JP2011060500A - プロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池、並びにそのプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供する。
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記無機材料の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、前記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径が、1〜10nmであり、式:A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100から求められる前記平均一次粒子径と前記平均分散粒子径との差の割合Aが±10%の範囲内にあることを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記無機材料の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、前記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径が、1〜10nmであり、式:A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100から求められる前記平均一次粒子径と前記平均分散粒子径との差の割合Aが±10%の範囲内にあることを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、高湿度下だけでなく、低湿度下においても高プロトン伝導性を有するプロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池、並びにそのプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法に関するものである。
近年、リチウムイオン二次電池に代わる携帯機器用電源として、メタノールあるいは水素を燃料に使う燃料電池〔直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)及び固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が期待されており、実用化を目指して盛んに開発が行われている。
燃料電池の電極は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の表裏にカソード(酸素極)の触媒層及びアノード(燃料極)の触媒層をそれぞれ配した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)から構成されている。上記触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質とが適度に混ざり合ったマトリクスとして形成されており、カーボン上の触媒と固体高分子電解質及び反応物質とが接触する三相界面において電極反応が行われる。また、カーボンの繋がりが電子の通り道となり、固体高分子電解質の繋がりがプロトンの通り道となる。
例えば、DMFCでは、燃料極の触媒層及び酸素極の触媒層でそれぞれ下記の式(1)及び式(2)に示す反応が起き、電気を取り出すことができる。
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- (1)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
DMFCは理論的にリチウムイオン二次電池の約10倍のエネルギー密度を持つとされている。しかし、現状ではリチウムイオン二次電池と比べて、用いるMEAの出力が低く、実用化に至っていない。
MEAの出力向上には、構成材料である触媒及び電解質膜の改良、MEAの構造の最適化といったアプローチがある。中でも電解質膜の改良がMEAの出力向上の重要な鍵を握っている。電解質膜に求められる性能としては、(1)プロトン伝導率が高いこと、(2)燃料(メタノールあるいは水素)の透過率が低いこと、の2点が挙げられる。(1)のプロトン伝導率が高いことが要求されるのは、プロトン伝導率が低くなると電解質膜の抵抗が高くなるためであり、膜抵抗の増大は出力低下に直結する。また、(2)の燃料透過率が低いことが要求されるのは、燃料透過率が高くなると燃料極側の燃料が電解質膜を透過して酸素極に達してしまう、いわゆる「クロスオーバー」が起こるためである。酸素極に達した燃料は、酸素極の触媒上で酸素と化学的に反応して熱を発する。このクロスオーバーにより、電解質膜そのものの劣化を招くだけでなく、酸素極の過電圧の増大を招き、MEAの出力低下の原因となる。
現在、最も一般的に用いられている電解質膜は、デュポン社製の“ナフィオン”(登録商標)と呼ばれるパーフルオロスルホン酸系電解質膜である。ナフィオンは、疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)骨格に、末端に親水性のスルホン酸基が固定された側鎖を有し、含水状態でスルホン酸基とプロトン及び水分子とが会合して、イオンクラスターを形成する。このクラスター内はスルホン酸基の濃度が高いためにプロトンの通路となり、ナフィオンは高プロトン伝導率を発現する。しかし、ナフィオンは高プロトン伝導率を有するものの、燃料透過率が高いという問題がある。
ナフィオン以外の電解質膜としては、炭化水素系電解質膜、芳香族炭化水素系電解質膜等があり、いずれも、スルホン酸基、ホスホン酸基あるいはカルボキシル基等のプロトン供与体を有する。ナフィオン同様、これらの電解質膜でも、含水状態にすることでプロトンが解離し、プロトン伝導性を発現する。ここで、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすることにより、プロトン伝導率を高くすることが可能である。しかしながら、これらの従来のプロトン伝導性電解質膜は、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすると、含水量が増加するために膜そのものが膨潤し、それに伴い膜に隙間が形成されるために、燃料透過率も増大してしまう。また、これらの電解質材料は、ナフィオンと比較してやや高温まで分解せずに耐え得るものの、低湿度下での水分保持力が低いため、燃料電池の高温作動時等にはプロトン伝導度の著しい低下が見られる。
このように、有機材料のみを用いた単一電解質膜では、プロトン伝導率と燃料透過率との間にはトレードオフの関係があり、高プロトン伝導性と低燃料透過性(低クロスオーバー)とを両立し、且つ、低湿度下において高プロトン伝導性を保つ電解質膜を得ることは困難であった。
