JP2010189802A - 紙の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】再生パルプを含有するパルプスラリーに加水分解酵素、硫酸、および凝結剤(分子量10万以上700万以下のカチオン性ポリマー)を添加し、パルプスラリーのpHを5.8〜8.2に調整する。
【選択図】図1
Description
特許文献1では、アルカリリパーゼとアルカリセルラーゼを利用した古紙の処理方法が提案されおり、特許文献2では、エステラーゼとリパーゼを利用した有機夾雑物の制御方法が提案されている。これらの方法では、酵素による粘着性異物の化学結合の分解と粘着性異物の親水化が認められるものの、古紙由来の灰分に対しては効果がない。また、酵素は有機溶剤のような物質に対する浸透性を持たないため、ある程度の大きさを持つ粘着性異物の場合、酵素が定着した表面だけを分解することになり、表面だけが親水化された粘着性異物や、更に分解された微細な粘着性異物が残ってしまう。この微細な粘着性異物が、微細な状態で繊維に定着し紙として抄紙工程から持ち出されない場合、白水に蓄積されることになり、pHショックや温度変化などをきっかけとして再凝集し、二次粘着異物を形成し、ワイヤーなどの用具への付着問題や紙面欠陥、断紙問題を引起す。また、抄紙機のドライヤーセクションにて熱圧縮される際に、分解されていない内部の粘着成分が露出し、ドライヤーやカンバス、紙への付着問題などを引き起こす。
本発明でいう「加水分解酵素」は、国際生化学酵素委員会による分類のEC番号(Enzyme Commission Number)−3に該当する加水分解酵素であり、特に紙の製造工程における異物の粘着性を低減する作用を有する酵素をいう。
本発明でいう「カチオン性ポリマー」は、水中でカチオン性を示すポリマーをいい、特にパルプスラリー中の粘着性異物やピッチを繊維へと定着させる作用を有するポリマーをいう。
本発明でいう「高濃度ストックタワー」は、古紙再生工程において、固形分濃度10〜25重量%程度に調整されたパルプスラリーを貯蔵する設備をいう。
本発明でいう「中性抄紙」とは、中性抄紙用の薬品等を用いて中性付近のpHで行なう抄紙をいう。
本発明でいう「種箱の濁度」とは、種箱中の紙料を10倍に希釈した後、ろ紙(Whatman 41)で濾過し、得られた濾液の660nmの透過光強度を紫外・可視分光計で測定し、得られた値をホルマジン標準液の値で校正した濁度(FTU、ホルマジン濁度)をいう。
本発明に用いることができる再生パルプには、古紙を離解した古紙パルプや古紙を離解後にインキを除去した脱墨パルプが含まれる。再生パルプの原料となる古紙としては、新聞紙、チラシ、雑誌、書籍、事務用紙、封書、感熱紙、ノーカーボン紙、その他複写機、OA機器から生ずる印刷紙などが含まれる。特に、粘着剤、接着剤、粘着テープ、雑誌の背糊等の粘着物を含む雑誌古紙等も本発明の再生パルプの原料として用いることができる。
本発明では、再生パルプを含有する紙の製造工程において、加水分解酵素を添加する。加水分解酵素は、古紙再生工程、再生パルプに再生パルプ以外のパルプ原料や填料、抄紙薬品等を必要に応じて混合して紙料を調成し、抄紙する抄紙工程のいずれの工程において添加しても良い。酵素を添加した後に硫酸を添加してpHを調整するが、酵素がpH10以上の高アルカリ条件では失活し易くなるため、予め硫酸を添加してpHを調整した後に酵素を添加しても良い。
本発明に使用する加水分解酵素は、国際生化学酵素委員会による分類のEC番号(Enzyme Commission Number)−3に該当する加水分解酵素であり、特に紙の製造工程における異物の粘着性を低減する作用を有する酵素である。微生物あるいは動物、植物由来のエステラーゼ又はリパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなどの加水分解酵素、或いは、これら複数の酵素を含有する組成物(マルチコンポーネント酵素)を使用することができる。エステラーゼ又はリパーゼとしては、脂肪酸エステル、ポリビニルアセテート、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、アクリル酸エステルを含む共重合ポリマー等のエステル結合を有する化合物のエステル結合に作用しうるものであればいずれのものでも使用することができる。このような、加水分解酵素としては、例えば、バックマン・ラボラトリーズ社のOptimyzeR525、OptimyzeR530、OptimyzeR540が挙げられる。
