ステージ移動装置を用いてワークにさまざまな処理を施すワーク処理装置の需要が高まっている。例えば、平面型表示装置(以下、「FPD」と略称)の製造工程では、ワークとしてガラス基板をステージに搭載し、ステージの移動によってガラス基板をレーザ光で走査するレーザアニール装置の需要が高まっている。レーザアニール装置は、例えば、ガラス基板上にTFT(薄膜トランジスタ)を形成する際のシリコンの結晶化工程で用いられている。この種のレーザアニール装置では、レーザ光の光学系に精密な調整が施されているため、走査による調整のずれや振動により、レーザ光の照射位置にずれが発生しないように、光学系を固定して、ワークであるガラス基板をステージと一緒に移動させている。
近年、FPDの需要の増加につれて採算性を改善のために、大型のガラス基板でFPDを製造する必要が生じている。このため、ステージ移動装置が必要な工程においても、大型のガラス基板に合わせてステージが大型化している。その一方で、FPDは高精細化が進んでいるため、それぞれの製造工程において高精度な位置決めが要求される。高精度な位置決めを大型のステージで実現するには、ステージを高剛性化する必要がある。また、大型のステージで必要な剛性を確保すると、ステージ全体の重量(質量)が増加する。このため現在ではステージの重量が100kg以上のステージ移動装置も多くなっている。重量があるステージを高精度に位置決めする場合は、ステージの移動をエアスライド機構で案内する構成が採用されることが多い。
図8はエアスライド機構を採用したステージ移動装置の構成例を示す斜視図であり、図はその一部拡大図である。図示したステージ移動装置50は、定盤51と、エアスライド機構52と、ステージ53とを備えた構成となっている。エアスライド機構52は、長尺状の案内部材54と、スライダ55とを備えている。案内部材54には複数の案内面56a,56b,56c,56dが形成されている。スライダ55は、案内部材54に形成された案内面56a,56b,56c,56dに沿って移動するものである。スライダ55には複数の案内面56a,56b,56c,56dに対応して複数のスライドパッド57a,57b,57c,57dが取り付けられている。
エアスライド機構52では、案内部材54の案内面56a,56b,56c,56dとこれに対応するスライダ55のスライドパッド57a,57b,57c,57dとを僅かな隙間を介して対向する状態に配置する。そして、スライダ55のスライドパッド57a,57b,57c,57dに刻まれた溝から、案内部材54の案内面56a,56b,56c,56dに向けて高圧の空気を噴出させることにより、両者の間に薄い空気の層を形成する。この空気層の介在により案内部材54とスライダ55が非接触の状態に保持される。このため、スライダ55に一度外力を加えると、スライダ55は案内部材54に沿ってほぼ等速直線運動を行なう。
こうしたエアスライド機構52に組み合わせて用いられるアクチュエータにリニアモータ58がある。リニアモータ58は、案内部材54とスライダ55が対向する部分に設けられている。また、リニアモータ58は、それぞれ磁極を有する固定子59と可動子60を用いて構成されている。このようにエアスライド機構52とリニアモータ58を組み合わせたステージ移動装置50は、重量があるステージ53を高精度に位置決めするためには非常に有利な構成である。ただし、一度動き出したステージ53を瞬時に停止させることができないという不利な面がある。ステージ53を停止させる場合に、リニアモータ58のダイナミックブレーキを用いることも可能である(例えば、特許文献1を参照)。ただし、リニアモータ58のダイナミックブレーキは制動力が弱いため、ステージ53が重くなると、これを即座に停止させることができないという欠点がある。そこで、リニアモータのダイナミックブレーキとは別に、制動装置をステージ移動装置に組み込んだ構成が考えられている。
図10は制動装置を備えるステージ移動装置の第1構成例を示す斜視図であり、図11はその一部拡大図である。図示のように、制動装置61は、案内部材54の短手方向の両側に左右一対をなして設けられている。各々の制動装置61は、ブラケット62と、シリンダ63と、ブレーキパッド64とを用いて構成されている。ブラケット62は、スライダ55に取り付けられている。シリンダ63は、ブラケット62の外側に取り付けられている。ブレーキパッド64は、ブラケット62の内側に位置してシリンダ63の出力軸の先端に取り付けられている。
上記構成からなる制動装置61を備えるステージ移動装置50において、ステージ53の移動中に制動装置61を作動させる場合は、シリンダ63の駆動によりブレーキパッド64を進出させる。これにより、案内部材64が各々の制動装置61のブレーキパッド64で両側から挟み込まれる。このため、ステージ53を停止させようとする制動力が発生する。