近年、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立する電解質膜として、無機物と有機物とを複合した無機有機複合電解質膜が注目されている。例えば、非特許文献1には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるヘテロポリ酸(12タングストリン酸)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献2には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるゼオライトの一種(モルデナイト)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献3には、有機物であるスルホン化ポリエーテルケトンあるいはスルホン化ポリエーテルエーテルケトンに、無機物であるSiO2、TiO2、ZrO2を分散させた複合電解質膜が開示されている。
さらに、特許文献1には、有機高分子材料に金属酸化物水和物を分散させた電解質膜が開示されている。また、無機物・有機物の複合電解質膜ではないが、特許文献2には、メタノール及び水に対して実質的に膨潤しない多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリマーを充填させた電解質膜が開示されている。
このように、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として、無機材料と有機材料との複合電解質膜が注目されている。中でも、プロトン伝導性を有する無機材料とプロトン伝導性を有する有機材料とからなる複合電解質膜では、無機材料そのものがプロトン伝導性を持つために膜の伝導性を阻害せず、より向上させることも可能である。また、無機材料を含有させることにより、膜内で無機材料が骨格を形成し、含水時の膜の膨潤を防ぐことが可能であることから、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として有望であると考えられる。さらに、これらの無機材料としては無機酸化物が用いられており、無機酸化物の中には保水性のある材料も多いため、そのような材料を選定すれば低湿度下における高プロトン導電性の実現も期待できる。例えば、特許文献3では、ゾル−ゲル法で作製した無機酸化物を電解質膜中に分散させた電解質膜を得ており、低湿度下での特性を向上させることができる。
Materials Letters、第57巻、p.1406、2003年
AIChE Journal、第49巻、p.991、2003年
J.Membrane Science、第203巻、p.215、2002年
しかしながら、無機材料及び有機材料からなる複合電解質膜について、本来備えていると考えられる特性を十分引き出すためには、さまざまな条件が必要である。中でも、分散させる無機材料の特性や粒子径のみならず、膜中における配置、分散状態等を最適化する必要がある。
現在の無機材料を複合化させた電解質膜では、プロトン伝導率、燃料透過率等の特性が改善される傾向にあることが分かっているが、無機材料の特性と分散状態とが最適化されていないために、低湿度下における高プロトン伝導性と低燃料透過性の点では未だ十分な性能を発揮できないのが現状である。
本発明は、上記問題を解決したもので、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを有し、且つ、高湿度下だけでなく低湿度下においても高プロトン伝導性を保つ複合電解質膜を提供する。また、本発明は、その複合電解質膜を用いた高出力の燃料電池用MEA及びそのMEAを用いた燃料電池を提供する。
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記無機材料の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、前記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径が、1〜10nmであり、式:A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100から求められる前記平均一次粒子径と前記平均分散粒子径との差の割合Aが±10%の範囲内にあることを特徴とする。
また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法は、上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法であって、プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンを含む塩と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを、極性溶媒に溶解させて原料液を作製する工程と、前記原料液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、前記電解質膜前駆体から前記極性溶媒を除去する工程と、前記電解質膜前駆体を、前記金属イオンを含む塩と反応してプロトン伝導性を有する無機材料を生成し得る作用液に浸漬する工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを含むことを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を含むことを特徴とする。
本発明により、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料とを膜中に分散含有させた複合電解質膜については、無機材料のサイズ、含有量、空間的配置等が膜の特性を大きく左右すると考えられているが、プロトン伝導度、機械的強度等において未だ十分な性能を発揮できていない。プロトン伝導性無機材料は、理想的には、(1)比表面積を大きくして吸着水を多くするために粒子径が極めて小さい超微粒子からなり、(2)保水性の高い結晶構造を持ち、(3)プロトン伝導性有機材料の持つスルホン酸基同士のパスを切ることの無いように膜中に分布することが必要である。これにより、全体として含水量を多くすると共に、スルホン酸基のパスを効率良く繋げることで本質的にプロトン伝導度の高い膜構造とすることができるために、低湿度域まで高いプロトン伝導度を保つことができる。このうち、上記(3)に関しては、膜中に含有された無機材料粒子を一次粒子又はナノサイズにまで分散させることができれば解決することが可能であると考えられる。この際の理想的な分散状態の模式図を図1に示す。図1において、無機粒子11が一次粒子あるいはナノサイズで分散しており、その表面に吸着したスルホン酸基12を通して、効率よくプロトンが伝導していく。
