JP2010259284A - 非磁性箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コア - Google Patents
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Abstract
【課題】 非磁性箇所以外の部分の鋼材の材質に関わらず適用でき,要処理時間が短く,決まった深さ方向構造の非磁性箇所を持つようにした,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コアを提供すること。
【解決手段】 電磁鋼板10,30の間に,改質金属箔41,42を貫通孔21に挿入した電磁鋼板20を挟む。改質金属箔41,42を挿入した箇所を厚さ方向に加圧通電する。加圧通電の継続により,改質金属箔41,42を,周囲の電磁鋼板10,20,30の一部とともに溶融させた後,凝固させ,電磁鋼板10,20,30に食い込んだ非磁性合金層110を形成する。非磁性合金層110は,接触面3で電磁鋼板10と,接触面4で電磁鋼板30と,接触面5で電磁鋼板20と接合されている。電磁鋼板10及び電磁鋼板20の接触面6と,電磁鋼板20及び電磁鋼板30の接触面7とは接合されていない。
【選択図】図2
【解決手段】 電磁鋼板10,30の間に,改質金属箔41,42を貫通孔21に挿入した電磁鋼板20を挟む。改質金属箔41,42を挿入した箇所を厚さ方向に加圧通電する。加圧通電の継続により,改質金属箔41,42を,周囲の電磁鋼板10,20,30の一部とともに溶融させた後,凝固させ,電磁鋼板10,20,30に食い込んだ非磁性合金層110を形成する。非磁性合金層110は,接触面3で電磁鋼板10と,接触面4で電磁鋼板30と,接触面5で電磁鋼板20と接合されている。電磁鋼板10及び電磁鋼板20の接触面6と,電磁鋼板20及び電磁鋼板30の接触面7とは接合されていない。
【選択図】図2
Description
本発明は,回転電機などの鉄心に用いて好適な鋼材に関するものである。さらに詳細には,部分的に非磁性の箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コアに関するものである。
電動機や発電機などに用いられる鉄心には一般に,高い透磁率が求められる。しかしながら鉄心には部分的に,コイルや磁石の配置により有効磁気経路とならない箇所もある。例えば,図1のようなステータ80とロータ90においては,ロータ90に磁石91が取り付けられている。このロータ90における,ペリブリッジ部92およびセンターブリッジ部93は,有効磁束Fの経路とはならない。このような箇所にも鉄心が存在していることは,むしろ漏れ磁束により性能を低下させている。そのため,このような箇所の磁気抵抗を高めることが望ましい。とはいえ,全体の強度を維持し磁石91を安定して保持する必要もあるので,この箇所を空隙にするのは好ましくない。
そこで従来から,鉄心のうちこのような箇所を部分的に非磁性化することが行われている。例えば特許文献1には,鉄心の該当箇所を局所的に加熱し,そして冷却させることでオーステナイト領域を形成する技術が開示されている。すなわち,基材としては,準安定オーステナイト系ステンレス鋼を冷間圧延により強磁性のマルテンサイト組織としたものを用い,その一部を,この方法で非磁性のオーステナイト組織とするのである。局所的な加熱の手段としてはレーザー照射を挙げている。さらに特許文献2には,対象の磁性部材を局所的に溶融しつつ,外部から改質元素を添加して固溶させ,非磁性化することが開示されている。
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。まず,鉄心の主要部分にマルテンサイト化したオーステナイト系ステンレス鋼を用いるものでは,結晶形の歪み等のため,透磁率が一般的な電磁鋼板より劣り,最大磁束密度が不足する。また,溶融させた状態で改質元素を添加するものでは,長い処理時間を要すること,深さ方向の制御が困難で非磁性層を所望どおりに形成できないこと,といった問題がある。また,改質元素を添加した分の体積増加により処理後の平坦性が悪いという問題もある。
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,非磁性箇所以外の部分の鋼材の材質に関わらず適用でき,要処理時間が短く,決まった深さ方向構造の非磁性箇所を持つようにした,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コアを提供することにある。
