JP2010252645A - 植物の生長を制御する遺伝子Hd16およびその利用 - Google Patents

植物の生長を制御する遺伝子Hd16およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、植物の生長を制御する新規遺伝子の提供、該遺伝子を利用した植物の生長の制御(開花期又は出穂期の改変)方法、及び該遺伝子を標的とした植物の感光性の強度の判定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、イネ品種日本晴とコシヒカリの間で検出された植物の生長を制御する遺伝子座(Hd16遺伝子座)の高精度連鎖解析を行い、Hd16の候補遺伝子を選定した。さらに、上記のようにして絞り込んだ候補遺伝子が、実際に出穂に関して機能していることを確認するために相補性検定を行った。その結果、Hd16候補遺伝子として単離した遺伝子には到穂日数を調節する機能を有することが明らかとなり、さらに該当遺伝子を使用して出穂期および植物の生長を制御することが可能であることを見出した。
【選択図】なし

Description

本発明は、植物の生長を制御する新規遺伝子および該遺伝子を利用した植物の生長の制御方法に関する。植物の生長の制御は、植物の品種改良などの分野において有用である。
作物を含む多くの植物は、日長時間や気温、降水量などの季節変化を感知して環境に適応している。例えば、短日植物であるイネは日長の変化によって出穂時期が変化する(感光性)が、低緯度の熱帯地域では感光性の強い品種が適しており日本などの高緯度地域では感光性の小さい品種が適している。日本国内においてもイネの品種の感光性には差があり、一般に九州や本州南部の品種は比較的強い感光性をもち、北海道の品種は感光性がほとんどない。このように、感光性が異なることによって栽培地域や栽培時期などに対する適応性が大きく変化するため、各地域で最適時期にイネを収穫するために出穂期の調節は重要である。
これまでに、イネの出穂期に関係する量的形質遺伝子座(QTL)の多くはインド型品種と日本型品種の交雑後代から見つかっている(非特許文献1〜6)。その中のいくつかのQTLは遺伝子が単離されている。例えば、Hd1遺伝子はジンクフィンガードメインとCCTモチーフを持つタンパク質をコードしており、シロイヌナズナのCONSTANSの相同遺伝子である(非特許文献3)。Hd3a遺伝子はシロイヌナズナのFTの相同遺伝子であり、Hd1遺伝子によって制御される(非特許文献7)。Hd6遺伝子はカゼインリン酸化酵素2のαユニットをコードしている(非特許文献8)。Ehd1遺伝子はBタイプレスポンスレギュレーターをコードしている(非特許文献9)。mRNAの発現解析の結果、Ehd1遺伝子はHd3a遺伝子の上流で機能するが、シロイヌナズナにEhd1遺伝子の相同遺伝子は存在しないことがわかった。さらに、Tamakiら(非特許文献10)はHd3aタンパク質が花成ホルモンのフロリゲンであることを明らかにした。これら近年の研究成果は、イネとシロイヌナズナでは共通に保存された開花システムと独自の開花システムの両方が存在することを示唆している。
日本のイネ品種群の中にも出穂期の大きな変異が存在しており、複数の感光性遺伝子の存在が報告されている。例えば、Se1座、E1座、E2座、E3座、Ef1座などである(非特許文献11〜15)。しかしながら、日本のイネ品種の遺伝的多様性が非常に小さく、これまでは遺伝解析に必要な多数のDNAマーカーを開発できなかったため、これらの感光性遺伝子と既報の出穂期遺伝子との関係を明らかにできなかった。日本のイネ品種群の出穂期の自然変異に関係している遺伝子については不明な点が多いのが現状である。
近年のイネゲノム塩基配列の完全解読により、ゲノムに散在するマイクロサテライト(SSR)が明らかとなった(非特許文献16)。SSRは短い塩基配列の繰り返し数に変異が起こりやすいことから、遺伝的に近縁な日本のイネ品種間でも効率的に多型を示すDNAマーカーを開発でき、日本型イネ品種間でQTL解析などの遺伝解析を行うことが可能になってきた。実際、玄米品質や食味などの育種上の重要形質では日本のイネ品種間の交雑後代を使った遺伝解析が報告されている(非特許文献17〜19)。しかしながら、日本のイネ品種間の重要形質の変異に関係する遺伝子を単離したという報告は未だなされていない。
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
Xiao et al., Theoretical and Applied Genetics(TAG) 92:230-244, 1996 Yano et al., Theoretical and Applied Genetics(TAG) 95:1025-1032, 1997 Yano et al., Current Opinion in Plant Biology 4:130-135, 2001 Uga et al., Theoretical and Applied Genetics(TAG) 114:1457-1466, 2007 Gu and Foley, Theoretical and Applied Genetics(TAG) 114:745-754, 2007 Nonoue et al., Theoretical and Applied Genetics(TAG) 116:715-722, 2008 Kojima et al., Plant and Cell Physiology 43:1096-1105, 2002 Takahashi et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (Proc Natl Acad Sci USA) 98:7922-7927, 2001 Doi et al., Genes & Development 18:926-936, 2004 Tamaki et al., Science 316:1033-1036, 2007 Okumoto et al., Japanese Journal of Breeding 41:135-152, 1991 Okumoto et al., Japanese Journal of Breeding 42:121-135, 1992 Okumoto et al., Euphytica 92:63-66, 1996 Ichitani et al., Breeding Science 47:145-152, 1997 Ichitani et al., Plant Breeding 117:543-547, 1998 IRGSP, Nature 436:793-800, 2005 Tabata et al., Breeding Science 57:47-52, 2007 Kobayashi et al., Breeding Science 57:107-116, 2007 Wada et al., Breeding Science 56:253-260, 2006
日本国特許第3911202号 日本国特許第3660966号 日本国特許第3660967号
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の生長を制御する新規遺伝子、より具体的には植物の感光性を制御する新規遺伝子を提供することにある。また、本発明は、該遺伝子を利用して植物の感光性を調節し、これにより植物の開花時期や出穂時期を調節することを目的とする。さらに、本発明は、該遺伝子を標的とした植物の感光性の強度の判定方法を提供することをも目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した。
まず本発明者らは、大規模分離集団により、イネ品種日本晴とコシヒカリの間で検出された植物の生長を制御する遺伝子座(Hd16遺伝子座)の高精度連鎖解析を行った。
その結果、これまで植物で出穂・開花に関わっているという報告が無いカゼインリン酸化酵素Iと相同性を示すHd16の候補遺伝子が出穂期および植物の生長を制御している可能性が考えられた。
次に、日本晴とコシヒカリの候補遺伝子の塩基配列をイネのカゼインリン酸化酵素Iと相同性を示す16個の遺伝子と比較した結果、グアニンがアデニンに変化する候補遺伝子中の塩基置換はコシヒカリ型の対立遺伝子だけで見つかった。このことから、コシヒカリの予測タンパク質は日本晴のものに比べて機能が低下あるいは消失したものになっていることが推察された。よって、前述した連鎖解析の結果と推定されたアミノ酸配列の比較解析結果とを考え合わせると、この候補遺伝子がHd16の有力な候補であると判断した。