図12は制動装置を備えるステージ移動装置の第2構成例を示す斜視図であり、図13はその要部拡大図である。図示のように、制動装置70は、案内部材54の短手方向の片側に設けられている。制動装置70は、第1のブラケット71と、直動ガイド機構72と、第2のブラケット73と、レール部材74と、シリンダ75と、ブレーキパッド76とを用いて構成されている。第1のブラケット71は、スライダ55の一方の側面に固定されている。第1のブラケット71は、L字形に形成されている。直動ガイド機構72は、レール形状の固定子77と、当該固定子77に案内されて移動する2つの可動子78とによって構成されている。固定子77は、第1のブラケット71の上に固定されている。第2のブラケット73は、直動ガイド機構72の2つの可動子78の上に搭載されている。第2のブラケット73は、第1のブラケット71とは逆向きのL字形に形成されている。レール部材74は、一対の支持部材79により定盤1の上に固定された状態で設けられている。レール部材74は、案内部材54と平行に配置されている。シリンダ75は、第2のブラケット73の上に搭載されている。ブレーキパッド76は、シリンダ75の出力軸の先端に取り付けられている。ブレーキパッド76は、第2のブラケット73との間にレール部材74を挟むように配置されている。
上記構成からなる制動装置70を備えるステージ移動装置50において、ステージ53の移動中に制動装置70を作動させる場合は、シリンダ75の駆動によりブレーキパッド76を進出させる。これにより、ブレーキパッド76と第2のブラケット73との間でレール部材74がシリンダ75の駆動力により挟み込まれる。このため、ステージ53を停止させようとする制動力が発生する。
このようにブレーキパッドを用いた摩擦制動方式の制動装置を備えるステージ移動装置としては、例えば、特許文献2又は特許文献3に記載されたものが知られている。
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
本発明の実施の形態については、以下の順序で説明する。
1.ワーク処理装置の構成
2.ステージ移動装置の構成
3.制動装置の構成
4.ワーク処理装置の動作
<1.ワーク処理装置の構成>
図1は本発明の実施の形態に係るワーク処理装置の構成を示すブロック図である。ワーク処理装置1は、さまざまな対象物をワークとして、当該ワークに目的とする処理を施す装置である。ワーク処理装置1は、大きくは、処理機能部2と、ステージ移動装置3と、制御部4と、操作部5とを備えた構成となっている。また、ステージ移動装置3は、制動装置6を含み、操作部5は、スタートボタン7aと非常停止ボタン7bを含む構成となっている。
処理機能部2は、処理の対象となるワークを処理する機能を有するものである。処理機能部2が行なう処理の内容は、処理の対象となるワークの種類にもよるが、例えば、加工処理、熱処理、リペア処理、欠陥検査処理などがある。加工処理には、例えば、エンドミルのような切削工具を物理的にワーク(被加工物)に接触させて行なう処理や、高エネルギー密度のレーザ光をワークに照射して行なう非接触式の処理などが含まれる。熱処理には、例えば、シリコンの結晶化(アモルファスシリコンからポリシリコンへの転換)などを目的に行なわれるレーザアニール処理などが含まれる。リペア処理には、例えば、ショートした配線を高出力レーザで加熱し切断する処理や、未接続の配線を局所CVD(Chemical Vapor Deposition)などで結合する処理が含まれる。欠陥検査処理には、例えば、半導体基板やガラス基板に形成された配線、薄膜トランジスタなどの欠陥を検査する処理などが含まれる。
ステージ移動装置3は、処理の対象となるワークを移動させるものである。例えば、処理の対象となるワークが、液晶表示装置、プラズマ表示装置、有機EL表示装置などに代表されるFPD用のガラス基板である場合は、当該ガラス基板をステージ移動装置3が移動させるものとなる。FPD用のガラス基板は、1枚のガラス基板からパネル基板(TFT基板、カラーフィルタ基板など)を複数枚切り出す(多面取りする)場合に、パネル基板の数倍以上の大きさになる。
制御部4は、ワーク処理装置1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのハードウェアを用いて構成されるものである。その場合、制御部4は、予めROMに格納された制御プログラムをCPUがRAMに読み出して実行することにより、ワーク処理装置1の動作を制御する。
操作部5は、ワーク処理装置1を操作するオペレータの入力操作を受け付けるものである。操作部5を用いてオペレータが入力操作したときの操作情報は制御部4に通知される。