また、プロトン伝導性無機材料としては、層状構造を持ち保水性が高いとされるリン酸ジルコニウムが用いられる例が多い。リン酸ジルコニウムは、通常ゲル状の物質であるために、その前駆体として水和ジルコニア又は水酸化ジルコニウムの微粒子を作製し、これを後からリン酸化することで、微粒子のリン酸ジルコニウムを得る方法が最も一般的である。これらの方法でリン酸ジルコニウムを得た場合には、前駆体である水和ジルコニアの構造、含水量に応じて、得られるリン酸ジルコニウムの層間距離が決められる。より保水性の高いリン酸ジルコニウム構造とするためには、前駆体粒子について、比表面積が大きく吸着水量が通常と比較して2〜3倍量含まれていること等、種々の条件が必要となり、現状では、このような特異な特性を持つ水和ジルコニア(又は水酸化ジルコニウム)のシングルナノサイズの超微粒子を膜中に単分散させることができない。一方、水和ジルコニアを前駆体として用いず、リン酸ジルコニウムを直接作製すれば、作製条件に応じて層間距離をある程度の範囲で制御することができるが、代わりにリン酸ジルコニウムの微粒子を得ることができないという問題がある。
このように従来は、超微粒子を理想的な状態で膜中に分散させることと、保水性の高い結晶構造とを両立することができていない。本発明は、以上の点を鑑みて成されたものであり、以下、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含む。
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含む。
上記プロトン伝導性を有する無機材料としては、後述する燃料電池の作動温度である常温〜100℃前後でプロトン伝導性を示し、何らかの形で水を含む無機材料が各種挙げられる。それらの無機材料の内の大半は層状構造を有する層状無機酸化物であり、代表的なものにリン酸ジルコニウム、酸化タングステン等が挙げられる。
上記無機材料の含有量は、上記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、好ましくは5〜25重量%である。含有量が5重量%未満では、無機材料の添加の効果が十分に発揮されず、含有量が30重量%を超えると、膜中に無機材料粒子を保持することができずに、膜作製時に膜表面から無機材料粒子が析出して、膜外で無機材料粒子が凝集体化してしまう。ここで、電解質膜中の無機材料の含有量を測定する方法としては、熱分解法等を用いて、有機成分を焼き飛ばした後に残留する無機材料の重量から見積もることができる。
上記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径は、1〜10nmであり、好ましくは1〜7nmである。上記粒子径が10nmを超えると粒子の表面に細孔があった場合でも比表面積の増大には限界があり、結果的に比表面積が減少して吸着水量が減少し、保水性も減少する。また、リン酸ジルコニウム等の層状無機酸化物の層間距離が、いずれも約0.5〜0.7nm以上であることから、上記粒子径が1nm未満の無機材料粒子を作製することは困難となる。特に、上記粒子径が1〜7nmは、微粒子の粒子境界が鮮明になり粒子性が増すための、最低限界の粒子径範囲であり、その粒子径範囲内であれば表面吸着水量がより増大するため好ましい。
本発明において、平均一次粒子径は、電解質膜の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、その中の300個の一次粒子の粒子径を目視により観察し、それらを算術平均して計算した数平均粒子径である。また、本発明において、平均分散粒子径は、後述する小角散乱測定により測定した一次粒子及び二次粒子を含めた分散粒子の平均粒子径である。
また、式:A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100から求められる上記平均一次粒子径と上記平均分散粒子径との差の割合Aは、±10%の範囲内にある。この範囲内であれば、平均一次粒子径と平均分散粒子径とが略等しいと考えられ、無機材料粒子が凝集せずに、単一分散していると考えられる。
上記無機材料としては、結晶水によるプロトン伝導が起こりやすいリン酸ジルコニウムが好ましい。また、上記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離は、1.3nm以上であることが好ましい。上記リン酸ジルコニウムを用いることにより、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン伝導性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。この理由は明らかではないが、層間距離が1.3nm以上であると、リン酸ジルコニウムの結晶内に水分子が入り込みやすくなり、保水性が高まるためと考えられる。
上記層間距離の上限値は特に限定されず、層間に例えば有機物等が進入すれば、それに応じて広がるが、30nm程度が上限であると想定される。これは、層状化合物の層間距離が広がりすぎると、層間の結合が弱くなり、板状に剥離することが多いためである。
上記プロトン伝導性を有する有機材料としては、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他のエンジニアリングプラスチック材料に、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等のプロトン供与体をドープあるいは化学的に結合、固定化したものを用いることができ、特に芳香族炭化水素が好ましい。また上記有機材料において、架橋構造にすること、あるいは部分フッ素化することにより材料安定性を高めることも望ましい。
本発明において分散剤とは、無機材料に吸着しやすい親水性基と有機材料に吸着しやすい疎水性基とを有する界面活性剤として機能する有機化合物であり、親水性基としてスルホン酸基を有する分散剤を使用するのは、上記有機材料との相溶性が良いからである。具体的には、例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、スチレンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、スルホこはく酸ジイソオクチル塩等から少なくとも一種を選択して用いることができる。即ち、一般に高いプロトン伝導性を有し、且つ自立膜を形成し得る有機材料は、長い鎖状構造を持ち、一分子当たり複数のスルホン酸基を持つ場合が多く、これらのスルホン酸基に吸着結合すると考えられる無機材料が、その有機材料の複雑な三次元構造のために吸着しにくい。それに対して、上記分散剤は、一分子当たりのスルホン酸基の数が比較的少なく、分子量が小さいため、分散剤分子の三次元的なサイズが小さく、無機材料の粒子間に入り込みやすい。また、各分散剤のスルホン酸基の数が少ないために、容易に分散剤の全てのスルホン酸基と無機材料とが吸着結合することができる。従って、この分散剤が無機材料の表面に吸着することにより、無機材料を有機材料中により微細に分散させることが可能となる。
