以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明を適用した処理装置を備えるインライン式成膜装置を用いて、ハードディスクドライブ装置(磁気記録再生装置)に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
(処理装置)
先ず、図1(a)に示す本発明を適用した処理装置1の一例について説明する。
本発明を適用した処理装置1は、後述する複数のチャンバの間で成膜対象となる基板(被処理基板)Wを順次搬送させながら成膜処理等を行うインライン式成膜装置において、1つの処理チャンバを構成するものである。
具体的に、この処理装置1は、図1(a)に示すように、被処理基板Wが配置される反応容器2を備え、この反応容器2内には、被処理基板Wを保持するホルダ3が取り付けられたキャリア4と、このキャリア4を搬送する搬送機構5とが配置されている。
反応容器2は、図1(a)及び図2に示すように、その内部を高真空状態とするため、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成された真空容器(チャンバ)であり、互いに対向する正面側隔壁6aと背面側隔壁6bとの間には、扁平状の内部空間7が形成されている。そして、被処理基板Wを保持するキャリア4は、この内部空間7の中央部に、搬送機構5は、このキャリア4の下方に、それぞれ配置されている。
なお、キャリア4には、図1(a)において図示されていないものの、2つのホルダ3が搬送方向に直線上に並んで取り付けられている。また、2つのホルダ3は、被処理基板Wを縦置き(被処理基板Wの主面が重力方向と平行となる状態)に保持している。
また、反応容器2の搬送方向の前後には、隣接する反応容器(チャンバ)との間でキャリア4を通過させる基板搬出入口(図示せず)と、これらの基板搬出入口を開閉する一対のゲートバルブ2Aとが設けられている。すなわち、反応容器2は、隣接するチャンバとはゲートバルブ2Aを介して接続されている。
処理装置1は、反応容器2の正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bに、それぞれキャリア4に保持された被処理基板Wの両面に対して成膜処理等を行う処理ユニット(処理手段)1Aを備えている。
処理ユニット1Aは、上記ホルダ3に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向して配置されている。処理ユニット1Aは、例えば、成膜処理をスパッタリングによって行う場合は、スパッタ放電を生じさせるためのカソードユニット、成膜処理をCVD(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によって行う場合は、CVD法による成膜空間を形成するための電極ユニット、成膜処理をPVD(Physical Vapor Deposition)法によって行う場合は、イオンガンなどから構成されている。このように、処理ユニット1Aとしては、例えば、スパッタリング装置(マグネトロンスパッタリング装置、DCスパッタリング装置、RFスパッタリング装置、MWスパッタリング装置、反応性スパッタリング装置などを含む。)、化学蒸着装置(CVD装置)、物理蒸着装置(PVD装置)、イオン注入装置、プラズマエッチング装置、基板加熱装置、反応性プラズマ処理装置、基板冷却装置などの様々な処理装置に搭載される処理ユニットを挙げることができる。
本実施形態における処理装置1は、例えばマグネトロンスパッタ装置に本発明を適用したものである。マグネトロンスパッタ装置は、反応容器内に配置された基板に対向させてターゲットを配置し、このターゲット表面付近に磁場を発生させるため、ターゲットの背面にマグネットを配置し、不活性ガス雰囲気中でこれら基板とターゲット間に高周波(RF)等の高電圧を印加し、この高電圧で電離した電子と不活性ガスとを衝突させてプラズマを形成し、プラズマ中の陽イオンによりスパッタリングされたターゲット粒子を基板表面に堆積させて成膜処理を行うものである。また、ターゲットの背面に配置されるマグネットは、一般的にはターゲットの主面に対して垂直な方向に磁化方向を持つ磁石を内側に置き、この磁石とは逆向きの磁化方向をもつ磁石を外側におくことにより構成されている。
具体的に、この処理装置1は、2枚の被処理基板Wの両面に対して同時に成膜処理等を行うため、反応容器2内には、キャリア4に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向するように、計4つのバッキングプレート8が配置されている。そして、これら4つのバッキングプレート8の被処理基板Wと対向する面(表面)には、ターゲットTが取り付けられている。また、各バッキングプレート8は、図示を省略する高周波電源(又はマイクロ波電源)と接続されており、この高周波電源からバッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加することが可能となっている。
処理装置1は、図1(a)及び図3に示すように、反応容器2内にガスを導入するガス導入管(ガス導入手段)9を備えている。このガス導入管9は、円盤状の被処理基板Wに対応してリング状に形成された環状部9aを有し、この環状部9aに接続された連結部9bを介してガス供給源10と接続されている。また、ガス導入管9の環状部9aは、被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの周囲を囲むように配置されている。さらに、この環状部9aの内周部には、複数のガス放出口9cが周方向に並んで設けられており、ガス導入管9は、これら複数のガス放出口9cからその内側にある被処理基板Wに向かって、ガス供給源10から供給されたガスGを放出することが可能となっている。
なお、ガス放出口9cの口径については、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量を一定とするため、各ガス放出口9cの口径を変化させた構成とすることが好ましい。具体的には、各ガス放出口9cから放出されるガスGの量が一定となるように、連結部9bからの距離に応じて、ガス放出口9cの口径を大きくすることが好ましい。
また、ガス導入管9とガス供給源10との間の配管には、図示を省略する調整バルブが設けられている。処理装置1では、この調整バルブの開閉を制御すると共に、この調整バルブを介してガス導入管9に供給されるガスGの流量を調整することが可能となっている。
各バッキングプレート8のターゲットTとは反対側の面(裏面)には、それぞれ磁界を発生させるマグネット11が配置されている。各マグネット11は、駆動モータ12の回転軸12aに取り付けられて、駆動モータ12によりバッキングプレート8と平行な面内で回転駆動される。
反応容器2の正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、この反応容器2の内側に臨む開口部13が設けられている。この開口部13は、上記ホルダ3に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向する位置に、上述したターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8、ガス導入管9、並びにマグネット11が取り付けられた駆動モータ12を含む処理ユニット1Aを配置するのに十分な大きさで例えば長円状(レーストラック状)に形成されている。
また、正面側隔壁6a及び背面側隔壁6bには、図1(b)に示すように、この開口部13の周囲を気密に封止する筒状のハウジング14が取り付けられており、上記処理ユニット1は、このハウジング14の内側に、例えば3本のアーム14aを介して支持されている。また、処理ユニット1Aは、被処理基板WとターゲットTとの対向間隔を調整するため、ハウジング14内で移動可能に支持されている。これにより、成膜条件の最適化のため、被処理基板WとターゲットTとの対向間隔を容易に調整することが可能となっている。
処理装置1は、図1(a)に示すように、反応容器2内を減圧排気する減圧排気手段として、反応容器2の両側面に配置された第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に配置された第2の真空ポンプ16とを備えている。
第1の真空ポンプ15は、上記ハウジング14に接続されたターボ分子ポンプであり、このターボ分子ポンプは、潤滑油を使用しない構成のため、清浄度(クリーン度)が高く、また、排気速度が大きいため、高い真空度が得られる。さらに、反応性の高いガスを排気するのに適している。また、第1の真空ポンプ15は、図1(b)に示すように、上述した開口部13及びハウジング14によって反応容器2内を吸引する吸引口Hを形成している。
