JP2010180377A - 新規キトサン誘導体 - Google Patents

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斎本  博之
Minoru Morimoto
稔 森本
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Saburo Minami
三郎 南
Yoshihiko Omura
大村  善彦
Takeshi Kasahara
剛 笠原
Yuko Yaegashi
裕子 八重樫
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Abstract

【課題】生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるキトサン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤を提供すること。
【解決手段】式(I):
Figure 2010180377

(式中、Rは光硬化性官能基、Rは親水性基を示し、w+x+y+z=1であり、w、x、y、zは、それぞれ独立して、0<w<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1である)
で表わされる、光硬化性官能基を有するキトサン誘導体。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規キトサン誘導体に関する。さらに詳しくは、光硬化性官能基を有するキトサン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤に関する。
創傷、外科手術部位の処置方法としては、一般的な縫合糸を用いた縫合、ステープラーを用いた縫合や、シアノアクリレート系接着剤、フィブリングルー系接着剤、キトサン系接着剤等の生体用接着剤を使用する方法が挙げられる。これらについて、技術的難易度、所要時間、適用範囲、ウィルス感染等の危険性の観点から、比較を行った結果を表1に示す。
Figure 2010180377
縫合糸を用いた縫合は、細かな操作の難易度が高く、内視鏡などを用いる手術では不可能に近い。ステープラーを用いる場合はその操作から適用可能範囲が限られる。シアノアクリレート系接着剤は水分により硬化が開始されるので、失敗した場合にはやり直しが困難である。また、合成品であるため生体適合性が無いという欠点もある。また、フィブリングルー系接着剤は血液製剤由来であるために生体適合性を有するが、ウィルス感染などの危険性が問題視されている。これに対して、キトサン系接着剤はカニ殻、エビ殻由来のキチン、キトサンを原料とするため、ウィルス感染などの危険性が無い。また、キチン、キトサンは創傷治癒剤や生体内充填剤として有用であることが知られており(特許文献1、特許文献2参照)、生体適合性の高い材料である。
キチンは、N−アセチルグルコサミンを繰り返しユニットとする天然由来のムコ多糖の一つである。一方、キトサンも天然由来のムコ多糖の一つであるが、工業的にはキチンの脱アセチル化により製造されている。キチン、キトサンの材料特性は、分子量分布、N−アセチル基の置換度の他、化学修飾により導入した機能性置換基により制御されることが知られている。
例えば、特許文献3のキトサン誘導体は、紫外線硬化性官能基が導入された誘導体であって、紫外線照射により硬化させて使用するものであり、毒性が低く、生体適合性に優れているという効果を有するものである。
また、非特許文献1では、紫外線硬化性官能基が導入されたキトサン誘導体のマウスへの埋設試験が行われ組織検査を行ったところ、良好な生体適合性を示すことが報告されている。非特許文献2では、アジド基を導入したキトサン誘導体は、短時間の紫外線照射により不溶性のハイドロゲルを生じ、該ハイドロゲルは創傷部を被覆して保護するとともに、治癒を促進するものであることが報告されている。
特許第2714621号公報 特許第2579610号公報 特開2005−154477号公報
Biomacromol., 6, 2385-2388, 2005. Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 331-341, 2002.
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献3や非特許文献1のキトサン誘導体は、水溶性(水、生理食塩水、希DMSO水溶液等の生体に適した溶媒への溶解性)と機能性(硬化性、接着性)の両立が十分ではないことが判明した。
本発明の課題は、生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるキトサン誘導体、ならびに該誘導体を含有する医療用接着剤及び医療用被覆剤を提供することにある。
本発明は、
〔1〕 式(I):
Figure 2010180377
(式中、Rは光硬化性官能基、Rは親水性基を示し、w+x+y+z=1であり、w、x、y、zは、それぞれ独立して、0<w<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1である)
で表わされる、光硬化性官能基を有するキトサン誘導体、
〔2〕 キトサン、光硬化性官能基を有する誘導体、及び親水性基を有する誘導体を、還元化触媒の存在下で反応させる工程を含む、前記〔1〕記載のキトサン誘導体の製造方法、
〔3〕 キトサンと親水性基を有する誘導体とを還元化触媒の存在下で反応させた後、得られた反応物と、光硬化性官能基を有する誘導体とを還元化触媒の存在下でさらに反応させる工程を含む、前記〔1〕記載のキトサン誘導体の製造方法、
〔4〕 前記〔1〕記載のキトサン誘導体を含むことを特徴とする、医療用接着剤、ならびに
〔5〕 前記〔1〕記載のキトサン誘導体を含むことを特徴とする、医療用被覆剤
に関する。
本発明のキトサン誘導体は、生体に適した溶解性を有し、かつ、接着性に優れるという優れた効果を奏する。
本発明のキトサン誘導体は、N−アセチルグルコサミンの繰り返しユニット(以下、キチンユニットともいう)、グルコサミンの繰り返しユニット(以下、キトサンユニットともいう)を含有する誘導体であって、前記ユニットに加えて、キトサンユニットの2位のアミノ基に光硬化性官能基を導入したユニット(以下、光硬化性ユニットともいう)と、該アミノ基に親水性基を導入したユニット(以下、親水性ユニットともいう)をさらに含有することによって、接着性と水溶性を両立させたものである。なお、本明細書において、光硬化性とは、可視光線、紫外線等の光線のみならず、X線等の電磁波によっても硬化する性質のことである。また、「水溶性」とは、水、生理食塩水、希DMSO水溶液等の生体に適した溶媒への溶解性を意味し、本発明のキトサン誘導体は、例えば、25℃における水に対して、好ましくは10mg/mL以上の溶解性を有する。
本発明のキトサン誘導体は、式(I):
Figure 2010180377
(式中、Rは光硬化性官能基、Rは親水性基を示し、w+x+y+z=1であり、w、x、y、zは、それぞれ独立して、0<w<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1である)