制動装置6は、ステージ移動装置3が備えるステージ(後述)を停止させるために設けられたものである。
スタートボタン7aは、ワーク処理装置1を用いてワークを処理する場合に、ワーク処理装置1の動作を開始するときにオペレータによって押下操作される操作ボタンである。
非常停止ボタン7bは、ワーク処理装置1に何らかの異常が発生してステージ移動装置3のステージを緊急的に停止させる必要が生じたときにオペレータによって押下操作される操作ボタンである。
なお、操作部5には、ここで挙げるスタートボタン7aと非常停止ボタン7bの他にも、種々の操作ボタンが設けられている。例えば、操作部5には、電源ボタン、動作モードの切り換えボタン、ワークの処理条件を変更するための操作ボタン(テンキー等を含む)などが設けられている。
また、ここではワーク処理装置1の構成要素として、処理機能部2、ステージ移動装置3、制御部4及び操作部5を挙げているが、本発明はこれに限らず、他の構成要素を追加で含むものであってもよい。例えば図示はしないが、ステージ移動装置3が備えるステージに対してワークを移載するワーク移載装置を、ワーク処理装置1の構成要素の1つに含めてもよい。また、制御部4及び操作部5のうち、少なくとも一方は、ワーク処理装置1の本体部分とは別個に構成してもよい。
<2.ステージ移動装置の構成>
図2は本発明の実施の形態に係るステージ移動装置の構成例を示す斜視図であり、図3はその一部拡大図である。図示したステージ移動装置3は、上述した制動装置6の他に、定盤11と、エアスライド機構12と、ステージ13とを備えた構成となっている。エアスライド機構12は、案内部材14と、スライダ15とを備えている。
定盤11は、ステージ移動装置3の「ベース」を構成するものである。定盤11は、図示しないワーク処理装置1の架台に固定された状態で設けられている。エアスライド機構12(案内部材14、スライダ15)は、定盤11上でステージ13を移動させるとともに、当該ステージ13の移動方向を案内する移動案内手段となるものである。
ステージ13は、スライダ15の上に搭載されている。ステージ13は、スライダ15に固定されている。このため、ステージ13はスライダ15と一体に移動する構成となっている。ステージ13の上部には、図示しないワークを支持する支持部13aが設けられている。例えば、処理の対象となるワークがFPD用のガラス基板であれば、当該ガラス基板がステージ13の支持部13aに載せられる。その場合、ワークとなるガラス基板は、例えば、真空吸着方式によりステージ13の支持部13aに水平に支持された状態で固定される。
案内部材14は、長尺状に形成されている。案内部材14は、当該案内部材14の長手方向から見て凹形状に形成されている。案内部材14は、当該案内部材14の底面を定盤11の上面に接触させた状態で、定盤11の上に、例えばネジ止め等によって固定されている。案内部材14には複数(図例では4つ)の案内面16a,16b,16c,16dが形成されている。複数の案内面16a,16b,16c,16dは、案内部材14の長手方向に沿って形成されている。各々の案内面16a,16b,16c,16dは、高い平坦度をもって精密に研磨仕上げされている。また、複数の案内面16a,16b,16c,16dのうち、2つの案内面16a,16bは案内部材14の短手方向の両側に形成され、他の2つの案内面16c,16dは案内部材14の上面に左右に分けて形成されている。また、案内部材14の長手方向から見ると、2つの案内面16a,16bは、それぞれ定盤11の上面から垂直に起立する状態で互いに平行に形成され、他の2つの案内面16c,16dは、定盤11の上面と平行な向きで互いに平行(同一面状)に形成されている。
スライダ15は、案内部材14に形成された案内面16a,16b,16c,16dに沿って移動するものである。スライダ15は、案内部材14の長手方向から見て門型に形成されている。また、スライダ15は案内部材14の上に被さるように搭載されている。スライダ15には上述した複数の案内面16a,16b,16c,16dに対応して複数(図例では4つ)のスライドパッド17a,17b,17c,17dが取り付けられている。各々のスライドパッド17a,17b,17c,17dは、それぞれに対応する案内面16a,16b,16c,16dに近接して対向する状態に配置されている。すなわち、スライドパッド17aは案内面16aに近接して対向する状態で配置され、スライドパッド17bは案内面16bに近接して対向する状態で配置されている。また、スライドパッド17cは案内面16cに近接して対向する状態で配置され、スライドパッド17cは案内面16cに近接して対向する状態で配置されている。複数のスライドパッド17a,17b,17c,17dのうち、スライドパッド17aの案内面16aと対向する面(以下、「パッド面」という)は、精密に仕上げ加工されている。また、スライドパッド17aのパッド面には、空気を導く溝が刻まれている。こうしたパッド構造は、他の3つのスライドパッド17b,17c,17dにも同様に適用されている。