第1の真空ポンプ15は、上記ホルダ3に保持された被処理基板Wの処理する面の数だけ配置することが好ましく、本実施形態では、キャリア4に保持された2つの被処理基板Wの両面にそれぞれ対向するように、計4つの第1の真空ポンプ15が反応容器2の両側面にあるハウジング14に取り付けられている。すなわち、第1の真空ポンプ15は、反応容器2の両側面(正面側隔壁6a及び背面側隔壁6b)において、それぞれ上記処理ユニット1Aを挟んで上記ホルダ3に保持された被処理基板Wに対向した位置に配置されている。
一方、第2の真空ポンプ16は、反応容器2の下方に配置されたポンプ室17を介して取り付けられたクライオポンプである。クライオポンプは、極低温を作り出し、内部の気体を凝縮又は低温吸着することで高い真空度が得られ、特に、排気速度やクリーン度の点においてターボ分子ポンプよりも優れている。
ポンプ室17は、耐圧性を有する隔壁によって気密に構成されており、反応容器2の内部空間7とは反応容器2の底壁6cに形成された孔部6dを介して連通されている。そして、第2の真空ポンプ16は、このポンプ室17の側面に接続されている。
そして、この処理装置1では、これら第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16の駆動を制御しながら、反応容器2内を減圧したり、反応容器2内に導入されたガスを排気したりすることが可能となっている。
キャリア4は、図1(a)及び図4に示すように、板状を為す支持台18の上部に2つのホルダ3が支持台18と平行に取り付けられた構造を有している。ホルダ3は、被処理基板Wの厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板材3aに、被処理基板Wの外径よりも僅かに大径となされた円形状の孔部3bが形成されて、この孔部3bの内側に被処理基板Wを保持する構成となっている。
具体的に、ホルダ3の孔部3bの周囲には、被処理基板Wを支持する複数の支持アーム19が弾性変形可能に取り付けられている。これら複数の支持アーム19は、孔部3bの内側に配置された被処理基板Wの外周部を、その外周上の最下位に位置する下部側支点と、この下部側支点を通る重力方向に沿った中心線に対して対称となる外周上の上部側に位置する一対の上部側支点との3点で支持するように、板材3aの孔部3bの周囲に所定の間隔で3つ並んで設けられている。
各支持アーム19は、L字状に折り曲げられた板バネからなり、その基端側がホルダ3に固定支持されると共に、その先端側が孔部3bの内側に向かって突出された状態で、それぞれホルダ3の孔部3bの周囲に形成されたスリット3c内に配置されている。また、各支持アーム19の先端部には、図示を省略するものの、それぞれ被処理基板Wの外周部が係合される溝部が設けられている。
そして、ホルダ3は、これら3つの支持アーム19に被処理基板Wの外周部を当接させながら、各支持アーム19の内側に嵌め込まれた被処理基板Wを着脱自在に保持することが可能となっている。なお、ホルダ3に対する被処理基板Wの着脱は、下部側支点の支持アーム19を下方に押し下げることにより行うことができる。
搬送機構5は、図1(a)、図4及び図5に示すように、キャリア4を非接触状態で駆動する駆動機構20と、搬送されるキャリア4をガイドするガイド機構21とを有している。
駆動機構20は、キャリア4の下部にN極とS極とが交互に並ぶように配置された複数の磁石22と、その下方にキャリア4の搬送方向に沿って配置された回転磁石23とを備え、この回転磁石23の外周面には、N極とS極とが二重螺旋状に交互に並んで形成されている。
駆動機構20には、回転磁石23の周囲を囲む真空隔壁24が設けられており、この真空隔壁24によって反応容器2の内部空間7とは隔離された空間(大気側)に回転磁石23を配置している。また、真空隔壁24は、複数の磁石22と回転磁石23とが磁気的に結合されるように透磁率の高い材料で形成されている。
回転磁石23は、回転モータ25により回転駆動される回転軸26と互いに噛合されるギア機構27を介して連結されている。これにより、回転モータ25からの駆動力を回転軸26及びギア機構27を介して回転磁石23に伝達しながら、この回転磁石23を軸回りに回転することが可能となっている。
そして、この駆動機構20は、複数の磁石22と回転磁石23とを磁気的に結合させながら、回転磁石23を軸回りに回転させることにより、キャリア4を回転磁石23の軸方向に沿って非接触状態で直線駆動する。
ガイド機構21は、水平軸回りに回転自在に支持された複数の主ベアリング28を有し、これら複数の主ベアリング28は、キャリア4の搬送方向に直線上に並んで設けられている。一方、キャリア4は、支持台18の下部側に複数の主ベアリング28が係合される溝部が形成されたガイドレール29を有している。
また、ガイド機構21は、垂直軸回りに回転自在に支持された一対の副ベアリング30を有し、これら一対の副ベアリング30は、その間にキャリア4を挟み込むように対向して配置されている。さらに、これら一対の副ベアリング30は、複数の主ベアリング28と同様に、キャリア4の搬送方向に直線上に複数並んで設けられている。
そして、このガイド機構21は、ガイドレール29の溝部に複数の主ベアリング28を係合させた状態で、これら複数の主ベアリング28の上を移動するキャリア4を案内すると共に、一対の副ベアリング30の間でキャリア4を挟み込むことによって、移動中にキャリア4が傾くことを防止している。
なお、主ベアリング28及び副ベアリング30は、機械部品の摩擦を減らし、スムーズな機械の回転運動を確保するため、転がり軸受によって構成されている。そして、この転がり軸受は、図示を省略するものの、反応容器2内に設けられたフレームに固定された支軸に回転自在に取り付けられている。
以上のような構造を有する処理装置1では、バッキングプレート8を介してターゲットTに高周波電圧を印加し、ガス導入管9から導入されたガスをイオン化して、ターゲットTの周囲(反応空間R)にプラズマを発生させながら、このプラズマ中のイオンをターゲットTの表面に衝突させることにより、ターゲットTから叩き出されたターゲット粒子を被処理基板W上に堆積して薄膜を形成することが可能である。
ところで、本発明を適用した処理装置1では、上述した反応容器2の被処理基板Wと対向する両側面に配置された吸引口H(開口部13及びハウジング14)を通して、第1の真空ポンプ15が反応容器2内を減圧排気する構成となっている。この構成の場合、反応容器2内を短時間で減圧排気すると共に、この反応容器2の内部空間7、特に被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rにおける真空度を効率良く高めることが可能である。
また、本発明では、図1(b)に示すように、上記吸引口Hの内側に被処理基板Wと対向するターゲットTを配置して、当該ターゲットTの外側から吸引することが好ましい。
ここで、第1の真空ポンプ15と反応容器2との間には、上述した処理ユニット1Aが配置されている。一方、第1の真空ポンプ15として用いられるターボ分子ポンプは、その内部でファンを高速回転させて吸引口Hから吸引する構成のため、この吸引口Hの中央部よりも周辺部の排気能力が高いといった特徴を有している。
この場合、第1の真空ポンプ15と反応容器2との間に、上記処理ユニット1Aが配置されていても、上記処理ユニット1Aの構成部品はターボ分子ポンプの吸引方向から見て吸引口Hの中央部と重なる位置にあるため、第1の真空ポンプ15の排気能力に特に影響を与えることなく、反応容器2内を効率良く減圧排気することが可能である。
ところで、上記反応容器2は、扁平状の内部空間7を有しており、この内部空間7の下方に上記キャリア4の搬送機構5を配置する必要があるため、上記反応容器2の上部及び下部に真空ポンプ(減圧排気手段)を設けた場合には、この反応容器2の内部空間7に圧力分布が生じ易くなる。
これに対して、本発明では、反応容器2の内部空間7、特に被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rにおける排気能力を高めて、この反応空間Rにおけるベースプレッシャー(最高到達真空度)を他の部分よりも下げることが可能である。
以上のように、本発明を適用した処理装置1では、反応容器2の被処理基板Wと対向する側面に配置された第1の真空ポンプ15によって反応容器2内を減圧排気することで、この反応容器2内の被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの真空度を効率良く高めることが可能であり、また、この反応容器2内を減圧排気するのに要する時間を短縮し、高真空度での処理を行うことが可能である。