上記分散剤は、疎水性基としてベンゼン環を有するアリールスルホン酸塩からなることが好ましい。分散剤が、ベンゼン環を有することにより、分散剤と有機材料との結合性が高まり、その結果、無機材料と有機材料とを分散剤を介してより強固に結合できるからである。また、これにより有機材料と無機材料との橋渡しとしての機能をより発揮することができる。
上記分散剤の含有量は、有機材料100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。この範囲内で分散剤を添加することで、分散剤で無機材料粒子の表面を分散効果が発揮できる程度に覆うことが可能となり、且つ、無機材料粒子の表面に吸着し得ない過剰の分散剤が上記有機材料中に混在することを防ぐことができる。これにより、高いプロトン伝導性を有する無機材料粒子を、有機材料中に均一に且つ高い含有率で含有させることができ、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。上記分散剤の含有量が、0.1重量部を下回ると分散剤の効果が発現せず、10重量部を超えるとプロトン伝導性を阻害するおそれがあるため好ましくない。
さらに、従来のプロトン伝導性有機材料及び無機材料のみから構成される膜の場合には、有機材料の持つスルホン酸基が複雑な形状を保持したまま無機材料に吸着することとなるため、その状態を保持するために膜が硬くなるという欠点があるが、上記の分子量の小さな分散剤を使用することにより、有機材料と無機材料との橋渡しとして柔軟性をも高めることが可能となる。
本発明の複合電解質膜には、上記プロトン伝導性を有する有機材料及びスルホン酸基を有する分散剤に加えて、架橋等のためにポリアリルアミン化合物、ジビニル化合物等の他の材料を添加してもよい。但し、上記他の材料としては、プロトン伝導性を阻害しないものを選択する必要があり、その添加量は、プロトン伝導性に悪影響を与えない範囲とする必要がある。
本発明の複合電解質膜の厚さは特に制限されないが、10〜200μmが好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減、即ち発電性能向上のためには200μmより薄い方が好ましい。特に、20〜100μmが好ましい。
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を図面に基づき説明する。図2は、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の模式断面図である。図2において、プロトン伝導性を有する有機材料21の持つスルホン酸基23が、親水性領域25を形成し、その親水性領域25の内部に、プロトン伝導性を有する無機材料粒子24が存在する。その際に、分散剤22が存在することにより、無機材料粒子24はより微細な粒子として存在できるだけでなく、膜中に安定的に存在することができる。
有機材料21は、含水状態においてプロトン伝導性を示す。これは、含水状態においてスルホン酸基等のプロトン供与体からプロトンが解離して伝導するためである。この有機材料21を単体で電解質膜に用いた場合、含水量の増加により膜の膨潤が起こり、それに伴ってメタノールあるいは水素等の燃料も有機材料内を透過してしまう。一方、無機材料粒子24においては、その粒子に保持された水を介してプロトンが伝導していく。さらに、この無機材料粒子24が高い含有率で微細に且つ均一に存在することによって、無機材料粒子24による骨格を形成すると共に、これらの無機材料粒子24同士を繋ぐ役割をする有機材料21もまた、その動きが抑制されるために、含水による膜の膨潤が抑制され、同時に燃料のクロスオーバーも抑制される。
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法について説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法は、プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンを含む塩と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを、極性溶媒に溶解させて原料液を作製する工程と、上記原料液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、上記電解質膜前駆体から上記極性溶媒を除去する工程と、上記電解質膜前駆体を、上記金属イオンを含む塩と反応してプロトン伝導性を有する無機材料を生成し得る作用液に浸漬する工程とを含む。
本発明の製造方法によれば、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立し、且つ、比較的高い温度域における低湿度下においても高プロトン導電性を保持できるプロトン伝導性複合電解質膜を効率的に製造できる。
上記プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンを含む塩としては、極性溶媒に完全に溶解する塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。また、上記プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンとしては、例えば、ジルコニウムイオン、タングステンイオン等が挙げられるが、結晶水によるプロトン伝導が起こりやすいリン酸ジルコニウムを得るためにジルコニウムイオンが好ましい。ジルコニウムイオンを含む塩としては、例えば、塩化酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等が使用できる。
上記プロトン伝導性を有する有機材料及び上記スルホン酸基を有する分散剤としては、実施形態1で説明した有機材料及び分散剤を用いることができる。
上記極性溶媒は、上記金属イオンを含む塩、上記有機材料及び上記分散剤等を完全に溶解し、その後に蒸散等により除去し得るものであれば特に制限はないが、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が好ましい。極性溶媒を用いるのは、上記有機材料及び上記分散剤との混和性が高いからである。
