JP2010259403A - 水没水耕栽培方法および装置 - Google Patents

水没水耕栽培方法および装置 Download PDF

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Abstract

【課題】ミツバなどの葉菜の水耕栽培において、下葉取り作業を省略し、栽培作業の効率化を実現し、さらに下葉取り作業による製品の傷の発生などを防ぎ、商品価値の高い葉菜を得ることのできる水耕栽培方法およびそれに用いる装置を提供する。
【解決手段】シュート系と根系との境界を養液の水面WL以下としシュート系の一部分を水没させて、作物を栽培することを特徴とするセリ科に属する作物の水耕栽培方法、および作物を定植した保持担体を養液内に保持するための溝状定植セルであって、シュートを突出させるための上端開口部と、対面する側壁と、底部とからなり、この対面する側壁は作物を定植した保持担体を任意の場所で挟持可能で、かつ定植した作物の生長するシュートの伸張力を受けて該保持担体を下方に移動可能に挟持することのできる定植セル。
【選択図】図1

Description

本発明は葉菜類の水耕栽培に関し、特に葉菜作物の生長を促進すると共に、商品としての体裁が整った葉菜作物を得ることのできる水耕栽培方法およびそれに用いる装置に関する。
これまでに種々の水耕栽培法が開発され、ほとんどの農作物はどれかの水耕栽培法で栽培できるようになってきた。水耕栽培は養液栽培の一つであり、培地耕栽培がロックウール、ヤシガラ、ピート等の吸水性固形培地に養液と空気をそれぞれ含ませて、培地の持つ毛管現象を利用して栽培するものであるのに対して、水耕栽培は培地を全く使わず、あるいはウレタンスポンジ等による保持担体を使用して、養液に直接根を接触させて栽培をする方法である。
水耕栽培には根を空気に触れさせる度合いに応じて、噴霧耕、液面上下法、薄膜水耕(NFT)、湛液水耕等がある。噴霧耕は常時空気中にある根に時々養液を噴霧して供給する方法であり最も空気に触れている機会が多い。湛液水耕は常時水中に根があり、時々あるいは連続して空気を吹き込んだり、液を流動させたりして酸素を供給する方法であり、根はほとんど空気に触れない。各種水耕法の根が空気と触れる度合いは、最も多い噴霧耕と最も少ない湛液水耕の中間となる。作物はこれらいずれかの方法の水耕栽培で栽培することができる。作物の水の要求度の違い、根部への酸素要求量の違いにより適切な栽培法があり、最も適する水耕方法で営利栽培は行われており、葉菜から果菜そして果樹まで幅広く営利水耕栽培されている。
農作物には、水田で作る作物と畑で作る作物とがある。水田で作るとは土の上に水をはり、植物の一部を水没させて作る方法であり水稲が代表例であり、その他単子葉植物では、ひえ、田芋、マコモ竹、イ草等があり、双子葉植物ではわさび、レンコン、クレソン、セリ等が知られている。普通は水田で作られる水稲(陸稲ではない)は畑でも栽培することができる。しかし水田で作るときと比べて、分けつが少なく収量も少なく味が極端に低下する。これを水田で作ると分けつが多くなり勢いを増し、収量が多くなり美味となる。このように水田適性の作物は水田で作ってこそ品質が優れ、美味となる。
しかし、常時水中に根を水没させている湛液水耕栽培装置であってもその構造は畑栽培状態の土の部分を養液に換えただけとみることができ、 従来の水耕栽培法には、作物の根以外の部分を水没させる水田での栽培状況を具現する発想はあまりなかった。水田での栽培状況に類似したものとして、わさび田での栽培状況を具現できる水耕栽培装置も提案されているが(特許文献1を参照)、この装置はわさびを植えつけたスポンジに浮きを付けて水面に浮かせ、わさびの成長点が水没しないように、浮きを調節して栽培するものである。また、溶液の水位を変動させて、葉菜類、根菜類等の作物の栽培を自然の生態系再生した環境の水耕栽培の方法も提案されている(特許文献2を参照)。この方法は葉物野菜などの作物を定植した定植パネルを養液に浮かせ、定植パネルの下の養液中に魚類、貝類などの水生動物を飼育し、さらに養液の水位を断続的に上下させることで自然の生態系を再生するものであり、作物の根以外の部分である、葉と茎からなるシュートの一部分を水没させる概念はない。
水耕栽培において作物の根以外の部分を養液中に浸漬し、水没させる栽培方法としては、農薬などを使用しない害虫駆除を目的として、養液に浮かべた作物定植パネルを水面下に引き込み、作物全体を水没させて害虫を死滅させる方法がある(特許文献3を参照)。この方法での作物の浸漬時間は、害虫を駆除するのに必要な時間であり、通常、浸漬時間は数時間である。そして数時間の浸漬後、養液から作物を引き上げて、あとは通常の水耕栽培を行うものであり、作物の根以外の部分である、葉や茎からなるシュートの一部分を養液に常時浸漬し、水没させる栽培方法は行われていなかった。
ミツバは、現在ではハウスで水耕栽培したものが年中出荷されている農作物となっており、通常次のようにして水耕栽培されている。
ウレタンスポンジ製の保持担体に約23mm四方あたり(定植時の1ブロック相当)種子を10〜30粒播種し、双葉が開く頃まで育苗管理する。保持担体には、定植時に保持担体を1ブロックごとに分離するための切込みが予め入れてあり、双葉が十分開いた頃に切込みに沿って保持担体を分離することができる。この分離した苗を発泡ポリスチロール製の定植パネルに予め設けてある穴に入れ、植え付けを行い定植し、苗を定植した定植パネルを栽培プールに浮かべ栽培する。しばらくすると本葉第1葉が伸張を始める。第1葉が伸張する頃はまだ隣接植え付け位置との間は空いており、植物体も小さく光が強く当たるので、第1葉はあまり伸びずに細く緑濃く硬いものとなる。第1葉が5〜7cmの頃第2葉が伸張を始める。この第2葉の伸張速度は第1葉のそれより速く、ただちに第1葉の長さに追いつく。この追いつくのは10cmくらいの頃である。さらに第2葉が13cmの頃第3葉が出葉し、成長速度の衰えてきた第2葉の伸張速度より速く伸張する。こうして第3葉の長さが25cmくらいになった頃を収穫適期として収穫する。この時点では最初に出た双葉は枯れて本体から落下している。この時点で、第1葉は10cmくらいであるが、既に葉色が黄化し始めているため、この第1葉を取り除き製品としての体裁を整え、商品とすることが必要になる。これが下葉取り作業であり、通常第2葉以降の葉でもって体裁を整え商品とする。ここで、双葉は黄化して本体から離れていても水洗する時に本体に再付着しやすく、できれば消滅するか完全に本体から落下していることが好ましい。