また、本発明を適用した処理装置1では、反応容器2の下方に配置された第2の真空ポンプ16によって反応容器2内を減圧排気する構成となっている。反応容器2の下方には、上述した搬送機構5が配置されており、この搬送機構5が排気抵抗となって上記第1の真空ポンプ15からの排気能力が低下することを防ぐために、反応容器2の下方に第2の真空ポンプ16を追加する。これにより、反応容器2内の下部側の真空度を効率良く高めることが可能となる。
そして、この処理装置1では、第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16を協働させながら、反応容器2の内部空間7を短時間で減圧排気することが可能である。特に、第2の真空ポンプ16には、排気速度やクリーン度の点においてターボ分子ポンプよりも優れたクライオポンプを用いているため、高い真空度を得ると共に、反応容器2内をクリーンな環境に保つことが可能である。
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
具体的に、上記処理装置1では、ガス導入手段として、反応空間Rの周囲を囲むリング状のガス導入管9を配置した構成となっているが、このような構成に必ずしも限定されるものではなく、例えば、ガスGを導入するガス導入口(図示せず。)をターゲットTの中央部に臨んで配置した構成としてもよい。この構成の場合、ガス導入口からターゲットTの中央部に導入されたガスGは、このターゲットTの表面を流れて、その外側にある上記吸引口Hから速やかに排気されるため、反応容器2内でのガスGの流れをより安定なものとすることができる。
なお、本実施形態では、反応容器2の両側面に4つの第1の真空ポンプ15と、反応容器2の下方に1つの第2の真空ポンプ16とが配置された構成となっているが、これら真空ポンプ15,16の数については適宜変更して実施することが可能である。例えば、反応容器2内を減圧排気するのに要する時間は、真空ポンプ15,16の数が多くなるほど短縮されるものの、第1及び第2の真空ポンプ15,16の数が余り多くなると、処理装置1の大型化や消費電力の増大を招くため、このような観点から第1及び第2の真空ポンプ15,16の数を決定することが望ましい。
なお、上記第2の真空ポンプ16に使用されるクライオポンプは、外部に排出する構造のターボ分子ポンプとは異なり、内部に溜め込む構造のため、一定期間ごとにメンテナンスする必要がある。また、反応容器2内に導入されるガスが反応性の高いガスである場合には、上述したターボ分子ポンプからなる第1の真空ポンプ15を用いて、反応容器2の外部へと排気することが望ましい。これにより、反応後のガスが反応空間7の下方に流れて、上記搬送機構5を構成するベアリング28,30等の金属部品が腐食してしまうことを防ぎつつ、反応容器2内をクリーンな状態に保つことが可能である。なお、上記第2の真空ポンプ16には、クライオポンプの代わりに、ターボ分子ポンプを用いることも可能である。
(インライン式成膜装置)
次に、図6に示す上記処理装置1を備えたインライン式成膜装置50の構成について説明する。
このインライン式成膜装置50は、図6に示すように、基板移送用ロボット室51と、基板移送用ロボット室51上に設置された基板移送用ロボット52と、基板移送用ロボット室51に隣接する基板取付用ロボット室53と、基板取付用ロボット室53内に配置された基板取付用ロボット54と、基板取付用ロボット室53に隣接する基板交換室55と、基板交換室55に隣接する基板取外用ロボット室56と、基板取外用ロボット室56内に配置された基板取外用ロボット57と、基板交換室55の入側と出側との間に並んで配置された複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71と、複数のコーナー室72〜75と、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で順次搬送される複数の上記キャリア4とを備えて概略構成されている。
また、基板交換室55の入側から出側に至る各室の間には、開閉自在なゲートバルブ76〜93が設けられている。各チャンバ58〜71は、これらゲートバルブ76〜93を閉状態とすることで、それぞれ独立した密閉空間を形成することが可能となっている。
基板移送用ロボット52は、成膜前の非処理基板Wが収納されたカセット(図示せず。)から、基板取付用ロボット室53に被処理基板Wを供給すると共に、基板取外用ロボット室56から成膜後の被処理基板Wを回収するためのものである。また、基板移送用ロボット室51と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56の間には、それぞれ開閉自在なゲート部94,95が設けられている。さらに、基板交換室55と基板取付用及び基板取外用ロボット室53,56との間にも、それぞれ開閉自在なゲート部96,97が設けられている。
基板取付用ロボット54は、基板交換室55内にあるキャリア4に成膜前の被処理基板Wを取り付ける一方、基板取外用ロボット57は、基板交換室55内にあるキャリア4から成膜後の被処理基板Wを取り外す。
複数の処理チャンバ58〜70及び予備チャンバ71は、基本的に上記処理装置1の反応容器2と同様の構成を有しており、各処理チャンバ58〜70の両側面には、上記キャリア4に保持された被処理基板Wに対する処理内容に応じた処理ユニット1Aが配置されている。また、各チャンバ58〜71には、図示を省略するものの、上述した真空ポンプが接続されており、これら真空ポンプの動作によって各チャンバ58〜71を個別に減圧排気することが可能となっている。また、各コーナー室72〜75には、キャリア4の移動方向を変更するための回転機構(図示せず。)が設けられている。
そして、このインライン式成膜装置50では、基板交換室55の入側から出側に至る各チャンバ58〜71及びコーナー室72〜75の間で複数のキャリア4を順次搬送させながら、各キャリア4に保持された被処理基板W(図6において図示せず。)に対して成膜処理等を行うことが可能となっている。
なお、本実施形態では、上記キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板Wを同時に処理することが可能であるが、一方のホルダ3に保持された被処理基板Wのみに処理を行う構成である場合には、例えば図7中の実線で示すように、キャリア4の一方のホルダ3Aに保持された被処理基板W1に対して処理を行った後、図7中の破線で示すように、反応容器2内でキャリア4の位置をずらし、キャリア4の他方のホルダ3B(図6中に破線で示す。)に保持された被処理基板W2に対して処理を行う。これにより、キャリア4のホルダ3に保持された2つの被処理基板W1,W2に対して交互に処理を行うことが可能である。
(磁気記録媒体)
次に、上記インライン式成膜装置50を用いて製造される磁気記録媒体について説明する。
上記インライン式成膜装置50を用いて製造される磁気記録媒体は、例えば図8に示すように、上記被処理基板Wとなる非磁性基板100の両面に、軟磁性層101、中間層102、記録磁性層103及び保護層104が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜105が形成された構造を有している。また、軟磁性層101、中間層102及び記録磁性層83によって磁性層106が構成されている。
非磁性基板100としては、例えば、Al−Mg合金などのAlを主成分としたAl合金基板、ソーダガラスやアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラスなどのガラス基板、シリコン基板、チタン基板、セラミックス基板、樹脂基板等の各種基板を挙げることができるが、その中でも、Al合金基板や、ガラス基板、シリコン基板を用いることが好ましい。また、非磁性基板100の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
磁性層106としては、面内磁気記録媒体用の水平磁性層と、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層とに大別することができるが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層を用いることが好ましい。また、磁性層106には、Coを主成分とするCo合金を用いることが好ましい。具体的に、垂直磁性層の場合には、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層101と、Ru等からなる中間層102と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる記録磁性層103とを積層したものなどを用いることができる。また、軟磁性層81と中間層82との間に、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を介在させてもよい。一方、水平磁性層の場合には、例えば、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものなどを用いることができる。
