以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る異常検知および車両追跡装置(以下、異常検知装置と示すこともある)の通信システムを示す概念図である。自動二輪車1には、車両の異常状態を検知して警告を発する異常検知装置10が取り付けられている。異常検知装置10は、車両の停車中に、車体に取り付けられた加速度センサ等から所定値を超える信号が出力されると、車両に異常が発生していると判定して、車両のホーンや灯火器等を作動させて警告するように構成されている。
異常検知装置10は、公共電話局2と通信可能な車載電話機(図2参照)を備えている。これにより、電話機3から、公共電話局2を介して異常検知装置10に電話をかけることが可能である。電話機3は、公共電話局2にアクセスできるものであれば、携帯電話でも固定電話でもよい。本実施形態では、異常検知装置10の車載電話機の通信規格に、携帯電話の規格であるGSM(Global System for Mobile Communications)を適用しており、電話機3から異常検知装置10へ電話をかけることは、GSMを運用する多くの国において可能である。
図2は、本実施形態に係る異常検知装置10およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。異常検知装置10は、例えば、100mm×100mm×20mm程の樹脂ケース等で覆われ、スイッチ等の操作手段を持たない制御装置であり、例えば、自動二輪車のシートの下部や燃料タンクの下部等、第三者が容易にアクセスしにくい位置に配置されている。異常検知装置10は、公共電話局2と通信するための送受信アンテナ16を備えた車載電話機11と、車載電話機11による送受信信号の解析等を行う通信制御部12と、異常検知装置10の故障の有無等を診断する故障診断手段14と、故障診断手段14による診断結果等を表示する表示手段13と、各種センサ等の出力信号に基づいて車両の異常状態を判定する異常状態判定手段15とを含む。なお、車載電話機11は、異常検知装置10の外部に設けられてもよい。また、通信制御部12は、予め登録された所定の電話機以外からのアクセスを拒否するように設定することもできる。
なお、車載電話機11による無線通信を行うためには、車両の所有者がプロバイダ4と通信契約を結ぶ必要がある。プロバイダ4と通信契約を結ぶか否かは、車両の所有者が任意に選択することができる。異常検知装置10は、ユーザがプロバイダ4と通信契約を結んでいない場合でも、車体に加えられた振動等に基づいて警告手段40を作動させる通常の異常検知装置として使用することができる。以下、車載電話機11による通信が行われる場合は、すべてプロバイダ4との通信契約を結んでいるものとして説明する。
異常状態判定手段15には、車体に加えられた振動等を検知する加速度センサ30、車体の前後左右の傾斜角を検知する傾斜センサ31、電源回路へのアクセス等を監視するためにバッテリ電圧の変化を検出する電圧センサ32からの出力信号が入力されている。異常状態判定手段15は、例えば、各種センサの少なくとも1つの出力信号が所定値を超えると、車両が異常状態にあると判定する。異常検知装置10は、異常状態が検知されたことを、車載電話機11を介してユーザ等の電話機3に送信できるように構成されている。このとき、電話機3の表示手段としてのディスプレイに、異常状態が検知された時刻や作動したセンサの種類等を表示することができる。
また、異常状態判定手段15には、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)20が接続されている。GPS20は、車両の通常走行時には、車載ナビゲーションシステムの運用に使用されているが、本実施形態に係る異常検知装置10では、万一の異常発生時に、車両の現在位置や異常発生時からの移動履歴等を、車載電話機11を介して電話機3等に伝える車両追跡機能に利用できるように構成されている。