また、上記極性溶媒と合わせて、さらに非極性溶媒を加えてもよい。非極性溶媒を混合することにより、上記有機材料の親水性基と疎水性基とがより混合し、均一な溶液とすることができる。非極性溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン等を使用できる。上記非極性溶媒の混合量は、溶媒の全重量に対して1〜30重量%が好ましい。この範囲内において、非極性溶媒の添加効果が大きくなるからである。
上記原料液は、例えば、下記工程により作製できる。
先ず、上記プロトン伝導性を有する有機材料を上記極性溶媒に溶解させて、有機材料溶液を作製し、これを第一液とする。この第一液には、上記極性溶媒と合わせて上記非極性溶媒を加えてもよい。非極性溶媒を加える場合には、第一液に超音波振動等を加えて十分に混合することが好ましい。また、上記有機材料溶液(第一液)については、有機材料の溶解度が低い場合には、温浴等を用いて加温しながら作製する。
次に、上記プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンを含む塩を上記極性溶媒に溶解させて、金属イオン溶液を作製する。続いて、上記金属イオン溶液に上記分散剤を添加し、これを第二液とする。また、第二液も、金属塩の溶解度に応じて、適宜加温しながら作製する。
最後に、上記第一液と上記第二液とを超音波振動等を加えて十分に混合し、原料液とする。上記原料液中の各成分の含有量は、上記原料液の全重量に対して、上記金属イオンを含む塩が0.1〜10重量%、上記有機材料が1〜50重量%、及び上記分散剤が0.001〜5重量%とすることができる。
次に、上記原料液を基板に塗布した後、60〜90℃に加温して溶媒を蒸発させることで、電解質膜前駆体を作製する。この場合、溶媒の種類によっては、真空乾燥法等により溶媒を蒸発させてもよい。
上記原料液の基板への塗布方法は特に限定されるものではなく、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。上記基板は、原料液を塗布した後に最終的に膜を剥がすことができれば特に制限はなく、ガラス板、フッ素樹脂シート、ポリイミドシート等を用いることができる。
次に、このようにして得られた電解質膜前駆体を、上記金属イオンを含む塩と反応してプロトン伝導性を有する無機材料を生成し得る作用液に浸漬すると共に基板から剥がし取り、電解質膜を得る。浸漬条件としては、無機材料の生成反応を促進するため、作用液の温度を40〜90℃とし、浸漬時間を1〜7時間とすることが好ましい。
上記作用液は、用いた金属イオンを含む塩及び生成する無機材料の構造に応じて作製する。例えば、金属イオンを含む塩として塩化酸化ジルコニウムを用いて、無機材料として水和ジルコニア又は水酸化ジルコニウムを得るのであれば、作用液として濃度5〜20%のアンモニア水を用いればよい。また、金属イオンを含む塩として塩化酸化ジルコニウムを用いて、無機材料としてリン酸ジルコニウムを得るのであれば、作用液として濃度10〜50%のリン酸水溶液を用いればよい。
浸漬工程の終了後に、上記電解質膜をさらに水又は硫酸水溶液で洗浄して、余分の作用液を十分に除去して、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を得る。
以上のようにして、プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含み、上記無機材料の含有量が上記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、上記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径が1〜10nmであり、上記平均一次粒子径と上記平均分散粒子径との差の割合Aが±10%の範囲内であるプロトン伝導性複合電解質膜を得ることができる。
(実施形態2)
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
以下、本発明の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池の一例を図面に基づき説明する。
図3は、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。図3において、燃料電池30は、膜電極接合体31を備え、膜電極接合体31は、酸素極1、燃料極2及びプロトン伝導性複合電解質膜3から構成されている。
酸素極1及び燃料極2は、それぞれ、触媒層1b、2bとガス拡散層1a、2aとを備えているが、酸素極1及び燃料極2は、それぞれ触媒層1b、2bのみで構成されていてもよい。また、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aは、多孔性の電子伝導性材料等で構成することができ、例えば、撥水処理を施した多孔質炭素シート等を用いることができる。プロトン伝導性複合電解質膜3は、実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜である。
また、燃料電池30は、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aの外側に、それぞれ集電板5、6を備えている。酸素極1側の集電板5には、酸素(空気)を取り込むための孔9が設けられており、さらにリード体5aが接続されている。また、燃料極2側の集電板6には、燃料経路8から燃料(メタノール、水素等)を取り込むための孔7が設けられており、さらにリード体6aが接続されている。膜電極接合体31は集電板5、6により挟まれ、シール材4で封止されることにより燃料電池30が構成される。
集電板5、6としては、例えば、白金、金等の貴金属や、ステンレス鋼等の耐食性金属、又は炭素材料等で構成することができる。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されていてもよい。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)5.8gを、極性溶媒であるジメチルスルホキシド23gに溶解し、第一液を作製した。また、金属イオン塩として塩化酸化ジルコニウム2.27gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド10gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解し、第二液を作製した。