この第1葉の下葉取り作業を省略するためには、第1葉が黄化し始める前に製品とする必要があり、それには、最も長く生長した葉が20cm以下の時にする必要がある。しかし、この時にはまだ双葉が黄色ではあるがしっかり本体に付着しており、それを取り除く必要がある。双葉は1つの株には2個あり、第1葉の数の2倍あり、また小さく取り除くに厄介である。さらに、第1葉は10cm程度と短く、隣接植え付け位置のミツバの影の影響も少なく、強い光の照射を受けて育っているので、細く緑濃く硬くあまり商品として適してない。双葉は第2葉が13cmの頃までは健全な緑を保っているがそれ以降は急速に黄化し枯死する。
このようにミツバの場合、どの時期で収穫しても、双葉または第1葉あるいは両者を除去する下葉取り作業が必要である。早期に収穫すれば収量の減少もあり、結局作業のし易さ、品質の確保、収量の確保の観点から概ね25cm長くらいで収穫し、下葉取り作業を行っているのが現状である。
ミツバに限らず、葉菜では収穫したままの状態で出荷できるものは稀であり、大多数の葉菜では出荷に際して下葉取り作業が必要である。この下葉取り作業は、対象物が葉菜であることから作物を傷めないように手仕事によるものであり、極めて労力を要するものであった。葉菜の場合、個々の商品ごとに形状が異なり、また下葉が取り残された葉菜は商品価値が下がるため、機械の導入は大変難しい。水耕栽培における他の工程では機械化が容易で、改善が進み労力が掛からないのに対し、下葉取りの工程では多くの労力が必要であった。この分野でもいろいろ開発が試みられて近年開発されてきている機械でそれなりに機械化できるようになってきた(特許文献4を参照)。しかしながら、機械での下葉取りは完全でなく、大部分の下葉は機械で取ることはできるが、取り残しの下葉は仕上げ確認を兼ねて手作業で取るという対応がなされている。また、機械での下葉取り作業は、機械的にむしり取るため、商品にできる葉まで余分にむしり取り、どうしてもロスが発生していた。その上、このような下葉処理機械はたたいてむしり取る構造となっており、商品にたたき傷がついてしまうのは避けられない。また、手作業による下葉取りでも、引きちぎったりむしり取った傷がつき、商品の見栄えを悪くしたり、劣化を早め腐敗の原因になったりする問題があった。
さらに、機械での下葉取りには機械にかけやすい形状が要求される。ミツバを例にするとおおむね15cm以上に育てることが必要であり、それ以下の短いものでは機械化は無理であった。したがって、ミツバの15cm以下の製品を作るには手作業により下葉をむしり取って調整するしか方法がなかった。また、一般に水耕栽培では前述のように、苗が植えられたウレタンスポンジ製の保持担体を1つ1つのブロックに分離して、発泡スチロールの定植パネルの穴に入れ、ブロックごとに分離された苗を点状に定植して栽培している。これは、下葉取りのために機械に掛ける時、各ブロックの苗が一定の距離で分離している必要があり、1ブロックずつに分けて栽培した物でないとうまく機械作業ができないからである。そのため、一定の面積の中で、栽培できる苗の数も限定されていた。
そして、下葉とはいえせっかくできた葉を切り取って捨ててしまうのはもったいないことである。また、葉の緑はそのまま残し、葉柄ないしは茎は白く軟らかくして商品価値を上げる目的で、この部分を遮光して栽培することがある。この場合、ミツバでは根ミツバは土で覆って軟白化しており、切ミツバは根だけを光の当らない部屋にいれて軟白化しており、どちらの方法も手間のかかる方法であった。
特開昭57−138328号公報 特開平6−181665号公報 特開2002−238381号公報 特開2004−254680号公報
本発明ではミツバなどの葉菜の水耕栽培において、下葉取り作業を省略し、栽培作業の効率化を実現し、さらに下葉取り作業による製品の傷の発生などを防ぎ、商品価値の高い葉菜を得ることのできる水耕栽培方法およびそれに用いる装置を提供することを課題とする。
作物である植物体は、茎とそれについている葉とからなるシュートおよび根との二つの単位からできており、シュートの集まりであるシュート系と根の集まりである根系とで構成されている。水耕栽培では、定植パネルを養液上に浮かせることで、根系を養液に浸漬させ、シュート系を養液の水面上に出して栽培されている。本発明者は水耕栽培において、作物の根系だけでなく、シュート系の一部分をも養液に水没させて栽培することで、課題を解決することを見出し、本発明の水没水耕栽培方法およびその装置を提供するに到った。
すなわち本発明は、シュート系と根系との境界を養液の水面下としシュート系の一部分を水没させて、作物を栽培することを特徴とするセリ科に属する作物の水耕栽培方法であり、水没水耕栽培方法と称することができる。
また、シュート系と根系との境界を養液の水面下としシュート系の一部分を水没させて、作物の苗を定植し、作物の生長に応じて水没の深さを順次増大させて栽培することを特徴とするセリ科に属する作物の水耕栽培方法である。
そして、これらの水耕栽培方法において、本葉が生長し子葉より大きくなった以降では、子葉を水没させて栽培することや、水没させた部分には光を照射しないことや、作物の生長に応じて、作物を定植した保持担体を養液内の下方に順次移動させることにより、水没の深さを順次増大させることなどが好ましい。