上記構成からなるエアスライド機構12においては、スライドパッド17aのパッド面に設けられた溝から高圧のエアを噴出させることにより、スライドパッド17aのパッド面とこれに対応する案内面16aとの間に薄い空気の層が形成される。これと同様に、他のスライドパッド17b,17c,17dに設けられた溝からも高圧のエアを噴出させることにより、対応する案内面16b,16c,16dとの間に薄い空気の層が形成される。こうした空気層の介在により、案内部材14の案内面16a,16b,16c,16dとスライダ15のスライドパッド17a,17b,17c,17dとの隙間が一定に保持される。また、案内部材14とスライダ15が非接触の状態に保持される。このため、スライダ15に一度外力を加えると、スライダ15は案内部材14に沿ってほぼ等速直線運動を行なう。
なお、移動案内手段については、案内部材14とスライダ15とを組み合わせたエアスライド機構12に限らず、ある方向に対してステージ13を移動可能に支持するものであればよい。例えば、レール状の固定子と、当該固定子に沿って移動自在とされた可動子とを組み合わせた直動ガイド機構を用いて移動案内手段を構成してもよい。
案内部材14の上面の凹部とその上に被さるスライダ15によって形成される空間には、リニアモータ18が設けられている。リニアモータ18は、ステージ13及びスライダ15を案内部材14の長手方向に移動させるための駆動手段となるものである。リニアモータ18の駆動状態(磁極の切り換え等)は、制御部4によって制御されるようになっている。リニアモータ18は、それぞれ磁極を有する固定子19と可動子20によって構成されている。リニアモータ18の固定子19は、案内部材14の上面の凹部底面に固定されている。固定子19は、断面コ字形の長尺状に形成されている。また、固定子19は、案内部材14の長手方向に沿って配置されている。リニアモータ18の可動子20は、スライダ15の案内部材14と対向する下面に固定されている。可動子20は、その一部(磁極形成部)20aを固定子19のコ字形の部分に挿入する状態で配置されている。
<3.制動装置の構成>
図4は本発明の実施の形態に係る制動装置の主要部の構成を示す概念図である。制動装置6は、内部が流体で満たされた、密閉された容器と、制動で停止すべき移動体の移動に連動して容器内で前記流体を移動(流動)させる流体移動手段と、移動体を停止させるときに容器内で流体の移動を阻止する流体移動阻止手段とを備えている。より具体的に記述すると、制動装置6は、シリンダ21と、ピストン22と、スプール23と、バイパス管24と、制御弁25とを備えた構成となっている。このうち、シリンダ21とバイパス管24は、上記の「密閉された容器」を構成するものである。また、ピストン22とスプール23は、上記の「流体移動手段」を構成するものである。また、制御弁25は、上記の「流体移動阻止手段」を構成するものである。また、「制動で停止すべき移動体」は、ステージ13に相当するものである。
シリンダ21は、円筒状に形成されている。シリンダ21は、案内部材14と平行な向きで定盤11の上に固定されている。シリンダ21の内部は密閉された空間になっている。シリンダ21の中心軸方向の一端と他端には、それぞれシール孔26が形成されている。また、シリンダ21の外周壁には、当該シリンダ21の中心軸方向に距離を隔てて2つの連結孔27が設けられている。
ピストン22は、シリンダ21の中心軸方向に移動するように、シリンダ21の内部に組み込まれている。ピストン22は、シリンダ21の内部を第1室21aと第2室21bに仕切っている。このため、シリンダ21の内部でピストン22が移動すると、その移動方向と移動量に応じて、第1室21aと第2室21bの容積が相対的に変化する。すなわち、シリンダ21の内部でピストン22を図4の左方向に移動させると、その移動量に応じて第1室21aの容積が減少し、その分だけ第2室21bの容積が増加する。また反対に、シリンダ21の内部でピストン22を図4の右方向に移動させると、その移動量に応じて第1室21aの容積が増加し、その分だけ第2室21bの容積が減少する。シリンダ21の内部におけるピストン22の移動範囲は、ピストン22が移動中に連結孔27を塞がないように、一方の連結孔27から他方の連結孔27に至る範囲よりも短い範囲に設定されている。