本発明に使用する加水分解酵素の添加量は、粘着性異物を十分に分解できる量であれば特に限定されないが、対象とするパルプ固形分重量に対する酵素液の総固形分量として、0.1〜500ppmであることが好ましく、1〜300ppmであることがより好ましく、10〜200ppmであることが特に好ましい。0.1ppm以上の添加量は、十分な粘着異物分解効果を得るための酵素量として適当である。一方、コストの観点から、500ppm以下程度の添加量は、コスト面から有利である。
再生パルプに加水分解酵素を添加した後は、酵素反応を十分に行わせることが好ましい。酵素反応の条件は特に限定されないが、反応温度は25〜70℃が好ましく、30〜60℃がより好ましい。また、反応時間は0.5〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましい。酵素反応は、循環できる系内で行うことが好ましい。
また、本発明では、再生パルプを含有する紙の製造工程において、凝結剤を添加する。凝結剤は、古紙再生工程、抄紙工程のいずれの工程において添加しても良い。特に、加水分解酵素を古紙再生工程に添加し、硫酸によってpHを調整した後に凝結剤を添加すると、加水分解酵素によって分解・微細化された粘着性異物が粗大化する前に、効率良く異物を繊維に定着させることができるため、好ましい。再生パルプを抄紙工程に送る前の完成チェストに凝結剤を添加することがとりわけ好ましい。また、抄紙工程、例えば、配合チェスト(完成チェストに再生パルプ以外のパルプ、填料、及び製紙薬品を混合して得られたもの)、或いはそれ以降の場所において、更に凝結剤を添加することがピッチ制御の観点からとりわけ好ましい。凝結剤を古紙再生工程と抄紙工程の両方に分割して添加する場合には、それぞれの工程において同一の凝結剤を添加しても良いが、添加する凝結剤の種類を変えても良い。また、凝結剤は、2種以上を一度に添加しても良い。経済性および作業性という点では、1種類の凝結剤を用いることが好ましい。
本発明に用いられる凝結剤は、重量平均分子量が10万以上700万以下、好ましくは10万以上300万以下、より好ましくは50万以上300万以下、最も好ましくは100万以上300万以下であるカチオン性ポリマーである。ここで、カチオン性ポリマーとは、水中でカチオン性を示すポリマーをいう。重量平均分子量が10万より小さい場合、比較的大きな粘着性異物(10〜150μm)を繊維へと定着させる力が弱くなる。分子量が700万より大きい場合、ポリマー同士が凝集しやすくなり紙の地合が悪化する。
凝結剤の添加量としては、凝結剤に含まれる水を除いた固形分量として、対象とするパルプ固形分重量に対して50〜1000ppmであることが好ましく、100〜800ppmであることがより好ましく、200〜600ppmであることがさらに好ましい。50ppm以上の添加量は粘着性異物の定着効果を得るのに十分であり、また、1000ppm以下の添加量は、過剰なカチオンによる過凝集のリスクが低く、またコスト的に有利である。
本発明では、凝結剤を添加する前に硫酸を添加してpHを5.8〜8.2、好ましくは、pH6.0〜8.0に調整する。粘着性異物のうち、特に抄紙工程で問題を起す微細粘着異物は、主に灰分に付着しており、結果として大きな異物となっている。灰分には炭酸カルシウムが多く含まれていることから、硫酸を添加することで炭酸カルシウムを溶解し、微細粘着異物が付着した灰分を少なくすることができる。また、硫酸を添加することにより凝結剤などのカチオン薬品を消費する炭酸カルシウム由来の成分を低減するとともに、古紙再生工程から持込まれる過剰なアルカリを中和してpHを弱酸性〜中性付近とした上で、凝結剤を添加することにより、炭酸カルシウムの溶解により遊離した微細粘着異物を粗大化することなく、細かい状態で繊維に定着させることができる。硫酸添加によりpHを5.8未満とした場合、抄紙機にて新たに添加する炭酸カルシウムが溶解しコスト高となるだけでなく、炭酸ガスの発生による泡トラブルなどが発生する。pHを8.2より高くした場合、ほとんど硫酸を添加できず、粘着性異物で汚れた灰分が凝集して粗大化するため、本発明の効果を得ることができない。