また、磁性層106は、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分な磁気ヘッドの出入力特性が得られるような厚みで形成する必要がある。一方、磁性層106は、再生時に一定以上の出力を得るため、ある程度の厚みが必要となるものの、記録再生特性を表す諸パラメータは出力の上昇と共に劣化するのが通例であるため、これらを考慮して最適な厚みを設定する必要がある。具体的に、磁性層106の全体の厚みは、3nm以上20nm以下とすることが好ましく、より好ましくは5nm以上15nm以下である。
保護層104には、磁気記録媒体において通常使用される材料を用いればよく、そのような材料として、例えば、炭素(C)、水素化炭素(HXC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質材料や、SiO2、Zr2O3、TiNなどを挙げることができる。また、保護層104は、2層以上積層したものであってもよい。保護層104の厚みは、10nmを越えると、磁気ヘッドと磁性層106との距離が大きくなり、十分な入出力特性が得られなくなるため、10nm未満とすることが好ましい。
潤滑膜105は、例えば、フッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層104上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑膜105の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
また、磁気記録媒体に対しては、上記インライン式成膜装置50を用いて、記録磁性層103に反応性プラズマ処理やイオン照射処理を施し、記録磁性層103の磁気特性の改質を行うことができる。例えば図9に示す磁気記録媒体は、記録磁性層103に形成された磁気記録パターン103aが非磁性領域103bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
このディスクリート型の磁気記録媒体については、例えば、磁気記録パターン103aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置されたパターンドメディアや、磁気記録パターン103aがトラック状に配置されたメディア、磁気記録パターン103aがサーボ信号パターン等を含んだメディアなどを挙げることができる。
また、ディスクリート型の磁気記録媒体は、その記録密度を高めるために、記録磁性層103のうち、磁気記録パターン103aとなる部分の幅L1を200nm以下、非磁性化領域103bとなる部分の幅L2を100nm以下とすることが好ましい。また、この磁気記録媒体のトラックピッチP(=L1+L2)は、300nm以下とすることが好ましく、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くすることが好ましい。
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層103の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝す。これにより、記録磁性層103の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質した非磁性領域103bを形成することによって得ることができる。
ここで、記録磁性層103の磁気特性の改質とは、記録磁性層103をパターン化するために、記録磁性層103の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを言い、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを言う。
具体的に、記録磁性層103の磁気特性を改質する際は、反応性プラズマや反応性イオンに曝した箇所の記録磁性層103の磁化量を、当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とすることが好ましい。これにより、磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることができる。
また、磁気特性の改質は、すでに成膜された記録磁性層103を反応性プラズマや反応性イオン等に曝し、磁気記録トラックやサーボ信号パターンを分離する箇所(非磁性領域103b)を非晶質化することによっても実現することができる。
ここで、記録磁性層103を非晶質化するとは、記録磁性層103の結晶構造を改変することを言い、記録磁性層103の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の状態とすることを言う。具体的に、記録磁性層103を非晶質化する際は、記録磁性層103の原子配列を粒径2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることが好ましい。なお、このような記録磁性層103の原子配列状態は、X線回折や電子線回折などの分析手法によって、結晶面を表すピークが認められず、ハローのみが認められる状態として確認することが可能である。
(磁気記録再生装置)
上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図10に示すようなハードディスクドライブ装置(HDD)を挙げることができる。この磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク200と、磁気ディスク200を回転駆動させる媒体駆動部201と、磁気ディスク200に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド202と、磁気ヘッド202を磁気ディスク200の径方向に移動させるヘッド駆動部203と、磁気ヘッド202への信号入力と磁気ヘッド202から出力信号の再生とを行うための信号処理系204とを備えている。
この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を磁気ディスク200として用いた場合に、この磁気ディスク200に磁気記録を行う際の書きにじみを無くし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を用いることで、記録密度の高い磁気記録再生装置を得ることが可能となる。
また、この磁気記録再生装置では、記録トラックを磁気的に不連続に加工することにより、従来はトラックエッジの磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができ、これによって十分な再生出力と高いSNRを得ることが可能となる。
また、この磁気記録再生装置では、磁気ヘッド202の再生部をGMRヘッド又はTMRヘッドで構成することによって、高記録密度においても十分な信号強度を得ることが可能となる。さらに、磁気ヘッド202を従来より低く浮上させる、具体的には、この磁気ヘッド202の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲とすることで、出力の向上により高いSNRを得ることができ、大容量で信頼性の高い磁気記録再生装置とすることが可能となる。
さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせると、更なる記録密度の向上を図ることが可能となる。例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも、十分なSNRを得ることが可能となる。
(磁気記録媒体の製造方法)
次に、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法について説明する。
なお、本実施形態では、上記図6に示すインライン式成膜装置50(磁気記録媒体の製造装置)を用いて、上記図9に示すディスクリート型の磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
上記図9に示す磁気記録媒体を製造する際は、上記インライン式成膜装置50を用いて、成膜前の被処理基板Wである非磁性基板100をキャリア4に取り付けた後、複数の処理チャンバ58〜71の間で順次搬送させながら、この非磁性基板100の両面に、軟磁性層101、中間層102、記録磁性層103により構成される磁性層106と、保護層104とを順次積層する。