スプール23は、ピストン22と一体化された状態でシリンダ21の外部に引き出された「軸体」となるものである。スプール23は、断面円形に形成されている。ここで、シリンダ21の中心軸方向の長さや、当該中心軸方向におけるスプール23の長さは、予め設定された移動範囲内でステージ13を移動させても、シリンダ21とピストン22が干渉したり、シリンダ21とスプール23が干渉したりしないように設定されている。例えば、シリンダ21の中心軸方向におけるスプール23の長さは、ステージ13の移動範囲の2倍程度に設定されている。
スプール23は、平面視長方形の環状に形成されている。更に詳述すると、スプール23は、第1の軸部23aと、第2の軸部23bと、第3の軸部23cとによって形成されている。第1の軸部23a、第2の軸部23b及び第3の軸部23cは、全体として環状をなすように一体に形成されている。スプール23は、ステージ13と一体に移動するように、ステージ13側に固定されている。具体的には、スプール23は、ステージ13と一体に移動するスライダ15に固定されている。ただし、本発明はこれに限らず、スプール23を図示しない固定用部材を用いてステージ13に直接固定してもよい。また、ステージ13及びスライダ15のいずれか一方に、スプール23を固定するための固定用部材とは別の中間部材(不図示)を介して、スプール23を固定してもよい。
第1の軸部23aは、ピストン22と一体に形成されている。第1の軸部23aは、ピストン22と同軸状に配置されている。第1の軸部23aは、ピストン22の一方の端面と他方の端面から、それぞれシリンダ21の中心軸方向に延びている。第1の軸部23aは、ピストン22を間(中間部)に挟んで、シリンダ21の中心軸方向と平行に配置されている。第1の軸部23aの一部は、シリンダ21の内部に収まっており、第1の軸部23aの他部は、シリンダ21の外部に引き出されている。また、第1の軸部23aは、シリンダ21に設けられたシール孔26を通して、シリンダ21の中心軸方向の一方と他方に向けて、シリンダ21の外部に引き出されている。第2の軸部23bは、シリンダ21の外部で、かつ、シリンダ21の横に並ぶかたちで第1の軸部23aと平行に配置されている。第2の軸部23bの長さ方向の中間部は、一対の結合部28でスライダ15の一方の側面に固定されている。一対の結合部28は、第2の軸部23bの長さ方向に距離を隔てて設けられている。第3の軸部23cは、第1の軸部23aと第2の軸部23bを連続的につなぐかたちで、各々の軸部23a,23bの長さ方向の両端部に配置されている。第3の軸部23cはU字形に形成されている。また、シリンダ21の外部に引き出された第1の軸部23aと、第2の軸部23bと、第3の軸部23cは、定盤11の上面から浮いた状態に配置されている。
バイパス管24は、全体として略U字形に形成されている。バイパス管24の一端部はシリンダ21の一方の連結孔27に接続され、バイパス管24の他端部はシリンダ21の他方の連結孔27に接続されている。このため、シリンダ21の内部とバイパス管24の内部は、2つの連結孔27を介して連通した状態になっている。シリンダ21とバイパス管24は、一体で形成してもよいし、それぞれ別体で構成したものを相互に組み付けて連結してもよい。バイパス管24は、上述したスプール23の軸部と同様に、定盤11の上面から浮いた状態に配置されている。また、バイパス管24の断面積は、シリンダ21の断面積よりも小さく設定されている。バイパス管24の断面積は、当該バイパス管24の外周壁を除いた部分の断面積で規定され、シリンダ21の断面積は、当該シリンダ21の外周壁を除いた部分の断面積で規定されるものである。このため、バイパス管24の断面積をSbとし、バイパス管24の内径(直径)をDbとすると、「Sb=(π×Db2)÷4」の数式でバイパス管24の断面積が求まる。同様に、シリンダ21の断面積をScとし、シリンダ21の内径(直径)をDcとすると、「Sc=(π×Dc2)÷4」の数式でシリンダ21の断面積が求まる。シリンダ21の断面積Scは、ピストン22の直径Dpから求められるピストン22の断面積「Sp=(π×Dp2)÷4」に置き換えて考えてもよい。
シリンダ21の内部とバイパス管24の内部は、それぞれ流体29で満たされている。シリンダ21の第1室21aと第2室21bはバイパス管24でつながっている。このため、シリンダ21の内部とバイパス管24の内部は、共通(同一)の流体29で満たされている。また、ステージ13と一体にスプール23が移動すると、シリンダ21の内部では、ステージ13の移動に連動してピストン22がシリンダ21の中心軸方向に移動する。そうすると、シリンダ21及びバイパス管24の内部では、ピストン22の移動にしたがって流体29が移動する。