また、異常状態判定手段15に接続されるエンジン制御装置としてのEFI(電子制御燃料噴射装置)21は、異常状態判定手段15からの指令によってその駆動を停止できるように構成されている。これにより、万一の異常発生時には、EFI21を自動的に停止させて車両を走行不能にすることが可能である。また、EFI21の停止は、電話機3の操作によって任意に実行することもできる。なお、異常状態判定手段15からの指令で制御されるエンジン制御装置は、点火プラグの点火装置や、各種アクチュエータ等とすることもできる。
本実施形態に係る異常検知装置10は、故障診断手段14によって、異常検知装置10が正常に機能しているか否かを診断する、すなわち、異常検知装置10の自己故障診断(ダイアグノーシス)を実行することが可能である。故障診断手段14は、例えば、異常状態判定手段15の不具合により、各種センサが所定値を超える信号を出力してもこれを異常と判定できない状態等を検知することができる。さらに、故障診断手段14は、各種センサの出力信号が正常に入力されない状態や、各種センサそのものの故障等も診断可能である。このような故障が検知された場合、故障診断手段14は、故障の種類や対処方法等を表示手段13に表示するように設定されている。
上記したような構成により、車両の整備者等は、電話機3から異常検知装置10に電話をかけることで異常検知装置10の故障診断を実行すると共に、表示手段13によってその診断結果を知ることができる。なお、表示手段13には、発光ダイオード(LED)や液晶画面等を適用することが可能である。
図3は、電話機3を用いて異常検知装置10の自己故障診断処理を実行する際の流れを示すタイムチャートである。ステップS10において、車両の整備者等が電話機3から異常検知装置10に電話をかけると、ステップS11では、異常検知装置10の車載電話機11がこれを受信する。続くステップS12では、表示手段13に受信完了の表示がされる。これにより、整備者等は電話回線が接続されたことを目視で確認することができる。なお、前記ステップS10における電話をかける手順は、車載電話機11に固有の電話番号を、固定電話や携帯電話等からダイヤルすることで実行できる。
次に、ステップS20では、電話機3に診断項目の番号(例えば、1〜5)を入力する。この診断項目は、例えば、異常検知装置10の構成回路に短絡がないか、各種センサが正常に機能しているか否か等の内容で構成することができる。続くステップS21では、入力された診断項目を車載電話機11で受信し、ステップS22では、表示手段13に入力された診断項目が表示される。そして、ステップS40では、表示手段13に故障診断を実行する旨の表示が行われ、ステップS41において、通信制御部12から故障診断を開始する故障診断指示信号が出力されて、選択された診断項目の故障診断が故障診断手段14により実行される。
上記したように、本実施形態に係る異常検知装置10によれば、電話機3の操作によって異常検知装置10の故障診断を実行することが可能となる。通常、故障診断を行うための専用機器が不要となるように、異常検知装置10に自己診断機能を持たせると、通常の異常検知モード状態から、異常検知装置の機能が一時停止する故障診断モードに切り換えるスイッチ等の入力手段が必要となるが、本実施形態に係る異常検知装置10によれば、第三者によって操作される可能性のある入力手段を設ける必要がないので、簡単な方法で異常検知装置の故障診断を実行できると共に、異常検知装置の高い異常検知効果を保つことが可能となる。
図4は、本実施形態に係る異常検知装置およびその周辺機器の回路図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。この回路図では、主に、異常検知装置10と警告手段40(後述するホーンおよびウインカ)との接続関係を示している。異常検知装置10の中央演算装置としてのCPU50には、図2に示したような異常判定手段および故障診断手段等が含まれている。また、本実施形態では、CPU50に接続されるLED(発光ダイオード)を表示手段13としている。
CPU50には、内部電源66が接続されている。内部電源66は、車載バッテリ63が取り外されても、各種センサを作動し、該センサの出力信号に基づいて警告手段40を駆動したり、車載電話機11による通信を可能にしたりするために備えられている。CPU50は、車載バッテリ63が接続されていれば車載バッテリ63の電力で駆動し、内部電源66は、不使用状態とされている。この通常時において、内部電源10は、車載バッテリ63からの供給電力によって満充電状態が保たれており、車載バッテリ63が取り外された場合にのみ使用状態に切り換わるように設定されている。