また、記録磁性層103を成膜した後に、この記録磁性層103に対して、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うことによって、記録磁性層103の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質して、残存した磁性体からなる磁気記録パターン103aを形成する。又は、記録磁性層103の一部をエッチングにより除去し、残存した磁性体からなる磁気記録パターン103aを形成する。
さらに、上記インライン式成膜装置50を用いた後は、図示を省略する塗布装置を用いて、成膜後の被処理基板Wの最表面に潤滑膜105を成膜することによって、上記図9に示す磁気記録媒体を得ることができる。
具体的に、上記図9に示すディスクリート型の磁気記録媒体は、図11〜図19に示す工程を経ることによって製造することができる。なお、図11〜図19に示す工程では、実際は非磁性基板100の両面を同時に処理することになるが、図11〜図19においては、処理が施される非磁性基板100の片面のみを図示するものとする。
このディスクリート型の磁気記録媒体を製造する際は、先ず、図11に示すように、非磁性基板100の両面に、軟磁性層101及び中間層102を順次積層した後に、スパッタ法により記録磁性層103を形成する。
次に、図12に示すように、記録磁性層103の上にマスク層107を形成する。このマスク層107には、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO2、Ta2O5、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれる何れか1種又は2種以上を含む材料を用いることが好ましい。また、これらの物質の中で、As、Ge、Sn、Gaを用いることがより好ましく、さらに好ましくはNi、Ti、V、Nbであり、最も好ましくはMo、Ta、Wである。
このような材料を用いることにより、マスク層107によるミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、磁気記録パターン103aの形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易となるため、マスク層107を除去する際に、残留物を減らし、磁気記録媒体の表面における汚染を減少させることができる。
ところで、上記マスク層107を形成する際は、例えばナノインプリント法やフォトリソグラフィ法などを用いてパターニングする必要がある。すなわち、ナノインプリント法やフォトリソグラフィ法などによりマスク層107をパターニングする際は、液体状のレジストを使用する場合があるため、これらの方法をインライン式成膜装置50で行うことは困難である。
このため、本実施形態では、記録磁性層103まで形成した非磁性基板100をインライン式成膜装置50から一旦取り出すことにする。そして、このインライン式成膜装置50から取り出された非磁性基板100に対しては、図13に示すように、マスク層107の上にレジスト層108を形成する。レジスト層108には、放射線照射により硬化性を有する材料を用いることが好ましく、例えば、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂などを用いることができる。
次に、図14に示すように、スタンプ109を用いて、レジスト層108に磁気記録パターン103aのネガパターンを転写する。なお、図14中における矢印は、スタンプ109の動きを示している。このスタンプ109には、紫外線に対して透過性の高いガラス又は樹脂を用いることが好ましい。また、スタンプ109には、例えば、Niなどの金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細な記録トラックに対応したネガパターンを形成したものを使用することができる。なお、スタンプ109は、上記プロセスに耐え得る硬度及び耐久性を有するものであれば、その材質について特に限定されるものではない。
また、スタンプ109を用いてレジスト層109にパターンを転写する工程中又はこの工程後に、レジスト層108に放射線を照射する。なお、ここで言う放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波のことである。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂がある。
特に、スタンプ109を用いてレジスト層108にパターンを転写する工程においては、レジスト層108の流動性が高い状態で、このレジスト層108にスタンプ109を押圧し、その押圧した状態で、レジスト層108に放射線を照射する。これにより、レジスト層108を硬化させた後、このレジスト層108からスタンプ109を離すことにより、スタンプ109の形状を精度良く、レジスト層108に転写することができる。
レジスト層108にスタンプ109を押圧した状態で、このレジスト層108に放射線を照射する方法としては、スタンプ109の反対側、すなわち非磁性基板100側から放射線を照射する方法や、スタンプ109の構成材料に放射線を透過できる物質を選択し、このスタンプ109側から放射線を照射する方法、スタンプ109の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ109又は非磁性基板100を介して熱伝導により放射線を照射する方法などを用いることができる。
このような方法を用いることにより、レジスト層108にスタンプ109の形状を精度良く転写することが可能となり、マスク層107のパターニング工程において、マスク層107のエッジの部分のダレを無くし、このマスク層107に対する注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層107による磁気記録パターン103aの形成特性を向上させることができる。
また、スタンプ109を用いてレジスト層108にパターンを転写した後のレジスト層108の残部108aにおける厚みは、0〜10nmの範囲とすることが好ましい。これにより、後述するマスク層107を用いたパターニング工程において、マスク層107のエッジ部分のダレを無くし、マスク層107によるミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、記録磁性層103に凹部103cを精度良く形成することができる。また、マスク層107による磁気記録パターン103aの形成特性を向上させることができる。
なお、上記スタンプ109を用いることによって、通常のデータを記録するトラックパターンの他にも、例えば、バーストパターンや、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成することができる。
次に、図15に示すように、ここまで処理した非磁性基板100を再び上記インライン式成膜装置50に投入する。そして、非磁性基板100をキャリア4に取り付けた後、このキャリア4に取り付けられた非磁性基板100を順次搬送しながら、例えば上記インライン式成膜装置50の処理チャンバ59,60において、パターンが転写されたレジスト層108を用いて、マスク層107をパターニングする。
次に、図16に示すように、上記インライン式成膜装置50の処理チャンバ61において、マスク層107のパターニングによって露出された記録磁性層103の表面を部分的にイオンミリング処理することによって凹部103cを形成する。この記録磁性層103に設けた凹部103cの深さdは、0.1nm〜15nmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは1〜10nmの範囲である。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより少ない場合は、上述した記録磁性層103の除去効果が現れず、また、除去深さが15nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなる。
次に、図17に示すように、上記インライン式成膜装置50の3つの処理チャンバ62,63,64において、記録磁性層103のうち、マスク層107に覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行って、記録磁性層103を構成する磁性体を非磁性体に改質する。これにより、記録磁性層103に磁気記録パターン103aと非磁性領域103bとを形成することができる。
なお、本実施形態のように、上記凹部103cを設けてから、記録磁性層103の表面を反応性プラズマや反応性イオンに曝して、この記録磁性層103の磁気特性を改質させた場合には、上記凹部103cを設けなかった場合に比べて、磁気記録パターン103aと非磁性領域103bとのパターンのコントラストがより鮮明となり、磁気記録媒体のS/Nを向上させることができる。この理由としては、記録磁性層103の表層部を除去することにより、その表面の清浄化・活性化が図られ、反応性プラズマや反応性イオンとの反応性が高まったこと、また記録磁性層103の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて記録磁性層103に反応性イオンが侵入しやすくなったと考えられる。
