以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図1において、(a)は車両の正面図、(b)は車両の側面図、(c)はジョイスティックの側面図、(d)はジョイスティックの上面図である。
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後左右に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1(b)に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の回転軸は図1(b)に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその回転軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、車両10の運転者である乗員15が搭乗する搭乗部14が取り付けられている。
本実施の形態においては、説明の都合上、搭乗部14には乗員15が搭乗する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物等の搭載物が積載されていてもよい。なお、前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備える。
また、前記車両10は、車体を左右に傾斜させる車体左右傾斜機構としてのリンク機構60を有し、旋回時には、図1(a)に示されるように、左右の駆動輪12の路面に対する角度、すなわち、キャンバー角を変化させるとともに、搭乗部14及び本体部11を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員15の快適性の確保とを図ることができるようになっている。すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。
前記リンク機構60は、左右の駆動輪12に駆動力を付与する駆動モータ52を支持するモータ支持部材としても機能する左右の縦リンクユニット65と、該左右の縦リンクユニット65の上端同士を連結する上側横リンクユニット63と、左右の縦リンクユニット65の下端同士を連結する下側横リンクユニット64とを有する。また、左右の縦リンクユニット65と上側横リンクユニット63及び下側横リンクユニット64とは回転可能に連結されている。さらに、上側横リンクユニット63の中央及び下側横リンクユニット64の中央には、上下方向に延在する支持部13が回転可能に連結されている。
そして、61は、傾斜用のアクチュエータとしてのリンクモータであって、固定子としての円筒状のボディと、該ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸とを備えるものであり、ボディが上側横リンクユニット63に固定され、回転軸が支持部13に固定されている。なお、前記ボディが支持部13に固定され、回転軸が上側横リンクユニット63に固定されていてもよい。そして、リンクモータ61を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、上側横リンクユニット63に対して支持部13が回転し、リンク機構60が屈伸する。なお、前記リンクモータ61の回転軸は、支持部13と上側横リンクユニット63との連結部分の回転軸と同軸になっている。これにより、リンク機構60を屈伸させて本体部11を傾斜させることが可能となる。
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。
図1(c)及び(d)に示されるように、ジョイスティック31は、基部31a、該基部31aに傾動可能に取り付けられ、前後及び左右に傾斜させることで入力する手段である入力手段としてのレバー31bを備える。
そして、操縦者としての乗員15は、レバー31bを、図1(c)及び(d)において矢印で示されるように、前後及び左右に傾斜させることで走行指令を入力する。すると、ジョイスティック31は、レバー31bの前後、すなわち、駆動輪12の回転軸に垂直な方向(x軸方向)、及び、左右、すなわち、駆動輪12の回転軸に平行な方向(y軸方向)の傾斜量に相当する状態量を計測し、その計測値を操縦者の入力した前後入力量(前後操作量)及び左右入力量(左右操作量)として、図2に示される主制御ECU(Electronic Control Unit)21に送信する。
このように、ジョイスティック31が備える1つの入力手段で可能な2つの情報を活用することにより、操縦装置を追加することなく、操縦者の多様な操縦意図の入力を可能とし、より直感的に自由に操ることができる車両10を実現できる。
また、レバー31bは、図示されない中立状態復帰用のばね部材によって付勢され、操縦者が手を放して解放すると、自動的に零入力に相当する中立状態に復帰する。これにより、操縦者の不測の事態等により、操縦操作の継続が不可能になった場合でも、車両10の適切な制御が可能となる。
なお、本実施の形態における以降の説明は、搭乗部14の座面が水平であるときに、駆動輪12の回転軸に垂直な方向にx軸、平行な方向にy軸、鉛直上向きにz軸を採る座標系に基づくものとする。
車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置としての制御ECU20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41、駆動モータ52及びリンクモータ61とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。また、前記主制御ECU21は、リンクトルク指令値をリンク制御ECU23に送信し、該リンク制御ECU23は、受信したリンクトルク指令値に相当する入力電圧をリンクモータ61に供給する。そして、該リンクモータ61は、入力電圧に従ってリンク機構60に駆動トルクを付与し、これにより、傾斜用のアクチュエータとして機能する。
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
また、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令として、レバー31bの操作量が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、リンクトルク指令値をリンク制御ECU23に送信する。
主制御ECU21は、操作量を最大操作量で正規化した入力率を入力量として扱う。レバー31bの前後入力量については、レバー31bの前方への傾斜又は移動、すなわち、前方への入力を正の値で表し、レバー31bの後方への傾斜又は移動、すなわち、後方への入力を負の値で表す。そして、前方への最大入力量を1、後方への最大入力量を−1として表す。
また、レバー31bの左右入力量については、車両10の後方から見て、レバー31bの左方への傾斜又は移動、すなわち、左方への入力を正の値で表し、レバー31bの右方への傾斜又は移動、すなわち、右方への入力を負の値で表す。そして、左方への最大入力量を1、右方への最大入力量を−1として表す。
次に、前記構成の車両10の動作について詳細に説明する。まず、走行及び姿勢制御処理について説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態における走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態においては、状態量、パラメータ等を次のような記号によって表す。
θWR:右駆動輪回転角〔rad〕
θWL:左駆動輪回転角〔rad〕
θW :平均駆動輪回転角〔rad〕;θW =(θWR+θWL)/2
ΔθW :駆動輪回転角左右差〔rad〕;ΔθW =θWR−θWL
θ1 :車体傾斜ピッチ角(鉛直軸基準)〔rad〕
φ1 :車体傾斜ロール角(鉛直軸基準)〔rad〕
τL :リンクトルク〔Nm〕
τWR:右駆動トルク〔Nm〕
τWL:左駆動トルク〔Nm〕
τW :総駆動トルク〔Nm〕;τW =τWR+τWL
ΔτW :駆動トルク左右差〔Nm〕;ΔτW =τWR−τWL
g:重力加速度〔m/s2 〕
RW :駆動輪接地半径〔m〕
D:2輪間距離〔m〕
m1 :車体質量(搭乗部を含む)〔kg〕
mW :駆動輪質量(2輪合計)〔kg〕
l1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
I1 :車体慣性モーメント(重心周り)〔kgm2 〕
IW :駆動輪慣性モーメント(2輪合計)〔kgm2 〕
αX :車両前後加速度〔m/s2 〕
αY :車両左右加速度〔m/s2 〕
V:車両速度〔m/s〕
