JP2010244932A - プロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池、並びにそのプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供する。
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含み、前記無機材料がリン酸ジルコニウムであり、前記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が1.3nm以上であり、前記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が1〜40nmであり、前記リン酸ジルコニウムの含有量が前記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする。
【選択図】図3
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含み、前記無機材料がリン酸ジルコニウムであり、前記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が1.3nm以上であり、前記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が1〜40nmであり、前記リン酸ジルコニウムの含有量が前記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする。
【選択図】図3
Description
本発明は、高湿度下だけでなく、低湿度下においても高プロトン伝導性を有するプロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池、並びにそのプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法に関するものである。
近年、リチウムイオン二次電池に代わる携帯機器用電源として、メタノールあるいは水素を燃料に使う燃料電池〔直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)及び固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が期待されており、実用化を目指して盛んに開発が行われている。
燃料電池の電極は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の表裏にカソード(酸素極)の触媒層及びアノード(燃料極)の触媒層をそれぞれ配した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)から構成されている。上記触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質とが適度に混ざり合ったマトリクスとして形成されており、カーボン上の触媒と固体高分子電解質及び反応物質とが接触する三相界面において電極反応が行われる。また、カーボンの繋がりが電子の通り道となり、固体高分子電解質の繋がりがプロトンの通り道となる。
例えば、DMFCでは、燃料極の触媒層及び酸素極の触媒層でそれぞれ下記の式(1)及び式(2)に示す反応が起き、電気を取り出すことができる。
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- (1)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
DMFCは理論的にリチウムイオン二次電池の約10倍のエネルギー密度を持つとされている。しかし、現状ではリチウムイオン二次電池と比べて用いるMEAの出力が低く、実用化に至っていない。
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
DMFCは理論的にリチウムイオン二次電池の約10倍のエネルギー密度を持つとされている。しかし、現状ではリチウムイオン二次電池と比べて用いるMEAの出力が低く、実用化に至っていない。
MEAの出力向上には、構成材料である触媒及び電解質膜の改良、MEAの構造の最適化といったアプローチがある。中でも電解質膜の改良がMEAの出力向上の重要な鍵を握っている。電解質膜に求められる性能としては、(1)プロトン伝導率が高いこと、(2)燃料(メタノールあるいは水素)の透過率が低いこと、の2点が挙げられる。(1)のプロトン伝導率が高いことが要求されるのは、プロトン伝導率が低くなると電解質膜の抵抗が高くなるためであり、膜抵抗の増大は出力低下に直結する。また、(2)の燃料透過率が低いことが要求されるのは、燃料透過率が高くなると燃料極側の燃料が電解質膜を透過して酸素極に達してしまう、いわゆる「クロスオーバー」が起こるためである。酸素極に達した燃料は、酸素極の触媒上で酸素と化学的に反応して熱を発する。このクロスオーバーにより、電解質膜そのものの劣化を招くだけでなく、酸素極の過電圧の増大を招き、MEAの出力低下の原因となる。
現在、最も一般的に用いられている電解質膜は、デュポン社製の“ナフィオン”(登録商標)と呼ばれるパーフルオロスルホン酸系電解質膜である。ナフィオンは、疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)骨格に、末端に親水性のスルホン酸基が固定された側鎖を有し、含水状態でスルホン酸基とプロトン及び水分子とが会合して、イオンクラスターを形成する。このクラスター内はスルホン酸基の濃度が高いためにプロトンの通路となり、ナフィオンは高プロトン伝導率を発現する。しかし、ナフィオンは高プロトン伝導率を有するものの、燃料透過率が高いという問題がある。
ナフィオン以外の電解質膜としては、炭化水素系電解質膜、芳香族炭化水素系電解質膜等があり、いずれも、スルホン酸基、ホスホン酸基あるいはカルボキシル基等のプロトン供与体を有する。ナフィオン同様、これらの電解質膜でも、含水状態にすることでプロトンが解離し、プロトン伝導性を発現する。ここで、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすることにより、プロトン伝導率を高くすることが可能である。しかしながら、これらの従来のプロトン伝導性電解質膜は、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすると、含水量が増加するために膜そのものが膨潤し、それに伴い膜に隙間が形成されるために、燃料透過率も増大してしまう。また、これらの電解質材料は、ナフィオンと比較してやや高温まで分解せずに耐え得るものの、低湿度下での水分保持力が低いため、燃料電池の高温作動時等にはプロトン伝導度の著しい低下が見られる。
このように、有機材料のみを用いた単一電解質膜では、プロトン伝導率と燃料透過率との間にはトレードオフの関係があり、高プロトン伝導性と低燃料透過性(低クロスオーバー)とを両立し、且つ、低湿度下において高プロトン伝導性を保つ電解質膜を得ることは困難であった。
近年、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立する電解質膜として、無機物と有機物とを複合した無機有機複合電解質膜が注目されている。例えば、非特許文献1には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるヘテロポリ酸(12タングストリン酸)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献2には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるゼオライトの一種(モルデナイト)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献3には、有機物であるスルホン化ポリエーテルケトンあるいはスルホン化ポリエーテルエーテルケトンに、無機物であるSiO2、TiO2、ZrO2を分散させた複合電解質膜が開示されている。