で表わされる構成を有する。前記式(I)においては、キトサンユニット、キチンユニット、光硬化性ユニット、及び親水性ユニットが、これらのユニット比率の合計が1となる割合であれば、それぞれ独立した構成単位として存在するものであり、その配列は限定されず、末端単位となるユニットも特に限定されるものではない。なお、末端単位になりうるユニットのうち、グルコサミンのC(1)位にヒドロキシ基が結合する残基は、6員環状態と開環した状態の平衡状態をとることから、還元末端残基として、キトサン誘導体のアミノ基と反応することができる。
式(I)のRは、光硬化性官能基を示す。光硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基、シンナモイル基、アジド基、マレイミド基等が例示されるが、なかでも、キトサンユニットとの反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。具体的には、式(II):
Figure 2010180377
及び、式(III):
Figure 2010180377
(式中、nは10〜300の整数である)
で表わされる官能基が例示される。式(II)及び式(III)で表わされる官能基は、キトサンの2位のアミノ基と反応可能であり、かつ、光を照射することにより硬化するものである。また、式(III)で表わされる官能基は、親水性のポリエチレングリコール鎖にメタクリロイル基が付加したものであり、得られる誘導体の水溶性が向上する観点から、より好適である。
式(II)及び式(III)以外の光硬化性官能基としては、3,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジル基、3,5-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンジル基、3-メトキシ-4-メタクリロイロキシベンジル基、3,4-ジメタクリロイロキシベンジル基、3,5-ジメタクリロイロキシベンジル基等が挙げられる。
式(I)のRは、親水性基を示す。親水性基としては、糖類、ポリエチレングリコール、ポリグリセロール等を有する官能基が例示されるが、本発明においては、汎用性の観点から、糖類を有する官能基、ポリエチレングリコールを有する官能基が好ましい。
糖類としては、アルドース、ケトース、アルジトール、デオキシ糖、アンヒドロ糖、アミノ糖、イノシトール、アルドン酸、ウロン酸、アルダル酸、カルバ糖、チオ糖、イミノ糖、アザ糖、硫酸化糖、リン酸化糖、カルボキシメチル化糖等の炭素数3〜7の化合物である単糖類、ならびにそれらを構成成分とする二糖類、オリゴ糖及び多糖類が挙げられる。なお、構成する糖の構造はピラノース、フラノースなどの環状、直鎖のいずれでもよく、多糖類の結合様式に限定はない。
本発明における糖類の好適例を以下に例示する。
Figure 2010180377
また、本発明では、アミノ糖を構成成分とする多糖類のキトサン自身も糖類として用いることができる。キトサンが式(I)におけるRに導入されることにより、式(I)で表わされるキトサン誘導体は、Rにおいてキトサンが分岐した構造をとることになる。なお、導入されるキトサン自身もキトサンユニットを構成単位とするため、導入されたキトサンユニットの2位のアミノ基に別のキトサンが導入されるなどして、式(I)で表わされるキトサン誘導体が網目状の構造をとることもある。本明細書では、このような構造のキトサン誘導体を、分枝型キトサン誘導体ともいう。
ポリエチレングリコールを有する官能基としては、下記官能基が例示される。
Figure 2010180377
(上記式中、mは10〜300の整数である)
繰り返し単位数mによって官能基特性が変化することから、誘導体の所望の特性に応じて繰り返し単位数mを調整することができる。具体的には、mが大きくなると、得られる誘導体の水溶性が向上し、mが小さくなると、水溶性が低下する。
導入される親水性基の分子量は、取り扱い易さの観点から、重量平均分子量が180〜80,000であることが好ましく、360〜8,000であることがより好ましい。
また、式(I)のキトサン誘導体は、上記の光硬化性官能基を有するユニットと親水性基を有するユニットを含有することを特徴とするが、グルコサミンで構成されるキトサンユニットのみならず、グルコサミンの2位のアミノ基がアセチル基に置換されたキチンユニットも含有することによって取り扱い性が良好となり、さらに、キトサンユニットとキチンユニットを等量含有する場合には水溶性を増大することができる。
式(I)中のw、x、y、zはそれぞれ、式(I)におけるキトサンユニットの割合、キチンユニットの割合、光硬化性ユニットの割合、親水性ユニットの割合を示し、また、xは誘導体のアセチル基置換度、yは誘導体の光硬化性官能基置換度、zは誘導体の親水性基置換度を意味する。これらは、w+x+y+z=1の関係を満足し、かつ、それぞれ独立して、0<w<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1である。アセチル基の置換度xが大きくなるほど、炎症性(炎症性細胞活性化能)が低くなるが不溶性が増大することから、好ましいw、x、y、zの値は、0.1<w<0.9、0.1<x<0.9、0.1<y<0.9、0.01<z<0.9、より好ましいw、x、y、zの値は、0.1<w<0.7、0.1<x<0.7、0.1<y<0.7、0.01<z<0.7、さらに好ましいw、x、y、zの値は、0.1<w<0.7、0.1<x<0.4、0.1<y<0.4、0.01<z<0.5である。また、wとxの値は、誘導体のアセチル化反応や脱アセチル化反応を行うことにより変化させることができ、yとzの値は、光硬化性官能基や親水性基の反応量を調整することにより変化させることができる。なお、w、x、y、zそれぞれの値は、プロトン核磁気共鳴分析及び元素分析によって、後述の実施例に記載の方法に従って算出することができる。
また、医療用接着剤や医療用被覆剤としての適用を考慮すると、創傷部を被覆する皮膜の強度と生体への接着性の両立が求められる。従って、式(I)におけるyとwの比(y/w)は5/1〜1/5が好ましく、3/1〜1/3がより好ましい。
かかる式(I)で表されるキトサン誘導体の好適例としては、式(I)において、R及びRが下記:
Figure 2010180377
で表わされる化合物(キトサン誘導体Aともいう)、R及びRが下記:
Figure 2010180377
で表わされる化合物(キトサン誘導体Bともいう)、R及びRが下記:
Figure 2010180377
で表わされる化合物(キトサン誘導体Cともいう)、R及びRが下記:
Figure 2010180377
で表わされる化合物(キトサン誘導体Dともいう)が挙げられる。
本発明のキトサン誘導体は、キトサンと、光硬化性官能基を有する誘導体及び親水性基を有する誘導体とを反応させて得られる。