この課題の解決を目的としてなされた本発明の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板は,第1の電磁鋼板と,第1の電磁鋼板に重ね合わせた中間電磁鋼板と,中間電磁鋼板に重ね合わせた第2の電磁鋼板とを有し,中間電磁鋼板の一部を厚さ方向に貫通するとともに,第1の電磁鋼板の一部及び第2の電磁鋼板の一部に食い込んだ非磁性合金層が形成されており,非磁性合金層は,その接触面で第1の電磁鋼板および中間電磁鋼板および第2の電磁鋼板に隙間なく密着しているものである。かかる積層電磁鋼板には,決まった深さ方向構造の非磁性合金層が形成されている。よって,磁束のロスが少ない。
上記に記載の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板において,非磁性合金層の電気抵抗率は,周囲の電磁鋼板の電気抵抗率より高いとよい。非磁性合金層における渦電流損が小さくなるためである。
また,本発明の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板を積層してなる回転電機コアは,第1の電磁鋼板と,第1の電磁鋼板に重ね合わせた中間電磁鋼板と,中間電磁鋼板に重ね合わせた第2の電磁鋼板とを有し,中間電磁鋼板の一部を厚さ方向に貫通するとともに,第1の電磁鋼板の一部及び第2の電磁鋼板の一部に食い込んだ非磁性合金層が形成されており,非磁性合金層は,その接触面で前記第1の電磁鋼板および中間電磁鋼板および第2の電磁鋼板に隙間なく密着しているものである。かかる回転電機コアには,決まった深さ方向構造の非磁性合金層が形成されている。よって,磁束のロスが少ない。
また,本発明の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法は,第1の電磁鋼板の上に,貫通孔を有する中間電磁鋼板を重ねるとともに,貫通孔に合金形成材を配置した上で,中間電磁鋼板の上に第2の電磁鋼板を重ね,合金形成材と第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とが重ね合わせられた箇所に,厚さ方向に通電することにより,合金形成材を,その周囲の電磁鋼板の一部とともに溶融させ,溶融させた合金を凝固させることにより非磁性箇所を形成するものである。かかる非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法は,鋼材にかかわらず適用でき,要処理時間が短く,決まった深さ方向構造の非磁性合金層を有する積層電磁鋼板層を製造することができる。
上記に記載の積層電磁鋼板の製造方法において,合金形成材として,Ni−Cr合金を用いるとよい。Feのオーステナイト相を安定化し,好適な非磁性箇所を有する積層電磁鋼板を製造することができるからである。また,上記に記載の積層電磁鋼板の製造方法において,合金形成材として,炭素を含有させたものを用いるとなおよい。非磁性合金層の機械的強度が向上するからである。
本発明によれば,非磁性箇所以外の部分の鋼材の材質に関わらず適用でき,要処理時間が短く,決まった深さ方向構造の非磁性箇所を持つようにした,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コアが提供されている。
[非磁性箇所を有する積層電磁鋼板]
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態の非磁性箇所を有する鋼材を用いる回転電機は,図1に示したロータ90のペリブリッジ部92およびセンターブリッジ部93が非磁性箇所とされているものである。センターブリッジ部93は,隣り合う磁石取り付け穴の間の箇所であり,ペリブリッジ部92は,磁石取り付け穴と外周縁との間の箇所である。このようにペリブリッジ部92及びセンターブリッジ部93が非磁性箇所であるため,これらの非磁性箇所からの磁束の漏れは少ない。また,図1に示すように,ロータ90およびステータ80はいずれも,多数枚の積層電磁鋼板をさらに積層してなるものである。