異常検知装置10には、複数の入出力ポートが設けられている。入力ポート80からは、メインヒューズ64を介して車載バッテリ63の電力が供給される。また、入力ポート81,82は、車両の主電源を断接するイグニッションスイッチ60およびストップランプ43を点灯させるストップランプスイッチ61の操作状態の監視に使用される。
自動二輪車1には、ホーンスイッチ62の操作に伴って作動するホーン41と、ウインカスイッチ(不図示)の操作に伴って点滅するウインカ灯42とが設けられている。このホーン41およびウインカ灯42は、通常時は、イグニッションスイッチ60がオン状態でないと各スイッチを操作しても作動しない。しかし、車両の停車中に異常状態が検知されると、CPU50は、トランジスタ53,54をオンに切り換え、出力ポート83,84を介してリレー70,72を駆動することで、ホーン41およびウインカ灯42を警告手段40として作動させる。
また、CPU50は、車両の異常状態が検知されると、入出力ポート85に接続されるトランジスタ51を駆動して、EFI21を停止させることができる。さらに、入出力ポート86に接続される車載電話機11を用いて、車両の異常状態を所定の電話機に送信することが可能である。
そして、本実施形態に係る異常検知装置10では、電話機3から車載電話機11に電話をかけて故障診断を行う際に、入力ポート87を介して接続されるチェックカプラ90を用いるように構成されている。チェックカプラ90は、例えば、スイッチを有する雄カプラからなる小型の機器であり、この雄カプラを、入力ポート87に連結された雌カプラに接続することで、スイッチの入力信号がCPU50に入力可能となるように構成することができる。ここで、図5を参照して、チェックカプラ90を用いて故障診断を実行する場合の流れを説明する。
図5は、前記チェックカプラ90を用いた場合の故障診断の流れを示すタイムチャートである。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。本変形例では、電話機3から入力された暗証コードと、チェックカプラ90から入力された暗証コードとを照合することで、第三者によるアクセスを防ぐ認証処理を実行する点に特徴がある。このタイムチャートでは、図3に示したステップ22(診断項目表示)と、ステップS40(診断実行表示)との間で、一連の認証処理を行うように設定されている。
ステップS30では、電話機3に暗証コードを入力し、ステップS31では、入力された暗証コードを車載電話機11で受信する。続くステップS32では、チェックカプラ90のオンオフ操作によって暗証コードを入力する。そして、ステップS33では、異常検知装置10によって暗証コードの認証が行われる。この認証処理は、異常検知装置10の通信制御部12(図2参照)で実行される。
そして、ステップS33による認証処理が正常に完了すると、ステップS40において、表示手段13に故障診断を実行する旨の表示が行われると共に、ステップS41において選択された診断項目の故障診断が実行されることとなる。すなわち、本実施形態では、電話機3から入力された暗証コードとチェックカプラ90から入力された暗証コードとが相違する場合には、異常検知装置の故障診断を実行しないことで、第三者によって故障診断が行われることを防止している。なお、暗証コードの種類やチェックカプラの形態等は種々の変形が可能であり、例えば、スイッチ等を持たないチェックカプラの接続状態を切り換える動作によって暗証コードを入力することもできる。
