JP2010260830A - 植物由来物質への耐水性を有する抗カビ処理方法及びそれに用いる液剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】人体に優しい抗カビ剤であるホウ酸化合物を、植物由来物質、特にその中で利用価値の高い木材、ラタンあるいは竹の表面に、長期間安定的に保持させることを可能にし、以て、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に天然素材を含むイスやテーブル等の家具として好適な、抗カビ効果の高い耐水性家具を提供することを可能にする、植物由来物質への耐水性を有する抗カビ処理方法及びそれに用いる液剤を提供すること課題とする。
【解決手段】アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と抗カビ剤としてのホウ酸化合物とが反応して、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖を生成して前記ホウ酸化合物を固定化していることを特徴とする抗カビ処理用液剤である。
【選択図】なし
【解決手段】アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と抗カビ剤としてのホウ酸化合物とが反応して、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖を生成して前記ホウ酸化合物を固定化していることを特徴とする抗カビ処理用液剤である。
【選択図】なし
Description
本発明は、植物由来物質への耐水性を有する抗カビ処理方法及びそれに用いる液剤に関し、特に耐水性家具、より詳細には、例えばベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いるイスやテーブル等の家具であって、抗カビ性を有すると共に十分な耐水性を有するために、雨ざらし状態に置かれても劣化しにくい、植物由来物質への耐水性を有する抗カビ処理方法及びそれに用いる液剤に関するものである。
植物由来物質は、再生可能物質であり、環境に廃棄されても自然に分解するため、環境に優しい素材として近年再度注目されてきている。植物由来物質としては、木材、ラタン、竹等が特に注目され、その使用範囲は広がっている。
これらの物質を有効利用する場合問題となる点は幾つかあるが、特に水に弱く、カビが生え易いことが挙げられる。例えば、木材を家の材料としたり、家具などに使用する場合、特に雨や水などが当たる部分での使用が問題となる。
そこで例えば、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いられるイスやテーブル等の家具としては、雨水に晒されることを前提に、全体をプラスチック成形したものが多く用いられている。また、アルミニウムやステンレス製のチューブでイス形状に形成したフレームの座面及び背もたれ面対応部に、耐水性のある合成樹脂製編成材を編成して座面及び背もたれ面を形成したものも多く用いられている。
一方において、木材、ラタン、竹等の天然素材は、見る人、使う人にぬくもり感や安らぎ感を与えるものであるため、建築材料や家具等に広く利用されている。しかし、これらの天然素材製のイスやテーブル等の家具は、その表面に水がかかると、天然素材の内部に水が浸透して素材が腐るため、長期使用に耐えられなくなる。また、水が素材内部に浸透することにより、内部にカビ等が生え、素材の耐久性が低下することになる。
特に近年、木材資源の保護の目的で、木材の代わりに、成長が早いラタンや竹などを用いて、イスやテーブルなどの家具やカゴなどを作成することが行われている。しかし、これらの材料は特にカビが発生し易く、水や雨などが当たる場所での使用が著しく制限されている。従って、木材、ラタン、竹等の天然素材製の家具につき、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外においても使用したいとの要望があるものの、その要望に応えることができておらず、屋外用としては、専ら上記プラスチック製等のものしか用いられていないのが現状である。
本発明は、これら水や雨に弱い植物由来物質、特にその中で利用価値の高い木材、ラタンあるいは竹の表面に、抗カビ効果が高く、且つ、その抗カビ効果の保持性の高いコート剤を処理することにより、天然植物由来物質の有効利用を図ることを企図するものであるが、いわゆる抗カビ剤としては多くの種類が知られている(非特許文献1)。これらの抗カビ剤はカビに対し有効であるが、その一方で、他の動植物に悪影響を与えるものが多いことが問題として指摘されている。
ホウ酸化合物は、その物自身が天然無機物であるため、カビや昆虫などへは有効であるが、腎臓を持つ動物では、過剰に摂取したホウ酸塩は腎臓の働きで体外へ排出するため、その毒性は微弱であると言われている(非特許文献2)。
これらのホウ酸化合物としては、具体的には、ホウ素、ホウ砂、ホウ酸亜鉛等が使用されている。但し、これらホウ酸化合物は水に対する溶解度がそれほど高くなく、例えばホウ酸の場合の溶解度は、通常の温度では5重量%程度に過ぎないため、高い抗カビ効果を得る上で問題があった。
水に対する溶解度を上げるため、近年、八ホウ酸二ナトリウム四水和物(通称DOT)が開発された。この化合物は、約15重量%程度の溶解度があるために抗カビ効果が高く、木材用として実用化されている(特許文献1、非特許文献2)。
これらDOTを始め、ホウ酸化合物や他の抗カビ剤は、そのほとんどがいわゆるバインダー機能を有していないため、処理表面からの脱離を防ぐために、何らかの表面処理剤、いわゆるバインダーもしくは上塗り剤(オーバーコート剤)が必要となる。
バインダーや上塗り剤を用いると、初めのうちは抗カビ剤が有効に働くが、次第にその効力が低下する。その理由は、木材、ラタンあるいは竹等の天然植物由来物質は、内部に多くの水分を含有しており、また、空隙も多く、その上に柔軟性があるため、使用時あるいは温度や湿度の変化により変形や伸縮することが多く、その際、そのバインダーや上塗り剤も変形や伸縮を起こし、その空隙から抗カビ剤が脱離し、その結果、長期安定した抗カビ作用が発揮されないという問題が指摘されていた。
また、このような表面処理剤としては従来、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられているが、これらの樹脂は、合成有機高分子であるため、木材の表面に塗工すると、その表面から自然の風合いが失われてしまうという問題がある。しかも、有機塗料は火が近づくと燃え(こげ)て、有害なガスを発生させるおそれがあり、更に、ホルムアルデヒド発生の問題もあり、安全上問題が多い。
このような問題を解決する表面処理剤として天然物由来の塗料がある。それらは原料に天然の油状物質を使用しているため、自然の風合いを残すことが可能であり、ホルムアルデヒドの発生を伴わない、環境に優しい塗料であると言える。しかし、原料の油状物質は木材等の表面で固定化されないため、屋外で長時間雨に当たると溶脱してしまい、長期の安定使用には耐えられず、また、表面が擦られると脱離してしまうので、この点からも長期安定使用は望めない。
このように、従来の表面処理剤を塗布した天然素材製の家具は、長期間耐水性及び抗カビ性を維持しての長期間安定使用が望めないため、上記のとおり屋外においても使用したいとの要望があるものの、専ら屋内での使用に限らざるを得ないのが現状である。
ファインケミカル、Vol33、NO12、P.57、2004年
U.S. Borax Inc. カタログ
本発明は上記要望に応えるためになされたもので、人体に優しい抗カビ剤であるホウ酸化合物を、植物由来物質、特にその中で利用価値の高い木材、ラタンあるいは竹の表面に、長期間安定的に保持させることを可能にし、以て、ベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に天然素材を含むイスやテーブル等の家具として好適な、抗カビ効果の高い耐水性家具を提供することを可能にする、植物由来物質への耐水性を有する抗カビ処理方法及びそれに用いる液剤を提供すること課題とする。