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態の非磁性箇所を有する鋼材を用いる回転電機は,図1に示したロータ90のペリブリッジ部92およびセンターブリッジ部93が非磁性箇所とされているものである。センターブリッジ部93は,隣り合う磁石取り付け穴の間の箇所であり,ペリブリッジ部92は,磁石取り付け穴と外周縁との間の箇所である。このようにペリブリッジ部92及びセンターブリッジ部93が非磁性箇所であるため,これらの非磁性箇所からの磁束の漏れは少ない。また,図1に示すように,ロータ90およびステータ80はいずれも,多数枚の積層電磁鋼板をさらに積層してなるものである。
ロータ90を構成する非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100について説明する。非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100は,図2に示すように3枚の電磁鋼板10,20,30を重ね合わせたものである。また,非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100には,非磁性箇所Xが形成されている。ロータ90は,このような3枚組の電磁鋼板をさらに積み重ねたものである。
電磁鋼板100における非磁性箇所Xの内部には,非磁性合金層110が形成されている。非磁性合金層110は,接触面3で電磁鋼板10に接合されている。また,非磁性合金層110は,接触面4で電磁鋼板30に接合されている。そして,非磁性合金層110は,接触面5で電磁鋼板20に接合されている。すなわち,非磁性合金層110は,接触面3,4,5により覆われるとともに,接触面3,4,5で電磁鋼板10,20,30に接合されている。
しかし,電磁鋼板10と電磁鋼板20とは,直接には接合されていない。よって,電磁鋼板10と電磁鋼板20との接触面6は,非接合面である。また,電磁鋼板20と電磁鋼板30とは,直接には接合されていない。よって,電磁鋼板20と電磁鋼板30との接触面7は,非接合面である。また,電磁鋼板10,20,30は,表面を絶縁皮膜により覆われている。よって,接触面6では電磁鋼板10と電磁鋼板20との間に電流は流れない。同様に,接触面7では電磁鋼板20と電磁鋼板30との間に電流は流れない。
続いて,本形態の積層電磁鋼板100における非磁性箇所Xの構造を説明する。積層電磁鋼板100における非磁性箇所Xは,図2に示す断面構造を有している。図2は,ロータ90を構成する電磁鋼板100の断面図である。図2に示す非磁性箇所Xは,電磁鋼板層1と,非磁性合金層110と,電磁鋼板層2とからなる3層構造となっている。電磁鋼板層1および電磁鋼板層2は主鋼材層である。電磁鋼板層1が図2中下側の表面をなしており,電磁鋼板層2が図中上側の表面をなしている。非磁性合金層110はそれらの間にある。
電磁鋼板層1は,主鋼材である電磁鋼板10そのものの一部分である。そして,電磁鋼板層2は,主鋼材である電磁鋼板30そのものの一部分である。非磁性合金層110は,Feを主成分としてそれにNi,Cr等の合金元素を添加してなる,オーステナイト相の非磁性の合金層である。そして,非磁性合金層110の電気抵抗率は電磁鋼板10,20,30の電気抵抗率に比べて高い。また,非磁性合金層110の機械的強度は,周囲
の鋼材と比べて遜色ないものである。その詳細は,後述する。
の鋼材と比べて遜色ないものである。その詳細は,後述する。
かかる非磁性箇所Xにおいては,電磁鋼板層1および電磁鋼板層2のみが磁性体であり,非磁性合金層110は非磁性体である。よって,非磁性箇所Xにおいて有効な磁気経路となりうるのは,電磁鋼板層1および電磁鋼板層2の部分に限られる。すなわち非磁性箇所Xでは,積層電磁鋼板100の全厚のうちごく限られた部分しか磁気経路となり得ない。このために磁気抵抗が大きく,実質的に非磁性の箇所と見ることができるのである。
図1に示したロータ90のペリブリッジ部92およびセンターブリッジ部93においては,すべての積層電磁鋼板100が図2に示す非磁性箇所Xを有している。このため,磁石91の磁束はほとんどペリブリッジ部92やセンターブリッジ部93を通らない。よって,磁石91の磁束のほとんどが有効磁束Fとなる。また,積層電磁鋼板100のうち非磁性箇所X以外の部分は,一般的なFe−Si系のものであり,透磁率が非常に高い。したがって,本形態の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板を用いた回転電機の磁気効率は優れている。