キトサンは、キチンを公知の方法に従って脱アセチル化して用いても良いが、市販品をそのまま用いることができる。また、市販品のキトサンを用いる場合にも、アセチル化反応又は脱アセチル化反応を行って、キトサンユニット及びキチンユニットの割合を所望の値に調整することができる。従って、本発明で用いるキトサンの脱アセチル化度は特に限定されず、光硬化性官能基を有する誘導体及び親水性基を有する誘導体との反応に供するキトサンが、好ましくは5%以上、より好ましくは30〜99%の脱アセチル化度を有するものであればよい。なお、本明細書において、キトサンの脱アセチル化度は、プロトン核磁気共鳴分析により測定される。
反応に供されるキトサンは、取り扱い易さの観点から、重量平均分子量は5,000〜600,000が好ましく、5,000〜200,000がより好ましい。また、数平均分子量は1,000〜500,000が好ましく、2,000〜100,000がより好ましい。本明細書において、キトサンの重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される。
光硬化性官能基を有する誘導体としては、上記光硬化性官能基を有するものであれば特に限定はなく、例えば、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド、3,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンズアルデヒド、3,5-ビス(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)ベンズアルデヒド、4-メタクリロイロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド、3,4-ジメタクリロイロキシベンズアルデヒド、3,5-ジメタクリロイロキシベンズアルデヒド、メタクリロイロキシ(ポリエチレングリコール)アルデヒド等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒドを用いることが好ましい。なお、このような誘導体は、市販品を用いてもよく、例えば、グリシジルメタクリレート等を用いて公知の方法に従って合成してもよい。
親水性基を有する誘導体としては、上記親水性基を有するものであれば特に限定はなく、例えば、ラクトース、マルトヘプタオース、キトサン、メトキシポリエチレングリコールのアルデヒド体、あるいはこれらを置換基とする糖類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、このような誘導体は、市販品を用いてもよく、公知の方法に従って合成して用いてもよい。
キトサンと、光硬化性官能基を有する誘導体及び親水性基を有する誘導体との反応は、同時に行ってもよいが、光硬化性官能基の反応性の観点から、親水性基を有する誘導体とキトサンとの反応を行ってから、光硬化性官能基を有する誘導体をさらに反応させてもよい。なお、キトサンは、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するものを用いてもよいが、公知の脱アセチル化反応又はアセチル化反応を行って、予め前記割合を調整したものを用いてもよい。
キトサンと、光硬化性官能基を有する誘導体及び親水性基を有する誘導体との反応を同時に行う場合について説明する。
具体的には、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、メタノール等の親水性溶媒を添加後、そこに光硬化性官能基を有する誘導体の溶液と親水性基を有する誘導体の溶液を同時に添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、0.5〜24時間攪拌する。その後、透析して凍結乾燥し、本発明のキトサン誘導体を得ることができる。
キトサンと、光硬化性官能基を有する誘導体及び親水性基を有する誘導体との反応を別々に行う場合について説明する。
先ず、親水性基を有する誘導体とキトサンとの反応を行ってから、光硬化性官能基を有する誘導体をさらに反応させる。具体的には、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、そこに親水性基を有する誘導体の溶液を添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、6〜12時間攪拌する。その後、透析して凍結乾燥し、親水性基を有する誘導体が付加したキトサン(親水性基付加型キトサン)を得る。なお、親水性基を有する誘導体として、別のキトサンを用いて得られる親水性基付加型キトサンは分岐型キトサン、ポリエチレングリコール鎖誘導体を用いて得られる親水性基付加型キトサンはPEG化キトサンともいう。
分岐型キトサンは、分岐度が0.01〜0.6が好ましく、0.02〜0.5がより好ましい。分岐度は、反応に用いる親水性誘導体の量を調節することにより調整することができる。本明細書において、キトサンの分岐度は、プロトン核磁気共鳴分析及び元素分析により測定される。
次に、得られた親水性基付加型キトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、そこに光硬化性官能基を有する誘導体を添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、6〜12時間攪拌する。その後、透析して凍結乾燥し、本発明のキトサン誘導体を得ることができる。
なお、上記で得られたキトサン誘導体は、公知の方法に従って精製してもよく、例えば、得られた未精製の誘導体を有機溶媒(例、アセトン)中で攪拌した後、吸引ろ過、減圧乾燥することにより精製することができる。
反応に供するキトサンと光硬化性官能基を有する誘導体との量比は、目的とする光硬化性官能基の置換度〔式(I)におけるy〕に応じて、適宜決定することができる。例えば、式(I)におけるyが0.6である場合には、反応に供するキトサンの全ユニットの合計と光硬化性官能基のモル比(全ユニット/光硬化性官能基)が1/0.6になる割合で両者を反応させればよい。
反応に供するキトサンと親水性基を有する誘導体との量比は、目的とする親水性基の置換度〔式(I)におけるz〕に応じて、適宜決定することができる。例えば、式(I)におけるzが0.6である場合には、反応に供するキトサンの全ユニットの合計と親水性基のモル比(全ユニット/親水性基)が1/0.6以上となる割合で両者を反応させればよい。
還元化触媒の存在量は、各反応に供される原料100重量部に対して、5〜50重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
得られた反応物の同定は、赤外吸収スペクトル及びプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定することによって行うことができる。
