JP2010202904A - 機械構造用鋼およびその製造方法ならびに機械構造用部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.05質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.03質量%、N:0.01〜0.02質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、N固溶量は0.008質量%以上であり、化合物状態のN量は0.002質量%以上であり、フェライト相の組織分率は95%以上であり、フェライト相の結晶粒は、平均結晶粒径が5〜20μm、アスペクト比が0.5〜2であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
結晶粒を微細化することで、高強度化を図ることができるものの、結晶粒を微細化するに従い鋼材の加工性が劣化する問題がある。また、特許文献1,2に開示された微細組織の鋼材とするためには、総減面率の大きな温間加工や伸線加工を施す必要があり、装置の制約上、加工前の鋼は大きさに限界があるため、得られる鋼材は大幅に縮小された結果、線状や棒状になる。また、特許文献3に開示された逆変態を生じさせる処理方法は、1パスの加工率が極めて大きく、工業的に製造が困難であるという問題がある。
さらに、従来の技術においては、結晶粒の整粒化に基づく部品加工後の硬さのばらつきについて考慮されておらず、得られる部品の品質が劣化しやすい傾向にある。
本発明の課題の一つは、冷間加工による高強度化の促進と冷間加工性の両立である。鋼材の強度を向上させるためには、硬質相(マルテンサイト、パーライト、ベイナイト等)が必要であり、冷間加工性を向上させるためには軟質相(フェライト)が必要である。強度と冷間加工性を両立させるためには、硬質相と軟質相を適切な比率、分布とする方法が考えられる。しかし、本発明で対象としている冷間加工時には、ひずみの増加に伴い硬質相と軟質相の界面で、割れが発生しやすいという問題がある。冷間加工性を向上させるためには、変形時の応力集中の起点である硬質相と軟質相の界面を減らせばよいが、軟質相のみでは高強度化することができず、硬質相のみでは硬すぎて冷間加工時の金型寿命が大きく劣化してしまう。
Cr,Moを添加することにより、機械構造用鋼の冷間加工性および冷間加工後の強度が向上する。
Ti,Nb,Vを添加することにより、これらの窒素化合物が形成され、フェライト結晶粒の整粒化が促進されることで、部品強度のばらつきが抑制され、さらに、機械構造用鋼の冷間加工後の靭性、耐割れ性が向上する。
Bを添加することにより、不可避的に含有されるPのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下が抑制される。
Cu,Ni,Coを添加することにより、機械構造用鋼のひずみ時効を促進させて冷間加工後の強度が向上する。
これらの元素を添加することにより、機械構造用鋼の冷間加工性および冷間加工後の被削性が向上する。
このような機械構造用部品は、良好な強度および硬度を有し、かつ硬さのばらつきが抑制されたものである。
機械構造用鋼は、所定量のC、Si、Mn、P、S、Al、Nを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。さらに必要に応じて、他の成分を含有してもよい。
そして、固溶Nが所定量以上であり、化合物Nが所定量以上であり、フェライト相の組織分率、平均結晶粒径、および、アスペクト比を所定に規定したものである。
以下、具体的に説明する。
Cは、フェライト単相とするため、極力低減する必要がある。ただし、Cが極端に少ないと、溶製中の脱酸が困難になる。すなわち、C量が0.005質量%未満では、溶製時にガス欠陥が発生し易くなり、そこを起点に割れが発生し易くなる。また、歩留まりが劣化する。したがって、C量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは、0.015質量%以上である。また、本発明の機械構造用鋼の場合、C量が0.045質量%までは、実質的にフェライト単相の粒界に微細セメンタイトがわずかに存在する組織となる。しかし、C量が0.045質量%を超えると、セメンタイトがパーライトを形成するようになり、フェライト−パーライトの複相組織となる。パーライトは硬質相であるため、冷間加工性を劣化させる。したがって、C量は、0.045質量%以下とする。なお、好ましくは、0.043質量%以下、より好ましくは、0.04質量%以下である。
Siは、溶製中の脱酸元素として有効な元素である。ただし、Si量が0.005質量%未満では、脱酸の効果が発揮されず、溶製時にガス欠陥が発生し易くなり、そこを起点に割れが発生し易くなる。したがって、Si量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.007質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、Siは、フェライト相を固溶強化させるため、変形抵抗の増大、冷間加工性の低下を生じさせる。Si量が0.05質量%を超えると、その傾向が顕著に見られはじめる。したがって、Si量は、0.05質量%以下とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。