本発明における粘着性異物及びピッチとは、古紙由来の粘着剤、粘着テープ、雑誌の背糊、ビニールテープ等のアクリル系、酢酸ビニル系、ホットメルト等の粘着性異物の他、トリグリセライド、アビエチン酸などの樹脂分由来のナチュラルピッチ、パルプ及び紙の製造工程で使用される添加薬品や古紙由来のラテックス等の有機物を主体とした疎水性物質等からなるホワイトピッチを指す。
本発明における粗大な粘着性異物の測定方法は、一般的に知られている、(a)一定量のパルプについて有機溶剤を用いて抽出処理し、抽出成分の重量及び機器分析により推定する方法、(b)試料パルプを手抄きし、ホットプレスにより熱溶融物の溶融面積を求める方法、また、異物の少ないサンプルに対しては、まず、テスト用の大気開放型のフラットスクリーン、またはPulmac社のmaster screen等を用いて処理し、そのリジェクト分を手抄きシートに抄き込み、ホットプレスにより熱溶融物の溶融面積を求める方法、(c)一定量のパルプスラリーを円筒容器中で撹拌し、円筒側面に取り付けられたプラスチックフィルムやフェルト等のファブリックなどに粘着性異物を付着させ、その重量を求める方法、(d)テスト用フラットスクリーンで異物をセルロース繊維から分離し、目視や顕微鏡下で触針して個々の異物の粘着性の有無を確認しながら粘着性異物を数える方法等、いかなる方法を使用しても良い。本発明には、粗大な粘着性異物の個数及び面積が同時に測定可能である特開2007−271389号公報に記載の測定方法(すなわち、パルプスラリー中に含まれる粘着性異物を分離してシート状物の上に濾過して集め、乾燥し、別のシート状物を被せて2枚のシート状物を加温加圧処理し、冷却して2枚のシート状物を分離した後、被せたシート状物に付着した高粘着性の異物と元のシート状物に付着した低粘着性の異物を染料で染色し、それらの個数及び面積を画像解析装置で計測する方法)を用いることが好ましい。
図1に、本発明における加水分解酵素、硫酸、及び、凝結剤の添加方法の一態様を示す。図1において、ストックタワーは完成再生パルプを貯留するタンクまたはチェストである。再生パルプはポンプで流送されて完成チェストにて希釈され、配合チェストにて填料、薬品などと混合される。混合された紙料は、チェストおよび種箱ならびにスクリーンやクリーナーなど必要とされる設備を経て、抄紙機インレットに供給される。
本発明においては、上記で得られたパルプスラリーに、必要に応じて、前記再生パルプ以外のパルプ、填料および/またはペーパースラッジを焼却して得る再生填料、並びに製紙薬品等を混合して紙料を調成した後、抄紙機で抄紙する。本発明においては、硫酸の添加によりパルプスラリーのpHが5.8〜8.0に調整されており、中性抄紙が行なわれる。
本発明の紙の製造方法を適用できる抄紙機には特に限定は無く、長網型、オントップツインワイヤー型、ギャップフォーマー型、円網型、多層型などが挙げられる。表面強度の向上や吸水抵抗性を付与する目的で、表面処理剤を塗布しても良い。表面処理剤を塗布する場合、表面処理剤の成分には特に限定はなく、またサイズプレスの型式も限定はなく、2ロールサイズプレスや、ゲートロールサイズプレス、シムサイザーのような液膜転写方式サイズプレスなどを適宜用いることができる。抄紙機プレドライヤー、アフタードライヤーも公用の装置を用いることができ、乾燥条件も特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。また、紙の表面を平滑にする目的で、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公知のカレンダー装置を用いて処理を行っても良い。更に炭酸カルシウムなどの顔料や澱粉または澱粉誘導体、ラテックスなどからなる塗料を塗布しても良い。
本発明によって得られる紙は、紙の種類、坪量には限定はなく、更に各種の原紙や板紙を含む。また、紙中灰分の限定もない。また、1層の紙の他、2層以上の多層紙であっても良い。