流体29に関しては、圧縮性の流体を用いてもよいし、非圧縮性の流体を用いてもよい。圧縮性の流体としては、空気、窒素ガスなどの気体が挙げられる。非圧縮性の流体としては、純水、油などの液体が挙げられる。ここでは、非圧縮性の流体である純水を流体29として用いることとする。流体29に純水を用いた場合は、万が一、シリンダ21の外に流体29が流出しても、ワークへの影響を避けることができる。清浄度の要求が厳しくない場合は、常温での飽和水上気圧が低い流体を使用してもよい。
ここで、シリンダ21の内部に流体29を充填するにあたって、各々のシール孔26の内壁部分には、シリンダ21の外部への流体29の流出を阻止するために、シリンダ21の中心軸方向に間隔をあけて、図示しない2つのシール部材が組み込まれている。各々のシール部材は、スプール23(第1の軸部23a)の外径に対応した内径の孔を有する円形のリング状に形成されている。各々のシール部材は、例えば、適度な潤滑性を有する樹脂材料を用いて形成されている。そして、スプール23の第1の軸部23aは、各々のシール部材の孔に嵌合する状態で、シリンダ21の外部に引き出されている。また、各々のシール部材の内周面は、スプール23の第1の軸部23aの外周面に密に接触している。
制御弁25は、バイパス管24の途中、さらに詳しくはバイパス管24の中間部に設けられている。制御弁25は、バイパス管24の管路を開閉する「弁」として設けられたものである。制御弁25は、自身の弁体によってバイパス管24の管路を開閉する。制御弁25は、ステージ13を停止させるときにバイパス管24の管路を弁体で閉じることにより、バイパス管24の内部で流体29の移動を阻止する。制御弁25は、例えば、電磁弁を用いて構成されている。制御弁25を構成する電磁弁としては、通電時に開状態(開弁)となり、非通電時に閉状態(閉弁)となる「ノーマリークローズタイプ」のものが採用されている。制御弁25の開閉動作は、制御部4によって制御されるようになっている。
<4.ワーク処理装置の動作>
次に、本発明の実施の形態に係るワーク処理装置の動作について説明する。なお、ここではワーク処理装置の動作のうち、特にワーク処理装置1が備えるステージ移動装置3の動作(駆動状態)を制御部4で制御する際の手順について、図5のフローチャートを用いて説明する。
制御部4は、ワークの処理を開始するのに先立って、操作部5のスタートボタン7aがオペレータによって押下操作されたかどうかを判断する(ステップS1)。オペレータは、ステージ移動装置3のステージ13上に図示しないワーク(例えば、FPD用のガラス基板など)が固定されている状況で、操作部5のスタートボタン7aを押下する。実際にオペレータが操作部5のスタートボタン7aを押下操作すると、当該オペレータの入力操作に基づく操作情報が制御部4に通知される。このため、制御部4では、操作部5からの通知(スタートボタン7aが押下された旨の通知)の有無に基づいて、スタートボタン7aが押下されたかどうかを判断する。
次に、制御部4は、上記ステップS1で操作部5のスタートボタン7aが押下されたと判断すると、それをきっかけにして制御弁25に通電する(ステップS2)。これにより、制御弁25の弁体が開状態となる。このため、制動装置6のバイパス管24の管路内を流体29が自由に行き来できる状態になる。
次に、制御部4は、リニアモータ18の駆動を開始する(ステップS3)。リニアモータ18を駆動する場合は、その駆動に先立って、例えば、固定子19と可動子20との間にダイナミックブレーキによる制動力を働かせる。これにより、スライダ15が停止された状態に保持される。この状態から、制御部4により与えられる駆動信号にしたがって、例えば固定子19の長手方向で磁極(N極、S極)の切り換えを行なうと、固定子19と可動子20の間に移動用の磁界が発生する。そして、この磁界の作用でスライダ15に推進力が加わる。このため、スライダ15が案内部材14の長手方向に移動する。
スライダ15は、予め設定された始点位置から案内部材14の長手方向に移動を開始する。そうすると、スライダ15と一体にステージ13も移動する。このため、ステージ13上に固定されたワークが案内部材14の長手方向に移動を開始することになる。このとき、ステージ13は、リニアモータ18の駆動状態に応じて一定の速度で移動する。
ワークの移動経路の途中には、例えば、処理機能部2がレーザアニール処理を行なうものであれば、レーザ光源と光学系を含むレーザ光照射手段が処理機能部2として配置される。レーザ光照射手段は、例えば、定盤11の上に設置される門型の架台(不図示)の梁部に実装され、その下方をステージ13が移動するものとなる。そして、ステージ13上に固定されたワークが予め設定された位置まで移動すると、レーザ光照射手段からワークに向けてレーザ光が照射される。これにより、ステージ13上に固定されたワークの表面が、当該ステージ13の移動にしたがって、レーザ光の照射により一方向に走査される。FPD用のガラス基板をワークとして取り扱う場合は、ガラス基板上に隙間なく均一にレーザ光を照射するために、ステージ13の移動方向と直交する方向にレーザ光の照射位置をずらしつつ、ステージ13を案内部材14に沿って複数回往復移動させることになる。その際、制御部4は、予め設定された始点と終点との間をステージ13が往復移動するようにリニアモータ18の駆動を制御する。