Mnは、溶製中の脱酸、脱硫元素として有効な元素である。また、Sと結合することで機械構造用鋼の変形能を向上させることができ、フェライト相を固溶強化させる効果を有している。ただし、Mn量が0.4質量%未満では、脱酸、脱硫の効果が十分に発揮できず、冷間加工性が低下しはじめる。したがって、Mn量は、0.4質量%以上とする。なお、好ましくは、0.42質量%以上、より好ましくは、0.45質量%以上である。一方、Mn量が1質量%を超えると、固溶強化による変形抵抗が顕著に増大するため、冷間加工性を低下させる。したがって、Mn量は、1質量%以下とする。なお、好ましくは、0.98質量%以下、より好ましくは、0.95質量%以下である。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Pは、フェライト粒界に偏析し、冷間加工性を劣化させる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、冷間加工性の観点からは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招く。また、0質量%とすることは製造上困難である。したがって、P量は、0.05質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、冷間加工性を劣化させる。従って、全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。ただし、S量が0.005質量%未満では、被削性が劣化する。したがって、S量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.007質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、S量が0.05質量%を超えると、MnSの析出量が増えるため、冷間加工性が劣化する。したがって、S量は、0.05質量%以下とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。
Alは、溶製中の脱酸元素として有効な元素である。また、熱間圧延(鍛造)後の熱処理時に、AlをAlNとして析出させることができる。ただし、Al量が0.005質量%未満では、溶製中の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じ易くなり、そこを起点に割れが発生し易くなる。また、AlNが析出しにくくなるため、結晶粒が整粒化しにくくなる。したがって、Al量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.007質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、Al量が0.03質量%を超えると、熱処理中に固溶Nと結合しやすくなり、N固溶量を減少させ、ひずみに対する降伏および引張強度の増加割合を低下させる。したがって、Al量は、0.03質量%以下とする。なお、好ましくは、0.028質量%以下、より好ましくは、0.025質量%以下である。
本発明に係る機械構造用鋼において、N(窒素)は鋼中に固溶して、後記するように機械構造用鋼を冷間加工(冷間鍛造)した後の強度を向上させる。また、化合物Nとして、再熱処理によって析出させることで、結晶粒の粗大化を防止し、整粒化を促進させる。ただし、N量が0.01質量%未満では、このN固溶量、または、化合物N量を十分に得られない。したがって、N量は、0.01質量%以上とする。なお、好ましくは、0.0105質量%以上、より好ましくは、0.011質量%以上である。一方、N量が0.02質量%を超えると、N固溶量が過剰になって冷間加工性を劣化させる。したがって、N量は、0.02質量%以下とする。なお、好ましくは、0.019質量%以下、より好ましくは、0.018質量%以下とする。なお、Nは鋼の溶融工程で大気中から不可避的に混入するため、精錬工程で調整してN含有量を制御することができる。また、成分として含有される金属元素(例えばMn)の窒素化合物を添加してもよい。
<Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下のうち1種以上>
Cr、Moは、冷間加工後の部品強度と冷間加工性を向上させる効果を有するので、所定量に限って選択的に添加することが可能である。ただし、Cr、Mo量は、それぞれ2質量%を超えると、変形抵抗が増大し、かえって冷間加工性が劣化する。したがって、Cr、Mo量は、それぞれ2質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下である。一方、Cr、Mo添加の効果を得るため、Cr量は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。また、Mo量は、0.04質量%以上が好ましく、0.12質量%以上がより好ましい。
Ti、Nb、Vは、Nと結合することでN化合物を形成して結晶粒を整粒・微細化させ、冷間加工後に得られる部品の強度ばらつきを抑制するために有効な元素である。ただし、これらの元素は、Nとの親和力が強いため、それぞれ0.2質量%を超えると、N化合物が過剰に形成され、N固溶量が低下してしまう。したがって、Ti、Nb、V量は、それぞれ0.2質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.15質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下である。一方、Ti、Nb、V添加の効果を得るため、Ti、Nb、V量は、それぞれ、0.001質量%以上が好ましく、0.002質量%以上がより好ましく、0.003質量%以上がさらに好ましい。