さらに、特許文献1には、有機高分子材料に金属酸化物水和物を分散させた電解質膜が開示されている。また、無機物・有機物の複合電解質膜ではないが、特許文献2には、メタノール及び水に対して実質的に膨潤しない多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリマーを充填させた電解質膜が開示されている。
このように、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として、無機材料と有機材料との複合電解質膜が注目されている。中でも、プロトン伝導性を有する無機材料とプロトン伝導性を有する有機材料とからなる複合電解質膜では、無機材料そのものがプロトン伝導性を持つために膜の伝導性を阻害せず、より向上させることも可能である。また、無機材料を含有させることにより、膜内で無機材料が骨格を形成し、含水時の膜の膨潤を防ぐことが可能であることから、高プロトン導電性・低燃料透過性を両立した電解質膜として有望であると考えられる。さらに、これらの無機材料としては無機酸化物が用いられており、無機酸化物の中には保水性のある材料も多いため、そのような材料を選定すれば低湿度下における高プロトン導電性の実現も期待できる。例えば、特許文献3では、ゾル−ゲル法で作製した無機酸化物を電解質膜中に分散させた電解質膜を得ており、低湿度下での特性を向上させることができる。
Materials Letters、第57巻、p.1406、2003年
AIChE Journal、第49巻、p.991、2003年
J.Membrane Science、第203巻、p.215、2002年
しかしながら、無機材料及び有機材料からなる複合電解質膜について、本来備えていると考えられる特性を十分引き出すためには、さまざまな条件が必要である。中でも、分散させる無機材料の特性や粒子径のみならず、膜中における配置、分散状態等を最適化する必要がある。
現在の無機材料を複合化させた電解質膜では、プロトン伝導率、燃料透過率等の特性が改善される傾向にあることが分かっているが、無機材料の特性と分散状態とが最適化されていないために、低湿度下における高プロトン伝導性と低燃料透過性の点では未だ十分な性能を発揮できないのが現状である。
本発明は、上記問題を解決したもので、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを有し、且つ、高湿度下だけでなく低湿度下においても高プロトン伝導性を保つ複合電解質膜を提供する。また、本発明は、その複合電解質膜を用いた高出力の燃料電池用MEA及びそのMEAを用いた燃料電池を提供する。
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記無機材料が、リン酸ジルコニウムであり、前記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が、1.3nm以上であり、前記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が、1〜40nmであり、前記リン酸ジルコニウムの含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする。
また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法は、上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法であって、平均一次粒子径が0.5〜5nmであり、且つ、比表面積が300m2/g以上である酸化ジルコニウム水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤と、有機溶媒とを混合して分散液を作製する工程と、前記分散液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、前記電解質膜前駆体を、40〜100℃のリン酸を含む溶液に浸漬する工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備えることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を含むことを特徴とする。
本発明により、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
前述の無機材料としての無機粒子の一次粒子径が大きくて無機粒子同士の隙間を微細に埋められない状態、また、無機粒子の一次粒子径が小さくても凝集等により二次粒子径が大きくなり、一次粒子の状態で分布する粒子数が少なくなって無機粒子同士の隙間を埋められない状態では、膜中の無機粒子が存在しない有機材料のみで構成される部分の割合が多くなり、その無機粒子同士の隙間を通って燃料が透過したり、有機材料のみで構成される部位の含水による膨潤が起こりやすくなるため、クロスオーバーを十分に抑制することができない。さらに、これらの無機粒子が粗大な凝集体あるいはサブミクロンサイズ以上の粒子径を持つ場合には、悪くすれば、無機粒子を分散させることで、逆にクロスオーバーが増大する場合すらある。よって、分散させる無機粒子の一次粒子径及び二次粒子径は、ある程度以下にする必要があり、さらにそれらの粒子は、膜骨格を形成し膨潤を防ぐために、膜全体にわたって均一に分布していることが必要である考えられる。
この場合の理想的な分散状態を、図1に模式的に示す。図1は、本発明の無機粒子の理想的な分散状態を示す模式図であり、図1において、11が有機材料、12が無機粒子凝集体を示す。
また、プロトン伝導性を持つ無機粒子を分散させることで、膜全体のプロトン伝導性を阻害することなく燃料透過率を低減させることができる。この際には、(1)無機粒子の含有率が低い、(2)無機粒子の分散が不均一である、(3)無機粒子の凝集径が大きい等の理由で、有機材料のみで構成される部分が多くなり、無機粒子同士の伝導の繋がりが不連続となれば、いわば直流回路の様に、無機粒子 → 有機材料の親水性クラスター → 無機粒子というように、有機材料を介してプロトンが伝導することとなり、本来の無機粒子の持つ高いプロトン伝導性を効果的に発揮することができない。この場合、凝集体(二次粒子)は、その内部に含まれる無機粒子(一次粒子)のみに着目すれば「直接に接触」するという意味合いで最も近い位置に無機粒子同士が配置されている状態であるように見えるが、図2に示したように、無機粒子の膜中における凝集体間の距離が広くなり、プロトン伝導の道筋を断ってしまうこととなる。図2は、無機粒子の凝集体が粗大化した場合の分散状態を示す模式図であり、図2において、21が有機材料、22が無機粒子凝集体を示す。以上の理由から、プロトン伝導性を向上させる場合には、特に無機粒子の有機材料に対する含有率を高くし、膜全体に対して均一に含有させることで、より良い特性を引き出し得ることが期待される。
本発明は、以上の点を鑑みて成されたものであり、以下、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含む。
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含む。
上記無機材料は、リン酸ジルコニウムであり、上記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が、1.3nm以上である。上記リン酸ジルコニウムを用いることにより、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン伝導性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。上記層間距離の上限値は特に限定されず、層間に例えば有機物等が進入すれば、それに応じて広がるが、30nm程度が上限であると想定される。これは、層状化合物の層間距離が広がりすぎると、層間の結合が弱くなり、板状に剥離することが多いためである。
リン酸ジルコニウムには様々な構造体が存在する。この層間距離は、標準的なγ−ZrPで1.1nm程度であり、α−ZrPではさらに狭いが、層間に有機材料等を導入することが可能であるため、層間距離は導入された物質のサイズに応じて数nm程度まで変化することが知られている。そこで、本発明においては、有機材料等を導入することなく、結晶構造そのものの層間距離を広げ、多量の水、あるいは、水を吸着する酸性基を入り込みやすくさせることにより、保湿性を高めるたものである。