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、人体に対し低毒性であるが故に、抗カビ剤として古くから使用されているホウ酸化合物を、アルコキシシラン及び加水分解可能な有機金属化合物と共存及び/又は反応させることにより、植物由来物質の表面もしくは内部に固定化させ、その効果を持続させ得ることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記抗カビ処理用液剤及び抗カビ処理方法により、人体に対し低毒性である抗カビ剤(ホウ酸化合物)を、植物由来物質の表面もしくは内部に固定化させ、その効果を持続させるものである。
[1]アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と抗カビ剤としてのホウ酸化合物とが反応して、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖を生成して前記ホウ酸化合物を固定化していることを特徴とする、抗カビ処理用液剤。
[2]上記アルコキシシラン化合物と上記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有していることを特徴とする、上記[1]に記載の抗カビ処理用液剤。
[3]上記アルコキシシラン化合物と上記ホウ酸化合物とのモル比が1:0.1〜1:1.2の範囲であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の抗カビ処理用液剤。
[3]上記アルコキシシラン化合物と上記ホウ酸化合物とのモル比が1:0.1〜1:1.2の範囲であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の抗カビ処理用液剤。
[4]植物由来物質に抗カビ性を有した耐水性を付与する抗カビ処理方法において、
液剤として上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の抗カビ処理用液剤を使用して前記植物由来物質を処理することを特徴とする、抗カビ処理方法。
液剤として上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の抗カビ処理用液剤を使用して前記植物由来物質を処理することを特徴とする、抗カビ処理方法。
[5]上記アルコキシシラン化合物が下記構造式(1)で示されることを特徴とする、上記[4]に記載の抗カビ処理方法。
(式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、nは1〜10である。)
(式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、nは1〜10である。)
[6]上記アルコキシシラン化合物が下記構造式(2)で示されることを特徴とする、上記[4]に記載の抗カビ処理方法。
(式(2)において、R5、R6及びR7は、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、R8はこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは1〜10である。)
(式(2)において、R5、R6及びR7は、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、R8はこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは1〜10である。)
[7]上記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属アルコキシドである、上記[4]乃至[6]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
[8]上記植物由来物質が、木材、ラタン及び竹であることを特徴とする、上記[4]乃至[7]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
[9]上記植物由来物質を用いて作られたものが、イス、テーブル等の家具であることを特徴とする、上記[4]乃至[8]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
[8]上記植物由来物質が、木材、ラタン及び竹であることを特徴とする、上記[4]乃至[7]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
[9]上記植物由来物質を用いて作られたものが、イス、テーブル等の家具であることを特徴とする、上記[4]乃至[8]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
[10]上記液剤の上記アルコキシシラン化合物と上記ホウ酸化合物とのモル比が1:0.1〜1:0.6の範囲であり、上記液剤中のホウ酸濃度が7.8%以下である場合において、植物由来物質を予め八ホウ酸二ナトリウム四水和物水溶液に浸漬し、乾燥した後に処理を行うことを特徴とする、上記[4]乃至[9]のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
本発明によれば、植物由来物質の表面に、その風合いを損なうことなく、良好な抗カビ性を有した耐水性を付与することができるため、特にベランダ、屋外テラスのあるレストラン、屋外ステージ、プール等の屋外において用いる、少なくとも一部に植物由来物質を含むイスやテーブル等の家具として好適な、抗カビ性を有した耐水性家具を提供し得る効果がある。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。本発明において用いる植物由来物質としては、特に木材、ラタン、竹等が挙げられるが、これらに限定される訳ではないことは言うまでもない。そして、それら植物由来物質の表面に塗工する塗工液は、抗カビ剤としてホウ酸化合物、及びアルコキシシラン化合物(以下、シラン系化合物ということがある)、更に、ホウ酸化合物と反応し、且つ、シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる触媒を含有し、必要に応じて更に、それらを互いに溶解させる溶媒を含有する塗工液を用いることを特徴とするものである。
具体的に示すと、いわゆるゾル・ゲル法を用い、ホウ酸化合物共存下で、アルコキシシラン及び加水分解可能な有機金属塩が加水分解及び縮・重合反応することにより、得られたシロキサン結合の高分子鎖内にホウ酸化合物が取り込まれ、植物由来物質の内部及びその表面に固定化されることにより、その植物由来物質に抗カビ効果を付与させるものである。以下に、更に具体的に説明する。
シラン化合物を用い、耐水性、耐候性、耐摩耗性などの諸性能に優れたシロキサン結合のポリマーを合成する方法は、一般にゾル・ゲル法と呼ばれており、多くの分野で応用されている。本塗工液は、基本的反応にはこのゾル・ゲル法を利用するものであり、一般的には、ゾル・ゲル液としては、下記組成式1に示す溶液が使用される。
<組成式1>
Si(OR)4+aH2O+酸(若しくはアルカリ)触媒+溶媒
<組成式1>
Si(OR)4+aH2O+酸(若しくはアルカリ)触媒+溶媒
この溶液は、溶媒(通常、アルコール)中に主剤であるシラン化合物(上記組成式(1)でSi(OR)4で示す)の他に、反応水(aH2O)と触媒(主に塩酸や硝酸)を加え、必要に応じ加熱しながら、十分に撹拌することで得られる。
上記シラン系化合物としては、一般的には、下記構造式(3)で示されるシラン化合物が例示される。
Si(OR)4 (3)
Si(OR)4 (3)
このシラン化合物中に含まれる置換基(アルコキシ基、ORで示す)は、水と反応し、下記反応式1に示すように、加水分解・縮重合し、強固な3次元のシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)のネットワークを形成する。
<反応式1>
(1)≡Si−OR+H2O → ≡Si−OH+ROH