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する(ステップS1)。具体的には、駆動輪センサ51から左右の駆動輪回転角又は回転角速度を取得し、車体傾斜センサ41から車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度及び車体傾斜ロール角又はロール角速度を取得する。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出する(ステップS2)。この場合、取得した状態量を時間微分又は時間積分することによって、残りの状態量を算出する。例えば、取得した状態量が駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角である場合には、これらを時間微分することによって、回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度を得ることができる。また、例えば、取得した状態量が回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度である場合には、これらを時間積分することによって、駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角を得ることができる。
続いて、主制御ECU21は、操縦者の操縦操作量を取得する(ステップS3)。この場合、操縦者が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度目標値決定処理を実行し(ステップS4)、取得したジョイスティック31の操作量等に基づいて、車両10の車両加速度目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS5)。具体的には、下記の式によって平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する。
なお、Δtは制御処理周期(データ取得間隔)であり、所定値である。また、本実施の形態における説明において、上付き添字*は目標値であることを表し、上付き添字(n)は時系列のn番目のデータであることを表し、記号上の1ドットは1階時間微分した値、すなわち、速度であることを表し、記号上の2ドットは2階時間微分した値、すなわち、加速度であることを表すものとする。下付き添字Xは前後(x軸方向)であることを表し、下付き添字Yは左右(y軸方向)であることを表し、下付き添字dは操縦指令値であることを表すものとする。
また、下記の式によって駆動輪回転角速度左右差の目標値を決定する。
このように、車両加速度目標値に相当する駆動輪回転角速度の目標値を決定する。つまり、車両前後加速度目標値を時間積分することにより、左右駆動輪の回転角速度の平均値の目標である平均駆動輪回転角速度目標値を決定する。また、車両左右加速度目標値と平均駆動輪回転角速度目標値から左右駆動輪の回転角速度の差の目標である駆動輪回転角速度左右差目標値を決定する。
なお、本実施の形態においては、操縦装置であるジョイスティック31の操作量を前後及び左右の加速度と対応させているが、車両速度やヨーレートなどに対応させてもよい。また、車両速度やヨーレート自体を状態量として、フィードバック制御を実行してもよい。さらに、本実施の形態においては、駆動輪接地点と路面との間に滑りが存在しないという仮定の下で、車両速度やヨーレートを駆動輪12の回転角速度に換算しているが、滑りを考慮して駆動輪回転角速度の目標値を決定してもよい。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS6)。具体的には、車両加速度目標値から、下記の式によって車体傾斜ピッチ角の目標値を決定する。
また、下記の式によって車体傾斜ロール角の目標値を決定する。
このように、車両加速度目標値に応じて車体傾斜角の目標値を決定する。つまり、車体傾斜ピッチ角については、前後の車体姿勢と走行状態に関する倒立振り子の力学的構造を考慮して、前後加速度で与えられる走行目標を達成できる車体姿勢を目標値として与える。また、車体傾斜ロール角については、接地荷重中心が2つの駆動輪12の接地点間である安定領域に存在する範囲で、自由に目標姿勢を設定できるが、本実施の形態では乗員15の負荷が最も少ない姿勢を目標値として与える。
なお、車体傾斜ロール角の目標値として他の値を与えてもよい。例えば、目標左右加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さい場合には目標車体傾斜ロール角を零として、小さな左右加速度に対しては直立姿勢を維持させてもよい。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS7)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS8)。具体的には、下記の式によって、フィードフォワード出力として、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FF、駆動トルク左右差のフィードフォワード量ΔτW,FF及びリンクトルクのフィードフォワード量τL,FFを決定する。
このように、目標とする走行状態や車体姿勢を実現するのに必要なアクチュエータ出力を力学モデルより予測し、その分をフィードフォワード的に付加することで、車両10の走行及び姿勢制御を高精度に実行する。つまり、前後方向の走行目標を達成できるように、総駆動トルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車両前後加速度に応じて発生する慣性力と、車両速度に相当する平均駆動輪回転角速度に応じて発生する走行抵抗を予測し、それを打ち消すような総駆動トルクを与えることで、目標とする前後走行状態を実現する。
また、左右車体傾斜の目標を実現できるように、リンクトルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車体傾斜ロール角に応じて発生する重力のトルクと、車両左右加速度に応じて発生する遠心力のトルクを予測し、それを打ち消すようなリンクトルクを与えることで、目標とする左右車体傾斜状態を実現する。
なお、本実施の形態においては、力学モデルにおける主な要素をすべて考慮して、必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、これらの要素の中で影響が小さいものを無視し、より簡素なモデルによってフィードフォワード量を決定してもよい。また、本実施の形態では考慮していない要素をあらたに考慮してもよい。例えば、駆動輪12の転がり抵抗やリンク機構60での乾性摩擦等を考慮してもよい。
さらに、本実施の形態においては、走行状態や車体姿勢の目標値に応じて必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、計測値に基づく準フィードバック量として与えてもよい。これにより、目標値と実値に大きな隔たりがある場合でも、適切に制御を行うことができる。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS9)。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB、駆動トルク左右差のフィードバック量ΔτW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、極配置法等により決定される値をあらかじめ設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3、Kd2及びKL3を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
このように、状態フィードバック制御により、実際の状態を目標とする状態に近付けるようにフィードバック出力を与える。具体的には、前後走行状態に相当する平均駆動輪回転状態と、車体の倒立状態に相当する車体傾斜ピッチ角について、計測値と目標値の差に比例する総駆動トルクを与えることで、車両10の前後走行状態と車体の倒立姿勢を目標とする状態で安定に維持する。
また、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差について、計測値と目標値の差に比例する駆動トルク左右差を与えることで、車両10の旋回走行状態を目標とする状態で安定に維持する。
さらに、左右傾斜状態に相当する車体傾斜ロール角について、計測値と目標値の差に比例するリンクトルクを与えることで、車体の左右傾斜状態を目標とする状態で安定に維持する。
さらに、旋回走行状態に相当する状態量として、駆動輪回転角速度左右差を用いる。このように、駆動輪12の回転状態を制御することで、駆動輪12がロックや空転の状態に至る可能性を低減できる。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて(ステップS10)、走行及び姿勢制御処理を終了する。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23に、下記の式によって決定される指令値として、右駆動トルク指令値τWR、左駆動トルク指令値τWL、総駆動トルク指令値τW 、駆動トルク左右差指令値ΔτW 及びリンクトルク指令値τL を与える。
なお、ξは接地荷重移動率である。
このように、各フィードフォワード出力と各フィードバック出力の和を指令値として与える。また、総駆動トルクと駆動トルク左右差が要求する値になるように、右駆動トルクと左駆動トルクの指令値を与える。
なお、走行及び姿勢制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