また、上記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径は、1〜40nmである。リン酸ジルコニウムの粒子径がこの範囲内であれば、リン酸ジルコニウム粒子間の隙間が大きくならず、燃料透過率を低くすることができる。また、電解質膜中の粒子の平均粒子径は、後述する小角散乱測定により求めることができる。
さらに、上記リン酸ジルコニウムの含有量は、上記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%である。5重量%未満では、リン酸ジルコニムの添加の効果が発現せず、50重量%を超えると、膜の強度が低下し自立膜化が困難となるからである。電解質膜中のリン酸ジルコニウムの含有量を測定する方法としては、熱分解法等を用いて、有機成分を焼き飛ばした後に残留する酸化ジルコニウムの重量から見積もることができる。
上記プロトン伝導性を有する有機材料としては、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他のエンジニアリングプラスチック材料に、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等のプロトン供与体をドープあるいは化学的に結合、固定化したものを用いることができ、特に芳香族炭化水素が好ましい。また上記材料において、架橋構造にすること、あるいは部分フッ素化することにより材料安定性を高めることも望ましい。
本発明において分散剤とは、無機材料に吸着しやすい親水性基と有機材料に吸着しやすい疎水性基とを有する界面活性剤として機能する有機化合物であり、親水性基としてスルホン酸基を有する分散剤を使用するのは、上記有機材料との相溶性が良いからである。具体的には、例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、スチレンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、スルホこはく酸ジイソオクチル塩等から少なくとも一種を選択して用いることができる。即ち、一般に高いプロトン伝導性を有し、且つ自立膜を形成し得る有機材料は、長い鎖状構造を持ち、一分子当たり複数のスルホン酸基を持つ場合が多く、これらのスルホン酸基に吸着結合すると考えられるリン酸ジルコニウムが、その有機材料の複雑な三次元構造のために吸着しにくい。それに対して、上記分散剤は、一分子当たりのスルホン酸基の数が比較的少なく、分子量が小さいため、分散剤分子の三次元的なサイズが小さく、リン酸ジルコニウムの凝集体の中に入り込みやすい。また、各分散剤のスルホン酸基の数が少ないために、容易に分散剤の全てのスルホン酸基とリン酸ジルコニウムとが吸着結合することができる。従って、この分散剤がリン酸ジルコニウムの表面に吸着することにより、リン酸ジルコニウムを有機材料中により微細に分散させることが可能となる。
上記分散剤は、疎水性基としてベンゼン環を有するアリールスルホン酸塩からなることが好ましい。分散剤が、ベンゼン環を有することにより、分散剤と有機材料との結合性が高まり、その結果、リン酸ジルコニウム粒子と有機材料とを分散剤を介してより強固に結合できるからである。また、これにより有機材料とリン酸ジルコニウムとの橋渡しとしての機能をより発揮することができる。
上記分散剤とリン酸ジルコニウムとの重量比は、0.1:100〜2:100であることが好ましい。この範囲内で分散剤を添加することで、分散剤でリン酸ジルコニウム粒子の表面を分散効果が発揮できる程度に覆うことが可能となり、且つ、リン酸ジルコニウム粒子の表面に吸着し得ない過剰の分散剤が上記有機材料中に混在することを防ぐことができる。これにより、高いプロトン伝導性を有するリン酸ジルコニウム粒子を、有機材料中に均一に且つ高い含有率で含有させることができ、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。上記分散剤の重量比が、0.1を下回ると分散剤の効果が発現せず、2を超えるとプロトン伝導性を阻害するおそれがあるため好ましくない。
さらに、従来のプロトン伝導性有機材料及び無機材料のみから構成される膜の場合には、有機材料の持つスルホン酸基が複雑な形状を保持したまま無機材料に吸着することとなるため、その状態を保持するために膜が硬くなるという欠点があるが、上記の分子量の小さな分散剤を使用することにより、有機材料と無機材料との橋渡しとして柔軟性をも高めることも可能となる。
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜には、上記プロトン伝導性を有する有機材料及びスルホン酸基を有する分散剤に加えて、架橋等のためにポリアリルアミン化合物、ジビニル化合物等の他の材料を添加してもよい。但し、上記他の材料としては、プロトン伝導性を阻害しないものを選択する必要があり、その添加量は、プロトン伝導性に悪影響を与えない範囲とする必要がある。
また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合が、リン酸ジルコニウムの全粒子数に対して3%以下であることが好ましい。これにより、リン酸ジルコニウムの分散性をより確実に保証でき、優れたプロトン伝導性と低燃料透過率とを有するプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。上記リン酸ジルコニウムの粒子数割合は、後述する小角散乱測定により求めることができる。
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を図面に基づき説明する。図3は、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の模式断面図である。図3において、31がスルホン酸基等のプロトン供与体を有する有機材料であり、32がプロトン伝導性を有する無機材料であるリン酸ジルコニウム水和物粒子〔Zr(HPO4)2・nH2O〕である。有機材料は、含水状態においてプロトン伝導性を示す。これは、含水状態においてスルホン酸基等のプロトン供与体からプロトンが解離して伝導するためである。この有機材料を単体で電解質膜に用いた場合、含水量の増加により膜の膨潤が起こり、それに伴ってメタノールあるいは水素等の燃料も有機材料内を透過してしまう。一方、リン酸ジルコニウム水和物粒子においては、その粒子に保持された水を介してプロトンが伝導していく。さらに、この無機粒子が高い含有率で微細に且つ均一に存在することによって、無機粒子による骨格を形成すると共に、これらの無機粒子同士を繋ぐ役割をする有機材料もまた、その動きが抑制されるために、含水による膜の膨潤が抑制され、同時に燃料のクロスオーバーも抑制される。また、リン酸ジルコニウム水和物の特性上、水和水を吸着・保持する能力があるために、比較的湿度の低い環境においても、これらの粒子が持つ水分が膜内に拡散することにより、膜そのもののプロトン伝導性を維持することができる。
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法について説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法は、平均一次粒子径が0.5〜5nmであり、且つ、比表面積が300m2/g以上である酸化ジルコニウム水和物粒子と、前述のプロトン伝導性を有する有機材料と、前述のスルホン酸基を有する分散剤と、有機溶媒とを混合して分散液を作製する工程と、上記分散液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、上記電解質膜前駆体を、40〜100℃のリン酸を含む溶液に浸漬する工程とを含む。
本発明の製造方法によれば、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を効率的に製造できる。
ところで、一般に、シングルナノサイズの超微粒子を微細に分散させることは難しく、さらに、含水性のリン酸ジルコニウムのような高保湿性材料は一般的にゲル状であり、微粒子化することが難しいために、微粒子を作製してから分散させることができない。