また、これらの水耕栽培方法において好ましく使用できる、作物を定植した保持担体を養液内に保持するための溝状定植セルであって、シュートを突出させるための上端開口部と、対面する側壁と、底部とからなり、この対面する側壁は作物を定植した保持担体を任意の場所で挟持可能で、かつ定植した作物の生長するシュートの伸張力を受けて該保持担体を下方に移動可能に挟持することのできる定植セルも提供される。そして、この定植セルにおいて、対面する側壁がフレキシブルなプラスチックシートであることが好ましい。
上記に記載の定植セルを用いて、作物の生長に応じて、作物を定植した保持担体を養液内の下方に自動的に順次移動させ、水没の深さを順次増大させることを特徴とする水耕栽培方法も提供する。
さらに、これらの水耕栽培方法により栽培されたミツバも提供される。
本発明では、根系だけでなくシュート系の一部をも養液に水没させることにより、下葉取り作業をすることなく、製品の体裁を整えることができ、そのまま商品とすることが可能である。
本発明では、シュート系の一部を養液に水没することで、セリ科の作物では成長点が水没されることになるが、本発明者は水中で発生する新芽や新葉は勢い良く成長することと、一旦空気中で生長した葉を葉先まで水没させるとその葉は速やかに枯死分解消滅することを発見した。この知見に基づき、発芽後、空気中で生長した下葉取りされるべき子葉(双葉)を水没させて枯死させることで、子葉の除去作業を簡略化し、さらには水没部分の生長の速さを利用して、第1葉が下葉取りの対象とならないように生長させて、下葉取り作業を簡略化したものである。
このように、本発明では下葉取り作業がなく、商品にできる葉まで余分にむしり取るというロスがなく、収量も向上できる。また、下葉を取らないのでこの作業による作物の傷が全く無いため、見栄えも良く、傷が原因の劣化が野菜に発生しないので、長く保存でき、商品価値の高いものが得られる。
そして、下葉取り作業を考慮する必要がないため、苗を定植する際に、保持担体を小さく1ブロックごと分けて定植することなく、切込みを入れたまま密集して定植し、作物が生長して収穫の際に、1ブロックずつ分離して製品とすることができる。そのため単位面積当たりの、栽培株数を増やすことができ、栽培効率の向上も可能である。
さらには、シュート系の一部を水没させることにより、作物の水没部分の生長が促進され、従来の水耕栽培に比べ栽培期間が短縮すると共に、作物の葉柄や茎が白く、軟らかく商品価値の高いミツバ、セリ、セロリーなどが得られる。この場合に水没部分には光を照射しないことで、白さや軟らかさをいっそう増すことができる。また、光を照射しないことで、水没させた下葉の枯死分解消滅を速める効果もある。
また、本発明の定植セルを使用することで、作物の生長力を利用して、自動水没することのできる水耕栽培装置が得られ、シュート系の一部を自動で水没させることのできる水耕栽培方法が可能となる。
本発明のシュート系の一部を水没させる栽培方法と従来の栽培方法とを比較説明する模式図である。 実施例1における定植後の経過日数と各葉の生長の関係を、養液の水位と共に示したグラフである。 実施例3における自動水没用定植セルの断面の斜視説明図である。 自動水没用定植セルにおいて、自動水没する機構を説明する模式図である。 自動水没用定植セルの別の形態の模式図である。 手動水没用定植セルの斜視説明図である。
本発明では、水耕栽培において、作物の根だけでなく、シュートの一部分をも養液に水没させて栽培する。すなわち、植物体を構成する葉と茎からなる個々のシュートの集まりであるシュート系と個々の根の集まりである根系との境界を養液の水面下に水没させ、シュート系の一部分を水没させて栽培を行う。そして、作物の生長に応じて、その水没深さを順次増大させて栽培を行うものである。
図1は本発明のシュート系の一部を水没させる栽培方法と従来の栽培方法とを、ミツバを例にして比較した模式説明図であり、(a)は本発明の水没水耕栽培方法であり、(b)は従来の水耕栽培方法である。この図では、矢印の方向に(a1)〜(a4)ないしは(b1)〜(b4)として、定植後の栽培経時している状況を示す。(a1)と(b1)は、ウレタンスポンジ製の保持担体21に播種し、子葉(双葉)を生長させ開いた状態となし、養液の入った栽培プールに苗1を定植した状態を示す。保持担体21は通常は発泡ポリスチレン製の定植パネルに装着し、養液の水面WLに浮かせて定植するが、図1では定植パネルの図示を省略し、保持担体21のみを示している。また、保持担体21には多数の苗が存在しているが、図1では保持担体21に1本の苗のみを示した模式図としている。ここで、保持担体21の上面から苗1の子葉2と胚軸5が出ており、保持担体の下面には根3が出ている。シュート系と根系の境界は保持担体21の上面にあり、子葉が出た段階のシュートは子葉2と胚軸5とからなっている。通常の水耕栽培方法(b)では、定植した(b1)、および(b2)から(b4)のいずれでも、保持担体21を養液水面WLに浮かせ、根3のみを養液に浸漬させ、保持担体21の上方にある子葉2やその付け根にある成長点(芽頂分裂組織)4および成長点4より成長した本葉7b、9b、11bや葉柄6b、8b、10bは養液水面WLより上方とし、シュートである葉や葉柄を養液に水没させないで栽培される。