なお,本形態の回転電機コアに用いる電磁鋼板10,20,30の厚みは,薄いほうが好ましい。電磁鋼板に発生する渦電流を抑制するためである。渦電流とは,電磁誘導効果により金属内に発生する渦状の電流である。この渦電流は,モータの使用時にロータの電磁鋼板内にも発生する。これにより,ロータが発熱し,エネルギー損失を招くこととなる。このエネルギー損失を,渦電流損という。このため,モータにおいては,可能な限り渦電流損を小さくすることが好ましい。
渦電流損は,次式,
Pe=ke・(t・f・Bm)2/ρ (1)
Pe:渦電流損
ke:比例定数
t :電磁鋼板の板厚
f :周波数
Bm:最大磁束密度
ρ :電磁鋼板の電気抵抗率
で表される。つまり,渦電流損Peは,電磁鋼板の板厚tの2乗に比例し,電磁鋼板の電気抵抗率ρに反比例する。
Pe=ke・(t・f・Bm)2/ρ (1)
Pe:渦電流損
ke:比例定数
t :電磁鋼板の板厚
f :周波数
Bm:最大磁束密度
ρ :電磁鋼板の電気抵抗率
で表される。つまり,渦電流損Peは,電磁鋼板の板厚tの2乗に比例し,電磁鋼板の電気抵抗率ρに反比例する。
本発明の積層電磁鋼板100は,板厚の薄い電磁鋼板10,20,30を重ね合わせたものである。積層電磁鋼板100における式(1)の板厚tとは,電磁鋼板3枚分の厚さでなく1枚だけの厚さである。電磁鋼板10,20,30は,表面を絶縁皮膜により覆われており,渦電流は電磁鋼板10,20,30のそれぞれの厚みの範囲内でのみ発生するからである。つまり,電磁鋼板10,20,30の板厚tの値は小さいため,渦電流損Peの値も小さいのである。
一方,非磁性合金層110の厚みは,積層電磁鋼板100における他の部分に比べて厚い(図2参照)。しかし,非磁性合金層110の電気抵抗率は,電磁鋼板10,20,30の電気抵抗率に比べて2倍から4倍程度高い。後述するように,非磁性合金層110の合金形成材として,合金となった後に高い電気抵抗率を呈する材料を選択しているためである。また,非磁性合金層110の機械的強度は十分なものである。非磁性合金層110を形成するために用いる合金形成材に,非磁性合金層110の機械的強度を向上させる炭素を含有させているためである。
本発明に係る非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100は,電磁鋼板10,20,30を重ね合わせたものである。また,非磁性箇所Xにおける非磁性合金層110は,電磁鋼板20を貫通するとともに,電磁鋼板10及び電磁鋼板30の一部に食い込んでいる。そして,非磁性合金層110は,電磁鋼板10,20,30との接触面で接合されている。しかし,電磁鋼板10と電磁鋼板20との接触面6は,単なる接触面であり,接合されているわけではない。電磁鋼板20と電磁鋼板30との接触面7も同様である。電磁鋼板20は,電磁鋼板10,30とその接触面で接合されていない。電磁鋼板10,20,30の表裏面には絶縁皮膜が形成されているため,電磁鋼板間に電流は流れない。よって,渦電流損によるエネルギー損失は大きくない。
[製造方法]
本形態の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100の製造方法について図3から図9により説明する。非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100の製造に用いる電磁鋼板10,20,30は,表面を絶縁皮膜により覆われているものである。このため,電磁鋼板10,20,30を積み重ねても,渦電流損が大きくなることはない。また,電磁鋼板10,20,30の材質は同じものである。また,電磁鋼板10,20,30の厚みは,0.3mmである。ただし,材質,厚みは,必要に応じて,上記と異なるものとしても構わない。
本形態の非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100の製造方法について図3から図9により説明する。非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100の製造に用いる電磁鋼板10,20,30は,表面を絶縁皮膜により覆われているものである。このため,電磁鋼板10,20,30を積み重ねても,渦電流損が大きくなることはない。また,電磁鋼板10,20,30の材質は同じものである。また,電磁鋼板10,20,30の厚みは,0.3mmである。ただし,材質,厚みは,必要に応じて,上記と異なるものとしても構わない。