(2)≡Si−OH+HO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+H2O
(3)≡Si−OH+RO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+ROH
<反応式1>
(1)≡Si−OR+H2O → ≡Si−OH+ROH
(2)≡Si−OH+HO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+H2O
(3)≡Si−OH+RO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+ROH
ここで得られるシロキサン結合の、結合エネルギーは106kcal/molである。一方、有機化合物の典型的な結合であるC−C結合の結合エネルギーは、82.6kcal/molである。従って、シラン化合物が加水分解・縮重合することによって生成する、シロキサン結合を有する塗工膜は、有機化合物由来の塗工膜と比べ、はるかに熱的に安定な塗工膜であることが分かる。この熱的に安定な結合によって形成される塗工膜は、耐水性、耐候性、耐摩耗性に優れたものとなり、その結果、耐久性に優れた塗工膜の製造が可能となる。
しかし、この組成液で示される塗工液を植物由来物質表面塗工液として利用すると、以下に示すような多くの問題が生じる。
この液組成は、事前に反応水と触媒が添加されているため、液剤調合時にすでに反応が始まっており、液濃度が高い液剤は、ゲル化時間が短くなり、長期保存ができず、いわゆる保存安定性の問題が生じる。そのため、液濃度が低い液剤を用いなければならず、結果として、十分な性能を示す液剤を安定的に使用するには困難が伴う。その上、液剤中の酸触媒が植物由来物質を劣化させるおそれがあるため、使用上多くの制約を伴う。
また、このようなシロキサン結合の塗工膜は、表面を完全に覆うことが不可能であるため、その空隙からカビ菌が侵入し、結果として、抗カビ作用が不十分となることが予測できる。一方、ホウ酸化合物のみでは、上述したようにバインダー効果が無いため、長時間雨や水が当たる場所に放置すると、ホウ酸化合物は脱離してしまう。
そこで本発明は、そのままでは木材等の表面から脱離し易いホウ酸化合物を、酸触媒を用いることなく生成させたシロキサン結合の内部に保持することにより、安定的に抗カビ作用を維持させる方法を提供せんとする。
ここで用いる基本的な酸触媒を使用しないゾル・ゲル液は、以下の組成式2のようになる。
<組成式2>
Si(OR)4+bM(OR)x+溶媒
<組成式2>
Si(OR)4+bM(OR)x+溶媒
ここで、組成式2は液剤中に反応水を入れない組成である。この場合、液剤中には反応水が添加されていないため、液剤自体は安定である。この液剤を塗工すると、塗工物表面の水分若しくは空気中の水分(湿気)と反応し、触媒の金属アルコキシド(上記組成式2でbM(OR)xで示す)が分解し、主剤であるシラン化合物(上記組成式2でSi(OR)4で示す)と反応し、ポリマーが成長する。このように本発明に係る塗工液は、敢えて反応水及び酸触媒を加える必要がない液組成であることに特徴があるものである。
有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシドを用いる。チタニウムアルコキシドを例に挙げると、シラン化合物との反応は以下のように進行する。
<反応式2>
(4)≡Ti−OR+H2O→≡Ti−OH+ROH
(5)≡Ti−OH+RO−Si≡→≡Ti−O−Si≡+ROH
(6)≡Ti−O−Si≡+H2O→≡Ti−OH+HO−Si≡
(7)≡Si−OH+RO−Si≡→≡Si−O−Si≡+ROH
<反応式2>
(4)≡Ti−OR+H2O→≡Ti−OH+ROH
(5)≡Ti−OH+RO−Si≡→≡Ti−O−Si≡+ROH
(6)≡Ti−O−Si≡+H2O→≡Ti−OH+HO−Si≡
(7)≡Si−OH+RO−Si≡→≡Si−O−Si≡+ROH
このように、水と反応し分解し易い金属アルコキシドと、シラン化合物を含有する本発明の塗工液を木材等表面に塗工すると、その内部に液剤が浸透し、内部に存在する水と金属アルコキシドが先ず反応し(反応式2の(4))、更に分解した金属アルコキシドとシラン化合物とが反応し(反応式2の(5))、更に反応が進み(反応式2の(6)及び(7))、塗工面内部よりシロキサン結合(≡Si−O−Si≡)のポリマーが生成する。そこで組成式2で示される液剤は、主に酸触媒が使えない(酸で劣化しやすい)塗工対象物、例えば紙、木材、大理石等に使用されることが多い。
しかし、このような酸触媒を使用しない反応により生成したシロキサン結合でも、酸触媒を使用して生成したシロキサン結合同様、多孔性であるため、その空隙からカビ菌が侵入し、結果として、抗カビ作用が不十分となることが予測できる。
本発明は、このようにして生成するシロキサン結合にホウ酸化合物を導入し、抗カビ作用のあるホウ酸化合物を、安定的に植物由来物質表面及び内部に固定化する方法に関する。以下にその方法を具体的に示す。
アルコキシシランと金属アルコキシドは、上述したように、そこに水(水分)が存在して初めて反応が進行する。基本的には通常の状態では相互に反応はしない。本発明は、このような、相互に安定なアルコキシシランと金属アルコキシド存在下に、ホウ酸化合物を添加し、アルコキシシラン、金属アルコキシド及びホウ酸化合物相互の反応を誘導し、結果的に、生成するシロキサン結合のネットワーク内に、安定的にホウ酸化合物を導入し、それによってもたらされる抗カビ作用を維持・継続させることを可能にした。
即ち、本発明は、アルコキシシラン、金属アルコキシド及びホウ酸化合物相互の反応により、抗カビ作用を発揮・保持させるものである。以下に、本発明で用いられるアルコキシシラン、金属アルコキシド及びホウ酸化合物について具体的に説明する。
アルコキシシランとしては通常、下記構造式で示される、いわゆる4官能シラン(構造式(3))、3官能シラン(構造式(4))及び2官能シラン(構造式(5))が知られている。
Si(OR)4 (3)
R9Si(OR)3 (4)
(R9)2Si(OR)2 (5)
Si(OR)4 (3)
R9Si(OR)3 (4)
(R9)2Si(OR)2 (5)
ここで、いわゆる2官能シラン(構造式(5))は、反応性アルコキシ基(OR基)がポリマー化して得られるシロキサンポリマーは直線状になるために3次元構造が取れず、その物自身では塗工膜となり得ないため、単独での使用には問題がある。
従って、本発明で主に用いられるアルコキシシランは、いわゆる4官能シラン(構造式(3))及び3官能シラン(構造式(4))である。もちろん、4官能シラン及び3官能シランに、2官能シランを共存させ、その柔軟性及び撥水性を向上させることは可能である。
4官能シラン(構造式(3))が完全に縮・重合すると、3次元構造のしっかりしたシロキサン結合よりなる塗工膜が得られる。同様に、3官能シラン(構造式(4))も完全に縮・重合すると、3次元構造のしっかりしたシロキサン結合よりなる塗工膜が得られる。一方、反応にあずからない、いわゆる未反応な置換基(構造式(4)で、R9で示される)は生成する塗工膜内に残るため、柔軟性が発揮されると共に、有機置換基特有の撥水性を示す。
4官能シランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等、及びこれらの2〜10分子程度の縮合体を例示できる。なお、縮合体は、かかる単量体の1種類のみを縮合したものであっても、また上記例示した単量体の2種類以上を縮合したものであってもよい。このような4官能シランは、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。また、このような縮合体として市販品を使用しても良い。例えば、多摩化学工業株式会社製、製品名:MS−51、ES−40、ES−45等の使用が可能である。
3官能シランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等、及びこれらの2〜10分子程度の縮合体を挙げることができる。