さらに、上記のようにして絞り込んだ候補遺伝子が、実際に出穂に関して機能していることを確認するために相補性検定を行った。具体的には、野生型の遺伝子であると考えられる日本晴型のゲノムDNA断片を突然変異型の遺伝子を持つと推定されるコシヒカリに導入した形質転換体をアグロバクテリウム法により作成し、表現型が野生型(日本晴型)に回復するかどうかを確認した。
その結果、Hd16候補遺伝子として単離した遺伝子には到穂日数を調節する機能を有することが明らかとなり、この遺伝子が本発明の目標としていたHd16遺伝子座の原因遺伝子であることが明らかとなった。さらに該当遺伝子を使用して出穂期および植物の生長を制御することが可能であることが確認された。
即ち、本発明者らはイネの生長を制御するHd16遺伝子を単離することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
本発明は、より具体的には下記〔1〕〜〔21〕の発明を提供するものである。
〔1〕植物の感光性を増加させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:2又は3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:2又は3のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕イネ由来であることを特徴とする、〔1〕に記載のDNA。
〔3〕植物の感光性を低下させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:5又は6に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:5又は6のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔4〕イネ由来であることを特徴とする、、〔3〕に記載のDNA。
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA。
〔6〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
〔7〕植物細胞における発現時に、共抑制効果により、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードするDNA。
〔8〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔9〕〔8〕に記載のベクターが導入された宿主細胞。
〔10〕〔8〕に記載のベクターが導入された植物細胞。
〔11〕〔10〕に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
〔12〕〔11〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
〔13〕〔11〕または〔12〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔14〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
〔15〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
〔16〕〔9〕に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、〔15〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔17〕〔15〕に記載のタンパク質に結合する抗体。
〔18〕配列番号:2、3、5、又は6のいずれかに記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチド。
〔19〕〔1〕または〔2〕に記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の感光性を増加させる方法。
〔20〕〔3〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の感光性を低下させる方法。
〔21〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、植物の感光性を判定する検査方法。
(a)被検植物体および繁殖媒体からDNA試料を調製する工程。
(b)該DNA試料から〔1〕又は〔3〕に記載のDNA領域を増幅する工程。
(c)植物の品種・系統から〔1〕又は〔3〕に記載のDNA領域を増幅したDNA断片と、該DNA試料から増幅したDNA断片の分子量または塩基配列を比較する工程。
本発明により新規な感光性遺伝子が提供された。本発明の遺伝子は植物の感光性を調節し、これにより植物の生長を制御する機能を有する。イネのような穂を有する植物においては、この遺伝子の発現や機能を調節することにより、出穂期を調節することができる。このため、本発明の遺伝子は、特に栽培地域に適応したイネ品種の育成や栽培時期の調節に有用である。また、本発明の遺伝子を用いるイネの品種育成は、短期間で高い確実性をもって目的の植物体を得ることができる点で、従来の方法より有利である。
また、本発明により植物の感光性を判定する遺伝子診断方法が提供された。本発明の方法では、これまでに栽培されている品種および、交配または遺伝子組換えによる新しい品種のゲノムDNAを抽出し、これらを解析することにより感光性を判定できる。感光性を判定できれば、品種間交雑の後代に出現する個体の感光性の強さを予測することが可能となり、交配母本の選定や選抜のための有用な情報となる。
以上の通り、本発明のHd16遺伝子は、様々な植物種の効率的な優良新品種開発や育成に利用できるものと考えられる。
日本晴とコシヒカリ間のBC1F7世代の交雑後代集団N-BILsおよびK-BILsにおける出穂期のQTL解析結果を示す図である。Aは検出した2つの出穂期QTLの染色体上の位置を示す。垂直の棒でイネの各染色体を示し、水平の棒でQTL解析に使用したDNAマーカーの位置を示している。各染色体の長さやDNAマーカー間の距離はRAP-DBのイネゲノム配列の長さに従った。Bは検出した2つのQTLの効果の大きさを示す。第3染色体長腕に見出されたQTLをHd16、第6染色体短腕に見出されたQTLをHd17と名付けた。 Hd16領域の低密度連鎖地図を示す図である。左の垂直の棒は、日本晴とコシヒカリの後代集団N-BILsで構築した連鎖地図を示す(Matsubara et al. 2008)。右の垂直の棒は、SSRマーカーRM2593〜RM1373の間が分離するBC2F2集団88個体を利用して作成した低密度連鎖地図である。その棒の左側の数字は両マーカーの間で組換えの起きた個体数を示している。Hd16候補遺伝子およびHd6の連鎖地図上の位置をHd16およびHd6の文字で示している。 Hd16候補領域の詳細な連鎖地図および物理地図を示す図である。マーカー間の数字は、そのマーカーの間で組換えの起きた個体数を示す。Aは、日本晴とコシヒカリのBC3F3世代の交雑後代集団2,918個体を用いた連鎖解析の結果を示す。Bは、Hd16候補領域中の日本晴とコシヒカリ間の塩基配列変異の位置を示す。Cへ拡大された部分がHd16候補遺伝子内の非同義置換の変異位置を示している。Cは、Hd16候補遺伝子の構造と変異の位置を示す。 Aは、候補遺伝子(Os03g0793500)の全長cDNA配列中の1,214〜1,243塩基目とそれに対応する部分の相同性の高い遺伝子のcDNA配列を示す図である。コシヒカリのHd16候補遺伝子の塩基置換を四角で囲み強調した。Bは、候補遺伝子(Os03g0793500)の全長cDNA配列から予測したアミノ酸配列中の329〜358番目とそれに対応する部分の他生物の相同性の高い遺伝子のアミノ酸配列を示している。コシヒカリのHd16候補遺伝子のアミノ酸置換を四角で囲み強調した。 Hd16候補遺伝子を含む日本晴ゲノム断片(約11kb)をコシヒカリに導入した形質転換体の到穂日数を示す図である。短日条件および長日条件下で到穂日数を調査し、日本晴のゲノム配列を導入した形質転換体を白い棒で、ベクターのみを導入した対照個体を黒い棒で示す。 Hd16遺伝子のコシヒカリの塩基置換の分布を示す図である。Aは、インド型イネ品種における塩基配列変異の分布、1953年以前の日本のイネ品種における塩基配列変異の分布および1954年以後の日本のイネ品種における塩基配列変異の分布を示す。Bは、1953年以前の日本のイネ品種の中でコシヒカリ型の塩基配列変異を持つ品種について、コシヒカリの育成の系譜とともに示した図である。森多早生、農林1号およびコシヒカリの3品種だけが、コシヒカリ型の塩基配列変異を持っていた。