Bは、フェライト粒界に集まる傾向があり、Pのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下を抑制するのに有効である。ただし、Bは、Nとの親和力が強いため、0.005質量%を超えると、BNを形成し、N固溶量が低減すると共に、フェライト粒界に過剰に偏析したBNが粒界強度を低減させる。したがって、B量は、0.005質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.0035質量%以下、より好ましくは、0.002質量%以下である。一方、B添加の効果を得るため、B量は、0.0002質量%以上が好ましく、0.0004質量%以上がより好ましく、0.0006質量%以上がさらに好ましい。
Cu、Ni、Coは、いずれも機械構造用鋼をひずみ時効させ、冷間加工後の部品強度を向上させるのに有効である。ただし、Cu、Ni、Co量は、それぞれ5質量%を超えると、効果が飽和し、また、冷間加工後の割れも促進される。なお、好ましくは、4質量%以下、より好ましくは、3質量%以下である。一方、Cu、Ni、Co添加の効果を得るため、Cu、Ni、Co量は、それぞれ、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
Ca、REM(希土類金属元素)、Mg、Liは、MnS等の硫化物系介在物を球状化させ、鋼の冷間加工性を高めると共に、被削性向上に寄与する元素である。ただし、Ca、REMは、0.05質量%を超えて、Mg、Liは、0.02質量%を超えて過剰に添加しても、その効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。したがって、Ca、REM量は、それぞれ、0.05質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.03質量%以下、より好ましくは、0.01質量%以下である。また、Mg、Li量は、それぞれ、0.02質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.01質量%以下、好ましくは、0.005質量%以下である。なお、希土類金属元素として具体的に、Ce,La,Nd等の元素が挙げられ、本明細書におけるREMの含有量とは、これらのすべての希土類金属元素の含有量の合計を指す。
機械構造用鋼中に固溶したN(固溶N)は、冷間加工時に発生する動的ひずみ時効によって、より多くの転位を導入させ、結晶粒の微細化を促進させ、降伏および引張強度を増加させる。また、冷間加工後には、静的ひずみ時効によって、加工硬化分以上に部品強度を向上させることができる。N固溶量が0.008質量%未満では、静的ひずみ時効による強度向上の効果を十分に得ることができない。したがって、N固溶量は、0.008質量%以上とする。なお、好ましくは、0.0085質量%以上、より好ましくは、0.009質量%以上である。一方、N固溶量が過剰になると、動的ひずみ時効の影響が顕著になり、変形抵抗が増大し、冷間加工性が劣化する。N固溶量は前記組成におけるN含有量以下となるので、N固溶量の上限値は前記N含有量の上限値すなわち0.02質量%に収束される。このようなN固溶量は、前記のN含有量およびAl含有量のそれぞれの制限を満足し、かつ後記するように製造時の熱間加工(圧延、鍛造)温度、および冷却工程での冷却速度を制御することにより、制御される。
化合物Nとは、主にAlNの状態でのNのことを指す。Nは、熱間圧延(鍛造)時に一部、または全量が固溶し、再熱処理によって、その析出量が調整される。この析出量は、溶解度積の式やThermo-Calcによる計算によって推測することができる。また、実際のAlN量は、固溶Nを抽出残さによって測定する際の残さ部分に相当する。
本発明に係る機械構造用鋼は、フェライト単相をベース組織としているため、熱処理によって結晶粒が容易に粗大化する。結晶粒が粗大化すると、結晶粒毎のひずみ時効による強化分がばらつくため、部品にしたとき、強度ばらつきが生じてしまう。化合物Nは、再熱処理の際、この結晶粒の粗大化を防止し、整粒化を促進させることができる。化合物N量が0.002質量%未満では、十分な結晶粒の整粒化効果が得られず、結晶粒径、アスペクト比のいずれか、あるいは共に所定範囲から外れ、硬さばらつきを抑制することができない。したがって、化合物N量は、0.002質量%以上とする。なお、好ましくは、0.0025質量%以上、より好ましくは、0.0030質量%以上である。なお、前記のとおり、N固溶量の上限値は前記N含有量の上限値、すなわち0.02質量%に収束される。そのため、固溶Nを0.008質量%以上に確保するためには、化合物N量は0.012質量%以下となる。
N固溶量の値は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物における窒素量(すなわち、化合物N量)を差し引くことで算出する。
鋼中の全N量の算出は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。すなわち、供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定する。
上記の方法によって求めた鋼中の全N量から全N化合物における窒素量を差し引くことで鋼中のN固溶量を算出する。