なお、これらの縮合体は、かかる単量体の1種類のみを縮合したものであっても、また上記例示した単量体の2種類以上を縮合したものであってもよい。このような3官能シラン化合物は、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。また、このような縮合体として市販品を使用しても良い。例えば、信越化学工業株式会社製、製品名:KC−89、KC−89S、KR−500等の使用が可能である。GE東芝シリコーン株式会社製、製品名:XC−96も同様に使用可能である。
なお、これらの市販品の縮合体を用いる場合には、以下の点を注意すべきである。即ち、市販品は本発明に基づき合成されている訳ではないため、置換基の種類や重合度が必ずしも本発明で規定されている範囲に入っていないことがある。従って、市販品を使用する場合は、実際に実験等を行い、事前に使用可能かどうかを確認することが必要となる。
なお、このようなシラン化合物は、水と反応してシロキサン結合を形成するが、植物由来物質の処理剤として使用する本発明では、反応を促進させるための触媒として酸触媒を用いることは、上述したように、木材等の劣化を著しく促進するという問題があるために、避けるべきである。本発明において酸触媒の代わりに用いるのに好適な触媒は、水と出会うと直ちにシラン化合物の加水分解、及び、縮・重合反応を進行させることができる触媒である。
このような触媒としては、加水分解可能な有機金属化合物が示される。有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシドが示される。このような目的で使用される金属アルコキシドとしては、チタニウム、ジルコニウム、アルミニウム等のアルコキシドが挙げられる。より具体的には、チタニウムテトラプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
ホウ酸化合物としては、金属アルコキシドと反応することが必須であるため、その分子内に活性な−OH基を含有することが必要となる。このようなホウ酸化合物としては、ホウ酸、メタホウ酸、ポリホウ酸が挙げられる。
これらのアルコキシシランと金属アルコキシドを相互に溶解させたり、塗工液濃度を調整する目的で、必要に応じ有機溶剤を共存させることができる。有機溶剤の中でアルコール類が有効に用いられる。例示すると、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。アルコール類以外では、酢酸エチルやテトラヒドロフランが例示できる。環境に配慮し、特にアルコール類、より好ましくは、エタノールやイソプロピルアルコールを用いることが好ましい。
これら、アルコキシシランと金属アルコキシド、例えばチタニウムプロポキシドをアルコール、例えばイソプロピルアルコールに溶解させ、そこにホウ酸化合物として、例えばホウ酸を添加すると反応が進行する。
通常、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドをイソプロピルアルコールに溶解させても反応は進行しないことが報告されている(J.Sol−Gel Science and Technology,vol.36,P69−75(2005年)参照)。また、アルコキシシランとホウ酸をイソプロピルアルコール中で撹拌しただけでも反応は進行せず、ホウ酸が未溶解のまま残ることが実験的に確認できた。
一方、チタニウムプロポキシドとホウ酸をイソプロピルアルコール中で撹拌すると、しばらくして液全体が高粘度化し、やがてゲル化することが実験的に確認できた。これは、チタニウムプロポキシドとホウ酸が、互いに反応していることを示している。また、アルコキシシランとチタニウムプロポキシドをイソプロピルアルコールに溶解させ、そこにホウ酸を加えた場合も反応が進行し、チタニウムプロポキシドとホウ酸のみを用いた時よりも多くのホウ酸が溶解した。以上より、この反応は以下のように考えられる。
ホウ酸は、水溶液(4重量%溶液)でpH=3.9の弱酸性を示す酸である。そのため、イソプロピルアルコールにチタニウムプロポキシドとホウ酸を混合して撹拌すると、両者の反応は進行する。その反応を反応式3に示す。
<反応式3>
(8)(RO)3Ti−OR+HO−B(OH)2→
(RO)3Ti−O−B(OH)2+ROH
<反応式3>
(8)(RO)3Ti−OR+HO−B(OH)2→
(RO)3Ti−O−B(OH)2+ROH
このようにして生成した(RO)3Ti−O−B(OH)2は、チタンの金属性が強いため、ホウ素の未反応の−OHの酸性度は更に高くなる。そこにアルコキシシランを共存させると、更に反応が進行する。その反応を反応式4に示す。
<反応式4>
(9)(RO)3Ti−O−B(OH)2+RO−Si(OR)3→
(RO)3Ti−O−B(OH)−O−Si(OR)3+ROH
<反応式4>
(9)(RO)3Ti−O−B(OH)2+RO−Si(OR)3→
(RO)3Ti−O−B(OH)−O−Si(OR)3+ROH
この反応により、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合が生成され、ホウ酸がその結合内に固定化されることになる。その結果、通常、水溶液で最大5重量%程度の溶解度、エタノールに対しては約1.3重量%(25℃)程度の溶解度しかないホウ酸が、イソプロピルアルコール溶液でもはるかに多く溶解することになる。即ち、この反応によってのみ、抗カビ作用のあるホウ酸の溶解度を上げ、且つ、固定化することが可能となる。
なお、ここで、アルコキシシラン、チタニウムプロポキシド及びホウ酸を溶媒の存在無しで混合しても、条件によりホウ酸は反応して均一になることもあるが、一般にはゲル化時間が早くなり(通常2〜3日)、作業性が悪くなるため、イソプロピルアルコール等の溶媒を共存させることが必須となる。
このようにして生成した金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合を含む塗工液を、植物由来物質に塗工すると、その表面から内部に毛細管力で浸透する。内部に浸透した金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合は、内部の水と反応し、その場で縮・重合反応を生じ、植物由来物質の内部よりシロキサン結合のポリマーが成長することを想定している。その結果、植物由来物質の内部の細部にまでポリマーが満たされることになる。このことにより、水の浸入を十分に効果的に抑えることが可能になると共に、抗カビ効果のあるホウ酸を、内部に固定化することが可能となる。
内部に浸透し易くするため、本発明で用いられるシラン化合物(構造式(1)及び(2))は、ある程度分子量の小さいものである必要がある。植物由来物質の内部への浸透性を勘案すると、単量体(モノマー)かオリゴマー体、即ちn=2〜10程度のオリゴマー体を用いることが好ましい。これにより、植物由来物質の内部への浸透性を高めるという目的を達成することができる。
また、シラン化合物(構造式(1)及び(2))は反応式4に従い、チタン−ホウ素結合と反応することになるが、この場合シラン化合物の分子量が大き過ぎると、その立体障害が大きくなり、反応し難くなることが考えられるため、この理由からも用いるシラン化合物は小さい方がよく、単量体(モノマー)かオリゴマー体、即ちn=2〜10程度のオリゴマー体を用いることが好ましい。
ところで、このようなシラン化合物、例えばメチルトリメトキシシランと、加水分解可能な有機金属化合物例えばチタニウムテトラプロポキサイドを、アルコール、例えばイソプロピルアルコールに溶解し、その溶液を植物由来物質に塗工すると、上記反応式により、それ自身でも撥水性及び柔軟性を持った塗工膜を与えることができる。
この塗工膜自身でも、ある程度の抗カビ作用が期待できる。しかし、この塗工膜は一般的には多孔性の膜であるため、その細孔を通り水蒸気が浸透するのを防ぐことができない。また、このシロキサン結合自体は何ら抗カビ作用を示さない。そのため、長期に渡るカビの発生を抑えることは難しい。
一方、このようなシロキサン結合に、抗カビ作用のあるホウ酸をその結合内に入れることができれば、その抗カビ作用を長期間維持することができる。