図4に戻って、異常検知装置10に設けられた出力ポート88,89は、各種の車載機器との接続用に設けられている。CPU50に接続されるシリアルライン55およびKライン(K-line)56は、ジャンパセレクト57によって任意に出力ポート89との接続状態を切り換えることができる。シリアルライン55およびKライン56は、各種車載機器の故障診断等に用いられる通信規格であり、出力ポート89に車載機器を接続した後に、電話機3から異常検知装置10に電話をかけてその故障診断を実行することが可能となる。なお、前記したEFI21も、このKライン56を用いてCPU50と接続し、その故障診断を実行することができる。また、異常検知装置10に設けられる入出力ポートの種類や個数等は、上記実施形態に限られず種々の変形が可能である。
図6は、異常検知装置10における動作モード切換手段17の構成を示すブロック図である。動作モード切換手段17は、前記CPU50内に設けられている。異常検知装置10には、全8種類の動作モードが設けられており、動作モード切換手段17は、各種スイッチ等からの入力情報に基づいて、動作モードの相互切り換えができるように構成されている。動作モードは、以下に示す8種が設けられている。
1.トランスポーテーションモード(工場から販売店への運搬時を想定。内部電源を使用禁止とし、車載バッテリが接続されるまでの間の電力消費を抑える)
2.インスペクションモード(異常検知装置の検査時を想定)
3.ウェイクアップモード(ノーマルモードへの切り換え操作を受け付ける)
4.ノーマルモード(走行中等の通常使用時を想定。車体に加えられた振動等を検知しても警告手段を作動させない)
5.給油モード(ユーザによる給油時(イグニッションSWオフ)を想定。車体に加えられた振動等を検知しても警告手段を作動させない)
6.スリープモード(イグニッションSWオフの通常降車時を想定。車体に加えられた振動等の検知に伴って警告手段を作動させる)
7.セフトモード(イグニッションキーが付いたまま車両が移動等された状態を想定。車両が異常状態であることをユーザが電話機を用いて異常検知装置に認識させて、警告手段を作動させる)
8.アラームセフトモード(イグニッションキーを抜いた状態で異常が発生した状態を想定。警告手段を作動させると共に、ユーザの電話機等に通知する)
また、動作モード切換手段17には、プロバイダ4と通信契約を結んでいるか否かの情報を入力するプロバイダ契約情報入力手段22、車両の主電源をオンオフするイグニッションSW(スイッチ)60、ブレーキレバーおよびブレーキペダルの操作を検知するストップランプSW(スイッチ)61、前記したチェックカプラ90、ユーザ等から送信されたセフトモード解除信号を入力するセフトモード解除信号入力手段23、車載バッテリ63の電圧値を常時監視する電圧センサ32、各種の所定時間を計測するタイマ27からの信号が入力されている。なお、異常検知装置10は、内部電源66および電圧センサ32を有することで、異常検知装置10の機能を停止させるために車載バッテリ63が取り外された場合でも警報を発することができる。
図7は、本実施形態に係る動作モード切換制御の構成を示した状態遷移図である。出荷状態とは、工場で完成した車両にまだ車載バッテリ63が接続されていない状態を示す。車載バッテリ63は、通常、販売店に到着後、例えば、車両がユーザに引き渡される際に接続される。この出荷状態において、異常検知装置10の動作モードはトランスポーテーションモードM1にある。トランスポーテーションモードM1では、異常検知機能を有効にする必要がないため、満充電状態の内部電源66を使用禁止として、車載バッテリ63が接続されるまでの内部電源66の消耗を抑えるように設定されている。
次に、車載バッテリ63を接続すると、動作モードは、ノーマルモードM4への切換操作を受け付けるウェイクアップモードM3に移行する。一方、車載バッテリ63を接続し、かつイグニッションSW(スイッチ)60をオンに切り換えると、動作モードはインスペクションモードM2に移行する。このインスペクションモードM2は、工場や販売店等において、異常検知装置10の検査等を実行するために設定されている。したがって、工場での完成車検査において、一旦、車載バッテリを接続してインスペクションモードM2に切り換え、システムの検査を行い、検査後にモードをトランスポーテーションモードM1に切り換えた後に、車載バッテリを切り離して、販売店に輸送することになる。これにより、バッテリを一旦接続してシステムの検査が行え、かつ取り外した時にシステムが誤作動してしまうことがないので、車載バッテリを取り外しておくことができ、ユーザに車両を買ってもらうまでの間に車載バッテリを放電させることがない上に、内部電源も消耗されることがない。異常検知装置10の検査は、例えば、チェックカプラ90を接続した際に、表示手段(LED)13が予定通りに点灯するか否か確認等により実行できる。なお、インスペクションモードM2において、イグニッションSW60をオフにし、かつ車載バッテリ63を取り外すと、トランスポーテーションモードM1に戻る。