まず,図3に示すように,電磁鋼板10の上に電磁鋼板20を配置する。電磁鋼板20は,厚さ方向に貫通孔21を形成した電磁鋼板である。貫通孔21は,この後に形成される非磁性箇所Xの箇所と同じ位置にある。すなわち,貫通孔21の箇所に,非磁性箇所Xが形成されることとなるのである。
次に,図4に示すように,電磁鋼板20の貫通孔21の箇所に,改質金属箔41,42を挿入する。図4では,改質金属箔41が下に,改質金属箔42が上になるように挿入している。改質金属箔41,42を重ねたときの厚みは,電磁鋼板20の厚みと同じである。このため,改質金属箔41,42を重ねて挿入することにより,電磁鋼板20の上側の面と,改質金属箔42の上側の面とがちょうど同じ高さのフラットな面となるようにしている。つまり,改質金属箔41,42を重ねたものの大きさは,貫通孔21をちょうど埋める大きさである。
改質金属箔41,42は,後述するように,周囲の電磁鋼板10,20,30の一部とともに溶融し,凝固した後には全体として非磁性の合金となる合金形成材である。改質金属箔41は,Feのオーステナイト相を安定化する種類の金属またはその合金からなる合金形成材である。改質金属箔41の材質は,例えば,Ni−Cr系の合金に炭素を含有させたものである。ここで,炭素を含有させることにより,形成された後の非磁性合金層110の機械的強度は向上する。改質金属箔42は,Feとともに溶融して,その後に形成される非磁性合金層110の電気抵抗率を上昇させる合金形成材である。改質金属箔42の材質は,例えば,Cr−Al−Fe(より具体的には25Cr−5Al−Fe)である。なお,改質金属箔41,42の融点は,電磁鋼板10,20,30の融点よりもやや低い。
次に,図5に示すように,電磁鋼板30を,電磁鋼板20の上に載せる。これにより,改質金属箔41,42は,電磁鋼板10,30及び貫通孔21の形成された電磁鋼板20のかたどる空間にちょうど収まることとなる。このとき,貫通孔21の箇所は,下から,電磁鋼板10,改質金属箔41,改質金属箔42,電磁鋼板30を順に積み重ねた四層構造となっている。貫通孔21以外の箇所は,下から,電磁鋼板10,電磁鋼板20,電磁鋼板30を順に積み重ねた三層構造となっている。
次に,図6に示すように電極15,15で重ね合わせた電磁鋼板10,20,30を挟み込む。電極15,15で挟み込む箇所は,貫通孔21に改質金属箔41,42を挿入した四層構造の箇所である。電極15,15で電磁鋼板10と電磁鋼板30とを挟み込んだ後,加圧した状態で電極15,15間に通電する。
そして,スポット溶接と類似の要領で,加圧しながら電極15,15間に通電する。加圧の圧力は20MPa程度とし,電流値は,改質金属箔41,42の面積(cm2 )当たり11kA程度とする。この通電の抵抗発熱により,改質金属箔41,42が溶融する。そして通電終了後に再び凝固することにより,図2に示した非磁性合金層110が形成されるのである。
通電を開始すると,最も速く昇温するのは,図6中,電磁鋼板10と改質金属箔41との境目の箇所51と,改質金属箔41と改質金属箔42との境目の箇所52と,改質金属箔42と電磁鋼板30との境目の箇所53(以下,境目箇所51,52,53という)である。接触抵抗があるためである。
よって,通電を続けることにより,これらの境目箇所51,52,53付近から溶融し始める。そして,境目箇所51,52,53の金属が溶融して液状となると,その液状の箇所と接している金属の金属原子も溶融金属に溶け込んでいく。このため,溶融金属の領域は,改質金属箔41,42の厚み方向にも,板面方向にも拡大していく。ただし,前述したように,改質金属箔41,42の融点は,電磁鋼板10,20,30の融点よりも低い。このため,この段階において,改質金属箔41,42が溶融する。一方,電磁鋼板10,20,30の溶融の程度は,改質金属箔41,42より少ない。このため,電極15,15との接触面側は溶融しない(図7参照)。
この状態では,図7に示すように,改質金属箔41,42は完全に溶けて電磁鋼板10,20,30から溶け出した鉄と混ざっている。このとき,貫通孔21の箇所の電磁鋼板10及び電磁鋼板30の厚みは,液状部16の侵食により,図6の通電開始前よりも薄くなっている。そして,さらに通電を継続すると,図8に示すように,液状部16の領域は,さらに広がる。ただし,電磁鋼板10,電磁鋼板30とも,消失することなく,穴が開くこともなく,残っている。