なお、本発明の塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲で、求められる特性に応じて種々の添加剤等の成分を添加することができる。任意に添加しうる成分としては、例えば、着色剤、紫外線防止剤、抗カビ剤、抗菌剤、防蟻剤、難燃剤、粘度調整剤等が挙げられる。
本発明の塗工液を木材等の表面に塗布する表面処理方法では、まず、任意の木材等を、任意の寸法・形状に切断、加工し、これに本発明の塗工液を塗布する。その塗布方法は特に制限されず、例えば、塗工液に木材等を浸漬したり、塗工液を木材等に塗りつけたり、あるいは、塗工液を木材等に吹き付けたりすることにより行うことができる。木材等を塗工液に浸漬する場合、その浸漬は、常圧で行ってもよいし、減圧あるいは加圧下で行ってもよい。液剤を木材等の内部へより浸透させるためには、減圧あるいは加圧下で行うこともあるが、作業性を考慮すると常圧下で行うことが好ましい。
塗工液に浸ける時間は、塗工液の組成、濃度及び木材等の種類により異なり、一義的には決められないが、一般的には、10秒〜1時間の範囲内で十分である。刷毛塗りの場合、2度塗りで十分である。これ以上塗っても、塗工量が多すぎ液剤が無駄になるだけでなく、表面の屈折率が変化し、木材等の自然な風合いが損なわれてくる。また、塗工膜の膜厚が厚くなると、それだけ塗工膜がヒビ割れる可能性が高くなる。また2度塗りの場合、同一の液剤を2度塗っても良いし、異なる液剤を塗っても良い。異なる液剤を塗る場合、先に塗る液剤(通常下塗り剤とも言う)は、より内部に浸透しやすい液剤を塗ることが、より好ましい。
含浸法、刷毛塗り法、あるいは、スプレー法のいずれの方法を用いて塗布した場合でも、木材等の表面の自然な風合いを残すためには、木材等の表面に付いた余分な塗工液を、布や紙等で拭き取ることが好ましい。
本発明の塗工液を塗布する対象である木材等には、特に制限はないが、木材の他、カビの生え易いラタンや竹を用いるとより効果的である。なお、本発明の塗工液の塗布後、木材等に対して後処理を施すこともできる。これにより、木材等の表面の耐久性を更に増すことができる。この後処理に用いられる薬剤としては、撥水性の液剤が特に好ましい。
また、本発明の塗工液を塗布した後、加熱処理をするとより効果的である。現場塗工ではこの加熱処理工程を省略することができるが、その場合は、雨の当たらない条件で1日以上放置することが好ましい。
以下に、本発明を実施例に基づいて比較例との対比により更に具体的に説明するが、実施例はあくまで一例であって、本発明を何ら限定するものではない。
≪塗工液の製造≫
[実施例1、9、15]
メチルトリメトキシシラン縮合体(信越化学工業株式会社製、KC−89。平均重合度2.5量体。3官能シラン)10.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール14.2gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド(日本曹達株式会社製、A−1。分子量284)2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸(関東化学株式会社製、分子量62)0.6g(Bとして0.010モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約15分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.1であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約2.1%であった。
[実施例1、9、15]
メチルトリメトキシシラン縮合体(信越化学工業株式会社製、KC−89。平均重合度2.5量体。3官能シラン)10.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール14.2gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド(日本曹達株式会社製、A−1。分子量284)2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸(関東化学株式会社製、分子量62)0.6g(Bとして0.010モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約15分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.1であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約2.1%であった。
[実施例2、10、16]
ホウ酸を1.9g(Bとして0.031mol)、イソプロピルアルコールを17.0gとした以外、実施例1と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.3であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約5.8%であった。
ホウ酸を1.9g(Bとして0.031mol)、イソプロピルアルコールを17.0gとした以外、実施例1と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.3であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約5.8%であった。
[実施例3、4、11]
ホウ酸を3.7g(Bとして0.060mol)、イソプロピルアルコールを30.0gとした以外、実施例1と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約1時間でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約7.8%であった。
ホウ酸を3.7g(Bとして0.060mol)、イソプロピルアルコールを30.0gとした以外、実施例1と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約1時間でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約7.8%であった。
[実施例5]
ホウ酸を3.7g(Bとして0.060mol)、イソプロピルアルコールを19.7gとした以外、実施例2と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約1.5時間でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約10.0%であった。
ホウ酸を3.7g(Bとして0.060mol)、イソプロピルアルコールを19.7gとした以外、実施例2と同様にして塗工液を調整した。撹拌後約1.5時間でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約10.0%であった。
[実施例6、12、17]
メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−13。単量体。分子量136。3官能シラン)13.6g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール30.0gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸7.4g(Bとして0.12モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/1.2であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約13.8%であった。なお、この溶液は調合後室温で放置していたら、6日後に容器の底に白色固体が沈殿していた。
メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−13。単量体。分子量136。3官能シラン)13.6g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール30.0gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸7.4g(Bとして0.12モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/1.2であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約13.8%であった。なお、この溶液は調合後室温で放置していたら、6日後に容器の底に白色固体が沈殿していた。
[実施例7、13、18]
テトラメトキシシラン縮合体(多摩化学工業株式会社製、MS−51。平均重合度3.9量体。4官能シラン)11.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール29.0gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸3.7g(Bとして0.060モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約7.8%であった。なお、この溶液は調合後室温放置で7日後にゲル化していた。
テトラメトキシシラン縮合体(多摩化学工業株式会社製、MS−51。平均重合度3.9量体。4官能シラン)11.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール29.0gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸3.7g(Bとして0.060モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1/0.1/0.6であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約7.8%であった。なお、この溶液は調合後室温放置で7日後にゲル化していた。
[実施例8、14、19]
メチルトリメトキシシラン(単量体)13.6g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール29.0gに溶解し、そこに触媒としてジルコニウムテトラ−n−ブトキシド3.8g(関東化学株式会社製、分子量384。Ziとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸7.4g(Bとして0.12モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Zr/B=1/0.1/1.2であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約13.8%であった。
メチルトリメトキシシラン(単量体)13.6g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール29.0gに溶解し、そこに触媒としてジルコニウムテトラ−n−ブトキシド3.8g(関東化学株式会社製、分子量384。Ziとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。次に、ホウ酸7.4g(Bとして0.12モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体が完全に消滅した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Zr/B=1/0.1/1.2であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約13.8%であった。
[比較例2、4、6、7]
ホウ酸水5%液は、ホウ酸5gを水95gに溶解し調合した。
ホウ酸水5%液は、ホウ酸5gを水95gに溶解し調合した。
[実施例9〜19、比較例3、8、9]
DOT15%液は、DOT(八ホウ酸二ナトリウム四水和物、U.S.Borax Inc.製)15gを水85gに溶解し調合した。
DOT15%液は、DOT(八ホウ酸二ナトリウム四水和物、U.S.Borax Inc.製)15gを水85gに溶解し調合した。
[比較例5、6、7]
メチルトリメトキシシラン縮合体10.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール13.6gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti=1/0.1であった。
メチルトリメトキシシラン縮合体10.8g(Siとして0.10モル)をイソプロピルアルコール13.6gに溶解し、そこに触媒としてチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え、十分に攪拌した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti=1/0.1であった。
[比較例8、9]
DOTを処理した後に、市販のDOT用上塗り液でシリコーンエマルジョン水溶液である、X−51−1318(信越化学工業製)を、カタログ記載に従い20%水溶液として使用した。すなわち、X−51−1318、20gを水80gに溶解させた。
DOTを処理した後に、市販のDOT用上塗り液でシリコーンエマルジョン水溶液である、X−51−1318(信越化学工業製)を、カタログ記載に従い20%水溶液として使用した。すなわち、X−51−1318、20gを水80gに溶解させた。
≪塗工液処理方法≫
試験片:試験片として「桐」を用いた。市販の厚さ約5mmの桐板を約15mm角に切断し、切り口の凸凹を紙やすりを用いて平滑にした。
各液剤処理方法:ホウ酸水溶液、DOT水溶液の場合、各水溶液に試験片をおよそ30秒間浸した後、紙で表面の水分を拭き取った。その後、室温で約1時間放置・乾燥させた。更にドライアーで約30秒間加熱・乾燥させた。塗工液の場合、各液剤を刷毛を用いて塗工した。塗工後、約1時間室温で乾燥させアルコールを除去した。次に、80℃の恒温槽内に塗工サンプルを入れ、20分加熱処理した。
試験片:試験片として「桐」を用いた。市販の厚さ約5mmの桐板を約15mm角に切断し、切り口の凸凹を紙やすりを用いて平滑にした。
各液剤処理方法:ホウ酸水溶液、DOT水溶液の場合、各水溶液に試験片をおよそ30秒間浸した後、紙で表面の水分を拭き取った。その後、室温で約1時間放置・乾燥させた。更にドライアーで約30秒間加熱・乾燥させた。塗工液の場合、各液剤を刷毛を用いて塗工した。塗工後、約1時間室温で乾燥させアルコールを除去した。次に、80℃の恒温槽内に塗工サンプルを入れ、20分加熱処理した。
≪水浸漬処理方法≫
比較例2ではホウ酸処理後、1晩経過した後、実施例15〜19、及び比較例4、7、9では、塗工液処理後、1晩経過した後、それぞれサンプルを試験片の表を下側にして水に6時間漬けた。水より出した後、紙で表面の水分を拭き取り、室温にて1時間乾燥させた。その後、樹脂製容器に入れた食パン上に乗せ、完全に蓋を閉め36±1℃の恒温槽内に静置した。
比較例2ではホウ酸処理後、1晩経過した後、実施例15〜19、及び比較例4、7、9では、塗工液処理後、1晩経過した後、それぞれサンプルを試験片の表を下側にして水に6時間漬けた。水より出した後、紙で表面の水分を拭き取り、室温にて1時間乾燥させた。その後、樹脂製容器に入れた食パン上に乗せ、完全に蓋を閉め36±1℃の恒温槽内に静置した。
≪処理方法の組み合わせ≫
[実施例1〜8及び比較例5]
各塗工液のみを処理した。
[実施例9〜14及び比較例6]
はじめに、ホウ酸水溶液もしくはDOT水溶液で処理した後、各塗工液を処理した。
[実施例15〜19比較例4、7]
はじめに、ホウ酸水溶液もしくはDOT水溶液で処理した後、各塗工液を処理した。その後、水浸漬処理を行った。なお、比較例4ではホウ酸水溶液で処理した後、塗工液処理を行わず、水浸漬処理を行った。
[実施例1〜8及び比較例5]
各塗工液のみを処理した。
[実施例9〜14及び比較例6]
はじめに、ホウ酸水溶液もしくはDOT水溶液で処理した後、各塗工液を処理した。
[実施例15〜19比較例4、7]