本発明の水没水耕栽培方法(a)では、(a1)に示される苗1を保持した保持担体21を養液水面WLの下方に水没させ、少なくとも保持担体の上面にあるシュート系と根系の境界を(a2)から(a4)に示すように水没させる。好ましくはさらに胚軸5および成長点4も水没させることが好ましい。そして、成長点4より発生する第1葉の葉柄6aと葉7aの生長に伴い、水没させる深さを順次増大させる。水没させるには、(a2)に示すように、保持担体21を定植セル22の内部に挿入し、養液水面WLの下方に水没させる。本葉の生長に伴い、水没深さを順次増大させるが、ここで水没深さを順次増大させるには、後述するような自動水没用の定植セルを使用して、自動水没させることもできるが、定植セル22に挿入した保持担体21を上から力を加えて下方に押し込んだり、養液を入れる栽培プールに定植セル22を固定して、養液を順次追加して養液水面WLを上昇させたりして、水没深さを順次増大させることができる。また、定植セルを使用せず、保持担体21よりやや大きい栽培プールの養液に直接保持担体21を浮かべ、苗の生長に伴って増加する自重により、順次水没させてもよいし、さらには、保持担体21を栽培プールの底に直接固定することで定植して、順次、養液の水位を高める方法も適用できる。
また、定植セル22内では保持担体21を保持する力を弱くして、自由に上下動できるようにしておき、本葉の生長に伴う自重の増加により水没深さを増大させることもできる。この場合、図1では保持担体21に苗1本の模式図としているが、実際の栽培では、複数苗の本葉が出ており、保持担体21の上面からランダムに作物の本葉が生長、伸張するために、保持担体21を保持する力があまり弱すぎると、自重のバランスが崩れ、各葉柄は保持担体21の上面とは垂直にならず、バラバラの角度で伸張してしまう。そのため、自重による方法においては、保持担体21の上面は養液水面WLと平行を保てるように保持しておくことが好ましい。また、同様に前述の力を加えて押し込む場合も平行を保って押し込むことが好ましい。
(a2)においては、第1葉の葉柄6aと葉7aが生長し、葉7aは養液水面WLより上に出ているが、子葉2と葉柄6aの大部分とが水没している状態を示している。(a3)では、第2葉の葉柄8aと葉9aも生長し、葉7aと9aとが養液水面WLより上に出ているが、子葉2と葉柄6aと8aの大部分とが水没している状態を示している。そして、この段階では、子葉2は枯死し、分解消滅しかかっている。そして、第1葉の葉柄6aは、水没下で生長しているため、通常栽培での対応する栽培経時した(b3)の第1葉の葉柄6bに比べて、より長く生長している。また、(b3)においては、子葉2は枯死することなく残っている。
(a4)では、第3葉も生長し、その葉柄10aも十分な長さになり、作物の収穫期となっている。この状態では成長点4にあった子葉2は消滅しており、その痕跡が残っていても、収穫時の水洗で簡単に洗い流せる。また、第1葉も十分生長しており、下葉として取り除く必要がなく、商品として収穫できる。通常栽培における対応する収穫期(b4)では、子葉2は黄変化し残っており、また第1葉の葉柄6bは短く、下葉取りの対象となる。
本発明においては、水没させた部分には光を照射しないことが好ましい。そのためには、図1の(a)の水没水耕栽培方法において、定植セル22を光不透過性の材料、例えば黒色に着色したプラスチックなどの材料で作ることにより、光を遮蔽して水没部分には光を照射しないようにすることができる。さらには、屋内栽培とし、作物に光を照射する光源には指向性の強い光源を用いて、葉の部分のみに光を照射し、水没部分には光を照射しないようにすることも可能である。このように、水没部分に光を当てないことで、作物の水没部分の葉柄や茎を白く軟らかくし、商品価値を高めることができると共に、子葉などの枯死分解消滅を速めることができる。
図3および図4は、自動水没用定植セル23の断面斜視図および自動水没機構の説明模式図である。この自動水没用定植用セル23は、作物を定植した保持担体21を養液内に保持するための溝状定植セルであって、シュートとしての本葉を突出させるための上端開口部28と、対面する側壁24と、底部29とからなり、この対面する側壁24は作物を定植した保持担体21を任意の場所で挟持可能で、かつ生長するシュートの伸張力、すなわち定植した作物の生長する本葉などの伸張力を受けて保持担体21を下方に移動可能に挟持することのできる定植セルである。図3は定植セル23の溝に垂直の断面の斜視説明図である。上部開口部28の下に、対面する側壁24と底部29により保持担体21を挿入できる溝が形成されている。この定植セル23は開口部28につながる鍔27により、定植パネル40に装着されている。この図では鍔27により装着しているが、上部開口部28を形成する側壁24の最上部で定植パネル40に直接装着してもよい。対面する側壁24にはそれぞれに、養液が定植セルの内外を移動可能とする通水口26が設けられている。この通水口26は、ミツバなどの作物が成長し本葉などが密になると、養液が移動し難くなってくるので、セル内部の液交換や曝気を促進するために設けられている。さらに、側壁24の下部と底部29とには下部開口部25が設けられている。生長した作物の根系が定植セル内だけでなく、外部の養液にまで広がり、生長を促進するために、この下部開口部25が設けてあることは好ましい。
対面する側壁24は作物を定植した保持担体21を任意の場所で挟持可能で、かつ定植した作物の生長する本葉などの伸張力を受けて保持担体21を下方に移動可能に挟持することのできるようにするためには、上部開口部28の幅を対面する側壁24により構成される溝部の幅より狭くすることで行うことができる。図4により、そのための構成とその機構作用を説明する。図4は図3に示した定植セル23の自動水没を説明する模式図である。図4の(c)では、対面する側壁24は保持担体21を挟持していないので、上部開口部28の幅は対面する側壁24により構成される溝部の幅よりも必ずしも狭くはなっていない。しかし、この側壁24はフレキシブルなプラスチックシートで構成されており、図4の(d)に示すように、対面する側壁24は保持担体21を挟持することで、上部開口部28の幅より広くなり、自動水没機能を発現させることができる。