プロトン伝導性を有する有機材料としてポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)5.8gを、極性溶媒であるジメチルスルホキシド23gに溶解し、第一液を作製した。また、金属イオン塩として塩化酸化ジルコニウム2.27gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド10gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解し、第二液を作製した。
次に、上記第一液及び上記第二液を60℃温浴中で超音波振動を加えて混合して原料液を作製した。続いて、この原料液をガラス板上に塗布した後、60℃で乾燥させて溶媒を除去して電解質膜前駆体を作製した。
次に、作用液として40%リン酸水溶液を作製し、60℃に加温した作用液に、上記電解質膜前駆体を浸漬させてガラス板上から剥離し、引き続き60℃に保持したまま3時間の浸漬処理を行った後、水洗し、リン酸ジルコニウムをプロトン伝導性無機材料として含む複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは32μmであった。
(実施例2)
SM−PES:5.8gを、極性溶媒であるジメチルスルホキシド19gと非極性溶媒であるトルエン4gとの混合溶媒に溶解して第一液を作製し、その第一液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
SM−PES:5.8gを、極性溶媒であるジメチルスルホキシド19gと非極性溶媒であるトルエン4gとの混合溶媒に溶解して第一液を作製し、その第一液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは29μmであった。
(実施例3)
SM−PES:7.2gをジメチルスルホキシド23gとトルエン6gとの混合溶媒に溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム0.91gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド5gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.01gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
SM−PES:7.2gをジメチルスルホキシド23gとトルエン6gとの混合溶媒に溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム0.91gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド5gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.01gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは33μmであった。
(実施例4)
p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解する代わりに、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解して第二液を作製し、その第二液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解する代わりに、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02gを溶解して第二液を作製し、その第二液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは33μmであった。
(比較例1)
SM−PES:5.2gをジメチルスルホキシド21gに溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム3.18gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド15gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.03gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
SM−PES:5.2gをジメチルスルホキシド21gに溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム3.18gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド15gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.03gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜の厚さは28μmであったが、リン酸水溶液に浸漬させた際に、膜表面及び液中に白色の析出物が発生し、また、膜内部にも肉眼で白色の凝集物が認められた。また、TEMによる膜の断面観察により、膜中には分散径2μm以上の粗大な凝集体が数多く存在していることが分かった。
(比較例2)
SM−PES:7.92gをジメチルスルホキシド24gに溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム0.1gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド5gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.005gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
SM−PES:7.92gをジメチルスルホキシド24gに溶解して第一液を作製した。また、塩化酸化ジルコニウム0.1gを60℃に加温しながらジメチルスルホキシド5gに溶解し、さらに分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.005gを溶解して第二液を作製した。上記第一液と上記第二液とを用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは31mであった。
(比較例3)
分散剤を添加せずに第二液を作製し、その第二液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
分散剤を添加せずに第二液を作製し、その第二液を用いた以外は実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。
得られた電解質膜は、全体的に均一な透明膜であり、厚さは32μmであった。
(比較例4)