そして、ウェイクアップモードM3において、所定のモード切換操作を行うと、ユーザによる通常使用時を想定したノーマルモードM4に移行する。ノーマルモードM4は、加速度センサ30や傾斜センサ31等を作動させるが、各種センサからの出力信号に基づく警告手段40の作動を禁止するように設定されている。これにより、走行中等に警告手段40が作動することがなく、また、加速度センサ30や傾斜センサ31等の出力信号を燃料噴射制御や点火制御に使用することが可能となる。
異常検知装置10は、ノーマルモードM4に移行すると、ユーザが所定のプロバイダ4と通信契約を結んでいるか否かの確認を行う。そして、通信契約が結ばれていれば、動作モードをプロバイダ契約ありノーマルモードM8に移行させ、一方、通信契約が結ばれていなければ、動作モードをプロバイダ契約なしノーマルモードM5に移行させる。
プロバイダ契約ありノーマルモードM8において、車両のイグニッションSW60がオフにされ、かつ所定時間(例えば、1分)が経過すると、動作モードはスリープモードM10に移行する。このスリープモードM10において、車体に振動等が加えられて異常状態であることが検知されると、アラームセフトモードM11に移行する。アラームセフトモードM11では、イグニッションキーが車体から取り外された状態で異常状態となった場合を想定しており、このとき、異常検知装置10は、警告手段40を作動させると共に、車両が異常状態であることをユーザの携帯電話やパソコン等に通知することができる。
また、スリープモードM10にあるときに、ユーザが車体を揺らしてしまった等、アラームセフトモードM11に誤って移行してしまった場合には、例えば、ユーザの電話機3を用いて異常検知装置10にスリープモード移行信号を送ることで、スリープモードM10に戻すことができる。なお、スリープモードM10において、イグニッションSW60をオンにすると、プロバイダ契約ありノーマルモードM8に戻る。
一方、給油の際は、イグニッションSW60がオフの状態で、かつユーザ等が車体を揺らしてしまう可能性がある。そこで、プロバイダ契約ありノーマルモードM8から、ブレーキレバー等を操作してストップランプSW61をオンにしたまま、かつイグニッションSW60のオフ→オン→オフの操作を行うと、各種センサが振動等を検知しても警告手段40を作動させない給油モードM12に移行するように設定されている。なお、給油モードM12において、イグニッションSW60をオンにすると、プロバイダ契約ありノーマルモードM8に戻る。
また、イグニッションキーを差し込んだ状態、すなわち、第3者によりイグニッションSW60がオンにできる状態で異常状態に至る可能性もある。このとき、実際は異常状態であっても、異常検知装置10は、イグニッションキーを用いた正常な操作が行われているため警告手段40を作動させることはない。しかしながら、プロバイダ契約を結んでいる場合には、例えば、異常に気付いたユーザが、電話機3等から異常検知装置10に電話をかけて、異常検知装置10に異常状態であることを認識させることができる。
これにより、異常検知装置10は、例えば、異常状態にある車両が走行中であっても、警告手段40を作動させたり、燃料噴射装置を停止させたりすることが可能となる。さらに、前記したGPSの機能を用いて、車両の現在位置を知ることもできる。なお、セフトモードM9にあるときに、ユーザが電話機3等によってセフトモード解除信号を送信すると、プロバイダ契約ありノーマルモードM8に戻る。