以上のことから、数nmサイズという酸化ジルコニウム水和物粒子をなるべく微細に膜中に分散させ、さらに、これをリン酸化する際には、膜中で凝集、結晶粗大化することなく、元の数nmサイズの粒子径を保ったままで、リン酸化することが最も好ましい手段となる。しかしながら、10nmを下回るサイズの超微粒子では粒子間引力が非常に強く、強固な凝集体を形成するために、個々の粒子をばらばらに分散させることは非常に困難である。また、前駆体である酸化ジルコニウム水和物粒子を微細分散させることができても、リン酸化の際には、一旦酸化ジルコニウム水和物が膜中で溶解し、リン酸と結合することによってゲル状のリン酸ジルコニウムとなるため、膜中でのリン酸ジルコニウムゲルのサイズは凝集により粗大化してしまい、超微粒子のリン酸ジルコニウム分散膜を得ることが困難であるという問題があったが、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法は、この問題を解決したものである。
上記酸化ジルコニウム水和物粒子の作製方法は、微粒子内に水分を多く含む状態で得られる水系の作製方法を用い、共沈法、水熱法等の公知の作製方法が適用できるが、これらのうち特に含水量を多くし、比表面積を増加させるために、特開2009−13029号公報に記載の水熱法を用いることが好ましい。水熱法を用いるに当たっては、通常は水熱法では用いられない、70〜150℃という低い温度範囲で処理することが好ましい。150℃を超える高い温度で水熱処理を行うと、規則的結晶構造が形成されてしまい結晶水が減少することとなる。以上の条件で水熱法を用いて酸化ジルコニウム水和物粒子を作製することにより、平均一次粒子径が0.5〜5nmであり、且つ、比表面積が300m2/g以上である酸化ジルコニウム水和物粒子が得られる。上記比表面積の上限値は特に限定されないが、通常は700m2/g程度である。
上記分散剤は、酸化ジルコニウム水和物粒子分散膜(電解質膜前駆体)をリン酸化する際に重要な役割を果たすことが見出された。分散剤を添加しない酸化ジルコニウム水和物粒子分散膜をリン酸化した場合には、膜中において一旦溶解した酸化ジルコニウム水和物成分が凝集、粗大化しながらリン酸ジルコニウムへと変態し、膜中におけるリン酸ジルコニウムゲルの分布径は非常に大きなものとなってしまう。一方、分散剤を添加した酸化ジルコニウム水和物粒子分散膜においては、酸化ジルコニウム水和物粒子表面を覆い吸着していた分散剤が籠の役割を果たすために、リン酸ジルコニウムへと変態する際にも、この凝集を従来と比較して小さく抑えたリン酸ジルコニウム含有膜を得ることができる。以上のような意味で、ナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子を微細分散させるためには、分散剤を添加することが重要である。
上記分散剤の添加量の範囲は、正確には、分散剤の立体的な構造と分子量、及び、酸化ジルコニウム水和物粒子の比表面積によって決まるが、一般的には、分散剤の添加量が少なすぎると、酸化ジルコニウム水和物粒子の表面を十分に覆うことができないため、分散剤を添加したことによる分散性向上の効果が得られにくく、リン酸化の際にも、ナノサイズの籠を作ることができなくなり、リン酸ジルコニウムが粗大化してしまう。また逆に、酸化ジルコニウム水和物粒子表面を十分に覆う以上の量を添加しても、余剰の分散剤はプロトン伝導性有機材料と混合されるだけであり、プロトン伝導を阻害する要因としかならないため、必要量以上には添加しないことが好ましい。従って、上記分散剤と酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比は、0.1:100〜2:100であることが好ましい。
この際、前述のとおり、上記有機材料及び上記分散剤の他、さらに、架橋等のために各種添加剤を混合してもよい。但し、その際には、プロトン伝導性を阻害しない添加剤を選択するか、あるいは、それらの特性に悪影響を与えない範囲の微量を添加する。
上記有機溶媒は、上記有機材料及び上記分散剤等を溶解し、その後に蒸散等により除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒;i−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール等を用いることができる。有機溶媒は用いる有機材料等に合わせて適宜選択するが、その溶解度は10重量%以上であることが好ましい。この際の溶解度は作製する分散液の固形分量に影響を及ぼすが、この固形分量が少なすぎると、製膜する際に十分な厚みのものが得られにくいために好ましくない。十分な厚みのものを得るために重層塗布する等の手段もあり、溶解度が10重量%未満の有機溶媒でも必ずしも利用できないわけではないが、均一な膜を得るためには高い塗布技術と複雑な工程が必要となるため、好ましくない。
上記酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量は、分散液中の固形分の全重量に対して5〜40重量%であることが好ましい。酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が5重量%未満でも、最終的に得られるリン酸ジルコニウム含有電解質膜における燃料透過率の低下に関しては有効であるが、プロトン伝導度に関しては酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率が低いと粒子間距離が開いてしまうため、プロトン伝導度の向上効果は小さくなるため好ましくない。また、上記含有量が40重量%を超えても酸化ジルコニウム水和物粒子含有電解質膜においては良好な膜が得られるが、最終的に得られるリン酸ジルコニウム含有電解質膜において、このような高含率で自立膜化のための有機材料同士の繋がりを得ようとすれば、必然的にリン酸ジルコニウム粒子の比表面積を減少させなければならない。このことは即ち、リン酸ジルコニウム粒子がより大きな粒子径を持つか、あるいは、凝集により粗大な分散粒子径を持つこととなり、最終的に得られる電解質膜において燃料のクロスオーバーを抑制することが困難となる。これを避けて、理想的な微細分散状態のリン酸ジルコニウム含有電解質膜において高含率膜を作製しようとすれば、リン酸化と共に自立膜を保持することが難しくなり、非常に脆い膜となってしまう。よって、上記分散液中の酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量は、5〜40重量%が好ましく、10〜35重量%がより好ましい。上記量の酸化ジルコニウム水和物粒子を含む分散液を用いて作製した電解質膜前駆体をリン酸化することによって、電解質膜の全重量に対して5〜50重量%のリン酸ジルコニウムを含有する電解質膜を得ることができる。
上記分散液の作製方法は特に限定されない。例えば、酸化ジルコニウム水和物粒子を、有機材料及び分散剤を溶解させた溶液中に混合し、分散機を用いて分散することにより作製できる。分散法としては、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波法等を用いることができる。
次に、上記分散液を基板に塗布し、有機溶媒を蒸発させることで、無機有機複合電解質膜を得ることができる。その後、水に浸漬することで、基板から複合電解質膜を剥がし取ることにより、電解質膜前駆体が得られる。上記分散液の基板への塗布方法は特に限定されるものではなく、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。上記基板は、分散液を塗布した後に膜を剥がすことができれば特に制限はなく、ガラス板、フッ素樹脂シート、ポリイミドシート等を用いることができる。
上記電解質膜前駆体の厚みは特に制限されないが、10〜200μmが好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減、即ち発電性能向上のためには200μmより薄い方が好ましい。特に、20〜100μmが好ましい。溶液キャスト法により製膜した場合、膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。また、溶融材料を用いて製膜する場合、膜厚は溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを、所定の倍率に延伸することで膜厚を制御できる。