本発明に係る機械構造用鋼は、冷間加工性を付与するために軟質のフェライト相を主組織とする(実質的にフェライト単相)。フェライト単相とすることで、機械構造用鋼を冷間加工して機械構造用部品を製造する際に、組織全体が同時にかつ均一に変形・硬化するので、全体として変形抵抗の上昇が抑えられ、冷間加工性が劣化しない。また、検討の結果、必ずしも完全なフェライト単相組織でなくてもよく、全組織中のフェライト層の面積率(フェライト組織分率)が全組織に対して95%以上であればよい。一部粒界にセメンタイトが析出していても、それが球状化していれば冷間加工性を劣化させないためである。フェライト相の面積率が95%未満になると、フェライトとセメンタイトとの界面が割れの起点となり易く、冷間加工性が劣化する。したがって、フェライト組織分率は、95%以上とする。なお、好ましくは、96%以上、より好ましくは、97%以上である。
なお、このようなフェライト組織分率は、Cの含有量により制御する。
本発明に係る機械構造用鋼では、冷間加工による部品強化能を向上させるため、初期の結晶粒径とアスペクト比を規定している。通常、結晶粒径が小さいと引張強度が高くなることは、Hall-Petchの関係によって説明がなされている。また、ひずみが付与されると結晶粒が微細化する。この結晶粒の微細化には、転位の増殖が関与しており、例えば、熱間加工の場合、転位が増殖と合体・消滅を繰り返すため、結晶粒が微細化しにくい(その分、変形抵抗も増加しない)。一方、析出強化で転位を増殖させやすくした場合には、転位は増殖しやすいものの、変形抵抗も大きく増加する。そこで、固溶Nに着目すると、変形抵抗をあまり増加させず、転位を増殖させやすい傾向があることが明らかとなった。ただし、フェライト相の初期の平均結晶粒径が5μm未満では、結晶粒の微細化によって初期の変形抵抗が増加してしまう。したがって、フェライト相の平均結晶粒径は、5μm以上とする。なお、好ましくは、7μm以上、より好ましくは、9μm以上である。一方、平均結晶粒径が20μmを超えると、結晶粒内で不均一に転位が増殖し、硬さのばらつきが大きくなってしまう。したがって、フェライト相の平均結晶粒径は、20μm以下とする。なお、好ましくは、18μm以下、より好ましくは、16μm以下である。フェライトの結晶粒は、前記の組織の判別と同じ位置の複数視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて1000倍程度で観察することによって検出することができる。結晶粒径を求めるには、例えば、光学顕微鏡写真に直線を引き、この直線と交差する結晶粒界の数をカウントし、この結晶粒界の数で直線の長さを割れば、当該光学顕微鏡写真上の結晶粒の平均粒径を算出できる。
冷間加工によって結晶粒を均一に微細化するためには、結晶粒のアスペクト比も重要である。アスペクト比が0.5未満または2を超えるというのは、結晶粒が縦横のいずれかに伸張していることを表している。このような状態の結晶粒が存在すると、不均一に転位が増殖し、組織の硬さがばらついてしまう。したがって、フェライト相のアスペクト比は、0.5以上とする。なお、好ましくは、0.6以上、より好ましくは、0.7以上である。また、フェライト相のアスペクト比は、2以下とする。なお、好ましくは、1.8以下、より好ましくは、1.6以下である。
前記結晶粒測定に用いたサンプルを使用し、前記の組織の判別と同じ位置の複数視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて1000倍程度で観察することにより行う。次に、撮影した写真に対して、水平線、垂直線を引き、線と交差した結晶粒界の数をカウントする。そして、圧延方向に対して、水平方向の結晶粒径を垂直方向の結晶粒径で除し、アスペクト比を算出し、複数視野の平均値をこのサンプルのアスペクト比(平均アスペクト比)とする。
なお、前記したような結晶粒、アスペクト比は、成分組成(Al、N等)、熱間加工温度、加熱保持条件等により制御する。
機械構造用鋼の製造方法は、溶解工程と、鋳造工程と、熱間加工工程と、加熱保持工程と、冷却工程と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
溶解工程は、前記記載の組成を有する合金を溶解する工程である。
合金を溶解する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いることができる。
鋳造工程は、前記溶解工程で溶解された溶解物を鋳造する工程である。
溶解物を鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いることができる。
熱間加工工程は、前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1050〜1250℃に加熱した後、圧延または鍛造することで熱間加工する工程である。
または、前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1050〜1250℃に加熱した後、圧延または鍛造することで熱間加工し、その後室温まで冷却する工程である。
加熱保持工程は、前記熱間加工工程で熱間加工された熱間加工材を、950〜1100℃で、60〜7200sec保持する工程である。
冷却工程は、前記加熱保持工程で加熱保持された加熱保持材を、0.5〜15℃/secの冷却速度で500℃以下まで冷却する工程である。
結晶粒を整粒化するためには、500℃以下まで、0.5〜15℃/secの冷却速度で冷却する必要がある。冷却速度が0.5℃/sec未満では、冷却中にAlNが成長し、まばらな分布状態となってしまうため、十分な整粒効果を得ることができない。したがって、冷却速度は、0.5℃/sec以上とする。なお、好ましくは、0.75℃/sec、好ましくは、1℃/sec以上とする。一方、冷却速度が15℃/secを超えると、オーステナイト粒界だけでなく、粒内からもフェライトが析出し始める。このフェライトはある方位に沿って成長しやすいため、アスペクト比が規定を満たさなくなり、冷間加工後に硬さのばらつきが生じるようになる。また、結晶粒が微細化しすぎてしまう。したがって、冷却速度は、15℃/sec以下とする。なお、好ましくは、12.5℃/sec以下、好ましくは、10℃/sec以下とする。