本発明は、イネ由来のHd16タンパク質をコードするDNAを提供する。「日本晴」型のゲノムDNAの塩基配列を配列番号:2に、「日本晴」のcDNAの塩基配列を配列番号:3に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:1に示す。また、「コシヒカリ」型のHd16ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:5に、「コシヒカリ」のcDNAの塩基配列を配列番号:6に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
Hd16遺伝子は、植物の感光性に関与する遺伝子として、これまでイネ第3染色体という広大な領域のいずれかの場所に存在するものとして知られていたが、その同定および単離には至っていなかった。本発明者らは、複雑なステップを経て遂にその存在領域を解明し、単一の遺伝子として該遺伝子を単離することに初めて成功した。
現在、日本のイネの品種改良においては、出穂期の調節は重要な育種目標である。特に寒冷地では秋の低温が早く到来することから、出穂期の調節(早生化)は冷害の回避のために重要である。一方、西南暖地においては、大規模稲作地帯における収穫作業の集中を回避するためにも早生化あるいは晩生化に調節することが期待されている。
日本晴型Hd16タンパク質は、植物の感光性を増加させる作用を有していることから、該タンパク質をコードするDNAで植物を形質転換することにより、植物の晩生化(開花時期の遅延化)を引き起こすことが可能である。一方、アンチセンス法やリボザイム法などを利用して該DNAの発現制御を行うことにより、感光性を低下させ、植物の開花時期を早めることが可能である。例えば、日本晴型Hd16遺伝子の機能が消失した品種にこの遺伝子をセンス鎖で形質転換することにより、長日あるいは夏期の自然日長での出穂遅延を図ることができる。一方、日本晴型Hd16遺伝子の機能が保持されている品種、例えば「日本晴」に、アンチセンス方向に日本晴型Hd16遺伝子を導入したり、コシヒカリ型Hd16遺伝子を導入することにより、出穂を促進させることができる。長日条件は日本の夏期におけるイネの栽培期間の自然日長条件と類似するため、実際の栽培条件における出穂期の調節に有効である。形質転換に要する期間は交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、他の形質の変化を伴わないで出穂期の改変が可能となる。単離した日本晴型Hd16遺伝子又はコシヒカリ型Hd16遺伝子を利用することにより、イネの出穂期を容易に変化させることができ、異なる地域に適応したイネ品種育成に貢献できると考えられる。
本発明のHd16タンパク質(日本晴型及びコシヒカリ型)をコードするDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、感光性に関連する遺伝子を有するイネ品種(例えば、「日本晴」「コシヒカリ」)からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:3,6)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:3,6)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、感光性に関連する遺伝子を有するイネ品種(例えば、「日本晴」「コシヒカリ」)から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
本発明は、配列番号:1または4に記載のHd16タンパク質(「日本晴型」、「コシヒカリ型」)と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。ここで「Hd16タンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質が植物の感光性を増加(日本晴型)又は低下(コシヒカリ型)させる機能を有することを指す。このようなDNAは、好ましくは単子葉植物由来であり、より好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくはイネ由来である。
このようなDNAには、例えば、配列番号:1または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数(例えば2、3、4、5、10、20、30、40、50、又は100個)のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型のHd16タンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のHd16タンパク質(配列番号:1または4)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
あるDNAが植物の感光性を増加又は低下させるタンパク質をコードするか否かは以下のようにして評価することができる。最も一般的な方法としては、該DNAが導入された植物を、日長が変更できるグロースチャンバーで栽培して調べる手法である。すなわち短日(一般的には9〜10時間)条件と長日(14〜16時間)条件で栽培し、播種から開花するまで(イネであれば播種から穂が出るまで)に必要な日数を比較する方法である。該日数が長日と短日で変わらないかほとんど同じ場合は感光性が低下した又は感光性がないと判断する。感光性が増加した又は感光性がある場合は、長日での開花までの日数は短日より大きくなり、その差の大きさを感光性の程度とみなすことができる。グロースチャンバーが利用できない場合には、自然日長の圃場あるいは温室における栽培試験で検定可能である。すなわち温室に20日おきに播種し、温度を保って自然日長下で栽培し、それぞれの開花日を測定する。イネにおいては、一般に8月〜2月に播種した場合は、感光性の大きな品種の出穂は促進され、逆に4月から7月では遅延する。一方、感光性の小さな品種では到穂日数は播種期の移動に影響されずに変化が小さい。
配列番号:1または4に記載のHd16タンパク質(日本晴型、コシヒカリ型)と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、Hd16遺伝子の塩基配列(配列番号:2、3、5、または6)もしくはその一部をプローブとして、またHd16遺伝子(配列番号:2、3、5、または6)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からHd16遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるHd16タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、Hd16タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:1または4)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
本発明のDNAは、例えば、組み換えタンパク質の調製や感光性が改変された形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法(Mandel, M. & Higa, A. (1970) Journal of Molecular Biology, 53, 158-162、Hanahan, D. (1983) Journal of Molecular Biology, 166, 557-580)を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記のマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。また、後述する手法で、本発明のDNAが導入された形質転換植物体を作成し、該植物体から本発明のタンパク質を調製することも可能である。従って、本発明の形質転換植物体には、後述する、感光性を改変するために本発明のDNAが導入された植物体のみならず、本発明のタンパク質の調製のために本発明のDNAが導入された植物体も含まれる。