反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)がなどを例示することができる。また、反応性イオンとしては、上述した誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンを例示することができる。
誘導結合プラズマとしては、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマを例示することができる。誘導結合プラズマは、電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリート型の磁気記録媒体を製造する場合に比べ、記録磁性層103に対して、広い面積に高い効率で磁気特性の改質を行うことができる。
反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO2、SF6、CHF3、CF4、CCl4等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマのことである。このようなプラズマを用いることにより、記録磁性層103の磁気特性の改質をより高い効率で実現することできる。
本発明では、成膜された記録磁性層103を反応性プラズマに曝すことによって記録磁性層103を改質するが、この改質は、記録磁性層103を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子又はイオンとの反応により実現することが好ましい。
この場合、反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属が窒化すること、磁性金属が珪化することなどを例示することができる。
特に、反応性プラズマに酸素原子を含有させ、記録磁性層103を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の酸素原子とを反応させることにより、記録磁性層103を酸化させることが好ましい。記録磁性層103を部分的に酸化させることにより、酸化部分の残留磁化及び保磁力等を効率良く低減させることが可能となる。また、反応性プラズマによって磁気記録パターン103aを形成する時間を短縮することができる。
また、反応性プラズマには、ハロゲン原子を含有させることが好ましい。特に、ハロゲン原子として、F原子を用いることが好ましい。ハロゲン原子は、酸素原子と一緒に反応性プラズマ中に添加して用いてもよく、また酸素原子を用いずに反応性プラズマ中に添加してもよい。上述したように、反応性プラズマ中に酸素原子等を加えることにより、記録磁性層103を構成する磁性金属と酸素原子等が反応して記録磁性層103の磁気特性を改質することができる。このとき、反応性プラズマ中にハロゲン原子を含有させることによって、このような反応を更に促進させることができる。
一方、反応性プラズマ中に酸素原子を添加していない場合においても、ハロゲン原子が磁性合金と反応して、記録磁性層103の磁気特性を改質させることが可能である。特に、このような反応には、フッ素を用いることが好ましい。この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、記録磁性層103の表面に形成している異物をエッチングし、これにより記録磁性層103の表面が清浄化し、記録磁性層103の反応性が高まることが考えられる。また、清浄化した記録磁性層103の表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。
次に、図18に示すように、上記インライン式成膜装置50の2つの処理チャンバ65,66において、レジスト層108を除去した後、上記インライン式成膜装置50の2つの処理チャンバ67,68において、マスク層107を除去する。レジスト層108及びマスク層107の除去には、例えばドライエッチングや、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチングなどを用いることができる。
次に、図19に示すように、上記インライン式成膜装置50の2つの処理チャンバ69,70において、記録磁性層103の表面上に保護層104を形成する。この保護層104の形成には、一般的にDLC(Diamond Like Carbon)薄膜をP−CVDなどを用いて成膜する方法が用いられるが、このような方法に必ずしも限定されるものではない。
上記インライン式成膜装置50を用いた後は、図示を省略する塗布装置を用いて、非磁性基板100の最表面に潤滑膜105を成膜する。この潤滑膜105に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物などを挙げることができ、通常1〜4nmの厚さで潤滑膜105を形成する。
以上の工程を経ることによって、上記図9に示すディスクリート型の磁気記録媒体を製造することができる。
上記磁気記録媒体の製造方法によれば、記録磁性層103の改質から保護層104の形成までを1つのインライン式成膜装置50を用いて連続的に行うことができ、被処理基板W(非磁性基板100)のハンドリングに際して、被処理基板Wが汚染されることがなく、またハンドリング工程等を少なくして製造工程を効率化や製品歩留まりを良くし磁気記録媒体の生産性を高めることが可能である。
また、記録磁性層103のマスク層107に覆われていない箇所を反応性プラズマ等に曝して、当該箇所の磁気特性を改質する工程、並びにマスク層107を除去する工程は、複数の処理チャンバによって分担して行うため、上記インライン式成膜装置50に容易に導入することが可能である。
また、記録磁性層103等の成膜工程は、基板1枚当たり10秒程度の時間で処理できるのに対し、記録磁性層103の磁気特性を部分的に改質する工程や、マスク層107を除去する工程は、その時間内に処理することが難しいため、上述した改質工程や除去工程をそれぞれ複数の処理チャンバによって分担して行うようにすれば、これらの工程の処理時間を記録磁性層103等の成膜工程の処理時間に合わせることができる。これにより、上記インライン式成膜装置50を用いて各工程を連続して行うことが可能となる。
また、記録磁性層103の表面のマスク層107をパターニングする工程では、記録磁性層103の表面に液状のレジストを塗布し、その表面にモールドをスタンプしてモールドパターンを転写する湿式のプロセスを含むものの、このレジストを塗布する工程以外はすべて乾式プロセスで行うことができる。したがって、同じく乾式プロセスである記録磁性層103のスパッタ工程と組み合わせて、これらの乾式プロセスを1つのインライン式成膜装置50で連続して行うことができる。
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、記録磁性層103の一部を非磁性体に改質させる場合を例示しているが、記録磁性層103の一部をエッチングにより除去することによって、残存した磁性体からなる磁気記録パターン103aを形成してもよい。この場合、記録磁性層103を部分的に除去した箇所に非磁性体を充填することによって、この記録磁性層103に磁気記録パターン103aと非磁性領域103bとを形成する。
また、本発明において、上記保護層104を形成する工程は必ずしも必須の工程ではないため、この保護層104を形成する工程と共に、上記インライン式成膜装置50の2つの処理チャンバ69,70については省略することも可能である。
また、一般的に磁気記録媒体は、その両面に記録磁性層103を有するため、本実施形態では、上述した反応性プラズマ処理又は反応性イオン処理を、非磁性基板100の両面同時に行うことが好ましいものの、非磁性基板100の片面毎に処理を行うことも可能である。
また、上述した記録磁性層103まで形成された非磁性基板100をインライン式成膜装置50から取り出す前には、記録磁性層103の表面に、例えばCVD法やスパッタリング法などを用いてパターニングされていない連続したマスク層107を形成する、又は、炭素保護膜を形成することが好ましい。
このような工程を採用することにより、記録磁性層103の表面が大気中の酸素に直接触れることがなくなり、記録磁性層103の酸化が防止され、耐環境性の高い磁気記録媒体を得ることが可能となる。