以上のようにして、平均一次粒子径が0.5〜5nmであり、比表面積が300m2/g以上である酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた電解質膜前駆体を得ることができる。
次に、このようにして得られた電解質膜前駆体をリン酸水溶液に浸漬することにより、リン酸ジルコニム含有電解質膜を得る。その際、40〜100℃未満の温度範囲で加熱しながら30分〜10時間程度の間、浸漬することが好ましい。室温程度の温度でもリン酸化は可能であるが、リン酸ジルコニウムのゲル化が十分に進まず、また時間もかかるため、40℃以上の温度とすることが好ましい。また、100℃以上の温度では、リン酸水溶液が沸騰するために好ましくない。この際、圧力容器等に封入すれば、100℃でも沸騰することなく浸漬処理そのものは可能だが、100℃を超えると熱と圧力により激しく作用するために、プロトン伝導性有機材料の種類によっては、一部分解するなどするために注意が必要である。また、反応時間は膜中に含まれる酸化ジルコニウム水和物粒子の量に応じて適宜調整するが、例えば30重量%の酸化ジルコニウム水和物粒子を含む電解質膜前駆体であれば、5時間程度反応させることが好ましい。
上記リン酸水溶液のpHは反応速度を上げるため、2以下が好ましく、また、反応速度が速すぎれば膜中でリン酸ジルコニウムが凝集する原因ともなるため、0.8以上であることが好ましい。
さらに、上記のようにリン酸処理した電解質膜を、最後に硫酸洗浄することがより好ましい。特に高温でリン酸化処理を行った場合には、膜中に含まれる硫酸基が影響を受けて減少する場合があり、硫酸洗浄により硫酸基を膜中に再導入してから使用するのが好ましい。
以上のようにして、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含み、上記無機材料がリン酸ジルコニウムであり、上記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が1.3nm以上であり、上記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が1〜40nmであり、上記リン酸ジルコニウムの含有量が上記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%であるプロトン伝導性複合電解質膜を得ることができる。
このようにして得られた本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の分散状態の評価方法としては、例えば以下のような指標が用いられる。
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
得られた電解質膜について、その断面のTEM写真を撮影し、目視から凝集粒子径(二次粒子径)及び無機粒子充填率を求めることができる。より凝集粒子径が小さく、無機粒子の充填率が高く、有機材料のみの部分(TEM写真ではバックグラウンドとなるカーボンと同様、白く写る部分)が少ない方が、より微細分散できていると判定することができる。
得られた電解質膜について、その断面のTEM写真を撮影し、目視から凝集粒子径(二次粒子径)及び無機粒子充填率を求めることができる。より凝集粒子径が小さく、無機粒子の充填率が高く、有機材料のみの部分(TEM写真ではバックグラウンドとなるカーボンと同様、白く写る部分)が少ない方が、より微細分散できていると判定することができる。
(2)光学測定
黒色以外の無機粒子の一次粒子径が十分に小さく、約200nm以下である場合には、一般的に微細分散していれば可視光を透過する。本発明においては、リン酸ジルコニウムの平均一次粒子径は数nmサイズの粒子を用いるため、分散されていれば必ず、ある割合で可視光を透過する膜となる。この際、膜内部の凝集粒子径が小さくなり、全体として見た際に凝集粒子径のばらつきが少なくなれば、可視光透過を阻害するような粗大粒子が少なくなるために可視光透過率が高くなり、ばらつきによる不均一が少なくなればヘイズ値(表面散乱光)が小さくなる。従って、同じ無機粒子含有率、同じ膜厚であれば、可視光透過率が高く、ヘイズ値が小さい方がより微細分散できていると判定することができる。ここで、ヘイズ値は、日本工業規格(JIS)K7105に規定する曇価である。このような光学特性による判定では、TEM写真による判定では難しい、全体としての「均一性」の評価をすることが可能であり、含有率・膜厚が一定である場合の分散状態の比較評価としては、写真観察と共に有用な方法である。
黒色以外の無機粒子の一次粒子径が十分に小さく、約200nm以下である場合には、一般的に微細分散していれば可視光を透過する。本発明においては、リン酸ジルコニウムの平均一次粒子径は数nmサイズの粒子を用いるため、分散されていれば必ず、ある割合で可視光を透過する膜となる。この際、膜内部の凝集粒子径が小さくなり、全体として見た際に凝集粒子径のばらつきが少なくなれば、可視光透過を阻害するような粗大粒子が少なくなるために可視光透過率が高くなり、ばらつきによる不均一が少なくなればヘイズ値(表面散乱光)が小さくなる。従って、同じ無機粒子含有率、同じ膜厚であれば、可視光透過率が高く、ヘイズ値が小さい方がより微細分散できていると判定することができる。ここで、ヘイズ値は、日本工業規格(JIS)K7105に規定する曇価である。このような光学特性による判定では、TEM写真による判定では難しい、全体としての「均一性」の評価をすることが可能であり、含有率・膜厚が一定である場合の分散状態の比較評価としては、写真観察と共に有用な方法である。
(3)小角散乱測定
得られた電解質膜の透過型小角散乱スペクトルを測定し、その結果から膜中の粒子の平均分散粒子径及びその分布を求めることができる。各材料の真密度が明らかな場合には、膜厚や含有率等に依存することもなく、一義的に測定することが可能である。但し、小角散乱測定を用いて精密に測定できる平均粒子サイズは、高々100nm程度までであり、また、その分布状態がある程度シャープなものでなければ、正確に粒子径を求めることができない。そのため、より粗大な凝集体を含む場合、あるいは、分散径が連続的に広い範囲で分布している場合には、本測定方法を用いることは好ましくない。
得られた電解質膜の透過型小角散乱スペクトルを測定し、その結果から膜中の粒子の平均分散粒子径及びその分布を求めることができる。各材料の真密度が明らかな場合には、膜厚や含有率等に依存することもなく、一義的に測定することが可能である。但し、小角散乱測定を用いて精密に測定できる平均粒子サイズは、高々100nm程度までであり、また、その分布状態がある程度シャープなものでなければ、正確に粒子径を求めることができない。そのため、より粗大な凝集体を含む場合、あるいは、分散径が連続的に広い範囲で分布している場合には、本測定方法を用いることは好ましくない。
本発明においては、凝集粒子径が微細であることから、分析方法としては以上のいずれの方法を用いてもよいが、分散粒子径、無機粒子含有率、膜厚等に左右されずに一義的に膜中の粒子の分散状態を判定することのできる小角散乱測定を用いて、平均粒子径、あるいは平均空間径を求め、これと併行してTEM観察を行うことにより、膜の全体像を把握することとした。
(実施形態2)
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
以下、本発明の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池の一例を図面に基づき説明する。
図4は、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。図4において、燃料電池40は、膜電極接合体41を備え、膜電極接合体41は、酸素極1、燃料極2及びプロトン伝導性複合電解質膜3から構成されている。
酸素極1及び燃料極2は、それぞれ、触媒層1b、2bとガス拡散層1a、2aとを備えているが、酸素極1及び燃料極2は、それぞれ触媒層1b、2bのみで構成されていてもよい。また、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aは、多孔性の電子伝導性材料等で構成することができ、例えば、撥水処理を施した多孔質炭素シート等を用いることができる。プロトン伝導性複合電解質膜3は、実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜である。