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。これらの抗体を用いることにより、植物体における感光性タンパク質の発現部位の判別、もしくは植物種が感光性タンパク質を発現するか否かの判別を行うことが出来る。例えば、「日本晴」のカルボキシル末端側のアミノ酸配列を特異的に認識する抗体は、感光性を持たない品種において発現するタンパク質には結合しないため、植物種が感光性タンパク質を発現するかいなかを判別する際に用いることができる。
また、「日本晴」型および「コシヒカリ」型のアミノ酸配列を比較した際に変異が起こっている部位(配列番号:1及び4の331位、日本晴型:アラニンからコシヒカリ型:トレオニンへの変異)をエピトープとして特異的に認識する抗体は、植物種の感光性が増加に関わるHd16遺伝子(日本晴型)を保持しているか、または感光性の低下に関わるHd16遺伝子(コシヒカリ型)を保持しているかを判定する際に用いることが出来る。当該抗体は披験植物のHd16遺伝子のタイプ(日本晴型又はコシヒカリ型)を判定する際に用いることの出来る他、披験植物の感光性を判定する際にも用いることができる。
本発明のDNAを利用して感光性が増加した形質転換植物体を作製する場合には、本発明の日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。本発明者等により単離された日本晴型Hd16遺伝子は、イネの感光性を強める作用を有し、その結果、出穂期を遅らせる効果を有するが、この日本晴型Hd16遺伝子を任意の品種に導入し発現させることによりそれらの系統の出穂期を調節することが可能である。この形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。
一方、感光性が低下した形質転換植物体を作製する場合には、本発明の日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの発現を抑制するためのDNA、またはコシヒカリ型Hd16タンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。上記の「タンパク質をコードするDNAの発現を抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
植物における特定の内在性遺伝子の発現の抑制は、例えば、本発明の日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNAを利用して行なうことができる。
「日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA」の一つの態様は、本発明の日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAである。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(J.R.Eckerand R.W.Davis, (1986) Proc.Natl.Acad.USA.83:5372)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(A.R.van der Krol et al. (1988) Nature 333:866)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある。
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumi et al. (1988) FEBS Lett.228:225)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumi et al. (1988) FEBS Lett. 239:285, M.Koizumi et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17:7059)。例えば、Hd16遺伝子のコード領域(配列番号:3の242位から2365位または配列番号:6の242位から2365位)中には標的となりうる部位が複数存在する。
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi and N.Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19:6751、 菊池洋, (1992) 化学と生物 30:112)。
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(K.Taira et al. (1990) Protein Eng. 3:733、A.M.Dzianottand J.J.Bujarski (1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86:4823、 C.A.Grosshansand R.T.Cech (1991) Nucleic Acids Res. 19:3875、 K.Taira et al. (1991) Nucleic Acids Res. 19:5125)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(N.Yuyama et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 186:1271,1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
「日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA」の他の一つの態様は、本発明の日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNAである。RNAiは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(以下dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3’末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。
本発明のDNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスコードDNAと、前記標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスコードDNAを含み、前記アンチセンスコードDNAおよび前記センスコードDNAより前記アンチセンスRNAおよび前記センスRNAを発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することもできる。
本発明のdsRNAの発現システムを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合がある。例えば、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入することにより構成することができる。また、異なる鎖上に対向するようにアンチセンスコードDNAとセンスコードDNAと逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNA、センスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備えられる。この場合には、センスRNA、アンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類を異ならせることが好ましい。
また、異なるベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させることにより構成することができる。
本発明のRNAiにおいては、dsRNAとしてsiRNAが使用されたものであってもよい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、Tuschlら(前掲)により報告された全長21〜23塩基対に限定されるものではなく、毒性を示さない範囲の長さであれば特に限定はなく、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。