上記では、プロバイダ契約済の動作を説明したが、プロバイダ契約を結んでいない場合は、車載電話機11に電話をかけることによる異常検知装置10の遠隔操作や、GPSによる位置探知機能等を利用することができない。プロバイダ契約なしノーマルモードM5において、イグニッションSW60をオフにし、かつ所定時間(例えば、1分)が経過すると、スリープモードM7に移行する。このスリープモードM7において、車体に振動等が加えられて異常状態であることが検知されると、警告手段40の作動のみが行われる。なお、スリープモードM7にあるときにイグニッションSW60をオンにすると、プロバイダ契約なしノーマルモードM5に戻る。
また、プロバイダ契約なしノーマルモードM5から、ブレーキレバー等を操作してストップランプSW61をオンにし、かつイグニッションSW60のオフ→オン→オフの操作を行うと、各種センサが振動等を検知しても警告手段40が作動しない給油モードM12に移行する。この給油モードM6において、イグニッションSW60をオンにすると、プロバイダ契約なしノーマルモードM6に戻る。
本実施形態に係る異常検知装置10における異常状態の判定は、加速度センサ30および傾斜センサ3のほか、電圧センサ32の出力信号によっても行われている。電圧センサ32は、車載バッテリの電圧を常時監視しており、例えば、スリープモードM10において、バッテリ電圧が急激に低下して略ゼロになった場合には、車載バッテリ63を車体から取り外す作業が行われたと判定して、アラームセフトモードM11に移行するように構成されている。なお、バッテリ電圧の急激低下に基づく異常状態の判定は、プロバイダ契約なしノーマルモードM5から移行するスリープモードM7においても同様に実行される。
ところで、上記したような異常検知装置10を備える自動二輪車が、キックスタータを有する車両や、押しがけが可能なマニュアルミッション式の車両である場合には、車載バッテリ63がバッテリ上がりを起こした状態でもエンジンを始動することができてしまう。すると、バッテリ上がりを起こしている状態でエンジンを始動し、その後、イグニッションSW60をオフにすると、エンジンの停止と同時に発電機による電力供給が停止して、電圧センサ32による検知電圧が急激に低下することとなる。これにより、異常検知装置10の動作モード切換手段17(図2参照)は、車両が異常状態であると判定して、動作モードをアラームセフトモードM11に移行させてしまう可能性がある。したがって、ユーザが乗車した後、エンジンを停止するためにイグニッションSW60をオフにした途端に、警告手段40が作動してしまう可能性がある。
本実施形態に係る異常検知装置10は、車載バッテリ63がバッテリ上がりを起こした際に生じる可能性のある、上記したような異常状態の誤検知を防止できるように構成されている。以下、図8のフローチャートおよび図9,10のタイムチャートを参照して、バッテリ上がり時の誤検知を防止する手順を説明する。
図8は、動作モード切換手段17において実行されるバッテリ電圧監視制御の流れを示すフローチャートである。本実施形態にかかるバッテリ電圧監視制御は、電圧センサ32の検出値に加えて、所定時間を計測するタイマ27の出力値を用いることにより、異常状態の誤検知を防止するようにした点に特徴がある。
ステップS101では、車載バッテリ63の電圧が所定電圧(例えば、5V)以下になったか否かが判定される。ステップS101で肯定判定されると、ステップS102に進んで、バッテリ電圧が所定電圧以下に至ったのがイグニッションSW60のオフから、所定時間としての20秒以内であるか否かが判定される。ステップS102で肯定判定される、換言すれば、イグニッションSW60をオフにしてからごく短い所定時間が経過するまでの間にバッテリ電圧が大きく降下した場合には、バッテリ上がり状態での走行後にユーザがイグニッションSW60をオフにしたものと判定して、ステップS103に進む。
ステップS103では、イグニッションSW60のオフから60秒が経過したか否かが判定され、肯定判定されるとステップS104で、動作モードをスリープモードM10に移行して一連の制御を終了する。なお、イグニッションSW60をオフにした後、スリープモードM10に移行するまでに60秒間待機するのは、例えば、車両から降車したり車体カバーをかけたりする間に異常状態と判定されることを防止するためであり、この待機時間は任意に変更することが可能である。また、ステップS101およびS106で否定判定されると、それぞれの判定に戻る。