本発明の紙の製造方法において、粘着性異物やピッチによる紙の品質低下や操業トラブル、マシン欠陥を低減できる理由としては、次のように考えられる。
<濁度の測定>
種箱中の原料を10倍に希釈した後、ろ紙(Whatman 41)で濾過し、得られた濾液の660nmの透過光強度を、紫外・可視分光計で測定し、ホルマジン標準液を用いて作成した検量線から濁度(FTU)を算出した。
オンライン欠陥検出器(KP83WY26-NVPDFi、オムロン社製)を用いて検出された欠陥のうち、画像よりピッチや粘着性異物などに起因すると判断された欠陥をピッチ欠陥として巻取りの枠あたりの欠陥数を元に一日あたりの欠陥数を算出し、その平均値を示した。
抄紙中に発生した断紙の回数を測定し、一日あたりの断紙回数を算出した。
[比較例1]
粘着異物分解酵素、硫酸、及び、凝結剤を添加しない以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
硫酸、及び、凝結剤を添加しない以外は、実施例2と同様に実験を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
粘着異物分解酵素、及び、硫酸を添加せず、完成チェスト、及び、配合チェストに凝結剤をパルプ固形分に対して、それぞれ500ppm、100ppm添加した以外は、実施例2と同様に実験を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
硫酸を添加しない以外は、実施例2と同様に実験を行なった。結果を表1に示す。
Claims (10)
- (A)加水分解酵素、(B)硫酸、及び(C)分子量10万以上700万以下のカチオン性ポリマーを、再生パルプを含有するパルプスラリーに添加し、前記硫酸の添加(B)によりパルプスラリーのpHを5.8〜8.2に調整することを含む、再生パルプ含有紙の製造方法。
- (A)再生パルプを含有するパルプスラリーに加水分解酵素を添加すること、
(B)前記(A)からのパルプスラリーに硫酸を添加してpHを5.8〜8.2に調整すること、及び、
(C)前記(B)からのパルプスラリーに分子量10万以上700万以下のカチオン性ポリマーを添加すること
を含む請求項1記載の紙の製造方法。 - 加水分解酵素の添加(A)が、古紙再生工程で行なわれる、請求項1または2記載の紙の製造方法。
- カチオン性ポリマーの添加(C)が、古紙再生工程と抄紙工程とに分割して行なわれる、請求項1〜3のいずれかに記載の紙の製造方法。
- 加水分解酵素が、少なくともエステラーゼを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の紙の製造方法。
- 前記加水分解酵素の添加(A)において、加水分解酵素を固形分濃度2〜25重量%のパルプスラリーに添加し、次いで、硫酸の添加(B)の前に、温度25〜70℃で、0.5時間〜24時間おいて酵素反応させることを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の紙の製造方法。
- 前記カチオン性ポリマーの添加(C)において、カチオン性ポリマーを、総添加量として固形分濃度で50〜1000ppm添加することを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の紙の製造方法。
- 前記加水分解酵素の添加(A)において、固形分濃度10〜25重量%のパルプスラリーを貯蔵している容器中に、総固形分濃度0.001〜3重量%の加水分解酵素希釈液を添加することを含む、請求項7記載の紙の製造方法。
- カチオン性ポリマーの添加(C)を、完成チェストと、その後の前記再生パルプ以外のパルプ、填料、及び製紙薬品が混合された紙料とに対して2回に分けて行ない、次いで得られた紙料を中性抄紙に付すことを含む、請求項4〜8のいずれかに記載の紙の製造方法。
- (A)加水分解酵素、(B)硫酸、および(C)カチオン性ポリマーの添加により、抄紙機の種箱の濁度を500FTU以下とすることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の紙の製造方法。
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