溶融金属である液状部16が十分な大きさとなれば,この上さらに加熱する必要はない。むしろ,このままさらに加熱を続けると,電磁鋼板10及び電磁鋼板30に穴が開いて溶融金属が電極15,15に融着したり,あるいは外部に流出したりするおそれがある。このためここで通電を終了する。するとその後は,周囲への放熱により次第に温度が低下していく。温度の低下により,溶融金属は凝固する。このとき,空孔ができることはない。この後,電極15,15を電磁鋼板10及び電磁鋼板30から離す(図9参照)。
図9の状態における溶融金属の組成は,Feを主成分とし,改質金属箔41,42に由来するNiやCrやAlやCを相当程度に含んだものとなっている。このため,凝固するとオーステナイト相となり,非磁性である。また,凝固した後形成される合金の電気抵抗率は高い。また,Cを含んでいるため,十分な機械的強度を備えている。このように溶融金属は,図2に示した非磁性合金層110となる。こうして,図2に示した非磁性箇所Xを有する積層電磁鋼板100ができあがる。
なお,通電開始から通電終了までの時間は,改質金属箔41,42の種類や各部の厚さなどにも左右されるが,おおむね0.15秒程度が適切である。条件によっては,更に短時間とすることも可能である。この時間で,溶融金属の原子は,溶融金属中に十分に拡散する。このため,形成された非磁性合金層110の金属原子の組成分布は,ほとんど均一である。
以上詳細に説明したような手順を用いることにより,次のようなメリットを有する非磁性箇所を有する鋼材の製造方法が実現されている。すなわち,非磁性箇所Xとなるべき部分にのみ通電して加熱するので,他の部分の材質を問わない。このため,電磁鋼板10,20,30そのものについては,透磁率重視で種類を選択することができる。したがって,磁気効率のよいロータ90が得られる。
また,電磁鋼板20の厚さや通電時間を変更することにより,非磁性箇所Xに形成される非磁性合金層110の厚さを調整することができる。さらに,非磁性合金層110の厚さの再現性も良好である。このため,なるべく厚い非磁性合金層110が得られるように種々の条件を定めることにより,非磁性箇所Xに占める電磁鋼板層1及び電磁鋼板層2の厚さをぎりぎりまで小さくすることができる。これにより,無効磁束を極限まで減らすことができる。また,貫通孔21や改質金属箔41,42の形状を自由に選ぶことができるため,形成される非磁性箇所Xの領域も限定されることはない。
また,貫通孔21のサイズと改質金属箔41,42のサイズを一致させておくことにより,加熱の前後での体積変化がほとんどない。このため,空孔もなく,かつ表面が平坦な非磁性箇所Xを得ることができる。よって,非磁性箇所Xを持つことによる強度面での不利がほとんどない。また積み重ねの障害となることもない。
また,加熱するのは非磁性箇所Xとなるべき部分だけであり,電磁鋼板10,20,30の全体を加熱するのではない。このため,消費電力が少なくて済む。また,スポット溶接と類似の要領で短い処理時間で非磁性箇所Xを形成できる。このため量産にも適している。
ここで,本形態の変形例について説明する。上記の本形態では,改質金属箔41として,Ni−Cr系の合金に炭素を含有させたものを用い,改質金属箔42として,Cr−Al−Feを用いることとした。しかし,改質金属箔41として,Ni−Cr系の合金を用い,改質金属箔42として,Cr−Al−Feに炭素を含有させたものを用いてもよい。最終的に非磁性合金層110が形成されることに変わりないからである。
また,本形態では,貫通孔21に改質金属箔41,42を挿入する際に改質金属箔41を下に,改質金属箔42を上に挿入した。しかし,改質金属箔42を下に,改質金属箔41を上になるように貫通孔21に挿入してもよい。また,電磁鋼板10,20,30の表面に絶縁皮膜により覆われているとした。しかし,絶縁皮膜は形成されていない電磁鋼板を用いることもできる。
合金形成材として,Feのオーステナイト相を安定化する合金形成材として,Ni−Cr系の合金を用いたが,Feのオーステナイト相を安定化する金属または合金であれば別のものを用いてもよい。また,合金形成材として,炭素を含有させたものを用いたが,炭素を含有させなくともよい。その場合,形成される非磁性合金層は,上記の本形態の非磁性合金層110よりも機械的強度は低下することとなる。しかし,非磁性箇所を有することに変わりはない。また,合金形成材として,形成される非磁性合金層の電気抵抗率を上昇させるCr−Al−Feを用いたが,必ずしも用いる必要はない。その場合,形成される非磁性合金層は,上記の本形態の非磁性合金層110よりも電気抵抗率の低くいものとなる。しかし,非磁性箇所を有することに変わりはない。これらの場合,合金形成材は1種類でよい。ただし,用いる合金形成材は,貫通孔を隙間なく埋める必要がある。