一方、ステップS102で否定判定されると、ステップS105に進んで、バッテリ電圧の減少率が所定値以上であるか否かが判定される。ステップS105で肯定判定される、すなわち、イグニッションSW60のオフから十分な時間が経過した後で、バッテリ電圧が急激に減少した場合には、ステップS106に進んで、停車中に車載バッテリ63が取り外された異常状態であると判定する。そして、ステップS107において動作モードをアラームセフトモードM11へ移行して、一連の制御を終了する。
また、ステップS105で否定判定される、すなわち、イグニッションSW60のオフから十分な時間が経過した後で、バッテリ電圧がゆっくり減少して所定電圧以下となった場合には、ステップS108において車載バッテリ63が自然放電したものと判定し、一連の制御を終了する。
上記したようなバッテリ電圧監視制御によれば、バッテリ上がり時にユーザがイグニッションSWをオフにした状態を異常状態であると判定することなく、かつ車載バッテリが取り外された状態を確実に検知することが可能となる。さらに、車載バッテリが自然放電した場合にも、これを異常状態と判定することがなく、誤検知の少ない異常検知装置を得ることができる。
次に、図9のタイムチャートを参照して、再度、バッテリ電圧監視制御の流れを説明する。図9は、車載バッテリ63が完全なバッテリ上がりを起こしている場合に対応する。このタイムチャートでは、上から、イグニッションSW60のオンオフ状態、車載バッテリ63の電圧値、内部電源66の使用状態、異常検知装置10の動作モード、加速度センサ30による振動検出値の異常状態判定への許可状態、車体に加えられる振動の有無、警告手段40の作動状態、異常検知判定の有無、車載電話機11による通信状態、GPS20の作動状態、GSM(車載電話機)の作動状態を示す。
本実施形態では、車載バッテリ63が完全なバッテリ上がり状態にあるため、時刻t10でイグニッションSW60をオフにする、すなわち、エンジンが停止して発電機による電力供給が停止すると、時間ΔtBが経過した時刻t11において電圧値が略ゼロとなる。本実施形態では、この時間ΔtBが20秒以下であれば、異常状態と判定しないように構成されている。そして、時刻t11では、異常検知装置10を継続駆動するために、内部電源66が使用禁止状態から使用状態に切り換えられる。
なお、本実施形態において、時間ΔtBが20秒と設定されているのは、イグニッションSW60をオフにした後でも、クランク軸の慣性力によって発電機が完全に停止するまでに多少の時間がかかることを考慮したためである。また、GPS20およびGSMは、時刻t10において作動停止状態となる。プロバイダ4との通信契約を結んでいない場合には、GSMおよび通信状態がオンになることはない。
そして、イグニッションSW60のオフから時間ΔtA(本実施形態では60秒)が経過すると、動作モードはプロバイダ契約ありノーマルモードM8からスリープモードM11へ移行し、振動検出値の異常状態判定への使用が許可されることとなる。
なお、本実施形態では、時刻t12で動作モードがスリープモードM10に移行すると同時に、異常検知装置10が正常に機能していることをユーザに通知するために、アラームセットとして、例えば、0.1秒の長さで確認音が鳴るように構成されている。その後は、車体に振動が加えられると、所定時間の間だけ警告音を鳴らすように構成されている。本実施形態では、時刻t12で加えられた振動に対して、時間AL1の間だけ警告音を鳴らしている。このとき、異常検知装置10は、異常状態であるとは判定していない。これは、停車中の車両に対して、例えば、通行人が接触してしまった場合等、1度の振動入力では異常状態とは検知しないものの、警告音によって注意を促すように設定されているためである。
続いて、時刻t14では、イグニッションSW60がオンにされると共に、キックスタータ等によってエンジンが始動される。これに伴って、発電機が始動し、電圧センサ32の電圧値が所定電圧を超えると、内部電源66が使用禁止状態に切り換えられる。