SM−PES:5.8g及び分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gをジメチルスルホキシド23gに溶解し、この溶液に平均一次粒子径4nmの水和ジルコニア粒子2gを分散させて分散液を作製した。
SM−PES:5.8g及び分散剤としてp−スチレンスルホン酸ナトリウム0.02gをジメチルスルホキシド23gに溶解し、この溶液に平均一次粒子径4nmの水和ジルコニア粒子2gを分散させて分散液を作製した。
次に、上記分散液をガラス板上に塗布した後、60℃で乾燥させて溶媒を除去して電解質膜前駆体を作製した。また、後述する測定方法により、水和ジルコニア粒子の平均一次粒子径は4.1nm、平均分散粒子径は19.6nmであり、水和ジルコニア粒子同士が凝着していることが分かった。
上記電解質膜前駆体を用いた以外は、実施例1と同様にして複合電解質膜を得た。得られた電解質膜は、全体的に均一な白色透明膜であり、厚さは33μmであった。
(比較例5)
SM−PES:8gをジメチルスルホキシド24gに溶解し、これをガラス板上に塗布した後、60℃で乾燥させた。その後、塗膜を水に浸漬させてガラス板上から剥離し、電解質膜を得た。得られた電解質膜は、均一な透明膜であり、厚さは28μmであった。
SM−PES:8gをジメチルスルホキシド24gに溶解し、これをガラス板上に塗布した後、60℃で乾燥させた。その後、塗膜を水に浸漬させてガラス板上から剥離し、電解質膜を得た。得られた電解質膜は、均一な透明膜であり、厚さは28μmであった。
次に、実施例1〜4及び比較例1〜5の電解質膜を用いて下記各特性を評価した。その結果を表1に示す。
<無機材料の含有量>
電解質膜中に含まれる無機材料であるリン酸ジルコニウムの含有量を測定した。具体的には、電解質膜について、リガク社製の示差熱天秤(装置型番:TG−DTA−2000S)を用いて示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)を行った。その際、150℃程度までで蒸発する水分減少量は総重量には含めず、250℃程度で蒸発する水分はリン酸ジルコニウムに含まれる吸着水として重量分に含めた。800℃まで温度を上げて最終的に残存するリン酸ジルコニウムの重量、及び、250℃近辺で蒸発する吸着水の重量を求め、その合計重量の、電解質膜の総重量に対する重量割合を、リン酸ジルコニウムの含有量として算出した。
電解質膜中に含まれる無機材料であるリン酸ジルコニウムの含有量を測定した。具体的には、電解質膜について、リガク社製の示差熱天秤(装置型番:TG−DTA−2000S)を用いて示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)を行った。その際、150℃程度までで蒸発する水分減少量は総重量には含めず、250℃程度で蒸発する水分はリン酸ジルコニウムに含まれる吸着水として重量分に含めた。800℃まで温度を上げて最終的に残存するリン酸ジルコニウムの重量、及び、250℃近辺で蒸発する吸着水の重量を求め、その合計重量の、電解質膜の総重量に対する重量割合を、リン酸ジルコニウムの含有量として算出した。
<平均一次粒子径及び平均分散粒子径>
電解質膜中に含まれるリン酸ジルコニウムの平均一次粒子径及び平均分散粒子径を前述のとおり測定した。具体的には、平均一次粒子径は、電解質膜の断面のTEM写真を撮影し、リン酸ジルコニウムの一次粒子300個の粒子径を目視により観察し、それらを算術平均して算出した。図4に実施例1の電解質膜の断面TEM写真を示す。
電解質膜中に含まれるリン酸ジルコニウムの平均一次粒子径及び平均分散粒子径を前述のとおり測定した。具体的には、平均一次粒子径は、電解質膜の断面のTEM写真を撮影し、リン酸ジルコニウムの一次粒子300個の粒子径を目視により観察し、それらを算術平均して算出した。図4に実施例1の電解質膜の断面TEM写真を示す。
また、平均分散粒子径は、リガク社製のX線回折装置(型番:RINT2500)を用いて、電解質膜の小角散乱測定により求めた。図5に実施例1の電解質膜の小角散乱スペクトルを示す。
また、上記結果から、平均一次粒子径と平均分散粒子径との差の割合A(%)も下記式から求めた。
A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100
<層間距離>
作製した電解質膜について、X線回折スペクトルを測定してリン酸ジルコニウムの層間距離を求めた。具体的には、リガク社製のX線回折装置(型番:RINT2500)を用いて、室温で2θ=5〜80°の範囲内で、無機粒子の構造に応じて範囲を決め測定した。リン酸ジルコニウムについては、代表的なピークが5〜40°の範囲に現れるため、その範囲で測定し、10°前後に現れる(002)ピークの位置から、層間距離を求めた。なお、有機材料にはピークが現れないため、電解質膜のX線回折スペクトルを測定することで、膜内に含まれる無機材料の構造を測定することができる。図6に実施例1の電解質膜のX線回折スペクトルを示す。
作製した電解質膜について、X線回折スペクトルを測定してリン酸ジルコニウムの層間距離を求めた。具体的には、リガク社製のX線回折装置(型番:RINT2500)を用いて、室温で2θ=5〜80°の範囲内で、無機粒子の構造に応じて範囲を決め測定した。リン酸ジルコニウムについては、代表的なピークが5〜40°の範囲に現れるため、その範囲で測定し、10°前後に現れる(002)ピークの位置から、層間距離を求めた。なお、有機材料にはピークが現れないため、電解質膜のX線回折スペクトルを測定することで、膜内に含まれる無機材料の構造を測定することができる。図6に実施例1の電解質膜のX線回折スペクトルを示す。
<プロトン伝導度の測定>
HIOKI社製のケミカルインピーダンスメータ“3532−80”を用いて、電解質膜のプロトン伝導度の測定を行った。具体的には、得られた電解質膜を幅5mmに切断し、4端子法で測定した。端子には白金線を用い、電圧端子間距離は1cmとした。印加電圧は20mVとし、サンプルホルダごと温度80℃の高温恒湿槽中に入れ、相対湿度を変化させて測定を行った。
HIOKI社製のケミカルインピーダンスメータ“3532−80”を用いて、電解質膜のプロトン伝導度の測定を行った。具体的には、得られた電解質膜を幅5mmに切断し、4端子法で測定した。端子には白金線を用い、電圧端子間距離は1cmとした。印加電圧は20mVとし、サンプルホルダごと温度80℃の高温恒湿槽中に入れ、相対湿度を変化させて測定を行った。
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた複合電解質膜は、いずれも平均一次粒子径と平均分散粒子径とが略同じ大きさであり、平均一次粒子径がTEM写真の目視における数平均から求められていることから考えても、粒子の凝集が起こらず単一分散していることが分かる。また、リン酸ジルコニウムの層間距離はいずれも1.3nm以上であり、これにより水分保持力が高まるためにプロトン伝導度が良好であることが分かる。