この定植セル23において自動水没させていく動力源としては、作物の生長に伴う伸張力を利用する。図4の(d)において、保持担体21を挟持した側壁24は上部開口部28より下方に向けて広がり、斜めとなっており、作物の第1葉の葉柄6aの一部と葉7aとは上部開口部28より上に突出している。そして、第2葉は新葉の状態で、上部開口部28より下部の定植セル内にあり養液水面WLより下となり、養液内に水没している。この第2葉の葉柄8aと葉9aは側壁24に沿って生長して行くが、この生長に伴う伸張力は下方に向かって広がった側壁24に加わる。この側壁24に加わった伸張力の反作用として、保持担体21を下方に押し下げる力として作用する。従って、新葉である葉柄8aと葉9aとが生長し伸張するにつれて、水没深さを増大させることができる。このような力が特に発揮されるのは図2におけるAからBの間に相当する期間である。
さらに第3葉が伸長してくる力も同様に利用でき、水没深さをさらに増大させてゆくことができる。また、すでに上部開口部28より上に突出している第1葉の葉柄6aの生長に伴う伸張力も、上部開口部28での摩擦力の反作用として利用可能である。さらには養液水面WLより上の部分の生長による重量増加も水没させる力として加わる。このように、本発明の自動水没用の定植セル23は作物の生長に伴い発生する力を利用して自動水没を実現しているため、作物の生長に応じて水没深さを順次増大させることができる。水没深さが順次増大し、底部29にまで達すると、水没は止まり、以降に伸張する分は上に伸びていくことになる。
定植セル23を用いての栽培では、上部開口部28より突出した葉はさらに生長し大きくなり、また複数の苗から成長した葉の集合となりその数も増えるため、水没の進行に伴い下に引き込まれるが、外に出ている葉の集合が開口部上端の縁に当り、それ以上の水没は止まるようになる。そしてこの状態では、上端より出ている葉の集合の下部となる第1葉には常に引っ張り力が加わるようになり、さらに照射される光も上部の葉より少ないので、第1葉はより徒長しやすくなる。そのため、第1葉より後に芽を出したにもかかわらず、生長速度も速くより長く生長し、葉の集合の上部に存在する第2葉などと第1葉との長さの差が縮まる結果となる。このように定植セル23を用いて栽培した作物は、第1葉がよく生長し、下葉取りの対象にもならず、かつその長さが良く揃い商品性が高い。さらに、これらの葉の集合により、水没部分には光が照射されず、この部分は白く軟らかいものとなり、さらに商品価値も高まる。
また定植セル23では、作物の生長に伴う伸張力はかなり強いため、保持担体21を挟持する程度は、作物を水中から取り出した場合にもその自重で落下しない程度に、強く挟持しても自動水没を作動させることができる。そのため、一時的に他の水槽に移動させる時など一旦水槽から引き出しても元の位置を保持させることができる。さらに養液水面WLを上昇させて全水没させても浮力で浮き上がることがなく、また水面WLを下降させても元の位置を保持できるので、養液の交換や水面を低下させ、空気中への曝気による根への酸素供給も容易にできる。一般に作物の新芽の伸張に伴う力は、意外に大きく、例えば稲の育苗時には苗箱を十枚以上積み重ねて発芽させるが、1枚当りの稲籾の重量は300g程度であるが、上に重ねた苗箱は10枚で30kg程度あるが、これを軽く持ち上げ、自重の100倍程度の力を発生するほどである。
この定植セル23では、対面する側壁24と、底部29とで長い溝を形成しており、この溝に保持担体21を挟持して栽培を行う。本発明では下葉取り作業の必要がなく、保持担体21を定植するに際して、最終の商品の大きさのブロックに取り分け、定植パネルに点状に定植する必要もなく、密集して栽培が可能であるため、長い溝状として定植が可能である。ここでの長いウレタンスポンジ製の保持担体21は、作物の生長力を利用して水没させているため、溝に沿って水平を保って水没させることができる。溝を形成する側壁24は、出葉してくる新葉を上方に誘導する役目を果たし、新葉は横に行くことなく上方へ案内され、この上方に誘導する際の新葉と壁面との摩擦力が自動水没の動力源となる。
また、溝の中では作物の葉柄が密になり養液の流動性が乏しくなってくるし、双葉の速やかな分解消滅が行われる場所でもあるので、前述のように側壁には通水口26が設けてあることが好ましい。この通水口26は、上方から保持担体21が下降するのを妨げないように、図4に示すように通水口周辺を滑らかな曲線の構造とし、養液内で出葉する新葉がセルの外部へ洩れない様な大きさとすることが好ましい。また、溝の両端では側壁24がないため、発生する新葉が外へ洩れ出してくることを防ぐために、溝の両端を通水性の薄板や布で覆うことも有効である。このような構造の定植セルを養液が満たされた栽培プールに設置することで、自動的に水没深さを順次増大させ、またセルの内部と外部との養液交換や曝気を自動的に行うことのできる自動栽培装置が構成できる。
定植セル内外の養液の動きをもっと直接的に加える方法も考えられる。栽培プールの底から空気の泡を上昇させて内部を曝気する方法や、栽培プールに連結した水ポンプより送り込まれた流水を定植セル内部にパイプ等で導き入れる方法も考えられる。この場合は通水口26や下部開口部25のない側壁24と底部29として、この空間を横に流れる水路のように使う方法である。
図3や図4に示した定植セル23の側壁24を構成するフレキシブルなプラスチックシートは、前述のように保持担体21を作物の生長に伴う伸張力で移動可能に挟持できる事が必要である。好ましいプラスチックシートとしては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのシートを例示することができ、その厚さは0.05〜1.5mm、好ましくは0.1〜0.8mmである。また、水没部分には光を照射しないようにするため、不透明なシートとしておくことが好ましい。