次に、車両加速度目標値決定処理について説明する。
図4は本発明の第1の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第1補正を説明する図、図5は本発明の第1の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第3補正の結果を示す図、図6は本発明の第1の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第4補正の結果を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第5補正の結果を示す図、図8は本発明の第1の実施の形態における車両加速度目標値決定処理の動作を示すフローチャートである。なお、図4において、(a)は車両の側面図、(b)はジョイスティックの側面図、(c)はジョイスティックの上面図、(d)はジョイスティックの入力量に対応する目標値との関係を示す座標軸を示す図であり、図5及び6において、(a)は車両前後加速度目標値を示し、(b)は車両左右加速度目標値を示す。
車両加速度目標値決定処理において、主制御ECU21は、まず、基準車両加速度目標値を決定する(ステップS4−1)。具体的には、下記の式によって車両前後加速度目標値を決定する。
なお、UX はジョイスティック前後入力量、αX,Max は車両前後最大加速度である。
また、下記の式によって車両左右加速度目標値を決定する。
なお、UY はジョイスティック左右入力量、αY,Max は車両左右最大加速度である。
このように、ジョイスティック入力量に応じて、車両加速度目標値を決定する。具体的には、ジョイスティック31の前後入力量に比例した値を車両前後加速度とする。この場合、前方への入力を加速指令とし、後方への入力を減速指令とする。また、ジョイスティック31の左右入力量に比例した値を車両左右加速度とする。この場合、入力した方向への旋回を指令する。
なお、本実施の形態においては、車両前後加速度について、最大加速度と最大減速度が同じ値に設定されているが、異なる値を設定してもよい。その場合、ジョイスティック31の前方入力時には最大加速度に入力率を乗じた値を加速度目標値とし、ジョイスティック31の後方入力時には最大減速度に入力率を乗じた値を加速度目標値としてもよい。
また、本実施の形態においては、車両前後加速度について、ジョイスティック31の前方入力を加速、後方入力を減速に対応させているが、これを逆の対応にしてもよい。すなわち、後方入力を加速、前方入力を減速としてもよい。これにより、操縦系の直感的操作感はやや低減するが、操縦者に作用する慣性力に対する安定性が向上する。
さらに、本実施の形態においては、ジョイスティック31の入力量を車両加速度目標値に変換した後に種々の補正を実行するが、入力量を補正した後に入力量を車両加速度目標値に変換してもよい。
続いて、主制御ECU21は、第1補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−2)。具体的には、下記の式によって第1補正後の車両前後加速度目標値を決定する。
また、下記の式によって第1補正後の車両左右加速度目標値を決定する。
なお、βは座標軸回転角正弦値であり、β=sβ0 である。また、β0 は座標軸回転角正弦値の絶対値である。さらに、sはジョイスティック取付位置係数であり、ジョイスティック31が搭乗部14の右側に配設される場合には1とし、左側に配設される場合には−1とする。
このように、前後加速度に所定の座標軸回転角正弦値を乗じた値を、左右加速度に加える。具体的には、車両前後加速度目標値が正の場合、すなわち、ジョイスティック31を前方に入力して車両10を加速させるときには、ジョイスティック31の取付位置から車両10の内側へ向かう方向(図4(c)における上方向)の車両左右加速度目標値を加える。一方、車両前後加速度目標値が負の場合、すなわち、ジョイスティック31を後方に入力して車両10を減速させるときには、ジョイスティック31の取付位置から車両10の外側へ向かう方向(図4(c)における下方向)の車両左右加速度目標値を加える。
これは、車両左右加速度目標値設定の基準となる駆動輪12の回転軸に垂直なジョイスティック31の座標軸を、図4(d)に示されるように、車両10の前方から車両10の外側へ所定の角度βだけ回転させることに相当する。なお、駆動輪12の回転軸に平行なジョイステック31の座標軸は回転させない。
このように、人が斜め前方のジョイスティック31を操作する際の癖である入力特性に対して、非直交座標系によって車両10の受信特性を適合させることで、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。
なお、本実施の形態においては、ジョイスティック31の前後方向の座標軸を回転させた直線状の座標軸に基づいて、入力量を評価しているが、前方と後方で回転角が異なるような折れ線状の座標軸を用いてもよい。また、その折点部を滑らかにした曲線状の座標軸を用いてもよい。
続いて、主制御ECU21は、第2補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−3)。具体的には、下記の式によって第2補正後の車両前後加速度目標値を決定する。
なお、ζX はフィルタ係数であり、ζX =Δt/TX である。また、TX はローパスフィルタ時定数である。
また、下記の式によって第2補正後の車両左右加速度目標値を決定する。
なお、ζY はフィルタ係数であり、ζY =Δt/TY である。また、TY はローパスフィルタ時定数である。そして、本実施の形態において、ローパスフィルタ時定数は次のように設定される。
このように、ローパスフィルタによって、車両加速度目標値を補正する。つまり、ローパスフィルタによって、車両前後加速度目標値の高周波成分を除去する。倒立型の車両10においては、前後加速度に応じて車体姿勢を変化させる必要があるため、不要な高周波成分をノイズと共に除去することで、車体姿勢に振動や乱れが発生しないようにする。これにより、より快適な倒立型の車両10を提供できる。
また、ローパスフィルタによって、ジョイスティック入力に対する左右加速度の応答に、適度な時間遅れを与える。同軸2輪倒立型の車両10においては、前後走行の応答性と比べて、旋回走行の応答性が高すぎるため、車両10の車体姿勢変化に関する特性時間を、意図的な時間遅れとして与える。これにより、旋回走行の過敏な応答に対する操縦者である乗員15の違和感を低減すると共に、操縦を容易にする。
なお、本実施の形態においては、倒立型の車両10の力学的な特性時間に基づいて時定数を設定しているが、他の特性時間に基づいて時定数を決定してもよい。例えば、車両10の前後加減速運動に関する特性時間を時定数としてもよい。また、車両10の前後加減速運動に関する特性時間よりも、車両10の旋回に関する特性時間の方が長い場合には、その特性時間に基づいて、車両前後加速度目標値に対するローパスフィルタの時定数をより大きく設定してもよい。
続いて、主制御ECU21は、第3補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−4)。具体的には、下記の式によって第3補正後の車両前後加速度目標値を決定する。
また、下記の式によって第3補正後の車両左右加速度目標値を決定する。
さらに、αY,IS,0は左右不感帯閾値、CIS,Vは不感帯拡張速度係数(所定値)、CIS,Dは不感帯拡張減速度係数(所定値)である。また、本実施の形態において、前後不感帯閾値及び左右不感帯閾値は、αY,IS,0>αX,IS,0となるように設定される。
このように、不感帯によって、車両加速度目標値を補正する。具体的には、図5(a)に示されるように、車両前後加速度目標値の絶対値が所定の前後不感帯閾値αX,IS,0以下であるとき、車両前後加速度目標値を零とする。これは、ジョイスティック31の操作量に対応する電気信号のノイズ若しくはオフセット、又は、外乱によるジョイスティック31の微小入力等によって、車両停止時に微小な駆動トルクが付加されることを防ぐためである。これにより、快適性や操縦性のより高い車両10を提供できる。
また、図5(b)に示されるように、車両左右加速度目標値の絶対値が所定の左右不感帯閾値αY,IS,0以下であるとき、車両左右加速度目標値を零とする。これは、操縦者の直進を意図するジョイスティック31の操作時における左右方向へのずれを考慮し、左右不感帯閾値によって直進操作時の不本意な左右方向入力と旋回を希望する意図的な左右方向入力とを識別して、直進操作時の不本意な左右方向入力を無視することで、車両10の直進走行性を補償するためである。これにより、操縦性や快適性のより高い車両10を提供できる。
さらに、車両速度としての駆動輪回転角速度の増加と共に、左右不感帯閾値を大きくする。このように、車両速度に応じて左右不感帯幅を拡張することで、高速走行時により重要となる直進性を、操縦者の技量に依らず、確実に保障することができる。また、減速時においては、車両減速度の増加と共に、左右不感帯閾値を大きくする。このように、急制動時に車両10の進行方向が左右にぶれることを確実に防ぐことで、より高い操縦性や安全性を実現できる。
さらに、車両加速度目標値の最大値が変化しないように、所定の補正係数を乗ずる。