本発明に係る機械構造用部品は、前記機械構造用鋼を、開始温度200℃未満で冷間加工(冷間鍛造)して製造される。開始温度が200℃以上で加工されると、動的ひずみ時効が発生しやすくなることで、変形抵抗の増大、加工性の劣化を招くと共に、静的ひずみ時効による強化が不十分になるからである。冷間加工後は、切削等、公知の方法で所望の形状に仕上げる。
1/√d≧0.25ε+2・・・(1)
式(1)において、d:冷間加工後の転位セルサイズ(μm)、ε:冷間加工時のひずみ量である。
15≧(硬さ(Hv)の最大値)−(硬さ(Hv)の最小値)・・・(2)
本発明者らが実験的なデータに基づき、転位セルサイズと冷間加工時のひずみ量の関係、および、部品の硬さのばらつきについて検討を重ねた結果、機械構造用鋼の成分組成や組織等を所定に規定し、この機械構造用鋼から得られる機械構造用部品が式(1)を満足することで、従来品よりも、より少ないひずみで、高強度化が可能となり、式(2)を満足することで、従来品よりも、硬さのばらつきが小さくなることを見出したことから、このような関係式とした。
表1〜3に記載の成分組成からなる供試材No.1〜68の供試鋼を調製し、この供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解して、上面:φ245mm、下面:φ210mm×長さ480mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを、1150〜1250℃で3hrのソーキングの後、155mm角の四角材に熱間鍛造して、長さ600mm程度に切断し、155mm角×600mm長さのビレットとした。
供試材から切り出したサンプルで、前記JIS G 1228に準拠する不活性ガス融解法−熱伝導度法で算出した全N量から、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法で算出した全N化合物における窒素量を差し引いてN固溶量を測定した。
アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いて算出した。具体的には、まず、供試材からサンプルを切り出し、10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部:メタノール)中で、定電流電解を行なった。次に、約0.5gサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過し、不溶解残渣を硫酸、硫酸カリウムおよび純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせた。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させた。そして、フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定した。この結果から、全N化合物における窒素量を算出した。
前記それぞれの丸棒材(熱間圧延材、熱間鍛造材)の表面から円柱の直径の1/4の深さの位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿って(半円柱形状に)切断して樹脂に埋め込み、切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨し、ナイタール液(3%硝酸エタノール溶液)で腐食させた。腐食面を光学顕微鏡で観察して構成組織および結晶粒を判別した。組織解析は、100倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、これらの写真に対して、画像解析ソフト(Image Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて画像を2値化して、白色の領域をフェライト相として各写真の面積率を算出し、5視野の平均値をフェライト組織分率とした。結晶粒径の測定は、1000倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、写真に直線を引き、この直線と交差する結晶粒界の数をカウントして結晶粒径の平均値を算出し、さらに5視野の平均値を平均粒径とした。
前記結晶粒測定に用いた丸棒材を使用し、前記の組織の判別と同じ位置の5視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて1000倍程度で観察した。次に、撮影した写真に対して、水平線、垂直線を引き、線と交差した結晶粒界の数をカウントした。そして、圧延方向に対して、水平方向の結晶粒径を垂直方向の結晶粒径で除し、アスペクト比を算出し、5視野の平均値を平均アスペクト比とし、ここでのアスペクト比とした。
これらの冷間鍛造材(供試材)について、転位セルサイズ、強度の測定を行うと共に、以下の評価を行った。
得られた供試材について、転位セルサイズの測定を行った。
供試材の表面から円柱の直径の1/4の深さの位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿ってスライス状に切断し、化学研磨を施してTEMサンプルを作製した。次に、30000倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、写真の加工方向に対して垂直方向に直線を引き、この直線と交差する転位セル壁の数をカウントして転位セルサイズを算出し、さらに5視野の平均値を平均転位セルサイズとし、ここでの転位セルサイズとした。