また、時刻t14において、異常検知装置10の動作モードは、スリープモードM10からプロバイダ契約ありノーマルモードM8に切り換えられる。そして、時刻t15では、GPSおよびGSMが作動状態となり、その後、車載電話機11は、例えば、渋滞情報や天気予報等の最新情報を更新するため、プロバイダ4との通信を5分に1回の間隔で実行する。さらに、この通信時に、時間経過に伴う車両位置の履歴を残すことを可能とするGPS情報もプロバイダ4に送信される。
次に、図10を参照して、車載バッテリ63がバッテリ上がりには至らないものの弱くなっている場合、または、長期間(例えば、数ヶ月単位)エンジンを始動しなかったために自然放電によりバッテリ電圧が低下する場合に対応するバッテリ電圧監視制御の流れを説明する。なお、図9と同様の箇所は、詳細な説明を省略する。
図10に示した例では、時刻t20でイグニッションSW60をオフにしても、車載バッテリ63の電圧値は十分に高い値にある。そして、イグニッションSW60のオフからΔtA経過した時刻t21では、動作モードがプロバイダ契約ありノーマルモードM8からスリープモードM11に切り換えられる。また、動作モードの移行に伴うアラームセットの処理も、図9の例と同様に実行される。
上記したように、バッテリ電圧が十分に高い場合は、イグニッションSW60をオフにしてから所定時間ΔtA(本実施形態では、60秒)が経過すると、動作モードがスリープモードMに移行して、次のイグニッションSW60のオン操作を待機するのみである。しかしながら、車載バッテリ63の劣化が進んでいたり、また、エンジンが始動されずに長時間が経過すると、自然放電によって徐々に電圧値が低下する可能性がある。
本実施形態では、時刻t23から減少を開始した電圧値が、時刻t24で所定電圧以下となり、さらに、時刻t25において略ゼロとなる場合を示している。時刻t24では、内部電源66が使用状態に切り換えられると共に、バッテリ電圧が所定電圧以下に至ったのがイグニッションSWのオフから20秒以内か否かが判定される(図8のステップS102に対応)。
図10に示す例の場合、イグニッションSW60のオフから、少なくとも60秒以上の十分な時間が経過した後であるため、バッテリ電圧の減少率が所定値以上であるか否かが判定される(図8のステップS105に対応)。この減少率の所定値は、例えば、12Vから0Vまで1秒で減少する際の減少率に設定される。したがって、この図の例では、減少率が所定値よりずっと小さいため、自然放電による電圧低下であると判定されて、アラームセフトモードM11へ移行することはない。
なお、イグニッションSWのオフと共に停止されたGPSおよびGSMは、時刻t26のイグニッションSW60のオンと共に作動状態に切り換えられて、時刻t27から車載電話機11による無線通信が実行される。
上記したように、本発明に係る異常検知装置によれば、イグニッションSWがオフにされてから所定時間以内にバッテリ電圧が所定電圧以下となった場合には異常状態であるとは判定せず、一方、所定時間が経過した後にバッテリ電圧が所定電圧以下となり、かつバッテリ電圧の減少率が所定値以上である場合には、異常状態であると判定するように構成されているので、バッテリ上がりを起こした状態でもキックスタータや押しがけ等でエンジンを始動できる車両において、イグニッションスイッチをオフにしてエンジンを停止した途端に、異常状態と判定して警告手段が作動してしまうことを防止できる。また、イグニッションSWをオフにしてから十分に時間が経過した停車中に車載バッテリが取り外された場合には、正確に異常状態と判定することができる。
なお、異常検知装置の構成や配置、異常状態を検知する各種センサや警告手段の種類、表示手段の構成、通信制御部の機能、車載電話機の通信規格の種類、GPSの利用方法、表示手段の点灯パターン、バッテリ電圧監視制御に用いられる所定時間等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、バッテリ電圧の減少率の所定値は、予め異常検知装置のプログラムに設定しておく手法のほか、バッテリ電圧変化の履歴から学習する手法を適用することができる。本発明に係る異常検知装置は、自動二輪車に限られず、三輪車や四輪車等に適用することが可能である。