また、燃料電池40は、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aの外側に、それぞれ集電板5、6を備えている。酸素極1側の集電板5には、酸素(空気)を取り込むための孔9が設けられており、さらにリード体5aが接続されている。また、燃料極2側の集電板6には、燃料経路8から燃料(メタノール、水素等)を取り込むための孔7が設けられており、さらにリード体6aが接続されている。膜電極接合体41は集電板5、6により挟まれ、シール材4で封止されることにより燃料電池40が構成される。
集電板4、5としては、例えば、白金、金等の貴金属や、ステンレス鋼等の耐食性金属、又は炭素材料等で構成することができる。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されていてもよい。
(実施例1)
<酸化ジルコニウム水和物粒子の作製>
本実施例で用いる酸化ジルコニウム水和物粒子を下記のようにして作製した。
<酸化ジルコニウム水和物粒子の作製>
本実施例で用いる酸化ジルコニウム水和物粒子を下記のようにして作製した。
先ず、28%アンモニア水溶液15.12gを300mLの水に溶解してアンモニア水溶液を調製した。また、このアンモニア水溶液とは別に、塩化酸化ジルコニウム8gを100mLの水に溶解してジルコニウム塩水溶液を調製した。
次に、上記アンモニア水溶液に上記ジルコニウム塩水溶液を滴下しつつ攪拌し、酸化ジルコニウム水和物粒子を含む沈殿物を生成させた。上記ジルコニウム塩水溶液は全て滴下して用いた。この沈殿物を含む懸濁液のpHは11.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で25℃で15時間、熟成させた。15時間経過後の懸濁液のpHは、11.3であった。
続いて、この沈殿物を含む懸濁液をオートクレーブに仕込み、100℃で7時間、水熱処理を施した。
最後に、水熱処理後の沈殿物から未反応物や不純物を除去するために、超音波洗浄器を使って水洗した後、濾過を行い、60℃で6時間、空気中で乾燥を行った。その後、乳鉢で軽く解砕し、酸化ジルコニウム水和物粒子を得た。
得られた酸化ジルコニウム水和物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、そのTEM写真を用いて、300個の酸化ジルコニウム水和物粒子の直径又は長軸長さの算術平均を求め、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均一次粒子径を求めたところ、2nmであった。また、BET法により酸化ジルコニウム水和物粒子の比表面積を求めたところ、380m2/gであった。
続いて、乾燥終了後1時間経過した上記酸化ジルコニウム水和物粒子について、リガク社製の示差熱天秤(装置型番:TG−DTA−2000S)を用いて示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)を行い、一般式ZrO2・nH2Oで表される酸化ジルコニウム水和物粒子の水和水量nを求めたところ、5.5であった。
<電解質膜前駆体の作製>
上記酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・5.5H2O)と、プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)と、スルホン酸基を有する分散剤としてラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(一分子当たりのスルホン酸基の数=1)とを用いて、下記のようにして電解質膜前駆体を作製した。但し、上記SM−PESの乾燥重量当たりのイオン交換容量は、1.25meq/gとした。
上記酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・5.5H2O)と、プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)と、スルホン酸基を有する分散剤としてラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(一分子当たりのスルホン酸基の数=1)とを用いて、下記のようにして電解質膜前駆体を作製した。但し、上記SM−PESの乾燥重量当たりのイオン交換容量は、1.25meq/gとした。
先ず、SM−PES及びラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを有機溶媒であるジメチルスルホキシドに溶解させ、SM−PES濃度25重量%及びラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム濃度10重量%の溶液をそれぞれ準備した。次に、この溶液に下記重量割合で、ジメチルスルホキシドと酸化ジルコニウム水和物粒子とを加えて、ボールミル法を用いて30時間混合し、酸化ジルコニウムを分散させた分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 2266重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 500重量部
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 2266重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 500重量部
次に、この分散液を、アプリケータによりガラス板上に塗布し、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥することで、ジメチルスルホキシドを蒸発させて製膜した。その後、得られた膜を水に浸漬することで、ガラス板上から剥がし取って電解質膜前駆体を得た。得られた電解質膜前駆体の乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)は15重量%であり、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比は、1:100である。
続いて、この電解質膜前駆体を、pH1に調整したリン酸水溶液に浸漬し、60℃で1時間保持し、水洗した後、pH1に調整した硫酸水溶液で洗浄し、リン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
このようにして得られた電解質膜について、小角散乱測定からリン酸ジルコニウムの平均分散粒子径と100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合を求め、2θ=5°〜40°の範囲のX線回折スペクトルのうち、(002)面を示す2θ=10°前後に現れるピーク位置からリン酸ジルコニウムの層間距離を求めた。本実施例においては、(002)面のピークの位置が2θ=9.95°であることから、結晶格子のc軸長=層間距離が1.77nmであると求められた。また、電解質膜の断面のSEM観察を行い、これらの分布測定結果が妥当であることを目視により確認した。また、熱分析により求めた膜の全重量に対するリン酸ジルコニウムの含有量(総重量)は、14.6重量%であった。熱分析の際、150℃程度までで蒸発する水分量はリン酸ジルコニウムに含まれる水分量には含めず、250℃程度で蒸発する水分量はリン酸ジルコニウムに含まれる吸着水分量として、リン酸ジルコニウムの総重量に含めた。即ち、800℃まで温度を上げて最終的に残存するリン酸ジルコニウムの重量、及び、250℃近辺で蒸発する吸着水の重量は、リン酸ジルコニウム含有量(総重量)に含めた。本実施例の電解質膜の小角散乱測定スペクトル及びX線回折スペクトルを図5及び図6にそれぞれに示し、その電解質膜の断面のSEM写真を図7に示す。以上のリン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を、分散剤の種類、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及びリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。