本発明の別の態様として、上記キトサン誘導体の製造方法を提供する。具体的には、キトサン、光硬化性官能基を有する誘導体、及び親水性基を有する誘導体を、還元化触媒の存在下で反応させる工程を含む製造方法(態様1)と、キトサンと、親水性基を有する誘導体とを還元化触媒の存在下で反応させた後、得られた反応物と、光硬化性官能基を有する誘導体とをさらに還元化触媒の存在下で反応させる工程を含む製造方法(態様2)が挙げられる。これらの態様における、キトサンと、光硬化性官能基を有する誘導体や親水性基を有する誘導体との反応は、光硬化性や親水性を調整する観点から、繰り返し行って前記誘導体の導入量を調節することができる。なお、いずれの態様においても、使用するキトサンがキトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有しない場合には、前記割合を調整する観点から、使用するキトサンを脱アセチル化反応又はアセチル化反応させて前処理する工程を含んでもよい。
態様1の製造方法としては、例えば、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、メタノール等の親水性溶媒を添加後、そこに光硬化性官能基を有する誘導体の溶液と親水性基を有する誘導体の溶液を同時に添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、0.5〜24時間攪拌する工程を含む方法が好適である。
態様2の製造方法としては、例えば、キトサンユニット及びキチンユニットを所望の割合で有するキトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、そこに親水性基を有する誘導体の溶液を添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、6〜12時間攪拌して親水性基付加型キトサンを調製する。その後、得られた親水性基付加型キトサンをギ酸又は酢酸等の希有機酸水溶液に溶解し、そこに光硬化性官能基を有する誘導体を添加して、還元化触媒(例、シアノ水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で、0℃〜室温(25℃)の温度で、6〜12時間攪拌する工程を含む方法が好適である。
なお、上記方法は、反応物を得る工程の後に精製工程を含んでもよく、精製方法は、公知の方法に従うことができる。
かくして得られた本発明のキトサン誘導体は、接着性と水溶性を両立することから、本発明はまた、本発明のキトサン誘導体を含有する医療用接着剤、及び医療用被覆剤を提供する。
本発明の医療用接着剤は、本発明のキトサン誘導体以外に、光重合開始剤を含有するものであれば特に限定はない。
光重合開始剤としては光照射によってラジカル種を発生する化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、ヒドロキシケトン系、アミノケトン系、ビスアシルホスフィンオキシド系等が挙げられ、具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、アセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルフェニルプロパノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等が挙げられる。また、可視光線による光重合開始剤としては、例えば、エオジンY、クマリン、ローズベンガル、エリスロシン、カンファーキノン、9-フルオレノン、メタロセン系化合物、チタノセン化合物〔例えば、ビスシクロペンタジエニル-ビス(ジフルオロ-ピリル-フェニル)チタニウム〕等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。光重合開始剤の含有量は、目的、用途に応じて適宜決定されるが、接着剤中、0.5〜10重量%が好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のキトサン誘導体以外に、他の光硬化性化合物(光重合性樹脂等)を添加してもよく、その種類、添加量などは目的、用途に応じて適宜選択すればよい。本発明のキトサン誘導体の含有量は、接着剤中、特に限定はない。
本発明の医療用接着剤は、ジメチルスルホキシドや水等の溶媒に混合して、注射器等を用いて使用部位に注入する。その後、注入された接着剤に可視光線や紫外線等を光照射して硬化させるが、光照射の条件は公知の方法によることができる。なお、前記溶媒は、本発明の医療用接着剤中に予め処方されていてもよく、また、水に代わって、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液、或いは生理食塩水等を用いてもよく、pH調整剤を用いてもよい。
本発明の医療用接着剤は、外科手術の際の組織接着に使用しても良く、皮膚、血管、臓器等の組織を接合するための接着剤として使用することもできる。
本発明の医療用被覆剤は、上記接着剤と同様の構成であるが、使用部位に塗布して光照射することによって膜状の重合体として用いることができる。重合体を膜状に形成させることにより、細菌等の感染防止が可能な接着性を有する被覆剤として用いることができる。これは毒性が低く創傷治癒を阻害しないことから、創傷保護剤として用いてもよく、さらには殺菌性を有する薬剤を添加し、消毒剤として用いてもよい。また、血管カテーテル挿入部位のシーラーとして用いてもよい。さらに、サージカルドレープに適用し、基材の表面に塗布して使用することもできる。また、乳頭及び乳頭管をシールして細菌の侵入を防止するための被覆剤として用いることも可能である。
本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、細菌の培地とならないために感染の危険性がない。また、光によって重合を開始するので、複数の薬剤を混合する必要がなく簡便に扱うことができる。
本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、種々の形態に調製することができる。例えば、粉末として提供され、使用前に水やジメチルスルホキシドで溶解して用いてもよく、チューブに入れて処方されてもよい。本発明の医療用接着剤及び医療用被覆剤は、光硬化性であるため、遮光性の密封容器に入れて処方するのが好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
実施例1(キトサン誘導体A-1の合成)
キトサン(1.20g、アミノ基として6.99mmol)〔甲陽ケミカル社製、Lot L05261、脱アセチル化度(DDA) 95%、重量平均分子量(Mw) 80,000、数平均分子量(Mn) 21,000〕の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン〔6.33g、還元末端残基として3.17mmol〕(甲陽ケミカル社製、Lot 1101-13T、DDA 74%、Mw 7,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(1.65g、DDA 78%)。分岐型キトサンのプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、D2O):δ2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.19(GlcNのC(2)位のH)、3.80-4.20(GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のH).