当該DNAとしては、標的配列のインバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self-complementary ‘hairpin’ RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith, N.A. et al. Nature, 407:319, 2000、Wesley, S.V. et al. Plant J. 27:581, 2001、Piccin, A. et al. Nucleic Acids Res. 29:E55, 2001)を用いることもできる。
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。
内在性日本晴型Hd16遺伝子の発現の抑制は、さらに、日本晴型Hd16遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997, Curr.Biol.6:810,1996)。例えば、日本晴型Hd16遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、日本晴型Hd16遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から日本晴型Hd16変異体の形質を有する植物、即ち感光性が低下した植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%, 96%, 97%, 98%, 99%以上)の配列の同一性を有する。
さらに、本発明における内在性日本晴型Hd16遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子のことをいう。
また、本発明は、上記本発明のDNAや本発明のDNAの発現を抑制するDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、組み換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAあるいは本発明のDNAの発現を抑制するDNAを発現させるためのベクターも含まれる。このようなベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などが挙げられる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
本発明のベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al. 1985 Nature 313:810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al. 1993 Plant Mol.Biol. 23:567)などが挙げられる。
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 Plant Mol.Biol.30:387)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2:95)、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol. Gen. Genet. 240:1)、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193:57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al. 1990 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1406)、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al. 1989 EMBO J. 8:651)、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6624)などが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet. 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports 12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。
一旦、ゲノム内に本発明のDNAあるいは本発明のDNAの発現を抑制するDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
このようにして作出された感光性が改変された植物体は、野生型植物体と比較して、その開花時期が変化している。例えば、日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAが導入された植物体は、その感光性の増加により、圃場条件下において開花時期が遅延する。一方、コシヒカリ型Hd16タンパク質をコードするDNAが導入された植物体や、アンチセンスDNAなどの導入により日本晴型Hd16タンパク質をコードするDNAの発現が抑制された植物体は、その感光性の低下により、開花時期が早まる。このようにHd16遺伝子の発現を制御することにより、植物の開花時期を調節することができる。本発明の手法を用いれば、有用農作物であるイネにおいては、その出穂時期を調節することができ、生育環境に適応したイネ品種の育成の上で非常に有益である。
また、本発明は、配列番号:2、3、5または6のいずれかに記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15(例えば16,17,18,19,20,21,22,23,24,25)の連続する塩基を含むポリヌクレオチドを提供する。ここで「相補配列」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖の配列に対する他方の鎖の配列を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(95%,96%,97%,98%,99%)の塩基配列の同一性を有すればよい。このようなDNAは、本発明のDNAの検出や単離を行なうためのプローブとして、また、増幅を行なうためのプライマーとして有用である。
さらに、本発明は、植物の感光性を判定する遺伝子診断方法を提供する。植物の感光性は植物の出穂期に密接に係わり、植物の感光性を判定することは栽培地域や栽培時期に適応したイネ品種育成において非常に重要である。
本発明において「植物の感光性を判定」とは、これまでに栽培されていた品種における感光性の判定のみならず、交配や遺伝子組換え技術による新しい品種における感光性の判定も含まれる。
本発明の植物の感光性を評価する方法は、植物が機能的な日本晴型又はコシヒカリ型Hd16タンパク質をコードするDNAを保持しているか否かを検出することを特徴とする。植物が機能的なHd16タンパク質(日本晴型又はコシヒカリ型)をコードするDNAを保持しているか否かは、ゲノムDNAのHd16に相当する領域の分子量の違い、または塩基配列の違いを検出することにより評価することが可能である。
一つの態様としては、被検植物体および繁殖媒体におけるHd16遺伝子に相当するDNA領域と、感光性品種におけるHd16遺伝子のDNA領域の分子量を比較する方法である。「感光性品種」とは、日本の本州地域で栽培される品種「日本晴」を含み、感光性を保持する品種のことを示す。
まず、被検植物体および繁殖媒体からDNA試料を調製する。次いで、該DNA試料からHd16遺伝子に相当するDNA領域を増幅する。さらに、感光性品種におけるHd16遺伝子のDNA領域を増幅したDNA断片と、該DNA試料から増幅したDNA断片の分子量を比較し、分子量が感光性品種よりも有意に低い場合に被検植物の感光性は低下していると診断する。