続いて、主制御ECU21は、第4補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−5)。具体的には、下記の式によって第4補正後の車両前後加速度目標値を決定する。
さらに、PX は前後入力指数であり、PX =pX +qX である。なお、pX は前後入力指数の整数部分、qX は前後入力指数の小数部分(0≦qX <1)である。
また、下記の式によって第4補正後の車両左右加速度目標値を決定する。
なお、pY は左右入力指数の整数部分、qY は左右入力指数の小数部分(0≦qY <1)である。また、PY,Inは左右内側入力指数、PY,Out は左右外側入力指数である。そして、本実施の形態においては、PY,In>PY,Out となるように設定される。
このように、非線形関数によって、車両加速度目標値を補正する。具体的には、前後入力指数及び左右入力指数を指数とする指数関数によって、図6(a)及び(b)に示されるように、値が大きいときの変化率が値が小さいときの変化率よりも大きくなるように、車両前後加速度目標値及び車両左右加速度目標値を補正する。このように、人が有する操作量の非線形な感受特性に対して車両10の感受特性を適合させることで、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。その結果、快適性や操縦性のより高い車両10を提供できる。
また、操縦者の左右入力方向に応じて、異なる左右入力指数を用いる。図6(b)に示されるように、ジョイスティック31の取付位置から車両10の内側へ向かう方向の車両左右加速度目標値に対する左右入力指数を、車両10の外側へ向かう方向の車両左右加速度目標値に対する左右入力指数よりも大きくする。このように、人の体の非対称な構造及び操作量の非対称な感受特性による左右の違いに対して車両10の感受特性を適合させることで、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。その結果、更に快適性や操縦性の高い車両10を提供できる。
なお、本実施の形態においては、入力指数による指数関数について、入力指数が整数でない場合には、指数が整数の関数で簡単に近似して関数値を取得しているが、より厳密に計算してもよい。例えば、テイラー級数で近似して計算してもよい。
続いて、主制御ECU21は、第5補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−6)。具体的には、下記の式によって第5補正後の車両前後加速度目標値を決定する。
また、下記の式によって第5補正後の車両左右加速度目標値を決定する。
第5補正においては、図7に示されるように、出力特性が左右方向について非対称になるように車両左右加速度目標値を補正する。具体的には、ジョイスティック31の取付位置から車両10の外側へ向かう方向の車両左右加速度目標値について、所定の1以上の値である非対称係数を乗ずる。このように、人の体の非対称な構造及び操作量の非対称な感受特性による左右の違いに対して車両10の感受特性を適合させることで、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。その結果、更に操縦性や快適性の高い車両10を提供できる。
なお、非対称係数を乗ずることで、車両左右加速度目標値が所定の最大値を超えないように、値を制限する。
最後に、主制御ECU21は、車両加速度目標値を決定して(ステップS4−7)、車両加速度目標値決定処理を終了する。以上のように、第1〜第5補正によって補正された車両加速度目標値を最終的な車両加速度目標値として決定する。
このように、本実施の形態において、入力装置30は操縦者が操作するジョイスティック31を備え、駆動輪12の回転軸に垂直な方向へのジョイスティック31の傾斜量を前後入力量とし、駆動輪12の回転軸に平行な方向へのジョイスティック31の傾斜量を左右入力量として取得し、補正した前後入力量に比例した値を前後走行状態として設定し、補正した左右入力量に比例した値を旋回走行状態として設定し、設定した前後走行状態及び旋回走行状態を前後走行状態及び/又は旋回走行状態の時間履歴に応じて補正し、設定した前後走行状態と旋回走行状態を達成するような駆動トルクを各駆動輪12に付与する。
また、前後走行状態を車両前後加速度とし、旋回走行状態を車両左右加速度とする。そして、車両前後加速度に応じて車体を前後に傾斜させ、車両左右加速度に応じて車体を左右に傾斜させる。
さらに、車両前後加速度と車両左右加速度にローパスフィルタをかける。具体的には、車両前後加速度のローパスフィルタの時定数よりも大きい時定数のローパスフィルタを、車両左右加速度のローパスフィルタとする。また、車体の前後姿勢制御における時間遅れを、車両左右加速度のローパスフィルタの時定数とする。
さらに、前後加速度に所定の座標軸回転角正弦値を乗じた値を、左右加速度に加える。具体的には、前後加速度が正の場合には、操縦装置であるジョイスティック31の位置から車両の内側へ向かう方向の左右加速度を加え、前後加速度が負の場合には、外側へ向かう方向の左右加速度を加える。
さらに、車両前後加速度の絶対値が所定の前後不感帯閾値よりも小さい場合には、車両前後加速度を零とし、車両左右加速度の絶対値が所定の左右不感帯閾値よりも小さい場合には、車両左右加速度を零とする。この場合、前後不感帯閾値よりも左右不感帯閾値を大きく設定する。そして、車両速度の増加と共に、左右不感帯閾値を大きくする。また、前後加速度が負であるときには、その絶対値の増加と共に左右不感帯閾値を大きくする。
さらに、車両前後加速度の値に所定の前後入力指数を乗じた値に比例した値を車両前後加速度とし、車両左右加速度の値に所定の左右入力指数を乗じた値に比例した値を車両左右加速度とする。この場合、車両左右加速度の正負に応じて異なる左右入力指数を用い、ジョイスティック31の位置から車両10の内側へ向かう方向の車両左右加速度に用いる左右入力指数を、車両10の外側へ向かう方向の車両左右加速度に用いる左右入力指数よりも大きくする。
さらに、ジョイスティック31の位置から車両10の外側へ向かう方向の車両左右加速度に所定の非対称係数を乗ずる。
これにより、人の体の構造や動作特性、感受特性等に適応した操縦特性を実現することができ、誰でも容易かつ気軽に操縦することができる操縦性の高い車両10を提供することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図9は本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
前記第1の実施の形態において、車両加速度目標値の補正は、「平均的な」操縦者を想定した所定のパラメータによって実行される。しかし、人の体の構造や動作特性、感受特性等は各個人で異なるため、操縦者によっては、操縦性が悪く、自身の操縦意図と実際の車両走行動作が一致しないと感じる可能性がある。
そこで、本実施の形態においては、車両加速度の時間履歴に応じて、補正パラメータを修正する。また、外部記憶装置に記憶された補正パラメータの取得及び書換を行う読み書き手段を備え、車両起動時に記憶された補正パラメータを取得し、取得した値を補正パラメータの初期値とし、車両停止時に補正パラメータの最終値を外部記憶装置に記憶させる。これにより、操縦者の技量、経験、癖等に適応した操縦特性を即時に実現することができ、誰でも容易に操縦できる車両10を提供できる。
図9に示されるように、本実施の形態において、入力装置30は、ジョイスティック31に加えて、車両システムの動作指令を出力する制御スイッチ32と、外部記憶装置としてのIDカード34との送受信を行うことによって該IDカード34が記憶するデータの読込及び書込を行う読み書き手段としてのIDカードインターフェイス33とを備える。
そして、操縦者である乗員15が前記制御スイッチ32を操作すると、該制御スイッチ32が動作指令を出力し、該動作指令を受信した主制御ECU21は、車両システムの制御を開始する。
また、乗員15は、自身を識別するIDカード34を所持する。該IDカード34は、磁気ストライプ、半導体メモリ等のデータ記憶手段を備え、前記乗員15専用の補正パラメータをデータとして記憶する。そして、乗員15が自分の所持するIDカード34をIDカードインターフェイス33と通信可能に接続することによって前記IDカード34の記憶する補正パラメータをIDカードインターフェイス33に読み込ませると、主制御ECU21は、前記補正パラメータをIDカードインターフェイス33から受信し、車両加速度目標値の補正に用いる補正パラメータの初期値として設定する。また、車両システムの制御を終了すると、主制御ECU21は、修正した補正パラメータをIDカードインターフェイス33に送信し、前記IDカード34に記憶させる。
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。まず、車両システムの動作を制御するシステム制御処理について説明する。
図10は本発明の第2の実施の形態におけるシステム制御処理の動作を示すフローチャートである。
システム制御処理において、主制御ECU21は、制御開始であるか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、制御スイッチ32からの動作指令を受信するまで待機し、該動作指令を受信すると、制御開始であると判断する。