IR(KBr):3700-3100、2931、2887、1640、1548、1417、1383、1319、1155、1072、1031、920cm-1.
得られた分岐型キトサン(0.80g、アミノ基として3.67mmol)に0.2 M酢酸緩衝液(200mL)を加え溶解させた後、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.25g、0.85mmol)を加え、室温で、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体A-1(1.02g)を得た。各ユニットの構成比率は、w=0.39、x=0.22、y=0.32、z=0.07であった。キトサン誘導体A-1のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、1% DCl/D2O):δ1.93(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.19(GlcN残基のC(2)位のH)、3.80-4.20(GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のH)、4.35(OCH3)、5.71及び6.14(C=CH2)、7.0-7.2(ベンゼン環のH).
IR(KBr):3700-3100、2931、2887、1716、1635、1558、1516、1456、1417、1383、1319、1300、1159、1074、1031、949、813cm-1.
なお、各ユニットの構成比率は、以下のように算出した。まず、キトサン誘導体(分岐型キトサン誘導体)のzを、下記に示す式A、式Bにより求めた。
脱アセチル化度(DDA)(%)=(分岐型キトサン誘導体のGlcN残基数)/TR×100 (式A)
z=(分岐残基数)/TR (式B)
ここで、TRは分岐型キトサン誘導体の総残基数を意味する。分岐残基数は、分岐鎖が結合する残基数を意味し、側鎖の本数と同じである。実施例1で用いた原料キトサンのうち、分子量の大きい方を主鎖キトサン、小さい方を側鎖キトサンとすると、主鎖キトサン(DDA 95%、Mn 21,000)の平均残基分子量及び残基数は、グルコサミン残基分子量(FW)が161、N-アセチルグルコサミン残基(FW)が203であることから
主鎖キトサンの平均残基分子量=161×0.95+203×0.05=163.1
主鎖キトサンの残基数=21000/163.1=129
となる。一方、側鎖キトサン(DDA 74%、Mn 2,000)の平均残基分子量及び残基数は、同様にして算出すると、
側鎖キトサンの平均残基分子量=161×0.74+203×0.26=171.9
側鎖キトサンの残基数=2000/171.9=11.6
となる。また、主鎖キトサンの残基数に対する分岐鎖キトサンの本数の割合をDSとすると、分岐型キトサン誘導体の総残基数、TRは
TR=(主鎖の残基数)+(全側鎖の残基数を合計したもの)
=(主鎖の残基数)+[(側鎖の残基数)×(側鎖の本数)]
=(主鎖の残基数)+[(側鎖の残基数)×〔(主鎖の残基数)×DS〕]
=129+[11.6×〔129×DS〕]
と表わすことができる。実施例1で得られた分岐型キトサンのDDAは78(%)であることから、式Aに上記TRを代入すると
78=(分岐型キトサン誘導体のGlcN残基数)/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+(全側鎖のGlcN残基数を合計したもの)〕/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+[(側鎖のGlcN残基数)×(側鎖の本数)]/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+[(側鎖のGlcN残基数)×〔(主鎖の残基数)×DS〕]/TR×100
=〔(129×0.95)+[(11.6×0.74)×〔129×DS〕]/129+[11.6×〔129×DS〕]×100
となる。これより、DS=0.38と算出でき、さらにこの値を代入して、TR=695となる。また、式Bは、
z=(分岐残基数)/TR
=(側鎖の本数)/TR
=〔(主鎖の残基数)×DS〕]/TR
=〔129×0.38〕/695
=0.07
となった。
次に、分岐型キトサン誘導体のGlcNAc残基、即ち、キチンユニットに対応するxの値は、脱アセチル化度(DDA)との間に、x=1−DDA/100の関係にある。また、1H-NMR分析における[3.19(GlcN残基のC(2)位のH)のピーク面積]と、[2.07(GlcNAc残基のNHCOCH3のCH3由来)のピーク面積]との比率からも算出することができる。この関係は、分岐型キトサンから合成された分岐型キトサン誘導体の1H-NMR分析においても同じであり、x=0.22となった。
また、x=0.22と算出されたことにより、分岐型キトサン誘導体のGlcN残基に対応する(w+y+z)の値は、w+y+z=1-x=0.78と算出される。一方、1H-NMR分析におけるGlcN残基に対応するピーク、即ち、[3.19(GlcN残基のC(2)位のH)のピーク]は、キトサンユニット、光硬化性ユニット、親水性ユニットのいずれにおいても観測されるピークであるため、該ピークの面積は前記3ユニットの合計量と考えることができる。また、光硬化性ユニットについては、光硬化性官能基由来のピーク、即ち、[5.71及び6.14(C=CH2)と7.0-7.2(ベンゼン環のH)のピーク]が観測されるため、これらのピークの面積比から、yを算出することができる。[3.19(GlcN残基のC(2)位のH)のピーク面積]は1.0であり、[5.71及び6.14(C=CH2)と7.0-7.2(ベンゼン環のH)のピーク面積合計/5]が0.41であったことから、
y=(誘導体の3成分の合計比率)×〔(光硬化性官能基由来ピーク面積)/(3成分に共通するピーク面積)〕
=0.78×〔0.41/1.0〕
=0.32
となった。よって、残るwはw=1−0.22-0.32-0.07=0.39となった。
実施例2(キトサン誘導体A-2の合成)
キトサン(1.81g、アミノ基として10.5mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L05261、DDA 95%、Mw 80,000, Mn 21,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(4.52g、還元末端残基として2.26mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L0221-20FD、DDA 90%、Mw 5,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.50g、39.8mmol)を加えさらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(1.92g、DDA 91%)。