はじめに、ホウ酸水溶液もしくはDOT水溶液で処理した後、各塗工液を処理した。その後、水浸漬処理を行った。なお、比較例4ではホウ酸水溶液で処理した後、塗工液処理を行わず、水浸漬処理を行った。
≪抗カビテスト≫
容器:縦230mm、横160mm、深さ40mmの蓋つき樹脂製容器。
食パン:市販の無添加物食パン。
テスト方法:樹脂製容器内に食パンを入れ、その上に各試験片を静置し、完全に蓋を閉めた。その後、36±1℃の恒温槽内に静置した。
評価方法:1週間、2週間及び3週間毎に、試験片上のカビの発生を、目視にて確認した。
結果:結果を表1に示す。ここで、処理方法に関し、「−」:無処理、「O」:1回処理、「OO」:2回処理をそれぞれ示す。評価結果に関し、「0」:カビ発生が確認できず、「1」:カビ発生面積が全体の1/2以内、「2」:カビ発生面積が1/2以上2/2以内、「3」:前面にカビが発生、をそれぞれ示す。
容器:縦230mm、横160mm、深さ40mmの蓋つき樹脂製容器。
食パン:市販の無添加物食パン。
テスト方法:樹脂製容器内に食パンを入れ、その上に各試験片を静置し、完全に蓋を閉めた。その後、36±1℃の恒温槽内に静置した。
評価方法:1週間、2週間及び3週間毎に、試験片上のカビの発生を、目視にて確認した。
結果:結果を表1に示す。ここで、処理方法に関し、「−」:無処理、「O」:1回処理、「OO」:2回処理をそれぞれ示す。評価結果に関し、「0」:カビ発生が確認できず、「1」:カビ発生面積が全体の1/2以内、「2」:カビ発生面積が1/2以上2/2以内、「3」:前面にカビが発生、をそれぞれ示す。
≪ラタン棒抗カビテスト≫
[実施例20]
直径25mmのインドネシア産ラタン棒を、長さ60mmに裁断し試験片とした。DOT水溶液に切り口を上にして、全面に浸るようにして15分間浸した後、室温で30分乾燥させた。その後、80℃の恒温層に20分入れ、完全に水分を除いた。冷却後、DOT処理したラタン棒に、実施例3に示す液剤を刷毛を用いて全面に塗布し、室温乾燥後更に80℃の恒温層に20分入れた。室温にて1晩放置後、縦230mm、横160mm、深さ80mmの蓋つき樹脂製容器に、無添加食パンを入れ、そこに処理したラタン棒を入れ、完全に蓋を閉め36±1℃の恒温槽内に静置した。
[実施例20]
直径25mmのインドネシア産ラタン棒を、長さ60mmに裁断し試験片とした。DOT水溶液に切り口を上にして、全面に浸るようにして15分間浸した後、室温で30分乾燥させた。その後、80℃の恒温層に20分入れ、完全に水分を除いた。冷却後、DOT処理したラタン棒に、実施例3に示す液剤を刷毛を用いて全面に塗布し、室温乾燥後更に80℃の恒温層に20分入れた。室温にて1晩放置後、縦230mm、横160mm、深さ80mmの蓋つき樹脂製容器に、無添加食パンを入れ、そこに処理したラタン棒を入れ、完全に蓋を閉め36±1℃の恒温槽内に静置した。
[実施例21]
実施例20と同様に処理したラタン棒を、液剤処理した翌日に6時間水浸漬処理を行った。水浸漬処理後、全面を紙で軽く拭き、室温で1時間乾燥させた後、実施例20と同様にして無添加食パン上に静置し、36±1℃の恒温槽内に静置した。
実施例20と同様に処理したラタン棒を、液剤処理した翌日に6時間水浸漬処理を行った。水浸漬処理後、全面を紙で軽く拭き、室温で1時間乾燥させた後、実施例20と同様にして無添加食パン上に静置し、36±1℃の恒温槽内に静置した。
[比較例10]
実施例20と同じ、直径25mmのインドネシア産ラタン棒を長さ60mmに裁断し、DOT及び液剤とも無処理で、無添加食パン上に静置し、36±1℃の恒温槽内に静置した。
実施例20と同じ、直径25mmのインドネシア産ラタン棒を長さ60mmに裁断し、DOT及び液剤とも無処理で、無添加食パン上に静置し、36±1℃の恒温槽内に静置した。
≪試験結果≫
桐板を用いた結果を表1に、ラタン棒を用いた結果を表2にそれぞれ示す。なお、表中の記号は以下のものを示す。
T−Si; 3官能シラン、即ち、メチルトリメトキシシラン及びそのオリゴマー体(KC−89)
Q−Si; 4官能シラン、即ち、テトラメトキシシランオリゴマー体(MS−51)
DOT; 八ホウ酸二ナトリウム四水和物
B濃度; ホウ酸濃度
X−51; シリコーンエマルジョン水溶液(製品名:X−51−1381)
桐板を用いた結果を表1に、ラタン棒を用いた結果を表2にそれぞれ示す。なお、表中の記号は以下のものを示す。
T−Si; 3官能シラン、即ち、メチルトリメトキシシラン及びそのオリゴマー体(KC−89)
Q−Si; 4官能シラン、即ち、テトラメトキシシランオリゴマー体(MS−51)
DOT; 八ホウ酸二ナトリウム四水和物
B濃度; ホウ酸濃度
X−51; シリコーンエマルジョン水溶液(製品名:X−51−1381)
表1より、未処理の試験片(比較例1)では、1週間後に表面の半分以上にカビの発生が認められた。2週間後では、全面にカビが発生していた。一方、一般的に抗カビ作用が認められているホウ酸処理した試験片(比較例2)では、1週間後に表面の一部にカビの発生が認められた。2週間後では、全面にカビが発生していた。このことから、本試験条件下では、ホウ酸に初期の抗カビ作用が認められたが、その作用は長続きしないことが分かった。
また、屋外で使用すること、すなわち雨に濡れることを想定して、ホウ酸処理した試験片に水浸漬処理を行った(比較例4)。この場合、ホウ酸が溶出したためと思われるが、抗カビ作用はほとんど示さず、未処理の試験片(比較例1)と変わらなかった。
有効な抗カビ剤として市販されているDOT処理した試験片(比較例3)では、1週間後ではカビの発生は認められず、抗カビ剤としての有効性が認められた。しかし、2週間後では、表面の半分以上にカビの発生が認められた。また、3週間後では、全面にカビが発生していた。
DOTは、水溶液濃度が約15%と濃いため、ホウ酸より抗カビ作用が高かったものと思われる。しかし、本試験条件下では、その作用はホウ酸同様長続きしないことが分かった。このことより、抗カビ剤として有効性が実証されているDOTを用いても、長期間抗カビ性を維持することは難しいことが確認できた。
本発明に基づき、ホウ酸の添加量及び塗工液濃度を変えた実施例1〜8では、ホウ酸濃度を増してゆくと(実施例1〜6)、抗カビ作用もそれに伴い向上した。最もホウ酸濃度が低い場合(実施例1)でも、ホウ酸のみ処理した試験片(比較例2)と比較し、同等以上の効果を示した。特に、最もホウ酸濃度が高い実施例6及び8では、3週間後でもカビの発生が抑えられた。このことにより、本発明に基づく塗工液の有効性が認められた。
また、1度塗り(実施例3)では2週間後にカビが発生したが、塗工液を重ね塗りした場合(実施例4)は、2週間後でもカビの発生が認められず、3週間後でわずかにカビの発生が認められただけであった。即ち、重ね塗りすることにより、1度塗りに比べて1段階抗カビ効果が向上することが認められた。
シラン化合物を、3官能シラン(実施例3)と4官能シラン(実施例7)で比較した場合、両者の間に大きな抗カビ作用の違いは認められなかった。同様に、金属アルコキシド触媒をチタン(実施例6)とジルコン(実施例8)とした場合も、両者の間に大きな抗カビ作用の違いは認められなかった。更に抗カビ作用を向上させるため、本発明で最もホウ酸濃度が高い実施例6に基づく塗工液に更にホウ酸を添加したが、ホウ酸が一部不溶物として析出し、これ以上濃度を増すことはできなかった。
そこで、抗カビ効果があるDOTを先に処理し、その後本発明に基づく塗工液を処理し、抗カビ効果の相乗作用を調べた(実施例9〜14)ところ、ホウ酸濃度が比較的低い場合は、DOTを先に処理した試験片(実施例9〜11)は、処理しなかった試験片(実施例1〜3)と比較して、1段階抗カビ効果が向上することが認められた。このことより、本発明に基づく塗工液は、比較的ホウ酸濃度が低い液の場合は、DOTを併用することにより抗カビ効果を向上させることが可能であった。即ち、相乗効果が認められた。
但し、濃度が比較的高い試験片(実施例12〜14)では、DOT処理していない試験片(実施例6〜8)と比べ、逆に1段階抗カビ効果が低下していた。この理由は不明であるが、これらの高い濃度では、添加量が限界に近付いているため(例えば、実施例12では、調合後6日後に白色個体析出)、先に処理されているDOTの影響で、得られる金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖に乱れが生じ、結果として、得られるポリマー鎖が不完全となった可能性がある。この不完全さによるポリマー鎖の乱れ部分が、抗カビ効果の低下をもたらしたものと推測される。