そして、制御開始であると判断すると、主制御ECU21は、IDカード34のデータが読込可能であるか否かを判断する(ステップS12)。この場合、IDカードインターフェイス33によるIDカード34の記憶するデータの読込が可能であり、かつ、該データが補正パラメータであるときに読込可能であると判断する。
読込可能であると判断すると、主制御ECU21は、補正パラメータを取得する(ステップS13)。具体的には、IDカードインターフェイス33が読み込んだIDカード34が記憶する補正パラメータを、IDカードインターフェイス33から受信し、車両加速度目標値の補正に用いる補正パラメータの初期値として設定する。
また、読込可能でないと判断すると、主制御ECU21は、補正パラメータを設定する(ステップS14)。この場合、所定の値を車両加速度目標値の補正に用いる補正パラメータの初期値として設定する。
続いて、主制御ECU21は、走行及び姿勢制御処理を実行する(ステップS15)。この場合、初期値として設定した補正パラメータを修正しながら、前記第1の実施の形態と同様の走行及び姿勢制御処理を実行する。
続いて、制御終了であるか否かを判断する(ステップS16)。具体的には、制御スイッチ32からの動作指令を受信できないと、制御終了であると判断する。なお、制御スイッチ32からの動作指令を受信できるときは、制御終了でないと判断し、走行及び姿勢制御処理を繰り返し実行する。
そして、制御終了であると判断すると、主制御ECU21は、補正パラメータを記憶して(ステップS17)、システム制御処理を終了する。具体的には、主制御ECU21が修正された補正パラメータの最終値をIDカードインターフェイス33に送信し、該IDカードインターフェイス33が前記補正パラメータの最終値をIDカード34に書き込んで記憶させる。
このように、各操縦者に適応された補正パラメータを、各操縦者が所持する外部記憶装置に記憶させる。つまり、制御終了時に、修正された補正パラメータの最終値をIDカード34に記憶させる。また、制御開始時に、IDカード34に記憶された補正パラメータを取得し、修正前の初期値とする。なお、取得が不可能である場合には、平均的な操縦特性に相当する所定値を初期値として設定する。このように、各操縦者に対応したIDカード34に情報の1つとして補正パラメータを記憶させることで、補正パラメータの修正に要する時間を省くと共に、1台の車両10を複数人が利用する使用環境において、簡単かつ瞬間的に各操縦者の特性に適合させることで、快適性や利便性のより高い車両10を提供できる。
なお、本実施の形態においては、IDカード34を各個人に適応された補正パラメータの外部記憶装置として用いているが、他の機能と併用してもよい。例えば、IDカード34はID番号を記憶し、また、車両10は使用許可ID番号列を記憶し、使用許可ID番号列のデータの1つがID番号と合致した場合に制御開始を許可する認証手段を兼ねてもよい。
また、本実施の形態においては、外部記憶装置として車両10からの取り外しが可能なIDカード34を用いているが、車両10に備え付けた記憶装置を用いてもよい。この場合、制御開始前に、パスワード等の個人を特定できる情報を入力するか、又は、複数の使用者リストから自身を選択することで操縦者個人を特定し、前回の車両利用時に車両10に備え付けられた記憶装置に記憶された補正パラメータの値を取得する。
次に、本実施の形態における車両加速度目標値決定処理について説明する。
図11は本発明の第2の実施の形態における座標軸回転角正弦値の推定を説明する図、図12は本発明の第2の実施の形態における車両加速度目標値決定処理の動作を示すフローチャートである。
車両加速度目標値決定処理において、主制御ECU21は、まず、基準車両加速度目標値を決定する(ステップS4−11)。なお、基準車両加速度目標値を決定する動作は、前記第1の実施の形態における図8に示されるステップS4−1の動作と同様であるので、説明を省略する。
続いて、主制御ECU21は、補正パラメータを決定する(ステップS4−12)。この場合、下記の式によって座標軸回転角正弦値β、左右不感帯閾値αY,IS,0、左右外側入力指数PY,Out 及び非対称係数γY,Asを決定する。
ここで、βInitは座標軸回転角正弦値初期値、αY,IS,0,Init は左右不感帯閾値初期値、PY,Out,Initは左右外側入力指数初期値、γY,As,Init は非対称係数初期値である。また、NTRは初期値固定データ数であり、NTR=TTR/Δt、TTRは初期値固定時間(所定値)、ξはフィルタ係数であり、ξ=Δt/TLP、TLPはフィルタ時定数(初期値)である。
また、下記の式によって座標軸回転角正弦値βの推定値、左右不感帯閾値αY,IS,0の推定値、左右外側入力指数PY,Out の推定値及び非対称係数γY,Asの推定値を決定する。
さらに、下記の式によって前後加速度2乗和SXX、左右加速度2乗和SYY及び加速度相乗和SXYが決定される。
なお、Nは参照データ数であり、N=Tref /Δt、Tref は参照時間(所定値)である。
さらに、下記の式によって選抜加速度が決定される。
さらに、下記の式によって選抜判定値が決定される。
また、Tshは最大入力移行時間選抜閾値(所定値)である。
さらに、下記の式によって分散値が決定される。
なお、Δσは分散差であり、Δσ=σIn−σOut である。また、下記の式によって内側分散値が決定される。
また、下記の式によって内側左右加速度2乗和SYY,In 及び内側加速度相乗和SXY,In が決定される。
ここで、NInは内側加速度データ数であり、上記内側加速度の式における第1行に該当する回数である。
また、下記の式によって外側分散値が決定される。
また、下記の式によって外側左右加速度2乗和SYY,Out及び外側加速度相乗和SXY,Outが決定される。
ここで、NOut は外側加速度データ数であり、上記外側加速度の式における第1行に該当する回数である。
このように、車両加速度の時間履歴によって、補正パラメータを修正する。まず、車両左右加速度目標値と車両前後加速度目標値との比の平均値に応じて、基準軸の傾きを修正する。この場合、図11に示されるように、車両左右加速度目標値と車両前後加速度目標値との間の時間平均的な関係として、直線に相当する比例関係を仮定し、その比例定数を最小2乗法によって推定する。そして、時間平均的な比例関係を示す直線を基準軸として、その比例定数を座標軸回転角正弦値βとする。このように、右折操作と左折操作を同程度の頻度及び程度で実行するという仮定に基づき、操縦操作の時間平均を操縦者の感覚的な基準軸として、該基準軸の傾きを座標軸回転角正弦値βとすることで、人が斜め前方のジョイスティック31を操作する際の癖である入力特性についての個人差が車両10側の修正によって補償され、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。
また、基準軸に対する車両左右加速度目標値のばらつきに応じて、左右不感帯の幅を修正する。まず、車両前後加速度目標値に比の平均値を乗じた値を基準車両左右加速度とし、それに対する車両左右加速度目標値の偏差の2乗平均を分散値として取得する。そして、分散値の正の平方根である標準偏差値に比例した値を左右不感帯閾値とする。このように、直進操作に比べて旋回操作の頻度がはるかに少なく、基準軸に対する左右への操縦操作の大多数が操縦者の直進操作における意図しない操作量のずれであるという仮定に基づき、直進操作時の不本意な左右方向入力と旋回を希望する意図的な左右方向入力を識別する閾値を適切に修正することで、操縦技術の個人差を補償し、操縦者の技量や癖に依らず、車両10の直進走行性を保障できる。
さらに、基準軸に対する車両左右加速度目標値のばらつきの非対称度に応じて、左右非対称化の程度を修正する。まず、車両左右加速度目標値が基準車両加速度より大きい場合の車両左右加速度の分散値と、車両左右加速度目標値が基準車両加速度より小さい場合の車両左右加速度の分散値との差を、車両左右加速度目標値の非対称度として取得する。そして、非対称度に比例した量だけ、左右外側入力指数及び非対称係数を修正する。このように、右折操作と左折操作が同程度の頻度及び程度で実行され、操縦操作の非対称性は操縦者の意図しない結果であるという仮定に基づき、基準軸に対する車両10の内側へのばらつきと車両10の外側へのばらつきとの差を軽減させるように左右非対称化の程度を適切に修正することで、操縦者の癖である操縦特性の個人差が補償され、操縦者である乗員15は違和感なく快適に操縦することができる。
さらに、車両加速度目標値の瞬時値とその時間変化率が小さい場合、そのデータを時間履歴から除いて、考慮しない。具体的には、車両前後加速度と車両左右加速度のベクトル和である車両並進加速度の目標値とその時間変化率との積の絶対値が所定の閾値以下であるときの車両加速度目標値を無視して、各補正パラメータを決定する。このように、操縦者による個人差がより顕著である大きい操作時や素早い操作時の操作履歴を選択的に抽出し、その後の修正操作に相当する小さい操作を無視することで、より適切に補正パラメータを修正できる。
さらに、制御開始から所定時間、補正パラメータの修正を禁止する。そして、制御開始から所定時間を経過するまで、IDカード34に記憶された補正パラメータの値を使用する。このように、過去のデータを活用することで、2度目の使用時から補正パラメータの適合に要する時間を省略し、走行開始直後から操縦者に適合した特性によって操縦性や快適性を即時に保障できる。