一方、比較例1では、無機材料の含有量が多すぎたため、無機材料の全量を膜中に含有させられずに外部に析出してしまうだけでなく、膜中に含有されたリン酸ジルコニウムも膜中で凝集を起こし、平均一次粒子径に対して平均分散粒子径が大きくなっていることが分かる。
比較例3では、分散剤を添加していないことから、その他は全く同条件で作製した実施例1と比較して平均一次粒子径そのものがやや大きくなり、さらに粒子間凝集が起こり、平均一次粒子径よりも平均分散粒子径の方が大きくなる傾向にある。これら比較例1及び比較例3については、さらに、リン酸ジルコニウムの層間距離も狭くなり、プロトン伝導度も実施例1〜4と比較して低い値となる。
比較例2では、粒子の状態は実施例1〜4と遜色ないが、リン酸ジルコニウムの含有量が少なすぎるために、低湿度側でのプロトン伝導度が低くなり、無機材料を含有させなかった比較例5と比較して同等のプロトン伝導度しか示さなかった。
比較例4では、あらかじめ水和ジルコニアの微粒子を作製し、これを分散させてから、膜中でリン酸化するという工程を採用しており、水和ジルコニアがリン酸化され、結晶構造が変化する際に、膜中で凝着、粒子の成長が起こるために、平均一次粒子径、平均分散粒子径共に、水和ジルコニア分散膜中の粒子径よりも大きくなってしまう。このため、周辺に存在する粒子同士が凝集を起こしやすくなり、平均分散粒子径の増大が著しい結果となっている。これに伴い、リン酸ジルコニウムの層間距離を適切としたにも関わらず、低湿度側でのプロトン伝導度の向上率が実施例1〜4と比較して低く抑えられてしまう。なお、この際、水和ジルコニア分散膜として得られる電解質膜前駆体において、水和ジルコニアの分散方法を検討することによって、比較例4よりも、より均一に、単分散の状態で水和ジルコニアを分散させることも可能であると考えられる。しかしながらその場合でも、水和ジルコニアを膜中でリン酸化するという工程を採用すれば、原理的には比較例3と同様のことが起こり、隣り合う粒子同士の凝集は防げず、リン酸化後のリン酸ジルコニウムの状態で単分散を保持することは困難であると考えられる。
以上のように本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを有し、且つ、高湿度下だけでなく低湿度下においても高プロトン伝導性を保持できるので、これを用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
1 酸素極
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11 無機粒子
12 スルホン酸基
21 有機材料
22 分散剤
23 スルホン酸基
24 無機材料粒子
25 親水性領域
30 燃料電池
31 膜電極接合体
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11 無機粒子
12 スルホン酸基
21 有機材料
22 分散剤
23 スルホン酸基
24 無機材料粒子
25 親水性領域
30 燃料電池
31 膜電極接合体
Claims (12)
- プロトン伝導性を有する無機材料と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、
前記無機材料の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して5〜30重量%であり、
前記無機材料の平均一次粒子径及び平均分散粒子径が、1〜10nmであり、
式:A=〔(平均一次粒子径−平均分散粒子径)/平均一次粒子径〕×100から求められる前記平均一次粒子径と前記平均分散粒子径との差の割合Aが±10%の範囲内にあることを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜。 - 前記無機材料が、リン酸ジルコニウムである請求項1に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 前記リン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルから計算される層間距離が、1.3nm以上である請求項1又は2に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 前記有機材料が、芳香族炭化水素である請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 前記分散剤が、アリールスルホン酸塩からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 前記分散剤の含有量が、前記有機材料100重量部に対して、0.1〜10重量部である請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法であって、
プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンを含む塩と、プロトン伝導性を有する有機材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを、極性溶媒に溶解させて原料液を作製する工程と、
前記原料液を基板に塗布して電解質膜前駆体を作製する工程と、
前記電解質膜前駆体から前記極性溶媒を除去する工程と、
前記電解質膜前駆体を、前記金属イオンを含む塩と反応してプロトン伝導性を有する無機材料を生成し得る作用液に浸漬する工程とを含むことを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法。 - 前記原料液は、非極性溶媒をさらに含む請求項7に記載のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法。
- 前記プロトン伝導性を有する無機材料を構成する金属イオンが、ジルコニウムイオンである請求項7又は8に記載のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法。
- 前記作用液が、リン酸水溶液である請求項7〜9のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法。
- 酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜とを含むことを特徴とする膜電極接合体。
- 請求項11に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池。
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