得られた分岐型キトサン(1.70g、アミノ基として9.39mmol)に0.2 M酢酸緩衝液(200mL)を加え溶解させた後、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.80g、2.72mmol)を加え、室温で、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.20g、3.18mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体A-2(1.96g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、w=0.63、x=0.09、y=0.21、z=0.07であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
実施例3(キトサン誘導体A-3の合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.0mmol)(甲陽ケミカル社製、「SK-10」Lot 1023-10、DDA 84%、Mw 140,000、Mn 31,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(5.00g、還元末端残基として2.50mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot 1101-13T、DDA 74%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.20g、DDA 76%)。
得られた分岐型キトサン(2.20g、アミノ基として10.7mmol)に0.2 M酢酸緩衝液(200mL)を加え溶解させた後、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.80g、3.29mmol)を加え、室温で、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体A-3(2.95g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、w=0.47、x=0.24、y=0.22、z=0.07であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
実施例4(キトサン誘導体A-4の合成)
キトサン(2.52g、アミノ基として12.6mmol)(甲陽ケミカル社製、「SK-10」Lot 1023-10、DDA 84%、Mw 140,000、Mn 31,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(6.33g、還元末端残基として3.17mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L0221-20FD、DDA 90%、Mw 5,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.50g、39.8mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(3.12g、DDA 81%)。
得られた分岐型キトサン(1.80g、アミノ基として8.63mmol)に0.2 M酢酸緩衝液(200mL)を加え溶解させた後、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.60g、2.04mmol)を加え、室温で、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体A-4(2.20g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、w=0.56、x=0.19、y=0.23、z=0.02であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
実施例5(キトサン誘導体A-5の合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.3mmol)(和光純薬工業社製、「キトサン5」Lot TSQ4638、DDA 86%、Mw 100,000、Mn 20,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(6.30g、還元末端残基として3.15mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot 1101-13T、DDA 74%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.56g、DDA 77%)。
得られた分岐型キトサン(1.45g、アミノ基として6.53mmol)に0.2 M酢酸緩衝液(200mL)を加え溶解させた後、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.67g、2.28mmol)を加え、室温で、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.30g、4.77mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体A-5(1.85g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、w=0.47、x=0.23、y=0.24、z=0.06であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
実施例6(キトサン誘導体B-1の合成)
キトサン(1.60g、アミノ基として9.56mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L04171、DDA 97%、Mw 71,000、Mn 20,000)を0.2 M酢酸緩衝液(100mL)に溶かし、室温で、メタノール(80mL)を加え30分攪拌した後、無水酢酸(0.41g、4.02mmol)を加え24時間攪拌した。次に、ラクトース(5.13g、15mmol)の水溶液(20mL)と4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.59g、2.0mmol)のTHF溶液(40mL)を加え、24時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.14g、34mmol)の水溶液(10mL)を加え、24時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体B-1(2.12g)を得た。各ユニットの構成比率は、w=0.21、x=0.24、y=0.24、z=0.31であった。キトサン誘導体B-1のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、1%CD3COOD/D2O):δ1.73(CH3CH=CH2のCH3由来)、1.89(NHCOCH3のCH3由来)、2.8-4.1(GlcN残基のC(2)位のH、ラクトシル基の結合したN-CH2、GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のHとOCH3)、4.2(ラクトシル基のGal残基のC(1)位のH)、5.55及び5.97(C=CH2)、6.8-7.0(ベンゼン環のH).
IR(KBr):3448-3363、2930、1645、1593、1523、1417、1377、1323、1175、1051、1033、953 cm-1.