[まとめ]
以上詳細に説明したように,本形態のロータ90に用いる非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100は,非磁性合金層110を介して3枚の電磁鋼板を部分的に接合したものである。本形態の非磁性箇所を有する電磁鋼板100は,電磁鋼板10,20,30を有効な磁気経路とするものである。一方,非磁性合金層110は,有効な磁気経路とはならない。すなわち,十分な最大磁束密度が確保できる。このため,非磁性合金層110を所望の箇所に形成することにより,強度と,有効な磁束経路とを確保する積層電磁鋼板が実現されている。
以上詳細に説明したように,本形態のロータ90に用いる非磁性箇所を有する積層電磁鋼板100は,非磁性合金層110を介して3枚の電磁鋼板を部分的に接合したものである。本形態の非磁性箇所を有する電磁鋼板100は,電磁鋼板10,20,30を有効な磁気経路とするものである。一方,非磁性合金層110は,有効な磁気経路とはならない。すなわち,十分な最大磁束密度が確保できる。このため,非磁性合金層110を所望の箇所に形成することにより,強度と,有効な磁束経路とを確保する積層電磁鋼板が実現されている。
また,次のようなメリットを有する非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法が実現されている。すなわち,非磁性箇所Xとなるべき部分にのみ通電して加熱するので,他の部分の材質を問わない。このため,電磁鋼板10,20,30そのものについては,透磁率重視で種類を選択することができる。したがって,磁気効率のよいロータ90が得られる。
また,電磁鋼板20の板厚や通電時間により,非磁性箇所Xに形成される非磁性合金層110の厚さを調整することができる。そして,非磁性合金層110の厚さの再現性も良好である。このため,なるべく厚い非磁性合金層110が得られるように種々の条件を定めることにより,非磁性箇所Xに占める電磁鋼板層1及び電磁鋼板層2の厚さをぎりぎりまで小さくすることができる。これにより,無効磁束を極限まで減らすことができる。貫通孔21の形状を自由に選ぶことができるため,形成される非磁性箇所Xの領域も限定されることはない。
また,貫通孔21のサイズと改質金属箔41,42を重ね合わせたサイズを一致させておくことにより,加熱の前後での体積変化がほとんどない。このため,空孔もなく,かつ表面の平坦な非磁性箇所Xを得ることができる。よって,非磁性箇所Xを持つことによる強度面での不利がほとんどない。また積み重ねの障害となることもない。
また,加熱するのは非磁性箇所Xとなるべき部分だけであり,電磁鋼板10,20,30の全体を加熱するのではない。このため,消費電力が少なくて済む。また,スポット溶接と類似の要領で短い処理時間で非磁性箇所Xを形成できる。このため量産にも適している。
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,改質金属箔41,42及び貫通孔21の形状を円板形状にしてもよい。改質金属箔41,42が回転したとしても,位置決めに変更が生じることがなく,挿入が容易であるためである。
電磁鋼板10,20,30の板厚は例示であり,別の値であってもよい。よって,より厚みの薄い電磁鋼板を用いることもできる。電磁鋼板10,20,30で,異なる材質,厚みの電磁鋼板を用いることもできる。また,電磁鋼板に限らず,その他の鋼材においても本発明の製造方法を用いることができる。また,3枚の電磁鋼板を重ね合わせるかわりに,4枚以上の鋼材を重ね合わせるようにしてもよい。その際,上端(本形態の電磁鋼板30)と下端(本形態の電磁鋼板10)に配置する電磁鋼板以外の中間電磁鋼板には,貫通孔を設けておけばよい。また,電磁鋼板は,Fe−Si系のものに限らない。
1,2…電磁鋼板層
3,4,5…接触面(接合面)
6,7…接触面(非接合面)
10,20,30…電磁鋼板
15…電極
16…液状部
21…貫通孔
41,42…改質金属箔
100…非磁性箇所を有する積層電磁鋼板