具体的には、まず、本発明のHd16遺伝子のDNA領域をPCR法等によって増幅する。本発明における「Hd16遺伝子のDNA領域」とは、Hd16遺伝子のゲノムDNA領域(配列番号:2に記載のDNA領域)に相当する部分であり、増幅される範囲としてはゲノムDNA全長であってもよいし、ゲノムDNAの一部分であってもよい。PCRは、当業者においては反応条件等を適宜選択して行うことができる。PCRの際に、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅DNA産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅DNA産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅DNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。
こうして得られた標識されたDNA断片を、熱を加えること等により変性させ、尿素やSDSなどの変性剤を含むポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。変性剤としてSDSを利用したSDS-PAGEは、本発明において有利な分離手法であり、SDS-PAGEはLaemmliの方法(Laemmli (1970) Nature 227, 680-685)に準じて行うことができる。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析を行う。標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。例えば、表1に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして、感光性品種(日本晴)および被験植物からDNA断片を増幅し、分子量を比較することで感光性を判定することが出来る。
また、本発明のDNAに相当する被検植物体のDNA領域の塩基配列を直接決定し、感光性品種の塩基配列と比較することにより、植物の感光性を判定することもできる。例えば、披験植物の配列番号:2又は5に記載のゲノム塩基配列に相当する範囲において、第3288位がグアニンである場合には日本晴型の形質(感光性増加)、または同位がアデニンである場合にはコシヒカリ型の形質(感光性低下)というように感光性の判定を行なうことができる。また、披験植物の配列番号:3又は6に記載のcDNA塩基配列に相当する範囲において、第1232位がグアニンである場合には日本晴型の形質(感光性増加)、または同位がアデニンである場合にはコシヒカリ型の形質(感光性低下)というように感光性の判定を行なうことができる。
本発明の方法による植物の感光性の評価は、例えば、植物の交配による品種改良を行なう場合において利点を有する。例えば、感光性の形質の導入を望まない場合に、感光性を有する品種との交配を避けることができ、逆に、感光性の形質の導入を望む場合に、感光性を有する品種との交配を行うことができる。また交雑後代個体から望ましい個体を選抜する際にも有効である。植物の感光性の有無を、その表現型により判断することに比して、遺伝子レベルで判断することは簡便で確実であるため、本発明の感光性の評価方法は、植物の品種改良において大きく貢献し得ると言える。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕出穂期関連遺伝子座Hd16の検出
日本のイネ栽培品種「日本晴」と「コシヒカリ」のBC1F7世代の交雑後代を材料に出穂期に関するQTL解析を行った結果、第3染色体長腕のSSRマーカー87C10-7(表1、配列番号:7及び8)近傍に出穂期に作用を持つ量的形質遺伝子座(QTL)が存在することが明らかになった(図1)。このQTLはコシヒカリ型の対立遺伝子が早生になる効果を示していた。日本晴とコシヒカリのBC2F2世代の交雑後代集団88個体を用いて連鎖解析を行った結果、出穂期を調節する作用を持つ遺伝子座がSSRマーカー94O03-4〜SNPマーカーOJ21G19_4(表1、配列番号:11〜14)の間に存在することが確認できた(図2)。
ところで、日本晴とコシヒカリの品種の組み合わせによって検出されたこのQTLの近傍の染色体領域に、これまでに出穂期に関与するとされる遺伝子座の存在が報告されている。Yamamoto et al. (2000) (Genetics, 154, 885-891)は「日本晴」とインド型品種「Kasalath」の戻し交雑後代を用いてQTL解析を行い、Hd6と命名したQTLを検出している。Hd6とその近傍領域のみがKasalath型の染色体に置換されている日本晴準同質遺伝子系統NIL (Hd6)を用いた解析によって、Kasalath型のHd6は日本晴型に対して出穂を遅延(抑制)する作用があり、Hd6遺伝子が感光性に関係した遺伝子であることがわかった。さらに、同じ日本晴とインド型品種Kasalathの交雑後代から見出された感光性QTLのHd2と交互作用を示すことが明らかになっている。Takahashi et al. (2001) (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7922-7927) はHd6の遺伝子単離を行い、Hd6遺伝子がカゼインリン酸化酵素IIのαユニットをコードしていることを明らかにした。日本晴とコシヒカリの交雑後代BC2F2集団を用いた連鎖解析の結果、日本晴とコシヒカリから検出した出穂期QTLはHd6と異なるゲノム位置に存在することが明らかになった(図2)。本発明者らは、日本晴とコシヒカリの間で検出されたこの早生遺伝子座をHd16と命名し、その原因遺伝子を単離するためにさらなる実験を行った。
Figure 2010252645
〔実施例2〕高精度連鎖解析
BC3F3世代の播種後2週目の幼苗2,918個体から簡易抽出法(Monna et al. (2002)DNA Res., 9, 11-17)に従ってゲノムDNAを抽出し、Hd16候補領域を挟み込むSSRマーカーRM2593およびRM1038(表1、配列番号:15〜18)を用いて両マーカー間で組換えが起きている227個体を選抜した。さらに、SSRマーカー94O03-4(配列番号:9及び10)およびSNPマーカーOJ21G19_4(表1、配列番号:配列番号:11〜14)間の組換え個体を167個体選抜した。選抜個体の幼苗をポットに移植し、温室内で栽培して自殖種子を採種した。各個体のBC3F4世代の自殖種子を各22個体ずつ圃場栽培し、出穂期を調査した。Hd16の遺伝子型は、圃場に移植してから出穂するまでにかかった日数によって判定した。一方で、候補領域中の日本晴とコシヒカリ間で多型を示すSSRをマーカー化し(24J17-6、表1、配列番号:19及び20)、選抜した167個体の遺伝子型を調査した。出穂期と遺伝子型の調査結果から、Hd16の候補領域はSSRマーカー24J17-6〜SNPマーカーOJ21G19_4間であると判定した。この時点で候補領域が約540Kbに絞り込まれたため、コシヒカリのBACライブラリーから候補領域の一部を含む5つのBACクローンを選び出し塩基配列を解読した。解読したコシヒカリの塩基配列とRAP-DBの日本晴公開ゲノムシークエンスを比較し、新たに複数のDNAマーカーを候補領域中に設定して選抜個体の遺伝子型を決定した。その結果、Hd16の候補領域はInDel747340〜60J21-6(表1、配列番号:21〜24)間の約275kbとなった。以上の連鎖解析により作成された遺伝地図を図3に示す。この段階では、まだ約275kbと比較的広い候補領域であったが、日本晴とコシヒカリは共に日本で育成された遺伝的に極めて近縁な品種であるため候補領域中の塩基配列変異が少なく候補遺伝子が絞り込みやすいと考えられた。そこで、候補領域中の塩基配列の変異を探索し候補遺伝子を推定した。候補領域中に日本晴とコシヒカリ間で塩基配列の変異は12ヶ所あるが、RAP-DBで遺伝子のエキソン部分に存在する塩基配列変異は1ヶ所だけだった。残りの11ヶ所の塩基配列変異はゲノム中に高頻度で存在する塩基配列と相同性が高く、これ以上のDNAマーカー化と候補領域の絞り込みは困難であると判断した。なお、地図上に示した、作成・使用したDNAマーカーの一覧表を表1に示す。唯一遺伝子のエキソン部分に変異を持つ遺伝子として、カゼインリン酸化酵素Iと相同性を示す遺伝子が見つかった。哺乳類やショウジョウバエや線虫のカゼインリン酸化酵素Iの遺伝子群は、細胞膜輸送、細胞分裂、DNA修復、概日リズムの制御などの様々な機能を持っている(Tuazon and Traugh (1991) Adv. Second Messenger Phosphoprotein Res., 23, 123-164, Gross and Anderson (1998) Cell. Signal., 10, 699-711)。イネの出穂・開花は概日リズムに制御されており(Izawa et al. (2003) Curr. Opin. Plant Biol., 6, 113-120, Abe et al. (2008) Plant Cell physiol., 49, 420-432)、植物にも複数のカゼインリン酸化酵素Iが存在していることが明らかになっている(Klimczak et al. (1995) Plant Physiol., 109, 687-696)。しかしながら、今までカゼインリン酸化酵素Iが植物で出穂・開花に関わっているという報告はない。以上の理由から、カゼインリン酸化酵素Iと相同性を示すHd16の候補遺伝子が出穂期および植物の生長を制御している可能性が考えられた。よって、このカゼインリン酸化酵素Iと相同性を示す遺伝子をHd16の有力な候補遺伝子であると判断し、この遺伝子の解析を行うことにした。