さらに、所定時間経過後の補正パラメータ値にローパスフィルタ処理を施す。このように、必要なデータ量が少ないIIR型のローパスフィルタを併用することで、最小2乗法の参照時間を短くしても、すなわち、膨大な車両加速度目標値のデータ量を低減させても、安定的に補正パラメータの修正を実行できる。
なお、本実施の形態においては、操縦特性に関する操縦者の希望を直接的に取得することなく、操縦特性の適合を実行しているが、操縦特性に関する操縦者の希望を取得し、それを考慮して操縦特性を適合してもよい。例えば、離散的な操縦特性の選択や操縦特性の定性的な修正方向希望を、搭乗部14に具備された入力装置30を用いて操縦者である乗員15が入力することを可能とし、該乗員15の希望に反するような補正パラメータの修正を禁止させてもよい。また、操縦特性を操縦者自身が手動で調整するための調整器と、手動による適合と自動的な適合を切り替えるスイッチとを搭乗部14に配設し、スイッチが手動適合を指示する状態にあるときは、調整器の入力量に応じて補正パラメータを修正し、スイッチが自動適合を指示する状態にあるときは、本実施の形態における自動適合制御を実行するようにしてもよい。
また、本実施の形態においては、操縦者の操縦意図を検出又は推定せず、大きな仮定と平均化に基づいて補正パラメータを修正しているが、操縦者の操縦意図を検出又は推定し、それを考慮して補正パラメータを修正してもよい。例えば、カーナビゲーションシステムとして地図データ及び自車位置検出センサを備え、それらによって、走行路が若干曲がっているのか又は操縦者の不本意な操作によって曲がっているのかを判断し、操縦者の意図的な操作であると判断される場合には、その時間での車両加速度目標値を時間履歴から除いてもよい。また、方向指示器等、操縦者の操作する他の要素の操作量に応じて操縦者の操縦意図を推定して考慮してもよい。
続いて、主制御ECU21は、第1補正車両加速度目標値を決定する(ステップS4−13)。なお、以降の動作、すなわち、ステップS4−13〜S4−18の動作は、前記第1の実施の形態における図8に示されるステップS4−2〜S4−7の動作と同様であるので、説明を省略する。
このように、本実施の形態においては、車両加速度の時間履歴に応じて、補正パラメータを修正する。具体的には、補正パラメータとして、座標軸回転角正弦値、左右不感帯閾値、左右入力指数又は非対称係数の少なくとも1つ以上を修正する。
そして、車両左右加速度と車両前後加速度との比の平均値に応じて、補正パラメータを修正する。この場合、最小2乗法によって、比の平均値を決定する。そして、比の平均値を座標軸回転角正弦値とする。また、車両前後加速度に比の平均値を乗じた値である基準車両左右加速度に対する車両左右加速度の偏差の2乗の平均である分散値に応じて、左右不感帯閾値を修正する。さらに、基準車両左右加速度以上の車両左右加速度の分散値と、基準車両左右加速度以下の車両左右加速度の分散値との差に応じて、左右入力指数及び/又は非対称係数を修正する。
また、車両加速度及び/又は車両加速度の時間変化率が所定の閾値よりも小さいときの車両加速度を時間履歴から除外する。具体的には、車両加速度と同時間変化率との積の絶対値が所定の閾値以下である場合に除外する。
さらに、外部記憶装置としてのIDカード34に記憶された補正パラメータの取得及び書換を行う読み書き手段として、IDカードインターフェイス33を備え、車両起動時に記憶された補正パラメータを取得し、取得した値を補正パラメータの初期値とし、車両停止時に補正パラメータの最終値をIDカード34に記憶させる。
これにより、操縦者の技量、経験、癖等に適応した操縦特性を即時に実現することができ、誰でも容易に操縦できる車両10を提供できる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図13は本発明の第3の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図14は本発明の第3の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図13において、(a)は操縦装置を右側に取り付けた場合の取付部スイッチの動作を示す図、(b)は操縦装置を右側に取り付けた場合の車両の正面図、(c)は操縦装置を左側に取り付けた場合の車両の正面図、(d)は操縦装置を左側に取り付けた場合の取付部スイッチの動作を示す図、(e)は取付部スイッチの内部構造を示す図である。
前記第1及び第2の実施の形態においては、搭乗部14の側方にジョイスティック31が配設され、それを操縦者である乗員15が片手で操作する場合、利き腕の側とジョイスティック31の配設側とが異なると、操縦が非常に困難である。もっとも、その解決手段として、搭乗部14の左右両側にジョイスティック31を配設することも考えられるが、その場合、安価で軽量で簡素な車両10を実現する妨げとなることがある。
そこで、本実施の形態においては、操縦装置取付部を搭乗部14の左右両側に配設し、操縦装置としてのジョイスティック31をその一方に接続可能な構造とする。これにより、利き腕が左右のどちらであるかに依らず、誰でも快適に操縦でき、操縦性や快適性が高く、かつ、安価な車両10を提供できる。
図13に示されるように、本実施の形態におけるジョイスティック31は、基部31a内に配設された取付部スイッチ35を有する。該取付部スイッチ35は、基部31a内の左右に各々揺動可能に取り付けられた右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lと、スイッチ用ECU35aと、前記右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lと接離する一対のスイッチ接点35bとを含み、取付側認識装置として機能する。そして、前記ジョイスティック31は、搭乗部14の右脇及び左脇に配設された操縦装置取付部としての操縦装置右側取付部18R又は操縦装置左側取付部18Lに着脱可能に取り付けられる。
また、図13(e)に示されるように、右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lの基部に接続された揺動軸の周囲にはコイルばね等から成る付勢部材38が配設され、該付勢部材38によって、右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lは、その先端がスイッチ接点35bから離間するように付勢されている。つまり、付勢部材38によって、右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lは、その先端が鉛直下方に移動するように付勢されている。そのため、ジョイスティック31が操縦装置右側取付部18R又は操縦装置左側取付部18Lに取り付けられていない状態では、右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lとスイッチ接点35bとは開状態に維持されている。
さらに、前記基部31aの底板には左右一対の貫通孔(こう)36が形成されている。そして、ジョイスティック31が操縦装置右側取付部18Rに取り付けられると、図13(a)に示されるように、操縦装置右側取付部18Rの上面から上方に向けて突出する右凸部19Rが、右側の貫通孔36から基部31a内に進入し、右取付スイッチ35Rを押し上げる。これにより、右取付スイッチ35Rの先端が鉛直上方に変位してスイッチ接点35bに接触する。すると、スイッチ用ECU35aは、電位差の変化を感知し、右取付スイッチ35Rの接続状態、すなわち、操縦装置右側取付部18Rにジョイスティック31が取り付けられていることを、右側接続信号として、主制御ECU21に送信する。
また、ジョイスティック31が操縦装置左側取付部18Lに取り付けられると、図13(d)に示されるように、操縦装置左側取付部18Lの上面から上方に向けて突出する左凸部19Lが、左側の貫通孔36から基部31a内に進入し、左取付スイッチ35Lを押し上げる。これにより、左取付スイッチ35Lの先端が鉛直上方に変位してスイッチ接点35bに接触する。すると、スイッチ用ECU35aは、電位差の変化を感知し、左取付スイッチ35Lの接続状態、すなわち、操縦装置左側取付部18Lにジョイスティック31が取り付けられていることを、左側接続信号として、主制御ECU21に送信する。
このように、本実施の形態においては、ジョイスティック31が取り付けられているか否か、左右どちら側に取り付けられているかを簡易なシステムで確実に判断できる。なお、入力装置30から主制御ECU21に送信される信号は、すべて無線信号である。そのため、電気配線に関係なくジョイスティック31の左右付け替えが可能であり、利便性と快適性のより高い車両10を提供できる。
なお、本実施の形態においては、機械的な構造によってジョイスティック31の接続状態を判断しているが、他の電磁気的又は電子的な情報によって、接続状態を認識してもよい。例えば、ジョイスティック操作量に相当する電気信号を有線で取得する車両10の場合、左右各々に電気コネクタを備え、その一方からの信号を受信した場合に、その側にジョイスティック31が接続されていると判断してもよい。また、操縦者自身がどちらに接続されているかを入力装置30を介して入力してもよい。