以上、自動水没用の定植セルの側壁としてフレキシブルな材料を用いた例を示したが、剛直な材料を側壁として用いて同様な作用効果を示す態様の構成例を図5に示す。図5の(e)は保持担体21を挟持する前の状態を示し、(f)は保持担体21を挟持した状態を示す。図5において対面する側壁30は剛直な材料からなり、それぞれの上端部で蝶番などの連結具31により鍔32と回転可能に連結されている。側壁30の下端部は伸縮可能な弾性体33により対面するそれぞれが連結されている。この定植セルでは、対面する側壁30は連結具31と弾性体33により、それぞれ上端部と下端部が連結されているため、(f)に示すように保持担体21を図3や4で示した定植セル23と同様な作用効果を示すことができる。対面する側壁30は剛直な材料からなっていても、このような構成にすることにより、定植セル23におけるフレキシブルなプラスチックシートで構成されている側壁24と同様な作用効果を示すものである。図5の(f)において、保持担体21は弾性体33の伸縮力により、図4の(d)で説明した作用機構と同様に、任意の場所で挟持可能で、かつ生長するシュートの伸張力、すなわち定植した作物の生長する本葉などの伸張力を受けて保持担体21を下方に移動可能に挟持することのできるものである。
図5に示した態様の定植セルの対面する側壁30の下端を伸縮可能に連結するための弾性体33としては、各種バネやゴム等の弾性材料など周知の弾性体を用いることができる。この定植セルは図3や4で示した定植セル23と同様にして使用できる。また、側壁の材質は特に限定されないが、各種のプラスチックからなる板や軽量化するためにハニカム状や段ボール状としたものが使用できる。その他、アルミニウムなどの金属板や木板なども使用できる。
図6は手動で水没水耕栽培を行うための定植セルを示したものであり、四周を取り囲む側壁35と定植パネルに装着するための鍔36とからなり、上端部と下端部はそれぞれ開口部となっており、上部開口部37と下部開口部38を構成している。定植パネルに装着され、栽培プールに定植された場合に鍔36近傍が養液水面となり、側壁35で取り囲まれた内部に苗を定植した保持担体21が挿入保持され、上部開口部37より本葉などのシュートが突出し、下部開口部38より生長した根が出てくる。保持担体21を養液水面下に水没させるには、上部開口部37より棒などで力を加えて下降させたり、この定植セルを固定し、養液水面を鍔36より上昇させたりして行うことができる。さらには、前述したように側壁35で取り囲まれた内部の大きさを調整し、保持担体21を緩やかに保持して生長した作物の自重で水没させることも可能である。
図6で示した定植セルの側壁35で取り囲まれた内部の大きさは、保持担体21の大きさに応じて設定されるが、本発明では定植時の保持担体は小さく切り分けることなく、切り目を入れた大きな形状でも使用可能である。例えば溝状に細長くし、通常の水耕栽培に比べて数多くの苗をまとめて定植することもできる。この定植セルの側壁35の材質は特に限定されないが、耐水性のある材料であれば使用できるが、水没部分に光を照射させないように、光不透過材料であることが好ましく、側壁30に例示したものと同様な材料を使用できる。
本発明の水耕栽培方法は、各種の葉菜に適用可能であるが、本栽培法はセリ科に属する作物に好ましく応用され、セリ科ミツバ属もしくはセリ属に属する作物が好ましく、特にミツバに応用した場合の効果が大きい。
以下に実施例を示すが、各実施例に共通して用いた養液の処方と使用方法は次に示すとおりである。
(養液の処方)
園試処方均衡培養液の処方 (g/t)
多量元素
硝酸カルシュウム(四水塩) 950
硝酸カリウム 810
硫酸マグネシュウム(七水塩) 500
リン酸一アンモニウム 155
微量元素
NaFe−EDTA 25
ホウ酸 3
硫酸マンガン (四水塩) 2
硫酸亜鉛 (七水塩) 0.22
硫酸銅 (五水塩) 0.05
モリブデン酸アンモニウム(四水塩) 0.02
上記処方培養液の2/3の濃度で使用した。
この養液はEC=1.6、pH=6.0となるが、栽培期間中にはpHを特に調整しな
かったため、pHは4.5〜6.0の間で変動した。
(栽培中の養液の曝気と撹拌方法)
栽培中での養液の酸素富化のため、養液の曝気と撹拌を行った。方法は、養液を入れた栽培プールにエアーポンプ又は水ポンプを連結し、1日8回、3時間周期で15分間ずつ運転した。使用した撹拌用の水ポンプは空気をわずかずつ吸引する構造とした。
(実施例1)
手作業による水没操作により、セリ科・ミツバ属に属するミツバを水耕栽培した。栽培は、ミツバの栽培には最も好適な季節である4月初旬から5月上旬に行った。
栽培プールとして、内寸が幅約25mm深さ約150mm長さ約600mmの木製の容器にポリエチレンフィルムを内張りした水槽を使用した。水槽の底には内径4mmの管に約200mmおきに1mmの空気吐出口を設けた空気導入管を設置し、連結したエアーポンプから空気を導入した。養液を水槽の上端から約20mm下の位置まで満たし、1ブロックあたり約23mm四方のポリウレタン製保持担体を25ブロック連結した長さ約580mmの連結保持担体に育苗されたミツバ苗を養液に浮かべて定植し、栽培を開始した。
蒸散及び植物体への移行による減水分を補うため、1日1回水槽の上端から約20mm下の位置になるまで培養液を補液して、これを収穫終了までの毎日繰り返した。また、水槽の幅約25mmに対して苗のウレタン幅は約23mmなので、成長するにつれて自重で沈下し、順次苗の水没深さが増大した。生長が進み、ある程度大きくなってくると葉部が広がって水槽の上端に引っかかり沈下しなくなるので、棒で押すなどして第1葉と水面とは、図2のグラフに示す距離を保つように調整して沈下させた。
栽培は露地栽培で行い、直射太陽光を作物の葉に当てて生育させた。ただし、雨水はかからないようにした。また、水没部分の遮光と水温上昇を防ぐため、養液水面を含めて水槽には直接光が当らないようにし、水温は25℃を越えないよう管理した。気温、光量ともミツバ栽培には最も好適な季節であり、極めて順調に生育した。