110…非磁性合金層
X…非磁性箇所
3,4,5…接触面(接合面)
6,7…接触面(非接合面)
10,20,30…電磁鋼板
15…電極
16…液状部
21…貫通孔
41,42…改質金属箔
100…非磁性箇所を有する積層電磁鋼板
110…非磁性合金層
X…非磁性箇所
Claims (6)
- 第1の電磁鋼板と,
前記第1の電磁鋼板に重ね合わせた中間電磁鋼板と,
前記中間電磁鋼板に重ね合わせた第2の電磁鋼板とを有し,
前記中間電磁鋼板の一部を厚さ方向に貫通するとともに,前記第1の電磁鋼板の一部及び前記第2の電磁鋼板の一部に食い込んだ非磁性合金層が形成されており,
前記非磁性合金層は,
その接触面で前記第1の電磁鋼板および前記中間電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板に隙間なく密着していることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板。 - 請求項1に記載の積層電磁鋼板において,
前記非磁性合金層の電気抵抗率は,周囲の電磁鋼板の電気抵抗率より高いことを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板。 - 第1の電磁鋼板と,
前記第1の電磁鋼板に重ね合わせた中間電磁鋼板と,
前記中間電磁鋼板に重ね合わせた第2の電磁鋼板とを有し,
前記中間電磁鋼板の一部を厚さ方向に貫通するとともに,前記第1の電磁鋼板の一部及び前記第2の電磁鋼板の一部に食い込んだ非磁性合金層が形成されており,
前記非磁性合金層は,
その接触面で前記第1の電磁鋼板および前記中間電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板に隙間なく密着していることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板を積層してなる回転電機コア。 - 第1の電磁鋼板の上に,貫通孔を有する中間電磁鋼板を重ねるとともに,前記貫通孔に合金形成材を配置した上で,前記中間電磁鋼板の上に第2の電磁鋼板を重ね,
前記合金形成材と前記第1の電磁鋼板と前記第2の電磁鋼板とが重ね合わせられた箇所に,厚さ方向に通電することにより,前記合金形成材を,その周囲の電磁鋼板の一部とともに溶融させ,
溶融させた合金を凝固させることにより非磁性箇所を形成することを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。 - 請求項4に記載の積層電磁鋼板の製造方法において,
前記合金形成材として,Ni−Cr合金を用いることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。 - 請求項4または請求項5に記載の積層電磁鋼板の製造方法において,
前記合金形成材として,炭素を含有させたものを用いることを特徴とする非磁性箇所を有する積層電磁鋼板の製造方法。
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JP2009109417A JP2010259284A (ja) | 2009-04-28 | 2009-04-28 | 非磁性箇所を有する積層電磁鋼板とその製造方法及び回転電機コア |
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---|---|---|---|---|
JPS60179434U (ja) * | 1984-05-11 | 1985-11-28 | トヨタ自動車株式会社 | ラミネ−ト鋼板 |
JP2004250717A (ja) * | 2003-02-18 | 2004-09-09 | Kento Engineering:Kk | 軸用材料および軸用材料の製造方法 |
WO2009028522A1 (ja) * | 2007-08-29 | 2009-03-05 | Toyota Jidosha Kabushiki Kaisha | 非磁性箇所を有する鋼材およびその製造方法および回転電機コア |
-
2009
- 2009-04-28 JP JP2009109417A patent/JP2010259284A/ja active Pending
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