また、車両システムのその他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。ここでは、車両システムの動作を制御するシステム制御処理のみについて説明する。
図15は本発明の第3の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第1補正を説明する図、図16は本発明の第3の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第4補正の結果を示す図、図17は本発明の第3の実施の形態における車両加速度目標値決定処理での第5補正の結果を示す図、図18は本発明の第3の実施の形態におけるシステム制御処理の動作を示すフローチャートである。なお、図15〜17において、(a)は操縦装置を右側に取り付けた場合を示し、(b)は操縦装置を左側に取り付けた場合を示す。
システム制御処理において、主制御ECU21は、制御開始であるか否かを判断する(ステップS21)。具体的には、制御スイッチ32からの動作指令を受信するまで待機し、該動作指令を受信すると、制御開始であると判断する。
そして、制御開始であると判断すると、主制御ECU21は、右側取付であるか否かを判断する(ステップS22)。この場合、取付部スイッチ35から右側接続信号のみを受信したときには、右側取付である、すなわち、ジョイスティック31が操縦装置右側取付部18Rに取り付けられている、と判断する。
右側取付であると判断すると、主制御ECU21は、s=1とする(ステップS23)。すなわち、ジョイスティック取付位置係数sの値を、ジョイスティック31が操縦装置右側取付部18Rに取り付けられている状態に相当する1に設定する。
また、右側取付でないと判断すると、主制御ECU21は、左側取付であるか否かを判断する(ステップS24)。この場合、取付部スイッチ35から左側接続信号のみを受信したときには、左側取付である、すなわち、ジョイスティック31が操縦装置左側取付部18Lに取り付けられている、と判断する。
左側取付であると判断すると、主制御ECU21は、s=−1とする(ステップS25)。すなわち、ジョイスティック取付位置係数sの値を、ジョイスティック31が操縦装置左側取付部18Lに取り付けられている状態に相当する−1に設定する。
なお、左側取付でないと判断すると、主制御ECU21は、そのまま、システム制御処理を終了する。
このように、接続信号に基づいて、ジョイスティック31の取付状態を判断する。つまり、右側接続信号を受信し、かつ、左側接続信号を受信しない場合は、ジョイスティック31が搭乗部14の右側に取り付けられていると判断し、右側取付状態に相当するジョイスティック取付位置係数s=1を設定した後、走行及び姿勢制御処理を開始する。また、左側接続信号を受信し、かつ、右側接続信号を受信しない場合は、ジョイスティック31が搭乗部14の左側に取り付けられていると判断し、左側取付状態に相当するジョイスティック取付位置係数s=−1を設定した後、走行及び姿勢制御処理を開始する。
このように、ジョイスティック31の取付状態を確実に認識し、その取付状態に応じてジョイスティック取付位置係数を切り替えることで、取付状態に適した車両加速度目標値の補正を実行し、取付状態に依らず、高い操縦性や快適性を実現できる。
なお、右側接続信号と左側接続信号を共に受信する場合、又は、共に受信しない場合は、ジョイスティック31の取付状態が異常であると判断し、システム制御処理を終了する。このように、異常状態での動作を禁止して十分な安全性を確保するとともに、ジョイスティック31を固定せずに操縦することを禁止して、ジョイスティック31を固定した安全な状態での操縦を促す。
続いて、主制御ECU21は、走行及び姿勢制御処理を実行する(ステップS26)。この場合、設定されたジョイスティック取付位置係数sに応じて、前記第1の実施の形態と同様の走行及び姿勢制御処理を実行する。
なお、本実施の形態においては、ジョイスティック31の取付状態に応じて、ジョイスティック取付位置係数sが1又は−1に設定されるので、走行及び姿勢制御処理の車両加速度目標値決定処理における第1補正は、図15のように行われる。なお、図15(a)は、右側取付状態、すなわち、ジョイスティック取付位置係数s=1の場合を示し、図15(b)は、左側取付状態、すなわち、ジョイスティック取付位置係数s=−1の場合を示している。
また、第4補正及び第5補正は、図16及び17のように行われる。なお、図16及び17において、(a)は、右側取付状態、すなわち、ジョイスティック取付位置係数s=1の場合を示し、(b)は、左側取付状態、すなわち、ジョイスティック取付位置係数s=−1の場合を示している。
最後に、制御終了であるか否かを判断する(ステップS27)。具体的には、制御スイッチ32からの動作指令を受信できないと、制御終了であると判断し、システム制御処理を終了する。なお、制御スイッチ32からの動作指令を受信できるときは、制御終了でないと判断し、走行及び姿勢制御処理を繰り返し実行する。
このように、本実施の形態においては、搭乗部14の左右両側に操縦装置右側取付部18R及び操縦装置左側取付部18Lを配設し、ジョイスティック31をその一方に取り付けることができる。そして、ジョイスティック31の基部31aに配設された2つの取付側認識スイッチ、すなわち、右取付スイッチ35R及び左取付スイッチ35Lを備え、ジョイスティック31が固定された状態で右取付スイッチ35R又は左取付スイッチ35Lの一方が自動的に押圧される。また、取付部スイッチ35が送信する右側接続信号及び左側接続信号に応じて、ジョイスティック31の左右入力に対する感受特性を反転させる。具体的には、座標軸回転角正弦値、左右入力指数及び非対称係数を切り替える。また、ジョイスティック取付位置係数の値を変更する。さらに、右側接続信号と左側接続信号を共に取得できない場合には、車両10の起動を禁止する。さらに、入力装置30から主制御ECU21への無線信号により、ジョイスティック31の操作量を送信する。
これにより、利き腕が左右のどちらであるかに依らず、誰でも快適に操縦でき、操縦性や快適性が高く、かつ、安価な車両10を提供できる。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図19は本発明の第4の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図20は本発明の第4の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図19において、(a)は背面図、(b)は側面図である。
本実施の形態においては、車両10が3輪以上の車輪を有するものである場合について説明する。つまり、前記車両10は、例えば、前輪が1輪であり後輪が2輪である3輪車、前輪が2輪であり後輪が1輪である3輪車、前輪及び後輪が2輪である4輪車等であるが、3輪以上の車輪を有するものであれば、いかなる種類のものであってもよい。
ここでは、説明の都合上、図19に示されるように、前記車両10が、車体の前方に配設され、操舵(だ)輪として機能する1つの前輪である車輪12Fと、車体の後方に配設され、駆動輪12として機能する左右2つの後輪である車輪12L及び12Rとを有する3輪車である例についてのみ説明する。
この場合、車両10は、前記第1〜第3の実施の形態と同様のリンク機構60によって左右の車輪12L及び12Rのキャンバー角を変化させるとともに、搭乗部14及び本体部11を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させる、つまり、車体を横方向(左右方向)に傾斜させることができる。なお、倒立振り子の姿勢制御のような姿勢制御は行わないものとする。すなわち、車体の前後方向の姿勢制御は行わないものとする。
また、車輪12Fは、サスペンション装置(懸架装置)の一部である前輪フォーク17を介して本体部11に接続されている。前記サスペンション装置は、例えば、一般的なオートバイ、自転車等において使用されている前輪用のサスペンション装置と同様の装置であり、前記前輪フォーク17は、例えば、スプリングを内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。そして、一般的なオートバイ、自転車等の場合と同様に、操舵輪としての車輪12Fは舵角を変化させ、これにより、車両10の進行方向が変化する。
具体的には、図19に示されるように、本体部11の前端上方に操舵部77が配設され、該操舵部77によって前輪フォーク17の回転軸が回転可能に支持されている。また、前記操舵部77は、操舵用アクチュエータとしてのステアリングアクチュエータ71と、操舵量検出器としての操舵角センサ72とを備える。前記ステアリングアクチュエータ71は、ジョイスティック31から走行指令に応じて前記前輪フォーク17の回転軸を回転させ、操舵輪としての車輪12Fは舵角を変化させる。つまり、車両10の操舵は、いわゆるバイワイヤによって行われる。また、操舵角センサ72は、前記前輪フォーク17の回転軸の角度変化を検出することによって車輪12Fの舵角、すなわち、操舵装置の操舵量を検出することができる。