このようにステージ13を移動させると、制動装置6のスプール23がステージ13と一体になって移動する。また、スプール23が移動すると、当該スプール23と一体構造をなすピストン22がシリンダ21の内部で移動する。このとき、シリンダ21及びバイパス管24の内部に充填されている流体29は、ピストン22の移動に伴ってバイパス管24の管路内を流れる。例えば、図6に示すように、スプール23と一体にピストン22が図の右方向に移動すると、第2室21bに充填されていた流体29は、図中矢印で示すように、バイパス管24に流入するとともに、当該バイパス管24を通して第1室21aに流入する。また、図示はしないが、スプール23と一体にピストン22が図の左方向に移動した場合は、第1室21aに充填されていた流体29が、バイパス管24に流入するとともに、当該バイパス管24を通して第2室21bに流入する。つまり、ステージ13と一体にスプール23が移動すると、その移動方向に応じて、バイパス管24の内部を、第1室21aから第2室21bに向かう方向、又は第2室21bから第1室21aに向かう方向に、流体29が流れる。このとき、スプール23の移動に伴う抵抗は、流体29の粘性抵抗と、上記シール部材による抵抗と、流体29がバイパス管24に圧縮されて通過するときの抵抗を合成したものとなる。
次に、制御部4は、ワークの処理が終了したかどうかを判断する(ステップS4)。そして、ワークの処理が終了したと判断すると、制御部4は、リニアモータ18の駆動を停止した後(ステップS5)、制御弁25への通電を遮断する(ステップS6)。これにより、スライダ15は再び停止した状態に保持される。
一方、ワークの処理が終了していないと判断した場合は、制御部4は、操作部5の非常停止ボタン7bがオペレータによって押下操作されたかどうかを判断する(ステップS7)。オペレータが操作部5の非常停止ボタン7bを押下操作すると、当該オペレータの入力操作に基づく操作情報が制御部4に通知される。このため、制御部4では、操作部5からの通知(非常停止ボタン7bが押下された旨の通知)の有無に基づいて、非常停止ボタン7bが押下されたかどうかを判断する。そして、操作部5の非常停止ボタン7bが押下されない状況では上記ステップS4に戻る。
これに対して、制御部4は、上記ステップS7で操作部5の非常停止ボタン7bが押下された判断すると、それをきっかけにして上記ステップS6に移行し、制御弁25への通電を遮断する。これにより、図7に示すように、制御弁25の弁体が開状態から閉状態に切り替わる。すなわち、制御弁25が非通電状態になると、バイパス管24の管路が制御弁25の弁体によって閉じられる。この状態では、バイパス管24の内部を流体29が自由に流動できなくなる。
このため、ステージ13の移動中に非常停止ボタン7bが押された場合は、ステージ13に移動に伴う慣性力が、スプール23及びピストン22を介して、密閉容器(21,24)内の流体29に加わる。そうすると、閉容器(21,24)内で流体29の圧力(流体圧)が上昇する。例えば、上記図7において、スプール23と一体にピストン22が図の右方向に移動しているときに制御弁25が閉状態になった場合は、第2室21bに充填されている流体29の内圧が上昇する。これと反対に、スプール23と一体にピストン22が図の左向に移動しているときに制御弁25が閉状態になった場合は、第1室21aに充填されている流体29の内圧が上昇する。こうしてシリンダ21内の第1室21a又は第2室21bで流体29の内圧が上昇すると、シリンダ21内でピストン22の移動を阻止しようとする強い制動力が発生する。この制動力は、ピストン22、スプール23及びスライダ15を介してステージ13に加えられる。このように、定盤11上で案内部材14に沿って移動するステージ13に対し、流体圧の変化を利用して制動力を加えることにより、当該制動力の印加によってステージ13が停止する。