生育途中で、25ブロックある試験体を順次切取り、引き出して栽培結果を確認した。栽培結果の確認は、作物の外観の観察と双葉の根元にある成長点から各本葉の葉の根元までの長さ(葉柄の長さ)の測定を行った。測定結果を図2に示す。横軸は定植から収穫までの日数、縦軸は葉柄の長さ、双葉の長さおよび養液の水位(成長点から水面までの深さ)をcmで示し、点線は双葉、鎖線は第1葉の葉柄、1点鎖線は第2葉の葉柄、2点鎖線は第3葉の葉柄の長さの変化をそれぞれ示している。左端の絵は収穫時の作物を、途中で消滅した双葉も含めて、模式的に描いたものである。
図2を参照しながら、定植後の経過日数と作物の観察結果を次に示す。
0日(定植日)
双葉が出揃った段階で、双葉の長さ(成長点から葉の先端まで)は3cm
11日後
第1葉の長さは5cm
15日後
第2葉が1〜2cmとなり第1葉は8cm、双葉と第2葉は完全に水没状態
20日後
第1葉は12〜13cm、第2葉は9〜10cm、いずれも葉部分は水面より上部に
あり、双葉の多くは枯死分解をしている
23日後
第1葉は13cm、第2葉が第1葉に追いつく、第3葉が芽を出す、双葉はすでに分
解しており流水により分解残渣も簡単に洗い流せた
29日後
第1葉は約13cm、第2葉は18cmであった、第3葉も約13cmに生長、全体
に枯葉もなく、葉柄は白く柔らかく順調に生育
36日後
全作物を収穫、最も長い第3葉は約24cm、第1葉は10〜15cmであり下葉取
りをする必要がなくすべてを商品とすることができた。
このように、双葉が完全に水没した状態で、しかも水没部分を遮光してミツバを栽培すると、速やかに双葉は枯死消滅するにもかかわらず、水中にある成長点から出る新しい葉は通常栽培時と同等以上に力強く成長してゆくことが確認できた。第1葉も白く伸びて良品質で生き生きとしている。このようにして栽培したミツバは、通常の水耕栽培で栽培した作物と比べて格段に品質が優れた。
(実施例2)
本実施例では、株元すなわち水没部分を遮光することなく、ミツバを水没させて栽培した。ただし、直射太陽光が養液に直接照射されると、液温が上昇したり、養液中のNaFe−EDTAが光分解したり,藻が発生したりするなどして栽培の妨げになるため、なるべく養液には直接光が当らないようにする。この目的のためミツバを極めて密に定稙して作物自体の影で、養液には光が直接当らないようにした。そのため、通常の営利栽培で蒔かれている量の2倍の厚蒔きにして、ウレタン製の保持担体で育苗したものを用いた。定植に際しては、保持担体は連結した長いまま使用し、点状に定植する通常栽培に比べて、縦方向には3倍、横方向には2倍の密稙、そして蒔いた種の量が2倍のため、あわせて2×3×2=12倍くらいの密植で定稙した。そして、保持担体に鉄の棒からなる錘をつけて、保持担体の下面を養液水槽の底から3cmの距離に固定した。
生長に伴い本葉が伸びるにつれて、養液を順次注水することで苗(株)を水没させるが、この場合、第1葉の先端の三つ葉部分が水没しない程度に養液の注水量を調節しながら、水没させた。栽培のテスト期間は4月下旬〜5月末に行い、定植後20日目以降は成長点を水面下6〜7cmとして栽培し、定植後33日目に収穫した。
この栽培において、最も生長した本葉の葉柄の長さが25cmに達した時にも第1葉は緑で全体の色艶もよく通常栽培より活力よく生育した。それなりの光が株元に当るので第1葉は通常栽培と同様に短くかつ緑濃かったが枯葉はなく、下葉取りの対象となる葉はなかった。水中にある双葉の消滅には時間を要したが、本葉の葉柄の長さが25cmになる頃には、流水で流れ去るくらいに分解していた。
この実施例2での栽培結果、ミツバは水没して栽培した方が、通常の栽培より良好な生長を示すこと、水没部分を完全に遮光しない本栽培でも、水中での双葉の分解消滅は遅れるが収穫時までには消滅していること、水没部分の遮光をしない水没だけでは、第1葉の長さは通常栽培とほぼ同程度であり、水没かつ遮光した時のような白く軟い高品質なミツバとはならないが、下葉取りの対象とはならないことが判明した。
(実施例3)
本実施例では、図3に示す自動水没用定植セルを使用してミツバの栽培を行った。同時に比較例1として通常の湛液水耕栽培装置を使った栽培も行った。栽培方法は無加温1重ポリオレフィンハウス内で、土に接して深さ20cmの水槽を作り、この水槽内に浮かべた発泡ポリスチレン製の定植パネルに、自動水没用定植セルを使って4つの連続したブロック苗として定植したものと、通常の栽培方法に従って切り離したウレタンスポンジ製の保持担体を個別に直接パネルに定植したものとを隣り合わせてセットして、この二つの栽培法の比較を行った。
栽培期間は12月初旬から1月初旬にかけて行い、その期間中、気温は無加温であるので、0℃(夜)〜27℃(昼)の変化があったが、水温は土に接しているので10℃(夜)〜13℃(昼)であった。
表1に定植後の栽培経過日数と最も生長している本葉の葉柄の長さと重量の測定結果および自動水没の程度を水没深さとして水面からの成長点までの距離で示した。尚、重量は実施例3では4ブロックの重量、比較例1では1ブロックの重量で、水を絞った保持担体のスポンジと作物の合計重量である。また、定植後、苗がまだ小さい時は、自動水没力が弱いので、水没深さ3cmになるまで(18日目まで)は、生育に応じて棒で押して水没深さを順次増大させた。
Figure 2010259403
本栽培期間中は気温が低いため、比較例1では生育が非常に遅いが自動水没栽培では約2.5倍の生育速度となった。これは、実施例3の自動水没栽培では成長点が水没するために、温度が最低でも10℃以上で安定に保たれる水温の中で成長するためと思われる。また、冬季で水温が10〜13℃と低いにもかかわらず、定植後26日頃までに双葉は分解残渣を残して消滅し、32日には水洗のみで双葉は除去できた。さらに、この自動水没栽培したものは、第1葉も含めて葉柄は白く軟らかく、白化軟弱野菜としての品質は格段にすぐれたものであった。また表1に示されるように、生長に応じて、苗は自動的に水没した。