(実施例2)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 933重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 933重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
その後、この分散液を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)が30重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100の電解質膜前駆体を作製した。続いて、リン酸水溶液の浸漬時間を1時間から5時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
このようにして得られた電解質膜について実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を測定し、その結果を、分散剤の種類、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及び実施例1と同様にして求めたリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。また、実施例1と同様にしてSEM観察により分布測定結果が妥当であることを確認した。
(実施例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 1200重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 400重量部
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 1200重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 400重量部
その後、この分散液を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)が25重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100の電解質膜前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
このようにして得られた電解質膜について実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を測定し、その結果を、分散剤の種類、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及び実施例1と同様にして求めたリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。また、実施例1と同様にしてSEM観察により分布測定結果が妥当であることを確認した。
(実施例4)
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えて、スルホこはく酸ジイソオクチル(“エーロゾルOT”、一分子当たりのスルホン酸基の数=1)を用い、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 743重量部
(3)スルホこはく酸ジイソオクチル(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えて、スルホこはく酸ジイソオクチル(“エーロゾルOT”、一分子当たりのスルホン酸基の数=1)を用い、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 743重量部
(3)スルホこはく酸ジイソオクチル(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
その後、この分散液を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)が35重量%、スルホこはく酸ジイソオクチルと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100の電解質膜前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
このようにして得られた電解質膜について実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を測定し、その結果を、分散剤の種類、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及び実施例1と同様にして求めたリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。また、実施例1と同様にしてSEM観察により分布測定結果が妥当であることを確認した。
(比較例1)
酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させることなく、プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PESのみを用いて電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な透明膜であり、厚さは40μmであった。このようにして得られた電解質膜をpH1に調整した硫酸溶液に1時間浸漬して、SM−PES単一膜を得た。
酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させることなく、プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PESのみを用いて電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な透明膜であり、厚さは40μmであった。このようにして得られた電解質膜をpH1に調整した硫酸溶液に1時間浸漬して、SM−PES単一膜を得た。
(比較例2)
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いず、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 743重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いず、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 743重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
その後、この分散液を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)が35重量%の電解質膜前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は厚さ40μmの全体的に均一な白色透明膜であったが、リン酸化前と比較してより白濁していた。
このようにして得られた電解質膜について実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を測定し、その結果を、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及び実施例1と同様にして求めたリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。また、実施例1と同様にしてSEM観察により分布測定結果が妥当であることを確認した。さらに、その電解質膜の断面のSEM写真を図8に示す。
(比較例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散液を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