次に、屋外で使用することを想定して、DOT処理及び本発明に基づく塗工液で処理した試験片に水浸漬処理を行った(実施例15〜19)。この場合、比較的ホウ酸濃度が低い液(実施例15、16)の場合は、水浸漬処理を行わない試験片(実施例9、10)と比較した場合、それぞれ、概ね1段階抗カビ効果が低下する傾向にあった。この理由は明確ではないが、試験片を6時間水に浸している間に、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合の空隙部分から、先に処理したDOT由来のホウ素が抜け落ちたものと思われる。
また他の理由として、6時間水処理した後、表面を軽く紙で拭き、室温にて1時間放置・乾燥させた後、ただちに36±1℃の恒温槽に入れたため、試験片の内部に水分が多く残り、そのためカビが生えやすい環境となった可能性がある。但し、このように6時間水処理した試験片は、相当する水処理しない試験片と比較して、概ね1段階抗カビ効果が低下しているが、それでもホウ酸やDOT処理のみした試験片(比較例2、3)よりもはるかに抗カビ作用が高いことが認められた。
それとは反対に、比較的塗工液のホウ酸濃度が高い試験片(実施例17)では、水処理しているにもかかわらず、水処理していない試験片(実施例12)とほぼ同等の性能を示した。特に実施例18では、水処理することにより、むしろ抗カビ作用が水処理していない試験片(実施例13)よりも向上し、3週間経過後でもカビの発生が認められなかった。
この理由についても明確ではないが、上述したように、ホウ酸の濃度が高い塗工液では、添加量の限界に近付いているため、得られる金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖に乱れが生じていることが考えられる。しかし、この試験片を水に浸けることにより、過剰なホウ酸が溶出し、かえって得られる金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖がきちんとした構造になり、結果として得られるポリマー鎖の耐水性が向上した可能性がある。
また、本発明で得られた金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖中のホウ素が、有効に抗カビ作用を果たしていることを、以下により確認することができた。即ち、ホウ酸を添加しない、いわゆる一般的ゾル・ゲル法に基づき生成した、金属−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖のみで処理した試験片(比較例5)では、抗カビ作用は無塗工の試験片(比較例1)と同程度であり、ほとんど抗カビ作用は無かった。それは、このようにして得られた金属−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖は、通常言われているように多孔性であるため、その空隙からのカビの菌の侵入を防ぐことができなかったためと考えられる。
この場合も、先にホウ酸処理した試験片(比較例6)では、ホウ酸処理しない試験片(比較例5)と比較して、抗カビ効果の向上が見られたが、その試験片を水に浸ける(比較例7)と、抗カビ効果が無くなってしまい、無塗工の試験片(比較例1)と同程度となった。即ち、本発明に基づく金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合は、いわゆる一般的ゾル・ゲル法に基づき生成した金属−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖とは、明らかにその抗カビ効果に違いがあることが確認できた。
DOTは、抗カビ剤として市販され幅広く使用されており、更にDOTの耐水性を上げるため上塗り液として、シリコーンエマルジョン水溶液(商品名、X−51−1318)の使用が推奨されている。そこで、このシリコーンエマルジョン水溶液を上塗り液として使用し(比較例8〜9)、本発明により得られた金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖との抗カビ効果の比較を行ったところ、上塗り液として使用した場合(比較例8)、DOTのみで上塗り液を使用しない例(比較例3)と比べてほぼ同等であり、ほとんどその抗カビ効果の向上は認められなかった。その理由としては、上塗り液は水溶液であるため、その塗工中に表面のDOTが溶出した可能性があることが考えられる。
更に、上塗り液を使用した試料に水浸漬処理を行った場合(比較例9)では、その抗カビ効果はほとんど認められず、未塗工品(比較例1)と変わらなかった。
一方、上述したように、本発明により得られた金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖は、実施例6で示されるようにカビの発生が全く認められず、特に実施例18で示されるように、水浸漬処理を行った場合でも、カビの発生は全く認められなかった。
以上の結果に基づき、実際にラタン棒に塗布し、抗カビ効果を調べた(実施例20〜21、及び比較例10)。結果を表2に示す。
無処理のラタン棒は、1週間でカビが発生した。一方、DOT処理し更に本発明により為された抗カビ効果を持つ液剤で処理したラタン棒は、4か月が経過してもカビの発生が認められなかった。
以上により、本発明に基づく塗工液の有効性が十分に確認できた。
以上により、本発明に基づく塗工液の有効性が十分に確認できた。
Claims (10)
- アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と抗カビ剤としてのホウ酸化合物とが反応して、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合のポリマー鎖を生成して前記ホウ酸化合物を固定化していることを特徴とする、抗カビ処理用液剤。
- 前記アルコキシシラン化合物と前記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の抗カビ処理用液剤。
- 前記アルコキシシラン化合物と前記ホウ酸化合物とのモル比が1:0.1〜1:1.2の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗カビ処理用液剤。
- 植物由来物質に抗カビ性を有した耐水性を付与する抗カビ処理方法において、
液剤として請求項1乃至3のいずれかに記載の抗カビ処理用液剤を使用して前記植物由来物質を処理することを特徴とする、抗カビ処理方法。 - 前記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属アルコキシドである、請求項4乃至6のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
- 前記植物由来物質が、木材、ラタン及び竹であることを特徴とする、請求項4乃至7のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
- 前記植物由来物質を用いて作られたものが、イス、テーブル等の家具であることを特徴とする、請求項4乃至8のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
- 前記液剤の前記アルコキシシラン化合物と前記ホウ酸化合物とのモル比が1:0.1〜1:0.6の範囲であり、前記液剤中のホウ酸濃度が7.8%以下である場合において、植物由来物質を予め八ホウ酸二ナトリウム四水和物水溶液に浸漬し、乾燥した後に処理を行うことを特徴とする、請求項4乃至9のいずれかに記載の抗カビ処理方法。
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2009
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