前記転位セルサイズから、転位セルサイズとひずみ量の関係を求めた。前記(1)式を満たすものを、部品加工後の強度が良好「○」、満たさないものを不良「×」として、評価した。
供試材の中心部(円柱の軸近傍)からJIS14A号の引張試験片(標点φ8mmの棒状試験片)を切り出し、「JIS Z 2201 金属材料引張試験片」に準拠した引張試験方法で引張試験を実施し、降伏応力(降伏強度)(0.2%耐力(MPa))、および、引張強度(TS(MPa))を測定した。なお、供試材の中心部から試験片を切り出すとは、供試材の円柱の軸と棒状試験片の円柱の軸とが略一致するということである。
まず、冷間鍛造材のビッカース硬さを測定した。冷間鍛造材の円柱の軸(冷間鍛造前の試験片の軸と同)に沿って切断して、樹脂に埋め込んで試料として調整した。この試料について、冷間鍛造材の円柱の軸方向中央における直径の1/4位置の任意の5点のビッカース硬さを測定し、5点の平均値を冷間加工後硬さHvとした。また、これらのうち、硬さの最大値(最大硬さ)と硬さの最小値(最小硬さ)の差分を求めた。そして、この差が15以下のものを、硬さのばらつきが小さいもの「○」、15を超えるものを、大きいもの「×」として、評価した。
前記それぞれの丸棒材(熱間圧延材、熱間鍛造材)を、1600tプレスを用い、端面を拘束した状態で、表4〜6に示す開始温度で、ひずみ速度10/secの冷間鍛造により試験片の軸方向に80%まで圧縮して、機械構造用部品の加工試験品(冷間鍛造材)を作製した。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とした。なお、圧縮率は、機械構造用鋼の圧縮方向長をH0、圧縮後(機械構造用部品)の圧縮方向長をHとして表したとき、(H0−H)/H0×100で算出される。そして、冷間鍛造により割れの発生した冷間鍛造材を「×」、割れのない冷間鍛造材を「○」として、評価した。
Claims (9)
- C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.05質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.03質量%、N:0.01〜0.02質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
N固溶量は0.008質量%以上であり、
化合物状態のN量は0.002質量%以上であり、
フェライト相の組織分率は95%以上であり、
フェライト相の結晶粒は、平均結晶粒径が5〜20μm、アスペクト比が0.5〜2であることを特徴とする機械構造用鋼。 - 前記組成がさらに、Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、およびV:0.2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、B:0.005質量%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Cu:5質量%以下、Ni:5質量%以下、およびCo:5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ca:0.05質量%以下、REM:0.05質量%以下、Mg:0.02質量%以下、Li:0.02質量%以下、Pb:0.5質量%以下、およびBi:0.5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の組成を有する合金を溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で溶解された溶解物を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1050〜1250℃に加熱した後、圧延または鍛造することで熱間加工する熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で熱間加工された熱間加工材を、950〜1100℃で、60〜7200sec保持する加熱保持工程と、
前記加熱保持工程で加熱保持された加熱保持材を、0.5〜15℃/secの冷却速度で500℃以下まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の組成を有する合金を溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で溶解された溶解物を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1050〜1250℃に加熱した後、圧延または鍛造することで熱間加工し、その後室温まで冷却する熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で熱間加工された熱間加工材を、950〜1100℃で、60〜7200sec保持する加熱保持工程と、
前記加熱保持工程で加熱保持された加熱保持材を、0.5〜15℃/secの冷却速度で500℃以下まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の機械構造用鋼を、開始温度200℃未満で冷間加工して製造されたことを特徴とする機械構造用部品。
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