その後、この分散液を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量(仕込み量)が50重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100の電解質膜前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。先に得られた電解質膜前駆体は全体的に均一な白色透明膜であり、手又はピンセット等で容易に取り扱うことが可能であったが、リン酸化後のリン酸ジルコニウム含有電解質膜は機械的強度が非常に弱く、少しの外的作用により割れが生じる等、自立膜としての形状保持が困難であった。このため、得られた電解質膜について、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離の測定は行わなかった。
(比較例4)
比表面積が205m2/gの酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・2.6H2O)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
比表面積が205m2/gの酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・2.6H2O)を用いた以外は、実施例1と同様にしてリン酸ジルコニウム含有電解質膜を作製した。得られた電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは40μmであった。
このようにして得られた電解質膜について実施例1と同様にして、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径、100nm以上の粒子径を有するリン酸ジルコニウムの粒子数割合、及びリン酸ジルコニウムの層間距離を測定し、その結果を、分散剤の種類、酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)の仕込み量及び実施例1と同様にして求めたリン酸ジルコニウム(ZrP)の含有量と合わせて表1に示す。また、実施例1と同様にしてSEM観察により分布測定結果が妥当であることを確認した。
<プロトン伝導度の測定>
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたリン酸ジルコニウム含有電解質膜について、HIOKI社製のケミカルインピーダンスメータ“3532−80”を用いてプロトン伝導度の測定を行った。具体的には、得られた電解質膜を幅5mmに切断し、4端子法で測定した。端子には白金線を用い、電圧端子間距離は1cmとした。印加電圧は20mVとし、サンプルホルダごと、温度80℃、相対湿度60%の高温恒湿槽中に入れて測定を行った。
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたリン酸ジルコニウム含有電解質膜について、HIOKI社製のケミカルインピーダンスメータ“3532−80”を用いてプロトン伝導度の測定を行った。具体的には、得られた電解質膜を幅5mmに切断し、4端子法で測定した。端子には白金線を用い、電圧端子間距離は1cmとした。印加電圧は20mVとし、サンプルホルダごと、温度80℃、相対湿度60%の高温恒湿槽中に入れて測定を行った。
表1に示したように、実施例1〜4ではリン酸化後の電解質膜中の平均分散粒子径は40nm以下となっており、リン酸化後にも自立膜としての形状を保持することが可能な電解質膜が得られていることが分かる。これらのプロトン伝導度の絶対値は、ベースに用いた材料に依存して変化するため、ベースに用いる有機材料に対して、リン酸ジルコニウムを含有させた場合の効果を明確にするため、比較例1にリン酸ジルコニウムを含有させない場合の結果を示した。この比較例1と比較して、リン酸ジルコニウムを含有させた実施例1〜4においては、いずれも温度80℃、相対湿度60%の条件下でのプロトン伝導度は、約2倍以上に向上していることが分かる。
一方、分散剤を添加していない比較例2では、電解質膜前駆体の凝集粒子径が大きくなるだけでなく、リン酸化によってさらに凝集が起こり、リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が著しく粗大化していることが分かる。比較例2で得られた電解質膜では、凝集体のうち大きいものでは250nmに及ぶような粗大粒子も含まれていた。また、比較例3では、リン酸ジルコニウムの含有率が高すぎるために、リン酸化後の電解質膜は脆く、プロトン伝導度等を測定する際に膜割れが生じ、各種の測定が困難であった。さらに、比較例4では、電解質膜前駆体に含まれる酸化ジルコニウム水和物として比表面積の小さいものを用いたが、得られたリン酸ジルコニウムの層間距離が狭く、そのプロトン伝導度は実施例1〜4と比較して低く、比較例1に示したリン酸ジルコニウムを含有させない場合とほぼ同程度の値となっていることが分かる。
以上のように本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを有し、且つ、高湿度下だけでなく低湿度下においても高プロトン伝導性を保持できるので、これを用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
1 酸素極
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11、21、31 有機材料
12、22 無機粒子凝集体
32 リン酸ジルコニウム水和物粒子
40 燃料電池
41 膜電極接合体
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11、21、31 有機材料
12、22 無機粒子凝集体
32 リン酸ジルコニウム水和物粒子
40 燃料電池
41 膜電極接合体
Claims (7)
- プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、
前記無機材料が、リン酸ジルコニウムであり、
前記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が、1.3nm以上であり、
前記リン酸ジルコニウムの平均分散粒子径が、1〜40nmであり、
前記リン酸ジルコニウムの含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜50重量%であることを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜。 - 前記分散剤が、アリールスルホン酸塩からなる請求項1に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 前記有機材料が、芳香族炭化水素である請求項1又は2に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 100nm以上の粒子径を有する前記リン酸ジルコニウムの粒子数割合が、前記リン酸ジルコニウムの全粒子数に対して3%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法であって、
平均一次粒子径が0.5〜5nmであり、且つ、比表面積が300m2/g以上である酸化ジルコニウム水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤と、有機溶媒とを混合して分散液を作製する工程と、
前記分散液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、
前記電解質膜前駆体を、40〜100℃のリン酸を含む溶液に浸漬する工程とを含むことを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法。 - 酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜とを備えることを特徴とする膜電極接合体。
- 請求項6に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池。
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