〔実施例3〕カゼインリン酸化酵素Iの塩基配列およびアミノ酸配列の比較解析
日本晴とコシヒカリの候補遺伝子の塩基配列をイネのカゼインリン酸化酵素Iと相同性を示す16個の遺伝子と比較した結果、グアニンがアデニンに変化する候補遺伝子中の塩基置換はコシヒカリ型の対立遺伝子だけで見つかった(図4)。また、候補遺伝子を翻訳した予測アミノ酸配列をヒト(AAQ02559)、マウス(AAA40934)、ショウジョウバエ(AAC39134)、シロイヌナズナ(AAB47968)のカゼインリン酸化酵素Iのアミノ酸配列と比較したところ、コシヒカリ型の対立遺伝子だけでアラニンがスレオニンに変化するアミノ酸置換が見つかった(図4)。このことから、コシヒカリの予測タンパク質は日本晴のものに比べて機能が低下あるいは消失したものになっていることが推察された。よって、前述した連鎖解析の結果と推定されたアミノ酸配列の比較解析結果とを考え合わせると、この候補遺伝子がHd16の有力な候補であると判断した。
〔実施例4〕形質転換体を用いた候補遺伝子の機能証明
(1)ベクターの構築
上記のようにして絞り込んだ候補遺伝子が、実際に出穂に関して機能していることを確認するために相補性検定を行った。すなわち、野生型の遺伝子であると考えられる日本晴型のゲノムDNA断片を突然変異型の遺伝子を持つと推定されるコシヒカリに導入した形質転換体を作成し、表現型が野生型に回復するかどうかを確認した。まず、日本晴のゲノムDNAをもとに作成されたPACライブラリーから、候補領域をカバーするPACクローン403-F06をPCRによって選抜した。次に、候補領域のゲノム配列をRAP-DBから抜き出し、制限酵素地図を作成した。制限酵素地図により候補遺伝子の転写領域を含むゲノム断片約8kbpを制限酵素SpeIでベクターから切り出すことが可能であると予想された。PACクローン403-F06の大腸菌をカナマイシンが終濃度50μg/mL含む10mLのLB培地に植菌し、37℃で一晩振とう培養し、遠心分離後に大腸菌のペレットを得た。そのペレットから、QIAfilter Plasmid Midi Kit(QIAGEN社)を用いてプラスミドDNAを回収し、制限酵素SpeIで処理し、1%アガロールゲルを用いた電気泳動でDNA断片を分画した。分画したDNAはMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製した。精製したDNAをpBluescript II SK(+)(Stratagene社)のXbaIサイトに挿入し、大腸菌株DH5α株に形質転換した。さらに候補遺伝子の転写開始点より上流約3kbpを含むゲノム断片を加えるために、そのゲノム断片を特異的に増幅するプライマーHd16Lig-1U「ACTACACAAGCCGCCGAGGGTTT(配列番号:25)」およびHd16Lig-1L「TTGTCTCCACTTTCGCCGTCCAT(配列番号:26)」を用いてPCRを行い、PCR産物を制限酵素XhoIおよびBbvCIで処理し、1%アガロールゲルを用いた電気泳動でDNA断片を分画してMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製した。約8kbpの候補遺伝子を含むゲノム断片を持つプラスミドも同様に制限酵素XhoIおよびBbvCIで処理し、精製したPCR産物を導入して大腸菌株DH5α株に形質転換した。この大腸菌を培養してプラスミドDNAを調整し、制限酵素XhoIおよびNotIで挿入DNA断片を切り出した。一方、バイナリーベクターpPZP2H-lac(Fuse et al. (2001) Plant Biotechnology, 18, 219-222)のDNAも制限酵素XhoIおよびNotIで二重切断し、1%アガロールゲルを用いた電気泳動でDNA断片を分画してMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製した。pPZP2H-lacは選択マーカーとしてストレプトマイシンおよびハイグロマイシン耐性遺伝子を有しており、ハイグロマイシン耐性遺伝子はLB (Left T-DNA border)-RB (Right T-DNA border)の間に配置されているため、それを用いて形質転換体を選抜できる。さらに、マルチクローニングサイトがpBluescript II(Stratagene社)由来のlacZ遺伝子内にあるため、青白判定が可能となっている。以上の操作により得られたインサートおよびベクターのライゲーション反応はDNA Ligation Kit LONG(Takara社)を用いた。具体的には、3.0μlのインサートDNA(150ng相当)、1.0μlのベクターDNA(50ng相当)、5.0μlの反応バッファーおよび1.0μlのライゲーション酵素を加え、16℃で16時間反応した。反応溶液をエタノール沈澱後、50μlのコンピテントセルDH5α(Takara社)に業者推奨のプロトコールに従って形質転換した。大腸菌の懸濁液を50mg/Lストレプトマイシン、0.1 mM IPTGおよび0.004% (W/V) X-galを含むLBプレートに播き、37℃で一昼夜培養することで得られた白コロニーを選抜した。選抜したクローンのインサート配列を解読し、正しい配列がクローン化されたことを確認した。さらに、ポジティブクローンから抽出したプラスミドDNAを精製し、制限酵素XhoIおよびNotIの二重切断によって、約11kbpの断片が切り出されることを確認した。このHd16候補遺伝子のプロモーターおよび構造遺伝子を含むと推測される約11kbpのゲノムDNA断片を含むプラスミドをpPZP2H-lac-11kと命名し、以下に使用した。
(2)イネのアグロバクテリウムによる形質転換
ベクターコンストラクトは、一端大腸菌DH5α株に導入し、得られたコロニーから目的とする断片の挿入されているベクターを保持するクローンをPCRによって選抜した。陽性クローンからQIAfilter Plasmid Mini Kit(QIAGEN社)を用いてプラスミドDNAを抽出・精製し、このDNAをアグロバクテリウムEHA101株にエレクトロポレーション法で導入した。すなわち、50μlのEHA101株のコンピテントセルに1μlのプラスミドDNAを加え1分間氷上で静置した。2.5kVの電気ショックを加えた後1 ml のSOC 培地中で25℃、1.5時間培養後、選択マーカーとしてカナマイシン (50 mg/l)、ハイグロマイシン (50 mg/l)およびストレプトマイシン(50 mg/l)を加えたLB プレート培地に塗布し、25℃のインキュベーターで3日間静置培養した。形成されたコロニーをLB培地で培養後、プラスミドDNAをQIAfilter Plasmid Mini Kit(QIAGEN社)で抽出・精製して目的のプラスミドが導入されていることを確認した。
