。
図22にその具体例を示す。
図22は本発明の第10の実施形態に係るエレベータ装置のカウンタウェイトの構成を示す図である。なお、上記第9の実施形態における図21と同じ部分には同一符号を付して、その説明は省略するものとする。
上記第9の実施形態と異なる点は、気流発生装置の設置箇所である。すなわち、第10の実施形態では、カウンタウェイト56の両側に、それぞれに気流発生装置10a,10bがカウンタウェイト56の両側から外に向けて誘起流25を噴射するように縦向きにして設置されている。
なお、「縦向き」とは、気流発生装置10a,10bがそれぞれに直方体形状である場合に、その装置本体の長手方向を昇降方向に向けて、気流発生の向きを昇降方向とは直交する方向に向けた状態を言う。
これらの気流発生装置10a,10bは、乗りかご51の走行時に駆動装置11によって所定のタイミングで駆動される。所定のタイミングとは、具体的には、乗りかご51の上昇時にカウンタウェイト56の下端部が乗りかご51とすれ違うときと、乗りかご51の下降時にカウンタウェイト56の上端部が乗りかご51とすれ違うときである。
駆動装置11は、カウンタウェイト56の上に設置されている。図12に示した制御装置13は、かご位置検出装置14から出力される位置信号に基づいて乗りかご51の位置を検出し、乗りかご51とカウンタウェイト56とがすれ違うタイミングで、駆動装置11を通じて気流発生装置10a,10bを駆動制御する。なお、制御装置12とカウンタウェイト56上の駆動装置11は、図示せぬケーブルあるいは無線により電気的に接続されている。
図22の例では、乗りかご51の上昇時にカウンタウェイト56の下端部が乗りかご51とすれ違うときに、気流発生装置10a,10bが駆動され、それぞれに外向きに誘起流25を発生する。一方、乗りかご51の下降時にカウンタウェイト56の上端部が乗りかご51とすれ違うときに、気流発生装置10a,10bが駆動され、それぞれに外向きに誘起流25を発生する。
また、カウンタウェイト56の先端部のかご51との対向面には、その先端部両側の流れ計測センサ12a,12bが設置されており、それぞれにカウンタウェイト56の両側からかご対向面に流れ込む空気の流れを計測するように構成されている。
このように、カウンタウェイト56の両側に気流発生装置10a,10bを縦向きに配置して、それぞれに誘起流25を外向きに発生させると、乗りかご51と交差するときに、カウンタウェイト56の両側から流れ込む空気の流れを軽減して、乗りかご51との対向面上の流れを円滑に整流化することができる。これにより、乗りかご51とカウンタウェイト56とのすれ違い時に発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
さらに、乗りかご51の下降時において、気流発生装置10a,10bを駆動する場合に、流れ計測センサ12aによって得られるカウンタウェイト56の上端部の両側からの巻き込み流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を外方向に向けて断続的に発生させることで、カウンタウェイト56の上端部の両側からの流れ込みを効果的に抑えて、結果的に圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
乗りかご51の上昇時も同様であり、気流発生装置10a,10bを駆動する場合に、流れ計測センサ12bによって得られるカウンタウェイト56の下端部の両側からの巻き込み流れの卓越周波数fsに同期させて誘起流25を外方向に向けて断続的に発生させることで、カウンタウェイト56の下端部の両側からの流れ込みを効果的に抑えて、結果的に圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
なお、図22の例では、カウンタウェイト56の先端部両側にそれぞれ計測センサ12a,12bを設けたが、予め乗りかご51の運転状態(運転方向、速度等)に応じたカウンタウェイト56の両側からの巻き込み流れの卓越周波数を調べておき、その卓越周波数のデータを記憶装置15に記憶させておくことでも良い。
また、ここでは流線型の乗りかごを有する高速エレベータを例にして説明したが、箱形形状の乗りかごを有する低速エレベータついても同様であり、カウンタウェイト側に気流発生装置を設けて所定のタイミングで駆動制御することで、乗りかごとカウンタウェイトとのすれ違い時に発生する圧力変動を緩和して、空力騒音ならびに振動を抑制することができる。
また、カウンタウェイトだけでなく、乗りかごに対しても、上記第1〜7の実施形態で説明したように気流発生装置を設けて所定のタイミングで駆動制御することで、昇降路内の狭隘部の通過時における空力騒音を低減することができる。
さらに、上記各実施形態では、放電プラズマを利用した気流発生装置をエレベータ装置に適用した場合を想定して説明してきたが、気流発生装置としては、小型の振動膜を利用したシンセティックジェット装置を利用することも可能である。
図23にシンセティックジェット装置の構成を示す。
シンセティックジェット装置60は、振動膜61を有し、その振動膜61を駆動装置63によって振動させることで、噴き出し噴流62を発生させる装置である。なお、シンセティックジェット装置自体は公知であるため、ここでは、その具体的な構成の説明は省略する。
このようなシンセティックジェット装置60を用いた場合でも、上記各実施形態で説明したように、乗りかごの先端部での剥離流れの卓越周波数fsに同期させて噴き出し噴流62を乗りかごの運転方向に応じて所定方向に断続的に発生させることで、その剥離流れを効果的に抑えて、圧力変動に伴う空力騒音をより確実に低減することができる。
その他、例えば音波を利用して気流を発生する装置や、機械的に気流を発生する装置であっても良い。要は、エレベータの走行時に、かご先端部における表面境界層に気流を断続的に与えて振動を誘起することが可能な装置であれば、その気流の発生方法については特に限定されるものではない。
また、気流発生装置の設置位置としては、乗りかごの先端部表面の剥離現象の発生点近傍が望ましい。
さらに、図6乃至図9で説明したように、剥離流の卓越周波数をfsとすると、0.5fs<F<1.5fsの間の周波数Fにピークが存在するように気流発生装置の放電動作の周波数を制御することが望ましい。上記周波数Fは、変調周波数fmあるいは基本周波数fである。
要するに、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。