なお、各ユニットの構成比率は、以下のように算出した。まず、1H-NMR分析において、光硬化性官能基由来のピークとGlcNAc残基由来のピークの面積比から、光硬化性ユニットとキチンユニットのモル比(y/x)を算出した。具体的には、光硬化性官能基由来のピーク面積[5.55及び5.97(C=CH2)と6.8-7.0(ベンゼン環のH)のピーク面積合計/5]が0.864、GlcNAc残基由来のピーク面積[1.89(NHCOCH3のCH3由来)のピーク面積/3]が0.87であったことから、y/x(モル比)=0.864/0.87(1H分のピーク面積比)となり、y=0.993xと表わすことができる。
また、1H-NMR分析において、親水性基由来のピークとGlcNAc残基由来のピークの面積比から、親水性ユニットとキチンユニットのモル比(z/x)を算出した。具体的には、親水性基由来のピーク面積[4.2(ラクトシル基のGal残基のC(1)位のH)のピーク面積]が1.10、GlcNAc残基由来のピーク面積[1.89(NHCOCH3のCH3由来)のピーク面積/3]が0.87であったことから、z/x(モル比)=1.10/0.87(1H分のピーク面積比)となり、z=1.26xと表わすことができる。
次に、得られた誘導体の元素分析の結果から、各ユニットのモル比を考えた。即ち、実施例6で得られた誘導体の各ユニットのCの個数は、キトサンユニットが6個、キチンユニットが8個、光硬化性ユニットが21個、親水性ユニットが18個であり、Nの個数は、いずれのユニットも1個である。これらに各ユニットの構成比率を乗じると、以下の関係が成立する。
C含有量/N含有量=[〔誘導体に含まれる全C(個)〕×(C原子量)]/[〔誘導体に含まれる全N(個)〕×(N原子量)]
=[〔6×w+8×x+21×y+18×z〕×12.01]/[〔1×w+1×x+1×y+1×z〕〕×14.0067]
元素分析結果は、C%/N%=11.85であり、また、w+x+y+z=1であることから、上記のy=0.993x、z=1.26xを導入することにより、x=0.24と算出された。従って、y=0.24、z=0.31、w=1−0.24-0.24-0.31=0.21と算出した。
実施例7(キトサン誘導体B-2の合成)
キトサン(1.60g、アミノ基として9.93mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L05261、DDA 95%、Mw 80,000、Mn 21,000)を0.2 M酢酸緩衝液(100mL)に溶かし、室温で、メタノール(80mL)を加え30分攪拌した後、無水酢酸(205mg、2.01mmol)を加え24時間攪拌した。次に、ラクトース(2.57g、7.51mmol)の水溶液(20mL)と4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(1.08g、3.67mmol)のTHF溶液(40mL)を加え、24時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1.44g、22.9mmol)の水溶液(10mL)を加え、24時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体B-2(2.03g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例6と同様にして算出し、w=0.20、x=0.22、y=0.13、z=0.45であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例6と同様に行った。
実施例8(キトサン誘導体C-1の合成)
キトサン(1.60g、アミノ基として9.32mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L05261、DDA 95%、Mw 80,000、Mn 21,000)を0.2 M酢酸緩衝液(100mL)に溶かし、室温で、メタノール(80mL)を加え30分攪拌した後、無水酢酸(205mg、2.01mmol)を加え24時間攪拌した。次に、マルトヘプタオース(3.00g、2.60mmol)の水溶液(20mL)と4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(1.08g、3.67mmol)のTHF溶液(40mL)を加え、24時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.83g、13.2mmol)の水溶液(10mL)を加え、24時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体C-1(2.19g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例6と同様にして算出し、w=0.16、x=0.21、y=0.39、z=0.24であった。キトサン誘導体C-1のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。なお、各ユニットの構成比率を算出する際に用いる、1H-NMRにおける親水性基由来のピークは、δ4.33(Mal残基のC(1)位のH)とした。
1H-NMR(400MHz、1%CD3COOD/D2O)δ1.89(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.07(NHCOCH3のCH3由来)、3.1-4.2(GlcNのC(2)位のH、NH-CH2のCH2、GlcNのC(2)位のH及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のHとOCH3)、4.33(Mal残基のC(1)位のH)、5.70及び6.12(C=CH2)、7.0-7.2(ベンゼン環のH).
IR(KBr):3441-3360、2919、1650、1587、1520、1418、1374、1320、1164、1046、1027、953 cm-1.
実施例9(キトサン誘導体D-1の合成)
キトサン(1.60g、アミノ基として9.32mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot L05261、DDA 95%、Mw 80,000、Mn 21,000)を0.2 M酢酸緩衝液(120mL)に溶かし、室温で、メタノール(60mL)を加え30分攪拌した。メトキシポリエチレングリコールを酸化して得られるアルデヒド体(Carbohydr. Polym., 36, 49-59, 1998.参照)(6.0g、11mmol)を加え、30分攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.27g、36.1mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより得られた粗生成物をアセトン(200mL)中で12時間攪拌した後、吸引ろ過、減圧乾燥することによりPEG化キトサンを得た(2.54g、PEG置換度0.25、DDA 95%)。PEG化キトサンのプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、1%DCl/D2O)δ 2.44(NHCOCH3のCH3由来)、3.46(GlcN残基のC(2)位のH)、3.74(OCH3)、3.8-4.7(GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のH、PEGのCH2).
IR(KBr):3439、2875、1664、1458、1352、1300、1251、1105、950、850、599 cm-1.