アグロバクテリウム法によるイネへの遺伝子の導入、形質転換体の選抜および再分化は、公知とされているイネの形質転換法(参考「寺田および飯田:モデル植物ラボマニュアル(岩渕雅樹・岡田清孝・島本功編、シュプリンガー・フェアラーク東京)pp.110-121、2000」)、「Hiei et al. (1994) Plant J. 6:271-282.」および「Toki et al. (1997) Plant Mol. Biol. Rep. 15(1): 16-21」に従った。感染の対象としてコシヒカリを使用した。具体的には以下の手順に従った。完熟種子から小型籾摺り器で籾殻を除き、少量のTween-20を含む有効塩素濃度2.5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液中で20分間、100rpmで攪拌して殺菌した。滅菌水で4回洗浄した後、カルス誘導(N6D)培地に播種し、33℃、明所で1週間培養してカルスを誘導した。一方で、コンストラクトを導入したアグロバクテリウムEHA101株を、終濃度50mg/lのカナマイシン、ハイグロマイシンおよびストレプトマイシンを含むLBプレート培地上で25℃、暗所で3日間培養し、この菌体を10mg/lのアセトシリンゴンを含むアグロ感染(AAM)培地にOD600が0.04になるように懸濁し、感染用のアグロバクテリウム懸濁液を準備した。誘導したカルスを茶漉しに集め、シャーレに入れたアグロバクテリウム懸濁液に3分間浸漬し、その後、余分な懸濁液を滅菌済みキムタオル上で除いた。アグロバクテリウムを感染させたカルスは、共存(2N6-AS)培地上に置き、28℃、暗所で3日間共存培養した。アグロバクテリウムの除菌は、カルスを茶漉しに集め、シャーレに入れた滅菌水で数回洗浄した後、500mg/lのカルベニシリンを含む滅菌水で1回洗浄することにより行った。余分な洗浄水を滅菌済みのキムタオル上で除き、400mg/lのカルベニシリンと50mg/lのハイグロマイシンを含む選抜(N6-DS)培地上に置き、28℃、明所で2週間培養した。その後、300mg/lのカルベニシリンと50mg/lのハイグロマイシンを含む再分化培地に移植して3週間培養した。カルスからシュートおよび根が適度に分化してきた後、再生培地に移植し28℃、明所で培養を続けた。再生植物体を形質転換体実験用の隔離人工気象器で栽培した。
(3)形質転換イネの出穂期調査
イネ染色体への外来遺伝子の導入は、再分化植物体(T0世代)の葉を一部採種してゲノムDNAを抽出し、それを鋳型としたPCRによって確認した。外来遺伝子の導入の確認には、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hpt)上で設計したHPT-p5 「GATCAGCAATCGCGCATATG」(配列番号:27)およびCaMV35プロモーター上で設計した35S-p1「ACTATCCTTCGCAAGACCCT」(配列番号:28)のプライマー対を使用した。
相補性試験用に作成した形質転換体は、合計で52個体得られた。このうち24個体を短日条件下で28個体を長日条件下で栽培し、遺伝子が導入された再分化当代における到穂日数を調査した。表現型の確認を行った結果、ベムターのみを導入したコントロール個体と比較して、コンストラクトを導入した個体群の中から短日条件下では到穂日数が早くなる個体が出現し、長日条件下では到穂日数が遅くなる個体が出現した(図5)。これは、T0植物がヘテロ接合体となっているにもかかわらず、導入遺伝子の効果が表現型として現れた結果と考えられた。以上の結果から、Hd16候補遺伝子として単離した遺伝子には到穂日数を調節する機能を有することが明らかとなり、この遺伝子が本発明の目標としていたHd16遺伝子座の原因遺伝子であると結論した。さらに該当遺伝子を使用して出穂期および植物の生長を制御することが可能であることが確認された。
〔実施例5〕日本イネ品種群における塩基配列変異の分布
コシヒカリのアミノ酸置換を引き起こす塩基置換について育種上の有用性を明らかにするため、世界各地から収集したインド型イネ品種の100品種および日本各地から収集したイネ品種の120品種における塩基置換の分布を調査した(図6)。解析の結果、調査したインド型品種は全て日本晴型の塩基を持っていた。コシヒカリが育成された1953年以前の日本のイネ品種では、コシヒカリ、農林1号および森多早生だけがコシヒカリ型の塩基を持っていた。農林1号および森多早生はコシヒカリの交配親および交配親の親であり、コシヒカリ型の塩基置換は森多早生で生じた変異が伝達されたものであると考えられた。1954年以降に育成された日本のイネ品種28品種では、11品種がコシヒカリ型の塩基を持っていた。このことは、Hd16遺伝子のコシヒカリ型の塩基置換が最近のイネ品種の出穂期の調節に重要な役割をしていることを示唆している。

Claims (21)

  1. 植物の感光性を増加させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
    (a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
    (b)配列番号:2又は3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
    (c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
    (d)配列番号:2又は3のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
  2. イネ由来であることを特徴とする、請求項1に記載のDNA。
  3. 植物の感光性を低下させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
    (a)配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
    (b)配列番号:5又は6に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
    (c)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
    (d)配列番号:5又は6のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
  4. イネ由来であることを特徴とする、、請求項3に記載のDNA。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
  7. 植物細胞における発現時に、共抑制効果により、請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードするDNA。
  8. 請求項1から7のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
  9. 請求項8に記載のベクターが導入された宿主細胞。
  10. 請求項8に記載のベクターが導入された植物細胞。
  11. 請求項10に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
  12. 請求項11に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
  13. 請求項11または12に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
  14. 請求項1から7のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
  15. 請求項1〜4のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
  16. 請求項9に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、請求項15に記載のタンパク質の製造方法。
  17. 請求項15に記載のタンパク質に結合する抗体。
  18. 配列番号:2、3、5、又は6のいずれかに記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチド。
  19. 請求項1または2に記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の感光性を増加させる方法。
  20. 請求項3から7のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の感光性を低下させる方法。
  21. 以下の(a)〜(c)の工程を含む、植物の感光性を判定する検査方法。
    (a)被検植物体および繁殖媒体からDNA試料を調製する工程。
    (b)該DNA試料から請求項1又は3に記載のDNA領域を増幅する工程。
    (c)植物の品種・系統から請求項1又は3に記載のDNA領域を増幅したDNA断片と、該DNA試料から増幅したDNA断片の分子量または塩基配列を比較する工程。
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