このとき、制御弁25を介してバイパス管24の中を流れる流体29の流量が少なくても、バイパス管24の断面積がシリンダ21の断面積よりも小さくなっているため、パスカルの原理により、小さな弁体でも大きな制動力を発生させることができる。その理由を少し詳しく説明する。まず、上述したようにバイパス管24の断面積をSbとし、シリンダ21の断面積をScとする。また、流体29の作動圧力をPwとし、制御弁25の弁体に加わる力をFbとし、シリンダ21によって発生する制動力をFcとする。そうした場合、「Fb=Sb×Pw」の計算式と「Fc=Sc×Pw」の計算式が成り立つ。このため、制動力は「Fc=Fb×(Sc÷Sb)」の計算式で表される。この計算式から分かるように、バイパス管24の断面積Sbを相対的に小さくするか、シリンダ21の断面積Scを相対的に大きくすると、より大きな制動力Fcが得られる。例えば、バイパス管24の断面積Sbをシリンダ21の断面積Scの1/4に設定すると、制御弁25の弁体に加わる力Fbの4倍相当の制動力Fcを発生させることができる。実際の設計においては、ステージ13を停止させるうえで必要とされる制動力に合わせて、シリンダ21の断面積Scと流体29の作動圧力Pwを決定し、制御弁25の弁体の耐荷重からバイパス管24の断面積Sbを決定するとよい。
本発明の実施の形態に係るワーク処理装置1においては、ステージ移動装置3が備える制動装置6が、バイパス管24を流れる流体29の移動を制御弁25で阻止(規制)することにより、シリンダ21の内部に制動力が発生する仕組みを採用している。このため、摩擦制動方式のように粉塵等を発生させることなく、摩擦制動方式と同等又はそれ以上に強い制動力を発生させることができる。また、本発明の実施の形態に係る制動装置6では、粉塵等の発生がないため、クリーンルームなどの清浄な環境下に設置されるステージ移動装置3やこれを備えるワーク処理装置1にも問題なく採用することができる。
また、流体29として、非圧縮性の流体を用いた場合は、シリンダ21の内部で、一方の室内に充填された流体29の内圧が上昇しても、当該室内の容積が変化しない。このため、ステージ13に瞬間的に強い制動力を加えることができる。したがって、ステージ13を瞬時に停止させることができる。
また、流体29として、圧縮性の流体を用いた場合は、シリンダ21の内部で、一方の室内に充填された流体29の内圧が上昇したときに、当該室内の容積が流体の圧縮性に応じて若干変化する。このため、ステージ13を停止させる際の衝撃を緩和することができる。
また、非圧縮性の流体を用いる場合に、制御弁25の弁体の開度を可変とし、制御弁25が非通電状態になったときに弁体を完全に閉じないように(換言すると、弁体が閉状態になっても僅かに管路が開いた状態となるように)制御してもよい。このように制御すれば、流体29の内圧が上昇したときに、その流体圧を制御弁25の弁体を介して一方から他方に逃がすことができる。このため、ステージ13を停止させる際の衝撃を緩和することができる。また、ステージ13を減速させながら停止させることができる。
また、制御弁25をノーマリークローズタイプの電磁弁で構成しておけば、ステージ13の移動中に何らかの異常が発生して電磁弁への通電が断たれた場合に、制御弁25の弁体が即座に閉状態となってバイパス管24の管路が閉じられる。このため、何らかの異常が発生して制御弁25への通電が断たれたときに、自動的に制動力を発生させてステージ13を停止させることができる。したがって、異常発生時の安全性を確保することができる。
また、バイパス管24の断面積をシリンダ21の断面積よりも小さくしているため、比較的小さな制御弁25で大きな制動力を発生させることができる。このため、摩擦制動方式の制動装置であれば、大型のステージの重量にあわせて制動装置にも大型のアクチュエータを用いる必要がある。これに対して、上記の制動装置6の場合は、大型のアクチュエータを使用しなくても、大型のステージを停止させるのに十分な制動力を発生させることができる。例えば、100kgを超えるような大型のステージであっても、上記の制動装置6によれば、即時停止させることができる。また、非常停止時に制動装置6の作動によりステージ13を停止させることで、ステージ13の衝突等に伴う機械的な被害や、これに伴う設備復旧のための稼働停止を避けることができる。
なお、上記実施の形態においては、ステージ移動装置3が備える制動装置6を、ステージ13を非常停止させる場合に利用するものとしたが、本発明はこれに限らず、ワークの処理中にステージ13を所望の位置に停止させるための制動装置として利用してもよい。その場合は、制動装置6を作動させたときにステージ13の制動距離が短くなるため、ステージ13を所望の位置に精度良く停止させることができる。
また、ステージ移動装置3の制動装置6は、案内部材14の片側だけでなく、案内部材14の両側に設けてもよい。
また、ステージ移動装置3が備えるステージ13は、処理の対象となるワークを搭載する以外にも、例えば、ワークを処理する処理機能部2を搭載するものとしてもよい。
また、ステージ移動装置3のステージ13は、一軸方向に移動するものに限らず、例えば、水平面に平行なXY平面内でX軸方向とY軸方向の二軸方向に移動するものであってもよい。さらにその場合は、ステージの移動方向ごとに制動装置6を設けてもよい。