そして、本実施の形態における車両10は、図20に示されるような車両システムを有する。入力装置30は、操舵角センサ72、スロットルグリップ73及びブレーキレバー74を操縦装置として備える。前記スロットルグリップ73は、加速操作におけるジョイスティック31の前後方向への操作量を検出し、該操作量に応じて、車両10を加速するような走行指令を入力する装置である。また、前記ブレーキレバー74は、減速操作におけるジョイスティック31の前後方向への操作量を検出し、該操作量に応じて、車両10を減速するような走行指令を入力する装置である。
また、制御ECU20は、操舵制御ECU24を有する。そして、主制御ECU21は、ジョイスティック31から走行指令に応じて操舵指令値を操舵制御ECU24に送信し、該操舵制御ECU24は、受信した操舵指令値に相当する入力電圧をステアリングアクチュエータ71に供給する。そして、操舵角センサ72の検出した舵角は、主制御ECU21に送信される。
さらに、車両システムは、横加速度センサ42及びリンクセンサ43を備える。前記横加速度センサ42は、一般的な加速度センサ、ジャイロセンサ等から成るセンサであって、車両10の横加速度を検出する。また、前記リンクセンサ43は、ロータリーエンコーダ等から成るセンサであって、リンク機構60のリンク部材同士の回転角の変化を検出することによってリンク回転角及び/又は回転角速度を検出する。
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について詳細に説明する。まず、走行及び姿勢制御処理について説明する。
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する。本実施の形態においては、前後方向の姿勢制御は行わないので、車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度は、不要なので取得しない。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出するが、ピッチ角速度又は車体傾斜ピッチ角は、不要なので算出しない。
なお、次に行われる操縦者の操縦操作量を取得する動作、及び、車両加速度の目標値を決定する動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する。ここで、平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
また、本実施の形態において、主制御ECU21は、駆動輪回転角速度左右差の目標値を下記の式によって決定する。
このように、本実施の形態においては、操舵角と平均駆動輪回転角速度目標値から左右の駆動輪12の回転角速度の差の目標である駆動輪回転角速度左右差目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する。なお、本実施の形態においては前後方向の姿勢制御は行わないので、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する際に、車体傾斜ピッチ角の目標値は算出せずに、車体傾斜ロール角の目標値のみを決定する。車体傾斜ロール角の目標値の決定は、前記第1の実施の形態と同様に行われるので、説明を省略する。
車体傾斜ロール角については、接地荷重中心が2つの駆動輪12の接地点間である安定領域に存在する範囲で、自由に目標姿勢を設定できるが、本実施の形態では乗員15の負荷が最も少ない姿勢を目標値として与える。
なお、走行及び姿勢制御処理におけるこれ以降の動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
また、車両加速度目標値決定処理についても、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
本実施の形態においても、入力装置30は操縦者が操作するジョイスティック31を備え、駆動輪12の回転軸に垂直な方向へのジョイスティック31の傾斜量を前後入力量とし、駆動輪12の回転軸に平行な方向へのジョイスティック31の傾斜量を左右入力量として取得し、補正した前後入力量に比例した値を前後走行状態として設定し、補正した左右入力量に比例した値を旋回走行状態として設定し、設定した前後走行状態及び旋回走行状態を前後走行状態及び/又は旋回走行状態の時間履歴に応じて補正し、設定した前後走行状態と旋回走行状態を達成するような駆動トルクを各駆動輪12に付与する。
また、前後走行状態を車両前後加速度とし、旋回走行状態を車両左右加速度とする。そして、車両左右加速度に応じて車体を左右に傾斜させる。
その他の点については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図21は本発明の第5の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
前記第4の実施の形態において、車両加速度目標値の補正は、「平均的な」操縦者を想定した所定のパラメータによって実行される。しかし、人の体の構造や動作特性、感受特性等は各個人で異なるため、操縦者によっては、操縦性が悪く、自身の操縦意図と実際の車両走行動作が一致しないと感じる可能性がある。
そこで、本実施の形態においては、車両加速度の時間履歴に応じて、補正パラメータを修正する。また、外部記憶装置に記憶された補正パラメータの取得及び書換を行う読み書き手段を備え、車両起動時に記憶された補正パラメータを取得し、取得した値を補正パラメータの初期値とし、車両停止時に補正パラメータの最終値を外部記憶装置に記憶させる。これにより、操縦者の技量、経験、癖等に適応した操縦特性を即時に実現することができ、誰でも容易に操縦できる車両10を提供できる。
図21に示されるように、本実施の形態において、入力装置30は、操舵角センサ72、スロットルグリップ73及びブレーキレバー74に加えて、外部記憶装置としてのIDカード34との送受信を行うことによって該IDカード34が記憶するデータの読込及び書込を行う読み書き手段としてのIDカードインターフェイス33を備える。
そして、操縦者である乗員15は、自身を識別するIDカード34を所持する。該IDカード34は、磁気ストライプ、半導体メモリ等のデータ記憶手段を備え、前記乗員15専用の補正パラメータをデータとして記憶する。そして、乗員15が自分の所持するIDカード34をIDカードインターフェイス33と通信可能に接続することによって前記IDカード34の記憶する補正パラメータをIDカードインターフェイス33に読み込ませると、主制御ECU21は、前記補正パラメータをIDカードインターフェイス33から受信し、車両加速度目標値の補正に用いる補正パラメータの初期値として設定する。また、車両システムの制御を終了すると、主制御ECU21は、修正した補正パラメータをIDカードインターフェイス33に送信し、前記IDカード34に記憶させる。
なお、その他の点の構成については、前記第2及び4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
また、本実施の形態における車両10の動作についても、前記第2及び第4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。なお、第1〜第5の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第5の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図22は本発明の第6の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図23は本発明の第6の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図22において、(a)は操縦装置を左側に取り付けた場合の車両の背面図、(b)は操縦装置を右側に取り付けた場合の車両の背面図である。
前記第4及び第5の実施の形態においては、搭乗部14の側方にジョイスティック31が配設され、それを操縦者である乗員15が片手で操作する場合、利き腕の側とジョイスティック31の配設側とが異なると、操縦が非常に困難である。もっとも、その解決手段として、搭乗部14の左右両側にジョイスティック31を配設することも考えられるが、その場合、安価で軽量で簡素な車両10を実現する妨げとなることがある。
そこで、本実施の形態においては、操縦装置取付部を搭乗部14の左右両側に配設し、操縦装置としてのジョイスティック31をその一方に接続可能な構造とする。これにより、利き腕が左右のどちらであるかに依らず、誰でも快適に操縦でき、操縦性や快適性が高く、かつ、安価な車両10を提供できる。
図23に示されるように、本実施の形態における入力装置30は、取付部スイッチ35を有する。該取付部スイッチ35は、取付側認識装置として機能する。そして、前記ジョイスティック31は、搭乗部14の右脇及び左脇に配設された操縦装置取付部に着脱可能に取り付けられる。
なお、その他の点の構成については、前記第3及び第4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
また、本実施の形態における車両10の動作についても、前記第3及び第4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。