PEG化キトサン(1.30g、アミノ基として4.6mmol)を0.2 M酢酸緩衝液(50mL)に溶かし、室温でメタノール(30mL)を加え30分攪拌した。無水酢酸(94mg、0.92mmol)のメタノール(1mL)溶液を0℃で加え、10分間攪拌した後に、室温で、12時間攪拌した。次に、4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンズアルデヒド(0.27g、0.92mmol)のTHF溶液(10mL)を加え、12時間攪拌した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(116mg、1.85mmol)を加え、12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することによりキトサン誘導体D-1(1.07g)を得た。各ユニットの構成比率は、実施例6と同様にして算出し、w=0.43、x=0.16、y=0.16、z=0.25であった。キトサン誘導体D-1のプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。なお、各ユニットの構成比率を算出する際に用いる、1H-NMRにおける親水性基由来のピークは、δ3.73(OCH3)とした。
1H-NMR(400MHz、1%DCl/D2O)δ2.27(CH3CH=CH2のCH3由来)、2.43(NHCOCH3のCH3由来)、3.45(GlcN残基のC(2)位のH)、3.73(OCH3)、3.8-4.7(GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3),C(4),C(5),C(6)位のH、PEGのCH2)、6.07及び6.47(C=CH2)、7.4-7.6(ベンゼン環のH).
IR(KBr):3441、2877、2360、1714、1670、1514、1458、1417、1352、1298、1255、1107、1070、950、850、599 cm-1.
試験例1(バースト圧力による接着性の評価)
表2に示すキトサン誘導体(0.2g)を、水(2g)又は3% 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)水溶液(2g)に溶解して、キトサン誘導体含有水溶液を調製後、メタアクリル酸グリセロール(4g)と光重合触媒のジメチルスルホキシド溶液(0.4g)を加え、24時間攪拌した。得られたサンプル溶液について、コラーゲン膜上での光重合を行って、バースト圧力を既存の方法(Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 331-341, 2002.参照)に従って測定し、接着性の評価を行なった。バースト圧力が大きいほど接着性が高いことを意味する。結果を表2に示す。なお、表2に示すキトサン誘導体X-1は、式(I)で表わされる誘導体において、親水性ユニットがなく、光硬化性ユニットにおけるRが4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンジル基であり、w=0、x=0.40、y=0.60、z=0である誘導体である。また、キトサン誘導体X-2は、式(I)で表わされる誘導体において、親水性ユニットがなく、光硬化性ユニットにおけるRが4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイロキシプロポキシ)-3-メトキシベンジル基であり、w=0.60、x=0、y=0.40、z=0である誘導体である。
Figure 2010180377
キトサン誘導体X-1、X-2に比較して、キトサン誘導体B-1は高いバースト圧力を示した。また、サンプル溶液を水で調製した場合は、キトサン誘導体X-1、X-2は水溶性が低いため均一なサンプル溶液が調製できず、バースト圧力を測定できなかったのに対して、キトサン誘導体B-1は約100mg/mLの溶解性を示し、得られたサンプル溶液は高いバースト圧力が観測され、良好な接着性能を示した。
本発明のキトサン誘導体は、接着性及び水溶性を両立することから、医薬品の分野において、医療用接着剤や医療用被覆剤に好適に用いられる。

Claims (15)

  1. 式(I):
    Figure 2010180377
    (式中、Rは光硬化性官能基、Rは親水性基を示し、w+x+y+z=1であり、w、x、y、zは、それぞれ独立して、0<w<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1である)
    で表わされる、光硬化性官能基を有するキトサン誘導体。
  2. 光硬化性官能基が、式(II):
    Figure 2010180377
    又は、式(III):
    Figure 2010180377
    (式中、nは10〜300の整数である)
    で表わされる官能基である、請求項1記載のキトサン誘導体。
  3. 親水性基が糖類又はポリエチレングリコールを有する官能基である、請求項1又は2記載のキトサン誘導体。
  4. 式(I)において、R及びRが下記で表わされる、請求項1〜3いずれか記載のキトサン誘導体。
    Figure 2010180377
  5. 式(I)において、R及びRが下記で表わされる、請求項1〜3いずれか記載のキトサン誘導体。
    Figure 2010180377
  6. 式(I)において、R及びRが下記で表わされる、請求項1〜3いずれか記載のキトサン誘導体。
    Figure 2010180377
  7. 式(I)において、R及びRが下記で表わされる、請求項1〜3いずれか記載のキトサン誘導体。
    Figure 2010180377
  8. キトサン、光硬化性官能基を有する誘導体、及び親水性基を有する誘導体を、還元化触媒の存在下で反応させる工程を含む、請求項1〜7いずれか記載のキトサン誘導体の製造方法。
  9. キトサンと親水性基を有する誘導体とを還元化触媒の存在下で反応させた後、得られた反応物と、光硬化性官能基を有する誘導体とを還元化触媒の存在下でさらに反応させる工程を含む、請求項1〜7いずれか記載のキトサン誘導体の製造方法。
  10. 請求項1〜7いずれか記載のキトサン誘導体を含むことを特徴とする、医療用接着剤。
  11. 請求項1〜7いずれか記載のキトサン誘導体を含むことを特徴とする、医療用被覆剤。
  12. 医療用被覆剤が創傷保護剤である、請求項11記載の医療用被覆剤。
  13. 医療用被覆剤が接着性を有する消毒剤である、請求項11記載の医療用被覆剤。
  14. 医療用被覆剤が血管カテーテル挿入部位のシーラーである、請求項11記載の医療用被覆剤。
  15. 医療用被覆剤が乳頭口及び乳頭管のシーラーである、請求項11記載の医療用被覆剤。
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