なお、この工程で形成したマスク層107又は炭素保護膜は、フォトリソグラフィ法によって直接パターニングすることも可能であるが、この上に上記レジスト層108を形成し、このレジスト層108をパターニングした後、上記インライン式成膜装置50に再投入してもよい。すなわち、磁気記録パターン103aに対応したマスク層107とは、パターニングしたレジスト層108を表面に形成したマスク層107を含むものとする。
(反応性スパッタによる磁性層の成膜工程)
次に、上記図1(a)に示す処理装置1を用いて、上記非磁性基板100の両面に記録磁性層103を反応性スパッタにより成膜する工程について説明する。
上記処理装置1では、先ず、ターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8を開口部13を通して反応容器2内の所定の位置に設置する。ターゲットTについては、単体であっても、複数のターゲット片によって構成されるものであってもよく、例えば、磁性結晶粒子が酸化物を多く含む粒界領域に取り囲まれたグラニュラ構造を有する記録磁性層103を形成する場合には、上記バッキングプレート8には、Co、Cr、Ptを含有する半円状のターゲット片と、SiO2を含有する半円状の酸化物ターゲット片とを組み合わせた状態で取り付ける。また、ターゲットTの形状については、特に限定されないものの、バッキングプレート8に対応した例えば円形又は円環状であることが好ましい。
一方、上記キャリア4のホルダ3に取り付けられた被処理基板Wは、その両面に軟磁性層101及び中間層102が順に積層された非磁性基板100である。そして、このような被処理基板Wが取り付けられたキャリア4は、搬送機構5により搬送されながら、反応容器2内のホルダ3に取り付けられた被処理基板Wの両面がバッキングプレート8に取り付けられたターゲットTと対向する位置にて一旦停止される。
次に、この状態から、第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16を用いて、反応容器2内を減圧排気する。上記処理装置1では、上述したように反応容器2の被処理基板Wと対向する側面に配置された第1の真空ポンプ15によって反応容器2内を減圧排気するため、反応容器2内の被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの真空度を効率良く、なお且つ短時間で高めることが可能である。
次に、ガス供給源10から反応性ガスと不活性ガスとを混合したガスGをガス導入管9に導入する。このガス導入管9に導入された混合ガスGは、環状部9aの各ガス放出口9cから放出されて、被処理基板Wとターゲットとの間に形成された反応空間Rの周囲から、その中央部に向かって流れ込む。また、反応容器2内では、第1の真空ポンプ15の駆動を制御しながら、この第1の真空ポンプ15から排気されるガスGの流量が調整される。
次に、ターゲットTにバッキングプレート8を介して高周波電圧を印加すると共に、駆動モータ12によりマグネット11をバッキングプレート8と平行な面内で回転駆動する。これにより、反応空間Rに導入されたガスGがプラズマ化し、このプラズマ中で生成された不活性ガスのイオンがターゲットTに衝突する。このとき、プラズマが発生した反応空間Rでは、ターゲットTから叩き出されたターゲット粒子の一部が活性化し、反応性ガスと反応する。そして、この反応性ガスと反応したターゲット粒子と、反応性ガスとは未反応のターゲット粒子とが、それぞれ被処理基板Wの表面に堆積することになる。そして、スパッタ粒子の層(記録磁性層103)が所定の厚みとなったところで成膜を終了する。
次に、第1の真空ポンプ15を用いて反応容器2内のガスGを排気した後、反応容器2内を大気圧の状態とする。そして、搬送機構5によりキャリア4を反応容器2の外部へと搬送する。
以上のようにして、上記非磁性基板100の両面に記録磁性層103を成膜することができる。また、この記録磁性層103は、スパッタ粒子が均一に析出ことによって、面内方向において一様な磁気特性を有している。したがって、このような記録磁性層103を備えた磁気記録媒体では、安定した記録再生特性を得ることが可能である。
また、上記処理装置1では、ガス導入管9に導入された混合ガスGが、環状部9aの各ガス放出口9cから放出されて、被処理基板Wとターゲットとの間に形成された反応空間Rの周囲から、その中央部に向かって流れ込むことにより、互いの流れが打ち消された状態となる。これにより、ガスGの流れによって反応空間Rに形成されるプラズマが攪乱されることを防止し、この反応空間Rに形成されるプラズマを安定化させることが可能であう。
また、上記処理装置1では、反応後のガスGが第1の真空ポンプ15によって反応容器2の外部へと円滑に排気されるため、この排気されるガスGの流れによって、反応空間Rに形成されるプラズマが特定の方向に流されるといったことを防ぐことができる。したがって、この処理装置1では、反応空間Rに均一にプラズマを発生させることができ、その結果、成膜される記録磁性層103の均一性も高めると共に、その成膜速度も高めることが可能である。
また、上記処理装置1では、成膜処理の前後において反応容器2内を短時間で排気することができるため、被処理基板Wを処理装置1に搬入してから搬出するまでの時間を短縮することが可能である。
(反応性プラズマによる記録磁性層の改質工程)
次に、上記図1(a)に示す処理装置1を用いて、ハロゲンイオンを含む反応性プラズマにより上記記録磁性層103の磁気特性を改質する工程について説明する。
上記記録磁性層103の磁気特性を改質する場合、上記図1(a)に示す処理装置1は、上記ターゲットTが取り付けられたバッキングプレート8を配置する代わりに、カソード電極を配置した構成となる。
一方、上記キャリア4のホルダ3に取り付けられた被処理基板Wは、その両面に軟磁性層101、中間層102及び記録磁性層103が順に積層された非磁性基板100であり、さらに、この記録磁性層103の上には、磁気記録パターン103aに対応したレジストパターンが形成されている。
そして、このような被処理基板Wが取り付けられたキャリア4は、搬送機構5により搬送されながら、反応容器2内のホルダ3に取り付けられた被処理基板Wの両面がバッキングプレート8に取り付けられたターゲットTと対向する位置にて一旦停止される。
次に、この状態から、第1の真空ポンプ15及び第2の真空ポンプ16を用いて、反応容器2内を減圧排気する。上記処理装置1では、上述したように反応容器2の被処理基板Wと対向する側面に配置された第1の真空ポンプ15によって反応容器2内を減圧排気するため、反応容器2内の被処理基板WとターゲットTとの間に形成される反応空間Rの真空度を効率良く、なお且つ短時間で高めることが可能である。
次に、ガス供給源10からハロゲンと不活性ガスとを混合したガスGをガス導入管9に導入する。このガス導入管9に導入された混合ガスGは、環状部9aの各ガス放出口9cから放出されて、被処理基板Wとターゲットとの間に形成された反応空間Rの周囲から、その中央部に向かって流れ込む。また、反応容器2内では、第1の真空ポンプ15の駆動を制御しながら、この第1の真空ポンプ15から排気されるガスGの流量が調整される。
次に、カソード電極にバイアス電圧(高周波やマイクロ波)を印加すると共に、駆動モータ12によりマグネット11をバッキングプレート8と平行な面内で回転駆動する。これにより、反応空間Rに導入されたガスGがプラズマ化し、ハロゲンイオン及び不活性ガスのイオンを含む反応性プラズマが発生する。そして、この反応性プラズマに記録磁性層103のレジストパターンに覆われていない露出領域(非磁性化領域103b)を曝すことによって、この露出領域が非磁性化(改質)される。そして、このような処理によって、記録磁性層103の露出領域が十分に非磁性化されたところで処理を終了する。
次に、第1の真空ポンプ15を用いて反応容器2内のガスGを排気した後、反応容器2内を大気圧の状態とする。そして、搬送機構5によりキャリア4を反応容器2の外部へと搬送する。
以上のようにして、上記非磁性基板100の両面に形成された記録磁性層103の磁気特性の改質を行うことができ、この記録磁性層103に非磁性領域103bによって分離された磁気記録パターン103aを形成することができる。また、この記録磁性層103は、非磁性化領域3aが均一に非磁性化されることによって、磁気記録パターン103aを確実に分離することができる。したがって、このような記録磁性層103を備えた磁気記録媒体では、良好な記録再生特性を得ることができる。
また、上記処理装置1では、ガス導入管9に導入された混合ガスGが、環状部9aの各ガス放出口9cから放出されて、被処理基板Wとターゲットとの間に形成された反応空間Rの周囲から、その中央部に向かって流れ込むことにより、互いの流れが打ち消された状態となる。これにより、ガスGの流れによって反応空間Rに形成されるプラズマが攪乱されることを防止し、この反応空間Rに形成される反応性プラズマを安定化させることができる。