(実施例4)
セリ科オランダミツバ属セロリー種として市販のミニホワイト(タキイ種苗株式会社登録品種)を使用して、水没水耕栽培を行った。栽培は実施例3と同様に、無加温1重ポリオレフィンハウス内で、土に接した深さ20cmの水槽を用いて、通常栽培方法の比較例2と同時に栽培を行った。本実施例では、実施例3で用いた自動水没用定植セルに替えて、図6に示す定植セルを用い、定植パネルに装着し栽培を行った。
栽培期間は12月初旬から2月中旬にかけて行い、実施例3と同様に気温は0℃(夜)〜27℃(昼)、水温は55日目まで10℃〜13℃であったが、定植後55日目からは水温は加温を行い16〜19℃であった。
定植する苗は、種子から水耕栽培され、調整されて市販されているセロリー種のミニホワイトを入手して使用した。入手した苗の根部を培養液につけて新しい葉を出させ、新しい葉が5cmになった時、古い葉を切り落としこれを苗として定植セルに挿入して、定植パネルに定植した。水没方法はセルの上端に葉を引っ掛けて固定し、成長点が養液中に水没するようにセットし、葉柄の伸張につれて自重で成長点が根系と共に水中で徐々に下がっていくようにした。比較する通常の栽培方法は比較例2として、比較例1と同様に成長点が水面上2cmの位置とした。
表2に表1と同様に測定結果を示した。ただし、葉の長さは最も長い葉の成長点から葉の先端までの長さを示した。
Figure 2010259403
実施例3と同様に、水没栽培の実施例4は通常栽培の比較例2より成長速度が速く、また葉柄の色はより白かった。また、実施例4の方が葉柄の伸張が速いと共に、水没部には葉柄と出たての新しい葉があるだけなので、すっきりした形状でありそのまま商品としての形状が整っている。最後に収穫した両者の重量はほぼ同一であった。このように、水没水耕栽培方法はセロリーにも好ましく適用できた。
(実施例5)
セリ科セリ属のセリの水没水耕栽培を行った。栽培は実施例4と同様な栽培条件で行い、通常栽培方法の比較例3と同時に栽培を行った。気温、水温とも実施例4と同じであるが栽培期間は12月初旬から1月末で行った。定植する苗は、種子から水耕栽培され、調整されて市販されているセリを入手し、実施例4と同様に処理して、定植と水没方法も同様に行った。比較する通常の栽培方法も同様にして、比較例3とした。
表3に表2と同様に測定結果を示す。
Figure 2010259403
水没栽培の実施例5は通常栽培の比較例3より伸張速度、重量増加が3倍近く速かった。また、比較例3のセリは、縦に伸びず横に広がり商品性が劣る。実施例5のセリの水没部分は白く軟らかく商品性に優れていた。セリにおいても水没水耕栽培の有効性が確認できた。
本発明の水没水耕栽培はセリ科に属する作物に好ましく適用されるものであるが、作物の生長を促進し、下葉取りの作業が効率化できることから、広く葉菜の栽培に適用できるものである。
WL 養液水面
1 苗
2 子葉(双葉)
3 根
4 成長点(芽頂分裂組織)
5 胚軸
6a、6b 第1葉の葉柄
7a、7b 第1葉の葉
8a、8b 第2葉の葉柄
9a、9b 第2葉の葉
10a、10b 第3葉の葉柄
11a、11b 第3葉の葉
21 保持担体
22 定植セル
23 自動水没用定植セル
24 側壁(フレキシブル)
25、38 下部開口部
26 通水口
27、32、36 鍔
28、37 上部開口部
29 底
30 側壁(剛直)
31 連結具
33 弾性体
35 側壁
40 定植パネル

100 双葉の成長曲線
101 第1葉の生長曲線
102 第2葉の生長曲線
103 第3葉の生長曲線
104 養液水位の変化曲線

Claims (9)

  1. シュート系と根系との境界を養液の水面下としシュート系の一部分を水没させて、作物を栽培することを特徴とするセリ科に属する作物の水耕栽培方法。
  2. シュート系と根系との境界を養液の水面下としシュート系の一部分を水没させて、作物の苗を定植し、作物の生長に応じて水没の深さを順次増大させて栽培することを特徴とするセリ科に属する作物の水耕栽培方法。
  3. 本葉が生長し子葉より大きくなった以降では、子葉を水没させて栽培することを特徴とする請求項1もしくは2に記載の水耕栽培方法。
  4. 水没させた部分には光を照射しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水耕栽培方法。
  5. 作物の生長に応じて、作物を定植した保持担体を養液内の下方に順次移動させ、水没の深さを順次増大させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の水耕栽培方法。
  6. 作物を定植した保持担体を養液内に保持するための溝状定植セルであって、シュートを突出させるための上端開口部と、対面する側壁と、底部とからなり、この対面する側壁は作物を定植した保持担体を任意の場所で挟持可能で、かつ定植した作物の生長するシュートの伸張力を受けて該保持担体を下方に移動可能に挟持することのできる定植セル。
  7. 対面する側壁がフレキシブルなプラスチックシートであることを特徴とする請求項6に記載の定植セル。
  8. 請求項6もしくは7に記載の定植セルを用いて、シュート系と根系との境界を養液の水面下としシュート系の一部分を水没させて作物の苗を定植し、作物の生長に応じて、作物を定植した保持担体を養液内の下方に自動的に順次移動させ、水没の深さを順次増大させることを特徴とする水耕栽培方法。
  9. 請求項1〜5のいずれか、もしくは請求項8に記載の水耕栽培方法により栽培されたミツバ。
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