また、上記処理装置1では、反応後のガスGが第1の真空ポンプ15によって反応容器2の外部へと円滑に排気されるため、この排気されるガスGの流れによって、反応空間Rに形成される反応性プラズマが特定の方向に流されるといったことを防ぐことができる。したがって、この処理装置1では、反応空間Rに均一に反応性プラズマを発生させることができ、その結果、記録磁性層103の露出領域を均一且つ効率良く非磁性化することが可能である。
また、上記処理装置1では、成膜処理の前後において反応容器2内を短時間で排気することができるため、被処理基板Wを処理装置1に搬入してから搬出するまでの時間を短縮することが可能である。
また、上記処理装置1では、反応後のガスGの反応性が高いことから、処理後に行われる排気は、第2の真空ポンプ(クライオポンプ)16ではなく、第1の真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)15を用いることが好ましい。これにより、反応後のガスGが反応容器2の下部側に流れて、この反応容器2の下部側に配置された各種部品の表面が腐食されることを防ぎ、且つ反応容器2の内部空間7をクリーンな状態に保つことが可能である。
また、上記記録磁性層103は、反応性プラズマに曝された領域(非磁性化領域103b)において、この記録磁性層103を構成する物質のハロゲン化物を実質的に含まないことが好ましい。この場合、非磁性化領域103bに残留するハロゲンイオンが、磁気記録パターン103aを構成する磁性合金に拡散し、その磁気特性を経時的に低下させるといったことを防止することが可能である。
具体的に、ハロゲンイオンを含む反応性プラズマに記録磁性層103aを曝した場合、その条件によっては、曝露領域に磁性合金のイオン化物が生成される。例えば、Co系磁性合金からなる記録磁性層103のレジストパターンに覆われていない露出領域を、フッ素イオンを含む反応性プラズマに曝した場合、Co系磁性合金がフッ素イオンと反応し、この曝露領域に非磁性のフッ化コバルトが生成される。このような反応によっても、記録磁性層103の曝露領域は非磁性化されるものの、このフッ化コバルトが生成された状態を放置すると、フッ化コバルトのフッ素イオンが、磁気記録パターン103aを構成する磁性合金に徐々に拡散し、その磁気特性を経時的に低下させてしまう。
このため、記録磁性層103の露出領域を反応性プラズマに曝す場合は、この記録磁性層103が非晶質化(非磁性化)するような条件で行った後、必要に応じて、この曝露領域で生成されたイオン化物を除去する処理を行うことが好ましい。例えば、Co系磁性合金からなる記録磁性層103の露出領域を、フッ素イオンを含む反応性プラズマに曝した場合、この曝露領域に非磁性のフッ化コバルトが生成され、その結晶構造が壊れて非晶質化するが、その後、記録磁性層103を加熱することによって、フッ化コバルトからフッ素イオンを脱離させる(除去する)ことが可能である。
これにより、記録磁性層103の非磁性化領域103bに生成されたイオン化物が、磁気記録パターン103aを構成する磁性合金に徐々に拡散し、その磁気特性を経時的に低下させることを抑えることが可能である。
なお、上記ハロゲンを含有するガスGとしては、例えば、CF4、SF6、CHF3、CCl4、KBrのうち少なくとも何れか一つを含有するものを用いることが好ましい。これにより、記録磁性層103の磁気特性を効率よく改質することができる。また、ハロゲンを含有するガスGとして、プラズマ化によってフッ素イオンを生成するものを用いることによって、記録磁性層103の磁気特性をより効率よく改質することができる。
また、ハロゲンを含有するガスGは、酸素を含有してプラズマ化によって酸素イオンを生成するものであることが好ましい。これにより、反応性プラズマ中に含まれる酸素イオンによって記録磁性層103が酸化され、この酸化した部分において、残留磁化及び保磁力等を効率よく低減することができる。また、短時間の反応性プラズマ処理により、記録磁性層103を確実に非磁性化することができ、磁気的に分離した磁気記録パターン103aを容易に得ることができる。また、反応性プラズマ中に酸素原子が含有されていると、記録磁性層103の非晶質化を促進することが可能である。
具体的に、本発明では、上記記録磁性層103の露出領域をハロゲンイオンを含有する反応性プラズマにより処理する前に、この露出領域を酸素を含有する反応性プラズマによって処理する。これにより、記録磁性層103の露出領域(非磁性化領域103b)において、磁気特性の改質速度が高まり、残留磁化及び保磁力等の磁気特性を効率良く低減させることが可能となる。
すなわち、酸素を含有する反応性プラズマに記録磁性層103を曝すと、磁性粒子の粒界部分が優先的に酸化し、その酸化領域を粒界に沿って膜厚方向に進行させる。その後、ハロゲンを含有する反応性プラズマに記録磁性層103を曝すと、その磁性粒子の粒界における酸化領域が優先的にハロゲンと反応して、その結晶構造が破壊され、その反応領域が粒界から磁性粒子に向けて進行する。これにより、単に記録磁性層103を、酸素を含有する反応性プラズマや、ハロゲンを含有する反応性プラズマに曝した場合に比べて、記録磁性層103の改質速度を高めることができ、また、磁性粒子とハロゲンとの反応も効率良く進行するため、記録磁性層103の非磁性化領域103bにおいて、その残留磁化及び保磁力等の磁気特性を効率良く低減させることが可能となる。
また、本発明では、上記記録磁性層103の露出領域を、ハロゲンイオンを含有する反応性プラズマにより処理する前に、この露出領域に、イオンを注入してもよい。これにより、記録磁性層103の非磁性化領域103bを反応性プラズマによって処理する際に、この記録磁性層103の磁気特性の改質速度を高めることができる。
すなわち、記録磁性層103にイオン注入を行うと、この記録磁性層103の表面が活性化され、その後に行う反応性プラズマによる処理において、記録磁性層103とプラズマとの反応性がより高まることになる。また、記録磁性層103に注入するイオンとしては、アルゴン又は窒素等の不活性元素のイオンを用いることが好ましい。
なお、反応性プラズマによって記録磁性層103を非晶質化する条件は、この記録磁性層103を構成する磁性合金の組成、反応性プラズマに含まれるイオンの種類、反応圧力、反応時間、温度等によって異なるが、例えば、以下の観点から選定すると、記録磁性層103の非晶質化をより効率良く行うことができる。
(1) 非処理基板Wにバイアス電圧を印加すると非晶質化が進行し易くなる。これは、記録磁性層103において、ハロゲンイオンによるハロゲン化反応に比べ、イオンの衝撃による結晶構造の破壊が進行し易くなるためと考えられる。
(2) 反応性プラズマ中のハロゲンがラジカル状態の場合には、磁性粒子のハロゲン化が進行し易く、イオン状態の場合には、磁性粒子の非晶質化が進行し易い。これはラジカル状態のハロゲンとイオン状態のハロゲンとで、その反応性に差が生ずるためと考えられる。
(3) ハロゲンを含有するガスGとして、CF4を主成分とするものを用いると、磁性粒子のハロゲン化が進行し易く、SF6を主成分とするものを用いると、磁性粒子の非晶質化が進行し易い。これは各ハロゲン含有ガスの特質によるものと考えられる。
(4) 反応性プラズマが酸素を含んでいると、磁性粒子の非晶質化が進行し易い。これは、磁性合金では、ハロゲン化より酸化の方が進行し易いためと考えられる。
(5) 記録磁性層103が、その粒界に酸化物を有するグラニュラ構造をなしている場合には、ハロゲンイオンによる反応が酸化物に対して優先的に進行するため、磁性粒子のハロゲン化が進行し難くなる。
また、本発明では、記録磁性層103の表面にレジストパターンを形成した後、この記録磁性層103に対して反応性プラズマによる処理を行っているが、このような方法に限らず、例えば未処理の記録磁性層103の上に上記保護層104を形成した後、その表面にレジストパターンを形成し、その後、反応性プラズマによって記録磁性層103の改質を行うようにしてもよい。
すなわち、反応性プラズマによる処理を上記保護層104を介して記録磁性層103に行うと、レジストパターンが形成されていない露出領域において、反応性プラズマ中のイオンが保護層104を透過して磁性層103に到達する。これにより、記録磁性層103の露出領域の磁気特性を選択的に低減することができる。
なお、保護層104で覆われているはずの記録磁性層103にイオン注入を行える理由は、保護層104に空隙等が存在し、その空隙からイオンが侵入するため、或いは、保護層104中にイオンが拡散し、このイオンが記録磁性層103まで到達するためと考えられる。この方法では、上記保護層104を形成した後に反応性プラズマ処理を行うので、処理後に保護層104を形成する必要がない。すなわち、上記記録磁気層103の成膜工程と上記保護層104の成膜工程とを連続して行うことができる。この場合、製造工程が簡便になり、生産性の向上を図ることができる。また、製造される磁気記録媒体の汚染を低減することができる。